(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084111
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】新規エレクトレットの構成とその使用方法
(51)【国際特許分類】
H02N 1/00 20060101AFI20220531BHJP
【FI】
H02N1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020195752
(22)【出願日】2020-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】398055026
【氏名又は名称】酒井 捷夫
(74)【代理人】
【識別番号】100198373
【弁理士】
【氏名又は名称】江畑 耕司
(72)【発明者】
【氏名】酒井 捷夫
(57)【要約】
【課題】非対称静電力を電荷搬送体の駆動力とする静電発電機において、充電エレクトレットの表面電位を高電位にすること。
【解決手段】支持電極81、誘電層82、中間電極83、エレクトレット層84で構成される新規エレクトレットにおいて、中間電極83を接地し、エレクトレット層84表面をコロナ放電等で帯電後、中間電極83に、帯電電荷と同極性の電圧を印加して、中間電極83内の電荷をほぼゼロにしたのち、印加電圧を切断する。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持電極、誘電層、中間電極、及びエレクトレット層を、この順に、下方より積層して構成されるエレクトレット。
【請求項2】
支持電極、誘電層、中間電極、及びエレクトレット層を、この順に下方より積層したのち、当該中間電極を接地し、コロナ放電その他の帯電手段等で前記エレクトレット層の表面に電荷を付与して帯電させたのち、前記支持電極を接地し、前記中間電極に対し、帯電した前記エレクトレット層の表面の帯電電荷と同極性の電圧を印加して、当該中間電極に存在する電荷をほぼ無くしたのち、当該中間電極に加える電圧を切断する請求項1に記載のエレクトレットの高電位化方法。
【請求項3】
請求項2に記載のエレクトレットの高電位化方法において、中間電極に加える電圧の切断を真空環境で行うことを特徴とするエレクトレットの高電位化方法。
【請求項4】
支持電極、エレクトレット層、表面フロート電極または支持電極、エレクトレット層、薄層の誘電層、及び表面フロート電極を、この順に下方より積層して構成されるエレクトレット。
【請求項5】
支持電極、エレクトレット層、表面フロート電極または支持電極、エレクトレット層、薄層の誘電層、及び表面フロート電極を、この順に下方より積層して
請求項4に記載のエレクトレットを作製する方法であって、コロナ放電その他の帯電手段でエレクトレット層の表面に電荷を帯電させたのち、即時または薄層の誘電層形成後、金属箔を重ねるか、又は金属粉を蒸着して前記エレクトレットを作製することを特徴とするエレクトレットの作製方法。
【請求項6】
請求項1に記載のエレクトレットの表面に、請求項4に記載のフロート電極を直接または誘電層を介して重ねたエレクトレット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電発電機、静電モーター、静電加速器、静電フイルター、及び静電マイクロフォン等におけるエレクトレットの新規な高電位化方法、並びに、従来のエレクトレットを鏡像力駆動型静電発電機の充電電位源として使用した場合に生じる不都合な現象を解消できる新規なエレクトレットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鏡像力駆動型静電発電機の研究開発において、高電位を印加した電極を充電電位源とするシミュレーションの結果、有用性を確認できたので、次に、エレクトレットを充電電位源とする実験機で実験を行った。その結果、2つの問題が発生した。一つは、電圧を印加した電極で得られた高電位が、エレクトレットでは得られないことであり、もう一つは、エレクトレットの場合、帯電された電荷搬送体にブレーキがかかることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-004549号公報
【特許文献2】特開2019-187054号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】2019年米国静電気学会年次大会予稿集A-4
【非特許文献2】Asymmetric Electrostatic Forces and a New Electrostatic Generator, Nova Science Publishers, New York, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする問題点は、電圧を印加した電極で得られた高電位が、エレクトレットでは得られないこと、及び、エレクトレットの場合、帯電された電荷搬送体にブレーキがかかることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、支持電極、誘電層、中間電極、及びエレクトレット層で構成される新規エレクトレットにおいて、エレクトレット形成後、中間電極にエレクトレットと同極性の電圧を印加して中間電極内の電荷をゼロにし、印加電圧を切断することを第一の特徴とする。又、支持電極、エレクトレット層、及び表面フロート電極で構成される新規エレクトレットを使用することで、電荷搬送体にブレーキがかかる不都合を解消することを第二の特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エレクトレット形成後、中間電極にエレクトレットと同極性の電圧を印加して中間電極内の電荷をゼロにし、印加電圧を切断するので、エレクトレットの表面電位を数倍以上に高くすることができる。
また、新規エレクトレットを使用することで、電荷搬送体にブレーキがかかる不都合を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、クーロンの法則を説明する模式図である。
【
図2】
図2は、横向き樋型の導体に作用する非対称静電力(クーロン力)を説明する模式図である。
【
図3】
図3は、接地された導体である平板に近接した点電荷に作用する鏡像力を説明する模式図である。
【
図4】
図4は、該接地導体平板に近接した横置き樋型導電性帯電体に作用する非対称鏡像力を説明する模式図である。
【
図5】
図5は、鏡像力駆動型静電発電機の基本構造を示す縦断面図である。
【
図6】
図6は、充電電極を使用する鏡像力駆動型静電発電装置のより詳細な縦断面図である。
【
図7】
図7は、複数の電荷搬送体を載せた電荷搬送体円板の斜視図である。
【
図9】
図9は、電荷が注入された電荷搬送体が、充電エレクトレットを抜けて、その先端が回収電極に到達するまでに受ける静電力を示すグラフである。
【
図10】
図10は、電界駆動型静電発電実験機の概略を示す縦断面図である。
【
図11】
図11は、電界駆動型静電発電実験機の概略を示す横断面図である。
【
図12】
図12は、テフロン(登録商標)に対してコロナ放電する際に用いたコロナ放電電圧と帯電されたテフロン(登録商標)の表面電位の関係を示すグラフである。
【
図13】
図13は、充電電極を用いて充電した場合において、強制エアーフロー回転後における、充電電極の電位と電荷搬送体円板の自動回転継続時間との関係を示すグラフである。
【
図14】
図14は、充電エレクトレットを用いて充電した場合において、強制エアーフロー回転後、荷搬送体円板の自動回転継続時間を測定した9回分の実験結果を示すグラフである。
【
図15】
図15は、高電位を得ることができる新規エレクトレットの層構成を示す縦断面図である。
【
図16】
図16は、表面に自由電荷が生じる新規エレクトレットの層構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
環境問題を基本的に解決する手段として新型の静電発電機が期待されている。特に、非対称静電力を電荷搬送体の駆動力とする静電発電機が有望で、中でも装置が簡単な鏡像力駆動型静電発電機が最有力である。非対称静電力には、非特許文献2にその詳細が記載されているように3種類ある。鏡像力駆動型静電発電機では、そのうち、非対称クーロン力と、非対称鏡像力を使用する。
【実施例0010】
通常、電界E中に置かれた電荷qに働く静電力は、下記(1)式で計算され、クーロン力である。
F = qE
(1)
図1において、参照番号1は高圧電極、参照番号2は接地された第一対向電極、参照番号3は点電荷、参照番号4は点電荷に作用する静電力のベクトル、参照番号4は点電荷に作用する静電力のベクトル、参照番号5は電界の方向、そして参照番号6は第二対向電極である。
つまり、
図1の中央左側において、例えば、電界の強さが10
6 V/mで、点電荷の電荷量が10
-7Cの時、点電荷に作用する静電力は0.100Nになる。一方、
図1の中央右側のように、電界の方向が反転した時、該点電荷に作用する静電力の方向も反転するが、その大きさ(絶対値)は0.100Nであり、変わらない。しかし、クーロンの法則は、点電荷又は点電荷とみなせる球形の帯電体にしか適用できない。
【0011】
従い、電界中に置かれた非球形の帯電した導体に作用する静電力は、クーロンの法則ではその計算ができない。
そこで、出願人は、二次元差分法を使って、電界の方向が反転する前と後の、当該導体に作用する静電力をシミュレーションした。具体的には、
図2に示すように、参照番号7で示す帯電した導体の形状を樋型とし、その帯電量と電界の強さは
図1と各同じとした。その結果、電界の方向が反転すると、静電力の強さは、0.083Nから、0.038Nと半分以下になることが分かった。これを、非対称クーロン力という。
【0012】
図3に示すように、点電荷3が、接地された導電性の平板2から距離rにあるとき、該点電荷には下記(2)式で計算される静電気力が働く。これを鏡像力という。
F = q
2/4πε
0(2r)
2
(2)
しかしながら、この式が適用されるのは、やはり点電荷の場合である。そこで、
図4に示すように、導電性帯電体の形状が樋型の場合に、該樋型導電性帯電7に働く静電力をシミュレーションで求めた。
その結果、帯電量qが10
-6Cで、樋型導電性帯電体7と平板2の間隔rが1.0mmの時、該樋型導電性帯電体7の開口部を平板2に対向させた場合、静電力は32.4Nであるが、底面部を対向させた場合、その倍以上の69.0Nになった。これを以下、非対称鏡像力という。
【0013】
鏡像力駆動型静電発電機では、非対称クーロン力と非対称鏡像力の両方の効果を使用する。
図5に、非対称鏡像力を使用する鏡像力駆動型静電発電機の基本構造を示す。
主要部品は、充電電位源8(通常、エレクトレットが使用され、以下充電エレクトレットと言う)、横置き樋型電荷搬送体7と回収電極9の3点であり、
図6に示す回収電極コンデンサー10、電荷注入導電性端子11と電荷回収導電性端子12が加わる。以下、簡略化のため、主に主要部品3点のみで行う。
【0014】
電荷搬送体7が、
図6中、左から充電エレクトレット8に入り、
図6に示される位置に来たとき、電荷搬送体7の上下平板72と充電エレクトレット8間に空気コンデンサーが形成される。
この時、電荷注入端子11により電荷搬送体7が接地されると、該空気コンデンサーへの充電電荷が大地より電荷搬送体7に注入され、帯電される。
その後、帯電された電荷搬送体7はさらに右方向に進み、回収電極9の中に入る。そこで、電荷回収端子12により回収電極9と電気的に連結され、前記帯電電荷は回収電極9を通って、回収電極コンデンサー10に蓄積され、さらに図示しない電気回路を通って外部負荷に流れる。
【0015】
充電エレクトレット8が負の極性に帯電されている場合、電荷搬送体7は正帯電される。その結果、充電エレクトレット8と回収電極9の間を右に進む電荷搬送体7には、負帯電エレクトレットにより左向きにクーロン力が働く。同時に、エレクトレットの背面電極により、やはり左向きに鏡像力が働く。
一方、回収電極により右向きの鏡像力が働く。充電エレクトレット8を出た直後は、左向きのクーロン力と鏡像力との合力が強いが、回収電極に接近すると右向きの鏡像力が強くなる。
【0016】
非対称断面形状ゆえに、横置き樋型電荷搬送体7の後方開口部に働く左向きのクーロン力および鏡像力は弱く、電荷搬送体7の前方垂直板部に働く右向きの鏡像力は強い。この結果、右向きの静電力が左向きの静電力より大きければ、電荷搬送体7は、非対称静電力の効果で、充電エレクトレット8から回収電極9に到達することができる。
【0017】
そこで、出願人は、鏡像力駆動型の静電発電機の電気的出力、すなわち電力をシミュレーションで求めた。当該鏡像力駆動型静電発電機の装置構成を
図7と
図8で示す。
図7は電荷搬送体を載せた電荷搬送体円板の斜視図で、
図8は該装置全体の斜視図である。
各図において、参照番号8は充電エレクトレット、7は電荷搬送体、9は回収電極、14は複数の電荷搬送体7を載せた回転可能な電荷搬送体円板、13と15は向かい合わせの同じ位置に、充電エレクトレット8と回収電極9が設置され、固定された充電回収円板であり、そして16は回転軸である。以下、この1組の装置を1ユニットと言う。
【0018】
図示するように、半径100mmの電荷搬送体円板14に、中心から35mm乃至95mmの位置に、長さ60mmの樋型電荷搬送体7を60度おきに6個配置する。電荷搬送体7の幅と高さは10mmである。該電荷搬送体7の長さ方向の中央部分は、中心から65mmである。ゆえにその円周は408mmである。
又、円周上102mm置きに、充電エレクトレット8と回収電極9の組を4個置く。前の組の回収電極9’と直後の組の充電エレクトレット8の間隔は20mm、該充電エレクトレット8の幅は20mm、該充電エレクトレット8から回収電極9までの距離は32mm、そして回収電極4の幅は30mmである。
更に、電荷搬送体7の上下水平板72、74と上下充電エレクトレット8の各間隔は1.0mmで、上下充電回収円板間の間隔は20mmである。
【0019】
又、充電エレクトレットの電荷密度を、現状で入手可能な最高値である-2.0mC/m
2とし、テフロン(登録商標)樹脂で構成されるエレクトレット層の厚さが1.6mm、その比誘電率を2.0として、エレクトレットの表面電位は180,709Vになった。
ただし、実際には、当該高電位は、大気中では、空気の絶縁破壊が発生して維持できないので、真空状態を仮定している。尚、当該電位を真空中で形成するためには後記する特殊な工法が必要になるが、ここでは省略する。
この状態で、電荷搬送体7が
図6に示す位置に至り、充電接地端子11により接地されたとき、該電荷搬送体7に1.47μCの電荷が注入され、充電される。
【0020】
ここで、1.47μCの電荷が注入された電荷搬送体7が、充電エレクトレット7を抜け、その先端が回収電極9に到達するまでに受ける静電力を、特許文献1にその詳細を示す二次元差分法でシミュレーションし、その結果を
図9に示す。
同図より、電荷搬送体7が充電エレクトレット8を抜けた後、約7.5mmの間は、当該電荷搬送体7に働く静電力の極性はマイナス、すなわち左向きであるが、約7.5mmを越えると同極性はプラス、すなわち右向きに転じ、しかもその絶対値がより大きくなることが明らかである。
又、同図において、静電力Nがゼロの直線と、作用した静電力Nを示す曲線とで囲む面積がエネルギーになる。つまり、該直線より下の面積は奪われた運動エネルギーを、該直線より上の面積は、与えられた運動エネルギーになる。
そして、シミュレーションの結果、前者は-0.148Jで、後者は+0.353Jであり、その差は+0.205Jになる。なお、前者に対する後者の倍率を、非対称静電力効果と言う。この場合は2.38倍である。
【0021】
更に、回収電極9に到達した電荷搬送体7には、0.205Jの余剰な運動エネルギーが残されているので、仮に、真空中の移動で空気抵抗がなく、また機械的な摩擦もないと仮定すれば、この余剰な運動エネルギーは、すべて、搬送電荷を電気的により高いポテンシャルに持ち上げるのに使用できる。
ここで、余剰エネルギーWで電荷qを持ち上げられるポテンシャルVは、下記(3)式で求められる。
V = W/q
(3)
すなわち、ポテンシャルVは139,632Vになる。よって、これが、回収可能な、すなわち発電可能な最高電位である(以下、回収電位と言う)。
【0022】
ここで、1個の電荷搬送体7が1回転するときに、4回、充電エレクトレット8と回収電極9を通過するので、その間に搬送され回収される電荷量は、計算式1.47μC × 4 = 5.88μCで表わされる。
電荷搬送体円板14上には、6個の電荷搬送体7があるので、電荷搬送体円板14が1回転するときに搬送する電荷量は、5.88μC × 6 = 35.28μCである。電荷搬送体円板14の回転数が、使用するボールベアリングが許容する最大回転数である30,000rpmとすると、1秒間に500回転になる。
ゆえに1秒間に搬送される電荷量は35.28μC × 500 = 17640μC、すなわち、17.64mAになる。この結果、発電量Pは、電流iと電圧Vの積でありから、下記(4)式で計算され、2463Wになる。
P = I * V
(4)
依って、上記各部品のサイズに鑑みれば、例えば、縦横各20cm (20cm × 20cm)で、厚さ2cmのCDカセットのような形状の装置で2kW以上発電できる。
【0023】
次に、試作した電界駆動型静電発電実験機の概略縦断面図を
図10に、概略横断面図を
図11に示す。尚、図中、
図5及び
図6と同じ参照番号が付された部材は、
図5及び
図6と同一の部材を示す。
即ち、参照番号7は電荷搬送体、8は充電エレクトレット、参照番号9は回収電極、参照番号14は電荷搬送体保持円板、そして参照番号16はステンレス製の回転軸(支柱)を示し、注入用端子と回収用端子は省略した。
【0024】
更に、参照番号17は、電荷搬送体保持円板14のセンターに固定され、固定回転軸16の周りを回転する高性能のボールベアリングである。参照番号20は、充電エレクトレット8内で帯電された樋型電荷搬送体7を、非対称鏡像力でさらに加速するための加速電極であり、アースされている。即ち、実験機では真空にできず、空気抵抗が大きいため追加した。
参照号21は、充電エレクトレット8の高電位で、回収電極9のコンデンサー10に誘起電位が生じないように回収電極9を電気的にシールドするシールド電極であり、アースされている。
【0025】
充電エレクトレット8、回収電極9、及び電荷搬送体7は、
図10及び
図11に示すように、垂直に固定されている。そして、各内外一対の充電エレクトレット8、加速電極20、回収電極9およびシールド電極21の間を、電荷搬送体7が順次回転して通り抜けるように構成されている。
【0026】
該充電エレクトレット8は、後記するようにテフロン(登録商標)フイルムを、コロナ放電して作成した。又、回収電極10に接続するコンデンサーは、0.1mmのアルミ板、0.5mmのPETフイルム、及び0.1mmのアルミ板を順次重ねて作成した。電荷搬送体7は、厚さ0.1mmのアルミ板で作成した。又、電荷搬送体保持円板14はPET樹脂で作成した。更に、注入端子及び回収端子はアルミフォイルで作成した。
【0027】
ここで、電荷搬送体保持円板14の半径は45mmで、各一対の充電エレクトレット8、加速電極20、回収電極9およびシールド電極21のうち、各外側部分は半径50mmの円周上に形成し、各内側部分は半径30mmの円周の上に形成した。
この結果、充電注入エレクトレット8の間隔は20mmになる。
又、各一対の充電エレクトレット8と回収電極9の各外側部分の幅は40mmで、加速およびシールド電極の夫々の幅は20mmである。
又、これら各一対の充電エレクトレット8、加速電極20、回収電極9及びシールド電極21の外側部分の高さは共に65mmで、内側部分の高さは55mmである。更に、樋型電荷搬送体7の幅と、奥行きと高さは、夫々、5mm、5mm、及び50mmである。
【0028】
ここで、当該電荷搬送体7の幅5mmは、内外一対の回収電極9の幅40mmに比べると十分狭いので、当該回収電極9は、疑似的にファラデーケージとなる。これは、当該電荷搬送体7が回収電極9に入ったとき、当該電荷搬送体7の電位は当該回収電極9の電位と同じになるからである。
この結果、電荷搬送体7で搬送されてきた電荷の大部分は、該電荷搬送体7が、回収用端子を介して該回収電極9と電気的に接続された瞬間に、当該回収電極9に移動する。即ち当該電荷の大部分は回収される。
そして、その割合は、シミュレーションによれば90%以上である。よって、回収電極9の電位が電荷注入時の電荷搬送体の電位、すなわち、接地電位よりも負側に高いとき、詰り、搬送電荷の極性が負の時、その回収は発電になる。
そして、搬送した電荷の大部分を回収電極10に放出した電荷搬送体11は、回収電極9を抜けて更に回転し、次の充電エレクトレット8に入る。そして、以後、上記同様に非対称静電気力により電界駆動型発電を行う。
【0029】
ここで、回収電極9のコンデンサー10の表面電位は、表面電位計(シシド静電気株式会社製の表面電位計:STATIRON-DZ 3)で測定される。当該表面電位計は、縦横各20cm(20cm × 20cm)の測定面積を必要とする。
そこで、同面積のアルミ板と、同面積であって厚さ1.0mmのPET樹脂フイルム、及び同面積のアルミ板を重ねて作製した。その電気容量は1100pFである。
【0030】
該実験装置で、まず充電電極を使用して、鏡像力駆動型静電発電機の実験を行った。
即ち、充電電極8に、図示しない高圧電源から高電圧を印加して、エアースプレイで電荷搬送体7を数秒間、強制回転させた。この状態で、電荷搬送体に加わる静電力(順方向鏡像力から逆方向合力(クーロン力と鏡像力の和)を減算した値)が、電荷搬送体に加わる空気抵抗力と機械的摩擦力の和よりも大きければ、電荷搬送体円板14は回転続け、充電電極8で充電された電荷は回収電極9で回収され、その結果、回収コンデンサー10の表面電位は上昇を続ける。すなわち、発電が継続される。
【0031】
そこで、充電電極8に印加する電圧を、-3.0kVから-0.5kVずつ上げていった。その結果、-6.0kVまでは、強制回転から自動連続回転に移らず、数十秒後に止まってしまったが、印加電圧が-6.5kVでは、ゆっくりではあるが回転を続け、回収コンデンサー10電位もゆっくり上がって行った。
回収コンデンサー10を3回アースしたが、そのたびに、0Vからプラスに上がって行った。即ち、鏡像力駆動型静電発電機は発電した。
【0032】
次に、充電電極に替えて、-6.5kVのエレクトレットを充電用高電位源として同じ実験を行った。
エレクトレットは、通常、エレクトレット用のテフロン(登録商標)フイルムをコロナ帯電して作製する。該エレクトレットフイルムは、東邦化成株式会社のテフロン(登録商標)フイルムを用いた。コロナ帯電器は、9本の昆虫ピン(即ち、針)を縦横3本づつ(3×3)に配置して作製した。マイナス高圧電源は市販の物を用いた。
【0033】
当該実験機において、該帯電器の針に、高電圧を10秒間印加して、テフロン(登録商標)フイルを負帯電し、先に述べた表面電位計でその表面電位を測定した。
図12に、印加電圧と表面電位の関係を示す。
図12より、表面電位は、印加電圧が高くなるほど高くなるが、印加電圧が-13kVの時の-6.0kVが最高で、印加電圧-14kVでは、逆に低くなってしまうことが分かる。これは、テフロン(登録商標)のアース板に流れる電流も、当該印加電圧において急激に多くなるので、テフロン(登録商標)層の絶縁破壊が始まったと考えられる。すなわち、現状、-6.5kV以上のエレクトレットは作製できない。エレクトレットの第一の問題である。
【0034】
そこで、-5.5kV以下のエレクトレットを充電電位源として、上記した実験を行ってみた。その結果、電荷搬送体円板14エアーフロー強制回転後の自動回転時間が短かくなった。
つまり、電圧が低いときは目立たないが、電圧が高いときは顕著に短くなる。この現象は、電荷搬送体円板14の回転にブレーキ力が加わったと考えられる。又、電極に替えて、エレクトレットを充電電位源8して使用しても、円板14加わる空気抵抗力や機械摩擦力は同じなので、この原因はやはりエレクトレットにあると考えられる。
【0035】
そこで、上記現象を明らかにするために、電位を変えた充電電極と充電エレクトレット夫々で、エアーフロー回転後の回転継続時間を測定した。充電電極印加電圧を変えた実験結果を
図13に、エレクトレットを充電電位源とした9回の実験結果を
図14に示す。
図13より、充電電極では、回転継続時間は、印加電圧が-5.0kV以下の場合は、電圧印加しない場合と同じ、すなわち、この間範囲では、減速も加速もしていないことが明らかである。一方、-5.5kV以上では、非対称鏡像力の効果が現れて加速されている。
これに対して、エレクトレットを充電電位源8とした場合は、
図14より、回転継続時間は短縮され、半分以下になることもあることが分かる。エレクトレットの第二の問題である。
【0036】
よって、帯電電極でブレーキがかからず、エレクトレットでブレーキがかかるのは、電荷の状態の違いにあると思われる。すなわち、帯電電極内の電子は自由電子であり、力が加われば自在に動ける。一方、エレクトレット内の電子は固定電子であり、力が加わっても動くことができない。よって、これが原因で、電荷搬送体に引き戻す力が加わると考えられる。
【0037】
以下、6.0kV以上の高電位を容易に得ることができる新機能を有する実施例1のエレクトレットの構成と、その使用方法を、シミュレーションで示す。
図15はその構成を示す。即ち、4層構成で、下から、支持電極81、誘電層82、中間電極83、そしてエレクトレット層84である。
それぞれの厚さは、シミュレーションを容易にするために、0.0mm、0.2mm、0.1mm、0.1mmとする。幅は19.7mmで、長さは50mmとする。
誘電層及びエレクトレット層の比誘電率は、実際は約2.0であるが、シミュレーションを容易にするために1.0とする。又、実際に使用されるエレクトレットは負帯電であるが、シミュレーションを容易にするため正帯電とする。
【0038】
かかる構成で、支持電極81、中間電極83を接地してコロナ放電した時、エレクトレット層84の表面電荷密度が0.05mC/m2になったとする。
この時の、エレクトレット層84の表面電位をシミュレーションしてみると、表面中央が+5641Vとなり高く、両端が+5548Vとなりやや低くなる。以下、表面中央の電位を代表値として選択する。
又、この時、エレクトレット層84の正電荷に対向して、大地から中間電極83に流れ込んだ負電荷の量は、-473.7nCである。
【0039】
次に、該負電荷を中間電極83に残したまま、中間電極83のアース線を切断する、すなわち、電気的にフロート状態にする。この時の、エレクトレット層84の表面電位は+5641Vで、アース線切断前と同じである。
次に、中間電極83内の電荷をすべて消去しゼロにして、エレクトレット層84の表面電位をシミュレーションすると、+16458.7Vとなり、中間電極83をアースしてコロナ帯電した時の値の2.92倍になった。
なお、該エレクトレットの面積が無限大であれば、エレクトレット層83の層厚が0.1mmで、誘電層84の層厚が0.2mmなので、エレクトレット層84の表面電位は、下記(5)式により、中間電極83をアースしてコロナ帯電した時の値の3.00倍である+16923Vになる。
V = V0 *((t1 + t2)/t1)
(5)
t1:エレクトレット層の厚さ
t2:誘電層の厚さ
V0:中間電極内に誘導された電荷がある場合の電位
V:中間電極内に電荷が無い場合の電位
【0040】
ここで、中間電極83の負電荷を消去するためには、フロート状態の中間電極83を高圧電源に繋いで、正の高電圧を印加すればよい。例えば、+10784Vを印加すると、中間電極83の残留電荷は-1.6nCとなり、実質ゼロになる。この時のエレクトレット層84の表面電位は+16422.9Vである。
【0041】
次に、該4層エレクトレットの表面電位を高電位化する高電位化方法を説明する。まず、従来と同様に、中間電極83を接地して、負極性のコロナ放電でエレクトレット層84の表面を負極性の電荷で帯電させる。
次に、中間電極83を高圧電源に繋ぎ、中間電極83内の正電荷を消去できる負の電圧を印加し、該印加電圧を維持したまま、これらの接続を切断する。
尚、この時、生じる高電位で放電が発生する可能性があるので、これらの工程は真空中で行うのが望ましい。
【0042】
そして、このようにして該高電位化したエレクトレットを、充電用高電位源8として使用すると、高電位化しないエレクトレットを使用する場合に比較して、電荷搬送体7に注入される電荷量は、3倍近くになる。
そこで、注入電荷量をシミュレーションすると、高電位化しない場合は-64.7nC、高電位化した場合は-166.0nCとなり、2.57倍になった。
【0043】
該シミュレーソンでは、高電位化比率は3倍弱であるが、実際のエレクトレットの厚さは、その比誘電率も考慮すると、実質0.025mmで、シミュレーションの1/4であり、又誘電層の厚さも0.2mmではなく、1.0mmとすることも可能なので、計算上41倍になり得る。
【0044】
以上、該本発明の一実施例である新機能にかかる4層エレクトレットを、鏡像力駆動型静電発電機の充電用高電位源8として説明してきたが、本発明は、これに限らず、他の方式の静電発電機、静電モーター、静電加速器、及び静電フイルター等にも使用できる。
この状態で、表面電極86表面の電位をシミュレーションすると、-5379Vとなる。よって、該表面電位は、通常のエレクトレットより5%程度低下しているが、これは、上記誘電層85の層厚が0.1mmであり、厚いためである。
この場合、エレクトレット84表面の負の電荷と、前記表面電極86裏面の正の電荷間の放電による電荷消失を防止するためには、該誘電層85の層厚は0.01mm程度でよく、その場合は、該表面電極86表面の電位低下はほとんどなくなる。
尚、実際のエレクトレットの負の電荷は、その表面にコロナイオンとして吸着している訳ではなく、テフロン(登録商標)樹脂の末端基に捕らえられている電子なので、表面電位によっては、該誘電層85は不要である。
そして、前記したテフロン(登録商標)フイルムを、前記針帯電器で-3.2kVに帯電し、その表面にアルミ箔を接着し、表面電位を-3.1kVとして、これを充電電位源8して使用し、前記実験装置において実験した。
その結果、電荷搬送体円板14の3回分平均回転持続時間は、アルミ箔なしの場合は31.3秒、同有りの場合は29.0秒となり、いずれもブレーキ作用はほぼ解消されたことが確認できた。
尚、実施例1の新規エレクトレットと同様に、実施例2の新規エレクトレットも、鏡像力駆動型静電発電機の充電電位源8のみならず、従来の静電モーターを除くあらゆる静電機器の電位源として使用可能である。