(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084447
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】付加硬化型シリコーン組成物、硬化挙動の制御方法、硬化物の製造方法、および、硬化物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20220531BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020196334
(22)【出願日】2020-11-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】500004955
【氏名又は名称】旭化成ワッカーシリコーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】淺川 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】神谷 正人
(72)【発明者】
【氏名】池田 祐樹
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CP04X
4J002CP14W
4J002GB01
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】付加硬化型シリコーン組成物の硬化挙動を制御する方法を提供する。
【解決手段】シリコーンレジンの付加硬化反応速度を質量平均分子量で見積もる段階(段階1)、前記シリコーンレジンとして質量平均分子量の異なる2種類以上を選択し、その混合質量比を決定する段階(段階2)、前記段階2で選択した付加硬化型シリコーン組成物を作製する段階(段階3)、前記段階3の付加硬化型シリコーン組成物を加温し、その過程の硬化挙動として、加熱時間と硬化度関連物性の硬化曲線を得る段階(段階4)、前記硬化曲線が所望する硬化挙動と一致するかを判断する段階(段階5)を有し、所望する硬化挙動が得られるまで、前記段階5の判断とそれに基づいて段階1~4のいずれかの段階に戻ることを繰り返すことを特徴とする、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化挙動を制御する方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化挙動を制御する方法であって、
前記アルケニル基を有するシリコーンレジンが単独で、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと付加硬化する反応速度を、前記シリコーンレジンの質量平均分子量との関係で見積もる段階(段階1)、
前記段階1での結果をもとに、前記付加硬化型シリコーン組成物を、最終硬化状態に至るまで加熱する過程で、温度に応じて所望の硬化挙動を発現するように、前記シリコーンレジンとして、質量平均分子量の異なる、2種類以上の、アルケニル基を有するシリコーンレジンを選択し、その混合質量比を決定する段階(段階2)、
前記段階2で選択したシリコーンレジン混合物に、さらにアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、付加硬化触媒と、必要に応じて反応遅延剤を加えて付加硬化型シリコーン組成物を作製する段階(段階3)、
前記段階3で得られた付加硬化型シリコーン組成物を、最終硬化状態に至るよう加熱し、その過程の硬化挙動として、加熱時間と硬化度関連物性を測定して、加熱時間と硬化度関連物性の硬化曲線を得る段階(段階4)、
前記段階4で得られた硬化曲線が、所望する硬化曲線と一致した場合は制御を完了し、一致しない場合は、前記段階1から前記段階4のいずれか1つの段階まで戻る判断を行う段階(段階5)、
を有し、
所望する硬化曲線が得られるまで、前記段階5の判断とそれに基づいて段階1~4のいずれかの段階に戻ることを繰り返すことを特徴とする、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化挙動を制御する方法。
【請求項2】
前記アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化挙動を制御する方法が、成形型にて硬化する場合のものであり、
前記硬化曲線上にある、加熱時間の異なる2点間によって定まる領域であって、前記領域が、最終硬化状態に至る硬化過程の途中段階にあって、未反応基を有する硬化物を、当該成形型から変形、あるいは損傷なく脱型できる領域であり、
加熱する過程で前記領域が開始する限界点、もしくは、目的に応じて設定した、その限界点よりも以降の任意の点、のいずれかを開始点P1、一方、前記領域が終了する限界点、もしくは、目的に応じて設定した、その限界点よりも以前の任意の点、のいずれかを終了点P2とし、
前記開始点P1と前記終了点P2を経由する硬化曲線の描かれ方を制御することで、目的に応じて、前記領域の現れ方を、加熱条件との関係において、随意に制御することを特徴とする、請求項1に記載の付加硬化型シリコーン組成物の硬化挙動を制御する方法。
【請求項3】
質量平均分子量の異なる、2種類以上の、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含有する、付加硬化型シリコーン組成物であって、前記シリコーン組成物を最終硬化状態に至るよう加熱する過程での、加熱温度に応じた硬化曲線が、前記シリコーンレジンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加硬化の反応速度により調整されていることを特徴とする、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物。
【請求項4】
前記アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物は、成形型にて硬化する場合のものであり、最終硬化状態に至る硬化過程の途中段階にあって、未反応基を有する硬化物を、当該成形型から変形、あるいは損傷なく脱型できる硬化度関連物性の測定値の領域を有しており、目的に応じて前記領域を任意に設定するための前記開始点P1と前記終了点P2が調整されていることを特徴とする、請求項3に記載の、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物。
【請求項5】
前記硬化曲線上に開始点P1および終了点P2が存在し、かつ所望の脱型性を有するように、前記開始点P1から前記終了点P2へ至る経過時間が調整され、かつ、当該脱型物を最終硬化段階まで硬化した場合に、所望の硬化度関連物性値が得られるように調整されていることを特徴とする、請求項4に記載の、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物。
【請求項6】
ケイ素原子に結合したアルケニル基を、1分子中に1個以上有し、質量平均分子量がMw(1)であり、前記Mw(1)に応じて定められる第一硬化速度を有するシリコーンレジン(1)と、
ケイ素原子に結合したアルケニル基を、1分子中に1個以上有し、質量平均分子量がMw(2)であり、Mw(2)は前記Mw(1)よりも大きく、前記Mw(2)に応じて定められる、前記第一硬化速度よりも遅い第ニ硬化速度を有するシリコーンレジン(2)、
を含む、
微粉末シリカを含まない付加硬化型シリコーン組成物であって、
前記Mw(2)と前記Mw(1)の差が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算で2、000g/mol以上であり、
かつ、前記シリコーンレジン(1)と前記シリコーンレジン(2)の混合質量比を調整することで、得られる硬化物の前記最終硬化状態での硬さと、
前記硬化曲線上の開始点P1と終了点P2の2点間によって定められ、最終硬化状態に至る硬化過程の途中段階にあって、未反応基を有する硬化物を、当該成形型から変形、あるいは損傷なく脱型できる領域内で取り出した硬化物の硬さの差が、ショアA硬さで7以上であることを特徴とする、請求項4または請求項5に記載のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物。
【請求項7】
前記成分(B)のシリコーンレジンが、ケイ素原子に結合したアルケニル基を、1分子中に1個以上有し、R1
3SiO1/2単位(M単位)およびSiO4/2単位(Q単位)より構成されるMQ単位のシリコーンレジン、または、ケイ素原子に結合したアルケニル基を、1分子中に1個以上有し、R1SiO3/2単位(T単位)より構成されるシルセスキオキサンの少なくとも一方であるシリコーンレジン(ただし、式中、R1は、互いに同一または異種の炭素数1~18の非置換の、もしくは置換された一価炭化水素基またはOH基である。)を含むことを特徴とする、請求項6に記載のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物。
【請求項8】
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を、1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に結合したアルケニル基を、1分子中に1個以上有するシリコーンレジンの混合物であって、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の質量平均分子量が、
(B-1)3,000g/mol以下の低分子量のシリコーンレジンと、
(B-2)5,000~10,000g/molの高分子量のシリコーンレジン、
を含み、
(B-1)と(B-2)の混合質量比が、(B-1):(B-2)=70:30~1:99であるシリコーンレジン混合物:0.5~150質量部、
(C)ケイ素原子に結合した水素原子を、1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであって、成分(C)中の、ケイ素原子に結合した水素原子が、前記成分(A)と前記成分(B)中のアルケニル基の合計1モルに対して、1モル以上、20モル以下となる量、
(D)付加硬化触媒を有効量、
を含む、
微粉末シリカを含まない付加硬化型シリコーン組成物であって、
得られる硬化物の前記最終硬化状態での硬さと、
前記硬化曲線上の開始点P1と終了点P2の2点間によって定められ、最終硬化状態に至る硬化過程の途中段階にあって、未反応基を有する硬化物を、当該成形型から変形、あるいは損傷なく脱型できる領域内で取り出した硬化物の硬さの差が、ショアA硬さで7以上であることを特徴とする、請求項6または請求項7に記載の、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物。
【請求項9】
アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法であって、
前記アルケニル基を有するシリコーンレジンが単独で、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと付加硬化する反応速度を、前記シリコーンレジンの質量平均分子量との関係で見積もる工程(工程1)、
前記工程1での結果をもとに、前記付加硬化型シリコーン組成物を、最終硬化状態に至るまで加熱する過程で、温度に応じて所望の硬化挙動を発現するように、前記シリコーンレジンとして、質量平均分子量の異なる、2種類以上の、アルケニル基を有するシリコーンレジンを選択し、その混合質量比を決定する工程(工程2)、
前記工程2のシリコーンレジン混合物に、さらにアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、付加硬化触媒と、必要に応じて反応遅延剤を加えて付加硬化型シリコーン組成物を作製する工程(工程3)、
前記工程3で得られた付加硬化型シリコーン組成物を、最終硬化状態に至るように加熱し、その過程の硬化挙動として、加熱時間と硬化度関連物性を測定して、加熱時間と硬化度関連物性の硬化曲線を得る工程(工程4)、
前記工程4で得られた硬化曲線が、所望する硬化曲線と一致した場合は、工程6へ進み、一致しない場合は、前記工程1から前記工程4のいずれか1つの工程まで戻る判断を行う工程(工程5)、を有し、
所望する硬化曲線を有する硬化物が得られるまで、前記工程5の判断とそれに基づいて工程1~4のいずれかの段階に戻ることを繰り返すことで、当該条件にて、前記組成物を硬化し、最終硬化状態、または、最終硬化状態に至る過程の任意の途中段階で成形型から取り出して硬化物製品とする工程(工程6)、
を有することを特徴とする、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法。
【請求項10】
請求項4ないしは請求項8のいずれか1項に記載のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物に含まれる成分を、分配組成物1と分配組成物2とに分配されるように、前記分配組成物1と前記分配組成物2とを製造する製造工程と、
前記製造工程で得られた前記分配組成物1と前記分配組成物2を混合して、微粉末シリカを含まない付加硬化型シリコーン組成物を得る混合工程と、
前記混合工程で得られた付加硬化型シリコーン組成物を、成形型内で一次硬化して第一硬さを有する硬化物を得る硬化工程と、
得られた硬化物を前記成形型から脱型する脱型工程と、
脱型後の前記硬化物を、成形型外で二次硬化して第二硬さを有する硬化物を得る硬化工程、
を含み、
前記硬化物の第二硬さと第一硬さの差が、ショアA硬さで7以上であることを特徴とする、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法。
【請求項11】
前記製造工程において、前記分配組成物1と前記分配組成物2とを、それぞれ、ふるいに通す分散工程を含むことを特徴とする、請求項10に記載のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法。
【請求項12】
前記硬化工程において、一次硬化温度が100~170℃の範囲で、かつ、二次硬化温度が150~210℃の範囲であることを特徴とする、請求項10または11に記載のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法。
【請求項13】
前記硬化物の第二硬さが、ショアA硬さで65以上であることを特徴とする、請求項10~12のいずれか1項に記載のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法。
【請求項14】
前記硬化物は、厚さ2mmの硬化シートの光透過率が、400nmで85%以上であることを特徴とする、請求項10~12のいずれか1項に記載のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法。
【請求項15】
アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物であって、
成形型内で一次硬化した第一硬さと、成形型外で二次硬化した第二硬さの差が、ショアA硬さで7以上であることを特徴とするアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物。
【請求項16】
前記硬化物の第二硬さが、ショアA硬さで65以上である、請求項15に記載の硬化物。
【請求項17】
前記硬化物は、厚さ2mmの硬化シートの光透過率が、400nmで85%以上である、請求項15または16に記載の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素原子に結合したアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、ケイ素原子に結合したアルケニル基を有するシリコーンレジンの混合物と、ケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む、微粉末シリカを含まない付加硬化型シリコーン組成物であって、前記シリコーンレジンの質量平均分子量に応じて定められる硬化速度を利用して、硬化物の一次硬化後と二次硬化後の硬さの差を、ショアA硬さで7以上とすることで、特に金型成形において、高硬度、かつ、高透明な硬化物を、ひずみや傷、割れなどを生じることなく金型から脱型することができる、付加硬化型シリコーン組成物およびその硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムをはじめとする硬化型ゴム製品には、硬化物の硬度や強度を十分に高めなくてはならない用途がある。そのため、その製造工程では、通常、二次硬化と称し、一次硬化後に追加的な加熱を行う。一次硬化では、硬化しようとするシリコーンゴム組成物の表面から熱が伝わるため、表面と内部で硬化の進行に差を生じやすく、硬化物の内部にひずみや未硬化部分が残る。そこで、硬化物中の分子を熱力学的に最も安定な位置に収めるように、一次硬化後に一旦加熱を解き、ひずみを取り除いた状態で二次硬化を行い、物性をより向上させる。二次硬化は非常に有効な方法であり、これによって、特に高硬度で伸びが低い高強度の硬化物は、より硬く、より強靭にすることができる。
【0003】
一方、硬化型ゴム製品の量産方法のひとつとして金型成形が知られている。そして、その製造工程では、加工が容易であること、不良品を発生させないことが要求される。一方、金型成形の難易度は、金型の形状や成形条件に加え、硬化物の特性によって決まり、金型成形性が高いとされる硬化型ゴムには、脱型に耐えうるに十分な強度、例えば、高伸びや強靭なしなやかさ、といった特性が要求され、そのような硬化物は、変形、ひずみ、傷、割れなどを生じることなく、金型から脱型することができる。
ところが、従来の硬化型ゴムで、特に高硬度で伸びが低く高強度な硬化物は、硬化温度が高く、硬化時間が長くなるほど、さらに硬くなって伸びが低下するため、金型から脱型することができなかった。
このように、従来は、硬化物をより硬く、より強靭にしたいという要求と、金型成形性、特に脱型性を高めたいという要求とを両立することは難しく、金型成形加工上の大きな制約となっていた。
【0004】
硬化型ゴムに属する付加硬化型シリコーンゴムは、耐熱性、耐寒性、耐候性、安全性、透明性、肌触りの良さ、などに優れるため、医療、食品、工芸、電気・電子、自動車、建材、事務機器など、さまざまな分野に使用されている。そして、これらの分野に使用されるシリコーン組成物に対して、さらに、立体的三次元構造を有するシリコーンレジンを配合することで、耐熱性、耐候性、電気絶縁性、撥水性、高硬度、透明性といった特性を、より一層向上させることが従来より行われている。
例えば、特許文献1には、付加硬化型シリコーン組成物に、ビニル基を有するシリコーンレジンと微粉末シリカを配合し、硬化物をより高硬度、高モジュラス、高引裂にする方法が開示されているが、硬化物は高硬度で伸びが低く、金型脱型時に裂けたり、損傷するため、金型成形性を高めることができなかった。
【0005】
また、付加硬化型シリコーン組成物には、光学用途など、より高透明が要求される用途がある。そのような用途に対しては、例えば、特許文献2には、微粉末シリカなどの無機充填材を全く配合しない方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-331079号公報
【特許文献2】特開2018-48214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、微粉末シリカを含まないシリコーン組成物で、特に、アルケニル基を有する、MQ単位を含むシリコーンレジンを多く配合するものは、硬化物が高硬度で高透明になりやすい反面、補強充填剤である微粉末シリカが含まれないため、シリコーンゴムに対する補強効果が全く失われてしまい、一次硬化時点の硬化物の強度と伸び・しなやかさのバランスが著しく失われ、あるいは、一次硬化時点での硬化物の物性が著しくばらつき、特に複雑な形状や微細な加工形状を有する製品では、金型から脱型できなくなっていた。すなわち、微粉末シリカを含まないシリコーン組成物においては、硬化物をより硬く、より強靭にしたいという要求と、金型成形性を高めたいという要求とを両立することが、より一層困難であり、もはや実用的な金型成形は著しく制約されていた。
【0008】
よって、本発明は、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の最終硬化状態に達するまで加熱する過程での硬化挙動を制御し、目的に応じた所望の硬化挙動へと最適化する方法を提供する。特に、成形型にて硬化する場合に、目的の硬化挙動を得るための制御方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物において、典型的には微粉末シリカを含まなくても、複雑な形状や微細な加工形状を有する硬化物であり、ひずみや傷、割れなどを生じることなく、金型から脱型することができ、高硬度、かつ、高透明な硬化物が得られる、付加硬化型シリコーン組成物およびその硬化物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物において、シリコーンレジンの質量平均分子量に応じて定められる硬化速度を利用すると、本発明の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化挙動を制御する方法であって、
前記アルケニル基を有するシリコーンレジンが単独で、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと付加硬化する反応速度を、前記シリコーンレジンの質量平均分子量との関係で見積もる段階(段階1)、
前記段階1での結果をもとに、前記付加硬化型シリコーン組成物を、最終硬化状態に至るまで加熱する過程で、温度に応じて所望の硬化挙動を発現するように、前記シリコーンレジンとして、質量平均分子量の異なる、2種類以上の、アルケニル基を有するシリコーンレジンを選択し、その混合質量比を決定する段階(段階2)、
前記段階2で選択したシリコーンレジン混合物に、さらにアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、付加硬化触媒と、必要に応じて反応遅延剤を加えて付加硬化型シリコーン組成物を作製する段階(段階3)、
前記段階3で得られた付加硬化型シリコーン組成物を、最終硬化状態に至るよう加熱し、その過程の硬化挙動として、加熱時間と硬化度関連物性を測定して、加熱時間と硬化度関連物性の硬化曲線を得る段階(段階4)、
前記段階4で得られた硬化曲線が、所望する硬化曲線と一致した場合は制御を完了し、一致しない場合は、前記段階1から前記段階4のいずれか1つの段階まで戻る判断を行う段階(段階5)、
を有し、
所望する硬化曲線が得られるまで、前記段階5の判断とそれに基づいて段階1~4のいずれかの段階に戻ることを繰り返すことを特徴とする、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化挙動を制御する方法である。
【0012】
また、すなわち、本発明は、質量平均分子量の異なる、2種類以上の、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含有する、付加硬化型シリコーン組成物であって、前記シリコーン組成物を最終硬化状態に至るよう加熱する過程での、加熱温度に応じた硬化曲線が、前記シリコーンレジンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加硬化の反応速度により調整されていることを特徴とする、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物である。
【0013】
また、すなわち、本発明は、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法であって、
前記アルケニル基を有するシリコーンレジンが単独で、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと付加硬化する反応速度を、前記シリコーンレジンの質量平均分子量との関係で見積もる工程(工程1)、
前記工程1での結果をもとに、前記付加硬化型シリコーン組成物を、最終硬化状態に至るまで加熱する過程で、温度に応じて所望の硬化挙動を発現するように、前記シリコーンレジンとして、質量平均分子量の異なる、2種類以上の、アルケニル基を有するシリコーンレジンを選択し、その混合質量比を決定する工程(工程2)、
前記工程2のシリコーンレジン混合物に、さらにアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、付加硬化触媒と、必要に応じて反応遅延剤を加えて付加硬化型シリコーン組成物を作製する工程(工程3)、
前記工程3で得られた付加硬化型シリコーン組成物を、最終硬化状態に至るように加熱し、その過程の硬化挙動として、加熱時間と硬化度関連物性を測定して、加熱時間と硬化度関連物性の硬化曲線を得る工程(工程4)、
前記工程4で得られた硬化曲線が、所望する硬化曲線と一致した場合は、工程6へ進み、一致しない場合は、前記工程1から前記工程4のいずれか1つの工程まで戻る判断を行う工程(工程5)、を有し、
所望する硬化曲線を有する硬化物が得られるまで、前記工程5の判断とそれに基づいて工程1~4のいずれかの段階に戻ることを繰り返すことで、当該条件にて、前記組成物を硬化し、最終硬化状態、または、最終硬化状態に至る過程の任意の途中段階で成形型から取り出して硬化物製品とする工程(工程6)、
を有することを特徴とする、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法である。
【0014】
また、すなわち、本発明は、「成形型にて硬化する場合の、温度に応じた硬化挙動が、シリコーンレジンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加硬化の反応速度により調整されていることを特徴とする、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法」であって、前記シリコーン組成物に含まれる成分を、分配組成物1と分配組成物2とに分配されるように、前記分配組成物1と前記分配組成物2とを製造する製造工程と、前記製造工程で得られた前記分配組成物1と前記分配組成物2を混合して、微粉末シリカを含まない付加硬化型シリコーン組成物を得る混合工程と、前記混合工程で得られた付加硬化型シリコーン組成物を、成形型内で一次硬化して第一硬さを有する硬化物を得る硬化工程と、得られた硬化物を前記成形型から脱型する脱型工程と、脱型後の前記硬化物を、成形型外で二次硬化して第二硬さを有する硬化物を得る硬化工程、を含み、前記硬化物の第二硬さと第一硬さの差が、ショアA硬さで7以上であることを特徴とする、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法である。
【0015】
また、すなわち、本発明は、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物であって、成形型内で一次硬化した第一硬さと、成形型外で二次硬化した第二硬さの差が、ショアA硬さで7以上であることを特徴とするアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物である。
【0016】
前記アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化挙動を制御する方法が、成形型にて硬化する場合のものであり、前記硬化曲線上にある、加熱時間の異なる2点間によって定まる領域であって、前記領域が、最終硬化状態に至る硬化過程の途中段階にあって、未反応基を有する硬化物を、当該成形型から変形、あるいは損傷なく脱型できる領域であり、加熱する過程で前記領域が開始する限界点、もしくは、目的に応じて設定した、その限界点よりも以降の任意の点、のいずれかを開始点P1、一方、前記領域が終了する限界点、もしくは、目的に応じて設定した、その限界点よりも以前の任意の点、のいずれかを終了点P2とし、前記開始点P1と前記終了点P2を経由する硬化曲線の描かれ方を制御することで、目的に応じて、前記領域の現れ方を、加熱条件との関係において、随意に制御することが好ましい。
【0017】
前記アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物は、成形型にて硬化する場合のものであり、最終硬化状態に至る硬化過程の途中段階にあって、未反応基を有する硬化物を、当該成形型から変形、あるいは損傷なく脱型できる硬化度関連物性の測定値の領域を有しており、目的に応じて前記領域を任意に設定するための前記開始点P1と前記終了点P2が調整されていることが好ましい。
【0018】
前記アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物は、前記硬化曲線上に開始点P1および終了点P2が存在し、かつ所望の脱型性を有するように、前記開始点P1から前記終了点P2へ至る経過時間が調整され、かつ、当該脱型物を最終硬化段階まで硬化した場合に、所望の硬化度関連物性値が得られるように調整されていることが好ましい。
【0019】
前記アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物は、ケイ素原子に結合したアルケニル基を、1分子中に1個以上有し、質量平均分子量がMw(1)であり、前記Mw(1)に応じて定められる第一硬化速度を有するシリコーンレジン(1)と、
ケイ素原子に結合したアルケニル基を、1分子中に1個以上有し、質量平均分子量がMw(2)であり、Mw(2)は前記Mw(1)よりも大きく、前記Mw(2)に応じて定められる、前記第一硬化速度よりも遅い第ニ硬化速度を有するシリコーンレジン(2)、
を含む、
微粉末シリカを含まない付加硬化型シリコーン組成物であって、
前記Mw(2)と前記Mw(1)の差が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算で2、000g/mol以上であり、
かつ、前記シリコーンレジン(1)と前記シリコーンレジン(2)の混合質量比を調整することで、得られる硬化物の前記最終硬化状態での硬さと、
前記硬化曲線上の開始点P1と終了点P2の2点間によって定められ、最終硬化状態に至る硬化過程の途中段階にあって、未反応基を有する硬化物を、当該成形型から変形、あるいは損傷なく脱型できる領域内で取り出した硬化物の硬さの差が、ショアA硬さで7以上であることが好ましい。
【0020】
前記アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物は、前記成分(B)のシリコーンレジンが、ケイ素原子に結合したアルケニル基を、1分子中に1個以上有し、R1
3SiO1/2単位(M単位)およびSiO4/2単位(Q単位)より構成されるMQ単位のシリコーンレジン、または、ケイ素原子に結合したアルケニル基を、1分子中に1個以上有し、R1SiO3/2単位(T単位)より構成されるシルセスキオキサンの少なくとも一方であるシリコーンレジン(ただし、式中、R1は、互いに同一または異種の炭素数1~18の非置換の、もしくは置換された一価炭化水素基またはOH基である。)を含むことを特徴とする、請求項6に記載のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含むことが好ましい。
【0021】
前記アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物は、
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を、1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に結合したアルケニル基を、1分子中に1個以上有するシリコーンレジンの混合物であって、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の質量平均分子量が、
(B-1)3,000g/mol以下の低分子量のシリコーンレジンと、
(B-2)5,000~10,000g/molの高分子量のシリコーンレジン、
を含み、
(B-1)と(B-2)の混合質量比が、(B-1):(B-2)=70:30~1:99であるシリコーンレジン混合物:0.5~150質量部、
(C)ケイ素原子に結合した水素原子を、1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであって、成分(C)中の、ケイ素原子に結合した水素原子が、前記成分(A)と前記成分(B)中のアルケニル基の合計1モルに対して、1モル以上、20モル以下となる量、
(D)付加硬化触媒を有効量、
を含む、
微粉末シリカを含まない付加硬化型シリコーン組成物であって、
得られる硬化物の前記最終硬化状態での硬さと、
前記硬化曲線上の開始点P1と終了点P2の2点間によって定められ、最終硬化状態に至る硬化過程の途中段階にあって、未反応基を有する硬化物を、当該成形型から変形、あるいは損傷なく脱型できる領域内で取り出した硬化物の硬さの差が、ショアA硬さで7以上であることが好ましい。
【0022】
前記「成形型にて硬化する場合の、温度に応じた硬化挙動が、シリコーンレジンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加硬化の反応速度により調整されていることを特徴とする、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法」は、前記製造工程において、前記分配組成物1と前記分配組成物2とを、それぞれ、ふるいに通す分散工程を含むことが好ましい。
【0023】
前記「成形型にて硬化する場合の、温度に応じた硬化挙動が、シリコーンレジンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加硬化の反応速度により調整されていることを特徴とする、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法」は、前記硬化工程において、一次硬化温度が100~170℃の範囲で、かつ、二次硬化温度が150~210℃の範囲であることを特徴とする、請求項10または11に記載のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含むことが好ましい。
【0024】
前記「成形型にて硬化する場合の、温度に応じた硬化挙動が、シリコーンレジンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加硬化の反応速度により調整されていることを特徴とする、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法」は、前記硬化物の第二硬さが、ショアA硬さで65以上であることが好ましい。
【0025】
前記「成形型にて硬化する場合の、温度に応じた硬化挙動が、シリコーンレジンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加硬化の反応速度により調整されていることを特徴とする、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法」は、前記硬化物が、厚さ2mmの硬化シートの光透過率が、400nmで85%以上であることが好ましい。
【0026】
前記アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物は、前記硬化物の第二硬さが、ショアA硬さで65以上であることが好ましい。
【0027】
前記アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物は、前記硬化物が、厚さ2mmの硬化シートの光透過率が、400nmで85%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化挙動を制御する方法は、2種類以上のシリコーンレジンの分子量に応じた反応速度に基づいて硬化挙動を設計し、しかも硬化曲線をもとに最適化を行うことができるので、最終硬化段階までの所望な挙動を、試行錯誤によらず、確実に、効率よく得ることができる。
【0029】
本発明のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物は、微粉末シリカを含まず、アルケニル基を有するシリコーンレジンを多く配合できるため、高硬度、かつ、高透明な硬化物が得られ、さらに、ひずみや傷、割れなどを生じることなく、金型から脱型することができるようになるため、複雑な加工形状や、あるいは、微細な加工形状が要求される、高透明で高品質なシリコーンゴム製品の製造に有用である。
【0030】
本発明のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法は、前記の硬化挙動を制御する方法に基づき製造するので、最終硬化段階までの詳細な硬化条件を、試行錯誤によらず、確実に、効率よく最適化することができる。
【0031】
本発明の「成形型にて硬化する場合の、温度に応じた硬化挙動が、シリコーンレジンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加硬化の反応速度により調整されていることを特徴とする、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法」は、脱型時の硬さを十分に下げるよう調整でき、かつ、最終硬化後の硬さを十分に上げることができるため、変形および損傷なく容易に脱型でき、かつ、各種用途での実用上、より硬い硬化物を得ることができる。さらに、付加硬化型シリコーン組成物は異物などの混合がないため品質が高く、また、分配組成物とすることで安定的に保管することができ、製造時に扱いやすい。
【0032】
本発明のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物は、金型成形で使用することができるため、様々な形に加工することが可能であり、さらに透明かつ十分な硬さを兼ね備えるものである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に本発明に係る、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含有する、付加硬化型シリコーン組成物、硬化挙動の制御方法、硬化物の製造方法、および、硬化物の詳細を説明する。
【0034】
本発明に係る、微粉末シリカを含まないアルケニル基を有するシリコーンレジンを含有する付加硬化型シリコーン組成物は、本発明による作用を発揮するものでさえあればよく、特に限定されない。ただし、通常は次のような成分を有する。
【0035】
(成分(A))
成分(A)は、ケイ素原子に結合するアルケニル基を、1分子中に少なくとも2個以上含有するオルガノポリシロキサンであり、本発明の付加硬化型シリコーン組成物の主成分で、通常、平均組成式が下記一般式(1)で表される。
R2
aSiO(4-a)/2(1)
(ただし、式(1)中、R2は、互いに同一または異種の炭素数1~18の非置換の、もしくは置換された一価炭化水素基である。aは1.5以上、2.8以下である。R2の炭素数は、合成コストの観点から、好ましくは1~10である。また、aは好ましくは1.8~2.5、より好ましくは1.95~2.05である。)
【0036】
ここで、上記R2で示される一価炭化水素基のうち、成分(A)の1分子中において、少なくとも2個以上はビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基などのアルケニル基から選ばれ、それ以外の基は、炭素数1~18の置換または非置換の一価炭化水素基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基などのアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基などのアラルキル基や、これらの炭化水素基中の水素原子の一部または全部がハロゲン原子、シアノ基などによって置換されたクロロメチル基、2-ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基、シアノエチル基などのハロゲン置換アルキル基やシアノ置換アルキル基などから選ばれることができる。
【0037】
R2の選択にあたって、2個以上必要なアルケニル基としてはビニル基が好ましく、その他の基としてはメチル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基が好ましい。また、全R2中の70モル%以上がメチル基であることが、硬化物の物性および経済性などの点で好ましく、通常はメチル基が80モル%以上のものが好ましい。
【0038】
成分(A)のオルガノポリシロキサンは当業者に公知の方法で製造され、その構造は直鎖状、または、一部分岐した直鎖状である。
具体的には、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサンコポリマー、が例示され、これらのオルガノポリシロキサンのメチル基の一部または全部をエチル基、プロピル基などのアルキル基;フェニル基、トリル基などのアリール基;3,3,3-トリフルオロプロピル基などのハロゲン化アルキル基で置換したオルガノポリシロキサン、およびこれらのオルガノポリシロキサンの2種類以上の混合物が例示されるが、経済性の観点から、入手しやすい、直鎖状、または、一部分岐した直鎖状の少なくとも一方であるオルガノポリシロキサンで、少なくとも分子鎖両末端にビニル基を有するものが好ましい。
【0039】
成分(A)には、その製造において、成分(A)の分子鎖末端の不完全なアルケニル化、およびこれと結合した末端の残りのSi-OHもとに基づいて、分子鎖末端にアルケニル基を1個のみ有するオルガノポリシロキサンと、アルケニル基を含まないオルガノポリシロキサンを少量含んでいてもよい。
【0040】
成分(A)の粘度は、25℃における粘度が100~1,000,000mPa・sであることが好ましく、200~500,000mPa・sであるものがより好ましい。これらは、単独であっても、複数の種類を混合したものであってもよい。
粘度が100mPa・s以上の場合は、架橋に必要となる架橋剤量が増えることで成分(B)のシリコーンレジン含有割合が低下し、硬さや透明性が低下しやすくなる現象を抑制できるため好ましい。粘度が1,000,000mPa・s以下の場合は、付加硬化型シリコーンゴム組成物の粘度が上昇して混合時の気泡が抜けにくくなり、硬化物作製の作業性が低下したり、硬化物中に気泡が残るといった現象を抑制できるため好ましい。
さらに、これらに対して、本発明の目的を妨げない範囲内で、硬化物の引裂き強度を向上させるために、1分子中にアルケニル基を有し、室温における平均重合度が2,000以上のシリコーンの生ゴムを併用してもよい。生ゴムの配合量は多くなると、シリコーン組成物の粘度が上昇して気泡が抜けにくくなるため、成分(A)100質量部中の10質量部以下であることが好ましい。
【0041】
(成分(B))
成分(B)は、ケイ素原子に結合したアルケニル基を、1分子中に少なくとも1個以上有する、シリコーンレジンであり、本発明の硬化物に高硬度と高透明性を付与するための必須成分である。通常、微粉末シリカ等の補強性充填剤を用いることで、付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物の硬度を上げることができるが、本発明は、典型的には硬化物が透明であることを目標とするので、微粉末シリカ等の補強性充填剤がなくても、あるいは量が少なくても、硬化物に十分な硬度を付与するために、成分(B)を用いるものである。
成分(B)は、当業者に公知の方法で製造され、その製造において、一般的に式(RO)の基を1~20%(ここでRは水素原子または1~4個の炭素原子のアルキル基である)含有している。
成分(B)は、R1SiO3/2単位(T単位)とSiO4/2単位(Q単位)(ただし、式中、R1は、互いに同一または異種の炭素数1~18の非置換の、もしくは置換された一価炭化水素基またはOH基である。)のどちらか一方、あるいは両方を含むものであれば、どのような分子量や構造であってもよいが、R1
3SiO1/2単位(M単位)とQ単位のMQ単位のシリコーンレジン、あるいは、TQ単位のシリコーンレジン、あるいはT単位のみのシルセスキオキサンは、特に所望する高透明性と強度を得やすくなるため好ましい。これらは、単独であっても、複数の種類を混合したものであってもよい。
【0042】
ここで、上記R1で示される一価炭化水素基のうち、少なくとも1個以上はビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基などのアルケニル基から選ばれ、それ以外の基は、炭素数1~18の置換または非置換の一価炭化水素基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基などのアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基などのアラルキル基や、これらの炭化水素基中の水素原子の一部または全部がハロゲン原子、シアノ基などによって置換されたクロロメチル基、2-ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基、シアノエチル基などのハロゲン置換アルキル基やシアノ置換アルキル基などから選ばれることができる。
【0043】
R1の選択にあたって、1個以上必要なアルケニル基としてはビニル基が好ましく、その他の基としてはメチル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基が好ましい。
【0044】
成分(B)は、少なくとも2種類以上のシリコーンレジンの混合物であって、低分子量のシリコーンレジン成分(B-1)と、高分子量のシリコーンレジン成分(B-2)を含んでいる。
成分(B-1)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の質量平均分子量が3,000g/mol以下が好ましく、2,500g/mol以下がより好ましいが、1,000g/mol以下の場合は、十分な硬さと透明性が得にくくなるため、1,000g/mol以上であることが好ましい。
一方、成分(B-2)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の質量平均分子量が5,000~10,000g/molの範囲であることが好ましく、5,000~8,000g/molの範囲であることがより好ましい。
10,000g/mol以下の場合は、付加硬化型シリコーンゴム組成物の粘度が上昇して混合時の気泡が抜けにくくなり、硬化物作製の作業性が低下したり、硬化物中に気泡が残るといった現象を抑制できるため好ましい。
【0045】
(成分(C))
成分(C)は、ケイ素原子に結合した水素原子を、1分子中に少なくとも2個以上有する、オルガノハイドロジェンシロキサンであり、付加硬化の架橋剤である。これらは、当業者に公知の方法で製造され、具体的には、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー、メチルフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー、などが例示される。これらは、単独であっても、複数の種類を混合したものであってもよい。
【0046】
成分(C)の粘度が低いものは、付加硬化の場合、硬化反応が速やかに進行しやすくなるため、粘度は1,000mPa・s以下が好ましく、500mPa・s以下がより好ましい。しかし、成分(C)の粘度が成分(B)に対して低くなってくると、成分(B)が流動しやすくなり、特に低温下で白濁を促進しやすくなる場合があるため、粘度は1mPa・s以上が好ましく、5mPa・s以上がより好ましく、10mPa・s以上であることがさらに好ましい。
【0047】
成分(C)の配合量は、ケイ素原子に結合した水素原子が、前記成分(A)と前記成分(B)中のアルケニル基の合計1モルに対して、1モル以上、20モル以下となる量である。1モル以上の場合は、硬化物の硬さが著しく低下することがなく、20モル以下の場合は、硬化物中に気泡が発生する現象を抑制するため好ましい。
【0048】
(成分(D))
成分(D)は、本発明の付加硬化型シリコーン組成物の硬化触媒であり、本発明の目的を妨げない範囲で、そのような性能を有するものであればどのようなものを使用してもよく、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒、イリジウム系触媒、鉄系触媒、コバルト系触媒、ニッケル系触媒が例示され、好ましくは、白金系触媒である。前記白金系触媒としては、白金微粉末、白金黒、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体が例示される。これらは、高い光透過性を得るために、微粒子であることが好ましく、ナノサイズにまで加工したものであってもよい。触媒はそのままの形状であっても、例えば、マイクロカプセル化したものであってもよい。
【0049】
成分(D)の含有量は触媒量であり、好ましくは、本発明の付加硬化型シリコーン組成物に対して、この触媒中の金属原子が質量単位で0.01~1,000ppmの範囲内となる量である。0.01ppm以上の場合は、硬化が十分に進行するため好ましい。また、1,000ppm以下の場合は、硬化物に着色が起こりにくくなるため好ましい。
【0050】
その他、本発明の目的を妨げない範囲で、付加硬化に必要とされる添加剤や助剤を配合することができ、例えば、反応遅延剤として、アセチレン系化合物、ヒドラジン類、トリアゾール類、フォスフィン類、メルカプタン類、が例示される。
【0051】
本発明は、典型的には硬化物を透明にすることが目的であるので、微粉末シリカは組成物中に含まないことが最も好ましく、含むとしてもその含有量は少ないほど好ましい。
「微粉末シリカを含まない」とは、微粉末シリカを意図的に配合しないことである。微粉末シリカが含まれると硬化物の光透過性が低下しやすいため、含有量は0.1%以下であることが好ましく、配合していないことがより好ましい。
【0052】
本発明は、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化挙動を制御する方法、シリコーン組成物、その硬化物の製造方法、および、硬化物に関するものである。その硬化挙動は、目的に応じ、いかなる挙動でも想定することができ、挙動の種類は限定されない。付加硬化型のシリコーンにおいては、室温から、通常200℃台程度までの間の温度範囲において、一定温度、昇温、あるいは、段階的な温度設定などの様式で硬化を行う。また、その硬化方式も、目的に応じて様々なものを想定することができる。
【0053】
シリコーン組成物が硬化されるに際し、ある温度で金型成形により一次硬化し、脱型した後に、前記金型外で硬化を完結するために二次硬化を行う場合において、金型成形を問題なく実施できるためには、前述したように、脱型時に硬化物に変形、あるいは損傷が起きないことが必要である。そのためには、硬化物には十分な硬度があるとともに、伸びやしなやかさなどが必要である。
【0054】
本発明では、シリコーン組成物の硬化物が金型成形できる領域のことを、「変形、あるいは損傷なく脱型できる硬化度関連物性の領域」と称する。この領域は、昇温または定温での、あるいはその他の様式での、加熱過程において、硬化時間と硬化関連物性の測定値より得られる硬化曲線上の2点によって表され、硬化曲線上で前記領域が開始する点を開始点P1、前記領域が終了する点を終了点P2と称する。前記開始点P1および終了点P2は、当該硬化物が、もはやその開始点より前、あるいは、終了点よりも後であれば、脱型時に硬化物に変形、あるいは損傷が生じてしまう、材料と成形型の組み合わせに特有な限界点として設定してもよいし、目的に応じて、両限界点の間の任意の点として設定してもよい。
【0055】
本発明のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化挙動を測定する方法は、加熱時間と前記硬化度関連物性を測定するが、硬化関連物性としては、例えば、重量変化、比重変化、外観色目変化、トルクの変化、硬さの変化などであり、付加硬化型シリコーン組成物の硬化進行の度合いを時間的に知ることができる物性であればいかなるものであってもよく、特に限定されないが、好ましくは、硬化しようとする温度における、加温時間とトルクを測定することであり、トルクの単位は通常、N・mで示される。
【0056】
アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物は、典型的には、微粉末シリカを含んでいないため透明な硬化物となる。最終硬化段階では、微粉末シリカを含んでいなくても十分な硬度に達することができるが、伸び・しなやかさは失われている。
それに対して、最終硬化状態に至る加熱過程の途中段階、例えば一次硬化時点、においては、高度と伸び・しなやかさが適度にバランスされた領域が存在するが、その領域の存在する時間は短い場合が多く、安定的な脱型に利用することが通常難しい。なぜなら、微粉末シリカのような補強成分が少ない、あるいは、含まない場合には、シリコーンレジンの含有量が高いため、付加硬化の反応が進むと、シリコーンレジンの分子量が大きくなっていき、短時間で硬さが上昇する場合がほとんどであるからである。
特に、シリコーンレジンを単独で使用する場合には、同一の質量平均分子量であることによって、同じ反応速度を有するシリコーンレジンが、ある時点で一気に硬化反応を進行させるため、その傾向が著しくなる。
例えば、硬化関連物性としてシリコーン組成物が硬化していくトルクを測定した場合、硬化物が変形、あるいは損傷なく脱型できる領域では、領域の下限を示すトルク値から、上限を示すトルク値に至るまでの時間が非常に短く、トルク値が下限値から上限値まで急激に上昇し、脱型できる領域を一瞬にして通過して硬化が進行してしまう場合がほとんどである。従って、金型成形のために温度設定をしても、一瞬にして硬化物が硬くなり過ぎて脱型することが困難となり、脱型時に硬化物が損傷したりしていた。そこで、これを防止するために設定温度を下げた場合には、硬化がなかなか進行せず、十分な硬さが得られなくなりがちで、硬化物が未だ柔らかく、脱型時に硬化物が変形したりしていた。
また、トルク値が下限値から上限値まで短時間に上昇してしまうと、金型成形の温度設定の精度をより高めて金型内の温度を一様になるように制御したとしても、脱型の繰り返しにおいて、前記領域内の一定のトルク値に常に管理して脱型することは難しくなり、硬化の度合いの再現性が乏しいことが多かった。
【0057】
本発明者らは、鋭意研究の結果、アルケニル基を有するシリコーンレジンがオルガノハイドロジェンポリシロキサンと付加硬化する反応速度と、当該レジンの質量平均分子量との間に相関関係があることに着目し、質量平均分子量の異なる、2種以上のアルケニル基を有するシリコーンレジンの選択と混合比の設定により、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の、加熱温度に応じた硬化挙動を制御できることを見出した。
【0058】
特に、複雑な形状を有する硬化物であっても、変形、あるいは損傷のない金型成形の製造を可能にするために、硬化物が変形、あるいは損傷なく脱型できる領域を見出し、その領域の下限を示すトルク値から、上限を示すトルク値に至るまでの時間が十分に長く、しかもトルク値が安定的で再現性があり、かつ、最終硬化状態における十分な硬化完結を確認することができる。
【0059】
また、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物が、前記領域を経て最終硬化状態に達するまでの加熱時間とトルクの推移を測定し、それが目的に合わせて所望の挙動となるように、制御することが可能である。
【0060】
温度に応じた硬化挙動を制御する方法は、次の段階を含むものである。アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化挙動を制御する方法であって、
前記アルケニル基を有するシリコーンレジンが単独で、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと付加硬化する反応速度を、前記シリコーンレジンの質量平均分子量との関係で見積もる段階(段階1)、
前記段階1での結果をもとに、前記付加硬化型シリコーン組成物を、最終硬化状態に至るまで加熱する過程で、温度に応じて所望の硬化挙動を発現するように、前記シリコーンレジンとして、質量平均分子量の異なる、2種類以上の、アルケニル基を有するシリコーンレジンを選択し、その混合質量比を決定する段階(段階2)、
前記段階2のシリコーンレジン混合物に、さらにアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、付加硬化触媒と、必要に応じて反応遅延剤を加えて付加硬化型シリコーン組成物を作製する段階(段階3)、
前記段階3で得られた付加硬化型シリコーン組成物を、最終硬化状態に至るよう加熱し、その過程の硬化挙動として、加熱時間と硬化度関連物性を測定して、加熱時間と硬化度関連物性の硬化曲線を得る段階(段階4)、
前記段階4で得られた硬化曲線が、所望する硬化曲線と一致した場合は制御を完了し、一致しない場合は、前記段階1から前記段階4のいずれか1つの段階まで戻る判断を行う段階(段階5)、
を有し、
所望する硬化曲線が得られるまで、前記段階5の判断とそれに基づいて段階1~4のいずれかの段階に戻ることを繰り返す。
【0061】
ここで、アルケニル基を有するシリコーンレジンがオルガノハイドロジェンポリシロキサンと付加硬化する反応速度とは、狭義には、シリコーンレジンのアルケニル基とオルガノハイドロジェンポリシロキサンのSi-H基が付加反応する速度である。この速度は、温度、付加反応触媒の種類と配合量、Si-H基の化学的環境やオルガノハイドロジェンポリシロキサンの構造や分子量、反応遅延剤の種類と配合量などの影響を受ける。本発明で言う反応速度は、厳密な特定の条件における速度を意味するのではなく、これら種々の因子が一定の条件において計測される速度のことである。しかも、その速度は必ずしも絶対的なものである必要はなく、相対的なものでも構わない。
【0062】
アルケニル基を有するシリコーンレジンは通常、固体である。一方、オルガノハイドロジェンポリシロキサンは通常、液体である。従って、付加硬化の反応は固液状態、すなわち不均一系で起こることになる。また、付加硬化の反応が進んでいくと、シリコーンレジンの分子量が大きくなるとともに、系の固体の割合が大きくなっていく。アルケニル基を有するシリコーンレジンの付加硬化の反応速度はレジンの分子量に依存するため、付加硬化の反応が進むにつれ、反応速度そのものは変わっていくと考えられる。
このような状態の中で、物質としてのシリコーンレジンに固有の反応速度を系の反応速度として規定することは不可能である。そこで、本発明においては、反応速度の意味するところは、物質に固有なものを用いるのではなく、付加硬化反応が起こっている様子の何らかの観測にもとづく尺度であればよいこととする。その観測の尺度は定量的なものであれば好ましいが、定性的なものであっても構わない。定量的な観測により、シリコーンレジンの質量平均分子量と反応速度の関係が数式化されれば好ましいが、不均一系かつ分子量が次第に成長して大きくなる状況においては、通常、その定量化は困難であるため、定性的な観測でも構わない。定性的な観測により、例えば、シリコーンレジンの質量平均分子量と反応速度の大小関係を見積もることができれば、上述の2種以上のシリコーンレジンの選択と混合質量比を適当に設定してから、所望の硬化挙動が得られるまでを最適化することができる。
【0063】
「シリコーンレジンの質量平均分子量と付加硬化の反応速度との関係」は、付加硬化の進行によるシリコーンレジンの成長、すなわち、分子量の成長ともに反応速度が変っていくため、厳密には、ある方法で観測した物性の曲線の微分値が、その時点での分子量における反応速度と定義される。しかし、本発明で定義する分子量とは、出発物質としてのシリコーンレジンの質量平均分子量のことである。その分子量と最終硬化状態に至るまでの全範囲、あるいは任意の範囲での物性の変化の様子の対比を行う。
【0064】
反応速度を計測する方法は、いかなる方法でもよく、特に限定されない。例えば、アルケニル基を有するシリコーンレジンの分子量や、測定系の粘度や硬度が増大する様子を測定すること、あるいは、アルケニル基とSi-H基の消失の様子を分光学的に追跡することなどが挙げられる。
【0065】
また、反応速度は、定温、昇温、あるいは種々の温度パターン下で定義できるものであり、また、温度以外の様々な種類の条件の下にも定義できるものである。例えば、シリコーンレジン上のアルケニル基の活性を触媒の濃度との関係で、相対的に定義するなども可能性がある。
さらに、アルケニル基を有するシリコーンレジンおよびオルガノハイドロジェンポリシロキサン以外の成分を含んだ系で、その系がアルケニル基の反応にもとづく物性変化をしていくことをもって、反応速度と捉えることでもよい。この場合、上記したような、加熱時間と硬化度関連物性を測定して硬化曲線を得ることで、その曲線の立ち上がりの程度をもって反応速度と捉えることができる。当該組成物中におけるアルケニル基を有するシリコーンレジン以外の成分を一定にしておけば、当該シリコーンレジンの質量平均分子量を変えることで、上記曲線の立ち上がりの程度の違いが得られ、シリコーンレジンの質量平均分子量と反応速度の関係を見積もることができる。
【0066】
上記のように、ある同一種類のアルケニル基を有するシリコーンレジンにおいて、質量平均分子量と反応速度の関係を見積もることができたとして、所望の硬化挙動を得るための2種以上のシリコーンレジンの選択と混合質量比の決定の方法について述べる。
何らかの定量的な観測およびデータの解析により、質量平均分子量と反応速度の間の関係式を導き出せれば、その式に従い、所望の反応速度が生じるような質量平均分子量になるよう、2種以上のシリコーンレジンの選択と質量混合比を求めることができる。
しかし通常は、このような関係式を導き出すことは困難であるため、何らかの観測した硬化曲線を分子量ごとに比較し、どのようなシリコーンレジンの選択および混合質量比であればよいかを予想し、硬化曲線の測定を試行的に行い、上述した制御法に則って最適化していく。
【0067】
通常、加熱時間と硬化度関連物性の硬化曲線における、曲線の立ち上がりや曲線の傾きは、質量平均分子量が小さいほど立ち上がりが早く、傾きが急になるため、質量平均分子量の異なるシリコーンレジンを混合することで、所望する硬化曲線の立ち上がり開始時期や、曲線の傾きになるように調整することができる。そして、調整にあたっての2種以上のシリコーンレジンの選択と、混合質量比の決定は、比例配分的な考え方で通常、対処することが可能である。
あるいはまた、特定の温度領域で反応速度が速くなるような、または、遅くなるような分子量のシリコーンレジンが見出された場合は、そのシリコーンレジンの配合割合を増やすことによって、所望する硬化挙動に近づけることも可能である。
【0068】
本発明の主たる目的は、上述した硬化度関連物性によって得られる、硬化曲線上に存在する領域の前記開始点P1と前記終了点P2を十分な安定領域として発現させることにある。すなわち、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含有する付加硬化型硬化性シリコーン組成物を硬化した場合に、金型成型から、十分に安定して脱型でき得る温度領域を持つように制御するものである。加熱時間と、特に、硬化度関連物性としてトルクを選択した場合の硬化曲線において、硬化物が変形、あるいは損傷なく脱型できる領域の下限を示すトルク値から、上限を示すトルク値に至るまでの時間が十分に長く、かつ、前記2点のP1とP2間の傾きをなるべく小さく制御するものである。
この場合には、端的には、反応速度が遅いシリコーンレジンを選択し、シリコーンレジンの配合比を高めることが主な方法であるが、この方法に限定されず、シリコーンレジンがどのような反応速度を有しているべきかは目的により随意に見積もればよい。その場合のシリコーンレジンの選択と混合比の決定は本発明の方法によって実施できる。
【0069】
上述した所望の硬化挙動を得る制御方法において、何をもって制御が完了したかの基準は、目的に応じて適宜、一定の基準を定めればよい。例えば、所望とする硬化曲線と一致する基準、あるいは、硬化物が変形、あるいは損傷なく脱型できる領域の下限を示すトルク値から、上限を示すトルク値に至るまでの時間の閾値など、様々な基準が可能である。また、完了と判断するための許容幅も、目的に応じ、一定の基準を任意に設定できる。
【0070】
本発明のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物は、質量平均分子量の異なる、2種類以上の、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含有する、付加硬化型シリコーン組成物であって、前記シリコーン組成物を最終硬化状態に達するよう加熱する過程での、温度に応じた硬化挙動が、前記シリコーンレジンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加硬化の反応速度により調整されているものであるが、次にその詳細を説明する。
【0071】
本発明のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物は、本願の課題である、典型的には微粉末シリカを含まなくても、複雑な形状や微細な加工形状を有する硬化物であり、ひずみや傷、割れなどを生じることなく、金型から脱型することができ、高硬度、かつ、高透明な硬化物が得られる、付加硬化型シリコーン組成物およびその硬化物の製造方法を提供する、ということを、より効果的に達成するために、上述した硬化度関連物性の領域を示す、硬化曲線上の前記開始点P1と前記終了点P2が調整されたシリコーン組成物であることが好ましい。
【0072】
本発明の成分(B)の、ケイ素原子に結合したアルケニル基を、1分子中に1個以上有するシリコーンレジンの混合物の、成分(B-1)と成分(B-2)の質量平均分子量の差は硬化速度の差に影響する。従って、その差は大きいほど本発明の効果が発揮しやすく、(B-1)と(B-2)の差は少なくとも2,000g/mol以上が好ましく、2,500g/mol以上であることがより好ましい。
【0073】
成分(B)の配合量は、成分(A)100質量部に対して0.5~150質量部が好ましく、1.0~130質量部がより好ましい。0.5質量部以上の場合は、十分な硬さと透明性が得やすくなり、150質量部以下の場合は、付加硬化型シリコーンゴム組成物の粘度が上昇して混合時の気泡が抜けにくくなり、硬化物作製の作業性が低下したり、硬化物中に気泡が残るといった現象を抑制できるため好ましい。
【0074】
本発明の成分(B)の作用による、本発明のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化挙動の制御を図で説明する。ただし、本発明の制御方法はこれに限定されるものではない。
図1は、シリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーンゴム組成物の、一定加熱温度における一次硬化の硬化曲線であり、分子量の異なるシリコーンレジンを単独あるいは混合で用い、それぞれ同一の架橋剤で硬化させたもので、加熱時間とトルクによって得られた硬化曲線である。
試料A(破線に示す)は、アルケニル基を有する低分子量のシリコーンレジンのみを含むシリコーン組成物の場合である。低分子量のシリコーンレジンは熱が伝わりやすいため硬化が速く、加熱時間t1で硬化が開始し、その後、急激に硬化が進み、トルク値はトルクT1からトルクT2に速やかに上昇する。ここで、トルクT1より下の領域は、硬化が不十分で、この段階で硬化物を金型から取り出そうとすると、硬化物は変形するなどして本来の形状が失われてしまう領域である。一方、トルクT2より上の領域は、硬化がほぼ完了しており、この段階で硬化物を金型から取り出そうとすると、取り出すことが難しく、無理に取り出そうとすると裂けたり、損傷したりする領域である。従って、金型脱型性の観点からは、試料Aの開始点P1(t1、T1)から終了点P2(t2、T2)間が最適な領域として示されることになる。このように、金型からの取り出しは、トルクT1とトルクT2間で行うことが好ましいが、試料Aではその間の時間が未だ短く、実際の製造で安定的に金型から取り出すことが難しい。
試料B(一点鎖線に示す)は、試料Aのアルケニル基を有する低分子量のシリコーンレジンと、アルケニル基を有し、試料Aよりも高分子量のシリコーンレジンを混合したもので、低分子量のシリコーンレジンは高分子量のシリコーンレジンよりも多く含まれている。試料Aに比べると、高分子量のシリコーンレジンが配合されたため、硬化速度は試料Aよりも少し遅くなり、加熱時間t2で硬化が開始するようになるが、トルクT1とトルクT2間の時間(ただし、試料Bの開始点P1と終了点P2は図に示していない。)は未だ短く、実際の製造で安定的に金型から取り出すことは難しい。
【0075】
試料C(二点鎖線に示す)は試料Bで用いたアルケニル基を有する高分子量のシリコーンレジンのみを含む場合である。高分子量のシリコーンレジンは、低分子量のものよりも熱が伝わりにくいため硬化が遅くなり、加熱時間t3で硬化が開始し、トルクT1とトルクT2間の時間は長くなり、金型からの取出しが実施しやすくなる。
試料D(実線に示す)は、試料Bと同じアルケニル基を有する低分子量のシリコーンレジンと、アルケニル基を有する高分子量のシリコーンレジンを混合したもので、低分子量のシリコーンレジン量は高分子量のシリコーンレジンよりも少ない。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、このような配合にすると、試料Cの場合よりも硬化速度が緩和されやすくなることを見出した。そのため、試料Dでは、試料Cとほぼ同じ加熱時間t3で硬化が開始するが、その後、トルクT1とトルクT2間が試料Cの場合よりもさらに長くなり、金型からの取出しがより容易となることを見出した。すなわち、試料Dでは加熱時間t4でトルクT1に達し、加熱時間t5でトルクT2に達するため、十分な時間差(t5-t4)を有しており、特に量産時などで金型温度が変動しても、安定して金型から取り出すことができるため、硬化物の硬さのぶれや、不良品を発生しなくなることを見出した。
【0076】
図2は、
図1のトルクT1とトルクT2間にあるそれぞれの硬化物を、金型から取り出して、さらに二次硬化を行った場合の、加熱時間とショアAによる硬さによる硬化曲線である。
試料A~試料Dはいずれも一次硬化のみであるため未反応成分を含んでおり、二次硬化で硬さがさらに上昇する。本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、試料Dが最も硬さの上昇が大きく、所望する硬さが得られやすいことを見出した。
詳しい機構は明らかではないが、試料Dを一次硬化する場合、低分子量のシリコーンレジンの硬化速度は高分子量のシリコーンレジンの硬化速度より速いため、低分子量のシリコーンレジンは架橋剤と速やかに反応し、低分子量のシリコーンレジンと架橋剤が結びついた中間体がまず形成されると考えられる。この中間体は、アルケニル基を有するシリコーンレジンであるが、架橋剤に由来するSi-H基は未だ多く消費されておらず、分子量の大きな架橋剤としても働くと考えられる。従って、この中間体は、原料として配合している架橋剤に比べて分子量が非常に大きいため、硬化速度が非常に遅く、これが高分子量のシリコーンレジンと反応する場合は、原料として始めから配合している架橋剤との反応より硬化が遅くなるためと考えられる。その結果、試料Dでは、試料Cよりも、一次硬化後に残存する未反応の高分子量のシリコーンレジンが多く、二次硬化によって硬化反応が一気に進行して硬さが大きく上昇すると考えられる。
【0077】
従って、成分(B)の(B-1)低分子量のシリコーンレジン成分と、(B-2)高分子量のシリコーンレジン成分の割合としては、(B-1)と(B-2)の混合質量比が、(B-1):(B-2)=70:30~1:99となる量が好ましい。これによって、一次硬化後の硬化物の硬さを、金型から取出せるに十分な硬さに留めることが可能となり、その後の二次硬化においては、所望する硬さにまで硬さを大きくすることが可能となる。成分(B-2)の量が多くなると、本発明の硬化挙動の制御が行いやすく成るため、(B-1):(B-2)の比は、60:40~1:99がより好ましく、50:50~1:99がさらに好ましい。
【0078】
本発明のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法は、上述した、当該組成物の硬化挙動の制御方法を利用するものである。すなわち、
アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法であって、
前記アルケニル基を有するシリコーンレジンが単独で、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと付加硬化する反応速度を、前記シリコーンレジンの質量平均分子量との関係で見積もる工程(工程1)、
前記工程1での結果をもとに、前記付加硬化型シリコーン組成物を、最終硬化状態に至るまで加熱する過程で、温度に応じて所望の硬化挙動を発現するように、前記シリコーンレジンとして、質量平均分子量の異なる、2種類以上の、アルケニル基を有するシリコーンレジンを選択し、その混合質量比を決定する工程(工程2)、
前記工程2のシリコーンレジン混合物に、さらにアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、付加硬化触媒と、必要に応じて反応遅延剤を加えて付加硬化型シリコーン組成物を作製する工程(工程3)、
前記工程3で得られた付加硬化型シリコーン組成物を、最終硬化状態に至るように加熱し、その過程の硬化挙動として、加熱時間と硬化度関連物性を測定して、加熱時間と硬化度関連物性の硬化曲線を得る工程(工程4)、
前記工程4で得られた硬化曲線が、所望する硬化曲線と一致した場合は、工程6へ進み、一致しない場合は、前記工程1から前記工程4のいずれか1つの工程まで戻る判断を行う工程(工程5)、を有し、
所望する硬化曲線を有する硬化物が得られるまで、前記工程5の判断とそれに基づいて工程1~4のいずれかの段階に戻ることを繰り返すことで、当該条件にて、前記組成物を硬化し、最終硬化状態、または、最終硬化状態に至る過程の任意の途中段階で成形型から取り出して硬化物製品とする工程(工程6)、
を有する。
【0079】
本発明のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物は、分配組成物1と分配組成物2の2つの製品形態で市場に供給されることが好ましい。上述の成分(A)と前記成分(B)と前記成分(C)と成分(D)は、同時に、一つの分配組成物中に分配されていなければ、どのような組成と割合で2つに分配してもよい。配合割合としては、例えば、自動供給機での取り扱いの観点から、1:1の割合で分配されていることが好ましい。
【0080】
当該分配組成物1と分配組成物2を混合する場合は、各成分が均一に分散するように、よく混合することが好ましいが、分配組成物の製造時に、細かなふるい、例えば、ステンレス金網など、を通過させて、原料をよく分散させておくと、本発明の効果をより発揮しやすくなる。そのため、分散工程として、ふるいの見開き間隔が細かいものを用いたろ過を実施することが好ましく、ふるいサイズとしては、JIS規格による公称目開きが75μm以下が好ましく、53μm以下がより好ましく、38μm以下がさらに好ましい。しかし、排出の所要時間を長期化させず、適切な生産性を維持するためには、20μm以上であることが好ましい。
【0081】
本発明のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物、あるいは、当該組成物の分配組成物は、光透過率をさらに向上させるために、本発明の目的を妨げない範囲で、平均重合度が2,000以上の室温で生ゴム状の、アルケニル基を有していない、オルガノポリシロキサンを併用してもよい。生ゴムの配合量は多くなると、シリコーン組成物の粘度が上昇して気泡が抜けにくくなるため、成分(A)100質量部中の10質量部以下であることが好ましい。
【0082】
本発明のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物は、分配組成物1と分配組成物2を、上記の配合量とすることにより、厚さ2mmの硬化シートの波長400nmにおける光透過率を85%以上となるように調整することができる。光透過率の測定は分光装置で行うが、市販のものであれば特に指定はない。測定には厚さ2mmの硬化シートを作製し、例えば、JISK7361:1997に準拠した方法によって測定するとよい。測定波長は、紫外可視光近赤外に及ぶ広範囲な領域であっても、これらのうちの任意の波長領域や固定波長でもよく、具体的には、200~1,100nmの範囲内で測定することが好ましい。光透過率は低波長領域で低下する傾向があるため、測定時間の短縮の観点から、250~400nmの範囲内における固定波長の測定が好ましく、透明性の基準としては、光透過率が85%以上であることが好ましい。
【0083】
本発明のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の二次硬化後の硬さと一次硬化後の硬さの差は、ショアA硬さで7以上であることが好ましく、8以上がより好ましく、9以上がさらに好ましい。7以下の場合は、一次硬化がほぼ完了している場合が多く、金型からの脱型が困難となりやすいため好ましくない。また、硬化物の硬さは、ショアA硬さで65以上であることが好ましい。シリコーンレジンの種類や配合量にもよるが、光学用途、医療用途、自動車用途あるいは分析機器用途などで高分子量のシリコーンレジンをより多く配合した場合には、ショアA硬さは65以上がより好ましい。
【0084】
アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化挙動を制御する方法、組成物、硬化物の製造方法、および硬化物の用途は、本願の課題を解決するものであれば、用途は限定されない。典型的には、十分な硬度を持ち、透明な材料が必要な、多くの用途に適用可能である。
特に、金型で成形が可能なので、従来実現しなかった、透明で微細加工が必要な小さな部品や薄いシートなどが量産できるため、新しい用途の開拓ができる。
【実施例0085】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。実施例および比較例の結果を表1~表3と
図3に示す。実施例中の部は質量部を示し、%は質量%を示す。粘度は25℃におけるせん断速度が0.9s
-1のときの粘度である。
【0086】
<トルク測定方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した分配組成物1と分配組成物2を、1:1の割合で計量して撹拌機で十分に混合した。そして真空ポンプで脱気を行い、市販の装置(株式会社エイ・アンド・ディ製キュラストメーターMODEL7)で、130℃における加熱時間(秒)とトルク(N・m)を測定して、所定の加熱時間までの硬化曲線を得た。
【0087】
<金型脱型性の確認方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した分配組成物1と分配組成物2を、1:1の割合で計量して撹拌機で十分に混合した。そして真空ポンプで脱気を行い、厚さ3mm、直径約4cmの円盤状で、その表面に、縦1mm、横1mm、深さ約0.2mmの格子形状を成形できる小型の金型に注入し、130℃で120~600秒間、熱プレスで硬化した後、金型からの脱型性を確認した。
【0088】
<硬化シート作製方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した分配組成物1と分配組成物2を、1:1の割合で計量して撹拌機で十分に混合した。そして真空ポンプで脱気を行い、厚さ2mm、縦15cm、横15cmの鏡面を有する金型に注入して、130℃で180秒間、熱プレスで硬化した。冷却後に金型から取り出し、硬化物の一部を切り取った後、さらに200℃の温度で4時間の二次硬化を実施し、ショアA硬さ測定用および光透過率測定用の厚さ2mmの硬化シートを作製した。予め切り取った硬化物の一部は、一次硬化後のショアA硬さとして、24時間後の硬さを測定した。
【0089】
<光透過率の測定方法>
二次硬化後の厚さ2mmの硬化シートから一部を切り出し、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製V-670型)で400nmにおける光透過率を25℃で測定した。
【0090】
<比較例1>
(比較例1の作製)
硬化が速い硬化物を得ることを狙い、成分(B-1)としてゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の質量平均分子量が2,000g/molのビニル基を有するMQ単位のシリコーンレジンと、成分(B-2)-2として質量平均分子量が6,500g/molのビニル基を有するMQ単位のシリコーンレジンを選択し、72部と8部の割合で混合し、成分(A)として、25℃における粘度が20,000mPa・sで、分子鎖両末端にのみビニル基を有する直鎖状ジメチルポリシロキサン99.2部と、25℃における粘度が600mPa・sで、分子鎖両末端と側鎖にビニル基を有する直鎖状ジメチルポリシロキサン0.8部で希釈し、成分(C)として、25℃における粘度が60mPa・sで、分子鎖の非両末端にケイ素原子に結合した水素原子を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー22部と、硬化遅延剤として1-エチニル-1-シクロヘキサノール0.1部を加えたものを、撹拌機でよく混合した。さらに、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を白金含有量として1%含有するジメチルポリシロキサン溶液0.2部を、撹拌機でよく混合し、付加硬化型シリコーン組成物を作製し、これを、比較例1とした。比較例1中の、ケイ素原子に結合した全水素原子と全アルケニル基のモル数比は1.9であり、成分(B-1)と成分(B-2)の比は、72:8であった。
【0091】
(比較例1の金型脱型試験)
比較例1はトルク測定を行わず、直接、金型脱型試験用の金型に注入し、130℃で600秒間加熱した後に脱型を行ったところ、硬化物が硬くなって脱型ができなくなり、ピンセットを使用して脱型を行ったが、硬化物に亀裂が生じた。
【0092】
<比較例2>
(比較例2の作製)
高透明な硬化物を得ることを狙い、成分(B-2)-1としてゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の質量平均分子量が6,000g/molのビニル基を有するMQ単位のシリコーンレジンと、成分(B-2)-2として質量平均分子量が6,500g/molのビニル基を有するMQ単位のシリコーンレジンを選択し、40部と40部の割合で混合し、成分(A)として、25℃における粘度が20,000mPa・sで、分子鎖両末端にのみビニル基を有する直鎖状ジメチルポリシロキサン99.2部と、25℃における粘度が600mPa・sで、分子鎖両末端と側鎖にビニル基を有する直鎖状ジメチルポリシロキサン0.8部で希釈し、成分(C)として、25℃における粘度が60mPa・sで、分子鎖の非両末端にケイ素原子に結合した水素原子を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー22部と、硬化遅延剤として1-エチニル-1-シクロヘキサノール0.1部を加えたものを、撹拌機でよく混合した。さらに、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を白金含有量として1%含有するジメチルポリシロキサン溶液0.2部を、撹拌機でよく混合し、付加硬化型シリコーン組成物を作製し、これを、比較例2とした。比較例2中の、ケイ素原子に結合した全水素原子と全アルケニル基のモル数比は1.9であり、成分(B-1)と成分(B-2)の比は、0:80であった。
【0093】
(比較例2の金型脱型試験)
比較例2もトルク測定を行わず、直接、金型脱型試験用の金型に注入し、130℃で300秒間加熱した後に脱型を行ったところ、硬化物の変形、傷、亀裂などの発生や、格子状形状の欠落などは認められず、脱型は良好であった。
【0094】
(比較例2の硬化シート物性測定)
そこで、さらに、比較例2の硬化物の硬さと透明性を測定するため、130℃で180秒間加熱して厚さ2mmの硬化シートを作製した。一次硬化後の第一硬さはショアA硬さで59であり、二次硬化後の第二硬さは64以上にならず、その差は5であった。また二次硬化後の硬化シートは透明で、光透過率は400nmで89%であったが、硬化物中に2~3個の小さな黒い異物が存在していた。第二硬化後の硬さおよび外観は、実用上不十分なものであった。
【0095】
<実施例1>
(実施例1の検討処方1の作製)
硬化が速く、かつ、高透明な硬化物を得ることを狙い、低分子量のシリコーンレジンで硬化速度を見積もるため、成分(B-1)としてゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の質量平均分子量が2,000g/molのビニル基を有するMQ単位のシリコーンレジンのみを選択し、その80部に対して、成分(A)として、25℃における粘度が20,000mPa・sで、分子鎖両末端にのみビニル基を有する直鎖状ジメチルポリシロキサン99.2部と、25℃における粘度が600mPa・sで、分子鎖両末端と側鎖にビニル基を有する直鎖状ジメチルポリシロキサン0.8部で希釈し、成分(C)として、25℃における粘度が60mPa・sで、分子鎖の非両末端にケイ素原子に結合した水素原子を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー22部と、硬化遅延剤として1-エチニル-1-シクロヘキサノール0.1部を加えたものを、撹拌機でよく混合した。さらに、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を白金含有量として1%含有するジメチルポリシロキサン溶液0.2部を、撹拌機でよく混合し、付加硬化型シリコーン組成物を作製し、これを、実施例1の検討処方1とした。検討処方1中の、ケイ素原子に結合した全水素原子と全アルケニル基のモル数比は1.9であり、成分(B-1)と成分(B-2)の比は、80:0であった。そして、検討処方1のトルクを130℃で900秒測定して検討処方1の硬化曲線を得た。
【0096】
(実施例1の検討処方2の作製)
検討処方1の硬化曲線は硬化が速すぎるため、検討処方1の硬化速度を調整することができ、かつ、透明性を高めることができる高分子量のシリコーンレジンの硬化速度を見積もるため、実施例1の検討処方1の処方において、成分(B-1)である質量平均分子量が2,000g/molのビニル基を有するMQ単位のシリコーンレジン80部の代わりに、成分(B-2)-1として質量平均分子量が6,000g/molのビニル基を有するMQ単位のシリコーンレジン80部に変更したものを、実施例1の検討処方2とした。 検討処方2中の、ケイ素原子に結合した全水素原子と全アルケニル基のモル数比は1.9であり、成分(B-1)と成分(B-2)の比は、0:80であった。そして、検討処方2のトルクを130℃で900秒測定して検討処方2の硬化曲線を得た。
【0097】
(実施例1の作製)
検討処方1の硬化曲線(破線)と検討処方2の硬化曲線(二点鎖線)を
図3に示す。
検討処方1は加熱約6秒で硬化を開始し、約7秒に至るまでの短時間に硬化の大半が完了するため、その間に金型から取り出すことは製造上不可能である。また、約7秒以降、トルクは約1.15(N・m)でほぼ水平となり、脱型を加熱300秒以降に行うことは難しくなることが予想される。従って、検討処方1では脱型はトルクが1.15以下で行うとよいが、その領域は硬化開始後からの時間が短く、硬化曲線の傾きも大きいため実際には難しい。
一方、検討処方2は立ち上がりが遅く、加熱約12秒で硬化を開始する。加熱300秒後のトルクは約1.45(N・m)と検討処方1より高いが、未硬化成分の存在によってそれ以降も硬化曲線は傾きを有しており、加熱300秒で脱型を行うことは可能であると予想される。
そこで、前記の検討処方結果に基づき、硬化開始が約12秒より早く、かつ、130℃で加熱300秒での脱型が可能となるようなシリコーン組成物を得ることを狙い、検討処方1と検討処方2を44:36の比率で配合した処方を作製し、これを実施例1とした。実施例1中の、ケイ素原子に結合した全水素原子と全アルケニル基のモル数比は1.9であり、成分(B-1)と成分(B-2)の比は、44:36であった。そして、実施例1のトルクを130℃で900秒測定して実施例1の硬化曲線を得た。実施例1は硬化開始が約8秒と短くなり、加熱約300秒後のトルクは約1.3(N・m)で、硬化曲線は傾きを有していることから、300秒後で脱型可能と予想され、ほぼ目的とする硬化挙動を得ることができた。
【0098】
<実施例2>
(実施例2の作製)
そこで、実施例1について、実際に金型脱型性の確認と硬さ、および透明性確認のための透過率測定を行うために、実施例1の分配組成物1と分配組成物2を作製し、これを実施例2の分配組成物とした。
(実施例2の分配組成物1の作製)
成分(A)として、25℃における粘度が20,000mPa・sで、分子鎖両末端にのみビニル基を有する直鎖状ジメチルポリシロキサン99.2部と、25℃における粘度が600mPa・sで、分子鎖両末端と側鎖にビニル基を有する直鎖状ジメチルポリシロキサン0.8部と、成分(B-1)として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の質量平均分子量が2,000g/molで、ビニル基を有するMQ単位のシリコーンレジン36.1部と、成分(B-2)-1として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の質量平均分子量が6,000g/molで、ビニル基を有するMQ単位のシリコーンレジン29.5部と、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を白金含有量として1%含有するジメチルポリシロキサン溶液0.3部を、撹拌機でよく混合し、これを、JIS規格の公称目開きが75μmの金属ふるいに通したものを、実施例2の分配組成物1とした。
(実施例2の分配組成物2の作製)
成分(A)として、25℃における粘度が20,000mPa・sで、分子鎖両末端にのみビニル基を有する直鎖状ジメチルポリシロキサン100部と、成分(B-1)として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の質量平均分子量が2,000g/molで、ビニル基を有するMQ単位のシリコーンレジン56.4部と、成分(B-2)-1として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の質量平均分子量が6,000g/molで、ビニル基を有するMQ単位のシリコーンレジン46.2部と、成分(C)として、25℃における粘度が60mPa・sで、分子鎖の非両末端にケイ素原子に結合した水素原子を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー56.4部と、硬化遅延剤として1-エチニル-1-シクロヘキサノール0.3部を加えたものを、撹拌機でよく混合し、これを、JIS規格の公称目開きが75μmの金属ふるいに通したものを、実施例2の分配組成物2とした。
実施例2中の、ケイ素原子に結合した全水素原子と全アルケニル基のモル数比は1.9であり、成分(B-1)と成分(B-2)の比は、44:36であった。
【0099】
(実施例2の金型脱型試験)
実施例2の分配組成物1と分配組成物2を1:1の割合で計量して撹拌機で十分に混合した。そして真空ポンプで脱気を行い、金型脱型試験用の金型に注入し、130℃で180秒間加熱した後に脱型を行ったところ、硬化物の変形、傷、亀裂などの発生や、格子状形状の欠落などは発生せず、脱型は良好であった。
【0100】
(実施例2の硬化シート物性測定)
実施例2の硬化物の硬さと透明性を測定するため、130℃で180秒間加熱して厚さ2mmの硬化シートを作製した。一次硬化後の第一硬さはショアA硬さで60であり、二次硬化後の第二硬さは67で、その差は7であった。また二次硬化後の硬化シートは透明で異物などもなく、光透過率は400nmで90%であった。
【0101】
<実施例3>
(実施例3の金型脱型試験)
実施例2の金型脱型を130℃で180秒間加熱する代わりに300秒間で行ったものを実施例3とした。実施例3の脱型は、実施例2に比べてやや固くなった。従って、実施例2の処方は、130℃で硬化した場合の脱型は、300秒より短い時間で行うことがより好ましいが、硬化物の変形、傷、亀裂などの発生や、格子状形状の欠落などは認められず、脱型は良好であり、問題はなかった。
【0102】
(実施例3の硬化シート物性測定)
実施例3の硬化物の硬さと透明性を測定するため、130℃で180秒間加熱して厚さ2mmの硬化シートを作製した。一次硬化後の第一硬さはショアA硬さで60であり、二次硬化後の第二硬さは67で、その差は7で、実施例2と同じであった。また二次硬化後の硬化シートは透明で異物などもなく、光透過率は400nmで90%であった。
【0103】
<実施例4>
(実施例4の作製)
実施例3の金型脱型性は良好であったが、やや固いため、その点をより改善するため、硬化開始が約12秒以降で、かつ、130℃で加熱300秒後でもより脱型しやすくなることを狙い、検討処方1と検討処方2を36:44の比率で配合した処方を作製し、これを実施例4とした。
(実施例4の分配組成物1の作製)
成分(A)として、25℃における粘度が20,000mPa・sで、分子鎖両末端にのみビニル基を有する直鎖状ジメチルポリシロキサン99.2部と、25℃における粘度が600mPa・sで、分子鎖両末端と側鎖にビニル基を有する直鎖状ジメチルポリシロキサン0.8部と、成分(B-1)として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の質量平均分子量が2,000g/molで、ビニル基を有するMQ単位のシリコーンレジン29.5部と、成分(B-2)-1として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の質量平均分子量が6,000g/molで、ビニル基を有するMQ単位のシリコーンレジン36.1部と、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を白金含有量として1%含有するジメチルポリシロキサン溶液0.3部を、撹拌機でよく混合し、これを、JIS規格の公称目開きが75μmの金属ふるいに通したものを、実施例4の分配組成物1とした。
(実施例4の分配組成物2の作製)
成分(A)として、25℃における粘度が20,000mPa・sで、分子鎖両末端にのみビニル基を有する直鎖状ジメチルポリシロキサン100部と、成分(B-1)として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の質量平均分子量が2,000g/molで、ビニル基を有するMQ単位のシリコーンレジン46.2部と、成分(B-2)-1として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の質量平均分子量が6,000g/molで、ビニル基を有するMQ単位のシリコーンレジン56.4部と、成分(C)として、25℃における粘度が60mPa・sで、分子鎖の非両末端にケイ素原子に結合した水素原子を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー56.4部と、硬化遅延剤として1-エチニル-1-シクロヘキサノール0.3部を加えたものを、撹拌機でよく混合し、これを、JIS規格の公称目開きが75μmの金属ふるいに通したものを、実施例4の分配組成物2とした。
実施例4中の、ケイ素原子に結合した全水素原子と全アルケニル基のモル数比は1.9であり、成分(B-1)と成分(B-2)の比は、36:44であった。
そして、実施例4の分配組成物1と分配組成物2を1:1の割合で計量して撹拌機で十分に混合した。そして真空ポンプで脱気を行い、実施例4のトルクを130℃で900秒測定した。
実施例4は硬化開始が約12秒で、加熱約300秒後のトルクは約1.35(N・m)で、それ以降も硬化曲線は傾きを有しており、実施例1よりも緩和された硬化曲線であり、ほぼ目的とする硬化挙動を得ることができた。
【0104】
(実施例4の金型脱型試験)
実施例4の分配組成物1と分配組成物2を1:1の割合で計量して撹拌機で十分に混合した。そして真空ポンプで脱気を行い、金型脱型試験用の金型に注入し、130℃で300秒間加熱した後に脱型を行ったところ、硬化物の変形、傷、亀裂などの発生や、格子状形状の欠落などは認められず、脱型もスムーズとなり良好であった。
【0105】
(実施例4の硬化シート物性測定)
実施例4の硬化物の硬さと透明性を測定するため、130℃で180秒間加熱して厚さ2mmの硬化シートを作製した。一次硬化後の第一硬さはショアA硬さで60であり、二次硬化後の第二硬さは69で、その差は9に増加した。また二次硬化後の硬化シートは透明で異物などもなく、光透過率は400nmで90%であった。
【0106】
<実施例5>
(実施例5の作製)
実施例4の分配組成物1と分配組成物2の製造工程における、金属ふるいのサイズを75μmの代わりに、38μmに変更して製造したものを実施例5とした。
図1に硬化曲線は示さないが、硬化挙動は実施例4と同じであり、差は見られなかった。
【0107】
(実施例5の金型脱型試験)
実施例5の分配組成物1と分配組成物2を1:1の割合で計量して撹拌機で十分に混合した。そして真空ポンプで脱気を行い、金型脱型試験用の金型に注入し、130℃で300秒間加熱した後に脱型を行ったところ、硬化物の変形、傷、亀裂などの発生や、格子状形状の欠落などは認められず、脱型もスムーズで良好であった。
【0108】
(実施例5の硬化シート物性測定)
実施例5の硬化物の硬さと透明性を測定するため、130℃で180秒間加熱して厚さ2mmの硬化シートを作製した。一次硬化後の第一硬さはショアA硬さで60であり、二次硬化後の第二硬さは69で、その差は9で実施例4と同等であった。また二次硬化後の硬化シートは原料の分散性が向上し、透明で異物などもなく、光透過率が400nmで91%に上昇した。
【0109】
<比較例3>
(比較例3の金型脱型性試験)
実施例4で金型脱型性が良好であった130℃で300秒間の加熱に代わり、脱型を130℃で120秒間加熱で実施したものを比較例3とした。比較例3は傷、亀裂などの発生や、格子状形状の欠落などは発生せず、脱型はできたが、硬化物内部に未硬化成分がまだ多く存在しており、脱型後の硬化物の形状が少し伸長して変形した。
【0110】
<比較例4>
(比較例4の金型脱型性試験)
実施例4で金型脱型性が良好であった130℃で300秒間の加熱に代わり、脱型を130℃で600秒間加熱で実施したものを比較例4とした。比較例4の組成は硬化物が硬くなって脱型ができなくなり、ピンセットを使用して脱型を行ったが、硬化物に亀裂が生じた。
【0111】
<比較例5>
(比較例5の硬化シート物性測定)
実施例2で二次硬化後の硬さ上昇が大きくなった200℃で4時間の加熱に代わり、130℃で4時間で実施したものを比較例5とした。比較例5の一次硬化後の第一硬さはショアA硬さで60で、二次硬化後の第二硬さは65で、その差は5に止まった。また二次硬化後の硬化シートは透明で異物などは認められず、光透過率が400nmで90%であった。
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
比較例1と比較例2では、本発明の請求項1で規定された段階1~5によらず、本発明による硬化挙動の制御の方法を使用しないで硬化物製造を行ったため、所望の金型脱型性、または、最終硬化物の物性が得られなかった。これに対し、実施例1では、本発明の請求項1で規定された段階1~5により、検討処方1と検討処方2の硬化挙動から判断して、目標とする硬化挙動を得た。
さらに実施例2において、その分配組成物を作製し、ふるいに通して分散性を向上させ、異物を取り除いて硬化物製造を行い、所望の金型脱型性および最終硬化物の物性が得られた。さらに、実施例2と実施例3により、本発明の請求項2で規定された開始点P1と終了点P2間の領域が制御されたことが示された。
実施例4と実施例5では、実施例1から実施例3の処方の結果をもとに、シリコーン組成物の混合質量比を変更し、製造工程ではふるいの条件を変更し、脱型試験時の加熱時間の変更に伴う物性の改良、または、ふるいサイズの変更による異物の除去効果の確認ができた。
一方、比較例3~比較例5では、実施例4の処方をもとに、脱型試験の加熱時間を、所定の下限時間よりも短く、または、所定の上限時間よりも長くしたところ、開始点P1と終了点P2間の領域外となって脱型性がいずれも低下し、または、二次硬化温度の不適正により硬化物の物性が低下した。
以上より、実施例および比較例から、本発明の作用が実証された。
本発明のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化挙動を制御する方法、組成物、硬化物の製造方法、および硬化物は、電子・電気産業、光学産業、医療産業、自動車産業などの多くの産業で、透明性、十分な硬度、精密加工性、量産性を要求される様々な用途に応えられる材料を提供することができる。
特に、金型による生産が可能なため、従来不可能だった、透明材料のシート化、微細加工、などの量産化が可能になるため、新規用途が期待できる。また、硬化挙動の制御の意味では、上記の技術分野に限らず、幅広い分野で利用することができる。
質量平均分子量の異なる、2種類以上の、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含有する、付加硬化型シリコーン組成物であって、前記シリコーン組成物を最終硬化状態に至るよう加熱する過程での、加熱温度に応じた硬化曲線が、前記シリコーンレジンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加硬化の反応速度により調整されていることを特徴とする、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物。
前記アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物は、成形型にて硬化する場合のものであり、最終硬化状態に至る硬化過程の途中段階にあって、未反応基を有する硬化物を、当該成形型から変形、あるいは損傷なく脱型できる硬化度関連物性の測定値の領域を有しており、目的に応じて前記領域を任意に設定するための前記開始点P1と前記終了点P2が調整されていることを特徴とする、請求項3に記載の、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物。
前記硬化曲線上に開始点P1および終了点P2が存在し、かつ所望の脱型性を有するように、前記開始点P1から前記終了点P2へ至る経過時間が調整され、かつ、当該脱型物を最終硬化段階まで硬化した場合に、所望の硬化度関連物性値が得られるように調整されていることを特徴とする、請求項4に記載の、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物。
ケイ素原子に結合したアルケニル基を、1分子中に1個以上有し、質量平均分子量がMw(1)であり、前記Mw(1)に応じて定められる第一硬化速度を有するシリコーンレジン(1)と、
ケイ素原子に結合したアルケニル基を、1分子中に1個以上有し、質量平均分子量がMw(2)であり、Mw(2)は前記Mw(1)よりも大きく、前記Mw(2)に応じて定められる、前記第一硬化速度よりも遅い第ニ硬化速度を有するシリコーンレジン(2)、を含む、
微粉末シリカを含まない付加硬化型シリコーン組成物であって、
前記Mw(2)と前記Mw(1)の差が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算で2、000g/mol以上であり、
かつ、前記シリコーンレジン(1)と前記シリコーンレジン(2)の混合質量比を調整することで、得られる硬化物の前記最終硬化状態での硬さと、
前記硬化曲線上の開始点P1と終了点P2の2点間によって定められ、最終硬化状態に至る硬化過程の途中段階にあって、未反応基を有する硬化物を、当該成形型から変形、あるいは損傷なく脱型できる領域内で取り出した硬化物の硬さの差が、ショアA硬さで7以上であることを特徴とする、請求項4または請求項5に記載のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物。
請求項4ないしは請求項8のいずれか1項に記載のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物に含まれる成分を、分配組成物1と分配組成物2とに分配されるように、前記分配組成物1と前記分配組成物2とを製造する製造工程と、
前記製造工程で得られた前記分配組成物1と前記分配組成物2を混合して、微粉末シリカを含まない付加硬化型シリコーン組成物を得る混合工程と、
前記混合工程で得られた付加硬化型シリコーン組成物を、成形型内で一次硬化して第一硬さを有する硬化物を得る硬化工程と、
得られた硬化物を前記成形型から脱型する脱型工程と、
脱型後の前記硬化物を、成形型外で二次硬化して第二硬さを有する硬化物を得る硬化工程、
を含み、
前記硬化物の第二硬さと第一硬さの差が、ショアA硬さで7以上であることを特徴とする、アルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法。
前記製造工程において、前記分配組成物1と前記分配組成物2とを、それぞれ、ふるいに通す分散工程を含むことを特徴とする、請求項10に記載のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法。
前記硬化工程において、一次硬化温度が100~170℃の範囲で、かつ、二次硬化温度が150~210℃の範囲であることを特徴とする、請求項10または11に記載のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法。
前記硬化物の第二硬さが、ショアA硬さで65以上であることを特徴とする、請求項10~12のいずれか1項に記載のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法。
前記硬化物は、厚さ2mmの硬化シートの光透過率が、400nmで85%以上であることを特徴とする、請求項10~12のいずれか1項に記載のアルケニル基を有するシリコーンレジンを含む付加硬化型シリコーン組成物の硬化物の製造方法。