IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オイレス工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083337
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】摺動部材用樹脂組成物及び摺動部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20220527BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20220527BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20220527BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20220527BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20220527BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20220527BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20220527BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
C08L59/00
C08L23/06
C08L23/26
C08L91/06
C08K5/09
C08K5/10
C08K5/20
C08K5/098
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194719
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 耕平
(72)【発明者】
【氏名】末光 麻弥香
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AE034
4J002BB032
4J002BB203
4J002CB001
4J002EF056
4J002EG026
4J002EG036
4J002EH036
4J002EH046
4J002EP016
4J002FD174
4J002FD176
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】成形加工性、機械加工性に優れるとともに、潤滑性および耐摩耗性を含む摺動特性を向上させることができる摺動部材用樹脂組成物及び摺動部材を提供する。
【解決方法】本発明の摺動部材用樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂に加えて、添加剤として超高分子量ポリエチレン樹脂2~20質量%、変性ポリオレフィン樹脂0.01~3質量%、滑剤0.5~3質量%が配合されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂75~97質量%と、添加剤としての超高分子量ポリエチレン樹脂2~20質量%、エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体0.01~3質量%および滑剤0.5~3質量%とを含む摺動部材用樹脂組成物。
【請求項2】
エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体におけるα,β-不飽和カルボン酸は、アクリル酸およびメタクリル酸から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の摺動部材用樹脂組成物。
【請求項3】
滑剤は、天然ワックス、炭化水素系ワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミドおよび高級脂肪酸塩(金属石けん)から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の摺動部材用樹脂組成物。
【請求項4】
滑剤は、高級脂肪酸エステルおよび高級脂肪酸アミドから選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の摺動部材用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の摺動部材用樹脂組成物よりなる摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材用樹脂組成物及び摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、優れた機械的性質を有し、摩擦摩耗等の摺動特性、耐熱性、耐薬品性及び電気特性にも優れ、エンジニアリングプラスチックとして自動車部品、電子・電気部品、一般産業機械部品などで広範に使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリアセタール樹脂単独からなる摺動部材は、優れた自己潤滑性及び耐摩耗性を有するが、若干高めの摩擦係数を有し、しかも摺動中での摩擦係数の変動でスティックスリップを生じさせ、当該スティックスリップに起因する不快な摺動摩擦音(きしみ音)を発生させる欠点がある。
【0004】
摺動特性を改良するべく、ポリアセタール樹脂に潤滑油やロウ等の潤滑油剤又はポリエチレン樹脂等の低摩擦特性を有する合成樹脂を配合した摺動部材あるいは摺動部材用の樹脂組成物が提案されている。例えば、ポリアセタール樹脂に潤滑油やロウ等の潤滑油剤を含有した摺動部材として、特許文献1には、ポリアセタール樹脂又はポリアミド樹脂から成る熱可塑性合成樹脂を粉末状にし、これに潤滑油剤を混ぜて撹拌してその樹脂粉末表面に潤滑油剤を均一に付着させ、次いで、これを加熱シリンダーの成形原料供給部が冷却手段によって該合成樹脂の融点以下の低温に保たれ、シリンダーの他の部分が少なくとも該合成樹脂の融点以上の温度に保たれた造粒機によって溶融混練して粒状とし、これを成形原料として所要の形状に成形する軸受などの要滑部材の製造方法が提案されている。
【0005】
また、ポリアセタール樹脂にポリエチレン樹脂等の低摩擦特性を有する合成樹脂を配合した合成樹脂組成物として、特許文献2には、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂から選ばれる結晶性熱可塑性樹脂と粉末状の高密度ポリエチレン樹脂とを溶融混合し、結晶性熱可塑性樹脂中に粉末状の高密度ポリエチレン樹脂を独立の相として含有せしめて成る耐摩耗性の改良された結晶性熱可塑性樹脂組成物が、特許文献3には、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル樹脂及びポリカーボネート樹脂から選ばれる熱可塑性樹脂70~98重量%と、超高分子量ポリエチレン樹脂粉末30~2重量%とを溶融混練して成る熱可塑性樹脂組成物が、特許文献4には、高密度ポリエチレン樹脂20~45重量%とポリアセタール樹脂55~80重量%とを含有する低摩擦で摩耗の少ないポリアセタール樹脂組成物がそれぞれ提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭46-42217号公報
【特許文献2】特公昭46-41456号公報
【特許文献3】特公昭63-65232号公報
【特許文献4】特開2002-105279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された製造方法によって得られた摺動部材においては、摩擦摩耗等の摺動特性を著しく向上させるが、潤滑油はポリアセタール樹脂との相溶性が乏しく成形加工時に滲み出すことで成形サイクルが長くなったり、ロウなどの滑剤は成形後にブリードアウトするため成形物表面が白濁したりするなど、成形性の問題がある。
【0008】
特許文献2から特許文献4に記載された樹脂組成物からなる摺動部材においては、摩擦摩耗等の摺動特性をある程度向上させることはできるが、潤滑油材を配合した摺動部材と比較して、摩擦係数は高めに推移する傾向を示し、摺動条件によってはスティックスリップが発生するため、十分な摺動特性を得るために、添加量を多くする必要があるが、それに伴い成形物の表面が悪化する問題がある。
【0009】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであり、成形加工性に優れ、潤滑性および耐摩耗性を含む摺動特性を向上させることができる摺動部材用樹脂組成物及び摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の摺動部材用樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂75~97質量%と、添加剤としての超高分子量ポリエチレン樹脂2~20質量%、エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体0.01~3質量%および滑剤0.5~3質量%とを含んでいる。
【0011】
本発明の摺動部材は、上記摺動部材用樹脂組成物よりなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、成形加工性に優れ、機械的強度を低下させることなく、潤滑性及び耐摩耗性を含む摺動特性を向上させることができる摺動部材用樹脂組成物および摺動部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0014】
本発明の摺動部材用樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂75~97質量%と、添加剤としての超高分子量ポリエチレン樹脂2~20質量%、エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体0.01~3質量%および滑剤0.5~3質量%とを含んでいる。なお、ポリアセタール樹脂などの配合割合を示す質量%は、後述する必要に応じて添加される添加剤を含めた摺動部材用樹脂組成物全体を100質量%とした場合の値である。
【0015】
ポリアセタール樹脂は、本発明の摺動部材用樹脂組成物の主成分としての母材を構成するものであり、オキシメチレン基(-CHO-)を主たる構成単位とする高分子化合物であり、オキシメチレン単位のみからなるポリアセタールホモポリマーと、オキシメチレン単位及びコモノマー単位を含有するポリアセタールコポリマーとが含まれる。本発明においてはポリアセタール樹脂として、ポリアセタールホモポリマー及びポリアセタールコポリマーのいずれも使用することが可能であるが、熱安定性の点からは、ポリアセタールコポリマーが好ましい。
【0016】
ポリアセタール樹脂は、ASTM-D-1238法によるメルトフローレート(MFR)が測定可能であり、温度190℃、測定荷重2160gの条件下において測定したMFRが0.1~100g/10minの範囲のポリアセタール樹脂が好ましく、特に好ましくはMFRが1.0~10.0g/10minの範囲のポリアセタール樹脂である。ポリアセタール樹脂の具体例としては、例えば、ポリアセタールホモポリマーとして、デュポン社製の「デルリン(商品名)」、旭化成社製の「テナック(商品名)」、ポリアセタールコポリマーとして、ポリプラスチックス社製の「ジュラコン(商品名)」等を挙げることができる。
【0017】
本発明の摺動部材用樹脂組成物に配合される超高分子量ポリエチレン樹脂は、135℃のデカリン酸溶媒中で測定した極限粘度[η]が10dl/g以上で、その粘度平均分子量が50万~600万のものを使用することができ、例えば、三井化学社製の「ハイゼックスミリオン(商品名)」、同社製の「ミペロン(商品名)」、旭化成ケミカルズ社製の「サファイン(商品名)」等を挙げることができる。また、超高分子量ポリエチレン樹脂としては、135℃の極限粘度が10~40dl/gの超高分子量ポリエチレン樹脂と同極限粘度が0.1~5dl/gの低分子量ないし高分子量ポリエチレン樹脂とからなるものも使用することができ、例えば、三井化学社製の「リュブマー(商品名)」等を挙げることができる。さらに、酸変性超高分子量ポリエチレン樹脂も使用することができ、例えば、無水マレイン酸変性の三井化学社製の「変性リュブマー(商品名)」等を挙げることができる。
【0018】
超高分子量ポリエチレン樹脂は、摺動部材用樹脂組成物に配合されることにより、摺動特性を良好にする作用がある。酸変性超高分子量ポリエチレン樹脂を用いることにより、主成分であるポリアセタール樹脂との相溶性を向上させ、さらなる摺動特性の向上に寄与する。また、超高分子量ポリエチレン樹脂は、後述する滑剤の保持体としての役割を有する。超高分子量ポリエチレン樹脂の配合量は2~20質量%、好ましくは2.5~5質量%である。超高分子量ポリエチレン樹脂の配合量が2質量%未満であると、上述した摺動特性の改善の効果が乏しく、20質量%を超えると、ポリアセタール樹脂への分散割合が多くなり、耐摩耗性や成形性を悪化させる虞がある。
【0019】
本発明の摺動部材用樹脂組成物に配合されるエチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体について、α,β-カルボン酸は、アクリル酸およびメタクリル酸から選択される少なくとも1種である。エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体は、摺動部材用樹脂組成物に配合されることにより、その構造内に有するカルボキシル基の反応性によって、主成分であるポリアセタール樹脂と超高分子量ポリエチレンの相溶性が増し、ポリアセタール樹脂への超高分子量ポリエチレン樹脂の分散性を向上させる。また、後述する滑剤の保持体としての役割も有する。これらにより、摺動部材用樹脂組成物の成形性を向上させるとともに、成形物としての摺動部材の機械的強度を低下させることなく摺動特性を向上させることができる。さらに、摺動相手材へのポリアセタール樹脂の凝着を抑制し、これにより、スティックスリップの発生が抑制され、スティックスリップに起因する摺動摩擦音(きしみ音)の発生が抑えられる。エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体の具体例としては、例えばエチレン・メタクリル酸共重合体である三井・ダウポリケミカル社製の「ニュクレル(商品名)」、エチレン・アクリル酸共重合体であるエクソンモービル社製の「Escor(商品名)」等を挙げることができる。
【0020】
エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体の配合量は0.01~3質量%、好ましくは0.3~1質量%である。エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体の配合量が0.01質量%未満であると、上述した摺動特性の改善の効果が乏しく、3質量%を超えると、摺動特性を悪化させる虞がある。
【0021】
本発明の摺動部材用樹脂組成物に配合される滑剤は、摺動部材用樹脂組成物を成形して得られる摺動部材に対して潤滑性を付与し摺動特性の向上に寄与する。滑剤としては、天然ワックス、炭化水素系ワックス、脂肪族ケトン、高級脂肪酸、高級脂肪酸を誘導して得られるワックス等のロウ状を呈する物質が挙げられる。
【0022】
天然ワックスとしては、蜜ロウ、鯨ロウ、ウールワックス、セラックロウ等の動物性ワックス、キャンデリラロウ、カルナウバロウ、ホホバロウ、木蝋、米ぬか蝋、ひまし硬化油等の植物性ワックス、モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックスが挙げられる。
【0023】
炭化水素系ワックスとしては、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、ポリオレフィンワックス、アルキルベンゼン、ペトロラタム等が挙げられる。
【0024】
脂肪族ケトンとしては、ジステアリルケトン、ジパルミチルケトン、ジラウリルケトン等が挙げられる。例えば、ジステアリルケトンとして花王社製の「カオーワックスT1(商品名)」等が挙げられる。
【0025】
高級脂肪酸としては、概ね炭素数が12以上のラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、セロチン酸およびモンタン酸等の高級飽和脂肪酸ならびに概ね炭素数が18以上のオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、オクタデセン酸、アラキドン酸、カドレイン酸、エルカ酸およびパリナリン酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。
【0026】
高級脂肪酸を誘導して得られるワックスとしては、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミドおよび高級脂肪酸塩等が挙げられる。
【0027】
高級脂肪酸エステルは、上記高級脂肪酸と一価または多価アルコールとのエステルである。一価アルコールとしては、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等が挙げられ、多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビット等が挙げられる。具体的には、ステアリルステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリン酸モノグリセリド、ベヘン酸モノグリセリド、モンタン酸ワックス等が挙げられる。
【0028】
高級脂肪酸アミドとしては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド等の飽和高級脂肪酸アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ブラシジン酸アミド、エライジン酸アミド等の不飽和高級脂肪酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等の高級脂肪酸ビスアミド等が挙げられる(高級脂肪酸メチルアミドおよび高級脂肪酸エチルアミド等の飽和または不飽和高級脂肪酸アルキルアミドも含む)。
【0029】
高級脂肪酸塩(金属石けん)は、前記高級脂肪酸とリチウム、ナトリウムおよびカリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムおよびバリウム等のアルカリ土類金属または亜鉛等との塩であり、具体例としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛等が挙げられる。
【0030】
本発明においては、これらの滑剤から選ばれた一種または二種以上が用いられる。好ましいのは、高級脂肪酸エステルおよび高級脂肪酸アミドであり、高級脂肪酸エステルの中でも特に高級脂肪酸と多価アルコールとのエステルが好ましい。高級脂肪酸エステルの具体例としては、ステアリン酸とグリセリンとのエステルであるステアリン酸モノグリセリドとして東邦化学工業社製の「アンステックス(商品名)、理研ビタミン社製の「リケマール(商品名)」、ベヘン酸とグリセリンとのエステルであるベヘン酸モノグリセリドとして理研ビタミン社製の「リケマール(商品名)」、ソルビットとステアリン酸、オレイン酸等とのエステルとして花王ケミカル社製「レオドール(商品名)」等が挙げられる。高級脂肪酸アミドの具体例としては、飽和高級脂肪酸アミドであるラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミドとして三菱ケミカル社製の「ダイヤミッド(商品名)」、日本精化社製の「ニュートロン(商品名)」、不飽和高級脂肪酸アミドであるオレイン酸アミド、エルカ酸アミドとして三菱ケミカル社製の「ダイヤミッド(商品名)」、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製の「アーモスリップ(商品名)」、日本精化社製の「ニュートロン(商品名)」等が挙げられる。
【0031】
本発明の摺動部材用樹脂組成物に滑剤としての高級脂肪酸エステルを配合することにより、摺動部材用樹脂組成物を成形して得られる摺動部材が相手材と摺動する際に、摺動面に適度に滲み出ることにより潤滑性を付与する役割を担う。さらに、高級脂肪酸アミドを併用することにより、さらに摺動性能を向上させる。特に、摺動初期の摩擦係数を低下させる効果を発揮する。
【0032】
滑剤の配合量は0.5~3質量%である。配合量が0.5質量%未満では十分な摺動特性を得ることができず、3質量%を超えて配合すると成形物の外観不良の原因となる虞がある。
【0033】
本発明の摺動部材用樹脂組成物は、上述の組成物から本質的に成るものであるが、さらに本発明では、発明の効果を著しく損なわない範囲でこれらの成分の他に付加的成分として潤滑油、酸化防止剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤、顔料等の着色剤を挙げることができる。潤滑油としては、スピンドル油、冷凍機油、タービン油、マシン油、ギヤ油等の鉱油、シリコーン油、エステル油、エーテル油、ポリアルキレングリコール油、ポリα-オレフィン油、ハロカーボン油、フッ素油等の合成油、ヒマシ油、ヤシ油、パーム油、ホホバ油、米ぬか油、ベニバナ油、トウモロコシ油、アボカド油、マカダミアナッツ油、オリーブ油、ごま油、大豆油、ピーナッツ油、ココナッツ油、サンフラワー油、綿実油、アマニ油、鯨油、スクワレン、スクワラン等の植物や動物由来の潤滑油が挙げられる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤等が挙げられる。
【0034】
さらに、必要に応じて二硫化モリブデン、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、窒化ホウ素、メラミンシアヌレート等の公知の固体潤滑剤、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維その他合成樹脂由来繊維、植物由来繊維、ワラストナイト、硫酸カルシウム繊維、チタン酸カリウムファイバー及びウィスカー等の繊維状物質、ガラス粉末、シリカ、タルク、クレイ、マイカ、雲母、セリサイト、カオリン、ゼオライト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ベントナイト、モンモリロナイト、金属粉、球状炭素物質、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン及び酸化亜鉛等の無機充填剤を添加することができる。また、発明の効果を著しく損なわない範囲で、改質剤としてポリオレフィン等のポリマーを添加していてもよく、ポリオレフィンは変性されたポリオレフィンも使用できる。例えば、グリシジルメタクリレート変性のポリエチレンとして住友化学社製の「ボンドファストE(商品名)」、無水マレイン酸変性ポリエチレンとして三井化学社製の「タフマーM(商品名)」、無水マレイン酸変性水添スチレン系熱可塑性エラストマーとして旭化成社製の「タフテックM(商品名)」、日油社製の「モディパー(商品名)」等が挙げられる。
【0035】
なお、上述した本質的な組成物および付加的成分以外の成分は、原材料、製造工程などにおいて不可避的に混入され、摺動部材用樹脂組成物の性質に影響を実質的に及ぼさない不純物を除いて含まれていない。
【0036】
本発明の摺動部材用樹脂組成物は、当該組成物中の配合量が上記範囲となるように各成分を計り取り、これらをヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ボールミル及びタンブラーミキサー等の混合機で混合物を作製し、該混合物をベント付一軸若しくは二軸スクリュー型押出機又は無ベント一軸若しくは二軸スクリュー型押出機に投入し、溶融混錬して紐状の成形物を成形したのち、該成形物を裁断して粒子状の成形材料ペレットを作製し、この成形材料ペレットを射出成形機等による成形手段によって円筒ブッシュや板状体等の所望の形状に成形することができる。
【実施例0037】
以下の諸例において、ポリアセタール樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂、エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体及び滑剤は、以下に示す材料を使用した。本発明におけるエチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体の添加効果の確認のために、比較例において下記〔E〕成分に示すエチレンとカルボン酸エステルとの共重合体を用いた。なお、以下の材料は、全て商品名を示す。
〔A〕ポリアセタール樹脂
(A-1)ポリプラスチックス社製の「ジュラコンM90」
〔B〕超高分子量ポリエチレン樹脂
(B-1)三井化学社製の「変性リュブマーLY1040」
(B-2)三井化学社製の「リュブマーL5000」
〔C〕エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体
(C-1)エチレン・メタクリル酸共重合体 三井・ダウポリケミカル社製の「ニュクレルAN4233C」
〔D〕滑剤
(D-1)ステアリン酸モノグリセリド 東邦化学工業社製の「アンステックスMG-100」
(D-2)ベヘン酸モノグリセリド 理研ビタミン社製の「リケマールB-100」
(D-3)エルカ酸アマイド 三菱ケミカル社製の「ダイヤミッドL-200」
(D-4)オレイン酸アマイド ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製の「アーモスリップCP」
〔E〕エチレンとカルボン酸エステルとの共重合体
(E-1)エチレン・メタクリル酸メチル共重合体 住友化学社製の「アクリフトWK307」
(E-2)エチレン・アクリル酸メチル共重合体 NUC社製の「DPDJ-6169」
(E-3)エチレン・酢酸ビニル共重合体 東ソー社製の「メルセンH-6051」
【0038】
各成分として上記材料を使用し、それぞれを表1から表3に示す成分組成で配合し、二軸押出機を用いて200℃で溶融混練し、ペレット状の組成物を得た。次いで、このペレットを射出成形機を用いて成形温度190℃、金型温度80℃にてテストピース(縦30mm、横30mm、厚さ3mmの方形状のプレート)を作製した。
【0039】
上述のようにして得たテストピースに対し、以下に示す摺動試験を実施して、摩擦係数及び摩耗量を計測するとともに、成形性を評価した結果を表1から表3に示す。
【0040】
(評価)
<摺動試験>
運動形態:スラスト一方向回転
荷重:20kg/cm
速度:10m/min
時間:8時間
相手材:SUS304(Ra0.1(μm))
潤滑条件:無潤滑
<摺動静音性評価試験>
下記試験条件にて、異音の有無を評価した。
運動形態:スラスト一方向回転
荷重:100kg/cm
速度:1m/min
時間:3分間
相手材:SUS304(Ra0.1(μm))
潤滑条件:無潤滑
評価基準 ○:異音発生なし、×:異音発生あり
<成形性>
射出成形機を使用してペレットから成形物(摺動部材)を成形し7日間経過した後、当該成形物の外観状態を目視し、評価した。
評価基準 ○:良、×:不可
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
上記の試験結果から、いずれの成分も本発明の配合量範囲内にある実施例1から実施例15においては、高い摺動性能、摺動静音性を発揮し、成形物における外観不良の問題がないことが分かる。
【0045】
超高分子量ポリエチレン樹脂の配合量が本発明の範囲よりも少ない比較例1においては、実施例と比較すると、摩耗量が多くなっている。これは、超高分子量ポリエチレン樹脂の低摩擦性、耐摩耗性の効果を得るには不十分であり、滑剤の保持機能も低下して潤滑性が不足するためである。超高分子量ポリエチレン樹脂の配合量が本発明の範囲よりも多い比較例2においては、母材であるポリアセタール樹脂の配合量が減少するため、十分な強度が得られず、著しく耐摩耗性が低下している。
【0046】
エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体が配合されていない比較例3においては、耐摩耗性が低下している。これは、エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体の、超高分子量ポリエチレン樹脂と併用することでの相溶化剤としての効果や、滑剤の保持体としての効果が十分に発揮できないためである。エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体の配合量が本発明の範囲よりも多い比較例4においては、エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体が、母材であるポリアセタール樹脂から分離して、成形物において剥離が生じやすくなり、摩擦係数が変動したり摩耗量が増大したりするため、摺動特性が低下している。
【0047】
また、エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体の代わりに、エチレンとカルボン酸エステルとの共重合体であるエチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体を配合した比較例5から比較例7においては、何れも摺動特性、特に耐摩耗性が低下している。これは、本発明のエチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体のようなカルボキシル基の反応性によって得られるポリアセタール樹脂の改質効果がないためである。
【0048】
滑剤の配合量が本発明の範囲よりも少ない比較例8においては、実施例と比較すると、耐摩耗性が低下している。これは、滑剤が有する潤滑性の付与の効果が不十分であるためである。滑剤の配合量が本発明の範囲よりも多い比較例9、比較例10においては、成形物表面が白濁し、成形物の外観が悪化している。また、ポリアセタール樹脂に滑剤のみを配合している比較例11においては、摺動静音性が劣り、成形時にジェッティング(温度が低くなった粘度の高い樹脂が金型表面に接触した際に流動した跡を成形物の表面に残し、蛇行した樹脂流れ模様が発生する現象)が発生し、成形物の外観が悪化している。
【0049】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。