(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084172
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】缶用塗料、缶用被覆金属板
(51)【国際特許分類】
C09D 167/02 20060101AFI20220531BHJP
C09D 191/06 20060101ALI20220531BHJP
C08L 67/03 20060101ALI20220531BHJP
C08L 91/06 20060101ALI20220531BHJP
B65D 25/14 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
C09D167/02
C09D191/06
C08L67/03
C08L91/06
B65D25/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020195850
(22)【出願日】2020-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】310000244
【氏名又は名称】DICグラフィックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(72)【発明者】
【氏名】河原 榛菜
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 好樹
(72)【発明者】
【氏名】大塚 良都
【テーマコード(参考)】
3E062
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
3E062AA04
3E062AB02
3E062AC03
3E062JA01
3E062JA07
3E062JB23
3E062JC02
3E062JD03
4J002AE032
4J002CF041
4J002CF051
4J002CF061
4J002CF081
4J002EE030
4J002GH01
4J038BA212
4J038DA042
4J038DA062
4J038DD061
4J038JC13
4J038KA03
4J038KA04
4J038KA06
4J038MA13
4J038MA14
4J038PA19
4J038PB02
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】
本発明が解決しようとする課題は、ビスフェノールA、ホルムアルデヒド、及びイソシアネート由来の硬化剤を用いなくても金属缶、特に飲料缶、食缶の内外面に好適に使用できる塗料を提供することを目的とする。
【解決手段】
ジカルボン酸とジオールとを反応原料とし、パラ位の芳香族ジカルボン酸をジカルボン酸全成分の90質量%以上含有し、プロピレングリコールとエチレングリコールをジオール全成分の90質量%以上含有し、且つガラス転移温度が60℃以上であるポリエステル樹脂を含有する缶用塗料及び缶用被覆金属板。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸とジオールとを反応原料とし、パラ位の芳香族ジカルボン酸をジカルボン酸全成分の90質量%以上含有し、プロピレングリコールとエチレングリコールをジオール全成分の90質量%以上含有し、且つガラス転移温度が60℃以上であるポリエステル樹脂を含有することを特徴とする缶用塗料。
【請求項2】
ワックスを含有する請求項1に記載の缶用塗料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の缶用塗料が少なくとも内面側にされていることを特徴とする缶用被覆金属板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
飲料缶や、食品缶等の金属缶や金属容器は、食品や飲料等を充填する包装容器として広く一般に利用されている。これらの金属缶や金属容器あるいは蓋材(Easy Open End)の内面側には、食品等の内容物による金属の腐食防止(耐食性、耐硫性)や、内容物の味あるいは風味を損なわないために塗装が施されている。
従来このような塗装用の塗料としては、エポキシ-フェノール系塗料、エポキシ-アミノ系塗料、エポキシ-アクリル系塗料等のエポキシ系塗料や、ポリエステル-フェノール系塗料、ポリエステル-アミノ系塗料、ポリエステル-ポリイソシアネート等のポリエステル系塗料、及び塩化ビニル系塗料が広く使用されている。
【0002】
一方研究において、エポキシ樹脂の原料であるビスフェノールA(BPA)はエストロゲン作用や胎児、乳幼児の脳に影響を与える可能性があると報告されている。また塩化ビニル系塗料は、安定剤や焼却時にダイオキシンが発生する問題がある。またフェノール樹脂やアミノ樹脂等の原料として用いられ塗料中に残存するホルムアルデヒド(FA)は、発ガン性など人体への有害性があり、内容物のフレーバー性に悪影響を与えることが知られている。ポリイソシアネート樹脂についても、残存するイソシアネートモノマーや遊離したブロック剤等が人体へ悪影響を与える懸念がある。このような人体への悪影響の懸念から、近年においては、これら原料を使用しない塗料が市場から要望されている。
【0003】
このような材料を使用しない缶内面用塗料として、酸成分がテレフタル酸60~100モル%、テレフタル酸以外のジカルボン酸0~40モル%、グリコール成分がプロピレングリコール40~100モル%、プロピレングリコール以外の脂肪族または脂環族グリコール0~60%および全酸成分またはグリコール成分に対して0.1~3モル%の3官能以上のポリカルボン酸またはポリオールよりなる還元粘度0.3以上であるポリエステル樹脂(A)を含有するポリエステル樹脂組成物や、酸成分がテレフタル酸60~100モル%、グリコール成分がプロピレングリコール40~100モル%であるポリエステル樹脂とアルキルエーテル化アミノホルムアルデヒドとの樹脂組成物や(例えば特許文献1、2参照)、テレフタル酸成分と2,6-ナフタレンジカルボン酸成分の共重合比率の合計が80モル%以上であり、ポリエステル樹脂を構成するポリカルボン酸成分のうち、2,6-ナフタレンジカルボン酸成分の共重合比率が2~80モル%であり、ポリエステル樹脂を構成するポリオール成分のうち、エチレングリコール成分と1,2-プロピレングリコール成分の共重合比率の合計が50モル%以上であり、エチレングリコール成分よりも1,2-プロピレングリコール成分を過剰に含むポリエステル樹脂とブロックイソシアネートとの樹脂組成物が知られている(例えば特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1や2に記載の組成物は硬化剤としてアルキルエーテル化アミノホルムアルデヒドを使用しており、特許文献3に記載の組成物は硬化剤としてイソシアネートを使用しており、いずれも缶内面塗料として近年の市場要望には合致しないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05-112755号公報
【特許文献2】特開2001-270935号公報
【特許文献3】WO13/145992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、ビスフェノールA、ホルムアルデヒド、及びイソシアネート由来の硬化剤を用いなくても金属缶、特に飲料缶、食缶の内外面に好適に使用できる塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ジカルボン酸とジオールとを反応原料とし、パラ位の芳香族ジカルボン酸をジカルボン酸全成分の90質量%以上含有し、プロピレングリコールとエチレングリコールをジオール全成分の90質量%以上含有し、且つガラス転移温度が60℃以上であるポリエステル樹脂を使用することで、前記硬化剤を用いなくても前記課題を解決することを見出した。
【0008】
従来、硬化剤を用いることでリモネンの吸着量が低下するため、内容物のフレーバー性が向上すると考えられてきた。一方で、本発明者らは、特定のモノマー及び特定のモノマー比率、且つガラス転移温度を特定の範囲としたポリエステル樹脂であれば、硬化剤を使用しなくてもフレーバー性が良好で加工性や密着性に優れた缶用塗料が得られることを見出した。
【0009】
即ち本発明は、ジカルボン酸とジオールとを反応原料とし、パラ位の芳香族ジカルボン酸をジカルボン酸全成分の90質量%以上含有し、プロピレングリコールとエチレングリコールをジオール全成分の90質量%以上含有し、且つガラス転移温度が60℃以上であるポリエステル樹脂を含有する缶用塗料を提供する。
【0010】
また本発明は、前記記載の缶用塗料が少なくとも内面側にされている缶用被覆金属板を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の塗料によれば、ビスフェノールA、ホルムアルデヒド、及びイソシアネート由来の原料を含まなくても金属缶、特に飲料缶、食缶の内外面に好適に使用できる塗料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(ポリエステル樹脂)
本発明で使用するポリエステル樹脂は、ジカルボン酸とジオールとを反応原料とし、パラ位の芳香族ジカルボン酸をジカルボン酸全成分の90質量%以上含有し、プロピレングリコールとエチレングリコールをジオール全成分の90質量%以上含有し、且つガラス転移温度が60℃以上であるポリエステル樹脂である。
【0013】
(ジカルボン酸)
本発明で使用するジカルボン酸は、パラ位の芳香族ジカルボン酸を必須とするが、パラ位の芳香族ジカルボン酸に特に限定はない。例えばテレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-フェニレンジカルボン酸等が挙げられる。
中でもテレフタル酸が好ましい。
【0014】
前記パラ位の芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸としては、特に限定はなく公知のジカルボン酸を使用することができる。具体的には、芳香族ジカルボン酸としてイソフタル酸、オルソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。また脂肪族ジカルボン酸としてはコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、ダイマー酸等が挙げられる。また脂環族ジカルボン酸としてはヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。
【0015】
前記パラ位の芳香族ジカルボン酸は、ジカルボン酸全成分の90質量%以上含有することが好ましく、中でも加工性、耐内容物性の観点からジカルボン酸全成分の95質量%以上含有することが最も好ましい。
【0016】
(ジオール)
本発明で使用するジオールは、プロピレングリコールとエチレングリコールを必須とし、ジオール全成分の90質量%以上含有する。
【0017】
プロピレングリコールとエチレングリコール以外のジオールとしては、特に限定はなく公知のジオールを使用することができる。具体的には例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、p-キシリレンジグリコール、2,2-ジメチロールブタン、3,3-ジメチロールヘプタン、トリシクロデカンジメタノール、1,9-ノナジオールなどが挙げられる。
【0018】
本発明で使用するポリエステル樹脂は、上記のジカルボン酸成分とジオール成分以外に3官能以上のポリカルボン酸又はポリオールを反応原料として含有していてもよい。3官能以上のポリカルボン酸又はポリオールは、全酸成分またはグリコール成分に対して0.1~3.0モル%の範囲内であることが好ましい。3官能以上のポリカルボン酸としては、例えば無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。また3官能以上のポリオールとしてはグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0019】
本発明で使用するポリエステル樹脂は、ガラス転移温度(以後Tgと称する場合がある)が60℃以上である。一方上限は120℃以下であることが好ましい。中でもTgの範囲として70℃以上、110℃以下であることがなお好ましい。Tgが60℃未満であると、フレーバー性および/または耐水性が不良となることがある。また、Tgが120℃を越える場合、経済的生産性の面から好ましくない。
【0020】
(ワックス)
本発明においては、前記ポリエステル樹脂を含有することで本発明の効果を発揮できるが、ワックスを含有すると、摩擦係数が低減できなお好ましい。
ワックスは具体的には、SR-16(興陽化学(株)製、マイクロクリスタリンワックス)、HI-DISPER 1250((株)岐阜セラツク製造所製、マイクロクリスタリンワックス)、HI-DISPER 1260((株)岐阜セラツク製造所製、マイクロクリスタリンワックス)、精製パーム油(日清オイリオグループ(株)製、パーム油)、精製ラノリン(CRODA(株)製、ラノリンワックス)が挙げられる。またワックスの添加量は、ポリエステル樹脂に対し0.1~5.0質量%の範囲で添加することが好ましく、より好ましくは0.2~1.0質量%の範囲である。
【0021】
(溶剤)
本発明の缶用塗料は、前記ポリエステル樹脂、必要に応じてワックスを有機溶剤に溶解、分散させて得られる。有機溶剤としては特に制限なく従来公知のものを使用することができ、例えばトルエン、キシレン、ソルベッソ#100、ソルベッソ#150等の芳香族炭化水素系、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素系、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、ギ酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル系、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系、エチレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、エチレングリコール(モノ,ジ)エチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノブチルエーテル、ジエチレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、ジエチレングリコール(モノ,ジ)エチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、プロピレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル等のグリコールエーテル系等が挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
<その他の成分>
本発明の缶用塗料は、前記ポリエステル樹脂、必要に応じてワックスを含有し、缶内面塗料として好適に使用できる。一方缶内面用途ではなく人体への悪影響の懸念が生じない分野への適用においては、フェノール樹脂やアミノ樹脂、イソシアネート化合物等の硬化剤を使用することもできる。また酸触媒、顔料、消泡剤、レベリング剤等を含んでいてもよい。
【0023】
硬化剤として用いることができるフェノール樹脂としては、石炭酸、m-クレゾール、m-エチルフェノール、3,5-キシレノール、m-メトキシフェノール等の3官能のフェノール化合物、もしくはp-クレゾール、o-クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、p-エチルフェノール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール、m-メトキシフェノール等の2官能性のフェノール化合物と、ホルムアルデヒドとをアルカリ触媒の存在下で合成したものや、そのメチロール基の一部ないしは全部を低級アルコールによってエーテル化したものが挙げられる。アミノ樹脂としては、尿素、メラミン、ベンゾグアナミンのホルマリン付加物やこれらと低級アルコールとの反応によりエーテル化したものが挙げられる。イソシアネート化合物としては、脂肪族、芳香族のポリイソシアネートやその3量体、ブロック化したものなどが挙げられる。
【0024】
これらの硬化剤は、塗料の反応性を良好なものとする一方、含有量が多すぎると塗膜が硬くなりすぎ、加工性が低下するおそれがある。このため、これらの硬化剤の含有量は、本発明に含まれる樹脂固形分中の30質量%以下に留めることが好ましい。
【0025】
また、フェノール樹脂やアミノ樹脂は合成の際にホルムアルデヒドを使用する。ホルムアルデヒドは発がん性など人体への影響が懸念され、飲料缶の内面塗料に用いるとフレーバー性を悪化させるおそれがある。樹脂を合成する際にホルムアルデヒドが完全に消費され、樹脂中に組み込まれていれば無害であるし、未反応のものが残存していたとしてもその量は、人体や環境に影響を与える心配の全く無い程度に抑制されてはいるが、本発明の塗料を飲料缶や食缶の内面塗料として用いる場合には、フェノール樹脂やアミノ樹脂の含有量を抑制することができるのであればそれに越したことはない。本発明の塗料によれば、フェノール樹脂やアミノ樹脂のような硬化剤を用いない場合であっても反応性や耐水性に優れるため、これらの硬化剤の使用を避けることができる。
【0026】
また、硬化剤にイソシアネート化合物を用いた場合に、塗膜に未反応のイソシアネートが残留すると、水と反応して健康上の害が懸念されるアミン化合物が生成し内容物に抽出されるおそれがある。通常、このような懸念はさほど大きくはないが、本発明の塗料を飲料缶や食缶の内面塗料として用いる場合のように、より健康上のリスクが少ない塗料とすることが望まれる場合には、イソシアネート化合物の含有量を抑制することができるのであればそれに越したことはない。本発明の塗料はこのような硬化剤を含まない場合であっても、反応性や耐水性に優れた塗膜を得ることができる。
【0027】
酸触媒としては、アルキルリン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸等のアルキルアリールスルホン酸、これらの化合物とナトリウム、カリウム、亜鉛、アンモニア、トリエタノールアミン等との塩等が挙げられる。これらの酸触媒を併用することにより反応性を向上させることができるが、含有量が多すぎると硬化塗膜と基材との密着性が低下するおそれがある。このため酸触媒の含有量は塗料に含まれる樹脂固形分100質量部に対して1質量部以下とすることが好ましく、0.5質量部以下とすることが好ましい。酸触媒を含まなくてもよい。
【0028】
顔料としては、従来公知の無機顔料、有機顔料を特に制限なく用いることができ、無機顔料としてはクロム酸塩(黄鉛、クロムバーミリオン)フエロシアン化物(紺青)、硫化物(カドミウムエロー、カドミウムレッド)、酸化物(酸化チタン、ベンガラ、鉄黒、酸化亜鉛)硫酸塩(硫酸バリウム、硫酸鉛)、珪酸塩(群青、珪酸カルシウム)、炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム)燐酸塩(コバルトバイオレット)金属粉末(アルミニウム粉末、ブロンズ)炭素(カーボンブラック)等が挙げられる。有機顔料としてはアゾ系(ベンジジンイエロー、ハンザエロー、バルカンオレンジ、パーマネントレッドF5R、カーミン6B、レーキレッドC、クロモフタールレッド、クロモフタールエロー)、フタロシアニリン系(フタロシアニンブルー、フタロシアニリングリーン)、建染染料系(インダスレンブルー、チオインジゴボルドー)染付レーキ系(エオシンレーキ、キノリンエロー、ローダミンレーキ、メチルバイオレットレーキ)、キナクドリン系(シンカシアレッド、シンカシアバイオレット)ジオキジシン系(PVファストバイオレットBL)等が挙げられる。これらの顔料は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
消泡剤、レベリング剤等は従来公知のものを用いることができ特に制限はない。
【0030】
本発明の缶用塗料は、エアースプレー、エアレススプレー、静電スプレー等の各種スプレー塗装、浸漬塗装、ロールコーター塗装、グラビアコーターならびに電着塗装等公知の手段により、鋼板、缶用アルミニウム板等の金属基材やポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等に塗装することができる。塗布量は、硬化塗膜の膜厚が0.1~20μm程度となるよう調整すればよい。焼付け条件は用途により適宜調整すればよいが、一例として、缶用塗料として用いる場合には、100℃~280℃で1秒~30分程度焼き付けることで良好な塗膜を得ることができる。
【0031】
本発明の缶用塗料は、飲料缶や食缶の缶胴や缶蓋、キャップの内面、外面用塗料、アルミニウムや錫メッキ鋼板、前処理した金属、スチール等の各種金属素材の被覆用塗料、木材やフィルムやその他加工品の被覆剤として用いることができる。中でも、飲料缶・食缶の内外面用塗料として好ましく用いることができる。
【実施例0032】
以下、実施例と比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。配合組成その他の数値は特記しない限り質量基準である。
【0033】
<ポリエステル樹脂>
公知の合成方法に従い、表1に示す組成のポリエステル樹脂A1~A2、及びB1~B7を得た。
【0034】
(1)数平均分子量の測定
ポリエステル樹脂の数平均分子量は、ポリエステル樹脂濃度が0.5重量%程度となるようにテトラヒドロフランで溶解および/または希釈し、孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブレンフィルターで濾過したものを測定用試料として、テトラヒドロフランを移動相とし、示差屈折計を検出器とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。流速は1mL/分、カラム温度は30℃とした。カラムには昭和電工製KF-802、804L、806Lを用いた。分子量標準には単分散ポリスチレンを使用した。
【0035】
(2)ガラス転移温度(Tg)の測定
ポリエステル樹脂のガラス転移温度の測定は、示差走査型熱量計(SII社、DSC-200)により測定した。ポリエステル樹脂の試料5mgをアルミニウム製の抑え蓋型容器に入れて密封し、液体窒素を用いて-50℃まで冷却し、次いで150℃まで20℃/分にて昇温させた。この過程にて得られる吸熱曲線において、吸熱ピークが出る前のベースラインと、吸熱ピークに向かう接線との交点の温度をもって、ガラス転移温度(Tg、単位:℃)とした。
【0036】
(3)酸価の測定
ポリエステル樹脂酸価の測定は、ポリエステル樹脂の試料0.2gを40mlのクロロホルムに溶解し、0.01Nの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、カルボキシル基含有樹脂106gあたりの当量(当量/106g)を求めた。指示薬にはフェノールフタレインを用いた。
【0037】
【0038】
(実施例 缶用塗料の調整方法)
表2に示す配合で、固形分20%となるように有機溶剤(シクロヘキサノン、ソルベッソ#150等)を用いて、原料を電子天秤にて計量・混合後、分散攪拌機を用いて25℃の温度下、3000rpmの回転数で1分間攪拌し、実施例1~4の缶用塗料を作製した。同様にして、表3に示す配合で比較例1~7の缶用塗料を調整した。該塗料の調整に用いた原料の詳細は以下の通りである。
【0039】
<ワックス>
(ワックスC1)
HI-DISPER 1260((株)岐阜セラツク製造所製、マイクロクリスタリンワックス、固形分10%)を用いた。
(ワックスC2)
精製パーム油(日清オイリオグループ(株)製、パーム油、固形分100%)を用いた。
【0040】
(評価方法)
〔試験用塗装板の作成〕
厚さが0.26mmである5182材のアルミニウム板上に、乾燥塗膜の重量が45mg/dm2となるように、バーコーターを用いて、各実施例で得られた、それぞれの塗料を塗布し、オーブン通過時間が22秒でPMTが250℃となるオーブン条件にて焼き付けたのち、室温まで冷却して、試験用塗装板とした。
【0041】
〔加工性〕
試験用塗装板を40mm×50mmに切断し、塗膜面が外側になるように折り曲げ試験機にてV字に2つ折りにした試験塗板を作成し、この試験片の間に厚さ0.26mmのアルミニウム板を2枚挟んで試験機に設置し、重さ3kgの錘を高さ50cmから落下させ試験片を得た。この試験片の折り曲げ部の外側を、1%食塩水をしみ込ませたスポンジに押し当て試験片に6V×3秒間通電させSENCON製エナメルレーター(通電試験機)を用い電流値を測定し、次に示すような4段階によって評価した。
◎………電流値が1mA未満である
○………電流値が1mA以上~5mA未満である
△………電流値が5mA以上~10mA未満である
×………電流値が10mA以上である。
【0042】
〔耐水性〕
試験用塗装板を立ててビーカーに入れ、これにイオン交換水を試験片の半分の高さまで入れる。これを100℃×30分間煮沸し、目視にて評価を行う。
◎………良好
○………わずかに白化はあるがブリスターはない
△………若干の白化または若干のブリスターあり
×………白化またはブリスターあり。
【0043】
〔密着性〕
試験用塗装板に形成された塗膜に、カッターで1×1mmの碁盤目を100個作成し、この試料片を100℃で30分間熱水処理した。その後碁盤目部分に、粘着テープを貼ったのち、粘着テープを急速に剥離し、塗膜の剥離状態を観察し、次に示すような4段階によって評価した。
◎………剥離が全くない
○………全体の1~2%が剥離した
△………全体の3~10%が剥離した
×………全体の11~100%が剥離した。
【0044】
〔TOC〕
500mLの精製水中に、500cm2なる上記試験用塗装板を浸漬し、100℃で30分間の熱水処理を行ったのちの、水中の有機物の量を炭素量を基に測定し、次に示すような4段階によって評価した。
◎………有機物量が3ppm未満である
○………有機物量が3ppm以上~7ppm未満である
△………有機物量が7ppm以上~15ppm未満である
×………有機物量が15ppm以上である。
【0045】
〔フレーバー性〕
試験用塗装板を50mm×50mmに切断したものを10枚作成し、2ppmリモネン水溶液(エタノール5%含有)250mLに浸漬し30℃で1週間保存した際のリモネン収着率を測定し、次に示すような4段階によって評価した。
◎………収着率が2ppm未満である
○………収着率が2ppm以上~5ppm未満である
△………収着率が5ppm以上~10ppm未満である
×………収着率が10ppm以上である。
【0046】
結果を表2,3に示す。
【0047】
【0048】
【0049】
表中、略語は次の通りである。
p位芳香族ジカルボン酸90%以上:パラ位の芳香族ジカルボン酸をジカルボン酸全成分の90質量%以上含有するものが〇、しないものが×である。
PG・EG90%以上:プロピレングリコールとエチレングリコールをジオール全成分の90質量%以上含有するものが〇、しないものが×である。
Tg60℃以上:ガラス転移温度が60℃以上であるものが〇、ないものが×である。
C1:ワックスC1「HI-DISPER 1260((株)岐阜セラツク製造所製、マイクロクリスタリンワックス、固形分10%)」
C2:ワックスC2「精製パーム油(日清オイリオグループ(株)製、パーム油、固形分100%)」
【0050】
この結果、本願の構成を満たす缶用塗料は、加工性、耐水性、密着性、TOC及びフレーバー性のいずれも優れることが明らかである。