IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジーエヌ リザウンド エー/エスの特許一覧

特開2022-83433バイラテラル圧縮を備えるバイノーラル聴覚システム
<>
  • 特開-バイラテラル圧縮を備えるバイノーラル聴覚システム 図1
  • 特開-バイラテラル圧縮を備えるバイノーラル聴覚システム 図2
  • 特開-バイラテラル圧縮を備えるバイノーラル聴覚システム 図3
  • 特開-バイラテラル圧縮を備えるバイノーラル聴覚システム 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083433
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】バイラテラル圧縮を備えるバイノーラル聴覚システム
(51)【国際特許分類】
   H04R 25/00 20060101AFI20220527BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
H04R25/00 K
H04R3/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021189578
(22)【出願日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】17/103,891
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】PA202170051
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(71)【出願人】
【識別番号】503021401
【氏名又は名称】ジーエヌ ヒアリング エー/エス
【氏名又は名称原語表記】GN Hearing A/S
【住所又は居所原語表記】Lautrupbjerg 7, 2750 Ballerup, Denmark
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トビアス ピエコヴィアク
(72)【発明者】
【氏名】アントニー ヨハネス ヘンリクス
(72)【発明者】
【氏名】チャンシュエ マー
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220AB08
5D220BC08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本開示は、バイノーラル補聴器システムの第1および第2の補聴器によって、それぞれ生成された第1および第2のマイクロフォン信号のバイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する方法を提供する。
【解決手段】無線通信リンク12を介して接続可能な第1の補聴器10Lおよび第2の補聴器10Rを備えるバイノーラル補聴器システム50における方法であって、入来音に応じて、第1の耳内マイクロフォン16Lによってユーザの左耳または右耳の外耳道内の音圧をピックアップして、第1のマイクロフォン信号を生成することと、入来音に応じて、第2のマイクロフォンに16Rよってユーザの反対側の耳の外耳道内の音圧をピックアップして、第2のマイクロフォン信号を生成することと、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイノーラル補聴器システムの第1および第2の補聴器によってそれぞれ生成される第1および第2のマイクロフォン信号のバイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する方法であって、
前記方法は、
第1のマイクロフォンによってユーザの第1の耳の外耳道内の音圧をピックアップして、入来音に応じて第1のマイクロフォン信号を生成することと、
第2のマイクロフォンによって前記ユーザの第2の耳の外耳道内の音圧をピックアップして、入来音に応じて第2のマイクロフォン信号を生成することと、
前記第2のマイクロフォン信号を表す第2の対側性オーディオデータを、無線通信リンクを介して前記第1の補聴器に送信することと、
前記第1の補聴器における第1のデジタルプロセッサによって、前記第1のマイクロフォン信号および前記第2の対側性オーディオデータのそれぞれのレベルに基づいて、前記入来音の第1の両耳間レベル差を推定することと、
第1のレベル対ゲイン特性に従う第1のダイナミックレンジコンプレッサによる前記第1のマイクロフォン信号の前記レベルに基づいて、前記第1のマイクロフォン信号の第1のゲインを決定することと、
第2のレベル対ゲイン特性に従う第2のダイナミックレンジコンプレッサによる前記第2のマイクロフォン信号の前記レベルに基づいて、前記第2のマイクロフォン信号の第2のゲインを決定することと、
前記第2のマイクロフォン信号に前記第2のゲインを適用して、第2の出力信号を生成することと、
前記第1の両耳間レベル差に基づいて、前記第1のゲインを調整し、第1の出力信号と第2の出力信号との間で前記第1の両耳間レベル差を保持することと、
前記第1のマイクロフォン信号に、調整した前記第1のゲインを適用し、前記第1の出力信号を生成することと、を備える、方法。
【請求項2】
請求項1に記載のバイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する方法であって、さらに、
前記第1のマイクロフォン信号を表す第1の対側性オーディオデータを、前記無線通信リンクを介して前記第2の補聴器に送信することと、
第2のデジタルプロセッサによって、前記第2のマイクロフォン信号および前記第1の対側性オーディオデータのそれぞれのレベルに基づいて、前記入来音の第2の両耳間レベル差を推定することと、
前記第2の両耳間レベル差に基づいて、前記第2のゲインを調整することと、
調整された前記第2のゲインを、前記第2のマイクロフォン信号に適用して、第1の出力信号と第2の出力信号との間で、前記第2の両耳間レベル差を保持することと、を備える、方法。
【請求項3】
請求項2に記載のバイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する方法であって、さらに、
前記第1のデジタルプロセッサまたは前記第2のデジタルプロセッサによって、前記第1のマイクロフォン信号の前記レベルと、前記第2のマイクロフォン信号の前記レベルとを比較し、前記第1及び前記第2の補聴器のどちらが最低レベルの前記入来音を受けるかを決定することと、
最低の音レベルを受ける前記補聴器のゲインのみを低減させ、第1及び第2の出力信号の間で、前記第1または前記第2の両耳間レベル差を保持することと、を備える、方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のバイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する方法であって、さらに、
前記第1のマイクロフォン信号の前記レベルを、前記第2のマイクロフォン信号の前記レベルと比較して、前記第1および前記第2の補聴器のうち、最低レベルの前記入来音を受ける補聴器を識別することと、
最低の音レベルを受ける前記補聴器の前記ゲインを低減し、最高の音レベルを受ける前記補聴器の前記ゲインを増加させて、第1及び第2の出力信号の間で、前記決定された両耳間レベル差を保持することと、を備える、方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のバイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する方法であって、
前記第1および第2の対側性オーディオデータは、前記第1および第2のマイクロフォン信号を、それぞれ、
電力、エネルギーレベル、ネイティブなデジタルオーディオ表現、例えば、PCM16ビット@16kHz、知覚的にエンコードされた信号、例えば、MP3、FLAC、AAC、Vorbis、MA4、Opus、G722、
のうちの少なくとも1つによって表す、方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載バイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する方法であって、さらに、
前記第1のマイクロフォン信号を第1の複数の周波数帯域に分割し、それぞれの信号レベルを決定することと、
前記第2のマイクロフォン信号を第2の複数の周波数帯域に分割し、それぞれの信号レベルを決定することと、
前記第1の補聴器の前記第1のデジタルプロセッサによって、前記第1の複数の周波数帯域および前記第2の対側性オーディオデータのそれぞれのレベルに基づいて、前記第1の複数の周波数帯域および前記第2の複数の周波数帯域に関連する第1の複数の両耳間レベル差を推定することと、
第1の複数のレベル対ゲイン特性に従うそれぞれのレベルに基づいて、前記第1の複数の周波数帯域に対する第1の複数のゲイン値を、それぞれ、決定することと、
第2の複数のレベル対ゲイン特性に従うそれぞれのレベルに基づいて、前記第2の複数の周波数帯域に対する第2の複数のゲイン値を、それぞれ、決定することと、
前記第1の複数の両耳間レベル差のそれぞれに基づいて、前記第1の複数のゲイン値を調整することと、
調整された前記第1の複数の第1のゲイン値を、前記第1のマイクロフォン信号の前記第1の複数の周波数帯域のそれぞれに適用し、前記第1および前記第2の出力信号の間で、前記第1の複数の両耳間レベル差を保持することと、および/または、
調整された前記第2の複数の第2のゲイン値を、前記第2のマイクロフォン信号の前記第2の複数の周波数帯域のそれぞれに適用し、前記第1および前記第2の出力信号の間で、前記第1の複数の両耳間レベル差を保持することと、を備える、方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のバイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する方法であって、さらに、
入来音に応じて第1の追加マイクロフォン信号を生成するために、前記ユーザの第1の耳に、またはその後ろに配置された前記第1の補聴器の追加マイクロフォンによって、音圧のピックアップをすることと、
入来音に応じて第2の追加マイクロフォン信号を生成するために、前記ユーザの第2の耳に、またはその後ろに配置された前記第2の補聴器の追加マイクロフォンによって、音圧のピックアップをすることと、
前記第1の追加マイクロフォン信号と前記第1のマイクロフォン信号とを周波数に依存する比率で混合し、第1のハイブリッドマイクロフォン信号を生成することと、
前記第2の追加マイクロフォン信号と前記第2のマイクロフォン信号とを周波数に依存する比率で混合し、第2のハイブリッドマイクロフォン信号を生成することと、を備える、方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の第1および第2のマイクロフォン信号のバイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する方法であって、さらに、
前記第1のデジタルプロセッサによって、前記第1の出力信号から前記第1のマイクロフォン信号への第1のフィードバック経路の伝達関数を決定することと、
固定フィードバックキャンセルフィルタまたは適応フィードバックキャンセルフィルタによって、前記第1のフィードバック経路を補償して、前記第1の補聴器の最大安定ゲインを増加させることと、を備える、方法。
【請求項9】
請求項8または9に記載の第1および第2のマイクロフォン信号のバイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する方法であって、さらに、
前記第1のフィードバック経路の前記伝達関数に基づいて、前記第1の補聴器の前記最大安定ゲインを推定することと、
前記第1のゲインが前記第1の補聴器の前記最大安定ゲインを超える周波数範囲において、前記第1の追加マイクロフォン信号が前記第1のハイブリッドマイクロフォン信号において支配的になるように、前記第1の追加マイクロフォン信号と前記第1のマイクロフォン信号を混合することと、
を備える、方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の第1および第2のマイクロフォン信号のバイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する方法であって、さらに、
1dBまたは3dBのような閾値を超える両耳間レベル差に対して、前記第1のマイクロフォン信号の前記第1のゲインを調整すること、および/または、前記第2のマイクロフォン信号の前記第2のゲインを調整することと、
前記閾値を下回る両耳間レベル差に対して、前記第1のゲインおよび前記第2のゲインの調整を省くことと、を備える、方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の第1および第2のマイクロフォン信号のバイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する方法であって、さらに、
前記第1のマイクロフォン信号および前記第2のマイクロフォン信号における音声セグメントおよび非音声セグメントを検出することと、
前記音声セグメントに対して、前記第1のマイクロフォン信号の前記第1のゲインを調整すること、および/または、前記第2のマイクロフォン信号の前記第2のゲインを調整することと、
前記非音声セグメントに対して、前記第1及び前記第2のゲインの調整を省くことと、を備える、方法。
【請求項12】
無線通信リンクを介して接続可能な第1および第2の補聴器を備えるバイノーラル補聴器システムであって、
前記第1の補聴器は、
ユーザの左耳または右耳に、またはその中に配置されるように構成され、
第1のマイクロフォン構成と第1のデジタルプロセッサとを備え、
前記第1のマイクロフォン構成は、前記ユーザの左耳または右耳の外耳道内の音圧をピックアップするように構成された第1の耳内マイクロフォンを備え、
前記第2の補聴器は、
前記ユーザの反対側の耳に、またはその中に配置されるように構成され、
第2のマイクロフォン構成と第2のデジタルプロセッサとを備え、
前記第2のマイクロフォン構成は、前記ユーザの反対側の外耳道内の音圧をピックアップするように構成された第2の耳内マイクロフォンを備え、
前記第1のデジタル信号プロセッサは、
入来音に応じて、前記第1の耳内マイクロフォンによって生成された第1のマイクロフォン信号を受信し、
前記無線通信リンクを介して、前記第2のマイクロフォン信号を表す第2の対側性オーディオデータを受信し、
前記第1のマイクロフォン信号および前記第2の対側性オーディオデータに基づいて、第1の両耳間レベル差を推定し、
第1のレベル対ゲイン特性に従う第1のダイナミックレンジコンプレッサによる前記第1のマイクロフォン信号の前記レベルに基づいて、前記第1のマイクロフォン信号の第1のゲインを決定し、
前記第1のゲインを調整し、調整された前記第1のゲインを前記第1のマイクロフォン信号に適用して、第1の出力信号を生成するように構成され、
前記第1の出力信号は、前記第1の出力信号と前記第2の補聴器によって生成された第2の出力信号との間で、前記第1の両耳間レベル差を保持し、
前記第2のデジタル信号プロセッサは、
入来音に応じて、前記第2の耳内マイクロフォンによって生成された第2のマイクロフォン信号を受信し、
前記双方向無線通信リンクを介して、前記第2の対側性オーディオデータを生成、送信し、
第2のレベル対ゲイン特性に従う第2のダイナミックレンジコンプレッサによる前記第2のマイクロフォン信号の前記レベルに基づいて、前記第2のマイクロフォン信号の第2のゲインを決定し、
前記第2のマイクフォン信号に前記第2のゲインを適用して、前記第2の出力信号を生成する、
ように構成される、バイノーラル補聴器システム。
【請求項13】
請求項12に記載のバイノーラル補聴器システムであって、
前記第1のデジタル信号プロセッサは、さらに、
前記第1のマイクロフォン信号を表す第1の対側性オーディオデータを、前記無線通信リンクを介して、前記第2の補聴器に送信するように構成され、
前記第2のデジタルプロセッサは、さらに、
前記第2のマイクロフォン信号および前記第1の対側性オーディオデータのそれぞれのレベルに基づいて、前記入来音の第2の両耳間レベル差を推定し、
前記第2の両耳間レベル差に基づいて、前記第2のゲインを調整し、
調整された前記第2のゲインを前記第2のマイクロフォン信号に適用して、前記第1の出力信号と前記第2の出力信号との間で、前記第2の両耳間レベル差を保持する、
ように構成される、バイノーラル補聴器システム。
【請求項14】
請求項12または13に記載のバイノーラル補聴器システムであって、
前記第1の補聴器は、
前記ユーザの左耳または右耳の後ろに配置するように構成された第1のBTEハウジングと、
少なくとも部分的に前記ユーザの左または右の外耳道内に配置され、前記第1の耳内マイクロフォンの第1の音入口が前記ユーザの外耳道内に位置するように、前記第1の耳内マイクロフォンを備える第1のイヤプラグと、
を備え、
前記第2の補聴器は、
前記ユーザの反対側の耳の後ろに配置するように構成された第2のBTEハウジングと、
少なくとも部分的にユーザの他方の外耳道内に配置され、前記第2の耳内マイクロフォンの第2の音入口が前記ユーザの外耳道内に位置するように、前記第2の耳内マイクロフォンを備える第2のイヤプラグと、
を備える、バイノーラル補聴器システム。
【請求項15】
請求項14に記載のバイノーラル補聴器システムであって、
前記第1のイヤプラグは、
前記第1の耳内マイクロフォンの前記第1の音入口を備える外向き表面と、
第1の出力音圧として前記第1の出力信号を生成するように構成される第1の小型スピーカまたはレシーバの音出口を備える内向き表面または部分と、を備え、
前記第2のイヤプラグは、
前記第2の耳内マイクロフォンの前記第2の音入口を備える外向き表面と、
第2の出力音圧として前記第2の出力信号を生成するように構成される第2の小型スピーカまたはレシーバの音出口を備える内向き表面または部分と、
を備える、バイノーラル補聴器システム。
【請求項16】
請求項14または15に記載のバイノーラル補聴器システムであって、
前記第1のBTEハウジングは、前記入来音に応じて、第1の追加マイクロフォン信号を生成するように構成された、関連する第1の音入口を有する第1の追加マイクロフォンを備え、
前記第2のBTEハウジングは、前記入来音に応じて、第2の追加マイクロフォン信号を生成するように構成された、関連する第1の音入口を有する、第2の追加マイクロフォンを備える、バイノーラル補聴器システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バイノーラル補聴器システムの第1および第2の補聴器によってそれぞれ生成された、第1および第2のマイクロフォン信号のバイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する方法に関する。この方法は、第1のマイクロフォンによってユーザの左耳または右耳の外耳道内の音圧をピックアップまたは受け取り、入来音に応答して第1のマイクロフォン信号を生成することと、第2のマイクロフォンによってユーザの反対側の耳の外耳道内の音圧をピックアップまたは受け取り、入来音に応答して第2のマイクロフォン信号を生成することと、を備える。
【背景技術】
【0002】
通常の聴取者は、所望の音源、例えば、聴取対象の話者に選択的に注意を払って、レストラン、バー、コンサート会場等のような騒々しい聴取条件下でも、音声の明瞭さを達成し、状況認識を維持することができる。後者は、カクテルパーティシナリオ、または音環境と呼ばれることがある。通常の聴取者は、良好耳聴取(better-ear listening)戦略を利用することができ、この場合、聴取者は、聴取対象の話者またはスピーカに対して最良の信号対雑音比を用いることで、耳の音声信号に注意を集中させる。この良好耳聴取戦略は、選択的注意のような認知的なフィルタリングメカニズムによって、軸外にいる注意を払っていない話者をモニタすることも可能にする。
【0003】
対照的に、聴覚障害者にとって、そのような騒々しい音環境において特定の、所望の音源を聴くことは、依然として難しい課題である。聴覚障害者またはバイラテラル聴力損失に苦しむ患者に対して、バイノーラル補聴器システムの使用は、音源の位置特定および分離を含む、バイノーラル聴覚の利点を回復する可能性を提供する。しかしながら、既存のエビデンスによると、バイラテラル聴力損失を有する患者またはユーザがバイノーラル空間キューまたは情報にアクセスしても、すなわち、両耳間時間遅延(ITD)および、両耳間レベル差(ILD)にアクセスしても、それらはバイノーラル補聴器システムの補聴器における信号処理によって歪められるか、または損なわれる可能性があることが示唆されている。特に、補聴器間での共同作用なしに一方側に適用される、非線形のゲイン増幅(いわゆる、ダイナミックレンジ圧縮)は、ILDに悪影響を及ぼすことが示されている。これは、後者が、1kHzより上または1.5kHzより上のような高周波数における位置特定に対する重要なバイノーラル空間キューであるため、深刻な問題である。
【0004】
バイノーラル補聴器システムにおいて一方側に適用されるダイナミックレンジ圧縮によって引き起こされるILDのこの歪みを、バイラテラル圧縮の使用によって軽減することが以前は試みられてきた。このバイラテラル圧縮とは、バイノーラル補聴器システムがペアの補聴器間のダイナミックレンジ圧縮を共同作用または同期させ、それによってこれらのILDを適時に再確立しようとするものである。
【0005】
しかしながら、このタスクを実行するためには、様々な頭部及び耳の形状、及び寸法等に起因して、個々の人の間でILDは著しく異なるため、バイノーラル補聴器システムは、対象の人のために補正される基準ILDを必要とする。残念ながら、正確な基準ILDは、それぞれの補聴器ハウジングにおいて、ユーザの耳に、またはその後方に配置された、従来型の補聴器マイクロフォンでは利用できない。後者の位置での音のピックアップは、ユーザの外耳および耳甲介からの音響的寄与を含まない。言い換えれば、左耳および右耳に、またはその上方に従来的に配置されたマイクロフォンによってピックアップされたマイクロフォン信号は、ユーザの個々の頭部関連伝達関数を正確に反映しない。なぜなら、これらのマイクロフォン信号は、ユーザの外耳および耳甲介による寄与を含まず、適切な空間キュー、特に、ILDを含まないためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、当技術分野では、例えば、左耳および右耳補聴器からのそれぞれのマイクロフォン信号の通常のダイナミックレンジ圧縮でも、ユーザまたは患者の個々のILDを正確に再確立するためには、バイノーラル補聴器システム内の空間キューを正確に決定し、活用する必要がある。マイクロフォンが耳内にあるフォームファクタが、患者の外耳道における音のピックアップまたは受け取りのための位置が、正確な左耳および右耳についてのHRTFおよび対応するILDを捕捉するので、それを正確に達成するために独自に構築される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、バイノーラル補聴器システムの第1および第2の補聴器によってそれぞれ生成される第1および第2のマイクロフォン信号の、バイラテラルワイドダイナミックレンジ圧縮、またはブリーフ圧縮などのバイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する方法に関する。前記方法は、第1のマイクロフォンによってユーザの第1の耳の外耳道内の音圧をピックアップして、入来音に応じて第1のマイクロフォン信号を生成することと、第2のマイクフォンによってユーザの第2の耳の外耳道内の音圧をピックアップして、入来音に応じて第2のマイクロフォン信号を生成することと、第2のマイクロフォン信号を表す第2の対側性オーディオデータを、無線通信リンクを介して第1の補聴器に送信することと、第1の補聴器における第1のデジタルプロセッサによって、第1のマイクロフォン信号および第2の対側性オーディオデータのそれぞれのレベルに基づいて、入来音の第1の両耳間レベル差を推定することと、第1のレベル対ゲイン特性に従う第1のダイナミックレンジコンプレッサによる第1のマイクロフォン信号のレベルに基づいて、第1のマイクロフォン信号の第1のゲインを決定することと、第2のレベル対ゲイン特性に従う第2のダイナミックレンジコンプレッサによる第2のマイクロフォン信号のレベルに基づいて、第2のマイクロフォン信号の第2のゲインを決定することと、第2のマイクロフォン信号に第2のゲインを適用して、第2の出力信号を生成することと、第1の両耳間レベル差に基づいて、第1のゲインを調整し、第1の出力信号及び第2の出力信号との間で第1の両耳間レベル差を保持することと、第1のマイクロフォン信号に、調整した第1のゲインを適用し、第1の出力信号を生成することと、を備える。
【0008】
第1のマイクロフォン信号は、入来音に応じて、第1の補聴器に備えられる第1の耳内マイクロフォンによって生成されてもよい。第2のマイクロフォン信号は、入来音に応じて、第2の補聴器に備えられた第2の耳内マイクロフォンによって生成されてもよい。
【0009】
第1のマイクロフォンおよび第2のマイクロフォンによる、ユーザの第1および第2の外耳道(すなわち、左外耳道および右外耳道内またはその逆)内のそれぞれの音圧のピックアップまたは受け取りは、第1および第2のマイクロフォン信号が、ユーザの外耳および耳甲介からのそれぞれの音響寄与を備えることを意味する。したがって、第1および第2のマイクロフォン信号は、ユーザの個々の左耳に関する頭部伝達関数および右耳に関する頭部伝達関数の正確な表現、すなわち、正確な個々の空間キュー、例えば、両耳間レベル差(ILD)および/または両耳間時間差(ITD)および/または両耳間相互相関係数を全て含む両耳間相互耳差を提供する。
【0010】
第1の補聴器は、第1のダイナミックレンジコンプレッサを備えてもよく、第2の補聴器は、第2のダイナミックレンジコンプレッサを備えてもよい。第1のダイナミックレンジコンプレッサは、第1の複数のレベル対ゲイン特性に従って、第1の複数の周波数帯域に、それぞれの圧縮比を適用するように構成された第1の多帯域コンプレッサを備えてもよい。第2のダイナミックレンジコンプレッサは、第2の複数のレベル対ゲイン特性に従って、第2の複数の周波数帯域に、それぞれの圧縮比を適用するように構成された第2の多帯域コンプレッサを備えてもよい。
【0011】
いくつかの実施形態では、バイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する本方法は、第1のゲインのみを調整して、対象音源の空間的位置、従って、対象音源の音波入射角度とは無関係に、第1および第2の出力信号の間での第1の両耳間レベル差を保持することによって、片側の調整に依拠してもよい。従って、後者の実施形態によれば、典型的な聴取環境又は状況において、第1及び第2のダイナミックレンジコンプレッサがもたらす、ダイナミックレンジ圧縮によって生じる第1のILDの歪みを補償するために、第1のデジタルプロセッサによって、第1のゲインのみが調整され、典型的には低減される。特に、中心から外れた音源を有する聴取状況、および第1および第2のマイクロフォンにおける入来音の音圧レベルが、第1および第2のダイナミックレンジコンプレッサを作動させるのに十分に高い場合である。
【0012】
バイラテラル圧縮を実行する本方法のある実施形態は、第1の出力信号と第2の出力信号との間での第1の両耳間レベル差および/または第1の出力信号と第2の出力信号との間で第2の両耳間レベル差を保持するために、第1および第2の補聴器の両側でのゲイン調整をサポートする。両側でのゲイン調整は、第1の補聴器による第1のゲインの調整、または第2の補聴器による第2のゲインの調整のいずれかによって、所望のゲイン調整を実行することにより有利な柔軟性を提供する。最後に、所望のゲイン調整は、第1の補聴器と第2の補聴器との間で所望のゲイン調整を分割することによっても、達成することができる。従って、仮に、第1の出力信号と第2の出力信号との間で推定された第1の両耳間レベル差を再確立又は保持するために、特定の音環境において10dBのゲイン低減が必要とされる場合、10dBのゲイン低減は、第1のゲインを10dB低減させることによって、または、第2のゲインを10dB低減させることによって達成されてもよい。さらに、10dBのゲイン低減は、第1のゲインを8dB低減させ、第2のゲインを2dB低減させること等によって、達成されてもよい。これらの実施形態では、無線通信リンクは、双方向であってもよい。第1の補聴器は、第1のマイクロフォン信号を表す第1の対側性オーディオデータを、無線通信リンクを介して第2の補聴器に送信するように構成される。第2の補聴器の第2のデジタルプロセッサは、第2のマイクロフォン信号のレベルと、受信された第1の対側性オーディオデータのレベルとを利用して、入来音の第2の両耳間レベル差を推定または計算する。当業者は、第1および第2の両耳間レベル差が実質的に同一であってもよいことを理解するであろう。このような両側でのゲイン調整をサポートするこれらの実施形態は、さらに、第2の両耳間レベル差に基づいて、第2のゲインを調整することと、調整された第2のゲインを、第2のマイクロフォン信号に適用して、第1の出力信号と第2の出力信号との間で第2の両耳間レベル差を保持することと、を備える。
【0013】
第1および第2の補聴器における両側でのゲイン調整をサポートする本方法の一実施形態は、さらに、第1のデジタルプロセッサまたは第2のデジタルプロセッサによって、第1のマイクロフォン信号のレベルと、第2のマイクロフォン信号のレベルとを比較し、第1及び第2の補聴器のどちらが最低レベルの入来音を受けるかを決定することと、最低の音レベルを受ける補聴器のゲインのみを低減させ、第1及び第2の出力信号の間で、第1または第2の両耳間レベル差を保持することと、を備える。従って、第1の補聴器、より具体的には第1のマイクロフォンにおいて、入来音のレベルが最低である場合、ある期間にわたって、第1のゲインが適切に調整され、第1の出力信号と第2の出力信号との間で第1の両耳間レベル差が保持される。一方、その間、第2のゲインは調整されない。同様に、第2の補聴器、より具体的には第2のマイクロフォンにおいて、入来音のレベルが最低である場合、別の期間にわたって、第2のゲインが適切に調整され、第1の出力信号と第2の出力信号との間で第2の両耳間レベル差が保持される。一方、その間、第1のゲインは調整されない。この場合、最低の音レベルを受けるバイノーラル補聴器システムの特定の補聴器は、典型的には、ユーザおよび環境音源の相対的な位置および向きと共に動的に変化するので、第1および第2のゲインは、時間の経過と共に交互に調整される。本実施例の本方法およびバイノーラル補聴器システムは、所与の期間または時点に最高のゲインを有する補聴器のゲインが、第1または第2の両耳間レベル差を保持するために、通常、増加されるのではなく、低減されるので有利である。通常、ゲイン低減は、第1および第2のダイナミックレンジコンプレッサによって付与される第1および第2のマイクロフォン信号に対するそれぞれのレベル圧縮動作を補償するために必要とされる。第1および第2の補聴器におけるそれぞれの音レベルに応じて、第1のゲインおよび第2のゲインを選択的に低減することにより、特定の時点で最高のゲインを有する補聴器のゲインが低減されるので、フィードバック安定性の問題が低減される。
【0014】
第1および第2の補聴器における両側でのゲイン調整をサポートする本方法の別の実施形態は、さらに、第1のマイクロフォン信号のレベルを、第2のマイクロフォン信号のレベルと比較して、第1および第2の補聴器のうち、最低レベルの入来音を受ける補聴器を識別することと、最低の音レベルを受ける補聴器のゲインを低減し、最高の音レベルを受ける補聴器のゲインを増加させて、第1及び第2の出力信号の間で、決定された両耳間レベル差を保持することと、を備える。
【0015】
バイラテラル圧縮を実行する本方法の一実施形態は、第1および/または第2の両耳間レベル差が小さい場合に、ゲイン調整を回避するしきい値処理動作を備える。この実施形態は、1dBまたは3dBのような閾値を超える第1または第2の両耳間レベル差に対して、第1のマイクロフォン信号の第1のゲインを調整すること、および/または、第2のマイクロフォン信号の第2のゲインを調整することと、閾値を下回る両耳間レベル差に対して、第1のゲインの調整および第2のゲインの調整を省くことと、を備える。
【0016】
第1の対側性オーディオデータおよび第2の対側性オーディオデータは、ネイティブなデジタルオーディオ表現、例えば、特定のサンプリング周波数および分解能におけるPCM、例えば、PCM16ビット@8~64kHzによって、様々なフォーマットを用いて、第1および第2のマイクロフォン信号をそれぞれ表してもよい。ネイティブなデジタルオーディオ表現には柔軟性があるが、典型的には、無線通信リンクの著しい帯域幅要件と、それに付随した高い電力消費が生じる。第1の対側性オーディオデータおよび第2の対側性オーディオデータの代替的なフォーマットは、無線通信リンクのデータスループットおよび帯域幅要件の低減につながる、パラメトリックまたはデータ圧縮フォーマットとしてもよい。第1の対側性オーディオデータおよび第2の対側性オーディオデータのパラメトリックまたは圧縮データフォーマットは、それぞれ、データレートを低減するための、知覚的にエンコードされた信号、例えば、MP3、FLAC、AAC、Vorbis、MA4、Opus、G722を備えてもよい。パラメトリックまたは圧縮データフォーマットは、第1および第2のマイクロフォン信号のそれぞれの電力レベルまたはエネルギーレベル、たとえば、添付の図面を参照して以下でさらに詳細に説明するように、第1および第2のマイクロフォン信号のそれぞれの複数の個別の周波数帯域のそれぞれの電力レベルまたはエネルギーレベルを備えてもよい。
【0017】
本方法の一実施形態は、第1のマイクロフォン信号および第2のマイクロフォン信号のそれぞれを、以下により複数の周波数帯域に分割または分割することを備える。第1のマイクロフォン信号を第1の複数の周波数帯域に分割し、それぞれの信号レベルを決定することと、第2のマイクロフォン信号を第2の複数の周波数帯域に分割し、それぞれの信号レベルを決定することと、第1の補聴器の第1のデジタルプロセッサによって、第1の複数の周波数帯域および第2の対側性オーディオデータのそれぞれのレベルに基づいて、第1の複数の周波数帯域および第2の複数の周波数帯域に関連する第1の複数の両耳間レベル差を推定することと、第1の複数のレベル対ゲイン特性に従うそれぞれのレベルに基づいて、第1の複数の周波数帯域に対する第1の複数のゲイン値を、それぞれ、決定することと、第2の複数のレベル対ゲイン特性に従うそれぞれのレベルに基づいて、第2の複数の周波数帯域に対する第2の複数のゲイン値を、それぞれ、決定することと、第1の複数の両耳間レベル差のそれぞれに基づいて、第1の複数のゲイン値を調整することと、調整された第1の複数の第1のゲイン値を、第1のマイクロフォン信号の第1の複数の周波数帯域のそれぞれに適用し、第1および第2の出力信号の間で、第1の複数の両耳間レベル差を保持することと、および/または、調整された第2の複数の第2のゲイン値を、第2のマイクロフォン信号の第2の複数の周波数帯域のそれぞれに適用し、第1および第2の出力信号の間で、第1の複数の両耳間レベル差を保持することと、を備える。
【0018】
本方法の一実施形態は、添付の図面を参照して以下でさらに詳細に説明するように、ユーザの左外耳道内の第1のマイクロフォンに加えて第1の追加マイクロフォンと、ユーザの右外耳道内の第2のマイクロフォンに加えて第2の追加マイクロフォンと、を利用する。本実施形態は、好ましくは、入来音に応じて第1の追加マイクロフォン信号を生成するために、ユーザの第1の耳に、またはその後ろに配置された第1の補聴器の追加マイクロフォンによって、音圧のピックアップをすることと、入来音に応じて第2の追加マイクロフォン信号を生成するために、ユーザの第2の耳に、またはその後ろに配置された第2の補聴器の追加マイクロフォンによって、音圧のピックアップをすることと、第1の追加マイクロフォン信号と第1のマイクロフォン信号とを周波数に依存する比率で混合し、第1のハイブリッドマイクロフォン信号を生成することと、第2の追加マイクロフォン信号と第2のマイクロフォン信号とを周波数に依存する比率で混合し、第2のハイブリッドマイクロフォン信号を生成することと、を備える。
【0019】
本方法の別の実施形態は、添付の図面を参照して、詳細について以下に説明するように、第1のデジタルプロセッサによって、第1の出力信号から第1のマイクロフォン信号への第1のフィードバック経路の伝達関数を決定することと、固定フィードバックキャンセルフィルタまたは適応フィードバックキャンセルフィルタによって、第1のフィードバック経路を補償して、第1の補聴器の最大安定ゲインを増加させることと、選択的に、例えば、第1のデジタルプロセッサによって、第1のフィードバック経路の伝達関数に基づいて、第1の補聴器の最大安定ゲインを推定することと、第1のゲインが第1の補聴器の最大安定ゲインを超える周波数範囲において、第1の追加マイクロフォン信号が第1のハイブリッドマイクロフォン信号において支配的となるように、第1の追加マイクロフォン信号と第1のマイクロフォン信号を混合することと、によるフィードバック補償を備える。当業者は、対応するフィードバック補償が、第2のデジタルプロセッサによって第2の補聴器において実行されてもよいことを理解するであろう。
【0020】
バイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する本方法は、さらに、第1のマイクロフォン信号および第2のマイクロフォン信号における音声セグメントおよび非音声セグメントを検出することと、音声セグメントに対して、第1のマイクロフォン信号の第1のゲインを調整すること、および/または、第2のマイクロフォン信号の第2のゲインを調整することと、非音声セグメントに対して、第1及び第2のゲインの調整を省くことと、を備えてもよい。当業者は、音声セグメントの検出は、添付の図面を参照して以下に詳述するように、適切に構成された音声アクティビティ検出器によって実行されてもよいことを理解するであろう。
【0021】
本開示の第2の態様は、無線通信リンクを介して接続可能な第1および第2の補聴器を備えるバイノーラル補聴器システムに関する。第1の補聴器は、ユーザの左耳または右耳に、またはその中に配置されるように構成され、第1のマイクロフォン構成と第1のデジタルプロセッサとを備え、第1のマイクロフォン構成は、ユーザの左耳または右耳の外耳道内の音圧をピックアップまたは受け取るように構成された第1の耳内マイクロフォンを備える。第2の補聴器は、ユーザの反対側の耳に、またはその中に配置されるように構成され、第2のマイクロフォン構成と第2のデジタルプロセッサとを備え、第2のマイクロフォン構成は、ユーザの反対側の外耳道内の音圧をピックアップまたは受け取るように構成された第2の耳内マイクロフォンを備える。第1のデジタル信号プロセッサは、入来音に応じて、第1の耳内マイクロフォンによって生成された第1のマイクロフォン信号を受信し、無線通信リンクを介して、第2のマイクロフォン信号を表す第2の対側性オーディオデータを受信し、第1のマイクロフォン信号および第2の対側性オーディオデータに基づいて、第1の両耳間レベル差を推定し、第1のレベル対ゲイン特性に従う第1のダイナミックレンジコンプレッサによる第1のマイクロフォン信号のレベルに基づいて、第1のマイクロフォン信号の第1のゲインを決定し、第1のゲインを調整し、調整された第1のゲインを第1のマイクロフォン信号に適用して、第1の出力信号を生成するように構成される。第1の出力信号は、第1の出力信号と第2の補聴器によって生成された第2の出力信号との間で、第1の両耳間レベル差を保持する。第2のデジタル信号プロセッサは、入来音に応じて、第2の耳内マイクロフォンによって生成された第2のマイクロフォン信号を受信し、双方向無線通信リンクを介して、第2の対側性オーディオデータを生成、送信し、第2のレベル対ゲイン特性に従う第2のダイナミックレンジコンプレッサによる第2のマイクロフォン信号のレベルに基づいて、第2のマイクロフォン信号の第2のゲインを決定し、第2のマイクフォン信号に第2のゲインを適用して、第2の出力信号を生成する、ように構成される。
【0022】
第1のデジタル信号プロセッサは、さらに、第1のマイクロフォン信号を表す第1の対側性オーディオデータを、無線通信リンクを介して、第2の補聴器に送信するように構成されてもよい。第2のデジタルプロセッサは、さらに、第2のマイクロフォン信号および第1の対側性オーディオデータのそれぞれのレベルに基づいて、入来音の第2の両耳間レベル差を推定し、第2の両耳間レベル差に基づいて、第2のゲインを調整し、調整された第2のゲインを第2のマイクロフォン信号に適用して、第1の出力信号と第2の出力信号との間で、第2の両耳間レベル差を保持する、ように構成される。
【0023】
第1および第2の補聴器のそれぞれは、耳内マイクロフォンおよびレシーバ型(Microphone-and-Receiver-in ear)(MaRIE)設計などの様々なハウジングスタイルまたは設計を備えてもよい。第1の補聴器は、ユーザの左耳または右耳の後ろに配置するように構成された第1のBTEハウジングと、少なくとも部分的にユーザの左または右の外耳道内に配置され、第1の耳内マイクロフォンの第1の音入口がユーザの外耳道内に位置するように、第1の耳内マイクロフォンを備える第1のイヤプラグと、を備えてもよい。第2の補聴器は、対応する態様で、ユーザの反対側の耳の後ろに配置するように構成された第2のBTEハウジングと、少なくとも部分的にユーザの他方の外耳道内に配置され、第2の耳内マイクロフォンの第2の音入口がユーザの外耳道内に位置するように、第2の耳内マイクロフォンを備える第2のイヤプラグと、を備える。
【0024】
バイノーラル補聴器システムの一実施形態によれば、第1および第2のイヤプラグの各々は、耳内マイクロフォンと小型スピーカまたはレシーバとの両方を備える。第1のイヤプラグは、第1の耳内マイクロフォンの第1の音入口を備える外向き表面と、第1の出力音圧として第1の出力信号を生成するように構成される第1の小型スピーカまたはレシーバの音出口を備える内向き表面または部分と、を備える。第2のイヤプラグは、第2の耳内マイクロフォンの第2の音入口を備える外向き表面と、第2の出力音圧として第2の出力信号を生成するように構成される第2の小型スピーカまたはレシーバの音出口を備える内向き表面または部分と、を備える。
【0025】
第1のBTEハウジングは、入来音に応じて、第1の追加マイクロフォン信号を生成するように構成された、関連する音入口を有する、上記の第1の追加マイクロフォンを備えてもよい。第2のBTEハウジングは、同様に、入来音に応じて、第2の追加マイクロフォン信号を生成するように構成された、関連する音入口を有する、上記の第2の追加マイクロフォンを備えてもよい。
【0026】
以下において、本発明の例示的な実施形態が、添付の図面を参照してより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の例示的な実施形態の無線データ通信リンクを介して接続される、左耳補聴器および右耳補聴器を備えるバイノーラルまたはバイラテラル補聴器システムを概略的に示す。
図2】患者またはユーザに取り付けられたバイノーラルまたはバイラテラル補聴器システムの構成の概略図である。
図3】本発明の第1実施形態による左耳および右耳補聴器の信号プロセッサによって実行される、信号処理動作および機能のフローチャートを示す。
図4】バイラテラル補聴器システムの左耳補聴器の第1のダイナミックレンジコンプレッサの複数の周波数帯域にわたる最大安定ゲイン計算の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付の図面を参照して、本発明のバイノーラル補聴器システムの様々な例示的な実施形態について説明する。当業者は、添付の図面が、明確にするために概略的で、かつ簡略化されており、したがって、本発明の理解に不可欠である詳細を単に示すに過ぎず、他の詳細は省略されていることを理解するであろう。全体を通して、同様の参照番号は同様の要素を指す。したがって、同様の要素は、各図に関して必ずしも詳細に説明されない。
【0029】
図1は、単方向リンクまたは双方向リンクでもよい無線通信リンク12、34L、44L、34R、44Rを介して接続可能な第1のまたは左耳補聴器または器具10L、および、第2のまたは右耳補聴器または器具10Rを備える例示的なバイノーラルまたはバイラテラル補聴器システム50を概略的に示す。左耳補聴器10Lは、第1のデジタルプロセッサ24Lおよび第1のアンテナ44Lに結合された第1の無線通信インタフェース34Lを備える。第1のアンテナ44Lは、電波または磁気誘導アンテナであってもよい。同様に、右耳補聴器10Rは、第2のデジタルプロセッサ24Rおよび第2のアンテナ44Rに結合された第2の無線通信インタフェース34Rを備える。第2のアンテナ44Rは、電波または磁気誘導アンテナであってもよい。無線通信リンクは、デジタル化された第1および第2のマイクロフォン信号、またはそれを表すオーディオデータの、他の補聴器へのリアルタイムストリーミングをサポートするのに十分な帯域幅を有してもよい。固有のIDが、左耳および右耳補聴器10L、10Rのそれぞれに関連付けられてもよい。バイノーラル補聴器システム50の無線通信インタフェース34L、34Rおよびアンテナ44L、44Rは、2.4GHzの産業科学医療(ISM)帯域で動作するように構成されてもよく、Bluetooth(登録商標)LE規格に準拠してもよい。あるいは、図示された無線通信インタフェース34L、34Rの各々は、磁気コイルアンテナ44L、44Rを備え、10~50MHzの周波数領域で動作するNMFIのような近接場磁気カップリングに基づいていてもよい。
【0030】
以下でさらに詳細に説明するように、上述の固有のIDと、場合によっては特定の信号処理パラメータの値をのぞいて、本補聴器システムのいくつかの実施形態では、左補聴器10Lおよび右補聴器10Rは、実質的に同一であってもよい。したがって、左補聴器10Lの物理的構造、特徴、部品、および信号処理機能についての以下の説明は、特に他に示されない限り、右補聴器10Rにも適用される。左補聴器10Lは、第1の補聴器回路25Lに電力を供給するために接続されたZnO2電池(図示せず)または再充電可能な電池を備え、電力の供給を受けてもよい。第1の補聴器回路25Lは、少なくとも、第1のデジタルプロセッサ24Lと、第1の無線データ通信インタフェース34Lとを備えてもよい。左右の補聴器10L、10Rの各々は、例えば、いわゆる、耳掛け型(Behind-the-Ear)(BTE)、外耳道内型(In-the-Canal)(ITC)、完全外耳道内型(Completely-in-Canal)(CIC)、耳内レシーバ型(Receiver-in-the Ear)(RIE)、外耳道内レシーバ型(Receiver-in-the Canal)(RIC)、または耳内マイクロフォンおよびレシーバ型(Microphone-and-Receiver-in ear)(MaRIE)設計のような、様々なハウジングスタイルまたはフォームファクタで実装されてもよい。左補聴器10Lの例示的な実施形態は、図2に概略的に示されるように、いわゆるMaRIE設計として提供され、ユーザの左耳の後ろに配置されるように構成された第1のBTEハウジング210Lと、ユーザの左外耳道の内側に少なくとも部分的に配置されるように構成された第1のイヤプラグ30Lとを備える。第1のイヤプラグ30Lは、例えば、インプレッション採取または光学的外耳道スキャニングおよび3D製造を使用して製造され、ユーザの外耳道の特定の形状にフィットする、カスタマイズされたハウジングを備えてもよい。第1のイヤプラグ30Lは、代替的に、例えば、使用者の外耳道の特定の幾何学的形状に合わせて調整するために、例えば、エラストマー剤または発泡体などの圧縮性材料を使用する、標準化されたハウジングを備えてもよい。第1のイヤプラグ30Lは、以下に更に詳細に論じるように、第1の耳内マイクロフォン16Lと、第1のレシーバまたは小型スピーカ32Lと、を備える。第2のまたは右イヤプラグ30Rは、ユーザの右外耳道の特定の幾何学的形状にフィットするように同様に形成されてもよい。
【0031】
図1に戻ると、左補聴器10Lの特定の実施形態は、入来音のピックアップまたは受け取りおよびその後の処理のための第1の耳内マイクロフォン16Lのみを含む。左補聴器10Lの代替の実施形態は、概略的に示されるように、第1の耳内マイクロフォン16Lおよび第1の追加マイクロフォン17Lを含む、分散型またはハイブリッド型マイクロフォン構成16L、17Lを備える。ハイブリッドマイクロフォン構成16L、17Lは、第1の耳内マイクロフォン16Lに加えて、第1のBTEハウジングに配置された第1のペアの全方向性マイクロフォン17Lを備えてもよい。ハイブリッドマイクロフォン構成16L、17Lの代替実施形態は、第1のBTEハウジング内に単一の全方向性または指向性マイクロフォン17Lのみを備える。
【0032】
第1のペアの全方向性マイクロフォン17Lは、入来音または入射音に応じて、指向性マイクロフォン信号のような第1の追加マイクロフォン信号を生成してもよい。第1のペアの全方向性マイクロフォン17Lのそれぞれの音入口又はポート(図示せず)は、左又は第1のBTEハウジングに、一定の間隔をあけて配置されることが好ましい。音入口またはポート間の間隔は、ハウジングの寸法およびタイプに依存するが、5~30mmの間であってもよい。このポート間隔の範囲は、あるモノラルビームフォーミング信号の形成を可能にする。
【0033】
左耳または第1のイヤプラグ30Lに配置された第1の耳内マイクロフォン16Lは、第1の音入口18Lを介してユーザの左外耳道への入口またはその内側で音圧をピックアップまたは受け取り、対応する第1のマイクロフォン信号60Lを生成するように構成される。これは、内向きがユーザの左外耳道の鼓膜に向かうのとは対照的に、外向きがユーザの左耳の耳甲介/外耳に向かって進むことを意味するところの、第1のイヤプラグ30Lのハウジングの外向き表面に第1の音入口18Lを配置することによって達成されてもよい。第1のイヤプラグ30Lは、さらに、第1の音出口33Lを介して第1のまたは左耳出力音圧として第1のまたは左耳出力信号を生成するように構成された第1の小型スピーカまたはレシーバ32Lを備える。第1の音出口33Lは、左耳出力音圧がユーザの左鼓膜に伝搬するように、左イヤプラグ30Lのハウジングの内向き表面又は部分に配置されてもよい。当業者は、第1の音入口18Lを第1のレシーバ32Lの第1の音出口33Lから音響的に隔離し、以下に更に詳細に論じるように、その間での音響フィードバックを可能な限り抑制するために、左イヤプラグ30Lのハウジングが、ユーザの左外耳道に比較的密着してフィットすることが好ましいことを理解するであろう。
【0034】
左補聴器10Lは、ハイブリッドマイクロフォン構成16L、17Lによって生成された1つまたは複数のアナログマイクロフォン信号を、第1のデジタルプロセッサ24Lによって使用されるための、8kHzと64kHzとの間のような、ある分解能およびサンプリング周波数を有する対応するデジタルマイクロフォン信号に変換する、1つまたは複数のアナログデジタル変換器(図示せず)を備えてもよい。
【0035】
第1のBTEハウジング210L及び第1のイヤプラグ30Lは、図1に概略的に示すように、第1の双方向有線インタフェース26Lを介して機械的及び電気的に相互接続されることが好ましい。第1の双方向有線インタフェース26Lは、場合によっては、取り囲むような柔軟な管状部材によって保護された、1本、2本、又はそれ以上の別個のワイヤ又は導体を備えてもよい。第1の双方向有線インタフェース26Lは、デジタル信号のみを搬送する完全にデジタルのデータインタフェースであってもよいし、ハイブリッドアナログ/デジタルインタフェースであってもよい。第1の双方向有線インタフェース26Lは、第1のデジタルプロセッサ24Lによって生成、送信される第1のゲイン調整済みマイクロフォン信号を、第1のゲイン調整済みマイクロフォン信号を対応する音信号、すなわち、上述した左耳出力音圧に変換する第1のレシーバ32Lに伝えるように構成される。第1の双方向有線インタフェース26Lは、さらに、第1の耳内マイクロフォン16Lによって生成された第1のマイクロフォン信号のデジタルまたはアナログ表現を、第1のデジタルプロセッサ24Lに、その中でのゲイン処理のために送信するように構成される。
【0036】
当業者は、デジタルプロセッサ24L、24Rの各々が、デジタル信号プロセッサのようなソフトウェアプログラマブルマイクロプロセッサを備えてもよく、またはハードワイヤードデジタル論理回路を備えてもよいことを理解するであろう。左右の耳の補聴器10L、10Rの各々の動作は、ソフトウェアプログラマブルマイクロプロセッサ24L、24R上で実行される適切なオペレーティングシステムによって制御されてもよい。オペレーティングシステムは、例えば、聴力損失補償アルゴリズムの実行、第1の無線データ通信インタフェース34Lの制御、入来音の第1および第2の両耳間レベル差の推定、第1および第2のダイナミックレンジコンプレッサ及び、第1、第2のゲイン調整の制御、所定のメモリリソースの管理などを含む、補聴器ハードウェアおよびソフトウェアリソースを管理するように構成されてもよい。オペレーティングシステムは、補聴器リソースの効率的な使用のために、タスクをスケジューリングしてもよく、さらに、電力消費、処理時間、メモリ割り当て、無線送信、および他のリソースを含む、コスト割り当てのための計算ソフトウェアを含んでもよい。オペレーティングシステムは、無線通信リンク12、34L、44L、34R、44Rの動作を制御してもよい。右耳補聴器10Rは、上述のように対応する方法で機能する、対応するハードウェア構成要素およびソフトウェア構成要素を有してもよい。
【0037】
上述のように、第1のデジタルプロセッサ24Lは、第1のマイクロフォン信号60Lのシングルチャネルまたはマルチチャネルゲイン処理を実行するように構成される。このゲイン処理は、第1のダイナミックレンジコンプレッサによって、その第1のレベル対ゲイン特性に従って実行されることが好ましい。当業者は、第1のデジタルプロセッサ24Lの第1のレベル対ゲイン特性は、左耳補聴器10Lをユーザまたは患者に最初にフィッティングする際に、所定のあるフィッティング規則に基づいて、設定または定義されてもよいことを理解するであろう。NAL-1のようなこのフィッティング規則は、患者の測定された聴力損失を補償するために、第1のマイクロフォン信号60Lの、レベル依存の、すなわち非線形の増幅を定義する。このフィッティング規則は、患者の聴力損失の周波数依存性を補償するために第1のダイナミックレンジコンプレッサを適合させるために、第1のダイナミックレンジコンプレッサの複数の周波数帯域またはチャネルにわたって適用されてもよい。このフィッティングは、適切なフィッティングパラメータ、特に、第1のダイナミックレンジコンプレッサのゲイン処理を定義する第1のコンプレッサパラメータ、および/または第2のダイナミックレンジコンプレッサのゲイン処理を定義する第2のコンプレッサパラメータを用いてこれらをプログラムするために、適切なプログラミングインタフェースを介して左右の耳の補聴器10L、10Rに結合されたフィッティングソフトウェアプラットフォームを使用して、ディスペンサによって実行されてもよい。これらの第1および第2のコンプレッサパラメータは、左耳補聴器10Lおよび右耳補聴器10Rのそれぞれの不揮発性メモリ(図示せず)に書き込まれ、記憶されてもよい。第1のデジタルプロセッサ24Lは、第1のデジタルプロセッサ24Lの起動時に不揮発性メモリからコンプレッサパラメータを読み出し、これらを第1のダイナミックレンジコンプレッサによる第1のマイクロフォン信号60Lの処理に利用するように構成されてもよい。さらに、第2のデジタルプロセッサ24Rは、第2のデジタルプロセッサ24Rの起動時にそれに対応する動作を実行してもよい。
【0038】
第1のデジタルプロセッサ24Lは、双方向無線通信リンク12、34L、44L、34R、44Rを介して第1のマイクロフォン信号60Lを表す第1の対側性オーディオデータ61Lを生成して送信し、双方向無線通信リンク12、34L、44L、34R、44Rを介して第2のマイクロフォン信号を表す第2の対側性オーディオデータ61R(図3)を受信するように構成される。第2の対側性オーディオデータ61Lは、好ましくは、第1のデジタルプロセッサ24Lによる第1の対側性オーディオデータ61Lの生成に対応するように、第2のデジタルプロセッサ24Rによって生成され、送信される。第1のデジタルプロセッサ24Lは、以下でさらに詳細に説明するように、第1のマイクロフォン信号60Lおよび第2の対側性オーディオデータ61Rに基づいて、ユーザの左右の耳における入来音の間の第1の両耳間レベル差を推定するように構成される。第2のデジタルプロセッサ24Rは、以下でさらに詳細に論じるように、任意で、第1のマイクロフォン信号60Lおよび第2の対側性オーディオデータ61Rに基づいて、ユーザの左右の耳における入来音の間の第2の両耳間レベル差を推定するように構成されてもよい。
【0039】
図2は、患者の左右の耳の後ろおよび中に取り付けられたバイノーラルまたはバイラテラル補聴器システム(図1の参照番号50)の構成の概略図である。左耳補聴器10Lは、ユーザの左耳たぶの後ろに配置された第1のBTEハウジング210Lを備え、第1のイヤプラグ30Lの全部は、概略的に示されるように、ユーザの左外耳道の内側に配置される。第1のまたは左耳BTEハウジング210Lおよび第1のイヤプラグ30Lは、前述した第1の双方向有線インタフェース26Lを介して機械的および電気的に相互接続される。右耳補聴器(図1の参照番号10R)は、同様に、ユーザの右耳たぶの後ろに配置された第2のBTEハウジング210Rを含み、第2のイヤプラグ30Rの全部は、概略的に示されるように、ユーザの右外耳道の内側に配置される。右耳BTEハウジング210R及び第2のイヤプラグ30Rは、前述した第2の双方向有線インタフェース26Rを介して機械的及び電気的に相互接続される。
【0040】
当業者は、ユーザの左耳外道内の第1の耳内マイクロフォン16Lが音圧をピックアップするまたは受け取る位置が、第1のマイクロフォン信号60Lがユーザの外耳および耳甲介からの音の寄与を含み、したがって、ユーザの個々の左耳に関する頭部伝達関数、すなわち適切な空間キューの正確な表現を提供することを意味することを理解するであろう。同じことが、ユーザの右外耳道内の対応する第2の耳内マイクロフォン16Rによって測定されるユーザの個々の右耳に関する頭部伝達関数にも当てはまり、その結果、ユーザの左耳と右耳との間の個々のILDならびに他の空間キューを正確に決定することができる。
【0041】
図3は、図1に示される、例示的なバイノーラル補聴器システム50の第1の補聴器10Lの第1のデジタルプロセッサ24Lによって実行されるような、バイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する、本例示的な方法に備わっていてもよい信号処理ステップおよび信号処理機能または回路のチャートを示す。当業者は、右耳補聴器10Rの第2のデジタルプロセッサ24Rが、対応する信号処理ステップを実行してもよいことを理解するであろう。第1のイヤプラグ30L(図1および図2に示す)に配置された第1の耳内マイクロフォン16Lは、前述した入来音に応じて、例えばデジタル領域または形式で表される第1の電気マイクロフォン信号を生成する。第1のマイクロフォン信号60Lは、第1のマイクロフォン信号60Lを第1の複数の重複または非重複の周波数帯域に分け、または分割するように構成された分析フィルタバンク310の入力に好ましくは印加される。第1の複数の重複または非重複の周波数帯域は、4~128個の個々の周波数帯域、例えば8~32個の帯域を含んでもよい。分析フィルタバンク310は、例えば高速フーリエ変換技術を用いて周波数領域で動作してもよいし、または時間領域で動作してもよく、例えば、17個の個々の周波数帯域を含む知覚的に関連したスケールで第1の複数の周波数帯域を提供する、いわゆるWARPフィルタを備えてもよい。当業者は、バイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する本方法の代替実施形態が、分析フィルタバンク310をスキップし、第1のマイクロフォン信号60Lの帯域全体を、例えば100Hz~8kHzを単一の周波数帯域として処理してもよいことを理解するであろう。
【0042】
ステップ320において、第1のマイクロフォン信号60Lの第1の複数の周波数帯域の、例えばそれぞれのエネルギーまたは電力レベルによって表されるそれぞれの信号レベルは、第1のデジタルプロセッサによって決定される。ステップ360において、第1の複数の周波数帯域のそれぞれの信号レベルは、周波数帯域に対する個々のアタック時間および個々のリリース時間を用いて、第1の信号プロセッサによって平滑化される。アタック時間とリリース時間との両方が0.5msから100msの間にある場合がある。この場合、最短のアタック/リリース時定数が高周波数帯域、例えば3kHzを超える周波数帯域で利用され、最長のリリース時定数が例えば200Hz未満の低周波数帯域で利用される。第1のマイクロフォン信号60Lの第1の複数の周波数帯域のそれぞれの平滑化された信号レベル推定値は、第1のデジタルプロセッサ(図示せず)によって、アンテナ記号MI_Lによって概略的に表される前述した双方向無線通信リンクに印加され、双方向無線通信リンクを介して右耳補聴器に送信される。第1の複数の周波数帯域のそれぞれの平滑化された信号レベル推定値は、右耳補聴器で受信され、右耳補聴器では、第1のマイクロフォン信号60Lを表す第1の対側性オーディオデータ61Lとして見なされてもよい。第1の対側性オーディオデータは、好ましくは所定時間間隔で更新され、その後、例えばパケット指向通信プロトコルを使用して無線通信リンクを介して送信される。第1の対側性オーディオデータ61Lの更新周波数は、無線通信リンクおよびその通信プロトコルの性質に依存して、2.6kbpsと266kbpsとの間のデータレートに対して、10Hzと350Hzとの間にあってもよい。第2の補聴器での受信時に、第1の対側性オーディオデータ61Lが、現時点での第1のマイクロフォン信号60Lを真に表し、「古すぎない」ことを保証するために、遅延時間が長くなり過ぎないように更新周波数を選択するように注意しなければならない。この課題は、2つの異なる時間スケールで第1のILDおよび/または第2のILDを計算することによって対処してもよい。第1の時間スケールは、無線通信リンク上の通信または伝送プロトコルによって固定されてもよい。第2の時間スケールは、第1のマイクロフォン信号の前述のサンプリング周波数によって固定されてもよい。このように、第1および第2のゲインは、直近に計算されたILDに近づけて適用することができる。
【0043】
右耳補聴器の第2のデジタルプロセッサ(図1に示す)は、同様に、第2のマイクロフォン信号60Rの第2の複数の周波数帯域のそれぞれの平滑化された信号レベル推定値を決定し、それらの推定値を第2の対側性オーディオデータ61Rとして、アンテナ記号MI_Rによって概略的に表される双方向無線通信リンクを介して左耳補聴器に送信してもよい。ステップ390では、周波数帯域ごとの第1および第2のマイクロフォン信号60Lと第2のマイクロフォン信号60Rとの間の第1の複数の両耳間レベル差(ILD)がステップ380で決定されるように、第2の複数の周波数帯域の平滑化された信号レベル推定値が、第1の複数の周波数帯域の対応する平滑化された信号レベル推定値から減算される。決定された第1の両耳間レベル差は、ステップ340で先に決定されているような、第1の複数の周波数帯域について最初に決定されたゲイン値を調整するゲイン調整処理345に適用される。これらの複数の第1のゲイン値の初期値を決定するために、第1の信号プロセッサは、第1の複数の周波数帯域の予め決定されたまたは計算された、平滑化された信号レベルを利用する。
【0044】
ステップ330において、第1の複数の周波数帯域のそれぞれの信号レベルは、好ましくは、個々のアタック時間およびリリース時間のようなそれぞれの時定数を用いた積分によって平滑化される。アタック時間は、12msから50msの間であってもよく、一方、リリース時間は、125msから6000msの間であってもよい。その場合、より短いアタック時間が、より高い周波数帯域(例えば3kHzを超える)で利用され、より長いリリース時間定数が、より低い周波数帯域(例えば200Hz未満)で利用される。
【0045】
ステップ340において、第1の信号プロセッサは、そのレベル対ゲイン特性を参照し、多帯域平滑化動作330によって出力されるような、その周波数帯域の平滑化された信号レベルを参照することによって、その周波数帯のダイナミックレンジコンプレッサまたは圧縮アルゴリズムの瞬時ゲイン値を決定するように構成される。当業者は、第1の複数の周波数帯域のそれぞれのレベル対ゲイン特性が、第1の複数の周波数帯域内の第1のダイナミックレンジコンプレッサに対応するゲインに入来音の音圧レベルをマッピングする1つまたは複数のルックアップテーブルによって定義されてもよいことを理解するであろう。特定の周波数帯域のレベル対ゲイン特性は、下側圧縮ニーポイント、例えば、40~55dBSPLに対応する帯域内信号レベル、および/または上側圧縮ニーポイント、例えば、90~100dBSPLに対応する帯域内信号レベルを備えてもよい。下側ニーポイントを下回ると、ダイナミックレンジコンプレッサのレベル対ゲイン特性は、本質的に線形増幅を示してもよく、上側ニーポイントを超えると、レベル対ゲイン特性は、10:1を超えるような、本質的に無限の圧縮比を示してもよい。日常的なコミュニケーションのための通常の音レベルの大部分に対応する信号レベルである、下側ニーポイントと上側ニーポイントとの間の信号レベルについては、特定の周波数帯域のレベル対ゲイン特性は、1.2と3.0との間の一定またはレベル可変の圧縮比を示してもよい。後者の圧縮比の間隔は、ユーザの聴力損失のリクルートメントを補償し、音声のような所望の音の正常なラウドネス知覚を回復するのによく適している。各周波数帯域のダイナミックレンジコンプレッサの個別に計算したレベル対ゲイン特性を用いることにより、ユーザの聴力損失が顕著な周波数依存性を示しても、ユーザの聴力損失の正確なラウドネス補償を提供することができる。当業者は、右耳補聴器の第1の複数のダイナミックレンジコンプレッサおよび対応する第2の複数のダイナミックレンジコンプレッサのそれぞれのレベル対ゲイン特性が、ディスペンサのオフィスにおけるバイノーラル補聴器システムの最初のフィッティングにおいて決定されてもよいことを理解するだろう。したがって、ステップ340において、第1の複数の周波数帯域のそれぞれのレベル対ゲイン特性が、初期ゲイン値のそれぞれを決定するために、第1のデジタルプロセッサによって利用される。
【0046】
複数の初期の第1のゲイン値は、ステップ350によって利用される予定の、対応する複数の調整された第1のゲイン値を決定するために、調整処理345に適用される。ステップ350において、複数の調整された第1のゲイン値は、第1のマイクロフォン信号60Lの複数の周波数帯域に適用される。増幅された第1のマイクロフォン信号は、例えば、適切な合成フィルタ(図示せず)および適切な出力/電力増幅器を介して、第1のレシーバ32Lに適用される。電力増幅器は、高効率で十分な電力で第1の小型ラウドスピーカを駆動し、対応する音響出力信号または音圧355を送出するため、D級の増幅器を備えてもよい。各周波数帯域内の第1のゲイン値は、ステップ380によって決定されたその周波数帯域におけるILDに応じて、また、第2の補聴器の第2のデジタルプロセッサによって並列に決定されてもよい同じ周波数帯域についての対応するILDまたは第2のILDに応じて、ゲイン調整処理345によって増減されてもよいし、または変更されなくてもよい。しかしながら、全ての場合において、各周波数帯域のゲイン調整の目標は、その周波数帯域において、第1の音響出力信号355と対応する第2の音響出力信号との間で、ILDステップ380によって決定されるような、その帯域に対する第1の両耳間レベル差(ILD)を保持することである。つまり、周波数帯域ごとの第1マイクロフォン信号と第2マイクロフォン信号の間のILDは、ユーザの左右の耳に供給される出力音信号によって保持される。単純な例として、仮に、特定の時点において、特定の周波数帯域または複数の帯域における第1のマイクロフォン信号と第2のマイクロフォン信号との間のILDが、ステップ380で20dBであると測定または決定されるとする。補聴器フィッティングにおいて、左耳および右耳補聴器の第1および第2のダイナミックレンジコンプレッサのそれぞれの圧縮比が、例えば2:1に設定される場合、これは、第1および第2の音響出力信号間のILDが、ダイナミックレンジコンプレッサの動作により、その周波数帯域において約10dBに低減されることを意味する。したがって、ステップ345において、第1および第2の補聴器の組み合わされたゲイン調整の目的は、20dBのILDを再確立することである。
【0047】
このILDの再確立は、いくつかの手法で実施してもよい。本方法の一実施形態によれば、第1または第2のデジタルプロセッサは、ステップ345において、最も低い入来音レベルを受ける補聴器に対して、片側ゲイン低減を適用する。この動作は、第1のマイクロフォン信号60Lのレベルを、広帯域、例えば、100Hzと10kHzとの間の周波数、または上述した任意の特定の周波数帯域のいずれかで、第2のマイクロフォン信号(図示せず)のレベルと比較することを含む。これにより、第1および第2の補聴器のうちのどちらが、その周波数帯域または広帯域の入来音の最低レベルを受けるかを識別することができる。この比較は、ステップ380で計算されたその周波数帯域に対するILDの符号の単純な検査で、第1のデジタルプロセッサによって実行されてもよい。例えば、左耳補聴器が入来音の最低レベルを有する場合、第1のデジタルプロセッサは、典型的には、ステップ345において、第1の出力音響出力信号と第2の出力音響出力信号との間で、ステップ380によって決定されるような両耳間レベル差を保持または再確立するように、左耳補聴器のゲインのみを低減することによって調整する。これは、最低の入来音レベルを受ける補聴器は、典型的には、それぞれのダイナミックレンジコンプレッサによって第1および第2のマイクロフォン信号60L、60Rに付与されるレベル依存ゲインのために、反対側の補聴器よりも高いゲインを示すので、好適となり得る。左耳補聴器の第1のゲインを低減して、その状況において適切な両耳間レベル差を再確立することにより、起こりうるフィードバック安定性の問題が低減される。片側ゲインのみの低減は、同時に、第2の聴覚のダイナミックレンジコンプレッサの最初に決定された第2のゲイン値を維持する役割を果たす。これにより、新たなゲイン誘導フィードバック問題の誘発が回避される。当業者であれば、最低の入来音レベルを受ける補聴器は、補聴器ユーザの周囲のスピーカのような環境音源の位置及び動きに応じて、及び空間における補聴器ユーザの向きに応じて、動的に変化してもよいことを理解するであろう。したがって、バイラテラルダイナミックレンジ圧縮を実行する本方法論、および対応するバイノーラル補聴器システムの特定の実施形態によれば、ステップ345における片側ゲインの低減は、第1の補聴器の第1のダイナミックレンジコンプレッサの第1のゲインと、第2の補聴器の第2のダイナミックレンジコンプレッサの第2のゲインとに、経時的に交互に、例えばILDの符号によって決定されて、適用されてもよい。この実施形態は、好ましくは、第1の補聴器10Lが第1の対側性オーディオデータ61Lを、双方向無線通信リンクを介して第2の補聴器10Rに送信するように、双方向無線通信リンク12(図1および図2に示す)を備える。第2のデジタルプロセッサ24Rは、好ましくは、第2のマイクロフォン信号60Rおよび第1の対側性オーディオデータ61Lのそれぞれのレベルに基づいて、入来音の第2の両耳間レベル差を推定することによって、両耳間レベル差の独立または並列推定を行うように構成される。第2のデジタルプロセッサ24Rは、第2のマイクロフォン信号60Rの第2のゲインを決定し、決定された第2の両耳間レベル差に基づいて、第2のゲインを調整するように構成される。第2のデジタルプロセッサ24Rは、さらに、調整された第2のゲインを第2のマイクロフォン信号に適用し、第1の出力信号と第2の出力信号との間で第2の両耳間レベル差を保持するように構成される。したがって、後者の実施形態では、第1および第2の補聴器は、入来音の第1および第2の両耳間レベル差の推定と、第1および第2のゲインの最初の決定と、それぞれのゲイン調整と、に関して対称的に動作するように構成される。
【0048】
当業者であれば、本方法およびバイノーラル補聴器システムの別の実施形態では、他の方法、例えば、両側ゲイン調整を利用することによって、ILDの望ましくない低減を防止してもよいことを理解するであろう。そのような一つの実施形態によれば、第1または第2のデジタルプロセッサ24L、24Rは、ステップ345において、最低の入来音レベルを受ける補聴器のゲインを低減する。反対側の補聴器のデジタルプロセッサは、ステップ345において、最高の音レベルを受ける補聴器のゲインを増加させ、その結果、組み合わせられたゲイン調整は、ステップ380によって決定されるように、第1の出力信号と第2の出力信号との間で両耳間レベル差を保持する。この動作は、第1のマイクロフォン信号60Lのレベルを、上述した広帯域、または、任意の特定の1つまたは複数の周波数帯域のいずれかで、第2のマイクロフォン信号60Rのレベルと比較することを含む。これにより、第1および第2の補聴器のうちのどちらが、その周波数帯域または広帯域で入来音の最低レベルを受けるかを識別することができる。
【0049】
本方法およびバイノーラル補聴器システムの特定の実施形態は、図3に示すように、第1の音声アクティビティ検出器370を備えてもよい。ステップ320で出力される第1の複数の周波数帯域のそれぞれの信号レベルは、第1の音声アクティビティ検出器370(VAD)の入力に印加されてもよい。第1の音声アクティビティ検出器370は、第1のマイクロフォン信号60L内の音声セグメントおよび非音声セグメントを検出するために、この複数の信号レベルを使用する。対応する第2の補聴器の音声アクティビティ検出器は、対応する方法で第2のマイクロフォン信号を分析する。ステップ345による第1のマイクロフォン信号60Lの第1のゲインの調整は、検出された音声に対してのみ実行される一方で、当該ゲイン調整は、非音声セグメントに対しては省かれる。このようにして、第1のマイクロフォン信号60Lのダイナミックレンジ圧縮によるILDの上述の望ましくない低減は、種々のタイプの環境雑音信号がILD非補償にされる一方で、音声信号に対しては選択的に補償される。これは、第1および/または第2のILDが、第1および/または第2のマイクロフォン信号60L、60Rの音声セグメントに対してより正確に予測され、第1および/または第2のマイクロフォン信号60L、60Rの音声セグメントの位置特定に寄与し得るという利点を有する。第1および/または第2のマイクロフォン信号60L、60Rの音声セグメントのこのような位置特定は、音声の明瞭度をさらに増加させることが証明されている。
【0050】
VAD370は、全体が従来の構造または設計であってもよく、したがって、公知の一般知識のものであってもよい。VAD370の1つの例示的な実施形態は、次の信号処理戦略を利用する。各時間-周波数ビンまたは周波数帯域に対して、現在の信号電力P(f,t)が推定周囲雑音レベルAmb(f,t)より閾値だけ大きい場合、音声-アクティビティインジケータ(VAI)を1に設定し、そうでない場合、VAI(f,t)=0に設定する。これらの動作は、音声信号と雑音信号(f,t)との間の分離を必要とする。これは、異なる時定数を有する2つのローパスフィルタによって達成される。実際に分離されるのは、雑音ストリーム単独からの信号プラス雑音ストリームである。音声信号のエンベロープはより迅速に変化するので、背景雑音から所望の音声セグメントをフィルタリングすることができる。
【0051】
上述したように、左イヤプラグ30L(図1参照)のハウジングの第1の音入口18Lと音出口33Lとの間の本来的な近接は、これらの音ポート間の比較的限定された音響減衰をもたらし、左耳補聴器10Lの最大安定ゲインを望ましくない低い値に制限し得る。最大安定ゲインは、第1のデジタルプロセッサ24Lに適応したフィードバックキャンセルアルゴリズムを含めることによって、しばしば15~20dBだけ著しく増加し得る。第1のデジタルプロセッサ24Lは、第1の音響出力信号355から第1の耳内マイクロフォン16Lへの第1のフィードバック経路の伝達関数を決定するように、構成またはプログラムされる。第1のデジタルプロセッサ24Lは、第1の補聴器の最大安定ゲインを増加させるために、固定フィードバックキャンセルフィルタまたは適応フィードバックキャンセルフィルタによって、第1のフィードバック経路を補償するようにさらに構成される。
【0052】
左耳補聴器10Lの最大安定ゲインを増加させる別の方法、または補完的な方法は、補聴器10Lのハウジング構造において、耳内マイクロフォン16Lとは異なる物理的位置で、ピックアップされるまたは受け取られる追加マイクロフォン信号を利用することを含む。図2に模式的に図示されているように、この追加マイクロフォンは、左耳BTEハウジング210Lに配置された、第1のペアの全方向性マイクロフォン17Lのうちの1つ、またはその両方であってもよい。追加マイクロフォンの追加マイクロフォン信号、「BTEマイクロフォン信号」、および第1の耳内マイクロフォン信号は、周波数に依存する比率で混合または結合されて、第1のハイブリッドマイクロフォン信号を生成する。当該信号に対して、上述した図3の処理ステップが実行される。上述の追加マイクロフォンは、第1の耳内マイクロフォンよりも第1のレシーバ32Lに対して著しく離れて位置する。このため、第1のレシーバ32Lによって放出されるフィードバック信号は、第1の耳内マイクロフォン16Lへの場合よりも減衰される。BTEマイクロフォン信号と第1の耳内マイクロフォン信号との比率は、ハイブリッドマイクロフォン信号が、常に第1の耳内マイクロフォン信号と実質的に同じレベルを有するように、第1のデジタルプロセッサ24Lによって制御されてもよい。ハイブリッドマイクロフォン信号に対する第1の耳内マイクロフォン信号の寄与は、フィードバック問題が存在する特定の周波数帯域または周波数範囲では、例えば最大安定ゲインが実際のゲインを超えるので、比較的小さな量、例えば0.1~0.33に設定されてもよく、フィードバック問題のない周波数帯域または範囲では、比較的大きく、例えば0.8~1.0に設定されてもよい。BTEマイクロフォン信号と第1の耳内マイクロフォン信号とにおける周波数依存の混合は、BTEマイクロフォン信号が、第1の耳内マイクロフォン信号のゲインを効果的に低減するように、フィードバックに敏感な周波数領域では、ハイブリッドマイクロフォン信号に対して、例えば0.5より大きい支配的な寄与、を確実にする。この第1の耳内マイクロフォン信号のゲインの低減は、第1のレシーバ32Lと第1の耳内マイクロフォン16Lとの間のフィードバック経路のループゲインを低減させ、それによって左耳補聴器10Lの最大安定ゲインを増加させるのに役立つ。
【0053】
図4は、複数の周波数帯域1~17にわたるバイラテラル補聴器システムの左耳補聴器10Lについての最大安定ゲイン計算の結果の概略図を示す。ゲイン曲線401は、左縦スケールに、左耳補聴器10Lの音響挿入ゲインを示す。ゲイン曲線405は、音のピックアップ/音の受け取り、および増幅のために第1の耳内マイクロフォン16Lのみを使用する場合の左耳補聴器10Lの推定最大安定ゲインを示す。ゲイン曲線410は、音のピックアップ/音の受け取り、および増幅のために第1のペアの全方向性マイクロフォン17Lのみを使用する場合の左耳補聴器10Lの推定最大安定ゲインを示す。
【0054】
予想されるように、後者の最大安定ゲインは、とりわけ、第1のペアの全方向性マイクロフォン17Lと第1のレシーバ32Lとの間のより大きな物理的分離のために、第1の耳内マイクロフォン16Lの最大安定ゲインよりも著しく高い。黒い四角415によって示されるように、第1のデジタルプロセッサ24Lは、その周波数範囲内の第1のマイクロフォン信号に減衰を適用してもよい。これは、最大安定ゲインが、その周波数範囲内では音響挿入ゲインよりも低く、このことは、音響フィードバック発振の可能性が高いことを示すためである。第1のマイクロフォン信号の減衰は、第1のペアの全方向性マイクロフォン17Lによって生成されるマイクロフォン信号に、第1のハイブリッドマイクロフォン信号において後者が支配的であるように、混合又はブレンドすることによって実行してもよい。混合は、好ましくは、第1のハイブリッドマイクロフォン信号のレベルが第1のマイクロフォン信号のレベルにほぼ一致するように実行される。
【符号の説明】
【0055】
10L:第1の補聴器、10R:第2の補聴器、12:無線通信リンク、16L:第1の耳内マイクロフォン、16R:第2の耳内マイクロフォン、17L:第1の追加マイクロフォン、17R:第2の追加マイクロフォン、18L:第1の音入口、18R:第2の音入口、24L:第1のデジタルプロセッサ、24R:第2のデジタルプロセッサ、25L:第1の補聴器回路、25R:第2の補聴器回路、26L:第1の双方向有線インタフェース、26R:第2の双方向有線インタフェース、30L:第1のイヤプラグ、30R:第2のイヤプラグ、32L:第1のレシーバ、32R:第2のレシーバ、33L:第1の音出口、33R:第2の音出口、34L:第1の無線データ通信インタフェース、34R:第2の無線データ通信インタフェース、44L:第1のアンテナ、44R:第2のアンテナ、50:バイノーラル補聴器システム、60L:第1のマイクロフォン信号、60R:第2のマイクロフォン信号、61L:第1の対側性オーディオデータ、61R:第2の対側性オーディオデータ、210L:第1のBTEハウジング、210R:第2のBTEハウジング、310:第1の複数の周波数帯域に第1のマイクロフォン信号を分割または分けるように構成された分析フィルタバンク、320:第1の複数の周波数帯域の第1の信号レベルを決定すること、330:第1の複数の信号レベルを平滑化すること、340:コンプレッサまたはコンプレッサアルゴリズムの第1の初期ゲイン値を決定すること、345:複数の初期の第1のゲイン値を調整処理に適用して、対応する複数の調整された第1のゲイン値を決定すること、350:複数の調整された第1のゲイン値を複数の周波数帯域に適用すること、355:対応する音響出力信号を提供すること、360:第1の信号レベルを平滑化すること、370:第1のマイクロフォン信号内の音声セグメントおよび非音声セグメントを検出するように構成された音声アクティビティ検出器、380:周波数帯域ごとに第1のマイクロフォン信号と第2のマイクロフォン信号との間で第1の複数の両耳間レベル差(ILD)を決定すること、390:第1の複数の周波数帯域の対応する平滑化された信号レベル推定値から、第2の複数の周波数帯域の平滑化された信号レベル推定値を減算すること
図1
図2
図3
図4
【外国語明細書】