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特開2022-84312黒リンナノシートと生体吸収性高分子との複合多孔質材料及びその製造方法
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  • 特開-黒リンナノシートと生体吸収性高分子との複合多孔質材料及びその製造方法 図1a
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084312
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】黒リンナノシートと生体吸収性高分子との複合多孔質材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/02 20060101AFI20220531BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20220531BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20220531BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20220531BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20220531BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20220531BHJP
   A61K 33/42 20060101ALI20220531BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220531BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220531BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20220531BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
A61L31/02
A61L31/04 120
A61L31/06
A61L31/14 400
A61L31/14 500
A61L31/16
A61K41/00
A61K33/42
A61K9/70
A61K47/34
A61K47/42
A61P35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020196106
(22)【出願日】2020-11-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)2020年11月11日公開 3rd G’L’owing Polymer Symposium in KANTO Program https://sites.google.com/view/gps-k2020/program (2)2020年11月16日公開 3rd G’L’owing Polymer Symposium in KANTO Abstract Book https://drive.google.com/file/d/1bedIY9UWDgeppFApef9u-CMmopLo_40g/view
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】陳 国平
(72)【発明者】
【氏名】川添 直輝
(72)【発明者】
【氏名】ストリスノ リナワティ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA71
4C076BB32
4C076CC27
4C076EE24A
4C076EE42A
4C076EE43A
4C076EE47A
4C076FF32
4C076GG50
4C081AC16
4C081BA16
4C081CA171
4C081CC01
4C081CC05
4C081CD071
4C081CD081
4C081CD121
4C081CD151
4C081CD171
4C081CD27
4C081CE02
4C081CF21
4C081DA05
4C081DB01
4C081DB06
4C081EA03
4C084AA11
4C084MA11
4C084MA67
4C084NA20
4C084ZB261
4C084ZB262
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA10
4C086HA07
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA11
4C086MA67
4C086NA20
4C086ZB26
(57)【要約】
【課題】 外科手術でがん組織を切除した後に移植、あるいはがん組織に直接被覆するために使用できる黒リンナノシート/生体吸収性高分子複合多孔質材料及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 生体吸収性高分子と黒リンナノシートなどの近赤外線を吸収して発熱するナノ粒子との複合多孔質材料が与えられる。この材料は自由に成型できるために生体内の多様な箇所に埋め込める。また、多孔質であることにより、迅速な生体吸収が起こるとともに、埋め込み箇所に散らばっている細胞を効率よく取り込むことができる。更に、ナノ粒子は生体に吸収される。従って、本材料はがんの周囲あるいはその切除箇所に埋め込んで加熱を行う態様の温熱療法用に好適である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性高分子と、近赤外線照射で発熱する生体吸収性物質とを含有する、複合多孔質材料。
【請求項2】
前記近赤外線照射で発熱する生体吸収性物質は黒リンナノシートである、請求項1に記載の複合多孔質材料。
【請求項3】
前記黒リンナノシートの厚みが1nm~1,000nmの範囲、面積が100nm~100,000μmの範囲である、請求項2に記載の複合多孔質材料。
【請求項4】
前記生体吸収性高分子は、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、細胞成長因子、細胞分化制御因子、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸の共重合体、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(グリセロールセバシン酸)及びこれらの共重合体からなる群から1種類又は2種類以上選択される、請求項1~3の何れかに記載の複合多孔質材料。
【請求項5】
前記生体吸収性高分子は、生体吸収性合成高分子メッシュ体である、請求項1~4の何れかに記載の複合多孔質材料。
【請求項6】
前記生体吸収性合成高分子メッシュ体は、織物、織布、又は不織布である、請求項5に記載の複合多孔質材料。
【請求項7】
孔径が0.1~1,000μmの範囲である空孔を有する、請求項1~6の何れかに記載の複合多孔質材料。
【請求項8】
前記生体吸収性高分子は架橋されている、請求項1に記載の複合多孔質材料。
【請求項9】
前記生体吸収性物質の濃度は、10μg/cm以上5,000μg/cm以下の範囲である、請求項1~8の何れかに記載の複合多孔質材料。
【請求項10】
前記生体吸収性物質の濃度は、200μg/cm以上2,000μg/cm以下の範囲である、請求項9に記載の複合多孔質材料。
【請求項11】
前記黒リンナノシートと前記生体吸収性高分子との重量比が、0.00005~2.5(黒リンナノシート/生体吸収性高分子)の範囲である、請求項2に記載の複合多孔質材料。
【請求項12】
前記黒リンナノシートと前記生体吸収性高分子との重量比が、0.025~0.6(黒リンナノシート/生体吸収性高分子)の範囲である、請求項11に記載の複合多孔質材料。
【請求項13】
外科的な手術でがん組織を除去した部位に埋め込まれ、又はがん組織を直接覆い、外部から近赤外光が照射されることによって発熱し、内部あるいは周囲のがん細胞を殺傷することができる、請求項1~12の何れかに記載の複合多孔質材料。
【請求項14】
生体吸収性物質と近赤外線照射で発熱する生体吸収性高分子とを混合し、多孔質化する工程を包含する、請求項1~13の何れかに記載の複合多孔質材料の製造方法。
【請求項15】
前記多孔質化する工程は、前記生体吸収性物質と前記生体吸収性高分子との混合溶液を凍結乾燥する、請求項14に記載の複合多孔質材料の製造方法。
【請求項16】
空孔形成剤を使用し、空孔を形成する、請求項14又は15に記載の複合多孔質材料の製造方法。
【請求項17】
前記空孔形成剤は氷である、請求項16に記載の複合多孔質材料の製造方法。
【請求項18】
前記多孔質化する工程に続いて、前記生体吸収性物質と前記生体吸収性高分子との複合多孔質材料を架橋する工程を更に包含する、請求項14に記載の複合多孔質材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科手術でがん組織を除去した部位に埋め込まれ、あるいはがん組織を直接覆い、近赤外光を体外から照射されて発熱することにより、多孔質材料内あるいは周囲のがん細胞を死滅に至らしめる多孔質材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がんはあらゆる病気の中で国内第1位の死因を占め、その死亡率は、現在3人に1人である。今後、高齢化社会の進行にともない、この割合は増加すると予測されている。がん治療に対するニーズは極めて高く、これまで様々な治療方法が開発されてきた。現在、手術療法、化学療法、放射線療法ががんの三大療法として知られており、この三大療法に加えて、温熱療法や免疫療法も近年注目されている。
【0003】
がん三大療法のうち、手術療法は最も直接的な方法であり、がん組織を切除し、その周辺組織やリンパ節に転移があればそれらも一緒に切除する。早期のがんや進行がんであっても、切除可能であれば手術療法が積極的に行われている。手術療法には、塊状のがん組織を一気に切除できるというメリットがある。
【0004】
ただし、手術療法では、身体にメスを入れることによって生じる創部の治癒や低下した全身機能の回復にはある程度時間がかかってしまう。更に、切除後の部位を互いに縫い合わせるため、切除した部位が大きくなるにつれて、組織・臓器の機能が低下してしまうという懸念が高まる。そこで最近では、切除する範囲をできるだけ最小限にとどめる手術や、内視鏡による腹腔鏡下・胸腔鏡下手術のように、身体への負担を少なくする手術も行われるようになった。
【0005】
しかし、実際には手術を行ってもかなりの頻度でがんが再発する。これは、現在の画像診断では検出できないがん細胞や微小ながん組織が、手術後も体内に残存してしまうためである。組織・臓器の機能を維持する目的で切除する範囲を小さくすればするほど、がん細胞やがん組織を取り残してしまう可能性が高くなり、再発のリスクが上昇する。
【0006】
手術療法では、取り残したがん細胞や微小ながん組織をどのように治療するかが課題となる。通常、手術後には抗がん剤による治療(化学療法)や放射線療法を併用することが多い。このように、がん治療では複数の治療法を組み合わせて、総合的に治療を進める集学的治療が行われている。
【0007】
がん温熱療法は、がん細胞が正常細胞に比べて熱に弱いという性質に着目して、加熱によりがん細胞を殺傷する方法である。その1つである高周波誘電加温法では、生体を一対の電極の間に置いた後、全身を42℃程度に加温する。しかし、血流による冷却作用のため、がん組織内部の温度は期待するほどには上昇せず、がん組織を完全に殺傷するには至っていない。
【0008】
近赤外光を吸収すると発熱する性質を持つナノ粒子(光熱変換ナノ粒子)をがん組織に取り込ませ、患部に近赤外光を照射してがん細胞を殺傷する光熱療法が注目を集めている。光熱療法では、近赤外線を外部から患部に照射すると、光熱変換ナノ粒子が吸収した光子エネルギーが熱エネルギーに変換される。このとき、この熱エネルギーによって温度が上昇し、その結果、がん細胞が死滅する。光熱変換ナノ粒子として、これまで磁性酸化鉄ナノ粒子や金ナノ粒子が用いられてきた。これらの光熱変換ナノ粒子を注射や点滴によって全身投与し、血流を通じてナノ粒子をがん組織に集積させる。しかしこの方法では、大きながん組織を殺傷するのに十分な量のナノ粒子を集積させるのは難しい。
【0009】
そこで、これらのナノ粒子を多孔質材料と複合化し、外科手術で大きながん組織を切除した後に移植、あるいはがん組織に直接被覆することにより、体外からの磁場の印加や近赤外光の照射によって、がん細胞を効率よく殺傷する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2)。この材料は任意の形状に成型できるので、生体内の多様な箇所に埋め込むことができる。また、多孔質であることにより、埋め込み箇所に散らばっている細胞を効率よく取り込むことができる。
【0010】
しかし、これらのナノ粒子は生体吸収性を持たないので、がん治療後も組織・臓器に残存した場合、治療・検査装置や暖房装置、調理器具などから発生する赤外線や磁場によって、身体の組織・臓器がダメージを受けて機能が低下してしまうことが懸念される。また、がん治療後の組織再生の過程で、多孔質材料に残存しているナノ粒子が組織再生の障害物となってしまう。そこで、非吸収性の光熱変換ナノ粒子のかわりに、生体吸収性を持つ光熱変換ナノ粒子を用いることが考えられる。
【0011】
生体吸収性を持つ光熱変換ナノ粒子として、黒リンナノシートが最近注目されている。黒リンナノシートは、すぐれた生体親和性を持ち、生体内で更にリン酸塩や亜リン酸塩に変化し、生体に吸収される。また、赤外光領域で強い光吸収を示し、発熱する効果を持つので、がん光熱治療への応用が期待される。しかし、遊離状態の黒リンナノシートを注射などで全身投与すると、単球による貪食作用によって急速に消失しやすく、がん組織への集積性が不十分という問題がある。
【0012】
以上のような従来技術の現状から、治療後の組織・臓器の機能低下をできるだけ防ぎつつ、がんの再発を防ぐことは難しい。すなわち、がん組織を手術で切除する範囲を大きくするほど、がん細胞を取り残してしまう可能性は低くなるが、切除した部位や切除部位の大きさによっては臓器の機能が大きく低下してしまう場合がある。逆に、切除する範囲を小さくするほど、がん細胞を取り残してしまう可能性が高くなり、再発のリスクが上昇する。また、通常、手術後には抗がん剤による治療(化学療法)や放射線療法を併用することが多いが、副作用の問題がある。磁性酸化鉄ナノ粒子や金ナノ粒子などの光熱変換ナノ粒子を注射や点滴によって全身投与し、血流を通じてナノ粒子をがん組織に集積させる光熱治療があるが、大きながん組織を殺傷するのに十分なナノ粒子の集積量を確保するのは難しい。これらの光熱変換ナノ粒子を多孔質材料と複合化し、外科手術でがん組織を切除した後に移植、あるいはがん組織に直接被覆することにより、がん細胞を効率よく殺傷する方法が提案されている。しかし、これらのナノ粒子が長期間にわたって組織や臓器に残留すると、治療・検査装置や暖房装置、調理器具などから発生する赤外線や磁場に長時間曝露された場合、組織や臓器が損傷を受けることが懸念される。また、がん治療後に正常組織が再生される過程で、ナノ粒子が組織再生の障害物となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2017-210412号公報
【特許文献2】特開2018-83780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような実情に鑑み、外科手術でがん組織を切除した後に移植、あるいはがん組織に直接被覆するために使用できる黒リンナノシート/生体吸収性高分子複合多孔質材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明による複合多孔質材料は、生体吸収性高分子と、近赤外線照射で発熱する生体吸収性物質とを含有し、これにより上記課題を解決する。
前記近赤外線照射で発熱する生体吸収性物質は黒リンナノシートであってもよい。
前記黒リンナノシートの厚みが1nm~1,000nmの範囲、面積が100nm~100,000μmの範囲であってもよい。
前記生体吸収性高分子は、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、細胞成長因子、細胞分化制御因子、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸の共重合体、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(グリセロールセバシン酸)及びこれらの共重合体からなる群から1種類又は2種類以上選択されてもよい。
前記生体吸収性高分子は、生体吸収性合成高分子メッシュ体であってもよい。
前記生体吸収性合成高分子メッシュ体は、織物、織布、又は不織布であってもよい。
孔径が0.1~1,000μmの範囲である空孔を有してもよい。
前記生体吸収性高分子は架橋されていてもよい。
前記生体吸収性物質の濃度は、10μg/cm以上5,000μg/cm以下の範囲であってもよい。
前記生体吸収性物質の濃度は、200μg/cm以上2,000μg/cm以下の範囲であってもよい。
前記黒リンナノシートと前記生体吸収性高分子との重量比が、0.00005~2.5(黒リンナノシート/生体吸収性高分子)の範囲であってもよい。
前記黒リンナノシートと前記生体吸収性高分子との重量比が、0.025~0.6(黒リンナノシート/生体吸収性高分子)の範囲であってもよい。
外科的な手術でがん組織を除去した部位に埋め込まれ、又はがん組織を直接覆い、外部から近赤外光が照射されることによって発熱し、内部あるいは周囲のがん細胞を殺傷することができてもよい。
本発明による上記複合多孔質材料を製造する方法は、生体吸収性物質と近赤外線照射で発熱する生体吸収性高分子とを混合し、多孔質化する工程を包含し、これにより上記課題を解決する。
前記多孔質化する工程は、前記生体吸収性物質と前記生体吸収性高分子との混合溶液を凍結乾燥してもよい。
空孔形成剤を使用し、空孔を形成してもよい。
前記空孔形成剤は氷であってもよい。
前記多孔質化する工程に続いて、前記生体吸収性物質と前記生体吸収性高分子との複合多孔質材料を架橋する工程を更に包含してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、がん組織の切除部位に複合多孔質材料を移植し、あるいはがん組織を複合多孔質材料で覆うことにより、明確に局限され、しかも任意の形状の領域のみを発熱させることができる。また、場所ごとの発熱量についても、場所ごとに複合多孔質材料の試料量(厚み等)やそこに使用する材料中のナノ粒子(生体吸収性物質)の含有量を変えるなどの処置により、調節可能である。従って、がん組織が複雑な形状の領域に存在する場合や、あるいは熱による損傷が深刻な障害をもたらす部位の近傍に存在する場合であっても、効率的にがん細胞を殺傷することができる。また、多孔質構造により、がん細胞を複合多孔質材料内に侵入せしめることができ、がん細胞を効率的に殺傷することも可能となる。しかも、ナノ粒子は多孔質材料に担持されているため、ナノ粒子がすばやく拡散して光熱効率が低下してしまうことを防ぎ、繰り返しがん組織の切除部位やがん組織を局所的に加熱することが可能である。よって、近赤外光を照射することで、がん組織とがん細胞を繰り返し加熱することにより殺傷することが可能である。また、複合多孔質材料が体内で分解吸収される。
【0017】
更に、それにともなって放出されたナノ粒子はがん細胞に取り込まれ、外科手術で取り残されたがん細胞を殺傷することができる。これにより、手術などにより更に散らばりやすくなったがん細胞を、体内に拡散する前に多孔質材料中に取り込んで、ここで加熱によって殺傷することができるようになる。これらのナノ粒子が長期間にわたって組織や臓器に残留すると、治療・検査装置や暖房装置、調理器具などから発生する赤外線に長時間曝露された場合、組織や臓器に損傷を与えることが懸念される。また、がん治療後に正常組織が再生される過程で、ナノ粒子が組織再生の障害物となり得る。しかしながら、本発明では、ナノ粒子(生体吸収性物質)が生体内の環境では時間とともにリン酸塩や亜リン酸塩に変化し、これらは生体に吸収される。よって、ナノ粒子として特に黒リンナノシートを用いれば、赤外線への曝露による組織や臓器への損傷や、がん治療後に正常組織が修復される過程で、ナノ粒子の残留の影響を懸念する必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1a】100μg/mL黒リンナノシートを含有する4(w/v)%ゼラチン溶液、氷微粒子(255~355μm)を用いて作製した黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料(厚型)内部の走査電子顕微鏡写真。上は多孔質構造、下は空孔壁面を観察したもの。
図1b】200μg/mL黒リンナノシートを含有する4(w/v)%ゼラチン溶液、氷微粒子(255~355μm)を用いて作製した黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料(厚型)内部の走査電子顕微鏡写真。上は多孔質構造、下は空孔壁面を観察したもの。
図2】300μg/mL黒リンナノシートを含有する4(w/v)%ゼラチン溶液、PLGAメッシュを用いて作製した黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料(薄型)内部の走査電子顕微鏡写真(上面像)。上は上面像。
図3】300μg/mL黒リンナノシートを含有する4(w/v)%ゼラチン溶液、PLGAメッシュを用いて作製した黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料(厚型)内部の走査電子顕微鏡写真(上面像)。
図4a】200μg/mL黒リンナノシートを含有する0.5(w/v)%コラーゲン溶液、PLGAメッシュを用いて作製した黒リンナノシート/架橋コラーゲン/PLGA複合多孔質材料(厚型)内部の走査電子顕微鏡写真。上は多孔質構造、下は空孔壁面を観察したもの。
図4b】300μg/mL黒リンナノシートを含有する0.5(w/v)%コラーゲン溶液、PLGAメッシュを用いて作製した黒リンナノシート/架橋コラーゲン/PLGA複合多孔質材料(厚型)内部の走査電子顕微鏡写真。上は多孔質構造、下は空孔壁面を観察したもの。
図5a】150μg/mL黒リンナノシートを含有する0.5(w/v)%コラーゲン溶液、PLGAメッシュを用いて作製した黒リンナノシート/架橋コラーゲン/PLGA複合多孔質材料(薄型)内部の走査電子顕微鏡写真(上面像)。
図5b】200μg/mL黒リンナノシートを含有する0.5(w/v)%コラーゲン溶液、PLGAメッシュを用いて作製した黒リンナノシート/架橋コラーゲン/PLGA複合多孔質材料(薄型)内部の走査電子顕微鏡写真(上面像)。
図5c】300μg/mL黒リンナノシートを含有する0.5(w/v)%コラーゲン溶液、PLGAメッシュを用いて作製した黒リンナノシート/架橋コラーゲン/PLGA複合多孔質材料(薄型)内部の走査電子顕微鏡写真(上面像)。
図6a】黒リンナノシートを含有する4(w/v)%ゼラチン溶液、氷微粒子(255~355μm)を用いて作製した黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料(厚型)、及び架橋ゼラチン多孔質材料(厚型)に近赤外光を照射したときの温度変化(光熱効果)。
図6b】黒リンナノシートを含有する0.5(w/v)%コラーゲン溶液、氷微粒子(255~355μm)を用いて作製した黒リンナノシート/PLGA/架橋コラーゲン複合多孔質材料(厚み1mm)、及びPLGA/架橋コラーゲン多孔質材料(厚型)に近赤外光を照射したときの温度変化(光熱効果)。
図7】ヒトがん細胞株細胞株(MDA-MB-231-Luc)を培養した黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料(厚型)、及び架橋ゼラチン多孔質材料(厚型)に近赤外光を照射したときの細胞生存率。
図8】ヒト悪性メラノーマ細胞株(SK-MEL-28-Luc)を培養した黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料(厚型)、及び架橋ゼラチン多孔質材料(厚型)に近赤外光を照射したときの細胞生存率。
図9】ヒトがん細胞株細胞株(MDA-MB-231-Luc)を培養した黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料(厚型)、及び架橋ゼラチン多孔質材料(厚型)をヌードマウス背中皮下に移植し、近赤外光を照射したときのin vivo化学発光イメージ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0020】
本発明の複合多孔質材料は、生体吸収性高分子と、近赤外線照射で発熱する生体吸収性物質とを含有する。生体吸収性物質は、近赤外線照射によって発熱するため、複合多孔質材料をがん組織の切除部位に移植したり、がん組織を覆ったりすることにより、がん組織を局所的に加熱し、殺傷できる。さらに、複合多孔質材料は、生体吸収性であるため、生体内の環境では時間とともに生体に吸収され、体内に残留することはない。以降では、生体吸収性物質が黒リンナノシートである場合について説明するが、黒リンナノシート以外の近赤外線照射で発熱する生体吸収性物質にも適用できることに留意されたい。
【0021】
黒リンナノシートと生体吸収性合成高分子との複合多孔質材料は、移植部位に応じて必要形状に切断することができる。縦横寸法は適宜定めればよいが、通常一辺は1~150mmで、好ましくは2~100mmである。厚みは0.1~10mmで、好ましくは0.2~5mmである。厚みが0.1mm未満の場合は、多孔質材料が十分な強度を保てず、移植後も破損しやすくなる。厚みが10mmを超えると、細胞が多孔質材料の内部にまで侵入するのが困難になる。また、複合多孔質材料の空孔径は0.1~1,000μm、好ましくは1~800μm程度とするのがよい。気孔率は、通常5~99.9%で、好ましくは20~99.9%である。
【0022】
複合多孔質材料の力学強度を高めるために、複合多孔質材料を生体吸収性の構造材で補強してもよい。生体吸収性の構造材はPLA、PLGA、PGA、PLGA、PCL、PGSのメッシュであってもよいし、多孔質体であってもよい。
【0023】
上記の黒リンナノシートとして、従来公知のものの何れも使用してよい。これらの黒リンナノシートは公知の方法で合成してもよい。市販の黒リンナノシートを用いてもよいし、バルク状の黒リンを溶媒中で超音波処理することによって調製すること(湿式剥離法)も可能である。既報(Jing Li et al.,Chemistry of Materials,30,2742-2749(2018))に従って電気化学的な方法で合成してもよい。
【0024】
上記の黒リンナノシートは、表面修飾していないものでも、表面修飾したものでも何れも利用できる。黒リンナノシートの表面修飾の目的は主に2つあり、1つは、多孔質体の原料である生体吸収性物質の溶液と混合するときに、混合溶液における黒リンナノシートの分散性を向上させるために行われる。もう1つは、黒リンナノシートの生体吸収速度を調整するためである。表面修飾に用いられる分子として、クエン酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリリジン、ポリグルタミン酸、ポリエチレンイミン、アルブミン、ゼラチン、コラーグン、アルブミン、抗体、ポリ乳酸‐グリコール酸共重合体(PLGA)などが挙げられる。これらの分子を1種又は2種以上を組み合わせて用いることが可能である。
【0025】
黒リンナノシートは、厚みが0.1nm~1,000nmの範囲、面積が1nm~1mmの範囲のものを利用できるが、光熱変換効率や溶媒への分散性を考慮すると、望ましいのは厚みが1nm~1,000nmの範囲で、面積が100nm~100,000μmであり、より好ましくは、100nm~10,000μmである。同一シート内での厚みの分布は均一でもよいし、不均一でもよい。シート間の厚み及び面積分布は均一でもよいし、不均一でもよい。
【0026】
黒リンナノシートの濃度は、好ましくは、10μg/cm以上5,000μg/cm以下の範囲である。近赤外光照射による発熱が十分でなく、がん細胞の殺傷効果が著しく小さくなり得る。5,000μg/cmを超えると、黒リンナノシートが凝集し得る。黒リンナノシートの濃度は、より好ましくは、200μg/cm以上2,000μg/cm以下の範囲である。この範囲であれば、できるだけ低濃度の黒リンナノシートでがん細胞を効率的に殺傷する複合多孔質材料を提供できる。なお、黒リンナノシートの濃度は、製造時における、多孔質材料原料溶液における黒リンナノシートの終濃度で見積もってもよい。
【0027】
本発明の複合多孔質材料における黒リンナノシートと生体吸収性高分子との重量比は、好ましくは、多孔質材料調製時の黒リンナノシート/生体吸収性高分子混合溶液において、0.00005~2.5の範囲である。生体吸収性高分子の割合が低すぎると、すべての黒リンナノシートを多孔質材料に担持するのは困難である。生体吸収性高分子の割合が高すぎると、光熱効果による加温効率が低くなる。前記重量比は、更に好ましくは、0.025~0.6の範囲である。なお、複合多孔質材料における黒リンナノシートと生体吸収性高分子との重量比を高精度に求めることは困難であるため、簡易的に、複合多孔質材料の作製に用いた黒リンナノシート/生体吸収性高分子混合溶液における黒リンナノシートの重量と同義とみなす。
【0028】
本発明において好ましく使用される生体吸収性高分子は、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、細胞成長因子、細胞分化制御因子、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸とグリコール酸の共重合体(PLGA)、ポリ(ε‐カプロラクトン)(PCL)、ポリ(グリセロールセバシン酸)(PGS)及びこれらの共重合体である。これらの生体吸収性合成高分子を1種類、あるいは2種類以上の混合であってもよい。
【0029】
本発明において好ましく使用される生体吸収性高分子はゼラチン、コラーゲン、あるいはゼラチンとコラーゲンを主成分とする混合物である。コラーゲンにはI、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X型など29種類が知られているが、本発明においてはこれらの何れも使用でき、これらの誘導体であってもよい。生体吸収性高分子はメッシュ体からなってもよい。これにより、多孔質材料の力学強度を高め、取り扱いを容易にすることを可能にする。メッシュ体は、織物、織布、又は不織布であってよい。
【0030】
本発明の複合多孔質材料の例示的な製造方法を説明する。
本発明の複合多孔質材料は、多孔質材料の生体吸収性高分子原料と黒リンナノシートとを混合してから多孔質化する(多孔質化工程)ことによって製造される。多孔質化工程では、まず生体吸収性高分子の溶液に黒リンナノシートを添加した後、超音波あるいは機械的な捜枠により、黒リンナノシートを生体吸収性物質によく分散させる。この分散液を多孔質材料原料溶液として用いて黒リンナノシートと生体吸収性高分子との複合多孔質材料を作製することができる。
【0031】
ここで、多孔質材料原料溶液における黒リンナノシートの終濃度は、10μg/mL以上5,000μg/mL以下となるように調製される。10μg/mL未満である場合、近赤外光照射による発熱が十分でなく、がん細胞の殺傷効果が著しく小さくなり得る。5,000μg/mLを超えると、黒リンナノシートが凝集沈殿しやすくなり、すべての黒リンナノシートを溶媒に均一に分散させることが困難になる。黒リンナノシートの終濃度は、好ましくは、50μg/mL以上2,000μg/mL以下の範囲に調製される。更に好ましくは、200μg/mL以上1,000μg/mL以下の範囲である。この範囲であれば、できるだけ低濃度の黒リンナノシートでがん細胞を確実に殺傷することができる複合多孔質材料を提供できる。例えば、後述する実施例に示されるように、黒リンナノシートの終濃度が200μg/mL以上300μg/mL以下の範囲であれば、できるだけ低濃度の黒リンナノシートによって、確実にがん細胞を殺傷できることが分かった。
【0032】
上記黒リンナノシートを分散させる溶媒には、純水、純水とエタノールの混合溶媒、酢酸水溶液、酢酸/水/エタノール混合溶媒、希塩酸、及び希塩酸/エタノール混合溶媒、クロロホルム、四塩化炭素、ジオキサン、トリクロロ酢酸、ジメチルホルムアミド、塩化メチレン、酢酸エチル、アセトン、ヘキサフルオロイソプロパノール、ジメチルアセトアミド、ヘキサフルオロ-2-プロパノールなどが挙げられる。望ましい溶媒は、純水、純水とエタノールとの混合溶媒、酢酸水溶液、希塩酸、酢酸/水/エタノール混合溶媒、及び塩酸/エタノール混合溶媒である。pHを調整した溶液のpHは1~6.8で、望ましいpHは2.5~6までである。エタノールと水との体積比(エタノール:水)は1:99~50:50でよいが、望ましくは1:99~20:80である。
【0033】
ここで、多孔質材料原料溶液における前記生体吸収性高分子の終濃度は、生体吸収性高分子が溶媒に溶解すれば任意の濃度とすることができるが、好ましくは、0.2(w/v)%以上20(w/v)%以下となるように調製される。0.2(w/v)%未満である場合は、得られる複合多孔質材料の力学強度が十分ではなく、所定の形状を維持することができない。20(w/v)%を超えると、得られる複合多孔質材料の気孔率が著しく減少し、細胞に供給する栄養物や細胞が排出する老廃物の拡散性が低下する。生体吸収性高分子の終濃度は、より好ましくは0.5(w/v)%~10(w/v)%である。使用される生体吸収性高分子は、上述したとおりであるため、説明を省略する。
【0034】
前記生体吸収性高分子を溶かす溶媒には、純水、純水とエタノールの混合溶媒、酢酸水溶液、希塩酸、酢酸/水/エタノール混合溶媒、及び塩酸/エタノール混合溶媒、クロロホルム、四塩化炭素、ジオキサン、トリクロロ酢酸、ジメチルホルムアミド、塩化メチレン、酢酸エチル、アセトン、ヘキサフルオロイソプロパノール、ジメチルアセトアミド、ヘキサフルオロ-2-プロパノールなどが挙げられる。望ましい溶媒は純水、純水とエタノールとの混合溶媒、酢酸水溶液、希塩酸、酢酸/水/エタノール混合溶媒、及び塩酸/エタノール混合溶媒である。pHを調整した溶液のpHは1~6.8で、望ましいpHは2.5~6までである。エタノールと水との体積比は1:99~50:50でよいが、望ましくは1:99~20:80である。
【0035】
生体吸収性高分子の溶液を調製する際、その生体吸収性高分子が分解、ゲル化しない温度で行われる。通常は1~60℃であるが、望ましくは4~50℃である。
【0036】
多孔質化する方法としては、例えば、前記黒リンナノシートと生体吸収性高分子からなる混合溶液をそのまま凍結乾燥する方法と、空孔形成剤として別途作製した氷微粒子を前記黒リンナノシートと生体吸収性高分子からなる混合溶液に添加し、多孔質化する方法とが挙げられる。そのまま凍結乾燥する方法では、空孔径や空孔の形状は凍結速度や凍結温度に依存し、あらかじめ作製した氷微粒子を用いる方法では、空孔径や空孔の形状は氷微粒子の大きさや形状に依存する。
【0037】
前記黒リンナノシートと生体吸収性高分子からなる混合溶液をそのまま凍結乾燥する方法では、黒リンナノシートと生体吸収性高分子の混合溶液を予備凍結する。その方法としては、例えば、生体吸収性高分子の溶液に黒リンナノシートを添加し、超音波あるいは機械的な撹枠により、黒リンナノシートを生体吸収性高分子によく分散させる。黒リンナノシートを均一に分散させた黒リンナノシートと生体吸収性高分子からなる混合溶液をフリーザーに数時間静置し、凍結する。フリーザーの温度は-1~-100℃で、望ましい温度は-5~-80℃である。凍結時間は1~24時間で、望ましい凍結時間は2~8時間である。
【0038】
あるいは、空孔形成剤としてあらかじめ作製した氷微粒子を前記黒リンナノシートと生体吸収性高分子からなる混合溶液に添加し、多孔質化する方法を使用してもよい。この場合は、まず純水を液体窒素中に噴霧し、氷微粒子を作製する。形成した氷微粒子を低温チャンバー(-15℃)に容器ごと移し、容器内の液体窒素が気化して消失するまで、容器を静置する。その後、大きな目聞きの筋と小さな目聞きの筋とを用いて所定の粒径の氷を飾い分ける。何れの篩もその目開きは公称1~1,000μmで、望ましいのは公称10~8,000μmである。飾い分けた氷微粒子を-4℃の低温チャンバー内に1~6時間静置し、氷微粒子の温度を-4℃で平衡化させる。そして、前記黒リンナノシートと生体吸収性高分子からなる混合溶液を-4℃の低温チャンバーに移し、数十分間静置することによって温度平衡化させる。温度を-4℃にした黒リンナノシートと生体吸収性高分子からなる混合溶液と前記温度を-4℃にした箭い分けた氷微粒子を一定の体積mL対重量gの比率で4℃の低温チャンバー内で混合する。黒リンナノシートと生体吸収性高分子からなる混合溶液と氷微粒子との比率は、体積mL:重量gで99:1~10:90でよいが、望ましい比率(体積mL:重量g)は80:20~30:70である。氷微粒子が黒リンナノシートと生体吸収性高分子からなる混合溶液に均一に分散するようによく撹枠する。この混合物を-20℃で12時間静置した後、更に-80℃で4時間静置することにより、混合物を凍結する。
【0039】
上記2つの方法の何れにおいても、その過程で準備した凍結物を室温、5Pa以下の減圧下で3日間凍結乾燥を行うことにより、黒リンナノシートと生体吸収性高分子との複合多孔質構造を形成させる。
【0040】
前記黒リンナノシートと生体吸収性高分子の複合多孔質材料を架橋することで、多孔質材料の構造を安定させる。ゼラチンやコラーゲンに代表される水溶性生体吸収性高分子を用いた場合には、架橋は特に好ましいが、ポリ乳酸やポリグリコール酸に代表される水不溶性生体吸収性高分子を用いた場合には、架橋は必ずしも必要ではない。
【0041】
架橋方法としては、従来公知のものが何れも使用できる。一般的に蒸気法や溶液法を用いることができる。蒸気法で用いられる架橋剤としては、従来公知のものが何れも使用できる。好ましく使用される架橋剤は、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドのようなアルデヒド類、特にグルタルアルデヒドである。
【0042】
前記蒸気法(気相法)は、上記の架橋剤をガス状にして用いるのが好ましい。具体的には、上記黒リンナノシートと生体吸収性高分子との複合多孔質材料を、一定温度で一定濃度の架橋剤又はその水溶液で飽和した架橋剤蒸気の雰囲気下で一定時間架橋を行う。架橋温度は、上記黒リンナノシートと生体吸収性高分子との複合多孔質材料が溶解せず、かつ架橋剤の蒸気が形成できる範囲内であればよく、通常、20~50℃に設定される。架橋時間は、架橋剤の種類や架橋温度にもよるが、上記黒リンナノシートと生体吸収性高分子との複合多孔質材料の生体吸収性を阻害せず、かつ生体への移植時にこのものが溶解しないような架橋固定化が行われる範囲で行うのが望ましい。好ましい架橋時間は10分から12時間程度である。架橋反応後の黒リンナノシートと生体吸収性高分子との複合多孔質材料を室温で純水に浸潰して洗浄し、これを1回の洗浄として4回以上繰り返す。洗浄後、未反応の活性官能基をブロッキングするため、グリシン水溶液に黒リンナノシートと生体吸収性高分子との複合多孔質材料を室温で数時間浸演する。グリシン水溶液の濃度は0.01~1.0Mで、望ましいのは0.05~0.3Mである。温度は4~37℃で、望ましいのは4~30℃である。時間は1~24時間で、望ましいのは4~12時間である。
【0043】
溶液架橋法では、カルボジイミド、アルデヒド類、あるいはエポキシ類などの架橋剤とN‐ヒドロキシコハク酸イミドなどの活性化剤を用いて架橋する。未架橋の黒リンナノシートと生体吸収性高分子との複合多孔質材料は水に溶解してしまうので、これらの架橋剤をエタノールと水の混合溶媒に溶解させ、数段階にかけて架橋する。各段階の混合溶媒のエタノール対水の割合は異なり、最初の段階から最終段階までエタノール対水の割合は高いほうから低いほうに変える。エタノール/水の割合は1/99~99/1までである。架橋温度は4~40℃で、望ましくは室温である。架橋剤の濃度は5~500mMで、望ましくは10~100mMである。活性化剤の濃度は5~500mMで、望ましくは10~100mMである。最後の架橋反応後の黒リンナノシートと生体吸収性高分子との複合多孔質材料を室温で純水に浸潰して洗浄し、これを1回の洗浄として4回以上繰り返す。洗浄後未反応の活性官能基をブロックするため、グリシン水溶液に黒リンナノシートと生体吸収性高分子との複合多孔質材料を室温で数時間浸潰する。このとき、グリシン水溶液の濃度は0.01~1.0Mで、望ましいのは0.05~0.3Mである。反応温度は1~37℃で、望ましくは4~30℃である。反応時間は1~24時間で、望ましくは4~12時間である。
【0044】
上記の複合多孔質材料を30分間純水での洗浄を3回以上繰り返す。洗浄後、5Pa以下の減圧下で48時間凍結乾燥を行い、目的の黒リンナノシートと生体吸収性高分子との複合多孔質材料を得る。
【0045】
黒リンナノシートを含有する複合多孔質材料に対して外部から近赤外光を照射すると、黒リンナノシートは発熱し、がん細胞とがん組織を殺傷することができる。必要に応じて前記外部刺激を繰り返し与え、黒リンナノシートを繰り返し発熱させることにより、がん細胞やがん組織への殺傷効果を高められると期待される。また、複合多孔質材料の基材である生体吸収性高分子は、多孔質であることから体内で急速に分解・吸収され、それにともなって黒リンナノシートが放出される。そして、黒リンナノシートは周囲の細胞に取り込まれ、周囲のがん細胞を殺傷することも可能である。これにより、がん組織とがん細胞を効率よく殺傷することが期待される。また、このような複合多孔質材料は、外部からの電気的な配線やあるいは加熱流体などの供給のための配管の接続なしで、複合体内部やその近傍部位を温熱療法に適した温度まで昇温させ、またその温度を所望の時間だけ維持することができる。更に、本発明に係る複合多孔質材料では、その周囲に存在する細胞を孔の中に効率よく取り込み、またそれを加熱することができる。従って、例えば手術後に切除箇所の近傍に残留したがん細胞を捕捉・殺傷することもできる。
【0046】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0047】
[実施例1] 黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料(厚型、空孔形成剤使用)
まず、黒リンナノシートの分散液、ゼラチン溶液、及び氷微粒子をそれぞれ調製した。次に、これらを混合し、凍結乾燥することによって、多孔質構造を得た。更に、架橋反応によってゼラチン分子を架橋した。
【0048】
まず、黒リンナノシートを調製するために、まず少量の溶媒の存在下でバルク状の黒リンを機械的に破砕した後、続いて大量の溶媒中で超音波破砕する方法(溶媒剥離法)を用いた。具体的には、アルゴンガスで置換したドライボックス中で、バルク状の黒リン100mgをメノウ鉢に入れ、機械的に破砕した。次に、無水N-メチルピロリドン(NMP)2mLを加えながら更に機械的に破砕した。続いて、この黒リン粉砕物をナノシート化するために、98mLのNMPにアルゴンガスを吹き込み、溶存酸素を置換した。ここに前記黒リン粉砕物を加え、アルコンガス雰囲気下、フラスコを氷冷しながら出力650Wのプローブ型超音波装置を用いて24時間超音波処理を行った。続いて、超音波バス(300W)で12時間処理した。その後、0℃、4,000rpmで15分間遠心分離を行い、ナノシート化しなかった黒リンを沈殿させた。上澄みを回収し、0℃、20,000rpmで45分間遠心分離を行い、ナノシート化した黒リンを沈殿させた。この黒リンナノシート沈殿物を純水で3回洗浄した後、70%(v/v)酢酸を加え、黒リンナノシートの濃度が200μg/mL、400μg/mLとなるよう分散液を調製した。黒リンナノシートの重量濃度は誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を用いて、リン元素の重量をもとに決定した。他方、ブタ由来type Aゼラチンを70%(v/v)酢酸に溶かし、8(w/v)%の溶液を調製した。
【0049】
空孔形成剤である氷微粒子を作製するため、純水300mLを液体窒素10Lに噴霧することによって、微小水滴を凍結させた。この凍結物を-15℃の低温チャンバーに移し、そのまま約2時間静置することによって、液体窒素を気化させた。次に、低温チャンバー(-15℃)内で公称目開き355μmの篩と公称目開き255μmの篩を用いて、直径255~355μmの氷微粒子をふるい分けた。低温チャンバー内の温度を-4℃に変更し、前記氷微粒子を2時間静置し、温度平衡化した。
【0050】
4℃のチャンバー内で、前記黒リンナノシート溶液と前記ゼラチン溶液を1:1の体積比で混合し、混合溶液のゼラチンの濃度を4.0(w/v)%、黒リンナノシートの濃度を100μg/mL又は200μg/mLにした。このとき、溶液を均一に混合するために、超音波(300W)を1回あたり2分間ずつ、3回照射した。得られた黒リンナノシート/ゼラチン混合溶液を-4℃の低温チャンバー内で1時間静置し、温度を平衡化させた。この黒リンナノシート/ゼラチン混合溶液と氷微粒子を-4℃の低温チャンバー内で容積対重量比3:7となるよう混合した。このとき、氷微粒子が黒リンナノシート/ゼラチン混合溶液に均一に分散するようによく撹拌した。続いて、この黒リンナノシート/ゼラチン/氷微粒子の混合物を、あらかじめ-4℃に冷却しておいたシリコーンゴム型枠(内寸82mm×72mm×厚み2mm)に充填した。この混合物を-30℃で12時間静置した後、更に-80℃で6時間静置することにより、混合物を凍結させた。この凍結物を室温、5Pa以下の減圧下で3日間凍結乾燥を行うことにより、多孔質構造を形成させた。
【0051】
その後、下記3段階の工程に分けて逐次的に架橋反応を行った。まず、黒リンナノシート/ゼラチン複合多孔質材料を99.5%のエタノールで洗浄(30分間×10回)した。架橋反応の工程において、ゼラチンが溶解するのを防ぎながら、架橋反応の効率を高めるために、エタノールの濃度を段階的に下げた3種類のエタノール水溶液(エタノール/水(v/v)=95/5、90/10、85/15)を用いた。第1段階の架橋反応工程では、エタノール/水(95/5、v/v)30mLに2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)0.03gを撹拌しながら加え、そのまま1~2時間撹拌した。このMES溶液に0.288gの1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC、終濃度50mM)及び0.069gのN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS、終濃度20mM)を加えて室温で10分間撹拌することにより、第1段階の架橋反応溶液を調製した。この第1段階の架橋反応溶液に、前記黒リンナノシート/ゼラチン複合多孔質材料を室温で8時間浸漬することによって、第1段階の架橋反応を行った。第2段階の架橋反応工程では、エタノール/水(90/10、v/v)30mLに0.03gのMESを撹拌しながら加えた。このMES溶液に0.288gのEDC及び0.069gのNHSを加えて10分間撹拌することにより、第2段階の架橋反応溶液を調製した。この第2段階の架橋反応溶液に、第1段階の架橋反応後の黒リンナノシート/ゼラチン複合多孔質材料を室温で8時間浸漬し、第2段階の架橋反応を行った。第3段階の架橋反応工程では、エタノール/水(85/15、v/v)30mLに0.03gのMESを撹拌しながら加え、そのまま1~2時間撹拌した。このMES溶液に0.288gのEDC及び0.069gのNHSを加えて10分間撹拌することにより、第3段階の架橋反応溶液を調製した。この第3段階の架橋反応溶液に、第2段階の架橋反応後の黒リンナノシート/ゼラチン複合多孔質材料を室温で8時間浸漬して、第3段階の架橋反応を行った。最後の架橋反応後の黒リンナノシート/ゼラチン複合多孔質材料を室温で1時間純水に浸漬し、これを1回の洗浄として8回繰り返した。続いて、0.1Mグリシン水溶液に室温で8時間浸漬した後、純水での洗浄(1時間/回)を8回繰り返した。洗浄後、5Pa以下の減圧下で48時間凍結乾燥を行い、黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料を得た。以下、簡単のため、本複合多孔質材料をBP100/Gel(厚型)、BP200/Gel(厚型)と略記する。ここで、BPは黒リンナノシート、BPに続く数字は黒リンナノシートの仕込み濃度(μg/mL)、Gelはゼラチンを表す。
【0052】
[実施例1]で得られた黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料を走査電子顕微鏡で観察し、図1(a)、(b)に示す像を得た。多孔質構造の観察像から、何れも氷微粒子のサイズと形状を反映した球面状の空孔構造及び球状の空孔を連通する空隙が存在することが分かった。これらの空孔の周りには、ゼラチン溶液が凍結することによって形成された無数の空孔が観察された。(a)、(b)間で、空孔形状、空孔径及び空孔の連通性の違いは見られなかった。よって、黒リンナノシートは、複合多孔質材料の空孔形状・径及び空孔の連通性には影響しなかった。他方、空孔壁面の観察像から、表面の粗さは(a)、(b)の順に大きくなり、この結果は、黒リンナノシートが架橋ゼラチン多孔質材料に導入されたことを示唆している。
【0053】
[実施例2] 黒リンナノシート/PLGAメッシュ/架橋ゼラチン複合多孔質材料(薄型、空孔形成剤不使用)
まず、[実施例1]の方法を用いて、バルク状の黒リンをナノシート化した。この黒リンナノシートを純水で3回洗浄した後、純水を加え、黒リンナノシートの濃度が300、400、600μg/mLとなるよう分散液を調製した。他方、ブタ皮膚ゼラチン(type A)を50℃の純水に溶かし、8(w/v)%ゼラチン水溶液を調製した。その後、前記黒リンナノシート水溶液及び前記8(w/v)%ゼラチン水溶液の温度を40℃に調節した。黒リンナノシート水溶液とゼラチン水溶液を1:1の体積比で混合し、黒リンナノシート/ゼラチン混合溶液の黒リンナノシートの濃度を150、200、300μg/mL、ゼラチンの濃度を4.0(w/v)%にした。室温で、ガラス板の表面をラップフィルムで覆い、その上にPLGAメッシュ(商品名バイクリル(登録商標)メッシュニットタイプ、ジョンソン・エンド・ジョンソン社)(寸法80mm×55mm×厚み0.2mm)を敷き、前記黒リンナノシート/ゼラチン混合溶液を滴下した。その液滴をガラス棒で引き延ばし、黒リンナノシート/ゼラチン混合溶液が満遍なくPLGAメッシュの空隙を満たすようにした。過剰量の黒リンナノシート/ゼラチン混合溶液はガラス棒を転がして取り除いた。その後、-80℃で6時間静置することにより、凍結させた。凍結物を室温、5Pa以下の減圧下で3日間凍結乾燥を行うことにより、黒リンナノシート/PLGAメッシュ/ゼラチン複合多孔質材料を形成させた。その後、[実施例1]に示した方法を用いて架橋反応を行い、黒リンナノシート/PLGAメッシュ/架橋ゼラチン複合多孔質材料を得た。以下、簡単のため、本複合多孔質材料をBP150/PLGA/Gel(薄型)、BP200/PLGA/Gel(薄型)、BP300/PLGA/Gel(薄型)と略記する。
【0054】
[実施例2]で得られた黒リンナノシート/PLGAメッシュ/架橋ゼラチン複合多孔質材料(薄型)のうち、BP300/PLGA/Gel(薄型)を走査電子顕微鏡で観察し、図2に示す像を得た。PLGAメッシュの空隙の部分にクモの巣状のゼラチンマイクロスポンジが形成され、スポンジの各空孔は連通していること、ゼラチンマイクロスポンジはPLGAメッシュのファイバーと絡み合い、複合体を形成していることが分かった。
【0055】
[実施例3] 黒リンナノシート/PLGAメッシュ/架橋ゼラチン複合多孔質材料(厚型、空孔形成剤不使用)
まず、[実施例1]の方法を用いて、バルク状の黒リンをナノシート化した。この黒リンナノシートを純水で3回洗浄した後、純水を加え、黒リンナノシートの濃度が300、400、600μg/mLとなるよう分散液を調製した。他方、ブタ皮膚ゼラチン(type A)50℃の純水に溶かし、8(w/v)%ゼラチン水溶液を調製した。その後、前記黒リンナノシート水溶液及び前記8(w/v)%ゼラチン水溶液の温度を40℃に調節した。黒リンナノシート水溶液とゼラチン水溶液を1:1の体積比で混合し、黒リンナノシート/ゼラチン混合溶液の黒リンナノシートの濃度を150、200、300μg/mL、ゼラチンの濃度を4.0(w/v)%にした。室温で、ガラス板の表面をラップフィルムで覆い、その上にPLGAメッシュ(寸法25mm×25mm×厚み0.2mm)を敷き、その上に黒リンナノシート/ゼラチン混合溶液を滴下した。続いてこのPLGAメッシュ上にシリコーンゴム製の型枠(内寸20mm×20mm×厚み3mm)を置き、型枠内に前記黒リンナノシート/コラーゲン混合溶液を流し込んだ。ガラス棒で液面を平らにした後、ラップフィルムで覆ったガラス板を被せた。-80℃で6時間静置することで凍結させた後、凍結物を取り出した。この凍結物を室温、5Pa以下の減圧下で3日間凍結乾燥を行うことにより、多孔質構造を形成させた。その後、[実施例1]に示した方法を用いて架橋反応を行い、黒リンナノシート/PLGAメッシュ/架橋ゼラチン複合多孔質材料を得た。以下、簡単のため、本複合多孔質材料をBP150/PLGA/Gel(厚型)、BP200/PLGA/Gel(厚型)、BP300/PLGA/Gel(厚型)と略記する。
【0056】
[実施例3]で得られた黒リンナノシート/PLGAメッシュ/架橋ゼラチン複合多孔質材料(厚型)のうち、BP300/PLGA/Gel(厚型)を走査電子顕微鏡で観察した。図3に示すように連通した空孔構造が観察された。
【0057】
[実施例4] 黒リンナノシート/PLGAメッシュ/架橋コラーゲン複合多孔質材料(厚型、空孔形成剤不使用)
まず、[実施例1]の方法を用いて、バルク状の黒リンをナノシート化した。この黒リンナノシートを純水で3回洗浄した後、酢酸水溶液(pH3.0)に分散させ、黒リンナノシートの濃度が400、600μg/mLの溶液を調製した。他方、ブタ由来I型コラーゲンを4℃の酢酸水溶液(pH3.0)に溶かし、1.0(w/v)%のコラーゲン水溶液を調製した。4℃のチャンバー内で、前記黒リンナノシート溶液と前記コラーゲン水溶液を1:1の体積比で混合し、混合溶液の黒リンナノシート濃度を200、300μg/mL、コラーゲン濃度を0.5(w/v)%にした。4℃のチャンバー内で、ガラス板の表面をラップフィルムで覆い、その上にPLGAメッシュ(寸法85mm×60mm×厚み0.2mm)を敷き、前記黒リンナノシート/コラーゲン混合溶液を滴下した。その液滴をガラス棒で引き延ばし、混合溶液が満遍なくPLGAメッシュの空隙を満たすようにした。その後、このPLGAメッシュの上にシリコーンゴム製の型枠(内寸80mm×55mm×厚み1mm)を置き、その内側に前記黒リンナノシート/コラーゲン混合溶液を流し込んだ後、ガラス棒で溶液の表面をならした。更に、ラップフィルムで覆ったガラス板を被せた。続いて、-80℃で6時間静置することで凍結させた後、凍結物を取り出した。この凍結物を室温、5Pa以下の減圧下で3日間凍結乾燥を行うことにより、多孔質構造を形成させた。その後、[実施例1]に示した方法を用いて架橋反応を行い、黒リンナノシート/PLGAメッシュ/架橋コラーゲン複合多孔質材料を得た。以下、簡単のため、本複合多孔質材料をBP200/PLGA/Col(厚型)、BP300/PLGA/Col(厚型)と略記する。
【0058】
[実施例4]で得られた黒リンナノシート/PLGAメッシュ/架橋コラーゲン複合多孔質材料(厚型)を走査電子顕微鏡で観察し、図4(a)、(b)に示す像を得た。低倍率像から、コラーゲン溶液が凍結することによって形成された無数の空孔が観察された。(a)、(b)間で、空孔形状・径及び空孔の連通性の違いは見られなかった。よって、黒リンナノシートは、複合多孔質材料の空孔形状・径及び空孔の連通性には影響しなかった。他方、高倍率像から、表面の粗さは(a)、(b)の順に大きくなった。この結果は、黒リンナノシートがPLGAメッシュ/架橋コラーゲン複合多孔質材料に導入されたことを示唆している。以上より、黒リンナノシート/PLGAメッシュ/架橋コラーゲン複合多孔質材料(厚型)が作製できた。
【0059】
[実施例5] 黒リンナノシート/PLGAメッシュ/架橋コラーゲン複合多孔質材料(薄型、空孔形成剤不使用)
まず、[実施例1]の方法を用いて、バルク状の黒リンをナノシート化した。この黒リンナノシートを純水で3回洗浄した後、酢酸水溶液(pH3.0)に分散させ、黒リンナノシートの濃度が300、400、600μg/mLの溶液を調製した。他方、ブタ由来I型コラーゲンを4℃の酢酸水溶液(pH3.0)に溶かし、1.0(w/v)%のコラーゲン水溶液を調製した。4℃のチャンバー内で、前記黒リンナノシート溶液と前記1.0(w/v)%コラーゲン水溶液を1:1の体積比で混合し、混合溶液の黒リンナノシートの濃度を150、200、300μg/mL、コラーゲンの濃度を0.5(w/v)%にした。前記チャンバー内で、ガラス板の表面をラップフィルムで覆い、その上にPLGAメッシュ(寸法80mm×55mm×厚み0.2mm)を敷き、前記黒リンナノシート/コラーゲン混合溶液を滴下した。その液滴をガラス棒で引き延ばし、混合溶液が満遍なくPLGAメッシュの空隙を満たすようにした。過剰量の混合溶液はガラス棒を転がして取り除いた。続いて、-80℃で6時間静置することにより、凍結させた。室温、5Pa以下の減圧下で3日間凍結乾燥を行うことにより、多孔質構造を形成させた。更に、[実施例1]に示した方法を用いて架橋反応を行い、黒リンナノシート/PLGAメッシュ/架橋コラーゲン複合多孔質材料を得た。以下、簡単のため、本複合多孔質材料をBP150/PLGA/Col(薄型)、BP200/PLGA/Col(薄型)、BP300/PLGA/Col(薄型)と略記する。
【0060】
[実施例5]で得られた黒リンナノシート/PLGAメッシュ/架橋コラーゲン複合多孔質材料(薄型)を走査電子顕微鏡で観察し、図5(a)~(c)に示す像を得た。何れも、PLGAメッシュの空隙の部分にクモの巣状のコラーゲンマイクロスポンジが形成され、スポンジの各空孔は連通していること、コラーゲンマイクロスポンジはPLGAメッシュのファイバーと絡み合っていることが分かった。
【0061】
[実施例6] 近赤外レーザーの照射による黒リンナノシート含有複合多孔質材料の発熱効果
本実施例では、[実施例1]及び[実施例4]で作製した黒リンナノシート含有複合多孔質材料の光熱効果を調べた。[実施例1]及び[実施例4]で作製した黒リンナノシート含有複合多孔質材料を直径6mmのディスク状に切断した。ネガティブコントロールとして、黒リンナノシート不含の多孔質材料も直径6mmのディスク状に切断した。次に、前記[実施例1]及びそのネガティブコントロールの多孔質材料をそれぞれ57μL(多孔質材料の見かけの体積)のL-15培地を含侵させ、波長805nm、出力密度2.0Wcm-2の近赤外レーザー光をそれぞれ10分間照射した。その間、10秒おきにサンプル温度をデジタル温度計で測定した。同様に、[実施例4]及びそのネガティブコントロールの多孔質材料をそれぞれ28μL(多孔質材料の見かけの体積)のMEM培地を含侵させ、近赤外レーザー光を照射ながら、サンプル温度を測定した。
【0062】
結果を図6に示す。図6aから分かるように、照射開始3分後には、黒リンナノシートを含有するBP100/Gel(厚型)、BP200/Gel(厚型)は、黒リンナノシート不含の多孔質材料Gel(ネガティブコントロール)よりも高い温度に到達することが分かった。同様に、図6bから分かるように、照射開始3分後には、黒リンナノシートを含有するBP200/PLGA/Col(厚型)、BP300/PLGA/Col(厚型)は、黒リンナノシート不含の多孔質材料PLGA/Col-1(ネガティブコントロール)よりも高い温度に到達することが分かった。更に、近赤外レーザー光照射中の複合多孔質材料の温度は、黒リンナノシート濃度の増加とともに上昇することが確認された。がんの温熱療法で必要とされる温度である42.5℃以上に、照射3分以内に加熱することができた。これに対して、黒リンナノシートと複合化していない多孔質材料では、近赤外レーザー光を10分間照射しても42.5℃には到達しなかった。よって、黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料及び黒リンナノシート/PLGAメッシュ/架橋コラーゲン複合多孔質材料の光熱効果がそれぞれ確認された。生体内で前記複合多孔質材料を加熱する方法として、近赤外レーザー光を用いることは可能なので、本発明の複合多孔質材料はがんの温熱療法に好適である。
【0063】
[実施例7] 黒リンナノシート複合多孔質材料によるヒト乳腺がん細胞株(MDA-MB-231-Luc)のin vitro光熱殺傷効果
本実施例では、[実施例1]で作製した黒リンナノシート含有複合多孔質材料によるヒト乳腺がん細胞に対するin vitro殺傷効果を調べた。まず、[実施例1]で作製した黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料(厚型)と、ネガティブコントロールとして黒リンナノシート不含の架橋ゼラチン複合多孔質材料(厚型)をそれぞれ直径6mmのディスク状に切断した。次に、このディスク状の多孔質材料にヒト乳腺がん細胞株(MDA-MB-231-Luc)を2×10個ずつ播種し、24時間培養した。培養後、波長805nm、出力密度2.0Wcm-2の近赤外光を最長10分間照射した後、公知のWST-1法を用いて細胞生存率を測定した。
【0064】
図7にWST法で細胞生存率を示す。ここで、BP100/Gel(厚型)、BP200/Gel(厚型)は、それぞれ[実施例1]で作製した黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料を、Gel(厚型)は黒リンナノシート不含の架橋ゼラチン複合多孔質材料を表す。近赤外光を照射した場合、黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料では、照射時間が長いほど細胞生存率は低下した。更に、複合多孔質足場材料における黒リンナノシートの含有率が高いほど、細胞生存率は顕著に低下した。これに対して、黒リンナノシート不含の架橋ゼラチン複合多孔質材料(コントロール)では、10分間照射しても細胞生存率は有意には低下しなかった。よって、黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料は、光熱効果によってヒト乳がん細胞株(MDA-MB-231-Luc)を殺傷する効果を持つことが示された。また、近赤外光照射を照射しなかった場合、黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料、架橋ゼラチン多孔質材料ともに同程度の細胞生存率を示した。このことから、複合多孔質材料に導入された黒リンナノシートは、MDA-MB231-Luc細胞に毒性を示さないことも分かった。
【0065】
[実施例8] 黒リンナノシート複合多孔質材料によるヒト悪性メラノーマ細胞株(SK-MEL-28-Luc)のin vitro光熱殺傷効果
本実施例では、[実施例4]で作製した黒リンナノシート/架橋コラーゲン複合多孔質材料によるヒト悪性メラノーマ細胞に対するin vitro殺傷効果を調べた。まず、[実施例4]で作製した黒リンナノシート/PLGAメッシュ/架橋コラーゲン複合多孔質材料(厚型)と、ネガティブコントロールとして作製した黒リンナノシート不含のPLGAメッシュ/架橋コラーゲン複合多孔質材料(厚型)をそれぞれ直径6mmのディスク状に切断した。次に、このディスク状の多孔質材料にヒト悪性メラノーマ細胞株(SK-MEL-28-Luc)をそれぞれ2×10個ずつ播種し、3日間培養した。波長805nm、出力密度2.0Wcm-2の近赤外光を10分間照射した後、公知のWST-1法を用いて細胞生存率を測定した。
【0066】
図8にWST法で細胞生存率を評価した結果を示す。ここで、BP200/PLGA/Col(厚型)、BP300/PLGA/Col(厚型)は、それぞれ[実施例4]で作製した黒リンナノシート/PLGAメッシュ/架橋コラーゲン複合多孔質材料(厚型)を、PLGA/Col(厚型)は黒リンナノシート不含のPLGAメッシュ/架橋コラーゲン複合多孔質材料(厚型)を表す。近赤外光を照射した場合、黒リンナノシート/架橋コラーゲン複合多孔質材料では、照射時間が長いほど細胞生存率は低下した。更に、複合多孔質足場材料における黒リンナノシートの含有率が高いほど、細胞生存率は顕著に低下した。これに対して、黒リンナノシート不含のPLGAメッシュ/架橋コラーゲン複合多孔質材料(厚型)では、10分間照射しても細胞生存率は有意には低下しなかった。よって、黒リンナノシート/架橋コラーゲン複合多孔質材料は、光熱効果によってヒト悪性メラノーマ細胞株(SK-MEL-28-Luc)を殺傷する効果を持つことが示された。また、近赤外光照射を照射しなかった場合、黒リンナノシート/架橋コラーゲン複合多孔質材料、架橋ゼラチン多孔質材料ともに同程度の細胞生存率を示した。このことから、複合多孔質材料に導入された黒リンナノシートは、SK-MEL-28-Luc細胞に毒性を示さないことも分かった。
【0067】
[実施例9] 黒リンナノシート複合多孔質材料によるヒト乳腺がん細胞株(MDA-MB-231-Luc)のin vivo光熱殺傷効果
本実施例では、[実施例1]で作製した黒リンナノシート含有複合多孔質材料によるヒト乳腺がん細胞に対するin vivo殺傷効果を調べた。まず、[実施例1]で作製した黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料(厚型)と、ネガティブコントロールとして黒リンナノシート不含の架橋ゼラチン複合多孔質材料(厚型)をそれぞれ直径6 mmのディスク状に切断した。次に、このディスク状の多孔質材料にヒト乳腺がん細胞株(MDA-MB-231-Luc)を2×10個ずつ播種し(Day0とする)、3日間生体外で培養した。続いて、前記培養物を全身麻酔下のヌードマウス背中皮下に、1匹のマウスあたり1個ずつ埋植した。12時間後、埋植部位の皮膚の上から近赤外レーザー光(805nm、出力密度2.0Wcm-2)を10分間照射した。その12時間後に1回、更に12時間後に1回、同じ条件で、合計3回照射した。その後(Day5)D-ルシフェリンを前記マウスの腹腔内に注射し、その10分後にin vivo化学発光イメージングを行った。
【0068】
図9にin vivo化学発光イメージングの結果を示す(n=3)。ここで、BP100/Gel、BP200/Gelは、それぞれ[実施例1]で作製した黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料を、Gelは黒リンナノシート不含の架橋ゼラチン複合多孔質材料を表す。近赤外光を照射した場合、BP100/Gel(厚型)では、未照射の場合に比べて発光領域のサイズが小さくなっていた。更に、BP200/Gel(厚型)では発光領域は観察されなかった。また、Gel(厚型)では、近赤外光を照射した場合も未照射の場合も、発光領域のサイズに明らかな差は観察されなかった。よって、黒リンナノシート/架橋ゼラチン複合多孔質材料は、光熱効果によってヒト乳がん細胞株(MDA-MB-231-Luc)をin vivoで殺傷する効果を持つことが示された。なお、近赤外光照射を照射しなかった場合、BP100/Gel(厚型)、BP200/Gel(厚型)、及びGel(厚型)は、同程度の発光領域サイズを示した。このことから、複合多孔質材料に導入された黒リンナノシートは、MDA-MB231-Luc細胞に毒性を示さないことも分かった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の複合多孔質材料は、がん組織の切除部位に移植される、または、がん組織を覆うことにより、近赤外光の照射によってがん組織およびがん細胞を死滅させることができるだけでなく、がん細胞を多孔質内に侵入させることができるので、がん細胞を効率的に死滅させることができる。しかも、黒リンナノシートは多孔質材料に担持されているため、黒リンナノシートがすばやく拡散して光熱効率が低下してしまうことを防ぎ、繰り返しがん組織の切除部位やがん組織を局所的に加熱することが可能である。本発明の複合多孔質材料を用いれば、がん治療後の組織・臓器の機能低下をできるだけ防ぎつつ、がんの再発を防ぐのに役立つ。更に、がん治療後に黒リンナノシートが残留しない。よって、本発明の複合多孔質材料は、がんの治療に極めて有効である。
図1a
図1b
図2
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図5c
図6a
図6b
図7
図8
図9