(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083303
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】歯ブラシ及び歯ブラシの製造方法
(51)【国際特許分類】
A46B 9/04 20060101AFI20220527BHJP
【FI】
A46B9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194666
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】今井 希絵子
(72)【発明者】
【氏名】竹下 萌乃
(72)【発明者】
【氏名】押川 直樹
【テーマコード(参考)】
3B202
【Fターム(参考)】
3B202AA06
3B202AB15
3B202BA02
3B202EC07
(57)【要約】
【課題】口腔内全体の歯垢除去を効果的に行って清掃性を向上させる。
【解決手段】植毛孔3に固定された毛束を構成するブラシ毛10は、フィラメントを化学的に処理してなる先鋭形状の第1先端部21が先端に形成された第1ブラシ毛11と、フィラメントを機械的に処理してなるとともに、第1先端部21より軸方向の長さが短い先細形状の第2先端部22、23が先端に形成された第2ブラシ毛12を有している。第1先端部21の表面には、機械的な粗面化処理による微細凹凸部が形成されており、第1ブラシ毛11の植毛面2aからの突出長H1が、第2ブラシ毛12の植毛面2aからの突出長H2より長くされて、第1ブラシ毛11の先端と第2ブラシ毛12の先端との間には、1.0mm以上5.0mm以下の段差S1が形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド部の植毛面に形成された複数の植毛孔のそれぞれに複数本のブラシ毛からなる毛束が固定された歯ブラシであって、
前記ブラシ毛は、フィラメントを化学的に処理してなる先鋭形状の第1先端部が先端に形成された第1ブラシ毛と、フィラメントを機械的に処理してなるとともに、前記第1先端部より軸方向の長さが短い先細形状の第2先端部が先端に形成された第2ブラシ毛を有し、
前記第1先端部の表面には、機械的な粗面化処理による微細凹凸部が形成されており、
前記第1ブラシ毛の前記植毛面からの突出長が、前記第2ブラシ毛の前記植毛面からの突出長より長くされて、前記第1ブラシ毛の先端と前記第2ブラシ毛の先端との間には、1.0mm以上5.0mm以下の段差が形成されていることを特徴とする歯ブラシ。
【請求項2】
前記ブラシ毛は、二つ折りにした状態で前記植毛孔に固定されており、
前記ブラシ毛の一方の端部には前記第1先端部が形成されているとともに、他方の端部には前記第2先端部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の歯ブラシ。
【請求項3】
前記第1先端部は、前記第1ブラシ毛の先端から1.0mmの位置における径方向断面の幅が、前記第1ブラシ毛を形成するフィラメントの径方向の幅の25%以上55%以下であり、前記第1ブラシ毛の先端から2.0mmの位置における径方向断面の幅が、前記第1ブラシ毛を形成するフィラメントの径方向の幅の50%以上90%以下であるテーパー形状に形成されたケミカルテーパー部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】
前記第1先端部の表面は、前記ブラシ毛の先端から1.0mm~1.1mmの範囲での線粗さRaの平均値が0.4μm以上0.9μm以下であり、前記ブラシ毛の先端から2.0mm~2.1mmの範囲での線粗さRaの平均値が0.5μm以上1.0μm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項5】
前記第2先端部は、前記第1先端部より軸方向の長さが短いテーパー形状のメカニカルテーパー部、又は、前記第1先端部より軸方向の長さが短い半球形状の先丸部であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項6】
ヘッド部の植毛面に形成された複数の植毛孔のそれぞれに複数本のブラシ毛からなる毛束が固定された歯ブラシの製造方法であって、
フィラメントの一方の端部を化学的に処理して、前記一方の端部に先端ほど径方向の幅が徐々に小さくなる先鋭形状の第1先端部を有するブラシ毛を形成する化学処理工程と、
前記ブラシ毛を複数本束ねてなる毛束を、複数の前記植毛孔のそれぞれに固定する植毛工程と、
固定された前記毛束の表面を機械的に処理する機械処理工程を備え、
前記植毛工程では、前記ブラシ毛を二つ折りして、前記第1先端部の前記植毛面からの突出長が、前記フィラメントの他方の端部の前記植毛面からの突出長より5.0mm以下の長さで長くなるように前記植毛孔に固定し、
前記機械処理工程では、前記第1先端部の表面を粗面化処理するとともに、前記他方の端部を切削処理して前記第1先端部より軸方向の長さの短い先細形状の第2先端部を形成することを特徴とする歯ブラシの製造方法。
【請求項7】
前記機械処理工程では、前記他方の端部に切削治具を当てて前記第2先端部を形成し、
前記切削治具を当てる深さを調整することにより、前記第2先端部の形状を調整することを特徴とする請求項6に記載の歯ブラシの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯ブラシ及び歯ブラシの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯ブラシは、歯及び歯茎の表面の清掃、歯間及び歯頸の清掃をその主たる目的としている。そのため、従来から、前歯、奥歯等の歯の種類や、歯間、歯面、歯頸等の歯の部位に応じた適切な清掃を効率良く行って、歯垢を効果的に除去できるように、ブラシ毛の材質、先端形状、太さ等や、毛束の配置、構成本数等に様々な工夫がなされている。例えば、ブラシ毛の先端部に、先端に向かって径方向の幅が徐々に小さくなるテーパー部を形成し、歯間や歯肉辺縁部等のブラシ毛が到達しにくい部位へブラシ毛を入り易くして、清掃性を向上させたものが知られている。特許文献1には、フィラメントの先端を化学処理することにより先端部にテーパー部を形成して、ブラシ毛の歯間等への隙間進入性を向上させることによって清掃性を向上させた歯ブラシが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、テーパー部を形成することによって歯間や歯肉辺縁部等へのブラシ毛の到達性は向上するものの、ブラシ毛の剛性が低下することによって毛腰が弱くなってしまう場合がある。その結果、歯面に対する清掃性が低下してしまうだけでなく、歯間や歯頸等に対する清掃性の点でも満足できるものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、本発明の歯ブラシは、ヘッド部の植毛面に形成された複数の植毛孔のそれぞれに複数本のブラシ毛からなる毛束が固定された歯ブラシであって、前記ブラシ毛は、フィラメントを化学的に処理してなる先鋭形状の第1先端部が先端に形成された第1ブラシ毛と、フィラメントを機械的に処理してなるとともに、前記第1先端部より軸方向の長さが短い先細形状の第2先端部が先端に形成された第2ブラシ毛を有し、前記第1先端部の表面には、機械的な粗面化処理による微細凹凸部が形成されており、前記第1ブラシ毛の前記植毛面からの突出長が、前記第2ブラシ毛の前記植毛面からの突出長より長くされて、前記第1ブラシ毛の先端と前記第2ブラシ毛の先端との間には、1.0mm以上5.0mm以下の段差が形成されている。
【0006】
上記の構成によれば、ブラシ毛のうち第1ブラシ毛の先端には、先鋭形状の第1先端部が形成されているため、歯間や歯肉辺縁部等のブラシ毛が到達しにくい部位へもブラシ毛が到達し易い。また、第1先端部の表面には微細凹凸部が形成されているため、微細凹凸部が歯垢を絡め捕るとともに掻き出すように作用し、口腔内に残存している歯垢を効率的に除去することができる。
【0007】
第1ブラシ毛より植毛面からの突出長が短い第2ブラシ毛の先端には、第1先端部より軸方向の長さが短い先細形状の第2先端部が形成されている。ここで、先細形状とは、先端ほど径方向の幅が徐々に小さくなる形状であって、例えば、円錐形状のテーパー形状や、半球形状の先丸形状である。第2ブラシ毛の先端が第1先端部より軸方向の長さが短いテーパー形状や先丸形状となっているため、第2ブラシ毛が第1ブラシ毛のしなりを抑制するように作用する。先鋭形状の第1ブラシ毛の毛腰の弱さを、より効果的に補強することができる。これにより、歯面や歯頸等に対する清掃性が向上するとともに、歯間や歯肉辺縁部等に対する清掃性も向上する。また、第2先端部が形成されておらず、いわゆるフラット形状とされている場合と比べて、歯肉等への当たりが柔らかくなり、歯肉等を傷つけ難くなる。
【0008】
なお、複数のブラシ毛を植毛孔に固定する際には、複数のブラシ毛の間で、植毛面からの突出長に多少のばらつきが生じ、その結果、第1ブラシ毛の先端と第2ブラシ毛の先端との間の段差にも多少のばらつきが生じる。そのため、1.0mm以上5.0mm以下の段差というのは、1本1本のブラシ毛に対して厳密に規定されるものではなく、例えば、毛束を構成する複数のブラシ毛での段差の平均値がこの範囲である場合を言うものとする。以下、同様である。
【0009】
上記の構成において、前記ブラシ毛は、二つ折りにした状態で前記植毛孔に固定されており、前記ブラシ毛の一方の端部には前記第1先端部が形成されているとともに、他方の端部には前記第2先端部が形成されていることが好ましい。
【0010】
上記の構成によれば、一本のブラシ毛に第1先端部と第2先端部が形成されているため、ブラシ毛を二つ折りして植毛孔に固定して、植毛面からの突出長が異なる第1ブラシ毛と第2ブラシ毛を容易に調整することができる。
【0011】
上記の構成において、前記第1先端部は、前記第1ブラシ毛の先端から1.0mmの位置における径方向断面の幅が、前記第1ブラシ毛を形成するフィラメントの径方向の幅の25%以上55%以下であり、前記第1ブラシ毛の先端から2.0mmの位置における径方向断面の幅が、前記第1ブラシ毛を形成するフィラメントの径方向の幅の50%以上90%以下であるテーパー形状に形成されたケミカルテーパー部であることが好ましい。
【0012】
上記の構成によれば、ケミカルテーパー部の隙間進入性が良好であり、歯間や歯肉辺縁部等のブラシ毛が届き難いところに届き易い。なお、ケミカルテーパー部は、フィラメントの端部を化学的に処理することにより、フィラメントを構成する樹脂材料が溶かされて形成された部分を言う。
【0013】
上記の構成において、前記第1先端部の表面は、前記ブラシ毛の先端から1.0mm~1.1mmの範囲での線粗さRaの平均値が0.4μm以上0.9μm以下であり、前記ブラシ毛の先端から2.0mm~2.1mmの範囲での線粗さRaの平均値が0.5μm以上1.0μm以下であることが好ましい。
【0014】
上記の構成によれば、第1先端部の表面に形成された微細凹凸部により第1先端部の表面がざらざらした状態になっており、これにより口腔内の歯垢を効果的に除去することができる。
【0015】
上記の構成において、前記第2先端部は、前記第1先端部より軸方向の長さが短いテーパー形状のメカニカルテーパー部、又は、前記第1先端部より軸方向の長さが短い半球形状の先丸部であることが好ましい。
【0016】
上記の構成によれば、第1先端部より軸方向の長さが短いメカニカルテーパー部や先丸部が形成された第2ブラシ毛が、第1ブラシ毛のしなりを抑制するように作用し易い。先鋭形状の第1ブラシ毛の毛腰の弱さをより効果的に補強することができて、歯間や歯肉辺縁部だけでなく、歯面や歯頸等に対する清掃性が向上する。なお、メカニカルテーパー部は、フィラメントの先端を機械的に切削処理することにより形成された部分を言う。また、テーパー形状と言う点でケミカルテーパー部と共通した形状を有しているが、ケミカルテーパー部に比べて軸方向の長さが短い。
【0017】
上記の課題を解決するため、本発明の歯ブラシの製造方法は、ヘッド部の植毛面に形成された複数の植毛孔のそれぞれに複数本のブラシ毛からなる毛束が固定された歯ブラシの製造方法であって、フィラメントの一方の端部を化学的に処理して、前記一方の端部に先端ほど径方向の幅が徐々に小さくなる先鋭形状の第1先端部を有するブラシ毛を形成する化学処理工程と、前記ブラシ毛を複数本束ねてなる毛束を、複数の前記植毛孔のそれぞれに固定する植毛工程と、固定された前記毛束の表面を機械的に処理する機械処理工程を備え、前記植毛工程では、前記ブラシ毛を二つ折りして、前記第1先端部の前記植毛面からの突出長が、前記フィラメントの他方の端部の前記植毛面からの突出長より5.0mm以下の長さで長くなるように前記植毛孔に固定し、前記機械処理工程では、前記第1先端部の表面を粗面化処理するとともに、前記他方の端部を切削処理して前記第1先端部より軸方向の長さの短い先細形状の第2先端部を形成する。
【0018】
上記の構成によれば、機械処理により第1先端部の表面を粗面化処理してざらざらした状態にするとともに、ブラシ毛におけるフィラメントの他方の端部の先端形状を、第1先端部より軸方向の長さの短い先細形状にすることができる。そのため、フィラメントの一方の端部である第1先端部の粗面化処理と、フィラメントの他方の端部の切削処理とを同時に行うことが可能であり、清掃性に優れた歯ブラシの製造工程を簡略化することができる。
【0019】
また、フィラメントの一方の端部には、化学処理により、第2先端部より軸方向の長さの長い先鋭形状の第1先端部を形成し、機械処理により、第1先端部の表面を粗面化処理している。そのため、先鋭形状の第1先端部に基づく良好な隙間進入性と、第1先端部の表面状態に基づく良好な歯垢除去性を備える歯ブラシを製造することができる。
【0020】
さらに、植毛工程では、第1先端部の突出長がフィラメントの他方の端部の突出長より長くなるようにブラシ毛を固定している。そのため、第2先端部により第1先端部の毛腰の弱さが補強され、剛性に優れた歯ブラシを製造することができる。また、第2先端部が形成されておらず、フィラメントの他方の端部がいわゆるフラット形状とされている場合と比べて、歯肉等への当たりがやわらかくなり、歯肉等を傷つけ難い歯ブラシを製造することができる。これにより、歯間や歯肉辺縁部だけでなく、歯面や歯頸等に対する清掃性に優れ、使用感にも優れた歯ブラシを製造することができる。
【0021】
上記の構成において、前記機械処理工程では、前記他方の端部に切削治具を当てて前記第2先端部を形成し、前記切削治具を当てる深さを調整することにより、前記第2先端部の形状を調整することが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、第2先端部の形状を所望の形状に調整することが容易である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の歯ブラシ及びその製造方法によれば、口腔内全体の歯垢除去を効果的に行って清掃性に優れた歯ブラシが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施形態の歯ブラシのヘッド部の模式図であり、(a)は、ヘッド部の側面図、(b)はヘッド部の上面図。
【
図2】本実施形態の歯ブラシのブラシ毛について説明する模式図。
【
図3】(a)、(b)は、ケミカルテーパー部の部分拡大図。
【
図4】(a)はメカニカルテーパー部の部分拡大図、(b)は先丸部の部分拡大図。
【
図5】変更例の歯ブラシのブラシ毛について説明する図。
【
図7】(a)、(b)は、清掃性の試験結果2の結果の画像について示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の歯ブラシを具体化した一実施形態について説明する。
図1(a)及び(b)に示すように、歯ブラシ1のヘッド部2の植毛面2aには、複数の植毛孔3が形成されている。植毛孔3の数、形状、配置は任意に選択可能である。本実施形態の歯ブラシ1では、22個の植毛孔3が形成されている。
【0026】
図1(a)に示すように、各植毛孔3には、複数本のブラシ毛10からなる毛束4が固定されている。一つの毛束4を構成するブラシ毛10の本数は特に限定されない。例えば、10~20本程度とすることができる。また、毛束4の固定方法としては、例えば、複数本のブラシ毛10を二つ折りにして金属製の平線とともに植毛孔3内に挿入する方法が挙げられる。
【0027】
図1(a)に示すように、各植毛孔3に固定された毛束4の先端は、ヘッド部2を側面視したとき、ヘッド部2の植毛面2aに対して略平行となっている。毛束4の植毛面2aからの突出長H1は、約8.0mm以上14.0mm以下であることが好ましく、約9.0mm以上13.0mm以下であることがより好ましい。
【0028】
ブラシ毛10を構成するフィラメントの材質は特に限定されず、従来公知の合成樹脂材料のものを使用することができる。合成樹脂材料としては、例えば、ナイロン610、ナイロン612等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレン等のポリオレフィン、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー等を挙げることができる。合成樹脂材料は単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【0029】
ブラシ毛10を構成するフィラメントの硬さは適宜設定することができる。各植毛孔3でブラシ毛10の硬さを一定にしてもよく、一部の植毛孔3でブラシ毛10の硬さを変えるようにしてもよい。例えば、
図1(b)に黒丸の植毛孔3で示すように、ヘッド部2の中央側の毛束列には硬めのブラシ毛10を使用し、
図1(b)に白丸の植毛孔3で示すように、ヘッド部2の外側の毛束列には普通の硬さのブラシ毛10を使用することが挙げられる。
【0030】
ブラシ毛10を構成するフィラメントの径方向の断面形状は適宜設定することができる。径方向の断面形状は、円形、半円形、楕円形や、三角形、四角形等の多角形であってもよい。或いは、不定形等の異形であってもよい。また、フィラメントが軸方向に真っすぐ延びるものであってもよく、軸方向に捩ったようなスパイラル毛であってもよい。さらに、すべての植毛孔3に固定された毛束4を同じ断面形状のフィラメントで構成してもよく、異なる断面形状のフィラメントを混在させてもよい。植毛孔3でフィラメントの断面形状を異ならせてもよい。
【0031】
次に、植毛孔3に固定された毛束4を構成するブラシ毛10の具体的形状について、その作用とともに説明する。
図2に示すように、二つ折りにして植毛孔3内に固定されたブラシ毛10は、植毛面2aからの突出長H1が長い第1ブラシ毛11と、植毛面2aからの突出長H2が短い第2ブラシ毛12を有している。本実施形態のブラシ毛10は、一本のブラシ毛10を中央からずれた位置で二つ折りして植毛孔3に固定することにより、二つ折りされた一方が第1ブラシ毛11を構成し、他方が第2ブラシ毛12を構成している。なお、植毛孔3内には複数本のブラシ毛10が毛束4を構成して固定されているが、ブラシ毛10の植毛状態を解り易くするために、
図2では、植毛孔3内の1本のブラシ毛10の状態を模式的に示している。
【0032】
第1ブラシ毛11の植毛面2aからの突出長H1は、毛束4の植毛面2aからの突出長H1である。また、第2ブラシ毛12の植毛面2aからの突出長H2は、第1ブラシ毛11の植毛面2aからの突出長H1より短い。そのため、第1ブラシ毛11の先端と第2ブラシ毛12の先端との間には、段差S1が形成されている。段差S1は、1.0mm以上5.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上3.0mm以下であることがより好ましく、1.0mm以上2.0mm以下であることがさらに好ましい。
【0033】
段差S1が5.0mm以下であると、後に説明する粗面化処理により、第1ブラシ毛11の先端部(ケミカルテーパー部21)の表面全体が均等にざらざらした状態となり、歯垢を絡め捕る効果が向上する。段差S1が4.0mm以下であると、第2ブラシ毛12の植毛面2aからの突出長H2が十分確保されていることで、第2ブラシ毛12の歯面等への当たりが良好となり、第2ブラシ毛12による歯垢除去性、清掃性が向上する。また、第2ブラシ毛12が第1ブラシ毛のしなりを補強するように作用して、歯面に対する清掃性が向上する。段差S1が2.0mm以下であると、第2ブラシ毛12の歯面への当たりがさらに良好となるとともに、第1ブラシ毛11の毛腰の弱さが第2ブラシ毛12によってさらに補強される。これにより、第1ブラシ毛11による歯間挿入性も良好となり、歯面及び歯間の両方に対する清掃性が向上する。また、段差S1が1.0mm以上であると、機械的処理によって第1ブラシ毛11の先端部が折れたり曲がったりすることが起こり難く、外観形状が良好な歯ブラシ1となる。
【0034】
なお、段差S1は、毛束4を構成する複数の第1ブラシ毛11の植毛面2aからの突出長H1、及び毛束4を構成する複数の第2ブラシ毛12の植毛面2aからの突出長H2の平均値より算出することが好ましい。
【0035】
図3(a)に示すように、植毛面2aからの突出長H1が長い第1ブラシ毛11の先端部には、第1ブラシ毛11の先端に向かって径方向の幅が徐々に小さくなる先鋭形状のケミカルテーパー部21が形成されている。ケミカルテーパー部21の軸方向の長さH3は、概ね1.0mm~5.0mm程度であることが好ましく、2.0mm~4.0mm程度であることがより好ましい。ケミカルテーパー部21がこの範囲に形成されていると、歯間や歯肉辺縁部等へのブラシ毛10の到達性が良好であり、これらの部分に対する歯垢除去性が向上する。
【0036】
なお、「ケミカルテーパー部21の軸方向の長さH3」とは、後に説明する「フィラメントの径方向の幅L5」の約80%の地点から、ブラシ毛10の先端までの距離を言うものとする。つまり、「ケミカルテーパー部21」とは、フィラメントの先端から、フィラメントの径方向の幅L5が約80%となる地点までの範囲の部分を言うものとする。
【0037】
また、ケミカルテーパー部21は、フィラメントの端部を化学的に処理することにより、フィラメントを構成する樹脂材料が溶かされて形成されている。そのため、化学的に処理された状態でのケミカルテーパー部21の表面には微細な凹凸部が形成されていない状態となっている。
【0038】
図3(a)及び(b)に示すように、ケミカルテーパー部21における第1ブラシ毛11の先端から0.1mmの部分での径方向の幅L1は、ブラシ毛10の基端部での径方向の幅L5の3%以上15%以下の範囲であることが好ましく、4%以上11%以下の範囲であることがより好ましい。ケミカルテーパー部21における第1ブラシ毛11の先端から0.5mmの部分での径方向の幅L2は、ブラシ毛10の基端部での径方向の幅L5の14%以上33%以下の範囲であることが好ましく、18%以上27%以下の範囲であることがより好ましい。ケミカルテーパー部21における第1ブラシ毛11の先端から1.0mmの部分での径方向の幅L3は、ブラシ毛10の基端部での径方向の幅L5の25%以上55%以下の範囲であることが好ましく、30%以上46%以下の範囲であることがより好ましい。ケミカルテーパー部21における第1ブラシ毛11の先端から2.0mmの部分での径方向の幅L4は、ブラシ毛10の基端部での径方向の幅L5の50%以上90%以下の範囲であることが好ましく、57%以上80%以下の範囲であることがより好ましい。
【0039】
なお、径方向の幅とは、「ブラシ毛10の径方向断面においてその中心を通る線分の長さ」を言うものとする。例えば、径方向の断面形状が円形の場合、径方向の幅は直径に相当し、径方向の断面形状が四角形の場合、径方向の幅は対角線に相当することになる。また、ブラシ毛10の基端部での径方向の幅L5とは、ブラシ毛10を構成するフィラメントの径方向の幅に等しい。
【0040】
ケミカルテーパー部21の表面には、図示しない微細凹凸部が形成されている。微細凹凸部は、フィラメントの端部を化学的に処理して形成されたケミカルテーパー部21の表面を、砥石が取り付けられたグラインダー等を使用して機械的に粗面化処理することにより形成されている。つまり、微細凹凸部は、フィラメントの端部を化学的に処理することにより、フィラメントを構成する樹脂材料が溶かされたものに対して、砥石等で擦ってざらざらした状態とすることにより形成されている。
【0041】
微細凹凸部はケミカルテーパー部21の先端から形成されている。また、微細凹凸部は、ケミカルテーパー部21の全長に亘って形成されていてもよいが、必ずしも、ケミカルテーパー部21の全長に亘って形成されていなくてもよい。微細凹凸部は、後に説明する機械処理工程で形成されるものであり、機械処理工程でのグラインド深さによって、その形成範囲が調整される。微細凹凸部の形成範囲は、ケミカルテーパー部21の先端から概ね7.0mmの範囲に形成されていることが効率的な歯垢除去の観点からは好ましい。
【0042】
微細凹凸部が形成されていることにより、ケミカルテーパー部21の表面の線粗さRaがフィラメントの表面の線粗さRaより大きくなっている。ここで、ケミカルテーパー部21の表面の線粗さRaは、粗面化処理されたブラシ毛10の表面の所定領域をレーザー顕微鏡により測定することにより算術線粗さRaとして得ることができる。そして、得られた算術線粗さRaの測定値から、最大値、最小値を得るとともに、平均値を算出する。
【0043】
ケミカルテーパー部21の表面の線粗さRaの平均値は、第1ブラシ毛11の先端から1.0mm~1.1mmの範囲では、0.4μm以上0.9μm以下であることが好ましく、0.6μm以上0.7μm以下であることがより好ましい。また、第1ブラシ毛11の先端から2.0mm~2.1mmの範囲では、0.5μm以上1.0μm以下であることが好ましく、0.7μm以上0.8μm以下であることがより好ましい。ケミカルテーパー部21の表面に、線粗さRaがこの範囲となるように微細凹凸部が形成されていることにより、口腔内に残存した歯垢が効率的に掻き出されてケミカルテーパー部21の表面に絡め捕られるような状態となり、歯垢除去性が向上する。
【0044】
図4(a)及び(b)に示すように、植毛面2aからの突出長H2が短い第2ブラシ毛12の先端部は、第2ブラシ毛12の先端に向かって径方向の幅が徐々に小さくなる先細形状に形成されている。
図4(a)に示すように、第2ブラシ毛12の先端部としては、テーパー形状のメカニカルテーパー部22や、半球形状の先丸部23が存在している。
【0045】
メカニカルテーパー部22や先丸部23は、ブラシ毛10を構成するフィラメントを機械的に切削処理することにより形成されている。具体的には、軸方向に直交する平坦面として形成されたフィラメントの端部に対して、砥石が取り付けられたグラインダー等を使用して機械的に切削処理することにより形成されている。
【0046】
メカニカルテーパー部22は、テーパー形状と言う点でケミカルテーパー部21と共通した形状を有しているが、第2ブラシ毛12の先端での軸方向の長さH4が、ケミカルテーパー部21の軸方向の長さH3に比べて短い点で異なっている。つまり、メカニカルテーパー部22の軸方向の長さH4は、概ね0.2mm~2.0mm程度であることが好ましく、概ね0.3mm~1.0mm程度であることがより好ましい。第2ブラシ毛12の植毛面2aからの突出長H2が第1ブラシ毛11の植毛面2aからの突出長H1より短く、第2ブラシ毛12の先端にケミカルテーパー部21より軸方向の長さH4が短いメカニカルテーパー部22が形成されていることにより、第2ブラシ毛12が、第1ブラシ毛11の撓み易さを補強するように作用する。歯ブラシ1としての毛腰が強くなり、清掃感や耐久性が向上する。
【0047】
半球形状の先丸部23の軸方向の長さH5は、概ね0.1mm~1.0mm程度であることが好ましく、概ね0.2mm~0.7mm程度であることがより好ましい。第2ブラシ毛12の植毛面2aからの突出長H2が第1ブラシ毛11の植毛面2aからの突出長H1より短く、第2ブラシ毛12の先端に軸方向の長さH5がケミカルテーパー部21の軸方向の長さH3より短い先丸部23が形成されていることにより、メカニカルテーパー部22が形成された第2ブラシ毛12と同様に、第1ブラシ毛11の撓み易さを補強するように作用する。これにより、歯ブラシ1としての毛腰が強くなり、清掃感や耐久性が向上する。
【0048】
なお、「メカニカルテーパー部22の軸方向の長さH4」、「先丸部23の軸方向の長さH5」も、「ケミカルテーパー部21の軸方向の長さH3」と同様に、「フィラメントの径方向の幅L5」の80%の地点から、ブラシ毛10の先端までの距離を言うものとする。
【0049】
次に、歯ブラシ1の製造方法について説明する。
歯ブラシ1の製造方法は、フィラメントの一方の端部を化学処理してブラシ毛10を形成する化学処理工程、複数本のブラシ毛10からなる毛束4を植毛孔3に固定する植毛工程、毛束4の先端部に機械的処理を行う機械処理工程を備えている。
【0050】
本実施形態の化学処理工程では、フィラメントの一方の端部を化学処理して、先端ほど径方向の幅が徐々に小さくなるケミカルテーパー部21を有するブラシ毛10を形成する。化学処理は従来周知の方法で行うことができ、処理時間、処理温度等は適宜調整することができる。化学処理により、フィラメントの一方の端部には、幅L1、L2、L3、L4が上記範囲となるような、先端ほど径方向の幅が徐々に小さくなるケミカルテーパー部21を有するブラシ毛10が形成される。このとき、フィラメントの他方の端部は、一方の端部と同様の化学処理をしない。そのため、他方の端部は、フィラメントの軸方向に直交する平坦面を有するフラット形状に保持される。ここでは、フラット形状に保持されている他方の端部をフラット部と言うものとする。
【0051】
植毛工程では、ブラシ毛10を複数本束ねて毛束4を形成し、各毛束4をヘッド部2の植毛面2aに形成された植毛孔3に固定する。毛束4の固定方法は、従来周知の方法で行うことができる。例えば、複数本のブラシ毛10を二つ折りにして金属製の平線とともに植毛孔3内に挿入する方法が挙げられる。
【0052】
複数本のブラシ毛10は、長さ方向の中央からずれた位置で二つ折りして、植毛孔3に固定する。このとき、ケミカルテーパー部21が形成された側が、フラット部とされた側より長くなるような位置で二つ折りする。こうすることで、植毛孔3に固定されたブラシ毛10では、ケミカルテーパー部21が形成された側が、植毛面2aからの突出長H1の長い第1ブラシ毛11を構成し、フラット部とされた側が、植毛面2aからの突出長H2の短い第2ブラシ毛12を構成する。
【0053】
続いて、毛束4が固定された歯ブラシ1の毛束4の先端部に機械的処理を行う。機械的処理を行う治具としては、例えばディスク状の砥石が取り付けられたグラインダーが挙げられる。グラインダーを回転させることにより、突出長H1の長い第1ブラシ毛11の先端部は物理的に粗面化処理されて、ケミカルテーパー部21の表面に微細凹凸部が形成される。また、突出長H2の短い第2ブラシ毛12の先端部は物理的に切削処理されて、フラット部が削り取られてメカニカルテーパー部22や先丸部23が形成される。つまり、グラインダー等の機械的処理用の治具は、ケミカルテーパー部21の表面を粗面化する粗面化治具としての機能と、フラット部とされた部分を切削する切削治具としての機能を有している。
【0054】
機械的処理は、第1ブラシ毛11及び第2ブラシ毛12の先端から所定の深さまで、ディスク上の砥石が当たるようにして行う。ブラシ毛10に対して機械的処理をすると、砥石を当てる設定上の深さより概ね1.0mm~2.0mm程度短い範囲が粗面化処理されたり切削処理されたりする。例えば、ケミカルテーパー部21に対する設定上の深さを約6.0mmにした場合、ケミカルテーパー部21の先端から約4.0mm~約5.0mmの範囲に微細凹凸部が形成されて粗面化処理されることになる。これは、ケミカルテーパー部21が先鋭形状であり、グラインダーに取り付けられた砥石等が回転することにより、毛先が逃げ易くなることによる。そのため、以下では、ブラシ毛10の先端からの、砥石等の機械的処理用の治具が当たる実際の深さを、グラインド深さとする。つまり、グラインド深さは、砥石を当てる設定上の深さではなく、第1ブラシ毛11及び第2ブラシ毛12に対して実際に機械的処理がなされた深さのことを言う。
【0055】
ケミカルテーパー部21でのグラインド深さは、約2.5mmより深く、約5.0mmより浅いことが好ましい。ケミカルテーパー部21でのグラインド深さが約2.5mmより深いと、ケミカルテーパー部21に割れが生じたり、毛先が折れたり、曲がったりすることが抑制される。また、ケミカルテーパー部21でのグラインド深さが約5.0mmより浅いと、粗面化処理した部分全体に微細凹凸部が均等に形成されるとともに、毛束4全体が幅方向に毛開きした状態となることが抑制される。
【0056】
ブラシ毛10のフラット部とされた側を機械的処理すると、グラインド深さによって切削処理による先端部の形状が異なる。
図4(b)に示す先丸部23は、第2ブラシ毛12に対するグラインド深さが比較的浅いときに形成され、
図4(a)に示すメカニカルテーパー部22は、第2ブラシ毛12に対するグラインド深さが比較的深いときに形成される。また、先丸部23が形成されるグラインド深さとメカニカルテーパー部22が形成されるグラインド深さの中間の深さでは、先丸部23が形成された第2ブラシ毛12とメカニカルテーパー部22が形成された第2ブラシ毛12とが混在した状態となる。つまり、グラインド深さが深くなるにつれて先丸部23の割合よりメカニカルテーパー部22の割合が多くなる。
【0057】
具体的には、第2ブラシ毛12の先端から約1.0mm以上の位置に切削処理がされた場合、つまり、フラット部でのグラインド深さが約1.0mm以上の場合、切削処理によりメカニカルテーパー部22が形成され易い。また、フラット部でのグラインド深さが約0.5mm以下の場合、切削処理により先丸部23が形成され易い。グラインド深さが約0.5mm~約1.0mmの範囲ではメカニカルテーパー部22と先丸部23とが混在した状態となり易い。
【0058】
このように、各工程を経て、突出長H1の長い第1ブラシ毛11の先端部に形成されたケミカルテーパー部21の表面が粗面化されてざらざらとなり、突出長H2の短い第2ブラシ毛12の先端部にメカニカルテーパー部22や先丸部23が形成された歯ブラシ1が得られる。
【0059】
次に、本実施形態の歯ブラシ1の効果について述べる。
(1)本実施形態の歯ブラシ1は、第1ブラシ毛11の先端部に形成された先鋭形状のケミカルテーパー部21の表面には、粗面化処理による微細凹凸部が形成されており、第2ブラシ毛12の先端部には、ケミカルテーパー部21の軸方向の長さH3より軸方向の長さH4、H5が短いメカニカルテーパー部22や先丸部23が形成されている。そして、第1ブラシ毛11の先端と第2ブラシ毛12の先端との間には、1.0mm以上5.0mm以下の段差S1が形成されている。
【0060】
そのため、第1ブラシ毛11のケミカルテーパー部21の表面に形成された微細凹凸部により、歯垢が掻き出されるとともに絡め捕られ、口腔内に残存している歯垢が効果的に除去される。また、メカニカルテーパー部22や先丸部23が形成された第2ブラシ毛12が、第1ブラシ毛11のしなりを抑制するように作用し易く、先鋭形状の第1ブラシ毛11の毛腰の弱さを、より効果的に補強することができる。さらに、段差S1が5.0mm以下であるため、第2ブラシ毛12の植毛面2aからの突出長H2も十分確保され、第2ブラシ毛12の歯面等への当たりが良好となる。これにより、歯面や歯頸等に対する清掃性が向上するだけでなく、歯間や歯肉辺縁部等に対する清掃性も向上する。
【0061】
(2)ケミカルテーパー部21は、第1ブラシ毛11の先端から1.0mmの位置における径方向断面の幅が、ブラシ毛10を形成するフィラメントの径方向の幅の25%以上55%以下であり、第1ブラシ毛11の先端から2.0mmの位置における径方向断面の幅が、ブラシ毛10を形成するフィラメントの径方向の幅の50%以上90%以下である。
【0062】
そのため、ケミカルテーパー部21の隙間進入性が良好であり、歯間や歯肉辺縁部等のブラシ毛10が届き難いところでも届き易い。
(3)ケミカルテーパー部21の表面は、第1ブラシ毛11の先端から1.0mm~1.1mmの範囲での線粗さRaの平均値が0.4μm以上0.9μm以下であり、第1ブラシ毛11の先端から2.0mm~2.1mmの範囲での線粗さRaの平均値が0.5μm以上1.0μm以下である。
【0063】
そのため、ケミカルテーパー部21の表面がざらざらした状態になっており、歯垢が掻き出されるとともに絡め捕られ易い。これにより口腔内の歯垢を効果的に除去することができる。
【0064】
(4)第2ブラシ毛12の先端部には、ケミカルテーパー部21より軸方向の長さが短いテーパー形状のメカニカルテーパー部22や、ケミカルテーパー部21より軸方向の長さが短い半球形状の先丸部23が形成されている。
【0065】
そのため、メカニカルテーパー部22や先丸部23が形成された第2ブラシ毛12が、第1ブラシ毛11のしなりを抑制するように作用し易い。先鋭形状の第1ブラシ毛11の毛腰の弱さをより効果的に補強することができて、歯間や歯肉辺縁部だけでなく、歯面や歯頸等に対する清掃性が向上する。また、先端部がフラット形状である場合に比べて、歯面、歯頸等への当たりが柔らかくなる。歯ブラシ1としての使用感が向上する。
【0066】
(5)上記実施形態の歯ブラシ1の製造方法では、植毛工程の後に、グラインダーによる機械処理工程で、ケミカルテーパー部21の表面に粗面化処理を行うとともに、フラット部に切削処理を行う。
【0067】
そのため、粗面化処理されたケミカルテーパー部21と、切削処理されたメカニカルテーパー部22や先丸部23を同時に形成することができる。清掃性に優れた歯ブラシ1の製造工程が簡略化される。
【0068】
(6)機械処理工程では、フラット部に対するグラインド深さを調整することで、第2ブラシ毛12の先端部にメカニカルテーパー部22を形成したり、先丸部23を形成したりすることができ、その形成割合を調整することができる。
【0069】
そのため、グラインド深さを調整することで所望の形状の歯ブラシ1を容易に製造することができる。
(7)植毛工程では、一方の端部にケミカルテーパー部21が形成されたブラシ毛10を、植毛面2aからの突出長が異なるように植毛孔3に固定している。
【0070】
そのため、第1ブラシ毛11の突出長と第2ブラシ毛12の突出長を容易に調整することができる。
(8)植毛工程では、ケミカルテーパー部21の植毛面2aからの突出長H1が、フラット部の植毛面2aからの突出長H2より1.0mm以上5.0mm以下の長さで長くなるようにブラシ毛10を固定している。
【0071】
そのため、機械的処理によって第1ブラシ毛11の先端部が折れたり曲がったりすることが起こり難く、外観形状が良好な歯ブラシ1を製造することができる。
上記実施形態は、以下のように変更することができる。なお、上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて適用することができる。
【0072】
・毛束4を形成するすべての第1ブラシ毛11の先端部に、上記形状のケミカルテーパー部21が形成されていなくてもよい。幅L1、L2、L3、L4の数値が、上記範囲から外れるテーパー形状の第1ブラシ毛11が混在していてもよい。また、先端部がテーパー形状の第1ブラシ毛11だけでなく、先端部が他の形状の第1ブラシ毛11が混在していてもよい。
【0073】
・上記実施形態の歯ブラシ1では、一本のブラシ毛10の中央からずれた位置で二つ折りすることにより、二つ折りされた一方が突出長H1の長い第1ブラシ毛11を構成し、他方が突出長H2の短い第2ブラシ毛12を構成しているが、毛束4を構成するブラシ毛10はこれに限定されない。例えば、
図5に示すように、ブラシ毛10として長いブラシ毛10と短いブラシ毛10を一つの毛束4に混在させてもよい。つまり、長いブラシ毛10を中央で二つ折りして植毛孔3に固定することで突出長H1の長い第1ブラシ毛11のみを形成し、短いブラシ毛10を中央で二つ折りして植毛孔3に固定することで突出長H2の短い第2ブラシ毛12のみを形成するようにしてもよい。
【0074】
この場合、化学処理工程では、長いブラシ毛10の両端部に化学処理を行って、両端部にケミカルテーパー部21を形成し、短いブラシ毛10の両端部はフラット形状としておく。植毛工程では、長いブラシ毛10、短いブラシ毛10のいずれについてもその中央で二つ折りして毛束4を形成して植毛孔3に固定する。続いて、上記実施形態と同様に機械処理工程を行うことにより、長いブラシ毛10の両端部を粗面化処理するとともに、短いブラシ毛10の両端部を切削処理することができる。
【0075】
なお、植毛孔3内には複数本の長いブラシ毛10と短いブラシ毛10が混在した状態で毛束4を構成して固定されているが、ブラシ毛10の植毛状態を解り易くするために、
図5の左右の図ではいずれも、植毛孔3内の1本のブラシ毛10の状態を模式的に示している。
【0076】
・
図3では、ケミカルテーパー部21が、フィラメントの中心軸線に対して対称である形状として示しているが、ケミカルテーパー部21の形状はこれに限定されない。例えば、フィラメントの中心軸線に対して非対称であり、ケミカルテーパー部21の先端がフィラメントの中心軸線からずれた位置にあってもよい。すなわち、フィラメントを上から見下ろすようにしたときに、山の頂点が中心でなくてもよい。より具体的には、ケミカルテーパー部21が、ブラシ毛10の先端に向かって径方向の幅が徐々に小さくなる先鋭形状に形成されていれば、中心軸線に対して対称のものも非対称のものも含まれる。
図4(a)のメカニカルテーパー部22や、
図4(b)の先丸部23についても同様である。
【0077】
・微細凹凸部は、ブラシ毛10の先端部で、ブラシ毛10の軸方向に対して対称となる位置に形成されていなくてもよく、非対称となる位置に形成されていてもよい。
・上記実施形態では、すべての植毛孔3に固定された毛束4の先端が、植毛面2aに対して略平行となっている歯ブラシ1として説明したが、毛束4の先端形状はこれに限定されない。短手方向に連設される複数の植毛孔3に固定された毛束4の列を毛束列としたとき、長手方向に隣り合う毛束列で、先端が全体で山形状をなす山切り部を形成するようにしてもよい。例えば、ヘッド部2の先端側から2、3列目に形成された植毛孔3に固定された毛束4で、2.3列目の毛束4が対向する位置を頂部とする山形状に形成することで山切り部を形成するようにしてもよい。山切り部を形成することで、歯間や歯肉辺縁部等への隙間進入性を向上させることができる。
【0078】
・粗面化処理は、砥石が取り付けられたグラインダーによるものでなくてもよい。機械的処理によりブラシ毛10の表面をざらざらした状態にすることができるものであればよい。
【実施例0079】
本発明の歯ブラシについて、以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお、本発明は、実施例欄記載の構成に限定されるものではない。
<ケミカルテーパー部21の形状の特定>
まず、ブラシ毛10の形状、硬さの異なる複数の試作品を作成して、ケミカルテーパー部21の形状、寸法を特定した。
【0080】
(試作品1)
図1(b)に示す形状のヘッド部2の植毛面2aに形成された植毛孔3に、ポリブチレンテレフタレート製で径方向の断面形状が円形のブラシ毛10からなる毛束を二つ折りにして挿入し、平線を嵌め込んで固定した。ブラシ毛10としては、一方の端部にケミカルテーパー部21が形成され、他方の端部がフラット部とされたものを使用した。ブラシ毛10を構成するフィラメントは、幅(直径)0.170mmのものを使用した。各植毛孔3でのブラシ毛10の充填本数は23~30本とした。ブラシ毛10は、ケミカルテーパー部21側のブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H1が約10.5mm、フラット部とされた側のブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H2が約9.5mmとなるように調整した。
【0081】
その後、ブラシ毛10の先端にグラインダーに取り付けられた砥石を当てて、ケミカルテーパー部21の表面に機械的な粗面化処理を行って微細凹凸部を形成するとともに、フラット部とされた部分に機械的な切削処理を行った。グラインド深さは、毛束(ケミカルテーパー部21)の先端から約2.9mmの深さとした。このようにして作成した歯ブラシ1を試作品1とした。
【0082】
(試作品2)
突出長H1が約12.5mm、突出長H2が約7.5mmとなるように調整したこと、グラインド深さを、毛束の先端から約4.6mmの深さとしたこと以外は試作品1と同様に作成した。
【0083】
(試作品3)
ブラシ毛10に対して機械的処理を行わなかったこと以外は試作品1と同様に作成した。
【0084】
(試作品4)
ブラシ毛10として、幅(直径)0.150mmで充填本数が30~40本のものを使用したこと、ブラシ毛10に対して機械的処理を行わなかったこと以外は試作品1と同様に作成した。
【0085】
(試作品5)
ブラシ毛10として、幅(直径)0.180mmで充填本数が21~28本のものを使用したこと、ブラシ毛10に対して機械的処理を行わなかったこと以外は試作品1と同様に作成した。
【0086】
(ケミカルテーパー部21の寸法測定)
試作品1,3~5について、ケミカルテーパー部21の寸法を測定した。寸法測定には、マイクロスコープ(商品名VHX-6000、株式会社キーエンス製)を使用して、それぞれの試作品で約30回行った。寸法測定は、ケミカルテーパー部21の先端から1.0mm、2.0mmのそれぞれの位置でのブラシ毛10の径方向の幅(直径)L3、L4を測定した。各試作品での測定値の最大値、最小値、平均値、及び標準偏差(SD)を、ブラシ毛10を形成するフィラメントの径方向の幅(直径)L5に対する割合(%)として算出した。その結果を表1に示した。
【0087】
【表1】
表1の試作品1、3の結果より、グラインダーに取り付けられた砥石による粗面化処理の有無に関わらず、ケミカルテーパー部21の形状は同等であった。具体的には、ケミカルテーパー部21に粗面化処理を施した試作品1、粗面化処理を施していない試作品3のいずれにおいても、ケミカルテーパー部21の先端から1.0mmの位置での直径は、フィラメントの直径の25%以上55%以下であった。また、ケミカルテーパー部21の先端から2.0mmの位置での直径は、フィラメントの直径の50%以上90%以下であった。さらに、粗面化処理の有無に関わらず、ケミカルテーパー部21の先端から1.0mmの位置での直径の平均値は、フィラメントの直径の37.0~39.0%であり、ケミカルテーパー部21の先端から2.0mmの位置での直径の平均値は、フィラメントの直径の63.0~69.0%であった。
【0088】
また、フィラメントの直径が異なる試作品4、5でも、ケミカルテーパー部21の形状は試作品1、3と同等であった。さらに、試作品1、3の結果より、粗面化処理によりケミカルテーパー部21の形状が同等であることから、フィラメントの直径が異なる試作品4、5についても、ケミカルテーパー部21の形状は、粗面化処理の有無に関わらず同等であると言える。
【0089】
(ケミカルテーパー部21の線粗さRaの測定)
粗面化処理を行うことにより微細凹凸部が形成されたケミカルテーパー部21では、その表面がどの程度ざらざらになっているかを検討するために、試作品1~3について、ケミカルテーパー部21の線粗さRaを測定した。試作品1~3のそれぞれについて、ヘッド部2の植毛孔3に植設されたブラシ毛10を無作為に5本ずつ抜き取った。各ブラシ毛10は、先端から1.0mm~1.1mmの範囲、2.0mm~2.1mmの範囲における算術線粗さRaを、レーザー顕微鏡により測定した。それぞれの領域における算術線粗さRaの測定値から、最大値及び最小値を得るとともに、平均値及び標準偏差(SD)を算出した。その結果を表2に示した。
【0090】
【表2】
表2の試作品1、2の結果より、グラインド深さに関わらず、ケミカルテーパー部21の表面の線粗さRaは概ね同等であった。具体的には、グラインド深さが約2.9mmである試作品1、グラインド深さが約4.6mmである試作品2のいずれにおいても、ケミカルテーパー部21の先端から1.0mm~1.1mmの範囲での線粗さRaの平均値は0.6μm以上0.7μm以下であった。また、試作品1、2のいずれにおいても、ケミカルテーパー部21の先端から2.0mm~2.1mmの範囲での線粗さRaの平均値は0.7μm以上0.8μm以下であった。これはグラインダーによる粗面化処理を行っていない試作品3では、ケミカルテーパー部21の先端から1.0mm~1.1mmの範囲での線粗さRaの平均値が0.183μmであり、ケミカルテーパー部21の先端から1.0mm~1.1mmの範囲での線粗さRaの平均値が0.247μmであったのに比べて、高い値であった。
【0091】
なお、結果は示していないが、他にも粗面化処理を行った3本の試作品の歯ブラシ1から5本ずつブラシ毛10を抜き取って測定した。その結果、いずれの試作品でもケミカルテーパー部21の先端から1.0mm~1.1mmの範囲での線粗さRaの平均値は、概ね0.4μm以上0.9μm以下であった。また、ケミカルテーパー部21の先端から2.0mm~2.1mmの範囲での線粗さRaの平均値は、概ね0.5μm以上1.0μm以下であった。
【0092】
<清掃性の評価>
次に、第1ブラシ毛11の先端と第2ブラシ毛12の先端との間に異なる大きさの段差S1が形成された歯ブラシ1について、清掃性の評価を行った。
【0093】
(試験例1)
図1(b)に示す形状のヘッド部2の植毛面2aに形成された22個の植毛孔3のそれぞれに、ポリブチレンテレフタレート製で径方向の断面形状が円形のブラシ毛10からなる毛束を二つ折りにして挿入し、平線を嵌め込んで固定した。ヘッド部の短手方向の幅は11.3mm、植毛面積は1.21cm
2である。ブラシ毛10としては、一方の端部にケミカルテーパー部21が形成され、他方の端部がフラット形状とされたものを使用した。ブラシ毛10を構成するフィラメントは、幅(直径)0.170mmのものを使用した。フィラメントの化学処理は、試作品1~5のものと同様の条件で行った。各植毛孔3でのブラシ毛10の充填本数は23~30本とした。ブラシ毛10は、ケミカルテーパー部21側のブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H1が約10.0mm、フラット形状側のブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H2が約10.0mmとなるように調整した。つまり、段差S1が形成されないようにブラシ毛10を固定した。
【0094】
その後、ブラシ毛10の先端にグラインダーを当てて、ケミカルテーパー部21の表面に機械的な粗面化処理を行って微細凹凸部を形成するとともに、フラット形状とされた部分に機械的な切削処理を行った。グラインド深さは、ケミカルテーパー部21の先端から約2.5mmの深さとした。このようにして作成した歯ブラシ1を試験例1とした。
【0095】
(試験例2)
ブラシ毛10は、ケミカルテーパー部21側のブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H1が約10.5mm、フラット形状側のブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H2が約9.5mmとなるように調整して、1.0mmの段差S1が形成されるようにした。またグラインド深さは、ケミカルテーパー部21の先端から約3.0mmの深さとした。これら以外は試験例1と同様に作成した。
【0096】
(試験例3)
ブラシ毛10は、ケミカルテーパー部21側のブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H1が約11.0mm、フラット形状側のブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H2が約9.0mmとなるように調整して、2.0mmの段差S1が形成されるようにした。またグラインド深さは、ケミカルテーパー部21の先端から約3.0mmの深さとした。これら以外は試験例1と同様に作成した。
【0097】
(試験例4)
ブラシ毛10は、ケミカルテーパー部21側のブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H1が約11.5mm、フラット形状側のブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H2が約8.5mmとなるように調整して、3.0mmの段差S1が形成されるようにした。またグラインド深さは、ケミカルテーパー部21の先端から約3.5mmの深さとした。これら以外は試験例1と同様に作成した。
【0098】
(試験例5)
ブラシ毛10は、ケミカルテーパー部21側のブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H1が約12.0mm、フラット形状側のブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H2が約8.0mmとなるように調整して、4.0mmの段差S1が形成されるようにした。またグラインド深さは、ケミカルテーパー部21の先端から約4.0mmの深さとした。これら以外は試験例1と同様に作成した。
【0099】
(試験例6)
ブラシ毛10は、ケミカルテーパー部21側のブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H1が約12.5mm、フラット形状側のブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H2が約7.5mmとなるように調整して、5.0mmの段差S1が形成されるようにした。またグラインド深さは、ケミカルテーパー部21の先端から約4.5mmの深さとした。これら以外は試験例1と同様に作成した。
【0100】
(試験例7)
ブラシ毛10は、ケミカルテーパー部21側のブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H1が約13.0mm、フラット形状側のブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H2が約7.0mmとなるように調整して、6.0mmの段差S1が形成されるようにした。またグラインド深さは、ケミカルテーパー部21の先端から約5.0mmの深さとした。これら以外は試験例1と同様に作成した。
【0101】
(試験例8)
ブラシ毛10は、ケミカルテーパー部21側のブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H1が約13.5mm、フラット形状側のブラシ毛10の植毛面2aからの突出長H2が約6.5mmとなるように調整して、7.0mmの段差S1が形成されるようにした。またグラインド深さは、ケミカルテーパー部21の先端から約5.5mmの深さとした。これら以外は試験例1と同様に作成した。
【0102】
(試験例9)
機械処理工程を行わなかったこと以外は、試験例1と同様に作成した。
(試験例10)
機械処理工程を行わなかったこと以外は、試験例2と同様に作成した。
【0103】
(試験例11)
機械処理工程を行わなかったこと以外は、試験例3と同様に作成した。
(試験例12)
機械処理工程を行わなかったこと以外は、試験例4と同様に作成した。
【0104】
(試験例13)
機械処理工程を行わなかったこと以外は、試験例5と同様に作成した。
(試験例14)
機械処理工程を行わなかったこと以外は、試験例6と同様に作成した。
【0105】
(試験例15)
機械処理工程を行わなかったこと以外は、試験例7と同様に作成した。
(試験例16)
機械処理工程を行わなかったこと以外は、試験例8と同様に作成した。
【0106】
(ケミカルテーパー部21、フラット形状側の部分の形状評価)
試験例1~8の歯ブラシ1について、ケミカルテーパー部21、及び化学処理時にはフラット形状であった部分の形状評価を行った。
【0107】
ケミカルテーパー部21については、粗面化処理が行われることによって表面状態がどのように変化したかについて評価した。評価基準は以下のとおりとした。その結果を表3に示した。
【0108】
〇;表面全体が均等にざらざらした状態になっており、毛先の外観形状に変化は見られない。
△;表面全体がざらざらした状態になっているものの、一部毛先が折れたり、曲がったりしている部分がある。
【0109】
×;表面全体が均等にざらざらした状態になっているものの、毛束全体が幅方向に毛開きした状態となっている。
フラット部については切削処理が行われることによって先端形状がどのように変化したかについて評価した。ブラシ毛10のフラット部が、ほぼメカニカルテーパー部22となったものを「テーパー」、ほぼ先丸部23となったものを「先丸」、メカニカルテーパー部22と先丸部23とが混在したものを「混在」とした。その結果を表3に示した。
【0110】
【表3】
試験例1~8のいずれの歯ブラシ1でも、ケミカルテーパー部21の表面には微細凹凸部が形成されて良好に粗面化された。中でも、ケミカルテーパー部21とフラット部との間に1.0mm以上5.0mm以下の段差S1が形成された試験例2~6の歯ブラシ1では、微細凹凸部が形成された部分では、その表面全体が均等にざらざらした状態になっていた。その一方で、試験例1の歯ブラシ1では、第1ブラシ毛11の一部が折れたり、曲がったりしたものが散見された。また、試験例7、8の歯ブラシ1では、ケミカルテーパー部21は均等に粗面化されたものの、ブラシ毛10がヘッド部2の短手方向の外側に向かって曲げられた状態となり、毛束4の全体がヘッド部2の幅方向に毛開きした状態となった。以上の結果から、第1ブラシ毛11の先端と第2ブラシ毛12の先端との間に、1.0mm以上5.0mm以下の段差が形成されていると、ケミカルテーパー部21の表面が適度に粗面化されるとともに、ブラシ毛10に欠損がなく、また外観形状にも優れた歯ブラシ1が得られることがわかった。
【0111】
また、ケミカルテーパー部21に粗面化処理を行った場合、グラインド深さに関わらず、いずれの歯ブラシ1でも、ケミカルテーパー部21の表面に微細凹凸部が形成されて、表面が良好に粗面化された。中でも、ケミカルテーパー部21に対するグラインド深さが2.5mmより深いもので、毛先が折れたり、曲がったり部分がなく、ケミカルテーパー部21の外観形状が良好に保持されていた。なお、ケミカルテーパー部21に対するグラインド深さが比較的浅いものでは、第1ブラシ毛11の先端の一部で毛先が折れたり、曲がったりしている部分があったものの、歯ブラシ1としての使用に支障がでるほどではなかった。
【0112】
フラット形状側では、グラインド深さによって機械的処理による先端形状が異なっていた。グラインド深さが0.5mm以下と浅い試験例6~8の歯ブラシ1では、グラインダーに取り付けられた砥石による切削処理によって、フラット形状がほぼ先丸部23となっていた。また、グラインド深さが1.5mm以上の試験例1~3の歯ブラシ1では、砥石による切削処理によって、フラット部がほぼメカニカルテーパー部22となっていた。一方、グラインド深さが約1.0mmの試験例4、5の歯ブラシ1では、砥石による切削処理によって、メカニカルテーパー部22と先丸部23が混在していた。このように、グラインド深さが浅いほど、先丸部23が形成され易く、深くなるにつれてメカニカルテーパー部22の割合が多くなる傾向が見られた。
【0113】
(清掃性の評価試験1)
試験例1~16の歯ブラシ1について、清掃性の評価試験1を行った。清掃性の評価試験1は、顎模型に人工プラークを塗布したものを用意し、ロボットに試験例1~16の歯ブラシ1を持たせた状態で、顎模型(上顎)♯26~♯23の頬側を一歯あたり2秒間、ブラッシング圧平均200g、ストローク20mm、スピード150rpm相当でブラッシングさせることで行った。ブラッシング後、歯面全体、歯間のそれぞれにおける人工プラークの除去割合(%)を算出した。得られた数値から、機械的処理を行った試験例1~8の歯ブラシ1について、以下の基準で清掃性を評価した。
【0114】
◎;歯面での人工プラークの除去割合(%)が70.0%以上、かつ、歯間での人工プラークの除去割合(%)が60,0%以上。
〇;歯面での人工プラークの除去割合(%)が70.0%以上。
【0115】
△;歯面での人工プラークの除去割合(%)が70.0%未満。
その結果を表4、
図6に示した。
【0116】
【表4】
表4及び
図6より、段差S1の有無に関わらず、また段差S1の大小に関わらず、同じ段差S1同士の試験例を比較すると、機械的処理がされた試験例1~8の歯ブラシ1では、機械的処理がされていない試験例9~16の歯ブラシ1より人工プラークの除去割合(%)が高かった。つまり、いずれの段差S1のものでも、機械的処理がされた歯ブラシ1のほうが、清掃性が高かった。これは、歯面、歯間の両方で同様の傾向であった。ケミカルテーパー部21の表面に微細凹凸部が形成されていることにより、微細凹凸部が人工プラークを絡め捕るように掻き出した結果であると考えられる。
【0117】
また、全体の傾向として、段差S1が大きいほど、人工プラークの除去割合(%)が低くなる傾向にあった。これは、段差S1が大きいほど突出長H2の短い第2ブラシ毛12の先端では、毛束4の先端からの距離が大きくなり、その結果、第2ブラシ毛12の先端が歯面に当たり難くなること、これにより、第2ブラシ毛12が歯面や歯間に届き難くなっていることが要因であると考えられる。
【0118】
この点、段差S1が4.0mm以下である試験例1~5の歯ブラシ1では、歯面での人工プラークの除去割合(%)が70.0%以上であり、良好な清掃性を有していることがわかった。これは、第2ブラシ毛12の歯面等への当たりが良好であることによると考えられる。また、第2ブラシ毛12が第1ブラシ毛11のしなりを補強するように作用することによると考えられる。
【0119】
段差S1が2.0mm以下である試験例1~3の歯ブラシ1では、歯面での人工プラークの除去割合(%)が70.0%以上であることに加えて、歯間での人工プラークの除去割合(%)が60.0%以上であった。これは、第2ブラシ毛12の歯面等への当たりが十分であること、第1ブラシ毛11の毛腰の弱さが、第2ブラシ毛12によってさらに補強されることによると考えられる。これにより、第1ブラシ毛11の歯間到達性が良好となるとともに、第2ブラシ毛12の歯面到達性が良好となり、口腔内全体での清掃性が向上すると考えられる。
【0120】
(清掃性の評価試験2)
試験例1、9の歯ブラシ1のブラシ毛10について、清掃性の評価試験2を行った。清掃性の評価試験2は、粗面化処理されたケミカルテーパー部21によりどの程度の歯垢を絡め捕る効果があるかについて検証した。ラップ上に咬合チェック用スプレー・オクルード(パスカル社、USA)の着色粉末を塗布し、試験例1、9の歯ブラシ1をオクルード上で、5cm間隔で往復させた。往復後の歯ブラシ1の毛先をマイクロスコープ(商品名VHX-6000、株式会社キーエンス製)にて撮影し、Photoshop(登録商標)にて色調解析を行った。色調解析は、撮影した画像をPhotoshop(登録商標)で二値化し、オクルード付着率(%)を算出した。その結果を表5、
図7に示した。
【0121】
【表5】
表5の結果より、ケミカルテーパー部21の表面に微細凹凸部が形成されて線粗さRaが大きくなっている試験例1の歯ブラシ1のブラシ毛10では、微細凹凸部が形成されていない試験例9の歯ブラシ1のブラシ毛10に対して、オクルード付着率が2倍以上に上昇していた。
図7(a)の画像では、ケミカルテーパー部21において粗面化処理された部分の長さ方向全体に亘ってオクルードがブラシ毛10表面に付着していることが観察された。これに対して、
図7(b)の画像では、オクルードは、ブラシ毛10の先端のみに付着しているに過ぎなかった。これにより、ケミカルテーパー部21が粗面化処理されていることにより、口腔内に残存した歯垢が効率的にかき出されてケミカルテーパー部21の表面に絡め捕られるような状態となることがわかった。