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特開2022-83220パワートレイン制御方法及び制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083220
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】パワートレイン制御方法及び制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/06 20060101AFI20220527BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20220527BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20220527BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20220527BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20220527BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/48 ZHV
B60W10/08 900
B60W20/00 900
B60L50/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194536
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 忠志
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB05
3D202BB12
3D202CC03
3D202CC24
3D202CC42
3D202DD01
3D202DD02
3D202DD05
3D202DD11
3D202DD20
3D202DD32
3D202EE16
3D202FF06
3D202FF13
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BE05
5H125CA01
5H125CA09
5H125CA10
5H125EE42
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】走行モードの切替時において、車両加速度変化の発生によりドライバに与える違和感をモータの大型化を伴うことなく適切に抑制する。
【解決手段】パワートレインシステムは、モータ3と、内燃機関2と、摩擦締結要素CL1と、制御器(コントローラ10)と、を備える。制御方法は、目標駆動力算出工程と、走行モード選択工程と、モータの目標トルクを算出する目標トルク算出工程と、内燃機関始動工程と、を有する。内燃機関始動工程は更に、モータの動力を使って内燃機関をクランキングするクランキング工程と、制御器が、内燃機関のトルクが目標内燃機関トルクより低い中間値に保持されるよう内燃機関を制御する第1内燃機関トルク上昇工程と、第1内燃機関トルク上昇工程完了後、制御器が、内燃機関のトルクが、目標トルク算出工程により算出された目標内燃機関トルクまで上昇するよう内燃機関を制御する第2内燃機関トルク上昇工程と、を備える。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されると共に、前記車両の駆動輪を駆動するモータと、
前記駆動輪と機械的に接続される内燃機関と、
前記内燃機関と前記モータの間の動力伝達を断接可能であって、少なくとも前記内燃機関が駆動する第1走行モード時は駆動力を伝達し、モータの動力のみにより走行する第2走行モード時は駆動力を切断するよう制御される摩擦締結要素と、
前記内燃機関、前記モータ、及び、前記摩擦締結要素を制御する制御器と、
を備えるパワートレインの制御方法であって、
前記制御器が、ドライバの操作に基づいて目標駆動力を算出する目標駆動力算出工程と、
前記制御器が、少なくとも該目標駆動力算出工程で算出された目標駆動力に基づいて第1走行モードと第2走行モードのいずれかを選択する走行モード選択工程と、
前記制御器が、前記目標駆動力算出工程にて算出された目標駆動力と、前記走行モード選択工程で選択された走行モードに応じて前記内燃機関、または、前記モータ、または、前記内燃機関及び前記モータの目標トルクを算出する目標トルク算出工程と、
前記制御器が、前記内燃機関、前記モータ、及び、前記摩擦締結要素を制御することによって、前記第2走行モード中の前記走行モード選択工程による前記第1走行モードの選択に応じて前記内燃機関を始動させる内燃機関始動工程と、を有し、
該内燃機関始動工程は更に、
前記制御器が、前記摩擦締結要素を締結させることによって、前記モータの動力を使った前記内燃機関のクランキングとともに前記内燃機関への燃料供給を開始させるクランキング工程と、
該クランキング工程完了後、前記制御器が、前記内燃機関のトルクが前記目標トルク算出工程により算出された目標内燃機関トルクより低い中間値に保持されるよう、前記内燃機関を制御する第1内燃機関トルク上昇工程と、
該第1内燃機関トルク上昇工程完了後、前記制御器が、前記内燃機関のトルクが、前記目標トルク算出工程により算出された目標内燃機関トルクまで上昇するよう、前記内燃機関を制御する第2内燃機関トルク上昇工程と、
を備えることを特徴とする、パワートレイン制御方法。
【請求項2】
前記走行モード選択工程で第2走行モードから第1走行モードへ選択が変更される際に、前記制御器は、
前記目標駆動力算出工程で算出された目標駆動力が所定以上上昇することに応じて、前記クランキング工程の後に、前記第1内燃機関トルク上昇工程を行うことなく、前記目標内燃機関トルクまで内燃機関のトルクが上昇するよう、前記内燃機関を制御し、
前記目標駆動力算出工程で算出された目標駆動力が所定以上上昇しないことに応じて、前記クランキング工程の後に前記第1内燃機関トルク上昇工程を実行して前記第2内燃機関トルク上昇工程を実行する、請求項1に記載のパワートレイン制御方法。
【請求項3】
前記内燃機関始動工程の開始後に、前記目標駆動力の変化量が所定値以上となった場合、
前記制御器は、前記クランキング工程完了後、前記第1内燃機関トルク上昇工程を行うことなく、前記目標内燃機関トルクまで内燃機関のトルクが上昇するよう、前記内燃機関を制御する、請求項1乃至2のいずれかに記載のパワートレイン制御方法。
【請求項4】
ドライバの操作に基づいて、前記制御器が、少なくともスポーツモードの選択と非選択とを切り替えるモード切替工程を有し、
前記内燃機関始動工程の開始時に、スポーツモードが選択されていた場合、
前記内燃機関始動工程において、前記制御器は、前記クランキング工程完了後、前記第1内燃機関トルク上昇工程を行うことなく、前記目標内燃機関トルクまで内燃機関のトルクが上昇するよう、前記内燃機関を制御する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のパワートレイン制御方法。
【請求項5】
ドライバの操作に基づいて、前記制御器が、少なくともスポーツモードの選択と非選択とを切り替えるモード切替工程を有し、
前記内燃機関始動工程の開始時に、スポーツモードが選択されていた場合、前記制御器は、前記第1内燃機関トルク上昇工程の期間を、スポーツモードが選択されていない場合より短くする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のパワートレイン制御方法。
【請求項6】
前記第1内燃機関トルク上昇工程において、前記制御器は、
前記クランキング工程中の車両加速度の最低値と前記第1内燃機関トルク上昇工程中の車両加速度の最大値の差が略0.02G以内且つ、前記第1内燃機関トルク上昇工程中の車両加速度と前記第2内燃機関トルク上昇工程中の車両加速度の差が略0.02G以内となるよう前記内燃機関のトルクを設定する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のパワートレイン制御方法。
【請求項7】
前記第1内燃機関トルク上昇工程において、前記制御器は、車両加速度の躍度が所定の値以下になったことを検知した場合、内燃機関トルクの保持を終了し、前記第2内燃機関トルク上昇工程に移行する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のパワートレイン制御方法。
【請求項8】
前記目標駆動力算出工程において、前記制御器は更に、変速段、及び車速に基づいて車両の目標駆動力の算出を行う、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のパワートレイン制御方法。
【請求項9】
前記内燃機関始動工程において、前記クランキング工程の前に、前記制御器が、前記モータの出力トルクが所定量減少するよう、前記モータを制御するモータトルク減少工程を備える、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のパワートレイン制御方法。
【請求項10】
車両に搭載されると共に、前記車両の駆動輪を駆動するモータと、
前記車両の駆動輪に機械的に接続される内燃機関と、
前記内燃機関と前記モータとの間に配設され、断接の切替により駆動力の伝達と遮断を行う摩擦締結要素と、
アクセル開度を検知するアクセル開度センサと、
前記モータ、前記内燃機関、前記摩擦締結要素、前記アクセル開度センサと電気的に接続された制御器と、
を備えるパワートレインシステムであって、
前記制御器は、
少なくとも前記アクセル開度に基づいて前記車両の目標駆動力を算出する目標駆動力算出部と、
前記摩擦締結要素を締結状態に設定して、少なくとも前記内燃機関のトルクを用いて前記車両を走行させる第1走行モードと、前記摩擦締結要素を解放状態に設定して、前記内燃機関のトルクを用いずに前記モータのトルクを用いて車両を走行させる第2走行モードとから、前記車両の走行モードを選択する走行モード選択部と、
少なくとも前記目標駆動力算出部で算出された目標駆動力と、前記走行モード選択部で選択された走行モードとに応じて、前記内燃機関、または、前記モータ、または、前記内燃機関及び前記モータの目標トルクを算出する目標トルク算出部と、
前記内燃機関が前記目標トルク算出部によって算出された目標内燃機関トルクを出力するよう、前記内燃機関を制御する内燃機関制御部と、
前記摩擦締結要素の締結圧を制御する摩擦締結要素制御部と、
を備え、
前記内燃機関制御部は更に、
第2走行モードから第1走行モードへの切替に応じた前記摩擦締結要素制御部による摩擦締結要素の締結圧の上昇により、前記モータの動力を使った前記内燃機関のクランキングと共に、前記内燃機関への燃料供給を開始し、
前記クランキングの完了後、前記内燃機関の出力トルクを、前記目標トルク算出部によって算出された目標内燃機関トルクより低い中間値で保持し、
前記中間値への保持の解除条件の成立に応じて、前記内燃機関の出力トルクを、前記目標トルク算出部により算出された前記目標内燃機関トルクまで上昇させる
ことを特徴とする、パワートレインシステム。
【請求項11】
前記目標駆動力算出部は、さらに前記車両の速度と、前記モータと前記駆動輪との間に配設された変速機の変速段とに応じて、目標駆動力を算出する、請求項10に記載のパワートレインシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と、モータと、これら内燃機関とモータとの間における駆動力の断接を切り替える摩擦締結要素と、を有するパワートレインの制御方法及び制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関とモータとを備えるパワートレインシステムでは、モータのみでの走行と、少なくとも内燃機関を用いての走行とが運転状態に応じて切り替えられるものが知られている。更に、上記のように内燃機関とモータとの間における駆動力の断接を切り替えるクラッチを有するパワートレインシステムでは、モータのみでの走行中に、モータの出力を用いて内燃機関を始動する場合がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、モータのみによってドライバの要求に基づいた目標駆動力を実現するEVモードから内燃機関及びモータに目標駆動力を実現するHEVモードへの移行の際にクラッチを締結し、EVモードにおいて目標駆動力を実現するトルクを出力しているモータの出力の一部を利用して内燃機関のクランキングを行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-167899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、EVモード(以下適宜「第2走行モード」と呼ぶ場合がある)からHEVモード(以下適宜「第1走行モード」と呼ぶ場合がある)へ移行させるべく、モータトルクを用いて内燃機関を始動する際、駆動力が一時的に低下してしまう場合がある。具体的には、モータは目標駆動力を実現するためのトルクを出力しつつ、内燃機関をクランキングするためのトルクを出力しなければならないが、これら2種類のトルクの和が、モータの発生可能なトルクを上回った場合、駆動力が一時的に低下してしまう。その結果、内燃機関のクランキング中に、車両には減速度が発生する。尚、減速度は、車速が低下する際に車両に生じる、前後方向の加速度である。減速度は、マイナスの加速度と言うことができる。
【0006】
このように駆動力が低下した状態で内燃機関をクランキングし、始動完了した後のHEVモードにおいては、例えば内燃機関のトルクにより、始動前のEVモードにおける駆動力と同等の駆動力、つまり目標駆動力を発生させる。このとき、車両加速度も内燃機関始動前と同等に戻るため、内燃機関クランキング中の車両加速度との差分が、ドライバに対して、減速中の後ろに引っ張られる感覚と、その後に続く加速中の前へ飛び出す感覚とによる違和感を与えてしまう。更に、内燃機関の始動が、ドライバのアクセルペダルの踏み込み操作ではなく、バッテリ残量低下などによるシステム要求に起因する場合、ドライバの意図とは関係なく車両加速度が変化するため、違和感が増してしまう。
【0007】
これに対し、モータを大型化することにより、EVモードからHEVモードへの移行時の余裕駆動力を大きくして、車両の減速及び加速を起こさないようにすることも考えられるが、例えば他部品のレイアウトに影響を及ぼす恐れがある。
【0008】
以上のように、内燃機関と、モータと、これら内燃機関とモータとの間における駆動力の断接を切り替える摩擦締結要素と、を有するパワートレインシステムにおいては、EVモードである第2走行モードから、HEVモードである第1走行モードへの移行時の制御には未だ改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、上記課題を解決するために更に鋭意検討を重ねた結果、一度に変化する車両加速度の量を所定値以下にすれば、走行モード移行中の車両加速度の変化量の絶対値が大きくなったとしても、ドライバは違和感を覚えないということを見出した。つまり、内燃機関始動完了後の内燃機関出力トルクを、段階的に上昇させ、一度に変化する加速度量を小さくし、ドライバに車両加速度変化を感じさせない範囲に収めることで、ドライバに違和感のある加速度を感じさせないようにできることを想到した。
【0010】
本発明は、車両に搭載されると共に、前記車両の駆動輪を駆動するモータと、前記駆動輪と機械的に接続される内燃機関と、前記内燃機関と前記モータの間の動力伝達を断接可能であって、少なくとも前記内燃機関が駆動する第1走行モード時は駆動力を伝達し、モータの動力のみにより走行する第2走行モード時は駆動力を切断するよう制御される摩擦締結要素と、前記内燃機関、前記モータ、及び、前記摩擦締結要素を制御する制御器と、を備えるパワートレインの制御方法である。
【0011】
上記考えを具現化するため、本制御方法は、前記制御器が、ドライバの操作に基づいて目標駆動力を算出する目標駆動力算出工程と、前記制御器が、少なくとも該目標駆動力算出工程で算出された目標駆動力に基づいて第1走行モードと第2走行モードのいずれかを選択する走行モード選択工程と、前記制御器が、前記目標駆動力算出工程にて算出された目標駆動力と、前記走行モード選択工程で選択された走行モードに応じて前記内燃機関、または、前記モータ、または、前記内燃機関及び前記モータの目標トルクを算出する目標トルク算出工程と、前記制御器が、前記内燃機関、前記モータ、及び、前記摩擦締結要素を制御することによって、前記第2走行モード中の前記走行モード選択工程による前記第1走行モードの選択に応じて前記内燃機関を始動させる内燃機関始動工程と、を有する。この該内燃機関始動工程は更に、前記制御器が、前記摩擦締結要素を締結させることによって、前記モータの動力を使った前記内燃機関のクランキングとともに前記内燃機関への燃料供給を開始させるクランキング工程と、該クランキング工程完了後、前記制御器が、前記内燃機関のトルクが前記目標トルク算出工程により算出された目標内燃機関トルクより低い中間値に保持されるよう、前記内燃機関を制御する第1内燃機関トルク上昇工程と、該第1内燃機関トルク上昇工程完了後、前記制御器が、前記内燃機関のトルクが前記目標トルク算出工程により算出された目標内燃機関トルクまで上昇するよう、前記内燃機関を制御する第2内燃機関トルク上昇工程と、を備える。
【0012】
このように構成された本発明によれば、最大減速度が発生するクランキング工程から、目標内燃機関トルクを出力している状態までの内燃機関トルクを、第1内燃機関トルク上昇工程と第2内燃機関トルク上昇工程とに分けて段階的に上昇させる。このため、車両加速度を段階的に変化させることができ、一度に変化する加速度量を、ドライバに違和感を与えない範囲の変化代に収めることができる。目標駆動力が高い状態で第2走行モードから第1走行モードへ移行する場合、内燃機関のクランキングによって、車両加速度が一時的にマイナスまで低下する場合がある。車両加速度がマイナスに低下した後、元の加速度に復帰したとしても、ドライバに違和感を与えないことができる。
【0013】
一実施形態として、前記走行モード選択工程で第2走行モードから第1走行モードへ選択が変更される際に、前記制御器は、前記目標駆動力算出工程で算出された目標駆動力が所定以上上昇することに応じて、前記クランキング工程の後に、前記第1内燃機関トルク上昇工程を行うことなく、前記目標内燃機関トルクまで内燃機関のトルクが上昇するよう、前記内燃機関を制御し、前記目標駆動力算出工程で算出された目標駆動力が所定以上上昇しないことに応じて、前記クランキング工程の後に前記第1内燃機関トルク上昇工程を実行して前記第2内燃機関トルク上昇工程を実行するように、前記内燃機関を制御してもよい。
【0014】
これにより、たとえばドライバがアクセル操作を踏み増して目標駆動力が大きく上昇した場合、車両の駆動力が目標駆動力に素早く追従することが要求されていると判断し、加速度が一度に大きく変化することを許容して、応答よく車両の駆動力が目標駆動力を達成することを優先することができる。この場合、ドライバがアクセル操作を踏み増し操作しているため、加速度の一度の変化が大きくても、ドライバは、違和感を覚えにくい。
【0015】
一実施形態として、前記内燃機関始動工程の開始後に、前記目標駆動力の変化量が所定値以上となった場合、前記制御器は、前記クランキング工程完了後、前記第1内燃機関トルク上昇工程を行うことなく、前記目標内燃機関トルクまで内燃機関のトルクが上昇するように、前記内燃機関を制御してもよい。
【0016】
これにより、例えばバッテリ残量低下などによるシステム要求に起因して内燃機関の始動を決定し、走行モード切替を行っている最中においても、ドライバがアクセル操作を踏み増す等により、ドライバの要求による目標駆動力の変化が大きくなった場合には、加速度が一度に大きく変化することを許容して、応答よく車両の駆動力が目標駆動力を達成することを優先することができる。ドライバが加速を要求しているため、加速度が一度に大きく変化しても、ドライバは違和感を覚えにくい。
【0017】
更に、前記の制御方法は、ドライバの操作に基づいて、前記制御器が、少なくともスポーツモードの選択と非選択とを切り替えるモード切替工程を有し、前記内燃機関始動工程の開始時に、スポーツモードが選択されていた場合、前記内燃機関始動工程において、前記制御器は、前記クランキング工程完了後、前記第1内燃機関トルク上昇工程を行うことなく、前記目標内燃機関トルクまで内燃機関のトルクが上昇するよう、前記内燃機関を制御してもよい。
【0018】
これにより、応答の速さが求められるスポーツモードでの走行中は、ドライバの要求に基づく目標駆動力の変化量の大きさに関わらず、加速度が一度に大きく変化をすること許容して、応答よく車両の駆動力が目標駆動力を達成することを優先する。ドライバがスポーツモードを選択しているため、加速度が一度に大きく変化することに起因するドライバの違和感は許容される。
【0019】
ドライバの操作に基づいて、前記制御器が、少なくともスポーツモードの選択と非選択とを切り替えるモード切替工程を有し、前記内燃機関始動工程の開始時に、スポーツモードが選択されていた場合、前記制御器は、前記第1内燃機関トルク上昇工程の期間を、スポーツモードが選択されていない場合より短くするように、内燃機関を制御してもよい。
【0020】
これにより、応答の速さが求められるスポーツモードでの走行中は、スポーツモードが選択されていない通常モード時よりも応答のよい目標駆動力の達成と、車両加速度の変化量の最小化を両立することができる。
【0021】
更に、前記第1内燃機関トルク上昇工程において、前記制御器は、前記クランキング工程中の車両加速度の最低値と前記第1内燃機関トルク上昇工程中の車両加速度の最大値の差が略0.02G以内且つ、前記第1内燃機関トルク上昇工程中の車両加速度と前記第2内燃機関トルク上昇工程中の車両加速度の差が略0.02G以内となるよう前記内燃機関のトルクを設定するように、内燃機関を制御してもよい。
【0022】
これにより、クランキング工程から第1内燃機関トルク上昇工程までの加速度変化、及び、第1内燃機関トルク上昇工程から第2内燃機関トルク上昇工程までの加速度変化のそれぞれを、人間が感じない車両加速度変化量とすることができ、確実にドライバへの違和感を防止することができる。
【0023】
前記第1内燃機関トルク上昇工程において、前記制御器は、車両の躍度が所定の値以下になったことを検知した場合、内燃機関トルクの保持を終了し、前記第2内燃機関トルク上昇工程に移行するように制御してもよい。
【0024】
これにより、ドライバへの違和感を防止しつつ、早期に目標駆動力の達成を行うことができる。尚、「躍度」は、自動車の加速度の変化率(又は時間微分)である。躍度が小さくなると、ドライバは、自動車の前後加速度の変化を感じにくい。
【0025】
前記目標駆動力算出工程において、前記制御器は更に、変速段、及び車速に基づいて車両の目標駆動力の算出を行う、ように、前記内燃機関を制御してもよい。
【0026】
これにより、制御器は、目標駆動力をより正確に算出することができ、一度の車両加速度変化を、ドライバへの違和感を与えない範囲に確実に収めることができる。
【0027】
前記内燃機関始動工程において、前記クランキング工程の前に、前記制御器が、前記モータの出力トルクが所定量減少するよう、前記モータを制御するモータトルク減少工程を備えてもよい。
【0028】
モータを用いて内燃機関のクランキングを開始する前に、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行う。つまり、内燃機関を始動させる前に、モータの出力トルクを所定量減少させる制御を行って、車両の進行方向加速度を予め所定量減少させておく。尚、加速度の減少量は、加速度変化がドライバへの違和感を与えない範囲に収める。
【0029】
その後、モータの出力トルクを使って内燃機関をクランキングするが、その際に、モータの出力トルクの不足量に相当する減速度まで車両の進行方向加速度が減少しても、予め加速度を減少させているから、加速度変化を小さくすることができる。つまり、このときの加速度の減少量は、加速度変化がドライバへの違和感を与えない範囲に収まる。これにより、第2走行モードから第1走行モードへの切り替えに伴う内燃機関の始動時に、車両が突然後方に引きずられたような違和感をドライバに与えることを抑制できる。
【0030】
本発明は、
車両に搭載されると共に、前記車両の駆動輪を駆動するモータと、
前記車両の駆動輪に機械的に接続される内燃機関と、
前記内燃機関と前記モータとの間に配設され、断接の切替により駆動力の伝達と遮断を行う摩擦締結要素と、
アクセル開度を検知するアクセル開度センサと、
前記モータ、前記内燃機関、前記摩擦締結要素、前記アクセル開度センサと電気的に接続された制御器と、
を備えるパワートレインシステムである。
【0031】
前記制御器は、
少なくとも前記アクセル開度に基づいて前記車両の目標駆動力を算出する目標駆動力算出部と、
前記摩擦締結要素を締結状態に設定して、少なくとも前記内燃機関のトルクを用いて前記車両を走行させる第1走行モードと、前記摩擦締結要素を解放状態に設定して、前記内燃機関のトルクを用いずに前記モータのトルクを用いて車両を走行させる第2走行モードとから、前記車両の走行モードを選択する走行モード選択部と、
少なくとも前記目標駆動力算出部で算出された目標駆動力と、前記走行モード選択部で選択された走行モードとに応じて、前記内燃機関、または、前記モータ、または、前記内燃機関及び前記モータの目標トルクを算出する目標トルク算出部と、
前記目標トルク算出部によって算出された目標内燃機関トルクを出力するよう、前記内燃機関を制御する内燃機関制御部と、
前記摩擦締結要素の締結圧を制御する摩擦締結要素制御部と、
を備え、
前記内燃機関制御部は更に、
第2走行モードから第1走行モードへの切替に応じた前記摩擦締結要素制御部による摩擦締結要素の締結圧の上昇により、前記モータの動力を使った前記内燃機関のクランキングと共に、前記内燃機関への燃料供給を開始し、
前記クランキングの完了後、前記内燃機関の出力トルクを、前記目標トルク算出部によって算出された目標内燃機関トルクより低い中間値で保持し、
前記中間値への保持の解除条件の成立に応じて、前記内燃機関の出力トルクを、前記目標トルク算出部により算出された前記目標内燃機関トルクまで上昇させる。
【0032】
このように構成された本発明によれば、最大減速度の発生から目標内燃機関トルクを出力している状態までの内燃機関トルクを、まず目標トルクより低い中間値で保持し、その後、目標トルクの値へと上昇させる。このため、車両加速度を段階的に変化させることができ、車両加速度の一度の変化代を、ドライバに違和感を与えない範囲の変化代に収めることができる。
【0033】
前記目標駆動力算出部は、さらに前記車両の速度と、前記モータと前記駆動輪との間に配設された変速機の変速段とに応じて、目標駆動力を算出する、ように構成されていてもよい。
【0034】
これにより、目標駆動力をより正確に算出することができ、確実に車両加速度変化をドライバへの違和感を与えない範囲に収めることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明のパワートレイン制御方法及びシステムによれば、内燃機関とモータとの間に駆動力の断接を切り替える摩擦締結要素を備えるハイブリッド車両で、モータを大型化することなく、モータのみでの走行中に内燃機関を始動する際に発生する車両ショックによりドライバへ違和感を与えることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の実施形態によるパワートレイン制御方法及びシステムが適用されたハイブリッド車両の概略構成図である。
図2】本発明の実施形態によるパワートレイン制御方法及びシステムが適用されたハイブリッド車両の電気的構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態で用いられるモータの特性を表した特性図である。
図4】本実施形態による車速及び変速段ごとの加速度特性マップの一例を示す図である。
図5】本発明の実施形態によるハイブリッド車両の駆動力設定制御を示すフローチャートである。
図6】本発明の実施形態による内燃機関トルク設定制御を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態によるモータトルク設定制御を示すフローチャートである。
図8】本発明の実施形態による摩擦締結要素制御を示すフローチャートである。
図9】本発明の実施形態によりパワートレイン制御を実行した場合のタイムチャートの一例を示す。
図10】本発明の2つ目の実施形態によりパワートレイン制御を実行した場合のタイムチャートの一例を示す。
図11】従来技術により、又は、応答性重視制御によりパワートレイン制御を実行した場合のタイムチャートの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるパワートレイン制御方法及びシステムを説明する。
【0038】
<システム全体構成>
まず、ハイブリッド車両の構成を説明する。図1は実施形態のパワートレイン制御方法が適用されるハイブリッド車両のパワートレインシステム1を示す全体システム図である。パワートレインシステム1は、内燃機関2、モータ3、第1摩擦締結要素CL1、及び、コントローラ10を備えている。
【0039】
内燃機関2は、例えばガソリン内燃機関であり、コントローラ10からの指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。内燃機関2は、車両の駆動輪7を駆動する。
【0040】
モータ3は、図示は省略するが、例えばロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、コントローラ10からの制御指令に基づいて、インバータ5により作り出された三相交流電流を印加することにより制御される。このモータ3は、バッテリ6からの電力供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能しバッテリ6を充電することもできる。尚、このモータ3のロータは、自動変速機4の入力軸に直接または間接的に連結されている。モータ3は、駆動輪7を駆動する。
【0041】
第1摩擦締結要素CL1は、内燃機関2の出力軸と、モータ3の回転軸とを連結している。第1摩擦締結要素CL1は、内燃機関2の出力軸と、モータ3の回転軸とを断接する。この第1摩擦締結要素CL1により、内燃機関2とモータ3との間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えられるようになっている。例えば、第1摩擦締結要素CL1は、クラッチである。第1摩擦締結要素CL1は、コントローラ10が、オイルポンプ(図示せず)によるクラッチ作動油流量及びクラッチ作動油圧を連続的又は段階的に制御することによって、伝達トルク容量を変更可能な乾式多板クラッチによって構成されている。
【0042】
自動変速機4は、内燃機関2及び/又はモータ3からの動力を変速して、駆動輪7に出力する。自動変速機4は、詳細な図示は省略するが、複数の遊星歯車機構と、複数のブレーキ機構と、複数のクラッチ機構とを備えて構成されている。コントローラ10が出力する指令であって、車速及び/又は内燃機関2の回転数等に応じて選択された変速段指令に基づいて、自動変速機4は、複数のブレーキ機構の作動/非作動、及び/又は、複数のクラッチ機構の締結/開放を行う。遊星歯車機構を含んで構成される動力伝達経路が切り替わることにより、自動変速機4は、指定された変速段を実現する。自動変速機4は、例えば前進6速、後退1速の変速機である。
【0043】
図1に示す自動変速機4は、第2摩擦締結要素CL2を備えている。第2摩擦締結要素CL2は、複数のクラッチ機構を総称している。つまり、第2摩擦締結要素CL2は、自動変速機4が、指定された変速段を実現している状態において、締結状態にあるクラッチ機構を意味している。ハイブリッド車両が走行している最中に、第2摩擦締結要素CL2が開放されると、自動変速機4は、上流側(内燃機関2及びモータ3)と下流側(駆動輪7)との間におけるトルクの伝達を、遮断する。
【0044】
尚、第2摩擦締結要素CL2、つまり、自動変速機4の、複数のクラッチ機構はそれぞれ、当該クラッチ機構に供給されるクラッチ作動油流量及びクラッチ作動油圧が連続的又は段階的に調整されることにより、伝達トルク容量を変更可能な乾式多板クラッチによって構成されている。
【0045】
パワートレインシステム1は、モータ3のみの動力を用いて走行する「EVモード」と、少なくとも内燃機関2の動力を用いて走行する「HEVモード」とを備える。EVモードは、第2走行モードに対応し、HEVモードは、第1走行モードに対応する。
【0046】
「EVモード」では、第1摩擦締結要素CL1は切り離され、内燃機関2とモータ3との間におけるトルクの伝達は遮断される。これにより、車両は内燃機関2の動力を用いず、モータ3の動力のみで走行する。
【0047】
「HEVモード」では、第1摩擦締結要素CL1は締結され、内燃機関2とモータ3との間においてトルクが伝達される。これにより、車両は少なくとも内燃機関2の動力を用いて走行することができる。本実施形態のハイブリッド車両は、HEVモードにおいて、内燃機関2のみの動力を用いて走行する。尚、ハイブリッド車両は、HEVモードにおいて、内燃機関2及びモータ3の両方の動力を用いて走行する構成でもよい。
【0048】
また、詳細は後述するが、モータ3は、内燃機関2を始動させる際に、内燃機関2のスタータモータとして、クランキングにも利用される。
【0049】
<電気的構成>
次に、図2は、本発明の実施形態によるパワートレインシステム1の電気的構成を示すブロック図である。
【0050】
コントローラ10は、周知のマイクロコンピュータをベースとする制御器であって、1つ以上のプロセッサ10a(典型的にはCPU)と、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OS等の基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種データを記憶するためのROMやRAMのようなメモリ10bと、を備えるコンピュータにより構成される。コントローラ10は、本発明における制御方法を実行する手段として機能する。
【0051】
コントローラ10には、内燃機関2の回転数を検知する内燃機関回転数センサSN1からの信号と、モータ3の回転数を検知するモータ回転数センサSN2からの信号と、ドライバによるアクセルペダルの踏込み量に対応するアクセル開度を検知するアクセル開度センサSN3からの信号と、車両の車速を検知する車速センサSN4からの信号と、車両の前後方向の加速度を検知する加速度センサSN5からの信号と、バッテリ6の充電状態を示すSOC(State of Charge)を検知するSOCセンサSN6からの信号と、ドライバの選択している走行モードを検知するモードセンサSN7からの信号と、が入力されるようになっている。「走行モード」は、スポーツモードと、ノーマルモードとを含む。ドライバは、図示を省略するスイッチを操作することによって、スポーツモードの選択と、非選択(つまり、ノーマルモードの選択)とを、切り替えることができる。ドライバがスポーツモードを選択した場合、コントローラ10は、例えば、ドライバのアクセルペダルの踏み込み操作に対する車両の応答性が高まるように、内燃機関2、モータ3、及び/又は、自動変速機4を制御する。
【0052】
さらに、コントローラ10は、内燃機関2、自動変速機4、インバータ5、及び、第1摩擦締結要素CL1に対して制御信号を出力するよう構成されている。例えば、コントローラ10は、内燃機関2の点火時期、燃料噴射時期、燃料噴射量を調整する制御や、モータ3の回転数、トルクを調整する制御や、第1摩擦締結要素CL1の断接を切り替える制御などを行う。尚、実際には、コントローラ10は、内燃機関2の点火プラグや燃料噴射弁、スロットル弁などを制御し、インバータ5を介してモータ3を制御し、油圧制御回路を介して第1摩擦締結要素CL1を制御する。
【0053】
<パワートレインシステム制御>
次に、本発明の実施形態において、コントローラ10が行う制御内容について説明する。本実施形態では、コントローラ10は、モータ3のトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる「第2走行モード」(以下EVモード)から、少なくとも内燃機関2のトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる「第1走行モード」(以下HEVモード)へと切り替えるときに、内燃機関2を始動させるための制御(内燃機関始動制御)を行う。この場合、コントローラ10は、内燃機関2、モータ3、第1摩擦締結要素CL1を制御することで、内燃機関始動制御を実施する。
【0054】
最初に、本実施形態による内燃機関始動制御の概要について説明する。内燃機関始動制御は、内燃機関2の始動要求から、内燃機関2の始動を開始して、始動が完了するまでの第1フェーズと、内燃機関2の始動が完了した後の第2フェーズとに分けることができる。第2フェーズは、第1フェーズにおいて進行方向加速度が減少した場合に行われるフェーズであり、内燃機関2の始動が完了してから、進行方向加速度が、内燃機関2の始動開始前の加速度に復帰するまでのフェーズである。第1フェーズにおいて進行方向加速度が減少しない場合、第2フェーズは行われない。尚、「第1フェーズにおいて進行方向加速度が減少しない場合」には、後述するように、ドライバに違和感を与えない程度の加速度変化である場合が含まれる。
【0055】
(第1フェーズ)
上述したように、EVモードからHEVモードへと切り替えるときに、ハイブリッド車両において比較的大きな減速度が発生する場合がある。これは、ハイブリッド車両の走行中にEVモードからHEVモードに切り替えるときに、第1摩擦締結要素CL1を締結しかつ、モータ3のトルクを内燃機関2に伝達することによって内燃機関2を始動させるが(つまりモータ3によってクランキングを行って内燃機関2を始動させる)、内燃機関2を始動させるのに必要なトルク(変速機でのロス等を含むトルクである。以下同様とする。)をモータ3が十分に発生できない場合があるからである。この場合、走行しているハイブリッド車両の運動エネルギーが内燃機関2を始動させるために用いられる。その結果、ハイブリッド車両において、内燃機関2の始動に必要なトルクに対するモータ3の出力トルクの不足量に相当する減速度まで、進行方向加速度が減少する。
【0056】
進行方向加速度が、一度に大きく減少してしまうと、ドライバに、後ろに引っ張られる感覚を与え、ドライバが違和感を覚える恐れがある。本実施形態では、コントローラ10は、EVモードからHEVモードへと切り替える第1フェーズにおいて、モータ3の出力トルクを所定量減少させる制御を行った後に、第1摩擦締結要素CL1を解放状態から締結状態に移行させると共に、モータ3によって内燃機関2をクランキングして内燃機関2を始動させる。つまり、本実施形態では、コントローラ10は、EVモードからHEVモードへの切り替え時に、内燃機関2を始動させる前に、モータ3の出力トルクを所定量減少させておく。
【0057】
これにより、走行モードの切り替えのために内燃機関2を始動させる前に、モータ3の出力トルクの減少によりハイブリッド車両の進行方向加速度を予め所定量減少させることができる。その結果、内燃機関2を始動させるのに必要なトルクをモータ3が十分に発生できない場合でも、そのモータ3の出力トルクの不足量に相当する減速度まで進行方向加速度が減少するときの加速度変化を小さくすることができる。これにより、EVモードからHEVモードへの切り替えに伴う内燃機関2の始動時に、ハイブリッド車両が突然後方に引きずられたような違和感をドライバに与えることを抑制できるようになる。
【0058】
一方で、本実施形態では、コントローラ10は、EVモードからHEVモードへの切り替え時であっても、ハイブリッド車両の運動に関するドライバの操作がある場合(典型的にはドライバによるアクセルペダルの操作に対応するアクセル開度の変化量が所定量以上である場合)には、上述したようなモータ3の出力トルクを所定量減少させる制御を行わないようにする。この場合には、コントローラ10は、モータ3の出力トルクを減少させることなく、第1摩擦締結要素CL1を解放状態から締結状態に移行させると共に、モータ3によって内燃機関2をクランキングして内燃機関2を始動させる。こうするのは、上述したような加速度変化の抑制よりも、ドライバの操作に対する応答性を優先させるべく、内燃機関2を速やかに始動させるためである。また、ドライバの操作に起因して生じる加速度変化であるため、一度に生じる加速度変化がある程度大きくても、ドライバは違和感を覚えにくいためである。
【0059】
また、本実施形態では、コントローラ10は、EVモードからHEVモードへの切り替え時であっても、モータ3の出力トルクの不足量に相当する減速度まで進行方向加速度が減少するときの加速度変化が所定値(例えばドライバに違和感を与えない程度の加速度変化)以下である場合には、モータ3の出力トルクを減少させる制御を行わないようにする。つまり、この場合にも、コントローラ10は、モータ3の出力トルクを減少させることなく、第1摩擦締結要素CL1を解放状態から締結状態に移行させると共に、モータ3によって内燃機関2をクランキングして内燃機関2を始動させる。例えば、コントローラ10は、モータ回転数が低くモータ3がほぼ最大トルクを発生可能な状態であり、且つエアコン等の補機類が非動作状態で内燃機関2のクランキングに必要なトルクをモータ3だけで出力可能である場合、モータ3の出力トルクを減少させることなく、モータ3によって内燃機関2をクランキングして内燃機関2を始動させる。この場合には、モータ3の出力トルクが不足しないので進行方向加速度の減少が発生せず、ドライバに違和感を与えることがないからである。
【0060】
ここで、本実施形態では、コントローラ10は、モータ3の出力トルクを予め減少させる場合とそうでない場合との両方とも、EVモードからHEVモードへの切り替え要求があったときに、最初に、第2摩擦締結要素CL2を締結状態からスリップ状態へと移行させる制御を行う。このように第2摩擦締結要素CL2をスリップ状態にするのは、内燃機関2を始動させるに当たって、走行しているハイブリッド車両の運動エネルギーが内燃機関側に伝達されて内燃機関2を始動させるために用いられ、進行方向加速度が減少することをできる限り抑制するためである。
【0061】
第2摩擦締結要素CL2を完全に解放状態にすれば、ハイブリッド車両の運動エネルギーが内燃機関2側に伝達されることを確実に抑制できる。だが、そのように第2摩擦締結要素CL2を完全な解放状態に一旦設定すると、内燃機関2の始動完了後に第2摩擦締結要素CL2を締結状態に切り替えるのに時間がかかるため、走行モードの切り替えを迅速に行うことができなくなる。したがって、本実施形態では、EVモードからHEVモードへの切り替え要求があった場合、第2摩擦締結要素CL2をスリップ状態に設定する。なお、第2摩擦締結要素CL2は、内燃機関2の始動完了後に完全締結される。
【0062】
しかしながら、第2摩擦締結要素CL2をスリップ状態に設定していても、第2摩擦締結要素CL2のイナーシャに起因して、ハイブリッド車両の進行方向加速度の減少が発生してしまう。具体的には、完全な解放状態ではなくスリップ状態にある第2摩擦締結要素CL2においてある程度トルクが伝達されるときに、自動変速機4内の遊星歯車の公転速度を上昇させるためにもハイブリッド車両の運動エネルギーが用いられ、進行方向加速度が減少する。
【0063】
これに対し、本実施形態では、コントローラ10は、EVモードからHEVモードへの切り替え時に、内燃機関2を始動させる前にモータ3の出力トルクを予め所定量減少させ、ハイブリッド車両の進行方向加速度を予め所定量減少させる。その結果、内燃機関2を始動させ且つ自動変速機4内の遊星歯車の公転速度を上昇させるのに必要なトルクをモータ3が十分に発生できない場合でも、そのモータ3の出力トルクの不足量に相当する減速度まで進行方向加速度が減少するときの加速度変化を小さくすることができる。これにより、EVモードからHEVモードへの切り替え時に、ハイブリッド車両が突然後方に引きずられたような違和感をドライバに与えることを抑制できるようになる。
【0064】
(第2フェーズ)
前述した第1フェーズにおいて、進行方向加速度が減少すれば、内燃機関2の始動が完了した後に、進行方向加速度を、内燃機関2の始動前の加速度に復帰させる必要がある。この場合に、進行方向加速度が、一度に大きく増加してしまうと、ドライバに前へ飛び出す感覚を与え、ドライバが違和感を覚える恐れがある。本実施形態では、コントローラ10は、第2フェーズにおいて、少なくとも内燃機関2の出力トルクを、目標内燃機関トルクより低い中間値に、所定時間、保持する制御を行った後に、内燃機関2のトルクを、保持していた中間値から、目標内燃機関トルクまで上昇させる。つまり、本実施形態では、コントローラ10は、EVモードからHEVモードへの切り替え時に、内燃機関2の始動後、内燃機関2の出力トルクを、段階的に上昇させる。
【0065】
これにより、内燃機関2の始動に起因して減少したハイブリッド車両の進行方向加速度を復帰させる際に一度に変化する加速度量を小さくすることができる。内燃機関2の始動完了後に、ハイブリッド車両が前へ飛び出すような違和感をドライバに与えることを抑制できる。
【0066】
一方で、本実施形態では、コントローラ10は、第1フェーズ時と同様に、ハイブリッド車両の運動に関するドライバの操作がある場合(典型的にはドライバによるアクセルペダルの操作に対応するアクセル開度の変化量が所定量以上である場合)には、第2フェーズにおいて、内燃機関2の出力トルクを目標よりも低い中間値に保持する制御を行わない。この場合には、コントローラ10は、内燃機関2の出力トルクを目標内燃機関トルクまで、一気に上昇させる。こうするのは、上述したような加速度変化の抑制よりも、ドライバの操作に対する応答性を優先させるためである。また、ドライバの操作に起因して生じる加速度変化であるため、一度に生じる加速度変化がある程度大きくても、ドライバは違和感を覚えにくいためである。
【0067】
次に、コントローラ10による内燃機関始動制御の説明を行う前に、モータ3の特性、及び、ハイブリッド車両の目標駆動力の算出方法について、図を参照しながら説明する。
【0068】
先ず、図3を参照してモータ3の特性を説明する。図3は、横軸にモータ回転数を示し、縦軸にモータトルクを示している。図3の実線はモータ3の最大トルクを示す特性線である。本実施形態において適用するモータ3は、回転数が高くなるほど、発生することができる最大トルクが小さくなるという特性を有する。換言すると、モータ3は、回転数が低くなるほど、最大トルクが大きくなるという特性を有する。特に、モータ3は、回転数が所定値N1未満において、最大トルクが概ね最も大きくなり、回転数が所定値N1以上になると、回転数が高くなるほど、最大トルクが小さくなる。
【0069】
図3にハッチングを付して示す領域は、ハイブリッド車両がEVモードで走行している場合に、モータ3が運転する領域を例示している。モータ3の回転数は、ハイブリッド車両の車速にほぼ比例する。ハイブリッド車両がEVモードで走行している最中に、内燃機関2の始動が要求されると、前述したようにモータ3のトルクが、内燃機関2の始動に用いられる。前述の通り、モータ3の出力可能トルクは、モータ3の回転数に応じて変化する。たとえば、モータ3の回転数が1000rpmの場合、モータ3の出力可能トルクは、約75Nmである。モータ3の出力可能トルクから、走行に使用されているモータ3のトルクを差し引いたトルクが、モータ3の余裕トルクであり、この余裕トルクが、内燃機関2の始動に用いられる。図3の矢印は、余裕トルクの大きさを示している。モータ3の回転数が低いと、余裕トルクが大きく、モータ3の回転数が高いと、余裕トルクが小さい。余裕トルクが小さいと、前述したように、内燃機関2の始動時の第1フェーズにおいて、トルク不足が発生し得る。
【0070】
次に、図4を参照して車両の目標駆動力の算出方法を説明する。図4は、本実施形態による、車速及び変速段ごとの加速度特性マップの一例を示す図である。図4(A)~(C)は、それぞれ、横軸にアクセル開度を示し、縦軸に目標加速度を示している。
【0071】
図4(A)は、低速(例えば30km/hの車速)において適用する加速度特性マップを示し、図4(B)は、中速(例えば50km/hの車速)において適用する加速度特性マップを示し、図4(C)は、高速(例えば100km/hの車速)において適用する加速度特性マップを示している。また、図4(A)に示すグラフG11~G16は、それぞれ、1速、2速、3速、4速、5速、6速の変速段に対して適用する加速度特性マップを示し、図4(B)に示すグラフG21~G26は、それぞれ、1速、2速、3速、4速、5速、6速の変速段に対して適用する加速度特性マップを示し、図5(C)に示すグラフG33~G36は、3速、4速、5速、6速の変速段に対して適用する加速度特性マップを示している。図4(A)~(C)に示すように、加速度特性マップでは、20%付近のアクセル開度において目標加速度が0に設定される。
【0072】
なお、図4では、低速、中速及び高速において適用する加速度特性マップを一例として示しており、実際には、これら以外の種々の車速について適用する加速度特性マップも用意される。また、図4(C)では、車速が比較的高く、この車速において低速段(1速及び2速)に適用されるマップが例外的なものであるため、図示を省略している。
【0073】
後述するように、コントローラ10は、アクセル開度センサSN3の検出信号に基づくアクセル開度と、自動変速機4の変速段(つまり、変速比)とに基づいて、図4のマップを用いて、目標加速度を設定し、当該目標加速度を実現するための目標駆動力を算出する。
【0074】
(許容加速度変化量)
ここで、許容加速度変化量について説明する。許容加速度変化量は、内燃機関始動制御中に、ドライバに違和感を与えない加速度変化量の最大量を意味する。許容加速度変化量は、ドライバに違和感を与えない加速度変化量の範囲やハイブリッド車両の信頼性上要求される加速度変化量の範囲に基づき、予め定められている。本実施形態においては、例えば、許容加速度変化量は0.02Gである。加速度変化量が0.02G以下であれば、ドライバは違和感を持ちくい。
【0075】
前述した第1フェーズにおけるモータ3のトルク減少は、内燃機関2の始動の際の加速度変化量(この場合は加速度減少量)が、許容加速度変化量を超えないように、モータ3のトルクを減少させる。従って、第1フェーズにおいて、内燃機関2の始動前に減少させるモータ3のトルク減少量は、ハイブリッド車両の現在の加速度と、内燃機関始動制御を実行した場合にハイブリッド車両に発生すると推定される推定加速度(つまり、推定減速度)と、許容加速度変化量とに基づいて決定される。推定減速度は、モータ3が出力可能なトルクから、内燃機関2の始動に必要なトルク及び走行抵抗を打ち消すために必要なトルクを減算して得られるトルク収支に、所定の係数を掛けることで算出することができる。この所定の係数は、自動変速機4の現在の変速段やタイヤ径、ハイブリッド車両の重量等に基づき決定される。本実施形態では、便宜的に、トルク収支の10Nmがハイブリッド車両の加速度0.01Gに相当することとする。即ち、例えばトルク収支が-15Nmの場合には、推定減速度は-0.015Gとなる。また、コントローラ10は、モータ3の回転数と出力可能なトルクとの関係を表したマップ(予めコントローラ10のメモリ10bに記憶されている)を参照することにより、モータ回転数センサSN2により検知されたモータ3の回転数に基づいてモータ3が出力可能なトルクを求めることができる。また、本実施形態では、便宜的に、内燃機関2の始動に必要なトルクを90Nm、走行抵抗を打ち消すために必要なトルクを10Nmとするが、これらの値はハイブリッド車両の内燃機関2の構成や車速等に応じて適宜設定することができる。
【0076】
前述した第2フェーズにおけるモータ3のトルク保持は、内燃機関2の始動完了後の加速度変化量(この場合は加速度上昇量)が、許容加速度変化量を超えないように、内燃機関2のトルクを低く抑える。尚、第2フェーズにおける許容加速度変化量は、第1フェーズにおける許容加速度変化量と同じである。第1フェーズにおける許容加速度変化量と、第2フェーズにおける許容加速度変化量とを、異ならせることもできる。
【0077】
(内燃機関始動制御の具体構成)
次に、図5図8を参照して、本発明の実施形態による内燃機関始動制御について具体的に説明する。
【0078】
図5は、本発明の実施形態による車両の駆動力設定フローである。まず、図5に示す駆動力設定制御が開始されると、ステップS11において、コントローラ10は、上述したセンサSN1~SN7からの検知信号に対応する情報を含め、車両の種々の情報を取得する。そして、プロセスは、ステップS12に進む。
【0079】
ステップS12において、コントローラ10は、上述した図4の加速度特性マップに基づいて車両の目標駆動力を設定する。例えば、コントローラ10は、ハイブリッド車両が車速60km/hで、3速での走行中は、図4(B)のG23のグラフに基づき、アクセル開度に応じて目標駆動力(加速度)を設定する。プロセスはその後、ステップS13へ進む。
【0080】
ステップS13において、コントローラ10は、ステップS12で設定した目標駆動力に基づいて、EVモードとHEVモードのいずれかを選択する。一例として、目標駆動力が大きい場合は、HEVモードが選択され、目標駆動力が小さい場合は、EVモードが選択される。
【0081】
EVモードが選択された場合、プロセスはステップS14に進む。ステップS14において、コントローラ10は、モータ3の出力トルクを決定する。このステップでは、コントローラ10は、ステップS12において設定された目標駆動力を達成するために、モータ3の出力トルクを設定する。
【0082】
ステップS15において、コントローラ10は、ステップS14にて設定されたモータ3の出力トルクに基づき、モータ3の制御を行い、必要なトルクの出力を行う。
【0083】
HEVモードが選択された場合、プロセスはステップS16に進む。ステップS16において、コントローラ10は、内燃機関2の出力トルクを決定する。このステップでは、コントローラ10は、ハイブリッド車両がステップS12において設定された目標駆動力を満たすように内燃機関2の出力トルクを設定する。
【0084】
ステップS17においてコントローラ10は、ステップS16にて設定された内燃機関2の出力トルクに基づき、内燃機関2のスロットルバルブの制御を行い、必要なトルクの出力を行う。
【0085】
ステップS15又はステップS17が完了したら、プロセスは、スタートに戻る。車両走行中は常に本フローが実行されている状態である。
【0086】
次に、図6図7及び図8を参照して、本発明の実施形態による、内燃機関2、モータ3及び第1摩擦締結要素CL1それぞれの、走行モード切替制御について具体的に説明する。図6は、本発明の実施形態による内燃機関トルク設定制御を示すフローチャートであり、図5のステップS16において実行されるものである。
【0087】
内燃機関トルク設定制御は、車両走行中は常に実行されている。まず、ステップS21において、コントローラ10は、走行モードを判定する。つまり、内燃機関2が駆動されているか否かを判定する。車両がHEVモードで走行している場合は、換言すると内燃機関2が駆動されている場合は、自動変速機4等で生じる機械損失を考慮して内燃機関2の出力トルクが設定され(ステップS29)、上述したステップS17に進む。また、車両がEVモードで走行している場合は、換言すると内燃機関2が駆動されていない場合であり、モータ3の出力トルクのみで車両が走行している。この場合、プロセスは、ステップS22に進む。
【0088】
ステップS22では、コントローラ10は、内燃機関始動要求の有無を判定する。内燃機関始動要求が無い場合(ステップS22:No)は、モータ3のみでの走行を続けることが決定され、内燃機関2の出力トルクの設定は実行することなくスタートに戻る。内燃機関始動要求がある場合(ステップS22:Yes)は、内燃機関2の始動を実行することが決定され、プロセスはステップS23へ進む。ステップS23では、第1摩擦締結要素CL1の締結制御と共に、モータ3の出力トルクの一部を利用することによって、内燃機関2のクランキングが開始される。
【0089】
次のステップS24では、コントローラ10は、ステップS22で判定された内燃機関始動要求のトリガーの種別を判定する。具体的には、車両ショックの抑制を優先するか、内燃機関始動の応答性を優先するかで判定される。内燃機関始動の応答性を優先させる場合の具体例を以下に述べる。
【0090】
図5で設定された車両の目標駆動力が所定値以上変化した場合、応答性を優先させる。例えば、アクセル開度センサSN3の値が所定値以上となったことを検知したことにより内燃機関始動を行う場合は、ドライバがアクセルペダルを大きく踏んでいる状態であり、応答よく駆動力の増加を行うための内燃機関始動を判断し、始動の応答性が優先される。更に、パドルスイッチ(図示せず)やシフトレバー(図示せず)の操作により、ドライバの意図で手動変速が行われたことにより内燃機関始動を行う場合は、変速による素早い加減速をドライバが要求していると判断し、始動の応答性が優先される。その他、以下の条件合致時の内燃機関始動の場合、始動の応答性が優先されることがある。
・ブレーキ操作量または操作変化量が一定値以上となった場合
・ハンドル操作の操舵量が一定値以上の場合
・内燃機関の始動を行う際にスポーツモードが選択されている場合
・内燃機関の始動が完了する前にスポーツモードへの切替が行われた場合
一方、例えばSOCセンサSN6の検出信号に基づくバッテリ残量低下などによるシステム要求に起因して、内燃機関始動を行う場合、コントローラ10は、ショック低減重視と判断する。
【0091】
ステップS24において、コントローラ10がショック低減重視と判断した場合、プロセスはステップS25に進む。コントローラ10が応答重視と判断した場合、ステップS25に進まずに、プロセスはステップS29に進む。この場合、内燃機関2のクランキングが完了した後、コントローラ10は、内燃機関2のトルクを、車両目標駆動力に応じた値に設定する。内燃機関2の出力トルクが上昇し、車両の駆動力が、速やかに車両目標駆動力になる。但し、ドライバに違和感を与える場合がある。
【0092】
ステップS25では、コントローラ10は、内燃機関2のクランキングが完了したか否かを判定する。クランキングが未完了の場合(ステップS25:No)、クランキングが完了するまでステップS25に留まる。クランキングが完了した場合(ステップS25:Yes)、ステップS26へ進む。
【0093】
ステップS26では、ステップS24で述べたような応答性を優先させるトリガー(車両の目標駆動力が所定値以上変化することを含む)が、内燃機関2の始動要求から、内燃機関2の始動を開始しかつ、その始動が完了するまでの内燃機関始動工程中に発生したか否かを判定する。例えば、ステップS23からステップS25でクランキングが行われている最中にアクセル踏み増し操作が行われた場合や、後述するようなステップS27やS28の最中にアクセル踏み増し操作が行われた場合(ステップS26:No)は、ショック低減重視の内燃機関始動制御中であっても、内燃機関トルクを車両目標駆動力に応じた値に設定するステップS29へ進む。車両の駆動力が、速やかに車両目標駆動力になる。応答性優先のトリガーが発生していない場合(ステップS26:Yes)、ステップS27へ進む。
【0094】
ステップS27では、コントローラ10は、内燃機関トルクを、車両目標駆動力に応じた値よりも低い中間目標値に設定する。中間目標値は、ハイブリッド車両の進行方向加速度の変化量が、許容加速度変化量を超えないように設定される。より具体的には、この中間目標値に対応する車両加速度αと内燃機関2の始動完了直後の車両加速度α1との差が略0.02G以下、且つ中間目標値に対応する車両加速度αと車両目標駆動力を満足している状態の車両加速度α2との差が略0.02G以下、となるように設定される。これは、前述したように、ドライバに違和感を与えない許容加速度変化量の最大値が0.02Gであることから決定されている。中間目標値設定完了後、内燃機関2の出力トルクが上昇し、車両加速度が中間目標値となる。このときの車両加速度の変化量は、許容加速度変化量を超えない。プロセスは、ステップS28へ進む。
【0095】
ステップS28では、コントローラ10は、ステップS27で中間目標値が設定されて、内燃機関2の出力トルクが上昇し、車両加速度が中間目標値となった後、所定時間が経過したか否かを判定する。所定時間が未経過の場合(ステップS28:No)、ステップS26の前へ戻る。また、所定時間が経過した場合(ステップS28:Yes)、ステップS29へ進み、内燃機関トルクを、車両目標駆動力に応じた値に設定する。内燃機関2の出力トルクが、再度上昇し、車両の駆動力が、車両目標駆動力になる。このときの車両加速度の変化量も、許容加速度変化量を超えない。プロセスは、スタートへ戻る。
【0096】
ステップS26からステップS28が、クランキング工程完了後、コントローラ10が、内燃機関2のトルクを目標内燃機関トルクより低い中間値に保持する第1内燃機関トルク上昇工程に相当する。ステップSS28からステップS29が、コントローラ10が、内燃機関2のトルクを目標内燃機関トルクまで上昇させる第2内燃機関トルク上昇工程に相当する。
【0097】
尚、ステップS28では、コントローラ10は、ハイブリッド車両の躍度が所定値未満になったか否かを判定してもよい。「躍度」は、自動車の加速度の変化率(又は時間微分)である。躍度が小さくなると、ドライバは、自動車の前後加速度の変化を感じにくい。
【0098】
図7は、本発明の実施形態によるモータトルク設定制御を示すフローチャートであり、図5のステップS14において実行されるものである。まず、ステップS31において、コントローラ10は、現在の走行モードを判定する。現在の走行モードがHEVモードである場合(ステップS31:HEVモード)、内燃機関2の動力により車両駆動しているため、トルク設定することなくスタートに戻る。尚、本実施例では内燃機関2の駆動中はモータ3がトルクを出力しないものを示しているが、この限りではなく、車両の目標駆動力と、内燃機関2の現在の駆動力との値に応じてモータ3が補助トルクを出力する場合もある。現在の走行モードがEVモードである場合(ステップS31:EVモード)、ステップS32へ進む。
【0099】
ステップS32において、コントローラ10は内燃機関始動要求があるか否かを判定する。内燃機関始動要求が無い場合(ステップS32:Noの場合)、プロセスは、ステップ33に進み、車両の目標駆動力を達成するよう、モータの出力トルクを設定する。プロセスはその後、上記ステップS15に進み、コントローラ10は、設定されたモータトルクに基づいて、モータ3を制御する。
【0100】
一方、ステップS32において、内燃機関始動要求がある場合(ステップS32:Yes)、プロセスは、ステップS34へ進む。
【0101】
ステップS34、S35においては、コントローラ10がモータ3の余裕トルクを計算する。前述したように、余裕トルクは、モータ3の出力可能トルクから現在走行用に使用されているモータのトルクを差し引いたトルクを指す。モータ3の出力可能トルクは、図3に示すように、モータ3の出力軸の回転数に応じて決定される。
【0102】
次に、ステップS35において、コントローラ10は、内燃機関始動時の車両加速度変化が所定値以上になるか否かを予測し判定する。具体的には、ステップS34で算出された余裕トルクから内燃機関2をクランキングするために必要なトルクを除いた値(つまり、トルク差)が、所定の閾値以上であるか否かを判定する。ここで用いられる所定の閾値は、ドライバに違和感を与える最大の車両加速度変化である0.02Gに対応するトルクから決定される。予測される車両加速度変化量が0.02Gより大きいと判定された場合(ステップS35:No)、ステップS36において、コントローラ10は、モータ3の設定トルクを低下させ、再びステップS35へ戻る。ステップS35において、予測される車両加速度変化が0.02Gより小さいと判定された場合(ステップS35:Yes)、ステップS37へ進む。例えば、内燃機関2のクランキングに伴う推定加速度変化量が0.03G、許容加速度変化量が0.02Gである場合、その差分(即ち推定加速度変化量の超過分)は0.01Gである。この場合、この差分0.01Gに相当するトルクは10Nmであるので、コントローラ10は、モータ3の出力トルクを10Nm減少させる。
【0103】
ステップS37において、コントローラ10はモータトルクを、内燃機関2をクランキングするために必要なトルクと車両の走行に使われるトルクを足したものに設定する。プロセスはその後、上記ステップS15へ進む。ステップS15では、コントローラ10は、設定されたモータトルクに基づいて、モータ3を制御する。
【0104】
図8は、本発明の実施形態による内燃機関始動時の第1摩擦締結要素CL1の制御を示すフローチャートである。第1摩擦締結要素CL1は基本的に、HEVモードからEVモード、又はEVモードからHEVモードへの移行の際に駆動力の断接状態の切替を行う。本実施例では、内燃機関2の始動を伴う、EVモードからHEVモードへの移行の場合の制御の流れを説明する。
【0105】
まず、ステップS41において、コントローラ10は、現在の走行モードを判定する。現在の走行モードがHEVモードである場合(ステップS41:HEVモード)、内燃機関2は既に駆動しているため、第1摩擦締結要素CL1の制御は行われることなくスタートに戻る。現在の走行モードがEVモードである場合(ステップS41:EVモード)、ステップS42へ進む。ステップS42では、コントローラ10は、内燃機関始動要求の有無を判定する。内燃機関始動要求が無い場合(ステップS42:No)は、モータ3のみでの走行を続けることが決定され、第1摩擦締結要素CL1の制御は実行することなくスタートに戻る。内燃機関始動要求がある場合(ステップS42:Yes)は、内燃機関2の始動を実行することが決定され、プロセスは、ステップS43へ進む。
【0106】
ステップS43では、コントローラ10は、内燃機関2とモータ3との間の駆動力の伝達を開始すべく、第1摩擦締結要素CL1の締結力を増加させ、スリップ状態へ移行させる。この段階では、内燃機関2とモータ3との間の回転数差が大きいため、完全締結はさせず、スリップ状態とすることで、大きな車両加速度の発生や各部品の破損等を防ぐ。
【0107】
ステップS44では、コントローラ10は、内燃機関2の着火が行われたか否かを判定する。内燃機関2の着火が未実行の場合(ステップS44:No)、次のステップには移行せず、再度ステップS44へ戻される。内燃機関2の着火が行われると(ステップS44:Yes)、コントローラ10は、第1摩擦締結要素CL1をスリップ状態から完全締結状態へ移行させるべく制御を行う(ステップS45)。
【0108】
<作用効果>
次に、本発明の実施形態によるパワートレインシステム及び制御方法の作用及び効果について説明する。
【0109】
図9は、本発明の実施形態によるパワートレインシステムの制御を実行した場合のタイムチャートの一例を示し、図10は、本発明の別の実施形態によるパワートレインシステムの制御を実行した場合のタイムチャートの一例を示す。更に、図11は、従来技術により走行モード切替を行った場合のタイムチャートの一例を示す。図11はまた、本発明の実施形態によるパワートレインシステムの制御において、応答性を重視する制御を実行した場合のタイムチャートにも相当する。
【0110】
図9図10、及び図11中の各グラフは、以下のパラメータの時間変化を示す。
【0111】
・グラフG40:内燃機関始動要求フラグ
・グラフG41:車両の加速度
・グラフG42:モータ3の出力トルク
・グラフG43:走行抵抗を打ち消すために必要なトルク(負値)
・グラフG44:内燃機関2の始動前の第1摩擦締結要素CL1におけるトルク(負値)
・グラフG45:始動後の内燃機関2の出力トルク
・グラフG46:トルク収支(G41~G45の合計値)
・グラフG50:内燃機関始動要求フラグ
・グラフG51:車両の加速度
・グラフG52:モータ3の出力トルク
・グラフG53:走行抵抗を打ち消すために必要なトルク(負値)
・グラフG54:内燃機関2の始動前の第1摩擦締結要素CL1におけるトルク(負値)
・グラフG55:始動後の内燃機関2の出力トルク
・グラフG56:トルク収支(G51~G55の合計値)
・グラフG57:アクセル開度
・グラフG60:内燃機関始動要求フラグ
・グラフG61:車両の加速度
・グラフG62:モータ3の出力トルク
・グラフG63:走行抵抗を打ち消すために必要なトルク(負値)
・グラフG64:内燃機関2の始動前の第1摩擦締結要素CL1におけるトルク(負値)
・グラフG65:始動後の内燃機関2の出力トルク
・グラフG66:トルク収支(G61~G65の合計値)
尚、以下、トルク収支10Nmに対応する車両の加速度を0.01Gとして説明する。
【0112】
図11に示す従来技術の例では、車両がEVモードで走行している時刻t1以前からHEVモードで走行している時刻t5以降にわたって、走行抵抗を打ち消すために必要なトルクは、-10Nmで一定である(グラフG63参照)。また、時刻t1以前においてモータ3の出力トルクは25Nmである(グラフG62参照)。したがって、トルク収支は15Nmとなり(グラフG66参照)、このトルク収支に対応するハイブリッド車両の加速度は0.015Gとなる(グラフG61参照)。
【0113】
図11の従来技術の例では、時刻t1において、EVモードからHEVモードへの切り替え要求があると判定されると(グラフG60参照)、時刻t1から直ちに内燃機関始動制御が開始される。つまり、第1摩擦締結要素CL1の締結制御が開始すると共に(グラフG64参照)、モータ3のトルクが上昇する(グラフG63参照)。尚、第1摩擦締結要素CL1のトルクは、着火前の内燃機関2に供給されるトルクであって、内燃機関2の始動に必要なトルクに相当する。
【0114】
そして、時刻t1からt3の間、内燃機関2の始動に必要なトルクの大きさが90Nmまで増大する(グラフG64参照。内燃機関2の始動に必要なトルクを負値として表しているのでグラフ上では減少している)。時刻t1から時刻t2までの間は、内燃機関2の始動に必要なトルクの増大に合わせてモータ3の出力トルクも増大するので(グラフG62参照)、トルク収支は15Nmで一定に保たれる(グラフG66参照)。即ち、ハイブリッド車両の加速度に変化は生じない。しかしながら、時刻t2においてモータ3の出力トルクが最大値85Nmに達した後、モータ3の出力トルクは増大しない。したがって、時刻t2から時刻t3までの間は、内燃機関2の始動に必要なトルクの増大に合わせてトルク収支が減少する(グラフG66参照)。そして、時刻t3において内燃機関2の始動に必要なトルクの大きさが最大値90Nmに到達したとき、トルク収支は85-10-90=-15Nmとなる(グラフG66参照)。このトルク収支に対応するハイブリッド車両の加速度は-0.015Gである(グラフG61参照)。したがって、内燃機関始動制御が開始された時刻t1における加速度0.015Gからの加速度減少量は0.03Gになる。即ち、図11に例示した従来技術では、内燃機関始動制御中のハイブリッド車両の進行方向加速度の減少量が、ドライバに違和感を与えない許容加速度変化量である0.02Gを超えているので、ドライバに違和感を与える可能性がある。
【0115】
また、時刻t4において、内燃機関2のクランキングが完了した後、コントローラ10は、直ちに車両の目標駆動力を達成するための出力トルクに向かって内燃機関2の目標トルクを設定する。内燃機関2の目標トルクは、車両加速度が、内燃機関2の始動前の車両加速度に復帰するために必要なトルクであり、そのときのモータ3の出力トルクに相当する25Nmである(グラフG61、G62、G65参照)。内燃機関2の出力トルクが25Nmまで上昇し、モータ3の出力トルクはゼロまで次第に減少する。時刻t4から時刻t5の間にトルク収支は-15Nmから15Nmまで変化する(グラフG65参照)。時刻t4におけるトルク収支-15Nmに対応する車両の加速度は-0.015G、時刻t5におけるトルク収支15Nmに対応する車両の加速度は0.015Gであり、時刻t4から時刻t5の間での車両の進行方向加速度の増加量は、0.015-(-0.015)=0.03Gとなる。即ち、図11に例示した従来技術では、内燃機関始動後の車両の進行方向加速度の増加量が、ドライバに違和感を与えない許容加速度変化量である0.02Gを超えているので、ドライバに違和感を与える可能性がある。
【0116】
一方、図9に例示した本実施形態でも、車両がEVモードで走行している時刻t1以前からHEVモードで走行している時刻t5以降にわたって、走行抵抗を打ち消すために必要なトルクは、-10Nmで一定である(グラフG43参照)。また、時刻t1以前においてモータ3の出力トルクは25Nmである(グラフG42参照)。したがって、時刻t1以前のトルク収支は15Nmとなり(グラフG46参照)、このトルク収支に対応する車両加速度は0.015Gとなっている(グラフG41参照)。
【0117】
図9の本実施形態の例においても、図11に示した従来技術の例と同様に、時刻t1において、EVモードからHEVモードへの切替要求があると判定される(グラフG40参照)。しかしながら、従来技術の例のように時刻t1に直ちに内燃機関始動制御が開始されると、内燃機関始動制御中のハイブリッド車両の進行方向加速度の減少量が0.03Gに達し、ドライバに違和感を与える可能性がある。そこで、図9の本実施形態の例では、コントローラ10は、内燃機関始動制御を実行する前に、時刻t1からt1’の間、モータ3の出力トルクを所定量減少させる。図9の例では、内燃機関2のクランキングのために減少する加速度量は、図11の例と同じと推定できる。その推定加速度減少量が0.03Gであり、許容加速度減少量が0.02Gであるので、その差分(即ち推定加速度減少量の超過分)は0.01Gである。即ち、この差分0.01Gに相当するトルクは10Nmであるので、コントローラ10は、時刻t1からt1’の間に、モータ3の出力トルクを10Nm減少させて15Nmとする(G42参照)。これにより、時刻t1’の時点におけるトルク収支は、15-10=5Nmとなり、このトルク収支に対応する車両の加速度は0.005Gとなる(グラフG41参照)。
【0118】
その後、時刻t1’からt3の間、内燃機関2の始動に必要なトルクの大きさが90Nmまで増大する(グラフG44参照)。時刻t1’から時刻t2までの間は、内燃機関2の始動に必要なトルクの増大に合わせてモータ3の出力トルクも増大するので(グラフG42参照)、トルク収支は5Nmで一定に保たれる(グラフG46参照)。即ち、ハイブリッド車両の加速度に変化は生じない。しかしながら、時刻t3においてモータ3の出力トルクが最大値85Nmに達した後、モータ3の出力トルクは増大しない。したがって、時刻t2から時刻t3までの間は、内燃機関2の始動に必要なトルクの増大に合わせてトルク収支が減少する(グラフG46参照)。そして、時刻t3において内燃機関2の始動に必要なトルクの大きさが最大値90Nmに到達したとき、トルク収支は85-10-90=-15Nmとなる(グラフG46参照)。このトルク収支に対応するハイブリッド車両の加速度は-0.015Gである(グラフG41参照)。したがって、時刻t1’における加速度0.005Gからの加速度減少量は0.02Gになる。即ち、図9に示した本実施形態の例では、ハイブリッド車両の進行方向加速度の、一度の減少量が、ドライバに違和感を与えない許容加速度減少量である0.02G以下なので、ドライバに与える違和感を抑制できる。
【0119】
尚、時刻t1から時刻t1’の間の加速度減少量は、0.01Gであり、許容加速度減少量である0.02G以下なので、この減速時にドライバに与える違和感も抑制できる。
【0120】
上記した時刻t3の後、時刻t4において、内燃機関2が着火される。時刻t4の後、コントローラ10は、内燃機関2の目標トルクを、車両の目標駆動力を達成するための出力トルクよりも低いトルク(つまり、中間目標値)に設定する。内燃機関2の本来の目標トルクは、25Nmであり、トルク収支が-15Nmから15Nmまで変化すると、車両の進行方向加速度の増加量は、0.015-(-0.015)=0.03Gとなって、許容加速度変化量を超えてしまう。コントローラ10は、内燃機関2のトルクの中間目標値を、15Nmに設定する。この中間目標値は、許容加速度変化量である0.02Gを超えない限度で、加速度変化量が最も大きくなるトルクである。トルク収支-15Nmに対応する車両の加速度は-0.015G、時刻t4’におけるトルク収支5Nmに対応する車両の加速度は0.005Gであり、時刻t4から時刻t4’の間での車両の進行方向加速度の増加量(つまり、一度の増加量)は、0.015-(-0.005)=0.02Gとなる。したがって、ドライバに違和感を与えることが抑制される。
【0121】
時刻t4’から時刻t4”までの、予め定めた所定時間だけ、コントローラ10は、内燃機関2のトルクの中間目標値を5Nmに保持する。この間に、ハイブリッド車両の躍度(つまり、加速度の時間微分値)が予め定めた閾値を下回る。
【0122】
所定時間が経過すれば、コントローラ10は、内燃機関2のトルクの中間目標値の保持を終了する。時刻t4からt4”までが、第1内燃機関トルク上昇工程に相当する。
【0123】
時刻t4”以降に、コントローラ10は、内燃機関2のトルクを、もう一度上昇させる(第2内燃機関トルク上昇工程)。具体的にコントローラ10は、内燃機関2の目標トルクを、車両の目標駆動力を達成するための出力トルクである、25Nmに設定する。時刻t4”から時刻t5の間にトルク収支は5Nmから15Nmまで変化する(グラフG66参照)。時刻t4”におけるトルク収支5Nmに対応する車両の加速度は0.005G、時刻t5におけるトルク収支15Nmに対応する車両の加速度は0.015Gであり、時刻t4”から時刻t5の間での車両の進行方向加速度の増加量(つまり、一度の増加量)は、0.015-0.005=0.01Gとなり、ドライバに違和感を与えない許容加速度変化量である0.02Gを下回る。ドライバに違和感を与えることが抑制される。
【0124】
ここで、時刻t4’から時刻t4”までの所定時間は、適宜の長さに設定すればよい。所定時間が短すぎると、時刻t4から時刻t4’までの加速度変化と、時刻t4”から時刻t5までの加速度変化とが、連続的になってしまい、加速度の一度の変化量が、実質的に許容加速度変化量を超えてしまい、ドライバに違和感を与える恐れがある。一方、所定時間が長すぎると、ハイブリッド車両の駆動力が目標駆動力以下の状態が長く継続してしまうため、ドライバに違和感を与える恐れがある。
【0125】
尚、時刻t4’から時刻t4”までの所定時間が経過することを待つ代わりに、コントローラ10は、加速度センサSN5の検出信号に基づいて、ハイブリッド車両の躍度が閾値を下回ったことを判断し、躍度が閾値を下回った場合は、内燃機関2の目標トルクを、車両の目標駆動力を達成するための出力トルクに設定してもよい。
【0126】
また、時刻t4’から時刻t4”までの所定時間が経過することを待つことと、加速度センサSN5の検出信号に基づくハイブリッド車両の躍度の大きさとの両方に基づいて、中間目標値を保持する期間を調整してもよい。つまり、所定時間が経過するまでに躍度が閾値を下回れば、中間目標値の保持を終了し、内燃機関2の目標トルクを、車両の目標駆動力を達成するための出力トルクに設定する。所定時間が経過するまでに躍度が閾値を下回らなければ、所定時間が経過した時点で、内燃機関2の目標トルクを、車両の目標駆動力を達成するための出力トルクに設定する。
【0127】
図9に例示するショック低減重視制御に対し、図11の例は、図9における時刻t1からt1’までの、モータトルクの低減を省略すると共に、時刻t4’から時刻t4”までの、中間目標値の保持を省略している。図11の例は、応答性重視制御の例に相当する。
【0128】
尚、応答性重視制御においては、時刻t4’から時刻t4”までの中間目標値の保持を省略する(つまり、保持時間をゼロにする)のではなく、保持時間を相対的に短くしてもよい。つまり、時刻t4’から時刻t4”までの、中間目標値の保持する時間を、応答性重視制御においては、ショック低減重視制御よりも短くする。こうすることで、応答性を高めることと、ドライバに与える違和感を抑制することとが両立する。
【0129】
図10の実施形態の例は、内燃機関始動工程中に応答性優先のトリガー(本例ではアクセル操作量が所定値以上)が発生した場合を示す。本例では、時刻t1に内燃機関始動要求が発生し(グラフG50参照)、時刻t1からt3にかけてショック低減始動制御を行っている途中でアクセル踏み増しが行われることにより、時刻t2’に、応答性優先フラグが立っている(グラフG57参照)。
【0130】
この場合、コントローラ10は、ショック低減重視制御から応答性優先制御へ切り替える。但し、図10の例では、制御切り替えのタイミングが、時刻t1から時刻t1’を経過することによりモータ3のトルクの低減を既に行った後であるため、内燃機関2のクランキング完了前は、応答性優先制御は行わず、内燃機関2のクランキング完了後において、応答性優先制御を行う。従って、図10の時刻t1から時刻t3は、図9の時刻t1から時刻t3までと同じである。
【0131】
クランキング完了後(時刻t4)、応答性を優先させるトリガーが発生しているため(図6のステップS26に相当)、コントローラ10は、内燃機関2のトルクを、直ちに車両目標駆動力まで上昇させる(時刻t5、G55参照)。これにより、車両の加速度変化は0.03Gとなるが、ドライバの応答性要求を満たすことを優先できる。図10の時刻t4から時刻t5は、図11の時刻t4から時刻t5と、実質的に同じである。
【0132】
尚、図10とは異なり、ショック低減重視制御から応答性優先制御への切り替えのタイミングが、時刻t1’を経過する前であれば、コントローラ10は、内燃機関2のクランキング完了前においても直ちに、応答性優先制御を実行してもよい。
【0133】
以上説明したように、本実施形態では、コントローラ10は、EVモードからHEVモードへと切り替える時に、モータ3による内燃機関2のクランキングが完了した後、2段階に分けて内燃機関2の出力トルクを上昇させる。車両加速度を段階的に変化させることができるので、車両駆動力が一時的に目標駆動力を下回ると共に、車両駆動力が元の目標駆動力に復帰したとしても、加速度変化をドライバに違和感を与えない範囲の変化代に収めることができる。つまり、走行モード切替に伴う内燃機関2の始動時に、車両が突然前方へ飛び出すような違和感をドライバに与えることを抑制できる。
【0134】
また、本実施形態によれば、コントローラ10は、ドライバによるアクセルの踏み増し操作等、目標駆動力が大きく上昇した場合には、車両加速度の段階的な変化を行わず、内燃機関2のクランキング完了後に、出力トルクを目標駆動力まで速やかに上昇させる。これにより、ドライバによる素早く内燃機関2を始動させるという要求がある場合には応答よく目標駆動力の達成を行うことができ、ドライバの要求に適切に応えることができる。
【0135】
また、本実施形態によれば、コントローラ10は、EVモードからHEVモードへの切替時、モータ3の出力トルクを所定量減少させた後、第1摩擦締結要素CL1を締結させると共に、モータ3により内燃機関2をクランキングして内燃機関2を始動させる。これにより、車両の進行方向加速度を予め減少させておくことができ、一度に発生する車両の加速度変化を減少させることができる。つまり、EVモードからHEVモードへの切替に伴う内燃機関2の始動時に、車両が突然後方に引きずられたような違和感をドライバに与えることを抑制できる。
【符号の説明】
【0136】
1 パワートレインシステム1
2 内燃機関
3 モータ
CL1 第1摩擦締結要素
10 コントローラ(制御器)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11