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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084171
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】冷凍牡蠣の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/40 20160101AFI20220531BHJP
   A23B 4/06 20060101ALI20220531BHJP
   A23B 4/08 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
A23L17/40 C
A23B4/06 501B
A23B4/08 K
A23B4/08 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020195845
(22)【出願日】2020-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】520465264
【氏名又は名称】川崎水産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000140074
【氏名又は名称】株式会社羽根
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】川崎 健
(72)【発明者】
【氏名】羽根 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐敦
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC06
4B042AD39
4B042AE03
4B042AG60
4B042AH01
4B042AK09
4B042AK10
4B042AK11
4B042AP18
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】長期保存しても鮮度を保つことができる冷凍牡蠣の製造方法を提供する。
【解決手段】塩水に添加した氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に吸収させる工程と、前記牡蠣を冷凍する工程とを含む。それにより、前記牡蠣の特異な生態を利用して塩水に溶け込んだ前記氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に大量に吸収させることができる。そのため、前記氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に吸収させる工程を行い、牡蠣を冷凍する工程を行って冷凍牡蠣として長期保存を行った後に解凍した際に、氷結晶化による組織のダメージが少なく、冷凍障害が起きにくい。したがって、解凍した後の牡蠣の味の低下等の品質の低下を抑制できるので、長期保存しても鮮度を保つことができる
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩水に添加した氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に吸収させる工程と、
前記牡蠣を冷凍する工程と、
を含むことを特徴とする、
冷凍牡蠣の製造方法。
【請求項2】
前記氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に吸収させる工程を、
養殖後の牡蠣を浄化槽内に浸漬して浄化する浄化工程において、前記浄化槽内の塩水に氷結晶化阻害物質を添加することにより行い、
前記牡蠣を冷凍する工程は、
前記牡蠣を殻付きのままを冷凍する工程、又は
前記牡蠣の剥き身を冷凍する工程である、
請求項1に記載の冷凍牡蠣の製造方法。
【請求項3】
前記浄化工程における前記塩水のpHを、0.2~1.2上げる工程をさらに備える、
請求項2に記載の冷凍牡蠣の製造方法。
【請求項4】
前記氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に吸収させる工程を、
養殖後の牡蠣を浄化する浄化工程、及び前記浄化工程後の牡蠣を剥き身に加工する牡蠣打ち工程を経た後の前記剥き身を、氷結晶化阻害物質を添加した塩水が入った浸漬槽に浸漬する浸漬工程で行い、
前記牡蠣を冷凍する工程は、
前記剥き身を冷凍する工程である、
請求項1に記載の冷凍牡蠣の製造方法。
【請求項5】
前記浸漬工程における前記塩水のpHを、0.2~1.2上げる工程をさらに備える、
請求項4に記載の冷凍牡蠣の製造方法。
【請求項6】
前記氷結晶化阻害物質は、不凍タンパク質及び/又は不凍多糖である、
請求項1~5の何れか1項に記載の冷凍牡蠣の製造方法。
【請求項7】
前記不凍タンパク質は、植物由来のものである、
請求項6に記載の冷凍牡蠣の製造方法。
【請求項8】
前記不凍タンパク質は、カイワレ大根由来のものである、
請求項7に記載の冷凍牡蠣の製造方法。
【請求項9】
前記不凍多糖は、エノキタケ由来のものである、
請求項6に記載の冷凍牡蠣の製造方法。
【請求項10】
前記不凍多糖は、キシロマンナンである、
請求項9に記載の冷凍牡蠣の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍牡蠣の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本で食用とされている牡蠣は、その殆どが養殖(例えば、特許文献1参照)によるものであり、養殖牡蠣は日本全国で約17万7千トン(2018年)生産されている。
【0003】
牡蠣を長期保存するためには、牡蠣を冷凍する工程を行って冷凍牡蠣にする必要がある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
一方、生体にとって安全性が高い氷結晶化抑制タンパク質を食品に添加することにより、冷凍食品の品質維持等に役立てることができること、及び前記氷結晶化抑制タンパク質を臓器や細胞、血液(血小板)の凍結保存における生体試料保護剤や化粧品(皮膚の保護剤)等に対して有効に用いることができることが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-101783号公報
【特許文献2】特開2019-024488号公報
【特許文献3】特許第5747374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、長期保存しても鮮度を保つことができる冷凍牡蠣の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の発明者らは、冷凍牡蠣を長期保存しても鮮度を保つことができるようにする方法について鋭意研究を重ねてきた。そして、牡蠣には、アサリ、ハマグリ、ホタテ等の他の二枚貝と異なり、呼吸するためだけではなく餌を食べるために鰓で水流を起こすこと、一つの牡蠣が、昼夜を問わず海水を取り込み続け、一日に150~300Lもの海水を取り込むという特異な生態があることに着目した。
【0008】
牡蠣は、海水中に漂っている様々な物を前記水流で殻の中に取り込んで鰓の網目に引っ掛ける。このように鰓の網目に引っ掛かったものは、水流を起こす繊毛とは別の役割の繊毛の動きにより、鰓の端にある口まで運ばれ、牡蠣が食べられるものは口から消化管へ運ばれる。
【0009】
本願の発明者らは、このような牡蠣の特異な生態に着目するとともに、前記牡蠣の特異な生態を利用して前記氷結晶化抑制タンパク質等の氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に吸収させることに想到し、実験による検証を行うことにより本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0011】
〔1〕
塩水に添加した氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に吸収させる工程と、
前記牡蠣を冷凍する工程と、
を含むことを特徴とする、
冷凍牡蠣の製造方法。
【0012】
〔2〕
前記氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に吸収させる工程を、
養殖後の牡蠣を浄化槽内に浸漬して浄化する浄化工程において、前記浄化槽内の塩水に氷結晶化阻害物質を添加することにより行い、
前記牡蠣を冷凍する工程は、
前記牡蠣を殻付きのままを冷凍する工程、又は
前記牡蠣の剥き身を冷凍する工程である、
〔1〕に記載の冷凍牡蠣の製造方法。
【0013】
〔3〕
前記浄化工程における前記塩水のpHを、0.2~1.2上げる工程をさらに備える、
〔2〕に記載の冷凍牡蠣の製造方法。
【0014】
〔4〕
前記氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に吸収させる工程を、
養殖後の牡蠣を浄化する浄化工程、及び前記浄化工程後の牡蠣を剥き身に加工する牡蠣打ち工程を経た後の前記剥き身を、氷結晶化阻害物質を添加した塩水が入った浸漬槽に浸漬する浸漬工程で行い、
前記牡蠣を冷凍する工程は、
前記剥き身を冷凍する工程である、
〔1〕に記載の冷凍牡蠣の製造方法。
【0015】
〔5〕
前記浸漬工程における前記塩水のpHを、0.2~1.2上げる工程をさらに備える、
〔4〕に記載の冷凍牡蠣の製造方法。
【0016】
〔6〕
前記氷結晶化阻害物質は、不凍タンパク質及び/又は不凍多糖である、
〔1〕~〔5〕に記載の冷凍牡蠣の製造方法。
【0017】
〔7〕
前記不凍タンパク質は、植物由来のものである、
〔6〕に記載の冷凍牡蠣の製造方法。
【0018】
〔8〕
前記不凍タンパク質は、カイワレ大根由来のものである、
〔7〕に記載の冷凍牡蠣の製造方法。
【0019】
〔9〕
前記不凍多糖は、エノキタケ由来のものである、
〔6〕に記載の冷凍牡蠣の製造方法。
【0020】
〔10〕
前記不凍多糖は、キシロマンナンである、
〔9〕に記載の冷凍牡蠣の製造方法。
【0021】
本発明における「氷結晶化阻害物質」は、水が凍ってしまう氷点下の温度域で氷結晶に結合してその成長を妨げる能力を持つ物質であり、例えば特許文献3で知られている氷結晶化抑制タンパク質等である。このような氷結晶化阻害物質は、例えば株式会社カネカから「不凍タンパク質製品」又は「不凍多糖製品」として入手できる。
【0022】
氷結晶化阻害物質が植物由来のものであれば、生体にとって非常に安全性が高い。氷結晶化阻害物質が、食経験のあるカイワレ大根由来のもの、又は食経験のあるエノキタケ由来のもの、例えばエノキタケの細胞壁を構成する多糖類の中から見つかった多糖類であるキシロマンナンであれば、食品用途に好適である。エノキタケ由来不凍多糖には、カイワレ大根由来不凍タンパク質よりも耐熱性、耐酸性に優れる等の特徴がある。
【0023】
本発明における「塩水」は、海水である場合と、海水ではない場合がある。
【発明の効果】
【0024】
本発明の冷凍牡蠣の製造方法によれば、牡蠣を冷凍する前に、塩水に添加した氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に吸収させる工程を備える。それにより、前記牡蠣の特異な生態を利用して塩水に溶け込んだ前記氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に大量に吸収させることができる。
【0025】
そのため、前記氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に吸収させる工程を行い、牡蠣を冷凍する工程を行って冷凍牡蠣として長期保存を行った後に解凍した際に、氷結晶化による組織のダメージが少なく、冷凍障害が起きにくい。したがって、解凍した後の牡蠣の味の低下等の品質の低下を抑制できるので、長期保存しても鮮度を保つことができる
【0026】
また、塩水に添加した氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に吸収させる工程における前記塩水のpHを、0.2~1.2上げる工程をさらに備える冷凍牡蠣の製造方法によれば、牡蠣を活性化させることができるので、当該牡蠣はよりさらに多くの量の前記氷結晶化阻害物質を体内に取り込むようになる。その結果、氷結晶化抑制効果をより発揮させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<冷凍牡蠣の製造方法>
本発明の冷凍牡蠣の製造方法は、塩水に添加した氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に吸収させる工程を有することが主な特徴である。
【0028】
塩水に添加した氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に吸収させる方法としては、例えば、以下の方法A及び方法Bがある。
【0029】
(方法A)
養殖後の牡蠣を浄化槽内に浸漬して浄化する浄化工程において、前記浄化槽内の塩水に氷結晶化阻害物質を添加することにより、氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に吸収させる。
【0030】
(方法B)
養殖後の牡蠣を浄化する浄化工程、及び前記浄化工程後の牡蠣を剥き身に加工する牡蠣打ち工程を経た後の前記剥き身を、氷結晶化阻害物質を添加した塩水が入った浸漬槽に浸漬する浸漬工程を行うことにより、氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に吸収させる。
【0031】
<方法Aを含む冷凍牡蠣の第1の製造方法>
【0032】
(浄化工程)
養殖後の牡蠣を浄化槽内に浸漬して浄化する浄化工程を行う。前記浄化工程において、前記浄化槽内の塩水に所定の割合の氷結晶化阻害物質を添加する。
【0033】
(冷凍工程)
浄化工程を経た前記牡蠣を殻付きのままを冷凍する冷凍工程を行う。
【0034】
<方法Aを含む冷凍牡蠣の第2の製造方法>
【0035】
(浄化工程)
前記浄化工程を行う。
【0036】
(冷凍工程)
前記浄化工程を経た前記牡蠣を剥き身に加工する牡蠣打ち工程を行った後、前記剥き身を冷凍する冷凍工程を行う。
【0037】
ここで、前記浄化工程における前記塩水のpHを、0.2~1.2上げる工程をさらに備えるのが好ましい実施態様である。当該工程を備えることにより、牡蠣を活性化させることができるので、当該牡蠣はよりさらに多くの量の前記氷結晶化阻害物質を体内に取り込むようになる。その結果、氷結晶化抑制効果をより発揮させることができる。
【0038】
<方法Bを含む冷凍牡蠣の製造方法>
【0039】
(浄化工程)
養殖後の牡蠣を浄化槽内に浸漬して浄化する浄化工程を行う。
【0040】
(牡蠣打ち工程)
前記浄化工程後の牡蠣を剥き身に加工する牡蠣打ち工程を行う。
【0041】
(浸漬工程)
前記牡蠣打ち工程を経た後の前記剥き身を、所定の割合の氷結晶化阻害物質を添加した塩水が入った浸漬槽に浸漬する浸漬工程を行う。
【0042】
(冷凍工程)
前記浸漬工程を経た前記剥き身を冷凍する冷凍工程を行う。
【0043】
ここで、前記浸漬工程における前記塩水のpHを、0.2~1.2上げる工程をさらに備えるのが好ましい実施態様である。当該工程を備えることにより、牡蠣を活性化させることができるので、当該牡蠣はよりさらに多くの量の前記氷結晶化阻害物質を体内に取り込むようになる。その結果、氷結晶化抑制効果をより発揮させることができる。
【0044】
<試験例1>
方法Aを含む冷凍牡蠣の第1の製造方法、及び方法Aを含む冷凍牡蠣の第2の製造方法の効果を確認するための官能評価試験を行った。
【0045】
(評価方法)
方法Aを含む冷凍牡蠣の第1の製造方法(牡蠣を殻付きで冷凍)、及び方法Aを含む冷凍牡蠣の第2の製造方法(牡蠣の剥き身を冷凍)について、氷結晶化阻害物質を添加しないものを比較例とした。牡蠣をハイブリッドアイスで冷凍して10ヶ月保管した後に解凍し、「冷凍臭」、「弾力」、「牡蠣の味」、及び「雑味」を官能評価した。
【0046】
(実施例及び比較例)
表1に示す実施例1~3は、養殖後の牡蠣を浄化槽内に浸漬して浄化する浄化工程において、前記浄化槽内の海水に所定の割合の氷結晶化阻害物質を添加したものである。氷結晶化阻害物質として、エノキタケ抽出液製剤である株式会社カネカ製の「カネカ不凍多糖EF1」を用い、それを海水に対して0.1重量%添加した。表1に示す比較例1~3は、前記浄化槽内の海水に氷結晶化阻害物質を添加していない。
【0047】
実施例1及び比較例1は、牡蠣を殻付きのまま冷凍しており、実施例2及び3、並びに比較例2及び3は、牡蠣の剥き身を冷凍している。実施例1及び2、並びに比較例1及び2は、解凍後に官能評価を行う牡蠣の状態が生であり、実施例3及び比較例3は、解凍後に官能評価を行う牡蠣の状態がボイル後である。
【0048】
官能評価点数は、氷結晶化阻害物質が無い場合(比較例1~3)を3点とした時の相対点数(1点から5点の5段階で評価)であり、8人の平均点とした。
【0049】
【表1】
【0050】
「冷凍臭」については、1点(弱い)~5点(強い)、「弾力」については、1点(弱い)~5点(強い)、「牡蠣の味」については、1点(薄い)~5点(濃い)、「雑味」については、1点(薄い)~5点(濃い)とした。
【0051】
(評価結果)
1.冷凍臭
(1) 氷結晶化阻害物質が有る場合(実施例1及び2)の方が、氷結晶化阻害物質が無い場合(比較例1及び2)よりも、解凍後の牡蠣の冷凍臭が弱い。
(2) 剥き身を冷凍して解凍後にボイルしたもの(実施例3、比較例3)では、解凍後の牡蠣の冷凍臭は同等である。
【0052】
2.弾力
(1) 氷結晶化阻害物質が有る場合(実施例1及び2)の方が、氷結晶化阻害物質が無い場合(比較例1及び2)よりも、解凍後の牡蠣の弾力が強い。
(2) 剥き身を冷凍して解凍後にボイルしたもの(実施例3、比較例3)では、氷結晶化阻害物質が有る場合(実施例3)の方が、氷結晶化阻害物質が無い場合(比較例3)よりも、解凍後の牡蠣の弾力が弱い。
【0053】
3.牡蠣の味
氷結晶化阻害物質が有る場合(実施例1~3)の方が、氷結晶化阻害物質が無い場合(比較例1~3)よりも、解凍後の牡蠣の味が濃い。
【0054】
4.雑味
氷結晶化阻害物質が有る場合(実施例1~3)の方が、氷結晶化阻害物質が無い場合(比較例1~3)よりも、解凍後の牡蠣の雑味が薄い。
【0055】
<試験例2>
方法Bを含む冷凍牡蠣の製造方法の効果を確認するための官能評価試験を行った。
【0056】
(評価方法)
方法Bを含む冷凍牡蠣の製造方法(牡蠣の剥き身を冷凍)について、氷結晶化阻害物質を添加しないものを比較例とした。牡蠣をハイブリッドアイスで冷凍して10ヶ月保管した後に解凍し、「冷凍臭」、「弾力」、「牡蠣の味」、及び「雑味」を官能評価した。
【0057】
(実施例及び比較例)
表2に示す実施例4~7は、前記浄化工程及び前記牡蠣打ち工程を経た後の牡蠣の剥き身を所定の割合の氷結晶化阻害物質を添加した海水が入った浸漬槽に浸漬する浸漬工程を行ったものである。氷結晶化阻害物質として、エノキタケ抽出液製剤である株式会社カネカ製の「カネカ不凍多糖EF1」及び「カネカ不凍多糖EG1」を用いた。実施例4及び5は、前記浸漬工程で使用する海水に対してカネカ不凍多糖EF1を0.4重量%添加した。実施例6及び7は、前記浸漬工程で使用する海水に対してカネカ不凍多糖EG1を0.2重量%添加した。表2に示す比較例4及び5は、前記浸漬工程を行っていない。また、実施例4~7、及び比較例4及び5において、前記浄化工程で使用する海水に氷結晶化阻害物質を添加していない。
【0058】
実施例4~7、及び比較例4及び5の全てにおいて、牡蠣の剥き身を冷凍している。実施例4及び6、並びに比較例4は、解凍後に官能評価を行う牡蠣の状態が生であり、実施例5及び7、並びに比較例5は、解凍後に官能評価を行う牡蠣の状態がボイル後である。
【0059】
官能評価点数は、氷結晶化阻害物質が無い場合(比較例4及び5)を3点とした時の相対点数(1点から5点の5段階で評価)であり、8人の平均点とした。
【0060】
【表2】
【0061】
「冷凍臭」については、1点(弱い)~5点(強い)、「弾力」については、1点(弱い)~5点(強い)、「牡蠣の味」については、1点(薄い)~5点(濃い)、「雑味」については、1点(薄い)~5点(濃い)とした。
【0062】
(評価結果)
1.冷凍臭
氷結晶化阻害物質が有る場合(実施例4~7)の方が、氷結晶化阻害物質が無い場合(比較例4及び5)よりも、解凍後の牡蠣の冷凍臭が弱い。
【0063】
2.弾力
(1) 氷結晶化阻害物質が有る場合(実施例4及び6)の方が、氷結晶化阻害物質が無い場合(比較例4)よりも、解凍後の牡蠣の弾力が強い。
(2) 剥き身を冷凍して解凍後にボイルしたもの(実施例5及び7、比較例5)では、氷結晶化阻害物質が有る場合(実施例4及び7)の方が、氷結晶化阻害物質が無い場合(比較例5)よりも、解凍後の牡蠣の弾力が弱い。
【0064】
3.牡蠣の味
氷結晶化阻害物質が有る場合(実施例4~7)の方が、氷結晶化阻害物質が無い場合(比較例4及び5)よりも、解凍後の牡蠣の味が濃い。
【0065】
4.雑味
氷結晶化阻害物質が有る場合(実施例4~7)の方が、氷結晶化阻害物質が無い場合(比較例4及び5)よりも、解凍後の牡蠣の雑味が薄い。
【0066】
<作用効果>
以上のとおり、本発明の実施の形態に係る冷凍牡蠣の製造方法によれば、牡蠣を冷凍する前に、塩水に添加した氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に吸収させる工程(前記方法Aにおける浄化工程、前記方法Bにおける浸漬工程)を備える。それにより、牡蠣の特異な生態を利用して塩水に溶け込んだ前記氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に大量に吸収させることができる。
【0067】
そのため、前記氷結晶化阻害物質を生きている牡蠣に吸収させる工程を行い、牡蠣を冷凍する工程を行って冷凍牡蠣として長期保存を行った後に解凍した際に、氷結晶化による組織のダメージが少なく、冷凍障害が起きにくい。したがって、解凍した後の牡蠣の味の低下等の品質の低下を抑制できるので、長期保存しても鮮度を保つことができる。
【0068】
以上の実施の形態の記載はすべて例示であり、これに制限されるものではない。本発明の範囲から逸脱することなく種々の改良及び変更を施すことができる。