(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084184
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】レーザドップラー速度計
(51)【国際特許分類】
G01P 3/36 20060101AFI20220531BHJP
G01S 17/58 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
G01P3/36 E
G01S17/58
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020195875
(22)【出願日】2020-11-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(72)【発明者】
【氏名】大島 良太
(72)【発明者】
【氏名】世永 薫
(72)【発明者】
【氏名】石川 睦
【テーマコード(参考)】
5J084
【Fターム(参考)】
5J084AA07
5J084AD04
5J084BA04
5J084BA36
5J084BB02
5J084BB04
5J084BB14
5J084BB27
5J084BB30
5J084CA29
5J084CA31
5J084CA42
5J084CA49
5J084CA50
5J084EA04
(57)【要約】
【課題】大きな定速度に重畳する小さな速度変動を良好に計測する。
【解決手段】第1レーザ光と、第1レーザ光と周波数fA異なる第2レーザ光を被測定物300の同一領域に照射し検出信号bを得る。検出信号bは、被測定物300の定速度成分によるドップラーシフトによる周波数fb(Dv)、被測定物300の速度変動成分Avによるドップラーシフトによる周波数fb(Av)、周波数fAを加算した周波数fb(Dv)+fb(Av)+fAの周波数を有する。ミキサ部112は、fb(Dv)+fAの周波数の発振信号を用いて、検出信号bを周波数fb(Av)の復調対象信号Stに変換する。デジタル復調器113は、復調対象信号Stの周波数fstに適合した測定レンジで周波数fstを高分解能に検出し、周波数fstを速度vに変換する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1レーザ光と、第1レーザ光と周波数がfA異なる第2レーザ光を、被測定物の同一領域に異なる方向から照射し、被測定物で反射した散乱光の強度を検出信号として検出し、検出信号から被測定物の速度に関する物理量を計測するレーザドップラー速度計であって、
被測定物は、定速度成分Dvに速度変動成分Avが重畳した速度Rvで移動するものであり、
検出信号の周波数fbは、被測定物の定速度成分Dvによるドップラーシフト成分を表す周波数fb(Dv)、被測定物の速度変動成分Avによるドップラーシフト成分を表す周波数fb(Av)を用いて
fb=fb(Dv)+fb(Av)+fA
と表されるものであり、
当該レーザドップラー速度計は、
周波数がfb(Dv)+P(但し、0≦P≦fA)の発振信号を生成する発振信号生成部と、
前記発振信号生成部が生成した周波数がfb(Dv)+Pの発振信号を用いて検出信号を周波数fb(Av)+fA-Pの復調対象信号に周波数変換するミキサ部と、
前記復調対象信号の周波数を検出し、検出した周波数から速度変動成分Avを算出する復調器とを有することを特徴とするレーザドップラー速度計。
【請求項2】
請求項1記載のレーザドップラー速度計であって、
制御手段を有し、
前記復調器は、検出可能な周波数の範囲と周波数分解能とが異なる複数の測定レンジを備え、前記複数の測定レンジのうちの、制御手段から現用測定レンジとして設定された測定レンジで復調対象信号の周波数の検出を行い、
前記制御手段は、前記複数の測定レンジのうちの周波数fb(Av)+fA-Pを最も良い周波数分解能で検出可能な測定レンジを現用測定レンジとして前記復調器に設定することを特徴とするレーザドップラー速度計。
【請求項3】
請求項1または2記載のレーザドップラー速度計であって、
前記Pと前記fAは、P=fAの関係にあり、
前記発振信号生成部は、周波数がfb(Dv)+fAの発振信号を、前記周波数がfb(Dv)+Pの発振信号として生成し、
前記ミキサ部は、前記発振信号生成部が生成した周波数がfb(Dv)+fAの発振信号を用いて検出信号を周波数fb(Av)の復調対象信号に周波数変換し、
前記復調器は、復調対象信号の周波数fb(Av)を検出し、検出した周波数から速度変動成分Avを算出することを特徴とするレーザドップラー速度計。
【請求項4】
請求項3記載のレーザドップラー速度計であって、
前記発振信号生成部は、
検出信号の平均周波数を計測する平均周波数計測手段と、
前記平均周波数計測手段が計測した平均周波数をfb(Dv)+fAとして、前記周波数がfb(Dv)+fAの発振信号を、前記周波数がfb(Dv)+Pの発振信号として生成する発振手段とを有することを特徴とするレーザドップラー速度計。
【請求項5】
請求項2記載のレーザドップラー速度計であって、
前記Pと前記fAは、P=fAの関係にあり、
当該レーザドップラー速度計は、当該レーザドップラー速度計に選択的に設定可能な測定モードとして、速度計測モードと速度変動計測モードとを有し、
前記測定モードとして速度変動計測モードが設定されているときに、
前記発振信号生成部は、周波数がfb(Dv)+fAの発振信号を、前記周波数がfb(Dv)+Pの発振信号として生成し、
前記ミキサ部は、前記発振信号生成部が生成した周波数がfb(Dv)+fAの発振信号を用いて検出信号を周波数fb(Av)の復調対象信号に周波数変換し、
前記復調器は、復調対象信号の周波数を検出し、検出した周波数から速度変動成分Avを算出し、
前記制御手段は、前記複数の測定レンジのうちの周波数fb(Av)を最も良い周波数分解能で検出可能な測定レンジを現用測定レンジとして前記復調器に設定し、
前記測定モードとして速度計測モードが設定されているときに、
前記発振信号生成部は、周波数がfAの発振信号を生成し、
前記ミキサ部は、前記発振信号生成部が生成した周波数がfAの発振信号を用いて検出信号を周波数fb(Dv)+fb(Av)の復調対象信号に周波数変換し、
前記復調器は、復調対象信号の周波数を検出し、検出した周波数から被測定物の速度Rvを算出し、
前記制御手段は、前記複数の測定レンジのうちの周波数fb(Dv)+fb(Av)を検出可能な測定レンジを現用測定レンジとして前記復調器に設定することを特徴とするレーザドップラー速度計。
【請求項6】
請求項1または2記載のレーザドップラー速度計であって、
前記Pは、0<P<fAを満たし、かつ、fb(Av)+fA-Pが常に正の値となることが保証されるように設定された値を有することを特徴とするレーザドップラー速度計。
【請求項7】
請求項6記載のレーザドップラー速度計であって、
前記Pは、所定の固定値Aに対して、P=fA-Aであり、
当該レーザドップラー速度計の前記発振信号生成部は、
検出信号の平均周波数を計測する平均周波数計測手段と、
前記平均周波数計測手段が計測した平均周波数をfb(Dv)+fAとして、前記周波数がfb(Dv)+fA-Aの発振信号を前記fb(Dv)+Pの発振信号として生成する発振手段とを有することを特徴とするレーザドップラー速度計。
【請求項8】
請求項2記載のレーザドップラー速度計であって、
前記Pは、0<P<fAを満たし、かつ、fb(Av)+fA-Pが常に正の値となることが保証されるように設定された値を有し、
当該レーザドップラー速度計は、当該レーザドップラー速度計に選択的に設定可能な測定モードとして、速度計測モードと速度変動計測モードとを有し、
前記測定モードとして速度変動計測モードが設定されているときに、
前記発振信号生成部は、周波数がfb(Dv)+Pの発振信号を生成し、
前記ミキサ部は、前記発振信号生成部が生成した周波数がfb(Dv)+Pの発振信号を用いて検出信号を周波数fb(Av)+fA-Pの復調対象信号に周波数変換し、
前記復調器は、復調対象信号の周波数を検出し、検出した周波数から速度変動成分Avを算出し、
前記制御手段は、前記複数の測定レンジのうちのfb(Av)+fA-Pを最も良い周波数分解能で検出可能な測定レンジを現用測定レンジとして前記復調器に設定し、
前記測定モードとして速度計測モードが設定されているときに、
前記発振信号生成部は、fb(Dv)+fb(Av)+Mが常に正の値となるように設定した値Mを用いて、周波数がfA-Mの発振信号を生成し、
前記ミキサ部は、前記発振信号生成部が生成した周波数がfA-Mの発振信号を用いて検出信号を周波数fb(Dv)+fb(Av)+Mの復調対象信号に周波数変換し、
前記復調器は、復調対象信号の周波数を検出し、検出した周波数から被測定物の速度Rvを算出し、
前記制御手段は、前記複数の測定レンジのうちの周波数fb(Dv)+fb(Av)+Mを検出可能な測定レンジを現用測定レンジとして前記復調器に設定することを特徴とするレーザドップラー速度計。
【請求項9】
第1レーザ光と第2レーザ光を、被測定物の同一領域に異なる方向から照射し、被測定物で反射した散乱光の強度を検出信号として検出し、検出信号から被測定物の速度に関する物理量を計測するレーザドップラー速度計であって、
被測定物は、定速度成分Dvに速度変動成分Avが重畳した速度Rvで移動するものであり、
当該レーザドップラー速度計は、
前記検出信号の周波数領域における直流成分となる周波数をfDCとして、周波数がfDCの発振信号を生成する発振信号生成部と、
前記検出信号の周波数をfbとして、前記発振信号生成部が生成した周波数がfDCの発振信号を用いて検出信号を周波数fb-fDCの復調対象信号に周波数変換するミキサ部と、
前記復調対象信号の周波数を検出し、検出した周波数から速度変動成分Avを算出する復調器とを有することを特徴とするレーザドップラー速度計。
【請求項10】
請求項9記載のレーザドップラー速度計であって、
当該レーザドップラー速度計の前記発振信号生成部は、
検出信号の平均周波数を計測する平均周波数計測手段と、
前記平均周波数計測手段が計測した平均周波数と同じ周波数の信号を前記周波数がfDCの発振信号として生成する発振手段とを有することを特徴とするレーザドップラー速度計。
【請求項11】
請求項1、2、3、4、6、7、8または9記載のレーザドップラー速度計であって、
検出信号から被測定物の速度Rvを算出する速度計測手段を有することを特徴とするレーザドップラー速度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザドップラー速度計において速度変動を検出する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザドップラー速度計としては、レーザ光源から出射された波長λのレーザ光を第1のレーザ光と第2のレーザ光に分岐し、音響光学素子(AOM)等を用いて第2のレーザ光の周波数をfrシフトし、第1のレーザ光と周波数をシフトした第2のレーザ光とを、被測定物の同じ領域に照射し、被測定物による二つのレーザ光の反射光に含まれるビート信号の周波数fbより被測定物の速度vを測定するレーザドップラー速度計が知られている(たとえば、特許文献1)。
【0003】
このレーザドップラー速度計は、第1のレーザ光を入射角+θで被測定物に照射し、周波数をfrシフトした第2のレーザ光を入射角-θで被測定物に照射する。また、検出されたビート信号の周波数fb=2fd=fr+(2v/λ)sinθにより速度vを求めると共に、fb=2fdとfrの大小関係により移動方向を検出する。なお、fdは、被測定物の速度vによるドップラーシフトを表す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的には、レーザドップラー速度計には、計測可能な速度の上限が異なる複数の測定レンジが切り替え可能に設けられており、レーザドップラー速度計は、設定された測定レンジ内の速度の計測に好適化された計測特性で速度の計測を行う。また、上限の速度が大きい測定レンジほど、速度分解能が低くなる。
【0006】
したがって、定速度回転する円盤状の被測定物のワウフラッターが重畳する周速度の計測や、定速度移動する被測定物の速度ムラが重畳する速度の計測などの、大きな定速度に小さな速度変動が重畳する速度の計測を行う場合、おおよそ定速度の大きさに対して定まる測定レンジを設定して計測を行う必要があるが、この測定レンジでは、定速度の大きさに対して小さい速度変動は良好に計測することができない。
【0007】
本発明は、大きな定速度に重畳する小さな速度変動を良好に計測することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題達成のために、本発明は、第1のレーザドップラー速度計として、第1レーザ光と、第1レーザ光と周波数がfA異なる第2レーザ光を、被測定物の同一領域に異なる方向から照射し、被測定物で反射した散乱光の強度を検出信号として検出し、検出信号から被測定物の速度に関する物理量を計測するレーザドップラー速度計に、被測定物が、定速度成分Dvに速度変動成分Avが重畳した速度Rvで移動するものであり、検出信号の周波数fbは、被測定物の定速度成分Dvによるドップラーシフト成分を表す周波数fb(Dv)、被測定物の速度変動成分Avによるドップラーシフト成分を表す周波数fb(Av)を用いてfb=fb(Dv)+fb(Av)+fAと表されるものである場合に、周波数がfb(Dv)+P(但し、0≦P≦fA)の発振信号を生成する発振信号生成部と、前記発振信号生成部が生成した周波数がfb(Dv)+Pの発振信号を用いて検出信号を周波数fb(Av)+fA-Pの復調対象信号に周波数変換するミキサ部と、復調対象信号の周波数を検出し、検出した周波数から速度変動成分Avを算出する復調器とを備えたものである。
【0009】
また、第2のレーザドップラー速度計として、第1のレーザドップラー速度計に制御手段を設け、前記復調器を、検出可能な周波数の範囲と周波数分解能とが異なる複数の測定レンジを備え、前記複数の測定レンジのうちの、制御手段から現用測定レンジとして設定された測定レンジで復調対象信号の周波数の検出を行うものとし、前記制御手段において、前記複数の測定レンジのうちの周波数fb(Av)を最も良い周波数分解能で検出可能な測定レンジを現用測定レンジとして前記復調器に設定するレーザドップラー速度計を提供する。
【0010】
以上の第1、第2のレーザドップラー速度計は、P=fAとして、前記発振信号生成部において、周波数がfb(Dv)+fAの発振信号を生成し、前記ミキサ部において、前記発振信号生成部が生成した周波数がfb(Dv)+fAの発振信号を用いて検出信号を周波数fb(Av)の復調対象信号に周波数変換し、前記復調器において、復調対象信号の周波数fb(Av)を検出し、検出した周波数から速度変動成分Avを算出してもよい。
【0011】
この場合には、前記発振信号生成部を、検出信号の平均周波数を計測する平均周波数計測手段と、前記平均周波数計測手段が計測した平均周波数をfb(Dv)+fAとして、前記周波数がfb(Dv)+fAの発振信号を生成する発振手段とより構成してよい。
【0012】
また、上記第2のレーザドップラー速度計は、P=fAとすると共に、当該レーザドップラー速度計に、当該レーザドップラー速度計に選択的に設定可能な測定モードとして、速度計測モードと速度変動計測モードとを設けてもよい。この場合、前記測定モードとして速度変動計測モードが設定されているときに、前記発振信号生成部は、周波数がfb(Dv)+fAの発振信号を生成し、前記ミキサ部は、前記発振信号生成部が生成した周波数がfb(Dv)+fAの発振信号を用いて検出信号を周波数fb(Av)の復調対象信号に周波数変換し、前記復調器は、復調対象信号の周波数を検出し、検出した周波数から速度変動成分Avを算出し、前記制御手段は、前記複数の測定レンジのうちの周波数fb(Av)を最も良い周波数分解能で検出可能な測定レンジを現用測定レンジとして前記復調器に設定する。また、前記測定モードとして速度計測モードが設定されているときに、前記発振信号生成部は、周波数がfAの発振信号を生成し、前記ミキサ部は、前記発振信号生成部が生成した周波数がfAの発振信号を用いて検出信号を周波数fb(Dv)+fb(Av)の復調対象信号に周波数変換し、前記復調器は、復調対象信号の周波数を検出し、検出した周波数から被測定物の速度Rvを算出し、前記制御手段は、前記複数の測定レンジのうちの周波数fb(Dv)+fb(Av)を検出可能な測定レンジを現用測定レンジとして前記復調器に設定する。
【0013】
または、第1、第2のレーザドップラー速度計が、前記Pは、0<P<fAを満たし、かつ、fb(Av)+fA-Pが常に正の値となることが保証されるように設定された値を有するものとしてもよい。
【0014】
また、この場合、前記Pを、所定の固定値Aに対して、P=fA-Aを満たすものとし、当該レーザドップラー速度計に、検出信号の平均周波数を計測する平均周波数計測手段と、
前記平均周波数計測手段が計測した平均周波数をfb(Dv)+fAとして、前記周波数がfb(Dv)+fA-Aの発振信号を前記fb(Dv)+Pの発振信号として生成する発振手段とを備えてもよい。
【0015】
また、上記第2のレーザドップラー速度計が、前記Pを、0<P<fAを満たし、かつ、fb(Av)+fA-Pが常に正の値となることが保証されるように設定された値を有するものとし、当該レーザドップラー速度計は、当該レーザドップラー速度計に選択的に設定可能な測定モードとして、速度計測モードと速度変動計測モードとを設けてもよい。この場合、前記測定モードとして速度変動計測モードが設定されているときに、前記発振信号生成部は、周波数がfb(Dv)+Pの発振信号を生成し、前記ミキサ部は、前記発振信号生成部が生成した周波数がfb(Dv)+Pの発振信号を用いて検出信号を周波数fb(Av)+fA-Pの復調対象信号に周波数変換し、前記復調器は、復調対象信号の周波数を検出し、検出した周波数から速度変動成分Avを算出し、前記制御手段は、前記複数の測定レンジのうちのfb(Av)+fA-Pを最も良い周波数分解能で検出可能な測定レンジを現用測定レンジとして前記復調器に設定する。一方、前記測定モードとして速度計測モードが設定されているときに、前記発振信号生成部は、fb(Dv)+fb(Av)+Mが常に正の値となるように設定した値Mを用いて、周波数がfA-Mの発振信号を生成し、前記ミキサ部は、前記発振信号生成部が生成した周波数がfA-Mの発振信号を用いて検出信号を周波数fb(Dv)+fb(Av)+Mの復調対象信号に周波数変換し、前記復調器は、復調対象信号の周波数を検出し、検出した周波数から被測定物の速度Rvを算出し、前記制御手段は、前記複数の測定レンジのうちの周波数fb(Dv)+fb(Av)+Mを検出可能な測定レンジを現用測定レンジとして前記復調器に設定する。
【0016】
以上のような速度計測モードを設けない場合には、レーザドップラー速度計に検出信号から被測定物の速度Rvを算出する速度計測手段を設けてもよい。
以上のレーザドップラー速度計によれば、検出信号を、当該検出信号の周波数fbから被測定物の定速度成分Dvによるドップラーシフト成分を表す周波数fb(Dv)を少なくとも減じた低い周波数の復調対象信号に変換した上で周波数の検出を行うので、通常、高周波数帯の測定レンジに比べ周波数分解能が高い低周波数帯の測定レンジで周波数の検出を行うことができ、この結果、大きな定速度成分Dvに重畳する小さな速度変動成分Avを高い分解能で計測できる。
【0017】
また、前記課題達成のために、本発明は、第1レーザ光と第2レーザ光を、被測定物の同一領域に異なる方向から照射し、被測定物で反射した散乱光の強度を検出信号として検出し、検出信号から被測定物の速度に関する物理量を計測するレーザドップラー速度計を提供する。被測定物は、定速度成分Dvに速度変動成分Avが重畳した速度Rvで移動するものであり、当該レーザドップラー速度計は、
前記検出信号の周波数領域における直流成分となる周波数をfDCとして、周波数がfDCの発振信号を生成する発振信号生成部と、前記検出信号の周波数をfbとして、前記発振信号生成部が生成した周波数がfDCの発振信号を用いて検出信号を周波数fb-fDCの復調対象信号に周波数変換するミキサ部と、前記復調対象信号の周波数を検出し、検出した周波数から速度変動成分Avを算出する復調器とを備えている。
【0018】
このようなレーザドップラー速度計の前記発振信号生成部は、検出信号の平均周波数を計測する平均周波数計測手段と、前記平均周波数計測手段が計測した平均周波数と同じ周波数の信号を前記周波数がfDCの発振信号として生成する発振手段とを備えたものとしてよい。
【0019】
このようなレーザドップラー速度計によれば、検出信号を、当該検出信号の周波数fbを、速度変動成分Avを表す周波数成分である、周波数fbよりも低い周波数周波数fb-fDCの復調対象信号に変換した上で周波数の検出を行うので、通常、高周波数帯の測定レンジに比べ周波数分解能が高い低周波数帯の測定レンジで周波数の検出を行うことができ、この結果、大きな定速度成分Dvに重畳する小さな速度変動成分Avを高い分解能で計測することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、大きな定速度に重畳する小さな速度変動を良好に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るレーザドップラー速度計の構成を示す図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る計測部の構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係るデジタル復調器の構成例を示すブロック図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係るレーザドップラー速度計の作用を示す図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る計測部の構成を示すブロック図である。
【
図6】本発明の第3実施形態に係る計測部の構成を示すブロック図である。
【
図7】本発明の第3実施形態に係るアナログ復調器の構成例を示すブロック図である。
【
図8】本発明の第4実施形態に係る計測部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態について説明する。
まず、第1実施形態について説明する。
図1に、第1実施形態に係るレーザドップラー速度計の構成を示す。
レーザドップラー速度計は、計測装置1と、計測装置1に接続された検出装置2を備えている。
計測装置1は、計測部11、計測制御部12、計測装置1の全体を制御するシステム制御部13、駆動部14を備えている。
検出装置2は、レーザ光源21、コリメータレンズ22、ビームスプリッタ23、AOM24、ミラー25、対物レンズ26、光検出器27を備えている。
レーザ光源21は、波長λのレーザ光を測定光として出射し、レーザ光源21から出射された測定光は、コリメータレンズ22で平行光束に変換されビームスプリッタ23に出射される。
【0023】
ビームスプリッタ23は、コリメータレンズ22から入射する測定光を二つに分岐し、分岐した一方の測定光である第1レーザ光を被測定物300に照射し、分岐した他方の測定光である第2レーザ光をAOM24に入射する。
【0024】
AOM24は、入射した第2レーザ光の周波数をfAシフトし、ミラー25に向けて出射する。そして、ミラー25は、AOM24から入射する第2レーザ光を反射し被測定物300に照射する。
【0025】
ここで、ビームスプリッタ23から出射された第1レーザ光とミラー25から出射された第2レーザ光は、被測定物300の同じ領域を照射する。また、ビームスプリッタ23から出射された第1レーザ光を、被測定物300の移動方向と垂直な方向から被測定物300の正の移動方向にθ傾けた方向から被測定物300に照射し、ミラー25から出射された第2レーザ光を、被測定物300の移動方向と垂直な方向から被測定物300の負の移動方向にθ傾けた方向から被測定物300に照射する。なお、移動方向の正負は、測定の目的に応じて任意に設定してよい。
【0026】
次に、対物レンズ26は、被測定物300で散乱された第1レーザ光と第2レーザ光の散乱光を光検出器27に集光する。光検出器27は、集光された散乱光の成分を光電変換し検出信号bとして計測装置1に出力する。
【0027】
ここで、第1レーザ光の散乱光の周波数と第2レーザ光の散乱光の周波数には、被測定物300の速度に応じた大きさのドップラーシフトdが逆方向に生じており、光検出器27が出力する検出信号bは、ドップラーシフトdの大きさと、AOM24における測定光のシフト周波数fAに応じた周波数fA+2fdのビート信号となる。
【0028】
次に、計測装置1の駆動部14は、システム制御部13の制御に従い、レーザ光源21とAOM24の駆動を行う。
計測部11は、光検出器27から出力された検出信号bから、計測制御部12の制御に従って被測定物300の速度や速度変動を計測する。
図2に、計測部11の構成を示す。
図示するように、計測部11は、検出信号bをデジタル変換するAD(アナログデジタル変換器)111、ミキサ部112、デジタル復調器113、DA(デジタルアナログ変換器)114、NCO(数値制御発信器)115、周波数検出部116、平均化処理部117を備えている。なお、計測部11のDA114を除く部分はFPGAにより構成してよい。
【0029】
また、計測部11は、測定可能な速度の範囲が異なる複数の測定レンジを備えている。そして、デジタル復調器113は、復調特性を、複数の測定レンジに対応する複数の復調特性の間で切り替えることができる。各測定レンジに対応する復調特性は、その測定レンジ内の速度の復調に好適化されている。
【0030】
計測装置1は、速度計測モードと速度変動計測モードの二つの計測モードを備えており、計測制御部12は、システム制御部13から設定された計測モードに応じた計測部11の動作の制御を行う。
【0031】
計測モードとして速度計測モードが設定されているとき、計測制御部12は、NCO115にAOM24における測定光のシフト周波数fAの発振信号を出力させる。
また、計測制御部12は、デジタル復調器113に、システム制御部13から設定された測定レンジに対応する復調特性で復調動作を行わせる。ここで、速度計測モードのときに、システム制御部13から設定される測定レンジは、ユーザにより設定された測定レンジであり、通常、計測可能な速度の上限が被測定物300の速度の最大値超となる測定レンジのうちの、計測可能な速度の上限が最小の測定レンジが設定される。
【0032】
さて、光検出器27から出力された検出信号bの周波数fb=fA+2fdは、被測定物300の定速度成分Dvによるドップラーシフト成分を表す周波数fb(Dv)、被測定物300の速度変動成分Avによるドップラーシフト成分を表す周波数fb(Av)、シフト周波数fAを加算したものとなり、
fb=fb(Dv)+fb(Av)+fA
と表すことができる。
【0033】
そして、計測モードとして速度計測モードが設定されているときミキサ部112はAD111の出力するデジタル化した検出信号bにNCO115が出力する周波数fAの発振信号を乗算すると共に、当該乗算によって生成される周波数がfb(Dv)+fb(Av)の信号を復調対象信号Stとしてデジタル復調器113に出力する。
【0034】
デジタル復調器113は、設定された測定レンジに対応する計測特性で復調対象信号Stの周波数fstを検出し、fst=(2v/λ)sinθによって速度vを求め、速度v(デジタル)として出力すると共に、DA114を介して速度v(アナログ)として出力する。
【0035】
次に、計測モードとして速度変動計測モードが設定されているとき、周波数検出部116は、AD111の出力するデジタル化した検出信号bの周波数を検出し、平均化処理部117は、周波数検出部116が検出した周波数の平均値を出力する。
【0036】
検出信号の周波数は、fb(Dv)+fb(Av)+fAであり、fb(Dv)とfAは変動せず、fb(Av)のみが変動するので、平均化処理部117から出力される平均値は、fb(Dv)+fAとなる。
計測モードとして速度変動計測モードが設定されているとき、計測制御部12は、NCO115に平均化処理部117から出力されるfb(Dv)+fAの周波数の発振信号を出力させる。
【0037】
また、デジタル復調器113に、システム制御部13から設定された測定レンジに対応する復調特性で復調動作を行わせる。ここで、被測定物300の速度Rvから被測定物300の定速度成分Dvの大きさを減じた値を速度変動成分Avとして、速度変動計測モードのときに、システム制御部13から設定される測定レンジは、ユーザ等により設定された、計測可能な速度の上限が被測定物300の速度変動成分Avの最大値超となる測定レンジのうちの計測可能な速度の上限が最小の測定レンジである。
【0038】
そして、計測モードとして速度変動計測モードが設定されているときミキサ部112はAD111の出力するデジタル化した検出信号bにNCO115が出力する周波数fb(Dv)+fAの発振信号を乗算すると共に、当該乗算によって生成されるfb(Av)の信号を復調対象信号Stとしてデジタル復調器113に出力する。
【0039】
デジタル復調器113は、設定された測定レンジに対応する計測特性で復調対象信号Stの周波数fstを検出し、fst=(2v/λ)sinθによって速度vを求め、速度v(デジタル)として出力すると共に、DA114を介して速度v(アナログ)として出力する。
【0040】
次に、デジタル復調器113の構成例を
図3に示す。
図示するように、デジタル復調器113は、直交復調部1131、1からnまでのn個の測定レンジに対応して設けられたn個の適合処理部1132、角度変換処理部1133、微分処理部1134、速度変換部1135を備えている。
【0041】
直交復調部1131は、復調対象信号Stに直交したcos信号とsin信号とをそれぞれ乗算して同相成分(実数部)Iと直交成分(虚数部)Qを生成し、各適合処理部1132に出力する。
【0042】
n個の適合処理部1132は、デシメーション・フィルタ11321をI用とQ用に2つ備えている。I用のデシメーション・フィルタ11321は直交復調部1131が出力したIのサンプルを間引いて角度変換処理部1133にIとして出力し、Q用のデシメーション・フィルタ11321は直交復調部1131が出力したQのサンプルを間引いて角度変換処理部1133にQとして出力する。
【0043】
計測制御部12は、デジタル復調器113にシステム制御部13から設定された測定レンジに対応する復調特性で復調動作を行わせるために、設定された測定レンジに対応する適合処理部1132のみをアクティブとし、アクティブな適合処理部1132の出力するIとQのみが角度変換処理部1133に出力される。
【0044】
角度変換処理部1133は、アークタンジェント (逆正接)関数Atan()を用いて、アクティブな適合処理部1132から出力されるIとQを、φ=Atan(Q/I)により角度φに変換し、微分処理部1134は角度φを時間微分して復調対象信号Stの周波数fstを算出する。
【0045】
そして、速度変換部1135は、fst=(2v/λ)sinθによって速度vを算出し、速度v(デジタル)として出力する。
ここで、各適合処理部1132におけるデシメーション・フィルタ11321のサンプルの間引きの形態は、対応する測定レンジvrngに対しfrng=(2vrng/λ)sinθに従って対応する周波数レンジfrngに適合するように、適合処理部1132毎に異なっている。すなわち、適合処理部1132のデシメーション・フィルタ11321のサンプルの間引き形態は、角度変換処理部1133と微分処理部1134によって、エイリアス等の障害無く対応する周波数レンジの上限まで周波数を検出できるように設定されている。このために、周波数レンジの上限が高いほど、角度変換処理部1133と微分処理部1134によって検出される周波数の分解能、つまり、速度変換部1135で検出される速度の分解能は低くなる。
【0046】
このように第1実施形態に係るレーザドップラー速度計は、被測定物300の速度Rvが大きな定速度成分Dvと小さな速度変動成分Avを加算したものである場合、速度計測モードでは、デジタル復調器113における速度の復調を、
図4aに例示した絶対値の上限がfb(Dv)+fb(Av)超となる比較的広い周波数レンジR1を用いて比較的低い周波数分解能で周波数fb(Dv)+fb(Av)を検出し、検出した周波数を速度vに変換することにより行う。結果、変換された速度vは、定速度成分Dvに速度変動成分Avが加算された被測定物300の速度Rvを表す。
【0047】
一方、速度変動計測モードでは、被測定物300の速度変動成分Avによるドップラーシフトによる周波数fb(Av)のみを抽出する。この場合、デジタル復調器113における速度の復調を、
図4bに例示した絶対値の上限がfst=fb(Av)超となる比較的狭い周波数レンジR2を用いて比較的高い周波数分解能で周波数fb(Av)を検出し、検出した周波数を速度vに変換することにより行う。結果、速度変動計測モードで変換された速度vは、被測定物300の速度変動成分Avを表す。
【0048】
したがって、速度分解能は周波数分解能に依存するので、第1実施形態の速度変動計測モードによれば、大きな定速度成分Dvに重畳する小さな速度変動成分Avを高い分解能で計測することができる。
【0049】
次に、周波数検出部116の構成は、たとえば、デジタル復調器113の周波数を検出する構成、すなわち、直交復調部1131とn個の適合処理部1132と角度変換処理部1133と微分処理部1134と備えた構成を用いることができる。
【0050】
以下、第2実施形態を示す。
第2実施形態は、計測部11の構成のみが第1実施形態と異なる。
図5に、第2実施形態の計測部11の構成を示す。
図示するように、第2実施形態の計測部11は、第1実施形態の計測部11のAD111、ミキサ部112、デジタル復調器113、DA114、NCO115、周波数検出部116、平均化処理部117の構成に加え、第2ミキサ部118、第2NCO119、第2デジタル復調器1101、第2DA1102を備えている。
【0051】
第2実施形態において計測制御部12は、AD111、ミキサ部112、デジタル復調器113、DA114、NCO115、周波数検出部116、平均化処理部117を第1実施形態の速度変動計測モードと同様に動作させる。
【0052】
また、計測制御部12は、第2デジタル復調器1101に、システム制御部13から設定された、計測可能な速度の上限が被測定物300の速度の最大値超となる測定レンジのうちの計測可能な速度の上限が最小の測定レンジを設定する。
【0053】
第2NCO119は、シフト周波数fAの発振信号を出力し、第2ミキサ部118はAD111の出力するデジタル化した検出信号に第2NCO119が出力する周波数fAの発振信号を乗算すると共に、当該乗算によって生成されるfb(Dv)+fb(Av)の信号を復調対象信号Stとして第2デジタル復調器1101に出力する。
【0054】
第2デジタル復調器1101は、設定された測定レンジに対応する計測特性で復調対象信号Stの周波数fstを検出し、fst=(2v/λ)sinθによって速度vを求め速度v2(デジタル)として出力すると共に、第2DA1102を介して速度v2(アナログ)として出力する。
【0055】
結果、デジタル復調器113とDA114からは被測定物300の速度変動成分Avを表す速度vが出力され、第2デジタル復調器1101と第2DA1102からは、定速度成分Dvに速度変動成分Avが加算された被測定物300の速度Rvを表す速度v2が出力される。
【0056】
以上の第1、第2実施形態では、周波数検出部116と平均化処理部117を設け、速度変動計測モードのときに、NCO115において平均化処理部117の出力に応じてfb(Dv)+fAの周波数の発振信号を出力したが、これは、計測制御部12が、システム制御部13からユーザが設定したfb(Dv)+fAの値をNCO115に設定して、NCO115においてfb(Dv)+fAの周波数の発振信号を出力してもよい。
【0057】
また、速度変動計測モードのときに、NCO115においてfb(Dv)+fAの周波数の発振信号を出力する代わりに、fb(Dv)+M(0≦M<fA)の発振信号を出力し、ミキサ部112において発振信号を用いてfb(Av)+fA-Mの復調対象信号Stを生成すると共に、デジタル復調器113を、復調対象信号Stの周波数fstを検出し、検出した周波数fstから、fb(Av)や速度変動成分Avを算出するように構成してもよい。
【0058】
この場合、第1、第2実施形態において、速度変動計測モードのときにNCO115が生成する発振信号の周波数をfb(Dv)+Pで表すと、Pは0≦P≦fAを満たす値であってよく、ミキサ部112が出力する復調対象信号Stの周波数fstはfst=fb(Av)+fA-Pで表され、fb(Av)≦fst≦fb(Av)+fAとなる。したがって、このようにしても、復調対象信号Stの周波数fstを、fb(Av)の成分を含み、かつ、検出信号bの周波数fbから少なくともfb(Dv)を差し引いたものとすることができる。
【0059】
以下、第3実施形態を説明する。
第3実施形態は、第1実施形態の計測部11におけるデジタル復調器113に代えてアナログ復調器を用いるものであり、計測部11の構成のみが第1実施形態と異なる。
図6に、第3実施形態の計測部11の構成を示す。
図示するように、第3実施形態の計測部11は、
図2に示した計測部11のAD111を廃し、
図2に示した計測部11のデジタル復調器113に代えてアナログ復調器60を、DA114に代えて速度用AD61を、NCO115に代えてVCO62を設けた構成を備えている。
【0060】
第3実施形態において、VCO62は、速度計測モードのときには、fA-M1の発振信号を出力し、速度変動計測モードのときには、周波数fb(Dv)+fA-M2の発振信号を出力する。
M1は、fb(Dv)+fb(Av)+M1が常に正の値となることが保証される範囲内において、できるだけ小さくなるようにfb(Dv)+fb(Av)の値が取り得る範囲から定めた定数であり、fb(Dv)+fb(Av)+M1とM1との大小関係によって、定速度成分Dvに速度変動成分Avが加算された被測定物300の速度Rvの正負(被測定物300の移動方向)が求まる。
【0061】
M2は、fb(Av)+M2が常に正の値となることが保証される範囲内、できるだけ小さくなるようにfb(Av)の値が取り得る範囲から定めた定数であり、fb(Av)+M2とM2との大小関係によって、被測定物300の速度変動成分Avの正負が求まる。ここで、P=fA-M2とすると、Pの値は、0<P<fAを満たし、かつ、fb(Av)+fA-Pが常に正の値となることが保証されるように設定された値となる。
【0062】
周波数検出部116は光検出器27から出力されたアナログの検出信号bの周波数を検出する。
平均化処理部117は、速度変動計測モードのときに、検出信号bの周波数の平均fb(Dv)+fAを算出し、VCO62にfb(Dv)+fA-M2の発振信号を出力させる。
ミキサ部112は、速度計測モードのときには、光検出器27から出力されたアナログの検出信号bに、VCO62が出力する周波数fA-M1の発振信号を乗算し、当該乗算によって生成されるfb(Dv)+fb(Av)+M1のアナログの信号を復調対象信号Stとしてアナログ復調器60に出力し、速度変動計測モードのときには、VCO62が出力する周波数fb(Dv)+fA-M2の発振信号を乗算し、当該乗算によって生成されるfb(Av)+M2のアナログの信号を復調対象信号Stとしてアナログ復調器60に出力する。
【0063】
アナログ復調器60は、速度計測モードのときには、ミキサ部112から出力される復調対象信号Stの周波数fstを検出し、fst=M1+(2v/λ)sinθによって定速度成分Dvに速度変動成分Avが加算された被測定物300の速度Rvの大きさを求めると共に、fstとM1との大小関係から速度Rvの正負を求める。また、速度変動計測モードのときには、アナログ復調器60は、ミキサ部112から出力される復調対象信号Stの周波数fstを検出し、fst=M2+(2v/λ)sinθによって被測定物300の速度変動成分Avの大きさを求めると共に、fstとM2との大小関係から速度変動成分Avの正負を求める。
【0064】
図7にアナログ復調器60の構成例を示す。
図示するように、アナログ復調器60は、1からnまでのn個の測定レンジに対応して設けられたn個の復調部601、セレクタ602を備えている。
また、各復調部601は、復調対象信号Stの周波数fstを検出する周波数ダウンコンバータ6011と、速度vの大きさを算出するF/Vコンバータ612を備えている。F/Vコンバータ612は、速度計測モードのときには、周波数fstからfst=M1+(2v/λ)sinθによって速度vの大きさを算出すると共に、周波数fstとM1との大小関係から速度vの正負を求め、速度変動計測モードのときには、周波数fstからfst=M2+(2v/λ)sinθによって速度vの大きさを算出すると共に、周波数fstとM2との大小関係から速度vの正負を求める。
【0065】
計測制御部12は、アナログ復調器60にシステム制御部13から設定された測定レンジに対応する復調特性で復調動作を行わせるために、設定された測定レンジに対応する復調部601の出力をセレクタ602に選択させ、アナログ復調器60の出力v(アナログ)として出力させる。
図6の速度用AD61は、アナログ復調器60の出力v(アナログ)をデジタル化して出力v(デジタル)として出力する。
【0066】
ここで、
図7の各復調部601の周波数ダウンコンバータ6011は、復調部601に対応する測定レンジに対応する周波数レンジfrngに適合した形態で周波数fstの検出を行う。測定レンジに対応する周波数レンジfrngは、速度計測モードのときには、測定レンジvrngに対しfrng=M1+(2vrng/λ)sinθに従って定まり、速度変動計測モードのときには、vrngに対しfrng=M2+(2vrng/λ)sinθに従って定まる。
【0067】
ここで、各復調部601の周波数ダウンコンバータ6011において、対応する周波数レンジfrngに適合した形態で周波数fstの検出を行う場合、通常、対応する周波数レンジの上限が高いほど検出される周波数の分解能、つまり、F/Vコンバータ612で検出される速度の分解能は低くなる。たとえば、周波数ダウンコンバータ6011において、対応する周波数レンジfrngの上限が出力のフルスケールとなる形態で周波数fstの検出を行う場合、対応する周波数レンジの上限が高いほど、周波数fstの変化に対する出力の変化が小さくなるので、周波数ダウンコンバータ6011によって検出される周波数の分解能は低くなる。
【0068】
したがって、第3実施形態のようにアナログ復調器60を用いる場合においても、第1実施形態と同様に、速度変動計測モードにおいて、大きな定速度成分Dvに重畳する小さな速度変動成分Avを高い分解能で計測することができる。
【0069】
次に、本発明の第4実施形態を示す。
第4実施形態は、計測部11の構成のみが第3実施形態と異なる。
図8に、第4実施形態の計測部11の構成を示す。
図示するように、第4実施形態の計測部11は、第1実施形態に対する第2実施形態と同様に、第3実施形態の計測部11に対して、第2ミキサ部118、第2アナログ復調器80、第2速度用AD81、fA-M1の発振信号を出力する第2VCO82を設け、これらで、アナログの検出信号bから、定速度成分Dvに速度変動成分Avが加算された被測定物300の速度Rvを検出して速度v2として出力し、残りの各部を第3実施形態の速度変動計測モードと同様に動作させ、速度変動成分Avを表す速度vを出力するようにしたものである。
【0070】
なお、第3、第4実施形態では、周波数検出部116と平均化処理部117を設け、VCO62から平均化処理部117の出力に応じてfb(Dv)+fA-M2の周波数の発振信号を出力したが、これは、計測制御部12が、システム制御部13がユーザから設定されたfb(Dv)+fA-M2の値をVCO62に設定して、VCO62においてfb(Dv)+fA-M2の周波数の発振信号を出力してもよい。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明した。
なお、各実施形態では、AOM24で第2レーザ光の周波数をfAシフトして被測定物300に照射したが、AOM24で周波数のシフトを行わずに第2レーザ光を被測定物300に照射する場合にも、各実施形態は、以上の説明におけるfAを0とすることにより同様に適用できる。
【符号の説明】
【0072】
1…計測装置、2…検出装置、11…計測部、12…計測制御部、13…システム制御部、14…駆動部、21…レーザ光源、22…コリメータレンズ、23…ビームスプリッタ、24…AOM、25…ミラー、26…対物レンズ、27…光検出器、60…アナログ復調器、61…速度用AD、62…VCO、80…第2アナログ復調器、81…第2速度用AD、82…第2VCO、111…AD、112…ミキサ部、113…デジタル復調器、114…DA、115…NCO、116…周波数検出部、117…平均化処理部、118…第2ミキサ部、119…第2NCO、300…被測定物、601…復調部、602…セレクタ、6011…周波数ダウンコンバータ、6012…F/Vコンバータ、1101…第2デジタル復調器、1102…第2DA、1131…直交復調部、1132…適合処理部、1133…角度変換処理部、1134…微分処理部、1135…速度変換部、11321…デシメーション・フィルタ。