(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084293
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】前後輪駆動車両
(51)【国際特許分類】
B60K 17/356 20060101AFI20220531BHJP
B60K 17/04 20060101ALI20220531BHJP
B60K 17/34 20060101ALI20220531BHJP
B60K 23/08 20060101ALI20220531BHJP
B60K 6/36 20071001ALI20220531BHJP
B60K 6/387 20071001ALI20220531BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20220531BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20220531BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20220531BHJP
【FI】
B60K17/356 B
B60K17/04 G
B60K17/34 Z
B60K23/08 Z
B60K6/36 ZHV
B60K6/387
B60K6/48
B60K6/52
B60L50/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020196054
(22)【出願日】2020-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 則行
【テーマコード(参考)】
3D036
3D039
3D043
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D036GA04
3D036GA14
3D036GA26
3D036GB05
3D036GJ01
3D036GJ17
3D039AA03
3D039AB01
3D039AB27
3D039AC04
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3D043AB01
3D043AB17
3D043EA02
3D043EA05
3D043EA17
3D043EA32
3D202AA08
3D202EE12
3D202EE14
3D202EE23
3D202FF01
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC08
5H125AC12
5H125FF01
5H125FF30
(57)【要約】
【課題】駆動源としての電動モータによって最低地上高が制限されにくい構成の前後輪駆動車両を提供する。
【解決手段】前後輪駆動車両1は、電流の供給を受けてモータシャフト24が回転する電動モータ2と、モータシャフト24の回転を複数段階に変速して中間出力部材45から出力することが可能な変速機構4と、中間出力部材45に伝達された電動モータ2の駆動力を前輪101,102側に伝達する第1の出力回転軸51と、中間出力部材45に伝達された電動モータ2の駆動力を後輪103,104側に伝達する第2の出力回転軸52とを備える。第1及び第2の出力回転軸51,52は、中間出力部材45と同軸上に配置されている。電動モータ2は、モータシャフト24の回転軸線O
1が、中間出力部材45ならびに第1及び第2の出力回転軸51,52の出力回転軸線O
3と平行かつ出力回転軸線O
3よりも鉛直方向上方に位置するように配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪及び後輪を駆動することが可能な前後輪駆動車両であって、
電流の供給を受けてモータシャフトが回転する電動モータと、前記モータシャフトの回転を複数段階に変速して中間出力部材から出力することが可能な変速機構と、前記中間出力部材に伝達された前記電動モータの駆動力を前記前輪側及び前記後輪側の一方に伝達する第1の出力回転軸と、前記中間出力部材に伝達された前記電動モータの駆動力を前記前輪側及び前記後輪側の他方に伝達する第2の出力回転軸とを備え、
前記中間出力部材と同軸上に前記第1及び第2の出力回転軸が配置されており、
前記モータシャフトの回転軸線が、前記中間出力部材ならびに前記第1及び第2の出力回転軸の回転軸線と平行かつ同回転軸線よりも鉛直方向上方に位置するように、前記電動モータが配置されている、
前後輪駆動車両。
【請求項2】
前記第1の出力回転軸は、前記中間出力部材を貫通して車両前後方向に延在し、前記中間出力部材と相対回転不能に嵌合されており、
前記第1の出力回転軸と前記第2の出力回転軸との間に、前記第1の出力回転軸と前記第2の出力回転軸とを相対回転不能に連結する連結状態と前記連結が遮断された遮断状態とを切り替え可能な断続クラッチが配置された、
請求項1に記載の前後輪駆動車両。
【請求項3】
前記変速機構は、ピッチ円径が異なる大径ギヤ部及び小径ギヤ部を有する多連ギヤと、前記大径ギヤ部と噛み合うギヤ部を有する高速側回転部材と、前記小径ギヤ部と噛み合うギヤ部を有する低速側回転部材とを備え、前記中間出力部材が前記高速側回転部材及び前記低速側回転部材の何れかと相対回転不能に連結される、
請求項1又は2に記載の前後輪駆動車両。
【請求項4】
前記高速側回転部材又は前記低速側回転部材にエンジンの駆動力が伝達される、
請求項3に記載の前後輪駆動車両。
【請求項5】
前記エンジンの駆動力が、第1及び第2のスプロケットと前記第1及び第2のスプロケットに掛け回されて循環回転する環状の無端帯状体とを有するチェーン機構によって前記高速側回転部材又は前記低速側回転部材に伝達され、
前記多連ギヤは、前記大径ギヤ部と前記小径ギヤ部とを連結する連結軸を有し、
前記連結軸が、前記無端帯状体の内側における前記第1のスプロケットと前記第2のスプロケットとの間に挿通されている、
請求項4に記載の前後輪駆動車両。
【請求項6】
前記多連ギヤは、前記電動モータの駆動力が伝達されるモータ駆動力入力ギヤ部を有し、前記大径ギヤ部及び前記小径ギヤ部と前記モータ駆動力入力ギヤ部とが前記連結軸によって連結されており、
前記連結軸は、前記大径ギヤ部及び前記小径ギヤ部と前記モータ駆動力入力ギヤ部との間の部分が前記無端帯状体の内側における前記第1のスプロケットと前記第2のスプロケットとの間に挿通されている、
請求項5に記載の前後輪駆動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪及び後輪を駆動することが可能な前後輪駆動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前輪及び後輪を駆動することが可能な電動モータを駆動源とする前後輪駆動車両として、特許文献1に記載された電気自動車が知られている。この電気自動車の駆動装置は、電動モータと、電動モータの中心部に配置された筒状のロータ軸を貫通するフロント駆動軸と、フロント駆動軸と同軸配置されたリヤ駆動軸と、フロント駆動軸とリヤ駆動軸との間に配置された前後輪差動機構と、前後輪差動機構と電動モータとの間に配置された遊星歯車とを有している。前後輪差動機構は、遊星歯車によって減速された電動モータの回転力が伝達されるデフケースと、デフケースに取り付けられたピニオンシャフトと、ピニオンシャフトに軸支された複数のピニオンギヤと、複数のピニオンギヤにギヤ軸を直交させて噛み合う一対のサイドギヤとを備えており、一方のサイドギヤにフロント駆動軸が連結され、他方のサイドギヤにリヤ駆動軸が連結されている。電動モータは、ロータ軸の外周に取り付けられたロータと、ロータの外周を取り巻くステータとを備え、ロータ及びステータがモータケースに収容されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された車両では、フロント駆動軸及びリヤ駆動軸が電動モータと同軸に配置されるため、モータケースの一部がフロント駆動軸及びリヤ駆動軸よりも下方に位置する。ここで、前輪及び後輪を駆動することが可能な前後輪駆動車両は、FF車やFR車のような2輪駆動車に比較して舗装されていない悪路を走行することが多く、このため最低地上高を十分に確保することが求められるが、モータケースの一部がフロント駆動軸及びリヤ駆動軸よりも下方に位置すると、モータケースによって最低地上高が規定されてしまい、最低地上高を十分に確保できないおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、駆動源としての電動モータによって最低地上高が制限されにくい構成の前後輪駆動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するため、前輪及び後輪を駆動することが可能な前後輪駆動車両であって、電流の供給を受けてモータシャフトが回転する電動モータと、前記モータシャフトの回転を複数段階に変速して中間出力部材から出力することが可能な変速機構と、前記中間出力部材に伝達された前記電動モータの駆動力を前記前輪側及び前記後輪側の一方に伝達する第1の出力回転軸と、前記中間出力部材に伝達された前記電動モータの駆動力を前記前輪側及び前記後輪側の他方に伝達する第2の出力回転軸とを備え、前記中間出力部材と同軸上に前記第1及び第2の出力回転軸が配置されており、前記モータシャフトの回転軸線が、前記中間出力部材ならびに前記第1及び第2の出力回転軸の回転軸線と平行かつ同回転軸線よりも鉛直方向上方に位置するように、前記電動モータが配置されている、前後輪駆動車両を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電動モータを駆動源とする前後輪駆動車両において、最低地上高を確保しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施の形態に係る前後輪駆動車両の駆動系の概略構成図である。
【
図2】第1の実施の形態に係る駆動力配分装置の一部の構成を示す構成図である。
【
図3】第2の実施の形態に係る前後輪駆動車両の駆動系の概略構成図である。
【
図4】第2の実施の形態に係る駆動力配分装置の一部の構成を示す構成図である。
【
図5】第3の実施の形態に係る前後輪駆動車両の駆動系の概略構成図である。
【
図6】第3の実施の形態に係る駆動力配分装置の一部の構成を示す構成図である。
【
図7】第4の実施の形態に係る前後輪駆動車両の駆動系の概略構成図である。
【
図8】第4の実施の形態に係る駆動力配分装置の一部の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、
図1及び
図2を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0010】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る前後輪駆動車両の駆動系の構成を示す概略構成図である。
図2は、前後輪駆動車両における駆動力配分装置の一部の構成を示す構成図である。
【0011】
この前後輪駆動車両1は、駆動源としての電動モータ2と、電動モータ2の駆動力を左右の前輪101,102側及び後輪103,104側に配分することが可能な駆動力配分装置3とを備えている。以下の説明において、「前側」とは、前後輪駆動車両1の車両前後方向における前側をいい、「後側」とは、前後輪駆動車両1の車両前後方向における後側をいうものとする。
【0012】
電動モータ2は、例えば三相交流モータであり、不図示のインバータ装置から供給される電流によって駆動力を発生させる他、減速走行時に回生電力を発生させる発電機としても機能する。電動モータ2は、固定子21及び回転子22がモータケース23に収容された本体20と、モータケース23から突出したモータシャフト24とを備えている。固定子21は、回転子22の外周を取り巻くコアのティースにコイルが巻かれており、コイルに供給される電流によって回転磁界を発生させる。回転子22は、複数の永久磁石が外周に設けられており、固定子21に発生する磁界によってモータシャフト24と一体に回転する。モータシャフト24の回転軸線は、車両前後方向と平行である。電動モータ2の本体20は、駆動力配分装置3の後側の端部に取り付けられている。
【0013】
前後輪駆動車両1は、駆動力配分装置3から左右の前輪101,102に駆動力を伝達するための構成として、フロントプロペラシャフト11と、フロントプロペラシャフト11の前端部に連結されたピニオンギヤシャフト121と、ピニオンギヤシャフト121に噛み合うリングギヤ122と、リングギヤ122と一体に回転するデフケース131を有するフロントディファレンシャル13と、左右のドライブシャフト141,142とを有している。
【0014】
フロントプロペラシャフト11は、車両前後方向に延在し、前輪101,102側に駆動力を伝達する。フロントプロペラシャフト11は、円筒状あるいは円柱状の軸部110と、軸部110の後側及び前側の端部に設けられたクロスジョイント等の継手111,112と有している。ピニオンギヤシャフト121は、継手112によって軸部110と揺動可能に連結されている。フロントディファレンシャル13は、デフケース131と、デフケース131と一体に回転するピニオンピン132と、ピニオンピン132に軸支された複数のピニオンギヤ133と、複数のピニオンギヤ133に噛み合う一対のサイドギヤ134とを有している。一対のサイドギヤ134には、左右のドライブシャフト141,142がそれぞれ相対回転不能に連結されている。
【0015】
また、前後輪駆動車両1は、駆動力配分装置3から左右の後輪103,104に駆動力を伝達するための構成として、リヤプロペラシャフト15と、リヤプロペラシャフト15の後端部に連結されたピニオンギヤシャフト161と、ピニオンギヤシャフト161に噛み合うリングギヤ162と、リングギヤ162と一体に回転するデフケース171を有するリヤディファレンシャル17と、左右のドライブシャフト181,182とを有している。
【0016】
リヤプロペラシャフト15は、車両前後方向に延在し、後輪103,104側に駆動力を伝達する。リヤプロペラシャフト15は、円筒状あるいは円柱状の軸部150と、軸部150の前側及び後側の端部に設けられた継手151,152と有している。ピニオンギヤシャフト161は、継手152によって軸部150と揺動可能に連結されている。リヤディファレンシャル17は、デフケース171と、デフケース171と一体に回転するピニオンピン172と、ピニオンピン172に軸支された複数のピニオンギヤ173と、複数のピニオンギヤ173に噛み合う一対のサイドギヤ174とを有している。一対のサイドギヤ174には、左右のドライブシャフト181,182がそれぞれ相対回転不能に連結されている。
【0017】
駆動力配分装置3は、電動モータ2の駆動力をフロントプロペラシャフト11及びリヤプロペラシャフト15に配分する4輪駆動状態と、電動モータ2の駆動力をリヤプロペラシャフト15のみに配分する2輪駆動状態とを切り替え可能である。以下、駆動力配分装置3の構成について詳細に説明する。
【0018】
駆動力配分装置3は、車体に固定されたハウジング30と、電動モータ2のモータシャフト24に固定された入力ギヤ31と、変速機構4と、第1及び第2の出力回転軸51,52と、断続クラッチ6とを備えている。変速機構4は、電動モータ2のモータシャフト24の回転を複数段階に変速して中間出力部材45から出力することが可能である。第1の出力回転軸51は、中間出力部材45に伝達された電動モータ2の駆動力を前輪101,102側に伝達する。第2の出力回転軸52は、中間出力部材45に伝達された電動モータ2の駆動力を後輪103,104側に伝達する。
【0019】
第1の出力回転軸51及び第2の出力回転軸52は、それぞれの端部がハウジング30から車両前後方向に突出している。第1の出力回転軸51は、フロントプロペラシャフト11に連結され、第2の出力回転軸52は、リヤプロペラシャフト15に連結されている。より詳細には、フロントプロペラシャフト11の前端部にフロントプロペラシャフト11の継手111が固定されており、この継手111によって軸部110が第1の出力回転軸51に対して揺動可能に連結されている。また、リヤプロペラシャフト15の後端部にリヤプロペラシャフト15の継手151が固定されており、この継手151によって軸部150が第2の出力回転軸52に対して揺動可能に連結されている。
【0020】
第1の出力回転軸51及び第2の出力回転軸52は、車両前後方向に沿って、中間出力部材45と同軸上に配置されている。第1の出力回転軸51は、中間出力部材45を貫通して車両前後方向に延在し、中間出力部材45と相対回転不能に嵌合されている。断続クラッチ6は、中間出力部材45よりも前側で、第1の出力回転軸51と第2の出力回転軸52との間に配置されている。
【0021】
なお、本実施の形態では、上記のように第1の出力回転軸51が前輪101,102側に駆動力を伝達し、第2の出力回転軸52が後輪103,104側に駆動力を伝達するが、駆動力配分装置3の前後の配置を変えて、第2の出力回転軸52が前輪101,102側に駆動力を伝達し、第1の出力回転軸51が後輪103,104側に駆動力を伝達するようにしてもよい。
【0022】
変速機構4は、アイドルギヤ41と、多連ギヤ42と、高速側回転部材43と、低速側回転部材44と、中間出力部材45と、スリーブ46とを備えている。アイドルギヤ41は、入力ギヤ31に噛み合わされている。アイドルギヤ41のピッチ円径は、入力ギヤ31のピッチ円径よりも大きく形成されている。多連ギヤ42は、ピッチ円径が異なる大径ギヤ部421及び小径ギヤ部422と、大径ギヤ部421と小径ギヤ部422とを相対回転不能に連結する連結軸420とを有している。大径ギヤ部421は、ピッチ円径が小径ギヤ部422のピッチ円径よりも大きく、小径ギヤ部422と一体に回転する。
【0023】
高速側回転部材43は、アイドルギヤ41に噛み合う第1ギヤ部431と、多連ギヤ42の大径ギヤ部421に噛み合う第2ギヤ部432と、第1ギヤ部431と第2ギヤ部432とを相対回転不能に連結する円筒状の中空連結軸430とを有している。第1ギヤ部431及び第2ギヤ部432は、中空連結軸430の外周に固定されている。低速側回転部材44は、多連ギヤ42の小径ギヤ部422に噛み合うギヤ部441と、円筒状の中空連結軸440とを有し、ギヤ部441が中空連結軸440の外周に固定されている。
【0024】
中間出力部材45は、高速側回転部材43の中空連結軸430及び低速側回転部材44の中空連結軸440と同径に形成された円筒状であり、高速側回転部材43の中空連結軸430と低速側回転部材44の中空連結軸440との間に配置されている。高速側回転部材43の中空連結軸430及び低速側回転部材44の中空連結軸440には、第2の出力回転軸52が挿通されている。高速側回転部材43及び低速側回転部材44は、第2の出力回転軸52と同軸に配置されている。
【0025】
スリーブ46は、中間出力部材45の外周に配置された円筒状の連結部材であり、不図示のアクチュエータの動力により、中間出力部材45と高速側回転部材43の中空連結軸430とを相対回転不能に連結する第1連結位置と、中間出力部材45と低速側回転部材44の中空連結軸440とを相対回転不能に連結する第2連結位置との間を軸方向に移動する。スリーブ46の内周面には内歯が形成されており、中間出力部材45の外周面ならびに中間出力部材45の近傍における中空連結軸430,440の外周面には、スリーブ46の内歯に噛み合う外歯が形成されている。
図1では、第1連結位置にあるスリーブ46を実線で示し、第2連結位置にあるスリーブ46を破線で示している。
【0026】
中間出力部材45は、スリーブ46により、高速側回転部材43及び低速側回転部材44の何れかと相対回転不能に連結される。スリーブ46が第1連結位置にあるときは、中間出力部材45と高速側回転部材43とが相対回転不能に連結され、中間出力部材45と低速側回転部材44とが相対回転可能である。また、スリーブ46が第2連結位置にあるときは、中間出力部材45と低速側回転部材44とが相対回転不能に連結され、中間出力部材45と高速側回転部材43とが相対回転可能である。
【0027】
スリーブ46が第1連結位置にある第1連結状態では、電動モータ2の駆動力がモータシャフト24から入力ギヤ31、アイドルギヤ41、高速側回転部材43の第1ギヤ部431及び中空連結軸430、及びスリーブ46を経て中間出力部材45に伝達される。一方、スリーブ46が第2連結位置にある第2連結状態では、電動モータ2の駆動力がモータシャフト24から入力ギヤ31、アイドルギヤ41、高速側回転部材43の第1ギヤ部431及び第2ギヤ部432、多連ギヤ42の大径ギヤ部421及び小径ギヤ部422、低速側回転部材44のギヤ部441及び中空連結軸440、及びスリーブ46を経て中間出力部材45に伝達される。
【0028】
このように、第2連結状態では、多連ギヤ42を経て電動モータ2の駆動力が中間出力部材45に伝達されるので、第1連結状態に比較して入力ギヤ31から中間出力部材45までの減速比が大きく、電動モータ2の駆動力が大きく増幅されて中間出力部材45に伝達される。このため、例えば前後輪駆動車両1の発進時及び低速域では第2連結状態で走行し、中高速域では第1連結状態に切り替えて走行することで、広い車速域にわたって電動モータ2をエネルギー効率が高い高効率領域で動作させることができる。
【0029】
断続クラッチ6は、第1の出力回転軸51と一体に回転する第1のディスク61と、第2の出力回転軸52と一体に回転する第2のディスク62と、第1のディスク61及び第2のディスク62に対して軸方向移動する円筒状のスリーブ63とを有している。第1のディスク61及び第2のディスク62には、スリーブ63の内歯に噛み合う外歯が形成されている。スリーブ63は、第1のディスク61と第2のディスク62とを相対回転不能に連結する連結位置と、第1のディスク61と第2のディスク62とを相対回転自在とする非連結位置との間を、不図示のアクチュエータの動力によって移動する。
図1では、連結位置にあるスリーブ63を実線で示し、非連結位置にあるスリーブ63を破線で示している。
【0030】
スリーブ63が連結位置にあるときは、第1の出力回転軸51と第2の出力回転軸52との差動が規制され、中間出力部材45の回転力が第1の出力回転軸51及び第2の出力回転軸52に伝達されて前後輪駆動車両1が4輪駆動状態となる。一方、スリーブ63が非連結位置にあるときは、中間出力部材45の回転力が第1の出力回転軸51に伝達されず、前後輪駆動車両1が2輪駆動状態となる。断続クラッチ6は、例えば運転者による4輪駆動モードと2輪駆動モードとの選択スイッチの操作状態に応じて、第1の出力回転軸51と第2の出力回転軸52とを相対回転不能に連結する連結状態と、第1の出力回転軸51と第2の出力回転軸52との連結が遮断された遮断状態とを切り替え可能である。
【0031】
図2は、電動モータ2、入力ギヤ31、アイドルギヤ41、高速側回転部材43の第1ギヤ部431及び第2ギヤ部432、ならびに多連ギヤ42の大径ギヤ部421の噛み合い状態を示している。
図2では、図面下方が鉛直方向下方にあたり、図面上方が鉛直方向上方にあたる。
【0032】
入力ギヤ31は、電動モータ2のモータシャフト24の回転軸線O1を中心としてモータシャフト24と一体に回転する。アイドルギヤ41は、入力ギヤ31のギヤ歯31a及び高速側回転部材43の第1ギヤ部431のギヤ歯431aに噛み合うギヤ歯41aを有している。アイドルギヤ41は、回転軸線O2を中心として回転し、入力ギヤ31の回転を減速して高速側回転部材43の第1ギヤ部431に伝達する。
【0033】
高速側回転部材43、低速側回転部材44、及び中間出力部材45は、中間出力部材45ならびに第1及び第2の出力回転軸51,52の回転軸線O
3を中心として回転する。以下、この回転軸線O
3を出力回転軸線O
3という。高速側回転部材43の第2ギヤ部432のギヤ歯432aは、多連ギヤ42の大径ギヤ部421のギヤ歯421aに噛み合っている。多連ギヤ42は、高速側回転部材43の第2ギヤ部432から伝達される電動モータ2の駆動力により、回転軸線O
4を中心として回転する。なお、
図2では、高速側回転部材43の第1ギヤ部431と第2ギヤ部432とが重なっている。
【0034】
電動モータ2は、モータシャフト24の回転軸線O1が出力回転軸線O3と平行かつ出力回転軸線O3よりも鉛直方向上方に位置するように配置されている。これにより、仮にモータシャフト24の回転軸線O1が出力回転軸線O3と同軸又は出力回転軸線O3と水平方向に並ぶように電動モータ2が配置された場合に比較して、電動モータ2が鉛直方向の上方に配置される。このため、電動モータ2によって前後輪駆動車両1の最低地上高が制限されにくく、最低地上高を高くして前後輪駆動車両1の悪路走破性を向上させることが可能となる。
【0035】
[第2の実施の形態]
次に、
図3及び
図4を参照し、本発明の第2の実施の形態について説明する。
図3は、本発明の第3の実施の形態に係る前後輪駆動車両1Aの駆動系の構成を示す概略構成図である。
図4は、前後輪駆動車両1Aにおける駆動力配分装置3の一部の構成を示す構成図である。
図3及び
図4において、第1の実施の形態について
図1及び
図2を参照して説明したものと共通する部材には、
図1及び
図2に付したものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0036】
第1の実施の形態では、電動モータ2の駆動力がアイドルギヤ41及び高速側回転部材43の第1ギヤ部431及び第2ギヤ部432を介して多連ギヤ42に伝達される場合について説明したが、第2の実施の形態では、アイドルギヤ41及び高速側回転部材43の第1ギヤ部431が設けられておらず、入力ギヤ31が多連ギヤ42の大径ギヤ部421に噛み合っている。その他の前後輪駆動車両1Aの構成は、第1の実施の形態に係る前後輪駆動車両1と同様である。
【0037】
本実施の形態では、電動モータ2の駆動力が入力ギヤ31から直接的に多連ギヤ42に伝達される。第1連結状態では、多連ギヤ42に伝達された電動モータ2の駆動力が、大径ギヤ部421から高速側回転部材43を経て中間出力部材45に伝達される。一方、第2連結状態では、多連ギヤ42に伝達された電動モータ2の駆動力が、小径ギヤ部422から低速側回転部材44を経て中間出力部材45に伝達される。このため、第1の実施の形態と同様に、第2連結状態では第1連結状態に比較して入力ギヤ31から中間出力部材45までの減速比が大きく、電動モータ2の駆動力が大きく増幅されて中間出力部材45に伝達される。
【0038】
図4に示すように、電動モータ2は、モータシャフト24の回転軸線O
1が出力回転軸線O
3と平行かつ出力回転軸線O
3よりも鉛直方向上方に位置するように配置されている。このため、第1の実施の形態と同様、電動モータ2によって前後輪駆動車両1の最低地上高が制限されにくく、最低地上高を高くして前後輪駆動車両1の悪路走破性を向上させることが可能となる。
【0039】
また、本実施の形態では、入力ギヤ31が多連ギヤ42の大径ギヤ部421に噛み合わされているため、第1の実施の形態に比較して駆動力配分装置3の車幅方向の長さが長くなるものの、前後方向の長さが短くなっている。また、アイドルギヤ41及び高速側回転部材43の第1ギヤ部431を有しないため、駆動力配分装置3が軽量化される。なお、入力ギヤ31を多連ギヤ42の小径ギヤ部422に噛み合わせてもよい。この場合には、大径ギヤ部421と小径ギヤ部422との半径差に応じて車幅方向への駆動力配分装置3の大型化を抑制することができる。
【0040】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について、
図5及び
図6を参照して説明する。
図5は、本発明の第3の実施の形態に係る前後輪駆動車両1Bの駆動系の構成を示す概略構成図である。
図6は、前後輪駆動車両1Bにおける駆動力配分装置3の一部の構成を示す構成図である。
図5及び
図6において、第1の実施の形態について
図1及び
図2を参照して説明したものと共通する部材には、
図1及び
図2に付したものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0041】
第1及び第2の実施の形態では、前後輪駆動車両1,1Aが電動モータ2のみを駆動源として有する場合について説明したが、第3の実施の形態及び後述する第4の実施の形態に係る前後輪駆動車両1B,1Cでは、電動モータ2に加えてエンジン7を駆動源として有している。エンジン7は、ガソリン等の液体燃料をシリンダ内で燃焼させて動力を発生させる内燃機関である。
【0042】
エンジン7の駆動力は、トランスミッション8によって変速され、トランスミッション8の出力回転軸84から駆動力配分装置3に入力される。トランスミッション8は、クラッチ81と変速機構82とを備え、クラッチ81によってエンジン7の出力回転軸であるクランクシャフト71と変速機構82の入力回転軸83とが断続される。エンジン7及びトランスミッション8は、電動モータ2及び駆動力配分装置3の前側に縦置きされており、クランクシャフト71ならびにトランスミッション8の出力回転軸84の回転軸線は、車両前後方向と平行である。
【0043】
前後輪駆動車両1Bの駆動力配分装置3は、第1の実施の形態で説明した各構成部材に加え、エンジン7の駆動力を高速側回転部材43に伝達するためのチェーン機構9を備えている。チェーン機構9は、トランスミッション8の出力回転軸84に固定された第1のスプロケット91と、高速側回転部材43の中空連結軸430に固定された第2のスプロケット92と、第1のスプロケット91及び第2のスプロケット92に掛け回されて循環回転する環状の無端帯状体である金属製のチェーン93とを備えている。第2のスプロケット92は、高速側回転部材43の第1ギヤ部431と第2ギヤ部432との間に配置されている。なお、無端帯状体としては、チェーン93に限らず、例えば樹脂製のベルトを用いてもよい。
【0044】
スリーブ46が第1連結位置にある第1連結状態では、電動モータ2及びエンジン7の駆動力が、高速側回転部材43の中空連結軸430からスリーブ46を経て中間出力部材45に伝達される。一方、スリーブ46が第2連結位置にある第2連結状態では、電動モータ2及びエンジン7の駆動力が、高速側回転部材43の中空連結軸430から、高速側回転部材43の第2ギヤ部432、多連ギヤ42の大径ギヤ部421及び小径ギヤ部422、低速側回転部材44のギヤ部441及び中空連結軸440、及びスリーブ46を経て中間出力部材45に伝達される。
【0045】
図6は、電動モータ2、入力ギヤ31、アイドルギヤ41、高速側回転部材43の第1ギヤ部431、ならびにチェーン機構9の構成を示している。
図6では、図面下方が鉛直方向下方にあたり、図面上方が鉛直方向上方にあたる。第1のスプロケット91の回転軸線O
5は、モータシャフト24の回転軸線O
1よりも鉛直方向上方に位置している。電動モータ2は、モータシャフト24の回転軸線O
1が中間出力部材45ならびに第1及び第2の出力回転軸51,52の出力回転軸線O
3と平行かつ出力回転軸線O
3よりも鉛直方向上方に位置するように配置されている。このため、第1の実施の形態と同様、電動モータ2によって前後輪駆動車両1Bの最低地上高が制限されにくく、最低地上高を高くして前後輪駆動車両1の悪路走破性を向上させることが可能となる。
【0046】
なお、第2のスプロケット92を、低速側回転部材44の中空連結軸440に固定してもよい。この場合、第1連結状態において、エンジン7の駆動力が多連ギヤ42によって増幅されて高速側回転部材43に伝達され、スリーブ46を介して中間出力部材45に伝達される。また、第2のスプロケット92を、多連ギヤ42の連結軸420に固定してもよい。
【0047】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について、
図7及び
図8を参照して説明する。
図7は、本発明の第4の実施の形態に係る前後輪駆動車両1Cの駆動系の構成を示す概略構成図である。
図8は、前後輪駆動車両1Cにおける駆動力配分装置3の一部の構成を示す構成図である。
図7及び
図8において、第1の実施の形態又は第3の実施の形態において説明したものと共通する部材には、
図1、
図2、
図5、及び
図6に付したものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0048】
第3の実施の形態では、電動モータ2の駆動力が、第2連結状態において、アイドルギヤ41から高速側回転部材43の第1ギヤ部431及び第2ギヤ部432を介して多連ギヤ42に伝達される場合について説明したが、本実施の形態では、多連ギヤ42が、大径ギヤ部421と小径ギヤ部422に加え、アイドルギヤ41に噛み合わされたモータ駆動力入力ギヤ部423を有しており、モータ駆動力入力ギヤ部423が連結軸420によって大径ギヤ部421及び小径ギヤ部422と一体に回転するように連結されている。このため、高速側回転部材43には第1ギヤ部431が設けられていない。
【0049】
図8では、図面下方が鉛直方向下方にあたり、図面上方が鉛直方向上方にあたる。アイドルギヤ41のギヤ歯41aは、モータ駆動力入力ギヤ部423のギヤ歯423aに噛み合わされている。電動モータ2は、モータシャフト24の回転軸線O
1が中間出力部材45ならびに第1及び第2の出力回転軸51,52の出力回転軸線O
3と平行かつ出力回転軸線O
3よりも鉛直方向上方に位置するように配置されている。このため、第1の実施の形態と同様、電動モータ2によって前後輪駆動車両1Cの最低地上高が制限されにくく、最低地上高を高くして前後輪駆動車両1の悪路走破性を向上させることが可能となる。
【0050】
また、
図8に示すように、多連ギヤ42の連結軸420は、チェーン93の内側における第1のスプロケット91と第2のスプロケット92との間に挿通されている。より具体的には、連結軸430における大径ギヤ部421及び小径ギヤ部422とモータ駆動力入力ギヤ部423との間の部分が、チェーン93の内側における第1のスプロケット91と第2のスプロケット92との間に挿通されている。これにより、多連ギヤ42の連結軸420がチェーン93の鉛直方向上方又は下方に配置された場合に比較して、駆動力配分装置3の上下方向の大きさを小さくすることができ、最低地上高も確保しやすくなる。
【0051】
(付記)
以上、本発明を第1乃至第4実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。またさらに、上記した複数の実施の形態の一部の構成を互いに組み合わせることも可能であると共に、例えば下記のように変形することも可能である。
【0052】
第1乃至第4の実施の形態では、第1の出力回転部材51と第2の出力回転部材52との間に断続クラッチ6を配置した場合について説明したが、これに限らず、例えば電磁式のアクチュエータによって押圧される湿式の多板クラッチを第1の出力回転部材51と第2の出力回転部材52との間に配置してもよい。また、第1の出力回転部材51と第2の出力回転部材52との間に、例えばフロントディファレンシャル13あるいはリヤディファレンシャル17のようなディファレンシャル装置を配置し、このディファレンシャル装置のデフケースを中間出力部材45に相対回転不能に連結してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1,1A,1B,1C…前後輪駆動車両 101,102…前輪
103,104…後輪 2…電動モータ
24…モータシャフト 3…駆動力配分装置
4…変速機構 42…多連ギヤ
420…連結軸 421…大径ギヤ部
422…小径ギヤ部 423…モータ駆動力入力ギヤ部
43…高速側回転部材 44…低速側回転部材
45…中間出力部材 51…第1の出力回転軸
52…第2の出力回転軸 6…断続クラッチ
7…エンジン 9…チェーン機構
91…第1のスプロケット 92…第2のスプロケット
93…チェーン