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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083833
(43)【公開日】2022-06-06
(54)【発明の名称】不純物除去方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 9/10 20060101AFI20220530BHJP
   C22B 21/06 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
C22B9/10 102
C22B21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020195395
(22)【出願日】2020-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】小森 康平
(72)【発明者】
【氏名】山口 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】小野 英樹
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001BA23
4K001EA04
4K001GA17
(57)【要約】
【課題】本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金中に混入し、除去が困難な不純物を効率よく溶湯から除去できる不純物除去方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る不純物除去方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金と不純物とを含む溶湯に、Mg又はMg合金を混合する工程と、上記混合工程後の溶湯を攪拌する工程とを備え、上記攪拌工程で、上記溶湯に温度勾配を与えることで、上記溶湯から金属間化合物を分離する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金と不純物とを含む溶湯に、Mg又はMg合金を混合する工程と、
上記混合工程後の溶湯を攪拌する工程と
を備え、
上記攪拌工程で、上記溶湯に温度勾配を与えることで、上記溶湯から金属間化合物を分離する不純物除去方法。
【請求項2】
上記混合工程後の上記溶湯におけるMgの含有量が5質量%以上である請求項1に記載の不純物除去方法。
【請求項3】
上記不純物がFeを含み、
上記金属間化合物がアルミニウム及びFeを含有する請求項1又は請求項2に記載の不純物除去方法。
【請求項4】
上記不純物がSiを含み、
上記金属間化合物がMg及びSiを含有する請求項1、請求項2又は請求項3に記載の不純物除去方法。
【請求項5】
上記攪拌工程で、上記溶湯を部分的に冷却する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の不純物除去方法。
【請求項6】
上記攪拌工程で、上記溶湯に冷却部材を接触させる請求項5に記載の不純物除去方法。
【請求項7】
上記冷却部材の表面に上記金属間化合物を晶出させる請求項6に記載の不純物除去方法。
【請求項8】
上記溶湯の冷却温度が640℃以下である請求項5、請求項6又は請求項7に記載の不純物除去方法。
【請求項9】
上記攪拌工程で、上記溶湯を部分的に加熱する請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の不純物除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭酸ガス排出抑制の社会的要求から、自動車等の軽量化が世界中で進められており、今後アルミニウムの需要は増加すると見込まれる。そのため、将来的には需要増に併せてアルミニウムスクラップの排出量が増加すると予想される。一般に、アルミニウムはリサイクル性に優れた金属材料とされている。アルミ缶を始めとするアルミニウム展伸材からなる多くのアルミニウム製品は、廃却後再溶融されて新しい製品へリサイクルされる。しかしながら、廃却後のアルミニウム製品には不純物が付着しており、リサイクルを繰り返すことで不純物元素の濃度が次第に増加する。そのため、廃却後のアルミニウム製品は、より成分規格の緩い製品へカスケードリサイクルされることが一般的である。
【0003】
アルミニウムへの不純物の混入を抑制する技術として、シュレッディング後の分別技術の高度化が図られている。しかし、付着物の完全除去は困難であることから、最終的にはアルミニウム又はアルミニウム合金溶湯からの不純物除去技術が必要となる。
【0004】
アルミニウム又はアルミニウム合金溶湯から不純物を除去する技術については多く報告されており、特に除去困難なFeを除去する技術として、不純物となるMnを敢えて添加してAl-Fe-Mn系金属間化合物を晶出させた後に、遠心分離、吸引等により上記金属間化合物を除去する技術が提案されている(特開平8-35021号公報、特開平7-70666号公報参照)。
【0005】
また、アルミニウム又はアルミニウム合金溶湯における不純物濃度を低減する技術として、アルミ地金を製造する工程で三層式電解精製法や偏析法を用いる技術が開示されている(まてりあ、Vol.33(1994)、No.1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-35021号公報
【特許文献2】特開平7-70666号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】近藤ら、まてりあ、1994、Vol.33、No.1、62-68
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された技術では、添加したMnが不純物として増加するおそれがある。また、非特許文献1に開示された技術は、原理的にFeを除去することは可能であるが、不純物元素を多く含むスクラップを精錬する方法としては歩留まりが低くなるおそれがある。また、三層式電解精製法は電力コストの高い地域では採算性が悪く、偏析法は原料の不純物濃度が高いほど収率が低下するおそれがある。このように、上記従来技術は、市中から回収した不純物を多く含むアルミニウムスクラップをリサイクルする方法としては十分ではない。
【0009】
従って、アルミニウムの展伸材から展伸材への水平リサイクルを実現するためには、品質に悪影響を及ぼす不純物をアルミニウム又はアルミニウム合金溶湯から許容濃度以下に効率的に除去することができる技術が望まれる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、アルミニウム又はアルミニウム合金中に混入し、除去が困難な不純物を効率よく溶湯から除去できる不純物除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、不純物を含むアルミニウム又はアルミニウム合金溶湯に、JIS-A5000系のアルミニウム合金等で必須元素であるMgを混合し、不純物の共晶化を促し、生成された金属間化合物を分離することで不純物を効率的に除去できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明の一態様に係る不純物除去方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金と不純物とを含む溶湯に、Mg又はMg合金を混合する工程と、上記混合工程後の溶湯を攪拌する工程とを備え、上記攪拌工程で、上記溶湯に温度勾配を与えることで、上記溶湯から金属間化合物を分離する。
【0013】
当該不純物除去方法は、上記混合工程で、アルミニウム又はアルミニウム合金と不純物とを含む溶湯にMg又はMg合金を混合することによって、上記不純物を含有する金属間化合物の生成を促進することができる。特に、当該不純物除去方法は、上記攪拌工程で上記溶湯に温度勾配を与えることで、上記不純物を上記溶湯の低温側に送りつつ、この低温側で上記金属間化合物を晶出させ、この不純物を上記溶湯から効率よく除去することができる。
【0014】
上記混合工程後の上記溶湯におけるMgの含有量としては5質量%以上が好ましい。このように、上記混合工程後の上記溶湯におけるMgの含有量が上記下限以上であることで、上記不純物の共晶化を促し、上記金属間化合物を容易かつ効率的に晶出させることができる。
【0015】
上記不純物がFeを含み、上記金属間化合物がアルミニウム及びFeを含有するとよい。当該不純物除去方法によると、混入しやすくかつ除去が困難なFeをAl-Mg系溶湯から効率よく除去することができる。
【0016】
上記不純物がSiを含み、上記金属間化合物がMg及びSiを含有するとよい。このように、上記不純物がSiを含み、上記金属間化合物がMg及びSiを含有することで、SiをAl-Mg系溶湯から効率よく除去することができる。
【0017】
上記攪拌工程で、上記溶湯を部分的に冷却するとよい。このように、上記攪拌工程で、上記溶湯を部分的に冷却することによって、上記溶湯に低温領域を容易に形成でき、この低温領域で上記金属間化合物を容易に晶出させることができる。
【0018】
上記攪拌工程で、上記溶湯に冷却部材を接触させるとよい。このように、上記攪拌工程で、上記溶湯に冷却部材を接触させることによって、上記冷却部材の周辺に上記低温領域を容易に形成することができる。
【0019】
上記冷却部材の表面に上記金属間化合物を晶出させるとよい。上記冷却部材の表面近傍は上記金属間化合物の晶出温度以下に維持されやすい。そのため、上記冷却部材の表面は、上記金属間化合物を晶出させるのに適している。なお、「冷却部材の表面に金属間化合物を晶出させる」とは、冷却部材の表面の少なくとも一部分に金属間化合物が晶出していることを意味しており、冷却部材の表面に金属間化合物以外の金属又は化合物が晶出していてもよい。
【0020】
上記溶湯の冷却温度としては640℃以下が好ましい。このように、上記溶湯の冷却温度が上記上限以下であることによって、上記金属間化合物を晶出させやすい。なお、「溶湯の冷却温度が640℃以下」とは、溶湯中に640℃以下の領域が存在することを意味する。
【0021】
上記攪拌工程で、上記溶湯を部分的に加熱するとよい。このように、上記攪拌工程で、上記溶湯を部分的に加熱することによって、上記溶湯に温度勾配を与えやすい。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明の一態様に係る不純物除去方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金中に混入し、除去が困難な不純物を効率よく溶湯から除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る不純物除去方法を示すフロー図である。
図2図2は、図1の不純物除去方法の攪拌工程を説明するための模式図である。
図3図3は、実施例の不純物除去方法を実施する装置を示す模式図である。
図4図4は、No.3の固相部分の断面画像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0025】
[不純物除去方法]
図1の不純物除去方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金に混入し、除去が困難な不純物を、5000系の必須元素であるMg(マグネシウム)を用いて溶湯中から除去する。当該不純物除去方法は、アルミニウムのリサイクル過程で除去が困難な金属元素等の不純物をAl-Mg系溶湯から除去する。当該不純物除去方法は、JIS-A5000系のアルミニウム合金等で必須元素であるMgを溶湯中に比較的高濃度で含有させることで不純物の共晶化を促し、生成された金属間化合物を分離することにより、不純物の除去を行う。
【0026】
当該不純物除去方法は、図1に示すように、アルミニウム又はアルミニウム合金と不純物とを含む溶湯に、Mg又はMg合金を混合する工程(混合工程S1)と、混合工程S1後の溶湯を攪拌する工程(攪拌工程S2)とを備える。当該不純物除去方法は、攪拌工程S2で、上記溶湯に温度勾配を与えることで、上記溶湯から金属間化合物を分離する。
【0027】
〔不純物〕
上記不純物としては、(1)Fe(鉄)、(2)Si(ケイ素)、(3)Mn(マンガン)、Co(コバルト)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Zr(ジルコニウム)、Cr(クロム)又はこれらの組み合わせが挙げられる。上記不純物としては、上記(1)~(3)に含まれる1種又は2種以上の任意の元素を含んでいてよい。上記不純物としてFeを含む場合、攪拌工程S2で分離される上記金属間化合物はアルミニウム及びFeを含有する。上記不純物としてSiを含む場合、攪拌工程S2で分離される上記金属間化合物はMg及びSiを含有する。上記不純物としてMn、Co、Ti、V、Zr、Cr又はこれらの組み合わせを含む場合、攪拌工程S2で分離される上記金属間化合物はアルミニウムと、Mn、Co、Ti、V、Zr、Cr又はこれらの組み合わせとを含有する。
【0028】
〔Fe〕
Feは、アルミニウム又はアルミニウム合金を含む溶湯中の不純物元素として最も混入しやすく、かつ除去が困難な元素である。Feは、締結部品、シュレッダー機等から容易に混入する。一方、アルミニウムは酸化しやすい元素であり、鉄鋼業における転炉のような酸化精錬ができないため、Feの除去は困難である。当該不純物除去方法は、アルミニウム及びMgを含む溶湯(Al-Mg系溶湯)からFeを効率よく除去することができる。当該不純物除去方法は、JISで規定されているA5000系(Al-Mg系合金)の規定濃度以下にFeを低減することができるので、アルミニウムの展伸材から展伸材への水平リサイクルを容易に実現できる。
【0029】
〔Si〕
Siは、アルミニウム又はアルミニウム合金を含む溶湯中の不純物として、Feの次に混入しやすく、かつ除去が困難な元素である。Siは、鋳物・ダイカスト製品や、SiOを主成分とする珪砂のスクラップ中への混入に起因して混入する。当該不純物除去方法によると、上記不純物としてSiが含まれる場合、攪拌工程S2によってSiとMgとを含有する金属間化合物を容易に生成することができ、SiをAl-Mg系溶湯から効率よく除去することができる。
【0030】
〔Mn、Co、Ti、V、Zr、Cr又はこれらの組み合わせ〕
Mn、Ti、V、Zr及びCrは、アルミニウム合金の添加元素や、結晶粒微細化材、地金等に含まれる元素として混入する。また、Coは、電池に含まれる元素であり、スクラップから混入され得る。当該不純物除去方法によると、上記不純物としてMn、Co、Ti、V、Zr、Cr又はこれらの組み合わせが含まれる場合、攪拌工程S2によって、アルミニウムと、Mn、Co、Ti、V、Zr、Cr又はこれらの組み合わせとを含有する金属間化合物を容易に生成することができる。従って、Mn、Co、Ti、V、Zr、Cr又はこれらの組み合わせを含む不純物をAl-Mg系溶湯から効率よく除去することができる。
【0031】
(混合工程)
混合工程S1では、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金と不純物とを含む溶湯にMg又はMg合金を添加する。より詳しくは、混合工程S1では、アルミニウムスクラップを溶解した溶湯にMg又はMg合金を添加する。
【0032】
混合工程S1では、アルミニウム又はアルミニウム合金と上記不純物とを含む溶湯に、JIS-A5000系のアルミニウム合金等で必須元素であるMgを混合する。アルミニウム又はアルミニウム合金を含む溶湯がMgを比較的高濃度で含有することで、Al-Mg系溶湯中での上記不純物を含有する金属間化合物の生成が促進される。当該不純物除去方法によると、従来行われていたような、金属間化合物を生成させるために敢えて不要な不純物を混入することを要しない。すなわち、混合工程S1では、上記溶湯にMg又はMg合金以外の成分は混合しなくてよい。また、Mgは不純物ではないため、当該不純物除去方法では、Mgを除去するための工程を必要としない。そのため、当該不純物除去方法で上記不純物が除去された後の溶湯は、希釈してアルミニウムリサイクルに供することができる。なお、上記不純物が除去された後の溶湯の希釈手順(希釈工程)については後述する。混合工程S1で混合するMg合金としては、例えばJIS-MC5、JIS-MDC2A等が挙げられる。
【0033】
混合工程S1でMg又はMg合金を混合する効果としては、例えば以下の(a)~(c)が挙げられる。
(a)液相線温度が下がるため、低温で液相状態を保持でき、生成した化合物を効率的に分離できる。
(b)Mgが不純物元素の活量を増加させることで、化合物の生成が促進される。
(c)Mgが直接不純物元素と反応して金属間化合物を生成する。
【0034】
例えば上記不純物としてFeを含む場合、Feの除去は上記(a)及び(b)の効果によって促進されると推測される。また、上記不純物としてSiを含む場合、Siの除去は上記(a)及び(c)の効果によって促進されると推測される。Fe及びSi以外の不純物についても、上記(a)~(c)のいずれかの効果又は(a)~(c)の効果の組み合わせによって、金属間化合物の生成を促進させ、上記溶湯から効率的に除去することができる。
【0035】
混合工程S1後の上記溶湯におけるMgの含有量の下限としては5質量%が好ましく、8質量%がより好ましく、10質量%がさらに好ましい。Mgの含有量が上記下限に満たないと、液相線温度を十分に下げることができないおそれがある。また、Mgの含有量が上記下限に満たないと、上記不純物としてSiを含む場合に、上記金属間化合物を十分に生成できないおそれがある。一方、混合工程S1後の上記溶湯におけるMgの含有量の上限としては、特に限定されないが、例えば50質量%が好ましく、40質量%がより好ましく、30質量%がさらに好ましく、25質量%が特に好ましい。Mgの含有量が上記上限を超えると、後述の希釈工程における希釈量が増え、アルミニウムのリサイクルに要するコストが増加するおそれがある。
【0036】
(攪拌工程)
攪拌工程S2では、上記溶湯を攪拌しつつ、この溶湯に温度勾配を設けることによって、この溶湯の低温側の領域で上記金属間化合物を晶出させる。つまり、図2に示すように、攪拌工程S2において、溶湯Xには、高温領域Hと、高温領域Hよりも温度の低い低温領域Lとが形成される。低温領域Lには、液相L1と、固液共存相L2とが形成される。固液共存相L2には、部分的に金属間化合物Iが晶出している。
【0037】
攪拌工程S2では、溶湯Xに温度勾配を与えながら溶湯Xを攪拌することで、アルミニウム又はアルミニウム合金に混入した上記不純物を効率的に除去することができる。より詳しくは、攪拌工程S2では、溶湯Xを攪拌することで、高温領域Hに含まれる上記不純物を低温領域L側に機械的に送り、低温領域Lで上記不純物を含有する金属間化合物Iを晶出させることができる。低温領域Lで晶出された金属間化合物Iは、例えば他の化合物等と結合して固相Sを形成し、溶湯Xから除去される。その結果、溶湯X中の上記不純物の濃度を下げることができる。
【0038】
攪拌工程S2では、溶湯Xに温度勾配を与える手段として、溶湯Xを部分的に冷却することが好ましい。この方法によると、溶湯Xに低温領域Lを容易に形成でき、この低温領域Lに上記不純物を機械的に送ることで、金属間化合物Iを容易に晶出させることができる。
【0039】
溶湯Xを部分的に冷却する手段としては、特に限定されるものではなく、例えば溶湯Xに冷却部材を接触させる方法が挙げられる。この方法によると、上記冷却部材の周辺に低温領域Lを容易に形成することができる。上記冷却部材としては、例えば冷却板、冷却管、冷却棒等が挙げられる。上記冷却部材は、例えば溶湯X内に挿入されてもよく、溶湯Xが収容される炉壁や炉底に設けられてもよい。
【0040】
上記冷却部材を溶湯Xに接触させる場合、上記冷却部材の表面に金属間化合物Iを晶出させることが好ましい。上記冷却部材の表面近傍は金属間化合物Iの晶出温度以下に維持されやすい。そのため、上記冷却部材の表面は、金属間化合物Iを晶出させるのに適している。また、上記冷却部材の表面に金属間化合物Iを晶出させることで、金属間化合物Iを上記冷却部材に固着させ、金属間化合物Iを溶湯Xから容易に除去することができる。
【0041】
また、攪拌工程S2では、溶湯Xに温度勾配を与える手段として、溶湯Xを部分的に加熱してもよい。この方法によっても、溶湯Xに温度勾配を与えやすい。溶湯Xを部分的に加熱する手段としては、例えばバーナーによる加熱等が挙げられる。また、攪拌工程S2では、溶湯Xを部分的に冷却するのと並行して、この溶湯Xを部分的に加熱してもよい。このような方法としては、例えば溶湯Xの中心部分を加熱すると共に、溶湯Xの周縁部分を冷却する方法が挙げられる。
【0042】
攪拌工程S2における溶湯Xの冷却温度の上限としては、640℃が好ましく、610℃がより好ましく、550℃がさらに好ましい。換言すると、溶湯Xには、640℃以下の低温領域Lが形成されることが好ましく、610℃以下の低温領域Lが形成されることがより好ましく、550℃以下の低温領域Lが形成されることがさらに好ましい。溶湯Xの冷却温度が上記上限を超えると、金属間化合物Iを晶出させ難くなるおそれがある。
【0043】
溶湯Xの高温領域Hの最高温度としては、金属間化合物Iの晶出温度よりも高く、かつ上記冷却温度よりも高い温度である限り(すなわち、溶湯Xに温度勾配を与えることができる限り)特に限定されるものではない。上記最高温度の下限としては、例えば630℃とすることができ、700℃であってもよい。
【0044】
攪拌工程S2における溶湯Xの攪拌手段としては、溶湯Xに温度勾配を与えつつ攪拌できる限り特に限定されるものではない。上記攪拌手段としては、例えば棒や攪拌翼による機械攪拌、スターラによる電磁攪拌、ガスバブリング等が挙げられる。
【0045】
(希釈工程)
攪拌工程S2によって不純物を除去した後の溶湯Xは、希釈してアルミニウムのリサイクルに供することができる。上述の混合工程S1及び攪拌工程S2に、希釈工程を加えたアルミニウムのリサイクル方法は、本発明の一実施形態である。上記希釈工程では、攪拌工程S2によって上記不純物が除去された溶湯Xを、工業用純アルミニウム又はMg濃度の低いアルミスクラップ(例えば1000系)と混合して、JISで規定されるA5000系(Al-Mg系合金)のMg基準濃度まで希釈する。
【0046】
上記希釈工程では、高濃度のMgを含有する溶湯XのMg濃度をJIS-A5000系の基準濃度以下に希釈する。Mgは不純物ではないため、溶湯Xから除去することを要しない。当該アルミニウムのリサイクル方法は、上記希釈工程によってMgの濃度を低くすることで、希釈後の溶湯Xをアルミニウム製品に用いることができる。また、上記希釈工程では、高濃度のMgを含有する溶湯Xを真空下で保持することで蒸気圧の大きいMgを蒸発させ、溶湯XにおけるMgの濃度を低くすることも可能である。さらに、上記希釈工程では、溶湯Xに塩素を吹き込む方法や、フラックスを用いることでMgを除去することも可能である。
【0047】
なお、攪拌工程S2後における高濃度のMgを含有する溶湯Xは、吸引等で分離回収することや、鋳型等で固めることでMg中間合金として使用することも可能である。
【0048】
<利点>
当該不純物除去方法は、混合工程S1で、アルミニウム又はアルミニウム合金と不純物とを含む溶湯にMg又はMg合金を混合することによって、上記不純物を含有する金属間化合物の生成を促進することができる。特に、当該不純物除去方法は、攪拌工程S2で上記溶湯に温度勾配を与えることで、上記不純物を上記溶湯の低温側に送りつつ、この低温側で上記金属間化合物を晶出させ、この不純物を上記溶湯から効率よく除去することができる。
【0049】
当該不純物除去方法は、JIS-A5000系のアルミニウム合金等で必須の元素であるMgを上記溶湯に含有させて上記不純物の化合物化を促し、生成された金属間化合物を分離することにより、上記不純物を除去する。当該不純物除去方法は、従来行われていたような、金属間化合物を生成させるために敢えて不要な不純物を混入する必要がなく、かつ歩留まりも向上できる。
【0050】
当該不純物除去方法によると、アルミニウムのリサイクル過程で除去が困難とされている金属元素を効率よく展伸材の許容濃度以下に低減することができるので、アルミニウム展伸材からアルミニウム展伸材への水平リサイクルを実現することができる。
【0051】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【実施例0052】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0053】
[実施例]
[No.1~No.4]
表1の組成を有する合金Aを、Ar(アルゴン)雰囲気中で、炉壁及び炉底に冷却部材が配置された水冷銅坩堝11を有する図3のCCIM炉(コールドクルーシブル誘導溶解装置)10に溶解し、不純物としてFe及びSiを含む溶湯を得た。この溶湯を電磁誘導によって加熱すると共に、電磁斥力によって攪拌した。この攪拌時における溶湯の高温側の保持温度を表1に示す。この攪拌により、低温側の水冷銅坩堝11との接触部分には金属間化合物を含む固相が形成される。その後、炉の電源を切って溶湯を凝固させた。No.3における固相部分の断面画像を図4に示す。凝固した鋳塊の中央部から一部を採取し、ICP発光分光分析法にてFeの濃度を測定した。この測定結果を表1に示す。
【0054】
[比較例]
[No.5]
表1の組成を有する合金溶湯を表1の温度で保持した。No.5では、溶湯の部分的な冷却又は加熱は行わず、かつ溶湯の攪拌も行わなかった。次に、溶湯の入った坩堝を炉外に出して放冷し、溶湯を凝固させた後、鋳塊の下部を切断した。上側の切断面のFeの濃度をICP発光分光分析法にて測定した。この測定結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、No.1~No.4は、高温側の保持温度が比較的高くても、不純物であるFeを十分に除去することができている。また、図4に示すように、No.3では、固相部分にアルミニウム及びFeを含有する金属間化合物と、Mg及びSiを含有する金属間化合物とが生成されており、Feに加え、Siについても十分に除去することができている。これに対し、No.5は、不純物であるFeを十分に除去することができていない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本発明の一態様に係る不純物除去方法は、アルミニウムのリサイクル過程で除去が困難な金属元素等を展伸材の許容濃度以下に効率よく低減することができるので、アルミニウムの展伸材から展伸材への水平リサイクルの実現に適している。
【符号の説明】
【0058】
10 CCIM炉
11 水冷銅坩堝
A 合金
H 高温領域
I 金属間化合物
L 低温領域
L1 液相
L2 固液共存相
S 固相
X 溶湯
図1
図2
図3
図4