(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084475
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】歩行障害検出装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20220531BHJP
A61H 3/00 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
A61B5/11 210
A61H3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020196397
(22)【出願日】2020-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】501083643
【氏名又は名称】学校法人慈恵大学
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】太田 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】岡野 ジェイムス 洋尚
(72)【発明者】
【氏名】大木 隆生
【テーマコード(参考)】
4C038
4C046
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VA12
4C038VB14
4C038VC05
4C046AA11
4C046AA33
4C046AA47
4C046BB07
4C046BB10
4C046CC01
4C046DD47
4C046EE14
4C046FF02
4C046FF33
(57)【要約】
【課題】簡便で、客観的評価が可能な歩行障害検出装置を開発し、その装置を用いて、歩行障害を呈する疾患の判定を補助できる簡便な方法を開発することである。
【解決手段】熱刺激を付与できる歩行路面上を被験者に歩行させたときの歩行情報を電子情報として歩行路面から取得し、その情報を標準情報と比較することで歩行障害を検出することのできる装置を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行障害の検出装置であって、
歩行路、
前記歩行路において歩行路面を加熱冷却する加熱冷却部、
歩行路面の温度を検知する温度センサ、
歩行路面の温度を制御する温度制御部、
被験体が歩行路を歩行したときの歩行情報を取得する歩行情報取得部、
取得した前記歩行情報を所定のプログラムに基づいて処理する情報処理部、及び
取得した前記歩行情報及び処理した前記情報を出力する出力部
を備えた前記検出装置。
【請求項2】
情報入力部をさらに備えた、請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
歩行路面の温度が異なる二以上の歩行路を備えた、請求項1又は2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記歩行路面が被験体の進行方向と逆方向に可動する、請求項1~3のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項5】
前記歩行情報取得部が圧力センサ及び/又はカメラである、請求項1~4のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項6】
前記歩行情報が所定の距離及び/又は所定の時間における歩行路接地面積、歩行路接地時間、歩幅間隔、及び歩行速度からなる群から選択されるいずれかである、請求項1~5のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項7】
前記所定のプログラムが以下の(a)~(c)のいずれか一以上を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の検出装置。
(a)取得した歩行情報を予め入力された標準情報と比較して、両者に有意差があるときに歩行情報を得た被験体は歩行障害を呈する疾患に罹患している可能性が高いと判定するプログラム
(b)二以上の歩行路で取得した同一被験体の歩行情報を比較して、少なくとも二つの歩行情報間に有意差があるときに、被験体は歩行障害を呈する疾患に罹患している可能性が高いと判定するプログラム
(c)歩行障害を呈する疾患に罹患している被験体から治療前後に得られた歩行情報、及び予め入力された標準情報を比較して、治療前の歩行情報と標準情報間に有意差が見られるが、治療後の歩行情報と標準情報間に有意差がない場合、被験体の歩行障害を呈する疾患が治癒していると判定するプログラム
【請求項8】
歩行障害を呈する疾患の有無の判定を補助する方法であって、
請求項1~7のいずれか一項に記載の歩行障害検出装置を用いて、被験体に温度の異なる二以上の歩行路面上を所定の時間歩行させて、それぞれの歩行情報を取得する歩行情報取得工程、
前記各歩行路において得られた歩行情報を比較する情報比較工程、及び
前記情報比較工程で得られた少なくとも二つの歩行情報間に有意差があるときに、被験体は歩行障害を呈する疾患に罹患している可能性が高いと判定する判定工程を含む
前記方法。
【請求項9】
前記歩行障害を呈する疾患が、脳血管疾患、動脈硬化性疾患、脳・神経疾患、筋疾患、骨・関節疾患及び糖尿病からなる群から選択される、請求項8に記載の検出方法。
【請求項10】
歩行障害を呈する疾患に罹患した被験体の歩行障害を改善する装置であって、歩行路、前記歩行路において歩行路面を加熱冷却する加熱冷却部、歩行路面の温度を検知する温度センサ、歩行路面の温度を制御する温度制御部、被験体が歩行路を歩行したときの歩行情報を取得する歩行情報取得部、取得した前記歩行情報を所定のプログラムに基づいて処理する情報処理部、及び取得した前記歩行情報及び処理した前記情報を出力する出力部を備えた前記装置。
【請求項11】
前記歩行障害を呈する疾患が脳血管疾患である、請求項10に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歩行障害検出装置、及びそれを用いた歩行障害を呈する疾患の判定補助方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歩行は、動物の日常生活において極めて基本的、かつ重要な行動である。正常な歩行は、脳からの指令を神経が脚部の筋肉に伝達し、それによって発生する体の動きを眼や三半規管で感知し、その情報を脳で処理し補正することにより達成される。したがって、それらのいずれかに異常を生じた場合、正常な歩行ができない歩行障害を発症する。それ故、歩行障害は、歩行に関与する様々な器官や組織の異常を示す指標となり得る。例えば、虚血性疾患に罹患している場合、痛覚が過敏となるため、その痛みから足部を接地する頻度が減少し、歩行障害を呈する。しかし、痛みは感知できない程弱い場合も多く、さらに歩行障害も視認できない程度の軽微な症状として現れる場合も少なくない。それ故に、歩行を客観的かつ高い精度で評価できる方法が必要となる。
【0003】
従来、実験動物を用いた方法では、歩行を評価する方法として、例えば、Footprint Testが、また痛みを評価する方法として、Hot Plate Testが汎用されている。
【0004】
Footprint Testは、ラットやマウスなどの実験動物の足裏をインクなどで標識した後、紙の上を歩行させて、付着した足跡を分析する方法である(非特許文献1)。この方法は、足裏の標識等の事前準備が煩雑な上に、歩行数の増加に伴い足跡が付着しなくなる問題や、足跡が重複した場合に正確な分析ができない問題があった。
【0005】
Hot Plate Testは、動物を対象とした痛みの検出における行動学的テストであり、実験動物を配置したプレートに熱刺激を加えたときに急性痛を評価する方法である(非特許文献2)。このテストは、本来、熱さに対する疼痛関連行動(足裏を舐める、立ち上がる、ジャンプする等)を評価する方法であって、歩行を評価する方法ではない。
【0006】
さらに、歩行を評価する方法の開発には、歩行障害を有するモデル動物が不可欠である。従来、虚血性疾患のモデル動物として、下肢虚血モデルラット等が作製され、利用されてきた(非特許文献3)。下肢虚血モデルラットは、ラットの左右いずれかの大腿動脈を結紮し、一方の下肢を虚血状態にすることで作製される。しかし、この方法で作製された下肢虚血モデルラットは、結紮部位付近に数日でバイパスが形成され、虚血状態を維持できないという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Crawley JN, et al. 2007, Hoboken (NJ): John Wiley & Sons, Inc.
【非特許文献2】Fuchs H., et al. 2011, Methods., 53:120-35.
【非特許文献3】Aref Z,. et al. 2019, Int J Mol Sci., 20(15):3704.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、簡便で、客観的評価が可能な歩行障害検出装置を開発することである。
また、本発明は、前記歩行障害検出装置を用いて、歩行障害を呈する疾患の判定を補助できる簡便な方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者らは、手術後もバイパスが形成されにくい虚血モデルラットの作製方法を新たに開発した。その虚血モデルラットを用いて、侵襲性が低い熱刺激を付与することで、視認できない程の軽微な歩行障害であっても容易、かつ客観的に検出可能な装置を開発した。さらに、当該装置を用いた虚血モデルラットの歩行障害検出実験から、高温の熱刺激を付与することで回復速度が速くなるという予期せぬ効果を見出した。本発明は、上記開発結果に基づくもので、以下を提供する。
【0010】
(1)歩行障害の検出装置であって、歩行路、前記歩行路において歩行路面を加熱冷却する加熱冷却部、歩行路面の温度を検知する温度センサ、歩行路面の温度を制御する温度制御部、被験体が歩行路を歩行したときの歩行情報を取得する歩行情報取得部、取得した歩行情報を所定のプログラムに基づいて処理する情報処理部、及び取得した歩行情報及び処理した情報を出力する出力部を備えた前記検出装置。
(2)情報入力部をさらに備えた、(1)に記載の検出装置。
(3)歩行路面の温度が異なる二以上の歩行路を備えた、(1)又は(2)に記載の検出装置。
(4)前記歩行路面が被験体の進行方向と逆方向に可動する、(1)~(3)のいずれかに記載の検出装置。
(5)前記歩行情報取得部が圧力センサ及び/又はカメラである、(1)~(4)のいずれかに記載の検出装置。
(6)前記歩行情報が所定の距離及び/又は所定の時間における歩行路接地面積、歩行路接地時間、歩幅間隔、及び歩行速度からなる群から選択されるいずれかである、(1)~(5)のいずれかに記載の検出装置。
(7)前記所定のプログラムが以下の(a)~(c)のいずれか一以上を含む、(1)~(6)のいずれかに記載の検出装置。
(a)取得した歩行情報を予め入力された標準情報と比較して、両者に有意差があるときに歩行情報を得た被験体は歩行障害を呈する疾患に罹患している可能性が高いと判定するプログラム
(b)二以上の歩行路で取得した同一被験体の歩行情報を比較して、少なくとも二つの歩行情報間に有意差があるときに、被験体は歩行障害を呈する疾患に罹患している可能性が高いと判定するプログラム
(c)歩行障害を呈する疾患に罹患している被験体から治療前後に得られた歩行情報、及び予め入力された標準情報を比較して、治療前の歩行情報と標準情報間に有意差が見られるが、治療後の歩行情報と標準情報間に有意差がない場合、被験体の歩行障害を呈する疾患が治癒していると判定するプログラム
(8)歩行障害を呈する疾患の有無の判定を補助する方法であって、(1)~(7)のいずれかに記載の歩行障害検出装置を用いて、被験体に温度の異なる二以上の歩行路面上を所定の時間歩行させて各歩行情報を取得する歩行情報取得工程、前記各歩行路において得られた歩行情報を比較する情報比較工程、及び前記情報比較工程で得られた少なくとも二つの歩行情報間に有意差があるときに、被験体は歩行障害を呈する疾患に罹患している可能性が高いと判定する判定工程を含む前記方法。
(9)前記歩行障害を呈する疾患が、脳血管疾患、動脈硬化性疾患、脳・神経疾患、筋疾患、骨・関節疾患及び糖尿病からなる群から選択される、(8)に記載の方法。
(10)歩行障害を呈する疾患における歩行改善装置であって、歩行路、前記歩行路において歩行路面を加熱する加熱部、歩行路面の温度を検知する温度センサ、歩行路面の温度を制御する温度制御部、被験体が歩行路を歩行したときの歩行情報を取得する歩行情報取得部、取得した前記歩行情報を所定のプログラムに基づいて処理する情報処理部、及び取得した前記歩行情報及び処理した前記情報を出力する出力部を備えた前記検出装置。
(11)前記歩行障害を呈する疾患が脳血管疾患である、(10)に記載の装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の歩行障害検出装置によれば、簡便で、客観的評価が可能な検出装置を提供できる。
【0012】
また、本発明の歩行障害を呈する疾患の判定補助方法によれば、前記歩行障害検出装置を用いることで、歩行障害を呈する疾患の判定を補助できる簡便な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ラット下肢血管造影を示すX線透視図である。腹部大動脈から総腸骨動脈、内腸骨動脈、左右の下肢動脈が同時に鮮明に描出されている。
【
図2】ラット下肢に血管内塞栓を施したX線透視図である。右浅大腿動脈中枢2/3部にチューブ(楕円枠内)が挿入されている。
【
図3】右浅大腿動脈塞栓後の下肢血管造影を示すX線透視図である。右浅大腿動脈の血流が完全に遮断されている。一方で左下肢動脈は足先まで造影される時相で、右膝窩動脈が側副血行により造影されている。
【
図4】本発明の検出装置に一例を示す図である。この図では、ラットの歩行障害を呈する疾患の検出装置を示している。この図に示す検出装置は、中央のプラスチック製透明飼育ケージ(0401)が水を充てんした二重底となっており、チューブ(0402)で連結したウォーターバス(0403)で水温を変えることで、歩行路に相当する飼育ケージ底面を任意の温度に調整することができる。飼育ケージ下部には、上方に向けてビデオカメラ(図示せず)が配置されており、飼育ケージ内に配置されたラットの行動を撮影し、その歩行情報を取得することができる。
【
図5】Aは下肢虚血モデルラットの評価対象時間における左右の総歩数情報の経時変化を、またBは下肢虚血モデルラットの歩行時間情報の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.歩行障害検出装置
1-1.概要
本発明の第1の態様は歩行障害の検出装置である。本発明の検出装置は、歩行路面の温度が可変式であり、被験体が歩行路面上を歩行した時の歩行情報を取得し、分析可能なように構成されている。本発明の検出装置によれば、視認できない程の軽微な歩行障害を検出できる他、後述する第2態様に記載の歩行障害疾患判定方法を具現化することができる。
【0015】
1-2.定義
本明細書で頻用する以下の用語について定義する。
本明細書において「歩行」とは、動物が脚部を用いて移動することをいう。一般には脚部を用いた低速移動の場合を言うが、本明細書では移動速度は問わない。また、移動方向、及び移動距離も特に限定しない。
【0016】
本明細書において「歩行障害」とは、外的又は内的影響により、正常な歩行が困難となる障害をいう。「正常な歩行」とは、個体の意思により、進行方向に安定した姿勢や足運びで歩行することをいう。一方、歩行障害では、例えば、痺れ、痙攣、又は痛み等により足の動きや足運びが異常となり、又は体軸に異常を発する。具体例として、小刻み歩行、動揺性歩行、失調性歩行、鶏歩、痙性歩行、ハサミ足歩行、間欠性跛行、墜落性跛行、心因性歩行障害等が挙げられる。
【0017】
本明細書において「歩行障害を呈する疾患」とは、症状に歩行障害の見られる疾患をいう。歩行障害を呈する疾患には、血流異常を伴う疾患、脳・神経系疾患、筋疾患、糖尿病、骨・関節疾患、及び外傷が挙げられる。前記血流異常を伴う疾患には、例えば、血流の停滞又は停止により細胞や組織に酸素や栄養が供給されず、血管性跛行を発症する虚血性疾患等が挙げられる。具体的には、例えば、脳血管疾患、動脈硬化症(閉塞性動脈硬化症を含む)が該当する。前記脳・神経系疾患には、例えば、脳や神経の委縮、神経の圧迫により神経性跛行を発症する脊髄小脳変性症、多系統萎縮症、腰部脊柱管狭窄症及び後縦靭帯骨化症、脳梗塞やくも膜下出血等の後遺症、及びビタミンB1欠乏症により歩行障害を発症するウェルニッケ脳症が該当する。前記筋疾患には、例えば、筋肉が萎縮して筋力低下を生じて筋性跛行を発症するパーキンソン病、筋ジストロフィー、周期性四肢麻痺、ミオパチー、筋無力症候群等が該当する。骨・関節疾患には、関節リウマチ、先天性内反足等が該当する。
【0018】
本発明において「被験体」とは、本発明の検出装置の適用対象となる生体をいう。原則として、歩行障害の疑いがある個体であることが好ましい。「歩行障害の疑いがある」とは、歩行障害を呈する疾患に罹患している可能性があり、明白な歩行障害は視認できないものの、その可能性が疑われる状態を言う。被験体は具体的には、例えば、ヒト、愛玩動物(イヌ、ネコ、ウサギ等)、競走馬、実験動物(マウス、ラット、モルモット、サル等)、家畜(ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ニワトリ、ダチョウ等)等が該当する。好ましくはヒトである(この場合、特に「被験者」という)。
【0019】
また、「被験体の情報」とは、被験体の様々な個体情報であって、例えば、ヒトの場合であれば、年齢、体重、性別、全身の健康状態の他、疾患・病害に罹患している場合にはその進行度や重症度を含む。
【0020】
本明細書において「有意」とは、統計学的に有意であることをいう。具体的には、被験体と健常体の測定値の差異を統計学的に処理したときに、両者間に有意差があることをいう。例えば、危険率(有意水準)が5%、1%、0.3%、0.2%又は0.1%より小さい場合が挙げられる。統計学的処理の検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法を適宜使用すればよく、特に限定しない。例えば、スチューデントt検定法、多重比較検定法を用いることができる。
【0021】
1-3.構成
本発明の検出装置は、歩行路、加熱冷却部、温度センサ、温度制御部、歩行情報取得部、情報処理部、及び出力部を必須の構成として、また情報入力部を選択的構成として備える。以下、各部の構成について、具体的に説明をする。
【0022】
1-3-1.歩行路
「歩行路」は、被験体がその上面を歩行するため歩行路面を有する部である。歩行路は次述の加熱冷却部と連動し、歩行路面の温度を任意に可変することができる。歩行路面の長さ(長軸)は被験体の歩行情報を取得できる程度の長さがあればよく、特に限定はしない。ただし、より正確な歩行情報を取得するためには、一定以上の長さを歩行させる必要がある。そのような長さは、被験体の種類、性別、年齢(週齢、月齢)、又は歩幅によって異なる。例えば、成人男性であれば、3歩以上、4歩以上、5歩以上、6歩以上、7歩以上、又は8歩以上の長さがあればよい。したがって、1歩幅を50cmとした場合、1m50cm以上、2m以上、2.5m以上、3m以上、3.5m以上、又は4m以上の長さがあれば足りる。一方、被験体が成体ラットであれば、体長の3倍以上の長さ、例えば、30cm以上、40cm以上、50cm以上、又は60cm以上の長さがあればよい。
【0023】
前記歩行路面はランニングマシンのような可動式であってもよく、その場合、歩行路面を被験体の進行方向と逆方向に可動するように構成することで、必要な長さを短くすることができる。この場合、歩行路の長さは、被験体がヒトの場合、2~4歩、又は2もしくは3歩程度の長さ、すなわち、上記例の場合であれば、1m~2m、1m~1.5mの長さがあればよい。
【0024】
歩行路面の幅は被験体が通常の姿勢で無理なく普通に歩行し得る幅があればよい。その幅は、使用する被験体の種類によって異なるが、例えば、ヒトであれば、限定はしないが、40cm以上、45cm以上、50cm以上、55cm以上、又は60cm以上あればよい。稼働速度は、被験体と同種で、被験体の情報に近い健常体における平均的な歩行速度であればよい。例えば、60歳男性のヒトの場合には、2km/hr~5km/hr、2.5km/hr~4.5km/hr、又は3km/hr~4km/hrであればよい。
【0025】
歩行路面は、歩行に支障をきたすような大きな凹凸がなく、好ましくは平坦で、滑りにくく、歩行しやすいように構成される。歩行路面の材質は、前記特徴を有する素材であれば限定はしない。ただし、熱伝導性を有する素材あることが好ましい。例えば、プラスチックのような合成樹脂、ゴム等の天然樹脂、金属、ガラス等が挙げられる。また、歩行路面の底部からカメラ等による撮影映像に基づいて歩行情報を取得する場合には、歩行路面は透明素材であることが望ましい。透明素材とは、光透過率が高く、素材を通して反対側が透けて見える性質を有するものをいう。例えば、ガラス、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0026】
本発明の検出装置には、一つの装置に二以上の歩行路を備えることができる。複数の歩行路を備える場合、各歩行路面の温度は同一、又は異なる温度とすることができる。また、この時、各歩行路面の可動速度も同一又は異なる速度とすることができる。
【0027】
1-3-2.加熱冷却部
「加熱冷却部」は、前記歩行路の歩行路面を加熱冷却する部である。歩行路面に直接関与して歩行面の温度を可変するように構成されている。加熱冷却部は外気温と同温状態の歩行路面を所望する任意の温度に加熱又は冷却することができる。温度幅は被験体が歩行路面を歩行可能な温度範囲であれば限定はしない。例えば、0℃~60℃、2℃~58℃、4℃~56℃、6℃~54℃、8℃~52℃、又は10℃~50℃の範囲であればよい。
【0028】
加熱冷却手段は、公知の加熱手段及び冷却手段を使用すればよく、限定はしない。細かい温度制御が可能な手段であれば特に好ましい。加熱手段には、例えば、熱線ヒーター、オイルヒーター、又は湯煎等が挙げられる。冷却手段には、例えば、冷水や冷媒を介した冷却手段、又はペルチェ素子が挙げられる。
【0029】
1-3-3.温度センサ
「温度センサ」は歩行路面の温度を検知するセンサである。温度センサは歩行路面の温度を検出装置稼働時に常時、予め設定された時間間隔で定期的に、又は希望時に、測定可能なように構成されている。
温度センサは、公知の温度センサを使用すればよく、限定はしない。
【0030】
1-3-4.温度制御部
「温度制御部」は、歩行路面の温度を制御する部である。前述のように歩行部の歩行路面は、加熱冷却部により加熱、又は冷却することができる。温度制御部は、歩行路面の温度を設定された温度(設定温度)に調整するため、温度センサから入手した歩行路面温度の情報に基づいて、加熱冷却部の稼働と停止を制御して、歩行路面温度を設定温度に近づけるように構成されている。例えば、加熱冷却部が水を媒体とする場合、温度制御部は加熱冷却部と配管等により連結されたウォーターバスとすることができる。ウォーターバスで所定の温度に加熱冷却した水を加熱冷却部に送り、歩行路面温度を設定された温度とすることができる。
【0031】
1-3-5.歩行情報取得部
「歩行情報取得部」は、被験体が歩行路を歩行したときの歩行情報を取得する部である。
【0032】
本明細書において「歩行情報」とは、被験体の歩行により取得可能なあらゆる情報をいう。例えば、所定の距離及び/又は所定の時間における歩行路接地面積、歩行路接地時間、歩幅間隔、歩行速度、及び歩行方向等が挙げられる。
【0033】
歩行情報取得部は、前記歩行路に被験体を配置した際に、歩行路の歩行路面から前記歩行情報のいずれか一以上を取得できるように構成されている。
【0034】
歩行情報取得部は、歩行路面から歩行情報を取得できれば、その構成は特に限定はしない。例えば、歩行路面に設置された圧力センサで歩行情報を取得してもよいし、歩行路面を透明素材とした場合、歩行路下面からカメラ撮影を行い、その映像から歩行情報を取得してもよい。また、その両方を用いて歩行情報を取得することもできる。
歩行路が2以上含まれる場合には、それぞれに歩行情報取得部を備えることができる。
【0035】
1-3-6.情報処理部
「情報処理部」は、取得した歩行情報を所定のプログラムに基づいて処理する部である。
【0036】
情報処理部は、ハードウェアとソフトウェアの両方によって構成される。情報処理部は、CPU、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、インターフェース、これらを接続するシステムバス、及び周辺装置などで構成されるハードウェアと、それらハードウェア上で実行可能なソフトウェアを含む。不揮発性メモリは、HDDやフラッシュメモリ等が該当する。ソフトウェアとしては、メモリ上に展開されたプログラムを順次実行することで、メモリ上のデータや、インターフェースを介して入力されるデータの加工、保存、出力などにより各部の機能が実現される。
【0037】
前記「所定のプログラム」とは、取得した被験体の歩行情報を分析し、その被験体における歩行障害の有無を判定するためのプログラムである。具体的なプログラムは限定しないが、例えば、以下の(a)~(c)のいずれか一以上プログラムが挙げられる。
【0038】
(a)取得した歩行情報を予め入力された標準情報と比較して、両者に有意差があるときに歩行情報を得た被験体は歩行障害を呈する疾患に罹患している可能性が高いと判定するプログラム
(b)二以上の歩行路で取得した同一被験体の歩行情報を比較して、少なくとも二つの歩行情報間に有意差があるときに、被験体は歩行障害を呈する疾患に罹患している可能性が高いと判定するプログラム
(c)歩行障害を呈する疾患に罹患している被験体から治療前後に得られた歩行情報、及び予め入力された標準情報を比較して、治療前の歩行情報と標準情報間に有意差が見られるが、治療後の歩行情報と標準情報間に有意差がない場合、被験体の歩行障害を呈する疾患が治癒していると判定するプログラム
【0039】
本明細書において前記「標準情報」とは、歩行障害を呈する疾患に罹患していない個体、好ましくは健常体において、被験体と同様の条件下で測定した歩行情報をいう。標準情報を提供する個体は、被験体の情報と歩行障害を呈する疾患以外の点で一致点が多い方が好ましい。標準情報は、被験体の歩行情報と同時に取得することもできるが、予め取得した情報を情報処理部のメモリ内に格納しておくこともできる。
【0040】
1-3-7.情報入力部
「情報入力部」は、外部から、温度制御部、歩行情報取得部、情報処理部、及び後述する出力部に所望の情報を入力する部である。
【0041】
情報を入力できる手段であればその構成は特に限定はしない。例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等の入力機器と、それらの入力機器で取得した情報を前記各部に出力するためのインターフェース等で構成されていればよい。受信側の部には、入力された情報を取得するための入力手段を備えることができる。情報入力部は、温度制御部、歩行情報取得部、及び情報処理部の各部に個別に備えられていてもよいし、一つの情報入力部から各部に個別に情報を入力できるように構成されていてもよい。
【0042】
情報入力部から入力される情報については、限定はしない。各部で必要な任意の情報を入力することができる。例えば、温度制御部であれば、歩行路面の設定温度や温度変化情報等が挙げられる。歩行情報取得部であれば、情報取得時間、取得すべき情報、可動式歩行路面の場合、その稼働速度等が挙げられる。情報取得部であれば、被験体の情報、標準情報、プログラムの選択情報等が挙げられる。出力部であれば、各部に格納された情報から出力部に出力するべき情報の選択情報等が挙げられる。
【0043】
1-3-8.出力部
「出力部」は、取得した歩行情報及び処理した情報を出力する部である。各部に格納された情報を確認可能な状態で出力できれば、その構成は特に限定はしない。例えば、画面上等に文字や図として出力してもよいし、紙等に印刷して出力してもよい。また音声により出力してもよいし、それらの組合せであってもよい。
【0044】
出力部は、前記情報を出力可能な構成を有していれば、既存の手段を利用することができる。例えば、モニタ、スクリーン、プリンタ、スピーカ等が挙げられる。
【0045】
1-3-9.ハードウェア構成
前記歩行情報取得部及び本情報処理部におけるハードウェア構成を、例を挙げて具体的に説明する。まず、例えば、歩行情報取得部内のカメラで取得した映像は、同部内の録画用不揮発性メモリ内に格納される。その後、同部内のCPUは不揮発性メモリに格納された歩行情報取得プログラムを揮発性メモリに展開させて、そのプログラムに従って録画用不揮発性メモリに格納されていた映像に対して処理を行い、必要な歩行情報を取得する。取得した歩行情報は、インターフェースを介して歩行情報取得部から情報処理部に出力される。続いて、情報処理部は、内蔵するCPUが不揮発性メモリに格納された、例えば前記(a)~(c)のような各種プログラムを揮発性メモリのワーク領域に展開させて、入力された歩行情報を、そのプログラムに従って処理する。処理した情報は不揮発性メモリ内に記録し、又は入力部からインターフェースを介して入力された選択情報に基づいて、不揮発性メモリ内から出力部であるモニタ画面上に必要な情報を展開する。
【0046】
2.歩行障害疾患判定方法
2-1.概要
本発明の第2の態様は、歩行障害を呈する疾患の有無の判定を補助する方法である。本方法によれば、第1態様に記載の検出装置を用いて、肉眼観察では認識し難い軽微な歩行障害であっても、非侵襲的に、かつ客観的に解析、及び評価し、その異常を判定することができる。
【0047】
2-2.方法
本発明の方法は、歩行情報取得工程、情報比較工程、及び判定工程を必須の工程として含む。以下、各工程について具体的に説明をする。
【0048】
2-2-1.歩行情報取得工程
「歩行情報取得工程」は、第1態様に記載の検出装置を用いて、被験体に温度の異なる二以上の歩行路面上を所定の時間を歩行させ、それぞれの歩行路面で得られる歩行情報を取得する工程である。
【0049】
歩行は素足で行うことが好ましいが、歩行路面の温度を足裏で感知することができればよく、例えば、薄手の靴下やストッキング等を着用していてもよい。
【0050】
各歩行路面温度は特に限定されず、被験体の情報や歩行障害の判定に必要な温度に応じて適宜設定すればよい。一例として、虚血性疾患等の血流異常を伴う疾患に罹患している場合には、一般に痛覚が過敏になり、通常は痛みを感じない状態であっても熱刺激により痛みが誘発されて歩行障害を発症する。したがって、この場合、痛みを誘発しない温度と誘発する温度に設定すればよい。例えば、被験体がヒトの場合、一方の歩行路面を痛みを誘発しない常温、すなわち18℃~27℃、19℃~26℃、又は20℃~25℃に設定し、他方の歩行路面を、痛みを誘発する高温、例えば40℃~55℃、41℃~52℃、42℃~50℃、43℃~48℃、又は44℃~47℃に設定すればよい。42.5℃~47.5℃は特に好適である。いずれの温度の歩行路を先に歩行させるかの順序は問わない。一般には、痛みを誘発しない温度を先に歩行させる方が好ましい。
【0051】
歩行時間も限定はされない。被験体の情報や歩行障害の判定に十分な歩行情報を取得できるまで継続させることができ、必要に応じて適宜調整すればよい。一定の歩行路面上を指示した時間歩行する等、歩行条件を制御可能なヒトの場合、一般に歩行時間は短くても判定に十分な歩行情報を取得することができる。限定はしないが、例えば、10秒~5分、20秒~4分、30秒~3分、40秒~2分、又は50秒~1分程度で足りる。一方、ラット等の実験動物の場合、通常検出装置内を自由に動き回るだけでなく、歩行情報取得期間に歩行を休止する等、歩行条件を制御することが困難である。このような場合には、一般に歩行時間は長く設定する方が判定に十分な歩行情報を取得することができる。限定はしないが、例えば、5分~1時間、10分~45分、15分~30分、又は20分~25分が挙げられる。
【0052】
歩行情報の種類は限定しない。歩行障害を伴う疾患の判定に必要な種類を適宜選択して取得すればよい。例えば、虚血性疾患の場合、歩行路接地面積、歩幅間隔、又は歩行速度等が挙げられる。被験体の歩行によって各歩行路で得られるこれらの歩行情報を取得すればよい。
【0053】
被験体に異なる温度の歩行路面上を歩行させる場合、各歩行路での歩行は連続的に行ってもよいし、休息時間を設けてもよい。
【0054】
また、同一の被験体に対して、異なる時間や日に、同一の温度条件や歩行時間で本工程を複数回繰り返し、複数の歩行情報を取得することもできる。
【0055】
2-2-2.情報比較工程
「情報比較工程」は、前記各歩行路において得られた歩行情報を比較する工程である。取得した歩行情報に対して必要な処理を行い、それぞれの情報を対比して、その差異を顕在化させる工程である。対比する情報は、温度条件以外は同一とすることが好ましい。
【0056】
また、同一の被験体に対して、異なる時間や日に、同一の温度条件や歩行時間で複数の歩行情報を経時的に取得した場合、各歩行路の同一歩行情報を経時的に比較することもできる。
【0057】
2-2-3.判定工程
「判定工程」は、前記情報比較工程で得られた少なくとも二つの歩行情報間に有意差があるときに、被験体は歩行障害を呈する疾患に罹患している可能性が高いと判定する工程である。
【0058】
いずれの歩行情報の比較結果を判定に用いるかは、罹患が疑われる歩行障害を呈する疾患に応じて適宜定めればよい。例えば、被験体が歩行障害を呈する疾患に罹患している疑いのある場合には、痛みを誘発しない温度と誘発する温度の二つの歩行路面上を被験体にそれぞれ歩行させる。被験体が虚血性疾患等の血流異常を伴う疾患に罹患している場合には、両温度間で歩行情報に有意差を生じる。一方、脳・神経系疾患や筋疾患の場合には、歩行機能そのものに異常を生じており、熱による痛みは誘発されないため温度差のある二つの歩行路面上をそれぞれ歩行させた場合であっても両温度間で歩行情報に有意差は生じない。また、被験体が糖尿病に罹患している場合も糖尿病性神経障害の合併によって知覚鈍麻を生じるため、熱刺激を付与しても痛みが誘発されにくい。したがって、両温度間で歩行情報に有意差を生じる場合、被験体は、熱によって痛みが誘発される疾患、すなわち虚血性疾患等の血流異常を伴う疾患に罹患している可能性が高いと判定される。逆に両温度間で歩行情報に有意差がない場合には、熱による痛みが誘発されない疾患に罹患している可能性が高いと判定される。
【0059】
なお、本工程で得られる判定結果は、歩行障害を呈する疾患のうち、熱によって痛みが誘発される疾患の罹患可能性の高さを判定するものであって、疾患を診断する方法ではない。したがって、例えば、熱によって痛みが誘発される疾患が虚血性疾患なのか糖尿病なのかを診断するものではない。これらの診断は、別途公知の診断基準等に基づいて行えばよく、本発明の判定方法は、それらの診断に対する支持情報を提供するための補助方法である。
【0060】
本態様の歩行障害疾患判定方法は、被験体の歩行障害を呈する疾患に罹患している可能性を判定できるのみならず、当該疾患に罹患している被験体の予後観察やリハビリテーション評価にも利用することができる。例えば、歩行障害を呈する疾患に罹患判定時の被験体の歩行情報を保存しておき、治療後や前回測定時から一定時間経過後に、再度同一条件で歩行情報を取得する。これを複数回繰り返し、本工程で歩行情報の経時的変化から予後判定を行うこともできる。被験体の治療前後、又は治療後の時間経過と共に、比較した二つの歩行情報間の有意差が失われた場合、疾患が治癒傾向にあると評価することができる。
【0061】
3.歩行改善装置
3-1.概要
本発明の第3の態様は歩行障害を呈する疾患、特に脳血管疾患に罹患した被験体における歩行障害を改善する装置である。本発明の検出装置は、歩行路面を加熱する加熱部を有し、前記被験体に加熱した歩行路面上を歩行させたときの歩行情報を取得し、その改善状態を分析可能なように構成されている。本発明の検出装置によれば、熱刺激を付与することで歩行障害を改善できると共に、そのリハビリテーション効果を客観的に検出することができる。
【0062】
3-2.構成
本発明の装置は、歩行路、加熱部、温度センサ、温度制御部、歩行情報取得部、情報処理部、及び出力部を必須の構成として、また情報入力部を選択的構成として備える。このうち、歩行路、温度センサ、温度制御部、歩行情報取得部、情報処理部、出力部、及び情報入力部の構成は、第1態様に記載の歩行障害検出装置における対応する各部の構成に基本的に準ずることから、ここでの説明は簡略し、本態様で特徴的な加熱部の構成について、以下で具体的に説明をする。
【0063】
3-2-1.加熱部
「加熱部」は、歩行路の歩行路面を加熱する部である。歩行路面に直接関与して歩行面の温度を室温以上の任意の温度に加温できるように構成されている。本装置における歩行障害改善作用は、歩行面の加熱による被験体への熱刺激によって生じることから、加熱温度の下限は被験体に歩行障害改善作用を付与できる温度以上であればよく、また上限は被験体が歩行路面を歩行可能な最大温度以下であればよい。例えば、40℃~60℃、42℃~58℃、45℃~56℃、46℃~54℃、47℃~52℃、又は48℃~50℃の範囲であればよい。
【0064】
加熱手段は、第1態様の加熱冷却部における加熱手段と同じ公知の加熱手段を使用すればよく、限定はしない。
【0065】
3-2-2.その他の部
前述のように、本発明の装置において、加熱部以外の各部の構成は、第1態様に記載の歩行障害検出装置における対応する各部の構成に準ずる。
【0066】
本態様における温度センサ、及び温度制御部は、歩行路面の温度が前記歩行障害改善作用を付与できる温度範囲となるよう調整及び制御する部であり、情報入力部は被験体の情報や歩行路面の温度を入力する部である。さらに、歩行情報取得部、情報処理部、及び出力部は、被験体の歩行情報を経時的に保存し、歩行改善処置開始時の情報とその処置を継続して実施した際の各実施時の情報を分析し、その結果から、改善効果に関する情報を算出し、出力部から出力できるように構成されている。
【0067】
したがって、本発明の歩行障害改善装置によれば、この装置を継続使用することで、歩行障害を改善できると共に、そのリハビリテーション効果を客観的な数値情報として提示することが可能となる。
【実施例0068】
(目的)
虚血性疾患のモデルラットとして下肢虚血モデルラットを作製し、本発明の検出装置を用いて当該モデルラットにおける歩行障害を評価する。
【0069】
(方法)
1.下肢虚血モデルラット作製
仰臥位にしたラット(Slc;SD、10-13週齢、雄)に1.5~2.5%イソフルラン(ファイザー)で全身麻酔を行い、麻酔管理を行った。ラットの尾動脈をサーフロー(テルモ社)で穿刺して、0.016インチのワイヤ(東レ社)及び0.55mmのカテーテル(金子コード社)を挿入し、
図1で示すようにX線透視装置(Siemens社)下でラットの腹部大動脈領域まで誘導して、下肢血管造影を施行した。
【0070】
続いて、右鼠径部に約1cmの斜切開を加え、右大腿動脈を露出させた後、周囲の神経や静脈に触れないよう注意しながら右大腿動脈のみをテーピングした。中枢側は、絹糸で結紮し、その末梢側の大腿動脈を1/2周切開した。切開部より、チューブ5mm(両端にX線不透過マーカー付き)を2本末梢に向けて血管内に挿入し、浅大腿動脈の全長にわたり留置することによって、血管塞栓を施し、
図2に示すように同部位の血流を遮断した。末梢側の大腿動脈は結紮して閉創した。再度下肢血管造影を行い、
図3で示すように右下肢の血流低下を確認し、下肢虚血モデルラットを得た。
【0071】
2.歩行障害の評価
作製した下肢虚血モデルラットを用いて、歩行障害を評価した。
下肢虚血モデルラットを通常使用されるプラスチック製透明飼育ケージ内に無麻酔、無侵襲の状態で入れて観察した。飼育ケージは、
図4で示すように水を入れたプラスチック製透明容器内に飼育ケージの底面が水に接するように沈めて二重底とし、チューブで連結したウォーターバスで水温を変えることで、飼育ケージ底面を任意の温度に調整可能にした。底面温度は、20±0.5℃、24±0.5℃(室温)、及び47.5±0.5℃で行った。歩行動画の撮影は、容器の下部からビデオカメラ(パナソニック社製)で17分間行い、撮影前後の1分間を除いた15分間を評価対象とした。動画撮影は、下肢虚血モデルラット作製の術前(0日)、術後4日、7日、14日、及び21日に行った(n=3)。撮影した映像から、画像解析ソフトウェアImage Jを用いて、評価対象時間における左右の総歩数情報、及び左右の歩行時間情報を取得し、解析した。
【0072】
(結果)
図5に結果を示す。Aは下肢虚血モデルラットの評価対象時間における左右の総歩数情報の経時変化を、またBは下肢虚血モデルラットの左右の歩行時間情報の経時変化を示す図である。歩数及び歩行時間は、共に虚血による血流低下に伴い変化することが知られている。
【0073】
まず、歩行障害後の経時的変化を温度別に比較すると、総歩数及び歩行時間は、室温に比べ高温の方が大きく変化していた。この結果は、室温よりも高温環境で検出することにより歩行障害の程度をより高い感度で評価できることを示している。逆に低温環境では室温よりも変化に乏しいばかりでなく、安定したデータとならず評価が困難であった。つまり、臨床的には室温よりも高温環境での歩行データを解析することでより軽微な歩行障害変化を検出することが可能となり、室温又は室温よりも低温環境での歩行データと比較検証することで、その差異をより顕著に検出できることが明らかとなった。
【0074】
さらに、術前に相当する0日目のラットは正常ラットの歩行状態を示していた。これにより、総歩数は室温に比べ高温で増加し、低温で減少することが明らかとなった。また、術後、1ヵ月目に再度下肢血管造影を行ったところ、右下肢において血管再生による新たなバイパスが形成され、血流が回復していることを確認した(データ示さず)。この結果は、温度環境の上昇に伴い、自由行動下でのラットの活動量(行動量)が増加することを示している。臨床的には、温度環境を変化させることにより血管再生が促進されることを示しており、その結果から、リハビリテーション効果の向上が期待される。