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特開2022-84473導電性AlNエピタキシャル膜付き基板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084473
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】導電性AlNエピタキシャル膜付き基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20220531BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20220531BHJP
   C30B 31/22 20060101ALI20220531BHJP
   C30B 33/02 20060101ALI20220531BHJP
   C23C 14/48 20060101ALI20220531BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20220531BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20220531BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
C30B29/38 C
C30B25/18
C30B31/22
C30B33/02
C23C14/48 A
C23C16/34
H01L21/20
H01L21/265 Z
H01L21/265 601A
H01L21/265 V
H01L21/265 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020196391
(22)【出願日】2020-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100213436
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 直俊
(72)【発明者】
【氏名】奥村 宏典
(72)【発明者】
【氏名】柴田 智彦
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 康弘
【テーマコード(参考)】
4G077
4K029
4K030
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB01
4G077AB03
4G077AB10
4G077BE13
4G077DB08
4G077EA02
4G077EB01
4G077ED06
4G077FD05
4G077FD06
4G077FE02
4G077HA02
4G077HA06
4G077TA04
4G077TA07
4G077TB05
4G077TC13
4G077TC16
4G077TJ02
4G077TJ03
4G077TJ06
4G077TK01
4K029AA07
4K029AA24
4K029BA58
4K029BD01
4K029CA10
4K029DE04
4K029GA01
4K030AA11
4K030AA13
4K030BA02
4K030BA38
4K030BB02
4K030BB13
4K030CA05
4K030CA12
4K030FA10
4K030JA01
4K030JA10
4K030LA15
5F152LL05
5F152LM08
5F152LN03
5F152LN04
5F152LN22
5F152MM01
5F152MM10
5F152MM20
5F152NN13
5F152NN27
5F152NP09
5F152NQ09
(57)【要約】
【課題】表面平坦性が高く、所定の導電性を有するn型AlN層をサファイア基板上に有する導電性AlNエピタキシャル膜付き基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】導電性AlNエピタキシャル膜付き基板100は、サファイア基板1と、サファイア基板1上に形成されたAlN層2と、を備え、AlN層2は、厚さが2μm以上であり、サファイア基板1に対向する側と反対側の表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における平均Si濃度が1×1018cm-3以上1×1019cm-3以下であり、当該表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における平均酸素濃度が5×1017cm-3以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア基板と、
前記サファイア基板上に形成されたAlN層と、を備え、
前記AlN層は、
厚さが2μm以上であり、
前記サファイア基板に対向する側と反対側の表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における平均Si濃度が1×1018cm-3以上1×1019cm-3以下であり、
前記表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における平均酸素濃度が6×1017cm-3以下である導電性AlNエピタキシャル膜付き基板。
【請求項2】
前記表面の二乗平均平方根高さが1nm以下である請求項1に記載の導電性AlNエピタキシャル膜付き基板。
【請求項3】
サファイア基板上にAlN層を、成長温度1400℃以下で、厚さ2μm以上に形成するAlN層形成工程と、
前記AlN層における前記サファイア基板に対向する側と反対側の表面からSiイオンを注入するイオン注入工程と、
前記AlN層と前記サファイア基板とを、窒素雰囲気下で、1300℃以上の温度で熱処理する熱処理工程と、を含み、
前記イオン注入工程における前記Siイオンのドーズ量が2×1015cm-2未満であり、
前記熱処理工程は、前記熱処理後における、前記表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における平均酸素濃度を6×1017cm-3以下とする導電性AlNエピタキシャル膜付き基板の製造方法。
【請求項4】
前記AlN層形成工程は、
前記サファイア基板上に前記AlN層としての第一AlN層を成長温度1400℃以下で形成する第一AlN層形成工程と、
前記第一AlN層の成長温度よりも高い温度で前記第一AlN層と前記サファイア基板とを熱処理する予備熱処理工程と、
前記第一AlN層上に前記AlN層としての第二AlN層を成長温度1400℃以下で形成する第二AlN層形成工程と、を含む請求項3に記載の導電性AlNエピタキシャル膜付き基板の製造方法。
【請求項5】
前記イオン注入工程は、前記表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における平均Si濃度が1×1018cm-3以上1×1019cm-3以下とする請求項3又は4に記載の導電性AlNエピタキシャル膜付き基板の製造方法。
【請求項6】
前記AlN層形成工程は、前記表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における平均酸素濃度を2×1018cm-3以下とする請求項3から5のいずれか一項に記載の導電性AlNエピタキシャル膜付き基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サファイア基板上にAlN層を有する導電性AlNエピタキシャル膜付き基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AlN(窒化アルミニウム)は、バンドギャップが大きい材料であり、n型やp型のドーピングが可能であることが知られている。そのため、高耐圧デバイス、深紫外LED、光導波路、MEMS圧電音響センサなどの用途で、幅広く用いられている。
【0003】
非特許文献1には、サファイア基板上の厚さ1μmのAlN層に対し、Siをドーズ量5×1015cm-2でイオン注入した後、1400℃で10分加熱することにより、導電性のあるn型AlNを得られたことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Masakazu Kanechika, and Tetsu Kachi Appl. Phys. Lett. 88, 202106 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サファイア基板はSiC(シリコンカーバイド)基板などに比べて安価である。そこで発明者らは、サファイア基板上において導電性のn型AlN層を得るために、種々の検討を行った。その過程で、非特許文献1に記載されたようにSiを高いドーズ量(例えばドーズ量5×1015cm-2以上)でイオン注入を行うと、イオン注入により蓄積されたダメージの影響で、イオン注入後に例えば1230℃、1400℃、1600℃といった温度で熱処理を行うと、表面にRMS(二乗平均平方根高さ)で5~15nm程度の大きな凹凸が生じてしまうことが分かった。一方、低いドーズ量(例えばドーズ量5×1014cm-2)でイオン注入を行うと、イオン注入後の1600℃の熱処理を経ても表面の凹凸は生じず、RMSで0.5nm程度の平坦性を維持できるものの、導電性のあるn型AlN層を得ることが困難であることが分かった。
【0006】
サファイア基板上に導電性のn型AlN層を形成した導電性AlNエピタキシャル膜付き基板において、そのAlN層の表面は、ある程度表面平坦性が高いことが必要である。すなわち、サファイア基板上にAlN層を形成し、更にイオン注入後に高い温度で熱処理を行っても、そのAlN層の表面平坦性が高いことが必要である。表面平坦性は、例えばRMSが1nm以下であることが望まれる。また、この導電性AlNエピタキシャル膜付き基板におけるAlN層は、導電性として、たとえばシート抵抗が所定の抵抗値以下であることが必要である。AlN層のシート抵抗は、例えば50GΩ/□以下であることが望まれる。
【0007】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、表面平坦性が高く、導電性を有するn型AlN層をサファイア基板上に有する導電性AlNエピタキシャル膜付き基板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上述の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、本発明者等は、酸素濃度に着目し、以下に述べる本発明を完成させた。
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る導電性AlNエピタキシャル膜付き基板は、
サファイア基板と、
前記サファイア基板上に形成されたAlN層と、を備え、
前記AlN層は、
厚さが2μm以上であり、
前記サファイア基板に対向する側と反対側の表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における平均Si濃度が1×1018cm-3以上1×1019cm-3以下であり、
前記表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における平均酸素濃度が6×1017cm-3以下である。
【0010】
本発明に係る導電性AlNエピタキシャル膜付き基板は、更に、
前記表面の二乗平均平方根高さが1nm以下であってもよい。
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係る導電性AlNエピタキシャル膜付き基板の製造方法は、
サファイア基板上にAlN層を、成長温度1400℃以下で、厚さ2μm以上に形成するAlN層形成工程と、
前記AlN層における前記サファイア基板に対向する側と反対側の表面からSiイオンを注入するイオン注入工程と、
前記AlN層と前記サファイア基板とを、窒素雰囲気下で、1300℃以上の温度で熱処理する熱処理工程と、を含み、
前記イオン注入工程における前記Siイオンのドーズ量が2×1015cm-2未満であり、
前記熱処理工程は、前記熱処理後における、前記表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における平均酸素濃度を6×1017cm-3以下とする。
【0012】
本発明に係る導電性AlNエピタキシャル膜付き基板の製造方法では、更に、
前記AlN層形成工程は、
前記サファイア基板上に前記AlN層としての第一AlN層を成長温度1400℃以下で形成する第一AlN層形成工程と、
前記第一AlN層の成長温度よりも高い温度で前記第一AlN層と前記サファイア基板とを熱処理する予備熱処理工程と、
前記第一AlN層上に前記AlN層としての第二AlN層を成長温度1400℃以下で形成する第二AlN層形成工程と、を含むとよい。
【0013】
本発明に係る導電性AlNエピタキシャル膜付き基板の製造方法では、更に、
前記イオン注入工程は、前記表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における平均Si濃度が1×1018cm-3以上1×1019cm-3以下とするとよい。
【0014】
本発明に係る導電性AlNエピタキシャル膜付き基板の製造方法では、更に、
前記AlN層形成工程は、前記表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における平均酸素濃度を2×1018cm-3以下とするとよい。
【発明の効果】
【0015】
表面平坦性が高く、所定の導電性を有するn型AlN層をサファイア基板上に有する導電性AlNエピタキシャル膜付き基板及びその製造方法を提供することができる。この導電性AlNエピタキシャル膜付き基板にあっては、Siイオンの注入及び熱処理後のAlN層の表面平坦性を、RMSが1nm以下とすることができる。また、この導電性AlNエピタキシャル膜付き基板にあっては、AlN層が、そのシート抵抗が50GΩ/□以下となるレベルの導電性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に従う導電性AlNエピタキシャル膜付き基板の側断面図である。
図2】本発明に従う導電性AlNエピタキシャル膜付き基板の製造方法を説明するための、模式断面図による工程図である。
図3】実施例1のAlN層における深さ方向のSi濃度及び酸素濃度のグラフである。
図4】実施例1のAlN層における深さ方向の炭素濃度及び水素濃度のグラフである。
図5】実施例2のAlN層における深さ方向のSi濃度及び酸素濃度のグラフである。
図6】実施例2のAlN層における深さ方向の炭素濃度及び水素濃度のグラフである。
図7】比較例1のAlN層における深さ方向のSi濃度及び酸素濃度のグラフである。
図8】比較例1のAlN層における深さ方向の炭素濃度及び水素濃度のグラフである。
図9】比較例2,3のAlN層における深さ方向のSi濃度及び酸素濃度のグラフである。
図10】比較例2,3のAlN層における深さ方向の炭素濃度及び水素濃度のグラフである。
図11】比較例4の、第二の熱処理後のAlN層における深さ方向のSi濃度及び酸素濃度のグラフである。
図12】比較例4の、第二の熱処理後のAlN層における深さ方向の炭素濃度及び水素濃度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に従う実施形態の説明に先立ち、以下の点について予め説明する。
【0018】
本明細書において、電気的にp型として機能する層をp型層と称し、電気的にn型として機能する層をn型層と称する。一方、酸素、水素、炭素及びSi等の特定の不純物を意図的には添加しておらず、電気的にp型又はn型として機能しない場合、「アンドープ」と言う。アンドープの層には、製造過程における不可避的な不純物の混入はあってよく、具体的には、キャリア密度が小さい(例えば4×1016/cm未満)場合に「アンドープ」である、と本明細書において称する。また、上記Si等の不純物濃度の値は、SIMS分析によるものとする。
【0019】
また、エピタキシャル成長により形成されるAlN層の厚み全体は、光干渉式膜厚測定装置を用いて測定することができる。AlN層の不純物濃度は、SIMS分析により測定できる。
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る導電性AlNエピタキシャル膜付き基板及びその製造方法について説明する。なお、各図において、説明の便宜上、基板及び各層の縦横の比率を実際の比率から誇張して示している。
【0021】
〔概略構成の説明〕
図1には、本実施形態に係る導電性AlNエピタキシャル膜付き基板100を示している。導電性AlNエピタキシャル膜付き基板100は、サファイア基板1と、サファイア基板1上に形成されたAlN層2と、を備えている。AlN層2は、厚さが2μm以上である。AlN層2における、サファイア基板1に対向する側と反対側の表面(以下、単にAlN層2の表面と記載する)から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における算術平均値として求めた平均Si濃度(以下、単に平均Si濃度と記載する)は、1×1018cm-3以上1×1019cm-3以下である。AlN層2の表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における算術平均値として求めた平均酸素濃度(以下、単に平均酸素濃度と記載する)は6×1017cm-3以下であり、より好ましくは、平均酸素濃度は5×1017cm-3以下である。
【0022】
〔各部の説明〕
〔サファイア基板〕
サファイア基板1は、その表面にAlN層2が形成される担体である。サファイア基板1における、AlNの結晶成長を行う表面の面方位は(0001)面とすることができる。サファイア基板1は、オフ角を0.1°以上1°以下の範囲で有していても良い。サファイア基板1の厚みは、例えば80μm以上1400μm以下のものを用いることができる。
【0023】
〔AlN層〕
AlN層2とは、III族として主にAlを含み、V族として主に窒素(N)を含むIII-V族化合物(本実施形態ではAlN)により形成された層である。
【0024】
サファイア基板1上に形成されるAlN層2には、後述するように、酸素が所定量含まれており、Si(ケイ素)が所定量注入されている。そして、AlN層2はn型の半導体層である。AlN層2には、上記の酸素及びSi不純物以外の不純物(AlとN以外の元素)は意図的に添加されていない。しかし、AlN層2には、酸素及びSi以外では水素などの製造過程における不可避的な不純物の混入はあってよく、GaやInなどの他のIII族元素や他のV族元素が不純物レベル(例えば1×1021cm-3以下)で含まれていても良い。
【0025】
本実施形態におけるAlN層2の平均酸素濃度及び平均Si濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した値である。平均酸素濃度及び平均Si濃度は、SIMS分析により、AlN層2の表面からの深さ方向測定により求める。AlN層2の最表面は汚れや表面酸化等による影響を受けている場合もあるため、平均酸素濃度及び平均Si濃度は、AlN層2の表面近傍、すなわち、AlN層2表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における平均値を算出することで評価する。
【0026】
上記のごとく、AlN層2の表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における、平均Si濃度は、1×1018cm-3以上1×1019cm-3以下であり、同範囲における平均酸素濃度は、6×1017cm-3以下であり、より好ましくは5×1017cm-3以下である。この範囲における平均Si濃度は、1×1018cm-3以上5×1018cm-3以下であることがより好ましい。このように、AlN層2の表面近傍において、酸素濃度を6×1017cm-3以下の低い濃度としつつ、後述するようにAlN層2の表面が荒れない程度にイオン注入量を少なくしてSiを適切な濃度で含有させることで、シート抵抗が50GΩ/以下となる導電性を有しながら平坦なAlN層2を得ることができる。
【0027】
AlN層2の厚さは、2μm以上であり、より好ましくは2.5μm以上である。AlN層2の厚さは、非接触型膜厚計、例えば、光干渉式膜厚測定装置を用いて測定することができる。本実施形態におけるAlN層2の厚さは、光干渉式膜厚測定装置であるNanoSpec 6100(Nano metrics社製)により測定した値を用いている。AlN層2の厚さの上限は特に制限されないが、例えば10μmとすることができる。
【0028】
AlN層2の表面の凹凸は、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いて計測することができる。AlN層2上に更に半導体層を形成するためには、AlN層2の表面の凹凸は、RMS(二乗平均平方根高さ)で評価した場合、少なくとも1nm以下とすることが好ましい。本実施形態においてAlN層2の表面の凹凸は、走査型プローブ顕微鏡であるDimension ICON(ブルカー・エイエックスエス社製)で測定した値を用いている。AlN層2の表面の凹凸を評価する場合のAlN層2の表面の凹凸の測定条件は、Scan Analysistのカンチレバーで、Tappingモードにより(スキャン速度1Htz,Sample/line:512)であり、計測範囲は、2μm×2μm角である。RMSは、JIS規格(JIS B 0601:2013)に基づいて算出した値を用いている。
【0029】
〔製造方法の説明〕
導電性AlNエピタキシャル膜付き基板100の製造方法を説明する。
【0030】
導電性AlNエピタキシャル膜付き基板100の製造方法は、図2に示すように、サファイア基板1上にAlN層2を形成するAlN層形成工程(図2のステップA,B)と、AlN層2におけるサファイア基板1に対向する側と反対側の表面からSiイオンを注入するイオン注入工程(図2のステップC)と、AlN層2とサファイア基板1とを、窒素雰囲気下で、1300℃以上の温度で熱処理する熱処理工程(図2のステップD)と、を含む。
【0031】
AlN層形成工程では、サファイア基板1上に、エピタキシャル成長によりAlN層2を厚さ2μm以上に形成して導電性AlNエピタキシャル膜付き基板100の前駆体を形成する。AlN層2は、第一AlN層21と第二AlN層22とを形成することにより形成される。すなわち、AlN層形成工程は、サファイア基板1上にAlN層2としての第一AlN層21を形成する第一AlN層形成工程及び第一AlN層21とサファイア基板1とを熱処理する予備熱処理工程(図2のステップA)と、第一AlN層21上にAlN層2としての第二AlN層22を形成する第二AlN層形成工程(図2のステップB)と、を含む。第一AlN層形成工程、予備熱処理工程及び第二AlN層形成工程については後述する。
【0032】
AlN層形成工程では、AlN層2(すなわち第二AlN層22の表面)の表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における平均酸素濃度を2×1018cm-3以下、好ましくは1×1018cm-3以下となるように、AlN層2を形成する。以下では、AlN層2の表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲を、単にAlN層2の表面近傍と記載する。第二AlN層形成工程の段階で、AlN層2(すなわち第二AlN層22の表面)の表面近傍に含まれる酸素濃度を低くしておくことで、後述のイオン注入工程におけるイオン注入によるSiの活性化を促し、後述の第二の熱処理後の表面近傍の酸素濃度の上昇も抑制することができる。
【0033】
AlN層形成工程において、第一AlN層21及び第二AlN層22を形成するにあたり、エピタキシャル成長時に含有される酸素濃度は、エピタキシャル成長における成長温度のほか、成長圧力や成長速度、V/III比(V族/III族の比)の制御によって、特定の範囲に制御することが可能である。
【0034】
本実施形態では、第一AlN層21形成時及び第二AlN層22形成時における酸素濃度制御の一例として、成長温度(サファイア基板1の温度)を、1400℃以下と、低い温度とした。AlN層2の成長温度は、好ましくは1200℃以上1340℃以下である。こうすることで、サファイア基板1や装置内壁などの酸素がエピタキシャル成長中のAlN層2中に混入することを抑制しやすくなる。
【0035】
また、成長温度を1400℃以下とすることで、V/III比による酸素濃度制御も可能となる。例えば、1340℃を超える温度でもV/III比を600以上とすれば、AlN層2の表面近傍に含まれる酸素濃度を低く制御することができる。また、成長温度を1400℃以下とすることで、成長圧力や成長速度などの他の制御要因によっても酸素濃度制御ができる。
【0036】
また、例示すると、成長圧力は5torr以上150torr以下、成長速度は0.3μm/時以上3μm/時以下、V/III比は100以上3000以下の範囲で酸素濃度が上記範囲内となるよう、AlN層2を成長されればよい。
【0037】
第一AlN層形成工程では、図2のステップAとして示すように、第一AlN層21をサファイア基板1上にMOCVD法などのCVD法(気相成長法)によりエピタキシャル成長させる。第一AlN層形成工程における第一AlN層21の成長温度は、1400℃以下とする。第一AlN層21の成長温度は、1200℃以上1340℃以下であることが好ましい。第一AlN層21は、後述する予備熱処理工程でのクラック発生を抑制するため、1.5μm以下の膜厚とすることが望ましい。第一AlN層21は、0.3μm以上1μm以下の厚さとすることが更に好ましい。なお、エピタキシャル成長法はCVD法に限らず、スパッタ法、MBE法などの他の成膜法を活用可能であるが、結晶品質を向上するという観点でMOCVD法が望ましい。
【0038】
予備熱処理工程は第一AlN層形成工程後に行う。予備熱処理工程では、第一AlN層21の成長温度よりも高い温度で第一AlN層21とサファイア基板1とを熱処理(第一の熱処理)する。第一の熱処理の温度は、好ましくは1500℃以上である。また、第一の熱処理の温度は、好ましくは1800℃以下である。
【0039】
第一AlN層21をサファイア基板1上に形成した直後の状態では、第一AlN層21にはサファイア基板1との格子不整合を起因とする多くの転位が含まれる場合がある。しかし、第一AlN層21をサファイア基板1上に形成した後に1500℃以上で熱処理することで、転位密度を低減することができる。これにより、第一AlN層21の結晶性を向上させることができる。
【0040】
予備熱処理工程においては、第一AlN層21中にサファイア基板1から酸素が拡散される。この酸素は第一AlN層21の結晶性の向上に必要なものである。サファイア基板1から拡散した酸素は、第一AlN層21中に広く拡散する。熱処理後の第一AlN層21には多くの酸素が含まれた状態になる。
【0041】
予備熱処理工程後の第一AlN層21中における、サファイア基板1との界面から第一AlN層21の表面までの酸素拡散の影響が大きい範囲(サファイア基板1との界面から0.5μmまでの範囲とする)における平均酸素濃度は、1×1019cm-3以上であることが好ましく、1×1020cm-3以上であることがより好ましい。
【0042】
第二AlN層形成工程(図2のステップB)では、第二AlN層22を第一AlN層21上(第一AlN層21におけるサファイア基板1に対向する側と反対側の表面上)にMOCVD法などのCVD法によりエピタキシャル成長させる。
【0043】
第二AlN層22は、第一AlN層21よりも厚く形成する。第二AlN層22は、第一AlN層21との合計厚さが2μm以上となる厚さとすることが好ましく、例えば、第二AlN層22は1μm以上9μm以下の厚さとすることが好ましく、1.7μm以上がより好ましく、2μm以上とすることが更に好ましい。第二AlN層形成工程における第二AlN層22の成長温度は、1400℃以下とする。第二AlN層22の成長温度は、1200℃以上1340℃以下であることが好ましい。第二AlN層22は、第一AlN層21よりも酸素濃度が低い状態となるようにする。第二AlN層形成工程においても第一AlN層形成工程と同様に、エピタキシャル成長法はCVD法に限らず、スパッタ法、MBE法などの他の成膜法を活用可能であるが、結晶品質を向上するという観点でMOCVD法が望ましい。
【0044】
AlN層形成工程直後の段階では、上述の拡散する酸素を除いて、AlN層2はアンドープである。AlN層2の厚さは、第一AlN層21の厚さと第二AlN層22の厚さの合計である。
【0045】
イオン注入工程(図2のステップC)は、第二AlN層形成工程後に行う。イオン注入工程では、AlN層2の表面から、Siイオンを注入する。イオン注入工程では、AlN層2の表面近傍における平均Si濃度を1×1018cm-3以上1×1019cm-3以下にする。AlN層2の表面近傍における平均Si濃度は、好ましくは5×1018cm-3以下である。AlN層2の表面近傍における平均Si濃度を上記記載の範囲の濃度とすることで、導電性AlNエピタキシャル膜付き基板100のシート抵抗を適切な値まで下げて導電性を確保しつつ、後述する熱処理後のAlN層2の表面の凹凸を低減することができる。
【0046】
なお、Siイオンの注入方向(照射方向)は、サファイア基板1の(0001)面に垂直な方向から傾斜させる。ただし、サファイア基板1の(0001)面に対して完全に垂直に注入すると、チャネル効果により、SiイオンがAlN層2の表面から0.5μmの深さを越えて(例えば、1μmの深さまで)Siが注入されてしまい、Siの濃度制御が適切に行えない場合がある。そのため注入方向を傾斜させる方が好ましく、その場合のSiイオン注入時の傾斜角度は、一例として0.1°から10°が好ましく、典型的には7°傾斜させると更に好ましい。
【0047】
イオン注入工程では、Siイオン注入時の電圧を、1回目を90keV、2回目を40keV及び3回目を10keVといった具合に、複数回に分けて、電圧を高い電圧から低い電圧に段階的に変化させつつ、Siイオンの注入を行うようにしても良い。これにより、AlN層2の表面からの深さ方向のSi濃度(例えば、AlN層2の表面から深さ0.1μmまでの範囲のSi濃度)を均しくすることができる。例示すると、加速電圧をAlN層2の厚さに応じて選択すればよいが、加速電圧は少なくとも1keVとすることが好ましく、更に好ましくは10keV以上200keV以下の範囲で選択するとよい。
【0048】
イオン注入工程では、Siのドーズ量(複数回に分けてSiイオンの注入を行う場合はSiの総ドーズ量)を、2×1015cm-2未満とする。Siのドーズ量は、更に好ましくは2×1014cm-2以上1×1015cm-2以下の範囲とする。AlN層2へのSiのドーズ量を上記記載の範囲の濃度とすることで、導電性AlNエピタキシャル膜付き基板100のシート抵抗を適切な値まで下げて導電性を確保しつつ、後述する熱処理後のAlN層2の表面の凹凸を低減することができる。
【0049】
熱処理工程(図2のステップD)は、イオン注入工程後に行う。熱処理工程では、1300℃以上1700℃以下の温度環境下に、所定の熱処理時間の間、導電性AlNエピタキシャル膜付き基板100の前駆体を晒す熱処理を行う(以下、第二の熱処理と記載する場合がある)。第二の熱処理の熱処理時間は10分以上60分間以下とすることが好ましい。第二の熱処理に用いる熱処理炉としては例えば、超高温炉SR1800TS(サーモ理工社製)を用いることができる。
【0050】
この第二の熱処理の過程では、サファイア基板1からAlN層2へ酸素の拡散が生じる。詳述すると、サファイア基板1からの酸素の拡散は、サファイア基板1とAlN層2との界面から、AlN層2の表面へ向けて進行する。なお、第二の熱処理の過程では、AlN層2の最表面からの酸素の離脱も生じる。
【0051】
第二の熱処理の際に進行するサファイア基板1からの酸素の拡散は、サファイア基板1とAlN層2との界面から最大でも2μmまでの範囲に概ねとどまる。第一の熱処理によって既に十分な酸素が拡散された第一AlN層21が存在するため、第二の熱処理の過程では、サファイア基板1から第一AlN層21であった部分への更なる酸素の拡散が緩慢になる。そして、第二AlN層22への酸素の拡散は、第一AlN層21と第二AlN層22との界面での酸素の拡散が主となる。そのため、その界面から第二AlN層22内部に向けた酸素の拡散は、主に第二の熱処理前における第一AlN層21と第二AlN層22の界面における酸素の濃度差の解消のみとなる。これにより、サファイア基板1からの(第一AlN層21を介した)第二AlN層22への酸素の拡散が抑制されるためである。そのため、サファイア基板1の近傍における酸素濃度が高い状態(サファイア基板1との界面から0.5μmまでの平均酸素濃度が1×1019cm-3以上)であっても、AlN層2の厚さが2μm以上であれば、本実施形態において必要な範囲で第二の熱処理を行ってもAlN層2の表面側の酸素濃度の増加を抑制することができる。また、第二AlN層形成工程において第一AlN層21の厚さよりも、第二AlN層22の厚さの方を厚く形成することで、AlN層2の表面近傍の酸素濃度の増加を抑制する効果が得られやすくなるため好ましい。
【0052】
第二の熱処理は、AlN層2の表面近傍における平均酸素濃度が5×1017cm-3以下、且つ、AlN層2の表面近傍における平均Si濃度が1×1018cm-3以上1×1019cm-3以下となるように行う。なお、AlN層2の表面近傍における平均Si濃度は、5×1018cm-3以下となるように熱処理することが好ましい。また、第二の熱処理後も、AlN層2のサファイア基板1との界面から0.5μmまでの平均酸素濃度は1×1019cm-3以上であることが好ましい。
【0053】
第二の熱処理は、外部からの酸素の混入を抑制した状態で行うことが好ましい。酸素の混入を抑制した状態での熱処理として、本実施形態では、AlN層2の分解が起きないように窒素雰囲気下による熱処理を行う。窒素雰囲気は、例えば熱処理炉内を真空引きした後に、熱処理炉内に窒素ガスを通流させることで得られる。窒素雰囲気の窒素圧力は、常圧(10Pa)でも減圧(10Pa以上10Pa以下)でも良い。減圧の方がAlN層2の表面近傍の酸素濃度を低減しやすいため好ましい。
【0054】
第二の熱処理においては、窒素雰囲気を常圧とするか減圧とするかにかかわらず、加熱前に熱処理炉内を真空引きして炉内の酸素をできるだけ排除しておくことが好ましい。熱処理炉内の真空引きは、ロータリーポンプ(RP)でもよいが、ターボ分子ポンプ(TMP)を用いることが好ましい。ロータリーポンプによる真空引きでは炉内に残存する酸素によって熱処理後のAlN層2中の酸素濃度が意図せず高くなってしまう不具合が生じる場合があるが、ターボ分子ポンプによる真空引きを行えば、ロータリーポンプを用いた場合よりも高い真空度に真空引きできるため、このような不具合を回避できる。
【0055】
本実施形態では、上記のように酸素の混入を抑制した状態で導電性AlNエピタキシャル膜付き基板100の前駆体を熱処理することにより、AlN層2が2μm以上ある状態では、熱処理後において、AlN層2の表面近傍における平均酸素濃度の上昇を抑制することができる。
【0056】
本実施形態では上記のように、AlN層形成工程において、AlN層2の厚さが2μm以上とされており、且つ、AlN層2の表面近傍における平均酸素濃度を少なくとも2×1018cm-3以下まで低減してAlN層2を形成しているため、熱処理工程での熱処理後における、AlN層2の表面近傍の平均酸素濃度を6×1017cm-3以下とすることができる。
【0057】
なお、AlN層2の厚さが薄い場合、具体的には2μm未満である場合は、熱処理によってサファイア基板1から拡散した酸素がAlN層2の表面まで拡散してAlN層2の表面側の酸素濃度が増加して、AlN層2の表面近傍における平均酸素濃度を6×1017cm-3以下とすることができない場合がある。
【0058】
また、熱処理工程における熱処理時間が60分間を大きく超えるような場合(例えば24時間熱処理を継続した場合)は、第二の熱処理によってイオン注入した表面近傍のSiがサファイア基板方向へ拡散する量が多くなりすぎて、本発明の効果が低下する恐れがある。イオン注入により蓄積されたダメージによる表面付近の歪の調整(表面粗さの変化)は60分までに完了していると考えられる。
【実施例0059】
本実施形態に係る導電性AlNエピタキシャル膜付き基板の実施例を説明する。
【0060】
〔実施例1〕
まず、MOCVD法を用い、サファイア基板(直径2インチ、膜厚:430μm、面方位:(0001)、m軸方向オフ角θ:0.11度)上に、AlN層をエピタキシャル成長により形成して導電性AlNエピタキシャル膜付き基板の前駆体を形成した。以下では、この前駆体(後述する加工を施したものも含む)を、単に試料と記載する場合がある。
【0061】
(AlN層形成工程)
MOCVD法によるサファイア基板上へのAlN層の形成は、以下のように行った。
【0062】
(第一AlN層形成工程)
まず、MOCVD装置内のステージ上にサファイア基板を配置し、ステージの温度(成長温度に相当)を1330℃に設定して、TMAガス(43sccm)とアンモニアガス(250sccm)で流して、第一AlN層の厚さが0.5μmとなるように形成した。V/III比は346である。
【0063】
(予備熱処理工程)
次に、試料を熱処理炉に移し、第一の熱処理を行った。第一の熱処理は、1600℃の窒素雰囲気中で5時間熱処理を行った。
【0064】
(第二AlN層形成工程)
更に、MOCVD装置内のステージ上に試料を配置し、ステージの温度(成長温度に相当)を1330℃に設定して、TMAガス(43sccm)とアンモニアガス(500sccm)で流して、第二AlN層の厚さ(膜厚)が2.0μmとなるように形成した。V/III比は692である。これにより、第一AlN層と第二AlN層を合わせた合計のAlN層の厚さは2.5μmとなる。なお、AlN層の厚さについては、NanoSpec 6100(Nano metrics社製)を用いて、試料のAlN層側の表面の中心を含む、等間隔に分散させた計25箇所の膜厚を測定した。以下の膜厚測定も同様である。
【0065】
第二AlN層形成後の試料のAlN層の表面のRMSは0.34nmであった。なお、RMSは前述のDimension ICON(ブルカー・エイエックスエス社製)で測定した。以下のRMS測定も同様である。また、X線回折装置D8(Burker製)を用いてAlNのロッキングカーブの半値幅を評価したところ、(0002)面で113秒・(10-12)面で330秒であった。
【0066】
(イオン注入工程)
次に、第二AlN層形成後の試料のAlN層の表面からSiイオンを注入した。Siイオンの注入は、AlN層の表面から0.1μmの深さまで均一にSiイオンが入るように、90keV、40keV、10keVの順番に三段階で注入(加速)エネルギーを変えながら行った。Siイオンの注入方向は(0001)面から7度傾斜させて行った。Siイオンの総ドーズ量は5.0×1014cm-2とした。Siイオン注入後のAlN層の表面のRMSは0.5nmであった。
【0067】
次に、Siイオン注入後の試料のAlN層のSi濃度、酸素濃度、炭素濃度及び水素濃度をSIMSにより測定した。なお、図3には、実施例1におけるSiイオン注入後のAlN層の深さ方向における、Si濃度及び酸素濃度のグラフをそれぞれ破線で示している。図3の右側のグラフはSi濃度を示している。図3の左側のグラフは酸素濃度を示している。図3中、それぞれのグラフで縦軸は濃度(cm-3)、横軸はAlN層表面からの深さ(μm)である。また、図4には、実施例1におけるSiイオン注入後のAlN層の深さ方向における、炭素濃度及び水素濃度のグラフをそれぞれ破線で示している。図4の右側のグラフは炭素濃度を示している。図4の左側のグラフは水素濃度を示している。図4中、それぞれのグラフで縦軸は濃度(cm-3)、横軸は深さ(μm)である。
【0068】
このAlN層の表面から深さ0.1μmまでの範囲の平均Si濃度は3×1019cm-3であった。このAlN層の表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における平均Si濃度は1×1018cm-3であった。このAlN層の表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における平均酸素濃度は1×1017cm-3であった。なお、以下の説明では、AlN層のSi濃度及び酸素濃度は、特に断りのない限り、SIMSにより求めた値である。また、以下では、AlN層の表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲を、単にAlN層の表面近傍と記載する。
【0069】
(熱処理工程)
次に、サーモ理工社製SR1800TSを用いてSiイオン注入後の試料を熱処理(第二の熱処理)して実施例1の導電性AlNエピタキシャル膜付き基板を作成した。この熱処理は以下のように行った。すなわち、まず試料を炉内に投入後、RPでの真空引きし、その後更にTMPによる真空引きを行った。真空引きは、真空度が5×10-4Paになるまで行った。その後、窒素ガスを120ml/分で流し、RPで真空引きしながら100Paの減圧の窒素雰囲気下において1600℃で30分間加熱した。その後、窒素ガスを流しながら炉内で冷却した。冷却後の導電性AlNエピタキシャル膜付き基板のAlN層の表面のRMSは0.4nmであった。
【0070】
第二の熱処理前のAlN層では、AlN層の表面から0.1μmの深さまで高濃度にSiイオンが注入されていたが、第二の熱処理後(冷却後の導電性AlNエピタキシャル膜付き基板)のAlN層では、注入されたSiが、約1μmの深さまで拡散していた。第二の熱処理後のAlN層においては、AlN層の表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下の範囲における平均Si濃度は3×1018cm-3であった。なお、図3には更に、実施例1における第二の熱処理後のAlN層の深さ方向における、Si濃度及び酸素濃度のグラフをそれぞれ実線で示している。また、図4には更に、実施例1における第二の熱処理後のAlN層の深さ方向における、炭素濃度及び水素濃度のグラフをそれぞれ実線で示している。
【0071】
第二の熱処理後のAlN層では、第二の熱処理前よりも酸素濃度が減少していた。第二の熱処理後のAlN層においては、AlN層の表面近傍における平均酸素濃度が4×1016cm-3であった。
【0072】
更に、導電性AlNエピタキシャル膜付き基板のAlN層の表面に四角形電極(50μm×100μm)を複数個所形成した。これら四角形電極は、Ti層(膜厚20nm)、Al層(膜厚100nm)、Ni層(膜厚20nm)及びAu層(膜厚50nm)を、この順に積層させて形成した。これら四角形電極はそれぞれ、電極間距離を変えて配置した。
【0073】
4探針マニュアルプローバー及び半導体特性評価システム(Agilent製のB1599T)を用いてこれら四角形電極間に最大30Vの電圧を印加して、導電性AlNエピタキシャル膜付き基板についてTLM測定を行った。TLM測定の結果、電流は流れ、シート抵抗は23GΩ/□であった。
【0074】
〔実施例2〕
第二AlN層の形成条件において、TMAガス(43sccm)とアンモニアガス(250sccm)で流して、V/III比を346としてAlN層を形成した以外は、実施例1と同様にして実施例2の導電性AlNエピタキシャル膜付き基板を作成した。
【0075】
第二AlN層形成後の試料のAlN層の表面のRMSは0.42nmであった。
【0076】
Siイオン注入後の試料のAlN層の表面のRMSは0.5nmであった。このAlN層の表面から深さ0.1μmまでの範囲の平均Si濃度は3×1019cm-3であった。このAlN層の表面近傍における平均Si濃度は4×1018cm-3であった。このAlN層の表面近傍における平均酸素濃度は8×1017cm-3であった。
【0077】
第二の熱処理後の試料のAlN層の表面のRMSは0.5nmであった。第二の熱処理前のAlN層では、AlN層の表面から0.1μmの深さまでSiイオンが注入されていたが、第二の熱処理後のAlN層では、注入されたSiが、実施例1と同様に約1μmの深さまで拡散していた。第二の熱処理後のAlN層においては、AlN層の表面近傍における平均Si濃度は、実施例1と同様に3×1018cm-3であった。第二の熱処理後のAlN層では、実施例1と同様に、第二の熱処理前よりも酸素濃度が減少していた。第二の熱処理後のAlN層においては、AlN層の表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下における平均酸素濃度が5×1017cm-3であった。
【0078】
なお、図5には、実施例2におけるSiイオン注入後のAlN層の深さ方向における、Si濃度及び酸素濃度のグラフをそれぞれ破線で、実施例2における第二の熱処理後のAlN層の深さ方向における、Si濃度及び酸素濃度のグラフをそれぞれ実線で示している。図5の右側のグラフはSi濃度を示している。図5の左側のグラフは酸素濃度を示している。図5中、それぞれのグラフで縦軸は濃度(cm-3)、横軸は深さ(μm)である。また、図6には、実施例2におけるSiイオン注入後のAlN層の深さ方向における、炭素濃度及び水素濃度のグラフをそれぞれ破線で、実施例2における第二の熱処理後のAlN層の深さ方向における、炭素濃度及び水素濃度のグラフをそれぞれ実線で示している。図6の右側のグラフはSi濃度を示している。図6の左側のグラフは酸素濃度を示している。
【0079】
導電性AlNエピタキシャル膜付き基板についてTLM測定を行った結果、電流は流れ、シート抵抗は23GΩ/□であった。
【0080】
〔比較例1〕
第二AlN層の形成条件において、ステージの温度を30℃高い1360℃に設定してAlN層を形成した以外は実施例2と同様にして比較例1の導電性AlNエピタキシャル膜付き基板を作成した。
【0081】
第二AlN層形成後のAlN層の表面のRMSは0.52nmであった。
【0082】
Siイオン注入後のAlN層の表面のRMSは0.5nmであった。このAlN層の表面から深さ0.1μmまでの範囲の平均Si濃度は3×1019cm-3であった。このAlN層の表面近傍における平均Si濃度は3×1018cm-3であった。このAlN層の酸素濃度は全体的に1019cm-3台であり、このAlN層の表面近傍における平均酸素濃度は3×1019cm-3であった。MOCVDでの第二AlN層形成工程における成長温度が高いことでエピタキシャル成長時に含有される酸素濃度が増えている。なお、図7には、Siイオン注入後のAlN層の深さ方向における、Si濃度及び酸素濃度のグラフをそれぞれ破線で示している。図7の右側のグラフはSi濃度を示している。図7の左側のグラフは酸素濃度を示している。図7中、それぞれのグラフで縦軸は濃度(cm-3)、横軸は深さ(μm)である。また、図8には、Siイオン注入後のAlN層の深さ方向における、炭素濃度及び水素濃度のグラフをそれぞれ破線で示している。図8の右側のグラフは炭素濃度を示している。図8の左側のグラフは水素濃度を示している。図8中、それぞれのグラフで縦軸は濃度(cm-3)、横軸は深さ(μm)である。
【0083】
第二の熱処理後のAlN層の表面のRMSは0.5nmであった。第二の熱処理前のAlN層では、AlN層の表面から0.1μmの深さまでSiイオンが注入されていたが、第二の熱処理後のAlN層では、注入されたSiが、実施例1,2と同様に約1μmの深さまで拡散していた。第二の熱処理後のAlN層においては、AlN層の表面近傍における平均Si濃度は、2×1018cm-3であった。第二の熱処理後のAlN層では、実施例1と同様に、第二の熱処理前よりも酸素濃度が減少していた。しかし、第二の熱処理後のAlN層においては、AlN層の表面近傍における平均酸素濃度が7×1017cm-3であり、実施例1,2の場合よりも高かった。
【0084】
導電性AlNエピタキシャル膜付き基板についてTLM測定を行った結果、電流は流れず、シート抵抗は適切に計測できなかった。
【0085】
〔比較例2〕
第二AlN層の形成条件において、第二AlN層の厚さを0.5μmとし、合計のAlN層の厚さを1μmとした以外は、実施例2と同様にして比較例2の導電性AlNエピタキシャル膜付き基板を作成した。第二AlN層形成後のAlN層の表面のRMSは0.5nmであった。
【0086】
Siイオン注入後のAlN層の表面のRMSは0.5nmであった。このAlN層の表面から深さ0.1μmまでの範囲の平均Si濃度は3×1019cm-3であった。このAlN層の表面近傍における平均Si濃度は1×1018cm-3であった。このAlN層の表面近傍における平均酸素濃度は8×1017cm-3であった。エピタキシャル成長時のサファイア基板からの酸素の拡散は0.5μm程度(第一AlN層の厚さまで)であり、第二の熱処理前の段階では、このAlN層の表面側で酸素濃度は実施例2での値に近い。図9には、Siイオン注入後のAlN層の深さ方向における、Si濃度及び酸素濃度のグラフをそれぞれ破線で示している。図10には、Siイオン注入後のAlN層の深さ方向における、炭素濃度及び水素濃度のグラフをそれぞれ破線で示している。
【0087】
1600℃による第二の熱処理後のAlN層の表面のRMSは0.4nmであった。第二の熱処理前のAlN層では、AlN層の表面から0.1μmの深さまでSiイオンが注入されていたが、第二の熱処理後のAlN層では、注入されたSiが、約0.4μmの深さまで拡散していた。第二の熱処理後のAlN層においては、AlN層の表面近傍における平均Si濃度は、1×1019cm-3であった。第二の熱処理後のAlN層では、第二の熱処理前よりも酸素濃度が増加していた。第二の熱処理後のAlN層においては、AlN層の表面から深さ0.2μm以上0.5μm以下における平均酸素濃度が2×1019cm-3であり、実施例1,2の場合よりも高かった。なお、図9には、比較例2における第二の熱処理後のAlN層の深さ方向における、Si濃度及び酸素濃度のグラフをそれぞれ実線で示している。図9の右側のグラフはSi濃度を示している。図9の左側のグラフは酸素濃度を示している。図9中、それぞれのグラフで縦軸は濃度(cm-3)、横軸は深さ(μm)である。また、図10には、比較例2における第二の熱処理後のAlN層の深さ方向における、炭素濃度及び水素濃度のグラフをそれぞれ実線で示している。図10の右側のグラフは炭素濃度を示している。図10の左側のグラフは水素濃度を示している。図10中、それぞれのグラフで縦軸は濃度(cm-3)、横軸は深さ(μm)である。
【0088】
導電性AlNエピタキシャル膜付き基板についてTLM測定を行った結果、電流は流れず、シート抵抗は適切に計測できなかった。
【0089】
〔比較例3〕
第二の熱処理の温度を1230℃にして熱処理を行った以外は比較例2と同様にして比較例3の導電性AlNエピタキシャル膜付き基板を作成した。
【0090】
第二AlN層形成後のAlN層の表面のRMSは0.5nmであった。第二の熱処理前のAlN層では、AlN層の表面から0.1μmの深さまでSiイオンが注入されていたが、第二の熱処理後のAlN層では、注入されたSiが、深さ方向に少し拡散していた。第二の熱処理後のAlN層においては、AlN層の表面近傍における平均Si濃度は、3×1018cm-3であった。第二の熱処理後のAlN層では、第二の熱処理前よりも酸素濃度が少し増加していた。第二の熱処理後のAlN層においては、AlN層の表面近傍における平均酸素濃度が1×1018cm-3であり、実施例1,2の場合よりも高かった。なお、図9には、比較例3における第二の熱処理後のAlN層の深さ方向における、Si濃度及び酸素濃度のグラフをそれぞれ二点鎖線で示している。図10には、比較例3における第二の熱処理後のAlN層の深さ方向における、炭素濃度及び水素濃度のグラフをそれぞれ二点鎖線で示している。
【0091】
導電性AlNエピタキシャル膜付き基板についてTLM測定を行った結果、電流は流れず、シート抵抗は適切に計測できなかった。
【0092】
〔比較例4〕
比較例3において、イオン注入時の総ドーズ量を1×1016cm-2に増やした以外は、比較例3と同様にして導電性AlNエピタキシャル膜付き基板を作成した。
【0093】
Siイオン注入後のAlN層の表面のRMSは0.6nmであった。
【0094】
第二の熱処理後のAlN層の表面のRMSは13nmであった。第二の熱処理後のAlN層においては、AlN層の表面近傍における平均Si濃度は、2×1019cm-3であった。第二の熱処理後のAlN層においては、AlN層の表面近傍における平均酸素濃度は1×1018cm-3であり、実施例1,2の場合よりも高かった。なお、図11には、比較例4における、第二の熱処理後のAlN層の深さ方向における、Si濃度及び酸素濃度のグラフを実線で示している。図11の右側のグラフはSi濃度を示している。図11の左側のグラフは酸素濃度を示している。図11中、それぞれのグラフで縦軸は濃度(cm-3)、横軸は深さ(μm)である。また、図12には、比較例4における、第二の熱処理後のAlN層の深さ方向における、Si濃度及び酸素濃度のグラフを実線で示している。図11の右側のグラフはSi濃度を示している。図11の左側のグラフは酸素濃度を示している。図11中、それぞれのグラフで縦軸は濃度(cm-3)、横軸は深さ(μm)である。
【0095】
導電性AlNエピタキシャル膜付き基板についてTLM測定を行った結果、電流は流れず、シート抵抗は適切に計測できなかった。
【0096】
上記で説明した実施例1、2及び比較例1~4の結果を表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1より明らかなように、実施例1,2に係る導電性AlNエピタキシャル膜付き基板においては、Siイオンの注入及び熱処理後のAlN層の表面平坦性が高く、且つ導電性を有する。これに対し、比較例1~3の導電性AlNエピタキシャル膜付き基板では、Siイオンの注入及び熱処理後のAlN層の表面平坦性は高いものの、導電性を有さない。比較例4の導電性AlNエピタキシャル膜付き基板においては、Siイオンの注入及び熱処理後のAlN層の表面平坦性が低く、また導電性を有さない。実施例と比較例1の比較より、AlN層形成工程においてAlN層の表面近傍における平均酸素濃度が2×1018cm-3を超えて高い場合には、第二の熱処理によって表面から酸素が脱離したとしても表面近傍における平均酸素濃度は6×1017cm-3以下までは下がらず、表面近傍のSiが活性化できず導電性が得られないことが分かった。実施例と比較例2と3の比較より、AlN層の厚さが薄い場合には、第二の熱処理時にサファイア基板から拡散した酸素によって表面近傍の酸素が増加してしまい、導電性が得られないことが分かった。
【0099】
以上のようにして、表面平坦性が高く、所定の導電性を有するn型AlN層をサファイア基板上に有する導電性AlNエピタキシャル膜付き基板及びその製造方法を提供することができる。
【0100】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、n型AlN層をサファイア基板上に有する導電性AlNエピタキシャル膜付き基板及びその製造方法に適用できる。
【符号の説明】
【0102】
1 サファイア基板
2 AlN層
21 第一AlN層
22 第二AlN層
100 導電性AlNエピタキシャル膜付き基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12