(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083491
(43)【公開日】2022-06-06
(54)【発明の名称】水熱処理装置及び水熱処理システム
(51)【国際特許分類】
B09B 3/70 20220101AFI20220530BHJP
B09B 3/65 20220101ALI20220530BHJP
C02F 11/08 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
B09B3/00 304H
B09B3/00 C ZAB
C02F11/08
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194827
(22)【出願日】2020-11-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】501370370
【氏名又は名称】三菱重工環境・化学エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】ハルディ フラビアヌス
【テーマコード(参考)】
4D004
4D059
【Fターム(参考)】
4D004AA02
4D004AA03
4D004AA12
4D004AC04
4D004AC05
4D004BA03
4D004CA13
4D004CA15
4D004CA18
4D004CA22
4D004CB04
4D004CB21
4D004CC01
4D004CC03
4D004DA02
4D004DA06
4D004DA13
4D059AA01
4D059AA03
4D059AA07
4D059BB01
4D059BC03
4D059BE02
4D059BE26
4D059BJ01
4D059BK12
4D059BK17
4D059CA22
4D059EA06
4D059EA16
4D059EB06
4D059EB16
4D059EB20
(57)【要約】
【課題】1つの水熱処理装置による水熱処理により、有機物含有廃棄物を可溶化させ、且つ、メラノイジン及び微細なプラスチックの生成量を低減する。
【解決手段】水熱処理装置10は、密閉容器11と、この内部温度を計測する温度計測装置18と、密閉容器11に水蒸気を導入する導入管14と、導入管14に配置された電磁弁15と、減圧装置17と、制御装置19とを有する。密閉容器11内に有機物含有廃棄物が投入された後、制御装置19は、次のように制御して、有機物含有廃棄物を水熱反応させる。すなわち、内部温度が第一温度になるまで昇温した後、第一温度を第一時間継続してから降温し、内部温度が第一温度から第二温度に低下した後、第二温度を第二時間(第一時間と同等又はこれよりも長い時間)継続してから昇温し、内部温度が第一温度と同等の第三温度に達した後、第三温度を第一時間と同様の第三時間継続してから降温する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
投入口と排出口を備え、有機物含有廃棄物が投入される密閉容器と、
前記密閉容器の内部温度を計測する温度計測装置と、
前記密閉容器に水蒸気を導入する導入管と、
前記導入管に配置され、開弁することで前記水蒸気を前記密閉容器に導入し、閉弁することで前記導入を停止する電磁弁と、
前記水蒸気が導入された前記密閉容器から前記水蒸気を放出することで前記密閉容器内の圧力を減圧する減圧装置と、
前記温度計測装置が計測した前記内部温度に基づき、前記電磁弁及び前記減圧装置を制御して、前記密閉容器内の有機物含有廃棄物を水熱反応させる制御装置と
を有し、
前記制御装置は、
前記水熱反応の際、前記密閉容器に前記水蒸気を導入して前記内部温度がメイラード反応促進温度以上の第一温度になるまで昇温した後、前記第一温度を第一時間継続し、
前記第一時間経過後ただちに、前記圧力を減圧して前記第一温度より前記内部温度を降温させ、
前記降温により、前記内部温度が前記第一温度から水熱反応下限温度以上である第二温度に低下した後、前記第二温度を前記第一時間と同等または前記第一時間より長い第二時間継続し、
前記第二時間経過後ただちに、前記内部温度が前記第一温度と同等の第三温度になるまで昇温した後、前記第三温度を前記第一時間と同等の第三時間継続し、
前記第三時間経過後ただちに、前記圧力を減圧して前記内部温度を前記第三温度より降温する水熱処理装置。
【請求項2】
前記投入された有機物含有廃棄物を前記密閉容器内で撹拌する撹拌装置をさらに有し、
前記制御装置は、前記撹拌装置を制御して、前記第一時間では第一撹拌速度で前記撹拌をし、前記第二時間では前記撹拌をせず又は前記第一撹拌速度よりも遅い第二撹拌速度で前記撹拌をし、前記第三時間では前記第一撹拌速度と同等の第三撹拌速度で前記撹拌をする請求項1に記載の水熱処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれか一項に記載の水熱処理装置と、
前記水熱処理装置で水熱反応させた有機物含有廃棄物を水熱処理液と残余物とに分離する固液分離装置と、
前記固液分離装置で分離した前記水熱処理液を原料にして微生物または菌によるガス生成を行うガス生成装置と
を有する水熱処理システム。
【請求項4】
前記ガス生成装置は、メタン発酵装置である請求項3に記載の水熱処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物含有廃棄物を処理する水熱処理装置、並びに、当該水熱処理装置を用いてガス生成を行う水熱処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
都市ごみなどの家庭から排出される厨芥(生ごみ)、紙や草木などの木質系廃棄物、家畜糞尿、汚泥といった有機物含有廃棄物を高温高圧の水蒸気で水熱反応させて可溶化(水熱処理)し、水熱処理後のスラリーを用いて微生物や菌によるガス生成、例えば、メタン発酵を行うシステムが開発されている(例えば特許文献1,2)。
特許文献1には、密閉可能な容器に有機物含有廃棄物を投入して撹拌しながら水熱処理を行う水熱処理装置が開示されている。特許文献1では、容器内の温度が180℃未満であると、生物の骨などの固い成分が十分に可溶化しないため、180℃、1.0MPaで水熱処理をしている。
【0003】
しかしながら、特許文献2に記載のように、150℃以上で水熱処理をすると、有機廃棄物に含まれる糖とタンパク質とのメイラード反応が促進され、窒素含有抗酸化物質であり、且つ、ガス生成の阻害物質であるメラノイジンの生成が顕著になる。そこで、特許文献2では、メラノイジンの量を低減するため、2つの水熱処理装置を備えたシステムを開示している。
まず、第1水熱処理装置で、メイラード反応を抑制できる低温(例えば120℃)にて水熱処理を行う。次に、固液分離により、第1水熱処理装置で生成した液体(便宜上「水熱処理液1」と表記する)を除いたのち、生成した固体を第2水熱処理装置に移送する。そして、第2水熱処理装置で、高温(例えば220℃)にて水熱処理を行い、第2水熱処理装置で生成した液体(便宜上「水熱処理液2」と表記する)と先に除いた水熱処理液1とを発酵装置に移送し、発酵装置でメタン発酵させる。
水熱処理液1は、メイラード反応を抑制する低温での水熱処理で生成されているため、原理的にメラノイジンの生成は微量となる。また、水熱処理液1を除いたことで第2水熱処理装置へ移送される窒素化合物の量が減少するので、メイラード反応が促進される高温にて水熱処理を行う第2水熱処理装置で生成するメラノイジンの量も減少する。従って、第1水熱処理装置を配置せず、第2水熱処理装置のみのシステムで水熱処理をする場合と比べて、第1及び第2水熱処理装置を備えたシステムは、水熱処理液1及び水熱処理液2に含まれるメラノイジンの総量を低減でき、結果としてメタン発酵の際の発酵阻害を低減できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-119378号公報
【特許文献2】特開2020-163280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、ごみ収集車で回収される有機物含有廃棄物やごみ清掃工場のごみピットに貯留された有機物含有廃棄物を用いて、微生物や菌でガス発生させる場合、厨芥類、紙類、草木類を選択的に水熱処理するのがよい。しかし、有機物含有廃棄物の中から厨芥類、紙類、草木類を選択的に取り出したとしても、当該ガス発生に寄与しない又は寄与しづらい有機物が完全には除去されずに残留しているのが一般的である。金属等の無機物並びにプラスチック等の有機物は、微生物等によるガス生成に寄与しない又は寄与しづらい。このため、例えば、6mm径より大きな金属等の無機物やプラスチック等の有機物は、水熱処理後の固液分離(例えば、目開き6mm径のスクリーン)で除去される。
しかし、この場合、水熱処理により6mm径以下に微細化したプラスチックは、水熱処理後に固液分離された液(以下、「水熱処理液」という)に含まれたまま、微生物や菌を用いてガスを生成するガス生成装置(例えば、発酵装置)に移送される恐れがある。ガス生成装置に投入される水熱処理液は、予め定められた規定量(一定量)であることから、水熱処理液に微細化したプラスチックが多く含まれるほど、当該規定量に占めるプラスチックの割合が増し、ガスの生成効率が低減する。従って、微細化したプラスチックは、微生物等によるガス生成に寄与せず、また、微生物等によるガス生成を妨げるものではないが、規定量の水熱処理液から生成するガスの生成量を減少させるという意味で、やはりガス生成の阻害物質であるといえる。
本発明者の実験によれば、180℃の温度一定で60分間の水熱処理を行うと、有機物含有廃棄物に含有されたプラスチックのうち、約65%が寸法6mm以下に微細化されることが判明している。従って、目開き6mm径のスクリーンで固液分離が行われる場合、有機物含有廃棄物に含有されたプラスチックの大部分が、水熱反応により微細化されてガス生成装置に移送されることになる。これでは、効率の良いガス生成ができない恐れがあり、改善が望まれる。
【0006】
そこで、改善の一案として、低温で水熱処理することが考えられる。なぜなら、微細なプラスチックは、メラノイジンと同様に水熱反応が高温で行われるほど多く生成されるからである。しかし、この場合、特許文献1によれば有機物含有廃棄物が十分に可溶化せず、水熱処理液に溶け込む有機物の量が低減し、やはり効率の良いガス生成ができない恐れがある。
なお、特許文献2の技術では、メラノイジンの生成量は低減できても、微細なプラスチックの量は依然として低減できず、しかも2つの水熱処理装置を使用するため、システムのコストアップは避けられない。
【0007】
そこで、本発明では、1つの水熱処理装置で、有機物含有廃棄物を可溶化させるとともに、ガス生成に関する2つの阻害物質であるメラノイジンと微細なプラスチックの生成量を低減することを可能とする水熱処理装置及び水熱処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水熱処理装置は、投入口と排出口を備え、有機物含有廃棄物が投入される密閉容器と、前記密閉容器の内部温度を計測する温度計測装置と、前記密閉容器に水蒸気を導入する導入管と、前記導入管に配置され、開弁することで前記水蒸気を前記密閉容器に導入し、閉弁することで前記導入を停止する電磁弁と、前記水蒸気が導入された前記密閉容器から前記水蒸気を放出することで前記密閉容器内の圧力を減圧する減圧装置と、前記温度計測装置が計測した前記内部温度に基づき、前記電磁弁及び前記減圧装置を制御して、前記密閉容器内の有機物含有廃棄物を水熱反応させる制御装置とを有する。
そして、前記制御装置は、前記水熱反応の際、前記密閉容器に前記水蒸気を導入して前記内部温度がメイラード反応促進温度以上の第一温度になるまで昇温した後、前記第一温度を第一時間継続し、前記第一時間経過後ただちに、前記圧力を減圧して前記第一温度より前記内部温度を降温させ、前記降温により、前記内部温度が前記第一温度から水熱反応下限温度以上である第二温度に低下した後、前記第二温度を前記第一時間と同等または前記第一時間より長い第二時間継続し、前記第二時間経過後ただちに、前記内部温度が前記第一温度と同等の第三温度になるまで昇温した後、前記第三温度を前記第一時間と同等の第三時間継続し、前記第三時間経過後ただちに、前記圧力を減圧して前記内部温度を前記第三温度より降温する。
【0009】
また、本発明の水熱処理システムは、本発明の水熱処理装置と、前記水熱処理装置で水熱反応させた有機物含有廃棄物を水熱処理液と残余物とに分離する固液分離装置と、前記固液分離装置で分離した前記水熱処理液を原料にして微生物または菌によるガス生成を行うガス生成装置とを有する。
【0010】
本発明の水熱処理装置は、密閉容器内に有機物含有廃棄物を投入後、メイラード反応促進温度以上の第一温度に密閉容器内の温度を昇温して第一時間だけ第一温度を維持し、その後、ただちに第一温度よりも低い第二温度(ただし、水熱反応下限温度以上の温度)に降温して第二温度を第二時間だけ維持した後、再び、第三温度に昇温して第三時間だけ第三温度を維持し、その後、ただちに第三温度より降温する。すなわち、水熱処理装置を起動してからの温度変化を、時間経過を「→」で示して記載すると、「低(常温:装置起動時)」→「高(メイラード反応促進温度以上で水熱反応)」→「低(水熱反応下限温度以上で水熱反応)」→「高(メイラード反応促進温度以上で水熱反応)」→「低」とする。
言い換えれば、密閉容器の内部温度を、まずメイラード反応促進温度以上の第一温度に上昇させて有機物含有廃棄物の水熱反応を円滑に開始させるとともに、第一時間経過後ただちに下降させ、その後、再び第一温度と同等の第三温度に上昇させ、その後、降温させる。これにより、水熱反応の途中で有機物含有廃棄物の有機物に温度変化を与えてその細胞壁に複数回の熱衝撃を加え、当該有機物の可溶化を促進する。すなわち、本発明の水熱処理装置で水熱反応した有機物含有廃棄物は、有機物の細胞壁が水熱反応中に加えられた熱衝撃により一部破壊されているので、単に第二温度の一定値のみで水熱反応する場合に比べ、本発明における第二温度の領域においても、より多く可溶化する。
【0011】
また、第一温度よりも低温の第二温度で水熱処理を行う第二時間が、第一時間と同等または第一時間より長いため、第一温度のみの温度一定で水熱処理を行う場合に比べ、メラノイジンの量と微細なプラスチックの量のいずれも低減する。
従って、本発明の水熱処理装置で生成した水熱処理液では、有機物の含有量が多く、且つ、従来に比べ、ガス生成の阻害物質であるメラノイジンと微細なプラスチックの含有量が少なくなる。
さらに、本発明の水熱処理装置システムは、本発明の水熱処理装置で生成した水熱処理液を用いてガス生成をするため、効率よくガス生成をすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水熱処理装置によれば、1つの水熱処理装置でありながら、有機物含有廃棄物を可溶化させるとともに、微生物や菌によるガス生成の阻害物質であるメラノイジン及び微細なプラスチックの生成量を低減することができる。
また、本発明の水熱処理システムによれば、これら2つの阻害物質の少ない水熱処理液を用いてガス生成をするため、効率よくガス生成をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る水熱処理システムを示す模式図である。
【
図2】実施形態に係る水熱処理装置を示す模式図である。
【
図3】実施形態に係る水熱処理装置で実施される密閉容器の内部温度制御及び撹拌制御を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、実施形態としての水熱処理装置及びこれを有する水熱処理システムについて説明する。以下に示す構成等はあくまでも例示に過ぎず、明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下に示す構成等は、本発明における必須の構成要件及びその趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0015】
図1は、本実施形態の水熱処理システム1を示す模式図である。水熱処理システム1は、有機物含有廃棄物を高温高圧の水蒸気で水熱反応させて可溶化する水熱処理装置10と、水熱処理装置10で水熱反応させた有機物含有廃棄物(以下、水熱処理物という)を水熱処理液と残余物とに分離する固液分離装置20と、固液分離装置20で分離した水熱処理液を原料にして微生物または菌によりガス生成を行うガス生成装置30(例えば、メタン発酵を行うメタン発酵装置)とを有する。
水熱処理装置10に投入される有機物含有廃棄物としては、家庭から排出される生ごみ、木質系廃棄物、家畜糞尿、汚泥などが挙げられる。ごみ収集車で回収された有機物含有廃棄物やごみ清掃工場のごみピットに貯留された有機物含有廃棄物をそのまま水熱処理装置10に投入してもよいし、これらの有機物含有廃棄物から無機物を取り除いた後、水熱処理装置10に投入してもよい。もちろん、これらの有機物含有廃棄物の中から厨芥類、紙類、草木類を選択的に取り出し、取り出した厨芥類、紙類または草木類を水熱処理装置10に投入してもよい。しかし、いずれの場合においても、一般的に、有機物含有廃棄物から微生物や菌等によるガス生成に寄与しない又は寄与しづらい有機物であるプラスチックを完全には取り除くことはできない。
なお、水熱処理装置10の構成及び制御は、
図2及び
図3を用いて後述する。
【0016】
固液分離装置20は、ある粒度未満の液体は通過させつつ当該粒度以上の固体を通過させずに分離する装置であり、所定の目開き(例えば、6mm径の目開き)を備えたスクリーンやスクリュープレスなどを使用することができる。水熱処理液には、有機物含有廃棄物の有機物が多量に溶け込んでおり、後述のガス生成装置30におけるガス生成の原料となる。
なお、固液分離装置20から排出された残余物は、廃棄又は焼却処分される。
【0017】
ガス生成装置30は、例えば、メタン発酵によりメタンガスを生成する装置である。水熱処理システム1は、後述の水熱処理装置10においてメラノイジンや微細なプラスチックの量を低減できることから、効率的にガス生成をすることが可能となる。
なお、ガス生成装置30は、水熱処理液を原料にして微生物または菌でガスを生成する装置であれば、水素等のガスを生成する装置であってもよい。
【0018】
図2は、本実施形態の水熱処理装置10を示す模式図である。水熱処理装置10は、内部を密閉可能な密閉容器11と、密閉容器11に水蒸気を導入する導入管14と、導入管14に配置された電磁弁15と、密閉容器11の内部温度を計測する温度センサ18(温度計測装置)と、水蒸気が導入された密閉容器11の内部圧力を減圧する減圧装置17と、密閉容器11に投入された有機物含有廃棄物を撹拌する撹拌装置16と、温度センサ18の計測した内部温度に基づいて電磁弁15、減圧装置17、並びに撹拌装置16を制御する制御装置19とを有する。
【0019】
密閉容器11は、投入口12と排出口13を備える。水熱反応させる有機物含有廃棄物は、投入口12から密閉容器11の内部に投入される。水熱処理の際は、投入口12と排出口13は閉じられ、密閉容器11は密閉される。水熱処理がされた有機物含有廃棄物(水熱処理物)は、排出口13を開けて密閉容器11の外部へ排出され、例えばコンベアなどで固液分離装置20へ移送される。なお、水熱処理物は、有機物含有廃棄物が水熱処理により可溶化しているため、スラリーの状態であることが多い。
導入管14は、その一端が密閉容器11に連通され、その他端側から高温の水蒸気が導入される配管である。当該水蒸気として、例えば、ごみ焼却炉のタービンで発電利用後の水蒸気を利用することができる。なお、発電利用直後の水蒸気の温度は200℃を超える高温であることから、後述する第一温度C1の設定に応じて、発電利用直後の水蒸気をそのまま密閉容器11に導入する場合や、当該水蒸気を自然冷却または冷却装置で適宜冷却した後に使用する場合がありうる。
【0020】
電磁弁15は、開弁することで導入管14を通じて水蒸気を密閉容器11に導入し、閉弁することで水蒸気の導入を停止する。電磁弁15の開閉は、制御装置19によって制御される。
温度センサ(温度計測装置)18は、密閉容器11の内部温度を計測して制御装置19へ送信する。
撹拌装置16は、密閉容器11に投入された有機物含有廃棄物の水熱反応を促進させ、且つ、こげつきを防止するために有機物含有廃棄物を撹拌する。撹拌装置16は、例えば、密閉容器11内に配置された撹拌羽根を備え、固定された密閉容器11内で撹拌羽根を回転させる形式であってもよいし、密閉容器11自体を回転させる形式でもよい。撹拌装置16の撹拌速度は、制御装置19によって制御される。
減圧装置17は、水蒸気が導入された密閉容器11から、水熱処理中に当該水蒸気の一部を密閉容器11の外部へ放出し、または、水熱処理終了後に当該水蒸気の全部を密閉容器11の外部へ放出して、密閉容器11の内部圧力を減圧する。当該減圧の程度は、制御装置19によって制御される。
制御装置19は、水熱処理の際、温度センサ18で計測された内部温度に基づき、電磁弁15を開弁または閉弁し、また、減圧装置17を制御して密閉容器11の内部の圧力を適宜減圧し、密閉容器11の内部温度を制御する。また、制御装置19は、温度センサ18で計測された内部温度に基づき、撹拌装置16を制御して、密閉容器11に投入された有機物含有廃棄物に対する撹拌速度を増減する。
【0021】
では、制御装置19の制御につき、
図3を用いて説明する。
制御装置19は、密閉容器11に有機物含有廃棄物が投入され、密閉容器11が密閉された後、電磁弁15を開弁して密閉容器11に高温の水蒸気を導入し、密閉容器11の内部温度がメイラード反応促進温度以上の第一温度C1になるまで昇温する。その後、電磁弁15を閉弁し、または閉弁と開弁を適宜繰り返して、第一温度C1を第一時間T1だけ継続する。この時、制御装置19は、撹拌装置16を制御して、第一撹拌速度R1で、密閉容器11内の有機物含有廃棄物を撹拌する。この制御により、水熱処理開始後、メイラード反応促進温度以上の温度で有機物含有廃棄物の水熱反応が生じるため、有機物含有廃棄物の可溶化を円滑に開始することができる。
なお、先述のとおり、メイラード反応促進温度は特許文献2によれば150℃以上である。そして、特許文献2では、メイラード反応を抑制する温度として120℃を設定している。従って、メイラード反応促進温度の下限は、120℃より高く、150℃より低い温度であるといえる。そこで、両数値の中間点である135℃を当該下限と仮定する。従って、ここでは、メイラード反応促進温度は、135℃以上、望ましくは150℃以上と設定する。
【0022】
そして、第一時間T1の経過後ただちに、制御装置19は、減圧装置17を制御して密閉容器11内の水蒸気を密閉容器11の外部へ一部放出する。これにより、制御装置19は、密閉容器11の内部圧力を減圧し、密閉容器11の内部温度を第一温度C1より急速に降温させる。このとき、制御装置19は、電磁弁15を閉弁するのが望ましい。
この制御により、有機物含有廃棄物の有機物の細胞壁に、水熱反応の途中で熱衝撃(第一熱衝撃)が加えられ、当該細胞壁の一部が破壊される。なお、内部温度を第一温度C1から降温させる際、急激に短時間(0~10分間以内、望ましくは0~5分間程度)で降温させるのが望ましいので、減圧装置17に加え、冷却装置(図示なし)により密閉容器11内を強制冷却してもよい。
ここで、熱衝撃は有機物含有廃棄物に含まれるプラスチックも受けることになるが、有機物の細胞とプラスチックとを比較すると、水分の有無や熱伝導率の相違があるため、プラスチックに対する熱衝撃の影響は、細胞に比べ小さい。よって、ここでの熱衝撃が原因となるプラスチックの微細化は実質的に生じない。
【0023】
密閉容器11の内部温度が、第一温度C1から水熱反応下限温度以上である第二温度C2に低下した後、制御装置19は、第二温度C2を第一時間T1と同等または第一時間T1より長い第二時間T2だけ継続する。この時、制御装置19は、撹拌装置16を制御して、第一撹拌速度R1より低速の第二撹拌速度R2で、密閉容器11の有機物含有廃棄物を撹拌する。
この制御により、第二温度C2で比較的長時間の有機物含有廃棄物の水熱反応が行われるが、第一熱衝撃により、すでに一部の細胞壁が破壊されているので、第一熱衝撃のない場合に比べ、有機物含有廃棄物の有機物の可溶化が促進する。また、第二温度C2は第一温度C1より低温であるため、第二温度C2より高温の第一温度C1のみで水熱処理する場合に比べ、ガス生成の阻害物質であるメラノイジンや微細なプラスチックの生成が抑制される。加えて、撹拌速度も低速な第二撹拌速度R2であるので、第二撹拌速度R2より高速の第一撹拌速度R1で水熱処理を行う場合に比べ、微細なプラスチックの生成をさらに抑制することができる。
なお、第一温度C1から第二温度C2に到達する前に、制御装置19は、減圧装置17による減圧を停止している。また、制御装置19は、電磁弁15を閉弁し、または閉弁と開弁を適宜繰り返して、第二温度C2を第二時間T2だけ継続する。また、水熱反応は水蒸気を使用するため、ここでは、水熱反応下限温度は大気圧で水蒸気が発生する100℃に設定する。
また、
図3では、第二撹拌速度R2が0rpmより大きい値を示しているが、有機物含有廃棄物がこげつかない場合は、第二撹拌速度R2は0rpmとしてもよい。
【0024】
そして、第二時間T2経過後ただちに、制御装置19は、電磁弁15を開弁して密閉容器11に水蒸気を導入し、密閉容器11の内部温度が第一温度C1と同等の第三温度C3になるまで昇温する。この制御により、第二時間T2において可溶化が不十分であった有機物含有廃棄物の有機物の細胞壁にさらに熱衝撃(第二熱衝撃)が加えられ、当該可溶化が不十分な有機物の細胞壁の一部が破壊される。このため、骨等の容易に可溶化しない有機物も、第一及び第二熱衝撃(水熱反応中の複数の熱衝撃)により、次第に可溶化が促進される。
その後、制御装置19は、電磁弁15を閉弁し、または閉弁と開弁を適宜繰り返して、第三温度C3を第一時間T1と同等の第三時間T3だけ継続する。この時、制御装置19は、撹拌装置16を制御して、第二撹拌速度R2より高速、且つ、第一撹拌速度R1と同等(またはやや低速)の第三撹拌速度R3で、密閉容器11の有機物含有廃棄物を撹拌する。
そして、第三時間T3経過後ただちに、制御装置19は、減圧装置17を制御して密閉容器11内の水蒸気を密閉容器11の外部へ放出する。これにより、制御装置19は、密閉容器11の内部圧力を減圧し、密閉容器11の内部温度を第三温度C3より降温する。この際、減圧装置17に加え、先述のように冷却装置を用いて密閉容器11内を強制冷却してもよい。
【0025】
ここで、
図3は、第三時間T3経過後ただちに水熱処理を終了して水熱処理装置10を停止するグラフであるので、第三時間T3経過後ただちに、制御装置19は、減圧装置17を制御して密閉容器11内の水蒸気を密閉容器11の外部へ全部放出し、密閉容器11の内部圧力を減圧している。また、第三時間T3経過後ただちに、制御装置19は、撹拌装置16を停止している。すなわち、
図3に示した反応時間Tは、内部温度が第一温度C1に到達してから、言い換えれば第一時間T1の開始時点から、第三時間T3の継続が終了するまでの時間としている。
しかし、
図3はあくまで一例であり、第三時間T3経過後に水熱処理を継続してもよい。この場合は、
図3に示した反応時間Tが当然に長くなる。反応時間Tは、第一時間T1の開始時点から、水熱処理装置10として水熱反応を終了させるまでの時間である。
例えば、
図3の第三時間T3経過後に、再び、第一時間T1及び第二時間T2と同様の制御、すなわち、第一熱衝撃と第二熱衝撃と同様の熱衝撃をさらに加える制御を行ってもよい。言い換えれば、反応時間T内、すなわち水熱反応の途中で、2回以上の複数回の熱衝撃を加える制御を行ってもよい。水熱反応中の熱衝撃の回数が、3回、4回、などと多いほど、骨等の容易に可溶化しない有機物であっても、比較的低温の第二温度C2において可溶化が進むようになる。
なお、この場合は、第三時間T3経過後ただちに、制御装置19は、減圧装置17を制御して密閉容器11内の水蒸気を密閉容器11の外部へ一部(全部ではない)放出し、密閉容器11の内部圧力を減圧し、密閉容器11の内部温度を第三温度C3より降温することになる。また、この場合、制御装置19は、撹拌装置16による撹拌を随時継続してよい。
【0026】
本発明者によれば、理論上、上記構成と上記制御で本発明の効果を得ることができる。
また、本発明者によれば、反応時間Tが60分間、第一温度C1が約180℃、第二温度C2が約165℃、第三温度C3が約180℃、第一時間T1が5分間乃至10分間、第二時間T2が約30分間、第三時間T3が5分間乃至10分間、第一撹拌速度R1が約80rpm、第二撹拌速度R2が実質的に0rpm(1rpm程度)、第三撹拌速度R3が約80rpmの場合、6mm径以下に微細化されたプラスチックの量は、密閉容器11に投入された有機物含有廃棄物におけるプラスチック総量の約45%であるという実験結果を得ている。
一方、先述したように、密閉容器11の内部温度を180℃のみの一定値、反応時間を60分間、撹拌速度30rpmのみの一定値で水熱処理した場合は、6mm径以下に微細化されたプラスチックの量は、密閉容器11に投入された有機物含有廃棄物におけるプラスチック総量の約65%であるという実験結果を得ている。
ここで、これら2つの実験結果を比較すると、前者は経時的な温度変化が比較的緩やかで、熱衝撃の影響が少々少ないと考えられるにもかかわらず、それでも約45%という数値が得られており、後者の数値よりも良好な結果であるといえる。
すなわち、本発明の水熱処理装置10によれば、第一温度C1、第二温度C2、第三温度C3、第一時間T1、第二時間T2、第三時間T3を適宜設定することで、経時的な温度変化をより急峻として熱衝撃の影響を大きくすることができるので、従来に比べ、密閉容器11に投入された有機物含有廃棄物におけるプラスチック総量に対し、6mm径以下に微細化されたプラスチックの量を確実に低下させることができる。
また、本発明の水熱処理装置の水熱処理液を原料とし、ガス生成装置の一種であるメタン発酵装置でメタン発酵を行うと、従来に比べて効率よくメタンガスを生成することができた。
【0027】
以上の構成及び制御により、本発明の水熱処理装置は、有機物含有廃棄物を可溶化させ、且つ、ガス生成の阻害物質であるメラノイジンの生成量のみならず微細なプラスチックの生成量を低減することができる。1つの水熱処理装置で2つの阻害物質の量を低減できるため、コストパフォーマンスが高い。
さらに、本発明の水熱処理装置を使用した本発明の水熱処理システムによれば、効率よくガス生成することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 水熱処理システム
10 水熱処理装置
11 密閉容器
12 投入口
13 排出口
14 導入管
15 電磁弁
16 撹拌装置
17 減圧装置
18 温度センサ(温度計測装置)
19 制御装置
20 固液分離装置
30 ガス生成装置(例:メタン発酵装置)