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特開2022-84422パラジウム錯体、カップリング反応触媒、および芳香族化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084422
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】パラジウム錯体、カップリング反応触媒、および芳香族化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 49/14 20060101AFI20220531BHJP
   C07C 45/61 20060101ALI20220531BHJP
   C07C 43/205 20060101ALI20220531BHJP
   C07C 41/30 20060101ALI20220531BHJP
   C07F 15/00 20060101ALI20220531BHJP
   C07F 9/50 20060101ALI20220531BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20220531BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220531BHJP
【FI】
C07C49/14 CSP
C07C45/61
C07C43/205 D
C07C41/30
C07F15/00 C
C07F9/50
B01J31/24 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020196294
(22)【出願日】2020-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】今仲 庸介
(72)【発明者】
【氏名】上野 晋司
(72)【発明者】
【氏名】半田 日向
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
4H050
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BE11A
4G169BE11B
4G169BE26A
4G169BE26B
4G169BE33A
4G169BE33B
4G169CB25
4G169CB59
4G169DA02
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB20
4H006AC24
4H006BA25
4H006BA40
4H006BA48
4H006BB11
4H006BB25
4H006BB31
4H006BC10
4H006GP03
4H039CA99
4H039CL25
4H050AA01
4H050AA02
4H050AA03
4H050AB40
4H050BB11
4H050BB25
4H050WA19
4H050WB13
4H050WB17
4H050WB18
(57)【要約】
【課題】室温等の温和な反応条件であっても、カップリング反応への活性が高く、目的生成物が得られるパラジウム錯体を提供する。
【解決手段】下記一般式(A)で表される、パラジウム錯体を用いる。
(式中、Xは、塩素原子等を表し、R、Rは、連結して形成される環構造もしくはπ-アリル構造等を表し、R、Rは、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基等を表し、R、Rは、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基等を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)で表される、パラジウム錯体。
【化1】
(式中、
Xは、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を表し、
、Rは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~10のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数5~10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基、または置換基を有していてもよい炭素数4~20のヘテロアリール基を表すか、あるいはRがR連結して形成される環構造またはπ-アリル構造を表し、
、Rは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基を表し、
、Rは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、炭素数1~20のアルキル基、または炭素数5~10のシクロアルキル基を表すが、
アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、およびヘテロアリール基が有していてもよい置換基は、フッ素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールシクロアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、アルキル基を有していてもよいヘテロ環基、-N(R’)で表される基(式中、2つのR’は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基、またはアルキル基を有していてもよいヘテロ環基を表す。)、-Si(R’)で表される基(式中、R’は、前述と同義であり、3つのR’は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)、アシル基、炭素原子-窒素原子二重結合を有する基、酸イミド基、アルコキシカルボニル基、シクロアルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルボキシ基、シアノ基、ニトリル基、およびニトロ基からなる群より選択される少なくとも1種の基であり、
~Rがリン原子を有することはなく、かつl同時に水素原子を表すことはない。)
【請求項2】
前記一般式(A)中のRおよびRが、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数2~10のアルケニル基を表す、請求項1に記載のパラジウム錯体。
【請求項3】
前記一般式(A)中のRおよびRが連結して、置換基を有していてもよい脂環式構造、置換基を有していてもよい複素環式構造、または置換基を有していてもよいπ-アリル構造を表す、請求項1に記載のパラジウム錯体。
【請求項4】
前記一般式(A)中のRおよびRが連結して、置換基を有していてもよい炭素数1~10の複素環式構造、置換基を有していてもよい炭素数1~10のシクロアルキル構造、または置換基を有していてもよい炭素数3~10のπ-アリル構造を表す、請求項3に記載のパラジウム錯体。
【請求項5】
前記一般式(A)中のRおよびRが、アセチルアセトナト基、シンナミル基、クロチル基、またはアリル基を表す、請求項4に記載のパラジウム錯体。
【請求項6】
前記一般式(A)中のRおよびRが、tert-ブチル基である、請求項1~5のいずれか一項に記載のパラジウム錯体。
【請求項7】
前記一般式(A)中のRおよびRが、水素原子、または炭素数1~4のアルキル基である、請求項1~6のいずれか一項に記載のパラジウム錯体。
【請求項8】
前記一般式(A)中のXが、塩素原子である、請求項1~7のいずれか一項に記載のパラジウム錯体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のパラジウム錯体からなる、カップリング反応触媒。
【請求項10】
一般式(A)で表される、パラジウム錯体を製造する方法であって、
下記一般式(a)で表されるパラジウム化合物を、下記一般式(b)で表されるホスフィン化合物と反応させて前記パラジウム錯体を得る工程、を含む、パラジウム錯体の製造方法。
【化2】
(式中、
、Rは、上記と同一の定義である。)
【化3】
(式中、
~Rは、上記と同一の定義である。)
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載のパラジウム錯体の存在下、芳香族ボロン酸化合物(B)または芳香族ボロン酸エステル(B’)と、芳香族化合物(C)とを、カップリング反応させて、炭素-炭素カップリング反応生成物(D)を製造する、芳香族化合物の製造方法。
【請求項12】
前記カップリング反応の反応温度が40℃以下である、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カップリング反応の触媒として用いることのできる新規なパラジウム錯体に関する。より詳しくは、鈴木-宮浦反応等のクロスカップリング反応の触媒として好適に用いることのできるパラジウム錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の合成を初めとした有機合成化学の分野において、炭素-炭素結合を生成する化学反応は極めて重要である。このような化学反応として、グリニャール試薬のように、電気陰性度の小さな金属原子を炭素原子に結合させることでその炭素原子を陰性に分極させ、これを求核試薬とすることで炭素-炭素結合を生成する反応が古くから用いられてきた。しかしながら、このようなグリニャール試薬は、発癌性や、沸点の問題から管理負担が大きいといった問題や、反応性の高さから水の存在下では取り扱うことができず、化学合成時に高度な注意を必要とするといった問題があった。
【0003】
そのため近年においては、各種カップリング反応の中でも、有機ホウ素化合物とハロゲン化アリールとの間で炭素-炭素結合を生成する、鈴木-宮浦カップリング反応が注目されている。例えば、特許文献1には、パラジウムを含む固体触媒の存在下、芳香族ボロン酸エステルと該芳香族ボロン酸エステル以外の芳香族化合物とを、湿式にて鈴木-宮浦カップリング反応を行うことにより、炭素-炭素結合を生成したことが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ジ-tert-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィンをパラジウムの配位子としたパラジウム錯体を、鈴木-宮浦カップリング触媒として用いたことが開示されている。さらに、特許文献3には、クロロメチル(トリ-tert-ブチルホスフィン)等をパラジウムの配位子としたパラジウム錯体を、鈴木-宮浦カップリング触媒として用いたことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-31190号公報
【特許文献2】国際公開第2014-115813号
【特許文献3】国際公開第2017-094655号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、カップリング反応によって多種多様な医農薬中間体や有機電子材料の合成が成されている。しかしながら、目的物質の中には、温度安定性の低い化合物もある。それらの温度安定性の低い化合物は、100℃を超える反応温度では熱分解等によって、収率の低下や副生物が生成するという問題がある。
発明者らは鋭意検討の結果、特許文献2に記載されているアルケニル構造を有するホスフィンがパラジウムに複数配位した錯体等は、反応温度130℃前後で優れた触媒活性を示すものの、室温付近での温度領域は実質的に活性を示さないという問題を見出した。
本発明は上記問題点に鑑み、室温等の温和な反応条件であっても、カップリング反応への活性が高く、目的生成物が得られるパラジウム錯体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、アルケニル構造を備えるホスフィンが一つ配位した特定の構造のパラジウム錯体を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0008】
[1] 下記一般式(A)で表される、パラジウム錯体。
【化1】
(式中、
Xは、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を表し、
、Rは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~10のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数5~10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基、または置換基を有していてもよい炭素数4~20のヘテロアリール基を表すか、あるいはRがR連結して形成される環構造またはπ-アリル構造を表し、
、Rは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基を表し、
、Rは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、炭素数1~20のアルキル基、または炭素数5~10のシクロアルキル基を表すが、
アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、およびヘテロアリール基が有していてもよい置換基は、フッ素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールシクロアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、アルキル基を有していてもよいヘテロ環基、-N(R’)で表される基(式中、2つのR’は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基、またはアルキル基を有していてもよいヘテロ環基を表す。)、-Si(R’)で表される基(式中、R’は、前述と同義であり、3つのR’は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)、アシル基、炭素原子-窒素原子二重結合を有する基、酸イミド基、アルコキシカルボニル基、シクロアルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルボキシ基、シアノ基、ニトリル基、およびニトロ基からなる群より選択される少なくとも1種の基であり、
~Rがリン原子を有することはなく、かつRとRが、同時に水素原子を表すことはない。)
[2] 前記一般式(A)中のRおよびRが、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数2~10のアルケニル基を表す、[1]に記載のパラジウム錯体。
[3] 前記一般式(A)中のRおよびRが連結して、置換基を有していてもよい脂環式構造、置換基を有していてもよい複素環式構造、または置換基を有していてもよいπ-アリル構造を表す、[1]に記載のパラジウム錯体。
[4] 前記一般式(A)中のRおよびRが連結して、置換基を有していてもよい炭素数1~10の複素環式構造、置換基を有していてもよい炭素数1~10のシクロアルキル構造、または置換基を有していてもよい炭素数3~10のπ-アリル構造を表す、[3]に記載のパラジウム錯体。
[5] 前記一般式(A)中のRおよびRが、アセチルアセトナト基、シンナミル基、クロチル基、またはアリル基を表す、[4]に記載のパラジウム錯体。
[6] 前記一般式(A)中のRおよびRが、tert-ブチル基である、[1]~[5]のいずれかに記載のパラジウム錯体。
[7] 前記一般式(A)中のRおよびRが、水素原子、または炭素数1~4のアルキル基である、[1]~[6]のいずれかに記載のパラジウム錯体。
[8] 前記一般式(A)中のXが、塩素原子である、[1]~[7]のいずれかに記載のパラジウム錯体。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載のパラジウム錯体からなる、カップリング反応触媒。
[10] 一般式(A)で表される、パラジウム錯体を製造する方法であって、
下記一般式(a)で表されるパラジウム化合物を、下記一般式(b)で表されるホスフィン化合物と反応させてパラジウム錯体を得る工程、を含む、パラジウム錯体の製造方法。
【化2】
(式中、
、Rは、上記と同一の定義である。)
【化3】
(式中、
~Rは、上記と同一の定義である。)
[11] [1]~[8]のいずれかに記載のパラジウム錯体の存在下、芳香族ボロン酸化合物(B)または芳香族ボロン酸エステル(B’)と、芳香族化合物(C)とを、カップリング反応させて、炭素-炭素カップリング反応生成物(D)を製造する、芳香族化合物の製造方法。
[12] 前記カップリング反応の反応温度が40℃以下である、[11]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のパラジウム錯体は、カップリング反応の触媒として用いることにより、温和な条件下でありながら反応物を製造することができる。とりわけ、ハロゲン原子を有する芳香族化合物と、ホウ素化合物との反応(鈴木-宮浦カップリング)に本発明のパラジウム錯体を適用すると、室温、常圧という極めて温和な条件で、目的物を生成することができる。これらのことから、本発明のパラジウム錯体は、製造コストを低減するのみならず、高温で収率が悪化する反応生成物を製造する際に極めて有効に用いることができる。よって、本発明のパラジウム錯体は、特に情報電子材料や、医農薬中間体の製造に有用であり、工業的に極めて価値が高い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施する好ましい形態の一例について説明する。ただし、下記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0011】
[パラジウム錯体]
本発明によるパラジウム錯体は、下記一般式(A)で表されるものである。
【化4】
【0012】
上記一般式(A)において、Xは、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を表す。これらの中でも、低温での反応性の観点において、Xは塩素原子が好ましい。
【0013】
上記一般式(A)において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~10のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数5~10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基、または置換基を有していてもよい炭素数4~20のヘテロアリール基を表すか、あるいはRがR連結して形成される環構造またはπ-アリル配位子を表すが、RおよびRがリン原子を有することはない。
上記一般式(A)において、RおよびRが、それぞれ独立する場合、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数2~10のアルケニル基を表すことが好ましい。
上記一般式(A)において、RおよびRが連結して環構造を形成する場合、置換基を有していてもよい脂環式構造、置換基を有していてもよい複素環式構造、または置換基を有していてもよいπ-アリル基を表すことが好ましい。
【0014】
アルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。炭素数1~20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、2-メチルペンチル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、およびn-イコシル基が挙げられる。これらの中でも、炭素数1~10のアルキル基が好ましい。
【0015】
炭素数2~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-メチル-2-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、1-オクテニル基が挙げられる。なお、R、Rが炭素数2~10のアルケニル基を表す場合、幾何異性体が存在することがある。幾何異性体は、シス体、トランス体いずれであってもよく、両者が混在してもよい。
【0016】
炭素数5~10のシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、およびシクロオクチル基が挙げられる。
【0017】
アリール基は、芳香族炭化水素の環に結合する水素原子が1つ離脱して生ずる基である。炭素数6~20のアリール基としては、例えば、フェニル基、4-メチルフェニル基、2-メチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、3-フェナントリル基、および2-アントリル基等が挙げられる。置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基としては、例えば、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,3-ジメチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,5-ジメチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、2,3,5,6-テトラメチルフェニル基、2-エチルフェニル基、3,5-ジエチルフェニル基、4-n-プロピルフェニル基、4-イソプロピルフェニル基、4-n-ブチルフェニル基、4-tert-ブチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、2-ビフェニル基、3-ビフェニル基、4-ビフェニル基、2-フルオロ-4-ビフェニル基、2-フルオレニル基、9-フェナンスレニル基、9-アントラセニル基、1-ピレニル基、2-トリフルオロメチルフェニル基、3-トリフルオロメチルフェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-メトキシフェニル基、2,4-ジメトキシフェニル基、2,5-ジメトキシフェニル基、2,6-ジメトキシフェニル基、3,4-ジメトキシフェニル基、3,5-ジメトキシフェニル基、2-エトキシフェニル基、3-エトキシフェニル基、4-エトキシフェニル基、2-(ベンジルオキシ)フェニル基、2-フェノキシフェニル基、4-フェノキシフェニル基、2,3-メチレンジオキシフェニル基、3,4-メチレンジオキシフェニル基、2-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、4-フルオロフェニル基、2,4-ジフルオロフェニル基、2,5-ジフルオロフェニル基、2,6-ジフルオロフェニル基、3,4-ジフルオロフェニル基、3,5-ジフルオロフェニル基、2-ホルミルフェニル基、3-ホルミルフェニル基、4-ホルミルフェニル基、3-ホルミル-4-メトキシフェニル基、2-シアノフェニル基、3-シアノフェニル基、4-シアノフェニル基、2-アセチルフェニル基、3-アセチルフェニル基、4-アセチルフェニル基、3-カルボキシフェニル基、3-アミノフェニル基、2-(N,N-ジメチルアミノ)フェニル基、3-(N,N-ジメチルアミノ)フェニル基、4-(N,N-ジメチルアミノ)フェニル基、および2-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェニル基が挙げられる。
【0018】
ヘテロアリール基は、アリール基の環を構成する炭素原子がヘテロ原子またはカルボニル基で置換されている基である。
炭素数4~20のヘテロアリール基は、単環のヘテロアリール基、縮合環のヘテロアリール基、2以上の単環および/または縮合環のヘテロアリール基が直接結合またはヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、硫黄原子等)もしくはカルボニル基(-CO-)を介して間接的に結合されることにより形成される1価の基、ならびに、1以上の単環および/または縮合環のヘテロアリール基と1以上の単環および/または縮合環のアリール基とが、直接結合またはヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、硫黄原子等)もしくはカルボニル基(-CO-)を介して間接的に結合することにより形成される1価の基を含む。ヘテロアリール基を間接的に結合させる窒素原子の残りの結合手は、例えば置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基等と結合している。なお、縮合環のヘテロアリール基に含まれる縮合環は、2以上のヘテロ環の縮合環であってもよいし、1以上のヘテロ環と1以上の芳香環との縮合環であってもよい。
【0019】
炭素数4~20のヘテロアリール基としては、例えば、一般式(ha1)~(ha7)で表される基が挙げられる。
【0020】
【化5】
(式中、
Rは、フッ素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールシクロアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、アルキル基を有していてもよいヘテロ環基、-N(R’)で表される基(2つのR’は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基、またはアルキル基を有していてもよいヘテロ環基を表す。)、-Si(R’)で表される基(R’は、前述と同義であり、3つのR’は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)、アシル基、炭素原子-窒素原子二重結合を有する基、酸イミド基、アルコキシカルボニル基、シクロアルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルボキシ基、シアノ基、ニトリル基、またはニトロ基を表す。
また、pは、0~4の整数を表す。
また、Yは、硫黄原子、酸素原子、または-NR-で表される基を表す。
また、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、または置換基を有していてもよいアリール基を表す。
また、環Aは、ヘテロ環または芳香環を表す。)
【0021】
上記一般式(ha1)~(ha4)で表される基としては、例えば、一般式(ha1-1)~(ha4-12)で表される基が挙げられる。
【0022】
【化6】
(式中のRおよびpは、上記と同一の定義であるため、説明を省略する。)
【0023】
【化7】
(式中のRおよびpは、上記と同一の定義であるため、説明を省略する。)
【0024】
上記した置換基を有していてもよい炭素数4~20のヘテロアリール基のなかでも、2-チエニル基、3-メチル-2-チエニル基、4-メチル-2-チエニル基、5-メチル-2-チエニル基、3,4-ジメチル-2-チエニル基、3,5-ジメチル-2-チエニル基、4,5-ジメチル-2-チエニル基、3-チエニル基、2-メチル-3-チエニル基、4-メチル-3-チエニル基、5-メチル-3-チエニル基、2,4-ジメチル-3-チエニル基、2,5-ジメチル-3-チエニル基、4,5-ジメチル-3-チエニル基、2-ピロリル基、1-メチル-2-ピロリル基、1-フェニル-2-ピロリル基、3-ピロリル基、1-メチル-3-ピロリル基、1-フェニル-3-ピロリル基、2-フリル基、3-フリル基、2-ピリジル基、3-メチル-2-ピリジル基、4-メチル-2-ピリジル基、5-メチル-2-ピリジル基、6-メチル-2-ピリジル基、3-ピリジル基、2-メチル-3-ピリジル基、4-メチル-3-ピリジル基、5-メチル-3-ピリジル基、6-メチル-3-ピリジル基、3-ピリダジニル基、4-ピリダジニル基、2-ピリミジル基、4-ピリミジル基、5-ピリミジル基、2-ピラジニル基、2-トリアジニル基、2-キノリル基、8-キノリル基、1-イソキノリル基、3-イソキノリル基、2-ベンゾチエニル基、7-ベンゾチオニル基、2-ベンゾフリル基、7-ベンゾフリル基、2-インドリル基、1-メチル-2-インドリル基、1-フェニルインドリル基が好ましい。
【0025】
上記一般式においてRがアルコキシ基である場合、アルコキシ基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。アルコキシ基の炭素数は、通常1~20である。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、2,2-ジメチルプロポキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-トリデシルオキシ基、n-テトラデシルオキシ基、n-ペンタデシルオキシ基、n-ヘキサデシルオキシ基、n-ヘプタデシルオキシ基、n-オクタデシルオキシ基、n-ノナデシルオキシ基、およびn-イコシルオキシ基が挙げられる。
【0026】
上記一般式においてRがシクロアルコキシ基である場合、シクロアルコキシ基の炭素数は、通常3~20である。シクロアルコキシ基としては、例えば、シクロプロポキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、およびシクロオクチルオキシ基が挙げられる。
【0027】
上記一般式においてRがアルキルチオ基である場合、アルキルチオ基の炭素数は、通常1~20である。アルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n-ブチルチオ基、イソブチルチオ基、sec-ブチルチオ基、tert-ブチルチオ基、n-ペンチルチオ基、n-ヘキシルチオ基、n-ヘプチルチオ基、n-オクチルチオ基、2-エチルヘキシルチオ基、n-ノニルチオ基、n-デシルチオ基、3,7-ジメチルオクチルチオ基、およびn-ドデシルチオ基が挙げられる。
【0028】
上記一般式においてRがシクロアルキルチオ基である場合、シクロアルキルチオ基の炭素数は、通常3~20である。シクロアルキルチオ基としては、例えば、シクロプロピルチオ基、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基、シクロヘプチルチオ基、およびシクロオクチルチオ基が挙げられる。
【0029】
上記一般式においてRがアリールオキシ基である場合、当該アリール基の炭素数は、通常6~20である。アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、フェナントリルオキシ基、およびアントリルオキシ基が挙げられる。なお、アリールオキシ基は、オキシ基にアリール基が結合した基である。
【0030】
上記一般式においてRがアリールチオ基である場合、アリールチオ基における当該アリール基の炭素数は、通常6~20である。アリールチオ基としては、例えば、フェニルチオ基、およびナフチルチオ基が挙げられる。
【0031】
上記一般式においてRがアリールアルキル基である場合、当該アリール基の炭素数は、通常6~20であり、当該アルキル基の炭素数は、通常1~20である。なお、アリールアルキル基は、アリール基を置換基として有するアルキル基である。
【0032】
上記一般式においてRがアリールシクロアルキル基である場合、当該アリール基の炭素数は、通常6~20であり、当該シクロアルキル基の炭素数は、通常3~20である。なお、アリールシクロアルキル基は、アリール基を置換基として有するシクロアルキル基である。
【0033】
上記一般式においてRがアリールアルケニル基である場合、当該アリール基の炭素数は、通常6~20であり、当該アルケニル基の炭素数は、通常2~8である。アリールアルケニル基としては、例えば、フェニルアルケニル基、およびナフチルアルケニル基が挙げられる。なお、アリールアルケニル基は、アリール基を置換基として有するアルケニル基である。
【0034】
上記一般式においてRがアルキニル基である場合、アルキニル基の炭素数は、通常2~8である。アルキニル基としては、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、1-ペンチニル基、2-ペンチニル基、1-ヘキシニル基、2-ヘキシニル基、および1-オクチニル基が挙げられる。
【0035】
上記一般式においてRがアリールアルキニル基である場合、当該アリール基の炭素数は、通常6~20であり、当該アルキニル基の炭素数は、通常2~8である。アリールアルキニル基としては、例えば、フェニルアルキニル基、およびナフチルアルキニル基が挙げられる。なお、アリールアルキニル基は、アリール基を置換基として有するアルキニル基である。
【0036】
上記一般式においてRが置換基としてアルキル基を有していてもよいヘテロ環基である場合、へテロ環基の炭素数は、通常3~20である。ヘテロ環基としては、例えば、チエニル基、ピロリル基、フリル基、ピリジル基、ピリダジニル基、ピリミジル基、ピラジニル基、トリアジニル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、キノリル基、およびイソキノリル基が挙げられる。なお、ヘテロ環基は、複素環式化合物から環を構成する炭素原子に直接結合する水素原子1つを取り除いた残りの原子団である。
【0037】
上記一般式においてRが-N(R’)で表される基である場合、2つのR’は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基、またはアルキル基を有していてもよいヘテロ環基を表し、R’で表される炭素数1~10の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、およびアリール基が挙げられる。-N(R’)で表される基において、少なくとも一つのR’は、炭素数1~10の炭化水素基、またはアルキル基を有していてもよいヘテロ環基であることが好ましい。
-N(R’)で表される基としては、例えば、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、ジ-n-プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、sec-ブチルアミノ基、tert-ブチルアミノ基、n-ペンチルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基、n-ヘプチルアミノ基、n-オクチルアミノ基、2-エチルヘキシルアミノ基、n-ノニルアミノ基、n-デシルアミノ基、3,7-ジメチルオクチルアミノ基、n-ドデシルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、ジシクロペンチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、ジシクロヘキシルアミノ基、ビス(トリフルオロメチル)アミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ナフチルアミノ基、ピリジルアミノ基、ピリダジニルアミノ基、ピリミジニルアミノ基、ピラジニルアミノ基、およびトリアジニルアミノ基が挙げられる。
【0038】
上記一般式においてRが-Si(R’)で表される基である場合、3つのR’は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、少なくとも一つのR’は、炭素数1~10の炭化水素基、またはアルキルを有していてもよいをヘテロ環基であることが好ましい。
-Si(R’)で表される基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリ-n-プロピルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチルイソプロピルシリル基、ジエチルイソプロピルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、n-ペンチルジメチルシリル基、n-ヘキシルジメチルシリル基、n-ヘプチルジメチルシリル基、n-オクチルジメチルシリル基、2-エチルヘキシルジメチルシリル基、n-ノニルジメチルシリル基、n-デシルジメチルシリル基、3,7-ジメチルオクチルジメチルシリル基、フェニルアルキルシリル基、アルコキシフェニルアルキルシリル基、アルキルフェニルアルキルシリル基、ナフチルアルキルシリル基、フェニルアリルジメチルシリル基、トリフェニルシリル基、トリ-p-キシリルシリル基、トリベンジルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、tert-ブチルジフェニルシリル基、およびジメチルフェニルシリル基が挙げられる。
【0039】
上記一般式においてRがアシル基である場合、アシル基は、R’CO-で表される基であり、R’は、前述と同義である。アシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、およびイソブチリル基等の脂肪族アシル基;ベンゾイル基、およびナフトイル基等の芳香族アシル基が挙げられる。
【0040】
上記一般式においてRが炭素原子-窒素原子二重結合を有する基である場合、炭素原子-窒素原子二重結合を有する基は、イミン化合物中の炭素原子-窒素原子二重結合を構成する炭素原子または窒素原子に直接結合している水素原子が1つ離脱して生ずる原子団である。該イミン化合物としては、例えば、アルジミン、ケチミン、および、アルジミン中の炭素原子-窒素原子二重結合を構成する窒素原子が、置換基としてアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、またはアリールアルキニル基を有する化合物が挙げられる。
【0041】
炭素原子-窒素原子二重結合を有する基としては、-CR’’=N-R’’’で表される基、および-N=C(R’’’)で表される基(式中、R’’は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、またはアリールアルキニル基を表し、1つまたは2つのR’’’は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールシクロアルキル基、アリールアルケニル基、またはアリールアルキニル基を表す。但し、-N=C(R’’’)で表される基において、2個のR’’’は互いに結合して2価の基(具体的には、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等の炭素数2~18のアルキレン基)を形成してもよい。)が挙げられる。
炭素原子-窒素原子二重結合を有する基の炭素数は、通常2~20であり、好ましくは2~18であり、より好ましくは2~16である。
【0042】
炭素原子-窒素原子二重結合を有する基としては、例えば、以下に示す基が挙げられる。
【化8】
【0043】
上記一般式においてRが酸イミド基である場合、酸イミド基は、(R’CO)N-で表される基であり、R’は、前述と同義であり、2つのR’は、同一であっても異なっていてもよい。2つのR’は、互いに結合し、それらが結合している炭素原子および当該炭素原子と結合している窒素原子とともに環を形成していてもよい。酸イミド基の炭素数は、好ましくは4~20であり、より好ましくは4~18であり、さらに好ましくは4~16である。
【0044】
酸イミド基としては、例えば、以下に示す基が挙げられる。
【化9】
【0045】
上記一般式においてRがアルコキシカルボニル基である場合、アルコキシカルボニル基は、カルボニル基にアルコキシ基が結合した基である。アルコキシ基は、前述と同義である。アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、n-ペンチルオキシカルボニル基、n-ヘキシルオキシカルボニル基、n-ヘプチルオキシカルボニル基、n-オクチルオキシカルボニル基、2-エチルヘキシルオキシカルボニル基、n-ノニルオキシカルボニル基、n-デシルオキシカルボニル基、3,7-ジメチルオクチルオキシカルボニル基、n-ドデシルオキシカルボニル基、トリフルオロメトキシカルボニル基、ペンタフルオロエトキシカルボニル基、パーフルオロブトキシカルボニル基、パーフルオロヘキシルオキシカルボニル基、およびパーフルオロオクチルオキシカルボニル基が挙げられる。
【0046】
上記一般式においてRがシクロアルコキシカルボニル基である場合、シクロアルコキシカルボニル基は、カルボニル基にシクロアルコキシ基が結合した基である。シクロアルコキシ基は、前述と同義である。シクロアルコキシカルボニル基としては、例えば、シクロヘキシルオキシカルボニル基が挙げられる。
【0047】
上記一般式においてRがアリールオキシカルボニル基である場合、アリールオキシカルボニル基は、カルボニル基にアリールオキシ基が結合した基である。アリールオキシ基は、前述と同義である。アリールオキシカルボニル基としては、例えば、フェノキシカルボニル基、ナフトキシカルボニル基、およびピリジルオキシカルボニル基が挙げられる。
【0048】
脂環式構造としては、例えば、シクロブタン構造、シクロペンタン構造、シクロヘキサン構造、シクロヘプタン構造、シクロオクタン構造等の炭素数1~10のシクロアルキル構造;アダマンタン構造、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン構造、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン構造等の有橋式炭化水素構造が挙げられる。置換基を有していてもよい脂環式構造としては、例えば、シクロブタン構造、シクロペンタン構造、シクロヘキサン構造、シクロヘプタン構造、シクロオクタン構造、メチルシクロブタン構造、メチルシクロペンタン構造、メチルシクロヘキサン構造、メチルシクロヘプタン構造、メチルシクロオクタン構造、エチルシクロブタン構造、エチルシクロペンタン構造、エチルシクロヘキサン構造、エチルシクロヘプタン構造、エチルシクロオクタン構造、n-プロピルシクロブタン構造、n-プロピルシクロペンタン構造、n-プロピルシクロヘキサン構造、n-プロピルシクロヘプタン構造、イソプロピルシクロブタン構造、イソプロピルシクロペンタン構造、イソプロピルシクロヘキサン構造、イソプロピルシクロヘプタン構造、n-ブチルシクロブタン構造、n-ブチルシクロペンタン構造、n-ブチルシクロヘキサン構造、tert-ブチルシクロブタン構造、tert-ブチルシクロペンタン構造、tert-ブチルシクロヘキサン構造等の置換基を有していてもよい炭素数1~10のシクロアルキル構造、アダマンタン構造、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン構造、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン構造、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン構造、エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン構造、n-プロピルビシクロ[2.2.1]ヘプタン構造、イソプロピルビシクロ[2.2.1]ヘプタン構造が挙げられる。これら中でも、置換基を有していてもよい炭素数1~10のシクロアルキル構造が好ましい。
【0049】
複素環式構造として、より具体的には、下記一般式(hc)で表される構造が挙げられる。
【0050】
【化10】
(式中、
Yは、硫黄原子、酸素原子、または-NR-で表される基を表す。
また、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基を表す。
また、R~Rは、それぞれ独立して、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基を表す。)
【0051】
置換基を有していてもよい炭素数1~20アルキル基、および置換基を有していてもよい炭素数6~20アリール基の定義は上記と同一であるため、説明を省略する。
【0052】
フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基とは、フッ素原子を置換基として有してもよいアルキル基である。炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、および2-メチルペンチル基が挙げられる。
【0053】
複素環式構造としては、低温での反応性の観点において、置換基を有していてもよい炭素数1~10の複素環式構造が好ましく、下記式(hc-1)~(hc-6)で表される複素環式構造がより好ましく、下記式(hc-1)で表されるアセチルアセトナト基がさらに好ましい。
【0054】
【化11】
【0055】
π-アリル構造とは、アリル配位子がη配位した構造をいい、より具体的には、下記一般式(al)で表される構造が挙げられる。
【0056】
【化12】
(式中、
10~R11は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基を表す。)
【0057】
置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、および置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基の定義は上記と同一であるため、説明を省略する。
【0058】
π-アリル構造としては、低温での反応性の観点において、置換基を有していてもよい炭素数3~10のπ-アリル構造が好ましく、下記式(al-1)~(al-5)で表されるπ-アリル構造がより好ましく、下記式(al-1)で表されるシンナミル基、下記式(al-2)で表されるクロチル基、下記式(al-3)で表されるアリル基がより好ましい。
【0059】
【化13】
【0060】
上記一般式(A)において、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基を表すが、RおよびRが、リン原子を有することはない。
炭素数1~20のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、および炭素数6~20のアリール基の定義は上記と同一であるため、説明を省略する。
【0061】
およびRは、低温での反応性の観点において、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、炭素数1~4のアルキル基がさらに好ましく、tert-ブチル基がさらにより好ましい。
【0062】
上記一般式(A)において、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1~20のアルキル基、または炭素数5~10のシクロアルキル基を表すが、RおよびRが同時に水素原子を表すことはない。
炭素数1~20のアルキル基、および炭素数5~10のシクロアルキル基の定義は上記と同一であるため、説明を省略する。
【0063】
およびRは、低温での反応性の観点において、水素原子、または炭素数1~4のアルキル基が好ましく、一方が水素原子であり、他方が炭素数1~4のアルキル基であること、あるいは両方が炭素数1~4のアルキル基であることがより好ましく、一方が水素原子であり、他方がメチル基であること、あるいは両方がメチル基であることがさらに好ましい。
【0064】
上記した一般式(A)で表される本発明のパラジウム錯体の好ましい実施態様として、例えば以下のものが挙げられる。
(1)RおよびRが連結して形成される環構造を表すパラジウム錯体、
(2)RおよびRが連結して形成される置換基を有していてもよい炭素数1~10の複素環式構造を表すパラジウム錯体、
(3)RおよびRが連結して形成される上記式(hc-1)~(hc-6)で表される複素環式構造を表すパラジウム錯体、
(4)RおよびRがアセチルアセトナト基であるパラジウム錯体、
(5)RおよびRが連結して形成されるπ-アリル構造を表すパラジウム錯体、
(6)RおよびRが連結して形成される置換基を有していてもよい炭素数3~10のπ-アリル構造を表すパラジウム錯体、
(7)RおよびRがシンナミル基であるパラジウム錯体、
(8)RおよびRがクロチル基であるパラジウム錯体、
(9)RおよびRがアリル基であるパラジウム錯体、
(10)RおよびRが炭素数1~20のアルキル基であるパラジウム錯体、
(11)RおよびRが炭素数1~10のアルキル基であるパラジウム錯体、
(12)RおよびRが炭素数1~4のアルキル基であるパラジウム錯体、
(13)RおよびRがtert-ブチル基であるパラジウム錯体、
(14)RおよびRの一方が水素原子であり、他方が炭素数1~4のアルキル基であるパラジウム錯体、
(15)RよびRの一方が水素原子であり、他方がメチル基であるパラジウム錯体、
(16)RおよびRが炭素数1~4のアルキル基であるパラジウム錯体、
(17)RおよびRがメチル基であるパラジウム錯体、
(18)RおよびRがtert-ブチル基であり、RおよびRの一方が水素原子であり、他方がメチル基であるパラジウム錯体、
(19)RおよびRがtert-ブチル基であり、RおよびRがメチル基であるパラジウム錯体、
(20)Xが塩素原子であるパラジウム錯体、
が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
本発明のパラジウム錯体のより好ましい実施態様としては、具体的には、クロロ(アセチルアセトナト)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム、クロロ(アセチルアセトナト)(ジ-tert-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン)パラジウム、クロロ(1,1,5,5-テトラフルオロ-2,4-ペンタンジオナト)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム、クロロ(1,1,5,5-テトラフルオロ-2,4-ペンタンジオナト)(ジ-tert-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン)パラジウム、クロロ(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム、クロロ(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)(ジ-tert-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン)パラジウム、クロロ(トリフルオロ-2,4-ペンタンジオナト)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム、クロロ(トリフルオロ-2,4-ペンタンジオナト)(ジ-tert-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン)パラジウム、クロロ(2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオナト)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム、クロロ(2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオナト)(ジ-tert-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン)パラジウム、クロロ(6-メチル-2,4-ヘプタンジオナト)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム、クロロ(6-メチル-2,4-ヘプタンジオナト)(ジ-tert-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン)パラジウム、クロロ(クロチル)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム、クロロ(クロチル)(ジ-tert-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン)パラジウム、クロロ(アリル)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム、クロロ(アリル)(ジ-tert-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン)パラジウム、クロロ(2-メチルアリル)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム、クロロ(2-メチルアリル)(ジ-tert-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン)パラジウム、クロロ(シンナミル)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム、クロロ(シンナミル)(ジ-tert-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン)パラジウム、クロロ(4-メチルフェニルアリル)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム、クロロ(4-メチルフェニルアリル)(ジ-tert-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン)パラジウム、クロロ(4-イソプロピルフェニルアリル)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム、クロロ(4-イソプロピルフェニルアリル)(ジ-tert-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン)パラジウムが挙げられる。
【0066】
上記の中でも、クロロ(アセチルアセトナト)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム、クロロ(クロチル)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム、クロロ(クロチル)(ジ-tert-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン)パラジウム、クロロ(アリル)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム、クロロ(シンナミル)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウムが好ましく、クロロ(アセチルアセトナト)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム、クロロ(クロチル)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム、クロロ(クロチル)(ジ-tert-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン)パラジウム、クロロ(シンナミル)(ジ-tert-ブチルクロチルホスフィン)パラジウムがさらに好ましい。
【0067】
[パラジウム錯体の製造方法]
本発明のパラジウム錯体の製造方法は、J.Org.Chem.,2011,76,pp7918-7932に記載の方法に準じる。より詳細には、一般式(a)で表されるパラジウム化合物を、下記一般式(b)で表されるホスフィン化合物と反応させてパラジウム錯体を得る工程、を含む。
【0068】
【化14】
(式中のRおよびRは、上記と同一の定義であるため、説明を省略する。)
【0069】
【化15】
(式中のR~Rは、上記と同一の定義であるため、説明を省略する。)
【0070】
パラジウム錯体を得る反応は、一般式(a)で表されるパラジウム化合物と、一般式(b)で表されるホスフィン化合物と、テトラヒドロフラン(以下、「THF」と記載する)等の溶媒と、を必要に応じて加熱し、撹拌することで行うことができる。
【0071】
撹拌の条件として、撹拌時間は、通常30分~3時間である。撹拌温度は、通常20~50℃である。撹拌は、大気雰囲気下で行ってもよく、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気下で行ってもよい。
撹拌後、溶媒を留去することでパラジウム錯体を単離することができる。
【0072】
一般式(b)で表されるホスフィン化合物の添加量は、一般式(a)で表されるパラジウム化合物1molに対して、通常2.0~2.2molである。
また、溶媒の使用量は、一般式(a)で表されるパラジウム化合物1gに対して、通常1~10mlである。
【0073】
[カップリング反応触媒]
本発明のカップリング反応触媒は、上記したパラジウム錯体からなる。本発明のパラジウム錯体からなるカップリング反応触媒が、室温程度の低温での反応活性を奏する理由は明らかではないが、触媒反応条件下において、2価パラジウム種から0価パラジウム種への還元反応を、パラジウムに配位したアルケニル構造を備えるホスフィンが促進することで、カップリング反応に対して高い活性を持つパラジウム(0)ホスフィン種の生成が容易になったことが原因であると推察される。そして、中でもアセチルアセトナト基、シンナミル基、クロチル基、またはアリル基を用いることで、好適にパラジウム(0)ホスフィン種が生成し、反応が容易になったものと考えられる。
【0074】
上記したパラジウム錯体をカップリング反応触媒として使用する例として、後述する鈴木-宮浦カップリング反応以外にも次に示す類似のカップリング反応や化学反応で使用することができる。
(a)有機スズ化合物と、離脱基としてハロゲンまたは擬ハロゲンを有する炭素求電子体とのスティル-クロスカップリング;
(b)オルガノシランと、アリール、ヘテロアリール、またはビニルのハロゲン化物もしくは擬ハロゲン化物と、のヒヤマ-クロスカップリング;
(c)有機亜鉛化合物と、アリール、ヘテロアリール、またはビニルのハロゲン化物もしくは擬ハロゲン化物と、のネギシ-クロスカップリング;
(d)グリニャール化合物と、アリール、ヘテロアリール、またはビニルのハロゲン化物もしくは擬ハロゲン化物と、のクマダ-クロスカップリング;
(e)末端アルキンと、アリール、ヘテロアリール、またはビニルのハロゲン化物もしくは擬ハロゲン化物と、のソノガシラ-クロスカップリング;
(f)エノレートおよび他の安定化されたカルバニオンの、アリール、またはヘテロアリールのハロゲン化物もしくは擬ハロゲン化物によるα-アリール化;
(g)アリール、またはヘテロアリールのハロゲン化物もしくは擬ハロゲン化物のシアノ化;
(h)アリール、またはヘテロアリールのハロゲン化物もしくは擬ハロゲン化物のカルボニル化;
(i)アリール、ヘテロアリール、またはビニルのハロゲン化物もしくは擬ハロゲン化物の、オレフィンへのヘック-カップリング。
【0075】
[芳香族化合物の製造方法]
本発明の芳香族化合物の製造方法は、上記したパラジウム錯体の存在下、芳香族ボロン酸化合物(B)または芳香族ボロン酸エステル(B’)と、芳香族化合物(C)とを、カップリング反応させて、炭素-炭素カップリング反応生成物(D)を製造する方法である。
本発明の芳香族化合物の製造方法は、芳香族ボロン酸化合物(B)または芳香族ボロン酸エステル(B’)と、芳香族化合物(C)から炭素-炭素結合を生成して、芳香族化合物を製造する鈴木-宮浦カップリング反応である。
【0076】
本発明の芳香族化合物の製造方法では、室温、常圧という極めて温和な条件で、目的物を生成することができる。したがって、本発明の芳香族化合物の製造方法は、情報電子材料や、医農薬中間体の製造工程に有用であり、工業的に極めて価値が高い。
【0077】
芳香族ボロン酸化合物(B)とは、芳香環とボロン酸基を分子内に含むものをいう。芳香族ボロン酸化合物(B)として、例えば、アセチルベンゼンボロン酸、アミノベンゼンボロン酸、ベンゼンボロン酸、ベンゼンジボロン酸、ベンジルオキシベンゼンボロン酸、ビフェニルボロン酸、ビフェニルジボロン酸、(トリフルオロメトキシ)ベンゼンボロン酸、(トリフルオロメチル)ベンゼンボロン酸、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンボロン酸、カルボキシベンゼンボロン酸、カルボキシエチルベンゼンボロン酸、(カルボキシビニル)ベンゼンボロン酸、シアノベンゼンボロン酸、メトキシベンゼンボロン酸、ジメトキシベンゼンボロン酸、トリメトキシベンゼンボロン酸、メチルベンゼンボロン酸、ジメチルベンゼンボロン酸、エチルベンゼンボロン酸、プロピルベンゼンボロン酸、ブチルベンゼンボロン酸、ペンチルベンゼンボロン酸、ノニルベンゼンボロン酸、(メタンスルフィニル)ベンゼンボロン酸、(メタンスルフォニル)ベンゼンボロン酸、(エタンスルフォニル)ベンゼンボロン酸、(メチルチオ)ベンゼンボロン酸、(エチルチオ)ベンゼンボロン酸、フォルミルベンゼンボロン酸、フォルミル-メトキシベンゼンボロン酸、ヒドロキシベンゼンボロン酸、(ヒドロキシメチル)ベンゼンボロン酸サイクリックモノエステル、(ヒドロキシメチル)ベンゼンボロン酸、ビニルベンゼンボロン酸、(メトキシカルボニル)ベンゼンボロン酸、ニトロベンゼンボロン酸、(ニトロビニル)ベンゼンボロン酸、イソプロピル-メトキシベンゼンボロン酸、(メチレンジオキシ)ベンゼンボロン酸、ナフタレンボロン酸、およびメトキシナフタレンボロン酸が挙げられる。
【0078】
芳香族ボロン酸エステル(B’)とは、芳香環とボロン酸エステル基を分子内に含むものをいう。芳香族ボロン酸エステル(B’)として、例えば、芳香族ボロン酸化合物(B)のボロン酸基の1つまたは2つとのエステル構造を形成するものが挙げられる。また、該エステル構造は、同一分子がボロン酸基の2つの水酸基とともにエステル構造をなし、2つの酸素原子を含む環構造を形成するものであってもよい。
芳香族ボロン酸エステル(B’)として、例えば、5,5-ジメチル-2-フェニル-1,3,2-ジオキサボリナン、5,5-ジメチル-2-(4-フルオロフェニル)-1,3,2-ジオキサボリナン、3-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)安息香酸メチル、5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ベンゼン-1,3-ジカルボン酸ジメチル、4,4,5,5-テトラメチル-2-(2-アズレニル)-1,3,2-ジオキサボロラン、および5,5-ジメチル-2-(2,4,6-トリメチルフェニル)-1,3,2-ジオキボリナンが挙げられる。
【0079】
また、芳香族ボロン酸化合物(B)または芳香族ボロン酸エステル(B’)の芳香環は、適宜置換基を有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルキル基(例えば、炭素数1~10のアルキル基)、アルケニル基(例えば、炭素数2~10のアルケニル基)、アルキニル基(例えば、炭素数2~10のアルキニル基)、アルコキシ基(例えば、炭素数1~10のアルコキシ基)、水酸基、アミノ基、モノ又はジアルキルアミノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、炭素数1~10のアルコキシカルボニル基)、シアノ基、ニトロ基、ケイ素を含む基(例えば、トリアルキルシリル基)、アシル基(例えば、アセチル基、ホルミル基)、アミノカルボニル基、アリール基(例えば、フェニル基)、ヘテロアリール基(例えば、ピリジル基、ピロリル基、フリル基)、リン原子を含む基(例えば、ジアルキルホスフィノ基、ジアリールホスフィノ基、ジアルキルホスフォリル基、ジアリールホスフォリル基、ジアルコキシホスフォリル基、ジアリールオキシホスフォリル基)、および硫黄原子を含む基(例えば、チエニル基、スルホ基、スルフィノ基、スルフェノ基)が挙げられる。芳香環は、例示した置換基の中から選ばれる1~3個の置換基を有していてもよい。
【0080】
芳香族化合物(C)とは、芳香族ボロン酸化合物(B)または芳香族ボロン酸エステル(B’)以外であって、芳香族ボロン酸化合物(B)または芳香族ボロン酸エステル(B’)との炭素-炭素カップリング反応生成物の製造に用いることができる芳香族化合物をいう。
芳香族化合物(C)として、例えば、1-ブロモ-4-ニトロベンゼン、p-ブロモアニソール、o-ブロモトルエン、1-ブロモ-2,4,6-トリメチルベンゼン、4-ブロモ-2,6-ジクロロフェノール、2-ブロモベンゾニトリル、および4,7-ジブロモ-2-アルキル-2H-ベンゾトリアゾールなどのハロゲン化芳香族化合物が挙げられる。
【0081】
また、芳香族化合物(C)の芳香環は、適宜置換基を有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルキル基(例えば、炭素数1~10のアルキル基)、アルケニル基(例えば、炭素数2~10のアルケニル基)、アルキニル基(例えば、炭素数2~10のアルキニル基)、アルコキシ基(例えば、炭素数1~10のアルコキシ基)、水酸基、アミノ基、モノ又はジアルキルアミノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、炭素数1~10のアルコキシカルボニル基)、シアノ基、ニトロ基、ケイ素を含む基(例えば、トリアルキルシリル基)、アシル基(例えば、アセチル基、ホルミル基)、アミノカルボニル基、アリール基(例えば、フェニル基)、ヘテロアリール基(例えば、ピリジル基、ピロリル基、フリル基)、リン原子を含む基(例えば、ジアルキルホスフィノ基、ジアリールホスフィノ基、ジアルキルホスフォリル基、ジアリールホスフォリル基、ジアルコキシホスフォリル基、ジアリールオキシホスフォリル基)、および硫黄原子を含む基(例えば、チエニル基、スルホ基、スルフィノ基、スルフェノ基)が挙げられる。芳香環は、例示した置換基の中から選ばれる1~3個の置換基を有していてもよい。
【0082】
また、本発明の芳香族化合物の製造方法は、塩基の共存下でカップリング反応を行ってもよい。本発明の芳香族化合物の製造方法で共存させてもよい塩基としては、有機塩基でも無機塩基でも適宜用いることができる。
【0083】
有機塩基としては、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、アニリン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノン-5-エン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、および1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン等のアミン類が挙げられる。
無機塩基としては、例えば、アルカリ金属類(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等)またはアルカリ土類金属類(ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等)の水酸化物、フッ化物、炭酸化合物、炭酸水素化合物、もしくは燐酸化合物が挙げられる。より具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸三カリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、およびメタほう酸ナトリウム等が挙げられる。
上記にて例示した塩基は1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0084】
また、塩基の添加量は、反応物の1つである芳香族化合物(C)1モルに対して、0.1~10モルの範囲で用いることができ、0.5~3モルの範囲であってもよい。
【0085】
また、本発明の芳香族化合物の製造方法は、他の任意成分として、塩化ナトリウムのような無機塩などの存在下でカップリング反応を適宜実施してもよい。
【0086】
また、本発明の芳香族化合物の製造方法は、特に制限されないが、公知の固相触媒を用いたカップリング反応を適宜用いることができる。また、本発明の芳香族化合物の製造方法において、鈴木-宮浦カップリングを用いることが好ましい。上記炭素-炭素カップリング生成物の製造方法を用いることにより、鈴木-宮浦カップリングなどにおいても、反応中または反応後の固体触媒と生成物との分離が容易となる。
【0087】
芳香族ボロン酸化合物(B)または芳香族ボロン酸エステル(B’)と、芳香族化合物(C)との使用量の割合は、モル比で、[芳香族ボロン酸化合物(B)または上記芳香族ボロン酸エステル(B’)]:[芳香族化合物(C)]が0.5~10:1とすることができ、0.8~2:1の範囲であってもよい。
【0088】
また、本発明の芳香族化合物の製造方法において用いられる溶媒には、特に制限されないが、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロへキサノン、n-へキサン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、n-ブチルメチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、シメン、メシチレン、ジイソプロピルベンゼン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、アミノエタノール、N,N-ジメチルアミノエタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、4塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、ジメチルフォルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメトキシエタン(DME)、および水が挙げられる。中でも、好ましくは、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~6のアルコール;トルエン等の芳香族炭化水素;1,4-ジオキサン等の極性有機溶媒;またはこれらの組み合わせが挙げられる。これらのなかでも、トルエンと水との混合溶媒がより好ましい。トルエンと水との混合溶媒を用いる場合、トルエンと水との容量比は、1:9~9:1の範囲が好ましい。
【0089】
また、本発明の芳香族化合物の製造方法において、用いられるパラジウム錯体の添加量は、反応物の1つである芳香族化合物(C)に対して、パラジウムとして、0.001~20モル%の範囲で用いることができ、0.01~10モル%の範囲であってもよく、0.05~5モル%の範囲であってもよい。
【0090】
また、本発明の芳香族化合物の製造方法において、カップリング反応は、例えば、空気雰囲気中または窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気中で行われ得るが、好ましくは不活性ガス雰囲気中で行われる。
【0091】
カップリング反応の反応温度は、40℃以下が好ましく、20~40℃がより好ましく、室温~40℃がさらに好ましい。また、反応時間は、0.1~48時間で任意に設定することができる。
【0092】
本発明のパラジウム錯体を、上記したようなカップリング反応触媒として使用することにより、温和な反応条件であっても、カップリング反応が短時間に進行し、目的生成物を得ることができる。
【実施例0093】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0094】
<原料:パラジウム錯体>
(製造例A-1:クロロ(アセチルアセトナト)(ジ-t-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム(II):[PdCl(acac)(Crophos)])
充分に窒素置換した100mL容量のナス型フラスコに、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム錯体3.6gとテトラヒドロフラン15mLを加えた。ここに、ジ-t-ブチルクロチルホスフィン2.5gを添加し、60分間撹拌した。次に、4M HClジオキサン溶液3mLを添加し、2時間撹拌した。エバポレーターを用いて溶媒を留去し、ヘキサン10mLで洗浄した。得られた固体を乾燥し、目的とするクロロ(アセチルアセトナト)(ジ-t-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム(II)を得た。得られたパラジウム錯体の構造を下記に示す。なお、パラジウム原料に対する生成物の生成割合(収率)は、95%であった。
【0095】
【化16】
【0096】
(製造例A-2:クロロ(クロチル)(ジ-t-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム(II):[PdCl(crotyl)(crophos)])
十分に窒素に置換した三角フラスコに、ジ-μ-クロロビス[(η-クロチル)パラジウム(II)]0.97gとテトラヒドロフラン2mLとジ-t-ブチルクロチルホスフィン1.0gとを室温で加え、60分間撹拌した。エバポレーターで溶媒を留去し、ヘキサン10mLで洗浄した。得られた沈殿をデシケーターで乾燥し、H NMRおよび31P NMRで評価した結果、目的とするクロロ(クロチル)(ジ-t-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム(II)を得た。得られたパラジウム錯体の構造を下記に示す。なお、パラジウム原料に対する生成物の生成割合(収率)は、70%であった。
H NMR(400MHz,CDCl)ピーク位置:5.76(1H,m)、5.56(1H,m)、5.12(1H,m)、4.38(1H,m)、3.57(1H,m)、2.93(2H,m)、2.48(1H,d,J=11.6Hz)、1.80(3H,dd,J=8.4Hz,6.4Hz)、1.68(3H,m)、1.30(18H,m)。
31P NMR(162Hz,CDCl)ピーク位置:59.8、57.3。
【0097】
【化17】
【0098】
(製造例A-3:クロロ(アリル)(ジ-t-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム(II):[PdCl(C3H5)(crophos)])
十分に窒素に置換した三角フラスコに、ジ-μ-クロロビス[(η-アリル)パラジウム(II)]9.1gとテトラヒドロフラン20mLとジ-t-ブチルクロチルホスフィン10.0gとを室温で加え、一晩撹拌した。エバポレーターで溶媒を留去し、ヘキサン20mLで洗浄した。得られた沈殿をデシケーターで乾燥し、目的とするクロロ(アリル)(ジ-t-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム(II)を得た。得られたパラジウム錯体の構造と、H NMRおよび31P NMRの評価結果を下記に示す。なお、パラジウム原料に対する生成物の生成割合(収率)は、54%であった。
H NMR(400MHz,CDCl)ピーク位置:5.73(1H,m)、5.55(1H,m)、5.40(1H,m)、4.72(1H,m)、3.81(1H,m)、3.69(1H,m)、2.90(2H,m)、2.67(1H,d,J=12.0Hz)、1.68(3H,m)、1.32(18H,m)。
31P NMR(162Hz,CDCl)ピーク位置:57.4、55.2。
【0099】
【化18】
【0100】
(製造例A-4:クロロ(シンナミル)(ジ-t-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム(II):[PdCl(cinnamyl)(crophos)])
十分に窒素に置換した三角フラスコに、ジ-μ-クロロビス[(η-シンナミル)パラジウム(II)]1.3gとテトラヒドロフラン2mLとジ-t-ブチルクロチルホスフィン1.0gとを室温で加え、一晩撹拌した。エバポレーターで溶媒を留去し、ヘキサン10mLで洗浄した。得られた沈殿をデシケーターで乾燥し、目的とするクロロ(シンナミル)(ジ-t-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム(II)を得た。得られたパラジウム錯体の構造とH NMRおよび31P NMRの評価結果を下記に示す。なお、パラジウム原料に対する生成物の生成割合(収率)は、58%であった。
H NMR(400MHz,CDCl)ピーク位置:7.51(2H,m)、7.35(3H,m)、5.79(2H,m)、5.57(1H,m)、5.23(1H,dd,J=13.2Hz,J=9.6Hz)、3.74(1H,m)、2.92(2H,m)、2.72(1H,d,J=11.6Hz)、1.69(3H,m)、1.30(18H,d,J=12.4Hz)。
31P NMR(162Hz,CDCl)ピーク位置:62.1、59.6。
【0101】
【化19】
【0102】
(製造例A-5:クロロ(クロチル)(ジ-t-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン)パラジウム(II):[PdCl(crotyl)(m-crophos)])
十分に窒素に置換した三角フラスコに、ジ-μ-クロロビス[(η-クロチル)パラジウム(II)]0.9gとテトラヒドロフラン2mLとジ-t-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン1.0gとを室温で加え、一晩撹拌した。エバポレーターで溶媒を留去し、ヘキサン10mLで洗浄した。得られた沈殿をデシケーターで乾燥し、目的とするクロロ(クロチル)(ジ-t-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン)パラジウム(II)を得た。得られたパラジウム錯体の構造とH NMRおよび31P NMRの評価結果を下記に示す。なお、パラジウム原料に対する生成物の生成割合(収率)は、74%であった。
H NMR(400MHz,CDCl)ピーク位置:5.43(1H,m)、5.13(1H,m)、4.38(1H,m)、3.51(1H,d,J=2.0Hz)、2.86(2H,m)、2.47(1H,d,11.6Hz)、1.80(3H,dd,J=8.4Hz,J=6.4Hz)、1.72(3H,s)、1.67(3H,s)、1.30(18H,dd,J=13.2Hz,J=2.0Hz)。
31P NMR(162Hz,CDCl):59.4。
【0103】
【化20】
【0104】
(B-1:ジクロロビス(ジ-t-ブチルクロチルホスフィン)パラジウム(II):[PdCl(Crophos)])
エヌ・イー ケムキャット社製、製品名NECO-295である。構造を下記に示す。
【0105】
【化21】
【0106】
(B-2:ジクロロビス(ジ-t-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン)パラジウム(II):[PdCl(m-Crophos)])
エヌ・イー ケムキャット製、製品名NECO-296である。構造を下記に示す。
【化22】
【0107】
(B-3:ジクロロビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム(II):[PdCl(PCy])
エヌ・イーケムキャット株式会社製、製品名「[PdCl(PCy]」である。構造を下記に示す。
【化23】
【0108】
(B-4:クロロフェニルアリル[1,3-ビス(ジイソプロピルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン]パラジウム(II):[PdCl(cinnamyl)(SIpr)]
Umicore社製、製品名CX-32である。構造を下記に示す。
【化24】
【0109】
(製造例B-5:クロロ(アリル)(2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジイソプロポキシ-1,1’-ビフェニル)パラジウム(II):[PdCl(C)(Ruphos)]
十分に窒素に置換した三角フラスコに、ジ-μ-クロロビス[(η-アリル)パラジウム(II)]0.86g(4.7mmol)と2-ジシクロへキシルホスフィノ-2’,6’-ジイソプロポキシビフェニル(RuPhos)2.2g(4.7mmol)とテトラヒドロフラン4mLを室温で加え、一晩撹拌した。ヘキサン20 mLを加えた後に生じた沈殿を濾別し、ヘキサン10mLで洗浄することにより、目的とするクロロ(アリル)(2-ジシクロへキシルホスフィノ-2’,6’-ジイソプロポキシ-1,1’-ビフェニル)パラジウム(II)を黄色粉末として得た。得られたパラジウム錯体の構造を下記に示す。なお、パラジウム原料に対する生成物の生成割合(収率)は、77%であった。
【0110】
【化25】
【0111】
<反応:芳香族化合物の製造方法>
<実施例1>
4-ブロモアニソール1等量、フェニルボロン酸1.1等量、Pd錯体(A-1)0.001等量、リン酸三カリウム1.2等量を、トルエン/水混合溶媒(体積比9:1)に混合し、室温にて、1時間攪拌した。得られた反応混合物について、ガスクロマトグラフを用いて、定量を行った。原料(4-ブロモアニソール基準)に対し、得られた目的物である4-メトキシビフェニルの収率は、95%であった。
【0112】
<実施例2~5、比較例1~5>
パラジウム錯体(A-1)を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様に評価した。各実施例および比較例において得られた目的物の収率を表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
表1からわかるように本発明のパラジウム錯体(カップリング反応触媒)を用いると、室温という温和な反応条件であっても、カップリング反応が1時間という短時間で進行することがわかる。
よって、本発明のパラジウム錯体(カップリング反応触媒)は、情報電子材料や、医農薬中間体の製造に有用であり、工業的に極めて価値が高いといえる。