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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084310
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】滑水性表面処理剤及び基材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20220531BHJP
   C09D 133/16 20060101ALI20220531BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220531BHJP
【FI】
C09K3/18 102
C09D133/16
C09D7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020196104
(22)【出願日】2020-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000108030
【氏名又は名称】AGCセイミケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 雄大
(72)【発明者】
【氏名】平林 涼
【テーマコード(参考)】
4H020
4J038
【Fターム(参考)】
4H020AA04
4H020AB02
4H020BA12
4J038CG141
4J038CH251
4J038GA12
4J038JA11
4J038KA06
4J038MA09
4J038MA14
4J038NA07
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】パーフルオロアルキル基を有しない含フッ素重合体を含み、良好な滑水性能を示す滑水性表面処理剤、及びその滑水性表面処理剤によって滑水性を付与した部材の提供。
【解決手段】式(a)で表される単量体に基づく構成単位を含む含フッ素重合体と、フッ素系有機溶媒とを含む滑水性表面処理剤、及び表面の少なくとも一部に、その滑水性表面処理剤を乾燥した被膜を有する基材。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(a)で表される単量体に基づく構成単位を含む含フッ素重合体と、フッ素系有機溶媒とを含む滑水性表面処理剤。
【化1】
式(a)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Lは-(CH-(CF-で表される2価の連結基である。
Lにおいて、mは1~4の整数であり、nは1~8の整数である。ただし、Lにおいて、メチレン基(-CH-)とジフルオロメチレン基(-CF-)との結合順序は限定されない。
【請求項2】
前記含フッ素重合体を構成する全ての構成単位に対する、単量体(a)に基づく構成単位の割合が50~100質量%である、請求項1に記載の滑水性表面処理剤。
【請求項3】
式(a)において、-O-L-Hが-O-(CH-(CF-Hであり、-(CH-と-(CF-とがこの順に結合している、請求項1又は2に記載の滑水性表面処理剤。
【請求項4】
式(a)において、m=1である、請求項1~3のいずれか1項に記載の滑水性表面処理剤。
【請求項5】
式(a)において、nが2~8の整数である、請求項1~4のいずれか1項に記載の滑水性表面処理剤。
【請求項6】
式(a)において、Rがメチル基である、請求項1~5のいずれか1項に記載の滑水性表面処理剤。
【請求項7】
前記含フッ素重合体の数平均分子量が5.0×10~5.0×10である、請求項1~6のいずれか1項に記載の滑水性表面処理剤。
【請求項8】
前記フッ素系有機溶媒が、m-キシレンヘキサフルオリド、エチルノナフルオロブチルエーテル、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメチル)ペンタン、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル及び1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~7のいずれか1項に記載の滑水性表面処理剤。
【請求項9】
前記含フッ素重合体を0.1~30質量%含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の滑水性表面処理剤。
【請求項10】
表面の少なくとも一部に、請求項1~9のいずれか1項に記載の滑水性表面処理剤を乾燥した被膜を有する基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑水性表面処理剤及び基材に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の生活環境において、撥水性が望まれる、又は必要とされる、設備、装置又は機械器具は多数存在する。また、その種類も、自動車の窓ガラス、自動車の塗装表面、台所設備、台所用品、台所設備に付設される排気装置、入浴設備、洗面設備、医療用施設、医療用機械器具、鏡、眼鏡及びインクジェットプリンター部品等、極めて多岐に亘っている。
従来、これらの物体に撥水性を付与しようとする際には、物体表面の水の接触角を大きくする方法が適用されている。例えば、シリコン系化合物、樹脂、フッ素系樹脂又はポリオレフィン系樹脂等のいわゆる疎水性材料による表面被覆が行われている。
撥水性は、従来一般的に水の接触角の大きさで評価することが多いが、実用面においては、付着した水滴が重力などによって速やかに流れ落ちる性質(滑水性)も必要とされる。
【0003】
特許文献1には、式(a):CH=C(R)-COO-Rfで表される化合物から導かれる構成単位を含有する重合体を溶媒中に含む滑水性表面処理剤が開示されている(式(a)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rfは主鎖の炭素数が2~3であり、末端基がCFであるポリフルオロアルキル基である)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-185072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された滑水性表面処理剤は、パーフルオロアルキル基を有する不飽和化合物から導かれる重合体を含むが、近年、パーフルオロアルキル基を有する重合体を含まない滑水性表面処理剤が求められている。
【0006】
本発明は、パーフルオロアルキル基を有しない含フッ素重合体を含み、良好な滑水性能を示す滑水性表面処理剤、及びその滑水性表面処理剤によって滑水性を付与した部材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 式(a)で表される単量体に基づく構成単位を含む含フッ素重合体と、フッ素系有機溶媒とを含む滑水性表面処理剤。
【化1】
式(a)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Lは-(CH-(CF-で表される2価の連結基である。
Lにおいて、mは1~4の整数であり、nは1~8の整数である。ただし、Lにおいて、メチレン基(-CH-)とジフルオロメチレン基(-CF-)との結合順序は限定されない。
[2] 前記含フッ素重合体を構成する全ての構成単位に対する、単量体(a)に基づく構成単位の割合が50~100質量%である、[1]に記載の滑水性表面処理剤。
[3] 式(a)において、-O-L-Hが-O-(CH-(CF-Hであり、-(CH-と-(CF-とがこの順に結合している、[1]又は[2]に記載の滑水性表面処理剤。
[4] 式(a)において、m=1である、[1]~[3]のいずれかに記載の滑水性表面処理剤。
[5] 式(a)において、nが2~8の整数である、[1]~[4]のいずれかに記載の滑水性表面処理剤。
[6] 式(a)において、Rがメチル基である、[1]~[5]のいずれかに記載の滑水性表面処理剤。
[7] 前記含フッ素重合体の数平均分子量が5.0×10~5.0×10である、[1]~[6]のいずれかに記載の滑水性表面処理剤。
[8] 前記フッ素系有機溶媒が、m-キシレンヘキサフルオリド、エチルノナフルオロブチルエーテル、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメチル)ペンタン、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル及び1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタンからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[7]のいずれかに記載の滑水性表面処理剤。
[9] 前記含フッ素重合体を0.1~30質量%含む、[1]~[8]のいずれかに記載の滑水性表面処理剤。
[10] 表面の少なくとも一部に、[1]~[9]のいずれかに記載の滑水性表面処理剤を乾燥した被膜を有する基材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、パーフルオロアルキル基を有しない含フッ素重合体を含み、良好な滑水性能を示す滑水性表面処理剤、及びその滑水性表面処理剤によって滑水性を付与した部材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
「~」を用いて表される数値範囲は、その両端の数値を含む。
パーフルオロアルキル基とは、アルキル基の水素原子の全部がフッ素原子に置換されたパーフルオロ置換アルキル基を意味する。ここで、アルキル基の末端のCH部分はメチル基とみなされる。
(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイル基、及び(メタ)アクリロイルオキシ基は、それぞれ、アクリル基及びメタクリル基、アクリロイル基及びメタクリロイル基、並びにアクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基の総称である。
滑水性は、水の滑落角によって評価され、水の滑落角が小さければ小さいほど良好である。なお、滑水性と水の接触角との間に相関はない。
【0010】
[滑水性表面処理剤]
本発明の滑水性表面処理剤は、後述する含フッ素重合体(以下「重合体(A)」ともいう。)と、フッ素系有機溶媒とを含む滑水性表面処理剤である。
【0011】
〈重合体(A)〉
重合体(A)は、式(a)で表される単量体(以下「単量体(a)」ともいう。)に基づく構成単位(以下「単位(a)」ともいう。)を含む。
【0012】
【化2】
【0013】
式(a)において、Rは水素原子又はメチル基であり、メチル基が好ましい。Rがメチル基であると、本発明の滑水性表面処理剤を乾燥した被膜の滑水性がより良好になる傾向がある。
【0014】
式(a)において、Lは-(CH-(CF-で表される2価の連結基である。
Lにおいて、mは1~4の整数であり、1又は2が好ましい。
Lにおいて、nは1~8の整数であり、1~6の整数が好ましく、1~4の整数がより好ましく、1又は2がさらに好ましい。
Lにおいて、メチレン基(-CH-)とジフルオロメチレン基(-CF-)との結合順序は限定されない。例えば、Lは、メチレン基からなるブロックとジフルオロメチレン基からなるブロックが結合したものであってもよいし、メチレン基とジフルオロメチレン基とがタンデムに結合したものであってもよいし、メチレン基とジフルオロメチレン基とがランダムに結合したものであってもよい。
【0015】
単量体(a)の具体例としては、以下の式で表される化合物が挙げられる。
CH=C(CH)-COO-CH-CF-H
CH=C(CH)-COO-CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-CH-(CF-H
【0016】
CH=C(CH)-COO-(CH-CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
【0017】
CH=C(CH)-COO-(CH-CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
【0018】
CH=C(CH)-COO-(CH-CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
CH=C(CH)-COO-(CH-(CF-H
【0019】
CH=CH-COO-CH-CF-H
CH=CH-COO-CH-(CF-H
CH=CH-COO-CH-(CF-H
CH=CH-COO-CH-(CF-H
CH=CH-COO-CH-(CF-H
CH=CH-COO-CH-(CF-H
CH=CH-COO-CH-(CF-H
CH=CH-COO-CH-(CF-H
【0020】
CH=CH-COO-(CH-CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
【0021】
CH=CH-COO-(CH-CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
【0022】
CH=CH-COO-(CH-CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
CH=CH-COO-(CH-(CF-H
【0023】
重合体(A)は、単位(a)の1種からなる単独重合体であってもよいし、単位(a)の2種以上からなる共重合体であってもよい。
【0024】
《単位(a)以外の構成単位》
また、重合体(A)は、単位(a)以外の構成単位(パーフルオロアルキル基を有するものを除く。)を含む共重合体であってもよい。重合体(A)が単位(a)以外の構成単位を含む場合の重合体(A)を構成する全ての構成単位に対する単位(a)の割合(質量%)は、特に限定されないが、30~100質量%が好ましく、50~100質量%がより好ましく、70~100質量%がさらに好ましい。重合体(A)を構成する全ての構成単位に対する単位(a)の割合(質量%)が大きいほど、本発明の滑水性表面処理剤を乾燥した被膜の滑水性がより良好になる傾向がある。
【0025】
上記単位(a)以外の構成単位としては、例えば、後述する単位(b)、単位(c)、単位(d)、単位(e)及び単位(f)が挙げられる。重合体(A)は、単位(a)の他に、単位(b)、単位(c)、単位(d)、単位(e)及び単位(f)からなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0026】
(単位(b))
単位(b)は、式(b)で表される単量体(以下「単量体(b)」ともいう。)に基づく構成単位である。
CH=C(R)-Q-Y (b)
式(b)において、Rは、水素原子又はメチル基であり、メチル基が好ましい。
【0027】
式(b)において、Qは、単結合又は2価の連結基である。上記2価の連結基としては、炭素数が1~10の直鎖状若しくは分岐上のアルキレン基、炭素数が2~10のアルケニレン基、オキシアルキレン基、6員芳香族機、4~6員環の飽和若しくは不飽和の脂肪族基、5~6員の複素環基又は式-X-、-X-X-、-Z-X-、-X-Z-X-、-Z-X-X-若しくは-Z-X-Z-X-で表される2価の連結基が挙げられる。これらの2価の連結基は2種以上を組み合わせてもよい。また、複数の環基は縮合してもよい。ただし、X、X、Z及びZは、それぞれ、以下の意味である。
及びXは、それぞれ独立して、炭素数が1~10の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基、オキシアルキレン基、6員環芳香族基、4~6員環の飽和若しくは不飽和の脂肪族基又は5~6員環の複素環基若しくはこれらが縮合した環基である。
及びZは、それぞれ独立して、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-COS-、-SCO-、-N(R)-、-CON(R)-、-N(R)CO-、-SO-、-PO(OR)-、-(OR)PO-、-N(R)-COO-、-COO-N(R)-、-N(R)-CO-、-CO-N(R)-、-N(R)-SO-、-SO-N(R)-、-PO(OR)-N(R)-又は-N(R)-PO(OR)-である。ただし、Rは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基である。
【0028】
式(b)において、Qは、単結合又は2価の連結基であれば特に限定されないが、単結合、炭素数1~6のアルキレン基、-COO-、-N(R)-、-SO-又はこれらのうち2種以上を組み合わせて得られる2価の連結基が好ましく、-Z-X-(ただし、Zは-COO-であり、Xは炭素数1~6のアルキレン基である)がより好ましい。
【0029】
上記2価の連結基は、置換基を有していてもよい。上記置換基の例としては、F、Cl、Br及びI等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、オクチルオキシ基及びメトキシエトキシ基等のアルコキシ基;アセチル基、プロピオニル基及びベンゾイル基等のアシル基;フェノキシ等のアリールオキシ基;メチルチオ基及びエチルチオ基等のアルキルチオ基;メタンスルホニル基及びベンゼンスルホニル基等のスルホニル基;メタンスルホニルオキシ基及びトルエンスルホニルオキシ基等のスルホニルオキシ基;アセトキシ基及びベンゾイルオキシ基等のアシルオキシ基;ジエチルホスホニル基等のホスホニル基;アセチルアミノ基及びベンゾイルアミノ基等のアミド基;N,N-ジメチルカルバモイル基及びN-フェニルカルバモイル基等のカルバモイル基;メチル基、エチル基、プロピル気、イソプロピル基、シクロプロピル基及びブチル基等のアルキル基;フェニル基及びトルイル基等のアリール基;ピリジル基、イミダゾリル基及びフラニル基等の複素環基;ビニル基及び1-プロペニル基等のアルケニル基;アセチルオキシ基等のアルコキシアシルオキシ基;メトキシカルボニル基及びエトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;ヒドロキシ基;シアノ基;並びに、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、シリル基及び桂皮酸残基等の重合性基が挙げられる。
【0030】
式(b)において、Yは、数平均分子量(Mn)が1000~300000のオルガノポリシロキサン基である。
上記オルガノポリシロキサン基の例としては、-(SiO)x-で表される繰り返し単位のケイ素原子に、水素原子、アルキル基又はフェニル基が置換した基が挙げられる。上記オルガノポリシロキサン基としては、-(Si(CHO)-で表される、ポリジメチルシロキサン基が好ましい。
また、上記オルガノポリシロキサン基の末端は、重合性基を有しないことが好ましい。上記オルガノポリシロキサン基の末端は、アルキル基、アルコキシ基又はポリエーテル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。ここで、アルキル基、アルコキシ基及びポリエーテル基は、置換基を有していてもよい。
【0031】
単量体(b)としては、式(b1)で表される化合物(以下「化合物(b1)」ともいう。)が好ましい。
CH=C(R)-COO-(CH-(Si(CHO)-Si(CH-Rb1 (b1)
式(b1)において、R、i、j及びRb1は、それぞれ、以下の意味である。
は、水素原子又はメチル基である。
iは、1~6の整数である。
jは、10~800の整数である。
b1は、置換基を有していてもよいアルキル基である。上記置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルチオ基、アシル基、カルボキシ基、スルホニル基、アシルオキシ基、スルホニルオキシ基、ホスホニル基、アミノ基、アミド基、アルキル基、アリール基、複素環基及びアルコキシアシルオキシ基が挙げられる。ただし、上記置換基は、ビニル基、アクリロイル基及びメタクリロイル基等の重合性不飽和基並びにエポキシ基及びイソシアネート基等の重合性官能基を含まない。Rb1としては、炭素数が1~5のアルキル基が好ましい。
【0032】
化合物(b1)において、ポリジメチルシロキサン基の数平均分子量は、5000~15000が好ましく、10000~15000がより好ましい。
【0033】
重合体(A)が単位(b)を含むと、本発明の滑水性表面処理剤を乾燥した被膜の滑水性がより良好になる傾向がある。
重合体(A)が単位(b)を含む場合の重合体(A)を構成する全ての構成単位に対する単位(b)の割合(質量%)は、特に限定されないが、0.1~70質量%が好ましく、0.1~50質量%がより好ましく、0.1~30質量%がさらに好ましい。重合体(A)を構成する全ての構成単位に対する単位(b)の割合(質量%)が上記範囲内であると、本発明の滑水性表面処理剤を乾燥した被膜の滑水性がより良好になる傾向がある。
【0034】
(単位(c))
単位(c)は、式(c)で表される単量体(以下「単量体(c)」ともいう。)に基づく構成単位である。
CH=C(R)-COO-(CH-H (c)
式(c)において、Rは、水素原子又はメチル基であり、kは、1~4の整数である。
【0035】
重合体(A)が単位(c)を含むと、本発明の滑水性表面処理剤を乾燥した被膜の追従性及び粘着性がより良好になる傾向がある。
重合体(A)が単位(c)を含む場合の重合体(A)を構成する全ての構成単位に対する単位(c)の割合(質量%)は、特に限定されないが、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0036】
(単位(d))
単位(d)は、重合性不飽和基を1分子中に2個以上有する単量体(以下「単量体(d)」ともいう。)に基づく構成単位である。
単量体(d)としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基を1分子中に2個以上有する多官能性重合性化合物が挙げられる。
【0037】
上記多官能性重合性化合物の例としては、式(d1)~式(d15)のいずれか1つで表される化合物が挙げられる。
CH=CR-COO-(CO)-CO-CR=CH (d1)
CH=CR-COO-(CO)-CO-CR=CH (d2)
CH=CR-COO-(CO)(CO)-CO-CR=CH (d3)
CH=CR-COO-(CO)(CO)(CO)-CO-CR=CH (d4)
CH=CR-COO-Ak-OCO-CR=CH (d5)
CH=CR-COO-CHCH(OH)CH-OCO-CR=CH (d6)
[CH=CR-COO-CHCHRO-]P(=O)[-OH] (d7)
【0038】
【化3】
【0039】
【化4】
【0040】
d2-[NHCOO-CHC(CHOCOCH=CH (d11)
【0041】
【化5】
【0042】
【化6】
【0043】
式(d1)~式(d15)において、R、Rd1、Rd2、Ak、p、q、r、s、t、x、y及びzは、それぞれ、以下の意味である。
は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基である。
p、q及びrは、それぞれ独立して、1~20の整数である。
Akは、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基である。
sは、2又は3であり、tは0又は1である。ただし、s+t=3である。
d1は、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、-CHOH、-CHOCO-CR=CHである。ただし、Rは水素原子又はメチル基である。
x、y及びxは、それぞれ独立して、0~3の整数である。
d2は、以下に示す式のいずれか1つで表される2価の基である。ただし、式中、「*」は結合点を表す。
【0044】
【化7】
【0045】
また、単量体(d)の例としては、上述した式(d1)~式(d15)のいずれか1つで表される化合物の他、以下に示す式のいずれか1つで表される化合物も挙げられる。
【0046】
【化8】
【0047】
重合体(A)が単位(d)を含むと、本発明の滑水性表面処理剤を乾燥した被膜の基材の表面に対する密着性がより向上する場合がある。
重合体(A)が単位(d)を含む場合の重合体(A)を構成する全ての構成単位に対する単位(d)の割合(質量%)は、特に限定されないが、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0048】
(単位(e))
単位(e)は、式(e)で表される単量体(以下「単量体(e)」ともいう。)に基づく構成単位である。
CH=C(R)-Q-W (e)
式(e)において、R、Q及びWは、それぞれ、以下の意味である。
は、水素原子又はメチル基である。
は、単結合又は2価の連結基である。上記2価の連結基としては、上述した式(b)におけるQと同様のものが挙げられる。
Wは、アルコキシシリル基、ヒドロキシ基又はカルボキシ基である。上記カルボキシ基は、塩の形でもよい。
【0049】
Wとしては、本発明の滑水性表面処理剤を乾燥した被膜の基材の表面に対する密着性がより向上することから、カルボキシ基又はアルコキシシリル基が好ましい。
【0050】
単量体(e)は、Wがアルコキシシリル基である場合、式(e1)で表される化合物(以下「化合物(e1)」ともいう。)が好ましい。
CH=C(R)-COO-Q21-Si(OAk (e1)
式(e1)において、R、Q21及びAkは、それぞれ、以下の意味である。
は、水素原子又はメチル基である。
21は、直鎖状又は分岐状のアルキレン基(置換基を有していてもよい)である。
Akは、炭素数1~3の直鎖状又は分岐状のアルキル基である。
【0051】
化合物(e1)の例としては、式(e11)~式(e19)のいずれか1つで表される化合物が挙げられる。
CH=C(CH)-COO-(CH-Si(OCH (e11)
CH=C(CH)-COO-(CH-Si(OCHCH (e12)
CH=C(CH)-COO-(CH-Si(OCH(CH (e13)
CH=CH-COO-(CH-Si(OCH (e14)
CH=CH-COO-(CH-Si(OCHCH (e15)
CH=CH-COO-(CH-Si(OCH(CH (e16)
【0052】
単量体(e)は、Wがヒドロキシ基である場合、式(e2)で表される化合物が好ましい。
CH=C(R)-COO-Q22-OH (e2)
式(e2)において、R及びQ22は、それぞれ、以下の意味である。
は、水素原子又はメチル基である。
22は、-X-又は-X-X-である。ただし、Xは、炭素数が1~10の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基(水素原子がヒドロキシ基で置換されていてもよい)、フェニレン基又はシクロヘキシレン基であり、Xは、-(CO)-又は-(CO)-(nは1~30の整数である)である。
【0053】
化合物(e2)の例としては、式(e21)~式(e28)のいずれか1つで表される化合物が挙げられる。ただし、式(e21)~式(e26)において、aは、式毎にそれぞれ独立に、1~10の整数である。
CH=CH-COO-(CH-OH (e21)
CH=C(CH)-COO-(CH-OH (e22)
CH=CH-COO-(CO)-OH (e23)
CH=C(CH)-COO-(CO)-OH (e24)
CH=CH-COO-(CO)-OH (e25)
CH=C(CH)-COO-(CO)-OH (e26)
CH=CH-COO-CHCH(OH)CH-OH (e27)
CH=C(CH)-COO-CHCH(OH)CH-OH (e28)
【0054】
単量体(e)は、Wがカルボキシ基である場合、式(e2)で表される化合物が好ましい。
CH=C(R)-Q23-COOH (e3)
式(e3)において、R及びQ23は、それぞれ、以下の意味である。
は、水素原子又はメチル基である。
23は、単結合、炭素数が1~10の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基、フェニレン基、シクロヘキシレン基、-(CO)-若しくは-(CO)-(nは1~30の整数である)、又は-Z-X-若しくは-Z-X-Z-X-で表される2価の連結基である。ただし、Zは、-COO-であり、Xは、炭素数が1~10の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基、フェニレン基、シクロへキシレン基又は-(CO)-若しくは-(CO)-(nは1~30の整数である)であり、Xは、-(CO)-又は-(CO)-(nは1~30の整数である)であり、Zは、-CO-であり、Xは、炭素数が1~10の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基、フェニレン基又はシクロヘキシレン基である。
【0055】
化合物(e3)の例としては、式(e31)~式(e40)のいずれか1つで表される化合物が挙げられる。ただし、式(e31)~式(e36)において、a及びbは、式毎にそれぞれ独立に1~10の整数である。
CH=CH-COOH (e31)
CH=C(CH)-COOH (e32)
CH=CH-COO-(CH-COOH (e33)
CH=C(CH)-COO-(CH-COOH (e34)
CH=CH-COO-(CO)-CO-(CH-COOH (e35)
CH=C(CH)-COO-(CO)-CO-(CH-COOH (e36)
【0056】
【化9】
【0057】
重合体(A)が単位(e)を含むと、本発明の滑水性表面処理剤を乾燥した被膜の基材の表面に対する密着性がより向上する場合がある。
重合体(A)が単位(e)を含む場合の重合体(A)を構成する全ての構成単位に対する単位(e)の割合(質量%)は、特に限定されないが、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0058】
(単位(f))
単位(f)は、上述した単量体(a)、単量体(b)、単量体(c)、単量体(d)及び単量体(e)と共重合しうる単量体(以下「単量体(f)」ともいう。)に基づく構成単位である。
単量体(f)の例としては、フッ素原子を含まない、単量体(b)、単量体(c)、単量体(d)及び単量体(e)以外の、1分子中に1個以上の(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物が挙げられる。
【0059】
単量体(f)の例としては、式(f1)で表される化合物(以下「化合物(f1)」ともいう。)、式(f2)で表される化合物(以下「化合物(f2)」ともいう。)、式(f3)で表される化合物(以下「化合物(f3)」ともいう。)、式(f4)で表される化合物(塩化ビニル)及び式(f5)で表される化合物(アクリロニトリル)が挙げられる。
【0060】
【化10】
【0061】
式(f1)において、Rは、水素原子、メチル基、塩素原子、-CHO、-CHCl、-CHNH、-CHN(CH、-CH(CHCl、-CHCl、-CHCN、-CHCOOH、-CHN(CHCOOH)、-CHSH、-CHSONa又はCHOCOCHである。
【0062】
CH=C(R)-COO-R (f2)
式(f2)において、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、-C2ac+1、-CHCHN(CH、-CH-C(CH-OCO-Ph、-CHPh、-CHCHOPh、-CH(CHCl、-(CHCHO)CH若しくは-(CH-NCO、又は以下に掲げる1価の基のいずれか1つである。ただし、cは1~20の整数であり、dは2~20の整数であり、Phはフェニル基を意味する。
【0063】
【化11】
【0064】
CH=C(R10)-CONH-R11 (f3)
式(f3)において、R10は、水素原子又はメチル基であり、R11は、水素原子又は-C2e+1である。ただし、eは1~20の整数である。
【0065】
CH=CHCl (f4)
CH=CHCN (f5)
【0066】
重合体(A)が単位(f)を含むと、本発明の滑水性表面処理剤を乾燥した被膜の基材の表面に対する密着性がより向上する場合がある。
重合体(A)が単位(f)を含む場合の重合体(A)を構成する全ての構成単位に対する単位(f)の割合(質量%)は、特に限定されないが、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0067】
《重合体(A)が含まない構成単位》
重合体(A)は、パーフルオロアルキル基を有する構成単位を含まないことが好ましい。上記パーフルオロアルキル基を有する構成単位は、パーフルオロアルキル基を有する単量体に基づく構成単位である。
【0068】
《重合体(A)の分子量》
重合体(A)の数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、5.0×10~5.0×10が好ましく、8.0×10~3.0×10がより好ましく、1.0×10~2.0×10がさらに好ましい。
重合体(A)の質量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、5.0×10~1.0×10が好ましく、8.0×10~7.0×10がより好ましく、1.0×10~5.0×10がさらに好ましい。
重合体(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されないが、1.0に近いほど分子量分布が小さくなり、好ましい。
重合体(A)の質量平均分子量(Mw)又は数平均分子量(Mn)が上記範囲内であると、本発明の滑水性表面処理剤を乾燥した被膜の滑水性がより良好になる傾向がある。
【0069】
重合体(A)の分子量は、以下の測定方法によって測定した値である。
(試料)重合体(A)をNovec7300/ヘキサフルオロ-2-プロパノール=85/15vol%で0.2質量%に希釈して試料を製造する。
(測定)試料中の重合体(A)の数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)を以下の測定条件で測定し、分子量分布(Mw/Mn)を算出する。
装置:HLC-8320GPC(東ソー社製)
パージ溶媒:Novec7300(3M社製)/ヘキサフルオロ-2-プロパノール=85/15vol%
移動相:Novec7300/ヘキサフルオロ-2-プロパノール=85/15vol%
注入量:20μL
流速:0.3mL/min
カラム温度:40℃
分析時間:40min
検出器:示差屈折(RI)検出器
カラム:Shodex GPC LF-604×2、Shodex GPC LF-6×1、KF-600PH×1(昭和電工社製) 直列接続
【0070】
《重合体(A)の製造方法》
重合体(A)は、単位(a)とともに、任意に、単位(b)、単位(c)、単位(d)、単位(e)及び単位(f)からなる群から選択される1種以上を含んでよいこと以外は、重合形態など特に制限されない。重合体(A)が共重合体である場合の重合形態は特に制限されず、ランダム重合体、ブロック重合体及びグラフト重合体等のいずれでもよい。
【0071】
重合体(A)の製造方法も特に限定されず、各種の公知の方法を採用し得る。例えば、各単量体中の不飽和基に基づき付加重合させることができる。重合に際しては、公知の不飽和化合物の付加重合条件を適宜に採択して行うことができる。例えば重合開始源として有機過酸化物、アゾ化合物又は過硫酸塩等の通常の開始剤が利用できる。また、分子量の調整のために、重合反応時に分子量調整剤を利用することもできる。
【0072】
〈含フッ素有機溶媒〉
本発明の滑水性表面処理剤が含む含フッ素有機溶媒は、特に限定されないが、例えば、以下に示すものが挙げられる。
【0073】
m-キシレンヘキサフルオリド(以下「m-XHF」ともいう。)
p-キシレンヘキサフルオリド(以下「p-XHF」ともいう。)
CFCHCFCH
CFCHCF
13OCH
13OC
OCH
OC
13
13CHCH
CFHCFCHOCFCF
CFCFHCFHCFCH
CF(OCFCF(OCFOCF
17OCH
15OCH
OCH
OC
CHCH
CFCHOCFCFCF
CFCF(CHCF)CF(OCH)CFCF
CFHCFOCHCF
(上記例示中、m、nは各々1~20の整数を表す。)
【0074】
含フッ素有機溶媒としては、エチルノナフルオロブチルエーテル(COC)、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメチル)ペンタン(CFCF(CHCF)CF(OCH)CFCF
)、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(CFHCFOCHCF)及び1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン(C13CHCH)からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
含フッ素有機溶媒は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて、用いることができる。
【0075】
〈重合体(A)の濃度〉
本発明の滑水性表面処理剤における重合体(A)の濃度は、特に限定されないが、滑水性表面処理剤の全質量に対して、0.1~30質量%が好ましく、0.5~20質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
本発明の滑水性表面処理剤における重合体(A)の濃度が上記範囲内であると、本発明の滑水性表面処理剤を乾燥した被膜の滑水性能が十分に発揮できる。
本発明の滑水性表面処理剤における重合体(A)の濃度は最終濃度であればよく、例えば、本発明の滑水性表面処理剤を重合組成物として直接調製する場合には、重合直後の重合組成物の重合体濃度(固形分濃度)が20質量%を超えていてもなんら差し支えない。高濃度の重合組成物は、適宜に希釈することにより、最終的に上記範囲内とすることができる。
【0076】
〈重合体(A)以外の成分〉
本発明の滑水性表面処理剤は、その組成物としての安定性、滑水性能又は外観等に悪影響を与えない範囲であれば、上述したもの以外の他の成分を含んでいてもよい。このような他の成分としては、例えば、被膜表面の腐食を防止するためのpH調整剤、防錆剤、組成物を希釈して使用する場合に液中の重合体の濃度管理をする目的又は未処理部品との区別をするための染料、染料の安定剤、難燃剤、消泡剤及び帯電防止剤が挙げられる。
なお、本発明の滑水性表面処理剤は、フッ素系有機溶媒を除き、パーフルオロアルキル基を有する化合物を含まない。例えば、本発明の滑水性表面処理剤は、パーフルオロアルキル基を有する重合体を含まない。
【0077】
[被膜を有する基材]
本発明の被膜を有する基材は、表面の少なくとも一部に、上述した滑水性表面処理剤を乾燥した被膜を有する基材である。
本発明の被膜を有する基材は、本発明の滑水性表面処理剤を、基材の表面に塗布し、乾燥することで、基材の表面の少なくとも一部を重合体(A)で被覆し、滑水性能を付与したものである。
塗布の方法としては、一般的な塗布方法が採用できる。例えば、浸漬塗布、スプレー塗布又はローラー等により、本発明の滑水性表面処理剤を基材の表面の少なくとも一部に塗布できる。
乾燥の方法としては、溶媒の沸点以上の温度に加熱する方法が採用できるが、基材の種類により加熱乾燥が困難な場合には、加熱を回避して乾燥する。なお、加熱の条件は、塗布する滑水性表面処理剤の組成及び塗布面積等に応じて適宜選択すればよい。
【実施例0078】
以下では実施例によって本発明をより具体的に説明する。しかし、本発明は後述する実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【0079】
[実施例1]
(表面処理剤の製造)
100mLメジューム瓶に、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルメタクリレート(富士フイルム和光純薬社製)(単量体)の10.0gと、m-キシレンヘキサフルオライド(市販品)(重合溶剤)の30.9gと、V-601(ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオナート,富士フイルム和光純薬社製)(重合開始剤)の0.1gを加え、重合溶液を準備した。重合溶液内の溶存酸素を除くために、窒素ガスで1分間のバブリングを行った。その後、メジューム瓶を振とう恒温槽に入れ、70℃で18時間以上、振とう数120~130min-1の条件で重合させ、単独重合体溶液を製造した。得られた単独重合体溶液を重合体の濃度が5質量%になるようにm-キシレンフルオライド(市販品)で希釈し、表面処理剤を製造した。
【0080】
(単独重合体の分子量)
得られた単独重合体溶液中の重合体の質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を以下の測定条件で測定し、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
装置:HLC-8320GPC(東ソー社製)
パージ溶媒:Novec7300(3M社製)/ヘキサフルオロ-2-プロパノール=85/15vol%
移動相:Novec7300/ヘキサフルオロ-2-プロパノール=85/15vol%
注入量:20μL
流速:0.3mL/min
カラム温度:40℃
分析時間:40min
検出器:示差屈折(RI)検出器
カラム:Shodex GPC LF-604×2、Shodex GPC LF-6×1、KF-600PH×1(昭和電工社製) 直列接続
重合体の質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を表1に示す。
【0081】
(滑水性)
表面処理剤を常温(20℃±15℃)とし、ガラス板(サイズ:0.9mm×10mm×50mm)を浸漬した。1分間浸漬した後、ガラス板を取り出し、120℃で5分間乾燥させて、ガラス板の表面に表面処理剤を乾燥させた被膜を形成した。
次に、被膜を形成したガラス板の被膜上に、イオン交換水を10μL滴下し、滑落角を測定した。滑落角の測定には、接触角計(Dmo-501、協和界面科学社製)を用い、滑落角を測定する際の滑落角の移動速度は約1.5°/秒とした。液滴が移動を始めた際の角度を滑落角(°)とした。
また、滑落角(°)に基づいて、次の基準により滑水性を評価した。
A・・・滑落角(℃)≦40°
B・・・40°<滑落角(°)≦90°
C・・・90°<滑落角(°)又は滑落しなかった
測定した滑落角(°)及び評価を表1に示す。なお、表1の滑落角の欄の「ND]は、液滴が滑落しなかったことを示す。
【0082】
(パーフルオロアルキル基の有無)
合成した単独重合体がパーフルオロアルキル基を有する場合には「P」、有しない場合には「A」と評価した。
【0083】
[実施例2、3、比較例1~6]
単量体を表1に示すもの(いずれも市販品)に変更した点を除いて、実施例1と同様にして重合体溶液を製造し、表面処理剤を製造した。
実施例1と同様にして、単独重合体の分子量の測定、滑水性の評価、パーフルオロアルキル基の有無の評価を行った。
重合体の質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)、滑落角(°)及び滑水性の評価、並びにパーフルオロアルキル基の有無の評価(合成した単独重合体がパーフルオロアルキル基を有する(P)/有しない(A))を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例1~3及び比較例1~3の滑水性は、評価がA又はBであり、良好であった。
実施例1~3で用いた重合体はパーフルオロアルキル基を有していない。これに対して、比較例1~6で用いた重合体はパーフルオロアルキル基を有しており、比較例4~6は、滑水性が不良である。