(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083399
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】自己組立性ブロック共重合体を含む膜-電極接合体用電解質膜
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1046 20160101AFI20220527BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20220527BHJP
C08F 293/00 20060101ALI20220527BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20220527BHJP
C08L 53/00 20060101ALI20220527BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20220527BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20220527BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20220527BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20220527BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20220527BHJP
【FI】
H01M8/1046
H01B1/06 A
C08F293/00
C08L23/26
C08L53/00
C25B13/08 301
C25B13/04 301
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163737
(22)【出願日】2021-10-04
(31)【優先権主張番号】10-2020-0158595
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞株式会社
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】チェ、イルソク
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
4K021
5G301
5H126
【Fターム(参考)】
4J002BB231
4J002BP032
4J002GQ00
4J026HA08
4J026HA11
4J026HA19
4J026HA22
4J026HA29
4J026HA32
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4J026HB02
4J026HB08
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4J026HB19
4J026HB22
4J026HB29
4J026HB32
4J026HB39
4J026HB45
4J026HB48
4J026HB50
4J026HE01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC03
5G301CD01
5G301CE01
5H126AA05
5H126JJ00
5H126JJ01
5H126JJ05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】膜-電極接合体用固体高分子電解質膜の性能を維持しつつ、耐久性が向上した膜-電極接合体用電解質膜を提供する。
【解決手段】膜-電極接合体用電解質膜は、アイオノマー;および前記アイオノマーに分散された添加剤を含み、前記添加剤は、親水性ドメイン(Hydrophilic domain)および疎水性ドメイン(Hydrophobic domain)を含むブロック共重合体を含み、前記親水性ドメインは、陽イオン伝導性の繰り返し単位を含み、前記疎水性ドメインは、酸化防止性の繰り返し単位を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイオノマー;および
前記アイオノマーに分散された添加剤を含み、
前記添加剤は、親水性ドメイン(Hydrophilic domain)および疎水性ドメイン(Hydrophobic domain)を含むブロック共重合体を含むものである、膜-電極接合体用電解質膜。
【請求項2】
前記親水性ドメインは、陽イオン伝導性の繰り返し単位を含むものである、請求項1に記載の膜-電極接合体用電解質膜。
【請求項3】
前記陽イオン伝導性の繰り返し単位は、下記化学式1-1ないし化学式1-5で表される繰り返し単位のうち少なくともいずれか一つを含むものである、請求項2に記載の膜-電極接合体用電解質膜。
【化1】
【化2】
【請求項4】
前記疎水性ドメインは、酸化防止性の繰り返し単位を含むものである、請求項1に記載の膜-電極接合体用電解質膜。
【請求項5】
前記酸化防止性の繰り返し単位は、下記化学式2-1ないし化学式2-10で表される繰り返し単位のうち少なくともいずれか一つを含むものである、請求項4に記載の膜-電極接合体用電解質膜。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項6】
前記ブロック共重合体は、前記親水性ドメインの繰り返し単位数(n)と、前記疎水性ドメインの繰り返し単位数(m)との割合(n:m)が20:80~70:30であるものである、請求項1に記載の膜-電極接合体用電解質膜。
【請求項7】
前記ブロック共重合体は、数平均分子量(Mn)が25,000以下であるものである、請求項1に記載の膜-電極接合体用電解質膜。
【請求項8】
前記ブロック共重合体は、コア部および前記コア部を取り囲むシェル部を含むミセル(Micelle)の形態であり、
前記コア部は、疎水性ドメインを含み、前記シェル部は、親水性ドメインを含むものである、請求項1に記載の膜-電極接合体用電解質膜。
【請求項9】
前記ブロック共重合体は、粒子半径が4nmないし6nmであるものである、請求項1に記載の膜-電極接合体用電解質膜。
【請求項10】
前記アイオノマー100重量部を基準として、前記添加剤を1重量部ないし10重量部含むものである、請求項1に記載の膜-電極接合体用電解質膜。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の電解質膜;および前記電解質膜の両面に位置する一対の電極を含む、膜-電極接合体。
【請求項12】
請求項11に記載の膜-電極接合体を含む、燃料電池。
【請求項13】
請求項11に記載の膜-電極接合体を含む、水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性ドメインおよび疎水性ドメインからなるブロック共重合体を含む膜-電極接合体用電解質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素イオン交換膜燃料電池(PEMFC、Proton Exchange Membrane Fuel Cell)は、基本的には、水素燃料である酸化極(anode)、酸素が供給される還元極(cathode)および二つの電極の間に配置される高分子電解質膜(Polymer Electrolyte Membrane)を含み、このような構成を膜-電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)とする。前記燃料電池の電気生成のための反応は、アノードに供給された水素が水素イオン(Proton)と電子(Electron)とに分離された後、水素イオンは、膜を介して還元極であるカソード側に移動し、電子は、外部回路を介してカソードに移動することになり、前記カソードで酸素分子、水素イオンおよび電子が共に反応して電気と熱を生成すると同時に、反応副産物として水(H2O)を生成することになる。
【0003】
ここで、高分子電解質膜は、酸化極で発生した水素イオンを還元極に伝達する役割および燃料である水素が直接酸素と接しないようにする隔膜の役割を担当する。通常、過フッ素スルホン酸系アイオノマー(PFSA:Perfluorinated Sulfonic Acid Ionomer)で構成された電解質膜(Membrane)は、高い水素イオン伝導度(Proton Conductivity)および様々な加湿条件での高い性能および安定性により、高分子電解質膜燃料電池(Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell)の分野で最も一般的に使用される電解質膜である。しかし、純粋な過フッ素スルホン酸系アイオノマー電解質膜は、100℃以上の温度で熱分解(Thermal Degradation)が生じやすく、また、水素イオン伝導度が低いため、機械的および寸法安定性が急激に減少するような多くの問題点が存在する。このような理由から、一般的な過フッ素系アイオノマー電解質膜を適用した燃料電池の運転は、通常、100℃未満、好ましくは80℃以下の範囲に限定して使用される。また、水素イオン伝導は、水分の存在下でスルホン酸官能基(-SO3H group)を通じた水素イオンの交換に依存するため、高分子電解質膜の水和レベル(hydration level)を最適に維持する必要がある。
【0004】
一般的に、燃料電池の反応ガスである水素および空気中の酸素は、電解質膜を介して交差移動(Crossover)をして過酸化水素(Hydrogen Peroxide:HOOH)の生成を促進するが、このような過酸化水素は、ヒドロキシルラジカル(Hydroxyl Radical、・OH)およびヒドロペルオキシルラジカル(Hydroperoxyl Radical、・OOH)のような高反応性酸素含有ラジカル(Oxygen-Containing Radicals)を生成することになる。このようなラジカルは、過フッ素スルホン酸系電解質膜および電極のアイオノマー(Ionomer)を攻撃して膜および電極の化学的劣化(Chemical Degradation)を誘発し、結局、燃料電池の耐久性を低下させる悪影響を及ぼすことになる。
【0005】
従来、このような化学的劣化(Chemical Degradation)を緩和(Mitigation)するための技術として、様々な種類の酸化防止剤(Antioxidant)を添加する方法が提案されていた。このような酸化防止剤は、ラジカル捕集剤(Radical Scavenger or Quencher)機能を有する一次酸化防止剤(Primary Antioxidant)と過酸化水素分解剤(Hydrogen Peroxide Decomposer)機能を有する二次酸化防止剤(Secondary Antioxidant)をそれぞれ単独で用いるか、または、互いに混合して用いてもよい。通常のポリオレフィン系列のプラスチック産業において、一次酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、モノフェノール系・ビスフェノール系・高分子型フェノール系酸化防止剤と、アミン系酸化防止剤とがこれに属している。過酸化物分解剤であり、二次酸化防止剤としては、硫黄系酸化防止剤と、リン系酸化防止剤が報告されている。例えば、ポリプロピレンは、ポリエチレンよりも酸化しやすいので、0.1~1.0%の2.6-di-t-Butyl-4-methylphenol(BHT)のフェノール系酸化防止剤と、ジラウリルチオジプロピオネート(Dilauryl thiodipropionate)、ジステアリルチオジプロピオネート(Distearyl thiodipropionate)など二次酸化防止剤と併用して使用することが実用的であると知られている。
【0006】
燃料電池用過フッ素スルホン酸系電解質膜およびアイオノマーに使用される代表的な一次酸化防止剤では、セリウム硝酸六水和物(Cerium(III)Nitrate Hexahydrate)およびセリウム酸化物(Cerium Oxide or Ceria)などのセリウム系(Cerium Group)が知られている。また、二次酸化防止剤では、マンガン酸化物(Manganese Oxide)などのマンガン系と白金(Platinum:Pt)などの遷移金属触媒(Transition Metal Catalyst)などがある。
【0007】
しかし、前記一次または二次酸化防止剤として金属塩の形態を使用すると、金属イオンが過フッ素スルホン酸系アイオノマーのスルホン酸基末端に結合して水素イオンが移動し得る経路を遮断することになる。また、金属あるいは金属酸化物は、数十から数百ナノサイズの粒子が電解質膜の水和された微細チャンネルを塞ぐことにより、水素イオンの移動を妨害する。したがって、一般的に金属塩または金属の形態の酸化防止剤の使用は、電解質膜の化学的耐久性(Chemical Durability)を向上させると共に、逆に電解質膜の水素イオン伝導度(Proton Conductivity)は減少させることがある。
【0008】
日本国特許第4876407号は、燃料電池において、前記金属あるいは金属塩以外の酸化防止剤として、標準酸化還元電位が0.68[V]~1.00[V]の範囲の有機酸化-還元化合物を用いた酸化防止剤を発明した。代表的に、ニトロオキシドラジカル(NO・、Nitroxide Radical)基を有するTEMPO((2,2,6,6-Tetramethylpiperidin-1-yl)oxyl)の化合物は、下記[反応式1]のように、ヒドロキシルラジカルを水酸化物(OH
-)に変換することができる一次酸化防止剤の役割と、下記[反応式2]のように、過酸化水素分解剤であり、二次酸化防止剤の役割をする一および二次複合有機酸化剤である。
【化1】
【0009】
しかし、分子量が低い有機酸化還元化合物は、燃料電池の動作中、電解質膜に固定(Immobilization)されることなく、容易に水和チャンネルを通じて拡散および溶出され得るジメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】日本国特許第4876407号
【特許文献2】日本国特許第5023475号
【特許文献3】日本国特許第4910310号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、電解質膜の性能を維持しつつ、耐久性を向上することができる添加剤を提供することを目的とする。
【0012】
本発明は、電解質膜の水素イオン伝導性および酸化防止性を共に向上することができる添加剤を提供することを目的とする。
【0013】
本発明は、電解質膜で溶出されることなく、その機能を長時間維持することができる添加剤を提供することを目的とする。
【0014】
本発明の目的は、以上で言及した目的に制限されない。本発明の目的は、以下の説明でさらに明らかになるはずであり、特許請求の範囲に記載された手段およびその組み合わせで実現されるはずである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る膜-電極接合体用電解質膜は、アイオノマーおよび前記アイオノマーに分散された添加剤を含み、前記添加剤は、親水性ドメイン(Hydrophilic domain)および疎水性ドメイン(Hydrophobic domain)を含むブロック共重合体を含んでもよい。
【0016】
前記親水性ドメインは、陽イオン伝導性の繰り返し単位を含むものであってもよい。
前記陽イオン伝導性の繰り返し単位は、下記化学式1-1ないし化学式1-5で表される繰り返し単位のうち少なくともいずれか一つを含むものであってもよい。
【化2】
【化3】
【0017】
前記疎水性ドメインは、酸化防止性の繰り返し単位を含むものであってもよい。
前記酸化防止性の繰り返し単位は、下記化学式2-1ないし化学式2-10で表される繰り返し単位のうち少なくともいずれか一つを含むものであってもよい。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【0018】
前記ブロック共重合体は、前記親水性ドメインの繰り返し単位数(n)と、前記疎水性ドメインの繰り返し単位数(m)との割合(n:m)が20:80~70:30であるものであってもよい。
【0019】
前記ブロック共重合体は、数平均分子量(Mn)が25,000以下であるものであってもよい。
【0020】
前記ブロック共重合体は、コア部および前記コア部を取り囲むシェル部を含むミセル(Micelle)の形態であり、前記コア部は、疎水性ドメインを含み、前記シェル部は、親水性ドメインを含むものであってもよい。
【0021】
前記ブロック共重合体は、粒子半径が4nmないし6nmであるものであってもよい。
前記電解質膜は、前記アイオノマー100重量部を基準として、前記添加剤を1重量部ないし10重量部含むものであってもよい。
【0022】
本発明の一実施例に係る膜-電極接合体は、前記電解質膜および前記電解質膜の両面に位置する一対の電極を含んでもよい。
【0023】
前記膜-電極接合体は、燃料電池および/または水電解装置に用いてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る添加剤を用いると、電解質膜の水素イオン伝導性および酸化防止性を共に向上することができる。
【0025】
本発明に係る添加剤は、電解質膜から溶出されることなく、その機能を長時間維持することができる。
【0026】
本発明の効果は、以上で言及した効果に限定されない。本発明の効果は、以下の説明で推論可能なすべての効果を含むものと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係るブロック共重合体を示したものである。
【
図2】本発明に係るブロック共重合体がミセルの形態に自己組立された状態を示すものである。
【
図3】実験例2に係る酸化防止性の評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以上の本発明の目的、他の目的、特徴および利点は、添付された図面に関連する以下の好ましい実施例を通じて容易に理解されるはずである。しかし、本発明は、ここで説明する実施例に限定されることなく、他の形態で具体化することもできる。むしろ、ここで開示する実施例は、開示された内容を徹底かつ完全にするため、そして、通常の技術者に本発明の思想を十分に伝達するために提供されるものである。
【0029】
各図面を説明しながら、類似する参照符号を類似する構成要素に対して使用している。添付された図面において、構造物の寸法は、本発明の明確性のために実際より拡大して示したものである。第1、第2などの用語は、様々な構成要素を説明するために使用し得るが、前記構成要素は、前記用語によって限定されてはならない。前記用語は、1つの構成要素を他の構成要素から区別する目的のみに使用される。例えば、本発明の権利範囲を逸脱しないうえで、第1の構成要素は、第2の構成要素として命名することができ、同様に、第2の構成要素も第1構成要素として命名することができる。単数の表現は、文脈上、明らかに異にして意味しない限り、複数の表現を含む。
【0030】
本明細書において、「含む」または「有する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品、または、これらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部品、または、これらを組み合わせたものの存在または付加可能性を予め排除しないものと理解されるべきである。また、層、膜、領域、板などの部分が、他の部分の「上に」あるとする場合には、これは、他の部分の「真上に」ある場合だけでなく、その中間に他の部分がある場合も含む。逆に、階、膜、領域、板などの部分が、他の部分の「下部に」あるとする場合には、これは、他の部分の「真下に」ある場合だけでなく、その中間に他の部分がある場合も含む。
【0031】
特に、明示されない限り、本明細書で使用された成分、反応条件、ポリマー組成物および配合物の量を表現するすべての数字、値および/または表現は、このような数字が、本質的に異なるものの中から、このような値を得るために生じる測定の様々な不確実性が反映された近似値であるので、すべての場合には、「約」という用語によって修飾されるものと理解されるべきである。また、本記載において、数値範囲が開示される場合には、このような範囲は連続的であり、特に指摘されない限り、このような範囲の最小値から最大値が含まれた前記最大値までのすべての値を含む。さらに、このような範囲が整数を指す場合、特に指摘されない限り、最小値から最大値が含まれた前記最大値までを含むすべての整数が含まれる。
【0032】
本発明に係る膜-電極接合体用電解質膜は、アイオノマーおよび前記アイオノマーに分散された添加剤を含む。
【0033】
前記アイオノマーは、前記電解質膜内で水素イオンを伝達する役割をする構成である。
前記アイオノマーは、ナフィオンなどの水素イオンを伝達し得る官能基を有する過フッ素スルホン酸系高分子を含んでもよい。
【0034】
前記添加剤は、
図1に示されたようなブロック共重合体を含んでもよい。前記ブロック共重合体は、親水性ドメイン(Hydrophilic domain、A)および疎水性ドメイン(Hydrophobic domain、B)を含んでもよい。
【0035】
前記親水性ドメイン(A)は、陽イオン伝導性の繰り返し単位を含むものであってもよい。
【0036】
前記陽イオン伝導性の繰り返し単位は、水素イオンを伝達し得るスルホン酸基などの官能基を含む繰り返し単位として、下記化学式1-1ないし化学式1-5で表される繰り返し単位のうち少なくともいずれか一つを含んでもよい。
【化8】
【化9】
【0037】
前記親水性ドメイン(A)を含むブロック共重合体は、電解質膜内でイオノマー以外の新しい水素イオンの移動経路を提供するため、電解質膜の水素イオン伝導性が大幅に向上する。
【0038】
前記疎水性ドメイン(B)は、酸化防止性の繰り返し単位を含んでもよい。
前記酸化防止性の繰り返し単位は、下記反応式1および反応式2の反応経路を通じてヒドロキシルラジカルを水酸化物に変換したり、過酸化水素を分解し得る部分構造を有するものであってもよい。
【化10】
【0039】
前記酸化防止性の繰り返し単位は、下記化学式2-1ないし化学式2-10で表される繰り返し単位のうち少なくともいずれか一つを含んでもよい。
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【0040】
前記ブロック共重合体は、前記親水性ドメインの繰り返し単位数(n)と、前記疎水性ドメインの繰り返し単位数(m)との割合(n:m)が20:80~70:30であるものであってもよい。前記疎水性ドメインの繰り返し単位数(m)の割合が80を超えると、前記ブロック共重合体の粒子半径が大きくなりすぎ、水素イオン伝導性が向上しないことがある。
【0041】
また、前記ブロック共重合体は、数平均分子量(Mn)が25,000以下、または、10,000以下、または、8000以下であってもよい。前記数平均分子量(Mn)の下限は、特に制限されない。前記ブロック共重合体の数平均分子量が25,000を超えると、前記ブロック共重合体の粒子半径が大きくなりすぎ、水素イオン伝導性が向上しないことがある。
【0042】
前記電解質膜は、加湿された状態で存在するが、前記ブロック共重合体は、親水性ドメインおよび疎水性ドメインを一つの分子の中にすべて含んでいるため、前記電解質膜内で自己組立され(Self-assembled)、
図2のように、コア部(10)および前記コア部(10)を取り囲んだシェル部(20)を含むミセル(Micelle)の形態を成している。
【0043】
前記ブロック共重合体は、粒子半径が4nmないし6nmであるものであってもよい。本明細書において、「粒子半径」は、前記ブロック共重合体がミセルの形態に自己組立された状態で、前記ミセルの中心点からシェル部の表面までの直線距離を意味する。また、前記粒子半径は、前記ブロック共重合体が水和された状態のときの粒子半径を意味する。水和されたナフィオン(Nafion)の微細分子構造であるCluster-network modelによると、スルホン酸基(-SO3
-)の吸収された水は、直径が約4nmある球状のクラスタをなし、水素イオンの移動経路は、連続したクラスタを連結する1nmの幅の狭いチャンネルであると知られている。したがって、水素イオン伝導度を高めるために、前記ブロック共重合体の粒子半径は4nmないし6nm、または、4nmないし5nmであることが好ましい。
【0044】
前記電解質膜は、アイオノマー100重量部を基準として、前記添加剤を1重量部ないし10重量部を含んでもよい。前記添加剤の含有量が1重量部未満であると、水素イオン伝導性および酸化防止性の向上の程度が僅かであり、10重量部を超えると、その量が多すぎ、むしろ電解質膜の水素イオン伝導性が劣ることがある。
【0045】
以下、実施例を通じて本発明の他の形態をより具体的に説明する。下記実施例は、本発明の理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の範囲がこれに限定されるものではない。
【0046】
製造例1ないし製造例3
下記のような方法でブロック共重合体を製造した。
【0047】
疎水性ドメインの単量体として、下記化学式3で表される2,2,6,6-Tetramethyl-4-piperidinyl methacrylateを用いた。説明の便宜のために、これを疎水性単量体と称する。
【化15】
【0048】
親水性ドメインの単量体として、下記化学式4で表されるSodium 4-vinylbenzenesulfonateを用いた。説明の便宜のために、これを親水性単量体と称する。
【化16】
【0049】
ブロック共重合体は、下記のような可逆的付加-開裂連鎖移動重合法(RAFT、reversible addition-fragmentation chain transfer)で合成した。
【0050】
まず、無水トルエン20mLに10g(0.04moles)の疎水性単量体、0.146g(0.8moles)の2,2’-Azobis(2-methylpropionitrile)(AIBN)および1.117g(0.01moles)の4-Cyano-4-(phenylcarbonothioylthio)pentanoic acidを投入し、溶存酸素を除去した後、アルゴンパージをした。55~75℃で5時間反応した後、冷却して重合を終了した。ヘキサン(Hexane)溶媒に反応物を沈殿させた後、遠心分離を通じて沈殿物を得て、減圧オーブンで一日中乾燥し、下記化学式5のような中間体を得た。
【化17】
【0051】
10mlの水とメタノールの混合溶媒に、0.02molesの前記中間体、前記親水性単量体および0.146g(0.8moles)AIBNを投入した。このとき、前記親水性単量体の投入量を0.01moles(製造例1)、0.02moles(製造例2)および0.04moles(製造例3)に調整したサンプルをそれぞれ製造した。
【0052】
各サンプルを55~75℃で5時間反応した後、冷却して重合を終了した。ヘキサン(Hexane)溶媒に反応物を沈殿させた後、遠心分離を通じて沈殿物を得て、減圧オーブンで一日中乾燥し、共重合体を得た。
【0053】
ジクロメタン(Dichloromethane)50mLに、前記共重合体5g、meta-Chloroperoxybenzoic acid(mCPBA)17.25g(0.1moles)を投入した後、常温で12時間攪拌し、前記共重合体を酸化させた。ヘキサン(Hexane)溶媒に反応物を沈殿させた後、遠心分離を通じて沈殿物を得て、減圧オーブンで一日中乾燥し、下記式6で表される本発明に係るブロック共重合体を得た。
【化18】
【0054】
製造例1、製造例2および製造例3のブロック共重合体の物性を測定した。その結果は、下記表1の通りである。
【表1】
1)親水性ドメインの繰り返し単位数(n)と、前記疎水性ドメインの繰り返し単位数(m)との割合(m/n)、
1H-NMRで測定する
2)DOSY-NMRで測定する
3)動的光散乱法(Dynamic Light Scattering、DLS)で測定する
【0055】
実施例1ないし実施例4および比較例
ナフィオン溶液を準備した。前記ナフィオン溶液に含まれるナフィオン(アイオノマー)100重量部を基準として、製造例1のブロック共重合体をそれぞれ1重量部(実施例1)、3重量部(実施例2)、5重量部(実施例3)および10重量部(実施例4)添加して混合物を製造した。
【0056】
各混合物を離型紙上に塗布して乾燥および熱処理を行って電解質膜を製造した。
【0057】
ブロック共重合体を添加せず、ナフィオン溶液のみで電解質膜を製造して、これを比較例として設定した。
【0058】
実験例1-水素イオン伝導度の測定
実施例1ないし実施例4および比較例に係る電解質膜の水素イオン伝導度を面方向(In-Plane)で80℃および相対湿度50%の条件で測定した。その結果は、下記表2の通りである。
【表2】
【0059】
表2を参照すると、実施例3が最も高い水素イオン伝導度を示しており、これは、比較例に比べて、約6mS/cm上昇したものである。
【0060】
実験例2-酸化防止性の評価
実施例1ないし実施例4および比較例に係る電解質膜の経時的なフッ素イオンの排出量の変化を測定し、酸化防止性を評価した。その結果は、
図3の通りである。
【0061】
これを参照すると、実施例1ないし実施例4が、比較例に比べて顕著に低いフッ素イオンの排出量を示しており、これを通じて、本発明に係るブロック共重合体を添加剤として入れると、電解質膜の化学的耐久性を大幅に向上できることが分かる。
【0062】
以上より、本発明の実験例および実施例について詳細に説明したところ、本発明の権利範囲は、上述の実験例および実施例に限定されることなく、次の特許請求の範囲で定義している本発明の基本的な概念を利用した当業者の様々な変形および改良形態もまた、本発明の権利範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
10:中心部
20:シェル部