(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083507
(43)【公開日】2022-06-06
(54)【発明の名称】再生可能有機性資源と鉄と水と光を利用した水素製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/22 20060101AFI20220530BHJP
【FI】
C01B3/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194849
(22)【出願日】2020-11-25
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
(71)【出願人】
【識別番号】597139170
【氏名又は名称】学校法人静岡理工科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115303
【氏名又は名称】岩永 和久
(72)【発明者】
【氏名】高木 裕司
(72)【発明者】
【氏名】本多 安希雄
(72)【発明者】
【氏名】青木 孝行
(72)【発明者】
【氏名】渕上 祐太
(72)【発明者】
【氏名】谷本 里音
(72)【発明者】
【氏名】田中 響
(72)【発明者】
【氏名】望月 凌
(72)【発明者】
【氏名】高木 駿
(72)【発明者】
【氏名】西村 総治朗
【テーマコード(参考)】
4G140
【Fターム(参考)】
4G140DA03
4G140DB04
4G140DB05
4G140DC02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】化石資源および電気分解を用いることなしに、再生可能有機性資源と鉄イオンと水と、紫外線・可視光線・赤外線の少なくとも一つを含む光を用いて、光化学反応を促進させることによって製造する、低コストの水素製造方法を提供する。
【解決手段】太陽光等の光源または熱源から照射された可視光波長の光または紫外線波長の光または熱(赤外線波長の光)13によって、茶粕等の再生可能有機性資源11に含まれる有機物12が酸化され、二酸化炭素と水素イオン(H
+)が生成されると同時に、ポリフェノール鉄(PP-Fe)錯体14はPP-Fe
3+錯体からPP-Fe
2+錯体に還元され、PP-Fe
2+錯体が蓄積した状況下に太陽光が照射されると、Fe
2+*ラジカルが生成されることによって促進され、H
+が還元され、水素ガスが生成されることを特徴とする水素製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶粕等の再生可能有機性資源と鉄イオンと水と、紫外線・可視光線・赤外線の少なくとも一つを含む光及び/又は熱による光熱エネルギーを用いて、光化学反応を促進させることによる水素製造方法。
【請求項2】
茶粕等の再生可能有機性資源と鉄イオンと水と、紫外線・可視光線・赤外線の少なくとも一つを含む光及び/又は熱による光熱エネルギーを用いて、光化学反応を促進させ、茶粕等の再生可能有機性資源の含有成分を水素源とすることを特徴とする水素製造方法。
【請求項3】
前記再生可能有機性資源に含まれるポリフェノールと鉄イオンによる錯体を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水素製造方法。
【請求項4】
前記再生可能有機性資源が茶粕、茶葉、コーヒー粕、コーヒー豆、果実搾汁液、茎葉搾汁液、植物乾留液等のどれかの材料を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水素製造方法。
【請求項5】
前記再生可能有機性資源として用いられる茶粕、茶葉、コーヒー粕、コーヒー豆が、原型状態、破断状態、粉末状態のどれかの状態であることを特徴とする請求項4記載の水素製造方法。
【請求項6】
鉄炭素電池を用いて前記鉄イオンを過不足なく供給すると共に、鉄炭素電池で発電した電力を回収することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水素製造方法。
【請求項7】
水素製造装置内で使用される前記再生可能有機性資源を連続的に供給し、供給された再生可能有機性資源は水素製造装置内で攪拌され、使用済みの前記再生可能有機性資源を連続的に排出することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水素製造方法。
【請求項8】
水素製造装置内で使用される前記再生可能有機性資源を一定量供給し、供給された再生可能有機性資源は水素製造装置内で攪拌され、反応終了後使用済みの前記再生可能有機性資源を排出することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水素製造方法。
【請求項9】
水素生成と共に発生する二酸化炭素を水に溶かして炭酸イオンとし、鉄炭素電池から溶出する鉄イオンと炭酸鉄を形成させ、気体中から分離し、生成される水素ガスの純度を高めることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水素製造方法。
【請求項10】
水素生成と共に発生する二酸化炭素を水に溶解させ水素イオンを生成して、ポリフェノール鉄錯体を用いた光化学的な水素ガス製造に最適なpHを作り出し、鉄炭素電池によって最適なpHを維持することによって水素ガス生成の持続性を高めると共に、水素生成と共に発生する二酸化炭素を水に溶かして炭酸イオンとし、鉄炭素電池から溶出する鉄イオンと炭酸鉄を形成させ、気体中から分離し、生成される水素ガスの純度を高めることを特徴とする水素製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線・可視光線・赤外線を含む光を利用し、茶粕等の再生可能有機性資源と鉄イオンと水とを用いて水素を生成する水素製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素(H2)はクリーンなエネルギー源であるが、現在の水素製造の大部分は化石資源のスチームリフォーミングなどで行われており、化石資源の枯渇や二酸化炭素(CO2)による地球温暖化問題を考慮すると、水(H2O)を水素源にすることが望まれる。しかし、水を水素源とする通常の電気分解(電解)では、水から酸素(O2)を発生させる電位であるO2/H2Oの酸化還元準位(E0)は+1.23ボルトであることに加えて、酸素発生の過電圧が大きいためにトータル3ボルト程度必要であり、電力は5~6kWh/Nm3程度必要とする。電解による水素製造コストの大部分は電力であり、石油精製から作成される水素の製造コスト約30円/Nm3に対して、電解による水素製造コストは低価格の電力を使用しても80円/Nm3以上かかってしまっていた(非特許文献1)。
【0003】
そこで、無尽蔵でクリーンかつ安全な太陽エネルギーを太陽電池で電気エネルギーに変換し、水を電解して水素を製造するアイデアが提案されている。このアイデアの最大の欠点はシステム、特に太陽電池の高いコストおよび低いエネルギー収支(システムがその寿命までに製造するエネルギー/システムを製造するエネルギー)である。シリコンなどの太陽電池や電解技術は精力的に研究されてきたが、太陽光による水素製造を実現するためには革新的な技術でシステムのコストやエネルギー収支を大幅に向上する必要がある。
【0004】
また、光触媒を用いて太陽光のエネルギーで水を水素と酸素に直接分解する研究も進んでいるが、現段階でこの直接分解できる触媒は可視光を利用できず、またその効率が低いという問題があった。地表に降り注ぐ太陽光は、可視光である波長500nm付近に放射の最大強度をもっており、波長が約400~750nmの可視光領域のエネルギー量は全太陽光の約43%である。一方、波長が約400nm以下の紫外線領域では全太陽光の5%にも満たない。
【0005】
これらの問題を解決する試みとして、酸化物半導体光触媒を用いて3価の鉄イオン(Fe3+)を含む水溶液から酸素と2価の鉄イオン(Fe2+)を生成させ、2価の鉄イオンの酸化を用いた低電圧水電解によって水素を製造する技術も提案されている(非特許文献2)。
【0006】
この技術に用いられる触媒用の半導体の条件としては、
(i)バンドギャップの大きさに加えて、
(ii)伝導帯のポテンシャルがFe(III)/Fe(II)のレッドクス準位より高い(負に大きい)、
(iii)価電子帯のポテンシャルがO?/H?Oのレッドクス順位より低い(正に大きい)、(iv)反応条件下で安定である、
という条件を満たすものでなければならない。具体的には、WO?やTiO?、SrTiO?,Ta?O?、In?O?などの単純酸化物、FeTiOxのような複合酸化物等が挙げられるが、触媒を合成するためのコストがかかる。更に、これらの触媒が還元できる3価の鉄イオンはわずかであるため、3価の鉄イオンを還元させるための巨大なプールと膨大な量の触媒を必要とする。そのため、システム全体の装置価格が実用化するには高価格になりすぎるという問題があった。
【0007】
光触媒を合成するためのコスト削減と鉄イオンの還元効率を高めるために、特願2019-232455には、還元性有機物と光を利用した水素製造方法と水素製造装置が提案されている。
【0008】
この技術には、
(i)陽極槽内で2価の鉄イオンを含む水溶液中の鉄イオンの酸化によって陰極槽内の水溶液を1ボルト以下の電圧で電解し水素イオンから水素を製造する工程と、
(ii)陽極槽内で酸化され、生成された3価の鉄イオンを還元槽内で還元し、2価の鉄イオンを再生するために、還元槽内の水溶液に混在させた還元性有機物に光を照射することによって3価の鉄イオンを還元する工程と、
2つの工程が必要である。特に、工程(i)における電解装置の電極と陽イオン交換膜の持久性およびコストが課題であった。更に、従来の水電解より少ない使用電力で水素が製造できるとは言え、電気エネルギーから水素を生成し、生成した水素で発電させるというジレンマも抱えていた。
【0009】
微生物を用いて有機性物質を発酵させ水素を製造する、いわゆる水素発酵法では、バイオマス、有機性廃棄物、有機性排水などの再生可能有機性資源を原料にして水素を製造することができるが、反応速度の遅いことがネックになって実用化が進んでいない。この原因は、発酵を進めるにともなって水素発酵槽内の発酵液(液相)および気相中における水素分圧が上昇し、このために水素生成反応が抑制され、加えて水素自体が水素発酵菌の作用を阻害しているものと理解されている。
【0010】
一方、前記再生可能有機性資源を熱エネルギーとして、また直接に電気エネルギーとしてリサイクルする試みがなされている。このうち電気エネルギーに変換する手段では、有機性資源を微生物の作用を利用してメタン発酵させ、得られたメタンリッチのガスを、例えば水蒸気を加えた触媒反応により水素リッチガスに改質し、燃料電池の燃料として使用する方法が数多く提案されているが、ガスを大量に発生させるための巨大な水槽やメタンガスを水蒸気改質で水素に変換する等のプラントを建築する必要があった。(非特許文献4)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】(水素の製造、輸送、貯蔵について)平成26年4月14日、資源エネルギー庁燃料電池推進室https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy/suiso_nenryodenchi/suiso_nenryodenchi_wg/pdf/005_02_00.pdf
【非特許文献2】(ソーラー水素製造の研究開発(佐山ほか)?86?Synthesiology Vol.7 No.2)。2014年https://www.aist.go.jp/digbook/synthesiology/vol7_no2/htmL5.htmL#page=17
【非特許文献3】日本分析化学会北海道支部,水の分析,第4版,化学同人,185-192(1994).
【非特許文献4】田島正喜,バイオマス種に応じた水素ステーション構築予測に関する研究(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の水素を製造する水素製造方法や製造装置において、化石資源のスチームリフォーミング(例えば、メタンの熱分解)による製造方法およびその製造装置を用いた場合は、地球温暖化の原因となる二酸化炭素が大量に排出するという課題があり、一方、二酸化炭素の排出のない水の電解を用いた水素の製造方法およびその製造装置を用いた場合は、二酸化炭素の発生は避けられるが、電解のための電解電圧が約3ボルト以上と高く、従って使用電力が多く、製造コストが高いという課題があった。光触媒を用いた水素の製造方法を用いた場合も、二酸化炭素の発生は避けられるが、基礎研究段階(現在の変換効率は0.5%程度)であり、気象条件に大きく左右されるという課題があった。触媒または還元性有機物を用いた低電圧水電解を用いた場合も、二酸化炭素の発生は避けられ、従来の水電解よりは製造コストを低減できるが、水蒸気改質による水素生産コストには及ばなかった。バイオマス等を用いた発酵による水素製造を用いた場合も、化石資源を用いていないため、二酸化炭素の排出量を0とみなすことができるが、発酵させるまでの時間が長い、発酵を維持させる条件が厳しい、巨大な発酵槽やメタンガスを水蒸気改質で水素に変換プラント等の建築を要する等のために、トータルの製造コストが高くなってしまうという課題があった。
【0013】
【本発明の目的】
【0014】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、クリーンなエネルギー源である水素を、化石資源および電気分解を用いることなしに、茶粕等の再生可能有機性資源と鉄イオンと水と、紫外線・可視光線・赤外線の少なくとも一つを含む光を用いて、光化学反応を促進させることによって製造する水素製造方法を提供し、低コストの水素製造方法に資するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1) 茶粕等の再生可能有機性資源と鉄イオンと水と、紫外線・可視光線・赤外線の少なくとも一つを含む光及び/又は熱による光熱エネルギーを用いて、光化学反応を促進させることによる水素製造方法。
(2) 茶粕等の再生可能有機性資源と鉄イオンと水と、紫外線・可視光線・赤外線の少なくとも一つを含む光及び/又は熱による光熱エネルギーを用いて、光化学反応を促進させ、茶粕等の再生可能有機性資源の含有成分を水素源とすることを特徴とする水素製造方法。
【0016】
上記の光化学反応は、紫外線・可視光線・赤外線を含む光や熱によって茶粕等の再生可能有機性資源に含まれる有機物が酸化され、二酸化炭素と水素イオン(H+)が生成されると同時に、ポリフェノール鉄(PP-Fe)錯体はPP-Fe3+錯体からPP-Fe2+錯体に還元され、PP-Fe2+錯体が蓄積した状況下に太陽光が照射されると、Fe2+*ラジカルが生成されることによって促進され、H+が還元され、水素ガスが生成される。
【0017】
本発明によれば、クリーンなエネルギー源である水素を、化石資源および電気分解を用いることなしに、太陽光の約43%である可視光等や太陽光の熱や工場等の廃熱等を用いて光化学反応を促進させ、天候に左右されず、低コストの水素の製造方法を提供することが出来る。
【0018】
紫外線・可視光線・赤外線の少なくとも一つを含む光は太陽光からの光は勿論のこと、太陽光以外による熱、例えば、工場や焼却場などで発生する廃熱も利用できる。例えば、快晴の昼間は太陽光で、曇りや雨天や夜間は廃熱を利用して、水素が製造できる。また、昼間に太陽光で温めておいた水からの熱を利用して、夜間も水素製造ができる。
【0019】
(3) 前記再生可能有機性資源に含まれるポリフェノールと鉄イオンによる錯体を用いることを特徴とする水素製造方法。
【0020】
上記の光化学反応は、太陽光等に含まれる紫外線および可視光線および赤外線によって茶粕等の再生可能有機性資源に含まれる有機物が酸化され、二酸化炭素と水素イオン(H+)が生成されると同時に、ポリフェノール鉄(PP-Fe)錯体はPP-Fe3+錯体からPP-Fe2+錯体に還元され、PP-Fe2+錯体が蓄積した状況下に太陽光が照射されると、Fe2+*ラジカルが生成されることによって促進され、H+が還元され、水素ガスが生成される。
【0021】
(4) 前記再生可能有機性資源が茶粕、茶葉、コーヒー粕、コーヒー豆、果実搾汁液、茎葉搾汁液、植物乾留液等のどれかの材料を含むことを特徴とする水素製造方法。
【0022】
本発明によれば、クリーンなエネルギー源である水素を、化石資源および電気分解を用いることなしに、廃棄材料である再生可能有機性資源を用いて、低コストの水素の製造方法を提供することが出来る。
【0023】
(5) 前記再生可能有機性資源として用いられる茶粕、茶葉、コーヒー粕、コーヒー豆が、原型状態、破断状態、粉末状態のどれかの状態であることを特徴とする水素製造方法。
【0024】
本発明によれば、クリーンなエネルギー源である水素を、化石資源および電気分解を用いることなしに、廃棄材料である再生可能有機性資源を効率よく用いて、低コストの水素の製造方法を提供することが出来る。
【0025】
(6) 鉄炭素電池を用いて前記鉄イオンを過不足なく供給すると共に、鉄炭素電池で発電した電力を回収することを特徴とする水素製造方法。
【0026】
本発明によれば、クリーンなエネルギー源である水素を、化石資源および電気分解を用いることなしに、廃棄材料である再生可能有機性資源と鉄屑(スクラップ鉄)を効率よく用いて、低コストの水素の製造方法を提供することが出来る。
【0027】
(7) 水素製造装置内で使用される前記再生可能有機性資源を連続的に供給し、供給された再生可能有機性資源は水素製造装置内で攪拌され、使用済みの前記再生可能有機性資源を連続的に排出することを特徴とする水素製造方法。
【0028】
本発明によれば、クリーンなエネルギー源である水素を、化石資源および電気分解を用いることなしに、廃棄材料である茶粕等の再生可能有機性資源を効率よく用いて、低コストの水素を連続的に製造する方法を提供することが出来る。
【0029】
(8) 水素製造装置内で使用される前記再生可能有機性資源を一定量供給し、供給された再生可能有機性資源は水素製造装置内で攪拌され、反応終了後使用済みの前記再生可能有機性資源を排出することを特徴とする水素製造方法。
【0030】
本発明によれば、クリーンなエネルギー源である水素を、化石資源および電気分解を用いることなしに、廃棄材料である茶粕等の再生可能有機性資源を効率よく用いて、低コストの水素をバッチ的に製造する方法を提供することが出来る。
【0031】
(9) 水素生成と共に発生する二酸化炭素を水に溶かして炭酸イオンとし、鉄炭素電池から溶出する鉄イオンと炭酸鉄を形成させ、気体中から分離し、生成される水素ガスの純度を高めることを特徴とする水素製造方法。
【0032】
本発明によれば、クリーンなエネルギー源である水素を、化石資源および電気分解を用いず、二酸化炭素を排出することなしに、廃棄材料である再生可能有機性資源と鉄屑(スクラップ鉄)を効率よく用いて、低コストの水素の製造方法を提供することが出来る。
【0033】
(10) 水素生成と共に発生する二酸化炭素を水に溶解させ水素イオンを生成して、ポリフェノール鉄錯体を用いた光化学的な水素ガス製造に最適なpHを作り出し、鉄炭素電池によって最適なpHを維持することによって水素ガス生成の持続性を高めると共に、水素生成と共に発生する二酸化炭素を水に溶かして炭酸イオンとし、鉄炭素電池から溶出する鉄イオンと炭酸鉄を形成させ、気体中から分離し、生成される水素ガスの純度を高めることを特徴とする水素製造方法。
【0034】
本発明によれば、クリーンなエネルギー源である水素を、化石資源および電気分解を用いず、二酸化炭素を排出することなしに、廃棄材料である再生可能有機性資源と鉄屑(スクラップ鉄)を効率よく用いて、低コストの水素を持続的に製造する方法を提供することが出来る。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、紫外線、可視光、赤外線波長の光やこれらの光等を利用した熱によって水素ガスの生成が促進されるため、従来の太陽光発電を用いた水電解による水素製造や光触媒による水素製造のように天候等に大きく左右されない。
【0036】
本発明によれば、水または茶粕等の再生可能有機性資源の含有成分を水素源とするため、水素ガスと同時に二酸化炭素が生成されるが、水素製造装置内部に鉄炭素電池を取り付ければ、二酸化炭素によって水溶液のpHが弱酸化されることによって、鉄炭素電池から鉄イオンが過不足なく供給され、光化学的な水素生成が促進、持続されると共に、二酸化炭素は炭酸鉄として、気体から分離され、固定されるため、二酸化炭素を排出しない。
【0037】
本発明によれば、単純な構造の設備で実施でき、規模の拡大・縮小が容易であり、利用する場所に隣接したオンサイトでの水素ガス製造が可能であるため、「バイオマス」のように、ガスを大量に発生するための巨大な水槽やメタンガスを水蒸気改質で水素に変換する等のプラントを建築する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1は、本発明になる水素製造方法を説明する図である。
【
図2】
図2は、本発明に用いる水素製造装置を説明する図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施例の水槽の詳細な構造を説明する図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施例の水素製造装置全体を説明する図である。
【
図5】
図5は、本発明の第1の実施例における鉄イオン濃度と水素生成量の相関関係を示す実験結果である。
【
図6】
図6は、本発明の第1の実施例におけるpHと水素生成量の関係を示す実験結果である。
【
図7】
図7は、本発明の第2の実施例の水素製造方法を説明する図である。
【
図8】
図8は、本発明の第2の実施例において鉄イオンを供給するための鉄炭素電池の詳細な構造を説明する図である。
【
図9】
図9は、本発明の第2の実施例の水素製造装置全体を説明する図である。
【
図10】
図10は、本発明の第2の実施例における時間経過と水素生成累積量の関係を示す実験結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下に、図面と式を用いて、本発明の水素製造方法の最良の形態を説明する。
【0040】
図1は、本発明になる水素製造方法を説明する図で、11は茶粕等の再生可能有機性資源、12は11に含まれる有機酸等の還元性有機物、13は太陽光等の光源または熱源から照射された可視光波長の光または紫外線波長の光または熱(赤外線波長の光)、14はポリフェノール鉄錯体をそれぞれ表す。
【0041】
太陽光等の光源または熱源から照射された可視光波長の光または紫外線波長の光または熱(赤外線波長の光)13によって、茶粕等の再生可能有機性資源11に含まれる有機酸等の還元性有機物12が酸化され、CO2ガスとH+が生成されると同時に、電子e?がポリフェノール鉄錯体PP-Fe錯体14に供給され、PP-Fe3+錯体はPP-Fe2+錯体に還元される。還元体のPP-Fe2+錯体が蓄積した状況下に太陽光が照射されると、PP-Fe2+*ラジカルが生成されると同時にH+が還元され、H2ガスが発生する。
【0042】
上記の連続的な光化学的反応によって、化石資源および電気分解を用いることなしに、かつ、使用される再生可能有機性資源11の一例である茶粕は、茶飲料製造工場では多量の産業廃棄物として排出されるのもので、コストはかからず、太陽光等の光源または熱源から照射された可視光波長の光または紫外線波長の光または熱(赤外線波長の光)13も装置コストのみであり、低コストで水素製造が実現される。また、上記プロセスでは、地球温暖化の原因となる化石資源からの二酸化炭素ガスの排出はない。
【0043】
次に、
図2を用いて、本発明に用いる水素製造装置の最良の形態を説明する。
図2は、本発明に用いる水素製造装置の概略を示す図で、11は茶粕等の再生可能有機性資源、13は太陽光等の光源または熱源から照射された可視光波長の光または紫外線波長の光または熱(赤外線波長の光)、17はポリフェノール鉄錯体、21は水槽、22は使用済みの茶粕等の再生可能有機性資源、23は使用済みの茶粕等の再生可能有機性資源回収用バルブ、24は茶粕等の再生可能有機性資源供給用バルブ、25は鉄イオンと水の補充用バルブ、26は水素回収用バルブをそれぞれ表す。
【0044】
水槽21には、外部から取り入れた太陽光13が光学系を通し効率よく取り込まれ、ポリフェノール鉄錯体17と太陽光13の光触媒効果を受けて水素イオンを還元して水素ガスが生成される。水槽21内に存在するポリフェノール鉄錯体17にまんべんなく太陽光13が照射されるように攪拌されるのが好ましい。
【0045】
生成された水素ガスは水素回収部26から外部へ回収される。溶存物質や還元性物質等を十分に抽出された茶粕等の再生可能有機性資源22は使用済みの茶粕等の再生可能有機性資源回収部23で分離され廃棄される。水槽21内の茶粕等の再生可能有機性資源が不足した場合は茶粕等の再生可能有機性資源供給部24から供給され、鉄イオンや水が不足した場合には鉄イオンと水の補充部25から補充される。
【0046】
上記の連続的な光化学的水素製造によって、化石資源および電気分解を用いることなしに、かつ、使用される再生可能有機性資源11の一例である茶粕は、茶飲料製造工場では多量の産業廃棄物として排出されるのもので、コストはかからず、太陽光等の光源または熱源から照射された可視光波長の光または紫外線波長の光または熱(赤外線波長の光)13も装置コストのみであり、低コストで水素製造が実現される。また、上記プロセスでは、地球温暖化の原因となる化石資源からの二酸化炭素ガスの排出はない。
【実施例0047】
以下に、図面を用いて、本発明の実施例を詳細に説明する。
図4は本発明に用いる水素製造装置の実施例を説明する図で、13は太陽光等の光源または熱源から照射された可視光波長の光または紫外線波長の光または熱(赤外線波長の光)、21は水槽、23は使用済みの茶粕等の再生可能有機性資源回収用バルブ、24は茶粕等の再生可能有機性資源供給用バルブ、25は鉄イオンと水の補充用バルブ、26は水素回収用バルブ、31はポリフェノール鉄錯体が混合された溶液、32は撹拌用プロペラ、33は撹拌用モーター、34は使用済み還元性有機物の廃棄用バルブ、41は空間、をそれぞれ表す。
【0048】
最初に、水槽21について、
図3を用いて説明する。
図3は、本発明の第1の実施例の水槽21の詳細な構造を説明する図である。図中、21は水槽、23は使用済みの茶粕等の再生可能有機性資源回収用バルブ、31はポリフェノール鉄錯体が混合された溶液、32は撹拌用プロペラ、33は撹拌用モーター、34から38は外部からの光を取り込む窓、をそれぞれ表す。
【0049】
本実施例では、再生可能有機性資源として茶粕を用い、照射する光として太陽光を用いた。水槽21は太陽光を外部から光を取り込む窓34から38を通し取り込む。ポリフェノール鉄錯体17は、攪拌プロペラ32で攪拌され、太陽光13を吸収しながら、還元され、水素ガスが発生する。水槽21の底は、使用済みの茶粕22が効率よく使用済み茶粕回収バルブ23に向かうように、傾斜している。
【0050】
本実施例では、400gの硝酸鉄(III)(Fe(NO
3)
3・9H
2O)と10Lの常温の水を用いて3価の鉄イオン濃度が0.1mol/L(100mM)の試供水を調製した。10Lの試供水と破断状態にした最長3mmである0.5kgの茶粕を
図3の反応容器に入れた。水槽21の容積は12.5Lである。
【0051】
光照射の方法は、できるだけ光が触媒と溶液に効率よく照射されなければいけない。本実施例では太陽光を用いた。太陽光が逃げないようにミラーやアルミホイル等を使用し、取り込み効率の高い光学系を用いる。太陽光の取り込み窓34から38の窓材には、透過率が高く、比較的安価なパイレックスを用いた。パイレックスの代わりに、透過率の高いプラスチックを用いることも出来る。
【0052】
(実施例1)
本実施例では、ポリフェノール鉄錯体が混合された溶液31をより分散させるために、撹拌用プロペラ32を撹拌用モーター33で回転攪拌した。水槽21の底面には傾斜があり、プロペラ32の下付近に沈殿した茶粕が集まる構造になっており、プロペラ32の撹拌によって沈殿した茶粕が再び水槽21の内部を浮遊する。プロペラ32の撹拌を止めると、沈殿した茶粕は水槽21の底面の傾斜によって使用済み茶粕回収用バルブ23の付近に集まる構造になっており、使用済みの茶粕22を水槽21から取り出すことができる。そして、水槽21内の茶粕が不足した場合は茶粕供給部24から供給され、鉄イオンや水が不足した場合には鉄イオンと水の補充部25から補充される。
【0053】
水素製造方法の条件の最適化をするために、以下の実験を行った。
(実験1)
300rpmで反応容器内の溶液を撹拌しながら、1,000lmのLED電球を8個(紫外光は含まず、採光用窓38付近の照度は約20,000lux、快晴時の太陽光の10分の1の強度)を用いて、光を照射し、30分後の水素ガスの濃度を測定し、生成された水素ガスの体積を算出した。
【0054】
水素ガスの生成量は光ありで2.8mL、比較例1に示すように、暗箱の中で同じ実験を行った場合は、0.096mLであり、比較例2~4に示すように、鉄イオンの代わりに銅イオン、亜鉛イオン、マンガンイオンを用いた場合の水素ガスの生成量はそれぞれ、0.43mL、0.34mL、0.21mLであったため、茶粕と鉄イオンによってポリフェノール鉄錯体を合成し、光を当てると水素ガスが効率よく生産できることが分かった。
【0055】
(実験2)
鉄イオン濃度と水素ガス生成量の相関を調べた。実験1の条件で、鉄イオンの濃度を0.01、0.05、0.1、0.2、0.3mol/Lとした結果、茶粕に加えた溶液中の鉄イオン濃度と水素ガスの生成量との関係には
図5のような強い正の相関があることが分かった。
【0056】
(実験3)
実験1の条件で、茶粕の代わりに0.5kgの没食子酸を用い、pHを0から8まで変化させた結果、pHが4.0のとき、
図6のように水素ガスの生成量が最大になった。そのときの水素ガスの生成量は16.5mLであった。
【0057】
(比較例1)
実験1の条件で、暗箱の中で同じ実験を行ったところ、水素ガスの生成量は0.096mLであった。
【0058】
(比較例2)
実験1の条件で、鉄イオンの代わりに銅イオンを用いて同じ実験を行ったところ、水素ガスの生成量は0.43mLであった。
【0059】
(比較例3)
実験1の条件で、鉄イオンの代わりに亜鉛イオンを用いて同じ実験を行ったところ、水素ガスの生成量は0.34mLであった。
【0060】
(比較例4)
実験1の条件で、鉄イオンの代わりにマンガンイオンを用いて同じ実験を行ったところ、水素ガスの生成量は0.21mLであった。
【0061】
(実施例2)
以上の実験結果から、最適条件として下記条件で水素製造を実施した。
図7を用いて、最良の方法を説明する。図中、11は茶粕等の再生可能有機性資源、12は11に含まれる有機酸等の還元性有機物、13は太陽光等の光源または熱源から照射された可視光波長の光または紫外線波長の光または熱(赤外線波長の光)、14はポリフェノール鉄錯体、71は鉄製の負極、72は炭素製の正極、73は導線、74は鉄炭素電池、をそれぞれ表す。
【0062】
pHが4.0程度でポリフェノール鉄錯体14による光化学的な水素ガスの生成は活発になるが、同時に生成される二酸化炭素によって鉄イオンは炭酸鉄として固定されるため、水素ガスの生成を持続させるためには、鉄イオンの供給が必要である。しかしながら、pHが4.0付近のとき、鉄イオンの水への溶解度は高くないため、1度に多量の鉄イオンを供給するのではなく、水素ガス生成に必要な量を過不足なく供給できる方法が望ましい。そのため、実験1で使用した硝酸鉄のような強酸性の鉄塩の代わりに、金属鉄を活用した。中性付近では金属鉄の溶解速度が非常に小さいため、鉄製の負極71と、鉄よりもイオン化傾向の低い炭素製の正極72を導線73で接続して、鉄炭素電池74を形成し、鉄製の負極71からの鉄イオンの溶解速度を大きくした。ポリフェノール鉄錯体14による光化学的な水素ガス製造では有機物12が酸化されて生成される水素イオンが水素源である。水素イオンの生成と同時に二酸化炭素が発生する。光エネルギーが不足する際は、鉄炭素電池が水素イオンを水素ガスに変換する。同時に生じた電気エネルギーも回収する。更に、式1の平衡反応によって二酸化炭素から水素イオンを生成し、生じた炭酸イオンと鉄イオンで二酸化炭素を炭酸鉄として固定(炭酸固定)を行い、製造した水素ガス濃度を高める。
【0063】
【0064】
次に、
図8を用いて、鉄炭素電池74の詳細な構造を説明する。図中、81はボルト、82はプラスチック製の正極固定盤、72は炭素製の正極、83は正極の集電板、84は網状のプラスチック製セパレーター、71は鉄製の負極、85は負極の集電板、86はプラスチック製の負極固定盤、87はナットをそれぞれ表す。
【0065】
鉄炭素電池74の組み立て方について
図8を用いて説明する。鉄板(長さ15cm×幅4.5cm)を負極71、炭素板(長さ10cm×幅4cm)を正極72とし、負極71と正極72の間にプラスチック製の網(長さ10cm×幅4cm)を挟み、セパレーター84とし、プラスチック製の正極固定盤82とプラスチック製の負極固定盤86によって外側から挟み込み、ボルト81を通し、ナット87を締め、鉄炭素電池74を組み立てた。
【0066】
負極71で使用する鉄材料としては、いわゆる普通鋼、軟鉄などを使用することができる。
【0067】
また、この鉄材料の形状は、特に制限はない。例えば、平板状のもの、網状のもの、穴あき平板状(パンチングメタル)のもの、棒状のもの、網状のもの、粒子状のもの、糸状のものなどいずれも使用することができる。鉄の接触面積を大きくするために、網状や穴あき平板状、粒子状のものが好ましい。
【0068】
正極72で使用する材料としては、鉄よりも電位の貴な材料を使用する。鉄よりも電位の貴な材料としては、炭素材料、ステンレススチール、銅などが使用することができる。炭素材料の形態は、例えば、平板状のもの、棒状のもの、繊維状のもの、織布や不織布状のものなどが利用できる。
【0069】
鉄炭素電池74では、負極71と正極72が向き合った状態となるように配置することが好ましい。
【0070】
負極71と正極72との間隔は小さいほど電流が大きくなるために好ましいが、液の流動の容易性などを考慮すると1mm~50mmが好ましく、2mm~10mmが更に好ましい。被処理水の浴中の液の撹拌がない場合には両者の間隔を小さくし、浴中の液の撹拌がある場合には両者の間隔を大きくし、撹拌速度が大きくなるにつれて両者の間隔を大きくすることができる。
【0071】
水溶液中に鉄炭素電池を浸漬する場合、温度は室温でよく、特に加熱や冷却は必要としない。また、水溶液は中性領域でよいが、弱酸性や弱アルカリ性であってもよい。ただし、pHが8を超えると鉄が不動態となり水への溶解が進まなくなるので好ましくない。また、鉄炭素電池74による鉄イオンの供給においては物質移動を伴うので、水溶液を撹拌することが好ましい。同様に、負極71と正極72と水溶液との接触面積も大きい方が好ましい。従って、負極71と正極72を多孔質状とすることが好ましい。
【0072】
次に、
図9を用いて、最良の方法の詳細を説明する。図中、13は太陽光等の光源または熱源から照射された可視光波長の光または紫外線波長の光または熱(赤外線波長の光)、21は水槽、23は使用済みの茶粕等の再生可能有機性資源回収用バルブ、24は茶粕等の再生可能有機性資源供給用バルブ、25は鉄イオンと水の補充用バルブ、26は水素回収用バルブ、31はポリフェノール鉄錯体が混合された溶液、32は撹拌用プロペラ、33は撹拌用モーター、34は使用済み還元性有機物の廃棄用バルブ、41は空間、71は鉄製の負極、72は炭素製の正極、73は導線、74は鉄炭素電池、をそれぞれ表す。
【0073】
本実施例では、10Lの常温の水に6Lの二酸化炭素を溶かし、pHが3.5の試供水を調製した。二酸化炭素を溶かした水を用いたのは、ポリフェノール鉄錯体による光化学的な水素ガスの生成を数時間継続すれば、水素ガスと同時に生成された二酸化炭素によって、水のpHが低下することを想定した条件としたからである。10Lの試供水と破断状態にした最長3mmである0.5kgの茶粕を
図9の反応容器に入れた。水槽21の容積は12.5Lである。
【0074】
水素製造方法の条件の最適化をするために、以下の実験を行った。
(実験4)
300rpmで反応容器内の溶液を撹拌しながら、実験1と同じ光源を用いて、光を照射し、30分後の水素ガスの濃度を測定し、生成された水素ガスの体積を算出した。
【0075】
水素ガスの生成量は茶粕を入れた場合で31.0mL、比較例5に示すように、茶粕を入れないで同じ実験を行った場合は、0.46mLであった。茶粕を入れた場合の水素ガス生成量31.0mLから0.46mLを引いた30.54mLが茶粕と光によって生成された水素ガスの体積である。この生成量は茶粕と実験1で鉄イオン(pH1.0)を用いた場合の10.9倍であり、実験3で没食子酸と鉄イオン(pH4.0)を用いた場合の1.85倍であった。
【0076】
実験4の条件で、実験を9日間継続した。実験期間中において、鉄炭素電池に流れた電流を30分間に1回計測し、発生した電流がすべて水素イオンの還元に使われたとして、式2による水素ガスの生成は2電子反応であることから、式3によって、鉄極が溶解して生成された水素ガスの生成量を算出した。
【0077】
【0078】
【0079】
実験4の結果を
図10に示した。実測(実線)と電流から算出(破線)の差分が光化学的に生成された水素ガスの累積量である。最初の3日間は実験1で用いたLEDを用いて光を照射した。その結果、水素ガスに累積量は24時間で159mL、48時間で308mLとなり、光化学的な水素ガス生成が活性化したことが確かめられた。4日目以降は、室内で太陽光が差し込む窓辺(晴天時午前11時から午後3時に直射日光が当たる)に実験セットを置いた。実験期間中は曇りや雨の日が多かったが、実測(実線)の方が電流から算出(破線)の増加量を上回り、緩やかながら光化学的な水素ガス生成が持続された。
【0080】
以上から、二酸化炭素を用いて、pHを4.0程度に調整した後に、鉄炭素電池を用いて緩やかに鉄イオンを供給すれば、茶粕を用いた光化学的水素製造の持続性を高められることが検証できた。更に、実験期間中、鉄炭素電池の発電が継続したことから、水素ガス生成と同時に電力の回収にも成功した。
【0081】
(比較例5)
実験4の条件で、茶粕を入れないで同じ実験を行ったところ、水素ガスの生成量は0.46mLであった。
【0082】
上記実施例では、再生可能有機性資源として、3ミリ以下の大きさに破断状態にされた茶粕を用いたが、茶葉もしくは茶粕を原型状態でも用いることができる。茶葉もしくは茶粕の表面積が減少するので、反応効率は落ちるが、破断する工程コストを省けるので、適宜選択すればよい。また、茶葉もしくは茶粕の表面積をさらに上げるために、茶葉もしくは茶粕を粉上にして用いることも出来る。さらに、茶葉もしくは茶粕から水又は熱水で抽出した成分(いわゆる淹れた茶の成分)を用いることができる。また、水又は熱水で抽出した後の残渣(いわゆる茶粕)を用いることができる。しかし、原料コストの観点を踏まえると、茶成分抽出後に大量に廃棄される「茶粕」 を破断状態で用いることが最もコスト低減に好適である。
【0083】
本実施例では、茶粕としてのもととなる煎茶を用いたが、チャノキであるCamellia sinensisの茎葉を摘んだものであれば如何なるものも用いることができる。また摘み方は如何なる方法でもよいが、コストの観点を踏まえると、特に機械摘みが好適である。
【0084】
本実施例では、茶粕として酸化発酵を抑えた緑茶の茶粕を用いたが、本発明では如何なる発酵段階の茶葉であっても用いることができる。例えば、加熱して酸化発酵を抑えた緑茶(煎茶、番茶、茎茶、ほうじ茶など)、ある程度発酵させた青茶(ウーロン茶など)、完全に発酵させた紅茶、酸化発酵後にさらに麹菌発酵させた黒茶(プーアル茶など)、などを用いることができる。好ましくは、緑茶、紅茶、ウーロン茶を挙げることができる。なお、原料コストの観点を踏まえると、工業的には、規格外の茶葉を用いることが好ましい。
【0085】
本実施例では、再生可能有機性資源として茶粕を用いたが、茶粕の代替として、コーヒー豆焙煎物を原型状態で又は破断もしくは粉末状態にして用いてもよい。また、当該破断もしくは粉末状態にしたコーヒー豆を水又は熱水で抽出した成分(いわゆる淹れたコーヒーの成分)を用いることができる。また、水又は熱水で抽出した後の残渣(いわゆるコーヒー粕)を用いることができる。特に、原料コストの観点を踏まえると、コーヒー成分抽出後に大量に廃棄される「コーヒー粕」を用いることが最も好適である。
【0086】
ここでコーヒー豆焙煎物とは、通常の方法に従ってコーヒー豆を焙煎したものであれば如何なるものも含まれる。いわゆる挽いた(破断状態もしくは粉末状態にした)コーヒー豆の状態もここに含まれる。また、コーヒー豆を破断状態もしくは粉末状態にしたものを焙煎したものであってもよい。ここでコーヒー豆としては、コーヒーの木であるアラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種の種子であれば如何なるものを用いることができる。なお、生のコーヒー豆であってもよいが、通常用いられるように乾燥保存されたものが好適である。原料コストの観点を踏まえると、工業的には、規格外のコーヒー豆を用いることが好ましい。ここで焙煎としては、通常行われる如何なる方法を挙げることができ、例えば、直火焙煎、熱風焙煎、遠赤外線焙煎、マイクロ波焙煎、加熱水蒸気焙煎、低温焙煎などを挙げることができる。また、粉砕としては、コーヒーミル、グラインダー、石臼などによって通常のコーヒー豆が挽かれた状態にすればよく、粗挽きから粉末化状態のものまで幅広く含むものである。鉄との反応効率の観点を考慮すると、表面積の大きい状態にした方が好適であるので、破断状態、粉末状態、にすることが好適である。
【0087】
本実施例では、再生可能有機性資源として茶粕を用いたが、茶粕の代替として、ポリフェノールを含む果実搾汁液、茎葉搾汁液、植物乾留液を用いることができる。
【0088】
本実施例では、硝酸鉄(III)を鉄イオン供給原料として用いたが、前記鉄供給原料が、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)アンモニウム、EDTA鉄(III)から選ばれる三価鉄の供給原料、もしくは;硝酸鉄(II)、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、酢酸鉄(II)、乳酸鉄(II)、クエン酸鉄(II)ナトリウムから選ばれる二価鉄の供給原料から選ばれる1種以上の供給原料でもよい。
【0089】
本実施例では、茶粕の供給、茶粕の分離・除去、水の補充を連続的に行い、水素を連続生産したが、装置を簡略化して茶粕の供給、茶粕の分離・除去をバッチ処理で行ってもよい。バッチ処理の方が、生産効率は連続生産に比べて落ちるが、製造装置が簡単になる分製造コストが下げられる。
【0090】
本実施例では、光源として、太陽光を用いたが、LED光を初めとする人工光を用いることも出来る。電気エネルギーコストは上がるが、夜間操業、曇天時の補助、等に、総合的に選択すればよい。人工光源を用いる場合には内部照射型反応管等のように乱反射光が再び反応溶液に戻るタイプのセルが望ましい。