(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084270
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】回転電機、並びにそれを用いる電動車両用回転電機システム
(51)【国際特許分類】
H02K 16/04 20060101AFI20220531BHJP
H02K 3/28 20060101ALI20220531BHJP
H02K 1/16 20060101ALI20220531BHJP
B60L 1/00 20060101ALI20220531BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20220531BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20220531BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20220531BHJP
B60L 50/61 20190101ALI20220531BHJP
B60K 6/26 20071001ALI20220531BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20220531BHJP
【FI】
H02K16/04
H02K3/28 M ZHV
H02K1/16 A
B60L1/00 L
B60L7/14
B60L9/18 J
B60L15/20 Z
B60L50/61
B60K6/26
B60K6/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020196015
(22)【出願日】2020-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】郡 大祐
(72)【発明者】
【氏名】杉本 愼治
(72)【発明者】
【氏名】藤井 克彦
(72)【発明者】
【氏名】土谷 摂
(72)【発明者】
【氏名】里 水里
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
5H601
5H603
【Fターム(参考)】
3D202AA00
3D202AA07
3D202EE02
3D202FF02
5H125AA01
5H125AA12
5H125AC12
5H125BA00
5H125BB07
5H125BB09
5H125BC29
5H125CA01
5H125CB02
5H125CD07
5H125EE03
5H125FF01
5H125FF25
5H601AA03
5H601BB16
5H601CC01
5H601CC02
5H601DD01
5H601DD11
5H601GB36
5H601GB46
5H603BB01
5H603BB02
5H603BB12
5H603CA01
5H603CA05
5H603CB02
(57)【要約】
【課題】
構成が異なる二系統の三相交流巻線を有しながらも、巻線の構成を複雑化することなく、効率を向上することができる回転電機を提供する。
【解決手段】
この回転電機は、回転子(2)と、三相交流巻線を有する固定子(3)と、を備えるものであって、三相交流巻線は、互いに独立している第一系統巻線(15)と第二系統巻線(16)とを含み、第一系統巻線(15)が位置する複数の第一スロット(18)と、第二系統巻線(16)が位置する複数の第二スロット(19)と、を備え、第一スロット(18)のスロット数は、第二スロット(19)のスロット数以上であり、第一系統巻線(15)は、固定子(3)において、第二系統巻線(16)よりも内径側に位置する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子と、
三相交流巻線を有する固定子と、
を備える回転電機において、
前記三相交流巻線は、互いに独立している第一系統巻線と第二系統巻線とを含み、
前記第一系統巻線が位置する複数の第一スロットと、
前記第二系統巻線が位置する複数の第二スロットと、
を備え、
前記第一スロットのスロット数は、前記第二スロットのスロット数以上であり、
前記第一系統巻線は、前記固定子において、前記第二系統巻線よりも内径側に位置することを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
前記第一系統巻線の誘導起電圧が前記第二系統巻線の誘導起電圧よりも大きいことを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1に記載の回転電機において、
前記第二スロットの位置が前記第一スロットの位置と一致することを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項3に記載の回転電機おいて、
前記回転電機の極数をPとし、前記第一スロットのスロット数をNs1とする場合、整数Nに対し、Ns1/(P×N×3(相数)×0.5)の値が整数であり、前記第二スロットのスロット数が、Ns1/Nであることを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項1に記載の回転電機において、
前記第一系統巻線による磁極の位置と前記第二系統巻線による磁極の位置とが一致していることを特徴とする回転電機。
【請求項6】
請求項1に記載の回転電機において、
前記複数の第一スロットは、前記第一系統巻線の外径側に空孔部を有する前記第一スロットを含むことを特徴とする回転電機。
【請求項7】
請求項3に記載の回転電機において、
前記第一スロットと前記第二スロットとの間において、前記固定子の側壁が段差を有することを特徴とする回転電機。
【請求項8】
請求項7に記載の回転電機において、
前記第二スロットの幅が前記第一スロットよりも小さくなるように、前記段差が構成されていることを特徴とする回転電機。
【請求項9】
請求項7に記載の回転電機において、
前記第二スロットの幅が前記第一スロットよりも大きくなるように、前記段差が構成されていることを特徴とする回転電機。
【請求項10】
請求項7に記載の回転電機において、
前記第一スロットと前記第二スロットとの間において、前記固定子の前記側壁が突出するように、前記段差が構成されていることを特徴とする回転電機。
【請求項11】
請求項1に記載の回転電機において、
前記三相交流巻線は、さらに、第三ないし第n系統巻線(n(整数)≧3)を有し、前記第一系統巻線ないし前記第n系統巻線が、順に、前記固定子の内径側から外径側に向かって配置されていることを特徴とする回転電機。
【請求項12】
電動車両に搭載される主機および補機に電力を供給する回転電機と、
前記回転電機を駆動する原動機と、
を備える電動車両用回転電機システムにおいて、
前記回転電機は、請求項1に記載の回転電機であり、
前記第一系統巻線から第一の電力変換器を介して前記主機に電力が供給され、
前記第二系統巻線から第二の電力変換器を介して前記補機に電力が供給されることを特徴とする電動車両用回転電機システム。
【請求項13】
請求項12に記載の電動車両用回転電機システムにおいて、
前記電動車両がダンプトラックであり、
前記主機が駆動用回転電機であり、
前記補機が冷却用ブロアであることを特徴とする電動車両用回転電機システム。
【請求項14】
電動車両を駆動する回転電機と、
第一の電力変換器を介して前記回転電機に電力を供給する電池と、
を備える電動車両用回転電機システムにおいて、
前記回転電機は、請求項1に記載の回転電機であり、
前記電池から前記第一の電力変換器を介して前記第一系統巻線に電力が供給され、
前記第二系統巻線から第二の電力変換器を介して前記電池に回生電力が充電されることを特徴とする電動車両用回転電機システム。
【請求項15】
請求項14に記載の回転電機システムにおいて、
前記電動車両が電動バスであることを特徴とする回転電機システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の出力系統を備える回転電機、並びに、この回転電機を用いる電動車両用回転電機システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の電動システム(例えば、電動パワーステアリングシステム)や風力発電システムでは、異常が発生しても運転を継続できるように、冗長性を有するシステムが要求されている。このようなシステムでは、一台の回転電機において二系統の巻線を設け、各巻線が独立した電源もしくは電力変換器に接続される。二系統の巻線の各々は同じ構成(巻数など)を有し、システム出力の50%ずつを担う。これにより、一方の系統に異常が生じても、通常よりも出力は低減するが、他方の系統によって、システムを停止することなく運転を継続することができる。
【0003】
一方、ダンプトラックなどの電動車両における電源供給用の回転電機システムにおいては、システムの小型軽量化のために、主発電機および副発電機に代えて、二系統の巻線を有する回転電機を適用することが考えられる。この場合、一方の巻線は、車体を駆動するトラクションモータの電源用であり、他方の巻線は冷却装置などの周辺機器の電源用となるため、一台の回転電機に構成の異なる二系統の巻線を設ける必要がある。
【0004】
構成の異なる二系統の巻線を有する回転電機に関する従来技術として、特許文献1に記載の技術が知られている。本技術では、交流発電機において単相交流と三相交流の同時出力を可能にするために、三相交流巻線をY結線にして、U相巻線の誘起電圧に対し、電圧の大きさが1/2、位相差が180°になる単相交流巻線の一端を、Y結線の中性点に接続する。さらに、U相巻線に中間タップを設け、単相交流巻線の他端と中間タップを単相交流の出力とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術では、中性点を介してシステムにおける三相電気回路と単相交流電気回路に、三相不平衡に伴う循環電流が流れ、システムの効率を低下させる。また、三相交流巻線の構成が複雑になり、製造コストが増加する。さらに、従来技術を、上述のような電動車両用回転電機システムに適用する場合、二系統の巻線がともに三相交流巻線ではあるが、同様の問題が発生する。
【0007】
そこで、本発明は、構成が異なる二系統の三相交流巻線を有しながらも、巻線の構成を複雑化することなく、効率を向上することができる回転電機、ならびにこの回転電機を用いる電動車両用回転電機システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明による回転電機は、回転子と、三相交流巻線を有する固定子と、を備えるものであって、三相交流巻線は、互いに独立している第一系統巻線と第二系統巻線とを含み、第一系統巻線が位置する複数の第一スロットと、第二系統巻線が位置する複数の第二スロットと、を備え、第一スロットのスロット数は、第二スロットのスロット数以上であり、第一系統巻線は、固定子において、第二系統巻線よりも内径側に位置する。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明による電動車両用回転電機システムは、電動車両に搭載される主機および補機に電力を供給する回転電機と、回転電機を駆動する原動機と、を備えるものであって、回転電機は、上記本発明による回転電機であり、第一系統巻線から第一の電力変換器を介して主機に電力が供給され、第二系統巻線から第二の電力変換器を介して補機に電力が供給される。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明による電動車両用回転電機システムは、電動車両を駆動する回転電機と、第一の電力変換器を介して回転電機に電力を供給する電池と、を備えるものであって、回転電機は、上記本発明による回転電機であり、電池から第一の電力変換器を介して第一系統巻線に電力が供給され、第二系統巻線から第二の電力変換器を介して電池に回生電力が充電される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、回転電機が、構成が異なる二系統の三相交流巻線を有しながらも、巻線の構成を複雑化することなく、効率を向上することができる。
【0012】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1である回転電機の回転軸方向の断面図である。
【
図2】実施例1の回転電機の回転軸に垂直な方向における部分断面図である。
【
図4】変形例1である回転電機の固定子の展開図である。
【
図5】変形例2である回転電機の固定子の一部の展開図である。
【
図6】変形例3である回転電機の固定子の展開図である。
【
図7】実施例2である回転電機の固定子の展開図である。
【
図8】実施例1の固定子の展開図である(
図3再掲)。
【
図9】各相巻線による磁極中心が位相差角でαだけ相違している場合の三相電圧を、回転座標上で表した図である。
【
図10】第一系統巻線および第二系統巻線の三相電圧を、第一系統巻線を基準にして、dq変換する場合のd-q軸電圧ベクトルの方向を示す図である。
【
図11】式(3)によってdq軸電圧成分が表される第一系統巻線の電圧(V
1)を表す電圧ベクトル図である。
【
図12】実施例3である回転電機の固定子の展開図である。
【
図13】スロット内の側壁における段差の第一例を示す固定子の展開図である。
【
図14】スロット内の側壁における段差の第二例を示す固定子の展開図である。
【
図15】スロット内の側壁における段差の第三例を示す固定子の展開図である。
【
図16】第一系統巻線、第二系統巻線および第三系統巻線の巻線構成の第一例を示す、固定子の展開図である。
【
図17】第一系統巻線、第二系統巻線および第三系統巻線の巻線構成の第二例を示す、固定子の展開図である。
【
図18】第一系統巻線、第二系統巻線および第三系統巻線の巻線構成の第三例を示す、固定子の展開図である。
【
図19】実施例6であるダンプトラック用の回転電機システムの構成を示すブロック図であるである。
【
図20】実施例7である電動バス用の回転電機システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、下記の実施例1~7により、図面を用いながら説明する。各図において、参照番号が同一のものは同一の構成要件あるいは類似の機能を備えた構成要件を示している。
【実施例0015】
図1は、本発明の実施例1である回転電機の回転軸方向の断面図である。なお、本実施例1の回転電機は、界磁巻線型の同期機である。
【0016】
本実施例1の回転電機100は、大型ダンプトラック用の電源となる、出力が数千kVA、回転速度が数千min-1の発電機として適用できる。なお、本実施例1の回転電機は、エンジンなどの原動機によって回転駆動される。
【0017】
図1に示すように、フレーム1内に、回転子2および固定子3が配置される。回転子2および固定子3の軸方向端部には、それぞれ、コイルエンド6およびコイルエンド7が突出する。フレーム1に設けられる軸受4は、回転子2に固定されて回転軸となるシャフト5の一端部を回転可能に支持する。シャフト5の他端部は、図示しない原動機に接続され、原動機側の軸受によって支持されている。なお、シャフト5の他端部は、回転電機100が備える軸受によって回転可能に支持されてもよい。
【0018】
フレーム1には冷媒9が流入する流入口8が配置される。冷媒9は、図示しないブロアなどにより、回転電機100へ送り込まれる。流入口8からフレーム1内に流入した冷媒9は、
図1における右方向、すなわち回転電機100の回転軸方向に流れ、フレーム1外の大気中へ流出する。
【0019】
図2は、
図1に示した本実施例1の回転電機100の回転軸に垂直な方向における部分断面図である。
【0020】
図2に示すように、回転子2は、回転子鉄心10、界磁巻線11、ダンパーバー12(制動巻線)、回転子楔13で構成される。固定子3は、固定子鉄心14、三相交流巻線である第一系統巻線15および第二系統巻線16、固定子楔17で構成される。回転子2および固定子3は、エアギャップ22を介して対向している。第一系統巻線15は第一スロット18内に配置され、第二系統巻線16は第二スロット19内に配置される。フレーム1内における冷媒9の通路は、背面ダクト20、アキシャルダクト21、エアギャップ22で構成される。背面ダクト20とアキシャルダクト21は、周方向に一定の間隔で設けられる。
【0021】
第一系統巻線15が配置される第一スロット18は、回転子2の表面に対向する固定子鉄心14の内壁面から固定子鉄心14内を径方向に延び、径方向を深さ方向とし、回転軸方向を長手方向とする溝からなる。また、第二系統巻線16が配置される第二スロット19は、深さ方向に沿って、第一スロット18に隣接する。なお、本実施例1では、
図2に示すように、第一スロット18が深さ方向に延びた部分を第二スロット19としている。
【0022】
複数の第一スロット18および複数の第二スロット19は、固定子鉄心14の周方向に沿って、等間隔に配置される。第二スロット19のスロット間隔は、第一スロット18よりも大きく、本実施例1では第一スロット18の2スロット分に相当する。したがって、第二スロット19のスロット数は、第一スロット18よりも少なく、本実施例1では第一スロット18の半分となる。このため、本実施例1では、第一系統巻線15および第二系統巻線16の内、第一系統巻線15のみが配置されるスロットと、このスロットよりも深くて両方の巻線が配置されるスロットとが、固定子鉄心14において周方向に沿って、交互に並ぶ。
【0023】
第二スロット19のスロット数は、第一スロット18よりも少ないため、後述するように、第二系統巻線16の誘起電圧を第一系統巻線15よりも小さくすることができる。したがって、回転電機100が発電機として動作する場合、第二系統巻線16の出力電圧を第一系統巻線15よりも小さくすることができる。
【0024】
なお、
図2に示す実施例1では、第二スロット19のスロット数が第一スロット18の半分であるが、これに限らず、第二スロット19の個数は、所望の特性(誘起電圧、出力電圧など)に応じて、適宜設定できる。
【0025】
第二系統巻線16は、
図2に示すようにスロットの深さ方向に、第一系統巻線15に重ねて設けられる。このため、第一系統巻線15に対してスロット数を設定し、そのスロット数の一部を第二系統巻線16に用いればよいので、二系統の巻線を有しながらも、回転子のスロットの構成が複雑化しない。
【0026】
また、固定子3において、第一系統巻線15と第二系統巻線16は、電気的に結合することなく、独立している。したがって、第一系統巻線15と第二系統巻線16の各々に外部回路を接続した場合に循環電流を抑制できるので、循環電流により効率低下を防止できる。さらに、固定子3は、第一系統巻線15と第二系統巻線16を備えながらも、巻線の構成が複雑化しない。
【0027】
図3は、
図2に示す本実施例1の固定子3の断面構成を直線状に延ばして示す展開図である。
図3の下側に、エアギャップ22(
図2)が位置し、
図3の上側に、フレーム1(
図2)が位置する。
【0028】
第一系統巻線15および第二系統巻線16は、分布巻で巻かれている。なお、本実施例1では、回転電機100の極数は10極であり、第一スロット18および第二スロット19のスロット数が、それぞれ90スロットおよび45スロットである。
【0029】
図3に示すように、第一系統巻線15および第二系統巻線16は、スロットの深さ方向に沿って重ねて配置される上コイル(
図3中「上」と記す)および底コイル(
図3中「底」と記す)から構成される。
【0030】
なお、第一系統巻線15の三相はU1,V1,W1と記し、第二系統巻線の三相はU2,V2,W2と記す。各スロットには、スロット番号として括弧付き数字を記す。また、正負の符号(+,-)は、電流が流れる方向(電流極性)を示しており、図面に対して、奥側へ向かう方向を「+」で示し、手前側へ向かう方向を「-」で示す。
【0031】
前述の極数(10)およびスロット数(第一スロット:90,第二スロット:45)により、本実施例1では、毎極毎相スロット数(=スロット数/極数/相数)は第一系統巻線15では3、第二系統巻線16では1.5となる。
【0032】
すなわち、第一系統巻線15では、一相一極分のコイル数が3個となる。このため、
図3に示すように、連続して配置される3個のコイルからなる各相巻線(UUU,VVV,WWW)が、一定の相順で繰り返し配置される(UUU-VVV-WWW…)。
【0033】
また、第二系統巻線16では、各相について、1個のコイルからなる相巻線と2個のコイルからなる相巻線が交互に配置される。これにより、毎極毎相スロット数すなわち一相一極分のコイル数が平均で2.5となる。また、固定子3において、1個のコイルからなる相巻線と2個のコイルからなる相巻線が、一定の相順で配置される。なお、1個のコイルからなる相巻線(U,V,W)と2個のコイルからなる相巻線(UU,VV,WW)が、コイル数の異なる相巻線が固定子3の周方向に沿って一様に分布するように、隣接する二つの相巻線のコイル数が互いに異なるようにして、一定の相順で繰り返し配置される(U-VV-W-UU-V-WW…)。
【0034】
図3の実施例1において、スロット内のコイル(上底コイル)を接続してコイルループを形成する渡り線が渡されるスロット数(以下、「渡り数」と記す)は、第一系統巻線15では7(スロット)であり、第二系統巻線16では5(スロット)である。これらの渡り線により、例えば、
図3においては、第一系統巻線15の上コイル(1)と底コイル(7)が接続され、第二系統巻線16の上コイル(1)と底コイル(5)が接続される。第一系統巻線15の渡り数は、渡り線が上コイル(1)から底コイル(7)までの7スロットに渡されるので、7(スロット)である。第二系統巻線16の渡り数は、渡り線が上コイル(1)から底コイル(5)までの5スロットに渡されるので、5(スロット)である。なお、渡り数は、前述の7および5に限らず、適宜設定できる。
【0035】
本実施例1では、第一系統巻線15および第二系統巻線16の三相結線はY結線である。また、Y結線の並列接続数は、第一系統巻線15では5並列、第二系統巻線16では10並列である。なお、並列数は、回転電機の仕様に応じて、適宜設定できる。
【0036】
本実施例1のように第二スロット数を第一スロット数より小さくすることにより、両者を同数とする場合よりも、分布巻きの巻き工数を低減できるので、製造コストを低減できる。なお、本発明者の検討によれば、本実施例1では巻き工数を25%低減することができる。
【0037】
さらに、以下に述べるように、本実施例1は、第一系統巻線15の誘導起電圧が第二系統巻線16の誘導起電圧より高い場合に好適である。
【0038】
回転電機の体格は誘導起電圧の大きさに依存するので、本実施例1では、第一系統巻線15および第二系統巻線16の内、誘導起電圧が大きな第一系統巻線15に合わせて回転子2の界磁磁束量が設定される。また、第二系統巻線16の誘導起電圧を第一系統巻線15よりも小さくするために、第二系統巻線16のターン数を第一系統巻線15よりも小さくする。
【0039】
ところで、界磁磁束量は、上述のように、第一系統巻線15に合わせているため、第二系統巻線16に対しては多すぎることになる。したがって、第二系統巻線16の誘導起電圧を第一系統巻線15よりも小さな所定値に設定するには、第一系統巻線15の誘導起電圧を維持しながら第二系統巻線16の誘導起電圧を下げるための何らかの手段を要する。
【0040】
本発明者の検討によれば、第一系統巻線15の誘導起電圧を維持したまま第二系統巻線16の誘導起電圧を下げる手段として、並列回路数の増加、ターン数低減、渡り数の変更、スロット数低減が有効である。なお、本発明者の検討によれば、並列回路数の増加、ターン数低減、渡り数変更では誘導起電圧の低減が難しい場合でも、スロット数低減は有効であり、第一系統巻線15の誘導起電圧と第二系統巻線の誘導起電圧の差が大きいほど、スロット低減の効果は高くなる。そこで、本実施例1では、第二スロット19のスロット数を、第一スロット18よりも小さくしている。
【0041】
また、本実施例1では、固定子3において、第一系統巻線15は第二系統巻線16よりも内径側に位置する。すなわち、第一系統巻線15は、第二系統巻線16よりも、エアギャップ22の近くに配置されている。したがって、第一系統巻線15を鎖交する磁束は、第二系統巻線16よりも大きくなるので、第一系統巻線15と第二系統巻線16とで、鎖交磁束数に大小の差を設定しやすくなる。このため、第一系統巻線15と第二系統巻線16とで、第一系統巻線15の誘導起電圧が第二系統巻線16よりも大きくなるように、誘導起電圧に確実に差を設定することができる。
【0042】
さらに、第一系統巻線15は、第二系統巻線16よりも、エアギャップ22の近くに配置されているので、第一系統巻線15は、第一スロット18内において深さ方向に延びる固定子鉄心14の二面の内壁面に対向し、第二系統巻線16は、第二スロット19内において深さ方向に延びる固定子鉄心14の二面の内壁面および第二スロット19の底面となる固定子鉄心14の一面に対向する。すなわち、固定子鉄心14における巻線との対向面の面数は、第一系統巻線15が、第二系統巻線16よりも少ない。したがって、コロナ放電が起きる場合に放電面となる、スロット内における固定子鉄心14の鉄心面の面数は、第二系統巻線16よりも誘導起電圧が大きい第一系統巻線15の方が少ない。これにより、コロナ放電の影響による回転電機の絶縁寿命の低下を抑制することができる。
【0043】
ところで、第一系統巻線15と第二系統巻線16とで、巻線の素線寸法を同じにして、ターン数を変えたフォームドコイルを予め成型しておき、このフォームドコイルを固定子鉄心14の内径側(エアギャップ22側)からスロットに挿入することにより、第一系統巻線15および第二系統巻線16を備える固定子3の製作の効率が向上する。したがって、構成の異なる二系統の巻線を有する回転電機の製造コストを低減することができる。
【0044】
次に、本実施例1の変形例について説明する。
【0045】
図4は、変形例1である回転電機の固定子の展開図である。
【0046】
本変形例1において、第一スロット18のスロット数は前述の実施例1と同じく90スロットであるが、第二スロット19のスロット数は、実施例1(45スロット)よりも少なく、30スロットである。また、毎極毎相スロット数は、第一系統巻線15では、実施例1と同じく3であり、第二系統巻線16では、実施例1よりも少なく、1である。
【0047】
第一スロット18および第二スロット19のスロットピッチ角度(=360/スロット数)は、それぞれ4度および8度である。これにより、第二スロット19の位置を第一スロット18の位置に合わせることができる。したがって、両スロットの位置が一致する箇所において、第一スロット18と第二スロット19は、第一スロット18と同様の矩形状断面を有しかつ第一スロット18よりも深い連続した一つのスロットを構成する。これにより、構成の異なる二系統の巻線を固定子鉄心14へ効率的に取り付けることができる。
【0048】
図5は、変形例2である回転電機の固定子の一部の展開図である。
【0049】
本変形例2において、第一スロット18のスロット数は前述の実施例1と同じく90スロットであるが、第二スロット19のスロット数は、実施例1(45スロット)よりも多く、60スロットである。また、毎極毎相スロット数は、第一系統巻線15では、実施例1と同じ3であり、第二系統巻線16では、実施例1よりも多く、2である。
【0050】
第一スロット18および第二スロット19のスロットピッチ角度(=360/スロット数)は、それぞれ4度および6度である。このため、
図5に示すように、第二スロット19の位置は、ある個所で第一スロット18の位置に一致しても、隣接する個所では第一スロット18の位置からずれる。
【0051】
なお、本変形例2における固定子鉄心への巻線取り付けは、巻線の素線形状を丸線などにすれば可能である。
【0052】
本発明者の検討によれば、変形例1のように、第二スロット19の各々の位置が第一スロット18に一致する条件は、式(1)および(2)で表される。なお、式中、P、Ns1およびNs2は、それぞれ、極数、第一スロット18のスロット数および第二スロット19のスロット数である。
【0053】
【0054】
【0055】
本発明者の検討によれば、Ns1に対するNs2を設定する正の整数(自然数)Nに対してkの値が正の整数になれば、第二スロット19の各々の位置が第一スロット18に一致する。例えば、P=10かつNs1=90の場合、N=2,3で、kは整数(それぞれ、3,2)となる。そこで、実施例1では、N=2としてNs2=45とし、変形例1では、N=3として、Ns2=30としている。
【0056】
図6は、変形例3である回転電機の固定子の展開図である。
【0057】
本変形例3において、第一スロット18のスロット数は前述の実施例1と同じく90スロットであるが、第二スロット19のスロット数は、実施例1(45スロット)よりも少なく、15スロットである。
【0058】
第一スロット18および第二スロット19のスロットピッチ角度(=360/スロット数)は、それぞれ4度および24度である。また、式(1)および式(2)においけるN=6であり、k=1である。したがって、
図6に示すように、第二スロット19の位置を第一スロット18の位置に合わせることができる。
【0059】
また、本変形例3では、第一系統巻線15は、実施例1と同様に、分布巻きで巻かれているが、第二系統巻線16は、集中巻きで巻かれている。
【0060】
上述の実施例1によれば、巻線の構成を複雑化することなく、構成の異なる二系統の巻線を有する回転電機を実現することができる。
【0061】
なお、本実施例1における固定子の構成は、界磁巻線型の同期機に限らず、かご型誘導機、巻線型誘導機、永久磁石式同期機などにも適用できる。
d軸電圧とq軸電圧は直交するため、d-q軸間の相互インダクタンスは無視することができるが、同図に示すように、位相差角αで配置される二系統の三相交流巻線の場合、同軸間(d1-d2軸間、q1-q2軸間)の相互インダクタンス(Md1d2,Md2d1,Mq1q2,Mq2q1)が発生する。相互インダクタンスに「2π×周波数」を乗じて得られる相互リアクタンスXを用いると、式(3)のような電圧方程式が得られる。
電圧方程式における四つの式の各々に相互リアクタンスが含まれるため、第一系統巻線15の電圧と第二系統巻線16の電圧は、一方系統のパラメータが変化すると、他方系統のパラメータに変化が無くても、変化してしまう。すなわち、第一系統巻線15と第二系統巻線16は、電気回路としては独立しているが、相互リアクタンスを介して磁気結合している。
上述のように、本実施例2によれば、このことから、第一系統巻線15と第二系統巻線16とで磁極を一致させることにより、第一系統巻線15と第二系統巻線16を備える回転電機の効率の低下を防止することができる。