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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084530
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】排水処理方法及び排水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/28 20060101AFI20220531BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20220531BHJP
   C02F 3/00 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
C02F3/28 Z
C02F1/44 F
C02F3/00 G
C02F3/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171121
(22)【出願日】2021-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2020196417
(32)【優先日】2020-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 亮哉
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲史
(72)【発明者】
【氏名】瀧 寛則
【テーマコード(参考)】
4D006
4D040
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006HA93
4D006JA57Z
4D006KA01
4D006KB23
4D006PC67
4D040AA24
4D040AA54
(57)【要約】
【課題】下水などの低濃度排水処理を対象としたメタン発酵において、グラニュールを用いずに、発酵を促進する方法を開発する。
【解決手段】有機物を含有する低濃度排水(下水)を原料として上向流式メタン発酵で発酵させる発酵工程、
発酵工程からオーバーフロー水を取り込み、汚泥を膜分離してろ過水を放出するろ過工程、
ろ過して残った汚泥を発酵工程に返送するろ過汚泥返送工程を備えた排水処理方法であって、
発酵工程では、発生したバイオガスを下部から散気して、グラニュール汚泥が発生しない初期状態における発酵を促進させる排水処理方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性菌を用いて有機物を含有する排水を発酵処理する排水処理方法において、
有機物を含有する低濃度排水を原料として上向流式メタン発酵で発酵させる発酵工程、
発酵工程からオーバーフロー水を取り込み、汚泥を膜分離してろ過水を放出するろ過工程、
ろ過して残った汚泥を発酵工程に返送するろ過汚泥返送工程を備えた排水処理方法であって、
発酵工程では、発生したバイオガスを下部から散気して、グラニュール汚泥が発生しない初期状態における発酵を促進させる排水処理方法。
【請求項2】
発酵工程の初期段階においてマグネタイトを添加することを特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
有機物を含有する低濃度排水を原料として上向流式メタン発酵で発酵させるリアクター槽と膜分離槽とを備え、
リアクター槽と膜分離槽には、上部側にオーバーフロー管、下部側に汚泥返送管が設けられており、
リアクター槽は、下部に排水供給管、上部から底部にバイオガスを循環させるガス循環管が設けられており、
膜分離槽は、ろ過処理水の排水管を備えている、
ことを特徴とする排水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水などの処理施設において発生する有機物を含有する排水を処理する嫌気的生物処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物を含む排水や余剰となった下水汚泥、生ごみ等の有機性廃棄物の処理としてメタン発酵が用いられている。これは、高分子の有機物を嫌気的に加水分解・酸生成することで得られる酢酸や水素をメタン菌群によりメタンガスを生成する嫌気的生物処理方法である。
メタン菌を始めとする嫌気性細菌は、好気性細菌と比較して増殖速度が遅い。そのため、メタン発酵の立ち上げには時間を要するので、立ち上げを早めることは重要なポイントである。また立ち上げ後においてはリアクター内に嫌気性細菌を高濃度に保持できることも重要となる。
メタン発酵の処理方式には、排水と汚泥(嫌気性細菌)を混合させて処理を行う完全混合型メタン発酵と、排水をリアクター下部から供給しリアクター内に沈殿した汚泥と接触させて処理を行う上向流式メタン発酵が、挙げられる。
完全混合型メタン発酵は、排水と汚泥を機械攪拌で混ぜ合わせる単純な構造とした処理プロセスであるが、処理水を排出する際に汚泥も流れてしまい、嫌気性細菌を高濃度に保持できない。そのため嫌気性細菌の増殖速度と排出速度をコントロールする必要がある。
一方、上向流式メタン発酵は、機械攪拌をせず、下部から排水を供給する際の線速度と発生するバイオガスによる対流で排水と嫌気性細菌の接触を促進させる処理プロセスである。このプロセスは、機械攪拌が不要なこと、処理水はオーバーフローで流れていくため、ポンプは減水を供給する側のみで済むことから消費エネルギーが少ないのが利点である。汚泥は沈殿しているため、処理水と汚泥をある程度分離可能であるが、完全に分離することはできないため、下水等の低濃度排水の処理は難しい。
【0003】
上向流式メタン発酵に関して、次のような従来技術が提案されている。
特許文献1(特開2019-42692号公報)には、生物処理装置は、有機性の固形廃棄物を0.5mm以上10mm以下となるように破砕する破砕部と、固形物導入口、および、固形物導入口の上方に設けられた第1処理液排出口が形成され、加水分解菌、酸発酵菌、および、メタン発酵菌のうちのいずれか1または複数を含む嫌気性微生物群、ならびに、破砕された固形廃棄物を含む懸濁液を収容する第1反応槽と、第1反応槽内における固形物導入口と第1処理液排出口との間に設けられ、固形廃棄物の第1処理液排出口への移動を制限する、水平面に対して傾斜した複数の第1傾斜板とを有する可溶化リアクタと、グラニュールを備えた第2反応槽(メタン発酵リアクタ)を備えた、小型化された生物処理装置、に関する発明が開示されている。
特許文献2(特開2005-224692号公報)には、酸生成槽から嫌気反応槽へ有機性排水を搬送する搬送ライン上にエジェクタを配置し、嫌気反応槽から排出されるバイオガスをガス循環ラインによりこのエジェクタに導いて、有機性排水と混合させ、バイオガスを微細な気泡として含む気液混相流状態で嫌気反応槽の下部に設けられたディストリビュータへと導いて、嫌気反応槽内に導入して、導かれたバイオガスを嫌気反応槽内のガスリフトに利用してグラニュールを膨潤させる排水処理、に関する発明が開示されている。
【0004】
特許文献3(特開2012-55837号公報)には、嫌気性微生物のグラニュールが備えられてなる槽を有し、該槽内において前記嫌気性微生物により有機物含有廃水が嫌気性処理されるように構成されてなる嫌気性処理装置であって、前記有機物含有廃水の生物化学的酸素要求量が1200mg/L以下であり、前記槽内の底部に配置された攪拌翼を有する攪拌手段が設けられ、該攪拌手段は、前記攪拌翼の末端から径方向外側に10cm離れた位置での流速が0.3m/秒を超え0.8m/秒以下となるように前記槽内を攪拌する嫌気性処理装置、に関する発明が開示されている。
特許文献4(特開2012-110821号公報)には、反応槽の立ち上げに際して、反応槽に非生物担体とメタン菌グラニュールとを、担体とメタン菌グラニュールの体積比が100:5~100:500の範囲で存在させた状態で有機性廃水の通水を開始し、その後、有機性廃水の通水を継続することにより、反応槽内のメタン菌グラニュールの少なくとも一部を解体、分散化させて、運転開始に際して担体への微生物の付着を促進して担体表面に活性の高い生物膜を早期に形成させることにより、装置の立ち上げに要する時間を大幅に短縮すると共に、装置の立ち上げ後においても効率的な処理を行う有機性排水の処理方法、に関する発明が開示されている。
これらの先行発明に示されるように、上向流式メタン発酵においては、グラニュールを利用するのが一般的である。下水等の大量の排水を処理するには大量のグラニュールを準備する必要があるとともに、発酵槽においてグラニュールが破壊や流出しないように維持する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-42692号公報
【特許文献2】特開2005-224692号公報
【特許文献3】特開2012-55837号公報
【特許文献4】特開2012-110821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、下水などの低濃度排水処理を対象としたメタン発酵において、グラニュールを用いずに、発酵を促進する方法を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1.嫌気性菌を用いて有機物を含有する排水を発酵処理する排水処理方法において、
有機物を含有する低濃度排水を原料として上向流式メタン発酵で発酵させる発酵工程、
発酵工程からオーバーフロー水を取り込み、汚泥を膜分離してろ過水を放出するろ過工程、
ろ過して残った汚泥を発酵工程に返送するろ過汚泥返送工程を備えた排水処理方法であって、
発酵工程では、発生したバイオガスを下部から散気して、グラニュール汚泥が発生しない初期状態における発酵を促進させる排水処理方法。
2.発酵工程の初期段階においてマグネタイトを添加することを特徴とする1.に記載の排水処理方法。
3.有機物を含有する低濃度排水を原料として上向流式メタン発酵で発酵させるリアクター槽と膜分離槽とを備え、
リアクター槽と膜分離槽には、上部側にオーバーフロー管、下部側に汚泥返送管が設けられており、
リアクター槽は、下部に排水供給管、上部から底部にバイオガスを循環させるガス循環管が設けられており、
膜分離槽は、ろ過処理水の排水管を備えている、
ことを特徴とする排水処理装置。
【発明の効果】
【0008】
1.本発明は、下水の処理水などの低濃度排水処理を対象としたメタン発酵において、グラニュールを用いずに、発酵を促進する方法を開発した。発生したバイオガスを循環させて、攪拌性を確保するとともに、ろ過工程から汚泥を発酵過程へ返送することにより、発酵過程の発酵菌濃度を高濃度に維持できることとなって、高密度に菌叢を生成したグラニュールを用いることなく、発酵を促進することができた。
2.ろ過工程から汚泥を発酵工程へ返送することにより、ろ過工程の有機物濃度を低下させることができるので、分離膜の目詰まりが抑制できる。膜の目詰まりによる排水の透過能力の低下が防止でき、それによる排水ポンプへの負荷の発生を低下させることができる。
3.発酵の初期工程においてマグネタイトを添加することにより、メタンの生成が促進され、発酵槽の立ち上げ能力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の工程を示す図
図2】本発明の装置構成を示す図
図3】実施例1におけるメタンガス濃度の経時変化を示す図
図4】実施例1における累積メタンガス生成量を示す図
図5】実施例1におけるろ過後の処理水のCOD濃度の変化を示す図
図6】実施例2におけるメタンガス濃度の経時変化を示す図
図7】実施例2における累積メタンガス生成量を示す図
図8】実施例2におけるろ過後の処理水のCOD濃度の変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、上向流式メタン発酵を利用した有機排水処理方法に属する。上向流式メタン発酵は、機械攪拌をせず、下部から排水を供給する際の線速度と発生するバイオガスによる対流で排水と嫌気性細菌の接触を促進させる処理プロセスである。
本発明は、有機物を含有する低濃度排水(下水)を原料として上向流式メタン発酵で発酵させる発酵工程、発酵工程からオーバーフロー水を取り込み、汚泥を膜分離してろ過水を放出するろ過工程、ろ過して残った汚泥を発酵工程に返送するろ過汚泥返送工程を備えた排水処理方法であって、発酵工程では、発生したバイオガスを下部から散気して、グラニュール汚泥が発生しない初期状態における発酵を促進させる排水処理方法である(図1工程図参照)。
【0011】
本発明は、CODCr(以下COD)濃度100~(500)~1500mg/Lの有機物を含有する排水を対象として嫌気性下でグラニュールを用いないでメタン発酵させる排水処理方法である。さらに、好ましくは、CODCr(以下COD)濃度300~700mg/Lの有機物を含有する排水において、有効である。発生するバイオガスを低濃度排水が充填された発酵工程に戻して散気させて、上昇攪拌流を生成して、菌と有機物との接触を促進する。また、ろ過工程において、濃縮された汚泥を発酵工程へ返送することにより、ろ過槽の有機物濃度を低く維持して、ろ過膜の目詰まりを抑制して、ろ過膜のメンテナンス頻度を少なくすることができる。返送される汚泥には、菌が多量に含まれるので、反応槽の菌量を増加させることができ、メタン生成を促進することができる。
【0012】
これによって、グラニュールを用いることなく、反応工程の立ち上げを促進することができる。
グラニュールを用いる発酵においては、特許文献4(特開2012-110821号公報)などに開示されるように、メタン菌グラニュールが生成している種汚泥を反応槽に投入して立ち上げが行われる。グラニュールは粒径0.5~2.0mmである。特に、グラニュールが浮遊して、反応槽からオーバーフローすると、分離膜へ付着して、目詰まりが進むことになる。特開2001-314839号公報では、ろ過膜層内へバイオガスを散気して、分離膜面を洗浄する方法が提案されている。この方法では、ろ過膜槽の有機物が浮遊して、沈殿濃縮が進まないこととなる。本発明では、グラニュールを用いないので、このような粒状有機物が分離膜に付着することはなく、また、沈殿した固形分は回収されるので、膜分離槽に有機物が蓄積することが防止されて、分離膜の性能が長期間維持でき、メンテナンス期間を延長することができる。
さらに、発酵工程の初期にマグネタイトを添加することにメタンの生成を促進することができ、低濃度排水処理系のスタートアップを促進し、更に、膜負荷を低減することができる。バイオガスの循環とマグネタイトの添加を併用することにより、メタン生成がさらに促進される。
マグネタイトは、100~300~500mg/L程度が適している。例えば、汚泥濃度との比率を20:1程度の目安が適している。
【0013】
本発明の装置構成を図2に示す。
有機物を含有する低濃度排水(下水)を原料として上向流式メタン発酵で発酵させるリアクター槽1と膜分離槽2と、リアクター槽1と膜分離槽2には、上部側にオーバーフロー管3、下部側に汚泥返送管4が設けられており、リアクター槽1は、下部に排水供給管11、上部から底部にバイオガスを循環させるガス循環管12が設けられており、膜分離槽2は、ろ過膜21とろ過処理水の排水管22を備えている。
本発明は、嫌気性下で行われるので、閉鎖系である。また、リアクター槽1と膜分離槽2に連通管5を設けて、両層内の圧力を一定に維持して、自由にオーバーフローができるようにしている。
【0014】
この排水処理装置は、リアクター槽1の底部に設けた排水供給管11から、処理原水となる低濃度の有機物を含有する排水をリアクター槽1内に導入する。
リアクター槽1内で、発酵を続けると、メタンを含むバイオガスが発生する。リアクター槽1の上部から底部に回したガス循環管12を用いて、発生したバイオガスをリアクター槽1の底部から散気する。散気されたバイオガスは、リアクター槽1内の排水中を上昇し、排水を攪拌し、菌と排水の接触を増加させる。低濃度排水なので、浮遊性があるので、攪拌効果が高くなる。ただし、スクリューのような強い攪拌ではなく、比較的静置攪拌となるので、リアクター槽の下方には有機物などの固形分の濃度が高くなり、上方は固形分が少ない低濃度水となる。
さらに、排水供給管11から排水を供給すると、リアクター槽1の上方からオーバーフローした処理水がオーバーフロー管3から膜分離槽2へ供給される。
【0015】
膜分離槽2には、ろ過膜21が設けられており、ろ過膜21でろ過された膜ろ過水は排水管22から装置外へ送られる。
膜分離槽2内へ流入してくる処理水には、有機物等の固形物は少なくなっているが、ろ過されることによって、膜分離槽2の内部には固形物濃度が高くなり、底部側に沈殿してくる。この沈殿された汚泥には、菌が多量に存在している。
この沈殿している汚泥を膜分離槽2の下部から汚泥返送管4を通して、リアクター槽1の下部に供給する。返送された汚泥に含まれる菌量が加わった、リアクター槽1の発酵能力が向上することとなる。これによって、発生するバイオガスが増加し、一層攪拌力が高くなる。バイオガスが必要以上に増加した場合は、図示していないが、系外へ取り出して、燃料等に利用する。
リアクター槽1の上部と膜分離槽2の上部は連通管5を設けて、両者の圧力を均衡に保っている。これによって、オーバーフローに動力が不要で自由に行われることとなる。
【実施例0016】
図2に示す装置と同様の実験装置を用いて実験を行った。
装置はリアクター槽と膜分離槽に分けられる。各槽の有効容積は10Lとし、リアクター槽に濃縮下水汚泥を2.5L投入した。残りの7.5Lは水道水を入れた。
膜分離槽には窒素パージした水道水10Lを投入。
模擬排水のCODCr(以下COD)濃度は500mg/Lであった。
水理学的滞留時間(HRT)は24時間(10L/day)とした。
模擬排水の供給及び処理水の排出は間欠運転で制御した。
リアクター槽からオーバーフローした水は自由落下により膜分離槽に流れるようにした。
リアクター槽と膜分離槽の圧力が一定となるようにチューブで繋いで連通させた。
初期汚泥濃度はMLSS7600-8000mg/L、MLVSS4700-5600mg/Lで、VSS/SS比は0.62-0.68であった。
【0017】
バイオガスの循環は、リアクター槽上部のガスをポンプを使ってリアクター槽下部に送り込んだ。ポンプは2L/minスペックを用いた。ポンプの稼働時間は5秒オン、60分オフでバイオガス循環を行った。
実験はバイオガス循環有り無しの2条件実施した。
汚泥を投入した後は、ガスクロでメタンが検出されるまで静置してから模擬排水の供給を開始した。なお、バイオガス循環は汚泥投入直後から実施した。
また膜分離槽からリアクター槽への汚泥返送はバイオガス循環ありの条件のみ実施した(模擬排水供給を始めて7日目に1L/day汚泥返送を開始)。
模擬排水の供給及び汚泥返送はリアクター槽下部から通水した。
【0018】
各条件のメタンガス濃度の経時変化を図3に示す。
バイオガス循環なしの条件では静置して1週間でメタンガスが確認された(3%)。一方で循環ありの条件では静置してから4日目で10%近いメタンガス濃度であった。その後も循環ありの条件においてメタンガス濃度が高い傾向であった。
【0019】
図4に累積処理水量あたりの累積メタンガス生成量を示す。
図4より同じ処理水量あたりのメタンガス生成量は、バイオガス循環ありの方が20%近く増加した。
【0020】
図5に各条件の処理水のCOD濃度の経時変化を示す。
開始直後は循環ありの方が高い濃度であったが、徐々に低下し、最終日はバイオガス循環ありのCOD濃度は循環なしの濃度の半分程度であった。
【0021】
表1に、処理系内の固形分(汚泥)の量を示す。
膜分離槽からリアクター槽への汚泥の返送の有無を比較すると、両方とも総量は、MLSSは約4500、MLVSSは約2600で一致する。汚泥を返送させることによって、MLSSは、膜分離槽内で40%に減少し、リアクター槽内で21%増加している。MLVSSは、膜分離槽内で43%に減少し、リアクター槽内で23%増加している。
したがって、汚泥を返送することによって、膜分離槽内の有機物などの固形分は半分以下に減らすことができ、分離膜への負荷が軽減される。一方、リアクター槽内の有機物などの固形分が2割以上増加しているので、含まれるメタン菌量も増加していることになり、増加した汚泥も発酵資料となるので、発酵効率が増加することとなる。
リアクター槽の発酵効率の増加と分離膜の負荷軽減によって、図5に示す処理水のCOD濃度の低下が促進されている。
【0022】
さらに、リアクター槽について、実験終了時の汚泥のSVI30((Sludge volume index)汚泥の沈降具合を数値化したものであり、数値が低いほど沈降性が高い)を測定した結果、バイオガス循環なしの汚泥のSVIが65であるのに対し、バイオガス循環ありの汚泥のSVIは60と沈降性が良くなったことが示された。沈降性が改善されることに伴い、オーバーフロー水に含まれる固形分が少なくなり、膜分離槽の負荷が軽減することとなる。
【0023】
(考察)
以上の結果より次のことがいえる。
1.バイオガス循環及び汚泥返送をすることで処理能力・汚泥の沈降性が上昇する結果が得られた。
2.発生したバイオガスをリアクター槽下部から散気させることにより処理能力が増加するため、早期立ち上げが可能となる。
3.分離膜に与える負荷を低減するため、ランニングコストが安くなる。リアクター槽から膜分離槽に流出した汚泥を分離膜により濃縮し返送させることで、返送量及び膜負荷の低減が可能となる。
4.下水処理場から排出される汚泥を使用しているため、全ての下水処理場へ適用が可能(グラニュール汚泥の場合、外から調達する必要があるのでコストがかかる、またグラニュールを大量に調達するのも困難)。
5.既存の下水処理設備を加工する(散気管の設置、密閉空間の作成)ことでメタン発酵への切り替えが容易であることから、導入コストを抑えられる。
【0024】
【表1】
【実施例0025】
図2に示す装置と同様の実験装置を用いて実験を行った。
装置はリアクター槽と膜分離槽に分けられる。各槽の有効容積は10Lとし、リアクター槽に濃縮下水汚泥を2.5L投入した。残りの7.5Lは水道水を入れた。
各槽の有効容積は10Lとし、リアクター槽に濃縮下水汚泥を2.5L投入した。残りの7.5Lは水道水を入れた。
膜分離槽には窒素パージした水道水10Lを投入。
模擬排水のCODCr(以下COD)濃度は500mg/Lであった。
水理学的滞留時間(HRT)は24時間(10L/day)とした。
模擬排水の供給及び処理水の排出は間欠運転で制御した。
リアクターからオーバーフローした水は自由落下により膜分離槽に流れるようにした。
リアクターと膜分離槽の圧力が一定となるようにチューブで繋いだ。
初期汚泥濃度はMLSS 10000mg/L、MLVSS 6000mg/Lで、VSS/SS比は0.60であった。
【0026】
バイオガスの循環は、リアクター上部のガスをポンプを使ってリアクター下部に送り込んだ。ポンプは2L/minスペックを用いた。ポンプの稼働時間は5秒オン、60分オフでバイオガス循環を行った。
汚泥を投入した後は、ガスクロでメタンが検出されるまで静置してから模擬排水の供給を開始した。また、マグネタイトは汚泥を投入した後に、300mg/L(汚泥濃度との比率を20:1)となるように添加して運転を開始した。なお、バイオガス循環は汚泥投入直後から実施した。
【0027】
実施例1で実施した試験条件(循環なし、循環あり)に加え、実施例2で実施した試験条件(循環有り+マグネタイト)を加えたメタンガス濃度、累積処理水量あたりの累積メタンガス生成量、処理水のCOD濃度の経時変化を図6、7、8に示す。各図には、図3、4、5のグラフを合成して表示している。
図6図7よりマグネタイトを添加することで、バイオガス循環よりもメタン生成が促進されることが確認された。
また、循環あり+マグネタイトの条件の処理水COD濃度は、開始直後は他の条件より高い数値であったが、運転開始10日後には他の条件よりもCOD濃度が低い結果が得られた。これは、メタン生成が促進され、処理水中の有機物がメタンに変換されたことが考えられる。
【符号の説明】
【0028】
1 リアクター槽
11 排水供給管
12 ガス循環管
2 膜分離槽
21 ろ過膜
22 排水管
3 オーバーフロー管
4 汚泥返送管
5 連通管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8