(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083985
(43)【公開日】2022-06-06
(54)【発明の名称】車両の車輪スリップを制御するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20220530BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20220530BHJP
B60T 8/1761 20060101ALI20220530BHJP
B60T 8/175 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
B60W30/02
B60T8/17 C
B60T8/1761
B60T8/175
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021184051
(22)【出願日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】20209772.1
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】アディシャ・アリカー
(72)【発明者】
【氏名】レオ・レイン
(72)【発明者】
【氏名】レオン・ヘンダーソン
(72)【発明者】
【氏名】シドハント・レイ
【テーマコード(参考)】
3D241
3D246
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241BC01
3D241CA15
3D241CC01
3D241CC08
3D241CD12
3D241CE02
3D241DB27Z
3D241DB32Z
3D241DC47Z
3D246DA01
3D246EA05
3D246EA13
3D246GB01
3D246GB02
3D246GB39
3D246GB40
3D246GC14
3D246HA64A
3D246HA72A
3D246JA15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、車両の車輪のスリップを制御するためのシステムおよび車両制御ユニットで実行される方法を提供する。
【解決手段】車両は、オープンディファレンシャル108を介して少なくとも一次アクチュエータ106によって駆動される少なくとも2つの車輪102a、102bを含む。一次アクチュエータは、一次アクチュエータのスリップがλ
emとなる速度で回転するように制御される。符号付き車輪スリップ制限λ
limは、一次アクチュエータのスリップλ
emに、λ
lim>λ
emになるよう、設定可能な値を加えることによって決定される。少なくとも2つの車輪は、それぞれの車輪スリップが符号付き車輪スリップ制限λ
lim未満のλ
l、λ
rとなる車輪速度で回転するように制御される。λ
l、λ
rおよびλ
emのそれぞれは符号付き数値である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(100)の車輪スリップを制御するためのシステム(104)であって、
前記車両は、オープンディファレンシャル(108)を介して少なくとも1つの一次アクチュエータ(106)によって駆動される少なくとも2つの車輪(102、102a、102b)と、それぞれが個別の車輪に追加的な力を与えるための個別の二次アクチュエータ(112a、112b)とを含み、
前記システムは、車両制御ユニットVCU(110)および運動支援装置MSD(120)を含み、
前記VCU(110)は、
- 前記一次アクチュエータ(106)に、前記一次アクチュエータのスリップがλemとなる速度で回転するように要求し、
- 設定可能な値を前記一次アクチュエータのスリップλemに加えることによって符号付き車輪スリップ制限λlim(>λem)を決定し、
- 前記車両の前記少なくとも2つの車輪(102a、102b)を、それぞれの車輪スリップが前記符号付き車輪スリップ制限λlim未満のλl、λrとなる車輪速度で回転するように制御するための制御信号を前記運動支援装置MSD(120)に送信する、
ように構成され、λl、λrおよびλemのそれぞれは符号付き数値であり、
前記MSD(120)は、
- 前記VCU(110)から前記制御信号を受信し、
- 前記少なくとも2つの車輪の現在のそれぞれの車輪スリップλl、λr、または前記それぞれの車輪スリップλl、λrに変換可能な現在のそれぞれの回転速度を計算し、
- 受信した制御信号に基づき、前記現在のそれぞれの車輪スリップλl、λrのうちの1つが前記符号付き車輪スリップ制限λlimを超過している場合、超過している車輪スリップを有する車輪に対してそれぞれの二次アクチュエータ(112a、112b)を作動させてトルクを他の車輪に伝達する、
ように構成されている、
システム。
【請求項2】
前記設定可能な値は、0<λthr<λemとして選択される閾値λthrである、請求項1に記載のシステム(104)。
【請求項3】
前記閾値λthrが固定値である、請求項2に記載のシステム(104)。
【請求項4】
前記VCU(110)は、前記車両(100)の現在の速度などの1つまたは複数の車両運転パラメータの現在の状態に適切に基づいて、前記設定可能な値を動的に設定するように構成されている、請求項1または2に記載のシステム(104)。
【請求項5】
前記設定可能な値は、前記一次アクチュエータ(106)のスリップλemの関数から得られる、請求項1~4のいずれか1項に記載のシステム(104)。
【請求項6】
前記設定可能な値は、前記一次アクチュエータ(106)のスリップλemを索引として使用したルックアップテーブルから取得される、請求項1~4のいずれか1項に記載のシステム(104)。
【請求項7】
前記符号付き車輪スリップ制限λlim=λem+λthrであり、λthrは0<λthr<λemとして選択される定義済みの閾値である、請求項1~6のいずれか1項に記載のシステム(104)。
【請求項8】
前記車両(100)が加速中または減速中である場合、前記VCU(110)は、前記少なくとも2つの車輪(102a、102b)を、それぞれの車輪スリップがゼロ以上で且つ2λemより小さいλl、λrとなる車輪速度で回転するように制御するように構成されている、請求項1~7のいずれか1項に記載のシステム(104)。
【請求項9】
前記VCU(110)は、i
gを変速比、i
fdを最終減速比、Rを車輪半径、v
xを車両速度としたとき、下式に基づき、前記一次アクチュエータ(106)に、前記一次アクチュエータのスリップがλ
emとなる回転速度ω
emで回転するように要求するように構成されている、請求項1~8のいずれか1項に記載のシステム(104)。
【数1】
【請求項10】
前記一次アクチュエータ(106)が電気機械(106)であり、および/または前記二次アクチュエータ(112a、112b)が前記個別の車輪に摩擦力を提供するための常用ブレーキ(112a、112b)である、請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム(104)。
【請求項11】
車両の車輪スリップを制御するために車両制御ユニットVCUで実行される方法(200)であって、
前記車両は、オープンディファレンシャルを介して少なくとも1つの一次アクチュエータによって駆動される少なくとも2つの車輪を含み、
前記方法は、
- 前記一次アクチュエータに、前記一次アクチュエータのスリップがλemとなる速度で回転するように要求すること(S1)、
- 設定可能な値を前記一次アクチュエータの前記スリップλemに加えることによって符号付き車輪スリップ制限λlim(>λem)を決定すること(S2)、および、
- 前記車両の前記少なくとも2つの車輪を、それぞれの車輪スリップが前記符号付き車輪スリップ制限λlim未満のλl、λrとなる車輪速度で回転するように制御すること(S3)、
を含み、λl、λrおよびλemのそれぞれが符号付き数値である、
方法(200)。
【請求項12】
前記設定可能な値は、0<λthr<λemとして選択される閾値λthrである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記閾値λthrが固定値である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記車両の現在の速度などの1つまたは複数の車両運転パラメータの現在の状態に適切に基づいて前記設定可能な値を動的に設定することを含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項15】
前記設定可能な値は、前記一次アクチュエータのスリップλemの関数から得られる、請求項11~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記設定可能な値は、前記一次アクチュエータのスリップλemを索引として使用したルックアップテーブルから取得される、請求項11~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記符号付き車輪スリップ制限λlim=λem+λthrであり、λthrは0<λthr<λemとして選択される定義済みの閾値である、請求項11~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
- 前記車両が加速中または減速中である場合、前記少なくとも2つの車輪を、それぞれの車輪スリップがゼロ以上で且つ2λemより小さいλl、λrとなる車輪速度で回転するように制御すること、
をさらに含む、請求項11~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
- i
gを変速比、i
fdを最終減速比、Rを車輪半径、v
xを車両速度としたとき、下式に基づき、前記一次アクチュエータを、前記一次アクチュエータのスリップがλ
emとなる回転速度ω
emで回転するように制御すること、
をさらに含む、請求項11~18のいずれか1項に記載の方法。
【数2】
【請求項20】
前記一次アクチュエータ(106)が電気機械(106)である、請求項11~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
プログラムコード手段(720)を含むコンピュータプログラムであって、前記プログラムコード手段(720)は、前記プログラムがコンピュータ上で、または車両制御ユニットVCU(110)の処理回路上で実行されると、請求項11~19のいずれか1項に記載の動作を実施する、コンピュータプログラム。
【請求項22】
プログラムコード手段(720)を含むコンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体(710)であって、前記プログラムコード手段(720)は、前記プログラムがコンピュータ上で、または車両制御ユニットVCU(110)の処理回路上で実行されると、請求項11~19のいずれか1項に記載の動作を実施する、コンピュータ可読媒体(710)。
【請求項23】
車両(100)の車輪スリップを制御するための車両制御ユニットVCU(110)であって、請求項11~19のいずれか1項に記載の方法を実施するように構成されている、車両制御ユニットVCU(110)。
【請求項24】
請求項1~10のいずれか1項に記載のシステム(104)、または請求項23に記載の車両制御ユニットVCU(110)を含む車両(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の車輪スリップを制御するためのシステムに関する。また、本開示は、車両の車輪スリップを制御するために車両制御ユニットで実行される方法に関する。さらに、本開示は、コンピュータプログラム、コンピュータ可読媒体および車両制御ユニットに関する。さらにまた、本開示は、そのようなシステムまたはそのような車両制御ユニットを含む車両に関する。
【0002】
本発明は、トラック、バス、および建設機械などの大型車両に適用することができる。本発明は、セミトレーラ車両やトラックなどの貨物輸送車両に関して説明されるが、本発明は、そのような特定の車両に限定されず、乗用車などの他の車両にも用いることができる。
【背景技術】
【0003】
大型車両のブレーキシステムは、安全な車両運転のための重要な要素である。ブレーキシステムは、必要なときに車両の速度を制限するだけではなく、車両の安定性を維持する上でも重要な役割を果たしている。例えば、車両の左車輪が道路の凍結した部分を走行することで摩擦やグリップが低下する一方で、対応する右車輪が道路の滑らない部分を走行する場合、ブレーキシステムは、発生したスリップ状態を補償し、打ち消すように作動することができる。
【0004】
特定のタイヤ力を要求するための一般的な手法は、アクチュエータレベルでトルク制御を用いることである。しかし、このような手法には重大な性能上の限界がある。安全上危険または過剰なスリップ状態が発生した場合、関連する安全機能(トラクションコントロール、アンチロックブレーキなど)が介入し、スリップを制御状態に戻すためにトルクオーバーライドを要求する。この場合の問題は、アクチュエータの主制御とスリップ制御とが2つの異なるコントローラに割り当てられるため、両者の間の通信に要する待ち時間がスリップ制御の性能を著しく制限してしまうことである。
【0005】
上述の手法に対する1つの解決策として、トルク要求を車輪スリップ要求に変換するためのタイヤモデルを使用することが考えられる。すなわち、アクチュエータレベルで制御される特定のタイヤ力を求めるのではなく、代わりに車輪スリップ、すなわち、車輪の回転速度を制御することで、より速い制御応答を得ることができる。しかしながら、左右の車輪がオープンディファレンシャル(オープン差動装置)を介して電気機械によって駆動される場合、分割摩擦シナリオ(分割-μシナリオと呼ばれることもある)の間、アクチュエータ間のスリップ制限やスリップ目標の調整が課題となる。アクチュエータのスリップ制限が適切に選択されないと、トラクションの喪失および/またはアクチュエータ同士の「対立(fighting)」がもたらされ得る。
このため、オープンディファレンシャルを介して電気機械によって駆動される左右の車輪を含む車両のための改良された車輪スリップ制御を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、従来技術の欠点を軽減するシステムを提供することである。この目的および他の目的は、以下の開示で明らかになるように、添付の独立請求項1で定義されるようなシステムによって達成される。
【0007】
本発明の概念は、符号付き車輪スリップ制限を設定し、車両の一方の側の車輪の車輪スリップが符号付き車輪スリップ制限を超過した場合にアクチュエータ(常用ブレーキなど)を作動させることによって、車両の他方の側の車輪にトルクを効果的に伝達することができるという認識に基づいている。このようにすることで、アクチュエータ同士が対立するリスクを効果的に低減することができる。以下では、様々な態様および例示的な実施形態について説明する。
【0008】
本開示の第1の態様によれば、車両の車輪スリップを制御するためのシステムが提供される。車両は、オープンディファレンシャルを介して少なくとも1つの一次アクチュエータ(電気機械など)によって駆動される少なくとも2つの車輪と、それぞれが個別の車輪に追加的な力(摩擦力など)を与えるための個別の二次アクチュエータ(常用ブレーキ)とを含み、
前記システムは、ビークルコントロールユニット(車両制御ユニット)VCUおよびモーションサポートデバイス(運動支援装置)MSDを含み、
VCUは、
- 一次アクチュエータに、一次アクチュエータのスリップがλemとなる速度で回転するように要求し、
- 設定可能な値を一次アクチュエータのスリップλemに加えることによって符号付き車輪スリップ制限λlim(>λem)を決定し、
- 前記車両の前記少なくとも2つの車輪を、それぞれの車輪スリップが符号付き車輪スリップ制限λlim未満のλl、λrとなる車輪速度で回転するように制御するための制御信号を運動支援装置MSDに送信する、
ように構成され、ここで、λl、λrおよびλemのそれぞれは符号付き数値であり、
MSDは、
- VCUから制御信号を受信し、
- 前記少なくとも2つの車輪の現在のそれぞれの車輪スリップλl、λr、または前記それぞれの車輪スリップλl、λrに変換可能な現在のそれぞれの回転速度を計算し、
- 受信した制御信号に基づき、現在のそれぞれの車輪スリップλl、λrのうちの1つが符号付き車輪スリップ制限λlimを超過している場合、超過している車輪スリップを有する車輪に対してそれぞれの二次アクチュエータを作動させてトルクを他の車輪に伝達する、
ように構成されている。
【0009】
前記少なくとも2つの車輪は、例えば、オープンディファレンシャルを介して一次アクチュエータによって駆動される左車輪および右車輪であってよい。したがって、簡略化のため、本開示において説明される車輪スリップは、λlおよびλrと表記されており、添字「l」および「r」は、「左側」および「右側」であることを容易に理解可能にするために選択されている。しかしながら、本発明は、左右の車輪に特に限定されないことを理解されたい。一般的な発明概念は、複数の車軸またはすべての車輪がオープンディファレンシャルを介して駆動される実施形態で実施することも可能である。例えば、一般的な発明概念は、すべての車輪がオープンディファレンシャルを介して駆動される全輪駆動車両にも適切に使用され得る。したがって、符号付き車輪スリップ制限λlimは、2つの車輪だけではなく、すべての車輪に関連することになる。別の例示的な実施形態は、多軸駆動であり、第1の駆動軸および第2の駆動軸は、それらの車輪間ディファレンシャルはロックされている(左右の車輪は、個々の車軸において同じ速度を有する)が、車軸間ディファレンシャルはロックされていない(第1の駆動軸および第2の駆動軸の平均速度は同じである必要はない)。一般的な発明概念は、このような例示的な実施形態に対しても実施することが可能であり、符号付き車輪スリップ制限λlimは、2つの駆動軸のすべての車輪に送信される。
【0010】
したがって、明確化のため、本開示における説明は、2つの車輪に焦点をあてており、2つのラムダのみが象徴的にλlおよびλrとして本開示の文章中に含まれているが、一般的な発明概念は、2つ以上の車輪に適用することができ、MSDは、個々のそのような車輪の車輪スリップを制御するように構成され得ることを理解されたい。
【0011】
また、一次アクチュエータは、電気によって駆動される車両の電動機などの電気機械が適切であり得るが(したがって、一次アクチュエータのスリップλemに添字「em」が使用されている)、他の一次アクチュエータも考えれることを理解されたい。例えば、一次アクチュエータは、ディーゼルエンジンなどの内燃機関やリターダーであってもよい。
【0012】
二次アクチュエータは、それぞれが前記少なくとも2つの車輪のいずれかに関連し、車輪に摩擦力を与えるため常用ブレーキであることが適切であり得る。しかしながら、二次アクチュエータは、超過した車輪スリップを有する車輪から他の1つまたは複数の車輪へトルクを伝達するように作動することができる任意の他の適切なアクチュエータであってもよい。
【0013】
以上から、様々な例示的な実施形態が考えられることが明らかであろう。そのうちの1つは、例えば、次のようであり得る。少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、車両の車輪スリップを制御するためのシステムが提供され、車両は、オープンディファレンシャルを介して少なくとも1つの電気機械によって駆動される左右の車輪と、それぞれ左右の車輪に摩擦力を提供するための左右の常用ブレーキとを含み、
前記システムは、車両制御ユニットVCUおよび運動支援装置MSDを含み、
VCUは、
- 電気機械に電気機械のスリップがλemとなる機械速度で回転するように要求し、
- 設定可能な値を電気機械のスリップλemに加えることによって符号付き車輪スリップ制限λlim(>λem)を決定し、
- 車両の左車輪および右車輪を、それぞれの車輪スリップが符号付き車輪スリップ制限λlim未満のλl、λrとなる車輪速度で回転するように制御するための制御信号を運動支援装置MSDに送信する、
ように構成され、ここで、λl、λrおよびλemのそれぞれは符号付き数値であり、
MSDは、
- VCUから制御信号を受信し、
- 左車輪の現在の車輪スリップλlおよび右車輪の現在の車輪スリップλr、または車輪スリップλl、λrに変換可能な現在のそれぞれの回転速度を計算し、
- 受信した制御信号に基づき、左車輪の現在の車輪スリップλlおよび右車輪の現在の車輪スリップλrのうちの1つが符号付き車輪スリップ制限λlimを超過している場合、超過している車輪スリップを有する車輪に対してそれぞれの常用ブレーキを作動させてトルクを他の車輪に伝達する、
ように構成されている。
【0014】
以下では、便宜上、主に電気機械である一次アクチュエータ、常用ブレーキである二次アクチュエータ、および左右の車輪である少なくとも2つの車輪に的を絞って説明する。しかしながら、上記の説明を考慮すれば、説明される実施形態および特徴が、一次アクチュエータ、二次アクチュエータ、および一次アクチュエータによって駆動される少なくとも2つの車輪の他の集合体に対しても容易に実施可能であることは理解されよう。
【0015】
オープンディファレンシャルを介して電気機械などの一次アクチュエータによって駆動されるn個の車輪を有する車両の場合、車輪スリップは、それらの平均が一次アクチュエータのスリップλ
emに等しくなり得る。
【数1】
【0016】
したがって、オープンディファレンシャルを介して電気機械などの一次アクチュエータによって駆動される左右の車輪を有する車両の場合、車輪スリップλ
lおよびλ
rは、それらの平均が電気機械のスリップλ
emに等しくなり得る。
【数2】
【0017】
つまり、個々の車輪スリップλlおよびλrは、電気機械のスリップλemに等しくてもよいし、車輪スリップのうちの一方(例えばλl)がλemより大きく、他方(例えばλr)がλemより小さくてもよい。車輪スリップλlおよびλrが、許容範囲内において電気機械のスリップλemから逸脱しているだけであれば、MSDは、いかなる修正アクションに介入する必要はない。しかしながら、逸脱が許容範囲外である場合、すなわち、車輪スリップのうちの一方が符号付き車輪スリップ制限λlimを超過した場合、MSDは、トルクを他方の車輪に伝達するために修正アクションを取ることになる。したがって、低摩擦側の車輪には、トルクを高摩擦側の車輪に伝達するために常用ブレーキのアクションが施されることになる。これにより、オープンディファレンシャルを介して駆動される車輪に対する効果的なスリップ制御が達成され、トラクションの損失やアクチュエータ(ブレーキアクチュエータなど)が互いに「対立する」リスクが低減され得る。
【0018】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、設定可能な値は、0<λthr<λemとして選択される閾値λthrである。下限は、車輪の車輪スリップが関連する常用ブレーキを使用してスリップ制御を開始する前のλemより大きいことを保証する。これは、スリップ制御が電気機械によってのみ実施される際に、関連する常用ブレーキが邪魔しないことを保証する。上限は、車輪の車輪スリップが2λemより小さいことを保証する。これは、車輪の1つ(すなわち、低摩擦側の車輪)に対するトラクションが利用できない場合の最悪のケースのシナリオである。
【0019】
以上のことから、符号付き車輪スリップ制限λlimを定義する簡単な方法は、λlim=λem+λthrであり、λthrは、0<λthr<λemとして選択される定義済みの閾値であることが理解され得る。他の方法は、本開示のさらに後で触れる。
【0020】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、閾値λthrは固定値である。これは、符号付き車輪スリップ制限λlimを設定するための簡単な方法を提供する。固定値は、例えば、特定の車両およびタイヤに対する試験によって実験的に決定され得る。固定値は、例えば、0.03~0.07や0.04~0.06など、0.02~0.08の範囲内のどこかに設定され得る。少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、閾値λthrの値は、0.05であってもよい。
【0021】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、VCUは、車両の現在の速度などの1つまたは複数の車両運転パラメータの現在の状態に適切に基づいて、設定可能な値を動的に設定するように構成される。このことは、車両の速度が高くなるとスリップ制御がますます重要になり得ることから、有利な点である。例えば、設定可能な値は、車両の速度が高いほど小さい値に(すなわち、電気機械のスリップλemと比較して車輪スリップλl、λrの許容逸脱がより小さく)設定され、それとは逆に、車両の速度が低いほど大きい値に(すなわち、許容逸脱がより大きく)設定され得る。換言すれば、設定可能な値が動的に設定され得るので、(設定可能な値を電気機械のスリップλemに加えることによって得られる)符号付き車輪スリップ制限λlimもまた動的に設定され得る。
【0022】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、設定可能な値は、一次アクチュエータのスリップλemの関数から得られる。すなわち、一次アクチュエータが電気機械である場合、設定可能な値は、電気機械のスリップλemの関数から得られる。このことは、様々な異なる構成の選択肢を提供する点で有利である。例えば、設定可能な値は、k+xλem
yとして設定されてもよく、k、xおよびyは、電気機械のスリップλemに対してどのような設定可能な値を設定したいかに応じて異なる数値で提供されてもよい。いくつかの例示的な実施形態において、符号付き車輪スリップ制限λlimは、電気機械のスリップλemの単調増加関数であってもよい。
【0023】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、設定可能な値は、一次アクチュエータのスリップλemを索引として使用したルックアップテーブルから取得される。すなわち、少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、設定可能な値は、電気機械のスリップλemを使用したルックアップテーブルから取得される。このことは、設定可能な値を設定するための簡単な方法を提供し、また、多くの異なる構成の選択肢を提供する。例えば、いくつかの例示的な実施形態において、設定可能な値は、結果的に得られる符号付き車輪スリップ制限λlimが階段的に変化する関数であってもよい。
【0024】
これまでの説明から理解されるように、少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、車両が加速中または減速中である場合、VCUは、少なくとも2つの車輪(前記左車輪および右車輪など)を、それぞれの車輪スリップがゼロ以上で且つ2λemより小さいλl、λrとなる車輪速度で回転するように制御するように構成される。具体的には、少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、車両が加速中である場合、車輪の正の最大車輪スリップは、λemより大きく且つ2λemより小さくなるように選択され得る。この条件を満たすように固定スリップ制限を選択すると、分割-μ(split-mu)シナリオにおける推進に対して良好に動作するシステムが自動的に得られる。
【0025】
適切な閾値λ
thrを計算するための別の入力は、車両のステアリング角および/または横方向の加速度および/またはヨーレートであってもよい。車両が方向転換する場合、車軸上の1つの車輪が他の車輪より速く回転することが予想され得る。閾値λ
thrは、この現実的に起こり得る「公称の」速度差より大きくなるように適切に設定され得る。方向転換中は、過剰な縦方向のスリップによってタイヤが飽和しないようにλ
thrを小さくし、コーナリングのための十分な横方向の能力を保持するようにしてもよい。
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、VCUは、次式に基づき、電気機械(一次アクチュエータ)に、電気機械のスリップがλ
emとなる回転機械速度ω
emで回転するように要求するように構成される。
【数3】
ここで、i
gは変速比(gear ratio)であり、i
fdは最終減速比(final drive ratio)であり、Rは車輪半径であり、v
xは車両速度である(車輪の座標系における)。
【0026】
したがって、λemは、-1と1の間にあり、電気機械が路面に対してどの程度スリップしているかを定量化している。換言すれば、λemは、車輪スリップλl、λrが等しい場合(例えば、左右両方の車輪が乾いた路面を走行し、および実質的に一様な条件でタイヤに実質的に一様に負荷がかかっている場合)に、個々の車輪が路面に対してどの程度スリップしているかを定量化している。このため、λl=λrである場合、λemは、個々の車輪が路面に対してどの程度スリップしているかを定量化することになる。したがって、VCUが電気機械に電気機械のスリップがλemとなる機械速度ωemで回転するように要求すると、それは、所望の車輪スリップを間接的に要求していると見なすことができる。本開示によれば、実際の車輪スリップは、前記所望の車輪スリップからある程度逸脱することがあるが、許容される逸脱は、制限、すなわち、符号付き車輪スリップ制限λlimに制限される。このように、機械速度に対する要求を、車輪スリップの最大に許容され得る逸脱の設定と組み合わせることにより、オープンディファレンシャルを介して電気機械によって駆動される車輪に対しても良好な車輪スリップ制御が実現され得る。VCUは、vxに関する最新情報を適切に保持することができ、その一方でωemを測定するために速度センサなどが使用され得る。
【0027】
車輪スリップ制限λlimは、符号付き車輪スリップ制限であり、絶対制限値でないことに留意されたい。したがって、推進中に符号付き車輪スリップ制限λlimが適用された場合、符号付き車輪スリップ制限λlimは、正の最大許容スリップを設定する。しかしながら、制動中は、符号付き車輪スリップ制限λlimは、負の最小許容スリップを設定する。推進と制動に対するスリップ制限(正および負のスリップ)は、別々にMSDに送信されてもよく、すなわち、推進と制動の両方に対して同じスリップ制限信号を使用する必要はないことを理解されたい。しかしながら、他の例示的な実施形態では、推進と制動の両方に対して同じスリップ制限信号を使用することも可能である。
【0028】
本開示は、車輪スリップを制御するためのシステムに関するものであり、システムのVCUは、車両の前記少なくとも2つの車輪を、それぞれの車輪スリップが符号付き車輪スリップ制限λ
lim未満のλ
l、λ
rとなる車輪速度で回転するように制御するための制御信号を運動支援装置MSDに送信するが、実際の制御信号は、必ずしもスリップ制限値を含んでいる必要はない。VCUは、例えば、スリップ制限λ
limを速度制限ω
limに計算し直すように構成されてもよく、したがって、制御信号は、スリップ制限値の代わりに速度値を含んでもよい。MSDは、それぞれの車輪の回転速度を計算してもよく、前記回転速度は、下記のスリップ公式を用いることにより、車輪スリップに変換可能である。
【数4】
ここで、λは縦方向の車輪スリップであり、Rωは車輪の回転速度であり、Rはメートル単位の車輪半径であり、ωは車輪の角速度であり、v
xは車輪の縦方向の速度である(車輪の座標系において)。したがって、最終的な結果は同じであり、制御信号は、VCUからの制御信号がスリップ値または速度値を含んでいるかどうかに関係なく、すなわち、MSDがそれぞれ現在の車輪スリップまたは現在の回転速度を計算するかどうかに関係なく、車輪をそれぞれの車輪スリップが符号付き車輪スリップ限界λ
lim未満のλ
l、λ
rとなる車輪速度で回転するように制御する。
【0029】
他の例示的な実施形態において、制御信号は、速度オフセット(速度オフセット=アクチュエータ速度-vx)を含んでもよい。速度オフセットは、実際には、λthr、ステアリング角、ヨーレート、横方向の加速度、車両速度など、任意の数のパラメータの関数であってもよい。
【0030】
本開示の第2の態様によれば、車両の車輪スリップを制御するために車両制御ユニットVCUで実行される方法が提供され、車両は、オープンディファレンシャルを介して少なくとも1つの一次アクチュエータ(電気機械など)によって駆動される少なくとも2つの車輪(左右の車輪など)を含み、
方法は、
- 一次アクチュエータに、一次アクチュエータのスリップがλemとなる速度で回転するように要求すること、
- 設定可能な値を一次アクチュエータのスリップλemに加えることによって符号付き車輪スリップ制限λlim(>λem)を決定すること、および、
- 前記車両の前記少なくとも2つの車輪を、それぞれの車輪スリップが符号付き車輪スリップ制限λlim未満のλl、λrとなる車輪速度で回転するように制御すること、
を含み、λl、λrおよびλemのそれぞれが符号付き数値である。
【0031】
第2の態様の様々な実施形態の利点は、既に説明した第1の態様の対応する実施形態の利点とほぼ同じである。第2の態様の方法の例示的な実施形態は、以下を含む。
【0032】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、設定可能な値は、0<λthr<λemとして選択される閾値λthrである。
【0033】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、閾値λthrは固定値である。
【0034】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、方法は、車両の現在の速度などの1つまたは複数の車両運転パラメータの現在の状態に適切に基づいて、設定可能な値を動的に設定することを含む。
【0035】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、設定可能な値は、一次アクチュエータのスリップλemの関数から得られる。
【0036】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、設定可能な値は、一次アクチュエータのスリップλemを索引として使用したルックアップテーブルから取得される。
【0037】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、符号付き車輪スリップ制限λlim=λem+λthrであり、λthrは0<λthr<λemとして選択される定義済みの閾値である。
【0038】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、方法は、車両が加速中または減速中である場合、なくとも2つの車輪を、それぞれの車輪スリップがゼロ以上で且つ2λemより小さいλl、λrとなる車輪速度で回転するように制御することをさらに含む。少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、車両が加速中である場合、車輪に対する正の最大車輪スリップは、λemより大きく且つ2λemより小さくなるように選択され得る。
【0039】
少なくとも1つの例示的な実施形態によれば、方法は、次式に基づき、一次アクチュエータを、一次アクチュエータのスリップがλ
emになる回転速度ω
emで回転するように制御することをさらに含む。
【数5】
ここで、i
gは変速比であり、i
fdは最終減速比であり、Rは車輪半径であり、v
xは車両速度である。
【0040】
本開示の第3の態様によれば、プログラムコード手段を含むコンピュータプログラムが提供され、プログラムコード手段は、前記プログラムがコンピュータ上で、または車両制御ユニットVCUの処理回路上で実行されると、その任意の実施形態を含む第2の態様による方法を実施する。第3の態様のコンピュータプログラムの利点は、その任意の実施形態を含む他の態様の利点に概ね対応する。
【0041】
本開示の第4の態様によれば、プログラムコード手段を含むコンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体が提供され、プログラムコード手段は、プログラムがコンピュータ上で、または車両制御ユニットVCUの処理回路上で実行されると、その任意の実施形態を含む第2の態様による方法を実施する。第4の態様のコンピュータ可読媒体の利点は、その任意の実施形態を含む他の態様の利点に概ね対応する。
【0042】
本開示の第5の態様によれば、車両の車輪スリップを制御するための車両制御ユニットVCUが提供され、制御ユニットは、その任意の実施形態を含む第2の態様による方法を実施するように構成される。第5の態様のVCUの利点は、その任意の実施形態を含む他の態様の利点に概ね対応する。
【0043】
VCUは、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、プログラマブルデジタル信号プロセッサ、または別のプログラマブルデバイスを含み得る。VCUは、さらにまたは代わりに特定用途向け集積回路、プログラマブルゲートアレイ若しくはプログラマブルアレイ論理、プログラマブル論理デバイスまたはデジタル信号プロセッサを含み得る。VCUが、上述のマイクロプロセッサ、マイクロコントローラまたはプログラマブルデジタル信号プロセッサなどのプログラマブルデバイスを含む場合、プロセッサは、プログラマブルデバイスの動作を制御するコンピュータ実行可能コードをさらに含み得る。
【0044】
本開示の第6の態様によれば、その任意の実施形態を含む第1の態様によるシステム、またはその任意の実施形態を含む第5の態様による車両制御ユニットVCUを含む車両が提供される。第6の態様の車両の利点は、その任意の実施形態を含む他の態様の利点に概ね対応する。
【0045】
一般に、特許請求の範囲で使用されているすべての用語は、本明細書において他に明確に定義されていない限り、当技術分野におけるそれらの通常の意味に従って解釈されるものである。「1つの/前記要素、装置、構成要素、手段、ステップなど」と呼ぶものすべてが、特に明記されていない限り、要素、装置、構成要素、手段、ステップなどのうちの少なくとも1つの例を指しているとしてオープンに解釈されるものである。本明細書で開示されたどの方法のステップも、特に明記されていない限り、開示された順序で正確に実施される必要はない。本発明のさらなる特徴および利点は、添付の特許請求の範囲および以下の説明を検討すれば明らかになろう。当業者には、本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の様々な特徴を組み合わせて、以下に説明された実施形態以外の実施形態を作成できることが理解される。
【0046】
以下、例として示される本発明の実施形態について、添付の図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】本発明の少なくとも1つの例示的な実施形態による車両を示す図である。
【
図2】本発明の少なくとも1つの例示的な実施形態による、車両の車輪スリップを制御するためのシステムを示す図である。
【
図3a】推進シナリオについて、スリップ制御が実施されない場合と本開示に従ってスリップ制御が実施された場合とのスリップの差を概略的に示すグラフである。
【
図3b】推進シナリオについて、スリップ制御が実施されない場合と本開示に従ってスリップ制御が実施された場合とのスリップの差を概略的に示すグラフである。
【
図4a】制動シナリオについて、スリップ制御が実施されない場合と本開示に従ってスリップ制御が実施された場合とのスリップの差を概略的に示すグラフである。
【
図4b】制動シナリオについて、スリップ制御が実施されない場合と本開示に従ってスリップ制御が実施された場合とのスリップの差を概略的に示すグラフである。
【
図5】本発明の例示的な実施形態による方法を概略的に示す図である。
【
図6】本発明の少なくとも1つの例示的な実施形態による制御ユニットを概略的に示す図である。
【
図7】本発明の少なくとも1つの例示的な実施形態によるコンピュータプログラム製品を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明のいくつかの特定の態様が示されている添付の図面を参照して本発明をより詳細に説明する。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で具現化され得るものであり、本明細書に記載された実施形態および態様に限定されるものと解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が十分かつ完全になるように、また本発明の範囲を当業者に完全に伝えるように、例として提示されている。したがって、本発明は、本明細書に記載され、および図面に示された実施形態に限定されないこと、むしろ、当業者には、添付の特許請求の範囲内で多くの変更および修正を加えることができることが理解されよう。同様の参照数字は、明細書全体を通して同様の要素を指している。
【0049】
図1は、本発明の少なくとも1つの例示的な実施形態による車両100を示している。
図1の例示的な図は、トレーラユニット(図示せず)を牽引するためのトラクタユニットを示しており、これらは一緒になってセミトレーラ車両を構成する。しかしながら、本発明は、他のタイプの車両にも適用可能である。例えば、車両は、トラックや、トレーラユニットを牽引するように構成されたドーリーユニットを有するトラックなどの、貨物輸送のための様々なタイプの車両であってもよい。さらに、本発明の概念は、大型車両に限定されず、乗用車などの他の車両でも実施可能であることを理解されたい。
【0050】
図示された車両100は、車輪102に支持されており、そのうちのいくつかは被駆動車輪である。
図1の車両100は、4つの車輪102しか有していないが、本発明の概念は、上述した様々なタイプの車両などのような、より多くの車輪を有する車両にも適用可能である。
【0051】
個々の車輪102または少なくとも車輪のほとんどは、常用ブレーキであるそれぞれの車輪ブレーキに結合されている。この車輪ブレーキは、例えば空気圧で作動するディスクブレーキまたはドラムブレーキであってもよいが、本開示のほとんどの態様は、車両減速中に電力を生成する回生ブレーキ、および要求に応じて車輪の回転速度を減速させることができる電気機械にも適用可能である。車輪ブレーキは、運動支援装置(MSD)によって制御され、MSDは、
図1の車両100などの車両の少なくとも1つの車輪102に加えられるブレーキ力(制動力)を制御することができる。個々のMSDは、制御ユニット(
図1には示されていない)に通信可能に結合されており、制御ユニットがMSDと通信し、それによって、車両ブレーキを制御することができる。この制御ユニットは、車両100全体にわたって分散された多くのサブユニットで構成されてもよいし、物理的に単一のユニットであってもよい。制御ユニットは、たとえば制動力を車輪間で配分して車両の安定性を維持することができる。
【0052】
個々の被駆動車輪102は、適切な電気機械(電動機、一体化されたモータ/発電機など)によって駆動され得る。電気機械は、例えばオープンディファレンシャルを介して動作する複数の車輪を駆動することができる。本開示によれば、少なくとも一対の車輪(例えば左右の車輪)がオープンディファレンシャルを介して少なくとも1つの一次アクチュエータによって駆動され、個別の二次アクチュエータは、前記車輪に追加的な力を与えるように構成される。以下の説明においては、単なる例示として、一次アクチュエータは電気機械の形態であり、二次アクチュエータは、それぞれの車輪に摩擦力を与えるように構成された常用ブレーキの形態である。しかしながら、ディーゼルエンジンまたはリターダーなどの別の一次アクチュエータを電気機械と同様の方法で使用することも可能であり、また、他の局所ブレーキデバイスなどの他の二次アクチュエータを常用ブレーキの代わりに使用することも可能であることに留意されたい。さらに、本発明は、以下で例示される3つ以上の車輪上で実現することも可能である。
【0053】
いくつかの例示的な実施形態において、車両100の他の被駆動車輪は、個別に関連付けられた電気機械によって推進されてもよい。いずれの場合も、上述の制御ユニットは、車輪間で推進力を割り振るため、そのような電気機械に適切に通信可能に結合され得る。以下、上述の制御ユニットについて、
図2のプレゼンテーションに関連してより詳細に説明する。
【0054】
図2は、本発明の少なくとも1つの例示的な実施形態による、車両の車輪スリップを制御するためのシステム104を示す図である。図示されるように、車両は、左車輪102aおよび右車輪102bを有しており、これらはオープンディファレンシャル108を介して少なくとも1つの電気機械106によって駆動される。左右の常用ブレーキ112a、112bは、それぞれ左右の車輪102a、102bに摩擦力を与えるように設置されている。常用ブレーキ112a、112bは、ここではディスクブレーキとして示されているが、既に言及したように他のタイプのものとすることも考えられる。例えば、ブレーキシステムは、1つまたは複数の追加の電気機械および/または異なるブレーキアクチュエータの組合せで構成することもできる。
【0055】
システムは、一方または両方の常用ブレーキ112a、112bを作動させることによって車輪のブレーキ(制動)を制御するように構成された運動支援装置(MSD)120を含む。同じまたは異なるMSDが電気機械106の動作を制御するように構成されてもよい。また、システム104は、車両制御ユニット(VCU)110、例えば、車両運動管理システムを含んでもよい。MSD120は、VCU110に通信可能に結合されている。MSD120およびVCU110は、機能的に個別の2つの実態物として示されているが、構造的に1つの共通の実体物として提供されてもよいことを理解されたい。したがって、いくつかの例示的な実施形態では、MSD120およびVCU110は1つのユニットとして提供される。他の例示的な実施形態では、MSD120およびVCU110は、構造的に分離されてもよい。いくつかの例示的な実施形態においては、アクチュエータ毎に個別のMSDが存在し得る(すなわち電気機械106に対して1つのMSD、左側の常用ブレーキ112aに対して別のMSD、また、右側の常用ブレーキ112bに対してさらに別のMSDが存在し、あるいは電気機械106に対して1つのMSD、および左右の常用ブレーキ112a、112bに対して共通のMSDが存在し得る)。また、VCU110は、いくつかの構造体にわたって分散されてもよく、そのうちのいくつかは、車両から離れた、例えば、オフボードであってもよいことを理解されたい。例えば、VCU110によって実施される計算などのいくつかの機能は、クラウドベースであってもよく、VCU110の一部が1つまたは複数の遠隔サーバなどで提供されてもよい。
【0056】
VCU110は、電気機械106のスリップがλemになる機械速度で回転するように電気機械106に要求するように構成されている。要求は、VCU110からMSD120に適切に送信され得る。電気機械106をある機械速度で回転させるという要求は、車輪102a、102bをある回転速度で回転させることに対する間接的な要求と見なすことができる。別の言い方をすれば、前記ある機械速度によってもたらされる電気機械106の所望のスリップλemは、ある所望の車輪スリップのための間接的な要求と見なすことができる。しかしながら、オープンディファレンシャル108を介して電気機械106によって駆動される左右の車輪102a、102bでは、所望の車輪スリップを得られない場合がある。完璧な条件の下では、左右の車輪102a、102bのそれぞれは、確かに、電気機械106のスリップλemに等しい車輪スリップλlおよびλrをそれぞれ得ることができる。しかしながら、実際には、これらの条件は、車輪スリップλlおよびλrのうちの一方が電気機械106のスリップλemより大きい値を有し、他方が小さい値を有することになるような条件であることが多いであろう。例えば、一方の車輪のタイヤが、他方の車輪のタイヤが走行する領域と比較して異なる特性(例えば、濡れている、より滑りやすいなど)を有する道路の領域を走行する場合である。すなわち、車輪と路面との間の摩擦が異なり、そのために車輪スリップλlおよびλrも互いに異なり、延いては電気機械106のスリップλemの値とも異なることになる。本開示の教示に従うことにより、前記値からの過剰な逸脱を防止することができ、あるいは少なくとも対処することができる。
【0057】
より詳細には、VCU110は、電気機械106のスリップλemに、設定可能な値を加えることによって符号付き車輪スリップ制限λlim(>λem)を決定するように構成される。車輪スリップ制限λlimは、符号付きの値であることを指摘しておかなければならない。したがって、正のスリップ(推進シナリオ)、すなわち、スリップ値がゼロより大きい場合、車輪スリップ制限λlimは、電気機械106のスリップλemと比較して大きい正の値(すなわち、ゼロからより離れた値)を有することになる。しかしながら、負のスリップ(制動シナリオ)、すなわち、スリップ値がゼロ未満である場合、車輪スリップ制限λlimは、電気機械106のスリップλemと比較して小さい負の値(すなわち、ゼロに近い値)を有することになる。
【0058】
VCU110は、車両の左車輪102aおよび右車輪102bを、それぞれの車輪スリップが符号付き車輪スリップ制限λlim未満のλl、λrとなる車輪速度で回転するように制御するための制御信号をMSD120に送信するように構成される。λl、λrおよびλemのそれぞれは符号付き数値である。したがって、符号付き車輪スリップ制限λlimは、左車輪102aおよび右車輪102bのいずれか一方に対する最大許容車輪スリップを設定する。
【0059】
本開示においては、車輪スリップについて説明する場合、縦方向の車輪スリップを指すことが意図されている。これに関連して、縦方向は、当該車輪の半径方向、具体的には、路面に対して平行であり、通常の状態において車輪が進む半径方向を指すことに留意されたい。ある車輪の(縦方向の)車輪スリップλ(すなわち、左車輪102aのλ
lまたは右車輪102bのλ
r)は、単位がなく、下式のように表すことができる。
【数6】
ここで、Rはメートル単位の車輪半径であり、ωは車輪の角速度であり、v
xは車輪の縦方向の速度である(車輪の座標系において)。したがって、λは-1と1の間にあり、車輪が路面に対してどの程度スリップしているかを定量化している。制動中はv
x>Rωであるので、車輪スリップは負になる。加速中はv
x<Rωであるので、車輪スリップは正になる。VCU110は、(車輪の参照フレームに)v
xに関する情報を維持/取得してもよく、ωを測定するために車輪速度センサが使用されてもよい。
図2は、システム104がそのような車輪速度センサ122を含むか、またはそのような車輪速度センサ122に動作可能に接続されてもよいことを概略的に示している。車輪速度センサ122は、例えばホール効果センサまたは他のタイプの車輪速度センサであり得る。測定された回転速度は、有線通信リンクまたは無線通信リンクによって車輪速度センサ122からMSD120に送信され得る。車両の速度は、レーダセンサ、ライダーセンサまたは全地球測位システム(GPS)レシーバなどの別のセンサ(図示せず)によって測定されてもよく、VCU110および/またはMSD120は、測定された速度を取得することができる。また、車両の速度は、車両上の駆動されていない他の車軸からの車輪速度に基づいて計算されてもよい。上記の式は、車輪スリップを決定するために広く使用されているが、他の定義が使用されてもよい。例えば、本開示の中で既に述べたように、速度オフセットも選択肢であり得る。
【0060】
したがって、MSD120は、VCU110から制御信号を受信すると、例えば、上記式や車輪速度センサ122からの入力により、左車輪102aの現在の車輪スリップλlおよび右車輪102bの現在の車輪スリップλrを計算することになる。受信した制御信号に基づき、左車輪102aの現在の車輪スリップλlおよび右車輪102bの現在の車輪スリップλrの一方が符号付き車輪スリップ制限λlimを超過した場合、MSD120は、トルクを他の車輪に伝達するため、超過している車輪スリップを有する車輪に対してそれぞれの常用ブレーキ112a、112bを作動させるように構成される。このようにして、車輪スリップは、実質的に許容範囲内に維持され、制限を超過すると、許容値に戻るように制御されることになる。
【0061】
上述のように、VCU110は、電気機械106のスリップλemに設定可能な値を加えることによって符号付き車輪スリップ制限λlim(>λem)を決定するように構成される。設定可能な値は、0<λthr<λemとして選択される閾値λthrであり得る。いくつかの例示的な実施形態において、閾値λthrは固定値であってもよい。他の例示的な実施形態において、VCU110は、車両の現在の速度などの1つまたは複数の車両運転パラメータの現在の状態に適切に基づいて、設定可能な値を動的に設定するように構成される。いくつかの例示的な実施形態において、設定可能な値は、電気機械106のスリップλemの関数から得られる。いくつかの例示的な実施形態において、設定可能な値は、電気機械106のスリップλemを索引として使用したルックアップテーブルから取得される。いくつかの例示的な実施形態では、符号付き車輪スリップ制限λlim=λem+λthrであり、λthrは、0<λthr<λemとして選択される定義済みの閾値である。いくつかの例示的な実施形態では、車両が加速中である場合、VCU110は、左車輪102および右車輪102bを、それぞれの車輪スリップがゼロ以上で且つ2λemより小さいλl、λrとなる車輪速度で回転するように制御するように構成される。
【0062】
VCU110は、下式に基づき、電気機械106のスリップがλ
emになる回転機械速度ω
emで回転するように電気機械106に要求するように構成することができる。
【数7】
ここで、i
gは変速比であり、i
fdは最終減速比であり、Rは車輪半径であり、v
xは車両速度である。
【0063】
既に説明したように、λ
emは、車輪スリップλ
l、λ
rが等しく分布している場合(例えば、左右の両方の車輪102a、102bが乾いた路面を走行し、および実質的に一様な条件でタイヤに実質的に一様に負荷がかかっている場合)、個々の車輪102a、102bが路面に対してどの程度スリップしているかを定量化している。すなわち、λ
l=λ
rである場合、λ
emは、個々の車輪102a、102bが路面に対してどの程度スリップしているかを定量化することになる。したがって、電気機械106のスリップがλ
emになる機械速度ω
emで回転するようにVCU110が電気機械106に要求すると、それは、所望の車輪スリップを間接的に要求していると見なすことができる。しかしながら、既に説明したように、実際の車輪スリップは、前記所望の車輪スリップからある程度逸脱することがある。機械速度に対する要求と車輪スリップの最大許容逸脱の設定(すなわち、λ
limの設定)とを組み合わせることにより、良好な車輪スリップ制御を達成することが可能であり、それについては、以下、
図3a、
図3b、
図4aおよび
図4bに示されたグラフを参照して説明する。
【0064】
図3aおよび
図3bは、推進シナリオについて、スリップ制御が実施されない場合(
図3a)と本開示に従ってスリップ制御が実施される場合(
図3b)とのスリップの差を概略的に示すグラフである。VCU110は、両方のグラフにおいて0.1のスリップ(λ
em)を要求している。したがって、MSD112は、電気機械106のスリップがスリップ目標(λ
em)である0.1になるように、電気機械106の速度を制御することになる。
【0065】
図3aには、かなり極端なシナリオが示されているが、例示および解説目的のためであること考慮すると有用である。
図3aにおいて、左車輪は、スリップが全くない一定の速度で回転しているが、右車輪はスピンしている。つまり、
図3aにおいて、左車輪の車輪スリップλ
lはゼロであり、右車輪の車輪スリップλrは電気機械のスリップλ
emの2倍であり、下式を満たしている。
【数8】
【0066】
図3bは、対応するシナリオを示したものであるが、分割-μ(split-μ)補償が本開示に従ってスリップ制限λ
limを提供している。
図3bに示される例において、スリップ制限λ
limは、式λ
lim=λ
em+λ
thrに従って設定されており、閾値λ
thrは0.05が選択されている。しかしながら、上記で説明したように、閾値λ
thrは、異なる方法で選択されてもよく、さらには動的に選択されてもよく、また、スリップ制限λ
limは、上記で既に説明したように、他の方法で、および異なる式を使用して計算されてもよい。
【0067】
図3aと同様に、
図3bでも右車輪の車輪スリップλ
rが大きくなっている。しかしながら特定の時点、すなわち、グラフの2秒の直前の時点で、車輪スリップλ
rの値が、設定されたスリップ制限λ
limを超過している。VCU110から制御信号を受信したMSD120は、この時点で、右車輪102bに結合された常用ブレーキ112bを作動させ、その結果、トルクが右車輪102bから左車輪102aに伝達されることになる。これにより、グラフのスリップ制御領域、すなわち、2秒の印の直前で始まる領域で、左車輪の車輪スリップλ
lが大きくなり始めることになる。上記の式は依然として正確であり、すなわち、左右の車輪スリップλ
l、λ
rの合計は電気機械106のスリップλ
emの2倍に等しい。このようにして、VCU110は、電気機械106にスリップ要求を提供し、車輪スリップが電気機械106に対するスリップ要求から過剰に逸脱しないように、車輪スリップ入力を監視し、および車輪スリップ入力に作用するようにMSD120に命令することにより、効果的なスリップ制御を実施することができる(これは、上記で説明したように、所望の車輪スリップに対する間接的な要求と見なすことができる)。
【0068】
図4aおよび
図4bは、制動シナリオについて、スリップ制御が実施されない場合(
図4a)と本開示に従ってスリップ制御が実施された場合(
図4b)とのスリップの差を概略的に示すグラフである。VCU110は、電気機械106に対して、-0.1のスリップ目標(λ
em)を要求している。MSD120は、電気機械106のスリップがスリップ目標(λ
em)である-0.1になるように電気機械106の速度を減速させる。
【0069】
ここでもまた、例示目的のために極端なケースが示されている。
図4aから分かるように、左車輪は全く減速せず、また、左車輪の車輪スリップλ
lはゼロであるが、右車輪は車軸の2倍減速するので、右車輪の車輪スリップλ
rは電気機械のスリップλ
emの2倍であり、いずれも負の値を有している。
【0070】
図4bに示されるように、本開示に従ってスリップ制限λ
limを提供する分割-μ補償が適用されると、その一定のゼロスリップを有する左車輪がスリップ制限λ
limを超過することになり、結果的にこの左車輪に対するスリップ制御が実施されて、右車輪にトルクが伝達される。
【0071】
図3bおよび
図4bの両方において、符号付き最大スリップ制限λ
limが適用されていることに留意されたい。これは、制動シナリオについては直感的に分かり難く、また、最大絶対スリップ制限として間違って解釈されるかもしれない。しかし、そのようなことはない。制動中の最大スリップ制限は、
図4bに示されているように、最小制動すなわち負の最小スリップを意味している。既述のように、少なくともいくつかの例示的な実施形態では、制動用と推進用とで別々の信号がVCU110から送信されてもよい。
【0072】
また、VCU110は、電気機械のスリップがあるλ
emになる機械速度で回転するように電気機械106に要求するが、
図3a、
図3b、
図4aおよび
図4bに示されているように、この要求を満たすのに遅れが生じ得ることにも留意されたい。電気機械の実際の現在のスリップλ
emは、要求されたスリップ(目標スリップ)に達するまで変化する。もちろん、スリップ制限λ
limは、
図3a、
図3b、
図4aおよび
図4bにも示されているように、電気機械の実際の現在のスリップλ
emに関連して設定されているので、λlimは、λ
emの変化に応じて、経時的に変化する。
【0073】
図5は、本発明の例示的な実施形態による方法200を概略的に示したものである。より具体的には、方法200は、車両の車輪スリップを制御するために車両制御ユニットVCUで実行され、車両は、オープンディファレンシャルを介して少なくとも1つの一次アクチュエータ(電気機械など)によって駆動される少なくとも2つの車輪(左右の車輪など)を含み、
方法は、
- ステップS1において、一次アクチュエータに、一次アクチュエータのスリップがλ
emとなる機械速度で回転するように要求すること、
- ステップS2において、設定可能な値を一次アクチュエータのスリップλ
emに加えることによって符号付き車輪スリップ制限λ
lim(>λ
em)を決定すること、
- ステップS3において、車両の少なくとも2つの車輪を、それぞれの車輪スリップが符号付き車輪スリップ制限λ
lim未満のλ
l、λ
rとなる車輪速度で回転するように制御すること、
を含み、λ
l、λ
rおよびλ
emのそれぞれが符号付き数値である。
【0074】
上記で示されたステップは、上記で示されたシーケンスとは異なる順序で実施されてもよいことを理解されたい。例えば、要求するステップ(ステップS1)の前に、あらかじめ符号付き車輪スリップ制限λ
limが決定されてもよい(ステップS2)。これは、例えば、符号付き車輪スリップ制限λ
limを電気機械の実際のスリップλ
emの関数として設定すること、または電気機械の実際のスリップλ
emと関連して設定することによって行うことができる。例えば、
図3a、
図3b、
図4aおよび
図4bに示されるように、符号付きスリップ制限λ
limは、λ
lim=λ
em+λ
thrとして設定されてもよく、その際、閾値λ
thrは、あらかじめ決定されている(前記図面の例示的なグラフでは、λ
thr=0.5である)。さらに、ステップS1およびS2を同時に実行することも考えられることを理解されたい。
【0075】
図6は、本発明の少なくとも1つの例示的な実施形態による制御ユニット110を概略的に示す図である。特に、
図6は、本明細書で説明された例示的な実施形態による制御ユニット110の構成要素を複数の機能ユニットの観点から示している。制御ユニット110は、例えば、VCUの形態で車両100に含まれ得る。処理回路610は、例えば、記憶媒体630の形態のコンピュータプログラム製品に格納されたソフトウェア命令を実行することができる、適切な中央処理装置CPU、多重プロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサDSPなどのうちの任意の1つまたは複数の任意の組合せを使用して提供され得る。処理回路610は、さらに、少なくとも1つの特定用途向け集積回路ASIC、またはフィールドプログラマブルゲートアレイFPGAとして提供されてもよい。
【0076】
具体的には、処理回路610は、
図5に関連して説明された方法などの一連の動作またはステップを制御ユニット110に実行させるように構成される。例えば、記憶媒体630は、一連の動作を記憶してもよく、処理回路610は、記憶媒体630から一連の動作を取り出して、制御ユニット110に一連の動作を実行させるように構成されてもよい。一連の動作は、一組の実行可能な命令として提供されてもよい。したがって、処理回路610は、それによって、本明細書において開示されている例示的な方法を実行するように構成される。
【0077】
また、記憶媒体630は、永続的な記憶装置で構成されてもよく、例えば、磁気メモリ、光メモリ、ソリッドステートメモリ、さらには遠隔で取り付けられるメモリのうちの任意の1つまたは組合せであってもよい。
【0078】
制御ユニット110は、車両速度入力を提供するセンサなどの少なくとも1つの外部デバイスとの通信用、GPS通信用などのインターフェース620をさらに含んでもよい。したがって、インターフェース620は、アナログ構成要素およびデジタル構成要素、ならびに有線通信または無線通信のための適切な数のポートを含む1つまたは複数の送信機および受信機で構成されてもよい。
【0079】
処理回路610は、例えば、データおよび制御信号をインターフェース620および記憶媒体630に送信することによって、データおよびレポートをインターフェース620から受信することによって、および、データおよび命令を記憶媒体630から取り出すことによって、制御ユニット110の一般的な動作を制御する。制御ユニット110の他の構成要素、および関連する機能については、本明細書に示される概念を不明瞭にしないために省略されている。
【0080】
図7は、本発明の少なくとも1つの例示的な実施形態によるコンピュータプログラム製品700を概略的に示したものである。より具体的には、
図7は、前記プログラム製品がコンピュータ上で実行されると、
図5に例示されている方法を実行するためのプログラムコード手段720を含むコンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体710を示している。コンピュータ可読媒体710およびプログラムコード手段720は、一緒にコンピュータプログラム製品700を形成してもよい。
【外国語明細書】