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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083637
(43)【公開日】2022-06-06
(54)【発明の名称】回転工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 13/54 20060101AFI20220530BHJP
【FI】
B25B13/54 A
B25B13/54 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020195069
(22)【出願日】2020-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000161909
【氏名又は名称】京都機械工具株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 朋也
(72)【発明者】
【氏名】寺谷 大樹
(57)【要約】
【課題】多角調整穴を備えた締結部材を回転操作して締結部材の回転位置を調整する回転工具において、多角調整穴に対して回転工具が傾いて係合したとしても、その傾き角度ができるだけ大きくならないようにして、スムーズ且つ確実に締結部材の回転位置を調整することができる回転工具を提供する。
【解決手段】本実施形態の長尺のビット部材1の場合、中間部13の軸径d3を、ボールポイント先端部12の軸径寸法w2よりも小さく細くすることで、この傾き角度θが大きくならないようにしている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に設定した多角調整穴を備えた締結部材を、外部から回転操作することで、多角調整穴を備えた締結部材の回転位置を調整する回転工具であって、
前記回転工具は、締結部材の回転位置を調整する調整作業時に、外部に位置する操作基部と、
内部に位置して前記締結部材の多角調整穴に係合するボールポイント先端部と、
前記操作基部と前記ボールポイント先端部との間に設けられ、境界部材の透孔等を通過する長尺の軸状部と、を備えており、
前記長尺の軸状部は、前記ボールポイント先端部の軸径寸法よりも細く形成された
ことを特徴とする回転工具。
【請求項2】
前記長尺の軸状部が円形断面の丸軸で構成された
ことを特徴とする請求項1記載の回転工具。
【請求項3】
前記ボールポイント先端部の対面寸法と、前記長尺の軸状部の直径寸法とが同じである
ことを特徴とする請求項2記載の回転工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結部材等を回転させて締結部材の回転位置を調整する回転工具に関する。特に、六角形状の調整穴(以下、六角調整穴)や六角星型の調整穴(以下、六星調整穴)等の多角形の調整穴(以下、多角調整穴)を備えた締結部材の回転位置を調整する回転工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、締結部材として、プラスマイナスの一般的なネジ穴を備えた締結部材以外に、六角調整穴や六星調整穴等の多角調整穴を備えた締結部材が知られている。
【0003】
こうした多角調整穴を備えた締結部材は、プラスマイナスの一般的なネジ穴の締結部材よりも、係合する面積が多いことから、ドライバーの刃先がネジの頭から使用者側に押し出されて、ネジの頭から外れるいわゆる「カムアウト現象」が生じにくいため、近年、ヨーロッパ製の自動車やオートバイなどに数多く採用されている。
【0004】
もっとも、こうした多角調整穴の締結部材の場合、スクリュー(ボルトネジ)の回転軸と、回転工具の回転軸が一致していないと、両者を係合させて回転操作することができない。このため、これらの回転軸が傾いていても両者を係合させることができる工具が下記特許文献1で提案されている。
【0005】
この特許文献1では、回転工具である六角棒レンチの先端部近傍にクビレを形成して、いわゆる「ボールポイント」と呼ばれる六角球状の係合部を設けて、六角調整穴に六角棒レンチが傾いて係合しても、回転操作できるようにした回転工具が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭55-037108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ボールポイントを設けた六角棒レンチ等の回転工具を利用して、回転位置を調整する場合には、プラスマイナスの刃先部を持つ回転工具では生じない新たな問題が生じる。それは、仮に多角調整穴に回転工具を傾いて係合させて、回転操作をすることができたとしても、その傾き角度が大きくなってしまうと、回転位置の調整作業が困難になってしまう問題である。
【0008】
例えば、ヘッドライトの光軸を調整するエーミングスクリューを回転させて行う光軸調整においては、エーミングスクリューの回転角度(回転量)を細かく変えて光軸調整を行うようにする必要があるが、回転工具の傾きが大きくなると、多角調整穴とボールポイントとの係合関係が不安定となり、スムーズな回転操作が困難になるという問題がある。
【0009】
また、回転トルクが必要な部位において、回転工具の傾きが大きくなると、多角調整穴とボールポイントとの係合が浅くなり、そのまま回転操作をすると、ボールポイントが多角調整穴をナメてしまい、回転トルクが十分に伝えられないという問題もある。
【0010】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたもので、その目的は、多角調整穴を備えた締結部材を回転操作して締結部材の回転位置を調整する回転工具において、多角調整穴に対して回転工具が傾いて係合したとしても、その傾き角度ができるだけ大きくならないようにして、スムーズ且つ確実に締結部材の回転位置を調整することができる回転工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
その目的を達成するために、この発明では、六角調整穴や六星調整穴等の多角調整穴を備えた締結部材の回転位置を調整する回転工具において、回転位置を調整する調整作業時に、操作基部が外部に位置して、先端部が内部の締結部材の多角調整穴に係合するボールポイントで構成されて、中間部が車体等の境界部材の透孔等を通過する長尺の軸状部材で構成されており、該長尺の軸状部材は、前記ボールポイントの軸径寸法よりも細く形成されている構造を採用している。
【0012】
具体的に、第1の発明では、内部に設定した多角調整穴を備えた締結部材を、外部から回転操作することで、多角調整穴を備えた締結部材の回転位置を調整する回転工具であって、前記回転工具は、締結部材の回転位置を調整する調整作業時に、外部に位置する操作基部と、内部に位置して前記締結部材の多角調整穴に係合するボールポイント先端部と、前記操作基部と前記ボールポイント先端部との間に設けられ、境界部材の透孔等を通過する長尺の軸状部と、を備えており、前記長尺の軸状部は、前記ボールポイント先端部の軸径寸法よりも細く形成されたことを特徴とするものである。
【0013】
この構成によれば、回転工具の長尺の軸状部は、ボールポイント先端部の軸径寸法よりも細く形成されているため、境界部材の透孔等を通過させた際に、透穴の径寸法が小さくても、長尺の軸状部を、できるだけ立てた状態(傾きを抑える方向に移動させた状態)にすることができ、この状態で、多角調整穴にボールポイント先端部を係合させて、回転操作をすることができる。
【0014】
このため、回転工具のボールポイント先端部が、多角調整穴の締結部材の回転軸に対して、傾斜して係合する際に、できるだけその傾き角度を抑えた状態で、回転工具を係合させることができるため、多角調整穴の締結部材の回転位置の調整作業をスムーズ且つ確実に行うことができる。
【0015】
すなわち、例えば、光軸調整において必要なエーミングスクリューの細かい回転角度(回転量)の調整を、傾き角度を小さくすることで、多角調整穴とボールポイント先端部との係合関係が安定して、スムーズに回転操作を行うことができるのである。
【0016】
また、大きな回転トルクが必要な場合に、回転工具の傾き角度が小さいため、多角調整穴とボールポイント先端部との係合関係を比較的深くできるため、ボールポイント先端部が多角調整穴をナメてしまうことも防ぐことができ、回転トルクを確実に伝達することができるのである。
【0017】
なお、ここで、「多角調整穴」とは、六角形状の調整穴や六角星型の調整穴等、多角形の調整穴のことを意味する言葉である。
【0018】
また、ここで「軸径寸法」とは、ボールポイント先端部の最も大きい対角や対山の距離を示す「対角寸法」の値と、ボールポイント先端部の最も小さい対面や対谷の距離を示す「対面寸法」の値との平均値を意味する言葉である。
【0019】
また、長尺の軸状部は、ボールポイント先端部の軸径寸法よりも細く形成されていれば、特に断面形状については限定されず、三角形、四角形、五角形、六角形、さらには七角形、八角形、星形であってもよい。
【0020】
第2の発明では、前記長尺の軸状部が円形断面の丸軸で構成されたことを特徴とするものである。
【0021】
この構成によれば、長尺の軸状部が円形断面の丸軸で構成されたことで、境界部材の透孔等を通過させて回転操作をする際に、軸状部に「角」がないので、回転工具を回転操作する際に、角が透孔に当たって邪魔にならず、スムーズに回転操作することができる。また、角による境界部材の通孔等側が削れてしまうことを防ぐことができる。
【0022】
よって、回転工具での締結部材の回転位置の調整作業を、よりスムーズに行うことができ、細かい回転操作も行うことができ、また、境界部材の透孔等が傷つくことも防ぐことができる。
【0023】
第3の発明では、前記ボールポイント先端部の対面寸法と、前記長尺の軸状部の直径寸法とが同じであることを特徴とするものである。
【0024】
この構成によれば、ボールポイント先端部の対面寸法と長尺の軸状部の直径寸法が同じであることで、回転工具での締結部材の回転位置の調整作業の終了後、回転工具を車外に引き抜く際に、ボールポイント先端部が境界部材の透孔に引っ掛かり難くできる。
【0025】
すなわち、長尺の軸状部の直径寸法が小さくて細過ぎた場合には、ボールポイント先端部が相対的に大きくなってしまうため、回転工具を外部に引き抜く際に、ボールポイント先端部が境界部材の透孔に引っ掛かてしまうのである。これに対して、ボールポイント先端部の対面寸法と長尺の軸状部の直径寸法を同じにすることで、ボールポイント先端部が境界部材の透孔に引っ掛かることなく、スムーズに引き抜くことができるのである。
【0026】
このため、回転工具の長尺の軸状部を細くしたとしても、回転工具での締結部材の回転位置の調整作業をスムーズに行うことができる。
【0027】
よって、回転工具での締結部材の回転位置の調整作業を行う際に、さらにスムーズに行うことができる。
【発明の効果】
【0028】
以上、説明したように、本発明によれば、回転工具のボールポイント先端部が、多角調整穴の締結部材の回転軸に対して、傾斜して係合する際に、できるだけその傾き角度を抑えた状態で、回転工具を係合させることができるため、多角調整穴の締結部材の回転位置の調整作業をスムーズ且つ確実に行うことができる。
【0029】
よって、多角調整穴を備えた締結部材を回転操作して締結部材の回転位置を調整する回転工具において、多角調整穴に対して回転工具が傾いて係合したとしても、その傾き角度ができるだけ大きくならないようにして、スムーズ且つ確実に締結部材の回転位置を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施形態1に係る回転工具の全体側面図である。
図2図1のA部の拡大側面図である。
図3図1のA部の拡大正面図である。
図4図1のA部の位相を30°回転させた拡大側面図である。
図5】回転工具のビット部材を車体の透孔に通した状態を示す一部断面の平面図である。
図6】光軸調整機構の六角調整穴を車体の透孔も含めて車外位置から確認した平面図である。
図7】本実施形態に係る回転工具が、透孔を通じて六角調整穴に係合した状態を説明する説明断面図である。
図8図2に対応する実施形態2に係る拡大側面図である。
図9図3に対応する実施形態2に係る拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0032】
(実施形態1)
本発明の実施形態1の回転工具の構造について、図1図4を使って説明する。
【0033】
図1に示すように、本実施形態の回転工具Tは、長尺のビット部材1と、このビット部材1に装着されるハンドル部材2とで構成される。
【0034】
まず、ハンドル部材2は、周知の球型ハンドルであり、簡単に説明する。このハンドル部材2は、略球型の把持部21と、ビット部材1を装着するチャック部22と、チャック部の内部に設けられた図示しないラチェット機構と、から構成されている。
【0035】
このハンドル部材2は、ラチェット機構が内蔵されているため、ビット部材1を装着して回転操作を行う際には、ハンドル部材2を握り換えなくても、ビット部材1を回転操作することができる。このため、作業者は、回転操作の作業を容易に行うことができる。
【0036】
また、図示しないが、チャック部22等に目盛り等の目印を設けることで、例えば、ヘッドライトの光軸調整作業を行う際には、作業者が、光軸の調整量や、調整方向(+方向、-方向の回転方向)等を確認することもできる。
【0037】
そして、このハンドル部材2は、チャック部22によってビット部材1を取り外すことで、異なるビット部材を装着することができる。一方、ビット部材1においても、ハンドル部材2から取り外すことができるため、他のハンドル部材や他の回転伝達操作部材に付け替えることができる。
【0038】
次に、ビット部材1について説明する。このビット部材1は、合金鋼で形成されており、ハンドル部材2に装着される操作基部11と、例えば、ヘッドライトの光軸調整機構に係合するボールポイント先端部12と、この操作基部11と先端部12との間に設けられる中間部13と、からなる長尺棒状の軸状体で構成している。
【0039】
前述の操作基部11は、六角柱状の軸部で構成されており、基端部11a側には円周方向に延びるスリット溝11bを形成している。このスリット溝11bを形成することで、操作基部11をハンドル部材2のチャック部22に装着固定することができる。
【0040】
前述の中間部13は、円柱状の軸部で構成されている。この中間部13の軸径d3は、操作基部11よりも細く、また先端部12の軸径寸法w2よりも細く小径に設定されている。
【0041】
例えば、この軸径d3を6mmに設定することが考えられる。このように中間部13の軸径d3を先端部12の軸径寸法w2よりも小径で細くすることで、後述するように、例えば、ヘッドライトの光軸調整作業を行う場合には、確実にスムーズに行うことができ、光軸調整作業の作業性を高めることができる。
【0042】
前述のボールポイント先端部12は、図1のA部で示すように、六角球状の係合部として、いわゆる「ボールポイント」で構成されている。
【0043】
このボールポイント先端部12の詳細構造は、図2図4に示すように、外周端12a…が正六角形となるような六角球体で構成されている。すなわち、根元にクビレ部12bを形成して、周囲の6つの面が、それぞれ、なだらかに膨らんだ円弧状曲面部12c…として構成されている。そしてその先端には、正六角形の先端面12eを有している。
【0044】
例えば、ボールポイント先端部12の各種寸法は、対角寸法(対角の外周端の距離)w2aを6.81mmに設定し、対面寸法(対面の距離)w2bを6mmに設定し、この両者の平均値である軸径寸法w2(図1参照)を6.405mmに設定することが考えられる。また、中央の円弧状球面12cの半球寸法rを3mmに設定して、クビレ部の寸法kを4.9mmに設定することが考えられる。
【0045】
なお、図2において、点線で描いた線Fは、六角棒をそのまま生かして、ボールポイント先端部12の外周端12aと同じ対角寸法で、六角棒レンチを構成した場合の形状である。仮に、このように、六角棒レンチで構成した場合、中間部の対角寸法Fd3(例えば6.81mm)は、本実施形態の中間部13の軸径d3(例えば6mm)よりも大きく形成されることになる。
【0046】
このビット部材1の成形方法は、まず、合金鋼の金属素材を、正六角形穴を有するダイスを利用して引き抜き加工で六角棒を成形する。その後、この六角棒を切削加工することで、操作基部11とボールポイント先端部12と中間部13を成形する。具体的に、切削加工を行う部位は、操作基部11のスリット溝11bと、ボールポイント先端部12のクビレ部12bと、円弧状曲面部12c…と、中間部13の全域である。
【0047】
このように、この引き抜き加工で成形した六角棒を基にして、操作基部11やボールポイント先端部12の角部(12a…)を形成していることで、各角部(12a…)が加工硬化されることになり、回転トルクが作用する操作基部11やボールポイント先端部13の剛性を高めることができる。
【0048】
なお、本実施形態では、ハンドル部材2とビット部材1とを別部材で構成したが、もちろんハンドル部材2とビット部材1を一体に構成して、一般的なドライバーのように、軸部と把持部とからなる工具として、回転工具Tを構成しても良い。
【0049】
次に、本実施形態の回転工具Tを使って行う、締結部材の回転位置の調整作業の一つである、ヘッドライトRの光軸調整作業について説明する。
【0050】
図5に示すように、車両内側の所定箇所に設置されたヘッドライトRの背面には、光軸調整を行う光軸調整機構Cが設けられている。具体的には、ヘッドライトRを構成するライトケーシングR1の背面に、図示しないリフレクターの揺動中心となるピボットC1と、その側方に位置する左右調整用エーミングスクリューC2と、その下方に位置する上下調整用エーミングスクリューC3とが設けられている。
【0051】
このうち、左右調整用エーミングスクリューC2と上下調整用エーミングスクリューC3に対して、本実施形態の回転工具Tを用いて回転操作を行うことで、リフレクターを動かしてヘッドライトRの光軸を調整する。なお、R2は、ヘッドライトRの主前照灯バルブである。
【0052】
左右調整用エーミングスクリューC2等の光軸調整機構Cは、車両内部の狭い位置、具体的には、エンジンルーム(図示せず)内に設置されている。このため、作業者は、車両外部から、この上下調整用エーミングスクリューC2等に対して、長尺のビット部材1を使ってアクセスする。
【0053】
すなわち、作業者は、長尺のビット部材1を、外部である車両外部から、境界部材である車体Bに設けた透孔Hを介して、内部である車両内部に侵入させて、その先端のボールポイント先端部12を、左右調整用エーミングスクリューC2等に係合させるように、差し込むのである。
【0054】
このように、長尺のビット部材1を差し込むことにより、ビット部材1の操作基部11は、車両外部の操作位置に位置して、中間部13は、境界部材である車体Bに設けた透孔Hを貫通した位置に位置して、ボールポイント先端部12は、車両内部の左右調整用エーミングスクリューC2等に係合した位置に位置することになる。
【0055】
そして、この長尺のビット部材1の中間部13の軸径d3(図1参照)が、前述のように細く、小径に形成されているため、この光軸調整作業の作業性を高めることができる。
【0056】
この点について、図6図7を使って説明する。
【0057】
図6に示すように、車両外部の上方から見ると、車体B(シュラウドアッパメンバ等)に設けた透孔Hに対して、光軸調整機構の左右調整用エーミングスクリューC2は、製造誤差等により、どうしても透孔Hの中心位置からズレることが多い。この時の左右調整用エーミングスクリューC2の操作部は、左右調整用エーミングスクリューC2の頭部に設けた六角形状の凹部で構成された六角調整穴30で構成される。なお、六角調整穴30の底部にはプラスドライバーでも操作できるように十字凹部31が形成されている。
【0058】
この六角調整穴30に対して、長尺のビット部材1のボールポイント先端部12を係合させることで、回転操作を行う必要があるが、図7に示すように、六角調整穴30のスクリュー32の回転軸O3と長尺のビット部材1の回転軸O1とを傾けた状態で、六角調整穴30にボールポイント先端部12を係合させることになる。
【0059】
このように、長尺のビット部材1を傾けた状態でも六角調整穴30に係合させることができるのは、クビレ部12bがあるボールポイント形状で、ボールポイント先端部12が構成されているためである。
【0060】
もっとも、この傾き角度θが大きくなると、ボールポイント先端部12と六角調整穴30との係合関係が浅く不安定になり、細かい回転操作等ができなくなる。また、大きな回転トルクも伝達しにくくなり、最悪の場合、ボールポイント先端部12が六角調整穴30をナメる場合もある。
【0061】
そこで、本実施形態の長尺のビット部材1の場合、中間部13の軸径d3を、ボールポイント先端部12の軸径寸法w2よりも小さく細くすることで、この傾き角度θが大きくならないようにしている。
【0062】
すなわち、仮に、中間部13の軸径を、図7で点線でFに示したように、六角棒をそのまま生かして、ボールポイント先端部12の外周端と同じ対角寸法Fd3とした場合には、車体Bの透孔HのZ部分で干渉が生じるため、必然的に、二点鎖線に示すように、長尺のビット部材1´を少し傾けて、ボールポイント先端部12を六角調整穴30に係合させることになる。これに対して、本実施形態では、中間部13の軸径d3を、ボールポイント先端部12の軸径寸法w2よりも小さく細くすることで、透孔HのZ部分での干渉を避けつつも、傾き角度θを小さくすることができるのである。
【0063】
よって、本実施形態の回転工具Tによると、長尺のビット部材1の傾き角度θをさほど大きくすることなく、六角調整穴30にボールポイント先端部12を係合させることができる。
【0064】
また、この長尺のビット部材1の中間部13は円形の丸軸となっているが、この円形の丸軸となっていることで、光軸調整作業の際に、回転操作を行う場合に、車体Bの透孔Hと干渉することがなく、スムーズに回転操作を行うことができる。
【0065】
すなわち、仮に六角棒のままで、中間部13に角があった場合には、その角と透孔Hとが干渉して、長尺のビット部材1の細かい回転操作を行うことが困難になるが、中間部13が円形の丸軸なので、スムーズに回転操作を行うことができるのである。
【0066】
また、角と透孔Hが干渉すると、透孔Hを削ってしまうことになり、車両内部に、その粉が入り込むおそれが生じるが、長尺のビット部材1の中間部13が円形の丸軸であれば、こうした問題も生じない。
【0067】
以上のように、本実施形態では、内部に設定した六角調整穴30を備えた締結部材、すなわちエーミングスクリューC2、C3を、外部から回転操作することで、六角調整穴30を備えたエーミングスクリューC2、C3を調整する回転工具Tであって、この回転工具Tは、エーミングスクリューC2、C3を調整する調整作業時に、外部に位置する操作基部11と、内部に位置してエーミングスクリューC2、C3の六角調整穴30に係合するボールポイント先端部12と、操作基部11とボールポイント先端部12との間に設けられ、車体Bの透孔Hを通過する長尺の中間部13と、を備えており、この長尺の中間部13は、ボールポイント先端部12の軸径寸法w2よりも細く形成されている。
【0068】
これにより、車体Bの透孔Hを通過させた際に、透穴Hの径寸法が小さくても、長尺の中間部13を、できるだけ立てた状態(傾きを抑える方向に移動させた状態)にすることができ、この状態で、六角調整穴30にボールポイント先端部12を係合させて、回転操作をすることができる。
【0069】
このため、回転工具Tのボールポイント先端部12が、六角調整穴30の回転軸O3に対して、傾斜して係合する際に、できるだけその傾き角度θを抑えた状態で、回転工具Tを係合させることができるため、エーミングスクリューC2、C3の回転位置の調整作業をスムーズ且つ確実に行うことができる。
【0070】
すなわち、エーミングスクリューC2、C3の細かい回転角度(回転量)の調整を、傾き角度を小さくすることで、六角調整穴30とボールポイント先端部12との係合関係が安定して、スムーズに回転操作を行うことができるのである。
【0071】
また、大きな回転トルクが必要な場合に、回転工具Tの傾き角度θが小さいため、六角調整穴30とボールポイント先端部12との係合関係を比較的深くできるため、ボールポイント先端部12が六角調整穴30をナメてしまうことも防ぐことができ、回転トルクを確実に伝達することができるのである。
【0072】
よって、六角調整穴30を備えたエーミングスクリューC2、C3を回転操作してエーミングスクリューC2、C3の回転位置を調整する回転工具Tにおいて、六角調整穴30に対して回転工具Tが傾いて係合したとしても、その傾き角度θができるだけ大きくならないようにして、スムーズ且つ確実にエーミングスクリューC2、C3の回転位置を調整することができる。
【0073】
また、本実施形態では、長尺の中間部13が円形断面の丸軸で構成されている。
【0074】
このため、車体Bの透孔H等を通過させて回転操作をする際に、中間部13に「角」がないので、回転工具Tを回転操作する際に、角が透孔Hに当たって邪魔にならず、スムーズに回転操作することができる。また、車体Bの通孔H側に角が当たることで、車体Bの透孔Hが削れて、削れた鉄粉等が車両内部に入り込むことを防ぐこともできる。
【0075】
よって、回転工具TでのエーミングスクリューC2、C3の回転位置の調整作業を、よりスムーズに行うことができ、細かい回転操作も行うことができ、また、車体Bの透孔Hが傷つくことも防ぐことができる。
【0076】
また、本実施形態では、ボールポイント先端部12の対面寸法w2bと、長尺の中間部13の直径d3とが同じである。
【0077】
これにより、回転工具TでのエーミングスクリューC2、C3の回転位置の調整作業の終了後、回転工具Tを車外に引き抜く際に、ボールポイント先端部12が車体Bの透孔Hに引っ掛かり難くできる。
【0078】
すなわち、長尺の中間部13の直径d3が小さくて細過ぎた場合には、ボールポイント先端部12が相対的に大きくなってしまうため、回転工具Tを外部に引き抜く際に、ボールポイント先端部12が車体Bの透孔Hに引っ掛かてしまうのである。これに対して、ボールポイント先端部12の対面寸法w2bと長尺の中間部13の直径d3を同じにすることで、ボールポイント先端部12が車体Bの透孔Hに引っ掛かることなく、スムーズに引き抜くことができるのである。
【0079】
このため、回転工具Tの長尺の中間部13を細くしたとしても、回転工具TでのエーミングスクリューC2、C3の回転位置の調整作業をスムーズに行うことができる。
【0080】
よって、回転工具TでのエーミングスクリューC2、C3の回転位置の調整作業を行う際に、さらにスムーズに行うことができる。
【0081】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2の回転工具の構造について、図8図9を使って説明する。なお、その他の構造については、実施形態1と同様であるため、詳細な説明は行わない。
【0082】
この実施形態2の回転工具Tは、いわゆる「トルクス」(登録商標)といわれる六星調整穴(図示せず)に対して係合するボールポイント先端部112を有する回転工具である。
【0083】
このボールポイント先端部112の詳細構造は、外周の山112a…が正六星形となるような六星状の球体で構成されている。実施形態1と同様に、根元にクビレ部112bを形成して、周囲の6つの山112aが、それぞれなだらかに膨らんだ円弧状稜線(山)112a…として構成されている。そして各円弧状稜線(山)112a…の間には、同様になだらかに凹んだ6つの円弧状谷部112cが形成されている。そして、これらの先端には、正六角形の先端面112eが設けられている。
【0084】
例えば、ボールポイント先端部112の各種寸法は、対角寸法(対山の距離)w4aを7.1mmに設定し、対面寸法(対谷の距離)w4bを5.6mmに設定し、この両者の平均値である軸径寸法w4を6.35mmに設定することが考えられる。
【0085】
なお、図8において、点線で描いた線F1は、六星形状をそのまま生かして、ボールポイント先端部112の外周の山112aと同じ対角寸法で、六星状棒レンチを構成した場合の形状である。仮に、このように、六星状棒レンチで構成した場合、中間部の対角寸法F1d5(例えば7.1mm)は、本実施形態の中間部13の軸径d5(例えば6mm)よりも大きく形成されることになる。
【0086】
このように、本実施形態でも、中間部13の軸径d5(6mm)を、ボールポイント先端部112の軸径寸法w4(6.35mm)よりも、細く小さいものと構成することで、実施形態1と同様の作用効果を奏することができる。
【0087】
すなわち、車体Bの透孔Hを通過させた際に、透穴Hの径寸法が小さくても、長尺の中間部113を、できるだけ立てた状態(傾きを抑える方向に移動させた状態)にすることができ、この状態で、六星調整穴にボールポイント先端部112を係合させて、回転操作をすることができるのである。
【0088】
このため、回転工具Tのボールポイント先端部112が、六星調整穴の回転軸に対して、傾斜して係合する際に、できるだけその傾き角度を抑えた状態で、回転工具Tを係合させることができるため、エーミングスクリューC2、C3の回転位置の調整作業をスムーズ且つ確実に行うことができる。
【0089】
よって、六星調整穴を備えたエーミングスクリューC2、C3を回転操作してエーミングスクリューC2、C3の回転位置を調整する回転工具Tにおいて、六星調整穴に対して回転工具Tが傾いて係合したとしても、その傾き角度ができるだけ大きくならないようにして、スムーズ且つ確実にエーミングスクリューC2、C3の回転位置を調整することができる。
【0090】
なお、実施形態1、実施形態2は、いずれもヘッドライトRの光軸調整機構CのエーミングスクリューC2、C3の回転位置の調整を行うものを前提に説明したが、本発明は、多角調整穴を備えた締結部材を回転操作して、締結部材の回転位置を調整するものであれば、特に限定されない。
【0091】
例えば、自動車のエンジンルームの内部に設置される締結部材を回転操作するものや、大型家具の内部に設置される締結部材を回転操作するものや、オートバイのカウル内部に設置されるエンジンの締結部材を回転操作するもの等であっても良い。
【0092】
(他の実施形態)
以上、実施形態1、実施形態2で本発明を説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0093】
例えば、長尺の中間部13は、ボールポイント先端部12の軸径寸法w2よりも細く形成されていれば、特に断面形状については限定されず、三角形、四角形、五角形、六角形、さらには七角形、八角形であってもよい。
【0094】
さらに、操作基部についても、操作力が伝達される機能があれば、特に形状や大きさが限定されるものでもない。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上説明したように、本発明にかかる回転工具は、多角調整穴を備えた締結部材の回転位置を調整する回転工具において有用である。
【符号の説明】
【0096】
T…回転工具
1…ビット部材
2…ハンドル部材
11…操作基部
12,112…ボールポイント先端部
13,113…中間部(軸状部)
d3,d5…中間部の軸径
w2,w4…ボールポイント先端部の軸径寸法
R…ヘッドライト
B…車体(境界部材)
C…光軸調整機構
C1…ピボット
C2…左右調整用エーミングスクリュー
C3…上下調整用エーミングスクリュー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9