(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083288
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】携帯端末位置推定方法、携帯端末位置推定装置及び携帯端末位置推定システム
(51)【国際特許分類】
G01S 5/02 20100101AFI20220527BHJP
G08G 1/09 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
G01S5/02 Z
G08G1/09 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194640
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 秀顕
(72)【発明者】
【氏名】加古 貴大
(72)【発明者】
【氏名】小倉 通寛
(72)【発明者】
【氏名】山本 博明
(72)【発明者】
【氏名】田口 憲一
(72)【発明者】
【氏名】三輪 修靖
【テーマコード(参考)】
5H181
5J062
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181AA21
5H181BB04
5H181CC12
5H181FF03
5H181FF27
5J062BB01
5J062BB05
5J062CC11
(57)【要約】
【課題】簡便な構成で演算負荷を低減することが可能な携帯端末位置推定方法、携帯端末位置推定装置及び携帯端末位置推定システムを提供する。
【解決手段】複数の通信機が携帯端末と通信して通信機及び携帯端末の間の距離情報と電波の強度情報とを取得する取得ステップと、距離情報が第一所定値以下であり、且つ、強度情報が第二所定値以上である場合に通信可であると判定する通信可否判定ステップと、通信可否判定ステップの判定結果と、夫々の通信機の通信可能範囲をマップ化した通信マップとに基づき、複数の通信マップを重ね合わせることにより携帯端末が存在するエリアを判定するエリア判定ステップと、エリア判定ステップの判定結果に基づいて、携帯端末の位置を推定する推定ステップと、を含んでいる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設置された複数の通信機と前記車両の周辺にある携帯端末とが通信することにより前記携帯端末の位置を推定する携帯端末位置推定方法であって、
複数の前記通信機が前記携帯端末と通信して前記通信機及び前記携帯端末の間の距離情報と電波の強度情報とを取得する取得ステップと、
前記距離情報が第一所定値以下であり、且つ、前記強度情報が第二所定値以上である場合に通信可であると判定する通信可否判定ステップと、
前記通信可否判定ステップの判定結果と、夫々の前記通信機の通信可能範囲をマップ化した通信マップとに基づき、複数の前記通信マップを重ね合わせることにより前記携帯端末が存在するエリアを判定するエリア判定ステップと、
前記エリア判定ステップの判定結果に基づいて、前記携帯端末の位置を推定する推定ステップと、を含む携帯端末位置推定方法。
【請求項2】
前記推定ステップは、前記距離情報が最も小さい前記通信機からの前記距離情報を半径とする推定円のうち、前記エリア内に存在する範囲を前記携帯端末の位置として推定する請求項1に記載の携帯端末位置推定方法。
【請求項3】
前記エリア判定ステップは、前記通信可否判定ステップで通信可であると判定された前記通信機の通信可能範囲の論理積から、前記通信可否判定ステップで通信不可であると判定された前記通信機の通信可能範囲の論理積を除外する請求項1又は2に記載の携帯端末位置推定方法。
【請求項4】
前記通信マップは、通信誤差の程度によって通信可能範囲のランクを区分しており、
前記エリア判定ステップは、前記ランクに基づいて重み付けを行って複数の前記通信マップを重ね合わせる請求項3に記載の携帯端末位置推定方法。
【請求項5】
前記エリアは2次元座標である請求項1から4の何れか一項に記載の携帯端末位置推定方法。
【請求項6】
車両に設置された複数の通信機と前記車両の周辺にある携帯端末とが通信することにより前記携帯端末の位置を推定する携帯端末位置推定装置であって、
複数の前記通信機が前記携帯端末と通信して前記通信機及び前記携帯端末の間の距離情報と電波の強度情報とを取得し、前記距離情報が第一所定値以下であり、且つ、前記強度情報が第二所定値以上である場合に通信可であると判定する信号処理部と、
前記信号処理部の判定結果と、夫々の前記通信機の通信可能範囲をマップ化した通信マップとに基づき、複数の前記通信マップを重ね合わせることにより前記携帯端末が存在するエリアを判定するエリア判定部と、
前記エリア判定部の判定結果に基づいて、前記携帯端末の位置を推定する推定部と、を備える携帯端末位置推定装置。
【請求項7】
車両に設置された複数の通信機と、
複数の前記通信機が前記車両の周辺にある携帯端末と通信して前記通信機及び前記携帯端末の間の距離情報と電波の強度情報とを取得し、前記距離情報が第一所定値以下であり、且つ、前記強度情報が第二所定値以上である場合に通信可であると判定する信号処理部と、
前記信号処理部の判定結果と、夫々の前記通信機の通信可能範囲をマップ化した通信マップとに基づき、複数の前記通信マップを重ね合わせることにより前記携帯端末が存在するエリアを判定するエリア判定部と、
前記エリア判定部の判定結果に基づいて、前記携帯端末の位置を推定する推定部と、を備える携帯端末位置推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両周辺にある携帯端末の位置を推定する携帯端末位置推定方法、携帯端末位置推定装置及び携帯端末位置推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スマートキーやスマートフォン等で構成される携帯端末の位置を推定し、推定された携帯端末の位置に基づいて、車両ドアの開錠等を実行する技術が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
特許文献1~2に記載の携帯端末位置推定方法は、車両側から送信されるLF(Low Frequency)帯の信号と、携帯端末から送信されるUHF(Ultra High Frequency)帯の信号とに基づいて、携帯端末の位置を推定する。一方、これらの信号を中継して車両ドアを開錠する盗難(所謂リレーアタック)が問題となっており、この問題を解消するために、車両近くに携帯端末本体の位置検出ができた場合のみ開錠する技術が開発されている。携帯端末の位置を正確に推定するために、UWB(Ultra Wide Band)帯の信号を用いた高速通信により測距性能を高めた携帯端末位置推定方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
特許文献1に記載の携帯端末位置推定方法は、LF送信アンテナの強度分布マップを予め用意し、携帯端末からの受信強度が最も高いアンテナの対応エリアを携帯端末が存在しうる候補エリアを特定し、この候補エリア内に候補点を設定する。この設定された候補点ごとにアンテナ別の受信強度推定値を求め、受信強度の観測値と受信強度推定値との残差平方和が最小となる候補点を携帯端末の位置と推定する。
【0005】
特許文献2に記載の携帯端末位置推定方法は、右方重点送信処理として、右側アンテナからデフォルトレベルで応答要求信号を送信し、左側アンテナから補助レベルで位置確認用信号を送信している。これにより、右側アンテナだけではカバーできない室内全領域を送信エリアとすることが可能となる。
【0006】
特許文献3に記載の携帯端末位置推定方法は、携帯端末と通信可能な車載通信機が3機以上であれば携帯端末の位置座標を算出し、携帯端末と通信可能な車載通信機が3機未満あればシステム作動エリアに携帯端末が存在するか否かを判定している。システム作動エリアに携帯端末が存在するか否かの判定は、通信できた通信機を用いて携帯端末までの距離を算出して携帯端末の大まかな存在エリアを判定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-112418号公報
【特許文献2】特開2020-71199号公報
【特許文献3】特開2020-122727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の携帯端末位置推定方法は、受信強度が最も高いアンテナの対応エリアを候補エリアとし、この候補エリア内に多数の候補点を設定するため、候補エリアが広大である場合、演算負荷が大きくなってしまう。特許文献2に記載の携帯端末位置推定方法は、室内全領域を送信エリアとすることが可能となるが、右方重点送信処理等の特別な信号送信処理を要し、煩雑である。
【0009】
特許文献3に記載の携帯端末位置推定方法は、通信できた通信機を用いて携帯端末までの距離を算出して携帯端末の大まかな存在エリアを判定しているが、例えばドアに設置された通信機は車両内外に通信可能エリアがあるため、携帯端末が車内に存在するか車外に存在するかを正確に特定することができない。
【0010】
そこで、簡便な構成で演算負荷を低減することが可能な携帯端末位置推定方法、携帯端末位置推定装置及び携帯端末位置推定システムが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る携帯端末位置推定方法の特徴は、車両に設置された複数の通信機と前記車両の周辺にある携帯端末とが通信することにより前記携帯端末の位置を推定する携帯端末位置推定方法であって、複数の前記通信機が前記携帯端末と通信して前記通信機及び前記携帯端末の間の距離情報と電波の強度情報とを取得する取得ステップと、前記距離情報が第一所定値以下であり、且つ、前記強度情報が第二所定値以上である場合に通信可であると判定する通信可否判定ステップと、前記通信可否判定ステップの判定結果と、夫々の前記通信機の通信可能範囲をマップ化した通信マップとに基づき、複数の前記通信マップを重ね合わせることにより前記携帯端末が存在するエリアを判定するエリア判定ステップと、前記エリア判定ステップの判定結果に基づいて、前記携帯端末の位置を推定する推定ステップと、を含む点にある。
【0012】
本発明に係る携帯端末位置推定装置の特徴構成は、車両に設置された複数の通信機と前記車両の周辺にある携帯端末とが通信することにより前記携帯端末の位置を推定する携帯端末位置推定装置であって、複数の前記通信機が前記携帯端末と通信して前記通信機及び前記携帯端末の間の距離情報と電波の強度情報とを取得し、前記距離情報が第一所定値以下であり、且つ、前記強度情報が第二所定値以上である場合に通信可であると判定する信号処理部と、前記信号処理部の判定結果と、夫々の前記通信機の通信可能範囲をマップ化した通信マップとに基づき、複数の前記通信マップを重ね合わせることにより前記携帯端末が存在するエリアを判定するエリア判定部と、前記エリア判定部の判定結果に基づいて、前記携帯端末の位置を推定する推定部と、を備える点にある。
【0013】
本発明に係る携帯端末位置推定システムの特徴構成は、車両に設置された複数の通信機と、複数の前記通信機が前記車両の周辺にある携帯端末と通信して前記通信機及び前記携帯端末の間の距離情報と電波の強度情報とを取得し、前記距離情報が第一所定値以下であり、且つ、前記強度情報が第二所定値以上である場合に通信可であると判定する信号処理部と、前記信号処理部の判定結果と、夫々の前記通信機の通信可能範囲をマップ化した通信マップとに基づき、複数の前記通信マップを重ね合わせることにより前記携帯端末が存在するエリアを判定するエリア判定部と、前記エリア判定部の判定結果に基づいて、前記携帯端末の位置を推定する推定部と、を備える点にある。
【0014】
本方法又は本構成では、通信マップと通信可否判定ステップの判定結果とに基づき、複数の通信マップを重ね合わせることにより携帯端末が存在するエリアを判定する。つまり、通信機の配置によって予め定められる通信マップを用いて、例えば、通信できた通信機の通信可能範囲を重ね合わせると共に通信できなかった通信機の通信可能範囲を除外すれば、携帯端末が存在するエリアを車両内外まで区分して絞り込むことができる。このため、簡便且つ迅速に携帯端末の存在エリアを絞り込めるので、演算負荷を低減することができる。
【0015】
このように、簡便な構成で演算負荷を低減することが可能な携帯端末位置推定方法、携帯端末位置推定装置及び携帯端末位置推定システムを提供できた。
【0016】
他の特徴は、前記推定ステップは、前記距離情報が最も小さい前記通信機からの前記距離情報を半径とする推定円のうち、前記エリア内に存在する範囲を前記携帯端末の位置として推定する点にある。
【0017】
本方法では、携帯端末が存在するエリアのうち、携帯端末との距離情報が最も小さい通信機からの距離情報を半径とする推定円上に携帯端末が存在すると推定している。つまり、携帯端末から最も近く通信誤差の少ない通信機の距離情報を用いて携帯端末の位置を推定しているため、推定精度を高めることができる。
【0018】
他の特徴は、前記エリア判定ステップは、前記通信可否判定ステップで通信可であると判定された前記通信機の通信可能範囲の論理積から、前記通信可否判定ステップで通信不可であると判定された前記通信機の通信可能範囲の論理積を除外する点にある。
【0019】
本方法のように、通信可であると判定された通信機の通信可能範囲の論理積から通信不可であると判定された通信機の通信可能範囲の論理積を除外すれば、演算方法が極めて簡便であり、携帯端末の位置推定速度を高めることができる。
【0020】
他の特徴は、前記通信マップは、通信誤差の程度によって通信可能範囲のランクを区分しており、前記エリア判定ステップは、前記ランクに基づいて重み付けを行って複数の前記通信マップを重ね合わせる点にある。
【0021】
本方法のように、エリア判定ステップにて通信マップを重ね合わせる際、通信可能範囲のランクに基づいて重み付けを行えば、携帯端末の存在エリアを車両内外まで区分して判定することができる。
【0022】
他の特徴は、前記エリアは2次元座標である点にある。
【0023】
本方法のように、携帯端末の存在エリアを2次元座標とすれば、携帯端末の位置を推定するための演算負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】携帯端末位置推定システムのブロック図である。
【
図3】本実施形態に係る携帯端末位置推定方法のフロー図である。
【
図4】携帯端末存在エリア判定のサブルーチンである。
【
図10】携帯端末の存在エリア及び位置推定結果を示す他の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明に係る携帯端末位置推定方法、携帯端末位置推定装置及び携帯端末位置推定システムの実施形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態における携帯端末位置推定方法の一例として、携帯端末位置推定システム100を用いた携帯端末位置推定方法として説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0026】
[基本構成]
図1~
図2に示すように、自動車A(車両の一例)は、携帯端末位置推定システム100と、ECU(electronic control unit)15と、ドア開閉機構3と、エンジン駆動機構4とを備えている。この携帯端末位置推定システム100は、複数(本実施形態では6つ)の通信機C1~C6と、記憶部14と、制御部2とを備えている。なお、携帯端末位置推定システム100のうち、記憶部14と制御部2とが携帯端末位置推定装置として構成されている。携帯端末Kは、端末側通信部5と制御回路6とを備えている。制御部2及びECU15は記憶部14に対して所定のデータを読み書き可能に構成しており、通信機C1~C6と制御部2とECU15とドア開閉機構3とエンジン駆動機構4とは、例えば、CAN(Control Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)等の車内の通信回線により双方向通信可能に電気的に接続されている。携帯端末Kとしては、スマートフォンやスマートキー等が挙げられるが、以下、スマートフォンとして説明する。
【0027】
本実施形態における携帯端末位置推定方法は、携帯端末位置推定システム100を用いて、自動車Aに設置された複数の通信機C1~C6と、ユーザHが所持する携帯端末Kとの間で通信して自動車Aの周辺にある携帯端末Kの位置を推定する。
【0028】
複数の通信機C1~C6は、自動車Aの樹脂パーツ内部に設置されている。複数の通信機C1~C6は、車室内外に存在しうる携帯端末Kの位置を精度よく推定するために、自動車Aの車室内と車室外に夫々、複数設置するのが好ましい。これら通信機C1~C6を設置する位置として、車室外であれば、ドアハンドル、モール、バンパー又はエンブレムの内部が挙げられ、車室内であれば、A/B/C/Dピラー、センターコンソールボックス又はフロントコンソールボックスの内部が挙げられる。本実施形態では、第一通信機C1を右ドアハンドル、第二通信機C2を左ドアハンドル、第三通信機C3を後部エンブレム、第四通信機C4を右Cピラー、第五通信機C5を左Cピラー、第六通信機C6をセンターコンソールボックスの内部に設置している。
【0029】
通信機C1~C6は、UWB(Ultra Wide Band)帯の信号を用いた超広帯域無線機である。UWB通信は、500MHz以上の帯域幅を使用する無線通信であり、本実施形態では3GHz~10GHzの周波数帯を利用する。このUWB通信は、消費電力が少なく妨害電波に強いといった特徴があり、半径10m程度の近距離通信に適している。この範囲であれば、数cm~数十cm程度の通信誤差で携帯端末Kの位置を推定することが可能である。
【0030】
通信機C1~C6は、夫々、車両側送信回路11と車両側受信回路12と車両側アンテナ13とを有している。通信機C1~C6は、制御部2により作動が制御され、制御部2と双方向通信可能に構成されている。本実施形態における「回路」とは、一つの基板上に複数の電子部品が搭載されたものや、複数の電子部品の機能がワンチップ化された所謂、集積回路(IC)である場合なども包含する一般的な形態であり、以下、同様である。
【0031】
車両側送信回路11は、携帯端末Kに対して応答要求信号を生成するポーリングメッセージ生成回路である。車両側送信回路11が応答要求信号を生成するタイミングは、常時行っても良いし、他の通信(例えばbluetooth(登録商標)による無線通信)により携帯端末Kを検出したときに定期的に行っても良い。車両側送信回路11は、制御部2からの入力信号を公知の変調方式で変調して、車両側アンテナ13から応答要求信号を電波として放射させ、この応答要求信号を送信したタイミングで計時を開始する。
【0032】
車両側受信回路12は、携帯端末Kからの応答信号を受信する応答メッセージ受信回路である。車両側受信回路12は、車両側アンテナ13で受信した応答信号を復調して制御部2に送信すると共に、応答信号を受信したタイミングで計時を終了する。車両側受信回路12が受信する応答信号には、受信した電波の強度情報と携帯端末Kが電波を受信してから応答信号を送信するまでに要する時間Tbと携帯端末Kの識別情報(ID)とが含まれている。車両側受信回路12が受信した応答信号は制御部2に伝達され、制御部2にて携帯端末Kを照合し、認証された携帯端末K及び各通信機C1~C6の間の距離情報の算出が実行される。
【0033】
各通信機C1~C6と携帯端末Kとの間の距離情報は、例えばTОF(Time of Flight)方式の片側双方向測距法(TWR-SS)により算出することができる。片側双方向測距法は、車両側アンテナ13から応答要求信号を送信して応答信号を受信するまでの時間Taから、携帯端末Kが応答要求信号を受信してから応答信号を送信するまでに要する時間Tbを減算した差の半分((Ta―Tb)/2)に、電波の伝播速度Vを乗算(V×(Ta―Tb)/2)して算出される。本実施形態では、この距離情報が制御部2にて演算されるが、各通信機C1~C6にて演算しても良い。
【0034】
車両側アンテナ13は、車両側送信回路11が変調した応答要求信号を電波として放射し、携帯端末Kからの応答信号を電波として受信する。この車両側アンテナ13は、応答要求信号を送信する送信アンテナと応答信号を受信する受信アンテナとを別々に設けても良いし、送信アンテナ及び受信アンテナを1つのアンテナ素子で共用しても良い。
【0035】
記憶部14は、HDDやROM等のハードウェアで構成されており、制御部2やECU15で稼働されるプログラム、自動車Aの任意の位置(例えば第一通信機C1の位置)を原点とした通信機C1~C6の3次元の位置座標、及び通信機C1~C6の通信可能範囲をマップ化した通信マップM1~M6(
図6も参照)等を記憶している。
【0036】
制御部2は、通信機C1~C6の作動を制御すると共に、通信機C1~C6から受信した信号を処理して、携帯端末Kの位置を推定し、推定結果をECU15に出力する。また、ECU15は、制御部2が推定した携帯端末Kの位置に基づいて、ドア開閉機構3やエンジン駆動機構4の作動を制御する(所謂キーレスエントリーシステム)。この制御部2の詳細構成は後述する。
【0037】
ドア開閉機構3は、ユーザHが車両ドアを開錠又は施錠するためのキードアボタンやタッチセンサ等を有している。ドア開閉機構3は、ユーザHがキードアボタンを押下又はタッチセンサに手を接触させることにより、車両ドアを開錠又は施錠させる公知の機構であるため、詳細な説明を省略する。本実施形態では、制御部2にて推定された携帯端末Kの位置に基づいて、ECU15がドア開閉機構3に作動信号を送信することにより、ユーザHがキードアボタンを押下等することなく、携帯端末K近傍の車両ドアを開錠又は施錠することができる。また、制御部2にて推定された携帯端末Kの位置に基づいて、ECU15がドア開閉機構3に作動信号を送信することにより、携帯端末K近傍の車両ドアを開閉することができる。
【0038】
エンジン駆動機構4は、ユーザHが自動車Aのエンジンを駆動させるための携帯式スターターやプッシュスイッチ等を有している。エンジン駆動機構4は、ユーザHがスターターやプッシュスイッチを押下することにより、セルモータによりエンジンを駆動させる公知の機構であるため、詳細な説明を省略する。本実施形態では、制御部2にて携帯端末Kが車室内に存在すると推定されたとき、ECU15がエンジン駆動機構4に作動信号を送信することにより、エンジンが駆動可能な待機状態となる。
【0039】
上述したように、携帯端末Kは、端末側通信部5と制御回路6とを備えている。端末側通信部5は、端末側送信回路51と端末側受信回路52と端末側アンテナ53とを有している。
【0040】
端末側受信回路52は、端末側アンテナ53を介して車両側アンテナ13から送信された応答要求信号を受信し、端末側送信回路51は、端末側アンテナ53を介して車両側アンテナ13に応答信号を送信する。端末側受信回路52は、端末側アンテナ53から受信した応答信号を復調して制御回路6に送信する。端末側送信回路51は、制御回路6からの入力信号を公知の変調方式で変調した応答信号を、端末側アンテナ53から車両側アンテナ13に送信する。制御回路6は、携帯端末Kが電波を受信してから応答信号を送信するまでに要する時間Tbと携帯端末Kの識別情報(ID)とを含む入力信号を生成する。なお、携帯端末Kが電波を受信してから応答するまでに要する時間Tbは、予め設定された時間であっても良いし、電波を受信する都度、計時した時間であっても良い。
【0041】
[制御部の詳細]
制御部2は、信号処理部21とエリア判定部22と推定部23とを有している。制御部2の各機能部は、各種処理を実行するCPUやメモリを中核としたソフトウェア、又はハードウェアとソフトウェアとの協働により構成されている。
【0042】
信号処理部21は、各通信機C1~C6との間で送受信される電気信号を処理する。この信号処理部21は、各通信機C1~C6のポーリング制御を実行すると共に、上述した各通信機C1~C6及び携帯端末Kの間の距離情報を演算して取得し、各通信機C1~C6が受信した携帯端末Kからの電波の強度情報も取得する(取得ステップ、
図5も参照)。
【0043】
信号処理部21は、各通信機C1~C6からの距離情報が第一所定値以下であり、且つ、各通信機C1~C6からの強度情報が第二所定値以上である場合、該当する通信機C1~C6は通信可であると判定する(通信可否判定ステップ)。一方、信号処理部21は、各通信機C1~C6からの距離情報が第一所定値を超える場合、又は、各通信機C1~C6からの強度情報が第二所定値未満である場合、該当する通信機C1~C6は通信不可であると判定する(通信可否判定ステップ)。第一所定値は、測距値が理論上非現実的なほど大きい値(例えば10m)として設定されており、各通信機C1~C6の設置場所に応じて設定しても良いし、一律としても良い。第二所定値は、ノイズレベルと見做せる値(例えば-105dBm)として設定されており、各通信機C1~C6の設置場所に応じて設定しても良いし、一律としても良い。
【0044】
エリア判定部22は、信号処理部21にて通信可であると判定された各通信機C1~C6の通信マップM1~M6、及び、信号処理部21にて通信不可であると判定された各通信機C1~C6の通信マップM1~M6を重ね合わせることにより、携帯端末Kが存在するエリアを判定する(エリア判定ステップ)。本実施形態における通信マップM1~M6は、各通信機C1~C6の設置位置に応じて予め設定された2次元座標で形成されており、携帯端末Kとの距離を、通信誤差が少なく、又は、小さな電波損失で計測できる範囲を通信可能範囲として設定している。なお、通信マップM1~M6は、3次元座標であっても良い。ここで、通信誤差とは、通信機C1~C6で計測可能な距離のうち、真の距離と計測された距離情報との差のことであり、以下、測距誤差として説明する。
【0045】
図6には、外乱が無い状態の理想的な測距誤差を加味した各通信機C1~C6の通信マップM1~M6が示されている。同図では、測距誤差が50cm以下の範囲を濃い黒色の実線丸印、測距誤差が50cm超~1m以下の範囲を濃いグレーの丸印、測距誤差が1m超~3m以下の範囲を薄いグレーの実線丸印、測距誤差が3m超の範囲を破線丸印とし、各通信機C1~C6の位置を三角印で示している。つまり、本実施形態における通信マップM1~M6は、通信誤差(測距誤差)の程度によって通信可能範囲のランクを区分している。
【0046】
第一通信機C1は、携帯端末Kが車両右側方及び車室内の運転席周辺に存在するとき、僅かな測距誤差で通信できる(通信マップM1参照)。第二通信機C2は、携帯端末Kが車両左側方及び車室内の助手席周辺に存在するとき、僅かな測距誤差で通信できる(通信マップM2参照)。第三通信機C3は、携帯端末Kが車両後方に存在するとき、僅かな測距誤差で通信できる(通信マップM3参照)。第四通信機C4は、携帯端末Kが車両左右側方及び車室内に存在するとき、僅かな測距誤差で通信できるが、携帯端末Kが車両右側方にある方が外乱の少ない状態で通信できる(通信マップM4参照)。第五通信機C5は、携帯端末Kが車両左右側方及び車室内に存在するとき、僅かな測距誤差で通信できるが、携帯端末Kが車両左側方にある方が外乱の少ない状態で通信できる(通信マップM5参照)。第六通信機C6は、携帯端末Kが車室内に存在するとき、僅かな測距誤差で通信できる(通信マップM6参照)。
【0047】
例えば、信号処理部21により第一通信機C1が通信可と判定され、第二通信機C2とはノイズレベルの通信しかできず信号処理部21により通信不可と判定された場合、エリア判定部22は、第一通信機C1の通信マップM1の通信可能範囲から第二通信機C2の通信マップM2の通信可能範囲を除外する。その結果、携帯端末Kは、車両右側方に位置すると推定することができる。このように、全ての通信マップM1~M6を重ね合わせることにより、通信可能範囲の重複領域が収束され、携帯端末Kの存在エリアを精度よく特定することができる。
【0048】
本実施形態におけるエリア判定部22は、信号処理部21により通信可であると判定された各通信機C1~C6の通信可能範囲の論理積から、信号処理部21により通信不可であると判定された各通信機C1~C6の通信可能範囲の論理積を除外する。このとき、エリア判定部22は、通信可であると判定された通信機C1~C6の通信可能範囲のランクと、通信不可であると判定された通信機C1~C6の通信可能範囲のランクとを異ならせても良い。つまり、エリア判定部22は、通信機C1~C6の通信可能範囲のランクに基づいて重み付けを行って複数の通信マップM1~M6を重ね合わせても良い。例えば、除外対象となる通信不可である通信機C1~C6よりも、通信可である通信機C1~C6の方が測距誤差の小さい通信可能範囲を用いれば、携帯端末Kの位置を正確に推定することができる。
【0049】
推定部23は、エリア判定部22の判定結果に基づいて、携帯端末Kの位置を推定して、推定結果をECU15に出力する(推定ステップ)。推定部23が車両右側方の位置に携帯端末Kが存在すると推定した場合、ECU15は、右ドアを開錠又は施錠又は開閉するようにドア開閉機構3に作動信号を送信する。推定部23が車両左側方の位置に携帯端末Kが存在すると推定した場合、ECU15は、左ドアを開錠又は施錠又は開閉するようにドア開閉機構3に作動信号を送信する。推定部23が車両後方の位置に携帯端末Kが存在すると推定した場合、ECU15は、バックドアを開錠又は施錠又は開閉するようにドア開閉機構3に作動信号を送信する。推定部23が車室内の位置に携帯端末Kが存在すると推定した場合、ECU15は、エンジン駆動機構4に作動信号を送信することにより、エンジンが駆動可能な待機状態となる。
【0050】
推定部23は、エリア判定部22の判定結果が車室内か車室外かを判別可能な場合、エリア判定部22の判定結果を携帯端末Kの位置と推定しても良い。一方、推定部23は、エリア判定部22の判定結果が車室内か車室外かを判別不可能な場合、通信マップM1~M6の通信誤差の程度となるランクに基づいて重み付けをして携帯端末Kの位置を推定しても良い。例えば、エリア判定部22は、第一通信機C1の通信マップM1の通信可能範囲から第二通信機C2の通信マップM2の通信可能範囲を除外した結果、測距誤差が1m超~3m以下の領域が車室内に存在し、測距誤差が50cm以下の領域が車室外に存在した場合、測距誤差が50cm以下の領域を優先することにより、携帯端末Kが車室外の車両右側方にあると推定しても良い。
【0051】
本実施形態における推定部23は、エリア判定部22で絞り込まれた携帯端末Kの存在エリア内において、距離情報が最も小さい通信機C1~C6からの距離情報を半径とする推定円のうち、携帯端末Kの存在エリア内に存在する範囲を携帯端末Kの位置として推定する。例えば、携帯端末Kが車室外の車両右側方のエリア内にあると絞り込まれた後、距離情報が最も小さい第一通信機C1の距離情報を半径とする推定円を描き、携帯端末Kがこの推定円上にあると推定する。これにより、右ドアから何mの位置に携帯端末Kが存在するかを推定することができる。本実施形態において、距離情報が最も小さい通信機C1~C6からの距離情報を半径とする推定円を用いるのは、通信方式がUWB帯の信号を用いている場合、通信機C1~C6から得られる距離情報には、直接波による小さい値と遮蔽物を迂回する迂回波による大きい値とを含んでおり、実際の距離に最も近いのは、直接波による小さい値であるからである。
【0052】
なお、推定部23は、エリア判定部22で絞り込まれた携帯端末Kの存在エリア内において、三角測量の原理に基づいて携帯端末Kの位置を推定しても良い。三角測量の原理としては、携帯端末Kの存在エリア内の2次元座標に任意の候補点を設けて、最小二乗法等の公知のアルゴリズムで演算しても良いし、携帯端末Kの存在エリアを球の中心を通る平面と仮定した球体を設け、この球体内に任意の候補点を設けて、最小二乗法等の公知のアルゴリズムで演算しても良い。
【0053】
[携帯端末位置推定方法]
図3~
図10を用いて、携帯端末位置推定方法の実施形態を説明する。
【0054】
各通信機C1~C6の車両側送信回路11が応答要求信号を生成し、車両側アンテナ13を介して携帯端末Kに応答要求信号を順に送信する。各通信機C1~C6が応答要求信号を送信する順番は、他の通信により携帯端末Kを検出した何れかの通信機C1~C6を優先して決定しても良いし、任意に設定しても良い。応答要求信号を受信した携帯端末Kは、制御回路6が、携帯端末Kが電波を受信してから応答するまでに要する時間Tbと携帯端末Kの識別情報(ID)とを含む入力信号を生成して端末側通信部5に伝達し、端末側通信部5が電気信号を変調することにより生成された応答信号を、端末側アンテナ53を介して車両側アンテナ13に送信する(
図3の♯31)。そして、車両側受信回路12は、車両側アンテナ13から受信した応答信号を復調して制御部2に送信し、制御部2にて携帯端末Kを照合し、認証された携帯端末K及び各通信機C1~C6の間の距離情報及び電波の強度情報を取得する(
図3の♯32、取得ステップ)。
【0055】
図5及び
図9には、制御部2が取得した距離情報(測距値)を横軸とし、制御部2が取得した電波の強度情報(電波強度)を縦軸とした一例が示されている。
図5には、ユーザHが携帯端末Kを手にして自動車Aの右側(第一通信機C1に対して右2m、後1m)の位置に立った条件での測距値及び電波強度が示されている。このときは、同図に示すように、第一通信機C1及び第四通信機C4のみ通信可能であった。同図に示す例において、測距誤差が1m以下である第五通信機C5及び第六通信機C6が通信不可となったのは、外乱によるものであると推測される。
図9には、自動車Aの運転席に座ったユーザHが上着の胸ポケット内に携帯端末Kを収納した条件での測距値及び電波強度が示されている。同図に示す例において、第三通信機C3以外は通信可能であった。
【0056】
次いで、信号処理部21は、各通信機C1~C6の距離情報が第一所定値以下であり、且つ、各通信機C1~C6の強度情報が第二所定値以上である通信可の通信機C1~C6が1つ以上存在するか否かを判定する(
図3の♯33、通信可否判定ステップ)。
図5の例では、第一通信機C1及び第四通信機C4の2つ、
図9の例では、第一通信機C1~第二通信機C2及び第四通信機C4~第六通信機C6の5つと通信可能であった。♯33の判定の結果、通信可の通信機C1~C6が1つも存在しない場合(♯33No判定)、再度、携帯端末Kと各通信機C1~C6との間で通信を試みる(
図3の♯31~♯32)。
【0057】
図5や
図9に示す例のように、♯33の判定の結果、通信可の通信機C1~C6が1つ以上存在した場合(♯33Yes判定)、エリア判定部22は、通信マップM1~M6を用いて携帯端末Kが存在するエリアを判定する(
図3の♯34、エリア判定ステップ)。このエリア判定は、制御部2は、まず記憶部14から
図6に示す通信マップM1~M6を読み出す(
図4の♯41)。次いで、エリア判定部22は、信号処理部21により通信可であると判定された各通信機C1~C6の通信可能範囲の論理積から、携帯端末Kの存在エリアマップを作成する(
図4の♯42)。通信可であると判定された各通信機C1~C6の通信可能範囲の論理積は、信頼性の高い測距誤差0.5m以下又は1m以下の範囲を用いることが好ましい。次いで、エリア判定部22は、信号処理部21により通信不可であると判定された各通信機C1~C6の通信可能範囲の論理積から、携帯端末Kの不存在エリアマップを作成する(
図4の♯43)。通信不可であると判定された各通信機C1~C6の通信可能範囲の論理積は、携帯端末Kの存在位置をより絞り込むために、測距誤差3m超の範囲を用いることが好ましい。つまり、エリア判定部22は、通信可であると判定された通信機C1~C6の通信可能範囲のランクと、通信不可であると判定された通信機C1~C6の通信可能範囲のランクとを異ならせることが好ましい。次いで、エリア判定部22は、♯42で作成した携帯端末Kの存在エリアから♯43で作成した不存在エリアを除外して、携帯端末Kが存在するエリアの2次元マップを出力する(
図4の♯44)。
【0058】
エリア判定部22にて作成された携帯端末Kの存在エリアの一例が、
図7に示されている。
図7には、
図5に示す通信可能な第一通信機C1及び第四通信機C4の測距誤差0.5m以下の通信可能範囲の論理積から、通信不可であった第二通信機C2~第三通信機C3及び第五通信機C5~第六通信機C6の測距誤差0.5m以下~3m超の通信可能範囲の論理積を除外した結果が示されている。本実施例では、第三通信機C3の通信可能範囲が後部に偏り過ぎているため、携帯端末Kが車室内外に存在するというエリア判定となった。このため、第三通信機C3を演算対象から除外し、通信不可であった第二通信機C2及び第五通信機C5~第六通信機C6の測距誤差0.5m以下~3m以下の通信可能範囲の論理積を用いても良い。この場合、車室内のエリアが除外され、携帯端末Kが右ドアの車室外に存在することを正確に判定することができる。このように、通信機C1~C6の通信可能範囲のランクに基づいて重み付けを行って複数の通信マップM1~M6を重ね合わせるパターンは、深層学習や統計的手法により設定しても良い。
【0059】
エリア判定部22にて作成された携帯端末Kの存在エリアの他の一例が、
図10に示されている。
図10には、
図9に示す通信可能な第一通信機C1~第二通信機C2及び第四通信機C4~第六通信機C6の測距誤差1m以下の通信可能範囲の論理積から、通信不可であった第三通信機C3の測距誤差0.5m以下~3m超の通信可能範囲を除外した結果が示されている。同図に示されるように、携帯端末Kが車室内に存在することを正確に判定できた。以上のことから、第三通信機C3のみが通信不可である場合は、通信可能な通信機C1~C2及びC4~C6の測距誤差0.5m以下又は1m以下の通信可能範囲の論理積から、通信不可であった第三通信機C3を除外することが好ましい。このように、自動車Aに設置される通信機C1~C6の位置に応じて、エリア判定部22は、通信マップM1~M6を重ね合わせるパターンを変更することが好ましい。
【0060】
図3に戻り、推定部23は、エリア判定部22の判定結果に基づいて、携帯端末Kの存在位置を推定する(
図3の♯35、推定ステップ)。この推定に際し、推定部23は、エリア判定部22で絞り込まれた携帯端末Kの存在エリア内において、距離情報が最も小さい通信機C1~C6からの距離情報を半径とする推定円のうち、携帯端末Kの存在エリア内に存在する範囲を携帯端末Kの位置として推定する。
図8に示す例では、
図7に示す携帯端末Kの存在エリア内において、距離情報が最も小さい第一通信機C1からの距離情報を半径とする推定円(図示では一点鎖線の丸印)を描き、この推定円のうちエリア内に存在する範囲(図示では黒丸)が示されている。推定円の半径となる第一通信機C1からの距離情報としては、第一通信機C1からの複数の距離情報のうち、最も小さい値とすることが好ましい。同図に示すように、携帯端末Kの推定位置は、実際の携帯端末Kの存在位置(図示では斜線塗の四角印)に対して、自動車Aの前後方向3mの誤差範囲に含まれており、携帯端末Kが右ドアの車室外に存在することを正確に推定できた。
図10に示す例では、距離情報が最も小さい第六通信機C6からの距離情報を半径とする推定円(図示では一点鎖線の丸印)のうち、エリア内に存在する携帯端末Kの推定位置(図示では黒丸)は、実際の携帯端末Kの存在位置(図示では斜線塗の四角印)と近似した位置にあり、携帯端末Kが車室内の運転席に存在することを正確に推定できた。
【0061】
図3に戻り、推定部23は携帯端末Kの存在位置をECU15に出力し、この存在位置に基づいて、ECU15は、左ドアを開錠又は施錠又は開閉するようにドア開閉機構3に作動信号を送信するなどの信号処理を実行する(
図3の♯36)。
【0062】
[その他の実施形態]
(1)上述した実施形態では、エリア判定部22は、信号処理部21により通信可であると判定された各通信機C1~C6の通信可能範囲の論理積から、信号処理部21により通信不可であると判定された各通信機C1~C6の通信可能範囲の論理積を除外した。これに代えて、エリア判定部22は、信号処理部21により通信可であると判定された各通信機C1~C6の通信可能範囲の論理積と、信号処理部21により通信不可であると判定された各通信機C1~C6の通信不可範囲の論理和との論理積により、携帯端末Kの存在エリアを判定しても良い。
(2)上述した実施形態における通信マップM1~M6は、外乱が無い状態の理想的な測距誤差を加味して作成したが、外乱がある状態の測距誤差を加味して作成しても良い。外乱がある状態の測距誤差は、統計的手法や深層学習により求めることができる。
(3)上述した実施形態におけるエリア判定部22による通信マップM1~M6の重ね合わせは、論理学的手法を用いたが、通信誤差のランクに基づいて統計的に作成した携帯端末Kの存在確率密度マップを用いて、存在確率密度マップの密な領域において通信マップM1~M6の重ね合わせをしても良い。この携帯端末Kの存在確率密度マップは、深層学習などを用いて作成するのが好ましい。
(4)上述した実施形態における推定部23は、距離情報が最も小さい通信機C1~C6からの距離情報を半径とする推定円を作成したが、統計的手法により推定円を作成しても良い。また、この推定円は、深層学習などを用いて作成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、車両周辺にある携帯端末の位置を推定する携帯端末位置推定方法、携帯端末位置推定装置及び携帯端末位置推定システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
A 自動車(車両)
C1~C6 通信機
K 携帯端末
21 信号処理部
22 エリア判定部
23 推定部
100 携帯端末位置推定システム