(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083602
(43)【公開日】2022-06-06
(54)【発明の名称】靴底
(51)【国際特許分類】
A43B 13/14 20060101AFI20220530BHJP
【FI】
A43B13/14 B
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020195016
(22)【出願日】2020-11-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004433
【氏名又は名称】アサヒシューズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚本 裕二
(72)【発明者】
【氏名】上村 哲司
(72)【発明者】
【氏名】岡 謙祐
(72)【発明者】
【氏名】江西 浩一郎
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050BA56
4F050HA84
4F050JA30
(57)【要約】
【課題】軽度の糖尿病による足病変などで足の保護が求められる人や、足に障害のある人及び健常者でも少ない負担で歩行でき、かつあおり歩行を促進させて足または足趾における負担を軽減する、いわゆるフットケアを目的とした靴底を提供する。
【解決手段】靴底の接地面側において、足裏の第5中足骨から第1中足骨に相当する位置に、上面が第5趾側から第1趾側にかけて漸次肉薄になっている硬質部材を配置した。前記硬質部材は第5趾側から第1趾側の先端方向に向かい、第4中足骨の中間から第1中足骨の近位に向けて伸長しており、接地面側である下面を平坦とし、その幅を第5趾側から第1趾側にかけて漸次先細とした。また、前記硬質部材は前記靴底本体よりも硬質とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴底の接地面側において、足裏の第5中足骨から第1中足骨の間に相当する位置に、上面が第5趾側から第1趾側にかけて漸次肉薄となる硬質部材を配置したことを特徴とする靴底。
【請求項2】
前記硬質部材は、第5趾側から第1趾側の先端方向に向かい、第4中足骨から第1中足骨の近位に伸長することを特徴とする請求項1記載の靴底。
【請求項3】
前記硬質部材の下面は平坦とし、かつその幅は第5趾側から第1趾側にかけて漸次先細としたことを特徴とする請求項1乃至2記載の靴底。
【請求項4】
前記硬質部材は、靴底本体よりも硬質としたことを特徴とする請求項1乃至3記載の靴底。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は靴の靴底に関するもので、より詳細には健常者のみならず、軽度の糖尿病による足病変で足を保護することが求められる人でも正常なあおり歩行を促進させることで、より少ない負担で理想的な歩行動作を可能とし、足または足趾における負担を軽減する、いわゆるフットケアのための靴底に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歩行動作は個人によって違いが大きく、様々な歩行がみられるが、正常歩行として一般にあおり歩行が推奨される。これは、踵部外側から着地して長手方向外側を前方に荷重が移動し、次いで小趾球から母趾球に荷重が移行しつつ蹴り出しの推進力を高め、主に母趾の周辺を中心として蹴り出し、前進することを繰り返すものである。
【0003】
しかし、糖尿病などの疾病で足に神経障害、炎症、潰瘍が発生し、足に障害のある場合、前足部を踏み込んで蹴り出すまでの動作が困難な場合がある。
【0004】
そこで、従来よりあおり歩行を促進させる技術として、靴の短手方向に傾斜を施した中敷や中底または靴底が提示されており、また、靴の短手方向において外側を内側よりも硬質とした中底、中敷または靴底が複数提示されている。
【0005】
例えば、特開2006-247218は、履物本体の底部材のつま先部側と踵部側を肉薄とし、中足骨付近を肉厚にしたもので、踵部は靴の短手方向で内側から外側にかけて漸次肉薄にして、その傾斜角は舟状骨付近にかけて漸次緩やかになっており、中足骨付近で平坦になり、中足骨からつま先方向にかけて外側から内側にかけて漸次肉薄としたもので、この構成によりあおり歩行に即した体重移動を可能とした技術が開示されている(特許文献1)。
【0006】
また、実用新案第3041007号は、靴底をつま先部と主要部とで構成し、主要部を構成する3つの底面(第2~第4の底面)のうち、第3の底面を足の外側から内側にかけて漸次肉厚にしたことを特徴とする靴底で、これにより歩行時に荷重が内側へかかることを抑制し、あおり動作が可能となると開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-247218
【特許文献2】実用新案第3041007号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の発明は、あおり歩行を促すために底部の各箇所に傾斜が施されているが、接地面に傾斜が施されていることで母趾球、小趾球やMTP関節(中足趾節関節)にかかる負担を軽減するとは言い難く、前記のように足に障害を持つ人にとっては負担が大きくなる。
【0009】
また、特許文献2では、靴底の接地面のうち、前足部が上方に傾斜し、踵部は先端に向けて肉薄となっており、立位時に不安定になる。さらに、リスフラン関節からショパール関節にかかる部分は、接地面が平坦でその幅が外側から内側にかけて漸次肉厚となっているが、足に障害を持つ人にとって歩行の際に優先されるのは負荷の軽減であって、このように靴底の接地面に縦横に傾斜が施された場合、安定性が確保できず、負荷が軽減されるとは言い難い。
【0010】
そこで、本発明は、前記のように健常者のみならず軽度の糖尿病による足病変で足を保護することが求められる人が歩行する際に受ける負荷を軽減しつつ、あおり歩行を助長することで足または足趾に発生する怪我を予防する、いわゆるフットケアを目的とした靴底を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、靴底の接地面側において、足裏の第5中足骨から第1中足骨の間に相当する位置に上面が第5趾側から第1趾側にかけて漸次肉薄となる硬質部材を配置したことを特徴とする靴底である。
【0012】
硬質部材は歩行時に最も負荷がかかる母趾球、小趾球やMTP関節よりも後方に配置しているため、この部位に過剰な負荷がかかるのを防ぎ、糖尿病をはじめとする足に疾患を抱える人にも負荷が少なくてすむ。また、硬質部材の上面が第5趾側から第1趾側にかけて漸次肉薄としたことで荷重を第1趾側すなわち内胛側へ促し、立脚中期から蹴り出しにおけるあおり歩行動作を助長する役割を果たす。
【0013】
請求項2の発明では、硬質部材は第5趾側から第1趾側の先端方向に向かい、かつ第4中足骨の中間から第1中足骨の近位に向けて伸長していることを特徴とする靴底部材である。
【0014】
前記硬質部材は、前方へ蹴り出す際に踏み込む領域である足趾の趾球付近や、前進する際に屈曲するMTP関節を避けて伸長しているので、足裏にかかる負荷が軽減される。また、後方へ伸長する辺が第1趾側の先端方向へ伸長する辺よりも長いため、第1趾側へ屈曲しやすくなり、かつ荷重移動を促す範囲が広く、さらに前記上面の傾斜との相乗効果でより第1趾側への荷重移動を促す。
【0015】
請求項3の発明では、前記硬質部材は接地面側である下面を平坦とし、その幅を第5趾側から第1趾側にかけて漸次先細としたことを特徴とする。
【0016】
これにより、靴底の接地面全体が平坦に保たれているので安定性が確保され、足裏にかかる負担を軽減できる。また、硬質部材は幅方向の厚みが第5趾側から第1趾側にかけて漸次先細としたことで負荷がかかる面積を最小にしつつ、上面の傾斜によって荷重の移行を促すことができる。
【0017】
請求項4の発明では、前記硬質部材は靴底本体よりも硬質としたことを特徴とする靴底である。
【0018】
これにより、荷重が硬質部材を通過する勢いを屈曲、蹴り出しにつなげることができるため、少ない負担で歩行が可能となる。なお、硬質部材は歩行時の荷重が第5趾側から第1趾側へ移行する範囲の下限に位置しているため、踏付け領域やMP関節すなわち屈曲域に抵触することなく、少ない負担で通過することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は靴底の接地面側において、足裏の第5中足骨から第1中足骨の間に上面が第5趾側から第1趾側にかけて漸次肉薄となる硬質部材を配置することで、外側後方から伝わってきた荷重を内側へ移行させ、また、前記硬質部材は第4中足骨の中間から第1中足骨の近位へ向けて伸長し、接地面側を平坦にしたことで、踏付け領域やMTP関節の屈曲域での負担が増大する領域を避けた形状となり、歩行動作で足裏にかかる負荷の増加を回避している。そして、硬質部材を靴底本体よりも硬質にしたことで、荷重移動の勢いを効率よくあおり歩行につなげることができ、踏付けや屈曲、蹴り出しにかかる負担を軽減させる。これらは健常者のみならず、糖尿病をはじめとする足裏に疾患をもつ人にも適応している。また、理想的な荷重移動によるあおり歩行を促すことで、より少ない負担で理想的な歩行動作を可能とし、かつ安定したバランスのよい歩行感が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図4】踏付け領域及びMTP関節(屈曲域)を表した足裏及び靴底の平面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の靴底の実施形態について説明する。
図1は本発明の実施例に係る靴底の接地面側の平面図で、
図2は
図1で示した硬質部材のa-a断面図、
図3は靴底と足の骨格を重ね合わせた図、
図4は踏付け部及びMTP関節(中足趾節関節)の屈曲域を表した図、
図5は実施例2の平面図である。
【0022】
本発明の靴底はゴム、PVC、EVA、ポリウレタンなどの通常靴底材として用いられる材料で形成され、その硬度はアスカーC硬度で45度~60度、より好ましくは50度~55度としている。硬質部材2は
図1に示す位置に配置し、より詳細には
図3に示すように第5中足骨から第1中足骨の間に相当する位置の靴底の接地面側に配置し、第4中足骨の中間から第1中足骨の近位に向けて後方に伸長した形態である。
【0023】
より詳細には、
図4で示すようにMTP関節4と母趾球から小趾球にかかる範囲、すなわち踏付け部5よりも後方の位置に硬質部材2を配置し、その形状は第5中足骨の中間から第1趾の先端すなわちつま先方向へ伸長し、第4中足骨の中間34から第1中足骨31の近位32にかけて後方へ伸長している。荷重移動から屈曲、踏付けに至る一連の歩行動作の領域を回避した前記配置及び形状によって、歩行による負荷を軽減しつつ荷重移動を促すことが出来る。前記位置よりも前方へ配置した場合、踏み込みを行う母趾球から小趾球にかかる範囲やMTP関節に接してしまい、中足骨骨頭部にかかる負荷を高めてしまったり、踏付けから蹴り出しに至る動作の障害となり負荷の軽減にはならない。硬質部材を配置する位置は、歩行時の荷重移動に伴う足裏の負荷が比較的少なく、かつ荷重移動から踏み込み、屈曲、前進の各動作にかかる負荷を抑制できる位置である。
【0024】
図2で示すように、硬質部材2はその下面21、すなわち接地面側は平坦とし、上面22を第5趾側から第1趾側にかけて漸次肉薄としている。硬質部材2の高さ方向の厚みは第5趾側23を7mm~10mmとしており、これ以上高くするとクッション性が低下し、衝撃吸収性が確保できないおそれがあるため、より好ましくは7.5mmとした。第1趾側24の厚みは3mm以上で、第5趾側と同等の高さにならない程度とする。なお、3mm以下にした場合、歩行による摩擦で硬質部材が摩り減り、早期に本発明の効果が得られなくなるおそれがあるため、より好ましくは3.5mmとした。そして、硬質部材2の第5趾側には側壁25を設けたことで、荷重が過度に外側に移行する過回外を防ぎ、安定性を向上させる。
【0025】
前記硬質部材2はゴムで成形され、その硬度はショアA硬度で70度から80度とし、より好ましくは75度としている。靴底よりも硬質としたことで、歩行時の荷重移動、すなわち外側から伝わってきた荷重が内側へ移行する直前に硬質部材を乗り越え、乗り越えた後の勢いをもって踏み込みやMTP関節の屈曲、第1趾へと荷重が抜けるため、母趾球をはじめとする足裏の各部位にかかる負担が従来よりも少なくてすみ、屈曲モーメントを利用して前進するため効率的に踏み込みから蹴り出しを行える。
【0026】
本発明の靴底の作用は次の通りである。踵部で着地した際に発生する荷重が歩行動作にしたがって足裏の外側を移動し、リスフラン関節6の前方、第5中足骨33の中間付近に硬質部材2を配置しており、荷重が硬質部材に達すると、上面が第5趾側から第1趾側へ向けて漸次肉薄となる構成と、第5趾から第1趾のつま先方向へ伸長し、第4中足骨の中間から第1中足骨の近位にかけて後方に伸長している形状によって第1趾側への荷重移動を促し、硬質部材を乗り越えた勢いをもって踏み付け領域にて踏み込み、MTP関節の屈曲を経て第1趾を中心とした蹴り出し動作を行うことができる。
【0027】
図5は本発明の他の実施例を示す靴底の接地面の平面図である。硬質部材2と一体となったゴム部材30は靴底1の外周縁に沿って踵部前方から踏まず部を経て内胛側へ延設し、内胛外周縁に沿って踵部前方に至る形状となっている。ゴム部材30はショアA硬度で55~65度とし、靴底及び硬質部材とは異なる硬度で形成されている。これにより、歩行時の荷重移動の軌道上に位置するゴム部材30が足裏に負担をかけることなく荷重移動を促し、ゴム部材30を乗り越えるように移行して本発明の作用効果を発揮できる。また、硬質部材とゴム部材の間には切り込みを施すことで、円滑に歩行時の屈曲が可能となる。
【0028】
また、前記ゴム部材30の外胛縁には側壁を設けており、これにより着地から蹴り出しに至る過程において足が回外などの不安定な状態になることを防ぐことができ、踵部の後方から踏まず部にかけての中央部にゴム部材を配置しないことで靴の軽量性を維持できる。
【実施例0029】
EVA発砲体で構成し、硬度をアスカーC硬度で50度とした靴底1の接地面側において、足裏の第5中足骨33の中間から第1中足骨の近位32に相当する位置に、第5趾側の高さ方向の厚みを7.5mm、第1趾側の厚みを3.5mmとして、上面を第5趾側から第1趾側にかけて漸次肉薄になる硬質部材2を配置した。
【0030】
硬質部材2は第5趾側に側壁を設け、第5趾から第1趾つま先方向へ伸長し、第4中足骨34の中間から第1中足骨の近位32に向けて後方へ伸長し、その下面は平坦で、幅方向の厚みは第5趾側から第1趾側にかけて漸次先細とした。また、その素材はゴムとし、硬度はショアA硬度で75度とした。
本発明の靴底は、接地面側に配置した硬質部材が歩行時の荷重移動を促し、また荷重が硬質部材を乗り越える勢いを利用して踏み込みから屈曲、蹴り出しを行うため、糖尿病をはじめ足部に疾患または障害を持つ人や足を保護することが求められる人及び健常者の足の負担を軽減させつつ、正常なあおり歩行を促進することができ、足または足趾の負荷を低減する働きがあり、フットケアのための靴底機能として有用である。また、この機能は特定の年齢層や靴種に限らず、子供から高齢者まで幅広く使用できる。