(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084357
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】酸化グラフェン層を有する複合半透膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/76 20060101AFI20220531BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20220531BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20220531BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
B01D71/76
B01D71/02
B01D69/10
B01D69/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020196188
(22)【出願日】2020-11-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトのアドレス http://www3.scej.org/meeting/stu22w/index.html http://www3.scej.org/meeting/stu22w/abst/J11.pdf 掲載日:令和2年2月17日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス https://maku-jp.sakura.ne.jp/nenkai/42/ https://maku-jp.sakura.ne.jp/nenkai/42/42_all.pdf 掲載日:令和2年5月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100222760
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 綾
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀人
(72)【発明者】
【氏名】中川 敬三
(72)【発明者】
【氏名】久保田 昇
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006MA01
4D006MA03
4D006MA09
4D006MA31
4D006MB16
4D006MC05X
4D006MC09
4D006MC48
4D006NA44
4D006NA49
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB08
4D006PC41
(57)【要約】
【課題】水系液及び有機系液のどちらの液体の処理(分離、精製、濃縮等の処理)にも有用な、新しい半透膜を提供する。
【解決手段】ポリケトン樹脂を含む多孔性基材膜上に酸化グラフェン層を有する、複合半透膜。酸化グラフェン層中にアミン化合物が含有されていることが、特に好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリケトン樹脂を含む多孔性基材膜上に酸化グラフェン層を有する、複合半透膜。
【請求項2】
前記酸化グラフェン層がアミン化合物を含む、請求項1に記載の複合半透膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化グラフェン層を有する複合半透膜に関する。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜(RO膜)及びナノフィルター膜(NF膜)は、低分子量領域での分子篩機能(半透膜機能)を持つ分離膜として、海水の淡水化、排水の浄化、低分子量有価物の精製や濃縮等の水系の液処理に広く使われている。これらRO膜及びNF膜は、1960年代に発明された酢酸セルロースより成る非対称膜(俗に言う、Loeb膜)に起源を持つ。その後多くの改良が為され、現在では、ポリサルホン等の高強度樹脂より成る多孔性膜(限外濾過領域の孔径を持つ膜)を基材膜とし、その表面に界面重合法により形成された緻密なポリアミド層(低分子領域の分子篩機能を持つ)を持つ、複合半透膜が主流である。
【0003】
膜分離の良さは、液体は液体のまま、気体は気体のまま、相変化(気体⇔液体⇔固体)を経ずに物質の分離ができる点にある。この点のため、膜分離は、相変化を伴う既存の分離技術(蒸留技術、再結晶技術等)に比べ、エネルギーロスの少ない分離技術であり、地球の持続的発展に重要な技術である。これらの観点より、水系で成功してきたRO膜やNF膜等技術(例えば海水淡水化は、以前は蒸留法が主流であったが、現在ではRO膜法が主流に変わり、消費エネルギーの低減に寄与している)を、有機液系にも適用して行こうという動きがある(非特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
しかしながら、水系で利用されているRO膜やNF膜は有機液系では強度の面(例えば基材膜であるポリスルホン多孔膜が有機液で溶解する等)、及び分離性能の面(例えば有機液中での膨潤や有機液との相互作用等)で、有機液系への適用には難がある。水系及び有機液系のどちらにも適用できる半透膜が存在すれば、膜の適用範囲の拡大(エネルギーロスの少ない分離技術の拡大)に有用と考えられる。
【0005】
なお、膜素材技術の進歩は著しく、耐有機液性に優れるポリケトン素材の膜も報告されている(特許文献1~3)。また、新しい分離機能素材(分子篩機能素材)として、耐有機液性も期待可能な酸化グラフェン素材の研究も為されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-144390号公報
【特許文献2】特開2002-348401号公報
【特許文献3】特開平2-4431号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】D.S.Sholl and R.P.Lively, Nature, 532 (2016) 435-438
【非特許文献2】A.G.Livingston et al., Chemical Reviews, 114 (2014) 10735-10806
【非特許文献3】G. Liu, W. Jin and N. Xu, Chemical Society Reviews, 44 (2015) 5016-5030
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水系液及び有機系液のどちらの処理(分離、精製、濃縮等の処理)にも有用な、新しい複合半透膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究し実験を重ねた結果、以下の構成により、上記の課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0010】
<<態様1>>ポリケトン樹脂を含む多孔性基材膜上に酸化グラフェン層を有する、複合半透膜。
<<態様2>>前記酸化グラフェン層がアミン化合物を含む、態様1に記載の複合半透膜。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水系、有機液系どちらの処理にも有用な複合半透膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例2で作製した、本発明による複合半透膜の膜断面(酸化グラフェン層近傍)の電子顕微鏡写真である。
【
図2】実施例5で作製したポリケトン樹脂を含む多孔性基材膜、実施例5で作製した、酸化グラフェン層が多孔性基材膜上に積層された膜、及び参考例1で作製した、酸化グラフェン層が多孔性基材膜上に積層された膜、の3つの膜の赤外線吸収法(FT-IR)の測定結果である。酸化グラフェン層が多孔性基材膜上に積層された膜に対しては、酸化グラフェン積層側に対し、FT-IRの測定を行った。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための例示の形態(以下、本実施形態ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記述する実施の形態に限定されるものではなく、その示す要旨の範囲内で種々変形して用いることができる。
【0014】
本実施形態における複合半透膜は、概略的には、ポリケトン樹脂より成る多孔性基材膜と、酸化グラフェン層を有する。
【0015】
<酸化グラフェン>
酸化グラフェンは、グラファイト(黒鉛)の構成要素であるグラフェン(炭素六員環のsp2共役構造が平面状に発達した二次元(平板状)シート)の炭素の一部が酸化されて、水酸基、エポキシ基、カルボキシル基等の官能基が固定された二次元(平板状)シートである。極性の官能基(水酸基、カルボキシル基等)を有するため、水等の極性溶媒中に薄片状で分散しやすい性質を持つ。
【0016】
この性質を利用し、酸化グラフェンの薄片(例えば厚み1nm程度、長さ1~数μm程度)を基材上に密に薄く積層(平板を積み重ねた層)することが可能になる。基材に透液性のある多孔性構造膜を用いた場合、極性溶媒中に酸化グラフェンの薄片を分散させた液体を多孔性構造膜上に濾過することで、多孔性構造膜上(表面)に酸化グラフェンを密に薄く積層することが可能である。
【0017】
積層された酸化グラフェン薄片間の隙間(上下に存在する酸化グラフェン薄片との平板間の微小な隙間、横方向に隣接する酸化グラフェン薄片との薄片端部間の微小な隙間)が、液中の溶質分離を行うことが可能な分子篩としての機能(物理的サイズ分離及び/又は化学的相互作用(静電力、水素結合、疎水性相互作用等)による分離)を持ち得る。酸化グラフェン薄片は、例えば、Improved Hammer's法(D.C. Marcano et al., ACS Nano., 4 (2010) 4806-4814参照)により作製ができる。
【0018】
<ポリケトン樹脂>
ポリケトン樹脂は、一酸化炭素とオレフィンとの共重合体である。例えばパラジウムやニッケル等を触媒に用い、一酸化炭素とオレフィンを共重合させることにより得ることができる。オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、デセン等の鎖状オレフィン、スチレン、α―メチルスチレン等のアルケニル芳香族化合物、シクロペンテン、ノルボルネン、5-メチルノルボルネン、テトラシクロドデセン、トリシクロデセン、ペンタシクロペンタデセン、ペンタシクロヘキサデセン等の環状オレフィン、塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化アルケン、エチルアクリレート、メチルメタクリレート等のアクリル酸エステル、及び酢酸ビニル等が挙げられる。好ましい態様において、ポリケトン樹脂は、下記式(1)で表される繰り返し単位を有する。
【0019】
-R-C(=O)- (1)
(式中、Rは、置換基を有しても良い炭素数2~20の炭化水素基である。)
【0020】
上記式(1)中のRに含まれる置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、エーテル基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、リン酸基、リン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、アルコキシシリル基、およびシラノール基等を例示できる。
【0021】
上記式(1)中のRの炭素数は、好ましくは2以上8以下であり、より好ましくは、2以上3以下であり、2が最も好ましい。
【0022】
特に、ポリケトン樹脂は、下記式(2)で表される1-オキソトリメチレンの繰り返し単位を多く含むことが、ポリケトン多孔性基材膜の機械的強度を確保する観点から好ましい。具体的には、ポリケトン樹脂の全繰り返し単位における1-オキソトリメチレンの繰り返し単位の割合が、70モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%でも良い。
【0023】
-CH2-CH2-C(=O)- (2)
【0024】
ポリケトン樹脂の分子量は、特に制限は無いが、多孔性膜への成形のしやすさや機械的強度の観点から、極限粘度にて0.5dL/g以上、5dL/g以下が好ましい。ポリケトン樹脂の極限粘度は、例えば特許第6210925号公報記載の方法にて測定できる。
【0025】
<多孔性基材膜>
多孔性基材膜は、分子篩機能を持つ緻密な薄膜層(本実施形態の場合は、酸化グラフェン層)を乗せる基材となる膜で、複合半透膜の機械的強度を支える、重要な機能を持つ。その一方で、液体の透過抵抗を低減することが好ましいため、多孔性構造膜が用いられる。
【0026】
多孔性基材膜は、その表面に分子篩機能を持つ緻密な薄膜層を欠陥なく乗せるため、分子篩機能を持つ緻密な薄膜層と接する部分(多孔性基材膜にとっての表面部分)の孔径は、ある程度小さい、すなわち、数ナノメートルから数百ナノメートルの範囲が好ましい。なお、多孔性基材膜全体としては液体の透過抵抗を低減することが好ましいため、分子篩機能を持つ緻密な薄膜層と接していない部分(多孔性基材膜にとっての断面部分の大部分)の孔径は、数ナノメートルから数百ナノメートルの範囲よりも大きい孔径も許容される。多孔性基材膜断面の巨視的構造は、スポンジ状構造でもボイドを含む構造でも許容される。このような構造の多孔性基材膜は限外濾過膜および精密濾過膜として知られる範疇の多孔性膜に該当する。多孔性基材膜の各部分の孔径は、例えば電子顕微鏡観察により確認することができる。
【0027】
多孔性基材膜の空隙率は特に限定されないが、液体の透過抵抗を低減する観点から、および機械的強度を確保する観点から、50%~95%が好ましく、60%~90%がより好ましく、70%~85%がさらに好ましい。多孔性基材膜の空隙率は、下記数式(1)式により算出される。
空隙率(%)=(1-G・ρ-1・V-1)×100 (1)
(数式(1)中、Gは支持層の質量(g)であり、ρは支持層の質量平均密度(g/cm3)であり、Vは支持層の体積(cm3)である。)
【0028】
多孔性基材膜の形状は、平膜状や中空糸膜状等、既存に知られている限外濾過膜あるいは精密濾過膜の形状が用いられる。なお、平膜状の場合は、既存のRO膜で知られているように、平膜状の多孔性基材膜のさらにその下地としてポリエステル等の不織布を用いることも可能である。
【0029】
多孔性基材膜の厚みは、例えば、複合半透膜の断面を光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察することにより、測定することができる。多孔性基材膜の厚みは、分子篩層を支える機械的強度(耐圧強度等)の確保の観点からは厚い方が好ましく、一方、透液性を高める(不必要に透過抵抗を高めない)観点からは薄い方が好ましい。具体的には、30μm以上900μm未満が好ましく、50μm以上500μm以下がより好ましく、100μm以上250μm以下がさらに好ましい。多孔性基材膜が薄くなると、膜体積が小さくなることで膜運転装置の小型化も可能となる。
【0030】
ポリケトン樹脂より成る多孔性基材膜は、既知の方法によって作製することができ、例えば、特許文献2に開示されている方法等を参考にして作製することができる。すなわち、ポリケトン樹脂を溶媒(例えばレゾルシノール水溶液)に溶解して溶液を調整し、この溶液をポリケトン樹脂の非溶媒(例えばメタノール水溶液)中に含浸して凝固させ、多孔性基材膜を得る方法である。
【0031】
ポリケトン樹脂より成る多孔性基材膜は、適宜改質を行っても良い。例えば、シランカップリング剤を用いた各種官能基の導入、カルボキシル基の導入(C. Liu et al., J. Colloid interface Sci., 544 (2019) 230-240記載の方法)等である。シランカップリング剤等によりアミノ基を多孔性基材膜に導入することにより、多孔性基材膜と、酸化グラフェン中のカルボキシル基との相互作用により、積層した酸化グラフェン層と多孔性基材膜との間の固定の強化等の効果が期待できる。また、カルボキシル基を多孔性基材膜に導入することで、多孔性基材膜と、同じくカルボキシル基を持つとされる酸化グラフェンとの、例えばアミン化合物を介した相互作用により、積層した酸化グラフェン層と多孔性基材膜との間の固定の強化等の効果が期待できる。
【0032】
多孔性基材膜の改質に用いるシランカップリング剤は、以下に限定されるものではないが、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシキシラン、3-(6-アミノヘキシル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、N-フェニルアミノメチルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-ベンジル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-シクロヘキシルアミノメチルトリエトキシシラン等のアミノシラン類が挙げられ、好ましくは、3-アミノプロピルトリエトキシシランである。アミノシラン類は、ポリケトン樹脂を含む多孔性基材膜表面のカルボニル基との間で水素結合等により結合し(アミノシラン類のアミノ基とポリケトンのカルボニル基との間の水素結合等)、さらにエトキシ基やメトキシ基が加水分解によりヒドロキシル基に転化後に酸化グラフェン表面の水酸基等と反応(脱水縮合等)あるいは酸化グラフェン表面のヒドロキシル基やカルボキシル基やカルボニル基等と水素結合し、酸化グラフェン層の安定性を高めることに寄与すると推定される。
【0033】
多孔性基材膜へカルボキシル基を導入するために使用する多価カルボン酸またはその酸無水物、或いは酸クロライドは、公知慣用のもので良く、特に制約はないが、例えば、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸、無水フタル酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、テトラヒドロフランのテトラカルボン酸、テトラヒドロフランのテトラカルボン酸無水物、コハク酸ジクロライド、アジピン酸ジクロライド、セバシン酸ジクロライド、テレフタル酸ジクロライド、2-クロロ-テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、4,4’-ビフェニルジカルボニルクロライド、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、1,1‘-ビシクロヘキサン-4,4’-ジカルボン酸ジクロライド等が挙げられ、好ましくは、セバシン酸ジクロライドである。
【0034】
<酸化グラフェン層>
ポリケトン樹脂より成る多孔性基材膜表面には、酸化グラフェンの薄片(例えば厚み1nm程度、長さ1~数μm程度)が薄く積層されている。酸化グラフェン層の厚みは、欠陥(酸化グラフェン薄片の無い部分)が生じない程度に厚く、液体の透過抵抗にならない程度に薄いことが望ましく、数nm~1μmが好ましい。より好ましくは、酸化グラフェン層の厚みは、10nm~500nmであり、さらに好ましくは20nm~300nmである。酸化グラフェン層の厚みは、例えば、複合半透膜の断面を電子顕微鏡で観察することによって測定することができる。
【0035】
多孔性基材膜表面への積層は、例えば、酸化グラフェン薄片の懸濁液を、多孔性基材膜上に濾過することで行うことができる。酸化グラフェン層の厚みは、濾過する酸化グラフェン薄片の懸濁液中の酸化グラフェン薄片濃度及び濾過液量により制御可能である。濾過方法としては、例えば、吸引濾過及び加圧濾過を選択することができる。
【0036】
酸化グラフェン層中には、アミン化合物が含有されていることが好ましい。アミン化合物は、酸化グラフェン薄片に存在するカルボキシル基等との静電相互作用や酸素含有官能基との水素結合や共有結合により、酸化グラフェン薄片の積層構造を安定化する効果があることが推察される。アミン化合物としては、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン塩酸塩等を挙げることができる。アミン化合物としては、一官能(モノアミン)より多官能(ジアミン、トリアミン、ポリアミン)がより好ましい。
【0037】
酸化グラフェン層中へのアミン化合物の存在化は、例えば、多孔性基材膜表面に酸化グラフェン薄片を積層させるとき(多孔性基材膜上に酸化グラフェン薄片の懸濁液を濾過するとき)に、酸化グラフェン薄片の懸濁液中にアミン化合物を添加溶解し、アミン化合物を含む酸化グラフェン薄片懸濁液を多孔性基材膜上に濾過することで、行うことが可能である。
【0038】
酸化グラフェン層中のアミン化合物の存在の確認は、例えばX線光電子分光法(XPS)にて、窒素原子の検出を行うことでできる。XPS分析による酸化グラフェン層中の窒素原子の量は、炭素原子との原子数比(N/C)にて、0.01~0.2程度が好ましく、より好ましくは0.05~0.15である。
【0039】
アミン化合物は、酸化グラフェン薄片に存在するカルボキシル基等との静電相互作用や酸素含有官能基との水素結合や共有結合により、酸化グラフェン薄片の積層構造を安定化する効果があることが推察され、ある程度以上の量が酸化グラフェン層中に存在することが好ましいが、一方で、酸化グラフェンの層の層間に入り込んだアミン化合物は液透過の抵抗になること等が考えられ、酸化グラフェン層中のアミン化合物の存在量には、適正範囲が存在することが考えられる。
【0040】
また、赤外線吸収分析法(FT-IR法等)により、N-H結合に基づく波長1500~1600cm-1の吸収の存在からアミン化合物の存在を確認することも可能である。
【0041】
<複合半透膜の用途>
本実施形態における複合半透膜は、水系液及び有機系液中において、分離、精製、及び濃縮等の処理に好適に使用することができる。ここで、水系液とは、広く水溶液を指し、また、有機系液とは、一般的な有機溶媒に溶質が溶解している溶液を指すものであり、溶媒は特定の種類に限定されない。
【0042】
<膜性能評価>
複合半透膜の性能は、透水量、透液量、及び、阻止率によって評価することができる。ここで、透水量及び透液量とは、加圧濾過における、例えば2気圧~5気圧の範囲で加圧した種々の溶液の膜面積あたりの透水量又は透液量(単位:L・m-2・h-1・気圧-1)である。阻止率は、上記の塩化ナトリウム水溶液の加圧濾過において、1-(供給液濃度/透過液濃度)で算出される値(単位:%)である。
【0043】
逆浸透処理試験に用いる溶液は、水系液では硫酸ナトリウム、エバンスブルー(分子量961)、及び、ポリエチレングリコールの水溶液から選択した。また、有機系液では、メチルオレンジ(分子量327)、アシッドレッド265(分子量636)、及び、エバンスブルー(分子量961)のメタノール溶液から選択した。
【0044】
複合半透膜の耐有機液性は、有機液中に浸漬したときの膜形状の目視での変化(膨潤等による寸法変化の有無等)により、簡易的には確認することができる。
【実施例0045】
以下、本発明の実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明の実施の形態は、これらの実施例にのみ限定されるものではない。以下、ppmとは質量ppmのことを指す。
【0046】
(実施例1)
一酸化炭素とエチレンとが完全交互共重合した、ポリケトン樹脂(極限粘度3.0dL/g)を、10重量%になるように、65重量%のレゾルシノール水溶液に溶解した。このポリケトン溶液を、ガラス板上に0.4ミリメートル厚みで流延した後、30重量%のメタノール水溶液の浴中に浸漬し、さらにアセトン及びヘキサンで洗浄し、ポリケトン樹脂より成る平膜状の多孔性基材膜を得た。この多孔性基材膜を、2.5容量%の3-アミノプロピルトリエトキシシラン水溶液に常温で2時間浸漬し、次いで純水で洗浄することでポリケトン樹脂より成る多孔性基材膜を得た。
【0047】
Improved Hammer's法により作製した酸化グラフェン薄片を濃度5ppmで純水中に分散させた分散液を作製した(動的光散乱法(大塚電子株式会社製、Photal ELSZ-1000を用いて測定)により測定した平均粒子径1μm)。この分散液を、上記の多孔性基材膜に、膜面積当たり7mL/cm2の量の濾過(吸引濾過)を行い、その後80℃で1時間加熱を行い、酸化グラフェン層がポリケトン樹脂より成る多孔性基材膜上に積層されて成る膜を得た。
【0048】
得られた膜を用い、水系液での性能を確認するために、500ppmの硫酸ナトリウム水溶液、及び10ppmのエバンスブルー(分子量961)水溶液の加圧濾過を、どちらの液に対しても、2気圧、25℃で行ったところ、透水量は21L・m-2・h-1・気圧-1、硫酸ナトリウムの阻止率はゼロ、エバンスブルーの阻止率は65%であった。
【0049】
また、有機系液での性能を確認するために、エバンスブルー(分子量961)の10 ppmのメタノール溶液の加圧濾過を5気圧、25℃で行ったところ、透液量は3.1L・m-2・h-1・気圧-1、阻止率は50%であった。
【0050】
(実施例2)
Improved Hammer's法により作製した酸化グラフェン薄片の分散液に、トリエタノールアミンを液中の酸化グラフェンと同重量溶解した以外は、実施例1と同様にして酸化グラフェン層がポリケトン樹脂より成る多孔性基材膜上に積層されて成る膜を得た。得られた膜の電子顕微鏡写真(酸化グラフェン層近傍の膜断面)(日本電子株式会社製、JSM-7500Fを用いて測定)を
図1に示す。多孔性基材膜の厚みは約150μm、酸化グラフェン層の厚みは約150nmであった。
【0051】
得られた膜を用い、水系液での性能を確認するために、500ppmの硫酸ナトリウム水溶液、及び10ppmのエバンスブルー(分子量961)水溶液の加圧濾過を2気圧、25℃で行ったところ、透水量は4L・m-2・h-1・気圧-1、硫酸ナトリウムの阻止率は70%、エバンスブルーの阻止率は98%であった。
【0052】
また、有機系液での性能を確認するために、メチルオレンジ(分子量327)、アシッドレッド265(分子量636)、エバンスブルー(分子量961)の10ppmのメタノール溶液の加圧濾過を2気圧、25℃で行ったところ、透液量は1L・m-2・h-1・気圧-1、阻止率はそれぞれ、30%、80%、99%であった。
【0053】
(実施例3)
一酸化炭素とエチレンとが完全交互共重合したポリケトン樹脂(極限粘度3.0dL/g)を、10重量%になるように、65重量%のレゾルシノール水溶液に溶解した。このポリケトン溶液を、ガラス板上に0.4ミリメートル厚みで流延した後、30重量%のメタノール水溶液の浴中に浸漬し、さらにアセトン及びヘキサンで洗浄し、ポリケトン樹脂より成る平膜状の多孔性基材膜を得た。この多孔性基材膜を、0.5重量%の水素化ホウ素ナトリウム水溶液に室温で5分間浸漬し、次いで1重量%のセバシン酸ジクロライドのヘキサン溶液に室温で10分間し、カルボキシル基を導入した、ポリケトン樹脂より成る多孔性基材膜を得た。
【0054】
Improved Hammer's法により作製した酸化グラフェン薄片を濃度5ppmで純水中に分散させ、さらにエチレンジアミンを濃度2ppmで添加溶解させた分散液を作製した(動的光散乱法(大塚電子株式会社製、Photal ELSZ-1000を用いて測定)により測定した平均粒子径1μm)。この分散液を、上記の多孔性基材膜に、膜面積当たり7mL/cm2の量の濾過(吸引濾過)を行い、その後80℃で1時間加熱を行うことで、酸化グラフェン層がポリケトン樹脂より成る多孔性基材膜上に積層されて成る膜を得た。
【0055】
得られた膜の酸化グラフェン層の原子組成分析をXPS(日本電子株式会社製、JPS-9010MCを用いて測定)にて行ったところ、炭素、酸素、窒素のそれぞれの原子の数としての存在量はそれぞれ、59.9%、36.7%、3.27%であり、窒素原子と炭素原子との原子数比(N/C)は、0.055であった。
【0056】
得られた膜を用い、水系液での性能を確認するために、500ppmの硫酸ナトリウム水溶液、及び10ppmのエバンスブルー(分子量961)水溶液の加圧濾過を2気圧、25℃で行ったところ、透水量は2.1L・m-2・h-1・気圧-1、硫酸ナトリウムの阻止率は90%、エバンスブルーの阻止率は98%であった。
【0057】
また、有機系液での性能を確認するために、メチルオレンジ(分子量327)、アシッドレッド265(分子量636)、エバンスブルー(分子量961)の10ppmのメタノール溶液の加圧濾過を2気圧、25℃で行ったところ、透液量は0.75L・m-2・h-1・気圧-1、阻止率はそれぞれ、60%、80%、99%であった。
【0058】
(実施例4)
Improved Hammer's法により作製した酸化グラフェン薄片の分散液に、エチレンジアミンを添加しなかった以外は、実施例3と同様にして酸化グラフェン層がポリケトン樹脂より成る多孔性基材膜上に積層されて成る膜を得た。
【0059】
得られた膜の酸化グラフェン層の原子組成分析をXPS(日本電子株式会社製、JPS-9010MCを用いて測定)にて行ったところ、炭素、酸素、窒素のそれぞれの原子の数としての存在量はそれぞれ、56.1%、43.0%、0.0%であり、窒素原子と炭素原子との原子数比(N/C)は、ゼロであった。
【0060】
得られた膜を用い、水系液での性能を確認するために、500ppmの硫酸ナトリウム水溶液、及び10ppmのエバンスブルー(分子量961)水溶液の加圧濾過を2気圧、25℃で行ったところ、透水量は7.3L・m-2・h-1・気圧-1、硫酸ナトリウムの阻止率は20%、エバンスブルーの阻止率は75%であった。
【0061】
また、有機系液での性能を確認するために、メチルオレンジ(分子量327)、アシッドレッド265(分子量636)、エバンスブルー(分子量961)の10ppmのメタノール溶液の加圧濾過を2気圧、25℃で行ったところ、透液量は1.7L・m-2・h-1・気圧-1、阻止率はそれぞれ、25%、35%、60%であった。
【0062】
(実施例5)
一酸化炭素とエチレンとが完全交互共重合したポリケトン樹脂(極限粘度3.0dL/g)を、10重量%になるように、65重量%のレゾルシノール水溶液に溶解した。このポリケトン溶液を、ガラス板上に0.4ミリメートル厚みで流延した後、25重量%のメタノール水溶液の浴中に浸漬し、さらにアセトン及びヘキサンで洗浄し、ポリケトン樹脂より成る平膜状の多孔性基材膜を得た。
【0063】
Improved Hammer's法により作製した酸化グラフェン薄片を濃度400ppmで純水中に分散させ、さらにエチレンジアミンを濃度6000ppmに添加溶解させ、その後80℃にて1時間加熱し、酸化グラフェンの分散液を得た。この分散液に純水を加えて80倍に希釈し、酸化グラフェン薄片濃度を5ppm、エチレンジアミン濃度を75ppmに調節した。この分散液を、上記の多孔性基材膜に、膜面積当たり7mL/cm2の量の濾過(1気圧での加圧濾過)を行い、その後80℃で1時間加熱を行うことで、酸化グラフェン層がポリケトン樹脂より成る多孔性基材膜上に積層されて成る膜を得た。
【0064】
得られた膜の酸化グラフェン層の原子組成分析をXPS(日本電子株式会社製、JPS-9010MCを用いて測定)にて行ったところ、炭素、酸素、窒素のそれぞれの原子の数としての存在量はそれぞれ、75.9%、18.5%、5.59%であり、窒素原子と炭素原子との原子数比(N/C)は、0.074であった。
【0065】
得られた膜の酸化グラフェン積層面、及びポリケトン樹脂より成る多孔性基材膜、の赤外線吸収分析結果(FT-IR法)(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、Nicolet iS5を用いて測定)を
図2に示す。得られた膜は、波数1500~1600cm
-1の領域に、アミン化合物のN-H結合に帰属できる吸収が観測できた。
【0066】
得られた膜を用い、水系液での性能を確認するために、分子量200、600及び1000のポリエチレングリコールの0.1重量%水溶液の加圧濾過を2気圧、25℃で行ったところ、透液量は0.25L・m-2・h-1・気圧-1、阻止率はそれぞれ、60%、85%、98%であった。
【0067】
また、有機系液での性能を確認するために、メチルオレンジ(分子量327)、アシッドレッド265(分子量636)、エバンスブルー(分子量961)の10ppmのメタノール溶液の加圧濾過を2気圧、25℃で行ったところ、透液量は0.06L・m-2・h-1・気圧-1、阻止率はそれぞれ、90%、99%以上、99%以上であった。
【0068】
(参考例1)
Improved Hammer's法により作製した酸化グラフェン薄片の分散液に、エチレンジアミンを添加しなかった以外は、実施例5と同様にして酸化グラフェン層がポリケトン樹脂より成る多孔性基材膜上に積層されて成る膜を得た。
【0069】
得られた膜の酸化グラフェン積層面の赤外線吸収分析結果(FT-IR法)(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、Nicolet iS5を用いて測定)を
図2に示す。
【0070】
(比較例1)
多孔性基材膜として、ニトロセルロースより成る孔径50nmの多孔膜(メルク社製VMWP04700)を用いた以外は、実施例2と同様にして酸化グラフェン層が多孔性基材膜上に積層されて成る膜を得た。実施例2と同様にして有機系液での性能を確認しようとしたところ、膜が液によって膨潤するため、測定が不可であった。
本発明は、排水浄化等の水処理の分野、及び化学工業や医薬工業等での各種水系液や有機系液における有価物等の分離精製や濃縮等、幅広い産業分野で利用が可能である。