(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083869
(43)【公開日】2022-06-06
(54)【発明の名称】接合部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/211 20140101AFI20220530BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20220530BHJP
B23K 1/005 20060101ALI20220530BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20220530BHJP
B23K 1/19 20060101ALI20220530BHJP
B23K 1/20 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
B23K26/211
B23K26/21 G
B23K1/005 A
B23K1/00 S
B23K1/19 A
B23K1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020195450
(22)【出願日】2020-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】尾尻 将視
(72)【発明者】
【氏名】吉田 諒
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA02
4E168BA03
4E168BA05
4E168BA06
4E168BA72
4E168BA82
4E168BA87
4E168BA88
4E168BA89
4E168DA23
4E168DA24
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA42
4E168DA43
(57)【要約】 (修正有)
【課題】優れた接合強度を有するとともに、気密性及び水密性に優れた接合部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】第1金属部材12と、前記第1金属部材12に配置され、レーザ溶接部を介して前記第1金属部材12の少なくとも一部と接合した第2金属部材14と、を備える接合部材であって、前記接合部材が、前記第1金属部材12の接合面側にシート状ろう材16を備え、前記レーザ溶接部が、前記第1金属部材12、前記第2金属部材14及び前記シート状ろう材16の溶融一体化物で構成される母材溶融部22と、前記シート状ろう材16の溶融物で構成されるろう材溶融部24と、を備え、前記母材溶融部22が、前記第1金属部材12から第2金属部材14の厚さの少なくとも一部にまで連続して形成されており、前記ろう材溶融部24が、前記第1金属部材12、前記第2金属部材14及び前記母材溶融部22と密着している、接合部材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面及び第2主面を有する第1金属部材と、前記第1金属部材の第2主面側に配置され、レーザ溶接部を介して前記第1金属部材の少なくとも一部と接合した第2金属部材と、を備える接合部材であって、
前記接合部材が、前記第1金属部材の第2主面側にシート状ろう材を備え、
前記レーザ溶接部が、前記第1金属部材、前記第2金属部材及び前記シート状ろう材の溶融一体化物で構成される母材溶融部と、前記シート状ろう材の溶融物で構成されるろう材溶融部と、を備え、
前記母材溶融部が、前記第1金属部材の第1主面から第2主面へと貫通し、かつ第2金属部材の厚さの少なくとも一部にまで連続して形成されており、
前記ろう材溶融部が、前記第1金属部材、前記第2金属部材及び前記母材溶融部と密着している、接合部材。
【請求項2】
前記第1金属部材と前記第2金属部材とが重ね継手を形成して接合されている、請求項1に記載の接合部材。
【請求項3】
前記第1金属部材と前記第2金属部材とがT継手を形成して接合されている、請求項1に記載の接合部材。
【請求項4】
前記第1金属部材と前記第2金属部材とが同種材料からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の接合部材。
【請求項5】
前記第1金属部材と前記第2金属部材とが異種材料からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の接合部材。
【請求項6】
前記第1金属部材及び前記第2金属部材の一方又は両方がアルミニウム系金属からなる、請求項1~5のいずれか一項に記載の接合部材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の接合部材の製造方法であって、以下の工程;
第1主面及び第2主面を有する第1金属部材、第2金属部材、及びシート状ろう材を準備する工程、
準備した前記第1金属部材の第2主面側に前記シート状ろう材及び前記第2金属部材がこの順に配置されてなる積層体を作製する工程、及び
前記積層体を構成する第1金属部材の第1主面にレーザ光を照射して、接合界面を介して前記第1金属部材の少なくとも一部に前記第2金属部材をレーザ溶接する工程、を備え、
前記レーザ溶接する工程で、前記第1金属部材、前記第2金属部材及び前記シート状ろう材の一部を溶融一体化させて、レーザ溶接部の接合界面を貫通する母材溶融部を形成するとともに、前記接合界面周囲のシート状ろう材を溶融させて、ろう材溶融部を形成する、方法。
【請求項8】
前記第1金属部材及び前記シート状ろう材として、第1金属部材及びシート状ろう材が圧延接合されてなるクラッド材を準備する、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄道、航空機などの輸送機器をはじめとして、医療機器、電子部品、化学プラントなどの様々な分野において、複数の金属部材を接合して大型構造部品を製造することが広く行われている。金属部材を接合する手法として、溶接、圧接、ろう付け、及び機械的接合法が知られている。
【0003】
このうち、ろう付けは、被接合部材(母材)より融点の低い合金からなる、ろう材を溶かし、これを接着剤として用いて、被接合部材自体を溶融させずに接合する手法である。ろう材を溶融するには、炉中ろう付けやトーチろう付けなどの手法が利用される。炉中ろう付けは、部品を炉中に入れて全体を加熱して、ろう付けを行う手法であり、トーチろう付け法は、ガストーチを用いて部品を局所的に加熱して、ろう付けする手法である。
【0004】
近年、ろう付け法において、レーザ光を用いてろう付けを行うレーザブレージングが提案されている。レーザブレージングでは、被接合部材の接合部位にレーザ光を照射及び加熱し、それにより、ろう材を溶融させて部材同士を接合する。例えば、特許文献1には、フラックスとろう材を用いて、複数の金属部材をレーザーブレ―ジングにより、ろう付けするろう付け工程と、ろう付け部の表面に残留しているフラックスを除去する高周波レーザーパルス照射工程と、ろう付け部を含めて化成処理を行う化成処理工程と、を有する金属接合部材の製造方法が開示されている(特許文献1の請求項1)。
【0005】
また、溶接法においては、レーザ光を利用するレーザ溶接が知られている。レーザ溶接は、被接合部材の接合部位に高エネルギーレーザ光を照射して部材を溶融接合する手法であり、被接合部材自体を溶融させる点でろう付けとは異なる。レーザ溶接は、高速溶接が可能、熱変形が少ないといった特徴があり、例えば、アルミニウム合金部材を接合して自動車部材や電池ケースを製造する際に利用されている。
【0006】
特許文献2には、アルミニウム系被溶接材と、表面に亜鉛系被覆層を有する鉄系被溶接材とを異材接合する方法に関して、ろう材を使用せずにレーザ溶接することが記載されている(特許文献2の請求項1及び[0013])。また特許文献3には、Fe、Mn、Ti及びZrを含有する電池ケース用アルミニウム合金板に関して、パルスレーザ照射を行ってレーザ溶接することが記載されている(特許文献3の請求項1、[0009]及び[0040])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-176785号公報
【特許文献2】特開2008-023562号公報
【特許文献3】特許第5725344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、従来からろう付け法やレーザ溶接法などの手法で金属部材を接合する方法が利用されるものの、課題があった。ろう付け法においては、例えば炉中ろう付けやトーチろう付けでは、アルミニウムのような熱伝導率の高い材料からなる部材をろう付けする場合には、部材が広範囲にわたって高温加熱されてしまう。そのため継手強度が低下するとともに生産性が低下する問題があった。またレーザブレージング法では、狭い溶融範囲に正確にワイヤ状のろう材を送給する必要があるとともに、ろう材によって溶融池の温度が低下するため、ろう付け速度が遅くなる問題があった。そのため生産技術的に課題が多かった。
【0009】
さらに、レーザ溶接法では、溶接部(接合部)に欠陥が生じて接合特性が劣化する問題があった。すなわちレーザ溶接では、被接合部材の材質によっては、溶接部に凝固割れやポロシティといった欠陥が生じることがある。凝固割れは粒界に沿って生じる亀裂であり、これが生じると、接合部の機械的特性が著しく低下する。また亀裂に沿って空気や水分が内部に浸入するため、気密性及び水密性が著しく劣化することがある。
【0010】
本発明者らは、このような従来の問題点に鑑みて鋭意検討を行った。その結果、金属部材を接合するに際し、板材間にシート状ろう材を配した上で、所定の組織が得られるようにレーザ溶接を行うと、優れた接合強度を有するとともに、気密性及び水密性に優れた接合部材を得ることができるという知見を得た。
【0011】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、接合強度が高いとともに気密性及び水密性に優れた接合部材及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記(1)~(8)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0013】
(1)第1主面及び第2主面を有する第1金属部材と、前記第1金属部材の第2主面側に配置され、レーザ溶接部を介して前記第1金属部材の少なくとも一部と接合した第2金属部材と、を備える接合部材であって、
前記接合部材が、前記第1金属部材の第2主面側にシート状ろう材を備え、
前記レーザ溶接部が、前記第1金属部材、前記第2金属部材及び前記シート状ろう材の溶融一体化物で構成される母材溶融部と、前記シート状ろう材の溶融物で構成されるろう材溶融部と、を備え、
前記母材溶融部が、前記第1金属部材の第1主面から第2主面へと貫通し、かつ第2金属部材の厚さの少なくとも一部にまで連続して形成されており、
前記ろう材溶融部が、前記第1金属部材、前記第2金属部材及び前記母材溶融部と密着している、接合部材。
【0014】
(2)前記第1金属部材と前記第2金属部材とが重ね継手を形成して接合されている、上記(1)の接合部材。
【0015】
(3)前記第1金属部材と前記第2金属部材とがT継手を形成して接合されている、上記(1)の接合部材。
【0016】
(4)前記第1金属部材と前記第2金属部材とが同種材料からなる、上記(1)~(3)のいずれかの接合部材。
【0017】
(5)前記第1金属部材と前記第2金属部材とが異種材料からなる、上記(1)~(3)のいずれかの接合部材。
【0018】
(6)前記第1金属部材及び前記第2金属部材の一方又は両方がアルミニウム系金属からなる、上記(1)~(5)のいずれかの接合部材。
【0019】
(7)上記(1)~(6)のいずれかの接合部材の製造方法であって、以下の工程;
第1主面及び第2主面を有する第1金属部材、第2金属部材、及びシート状ろう材を準備する工程、
準備した前記第1金属部材の第2主面側に前記シート状ろう材及び前記第2金属部材がこの順に配置されてなる積層体を作製する工程、及び
前記積層体を構成する第1金属部材の第1主面にレーザ光を照射して、接合界面を介して前記第1金属部材の少なくとも一部に前記第2金属部材をレーザ溶接する工程、を備え、
前記レーザ溶接する工程で、前記第1金属部材、前記第2金属部材及び前記シート状ろう材の一部を溶融一体化させて、レーザ溶接部の接合界面を貫通する母材溶融部を形成するとともに、前記接合界面周囲のシート状ろう材を溶融させて、ろう材溶融部を形成する、方法。
【0020】
(8)前記第1金属部材及び前記シート状ろう材として、第1金属部材及びシート状ろう材が圧延接合されてなるクラッド材を準備する、上記(7)の方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、優れた接合強度を有するとともに、気密性及び水密性に優れた接合部材及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】重ね継手を形成する接合部材の一例を示す断面模式図である。
【
図3】T字継手を形成する接合部材の一例を示す断面模式図である。
【
図5】十字継手を形成する接合部材の一例を示す断面模式図である。
【
図6】十字継手を形成する接合部材の別の一例を示す断面模式図である。
【
図7】十字継手を形成する接合部材の他の一例を示す断面模式図である。
【
図8】角継手を形成する接合部材の一例を示す断面模式図である。
【
図9】スカーフ継手を形成する接合部材の一例を示す断面模式図である。
【
図10】へり継手を形成する接合部材の一例を示す断面模式図である。
【
図11】せぎり継手を形成する接合部材の一例を示す断面模式図である。
【
図12】せぎり継手を形成する接合部材の別の一例を示す断面模式図である。
【
図13】せぎり継手を形成する接合部材の他の一例を示す断面模式図である。
【
図14】せぎり継手を形成する接合部材のさらに他の一例を示す断面模式図である。
【
図15】フレア継手を形成する接合部材の一例を示す断面模式図である。
【
図16】フレア継手を形成する接合部材の別の一例を示す断面模式図である。
【
図17】当て板継手を形成する接合部材の一例を示す断面模式図である。
【
図18】当て板継手を形成する接合部材の別の一例を示す断面模式図である。
【
図19】重ねすみ肉継手を形成する接合部材の一例を示す断面模式図である。
【
図20】例1における積層体の層構成を示す図面である。
【
図21】例1におけるレーザ溶接の態様を示す図面である。
【
図22】例2における積層体の層構成を示す図面である。
【
図23】例2におけるレーザ溶接の態様を示す図面である。
【
図24】例3における積層体の層構成を示す図面である。
【
図25】例3におけるレーザ溶接の態様を示す図面である。
【
図26】例4における積層体の層構成を示す図面である。
【
図27】例4におけるレーザ溶接の態様を示す図面である。
【
図28】例1における接合部材断面の光学顕微鏡像である。
【
図29】例1における接合部材断面の光学顕微鏡像である。
【
図30】例2における接合部材断面の光学顕微鏡像である。
【
図31】例2における接合部材断面の光学顕微鏡像である。
【
図32】例3における接合部材断面の光学顕微鏡像である。
【
図33】例3における接合部材断面の光学顕微鏡像である。
【
図34】例4における接合部材断面の光学顕微鏡像である。
【
図35】例4における接合部材断面の光学顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0024】
1.接合部材
本実施形態の接合部材は、第1主面及び第2主面を有する第1金属部材と、この第1金属部材の第2主面側に配置され、レーザ溶接部を介して第1金属部材の少なくとも一部と接合した第2金属部材と、を備える。また接合部材は、第1金属部材の第2主面側にシート状ろう材を備える。レーザ溶接部は、第1金属部材、第2金属部材及びシート状ろう材の溶融一体化物で構成される母材溶融部と、シート状ろう材の溶融物で構成されるろう材溶融部と、を備える。母材溶融部は、前記第1金属部材の第1主面から第2主面へと貫通し、かつ第2金属部材の厚さの少なくとも一部にまで連続して形成されている。ろう材溶融部は、第1金属部材、前記第2金属部材及び母材溶融部と密着している。
【0025】
<金属部材>
本実施形態の接合部材は、第1主面及び第2主面を有する第1金属部材と、この第1金属部材の第2主面側に配置され、レーザ溶接部を介して第1金属部材の少なくとも一部と接合した第2金属部材と、を備える。すなわち第1金属部材と第2金属部材とがレーザ接合部を介して接合されている。第1金属部材及び第2金属部材は、接合部材を構成できる限り、その形状は限定されない。板材、押出材、及び棒材のいずれであってもよく、あるいは他の形状を有するものであってもよい。
【0026】
また、第1金属部材及び第2金属部材の材質は、レーザ溶接できる範囲において限定されない。例えば、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、またはこれらの金属を含む合金が例示される。また第1金属部材と第2金属部材の材質の組み合わせも限定されない。第1金属部材と第2金属部材とが同種材料からなってもよく、あるいは異種材料からなってもよい。
【0027】
好適には、第1金属部材及び第2金属部材の一方又は両方がアルミニウム系金属からなる。アルミニウム系金属とは、純アルミニウム又はアルミニウム合金のことである。純アルミニウムとして、1000系が挙げられる。またアルミニウム合金として、2000系(Al-Cu系)合金、3000系(Al-Mn系)合金、4000系(Al-Si系)合金、5000系(Al-Mg系)合金、6000系(Al-Mg-Si系)合金、7000系(Al-Zn-Mg系)合金などが挙げられる。特に好適には、第1金属部材が1000系又は3000系合金からなる。
【0028】
<ろう材>
本実施形態の接合部材は、第1金属部材の第2主面側にシート状ろう材を備える。すなわち、シート状ろう材は、第1金属部材の第2主面側であって、第2金属部材との間隙又は第2金属部材の周囲に配置される。シート状ろう材は、レーザ溶接時に第1金属部材及び第2金属部材の接合を補助する成分であり、その融点は、第1金属部材及び第2金属部材の融点より低い。このろう材は、第1金属部材及び第2金属部材とともに母材溶融部を形成するとともに、接合界面の周囲に広がって、ろう材溶融部を形成する。
【0029】
ろう材の形態は、シート状である限り、限定されない。例えば、第1金属部材の第2主面に接合したクラッド材であってもよい。また、第2金属部材の主面に接合したクラッド材であってもよい。クラッド材は、心材とろう材を熱間圧延工程でクラッド圧延(圧着)した部材であり、ブレージングシートとも呼ばれている。ここで第1金属部材及び/又は第2金属部材が心材に相当する。クラッド材は、心材の片面にろう材を備えた片面クラッドであってもよく、あるいは両面にろう材を備えた両面クラッドであってもよい。ただし、ろう材はクラッド材に限定される訳ではない。例えば、第1金属部材及び/又は第2金属部材の少なくとも一方の主面に成膜した被覆であってもよい。被膜状ろう材(16)の成膜は、メッキ、スパッタリング、蒸着、化学気相成長法などの公知の厚膜又は薄膜形成法で行えばよい。さらに、ろう材は、金属部材とは別個の自立シート、例えば箔であってもよい。
【0030】
ろう材の厚さは限定されない。しかしながら、ろう材が過度に薄いと、レーザ溶接に必要な、ろう材量が少なくなり、接合不良が起こる恐れがある。ろう材の厚さは、好適には5μm以上である。
【0031】
ろう材の材質は、第1金属部材及び第2金属部材の材質に依存するため、これを一概に決めることはできない。第1金属部材及び第2金属部材の少なくとも一方がアルミニウム系金属からなる場合には、4000系(Al-Si系)合金、Al-Cu-Si系、Al-Zn系などが挙げられ、このうち4000系合金が好適である。4000系合金は流動性が高い。流動性の高い合金は、レーザ溶接時に第1金属部材及び第2金属部材の間隙に薄く拡がって、ろう材溶融部を形成する。そのため気密性及び水密性向上の効果に優れるとともに、接合部の応力緩和効果も期待できる。
【0032】
<レーザ溶接部>
レーザ溶接部は、第1金属部材の少なくとも一部と第2金属部材の少なくとも一部を接合する部位に相当する。レーザ溶接部は、母材溶融部及びろう材溶融部から構成される。ここで、母材溶融部及びろう材溶融部のそれぞれは、溶接ビード及びフィレットとも呼ばれる。
【0033】
<母材溶融部>
母材溶融部は、第1金属部材、第2金属部材及びシート状ろう材の溶融一体化物で構成される。すなわち、レーザ溶接時に、第1金属部材のレーザ光が照射される第1主面で熱が発生し、この熱がろう材及び第2金属部材に伝熱する。レーザ光を照射した領域の近傍では、第1金属部材、ろう材及び第2金属部材が高温に達し、その結果、溶融して溶湯を形成する。溶湯内部では熱対流により成分が拡散して混じり合う。レーザ光の照射部位が移動するにつれ、溶湯が冷却凝固して母材溶融部が形成される。したがって、母材溶融部は、第1金属部材、第2金属部材及びろう材に由来する成分を含む凝固物である。母材溶融部中の各成分は均一に分布してもよく、あるいは不均一に分布してもよい。例えば、母材溶融部は、場所によっては第1金属部材由来の成分を多く含んでもよく、また第2金属部材由来の成分を多く含んでもよい。さらに接合部において、ろう材由来の成分を多く含んでもよい。
【0034】
母材溶融部は、第1金属部材の第1主面から第2主面へと貫通し、かつ第2金属部材の厚さの少なくとも一部にまで連続して形成されている。すなわち、母材溶融部は、レーザ溶接部近傍の領域において、第1金属部材の厚さ方向全体にわたって存在し、さらに第2金属部材の厚さ方向の一部又は全体にわたって存在する。母材溶融部は、第1金属部材及び第2金属部材をまたがって、両者の界面を貫通するように形成されるということもできる。このように、レーザ接合部を、溶融一体化物たる母材溶融部で構成し、さらに第1金属部材と第2金属部材との界面を貫通するように形成することで、接合部での強度を優れたものにすることが可能になる。この点、母材溶融部は主接合部として機能するということができる。
【0035】
母材溶融部の形状は、特に限定されない。典型的には、第1金属部材の上面(第1主面)から第2金属部材の下面に向かって断面積が減少する形状である。このような形状として、三角形を中心軸回りに回転させた回転体(円錐)、台形を中心軸まわりに回転させた回転体(円錐台)、及び放物線を回転させた回転体(放物線回転体)などが挙げられる。いずれにしても、レーザ溶接により形成される形状であれば、限定されない。
【0036】
<ろう材溶融部>
ろう材溶融部は、シート状ろう材の溶融物で構成される。レーザ溶接時に、母材溶融部になる溶湯周囲では、第1金属部材及び第2金属部材は、溶融するほどには高温に達していない。一方で、ろう材は、その融点が低いため溶融する。溶融したろう材が冷却凝固して、ろう材溶融部になる。したがって、ろう材溶融部は、ろう材に由来する成分を主として含む凝固物である。第1金属部材や第2金属部材由来の成分を含むことがあっても、その量は僅かである。組成及び組織を調べることで、ろう材溶融部を、母材溶融部から判別することが可能である。
【0037】
ろう材溶融部は、第1金属部材、前記第2金属部材及び母材溶融部と密着している。レーザ溶接時に、第1金属部材、第2金属部材及び母材溶融部からの伝熱により、ろう材が溶融して、ろう材溶融部が形成される。この際、ろう材溶融部は、第1金属部材、第2金属部材及び母材溶融部に密着接合するように形成される。
【0038】
ろう材溶融部を設けることで、接合部材の接合強度を、より一層優れたものにすることができる。すなわち、ろう材溶融部は、母材溶融部の周囲において、第1金属部材及び第2金属部材と密着接合している。接合部の幅が実質的に広くなり、接合強度が高くなる。この点、ろう材溶融部は、補助接合部として機能するということができる。
【0039】
また、ろう材溶融部を設けることで接合部の気密性及び水密性を高くすることが可能になる。この点を、
図1(a)及び(b)を用いて説明する。
図1(a)は、ろう材及びろう材溶融部をもたない接合部材の断面図であり、
図1(b)は、ろう材及びろう材溶融部を備えた接合部材の断面図である。ろう材溶融部をもたない場合(
図1(a))では、第1金属部材(12)と第2金属部材(14)が、母材溶融部(22)のみを介して接合される。この場合には、金属部材(12、14)の間隙を通って空気や水分が浸入する。また先述したように、レーザ溶接部たる母材溶融部(22)には凝固割れ(26)が生じることがある。凝固割れ(26)は亀裂の一種である。母材溶融部(22)に凝固割れ(26)が生じると、空気や水分が凝固割れ(26)を通って金属部材(12)の上部に浸入してしまう。そのため接合部の気密性及び水密性を確保することができない。これに対して、ろう材溶融部を備えた場合(
図1(b))では、母材溶融部(22)の周囲が、ろう材(16)及び溶ろう材溶融部(24)でシールされている。したがって、たとえ凝固割れ(26)が生じたとしても、気密性及び水密性が確実に確保される。
【0040】
<接合形式>
第1金属部材と第2金属部材の接合形式は、両者がレーザ接合部を介して接合されている限り、種類は限定されない。継手の種類として、重ね継手、T継手、十字継手、角継手、スカーフ継手、ヘリ継手、せぎり継手、フレア継手、当て板継手、及び重ねすみ肉継手などが知られており、いずれであってもよい。
【0041】
重ね継手を備えた接合部材の断面模式図を、
図2(a)及び(b)に示す。
図2(a)は接合部材の全体図であり、
図2(b)は接合部近傍を示す拡大図である。この接合部材(10)では、第1金属部材(12)と第2金属部材(14)とが重ね継手を形成している。すなわち、第1金属部材(12)の第2主面の一部と第2金属部材(14)の主面の一部とが、接合部(20)を介してレーザ接合されている。また第1金属部材(12)の第2主面上、すなわち第1金属部材(12)と第2金属部材(14)との間には、シート状のろう材(16)が配置されている。さらに接合部(20)には、母材溶融部(22)と、その周囲に存在するろう材溶融部(24)と、が形成されている。
【0042】
T継手を備えた接合部材の断面模式図を、
図3(a)及び(b)に示す。
図3(a)は接合部材の全体図であり、
図3(b)は接合部近傍を示す拡大図である。この接合部材(10)では、第1金属部材(12)と第2金属部材(14)とがT継手を形成して接合されている。すなわち、第1金属部材(12)の第2主面の一部と第2金属部材(14)の端面とが、接合部(20)を介してレーザ接合されている。また第1金属部材の第2主面上には、シート状ろう材(16)が配置されている。さらに接合部(20)には、母材溶融部(22)と、その周囲に存在するろう材溶融部(24)と、が形成されている。
【0043】
2.接合部材の製造方法
本実施形態の接合部材の製造方法は、以下の工程;第1主面及び第2主面を有する第1金属部材、第2金属部材、及びシート状ろう材を準備する工程(準備工程)、準備した第1金属部材の第2主面側にシート状ろう材及び第2金属部材がこの順に配置されてなる積層体を作製する工程(積層工程)、及び積層体を構成する第1金属部材の第1主面にレーザ光を照射して、接合界面を介して第1金属部材の少なくとも一部に第2金属部材をレーザ溶接する工程(レーザ溶接工程)、を備える。またレーザ溶接する工程で、第1金属部材、第2金属部材及びシート状ろう材の一部を溶融一体化させて、レーザ溶接部の接合界面を貫通する母材溶融部を形成するとともに、前記接合界面周囲のシート状ろう材を溶融させて、ろう材溶融部を形成する。各工程の詳細について以下に説明する。
【0044】
<準備工程>
準備工程では、第1主面及び第2主面を有する第1金属部材、第2金属部材、及びシート状ろう材を準備する。第1金属部材、第2金属部材及びシート状ろう材については先述したとおりである。例えば、第1金属部材及びシート状ろう材として、これらが圧延接合されてなるクラッド材を用いることができ、その場合には、第1金属部材とシート状ろう材を一体化物として準備することができる。また、第2金属部材及びシート状ろう材として、これらが圧延接合されてなるクラッド材を用いることができ、その場合には、第2金属部材とシート状ろう材を一体化物として準備することができる。さらに、自立シートたる箔状のろう材を用いることができ、その場合には、第1金属部材、第2金属部材、及びシート状ろう材をそれぞれ別個に準備すればよい。
【0045】
<積層工程>
積層工程では、準備した第1金属部材の第2主面側にシート状ろう材及び第2金属部材がこの順に配置されてなる積層体を作製する。この際、好ましくは、第1金属部材と第2金属部材の間に、シート状ろう材とともにフラックスを配置する。フラックスは、金属部材とろう材との接合を促す成分である。金属部材表面には自然酸化膜が生成していることがある。このような酸化膜は、金属部材とろう材との間の金属接触を阻害して、接合不良を引き起こす恐れがある。ろう材より融点の低いフラックスを用いると、このフラックスが、溶接時に金属部材表面を濡らして、表面酸化膜を破壊する。そのため接合不良を抑制することができる。
【0046】
フラックスは、ろう材より融点が低く、且つ金属部材の表面酸化膜を破壊できるものであれば、限定されない。このようなフラックスとして、非腐食性のフッ化物系フラックスや腐食性の塩化物フラックスを挙げることができ、非腐食性フラックスが好適である。非腐食性フラックスは、金属部材やろう材を腐食する恐れがない。また溶接後の接合部材を洗浄してフラックスを除去する必要がなくなり、製造コスト低減につながる。非腐食性フラックスとして、例えばNOCOLOK(登録商標)が挙げられる。
【0047】
積層体の作製手順は、特に限定されない。第1金属部材及びシート状ろう材が圧延接合されてなるクラッド材を用いる場合には、クラッド材のろう材表面にフラックスを塗布し、その上に第2金属部材を載置すればよい。第2金属部材及びシート状ろう材が圧延接合されてなるクラッド材を用いる場合には、クラッド材のろう材表面にフラックスを塗布し、その上に第1金属部材を載置すればよい。自立シートたる箔状ろう材を用いる場合には、ろう材表面にフラックスを塗布した後に第1金属部材、ろう材、第2部金属材の順に置けばよい。あるいは第1金属部材と第2金属材の主面にフラックスを塗布し、塗布したフラックスの間に箔状ろう材を置いてもよい。さらには、第1金属部材表面に、公知の薄膜形成法を用いて被膜状ろう材を成膜し、被膜状ろう材表面にフラックスを塗布した後に第2金属部材を載置する手段も考えられる。
【0048】
<レーザ溶接工程>
レーザ溶接工程では、積層体を構成する第1金属部材の第1主面にレーザ光を照射して、接合界面を介して第1金属部材の少なくとも一部に第2金属部材をレーザ溶接する。
この工程では、第1金属部材、第2金属部材及びシート状ろう材の一部を溶融一体化させて、レーザ溶接部の接合界面を貫通する母材溶融部を形成するとともに、前記接合界面周囲のシート状ろう材を溶融させて、ろう材溶融部を形成する。
【0049】
レーザ溶接工程を、
図4を用いて説明する。この工程では、積層体を構成する第1金属部材(12)の第1主面(図中の上面)にレーザ光(28)を照射して、第1金属部材(12)の少なくとも一部に第2金属部材(14)をレーザ溶接する。レーザ光(28)は図中矢印で示す方向に移動する。この工程で、第1金属部材(12)、第2金属部材(14)及びシート状ろう材(16)の一部を溶融一体化させて母材溶融部(22)を形成するとともに、その周囲のシート状ろう材(16)を溶融させて、ろう材溶融部(24)を形成する。
【0050】
金属部材の主面にレーザ光を照射すると、レーザエネルギーの一部が板材に吸収されて、その表面が急速に加熱される。生じた熱は伝導により板材内部に伝達される。また板材表面は瞬時に溶融・気化して溶融池が形成されるとともに、蒸気圧の高い成分が蒸発物となって噴出して溶融池の表面にくぼみを形成する。くぼみに照射されたレーザ光は、溶融池に吸収され、溶融・気化及び蒸発物の噴出を繰り返して、溶融池の中心に深穴(キーホール)を形成する。レーザ光の移動に伴いキーホールは移動する。また溶融池は急冷されて凝固する。冷却凝固した溶融池を溶接部又は溶接ビードという。溶融部の深さを溶け込み深さという。
【0051】
レーザ照射の条件を調整することで、溶け込み深さを第1金属部材の厚さより大きくすることができる。この場合には、溶融池が第1金属部材及びろう材を貫通して、第2金属部材の内部にまで到達する。すなわち第1金属部材、第2金属部材及びろう材の一部を溶融させ、その結果、第1金属部材と第2金属部材とを重ね貫通溶接することができる。溶融池内の溶湯は対流しており、この対流により、溶湯を構成する金属部材とろう材の成分が混じり合う。溶融池が冷却凝固すると、金属部材とろう材の各成分を含む母材溶融部が形成される。母材溶融部は第1金属部材と第2金属部材にまたがって形成されるため、両者の界面に接合部を形成する。この接合部が形成される界面が接合界面である。
【0052】
レーザ溶接の際、溶融池周囲の金属部材は、熱影響を受けるものの、溶融しない。一方で融点の低いろう材は溶融する。すなわちレーザ溶接により形成された溶融部をヒートブリッジとして、ろう材とフラックスに熱が伝わり、ろう材とフラックスが溶融及び濡れ拡がることで、ろう付けされる。重ね継手を作製する場合には、第1金属部材と第2金属部材の隙間を充填するようにろう材が濡れ拡がる。濡れ拡がったろう材は冷却してろう材溶融部を形成する。
【0053】
なお母材溶融部及びろう材溶融部は、接合部材断面において組織観察や組成分析を行うことでその領域を調べることができる。例えば、母材溶融部は、その組成が第1金属部材、第2金属部材及びろう材とは異なっている。また急冷しているため、その組織が他の部位とは異なっている。したがって組織及び組成を調べることで、母材溶融部及びろう材溶融部の領域を確定することができる。
【0054】
レーザ溶接の条件は、本実施形態の接合部材を製造できる限り、特に限定されない。レーザ源として、CO2レーザ、YAGレーザ、半導体レーザ、LD励起固体レーザ、ファイバーレーザなどの公知のレーザを用いることができる。またレーザ発振は連続発振でもよく、あるいはパルス発振であってもよい。さらにレーザ出力、焦点距離、及び溶接速度などの条件も、本実施形態の接合部材が得られる限り、限定されない。
【0055】
レーザ溶接の最適条件は、金属部材やろう材の材質や厚さに依存するため、これを一概に決めることはできない。例えば、溶接速度については、これを0.5~5m/分にしてもよいが、これに限定される訳ではない。
【0056】
必要に応じて、レーザ溶接を経た接合部材を洗浄する洗浄工程を設けてもよい。特に腐食性のフラックスを用いた場合には、洗浄処理を行って残留フラックスを除去することが望ましい。一方で非腐食性のフラックスを用いた場合には、洗浄処理を行わなくてもよい。
【0057】
このようにして本実施形態の接合部材を得ることができる。製造後の接合部材は、母材溶融部とろう材溶融部の両方を備えるが故に、接合部での強度が優れている。また接合部での気密性及び水密性が確実に確保されている。
【0058】
なお、十字継手、角継手、スカーフ継手、ヘリ継手、せぎり継手、フレア継手、当て板継手、及び重ねすみ肉継手を形成する接合部材の一例、及びこれらの接合部材を製造する際にレーザ照射を行う方法のレーザ入射の方向を、
図5~
図19に示す
【実施例0059】
本発明を、以下の実施例及び比較例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
(1)接合部材の作製
[例1]
例1では、第1金属部材及びろう材が接合されたクラッド材と、第2金属部材及びろう材が接合されたクラッド材と、をレーザ溶接して接合部材を作製した。接合部材の作製は、以下の手順で行った。
【0061】
<準備工程>
上材として、A3003材(Al-Mn系合金)とA4343材(Al-Si系合金)とを熱間圧延によって接合した板状クラッド材を準備した。このクラッド材は総厚が1.6mmであり、A4343材の厚さは総厚の約7%であった。また下材として、上材と同じクラッド材を準備した。上材(クラッド材)のA3003材が第1金属部材に相当し、A4343材がろう材に相当する。また下材(クラッド材)のA3003材が第2金属部材に相当し、A4343材がろう材に相当する。
【0062】
<積層工程>
上材と下材とを、
図20に示すようにフラックスを介して積層した。具体的には、上材のろう材表面にNOCOLOKフラックスを塗布した。次いで、フラックスを塗布した上材表面と下材のろう材表面とが対向するように、上材及び下材を積層した。得られた積層体は、上から下に向かって、上材[A3003(第1金属部材)/A4343(ろう材)]/フラックス/下材[A4343(ろう材)/A3003(第2金属部材)]の層構成を有していた。
【0063】
<レーザ溶接工程>
積層体に、
図21に示すようにレーザを照射して、上材と下材とを接合した。具体的には、積層体を構成する上材表面の略中央部を、走査しながらレーザ光を照射した。照射は、レーザ出力2.0kWの条件で行った。これにより上材と下材とがレーザ照射部で接合した接合部材が得られた。
【0064】
[例2]
例2では、第1金属部材及びろう材が接合されたクラッド材と、第2金属部材と、をレーザ溶接して接合部材を作製した。接合部材の作製は、以下の手順で行った。
【0065】
<準備工程>
上材として、A3003材とA4343材とを熱間圧延によって接合した板状クラッド材を準備した。このクラッド材は総厚が2.0mmであり、A4343材の厚さは総厚の約7%であった。また下材としてA6063押出材を準備した。上材(クラッド材)のA3003材が第1金属部材に相当し、A4343材がろう材に相当する。また下材(A6063押出材)が第2金属部材に相当する。
【0066】
<積層工程>
上材と下材とを、
図22に示すようにフラックスを介して積層した。具体的には、上材のろう材表面にNOCOLOKフラックスを塗布した。次いで、フラックスを塗布した上材表面と下材表面とが対向するように、上材及び下材を積層した。得られた積層体は、上から下に向かって、上材[A3003(第1金属部材)/A4343(ろう材)]/フラックス/下材[A6003(第2金属部材)]の層構成を有していた。
【0067】
<レーザ溶接工程>
積層体に、
図23に示すようにレーザを照射して、上材と下材とを接合した。照射は、レーザ出力2.6kWの条件で行った。これにより上材と下材とがレーザ照射部で接合した接合部材が得られた。
【0068】
[例3]
例3では、第1金属部材と第2金属部材とを、箔状ろう材を介してレーザ溶接した。接合部材の作製は、以下の手順で行った。
【0069】
<準備工程>
上材としてA3003板材(厚さ2.0mm)を準備し、下材としてA6063押出材(厚さ2.0mm)を準備した。A3003板材(上材)が第1金属部材に相当し、A6063押出材(下材)が第2金属部材に相当する。また、ろう材としてA4045箔材(厚さ0.06mm)を準備した。
【0070】
<積層工程>
上材と下材とを、
図24に示すように、ろう材及びフラックスを介して積層した。具体的には、上材及びろう材のそれぞれの表面にNOCOLOKフラックスを塗布した。フラックスが塗布された上材表面とフラックスが塗布されないろう材表面とが対向するように、上材及びろう材を積層し、さらに、フラックスが塗布されたろう材表面と下材表面とが対向するように、ろう材及び下材を積層した。得られた積層体は、上から下に向かって、上材[A3003板材(第1金属部材)]/フラックス/A4045箔材(ろう材)/フラックス/下材[A6063押出材(第2金属部材)]の層構成を有していた。
【0071】
<レーザ溶接工程>
積層体に、
図25に示すようにレーザを照射して、上材と下材とを接合した。照射は、レーザ出力2.4kWの条件で行った。これにより上材と下材とがレーザ照射部で接合した接合部材が得られた。
【0072】
[例4(比較)]
例4では、第1金属部材と第2金属部材とを、ろう材及びフラックスのいずれも用いずにレーザ溶接した。接合部材の作製は、以下の手順で行った。
【0073】
<準備工程>
上材としてA3003板材(厚さ2.0mm)を準備し、下材としてA6063押出材(厚さ2.0mm)を準備した。A3003板材(上材)が第1金属部材に相当し、A6063押出材(下材)が第2金属部材に相当する。
【0074】
<積層工程>
上材と下材とを、
図26に示すように積層した。得られた積層体は、上から下に向かって、上材[A3003板材(第1金属部材)]/下材[A6063押出材(第2金属部材)]の層構成を有していた。
【0075】
<レーザ溶接工程>
積層体に、
図27に示すようにレーザを照射して、上材と下材とを接合した。照射は、レーザ出力2.2kWの条件で行った。これにより上材と下材とがレーザ照射部で接合した接合部材が得られた。
【0076】
例1~例4について、接合部材作製に用いた使用部材、及びアルミニウム合金の化学成分を、表1及び表2に示す。
【0077】
【0078】
【0079】
(2)接合部材の評価
例1~例4で得られた接合部材について、その接合部断面を観察した。まず、湿式砥石切断機を使用して、接合部材を接合面に垂直な方向に切断したのち研磨を行い、接合部の観察用サンプルを作製した。このサンプル切断面を、光学顕微鏡を使用して観察した。
【0080】
(3)評価結果
例1の接合部材断面の光学顕微鏡像を
図28及び
図29に示す。
図28は接合部材全体を示し、
図29は接合部の近傍を示す。同様にして、例2の接合部材断面の光学顕微鏡像を
図30及び
図31に示し、例3の接合部材断面の光学顕微鏡像を
図32及び
図33に示し、例4の接合部材断面の光学顕微鏡像を
図34及び
図35に示す。
【0081】
図28及び
図29に示されるように、例1の接合部材は、その接合部に、芯材(A3003材)と皮材(A4343材)が溶融凝固した母材溶融部が形成されていた。この母材溶融部は、上板と下板の芯材を一体化するように強固に接合していた。また母材溶融部の周囲には、皮材(A4343)が溶融凝固したろう材溶融部が形成されていた。このろう材溶融部は母材溶融部をシールしていた。例2及び例3の接合部材についても、例1と同様の結果が得られ、接合部には、母材溶融部と、その周囲をシールするろう材溶融部が形成されていた。
【0082】
一方で、ろう材及びフラックスを用いなかった例4の接合部材では、接合部には、金属部材が溶融凝固した母材溶融部類似の組織が観察されるものの、その周囲にはろう材溶融部が見られなかった。そのため、母材溶融部類似の組織はシールされておらず、大気に暴露されていた。
【0083】
以上の結果から、本実施形態によれば、優れた接合強度を有するとともに、気密性及び水密性に優れた接合部材を得られることが理解される。