IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人京都大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人 熊本大学の特許一覧

<>
  • 特開-腎臓保護用の組成物 図1
  • 特開-腎臓保護用の組成物 図2
  • 特開-腎臓保護用の組成物 図3
  • 特開-腎臓保護用の組成物 図4
  • 特開-腎臓保護用の組成物 図5
  • 特開-腎臓保護用の組成物 図6
  • 特開-腎臓保護用の組成物 図7
  • 特開-腎臓保護用の組成物 図8
  • 特開-腎臓保護用の組成物 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083279
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】腎臓保護用の組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4418 20060101AFI20220527BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
A61K31/4418
A61P13/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194628
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】垣塚 彰
(72)【発明者】
【氏名】池田 華子
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼原 孝成
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA81
(57)【要約】
【課題】本開示の課題は、腎臓の保護方法を提供することである。
【解決手段】本願発明者らは、式(I)の化合物が腎臓保護効果を有することを見出した。従って、本開示は、式(I)の化合物またはそのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、腎臓保護用の組成物を提供する。別の態様では、前記化合物を含む腎障害の処置または予防用の組成物を提供する。さらなる態様では、前記化合物を含む腎臓の灌流または保存用の組成物を提供する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、腎臓保護用の組成物。
【請求項2】
式(I):
【化2】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、腎障害の処置または予防用の組成物。
【請求項3】
腎障害が急性腎障害または慢性腎臓病である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
腎障害が急性腎障害である、請求項2または3に記載の組成物。
【請求項5】
式(I):
【化3】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、移植腎の灌流または保存用の組成物。
【請求項6】
Raが、それぞれ独立して、ハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキルおよびアルコキシから成る群から選択される、請求項1~5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
式(I)の化合物が、
4-アミノ-3-(6-フェニルピリジン-3-イルアゾ)ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-(6-p-トルイルピリジン-3-イルアゾ)ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-(6-m-トルイルピリジン-3-イルアゾ)ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-(6-o-トルイルピリジン-3-イルアゾ)ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-(6-ビフェニル-2-イルピリジン-3-イルアゾ)ナフタレン-1-スルホン酸;
3-[6-(2-アセチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]-4-アミノナフタレン-1-スルホン酸;
3-[6-(3-アセチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]-4-アミノナフタレン-1-スルホン酸;
3-[6-(4-アセチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]-4-アミノナフタレンスルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2,4-ジクロロフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-トリフルオロメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-トリフルオロメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-クロロフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3-クロロフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-クロロフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-メトキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-メトキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-イソプロポキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-イソプロポキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-フェノキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3-メトキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2,3-ジメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2,5-ジメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3,5-ジメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3-トリフルオロメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-{4-[5-(1-アミノ-4-スルホナフタレン-2-イルアゾ)ピリジン-2-イル]フェニル}-4-オキソブチル酸;
4-アミノ-3-(6-ビフェニル-3-イルピリジン-3-イルアゾ)ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3-シアノフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-シアノフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3,5-ビストリフルオロメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレンスルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-ベンゾイルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-プロポキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(5-フルオロ-2-プロポキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-フルオロ-6-プロポキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-プロポキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(5-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-フルオロ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-ブトキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-ヘキシルオキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-ブチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-ヒドロキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-{6-[2-(6-ヒドロキシヘキシルオキシ)フェニル]ピリジン-3-イルアゾ}ナフタレン-1-スルホン酸;
4-{2-[5-(1-アミノ-4-スルホナフタレン-2-イルアゾ)ピリジン-2-イル]フェノキシ}ブチル酸;
4-アミノ-3-{6-[2-(3-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]ピリジン-3-イルアゾ}ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-イソブトキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(5-クロロ-2-ヒドロキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-メチルビフェニル-2-イル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4’-クロロ-4-メチルビフェニル-2-イル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4,3’,5’-トリメチルビフェニル-2-イル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3’-クロロ-4-メチルビフェニル-2-イル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2,6-ジメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-イソプロポキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;および、
4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
からなる群から選択される、請求項1~5のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
式(I)の化合物が、4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸または4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸である、請求項1~7のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、腎臓保護用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓病は日本人成人の8人に1人が罹患しており、本邦全体で1300~1400万人の患者が存在すると推定される。2017年の世界の慢性腎臓病(CKD)の推定有病率は9.1%で、1990年から29.3%増大した。また、同年の全世界のCKDによる推定死亡者数は120万人に上った。CKDの疾病負荷は、社会人口統計指数(SDI)が低い地域で高い傾向がある。
【0003】
腎臓病は、進行すると人工透析を必要とする末期腎不全に至るばかりでなく、心血管疾患の重大なリスクとなる。急性腎障害(以前は急性腎不全と呼ばれた)は、腎機能の急激な低下の結果、体液貯留、電解質バランスの異常、毒素の蓄積などが出現する症候群であり、時として生命に関わり迅速な処置を要する。急性腎障害の発症は生命予後に直接関わることが報告されており、一部の患者はCKDに移行し、末期腎不全に至り、腎代替療法(透析療法または腎移植)が必要となる場合がある。急性腎障害は様々な原因により発症し、腎前性、腎性、腎後性に分類される。
【0004】
臨床で使用し得る腎臓病治療薬は、極めて限られている。従来の腎臓病治療は、糖尿病、高血圧、膠原病など原疾患の治療に依るところが大きく、直接臨床応用されている腎疾患治療薬または腎不全治療薬には、球形吸着炭、治験進行中のバルドキソロンメチル、適応外使用のSGLT2阻害薬がある。とりわけ急性腎障害の治療は、補液、利尿剤、電解質管理など対症療法が主体であり、臨床で使用し得る治療剤は存在しない。
【0005】
ある種の4-アミノ-ナフタレン-1-スルホン酸誘導体は、細胞内の主要なATPaseであるVCP(valosin-containing protein)のATPase活性を阻害し、様々な疾患に対する治療および/または予防効果が期待されている(特許文献1~8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2012/014994号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2012/043891号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2014/129495号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2015/129809号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2015/033981号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2019/131720号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2019/203176号パンフレット
【特許文献8】国際公開第2020/027137号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、腎臓を保護するための新たな手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、VCP阻害剤が腎臓保護効果を有することを見出した。
従って、ある態様では、本開示は、式(I):
【化1】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、腎臓保護用の組成物を提供する。
別の態様では、本願は、式(I)の化合物またはそのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、腎障害の処置または予防用の組成物を提供する。
別の態様では、本願は、式(I)の化合物またはそのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、腎臓の保存または灌流用の組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、腎臓保護用の化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】試験1の実験スケジュールを示す。
図2】試験1における生細胞数の測定結果を示す。
図3】試験1における細胞内ATP濃度の測定結果を示す。
図4】試験1におけるウエスタンブロッティングの結果を示す。
図5】試験2の実験スケジュールを示す。
図6】試験2における血清クレアチニンおよび尿素窒素(BUN)の測定結果を示す。
図7】試験2における腎臓の遺伝子発現レベルの測定結果を示す。
図8】試験2におけるPAS染色像を示す。スケールバー:50μm
図9】試験2における急性尿細管壊死(ATN)スコアの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。例えば、「約20」は、「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20~30」は、「18~33」を含むものとする。
【0012】
特に具体的な定めのない限り、本開示で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本開示で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本開示において、一般的な理解に優先する。
【0013】
「アルキル」は、1~10個の炭素原子、好ましくは1~6個の炭素原子を有する、1価飽和脂肪族ヒドロカルビル基を意味する。アルキルは、例えば直鎖および分枝鎖ヒドロカルビル基、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチルおよびネオペンチルを意味するが、これらに限定されない。
【0014】
基の接頭語「置換」は、当該基の1個以上の水素原子が、同一または異なる指定する置換基によって置換されていることを意味する。
【0015】
「アルキレン」は、1~10個の炭素原子、好ましくは1~6個の炭素原子を有する、2価飽和脂肪族ヒドロカルビル基を意味する。アルキレン基は、分枝鎖および直鎖ヒドロカルビル基を含む。
【0016】
「アルコキシ」は、-O-アルキル(ここで、アルキルは本開示に定義されている)の基を意味する。アルコキシは、例えばメトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、t-ブトキシ、sec-ブトキシおよびn-ペントキシを意味するが、これらに限定されない。
【0017】
「アリール」は1個の環(例えばフェニル)または複数の縮合環(例えばナフチルまたはアントリル)を有する6~14個の炭素原子の1価芳香族性炭素環式基を意味する。アリール基は典型的には、フェニルおよびナフチルを含む。
「アリールオキシ」は、-O-アリール(ここで、アリールは本開示に定義されている)の基を意味し、例えばフェノキシおよびナフトキシを含む。
【0018】
「シアノ」は、-CNの基を意味する。
「カルボキシル」または「カルボキシ」は-COOHまたはその塩を意味する。
「カルボキシエステル」は、-C(O)O-アルキル(ここで、アルキルは本開示に定義されている)の基を意味する。
「ハロ」は、ハロゲン、特に、フルオロ、クロロ、ブロモおよびヨードを意味する。
「ヒドロキシ」は-OHの基を意味する。
【0019】
特に定めのない限り、本開示において明示的に定義されていない置換基の命名法は、官能基の末端部分を命名し、次いで結合点に向かって隣接する官能基を命名して行う。例えば、置換基「アリールアルキルオキシカルボニル」は、(アリール)-(アルキル)-O-C(O)-を意味する。
【0020】
式(I)の化合物には、置換パターンによっては、エナンチオマーまたはジアステレオマーが存在し得る。式(I)の化合物は、ラセミ体であってもよく、既知方法で立体異性的に純粋な成分に分離したものであってもよい。ある種の化合物は、互変異性体であり得る。
【0021】
「エステル」は、インビボで加水分解され得るエステルを意味し、人体で容易に分解されて親化合物またはその塩を放出するものを含む。好適なエステル基は、例えば、薬学的に許容し得る脂肪族カルボン酸、特にアルカン酸、アルケン酸、シクロアルカン酸およびアルカン二酸に由来するもの(ここで、各アルキルまたはアルケニル基は、例えば6個以下の炭素原子を有する)を含む。具体的なエステルの例には、ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、ブチル酸エステル、アクリル酸エステルおよびエチルコハク酸エステルが含まれる。
「オキシド」は、ヘテロアリール基の窒素環原子が酸化され、N-オキシドを形成しているものを意味する。
【0022】
「薬学的に許容し得る塩」は、式(I)の化合物の無機または有機酸との塩であり得る。好ましい塩は、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸または硫酸との塩、または、有機カルボン酸またはスルホン酸、例えば、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、安息香酸またはメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸またはナフタレンジスルホン酸との塩である。
【0023】
また、薬学的に許容し得る塩は、常套の塩基との塩、例えばアルカリ金属塩(例えばナトリウムまたはカリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えばカルシウムまたはマグネシウム塩)、または、アンモニアまたは有機アミン(例えば、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-メチルモルホリン、ジヒドロアビエチルアミン、メチルピペリジン、L-アルギニン、クレアチン、コリン、L-リジン、エチレンジアミン、ベンザチン、エタノールアミン、メグルミンまたはトロメタミン)から誘導されるアンモニウム塩、特にナトリウム塩であり得る。
【0024】
「溶媒和物」は、固体または液体状態で溶媒分子との配位により錯体を形成している式(I)の化合物を意味する。好適な溶媒和物は水和物である。
【0025】
本開示において「式(I)の化合物」に言及する場合、文脈中で不適切でない限り、そのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩および溶媒和物も包含することを意図する。
【0026】
ある実施態様では、式(I)中、Raは、それぞれ独立して、ハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキルおよびアルコキシから成る群から選択される。
ある実施態様では、式(I)中、Raは、それぞれ独立して、ハロおよびアルキルから成る群から選択される。
ある実施態様では、式(I)中、Raは2個存在し、一方がハロであり、他方がアルキルである。
【0027】
ある実施態様において、式(I)の化合物は、下記の表1の化合物から選択される:
【表1-1】
【0028】
【表1-2】
【0029】
【表1-3】

【0030】
ある実施態様では、下記式
【化2】
で表される4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸、または、そのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、好ましくはナトリウム塩を使用する。
【0031】
式(I)の化合物、特に、上記の化合物の特性および合成方法は、国際公開第2012/014994号パンフレット(特許文献1)に詳細に記載されている。
【0032】
後述する実施例において、式(I)の化合物は、インビトロで尿細管細胞死を抑制し、急性腎障害のモデルマウスにおいて、腎機能の低下を抑制し、尿細管傷害を軽減した。従って、式(I)の化合物は腎臓を保護するために使用し得る。本明細書で使用されるとき、「腎臓を保護する」または「腎臓保護」は、対象の体内にあるか、または移植用に摘出された腎臓(移植腎)において、細胞死を抑制すること、腎機能を維持または改善すること、腎機能の低下を抑制または防止すること、腎障害を軽減、緩和、改善または除去すること、腎障害の進行を遅延または停止させることの少なくとも1つを意味する。
【0033】
対象としては、動物、典型的には哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)、特にヒトが挙げられる。対象は、腎疾患に罹患していても、罹患していなくてもよい。
【0034】
対象に式(I)の化合物を投与することにより、対象の体内にある腎臓を保護し得る。投与方法の詳細は、腎疾患の処置または予防について後述する通りである。例えば、腎機能が低下している対象の腎臓を保護し得る。腎機能は、例えば、血清クレアチニン値、年齢および性別に基づいて算出される推算糸球体濾過量により判定し得る。腎機能が低下している対象では、推算糸球体濾過量が低く、例えば、90未満、60未満、30未満、15未満である。あるいは、腎機能の低下が予想される対象の腎臓を保護し得る。腎機能の低下は、例えば、全身麻酔を伴う手術、とりわけ心臓手術の際に、または、感染症または敗血症に罹患している対象において予想される。また、式(I)の化合物を含む溶液で移植腎を灌流または保存することにより、移植腎を保護し得る。この方法の詳細は後述する通りである。
【0035】
ある態様では、式(I)の化合物を含む、腎臓保護用の組成物が提供される。
ある態様では、腎臓の保護を必要としている対象に式(I)の化合物を投与することを含む、腎臓の保護方法が提供される。
ある態様では、式(I)の化合物を含む溶液で移植腎を灌流および/または保存することを含む、腎臓の保護方法が提供される。ある実施態様では、移植腎はドナーから摘出された移植腎である。
ある態様では、腎臓保護用の式(I)の化合物が提供される。
ある態様では、腎臓を保護するための式(I)の化合物の使用が提供される。
ある態様では、腎臓保護用の組成物の製造における、式(I)の化合物の使用が提供される。
【0036】
腎障害の処置または予防
式(I)の化合物は、その腎臓保護効果により、腎障害の処置または予防のために使用し得る。本開示において、「腎障害」は、腎機能の低下を特徴とする状態を意味する。
【0037】
ある実施態様では、腎障害は急性腎障害である。急性腎障害は、腎機能の急激な低下を特徴とする状態を意味する。ある実施態様では、急性腎障害は、腎前性急性腎障害または腎性急性腎障害である。腎前性急性腎障害は、腎臓への血流の減少に起因する腎機能低下を特徴とし、血流減少の原因は、例えば、体液量の減少(下痢、出血)、敗血症、心不全、心筋梗塞、不整脈、ネフローゼ症候群、肝腎症候群、薬剤(非ステロイド性抗炎症薬、レニンアンギオテンシン系阻害薬)であり得る。腎性急性腎障害は、腎組織の障害に起因する腎機能低下を特徴とし、腎組織の障害は、例えば、腎血管障害(例えば、播種性血管内凝固症候群、悪性高血圧、溶血性尿毒症症候群)、急性糸球体腎炎、急速進行性糸球体腎炎、急性間質性腎炎(薬剤、特発性間質性腎炎など)、腎盂腎炎、尿細管閉塞(多発性骨髄腫、腫瘍崩壊症候群など)、急性尿細管壊死であり得、特に腎血管障害または急性尿細管壊死である。
【0038】
ある実施態様では、腎障害は慢性腎臓病である。慢性腎臓病は、腎臓の異常または機能低下が慢性的に続く状態であり、例えば、急性腎障害、加齢、糖尿病、慢性腎炎症候群、高血圧、腎硬化症、ネフローゼ症候群、多発性嚢胞腎、結石などの泌尿器科の疾患、膠原病などの自己免疫疾患、薬の副作用、特に腎硬化症に起因し得る。ある実施態様では、腎障害は慢性腎臓病の急性憎悪である。
【0039】
本明細書で使用されるとき、「腎障害を処置する」または「腎障害の処置」は、腎障害を有する対象において、腎障害の原因を軽減または除去すること、腎障害の進行を遅延または停止させること、および/または、腎障害を軽減、緩和、改善または除去することを意味し、腎障害の原因である腎疾患の処置であってもよい。
【0040】
本明細書で使用されるとき、「腎障害を予防する」または「腎障害の予防」は、対象において、特に、腎障害に至る可能性が高いが、未だ至っていない対象において、腎障害を防止すること、または、腎障害に至る可能性を低減することを意味し、腎障害の原因である腎疾患の予防であってもよい。
【0041】
腎障害に至る可能性があるが、未だ至っていない対象には、例えば、推算糸球体濾過量の低下傾向(即ち、血清クレアチニン値の上昇傾向)が見られる対象、または、腎障害のリスク因子を有する対象が含まれる。腎障害のリスク因子には、例えば、加齢、肥満、糖尿病、高血圧、膠原病、耐糖能異常、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症、メタボリックシンドローム、感染症、敗血症、心臓手術などの全身麻酔を伴う手術が含まれる。
【0042】
式(I)の化合物の投与対象としては、動物、典型的には哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)、特にヒトが挙げられる。
【0043】
式(I)の化合物の投与方法は特に限定されず、経口投与、非経口投与、注射、輸液等の一般的な投与経路を経ることができる。非経口投与は、全身投与であっても局所投与であってもよく、例えば、静脈内投与、動脈内投与、皮内投与、皮下投与、経皮投与、筋肉内投与、腹腔内投与または鼻腔内投与が挙げられる。
【0044】
経口投与の剤形としては、顆粒剤、細粒剤、粉剤、被覆錠剤、錠剤、坐剤、散剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、チュアブル剤、液剤、懸濁剤、乳濁液などが挙げられる。また注射による投与の剤形としては、静脈注射用、点滴投与用、活性物質の放出を延長する製剤等などの医薬製剤一般の剤形を採用することができる。静脈注射用または点滴投与用の剤形としては、水性および非水性の注射溶液(抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、等張化剤等を含んでもよい);ならびに水性および非水性の注射懸濁液(懸濁剤、増粘剤等を含んでもよい)が挙げられる。注射用の投与形は、密閉したアンプルやバイアル中に提供されてもよく、使用直前に滅菌液体(例えば、注射用水)を加えるだけでよい凍結乾燥物として提供されてもよい。注射溶液または懸濁液を、粉末、顆粒または錠剤から調製してもよい。
【0045】
これらの剤形は、常法により製剤化することによって製造される。さらに製剤上の必要に応じて、医薬的に許容し得る各種の製剤用物質を配合することができる。製剤用物質は製剤の剤形により適宜選択することができるが、例えば、緩衝化剤、界面活性剤、安定化剤、防腐剤、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤等が挙げられる。
【0046】
式(I)の化合物の投与量および投与回数は、有効量の式(I)の化合物が対象に投与されるように、投与対象の動物種、健康状態、年齢、体重、投与経路、投与形態等に応じて当業者が適宜設定できる。ある状況での有効量は、日常的な実験によって容易に決定することができる。例えば、約0.001~約1000mg/kg体重/日、約0.01~約300mg/kg体重/日、あるいは約0.1~約150mg/kg体重/日の式(I)の化合物を投与し得る。
【0047】
式(I)の化合物は単回投与してもよく、複数回投与してもよく、持続投与してもよい。複数回投与する場合、例えば、1日1回~数回、例えば、1日1回、2回または3回の投与頻度で、連日または数日おきに、例えば、1日、2日、3日または7日おきに、投与し得る。投与期間は制限されず、例えば、腎機能が改善されるまで投与を継続し得る。休薬期間を設けてもよい。
【0048】
式(I)の化合物は、単独で、または、1種またはそれ以上のさらなる有効成分と併用できる。成分を「併用する」ことは、全成分を含有する投与剤形の使用および各成分を別個に含有する投与剤形の組合せの使用のみならず、それらが腎障害の処置または予防のために使用される限り、各成分を同時に、または、いずれかの成分を遅延して投与することも意味する。2種またはそれ以上のさらなる有効成分を併用することも可能である。例えば、式(I)の化合物に加えて、1種またはそれ以上のさらなる有効成分を含む組成物を使用し得る。
【0049】
併用に適する有効成分には、例えば、腎障害のリスク因子(例えば、肥満、糖尿病、高血圧、膠原病、耐糖能異常、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症、メタボリックシンドローム、感染症、敗血症、慢性腎疾患)の治療剤、球形吸着炭、バルドキソロンメチル、SGLT2阻害薬が含まれる。
【0050】
式(I)の化合物の投与に加えて、薬物療法以外の治療法を実施することもできる。適する治療法には、例えば、透析、腎移植、再生医療等が含まれる。
【0051】
ある態様では、式(I)の化合物を含む、腎障害の処置または予防用の組成物が提供される。
ある態様では、腎障害の処置または予防を必要としている対象に式(I)の化合物を投与することを含む、腎障害の処置または予防方法が提供される。
ある態様では、腎障害の処置または予防用の式(I)の化合物が提供される。
ある態様では、腎障害の処置または予防のための式(I)の化合物の使用が提供される。
ある態様では、腎障害の処置または予防用の組成物の製造における、式(I)の化合物の使用が提供される。
【0052】
移植腎の灌流または保存
式(I)の化合物は、その腎臓保護効果により、移植腎の灌流または保存のために使用し得る。腎臓提供者(ドナー)から提供された移植腎は、灌流または保存されながら、患者(レシピエント)まで輸送される。本開示において、「移植腎」は、ドナーから摘出される前の腎臓、ドナーから摘出された腎臓、および、レシピエントに移植された腎臓を含む。式(I)の化合物を含む灌流液または保存液を、腎臓のドナーからの摘出、輸送および/またはレシピエントへの移植の際に使用し得る。ある実施態様では、式(I)の化合物を含む灌流液または保存液は、ドナーから摘出された腎臓の灌流または保存に使用される。式(I)の化合物を含む保存液を、移植腎の低温保存に使用してもよい。
【0053】
ドナーおよびレシピエントは、動物、典型的には哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)、特にヒトが挙げられる。
【0054】
式(I)の化合物は、既存の灌流液または保存液と同等の組成を有する灌流液または保存液に添加して使用し得る。既存の灌流液または保存液としては、例えば、Euro-Collins液、UW液、HTK液、Celsior液、ET-Kyoto液、IGL-1液、EP-TU液、Dsol、Polysolなどが挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、式(I)の化合物は、灌流液または保存液に添加するための組成物として提供されてもよく、当該組成物は、固体、半固体または液体の剤形であり得、灌流液または保存液の機能および安全性を損なわない限り、いかなる成分を含有してもよい。
【0055】
式(I)の化合物は、灌流液または保存液の使用時に有効な濃度であればよい。灌流液または保存液の使用時の式(I)の化合物の有効濃度は、例えば、0.1μM~10mM、1μM~1mM、3μM~300μM、10μM~200μMまたは50μM~100μMであり得る。
【0056】
ある態様では、式(I)の化合物を含む移植腎の灌流または保存用の組成物が提供される。
ある態様では、式(I)の化合物を含む溶液で移植腎を灌流または保存することを含む、移植腎の灌流または保存方法を提供する。ある実施態様では、移植腎はドナーから摘出された移植腎である。
ある態様では、移植腎を灌流または保存するための式(I)の化合物が提供される。
ある態様では、移植腎を灌流または保存するための式(I)の化合物の使用が提供される。
ある態様では、移植腎の灌流または保存用の組成物を製造するための式(I)の化合物の使用が提供される。
【0057】
例えば、下記の実施態様が提供される。
[1]式(I):
【化3】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、腎臓保護用の組成物。
[2]推算糸球体濾過量が低い対象の腎臓を保護するための、第1項に記載の組成物。
[3]推算糸球体濾過量が90未満の対象の腎臓を保護するための、第1項または第2項に記載の組成物。
[4]透析、心臓手術または腎臓手術において対象の腎臓を保護するための、第1項~第3項のいずれかに記載の組成物。
[5]感染症または敗血症に罹患している対象の腎臓を保護するための、第1項~第4項のいずれかに記載の組成物。
[6]腎障害の処置または予防用の組成物である、第1項~第5項のいずれかに記載の組成物。
[7]移植腎を保護するための、第1項~第5項のいずれかに記載の組成物。
[8]移植腎の灌流または保存用の組成物である、第7項に記載の組成物。
【0058】
[9]式(I):
【化4】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、腎障害の処置または予防用の組成物。
[10]腎障害が急性腎障害または慢性腎臓病である、第9項に記載の組成物。
[11]腎障害が急性腎障害である、第9項または第10項に記載の組成物。
[12]急性腎障害が腎前性急性腎障害である、第11項に記載の組成物。
[13]急性腎障害が、腎血管障害に起因する腎性急性腎障害である、第11項に記載の組成物。
[14]急性腎障害が、急性尿細管壊死に起因する腎性急性腎障害である、第11項に記載の組成物。
[15]腎障害が慢性腎臓病である、第9項または第10項に記載の組成物。
[16]慢性腎臓病が腎硬化症に起因するものである、第15項に記載の組成物。
[17]腎障害の原因である腎疾患の処置または予防のための、第9項に記載の組成物。
[18]腎障害の原因である腎疾患が、腎血管障害、急性尿細管壊死または腎硬化症である、第17項に記載の組成物。
【0059】
[19]式(I):
【化5】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、移植腎の灌流または保存用の組成物。
[20]灌流液または保存液である、第19項に記載の組成物。
[21]灌流液または保存液に添加するための組成物である、第19項に記載の組成物。
[22]ドナーから摘出された腎臓の灌流または保存に使用される、第19項~第21項のいずれかに記載の組成物。
【0060】
[23]Raが、それぞれ独立して、ハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキルおよびアルコキシから成る群から選択される、第1項~第22項のいずれかに記載の組成物。
[24]Raが、それぞれ独立して、ハロおよびアルキルから成る群から選択される、第1項~第23項のいずれかに記載の組成物。
[25]Raが2個存在し、一方がハロであり、他方がアルキルである、第1項~24項のいずれかに記載の組成物。
[26]式(I)の化合物が表1に記載の化合物から選択される、第1項~第22項のいずれかに記載の組成物。
[27]式(I)の化合物が、4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸である、第1項~第26項のいずれかに記載の組成物。
[28]4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸ナトリウム塩を含む、第1項~第27項のいずれかに記載の組成物。
【0061】
[29]式(I):
【化6】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む溶液で移植腎を灌流または保存することを含む、ドナーから摘出された移植腎の灌流または保存方法。
【0062】
本明細書で引用するすべての文献は、出典明示により本明細書の一部とする。
以下、実施例にて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。また、上記の説明は、すべて非限定的なものであり、本発明は添付の特許請求の範囲において定義され、その技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例0063】
実施例において、以下の化合物を使用した。
KUS121:4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸ナトリウム塩
KUS121は、国際公開第2012/014994号に記載の方法により製造した。
【0064】
試験1:ラット近位尿細管細胞におけるKUS121の効果
NRK52E(ラット近位尿細管細胞)を無血清培地で24時間培養し、ERストレス誘導剤ツニカマイシン(1または10μg/mL)およびKUS121(50または100μM)を同時に添加し、さらに24時間培養し、以下のアッセイに使用した。図1に実験スケジュールを示す。
【0065】
WSTアッセイにより生細胞数を測定した。結果を図2に示す。KUS121の存在下では、ERストレス下での尿細管細胞死が抑制された。
ルシフェラーゼ酵素反応法により細胞内ATP濃度を測定した。結果を図3に示す。KUS121の存在下では、尿細管細胞内のATP濃度が維持された。
【0066】
ウエスタンブロッティングによりERストレス応答およびアポトーシスを評価した。結果を図4に示す。異常なタンパク質の蓄積時には、細胞の応答として3つの経路が活性化して、ストレスを処理することが知られている。第1の経路はPERK-eIF2α-ATF4経路であり、オートファジーおよびアポトーシスを誘導する。第2の経路はATF6経路であり、分子シャペロンの誘導によりストレスを処理する。第3の経路は、IRE1-xBP1経路であり、スプライシングによるXBP1の活性化により、ERAD関連分子の発現を誘導し、異常なタンパク質を処理する。ウエスタンブロッティングの結果、アポトーシス関連タンパク質のCHOPおよび切断型カスパーゼ3について、ツニカマイシン刺激による発現増強がKUS121により抑制されていることが示された。これは、アポトーシスが抑制されたことを示唆する。これと連動して、KUS121によりIRE1αのリン酸化及びスプライシングされたXBP1の発現が増加しており、ERAD経路の亢進が示唆された。KUS121は、VCPの発現にはほとんど影響を与えなかった。
【0067】
試験2:虚血再灌流による尿細管傷害モデルにおけるKUS121の効果
7週齢オスのC57BL/6Jマウスに片腎摘を行うと同時に、KUS121を充填した浸透圧ポンプ(Alzet(登録商標)osmotic pump)を皮下に埋め込み、75mg/kg/日の用量で持続皮下投与した。1週間の回復期間の後、残っている腎臓に30分間の虚血再灌流傷害を与え、急性腎傷害モデルを作製した。2日後に安楽死させ、血液試料および腎臓を採取した。図5に実験スケジュールを示す。
【0068】
血清クレアチニンおよび尿素窒素(BUN)により腎機能を評価した。結果を図6に示す。血清クレアチニンは虚血再灌流傷害後に有意に上昇したが、KUS121投与群ではその上昇が有意に抑制された。BUNもKUS121投与群では抑制傾向が認められた。これらの結果は、KUS121が腎機能の低下を抑制することを示唆する。
【0069】
腎臓全体における遺伝子発現をリアルタイムPCRにより解析した。結果を図7に示す。炎症性サイトカインであるIL-6およびTNFαの発現は、虚血再灌流傷害後に有意に上昇したが、KUS121の投与により有意に抑制された。臨床において急性腎障害の早期発見用の尿細管傷害マーカーとして使用されているNgalおよびKim-1についても、KUS121の投与により発現抑制傾向が認められた。これらの結果は、腎臓の虚血再灌流傷害において、KUS121が炎症を抑制し、急性腎障害の発生を抑制することを示唆する。
【0070】
腎臓試料の切片を作製し、PAS染色し、急性尿細管壊死(ATN)スコアを測定した。結果を図8および9に示す。PAS染色像において、皮随境界を中心とする尿細管冊子縁の消失、上皮細胞の脱落、萎縮、泡沫化、管腔内の円柱形成などの尿細管傷害が虚血再灌流傷害を受けた群で見られたが、KUS121投与群では軽減されていた。ATNスコアは虚血再灌流傷害を受けた群で高かったが、KUS121の投与群では有意に低かった。この結果は、腎臓の虚血再灌流傷害において、KUS121が尿細管壊死を抑制することを示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本開示は、腎臓の保護に関するものであり、医療の分野で利用され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9