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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083838
(43)【公開日】2022-06-06
(54)【発明の名称】キャリア
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/28 20120101AFI20220530BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
B24B37/28
H01L21/304 621A
H01L21/304 622G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020195404
(22)【出願日】2020-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】中根 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】西田 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】西島 貴徳
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158AA18
3C158AB04
3C158AB08
3C158CA01
3C158CA04
3C158CA06
3C158CB01
3C158CB10
3C158DA06
3C158DA09
3C158DA18
3C158EA01
3C158EA03
3C158EA05
3C158EA06
3C158EA07
3C158EB01
5F057AA03
5F057AA16
5F057BA12
5F057CA19
5F057DA02
5F057FA17
5F057FA23
(57)【要約】      (修正有)
【課題】被削体の研磨後の平坦性を維持しつつ、上面と下面とで加工速度の差異が出難いキャリアを提供する。
【解決手段】キャリア1は、互いの対向面の間に被削体を挟み込んで研磨を行う上定盤及び下定盤を備える両面研磨装置に用いるキャリアであって、被削体を格納可能に貫通する開口部11aを有する円盤状のキャリア本体11と、上記キャリア本体の少なくとも下定盤と接する面に複数配置される凸状部12とを備え、上記複数の凸状部が互いに離間している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの対向面の間に被削体を挟み込んで研磨を行う上定盤及び下定盤を備える両面研磨装置に用いるキャリアであって、
被削体を格納可能に貫通する開口部を有する円盤状のキャリア本体と、
上記キャリア本体の少なくとも下定盤と接する面に複数配置される凸状部と
を備え、
上記複数の凸状部が互いに離間しているキャリア。
【請求項2】
上記キャリア本体の両面にそれぞれ上記複数の凸状部を備え、
上記キャリア本体の各面で、上記複数の凸状部が互いに離間している請求項1に記載のキャリア。
【請求項3】
上記凸状部の平均面積が、0.01cm以上50cm以下である請求項1又は請求項2に記載のキャリア。
【請求項4】
上記凸状部の平均厚さが、80μm以上2000μm以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載のキャリア。
【請求項5】
上記複数の凸状部の面積占有率が5%以上80%以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のキャリア。
【請求項6】
上記凸状部が、
研磨時に上記上定盤又は上記下定盤と接する保護層と、
上記保護層を上記キャリア本体へ接着する接着層と
を有する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のキャリア。
【請求項7】
上記接着層が、粘着剤、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を主成分とする請求項6に記載のキャリア。
【請求項8】
上記保護層が、樹脂又はエラストマーを主成分とする請求項6又は請求項7に記載のキャリア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリアに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス、サファイア、半導体等の基板は、その両面の研磨により、平坦化されて用いられる場合が多い。この研磨には、両面研磨装置が一般に用いられる。
【0003】
両面研磨装置は、上定盤と下定盤とを備え、その間に被削体を挟み込んで研磨を行う。両面研磨装置としては、例えば互いの対向面にそれぞれ研磨パッドや研磨布が貼付されたもの、上定盤と下定盤との間に遊離砥粒を供給するものなどが公知である。上記研磨は、この上定盤と下定盤との間にキャリアを挟んで行われる。キャリアは、その周辺部(同軸とならない位置)に基板等の被削体を格納する開口部を有している。上記キャリアは、上記上定盤又は下定盤の回転に合わせて、キャリア自身が自転しながら、さらに上定盤及び下定盤の中心軸の周りを回る、いわゆる遊星運動をする。被削体は上記キャリアの周辺部にある開口部に格納されて両面が研磨されるため、さらに複雑な動きとなり、この複雑な動きにより研磨の平坦化が図られている。
【0004】
また、研磨時には潤滑性の向上や研磨により排出される研磨屑の排出のため、一般に研磨液をキャリア表面に供給しながら研磨が行われる。この研磨液がキャリア表面に均等に行き渡らない場合にも、研磨の平坦化が阻害される場合がある。このような研磨液の供給による平坦化の阻害に対し、研磨面に研磨液を供給するため、研磨液をキャリアの両面間で通過させる通過孔を有するキャリアが提案されている(特開2018-47552号公報参照)。
【0005】
この従来のキャリアでは、局所的な歪みの発生を抑止しつつ、研磨液を十分に供給することができるように研磨液の通過孔を配置することで、高い平坦度で両面研磨することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-47552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来のキャリアでは、被削体の各面においての平坦性は向上するものの、キャリアと上定盤及び下定盤との間の密着性や研磨液の液量には、重力によってキャリアの上面と下面とで差異が生じ、被削体の上面と下面とで加工速度に差が出易い。そして、加工速度に差があると、上面と下面との間で加工品質に差異が出易い。
【0008】
本発明はこのような不都合に鑑みてなされたものであり、被削体の研磨後の平坦性を維持しつつ、上面と下面とで加工速度の差異が出難いキャリアの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に係るキャリアは、互いの対向面の間に被削体を挟み込んで研磨を行う上定盤及び下定盤を備える両面研磨装置に用いるキャリアであって、被削体を格納可能に貫通する開口部を有する円盤状のキャリア本体と、上記キャリア本体の少なくとも下定盤と接する面に複数配置される凸状部とを備え、上記複数の凸状部が互いに離間している。
【発明の効果】
【0010】
本発明のキャリアは、被削体の研磨後の平坦性を維持しつつ、上面と下面とで加工速度の差異が出難いので、被削体の加工品質を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るキャリアを示す模式的上面図である。
図2図2は、図1のキャリアのII-II線での模式的断面図である。
図3図3は、図1のキャリアを両面研磨装置の下定盤に載せた状態を示す模式的上面図である。
図4図4は、図3のキャリアを載せた下定盤に上定盤を重ねた研磨状態を示す模式的断面図である。
図5図5は、実施例における下面の凸状部の高さと研磨レートの上面/下面の比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0013】
本発明の一実施形態に係るキャリアは、互いの対向面の間に被削体を挟み込んで研磨を行う上定盤及び下定盤を備える両面研磨装置に用いるキャリアであって、被削体を格納可能に貫通する開口部を有する円盤状のキャリア本体と、上記キャリア本体の少なくとも下定盤と接する面に複数配置される凸状部とを備え、上記複数の凸状部が互いに離間している。
【0014】
キャリア本体は、その重力により上定盤よりも下定盤と密着し易いところ、当該キャリアは、少なくとも下定盤と接する面に複数の凸状部が配置されている。当該キャリアは、この凸状部により少なくともキャリア本体の下定盤への密着が緩和されるので、上定盤及び下定盤との間の密着性を均等化し易い。また、当該キャリアでは、複数の凸状部が互いに離間しているので、凸状部間に研磨液が入り込み易く、当該キャリアの研磨液量を位置によらず均等化し易い。このため、当該キャリアを用いた研磨では、被削体の研磨後の平坦性を維持しつつ、上面と下面とで加工速度の差異が出ることを抑制できる。
【0015】
上記キャリア本体の両面にそれぞれ上記複数の凸状部を備え、上記キャリア本体の各面で、上記複数の凸状部が互いに離間しているとよい。このように上記複数の凸状部を上記キャリア本体の両面に設けることで、上面と下面とで加工速度の差異をさらに出難くするとともに、当該キャリアの上面及び下面での研磨液量をさらに均等化し易くすることができる。
【0016】
上記凸状部の平均面積としては、0.01cm以上50cm以下が好ましい。このように上記凸状部の平均面積を上記範囲内とすることで、上定盤及び下定盤との間の密着性と上面及び下面での研磨液量の均一性とをバランス良く向上させることができる。
【0017】
上記凸状部の平均厚さとしては、80μm以上2000μm以下が好ましい。このように上記凸状部の平均厚さを上記範囲内とすることで、上面及び下面での研磨液量をさらに均等化し易くできる。
【0018】
上記複数の凸状部の面積占有率としては、5%以上80%以下が好ましい。このように上記複数の凸状部の面積占有率を上記範囲内とすることで、上定盤及び下定盤との間の密着性と上面及び下面での研磨液量とをバランス良く向上させることができる。なお、「複数の凸状部の面積占有率」とは、凸状部が設けられているキャリア本体の一方の面の面積に対する、その一方の面に設けられている複数の凸状部の合計面積の割合を意味し、凸状部がキャリア本体の両面に設けられている場合にあっては、両面それぞれに対して個別に規定される。
【0019】
上記凸状部が、研磨時に上記上定盤又は上記下定盤と接する保護層と、上記保護層を上記キャリア本体へ接着する接着層とを有するとよい。このように上記凸状部を保護層と接着層とで構成することで、接着層によりキャリア本体との結着力を確保しつつ、保護層によって凸状部の平均厚さを長期にわたって維持できる。このため、上面と下面とで加工速度の差異が長期にわたって発生し難い。
【0020】
上記接着層が、粘着剤、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を主成分とするとよい。このように上記接着層の主成分を粘着剤、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂とすることで、凸状部とキャリア本体との結着力を高められる。
【0021】
上記保護層が、樹脂又はエラストマーを主成分とするとよい。このように上記保護層の主成分を樹脂又はエラストマーとすることで、凸状部の平均厚さをさらに長期にわたって維持できる。
【0022】
ここで、「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば50質量%以上含有される成分である。また、「平均厚さ」とは、任意の10点で測定した厚さの平均値を指すものとする。
【0023】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の一実施形態に係るキャリアについて、適宜図面を参照しつつ説明する。
【0024】
<両面研磨装置>
図1及び図2に示す本発明の一実施形態に係るキャリア1は、図3及び図4に示すように両面研磨装置2に用いることができる。
【0025】
両面研磨装置2は、図4に示すように、対向して配置され、互いの対向面の間に被削体Xを挟み込んで研磨を行う上定盤21及び下定盤22と、上定盤21及び下定盤22を同軸に連結し回転させる中心軸23とを備える。図4に示す両面研磨装置2では、上定盤21及び下定盤22は、定盤本体24と、上記対向面に貼付されている研磨パッド25とを有する。つまり、両面研磨装置2は、固定砥粒方式の研磨装置である。
【0026】
定盤本体24の大きさ及び形状は、研磨対象に応じて適宜選択されるが、例えば外径200mm以上3000mm以下の円形状とできる。なお、上定盤21と下定盤22とで定盤本体24は、異なる大きさとすることもできるが、通常は同じ大きさとされる。上定盤21と下定盤22とで定盤本体24を同じ大きさとすることで、それぞれに貼付する研磨パッド25を同じ種類のものとすることができるので、管理の容易化が図れるとともに、上面と下面とでの加工速度を揃え易い。
【0027】
中心軸23は、その周面に周方向に沿って複数の歯(不図示)が配置されている。中心軸23は、例えば円柱状とすることができ、その断面の大きさは上定盤21及び下定盤22の定盤本体24の大きさ等に応じて適宜決定されるが、例えば外径100mm以上1500mm以下とできる。
【0028】
上定盤21及び下定盤22に貼付される研磨パッド25は、上定盤21及び下定盤22の定盤本体24の対向する表面をそれぞれ覆うように構成される。つまり、研磨パッド25の大きさとしては、定盤本体24及び中心軸23が円形状である場合を例にとると、例えば外径200mm以上3000mm以下及び内径100mm以上1500mm以下の円環状とできる。
【0029】
研磨パッド25としては、被削体Xが研磨できるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば基材と、この基材の一方の面に積層され、砥粒及びバインダーを含む研磨層とを備える研磨パッドを用いることができる。
【0030】
当該キャリア1は、図4に示すように、被削体Xを後述するキャリア本体11の開口部11aに格納した状態で、上定盤21と下定盤22との間に研磨パッド25に接するように挟み込まれる。当該キャリア1のキャリア本体11の外周には、両面研磨装置2の中心軸23の外周に設けられた歯に噛み合う歯11bが設けられている。従って、当該キャリア1は、図3に示すように、キャリア本体11の外周の歯が中心軸23の歯と噛み合うように配置される。なお、図3の例では、4つの当該キャリア1が配置されているが、その配置数は4に限定されるものではなく、1以上3以下、あるいは5以上であってもよい。
【0031】
両面研磨装置2による両面研磨は、上述のように当該キャリア1を上定盤21と下定盤22との間に研磨パッド25に接するように挟み込んだ状態で研磨圧を加え、上定盤21と下定盤22とを異なる回転数で回転させることで行われる。このとき、当該キャリア1は、中心軸23の回転に合わせて自転しながら中心軸23の周りを公転する遊星運動をする。また、上述の研磨中には、当該キャリア1、すなわち上定盤21と下定盤22との間に研磨液が供給される。なお、供給される研磨液は、水性、油性を問わないし、砥粒の有無も問わない。
【0032】
<キャリア>
当該キャリア1は、図1及び図2に示すように、円盤状のキャリア本体11と、キャリア本体11の両面にそれぞれ複数配置される凸状部12とを備える。
【0033】
(キャリア本体)
キャリア本体11は、被削体Xを格納可能に貫通する開口部11aと、外周に沿って配置される複数の歯11bとを有する。
【0034】
キャリア本体11の材質としては、ステンレス、チタン、スチール等の金属、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、エポキシ等の樹脂、上記樹脂にガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維等の繊維材料を加えた繊維強化プラスチックなどを用いることができる。中でも、キャリア本体11の材質としては、強度及び凸状部12との結着力の確保の観点から、金属が好ましく、チタン及びステンレスがさらに好ましい。
【0035】
当該キャリア1は、両面研磨装置2の中心軸23に噛み合せた状態で、キャリア本体11を回転させる。キャリア本体11の直径は、上定盤21及び下定盤22の外径と内径との差(直径の差)の1/2程度、円環の幅程度とされる。さらに、被削体Xが定盤本体24の円環の内外周に少し突出するようにして研磨するとよい場合があり、キャリア本体11の直径は上記円環の幅の1倍以上1.5倍以下とされる。
【0036】
キャリア本体11の平均厚さの下限としては、被削体Xの平均厚さの10%が好ましく、20%がより好ましい。一方、キャリア本体11の平均厚さの上限としては、被削体Xの平均厚さの99%が好ましく、95%がより好ましい。キャリア本体11の平均厚さが上記下限未満であると、キャリア本体11の剛性が不足し、被削体Xを支え切れないことに起因して被削体Xの研磨後の平坦性が低下するおそれがある。逆に、キャリア本体11の平均厚さが上記上限を超えると、研磨圧がキャリア本体11にかかる割合が増加し、被削体Xの加工速度が低下するおそれがある。
【0037】
開口部11aは、その中心がキャリア本体11の中心と一致しないように配置される。つまり、キャリア本体11がその中心軸周りに自転すると、開口部11aがキャリア本体11の中心軸周りを公転するように配置される。
【0038】
開口部11aの大きさは、被削体Xを格納可能な大きさであるが、被削体Xを動かないように保持する目的で、被削体Xと嵌合する大きさ、つまりほぼ同形とすることが好ましい。また、開口部11aの周囲には、被削体Xが開口部11aと強く接触して破損することを防ぐためのインサート材が設けられてもよい。
【0039】
また、キャリア本体11は、開口部11a以外の開口を有することもできるが、被削体Xを格納する開口部11a以外に開口を有さないことが好ましい。キャリア本体11が開口部11a以外の開口を有すると、上定盤21と下定盤22との間に供給された研磨液の量が、キャリア本体11の面内で不均一となり易く、被削体Xの研磨後の平坦性が低下するおそれがある。
【0040】
複数の歯11bは、上述したように、両面研磨装置2の中心軸23の歯と噛み合うように設けられている。この歯11bにより、当該キャリア1の遊星運動が実現される。
【0041】
(凸状部)
複数の凸状部12は、図1に示すように、キャリア本体11の各面で、互いに離間している。具体的には、複数の凸状部12が配置されている領域を除くキャリア本体11の表面は連続している。このように複数の凸状部12をキャリア本体11の上記表面が連続するように配置することで、上定盤21と下定盤22との間に供給された研磨液が容易にキャリア本体11全面に行き渡る。
【0042】
凸状部12は、研磨時に両面研磨装置2の上定盤21又は下定盤22と接する保護層12aと、保護層12aをキャリア本体11へ接着する接着層12bとを有する。このように凸状部12を保護層12aと接着層12bとで構成することで、接着層12bによりキャリア本体11との結着力を確保しつつ、保護層12aによって凸状部12の平均厚さを長期にわたって維持できる。このため、上面と下面とで加工速度の差異が長期にわたって発生し難い。
【0043】
保護層12aは、樹脂又はエラストマーを主成分とするとよい。このように保護層12aの主成分を樹脂又はエラストマーとすることで、凸状部12の平均厚さをさらに長期にわたって維持できる。
【0044】
上記樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド、ポフェニレンサルファイド、ポリアセタール(POM)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)等を挙げることができる。上記エラストマーとしては、熱硬化性ウレタン、熱可塑性ウレタン、合成ゴム、シリコンゴム等を挙げることができる。これらの中でも上面と下面との加工速度の差異を長期にわたって抑止し易いPTFE、PEEK、熱硬化性ウレタン、熱可塑性ウレタンが好ましい。
【0045】
接着層12bは、溶剤系接着剤、水性接着剤、ホットメルト接着剤、反応型接着剤等を用いて構成することができる。あるいは、接着層12bは、粘着剤、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を主成分とするとよい。このように接着層12bの主成分を粘着剤、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂とすることで、凸状部12とキャリア本体11との結着力を高められる。
【0046】
上記粘着剤としては、アクリル粘着剤、ウレタン粘着剤、シリコン粘着剤、ゴム系粘着剤等を挙げることができる。上記熱硬化性樹脂としては、エポキシ、ポリウレタン、アクリル樹脂、フェノール樹脂等を挙げることができる。上記光硬化性樹脂としては、アクリル樹脂等を挙げることができる。
【0047】
凸状部12の平均厚さ(保護層12aと接着層12bとの合計の平均厚さ)の下限としては、80μmが好ましく、90μmがより好ましく、120μmがさらに好ましく、150μmが特に好ましい。一方、凸状部12の平均厚さの上限としては、2000μmが好ましく、500μmがより好ましく、300μmがさらに好ましく、200μmが特に好ましい。凸状部12の平均厚さが上記下限未満であると、研磨液の移動抵抗が高くなり、研磨液がキャリア本体11全面に行き渡り難くなるため、被削体Xの研磨後の平坦性が低下するおそれがある。逆に、凸状部12の平均厚さが上記上限を超えると、研磨液の移動が容易になり過ぎ、重力等の影響により上面及び下面での研磨液量に差異が出て、上面と下面とで加工速度の差異が生じ易くなるおそれがある。
【0048】
保護層12aの平均厚さの下限としては、50μmが好ましく、75μmがより好ましく、100μmがさらに好ましい。一方、保護層12aの平均厚さの上限としては、500μmが好ましく、300μmがより好ましい。保護層12aの平均厚さが上記下限未満であると、被削体Xの研磨時に保護層12aに欠けが発生し易くなるおそれがある。逆に、保護層12aの平均厚さが上記上限を超えると、研磨液の移動が容易になり過ぎ、重力等の影響により上面及び下面での研磨液量に差異が出て、上面と下面とで加工速度の差異が生じ易くなるおそれがある。
【0049】
凸状部12の平均厚さに対する保護層12aの平均厚さの比の下限としては、5%が好ましく、50%がより好ましく、80%がさらに好ましい。一方、上記保護層12aの平均厚さの比の上限としては、95%が好ましい。上記保護層12aの平均厚さの比が上記下限未満であると、当該キャリア1の寿命が短くなり過ぎるおそれがある。逆に、上記保護層12aの平均厚さの比が上記上限を超えると、相対的に接着層12bの平均厚さが薄くなるためキャリア本体11との接着力が不足するおそれがある。
【0050】
凸状部12の平均厚さに対する接着層12bの平均厚さの比の下限としては、5%が好ましい。一方、上記接着層12bの平均厚さの比の上限としては、95%が好ましく、50%がより好ましく、20%がさらに好ましい。上記接着層12bの平均厚さの比が上記下限未満であると、保護層12aとキャリア本体11との接着力が不足するおそれがある。逆に、上記接着層12bの平均厚さの比が上記上限を超えると、相対的に保護層12aの平均厚さが小さくなるため、当該キャリア1の寿命が短くなり過ぎるおそれがある。
【0051】
凸状部12の形状としては、任意の形状を採用可能であるが、長方形状であることが好ましく、角が丸みを帯びた長丸状であることがより好ましい。このように凸状部12の形状を長方形状とすることで、その長手方向に研磨液を誘導することができるので、被削体Xの研磨後の平坦性を高め易い。また、角に丸みを帯びさせることで、凸状部12の角で上定盤21や下定盤22が傷付くことを抑止できる。
【0052】
凸状部12の形状が長方形状である場合、その長手方向が凸状部12間で異なる向きであることが好ましい。このように長手方向を凸状部12間で異なる向きとすることで、研磨液が特定の方向にのみ流れることを抑止できる。これによって、研磨液が偏在し難くなるため、被削体Xの研磨後の平坦性を高め易い。
【0053】
凸状部12の形状が長方形状である場合の短辺に対する長辺の割合の下限としては、1.2倍が好ましく、1.7倍がより好ましい。一方、上記長辺の割合の上限としては、3倍が好ましく、2.5倍がより好ましい。上記長辺の割合が上記下限未満であると、研磨液を誘導する効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記長辺の割合が上記上限を超えると、凸状部12が細長くなり過ぎ、剥離し易くなるなど強度が不足するおそれがある。
【0054】
凸状部12の平均面積の下限としては、0.01cmが好ましく、0.5cmがより好ましく、2cmがさらに好ましい。一方、凸状部12の平均面積の上限としては、50cmが好ましく、10cmがより好ましく、4cmがさらに好ましい。凸状部12の平均面積が上記下限未満であると、上定盤21及び下定盤22との間の密着性が十分に確保できず、上面と下面との間で加工速度の差異が大きくなるおそれがある。逆に、凸状部12の平均面積が上記上限を超えると、凸状部12が障害となって研磨液がキャリア本体11全面に行き渡り難くなり、被削体Xの研磨後の平坦性が低下するおそれがある。
【0055】
キャリア本体11の両面それぞれにおける複数の凸状部12の面積占有率の下限としては、3%が好ましく、5%がより好ましく、10%がさらに好ましい。一方、上記凸状部12の面積占有率の上限としては、80%が好ましく、50%がより好ましく、30%がさらに好ましい。上記凸状部12の面積占有率が上記下限未満であると、上定盤21及び下定盤22との間の密着性が不均一となり、被削体Xの表面に擦過傷を生じるおそれがある。逆に、上記凸状部12の面積占有率が上記上限を超えると、凸状部12が障害となって研磨液がキャリア本体11全面に行き渡り難くなり、被削体Xの研磨後の平坦性が低下するおそれがある。なお、面積占有率の基準となるキャリア本体11の両面それぞれの面積には、開口部11aは含まないものとする。
【0056】
凸状部12の最小離間距離(任意の凸状部12間の離間距離のうち最小のもので、図1のD)の下限としては、2mmが好ましく、5mmがより好ましい。凸状部12の最小離間距離Dが上記下限未満であると、該当する最小離間距離Dを有する部分で研磨液の移動抵抗が高くなり、研磨液がキャリア本体11全面に行き渡り難くため、被削体Xの研磨後の平坦性が低下するおそれがある。一方、上記最小離間距離Dの上限は、特に限定されない。
【0057】
キャリア本体11を任意の直径で2つの領域に分割した際の領域間における凸状部12の面積占有率の差の上限としては、30%が好ましく、20%がより好ましく、10%がさらに好ましい。上記面積占有率の差が上記上限を超えると、凸状部12とキャリア本体11表面との段差によって、研磨時に下定盤22とキャリア本体11との対向面どうしが平行に維持されず、傾斜を持ち易い。この場合、被削体Xの研磨後の平坦性が低下したり、当該キャリア1が破損したりするおそれがある。
【0058】
<利点>
キャリア本体11は、その重力により上定盤21よりも下定盤22と密着し易いところ、当該キャリア1は、下定盤22と接する面に複数の凸状部12が配置されている。当該キャリア1は、この凸状部12によりキャリア本体11の下定盤22への密着が緩和されるので、上定盤21及び下定盤22との間の密着性を均等化し易い。また、当該キャリア1では、複数の凸状部12が互いに離間しているので、凸状部12間に研磨液が入り込み易く、当該キャリア1の研磨液量を位置によらず均等化し易い。このため、当該キャリア1を用いた研磨では、被削体Xの研磨後の平坦性を維持しつつ、上面と下面とで加工速度の差異が出ることを抑制できる。
【0059】
また、当該キャリア1では、キャリア本体11の両面にそれぞれ複数の凸状部12を備え、キャリア本体11の各面で、複数の凸状部12が互いに離間している。このように複数の凸状部12をキャリア本体11の両面に設けることで、上面と下面とで加工速度の差異をさらに出難くするとともに、当該キャリア1の上面及び下面での研磨液量をさらに均等化し易くすることができる。
【0060】
[その他の実施形態]
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【0061】
上記実施形態では、凸状部が保護層と接着層との2層で構成される場合を説明したが、凸状部の構成はこれに限定されるものではなく、その構成は1層や3層以上とすることもできる。
【0062】
また、上記実施形態では、接着層が凸状部のみに設けられる場合を説明したが、接着層はキャリア本体全面に設けられていてもよい。
【0063】
上記実施形態では、キャリア本体の両面にそれぞれ複数の凸状部を備える場合を説明したが、複数の凸状部は、キャリア本体の下定盤と接する面のみに設けられてもよい。当該キャリアは、キャリア本体の少なくとも下定盤と接する面に複数の凸状部を備えていれば、同様の効果を奏することができる。
【0064】
上記実施形態では、定盤本体に研磨パッドが貼付された上定盤及び下定盤を用いる場合を説明したが、研磨パッドに代えて複数のペレットが貼付された上定盤及び下定盤を用いることもできる。
【0065】
上記実施形態では、上定盤及び下定盤が研磨パッドを有する固定砥粒方式の両面研磨装置に本発明のキャリアを用いる場合を説明したが、当該キャリアが用いられる両面研磨装置は、これに限定されるものではない。当該キャリアは、例えば遊離砥粒方式の両面研磨装置に用いることもできる。遊離砥粒方式の両面研磨装置では、上定盤及び下定盤は、上記実施形態の砥粒を含む研磨パッドに代えて不織布からなる研磨布や、発泡樹脂からなる研磨パッドを有する。あるいは、上定盤及び下定盤は、定盤本体のみで構成してもよい。また、上定盤と下定盤との間に供給される研磨液として、砥粒を含むスラリー研磨液が用いられる。
【実施例0066】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0067】
表1に示す定盤を有する研磨機で、表1に示す被削体を研磨する目的で、表1に示すキャリア本体を準備した。なお、いずれの研磨機にも上定盤及び下定盤の互いの対向面にはダイヤモンド固定砥粒の研磨パッド(バンドー化学の「TOPX Fine particle Pad」)を貼付した。
【0068】
表1に示すパターンA~Eに従って、このキャリア本体の上面及び下面、下面のみ又は上面のみに凸状部を設けた。なお、キャリア本体の上面が上定盤に接する面であり、下面が下定盤に接する面である。また、表1でパターンの欄が「-」であるものは、凸状部を設けていないことを示す。
【0069】
上記凸状部は、保護層及び接着層から構成される2層のものと、単層で構成されるものを準備した。各実施例の凸状部の材質を表1に示す。また、凸状部の平均厚さは表1に示すとおりであり、凸状部が2層であるものについては、各平均厚さに対して保護層と接着層との平均厚さの内訳は表3に示すとおりである。なお、表1でキャリア本体が凸状部を有さないものについては、凸状部の材質の欄は「-」としている。
【0070】
<評価>
表1に示す被削体に対してNo.1~No.19のキャリアを用いて研磨を行い、研磨レート及び凸状部の耐久性について評価を行った。
【0071】
(研磨レート)
研磨レートは、被削体の上面と下面とに分けて、研磨開始から20分間後の間(「初期」)、研磨開始後20分間後から30分間後の間(「中期」)、又は研磨開始後50分間後から60分間後の間(「後期」)のいずれかで算出した。研磨レートを算出した時期は、表1の「評価時期」の欄に示している。
【0072】
研磨レートの算出は、以下の手順によった。まず、研磨前の被削体の側面にマーキングを行った上で、被削体の側面の顕微鏡観察像を取得する。次に、研磨後の被削体の側面の顕微鏡観察像を再度取得する。得られた顕微鏡観察像から研磨前後で上面とマーキングとの距離の差、及び下面とマーキングとの距離の差を読み取り、それぞれ研磨時間で除算して、上面及び下面の研磨レートを算出する。このようにして得られた研磨レートについて、表1に示す。なお、表1の「上面/下面」は、上面の研磨レートを下面の研磨レートで除した値である。
【0073】
(耐久性)
凸状部の耐久性は、60分間の研磨後の凸状部を目視し、以下の判定基準で判定した。結果を表1に示す。なお、表1の「凸状部耐久性(下面)」の欄で、「-」は、下面に凸状部を有していないため、評価していないことを意味する。
A : 摩耗や欠けがほぼ無い
B : 摩耗はほぼ無いが僅かに欠けることがある
C : 摩耗はほぼ無いが保護層が欠け易い
D : 10μm以上の摩耗が生じる
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
表1の結果から、凸状部を有さないキャリア(No.1、No.3、No.6及びNo.9)では、上面の研磨レートが下面の研磨レートより大きいことが分かる。
【0078】
同じ研磨機定盤及び被削体に対して、少なくとも下面に凸状部を有するキャリア(No.2、No.4、No.5、No.7、No.8、No.10、No.12~No.19)を用いると、凸状部を有さないキャリアに対して研磨レートの上面/下面の比が下がる傾向にあることが分かる。さらに、上面にのみ凸上部を有するキャリア(No.11)を用いた場合では、凸状部を有さないキャリア(No.9)を用いた場合と、研磨レートの上面/下面の比は、ほぼ等しい。
【0079】
さらに詳細に見ると、上面の凸状部の高さが等しく、下面の凸状部の高さが異なるNo.12~No.14について、下面の凸状部の高さと研磨レートの上面/下面の比との関係を図5に示す。図5のグラフから下面の凸状部の高さを増やすにつれ、研磨レートの上面/下面の比が減少していくことが分かる。上面と下面との研磨レートが等しくなるとき、研磨レートの上面/下面の比は1となるから、図5のグラフから、例えば下面の凸状部の高さを適切にとることで、上面と下面との研磨レートを等しくできることが分かる。
【0080】
一方、上面にのみ凸状部を有するキャリア(No.11)では、凸状部を有さないキャリア(No.9)を用いた場合と、研磨レートの上面/下面の比は、ほぼ等しい。このため、上面にのみ凸状部を有するキャリアでは、凸状部の高さを適切にとることで、上面と下面との研磨レートを等しくすることはできないと考えられる。
【0081】
以上の結果から、キャリア本体の少なくとも下定盤と接する面に複数配置される凸状部を備えることで、上面と下面とで加工速度の差異を低減できると言える。
【0082】
さらに、凸状部の耐久性について、表1の結果から、凸状部を保護層と接着層との2層で構成することで、1層で構成した場合(No.17)より長寿命とできることが分かる。また、下面の保護層の厚さが100μm未満であるNo.7及びNo.12で保護層が欠けやすいことから、保護層の厚さを100μm以上とすると良いことが分かる。さらに、保護層をPTFEとすると耐久性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のキャリアは、被削体の研磨後の平坦性を維持しつつ、上面と下面とで加工速度の差異が出難いので、被削体の加工品質を高められる。
【符号の説明】
【0084】
1 キャリア
11 キャリア本体
11a 開口部
11b 歯
12 凸状部
12a 保護層
12b 接着層
2 両面研磨装置
21 上定盤
22 下定盤
23 中心軸
24 定盤本体
25 研磨パッド
D 最小離間距離
X 被削体
図1
図2
図3
図4
図5