(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083562
(43)【公開日】2022-06-06
(54)【発明の名称】変位計測装置
(51)【国際特許分類】
G01B 5/30 20060101AFI20220530BHJP
【FI】
G01B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194953
(22)【出願日】2020-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
【テーマコード(参考)】
2F062
【Fターム(参考)】
2F062AA02
2F062AA07
2F062AA09
2F062BB14
2F062BC18
2F062CC26
2F062EE05
2F062EE07
2F062EE13
2F062EE22
2F062EE47
2F062EE63
2F062GG31
2F062GG41
2F062GG44
2F062HH15
2F062HH16
2F062HH29
2F062HH37
2F062JJ10
(57)【要約】
【課題】簡易かつ安価な構成で2つの構造体間の相対変位を計測する。
【解決手段】変位計測装置は、計測ポールと2つの受け部材と傾斜計とを備える。計測ポールは、初期状態において第1の方向に延伸し、一端部に第1および第2のスリットが形成され、他端部に第3および第4のスリットが形成されている。第1の受け部材は、第1の構造体に固定され、回転可能に接合された第1および第2の棒状部材を有する。第1の棒状部材は、第2の方向に延伸し、第1のスリットに挿入されている。第2の棒状部材は、第3の方向に延伸し、第2のスリットに挿入される。第2の受け部材は、第2の構造体に固定され、回転可能に接合された第3および第4の棒状部材を有する。第3の棒状部材は、第2の方向に延伸し、第3のスリットに挿入されている。第4の棒状部材は、第3の方向に延伸し、第4のスリットに挿入されている。傾斜計は、計測ポールの傾きを計測する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に対向する第1の構造体と第2の構造体との距離が既知のとき、前記第1の方向に直交する第2の方向と、前記第1の方向と前記第2の方向とに直交する第3の方向と、についての前記第1の構造体と前記第2の構造体との間の相対変位を計測する変位計測装置であって、
前記第2の方向および前記第3の方向の前記相対変位がゼロである初期状態において前記第1の方向に延伸する計測ポールであって、前記第1の方向の一端部に、前記初期状態において前記第2の方向に平行であり、かつ、前記第1の方向に延伸する第1のスリットと、前記初期状態において前記第3の方向に平行であり、かつ、前記第1の方向に延伸する第2のスリットと、が形成されており、前記第1の方向の他端部に、前記初期状態において前記第2の方向に平行であり、かつ、前記第1の方向に延伸する第3のスリットと、前記初期状態において前記第3の方向に平行であり、かつ、前記第1の方向に延伸する第4のスリットと、が形成されている、計測ポールと、
前記第1の構造体に固定された第1の受け部材であって、前記初期状態において前記第2の方向に延伸し、かつ、前記計測ポールに形成された前記第1のスリットに挿入された第1の棒状部材と、前記初期状態において前記第3の方向に延伸し、前記計測ポールに形成された前記第2のスリットに挿入され、かつ、前記第1の棒状部材に対して前記第1の方向の軸廻りに相対回転可能に接合された第2の棒状部材と、を有する、第1の受け部材と、
前記第2の構造体に固定された第2の受け部材であって、前記初期状態において前記第2の方向に延伸し、かつ、前記計測ポールに形成された前記第3のスリットに挿入された第3の棒状部材と、前記初期状態において前記第3の方向に延伸し、前記計測ポールに形成された前記第4のスリットに挿入され、かつ、前記第3の棒状部材に対して前記第1の方向の軸廻りに相対回転可能に接合された第4の棒状部材と、を有する、第2の受け部材と、
前記計測ポールに取り付けられ、前記計測ポールの前記第1の方向に対する傾きを計測する傾斜計と、
を備える、変位計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変位計測装置であって、さらに、
前記第1の受け部材を、前記第1の棒状部材または前記第2の棒状部材の前記第1の方向、前記第2の方向および前記第3の方向の軸廻りの回転を拘束しつつ、前記第1の構造体に固定する第1の接合部材と、
前記第2の受け部材を、前記第3の棒状部材または前記第4の棒状部材の前記第1の方向、前記第2の方向および前記第3の方向の軸廻りの回転を拘束しつつ、前記第2の構造体に固定する第2の接合部材と、
を備える、変位計測装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の変位計測装置であって、
前記初期状態における前記計測ポールの前記第1の方向に直交する断面は、2軸対称閉断面である、変位計測装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の変位計測装置であって、
前記第1の方向は、鉛直方向である、変位計測装置。
【請求項5】
請求項4に記載の変位計測装置であって、さらに、
前記計測ポールを下方向に付勢する付勢手段を備える、変位計測装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の変位計測装置であって、
前記第1の構造体は、免震装置の上部に位置する上部構造体であり、
前記第2の構造体は、前記免震装置の下部に位置する下部基礎である、変位計測装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の変位計測装置であって、さらに、
前記傾斜計によって計測された前記計測ポールの前記第1の方向に対する傾きと、前記第1の方向における前記第1の受け部材の中心と前記第2の受け部材の中心との間の距離と、に基づき、前記相対変位を算出する制御部を備える、変位計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、第1の構造体と第2の構造体との間の相対変位を計測する変位計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば地震による建築物の被害を軽減・防止するための構造として、免震構造が知られている。免震構造は、下部基礎と上部構造体との間に免震層を設け、免震層に、アイソレーター(例えば積層ゴム)とダンパー(例えばオイルダンパー)とを備える免震装置を設置し、免震装置によって下部基礎の揺れを上部構造体に伝わりにくくする構造である。このような免震構造において、地震時に免震装置が設計通りに機能していることを確認するため、地震時における免震層の変位(すなわち、下部基礎と上部構造体との間の相対変位)を計測することは極めて重要なことである。
【0003】
従来、免震層の変位を計測する方法として、ケガキ計を用いる方法が知られている。この方法は、地震時に、上部構造体に固定されたケガキ針によって、免震層の下部床面に水平設置されたケガキ板に引っかき傷を付けることにより、免震層の変位を計測する方法である。ケガキ計を用いた免震層の変位の計測方法では、余震が続いている中で免震層に入ってケガキ板の傷を確認する必要があり、安全面で課題がある。
【0004】
ケガキ計に代えて、水平型変位計を用いて免震層の変位を計測する方法も知られている。この方法では、有線または無線による通信回線を用いることにより、免震層に入ることなくリアルタイムで変位データを取得・確認することができる。しかしながら、水平型変位計を用いた方法では、水平2方向を計測するために最低2台の水平型変位計を免震層に設置する必要があり、設置スペースが大きいという課題がある。
【0005】
設置スペースが小さく、かつ、免震層に入ることなくリアルタイムで変位データを取得・確認することができる変位計測装置として、直立型変位計測装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この変位計測装置は、棒状部材と、棒状部材の上端を水平2方向に回転可能に支持しつつ上部構造体に接合する上部自在継手と、棒状部材の下端を水平2方向に回転可能に支持する下部自在継手と、下部自在継手を鉛直方向へ変位可能に支持しつつ下部基礎に接合する滑り軸受と、棒状部材の上端または下端の水平2方向の回転角度を計測する2つのエンコーダとを備えている。この変位計測装置によれば、2つのエンコーダにより計測された回転角度に基づき、下部基礎と上部構造体との間の水平2方向の相対変位を算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の直立型変位計測装置では、自在継手や滑り軸受等の精密機械部品が必要であるため、構成が複雑になると共にコストが高いという課題がある。なお、このような課題は、免震構造における下部基礎と上部構造体との間の水平2方向の相対変位を計測する変位計測装置に限らず、第1の構造体と第2の構造体との間の相対変位を計測する変位計測装置に共通の課題である。
【0008】
本明細書では、上述した課題の少なくとも一部を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0010】
(1)本明細書に開示される変位計測装置は、第1の方向に対向する第1の構造体と第2の構造体との距離が既知のとき、前記第1の方向に直交する第2の方向と、前記第1の方向と前記第2の方向とに直交する第3の方向と、についての前記第1の構造体と前記第2の構造体との間の相対変位を計測する変位計測装置である。変位計測装置は、計測ポールと、第1の受け部材と、第2の受け部材と、傾斜計とを備える。計測ポールは、前記第2の方向および前記第3の方向の前記相対変位がゼロである初期状態において前記第1の方向に延伸する部材である。計測ポールの前記第1の方向の一端部には、前記初期状態において前記第2の方向に平行であり、かつ、前記第1の方向に延伸する第1のスリットと、前記初期状態において前記第3の方向に平行であり、かつ、前記第1の方向に延伸する第2のスリットと、が形成されている。計測ポールの前記第1の方向の他端部には、前記初期状態において前記第2の方向に平行であり、かつ、前記第1の方向に延伸する第3のスリットと、前記初期状態において前記第3の方向に平行であり、かつ、前記第1の方向に延伸する第4のスリットと、が形成されている。第1の受け部材は、前記第1の構造体に固定されており、第1の棒状部材と、第2の棒状部材とを有する。第1の棒状部材は、前記初期状態において前記第2の方向に延伸し、かつ、前記計測ポールに形成された前記第1のスリットに挿入されている。第2の棒状部材は、前記初期状態において前記第3の方向に延伸し、前記計測ポールに形成された前記第2のスリットに挿入され、かつ、前記第1の棒状部材に対して前記第1の方向の軸廻りに相対回転可能に接合されている。第2の受け部材は、前記第2の構造体に固定されており、第3の棒状部材と、第4の棒状部材とを有する。第3の棒状部材は、前記初期状態において前記第2の方向に延伸し、かつ、前記計測ポールに形成された前記第3のスリットに挿入されている。第4の棒状部材は、前記初期状態において前記第3の方向に延伸し、前記計測ポールに形成された前記第4のスリットに挿入され、かつ、前記第3の棒状部材に対して前記第1の方向の軸廻りに相対回転可能に接合されている。傾斜計は、前記計測ポールに取り付けられ、前記計測ポールの前記第1の方向に対する傾きを計測する。
【0011】
本変位計測装置はこのような構成であるため、計測ポールの一端部が、第2の方向および第3の方向廻りの回転を自在、第1の方向廻りの回転を拘束、材軸方向の変位を自在に、第1の構造体に接合され、かつ、計測ポールの他端部が、第2の方向および第3の方向廻りの回転を自在、第1の方向廻りの回転を拘束、材軸方向の変位を自在に、第2の構造体に接合された状態となっている。そのため、地震時等に第1の構造体と第2の構造体とが第2の方向および/または第3の方向に相対変位した際に、計測ポールが第1の方向に対して傾く。該傾きに伴い発生する計測ポールの材軸方向の変位については、第1の受け部材および第2の受け部材を構成する各棒状部材が計測ポールに形成された各スリット内を移動することで対応できる。そして、傾斜計により計測された計測ポールの傾きを用いて、第1の構造体と第2の構造体との間の第2の方向および第3の方向の相対変位を算出することができる。従って、本変位計測装置によれば、設置スペースが小さく、かつ、遠隔からリアルタイムで変位データを取得・確認することができる変位計測装置を実現することができると共に、自在継手や滑り軸受等の精密機械部品を用いることなく汎用構造部品を用いて、比較的簡易、軽量かつ安価な構成の変位計測装置を実現することができる。
【0012】
(2)上記変位計測装置において、さらに、前記第1の受け部材を、前記第1の棒状部材または前記第2の棒状部材の前記第1の方向、前記第2の方向および前記第3の方向の軸廻りの回転を拘束しつつ、前記第1の構造体に固定する第1の接合部材と、前記第2の受け部材を、前記第3の棒状部材または前記第4の棒状部材の前記第1の方向、前記第2の方向および前記第3の方向の軸廻りの回転を拘束しつつ、前記第2の構造体に固定する第2の接合部材と、を備える構成としてもよい。この構成によれば、第1の構造体と第2の構造体との間の第2の方向および第3の方向の相対変位を精度良く算出することができると共に、変位計測装置の設置の容易化を実現することができる。
【0013】
(3)上記変位計測装置において、前記初期状態における前記計測ポールの前記第1の方向に直交する断面は、2軸対称閉断面である構成としてもよい。本変位計測装置によれば、第1の構造体と第2の構造体との間の第2の方向および第3の方向の相対変位を精度良く算出することができる。
【0014】
(4)上記変位計測装置において、前記第1の方向は、鉛直方向である構成としてもよい。本変位計測装置によれば、第1の構造体と第2の構造体との間の水平方向の相対変位を算出することができる。
【0015】
(5)上記変位計測装置において、さらに、前記計測ポールを下方向に付勢する付勢手段を備える構成としてもよい。本変位計測装置によれば、地震時等の際の計測ポールの上下動を抑制することができ、変位計測装置の破損の発生を抑制することができる。
【0016】
(6)上記変位計測装置において、前記第1の構造体は、免震装置の上部に位置する上部構造体であり、前記第2の構造体は、前記免震装置の下部に位置する下部基礎である構成としてもよい。本変位計測装置によれば、免震構造の下部基礎と上部構造体との間の水平方向の相対変位を算出することができる。
【0017】
(7)上記変位計測装置において、さらに、前記傾斜計によって計測された前記計測ポールの前記第1の方向に対する傾きと、前記第1の方向における前記第1の受け部材の中心と前記第2の受け部材の中心との間の距離と、に基づき、前記相対変位を算出する制御部を備える構成としてもよい。本変位計測装置によれば、傾斜計により計測された計測ポールの傾きを用いて、第1の構造体と第2の構造体との間の第2の方向および第3の方向の相対変位を算出することができる。
【0018】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、変位計測装置、変位計測方法、変位計測システム、変位計測装置または変位計測システムを備える建築物等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態における変位計測装置100を備える建築物180の構成を概略的に示す説明図
【
図2】本実施形態における変位計測装置100の詳細構成を示す説明図
【
図4】下側受け部材20(または上側受け部材30)および下側接合部材40(または上側接合部材50)の詳細構成を示す説明図
【
図5】X軸方向への変位時における変位計測装置100の動作を示す説明図
【
図6】Y軸方向への変位時における変位計測装置100の動作を示す説明図
【
図7】X軸方向およびY軸方向への変位時における変位計測装置100の動作を示す説明図
【
図8】X軸方向およびY軸方向への変位時における変位計測装置100の動作を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.実施形態:
A-1.変位計測装置100を備える建築物180の構成:
図1は、本実施形態における変位計測装置100を備える建築物180の構成を概略的に示す説明図である。なお、
図1において、Z軸方向は鉛直方向であり、Z軸正方向は上方向であり、Z軸負方向は下方向である。この点は、以降の図においても同様である。Z軸方向は、特許請求の範囲における第1の方向の一例である。
【0021】
図1に示すように、建築物180は、上部構造体110と、下部基礎120と、アイソレーター130と、ダンパー140と、制御装置150と、変位計測装置100とを備える。上部構造体110は、建築物180の本体であり、下部基礎120は、上部構造体110の下方に設置された基礎である。下部基礎120と上部構造体110との間には、免震層SIが設けられている。下部基礎120は、特許請求の範囲における第1の構造体の一例であり、上部構造体110は、特許請求の範囲における第2の構造体の一例である。
【0022】
アイソレーター130およびダンパー140は、免震層SIに設けられており、免震装置を構成している。アイソレーター130は、例えば積層ゴムにより構成されており、Z軸方向において上部構造体110を支持すると共に、地震力等の水平力が作用する際に、下部基礎120の短周期の揺れを長周期の揺れに変換して上部構造体110に伝えることにより、上部構造体110の揺れを低減するための装置である。ダンパー140は、例えばオイルダンパーにより構成されており、上部構造体110の揺れを早期に減衰させるための装置である。
【0023】
変位計測装置100は、免震層SIに設けられている。変位計測装置100は、免震層SIの変位、すなわち、下部基礎120と上部構造体110との間の水平2方向(X軸方向およびY軸方向)の相対変位を計測するための装置である。X軸方向は、特許請求の範囲における第2の方向の一例であり、Y軸方向は、特許請求の範囲における第3の方向の一例である。
【0024】
制御装置150は、例えばCPUとメモリとを備えるコンピューターにより構成されており、免震層SIの外部に配置されている。制御装置150は、配線ケーブル152を介して変位計測装置100に接続されており、変位計測装置100に対する電力供給や、変位計測装置100からのデータ収集等を行う。配線ケーブル152は、上部構造体110と下部基礎120との間の相対変位に追従できるように、弛ませた状態で設置される。変位計測装置100と制御装置150とを合わせた構成を変位計測装置と捉えることもできる。制御装置150は、特許請求の範囲における制御部の一例である。
【0025】
A-2.変位計測装置100の詳細構成:
図2は、本実施形態における変位計測装置100の詳細構成を示す説明図である。
図2のA欄には、初期状態(地震力等の水平力が作用せず、下部基礎120と上部構造体110との間の水平2方向の相対変位が共にゼロである状態)における変位計測装置100のXZ側面構成が示されており、
図2のB欄には、初期状態における変位計測装置100のYZ側面構成が示されている。
図2に示すように、変位計測装置100は、計測ポール10と、下側受け部材20と、上側受け部材30と、下側接合部材40と、上側接合部材50と、傾斜計60とを備える。
【0026】
(計測ポール10の構成)
図3は、計測ポール10の詳細構成を示す説明図である。
図3には、計測ポール10の斜視外観構成が示されている。
図2および
図3に示すように、計測ポール10は、初期状態においてZ軸方向(鉛直方向)に延伸する棒状の部材である。初期状態における計測ポール10のZ軸方向に直交する断面(XY断面)は、2軸対称閉断面である。本実施形態では、計測ポール10として角形鋼管が用いられており、該断面は、正方形断面である。初期状態において、計測ポール10を構成する角形鋼管の2つの側面はX軸およびZ軸に平行であり、角形鋼管の他の2つの側面はY軸およびZ軸に平行である。
【0027】
計測ポール10の下端部には、第1のスリット11と第2のスリット12とが形成されている。第1のスリット11は、初期状態においてX軸方向に平行であり、かつ、計測ポール10の下端からZ軸正方向(上方向)に延伸するスリットである。第2のスリット12は、初期状態においてY軸方向に平行であり、かつ、計測ポール10の下端からZ軸正方向(上方向)に延伸するスリットである。本実施形態では、第1のスリット11は、計測ポール10のXY断面において、該断面の中心点を通り、かつ、X軸に平行な直線状に配置されており、第2のスリット12は、計測ポール10のXY断面において、該断面の中心点を通り、かつ、Y軸に平行な直線状に配置されている。また、本実施形態では、計測ポール10として角形鋼管が用いられているため、第1のスリット11は、角形鋼管におけるY軸およびZ軸に平行な2つの平板部に形成された2つのスリットから構成されており、第2のスリット12は、角形鋼管におけるX軸およびZ軸に平行な2つの平板部に形成された2つのスリットから構成されている。計測ポール10の下端部は、特許請求の範囲における計測ポールの一端部の一例である。
【0028】
また、計測ポール10の上端部には、第3のスリット13と第4のスリット14とが形成されている。第3のスリット13は、初期状態においてX軸方向に平行であり、かつ、計測ポール10の上端からZ軸負方向(下方向)に延伸するスリットである。第4のスリット14は、初期状態においてY軸方向に平行であり、かつ、計測ポール10の上端からZ軸負方向(下方向)に延伸するスリットである。本実施形態では、第3のスリット13は、計測ポール10のXY断面において、該断面の中心点を通り、かつ、X軸に平行な直線状に配置されており、第4のスリット14は、計測ポール10のXY断面において、該断面の中心点を通り、かつ、Y軸に平行な直線状に配置されている。また、本実施形態では、計測ポール10として角形鋼管が用いられているため、第3のスリット13は、角形鋼管におけるY軸およびZ軸に平行な2つの平板部に形成された2つのスリットから構成されており、第4のスリット14は、角形鋼管におけるX軸およびZ軸に平行な2つの平板部に形成された2つのスリットから構成されている。計測ポール10の上端部は、特許請求の範囲における計測ポールの他端部の一例である。
【0029】
(下側受け部材20、上側受け部材30、下側接合部材40および上側接合部材50の構成)
図4は、下側受け部材20(または上側受け部材30、以下同様)および下側接合部材40(または上側接合部材50、以下同様)の詳細構成を示す説明図である。
図4のA欄には、下側受け部材20のXY平面(上面)の構成が示されており、
図4のB欄には、下側受け部材20のYZ断面構成が示されており、
図4のC欄には、下側受け部材20のXZ断面構成が示されており、
図4のD欄には、下側受け部材20および下側接合部材40の斜視外観構成が示されている。
【0030】
図4に示すように、下側受け部材20は、第1の棒状部材21と、第2の棒状部材22とを有する。第1の棒状部材21は、初期状態においてX軸方向に延伸する棒状の部材である。第1の棒状部材21は、例えば棒鋼により構成されており、第1の棒状部材21の延伸方向に直交する断面は、例えば円形である。また、第1の棒状部材21の外径は、計測ポール10の第1のスリット11の幅と同一であるか、または、該幅より僅かに小さい。第2の棒状部材22は、初期状態においてY軸方向に延伸する棒状の部材である。第2の棒状部材22は、例えば棒鋼により構成されており、第2の棒状部材22の延伸方向に直交する断面は、例えば円形である。また、第2の棒状部材22の外径は、計測ポール10の第2のスリット12の幅と同一であるか、または、該幅より僅かに小さい。第2の棒状部材22は、第1の棒状部材21に対してZ軸廻りに相対回転可能に接合されている。より具体的には、第1の棒状部材21および第2の棒状部材22のそれぞれにおける長さ方向中央付近の断面に切り欠きが設けられており、第1の棒状部材21と第2の棒状部材22とが、切り欠きが互いに係合するように組み合わされた状態で、ボルト26により接合されている。これにより、第1の棒状部材21と第2の棒状部材22とは、Z軸廻りに相対回転可能なピン接合とされ、第1の棒状部材21と第2の棒状部材22とのなす角が初期状態の90度から変更可能となっている。下側受け部材20は、特許請求の範囲における第1の受け部材の一例である。
【0031】
下側接合部材40は、平板部41と、一対の立ち上がり部42と、一対のストッパー部46とを有している。下側接合部材40は、例えば鋼材により構成されている。下側接合部材40は、特許請求の範囲における第1の接合部材の一例である。
【0032】
下側接合部材40の平板部41は、Z軸方向に直交する平板形状の部分であり、下部基礎120に形成された立ち上がり基礎122(
図2)の上面に、例えばボルト(不図示)により固定されている。
【0033】
下側接合部材40の各立ち上がり部42は、平板部41の上面から上方向に延伸する平板状の部分である。各立ち上がり部42には、X軸方向に貫通する貫通孔44が形成されている。一方の立ち上がり部42の貫通孔44には、下側受け部材20の第1の棒状部材21の一端部が挿入されており、他方の立ち上がり部42の貫通孔44には、第1の棒状部材21の他端部が挿入されている。これにより、第1の棒状部材21が、一対の立ち上がり部42によって、X軸廻りに回転可能に、かつ、Y軸およびZ軸廻りの回転が拘束された状態で支持されている。その結果、第1の棒状部材21を含む下側受け部材20が下側接合部材40に固定され、ひいては、下側受け部材20が立ち上がり基礎122を含む下部基礎120に固定されている。
【0034】
下側接合部材40の各ストッパー部46は、平板部41の上面に固定された小片状の部分である。一方のストッパー部46の上面により、下側受け部材20の第2の棒状部材22の一端部が支持されており、他方のストッパー部46により、第2の棒状部材22の他端部が支持されている。これにより、第2の棒状部材22のX軸廻りの回転が拘束されており、ひいては、第2の棒状部材22を含む下側受け部材20のX軸廻りの回転が拘束されている。ただし、ストッパー部46によって第2の棒状部材22のZ軸廻りの回転は拘束されていないため、下側受け部材20が下側接合部材40に固定された状態においても、第1の棒状部材21と第2の棒状部材22とのなす角が初期状態の90度から変更可能となっている。なお、ストッパー部46を省略し、代わりに、第1の棒状部材21の両端部を立ち上がり部42に剛接合することにより、下側受け部材20のX軸廻りの回転を拘束してもよい。
【0035】
上側受け部材30の構成は、上下逆向きである点を除き、上述した下側受け部材20の構成と同一である。すなわち、上側受け部材30は、第3の棒状部材31と、第4の棒状部材32とを有する。第3の棒状部材31は、初期状態においてX軸方向に延伸する棒状の部材である。第3の棒状部材31は、例えば棒鋼により構成されており、第3の棒状部材31の延伸方向に直交する断面は、例えば円形である。また、第3の棒状部材31の外径は、計測ポール10の第3のスリット13の幅と同一であるか、または、該幅より僅かに小さい。第4の棒状部材32は、初期状態においてY軸方向に延伸する棒状の部材である。第4の棒状部材32は、例えば棒鋼により構成されており、第4の棒状部材32の延伸方向に直交する断面は、例えば円形である。また、第4の棒状部材32の外径は、計測ポール10の第4のスリット14の幅と同一であるか、または、該幅より僅かに小さい。第4の棒状部材32は、ボルト36により、第3の棒状部材31に対してZ軸廻りに相対回転可能にピン接合されている。これにより、第3の棒状部材31と第4の棒状部材32とのなす角が初期状態の90度から変更可能となっている。上側受け部材30は、特許請求の範囲における第2の受け部材の一例である。
【0036】
上側接合部材50の構成は、上下逆向きである点を除き、上述した下側接合部材40の構成と同一である。すなわち、上側接合部材50は、平板部51と、一対の立ち上がり部52と、一対のストッパー部56とを有している。平板部51は、Z軸方向に直交する平板形状の部分であり、上部構造体110(
図2)の下面に、例えばボルト(不図示)により固定されている。上側接合部材50の各立ち上がり部52は、平板部51の下面から下方向に延伸する平板状の部分であり、X軸方向に貫通する貫通孔54が形成されている。一方の立ち上がり部52の貫通孔54には、上側受け部材30の第3の棒状部材31の一端部が挿入されており、他方の立ち上がり部52の貫通孔54には、第3の棒状部材31の他端部が挿入されている。これにより、第3の棒状部材31が、一対の立ち上がり部52によって、X軸廻りに回転可能に、かつ、Y軸およびZ軸廻りの回転が拘束された状態で支持されている。その結果、第3の棒状部材31を含む上側受け部材30が上側接合部材50に固定され、ひいては、上側受け部材30が上部構造体110に固定されている。上側接合部材50の各ストッパー部56は、平板部51の下面に固定された小片状の部分である。一方のストッパー部56の下面により、上側受け部材30の第4の棒状部材32の一端部が支持されており、他方のストッパー部56により、第4の棒状部材32の他端部が支持されている。これにより、第4の棒状部材32のX軸廻りの回転が拘束されており、ひいては、第4の棒状部材32を含む上側受け部材30のX軸廻りの回転が拘束されている。ただし、ストッパー部56によって第4の棒状部材32のZ軸廻りの回転は拘束されていないため、上側受け部材30が上側接合部材50に固定された状態においても、第3の棒状部材31と第4の棒状部材32とのなす角が初期状態の90度から変更可能となっている。上側接合部材50は、特許請求の範囲における第2の接合部材の一例である。
【0037】
図2(および後述する
図5から
図8)に示すように、下側受け部材20の第1の棒状部材21は、計測ポール10の下端部に形成された第1のスリット11に挿入されており、第2の棒状部材22は、計測ポール10の下端部に形成された第2のスリット12に挿入されている。なお、上述したように、本実施形態では、第1のスリット11が、計測ポール10を構成する角形鋼管におけるY軸およびZ軸に平行な2つの平板部に形成された2つのスリットから構成されているため、第1の棒状部材21の一端部が、一方の平板部に形成されたスリットに挿入されており、第1の棒状部材21の他端部が、他方の平板部に形成されたスリットに挿入されている。同様に、本実施形態では、第2のスリット12が、計測ポール10を構成する角形鋼管におけるX軸およびZ軸に平行な2つの平板部に形成された2つのスリットから構成されているため、第2の棒状部材22の一端部が、一方の平板部に形成されたスリットに挿入されており、第2の棒状部材22の他端部が、他方の平板部に形成されたスリットに挿入されている。
【0038】
このように、本実施形態の変位計測装置100では、下側受け部材20の第1の棒状部材21および第2の棒状部材22が、それぞれ、計測ポール10の下端部に形成された第1のスリット11および第2のスリット12に挿入されている。また、下側受け部材20は、下側接合部材40を介して、下部基礎120に固定されている。そのため、計測ポール10の下端部は、X軸およびY軸廻りの回転を自在、Z軸廻りの回転を拘束、材軸方向の変位を自在に、下部基礎120に接合されている。なお、計測ポール10の下端部は、例えばバネ等の付勢手段102(
図1)により、下部基礎120側(下方向)に付勢されている。
【0039】
また、
図2(および後述する
図5から
図8)に示すように、上側受け部材30の第3の棒状部材31は、計測ポール10の上端部に形成された第3のスリット13に挿入されており、第4の棒状部材32は、計測ポール10の上端部に形成された第4のスリット14に挿入されている。なお、上述したように、本実施形態では、第3のスリット13が、計測ポール10を構成する角形鋼管におけるY軸およびZ軸に平行な2つの平板部に形成された2つのスリットから構成されているため、第3の棒状部材31の一端部が、一方の平板部に形成されたスリットに挿入され、第3の棒状部材31の他端部が、他方の平板部に形成されたスリットに挿入されている。同様に、本実施形態では、第4のスリット14が、計測ポール10を構成する角形鋼管におけるX軸およびZ軸に平行な2つの平板部に形成された2つのスリットから構成されているため、第4の棒状部材32の一端部が、一方の平板部に形成されたスリットに挿入され、第4の棒状部材32の他端部が、他方の平板部に形成されたスリットに挿入されている。
【0040】
このように、本実施形態の変位計測装置100では、上側受け部材30の第3の棒状部材31および第4の棒状部材32が、それぞれ、計測ポール10の上端部に形成された第3のスリット13および第4のスリット14に挿入されている。また、上側受け部材30は、上側接合部材50を介して、上部構造体110に固定されている。そのため、計測ポール10の上端部は、X軸およびY軸廻りの回転を自在、Z軸廻りの回転を拘束、材軸方向の変位を自在に、上部構造体110に接合されている。
【0041】
(傾斜計60の構成)
傾斜計60は、計測ポール10に取り付けられており、計測ポール10のZ軸方向に対する傾き(XZ面内およびYZ面内の傾き)を計測する2方向傾斜センサーである。
図2に示すように、本実施形態では、傾斜計60は、計測ポール10を構成する角形鋼管におけるX軸およびZ軸に平行な側面に取り付けられている。傾斜計60は、計測ポール10の傾きを計測可能な装置であれば、どのような装置であってもよいが、例えば小型軽量なMEMSセンサーである。
【0042】
図1に示すように、傾斜計60は、配線ケーブル152を介して制御装置150と接続されている。傾斜計60には、配線ケーブル152を介して電力が供給され、また、傾斜計60により計測された各時刻における計測ポール10の傾きを示すデータは、配線ケーブル152を介して制御装置150に転送される。
【0043】
免震層SIへの変位計測装置100の設置の際には、計測ポール10の下端に下側受け部材20および下側接合部材40を組み付け、計測ポール10の上端に上側受け部材30および上側接合部材50を組み付けた後、免震層SIにおける所定の位置に固定する。また、免震層SIからの変位計測装置100の撤去の際には、下側接合部材40と立ち上がり基礎122との締結を解除し、下側接合部材40を立ち上がり基礎122の位置から水平方向にずらして分解・撤去する。
【0044】
A-3.変位計測装置100の動作:
次に、地震時等に上部構造体110と下部基礎120との間で相対変位が発生した際の変位計測装置100の動作について説明する。
【0045】
A-3-1.X軸方向への変位時の変位計測装置100の動作:
まず、上部構造体110が下部基礎120に対してX軸方向に変位量δ
Xだけ相対変位したとき(以下、単に「X軸方向への変位時」という。)における変位計測装置100の動作を説明する。
図5は、X軸方向への変位時における変位計測装置100の動作を示す説明図である。
図5のA欄には、変位計測装置100のXZ側面構成が示されており、
図5のB欄には、変位計測装置100のYZ側面構成が示されており、
図5のC欄には、計測ポール10の下端部周辺のXZ側面構成が拡大して示されている。
【0046】
上述したように、計測ポール10の下端部は、X軸およびY軸廻りの回転を自在、Z軸廻りの回転を拘束、材軸方向の変位を自在に、下部基礎120に接合されており、かつ、計測ポール10の上端部は、X軸およびY軸廻りの回転を自在、Z軸廻りの回転を拘束、材軸方向の変位を自在に、上部構造体110に接合されている。そのため、X軸方向への変位時には、
図5のA欄に示すように、初期状態においてZ軸方向に延伸する姿勢であった計測ポール10が、Y軸廻りに回転して傾斜する。なお、免震装置(積層ゴム支承やすべり支承などの荷重支持部材)のZ軸方向の剛性は十分に大きく、地震時等における上部構造体110と下部基礎120との間のZ軸方向の相対変位は略ゼロであるため、Z軸方向における下側受け部材20の中心と上側受け部材30の中心との間の距離(以下、「受け部材間鉛直距離」という。)hは、地震時等においても一定とみなすことができる。
【0047】
計測ポール10が傾斜すると、計測ポール10の材軸方向に沿った下側受け部材20と上側受け部材30との間の中心間距離(以下、「受け部材間実距離L」という。)は、初期状態の値、すなわち受け部材間鉛直距離hから、下記の式(1)で表される値に増加する。そのため、下側受け部材20を構成する第1の棒状部材21および第2の棒状部材22は、それぞれ、計測ポール10の下端部に形成された第1のスリット11および第2のスリット12内を相対的に移動する。このとき、
図5のC欄に示すように、第1の棒状部材21の一端部(図の例では右端部)が、スリット範囲SRに形成された第1のスリット11の上端に接触する。また、上側受け部材30を構成する第3の棒状部材31および第4の棒状部材32は、それぞれ、計測ポール10の上端部に形成された第3のスリット13および第4のスリット14内を相対的に移動する。なお、下側受け部材20を構成する第1の棒状部材21と第2の棒状部材22とは、互いに直交した状態を維持し、上側受け部材30を構成する第3の棒状部材31と第4の棒状部材32とは、互いに直交した状態を維持する。
【数1】
【0048】
計測ポール10がY軸廻りに回転して傾斜すると、傾斜計60によって、計測ポール10の傾斜角θ
Y(Z軸方向からのY軸廻りの傾斜角)が計測される。傾斜計60から計測ポール10の傾斜角θ
Yの計測結果を受け取った制御装置150は、下記の式(2)に従い、上部構造体110の下部基礎120に対するX軸方向の変位量δ
Xを算出する。
【数2】
【0049】
A-3-2.Y軸方向への変位時の変位計測装置100の動作:
次に、上部構造体110が下部基礎120に対してY軸方向に変位量δ
Yだけ相対変位したとき(以下、単に「Y軸方向への変位時」という。)における変位計測装置100の動作を説明する。
図6は、Y軸方向への変位時における変位計測装置100の動作を示す説明図である。
図6のA欄には、変位計測装置100のXZ側面構成が示されており、
図6のB欄には、変位計測装置100のYZ側面構成が示されており、
図6のC欄には、計測ポール10の下端部周辺のYZ側面構成が拡大して示されている。
【0050】
Y軸方向への変位時には、
図6のB欄に示すように、初期状態においてZ軸方向に延伸する姿勢であった計測ポール10が、X軸廻りに回転して傾斜する。計測ポール10が傾斜すると、受け部材間実距離Lは、初期状態の値、すなわち受け部材間鉛直距離hから、下記の式(3)で表される値に増加する。そのため、下側受け部材20を構成する第1の棒状部材21および第2の棒状部材22は、それぞれ、計測ポール10の下端部に形成された第1のスリット11および第2のスリット12内を相対的に移動する。このとき、
図6のC欄に示すように、第2の棒状部材22の一端部(図の例では右端部)が、スリット範囲SRに形成された第2のスリット12の上端に接触する。また、上側受け部材30を構成する第3の棒状部材31および第4の棒状部材32は、それぞれ、計測ポール10の上端部に形成された第3のスリット13および第4のスリット14内を相対的に移動する。なお、下側受け部材20を構成する第1の棒状部材21と第2の棒状部材22とは、互いに直交した状態を維持し、上側受け部材30を構成する第3の棒状部材31と第4の棒状部材32とは、互いに直交した状態を維持する。
【数3】
【0051】
計測ポール10がX軸廻りに回転して傾斜すると、傾斜計60によって、計測ポール10の傾斜角θ
X(Z軸方向からのX軸廻りの傾斜角)が計測される。傾斜計60から計測ポール10の傾斜角θ
Xの計測結果を受け取った制御装置150は、下記の式(4)に従い、上部構造体110の下部基礎120に対するY軸方向の変位量δ
Yを算出する。
【数4】
【0052】
A-3-3.X軸方向およびY軸方向への変位時の変位計測装置100の動作:
次に、上部構造体110が下部基礎120に対して、X軸方向に変位量δ
Xだけ相対変位し、かつ、Y軸方向に変位量δ
Yだけ相対変位したとき(以下、単に「X軸方向およびY軸方向への変位時」という。)における変位計測装置100の動作を説明する。なお、以下では、δ
X≧δ
Yの場合について説明するが、δ
X<δ
Yの場合においても、下側受け部材20とスリットとの接触位置が異なる点を除いて同様である。
図7および
図8は、X軸方向およびY軸方向への変位時における変位計測装置100の動作を示す説明図である。
図7のA欄には、変位計測装置100のXZ側面構成が示されており、
図7のB欄には、変位計測装置100のYZ側面構成が示されており、
図8のA欄には、計測ポール10の下端部周辺のXZ側面(
図7のB欄に示すB面Fb)の構成が拡大して示されており、
図8のB欄には、計測ポール10の下端部周辺のXZ側面(
図7のB欄に示すA面Fa)の構成が拡大して示されており、
図8のC欄には、下側受け部材20のXY平面(上面)の構成が拡大して示されている。
【0053】
X軸方向およびY軸方向への変位時には、
図7のA欄およびB欄に示すように、初期状態においてZ軸方向に延伸する姿勢であった計測ポール10が、Y軸廻りおよびX軸廻りに回転して傾斜する。計測ポール10が傾斜すると、受け部材間実距離Lは、初期状態の値、すなわち受け部材間鉛直距離hから、下記の式(5)で表される値に増加する。そのため、下側受け部材20を構成する第1の棒状部材21および第2の棒状部材22は、それぞれ、計測ポール10の下端部に形成された第1のスリット11および第2のスリット12内を相対的に移動する。このとき、
図8のA欄に示すように、第1の棒状部材21の一端部(図の例では右端部)が、スリット範囲SRに形成された第1のスリット11の上端に接触する。また、上側受け部材30を構成する第3の棒状部材31および第4の棒状部材32は、それぞれ、計測ポール10の上端部に形成された第3のスリット13および第4のスリット14内を相対的に移動する。なお、X軸方向およびY軸方向への変位時には、下側受け部材20を構成する第1の棒状部材21と第2の棒状部材22とのなす角は、
図8のC欄に示すように、初期状態における90度から角度φだけ変化し、第1の棒状部材21と第2の棒状部材22とが互いに直交しない状態となる。同様に、X軸方向およびY軸方向への変位時には、上側受け部材30を構成する第3の棒状部材31と第4の棒状部材32とのなす角は、初期状態における90度から変化し、第3の棒状部材31と第4の棒状部材32とが互いに直交しない状態となる。
【数5】
【0054】
計測ポール10がY軸廻りおよびX軸廻りに回転して傾斜すると、傾斜計60によって、計測ポール10の傾斜角θ
Y(Z軸方向からのY軸廻りの傾斜角)および傾斜角θ
X(Z軸方向からのX軸廻りの傾斜角)が計測される。傾斜計60から計測ポール10の傾斜角θ
Yおよび傾斜角θ
Xの計測結果を受け取った制御装置150は、下記の式(6)および(7)に従い、上部構造体110の下部基礎120に対するX軸方向の変位量δ
XおよびY軸方向の変位量δ
Yを算出する。
【数6】
【0055】
例えば、受け部材間鉛直距離h=1600mm、X軸方向への変位量δ
X=566mm、Y軸方向への変位量δ
Y=566mmである場合、実際の変位量は約800mm、傾斜角θ
Yは約19.5度、傾斜角θ
Xは約19.5度、受け部材間実距離Lは約1788mmとなり、受け部材間実距離Lは、初期状態の値hから約188mm増加することとなる。そのため、計測ポール10の各スリットの深さを200mm程度にすればよく、十分実用範囲であると言える。なお、計測ポール10の自重によって計測ポール10は下側受け部材20上に載置されるため、計測ポール10の下端部に形成される各スリットの深さを、計測ポール10の上端部に形成される各スリットの深さより浅くしてもよい。例えば、計測ポール10の下端部に形成される各スリットの深さを100mm程度とし、計測ポール10の上端部に形成される各スリットの深さを200mm程度としてもよい。また、計測ポール10を構成する角形鋼管を、□-100×100×2.3とすると、第2の棒状部材22のスリット延伸方向の移動量v(
図8のB欄参照)=50×tanθ
X=約17.6mmとなり、第2の棒状部材22の水平方向の移動量u(同)=v×sinθ
X=約5.84mmとなり、それぞれかなり小さい値となる。また、第1の棒状部材21と第2の棒状部材22とのなす角の変化量φ=tan
-1(u/50)=約6.67度となり、第1の棒状部材21と第2の棒状部材22とのなす角が、初期状態の90度から僅かに変化することとなる。なお、このとき、計測ポール10もZ軸廻りに回転するが、計測ポール10の側面の傾斜角は該回転によって変化しないため、変位量δ
Xおよびδ
Yと傾斜角θ
Yおよびθ
Xの関係は変わらない。
【0056】
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の変位計測装置100は、Z軸方向(鉛直方向)に対向する下部基礎120と上部構造体110との間のX軸方向およびY軸方向の相対変位を計測する装置である。変位計測装置100は、計測ポール10と、下側受け部材20と、上側受け部材30と、傾斜計60とを備える。計測ポール10は、初期状態(下部基礎120と上部構造体110との間のX軸方向およびY軸方向の相対変位がゼロである状態)においてZ軸方向に延伸する部材である。計測ポール10の下端部には、初期状態においてX軸方向に平行であり、かつ、Z軸方向に延伸する第1のスリット11と、初期状態においてY軸方向に平行であり、かつ、Z軸方向に延伸する第2のスリット12とが形成されている。計測ポール10の上端部には、初期状態においてX軸方向に平行であり、かつ、Z軸方向に延伸する第3のスリット13と、初期状態においてY軸方向に平行であり、かつ、Z軸方向に延伸する第4のスリット14とが形成されている。下側受け部材20は、下部基礎120に固定されており、第1の棒状部材21と第2の棒状部材22とを有する。第1の棒状部材21は、初期状態においてX軸方向に延伸し、かつ、計測ポール10に形成された第1のスリット11に挿入されている。第2の棒状部材22は、初期状態においてY軸方向に延伸し、計測ポール10に形成された第2のスリット12に挿入されており、かつ、第1の棒状部材21に対してZ軸廻りに相対回転可能に接合されている。上側受け部材30は、上部構造体110に固定されており、第3の棒状部材31と第4の棒状部材32とを有する。第3の棒状部材31は、初期状態においてX軸方向に延伸し、かつ、計測ポール10に形成された第3のスリット13に挿入されている。第4の棒状部材32は、初期状態においてY軸方向に延伸し、計測ポール10に形成された第4のスリット14に挿入されており、かつ、第3の棒状部材31に対してZ軸廻りに相対回転可能に接合されている。傾斜計60は、計測ポール10に取り付けられ、計測ポール10のZ軸方向に対する傾きを計測する。
【0057】
本実施形態の変位計測装置100は、このような構成であるため、計測ポール10の下端部が、X軸およびY軸廻りの回転を自在、Z軸廻りの回転を拘束、材軸方向の変位を自在に、下部基礎120に接合され、かつ、計測ポール10の上端部が、X軸およびY軸廻りの回転を自在、Z軸廻りの回転を拘束、材軸方向の変位を自在に、上部構造体110に接合された状態となっている。そのため、地震時等に上部構造体110と下部基礎120とが水平方向に相対変位した際に、計測ポール10がZ軸方向に対して傾く。該傾きに伴い発生する計測ポール10の材軸方向の変位については、下側受け部材20および上側受け部材30を構成する各棒状部材が計測ポール10に形成された各スリット内を移動することで対応できる。そして、傾斜計60により計測された計測ポール10の傾きを用いて、下部基礎120と上部構造体110との間のX軸方向およびY軸方向の相対変位を算出することができる。従って、本実施形態の変位計測装置100によれば、設置スペースが小さく、かつ、免震層SIに入ることなく遠隔からリアルタイムで変位データを取得・確認することができる変位計測装置を実現することができると共に、自在継手や滑り軸受等の精密機械部品を用いることなく、例えば角形鋼管や鋼板、棒鋼といった汎用構造部品を用いて、比較的簡易、軽量かつ安価な構成の変位計測装置を実現することができる。
【0058】
また、本実施形態の変位計測装置100は、さらに、下側接合部材40と上側接合部材50とを備える。下側接合部材40は、下側受け部材20を、第1の棒状部材21(または第2の棒状部材22)のZ軸方向、X軸方向およびY軸方向の軸廻りの回転を拘束しつつ、下部基礎120に固定する。上側接合部材50は、上側受け部材30を、第3の棒状部材31(または第4の棒状部材32)のZ軸方向、X軸方向およびY軸方向の軸廻りの回転を拘束しつつ、上部構造体110に固定する。そのため、本実施形態の変位計測装置100によれば、下部基礎120と上部構造体110との間のX軸方向およびY軸方向の相対変位を精度良く算出することができると共に、免震層SIへの変位計測装置100の設置の容易化を実現することができる。
【0059】
また、本実施形態の変位計測装置100では、初期状態における計測ポール10のZ軸方向に直交する断面は、2軸対称閉断面である。そのため、本実施形態の変位計測装置100によれば、下部基礎120と上部構造体110との間のX軸方向およびY軸方向の相対変位を精度良く算出することができる。
【0060】
また、本実施形態の変位計測装置100は、さらに、計測ポール10を下方向に付勢する付勢手段102を備える。そのため、本実施形態の変位計測装置100によれば、地震時等の際の計測ポール10の上下動を抑制することができ、変位計測装置100の破損の発生を抑制することができる。
【0061】
なお、受け部材間鉛直距離hは、上部構造体110と下部基礎120との間で想定される水平方向の相対変位量の1/2以上であることが好ましい。このような構成とすることにより、地震時等における計測ポール10の傾斜角を26.5度程度未満とすることができ、計測ポール10の上下端部に形成する各スリットの深さを0.12×h程度未満にすることができ、計測ポール10の構成を無理なく実現することができる。
【0062】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0063】
上記実施形態における建築物180や変位計測装置100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、計測ポール10として角形鋼管が用いられているが、計測ポール10として丸形鋼管等の他の材料が用いられてもよい。また、計測ポール10は、必ずしも中空管状である必要はなく、密実な棒状の部材であってもよい。
【0064】
上記実施形態では、変位計測装置100と制御装置150とが配線ケーブル152を介して接続されているが、傾斜計60にバッテリーを設け、かつ、傾斜計60から制御装置150へのデータ転送を無線通信回線を介して行うことにより、配線ケーブル152を省略してもよい。
【0065】
上記実施形態では、免震構造における下部基礎120と上部構造体110との間の水平2方向の相対変位を計測する変位計測装置100について説明したが、本明細書に開示される技術は、これに限られず、第1の構造体と第2の構造体との間の相対変位を計測する他の変位計測装置にも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0066】
10:計測ポール 11:第1のスリット 12:第2のスリット 13:第3のスリット 14:第4のスリット 20:下側受け部材 21:第1の棒状部材 22:第2の棒状部材 26:ボルト 30:上側受け部材 31:第3の棒状部材 32:第4の棒状部材 36:ボルト 40:下側接合部材 41:平板部 42:立ち上がり部 44:貫通孔 46:ストッパー部 50:上側接合部材 51:平板部 52:立ち上がり部 54:貫通孔 56:ストッパー部 60:傾斜計 100:変位計測装置 102:付勢手段 110:上部構造体 120:下部基礎 122:立ち上がり基礎 130:アイソレーター 140:ダンパー 150:制御装置 152:配線ケーブル 180:建築物 SI:免震層