IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友理工株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-流体封入式防振装置 図1
  • 特開-流体封入式防振装置 図2
  • 特開-流体封入式防振装置 図3
  • 特開-流体封入式防振装置 図4
  • 特開-流体封入式防振装置 図5
  • 特開-流体封入式防振装置 図6
  • 特開-流体封入式防振装置 図7
  • 特開-流体封入式防振装置 図8
  • 特開-流体封入式防振装置 図9
  • 特開-流体封入式防振装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083392
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】流体封入式防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20220527BHJP
【FI】
F16F13/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135726
(22)【出願日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2020194431
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】黒田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】安田 恭宣
【テーマコード(参考)】
3J047
【Fターム(参考)】
3J047AA03
3J047AB01
3J047CA10
3J047FA02
(57)【要約】
【課題】キャビテーションを効果的に抑制することができる、新規な構造の流体封入式防振装置を提供すること。
【解決手段】可動膜68の外周端部が、収容空所66の受圧室84側の壁内面55に対して周方向で部分的に当接する当接部70と、収容空所66の平衡室86側の壁内面65に対して全周にわたって当接するシール部72とを備え、可動膜68の外周端部が仕切部材40によって支持されており、可動膜68の外周面と収容空所66の内周面との対向間に隙間80が設けられていると共に、可動膜68の外周端部において収容空所66の壁内面55への当接部70を外れた位置には隙間80に連通された連通路82が設けられており、可動膜68の外周端部が受圧室84と平衡室86の圧力差によって収容空所66の壁内面65から離れることによって、受圧室84と平衡室86を連通するリリーフ通路94が隙間80と連通路82を含んで構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受圧室と平衡室が仕切部材によって仕切られており、該仕切部材に形成された収容空所内に可動膜が収容されている流体封入式防振装置であって、
前記可動膜の外周端部が、前記収容空所の前記受圧室側の壁内面に対して周方向で部分的に当接する当接部と、該収容空所の前記平衡室側の壁内面に対して全周にわたって当接するシール部とを備え、
該可動膜の外周端部が該仕切部材によって支持されており、
該可動膜の外周面と該収容空所の内周面との対向間に隙間が設けられていると共に、
該可動膜の外周端部において該収容空所の該受圧室側の壁内面への該当接部を外れた位置には該隙間に連通された連通路が設けられており、
該可動膜の外周端部が該受圧室と該平衡室の圧力差によって該収容空所の該平衡室側の壁内面から離れることによって、該受圧室と該平衡室を連通するリリーフ通路が該隙間と該連通路を含んで構成される流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記可動膜の外周端部には、前記受圧室側へ向けて突出する弾性突部が周方向で複数設けられており、
該弾性突部が前記仕切部材における前記収容空所の該受圧室側の壁内面に当接して当接部を構成し、
複数の該弾性突部の周方向間に前記連通路が形成されている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記可動膜に対する前記受圧室と前記平衡室の圧力差の作用により、該可動膜の外周端部における前記シール部が前記弾性突部の周方向間において前記収容空所の前記平衡室側の壁内面から離れて、該弾性突部の形成部位では前記収容空所における前記受圧室側の壁内面と該弾性突部、及び前記平衡室側の壁内面と該シール部との各当接状態を維持したままで、前記リリーフ通路が発現される請求項2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記弾性突部が突出先端に向けて収縮する先細形状とされている請求項2又は3に記載の流体封入式防振装置。
【請求項5】
前記弾性突部の突出先端面が球冠状湾曲面とされている請求項2~4の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項6】
前記仕切部材は、前記収容空所における前記受圧室側の壁内面の外周部分に開口する複数の凹溝を備えており、
前記可動膜の外周端部と該収容空所の該受圧室側の壁内面とが、該凹溝を周方向に外れた部分で当接していると共に、
前記連通路が該凹溝によって構成されている請求項1~5の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項7】
前記可動膜の外周端部は、前記平衡室側へ向けて突出して全周にわたって連続するシールリップを備えており、
該シールリップが前記収容空所の該平衡室側の壁内面に全周にわたって当接している請求項1~6の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンマウントなどに用いられる流体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のパワーユニットの防振支持等に用いられる防振装置が知られている。また、防振性能の向上を1つの目的として、特開2013-231480号公報(特許文献1)には、流体封入式防振装置が提案されている。流体封入式防振装置は、流体が封入された主液室と副液室が、仕切部材によって区画された構造を有している。また、特許文献1は、仕切部材に弾性膜が設けられており、振動入力時に弾性膜の変形に基づいた液圧吸収作用による防振効果が発揮される。
【0003】
ところで、流体封入式防振装置では、キャビテーションに起因する異音の発生が問題となる場合がある。キャビテーションは、主液室の内圧が急激に低下することに起因する。そこで、特許文献1では、キャビテーションを抑制するためのリリーフバルブが、弾性膜の中央部に設けられている。リリーフバルブは、主液室の内圧が大きく低下する際に開くことで、副液室から主液室へ流体を流入させて、主液室の負圧を緩和し、キャビテーションを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-231480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、弾性膜の中央部にリリーフバルブを設けた特許文献1の構造では、リリーフバルブの周長を長くし難く、リリーフバルブによって連通と遮断を切り替えられるリリーフ通路の通路断面積を大きくすることが難しい。その結果、特許文献1では、リリーフバルブが開いても、副液室から主液室へ十分な量の流体を流入させることができず、主液室の負圧を緩和する効果が十分に発揮されない場合があるという、新規な課題が明らかとなった。
【0006】
本発明の解決課題は、キャビテーションを効果的に抑制することができる、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0008】
第一の態様は、受圧室と平衡室が仕切部材によって仕切られており、該仕切部材に形成された収容空所内に可動膜が収容されている流体封入式防振装置であって、前記可動膜の外周端部が、前記収容空所の前記受圧室側の壁内面に対して周方向で部分的に当接する当接部と、該収容空所の前記平衡室側の壁内面に対して全周にわたって当接するシール部とを備え、該可動膜の外周端部が該仕切部材によって支持されており、該可動膜の外周面と該収容空所の内周面との対向間に隙間が設けられていると共に、該可動膜の外周端部において該収容空所の該受圧室側の壁内面への該当接部を外れた位置には該隙間に連通された連通路が設けられており、該可動膜の外周端部が該受圧室と該平衡室の圧力差によって該収容空所の該平衡室側の壁内面から離れることによって、該受圧室と該平衡室を連通するリリーフ通路が該隙間と該連通路を含んで構成されるものである。
【0009】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、受圧室の内圧が低下する際に開いて、受圧室と平衡室を相互に連通するリリーフ通路が構成される。これにより、受圧室の内圧低下がリリーフ通路を通じた平衡室から受圧室への流体の流入によって速やかに低減され、受圧室の大幅な内圧低下によるキャビテーションの発生が防止されて、キャビテーションに伴う異音等が防止される。
【0010】
リリーフ通路は、可動膜の外周端部と収容空所の受圧室側の壁内面との間を延びる連通路と、可動膜の外周面と収容空所の内周面との間に形成される隙間とを含んで構成され、収容空所の外周部分に位置している。それゆえ、リリーフ通路は、流体封入式防振装置の大型化を要することなく、周方向の長さを長く設定し易く、通路断面積を大きく確保することができる。これにより、リリーフ通路を通じた流体流動によって受圧室の内圧低下を速やかに解消して、キャビテーションを効果的に防ぐことができる。
【0011】
キャビテーションが問題にならない通常の振動入力状態では、可動膜のシール部が収容空所の平衡室側の壁内面に当接していることによって、リリーフ通路が閉じており、リリーフ通路を通じた受圧室と平衡室の短絡が防止されている。それゆえ、通常の振動入力時には、受圧室の内圧変動が効率的に惹起されて、流体の流動作用や可動膜の液圧吸収作用などによる防振効果が有効に発揮される。
【0012】
第二の態様は、第一の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記可動膜の外周端部には、前記受圧室側へ向けて突出する弾性突部が周方向で複数設けられており、該弾性突部が前記仕切部材における前記収容空所の該受圧室側の壁内面に当接して当接部を構成し、複数の該弾性突部の周方向間に前記連通路が形成されているものである。
【0013】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、当接部が弾性突部とされていることから、例えば弾性突部や可動膜の変形剛性等によっては、弾性突部の圧縮によって可動膜の外周端部の受圧室側への変位が許容され、例えば周方向の略全周にわたってシール部が収容空所の平衡室側の壁内面から離隔して、リリーフ通路を構成することも可能である。可動膜の周方向で複数の弾性突部が設けられていることから、例えば、弾性突部の周方向幅寸法や間隔等によって弾性突部のバネ定数を調節し、リリーフ通路が開放される受圧室の内圧低下の閾値を設定することもできる。
【0014】
第三の態様は、第二の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記可動膜に対する前記受圧室と前記平衡室の圧力差の作用により、該可動膜の外周端部における前記シール部が前記弾性突部の周方向間において前記収容空所の前記平衡室側の壁内面から離れて、該弾性突部の形成部位では前記収容空所における前記受圧室側の壁内面と該弾性突部、及び前記平衡室側の壁内面と該シール部との各当接状態を維持したままで、前記リリーフ通路が発現されるものである。
【0015】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、例えば弾性突部や可動膜の変形剛性等によっては、受圧室の内圧が低下した際に、可動膜の外周端部において弾性突部の形成位置では、弾性突部とシール部により収容空所の受圧室側と平衡室側の壁内面への各当接状態を維持する一方、可動膜の外周端部において弾性突部の周方向間では、シール部が平衡室側の壁内面から離れることで、リリーフ通路を構成することも可能である。即ち、弾性突部や可動膜の変形剛性等に応じて、後述する第一の実施形態のようにシール部が周方向の略全周にわたって平衡室側の壁内面から離隔してリリーフ通路を構成することも可能であるし、本態様や後述する第三の実施形態のようにシール部が弾性突部の周方向間において平衡室側の壁内面から離隔してリリーフ通路を構成することも可能である。要するに、例えば第二の態様に係る流体封入式防振装置においても、弾性突部や可動膜の変形剛性等に応じて適切な態様でリリーフ通路を構成することができて、弾性突部や可動膜、ひいては流体封入式防振装置の設計自由度の向上が図られる。
【0016】
第四の態様は、第二又は第三の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記弾性突部が突出先端に向けて収縮する先細形状とされているものである。
【0017】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、弾性突部の圧縮によるばね定数の変化を非線形にすることができる。それゆえ、受圧室の内圧が大幅に低下する場合に、弾性突部が完全につぶれることによって連通路が遮断されるのを防いで、リリーフ通路の意図しない遮断を防止することができる。
【0018】
第五の態様は、第二~第四の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記弾性突部の突出先端面が球冠状湾曲面とされているものである。
【0019】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、当接部が収容空所の受圧室側の壁内面に押し当てられる際に、当接部の表面における応力集中が回避されて、当接部の耐久性の向上が図られる。また、例えば、受圧室に大きな正圧が作用して、可動膜の当接部が収容空所の受圧室側の壁内面から離れた後、当該正圧の解除によって当接部が収容空所の受圧室側の壁内面に当接する場合に、打音が低減される。
【0020】
第六の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記仕切部材は、前記収容空所における前記受圧室側の壁内面の外周部分に開口する複数の凹溝を備えており、前記可動膜の外周端部と該収容空所の該受圧室側の壁内面とが、該凹溝を周方向に外れた部分で当接していると共に、前記連通路が該凹溝によって構成されているものである。
【0021】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、収容空所の受圧室側の壁内面に凹溝を形成することにより、可動膜の外周端部に突部などを設けることなく、当接部を外れた位置に凹溝による連通路を形成することができる。受圧室の内圧低下に際して、可動膜の当接部が凹溝を外れた位置で収容凹所の受圧室側の壁内面に押し当てられて圧縮されることにより、可動膜の外周端部が受圧室側への変位を許容されることから、シール部が収容空所の平衡室側の壁内面から離隔して、リリーフ通路が構成される。
【0022】
第七の態様は、第一~第六の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記シール部は、前記平衡室側へ向けて突出して全周にわたって連続するシールリップを備えており、該シールリップが前記収容空所の該平衡室側の壁内面に全周にわたって当接しているものである。また、本態様は、前記可動膜の外周端部は、前記平衡室側へ向けて突出して全周にわたって連続するシールリップを備えており、該シールリップが前記収容空所の該平衡室側の壁内面に全周にわたって当接しているものであってもよい。
【0023】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、シール部がシールリップを備えることによって、シール部が収容空所の平衡室側の壁内面に当接することによるシール性能の向上が図られて、通常振動の入力に対する防振性能の向上が図られる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、キャビテーションを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第一の実施形態としてのエンジンマウントを示す断面図であって、図3におけるI-I断面に相当する図
図2図1に示すエンジンマウントを構成する仕切部材の斜視図
図3図2に示す仕切部材の平面図
図4図1に示すエンジンマウントを構成する可動膜の斜視図
図5図4の可動膜を別の角度で示す斜視図
図6図4に示す可動膜の断面図
図7図1に示すエンジンマウントの断面図であって、リリーフ通路の連通状態を示す図
図8】本発明の第二の実施形態としてのエンジンマウントを示す断面図
図9】本発明の第三の実施形態としてのエンジンマウントにおける仕切部材をリリーフ通路の連通状態で示す、図7に対応する(第一の実施形態の図3のI-I断面に相当する)断面図
図10図9に示す仕切部材において内部に配置される可動膜の変形態様を説明するために当該可動膜について仕切部材を除いた状態で示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
図1には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。以下の説明において、上下方向とは、原則として、マウント軸方向である図1中の上下方向を言う。
【0028】
第一の取付部材12は、軸直角方向に延びる矩形筒状のブラケット装着部18と、ブラケット装着部18の下壁部を貫通する円形孔の周囲から下方へ向けて延び出す筒状の固着部20とを、一体で備えている。第一の取付部材12は、例えば、金属板材のプレス加工によって得ることができる。
【0029】
第二の取付部材14は、段付きの略円筒形状とされており、上部が大径筒部22とされていると共に、下部が大径筒部22よりも小径の小径筒部24とされている。第二の取付部材14は、第一の取付部材12に対して略同一中心軸上で下方に配されており、それら第一の取付部材12と第二の取付部材14の間に本体ゴム弾性体16が配されている。
【0030】
本体ゴム弾性体16は、略円錐台形状とされており、小径側である上部が第一の取付部材12の固着部20に加硫接着されていると共に、大径側である下部の外周面が第二の取付部材14の大径筒部22に加硫接着されている。本体ゴム弾性体16は、下面に開口して上方へ向けて小径となる凹所26を備えている。凹所26は、第一の取付部材12の固着部20よりも下方に位置しており、第二の取付部材14の小径筒部24よりも内周に位置している。
【0031】
第一の取付部材12のブラケット装着部18は、本体ゴム弾性体16と一体形成されたストッパゴム28が外周面に固着されていると共に、本体ゴム弾性体16と一体形成された嵌合ゴム30が内周面に固着されている。第二の取付部材14の小径筒部24の内周面は、本体ゴム弾性体16と一体形成されて、凹所26の周囲から下方へ延び出すシールゴム層32によって覆われている。
【0032】
第二の取付部材14の小径筒部24には、可撓性膜34が取り付けられている。可撓性膜34は、可撓性を有する薄肉のゴム膜であって、上下方向の弛みを有している。可撓性膜34の外周端には環状の固定部材36が固着されており、固定部材36が第二の取付部材14の小径筒部24の下端部に固定されている。そして、固定部材36が第二の取付部材14に固定されることによって、可撓性膜34が第二の取付部材14の下側の開口を塞ぐように配されている。固定部材36の第二の取付部材14への固定方法は特に限定されないが、例えば、固定部材36を第二の取付部材14の内周へ挿入した状態で、第二の取付部材14に縮径加工を施すことにより、固定部材36が第二の取付部材14に固定される。なお、第二の取付部材14の小径筒部24と固定部材36の間には、シールゴム層32が介在していることから、第二の取付部材14と固定部材36の間が流体密に封止されている。
【0033】
本体ゴム弾性体16に固着された第二の取付部材14に可撓性膜34が取り付けられることにより、本体ゴム弾性体16と可撓性膜34の対向間には、流体室38が外部から流体密に画成されている。流体室38は、内部に非圧縮性流体が封入されている。非圧縮性流体は、特に限定されないが、例えば、水、エチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、それらの混合液などが採用され得る。
【0034】
流体室38には、仕切部材40が配されている。仕切部材40は、図2図3に示すように、略円板形状とされており、第一の仕切板42と第二の仕切板44とを有している。
【0035】
第一の仕切板42は、全体として円板形状とされており、金属や合成樹脂等で形成された硬質の部材とされている。第一の仕切板42の外周端部には、外周面に開口して周方向に延びる周溝46が形成されている。第一の仕切板42の中央部分には、周溝46よりも内周において上面に開口する円形の中央凹部48が形成されている。中央凹部48の底壁には、中央を上下方向に貫通する円形断面の第一の中央透孔50と、第一の中央透孔50よりも外周を上下方向に貫通する複数の第一の外周透孔52とが、形成されている。第一の仕切板42の中央部分には、下面に開口する円形の収容凹部54が形成されている。収容凹部54は、中央凹部48よりも大径且つ浅底とされており、収容凹部54の外周端が中央凹部48よりも外周に位置している。収容凹部54の上底壁内面である第一の壁内面55は、径方向の中間部分が下方へ突出する第一の狭窄部56とされている。第一の中央透孔50と第一の外周透孔52は、中央凹部48と収容凹部54の底壁部の共通部分を貫通して、中央凹部48と収容凹部54をつないで形成されている。
【0036】
第二の仕切板44は、第一の仕切板42と同様に硬質の部材とされており、第一の仕切板42よりも薄肉の略円板形状とされている。第二の仕切板44の中央部分には、上下方向に貫通する円形断面の第二の中央透孔58が形成されている。第二の仕切板44における第二の中央透孔58よりも外周には、上下方向に貫通する複数の第二の外周透孔60が周方向に並んで形成されている。第二の仕切板44における第二の外周透孔60の周方向間には、上方へ突出する第二の狭窄部62が設けられている。第二の仕切板44における第二の狭窄部62よりも外周には、上面に開口して周方向に延びる溝状のシール当接部64が設けられている。シール当接部64及びシール当接部64よりも内周部分で構成される第二の仕切板44の上面は、仕切部材40において第一の壁内面55と上下方向で対向する第二の壁内面65とされている。
【0037】
第一の仕切板42と第二の仕切板44は、上下方向で相互に重ね合わされている。第一の仕切板42の下面に第二の仕切板44が重ね合わされることによって、第一の仕切板42の収容凹部54の開口が第二の仕切板44によって覆われて、第一の仕切板42と第二の仕切板44の間に収容空所66が形成されている。収容空所66の後述する受圧室84側となる上側の壁内面が第一の仕切板42の第一の壁内面55で構成され、収容空所66の後述する平衡室86側となる上側の壁内面が第二の仕切板44の第二の壁内面65で構成されている。仕切部材40において、第一の中央透孔50と第一の外周透孔52が収容空所66の上壁部を貫通して収容空所66に連通されていると共に、第二の中央透孔58と第二の外周透孔60が収容空所66の下壁部を貫通して収容空所66に連通されている。第一の中央透孔50と第二の中央透孔58が、上下方向で相互に対応する位置に配されていると共に、第一の外周透孔52と第二の外周透孔60が、上下方向で相互に対応する位置に配されている。
【0038】
仕切部材40の収容空所66には、可動膜68が配されている。可動膜68は、図4図5に示すように、全体として円板形状を有している。可動膜68は、ゴム弾性体によって形成されており、厚さ方向の弾性的な撓み変形が許容されている。なお、要求される防振性能や後述する弾性突部70の変形剛性などに応じて、可動膜68には、例えば金属や樹脂等の硬質プレートが部分的又は全体にわたって埋設されることで部分的又は全体的な変形特性が調節されていてもよい。
【0039】
可動膜68の外周端部には、上方へ突出する弾性突部70が一体形成されている。弾性突部70は、可動膜68の外周端部から後述する受圧室84側となる上方へ向けて突出している。弾性突部70は、周方向で相互に離隔する複数が設けられている。弾性突部70は、略円形断面を有している。弾性突部70は、突出先端に向けて次第に収縮する(小径となる)先細形状とされている。弾性突部70の突出先端面は、平坦面や先鋭形状の凸面等であってもよいが、本実施形態では突出先端に向けて凸の球冠状湾曲面とされている。弾性突部70の数や配置は特に限定されないが、本実施形態では、16個の弾性突部70が周方向で略等間隔に並んで配されている。
【0040】
可動膜68の外周端部には、シール部72が設けられている。シール部72は、可動膜68の外周端部における下端部分であって、本実施形態ではシールリップとしての外周リップ74及び内周リップ76を備えている。外周リップ74は、図6に拡大して示すように、可動膜68の外周縁部から後述する平衡室86側である下方へ向けて突出しており、周方向に連続して延びる環状とされている。内周リップ76は、外周リップ74よりも内周において下方へ向けて突出しており、外周リップ74と並列的に周方向へ延びる環状とされている。
【0041】
可動膜68の内周部分には、上下両面に複数の緩衝突起78がそれぞれ設けられている。緩衝突起78は、略半球形状とされている。緩衝突起78は、突出高さ寸法及び幅寸法が弾性突部70よりも小さくされている。本実施形態の緩衝突起78は、図4図6に示すように、微小な突起とされており、複数が略十字状に並んで配されている。
【0042】
可動膜68は、図1に示すように、仕切部材40の収容空所66に配されている。可動膜68は、弾性突部70とシール部72を備える外周端部が第一の外周透孔52及び第二の外周透孔60よりも外周に位置しており、第一の仕切板42と第二の仕切板44の対向間に配されている。そして、可動膜68の外周端部は、弾性突部70が第一の仕切板42の第一の壁内面55に押し当てられていると共に、シール部72が第二の仕切板44の第二の壁内面65(シール当接部64)に押し当てられており、それら第一の仕切板42と第二の仕切板44の上下間に挟持されている。また、収容空所66の内周部分の上下寸法は、可動膜68の内周部分の上下寸法よりも大きくされており、可動膜68の内周部分は弾性変形を伴う上下方向の変位が許容されている。
【0043】
可動膜68の外径寸法は、収容空所66の内径寸法よりも小さくされており、可動膜68が収容空所66に配された状態において、可動膜68の外周面と収容空所66の周壁内面とが径方向で相互に離れて対向している。これにより、可動膜68の外周面と収容空所66の周壁内面との径方向間には、周方向に延びる環状の隙間80が設けられている。本実施形態では、隙間80が周方向の全周にわたって設けられているが、後述するように受圧室84の内圧が低下した際に、隙間を含んで構成されるリリーフ通路によりキャビテーションの発生が十分に防止されるのであれば、可動膜の外周面と収容空所の周壁内面との径方向間の隙間は周方向で部分的であってもよい。
【0044】
弾性突部70が収容空所66の上壁内面に押し当てられた状態において、周方向で隣り合って配置された弾性突部70,70の周方向間には空隙が維持されている。弾性突部70,70間の空隙によって、可動膜68と仕切部材40の間を延びて隙間80に連通される連通路82が形成されている。本実施形態では、複数の連通路82が放射状に延びているが、連通路は、必ずしも可動膜68の径方向に延びている必要はないし、複数であれば形成数が限定されるものでもない。可動膜68の外周端部は、弾性突部70の形成部分において収容空所66の後述する受圧室84側の壁内面(第一の壁内面55)に当接していると共に、弾性突部70を周方向に外れた位置では第一の壁内面55から離隔している。従って、収容空所66の受圧室84側の壁内面55に当接する当接部が、弾性突部70によって構成されており、周方向で部分的に設けられている。要するに、本実施形態では、可動膜68の外周端部において当接部である弾性突部70を周方向で外れた位置に、隙間80に連通された連通路82が設けられている。
【0045】
シール部72は、第二の仕切板44のシール当接部64に全周にわたって押し当てられており、隙間80と第二の中央透孔58及び第二の外周透孔60との連通を防止するシール構造が、シール部72によって構成されている。本実施形態では、シール部72が外周リップ74と内周リップ76を備えており、外周リップ74と内周リップ76の両方が第二の仕切板44に押し付けられることによって、2重のシール構造が設けられている。もっとも、1つのシールリップによるシール構造や、3つ以上のシールリップによる多重のシール構造なども採用され得る。また、シールリップは、なくてもよい。
【0046】
このように、弾性突部70とシール部72を備えた可動膜68の外周端部は、仕切部材40によって上下方向で挟み込まれて支持されている。可動膜68の内周部分は、撓み変形を伴う上下方向の微小変位が収容空所66内で許容されている。
【0047】
可動膜68を収容した仕切部材40は、図1に示すように、流体室38に配されている。流体室38に配された仕切部材40は、軸直角方向に広がっており、外周面が第二の取付部材14の小径筒部24の内周面に重ね合わされて支持されている。仕切部材40の外周面は、第二の取付部材14に対してシールゴム層32を介して重ね合わされていることから、仕切部材40と第二の取付部材14の重ね合わせ面間が流体密に封止されている。第二の取付部材14と仕切部材40の固定方法は、特に限定されないが、例えば、第二の取付部材14の内周へ仕切部材40が挿入された状態で、第二の取付部材14を縮径加工し、第二の取付部材14の内周面と仕切部材40の外周面をシールゴム層32を介して押し当てることによって固定される。なお、第二の取付部材14の縮径加工によって、本体ゴム弾性体16の予圧縮と、可撓性膜34の第二の取付部材14への取付けと、仕切部材40の第二の取付部材14への取付けとを、一度に行うことができる。
【0048】
流体室38が仕切部材40によって上下に二分されており、受圧室84と平衡室86が画成されている。即ち、流体室38における仕切部材40よりも上側は、壁部の一部が本体ゴム弾性体16によって構成された受圧室84とされている。流体室38における仕切部材40よりも下側は、壁部の一部が可撓性膜34によって構成された平衡室86とされている。受圧室84と平衡室86は、何れも非圧縮性流体が封入されており、受圧室84は振動入力時に内圧変動が惹起され、平衡室86は容積変化が許容されている。なお、例えば、第二の取付部材14に対する可撓性膜34と仕切部材40の取付作業を非圧縮性流体中で行うことによって、受圧室84と平衡室86に非圧縮性流体を封入することができる。
【0049】
仕切部材40が第二の取付部材14に取り付けられることにより、周溝46の開口がシールゴム層32で覆われた第二の取付部材14によって流体密に塞がれて、周方向に延びる流路が形成される。この流路は、一方の端部が第一の仕切板42に形成された第一の連通口88を通じて受圧室84に連通されると共に、他方の端部が第二の仕切板44に形成された第二の連通口90を通じて平衡室86に連通される。これにより、受圧室84と平衡室86を相互に連通するオリフィス通路92が、周溝46を利用して形成されている。オリフィス通路92は、受圧室84の壁部のばねなどを考慮しながら通路長と通路断面積の比を調節することにより、流動流体の共振周波数が防振対象振動の周波数にチューニングされる。本実施形態では、オリフィス通路92のチューニング周波数が、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波に設定されている。
【0050】
仕切部材40の収容空所66は、第一の中央透孔50及び第一の外周透孔52を通じて受圧室84に連通されていると共に、第二の中央透孔58及び第二の外周透孔60を通じて平衡室86に連通されている。そして、収容空所66に配された可動膜68は、上面に受圧室84の液圧が及ぼされていると共に、下面に平衡室86の液圧が及ぼされている。従って、受圧室84と平衡室86に相対的な内圧差が生じると、可動膜68に対して上下方向の力が作用し、可動膜68が変形乃至は変位する。可動膜68は、撓み変形の共振周波数が、オリフィス通路92のチューニング周波数よりも高周波の防振対象振動の周波数に設定されており、当該防振対象振動の入力によって共振状態で積極的に変形するようになっている。
【0051】
可動膜68の外周に設けられた隙間80は、連通路82と第一の中央透孔50及び第一の外周透孔52とを通じて受圧室84に連通されている。
【0052】
可動膜68のシール部72と収容空所66の第二の壁内面65との当接によるシール構造によって、隙間80は平衡室86に連通されておらず、受圧室84と平衡室86が収容空所66を介して連通されることなく、可動膜68で遮断されている。なお、シール部72と第二の壁内面65との当接によるシール構造は、必ずしも流体の流動を完全に阻止するものに限定されず、通常の振動入力時に防振性能の低下を招くほどの流体流動を防ぐものであればよい。
【0053】
かくの如き構造とされたエンジンマウント10は、例えば、第一の取付部材12がブラケット装着部18に嵌め入れられる図示しないインナブラケットを介してパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付部材14が外嵌装着される図示しないアウタブラケットを介して車両ボデーに取り付けられて、車両に装着される。
【0054】
エンジンマウント10の車両への装着状態において、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間へエンジンシェイク等に相当する低周波大振幅振動が上下方向に入力されると、壁部の一部が本体ゴム弾性体16によって構成された受圧室84において内圧変化が生じる。そして、受圧室84と平衡室86の相対的な圧力差に基づいて、オリフィス通路92を通じた受圧室84と平衡室86の間の流体流動が共振状態で積極的に生じ、流体の流動作用に基づいた防振効果(振動減衰効果)が発揮される。
【0055】
低周波大振幅振動の入力時には、可動膜68の変形が入力振動の振幅に追従し得ず、可動膜68が実質的に拘束された状態となって、可動膜68の変形による受圧室84の液圧を吸収する作用が十分に発揮されない。それゆえ、受圧室84と平衡室86の内圧差が大きく確保されて、オリフィス通路92を通じた流体流動が効率的に生じ、オリフィス通路92による防振効果を有利に得ることができる。なお、大きく変形した可動膜68が収容空所66の壁内面55,65に打ち当たって拘束される際に、可動膜68の表裏両面に突出する微小な緩衝突起78が収容空所66の壁内面55,65に優先的に当接することから、当接時の打音が低減される。
【0056】
オリフィス通路92のチューニング周波数よりも高周波のアイドリング振動等に相当する中乃至高周波小振幅振動が入力されると、オリフィス通路92は、反共振によって実質的に遮断される。可動膜68は、入力振動に応じて共振状態で積極的に撓み変形し、振動入力によって生じる受圧室84の内圧変動を吸収する。これにより、受圧室84の実質的な密閉化による著しい高度ばね化が回避され、低動ばね化による防振効果(振動絶縁効果)が発揮される。
【0057】
車両が走行時に段差を乗り越える等して著しく振幅の大きな振動が入力され、受圧室84の内圧が大幅に低下すると、可動膜68には、受圧室84と平衡室86の相対的な内圧差に基づいて、受圧室84側である上側へ向けた力が作用する。この力の作用によって、図7に示すように、可動膜68の弾性突部70が上下方向において圧縮されて縮んで、可動膜68の外周端部の下面が上方へ変位し、可動膜68の外周端部に設けられたシール部72が、収容空所66の第二の壁内面65を構成するシール当接部64から、例えば周方向の略全周にわたって上方へ離隔する。特に、本実施形態では、可動膜68の外周端部において弾性突部70の形成部位以外の変形が比較的抑制されつつ、弾性突部70が上下方向で効率的に圧縮変形されることになる。この結果、可動膜68の外周端部におけるシール部72が、弾性突部70の形成部分を含めて周方向の略全周にわたって上方へ変位して、シール当接部64から離隔する。これにより、可動膜68の外周側に設けられた隙間80が、第二の外周透孔60を通じて平衡室86に連通され、受圧室84と平衡室86を相互に連通するリリーフ通路94が、隙間80と連通路82を含んで構成される。そして、リリーフ通路94を通じて平衡室86から受圧室84へ封入流体が流入することにより、受圧室84の内圧低下が速やかに軽減乃至は解消されて、受圧室84の内圧低下に起因するキャビテーションの発生が防止される。その結果、キャビテーションに起因する異音や振動の発生が防止されて、車両の静粛性や乗り心地の改善が図られる。
【0058】
リリーフ通路94は、可動膜68の外周端部を回り込むように設けられていることから、従来構造のように可動膜の中央部分に設けられる場合に比して、周方向の長さ寸法が大きく、通路断面積が大きく確保されている。これにより、リリーフ通路94の流量が大きくされており、平衡室86から受圧室84へ封入流体が速やかに流入し、受圧室84の負圧が迅速に低減される。また、リリーフ通路94は、オリフィス通路92よりも通路長が短く、通路断面積の通路長に対する比が大きい。リリーフ通路94は、オリフィス通路92よりも流動抵抗が小さく、流量が大きく確保される。
【0059】
弾性突部70は、先細形状とされていることから、圧縮変形量が大きくなるにしたがって非線形的にばねが大きくなり、更なる圧縮変形が生じ難くなる。それゆえ、受圧室84の内圧が大幅に低下する場合に、弾性突部70の圧縮変形によるリリーフ通路94の速やかな開作動を許容しながら、弾性突部70の過大な潰れによる連通路82の遮断が回避されて、リリーフ通路94の連通状態が維持される。
【0060】
なお、著しく振幅の大きな振動が入力され、受圧室84の内圧が大幅に上昇すると、シール部72が更に圧縮されて、可動膜68の外周端部が下方へ変位し得る。この場合に、仮に弾性突部70の先端面が収容空所66の第一の壁内面55から離れたとしても、弾性突部70の突出先端面が先細の球冠形状とされていることによって、第一の壁内面55に再び当接する際の打音が低減される。
【0061】
図8には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第二の実施形態として、自動車用のエンジンマウント100が示されている。以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材及び部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
【0062】
エンジンマウント100は、可動膜102が仕切部材104の収容空所66に配された構造を有している。可動膜102は、外周端部において第一の実施形態に示した弾性突部70を備えておらず、外周端部の上面が平坦面とされている。
【0063】
仕切部材104を構成する第一の仕切板106は、収容空所66の受圧室84側の壁内面(第一の壁内面55)に開口する複数の凹溝108を備えている。凹溝108は、収容空所66の外周部分において径方向に延びており、内周端部が第一の外周透孔52に開放されている。換言すれば、収容空所66の受圧室84側の壁内面(第一の壁内面55)には、径方向に延びて下方に突出する複数の凸条が設けられており、当該複数の凸条の周方向間により相対的に下方に開口する凹溝108が形成されると把握することもできる。即ち、かかる凸条は第一の仕切板106と一体的に形成されており、硬質の凸条とされている。なお、この凸条は弾性を有する凸条でもよく、例えば第一の仕切板106とは別体で形成された弾性を有する凸条が後固着されることで、複数の凹溝108が形成されるようになっていてもよい。
【0064】
収容空所66の第一の壁内面55は、凹溝108を周方向に外れた部分が、可動膜102の外周端部の上面に当接している。これにより、可動膜102の外周端部は、凹溝108を周方向に外れた部分で仕切部材104によって上下方向に挟持されている。従って、可動膜102の外周端部において、凹溝108を周方向に外れて第一の仕切板106に当接する部分が、本実施形態の当接部とされている。
【0065】
収容空所66に可動膜102が配されることによって、凹溝108の下開口が可動膜102に覆われており、径方向に延びる連通路110が凹溝108によって構成されている。連通路110は、内周端部が第一の外周透孔52を通じて受圧室84に連通されていると共に、外周端部が可動膜102の外周側に設けられた隙間80に連通されている。
【0066】
このような本実施形態に従う構造とされたエンジンマウント100は、第一の実施形態と同様に、振動入力によって受圧室84の内圧が大幅に低下する際に、受圧室84と平衡室86が隙間80と連通路110を含んで構成される図示しないリリーフ通路によって連通される。即ち、受圧室84の内圧が大幅に低下すると、受圧室84と平衡室86の相対的な圧力差によって受圧室84側へ向けた力が可動膜102に作用し、可動膜102の外周端部の当接部が上下方向において圧縮される。これにより、可動膜102の外周端部が受圧室84側へ変位し、可動膜102のシール部72が収容空所66の平衡室86側の壁内面(第二の壁内面65)を構成するシール当接部64から離隔する。その結果、連通路110を通じて受圧室84に連通された隙間80が、シール部72とシール当接部64の間と第二の外周透孔60とを通じて平衡室86に連通され、受圧室84と平衡室86を連通するリリーフ通路が、隙間80と連通路110を含んで構成される。そして、リリーフ通路を通じて平衡室86から受圧室84へ封入流体が流入することにより、受圧室84の内圧低下が抑制されて、キャビテーションの発生が防止される。
【0067】
第一の実施形態では、可動膜68に弾性突部70を設けて、可動膜68の外周部分における第一の壁内面55への重ね合わせ部分に凹凸を設けることにより、連通路82と当接部が形成されていたが、本実施形態のように、仕切部材104における可動膜102の挟持部分に凹凸を設けることによって、連通路110と当接部を形成することもできる。
【0068】
図9には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第三の実施形態としてのエンジンマウントにおける仕切部材120が示されている。なお、本実施形態における流体封入式防振装置において仕切部材120以外の構造は、第一の実施形態と同様の構造が採用され得ることから、図示を省略する。尤も、仕切部材120及び仕切部材120の内部に収容される可動膜122の形状なども第一の実施形態における仕切部材40及び可動膜68と同様であるが、本実施形態における可動膜122は、第一の実施形態における可動膜68に比して、例えば各部位における変形剛性等が異ならされている。これにより、本実施形態では、第一の実施形態とは異なる態様をもってリリーフ通路124が発現するようになっている。
【0069】
具体的には、例えば第一の実施形態では、可動膜68及び弾性突部70などの材質や大きさ、装着状態の圧縮率などが変更調節されることによって、弾性突部70の圧縮変形が容易に生じて可動膜68の外周端部が全体にわたってシール当接部64から浮き上がってリリーフ通路94が発現するようになっていたが、本実施形態では、弾性突部126を含む可動膜122の弾性変形特性が、第一の実施形態とは異ならされている。
【0070】
本実施形態では、可動膜122に対して両側面に相対的な圧力差が及ぼされた際における弾性変形が、可動膜122の面の撓み方向の弾性変形として発現されやすく、弾性突部126の突出方向となる圧縮変形としては発現され難くなっている。それ故、例えば受圧室84の内圧が低下した場合には、受圧室84と平衡室86の相対的な内圧差の作用により可動膜122に対して上側へ向けた力が作用して、図9にも示されるように、可動膜122の外周端部において弾性突部126が設けられていない部分(弾性突部126による変形拘束力が及ぼされ難い、周方向で隣り合う弾性突部126,126の中間部分)が上方へ持ち上がるように弾性的に撓み変形する。かかる変形状態の可動膜122を図10に示す。なお、図10においては、緩衝突起78の図示を省略する。
【0071】
すなわち、図9に示されるように、可動膜122の外周端部において弾性突部126の形成部位では、弾性突部126が収容空所66における受圧室84側の壁内面(第一の壁内面55)に当接していると共に、シール部72が収容空所66における平衡室86側の壁内面(第二の壁内面65)に当接している(図9の右側参照)。一方、図10にも示されるように、可動膜122の外周端部において弾性突部126,126の周方向間は、シール部72が収容空所66における平衡室86側の壁内面(第二の壁内面65)から上方へ離隔するように変形する。このように、可動膜122の外周端部において弾性突部126,126の周方向間に上方への変形部分128が設けられることで、シール部72において変形部分128と対応する周方向位置に第二の壁内面65から浮き上がる浮き上がり部分130が設けられる。そして、かかる浮き上がり部分130の形成位置では、シール部72によるシール当接部64への当接が解除されることから、浮き上がり部分130により生じる間隙を通じて、隙間80と平衡室86とが連通される。
【0072】
このように、本実施形態では、隙間80と平衡室86とを連通する間隙が、弾性突部126,126の周方向間と同じ周方向位置に設けられることとなり、周方向の全周にわたって断続的に設けられている。これにより、隙間80及び連通路82を含んで構成されるリリーフ通路124を通じて受圧室84と平衡室86とが連通状態とされて、キャビテーションの発生が防止される。
【0073】
上記の如き構造の仕切部材120を有する本実施形態のエンジンマウントにおいても、第一の実施形態と同様の効果が発揮され得る。特に、第一の実施形態とは異なり、可動膜122に比して弾性突部126の変形剛性が比較的に大きい場合でも、可動膜122の外周端部における弾性突部126,126の周方向間(変形部分128)が変形して、シール部72において浮き上がり部分130を生じさせてリリーフ通路124を連通状態とさせることができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、弾性突部70は、周方向にある程度の長さを有していてもよく、周方向に所定長さで連続して延びる形状とされ得る。また、例えば、環状の突条に周方向で部分的な溝が複数形成されることにより、それら溝の周方向間を弾性突部とすることもできる。
【0075】
受圧室84と収容空所66をつなぐ透孔は、第一の中央透孔50と第一の外周透孔52を備えていなくてもよく、例えば第一の外周透孔52だけでもよい。平衡室86と収容空所66をつなぐ透孔は、第二の中央透孔58と第二の外周透孔60を備えていなくてもよく、例えば第二の外周透孔60だけでもよい。
【0076】
シール部のシール当接部への押当てによる具体的なシール構造は、シール部とシール当接部の間が流体密に封止される構造であれば特に限定されない。具体的には、例えば、シール部におけるシール当接部への当接面が平坦面とされており、周方向に連続してシール当接部から突出するシール突起をシール部の平坦面へ押し当てることによって、シール部とシール当接部の間がシールされるようにしてもよい。また、流体密性を確保可能であれば、シール部とシール当接部の両方の当接面が平坦面であってもよい。
【0077】
また、可動膜において変形する部分や具体的な変形態様などは限定されるものではなく、例えば可動膜における中央部分が変形して、かかる変形が外周端部まで伝播することで可動膜の外周端部におけるシール部が第二の仕切板におけるシール当接部から離隔して、受圧室と平衡室とがリリーフ通路により連通されるようになっていてもよい。本発明に係る流体封入式防振装置において、可動膜や弾性突部の変形剛性等は、サイズや形状などを含めて限定されるものではなく、受圧室の内圧が低下した際における可動膜や弾性突部の変形態様も限定されるものではない。それ故、可動膜の形状を所望の防振特性等に応じて任意に設計することができて、本発明では、設計自由度の高い流体封入式防振装置を提供することができる。
【0078】
なお、前記第三の実施形態において、受圧室84の内圧が低下して可動膜68に対して上側への力が作用した場合に、変形部分128だけでなく、弾性突部126も第一の仕切板42に押し付けられることで上下方向で十分に圧縮されてもよく、シール部72とシール当接部64との間の間隙は、周方向の全周にわたる環状部分を有しつつ、浮き上がり部分130の形成位置(周方向で隣り合う弾性突部126,126間の略中央)において間隙の上下方向寸法が大きくなる、第一の実施形態と第三の実施形態を組み合わせたような態様(発現される間隙の大きさが周方向において変化する態様)が採用されてもよい。
【符号の説明】
【0079】
10 エンジンマウント(流体封入式防振装置 第一の実施形態)
12 第一の取付部材
14 第二の取付部材
16 本体ゴム弾性体
18 ブラケット装着部
20 固着部
22 大径筒部
24 小径筒部
26 凹所
28 ストッパゴム
30 嵌合ゴム
32 シールゴム層
34 可撓性膜
36 固定部材
38 流体室
40 仕切部材
42 第一の仕切板
44 第二の仕切板
46 周溝
48 中央凹部
50 第一の中央透孔
52 第一の外周透孔
54 収容凹部
55 第一の壁内面
56 第一の狭窄部
58 第二の中央透孔
60 第二の外周透孔
62 第二の狭窄部
64 シール当接部
65 第二の壁内面
66 収容空所
68 可動膜
70 弾性突部(当接部)
72 シール部
74 外周リップ(シールリップ)
76 内周リップ(シールリップ)
78 緩衝突起
80 隙間
82 連通路
84 受圧室
86 平衡室
88 第一の連通口
90 第二の連通口
92 オリフィス通路
94 リリーフ通路
100 エンジンマウント(流体封入式防振装置 第二の実施形態)
102 可動膜
104 仕切部材
106 第一の仕切板
108 凹溝
110 連通路
120 仕切部材(第三の実施形態)
122 可動膜
124 リリーフ通路
126 弾性突部
128 変形部分
130 浮き上がり部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10