(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083576
(43)【公開日】2022-06-06
(54)【発明の名称】押出成形機のフィルタ装置
(51)【国際特許分類】
B29C 48/694 20190101AFI20220530BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20220530BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20220530BHJP
【FI】
B29C48/694
B29C48/08
B29C48/305
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194976
(22)【出願日】2020-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和宏
【テーマコード(参考)】
4F207
【Fターム(参考)】
4F207AA32
4F207KA01
4F207KL38
4F207KL40
4F207KL59
(57)【要約】
【課題】 ポリアリールエーテルケトン樹脂含有の成形材料により樹脂シートを成形する場合に、フィルタとハウジングとの空隙に異物等が滞留するのを低減し、異物の少ない高品質の樹脂シートを成形可能な押出成形機のフィルタ装置を提供する。
【解決手段】 ポリアリールエーテルケトン樹脂含有の成形材料を溶融混練して押し出す溶融押出成形機と、溶融押出成形機からの成形材料を樹脂フィルムに成形するTダイスと、溶融押出成形機とTダイス間の連結管に嵌着されるフィルタ21と、フィルタ21を収容するハウジング27とを備え、ハウジング27内周面の中流部29と下流部30の間に、テーパ32を形成してフィルタ21に接近させる。フィルタ21の傾斜部26とハウジング27のテーパ32との空隙Vが非常に狭いので、ポリアリールエーテルケトン樹脂が滞留することが少なく、樹脂フィルム2の品質を損なうおそれを排除できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリアリールエーテルケトン樹脂含有の成形材料を溶融して押し出す押出成形機と、この押出成形機からの成形材料を樹脂シートに成形するダイスとを備え、押出成形機からダイスに流動する成形材料をろ過する押出成形機のフィルタ装置であって、
押出成形機とダイスの間に取り付けられるフィルタと、このフィルタを収容する中空のハウジングとを含み、このハウジングの内面における中流部と下流部との間に、テーパを形成してフィルタに接近させるようにしたことを特徴とする押出成形機のフィルタ装置。
【請求項2】
フィルタは、押出成形機とダイス間の連結管からの成形材料を導入する縮径上流部と、この縮径上流部に形成される拡径中流部と、この拡径中流部に形成される縮径下流部とを含み、拡径中流部と縮径下流部との間に傾斜部が形成される請求項1記載の押出成形機のフィルタ装置。
【請求項3】
ハウジングの内面は、押出成形機とダイス間の連結管からの成形材料を導入する縮径の上流部と、この上流部の下流に形成される拡径の中流部と、この中流部の下流に形成される縮径の下流部とを含み、中流部と下流部との間に、フィルタの傾斜部を包囲して近接するテーパが形成される請求項2記載の押出成形機のフィルタ装置。
【請求項4】
ハウジングの内面におけるテーパ/中流部の値が0.8~0.6である請求項3記載の押出成形機のフィルタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリールエーテルケトン樹脂含有の成形材料により樹脂シートを成形する場合に、押出成形機から流動する成形材料をろ過する押出成形機のフィルタ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来における押出成形機は、
図3に部分的に示すように、ポリアリールエーテルケトン樹脂含有の成形材料1を溶融混練する溶融押出成形機と、この溶融押出成形機からの成形材料1を樹脂フィルムに成形するTダイスとを備え、これら溶融押出成形機とTダイスとが連結管により接続されており、この連結管に、成形材料1をろ過するフィルタ装置20が装着されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
成形材料1のポリアリールエーテルケトン(PAEK)樹脂は、高機能を発揮する熱可塑性樹脂であり、耐熱性・高温特性、耐加水分解性、機械的強度、難燃性、耐溶剤性、耐薬品性、電気的特性等に優れ、医療、電気電子、配管等の用途に利用される。このポリアリールエーテルケトン樹脂は、重合時にオリゴマーや低分子成分が発生し、これらがゲル異物となることが少なくない。また、フィルタ装置20は、
図3に示すように、溶融押出成形機とTダイス間の連結管に装着されるフィルタ21と、このフィルタ21を収容するハウジング27Aとを備えて構成されている。
【0004】
フィルタ21は、連結管からの成形材料1を導入する先細りの縮径上流部22と、この縮径上流部22に連接される拡径中流部23と、この拡径中流部23に連接される先細りの縮径下流部24とを備えて形成されている。また、ハウジング27Aの内周面は、連結管からの成形材料1を導入する縮径の上流部28と、この上流部28の下流に連接される円筒形の拡径部33とを備え、この拡径部33とフィルタ21の拡径中流部23との間には、遊び用の空隙Vが大きく区画形成されている。
【0005】
上記において、成形材料1は、溶融押出成形機から連結管を経由してフィルタ装置20に流入し、このフィルタ装置20のフィルタ21によりポリアリールエーテルケトン樹脂のゲル異物が除去された後、連結管を通過してTダイス内に流入し、薄膜の樹脂フィルムに成形される。この際、成形材料1の一部は、フィルタ21とハウジング27Aとの間を流動し、フィルタ21の拡径中流部23の下流付近とハウジング27Aの拡径部33との大きな突き当りの空隙Vにポリアリールエーテルケトン樹脂が滞留することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2010‐510906号公報
【特許文献2】特開平06‐278191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来における押出成形機のフィルタ装置20は、以上のように構成され、フィルタ21の拡径中流部23の下流付近とハウジング27Aの拡径部33との大きな空隙Vにポリアリールエーテルケトン樹脂が滞留することがあるので、滞留したポリアリールエーテルケトン樹脂が劣化し、その結果、焼け等が同位置に連続して発生し、樹脂フィルムの品質を損なうおそれがある。この問題は、一般的な熱可塑性樹脂よりも溶融温度が高く高価なポリアリールエーテルケトン樹脂で薄い樹脂フィルムを製膜する場合に特に深刻となる。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたもので、ポリアリールエーテルケトン樹脂含有の成形材料により樹脂シートを成形する場合に、フィルタとハウジングとの空隙に異物等が滞留するのを低減し、異物の少ない高品質の樹脂シートを成形可能な押出成形機のフィルタ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては上記課題を解決するため、少なくともポリアリールエーテルケトン樹脂含有の成形材料を溶融して押し出す押出成形機と、この押出成形機からの成形材料を樹脂シートに成形するダイスとを備え、押出成形機からダイスに流動する成形材料をろ過する装置であって、
押出成形機とダイスの間に取り付けられるフィルタと、このフィルタを収容する中空のハウジングとを含み、このハウジングの内面における中流部と下流部との間に、テーパを形成してフィルタに接近させるようにしたことを特徴としている。
【0010】
なお、フィルタは、押出成形機とダイス間の連結管からの成形材料を導入する縮径上流部と、この縮径上流部に形成される拡径中流部と、この拡径中流部に形成される縮径下流部とを含み、拡径中流部と縮径下流部との間に傾斜部が形成されると良い。
【0011】
また、ハウジングの内面は、押出成形機とダイス間の連結管からの成形材料を導入する縮径の上流部と、この上流部の下流に形成される拡径の中流部と、この中流部の下流に形成される縮径の下流部とを含み、中流部と下流部との間に、フィルタの傾斜部を包囲して近接するテーパが形成されると良い。
また、ハウジングの内面におけるテーパ/中流部の値が0.8~0.6であることが好ましい。
【0012】
ここで、特許請求の範囲における成形材料には、ポリアリールエーテルケトン樹脂の他、必要に応じ、各種のフィラーが含まれる。樹脂シートには、厚い樹脂シートの他、薄い樹脂フィルムが含まれる。この樹脂シートは、透明、不透明、半透明のいずれでも良い。また、ダイスの下方には、樹脂フィルム用の冷却ロールを回転可能に支持させるとともに、この冷却ロールに対向接触可能な圧着ロールを回転可能に支持させ、これら冷却ロールと圧着ロールに挟み持たれた樹脂フィルムを巻取機に巻き取ることができる。ハウジングの内面の下流部は、フィルタの縮径下流部と略隙間なく嵌合することが好ましい。このハウジングは、連結管の軸方向等に複数に分割可能であると良い。
【0013】
本発明によれば、相対するフィルタとハウジング内面のテーパとの空隙が狭く、成形材料の樹脂や異物の滞留空間が減少するので、滞留空間の減少に伴い、樹脂フィルムの品質を損なうおそれを抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ポリアリールエーテルケトン樹脂含有の成形材料により樹脂シートを成形する場合、フィルタとハウジングとの空隙に異物等が滞留するのを低減することができるという効果がある。また、異物の少ない高品質の樹脂シートを成形することが可能になるという効果がある。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、ハウジング内面の中流部と下流部との間に、フィルタの傾斜部を包囲して近接するテーパを形成するので、フィルタの傾斜部にハウジングのテーパを接近させて異物滞留用の空隙を狭く区画することができ、この空隙に異物等が滞留するのを減少させることができる。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、ハウジングの内面におけるテーパ/中流部の値が0.8~0.6の範囲なので、フィルタとハウジングのテーパとの空隙にポリアリールエーテルケトン樹脂の異物等が滞留するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る押出成形機のフィルタ装置の実施形態を模式的に示す全体説明図である。
【
図2】本発明に係る押出成形機のフィルタ装置の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【
図3】本発明に係る押出成形機のフィルタ装置の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における押出成形機のフィルタ装置20は、
図1や
図2に示すように、ポリアリールエーテルケトン樹脂含有の成形材料1を溶融混練する溶融押出成形機10からTダイス13に流動する成形材料1をろ過する装置であり、フィルタ装置20のハウジング27における内周面の中流部29と下流部30との間に、テーパ32を形成してフィルタ21に接近させることにより、国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献する。
【0019】
成形材料1のポリアリールエーテルケトン(PAEK)樹脂は、アリーレン基、エーテル基、及びカルボニル基からなる熱可塑性の結晶性樹脂で、例えば特許5709878号公報や特許第5847522号公報、あるいは文献[株式会社旭リサーチセンター:先端用途で成長するスーパーエンプラ・PEEK(上)]等に記載された樹脂があげられ、融点が300℃~360℃であり、電気絶縁性、機械的性質、耐熱性、耐薬品性、耐放射線性、耐加水分解性、低吸水性、リサイクル性等に優れる。
【0020】
ポリアリールエーテルケトン樹脂の具体例としては、特に限定されるものではないが、例えばポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂等があげられ、ポリエーテルエーテルケトン樹脂とポリエーテルケトンケトン樹脂が最適である。ポリエーテルエーテルケトン樹脂の具体例としては、ビクトレックス社製の製品名:Victrex Powderシリーズ、Victrex Granulesシリーズ、ダイセル・エボニック社製の製品名:ベスタキープシリーズ、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製の製品名:キータスパイア PEEKシリーズがあげられる。また、ポリエーテルケトンケトン樹脂の具体的な製品としては、アルケマ社製の製品名:KEPSTANシリーズが該当する。
【0021】
ポリアリールエーテルケトン樹脂は、1種単独でも良いし、2種以上を混合して使用しても良く、共重合体でも良い。また、ポリアリールエーテルケトン樹脂は、通常、粉末、顆粒型、ペレット型等の成形加工に適した形態で使用される。ポリアリールエーテルケトン樹脂の製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば文献[株式会社旭リサーチセンター:先端用途で成長するスーパーエンプラ・PEEK(上)]に記載された製法が用いられる。
【0022】
成形材料1には、本発明の特性を損なわない範囲でポリアリールエーテルケトン樹脂の他、酸化防止剤、光安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、耐熱向上剤、難燃剤、無機化合物、有機化合物、樹脂改質剤等を選択的に添加することが可能である。
【0023】
溶融押出成形機10は、
図1や
図2に示すように、特に限定されるものではないが、例えば単軸押出成形機や二軸押出成形機等からなり、後部上方にホッパからなる材料投入口11が設置されており、この材料投入口11に投入された成形材料1をスクリューで溶融混練して押し出すよう機能する。溶融押出成形機10の前部には、成形材料1流出用の連結管12が水平に接続され、この連結管12には、成形材料1中のゲルや異物を除去するフィルタ装置20が交換可能に装着される。
【0024】
Tダイス13は、
図1や
図2に示すように、連結管12の先端部に装着されてフィルタ装置20の下流に位置し、溶融したポリアリールエーテルケトン樹脂製の薄い樹脂フィルム2をリップ口から高精度に連続して押し出すよう機能する。このTダイス13の下方には、樹脂フィルム2用の冷却ロール14が回転可能に軸支されるとともに、この冷却ロール14に摺接可能な圧着ロール15が回転可能に軸支されており、これら冷却ロール14と圧着ロール15に挟持された樹脂フィルム2が巻取機16の巻芯17に巻き取られる。
【0025】
冷却ロール14と圧着ロール15は、Tダイス13から押し出された樹脂フィルム2の厚さを1μm以上1000μm以下、好ましくは5μm以上750μm以下とするよう調整可能に対設される。冷却ロール14は、例えば金属ロールからなり、Tダイス13の下方に軸支されて押し出された高温の樹脂フィルム2を圧着ロール15との間に挟持し、圧着ロール15と共に樹脂フィルム2を短時間で冷却しながらその厚さを所定の範囲内に制御する。この冷却ロール14の温度調整方法や冷却方法としては、特に限定されるものではないが、例えば空気、水、オイル等の熱媒体による方法、あるいは電気ヒータや誘電加熱等の方法があげられる。
【0026】
圧着ロール15は、例えば表面が金属の金属弾性ロールが使用され、この金属弾性ロールが使用される場合には、表面が平滑性に優れる樹脂フィルム2の成形が可能となる。また、冷却ロール14及び圧着ロール15と巻取機16との間には、樹脂フィルム2にテンションを作用させる複数のテンションロール18が回転可能に軸支されるとともに、樹脂フィルム2の両側部を切断するスリット刃19が上下動可能に配設される。
【0027】
フィルタ装置20は、
図1や
図2に示すように、溶融押出成形機10の連結管12に嵌着されて溶融押出成形機10とTダイス13の間に介在されるフィルタ21と、このフィルタ21を遊嵌収容して保護する中空筒形のハウジング27とを備えた専用品に構成される。フィルタ21は、
図2に示すように、連結管12の上流からの成形材料1を導入する縮径上流部22と、この縮径上流部22に連接される拡径中流部23と、この拡径中流部23に連接される縮径下流部24と、この縮径下流部24に連接されてろ過された成形材料1を連結管12の下流に導出する縮径最下流部25とを備えた専用の筒形ろ過材や織金網等からなり、拡径中流部23と縮径下流部24との間に円錐形の傾斜部26が形成される。
【0028】
フィルタ21の縮径上流部22は、溶融押出成形機10方向に向かうにしたがい徐々に先細りになるよう形成され、溶融した成形材料1の流速を高める。これに対し、縮径最下流部25や傾斜部26は、Tダイス13方向に向かうにしたがい徐々に先細りになるよう形成される。
【0029】
ハウジング27は連結管12の軸方向に一対に分割され、この一対のハウジング27の相対向する開口部が相互に切り欠かれて嵌合されており、各ハウジング27がステンレス鋼(SUS)等により構成されてその開口部対向面に、締結用の螺子がそれぞれ螺刻される。
【0030】
ハウジング27の内周面は、フィルタ21の縮径上流部22を僅かな隙間を介し包囲して連結管12の上流からの成形材料(
図2の矢印参照)1を導入する縮径の上流部28と、この上流部28の下流に連接されてフィルタ21の拡径中流部23を僅かな隙間を介し包囲する拡径の中流部29と、この中流部29の下流に連接されてフィルタ21の縮径下流部24を包囲する縮径の下流部30と、この下流部30の下流に連接される縮径の最下流部31とを備え、中流部29と下流部30との間に、フィルタ21外周面の傾斜部26を包囲するスカート形のテーパ32が形成されており、このテーパ32がフィルタ21外周面の傾斜部26に近接して成形材料1のポリアリールエーテルケトン樹脂のゲル異物が滞留するのを抑制するよう機能する。
【0031】
ハウジング27の内周面における上流部28は、溶融押出成形機10方向に向かうにしたがい徐々に先細りになるよう断面略漏斗形に形成され、溶融した成形材料1の流速を高める。これに対し、縮径最下流部31やテーパ32は、Tダイス13方向に向かうにしたがい徐々に先細りになるよう形成される。また、ハウジング27の内周面におけるテーパ/中流部の値は、
図2に示すように、フィルタ21の傾斜部26とハウジング27のテーパ32との空隙Vにポリアリールエーテルケトン樹脂のゲル異物が滞留するのを抑制する観点から、従来の1よりも小さい0.8~0.6の範囲が好ましい。
【0032】
上記構成において、成形材料1は、溶融押出成形機10から連結管12を経由してフィルタ装置20に流入し、フィルタ21の縮径上流部22、拡径中流部23、傾斜部26、縮径下流部24、及び縮径最下流部25によりポリアリールエーテルケトン樹脂のゲル異物が除去された後、連結管12を通過してTダイス13内に流入し、帯形の薄い樹脂フィルム2に押出成形される。この際、成形材料1の一部は、フィルタ21とハウジング27との間の隙間を流動するが、フィルタ21の傾斜部26とハウジング27の傾斜したテーパ32との間が狭く小さいので、成形材料1のポリアリールエーテルケトン樹脂のゲル異物が滞留する箇所や時間が短く、滞留を大幅に抑制することができる。
【0033】
上記によれば、フィルタ21の傾斜部26とハウジング27のテーパ32との空隙Vが非常に狭いので、この空隙Vにポリアリールエーテルケトン樹脂のゲル異物が長時間大量に滞留するのを防止することができる。したがって、滞留空間の減少に基づき、ゲル異物で樹脂フィルム2の品質を損なうおそれを排除することができる。この効果は、溶融温度が高く高価なポリアリールエーテルケトン樹脂で薄膜の樹脂フィルム2を製膜する場合に実に有意義である。
【0034】
なお、上記実施形態では溶融押出成形機10の連結管12にフィルタ装置20を嵌着したが、連結管12に、Tダイス13の圧力変動を最小化するギアポンプを嵌着し、このギアポンプをフィルタ装置20とTダイス13の間に介在させても良い。また、冷却ロール14を一対の圧着ロール15により摺接可能に挟持するようにしても良い。また、フィルタ装置20のフィルタ21の全長を短縮し、ハウジング27の中流部29にフィルタ21の縮径上流部22と拡径中流部23を隙間を介して包囲させても良い。
【実施例0035】
以下、本発明に係る押出成形機のフィルタ装置の実施例を比較例と共に説明する。
〔実施例1〕
先ず、
図1に示す溶融押出成形機の材料投入口に用意した成形材料を投入して溶融混練した。成形材料は、ポリアリールエーテルケトン樹脂、具体的には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を選択した。また、溶融押出成形機の連結管には、
図2に示すテーパ付きのフィルタ装置を嵌着して溶融押出成形機とTダイスの間に介在させた。フィルタ装置のハウジングの内周面におけるテーパ/中流部の値は、測定したところ、0.8であった。
【0036】
次いで、溶融混練した成形材料のポリアリールエーテルケトン樹脂をTダイスから薄膜の樹脂フィルムに押出成形し、この樹脂フィルムを冷却ロールと圧着ロールとの間に挟持させて冷却し、その後、樹脂フィルムを巻取機の巻芯に巻き取った。この際、フィルタ装置のフィルタの傾斜部とハウジングのテーパとの空隙にポリアリールエーテルケトン樹脂のゲル異物が滞留する時間を計測したところ、滞留時間は1.8分であった。
【0037】
樹脂フィルムを製造したら、CCDカメラと光源を用いて1000mの樹脂フィルム中の異物を計測し、この計測に基づき、フィルタ装置の性能を検証・評価した。具体的な異物の計測方法としては、樹脂フィルム上に投影された面積0.8mm2以上の影(暗欠点)を異物と定義し、この異物の個数を計測して表1に記載した。
【0038】
〔比較例1〕
先ず、
図1に示す溶融押出成形機の材料投入口に用意した成形材料を投入して溶融混練した。成形材料は、ポリアリールエーテルケトン樹脂、具体的には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂とした。また、溶融押出成形機の連結管には、
図3に示す従来のテーパ無しのフィルタ装置を嵌着して溶融押出成形機とTダイスの間に介在させた。フィルタ装置のハウジングの内周面におけるテーパ/中流部の値は、測定したところ、1.0であった。
【0039】
次いで、溶融混練した成形材料のポリアリールエーテルケトン樹脂をTダイスから薄膜の樹脂フィルムに押出成形し、この樹脂フィルムを冷却ロールと圧着ロールとの間に挟持させて冷却し、その後、樹脂フィルムを巻取機の巻芯に巻き取った。この際、フィルタ装置のフィルタの傾斜部とハウジングのテーパとの空隙にポリアリールエーテルケトン樹脂のゲル異物が滞留する時間を計測したところ、滞留時間は4.5分であった。
【0040】
樹脂フィルムを製造したら、CCDカメラと光源を用いて1000mの樹脂フィルム中の異物を計測し、この計測に基づき、フィルタ装置の性能を検証・評価した。具体的な異物の計測方法は、実施例1と同様である。
【0041】
【0042】
〔評 価〕
実施例1の場合、フィルタ装置のハウジングの内周面にテーパが形成され、しかも、テーパ/中流部の値が0.8なので、樹脂フィルムの異物数が0.57と非常に少なかった。この異物数から、フィルタ装置が高性能であるのが証明され、異物の少ない高品質の樹脂フィルムを成形できるのが判明した。
これに対し、比較例1の場合、フィルタ装置のハウジングの内周面におけるテーパ/中流部の値が1.0なので、樹脂フィルムの異物数が12.50と非常に多く、フィルタ装置の性能に疑義が生じた。