(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084558
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】紡績コップを準備する方法および準備装置
(51)【国際特許分類】
B65H 67/04 20060101AFI20220531BHJP
B65H 65/00 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
B65H67/04 W
B65H67/04 Z
B65H65/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021190793
(22)【出願日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】10 2020 131 278.4
(32)【優先日】2020-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】518264859
【氏名又は名称】ザウラー スピニング ソリューションズ ゲー・エム・ベー・ハー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Saurer Spinning Solutions GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Carlstr. 60, 52531 Uebach-Palenberg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】デニス メルテンス
(72)【発明者】
【氏名】エンリコ マイク バッサウアー
【テーマコード(参考)】
3F112
【Fターム(参考)】
3F112AA08
3F112CA03
3F112ED07
3F112QA01
3F112VB02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】自動的なコップ・巻管搬送システムを備えた巻取り機の作業部における後続の巻返し工程のために紡績コップを準備する方法を提供する。
【解決手段】第1のステップにおいて、紡績コップの種々異なる巻き状態を定義し、該巻き状態に、糸端のための待機位置を含むそれぞれ1つの準備形態を割り当て、第2のステップにおいて、種々異なる巻き状態を、該巻き状態に割り当てられた準備形態と一緒に制御装置に保存し、第3のステップにおいて、それぞれの紡績コップの巻き状態に関する情報を、準備装置において読み出し、第4のステップにおいて、巻き状態に関する読み出された情報を、保存された巻き状態と照らし合わせ、第5のステップにおいて、紡績コップを、その巻き状態に割り当てられた準備形態に応じて、巻管先端上におけるトップワインディングの作製により、かつ/または巻管先端部へ糸を置くことにより、準備する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動的なコップ・巻管搬送システム(5)を備えた巻取り機(2)の作業部(4)における後続の巻返し工程のために紡績コップを準備する方法であって、準備装置(12)内で、糸端を前記紡績コップから解除し、拾い上げ、かつ待機位置に位置決めし、前記紡績コップを、前記コップ・巻管搬送システム(5)内の搬送手段上で搬送し、前記紡績コップまたは前記搬送手段が、記憶媒体を含んでおり、該記憶媒体が、それぞれの紡績コップに関する情報を有している、方法において、
第1のステップにおいて、紡績コップの種々異なる巻き状態を特定し、該巻き状態に、前記糸端のための待機位置を含むそれぞれ1つの準備形態を割り当て、
第2のステップにおいて、前記種々異なる巻き状態を、該巻き状態に割り当てられた前記準備形態と一緒に制御装置(18)に保存し、
第3のステップにおいて、前記それぞれの紡績コップの前記巻き状態に関する情報を、前記準備装置(12)において読み出し、
第4のステップにおいて、前記巻き状態に関する前記読み出された情報を、前記保存された巻き状態と照らし合わせ、
第5のステップにおいて、前記紡績コップを、その巻き状態に割り当てられた準備形態に応じて、前記巻管先端上におけるトップワインディングの設置により、かつ/または前記巻管先端部内へ糸を置くことにより、準備することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記トップワインディングの作製時に、前記トップワインディングの数が、前記準備形態の一部に含まれる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記巻き状態を表す1つの特徴が、前記紡績コップ上にある糸量である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記巻き状態を表す1つの特徴が、前記巻取り機(2)の前記作業部(4)の前記紡績コップの、糸を把持することができずに戻された回数である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記巻き状態を表す1つの特徴が、前記巻取り機(2)の前記作業部(4)から排出された、完全に繰り出されていない紡績コップである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記巻き状態を表す1つの特徴が、所属のロットである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記紡績コップの前記準備形態が、それぞれの記憶媒体に記憶される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
自動的なコップ・巻管搬送システム(5)を備えた巻取り機(2)の作業部(4)における後続の巻返し工程のために紡績コップを準備する準備装置(12)であって、前記準備装置(12)内で、糸端を紡績コップから解除し、拾い上げ、かつ待機位置に位置決めし、前記紡績コップが、前記コップ・巻管搬送システム(5)内の搬送手段上で搬送され、前記紡績コップまたは前記搬送手段が、記憶媒体を含んでおり、該記憶媒体が、それぞれの紡績コップに関する情報を有している、準備装置(12)において、
制御装置(18)が、紡績コップの種々異なる巻き状態と、前記それぞれの巻き状態に割り当てられた、前記糸端のための待機位置を含む前記紡績コップの準備形態とを記憶するように構成されており、
所定位置に配置された前記紡績コップの、前記記憶媒体に記憶された前記巻き状態に関する情報を読み出し、かつ前記制御装置(18)に伝達する、少なくとも1つの読取り装置(13)が設けられており、
前記制御装置(18)内の巻き状態に関する情報と、伝達された巻き状態とを照らし合わせ、
前記制御装置(18)が、それぞれの巻き状態に割り当てられた準備形態を前記準備装置(12)において開始することを特徴とする、準備装置(12)。
【請求項9】
前記読取り装置(13)に対して付加的に、書込み装置(14)が設けられており、前記書込み装置(14)が、前記紡績コップの準備の実施後に、前記準備形態と、場合によってはトップワインディングの数とを前記記憶媒体に記憶する、請求項8記載の準備装置(12)。
【請求項10】
自動的なコップ・巻管搬送システム(5)を備えた巻取り機(2)の作業部(4)における後続の巻返し工程のために紡績コップを準備する準備装置(12)を備えた巻取り機(2)であって、前記準備装置(12)において、糸端を紡績コップから解除し、拾い上げ、かつ待機位置に位置決めし、前記紡績コップを、前記コップ・巻管搬送システム(5)の搬送手段上で搬送し、前記紡績コップまたは前記搬送手段が、記憶媒体を含んでおり、該記憶媒体が、それぞれの紡績コップに関する情報を有している、巻取り機(2)において、
前記準備装置(12)が請求項8または9記載のように構成されていることを特徴とする、巻取り機(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動的なコップ・巻管搬送システムを備えた巻取り機の作業部における後続の巻返し工程のために紡績コップを準備する方法であって、準備装置内で、糸端を紡績コップから解除し、拾い上げ、かつ待機位置に位置決めし、紡績コップをコップ・巻管搬送システム内の搬送手段上で搬送し、紡績コップまたは搬送手段が、記憶媒体を含んでおり、該記憶媒体がそれぞれの紡績コップに関する情報を有している、方法に関する。さらに本発明は、紡績コップを準備する準備装置ならびにこのような準備装置を含む巻取り機に関する。
【0002】
リング紡績機に関連して、この繊維機械において製造された、比較的少ない量の糸材料を含む紡績コップは、製造プロセスにおいて後続の繊維機械、たとえば織機において引き続き加工される前に、まずは綾巻きパッケージに巻き返されなければならないことは、長らく知られており、多数の特許出願において詳細に記載されている。このような比較的小さな紡績コップを巻き返して比較的大容量の綾巻きパッケージを作製することは、通常、巻取り機の作業部において行われる。
【0003】
リング紡績機から提供される紡績コップでは、通常、いわゆる準備が必要である。なぜならば、紡績コップの糸端は、特別な措置が講じられない場合、巻取り機の作業部において拾い上げ可能ではなく、対応して作業部の糸供給機構に引渡し可能ではないようにリング紡績機において置かれるからである。しばしば、紡績コップは、リング紡績機の作業形式に依存するいわゆるバックワインディング(Hinterwindung)を有している。つまり、リング紡績機では、コップ形成過程の終わり、いわゆる紡出終了時に、リングレールをその上側位置から下側位置へと移動させることが通常であり、これによってスピンドルのワーブ上にいわゆるアンダワインディングをもたらすことができる。このアンダワインディングは、リング紡績機を紡績コップのドッフィング後に再び自動的に紡出開始することができるようにするために必要とされる。リングレールの下降運動中に、幾つかの糸ワインディングがなお回転する紡績コップの表面に形成され、この糸ワインディングは概してバックワインディングとも呼ばれる。
【0004】
コップ表面上に比較的固定的に位置するこのようなバックワインディングは、リング紡績機から後続の巻取り機への紡績コップの搬送中に著しい利点を有している。なぜならば、たとえば、ひきずり糸(Schleppfaden)の発生の恐れが回避されるからである。しかし、巻取り機の作業部では、コップ表面上に固定的に付着しているこのようなバックワインディングは、不都合である。なぜならば、この領域において、通常は、バックワインディング、ひいては紡績コップの糸端を解除することができないからである。
【0005】
自動的なコップ・巻管搬送システムでは、紡績コップは、搬送手段上で循環する。紡績コップの巻き状態もしくはそれぞれの紡績コップに関するデータは、このようなコップ・巻管搬送システムにおいて、通常は搬送手段または紡績コップ自体において、または搬送手段または紡績コップ自体内の記憶媒体に保存される。読取り装置は、記憶媒体にある情報を読み取ることができ、搬送経路内の分岐部は、対応する搬送区間に紡績コップを進めることを保証する。
【0006】
このような理由から繊維工業において実地では、紡績コップがリング紡績機から巻取り機の作業部への経路上で、まず自動的なコップ・巻管搬送システムの準備装置を通過し、この準備装置内で、それぞれ糸端が紡績コップ表面から解除され、後続の巻返し工程のために、この糸端が巻取り機の作業部の糸処理・ガイド機構にとって容易に取扱い可能であるように、紡績コップにおける待機位置に位置決めされる。
【0007】
したがって、紡績コップを準備する準備装置は、繊維産業において長らく種々異なる実施形態において知られており、数多くの文献において部分的に極めて詳細に記載されている。
【0008】
独国特許出願公開第3602002号明細書によれば、装置は、通過する糸束を解除しかつ切断するために働く切断機構と、ボビンから糸端を解除する、経路に沿って切断機構の近傍に配置された糸端捜索機構と、ボビンのヘッド部分から拾い上げられた糸を巻管の中心開口内に導入する、糸端捜索機構の近傍に配置された、糸端導入機構とを含んでいる。糸端が確実に拾い上げられ、規定された長さの糸端区分が紡績コップの中心開口内に位置決めされているボビンは、搬送経路へとガイドされ、巻取り機へと搬送される。
【0009】
独国特許出願公開第102006050219号明細書には、糸端を解除する糸解除ステーションと、糸端を拾い上げて待機位置に置く糸端拾上げステーションとを含む装置が記載されている。待機は、トップワインディング(上巻)、この場合は先端部ワインディングの形で行われる。つまり、巻管先端部の領域において、予め規定された数の巻条が紡績コップ巻管上に巻かれる。
【0010】
先端部ワインディングの形で糸端を配置する場合に、特に比較的平滑な糸では、準備装置から巻取り部に至るまでの区間においてひきずり糸が発生することが排除されていない一方で、糸長さは、コップ巻管内に置く場合、特に比較的小さなコップでは不十分であることが多い。したがって、独国特許出願公開第4424462号明細書は、先端部ワインディングの形成後のコップの引き続きの回転時に、残りの糸端を自動的に直接にコップ巻管の開口の中心上にもたらし、これにより次いで確実にコップ巻管内に送り込むことができる装置を開示している。
【0011】
公知の全ての準備装置は、常に待機位置における糸もしくは糸端の対応する位置決めを伴うそれぞれ1つの準備形態が実施されることで共通している。つまり、1つの準備装置において、準備すべき各紡績コップでは、紡績コップの糸は中空の巻管の内部に緩く置かれるか、または紡績コップの糸は容易に解除可能に巻管先端部の領域においてトップワインディングとして提供されるか、または紡績コップの糸はトップワインディングとして巻管先端部における続く位置決めによって位置決めされる。
【0012】
紡績コップ上の糸の、その都度1つの待機位置が有利となっている種々異なる巻き状態は、無視されている。1つの巻き状態とは、たとえば、紡績コップ上に存在している糸量であってよい。あるいはまた、たとえば、糸破断後に糸始端を巻取り部においてもはや把持することができないために、または制限値を超える個数の糸欠陥が糸クリヤラにより検出されたために、紡績コップが完全に繰り出されていない場合の巻き状態である。これらの紡績コップは、作業部から搬出され、その情報は記憶媒体に記録される。別の巻き状態は、準備が実施されたにもかかわらず、作業部において糸端が糸処理・ガイド機構によって把持されず、この紡績コップがまだ当初の全糸量を有している紡績コップであってよい。
【0013】
同様に、公知の準備装置は、種々異なるロットの同時の処理にあまり柔軟に対応できない。特定の特性を有する糸にとっては、トップワインディングとして準備されることが有利であるが、別の糸にとっては、巻管先端部内に置かれることがより適している。公知の準備装置において、作製すべきトップワインディングの数は、必要に応じて変更可能ではなく、それぞれの巻き状態に適合可能ではないという点もある。
【0014】
したがって、本発明の第1の態様は、自動的なコップ・巻管搬送システムを備えた巻取り機の作業部における後続の巻返し工程のために紡績コップを準備する方法であって、準備装置内で、糸端を紡績コップから解除し、拾い上げ、かつ待機位置に位置決めし、紡績コップをコップ・巻管搬送システムの搬送手段上で搬送し、紡績コップまたは搬送手段が、記憶媒体を含んでおり、該記憶媒体がそれぞれの紡績コップに関する情報を有している、方法に関する。
【0015】
この方法は、第1のステップにおいて、紡績コップの異なる巻き状態を特定(定義)し、この巻き状態に、糸端のための待機位置を含むそれぞれ1つの準備形態を割り当て、第2のステップにおいて、種々異なる巻き状態を、この巻き状態に割り当てられた準備形態と一緒に制御装置に保存し、第3のステップにおいて、それぞれの紡績コップの巻き状態に関する情報を準備装置において読み出し、第4のステップにおいて、巻き状態に関する読み出された情報を、保存された巻き状態と照らし合わせ(比較し)、第5のステップにおいて、紡績コップを、その巻き状態に割り当てられた準備形態に応じて、管先端部上におけるトップワインディングの作製により、かつ/または管先端部内へ糸を置くことにより、準備することを特徴とする。
【0016】
巻管搬送システムでは、紡績コップは、通常、搬送皿とも呼ばれる搬送手段上に置かれて循環し、紡績コップが準備装置を通過し、糸端が待機位置に確定されて置かれた後に、巻取り機の作業部への搬送区間へと案内される。巻き状態ならびに別のデータを含む、それぞれの紡績コップに関する情報は、記憶媒体に保存される。読取り装置は、記憶媒体に記憶された情報を読み出すことができ、搬送経路上の分岐部が、対応する搬送区間にコップを進めることを保証する。
【0017】
それぞれの紡績コップに関して記憶媒体に記憶されている情報は、たとえば、紡績位置識別またはリング紡績糸の繊度または撚り数のような技術パラメータを含むだけではなく、加工および発生した異常事態に関するデータも含まれている。つまり、たとえば、紡績コップを、巻取り機の作業部において規定通りに巻き返すことができなかった場合、このことは、紡績コップが作業部から排出され、必要に応じて準備装置に再び搬送される前に、記憶媒体に記録される。発明者らは、紡績コップの種々異なる巻き状態もしくはその他の状態に対応した、紡績コップ上の、または紡績コップにおける糸端の待機位置に関する種々異なる準備形態が後続の巻取りプロセスにとって有利であることを認識した。したがって、種々異なる準備形態、特に紡績コップ上の糸端のための種々異なる待機位置が、紡績コップの種々異なる巻き状態に割り当てられ、制御ユニットに保存される。
【0018】
紡績コップが準備装置内に到達すると、記憶媒体から巻き状態が読み取られ、制御装置に保存されている巻き状態と比較される若しくは照らし合わされる。手元の紡績コップの巻き状態と制御装置内に保存されている巻き状態との一致が確認されるや否や、この巻き状態に割り当てられた準備形態が実施され、糸端は、容易に解除可能にトップワインディングとして巻管先端部上に置かれるか、または巻管先端部内に導入されるか、または、巻管先端部におけるトップワインディングとして巻管先端部内への引き続きの導入により準備される。
【0019】
これにより、紡績コップの準備を、必要に応じてかつ柔軟に巻き状態に応じて実施することができる。準備される個別の紡績コップのそれぞれは、その巻き状態に応じて個別に調整され、後続の巻返し工程のために最適に準備される。紡績コップがリング紡績機から直接に準備装置に搬送されるか、または巻取り機の作業部から再び準備装置に搬送されるかにかかわらず、準備形態は、紡績コップの現在の状態もしくは紡績コップの現在の巻き状態に適応されている。従来技術では、紡績コップ上に糸を置くことに関して3つの可能な準備形態のうちの1つの準備形態を実施することが通常であったが、本発明によれば、準備装置に到達する各個別の紡績コップの巻き状態が確認され、この巻き状態とって最適であるように糸が置かれる。
【0020】
本発明によるアプローチにより、たとえば、準備のサイクルスピードまたは巻取り機の作業部において発生する糸屑に関する別の利点が得られる。トップワインディングを敷設することが、巻管先端部に糸を置くよりも時間がかかるという事実を起点として、トップワインディングの敷設は、常に準備のサイクル出力損失をもたらす。つまり、糸が、各紡績コップにトップワインディングとして置かれた場合、糸が全ての紡績コップにおいて巻管先端部に挿入される場合に比べて、同じ時間内でより少ない紡績コップしか準備できないことになる。さらに、トップワインディングは、作業部においてより多くの糸屑を引き起こす。なぜならば、糸端を再び解除し(即ち解きほぐし)、トップワインディングとして置かれた糸層を吸い込み、切断した後で、糸を継いで巻き返すことができるからである。
【0021】
紡績コップ上での糸の待機位置に関する準備形態が必要に応じて実施され、後続の巻返し工程にとって有利な場合にのみ、単独でトップワインディングが実施されるか、または巻管先端部内へ糸を置くことと組み合わせてトップワインディングが実施されるので、全ての紡績コップにおいてトップワインディングが作製される準備と比べて、準備時間が全体的に平均的により短く、糸屑が減じられる。それにもかかわらず、必要な場合には、トップワインディングの利点を利用することができる。
【0022】
1つの有利な構成では、トップワインディングの作製時に、トップワインディングの数は、準備形態の一部となっている。
【0023】
トップワインディングの所望の数は、基本的に予め設定可能である。しかし、設定された数のトップワインディングを置くために、存在する糸が少な過ぎることがある。この場合、トップワインディングの巻成時の最後のほうでは糸がもはや存在せず、これにより準備装置において糸ブレーキによる糸の位置固定がもはや生じないことが起こってしまう。最悪の場合、これにより全てのトップワインディングが既に準備中にサクション装置により吸い込まれてしまい、これにより最終的に確定されて準備された端部が紡績コップ上に残っていないことになる。このような紡績コップでは、作業部において、通常、糸端を糸処理・ガイド機構によって捉えることができず、紡績コップは、繰り出されることなしに排出される。このような紡績コップが改めて準備装置内に到達し、この情報が読取り装置によって読み取られると、新たなトップワインディングを減じられた数で作製することができ、この紡績コップは、後に作業部において規定通りに処理することができる。
【0024】
好適には、巻き状態を表す1つの特徴は、紡績コップ上にある糸量である。
【0025】
紡績コップ上に存在する糸量に応じて、種々異なる準備形態が有利となり得る。紡績コップ上に比較的少ない糸しか存在していない場合、たとえば、糸が管先端部内にもたらされるのではなく、トップワインディングとして管先端部上に置かれていると、より有利である。なぜならば、少量である糸は通常、紡績コップの巻管上の下側領域に配置されており、巻管先端部から糸巻成部に至るまでの、糸が巻管上に緩く置かれている間隔が比較的長いからである。これにより、糸端が引き続きの搬送時に制御されずに巻管先端部から引き出され、コップ・巻管搬送システムにひきずり糸として引っかかることが比較的容易に生じてしまう。これに比べて、より多くの糸量を有する満管の紡績コップは、巻管先端部内に糸を置くことにより、後続の作業部において最適に糸を把持するために準備される。この場合、巻管先端部と糸巻き部との間の距離が比較的短いので、糸が紡績コップの巻管上に緩く配置されている自由な面積はより小さくなる。
【0026】
この場合、紡績機において通常よりも少ない糸量を有する紡績コップが製造されるか、または完全に繰り出されていない紡績コップが再び巻取り機の作業部から排出され、新たに準備のために提供されることも十分に可能である。
【0027】
有利には、巻き状態を表す1つの特徴は、巻取り機の作業部の紡績コップの、糸を把持することができずに戻された回数である。
【0028】
準備された糸が作業部の糸処理・ガイド機構によって把持されず、したがって巻返しプロセスが実施されなかった場合、このような情報も記憶媒体に記憶される。紡績コップが1つの準備形態で準備され、作業部において糸を把持するための予め規定された回数の試行が失敗した場合、後続の準備を別の準備形態で行うことができる。たとえば、巻管先端部内に糸を置くことにより紡績コップを準備し、作業部において糸を把持する試行が3回失敗した場合、後続の準備は、トップワインディングの作製により行うことができる。これにより、必要に応じて自動的な準備形態の適合を実施することができる。代替的な準備形態が行われるまでに実施される、糸の拾上げが失敗した試行の回数は、個別に設定可能である。
【0029】
特に、巻き状態を表す1つの特徴は、巻取り機の作業部から排出された、完全に繰り出されていない紡績コップである。
【0030】
たとえば、糸始端部を巻取り箇所における糸破断後に把持することができなかったために、紡績コップが完全に繰り出されていない場合、この情報は記憶媒体上に記録され、紡績コップが作業部から搬出される。このような紡績コップが再び準備装置内に到達すると、この情報が読み出され、紡績コップはその巻き状態に割り当てられた準備形態に対応して準備される。
【0031】
1つの有利な構成では、巻き状態を表す1つの特徴が、所属するロットである。
【0032】
種々異なるロットのためには、種々異なる準備形態、特に紡績コップ上で種々異なって糸を置くことが、巻取り機の作業部の糸処理・ガイド機構による糸の把持のために有利となり得る。たとえば、平滑な糸は、巻管先端部内に糸を挿入することにより準備したほうがよいことが多い。なぜなら、トップワインディングにより準備した場合、糸が、準備装置から作業部への搬送中に紡績コップから解け、搬送路に引っかかることがあるからである。これに対して、特に毛足の長い糸は、概して、トップワインディングとして巻管先端部に置かれた場合、良好な付着性を有しており、搬送中に解ける恐れは少ない。しかし、製造された糸の、たとえば撚りまたは繊度のような別のパラメータまたは技術的な特性も、最適な準備形態に影響を与えることがある。
【0033】
別の1つの代替的な構成では、紡績コップの準備形態が、それぞれの記憶媒体に記憶される。
【0034】
準備装置が、それぞれの紡績コップの巻き状態に関する情報を読み出す読取り装置だけでなく、書込み装置も含んでいる場合、その都度実施された準備形態、特に、どの待機位置に糸端部が準備されたか、もしくはトップワインディングが何回巻かれたかも、紡績コップに関連する記憶媒体に保存することができる。このことは、特に製造プロセス全体の完全なトレーサビリティに関して、特に有利である。
【0035】
したがって、本発明の第2の態様は、自動的なコップ・巻管搬送システムを備えた巻取り機の作業部における後続の巻返し工程のために紡績コップを準備する準備装置であって準備装置内で、糸端を紡績コップから解除し、拾い上げ、かつ待機位置に位置決めし、紡績コップが、コップ・巻管搬送システムの搬送手段上で搬送され、紡績コップまたは搬送手段が、記憶媒体を含んでおり、該記憶媒体がそれぞれの紡績コップに関する情報を有している、装置に関する。
【0036】
提案された準備装置は以下のことにより優れている。すなわち、制御装置は、紡績コップの種々異なる巻き状態を保存し、それぞれの巻き状態に、糸端のための待機位置を含む紡績コップのそれぞれの準備形態を割り当てることができるように、構成されており、所定位置に配置された紡績コップの、前記記憶媒体に記憶された巻き状態に関する情報を読み出し、制御装置に伝達する少なくとも1つの読取り装置が設けられており、制御装置内の巻き状態に関する情報と、伝達されて保存された巻き状態との照らし合わせ(比較)を行い、そして、制御装置は、それぞれの巻き状態に割り当てられた準備形態を準備装置において実現させる。
【0037】
これにより、準備装置は、紡績コップの種々異なる巻き状態に対して、必要に応じて柔軟に種々異なる準備形態を対応させることができる。つまり、紡績コップの巻き状態もしくは状況に応じて、紡績コップの巻き状態もしくは状況に合わせた準備形態を実施することができる。準備形態には、巻取り機の作業部の糸処理・ガイド機構のための紡績コップ上の糸の待機位置、および/または、巻管先端部に置かれるトップワインディングの数を含んでいてよい。巻き状態とは、本発明の枠内では、たとえば、紡績コップ上の糸の糸量または所属のロットであると理解される。巻き状態とは、同様に、たとえば、糸の把持の失敗に基づいて繰り出されることなしに、つまり当初の全糸量が存在している紡績コップの状態、または作業部における糸破断後に糸の始端部をもはや把持することができず、したがって紡績コップが完全に繰り出されていないような紡績コップの状態であってもよい。この情報は、記憶媒体に保存され、それぞれの紡績コップは作業部から排出され、場合によっては再び準備装置へと搬送される。
【0038】
巻き状態および準備形態を保存し、かつ記憶媒体から読み出されたそれぞれの紡績コップの巻き状態に関する情報と、この制御装置に保存されたデータ(巻き状態)との照らし合わせ(比較)を実施する制御装置は、本発明の枠内では、たとえば、作業部コンピュータまたは中央制御ユニットであってよい。同様に、準備装置の独立したコンピュータユニットも考えられるだろう。本発明にとって重要であるのは、このために対応して構成された制御ユニットが使用されることだけである。
【0039】
先行技術では準備装置が全ての紡績コップに対して1つの準備形態を実施しているのに対して、本発明による準備装置は、3つの準備形態のいずれかに柔軟に変更することができる。常にトップワインディングを作製する準備装置と比較して、本発明に係る準備装置は、より効率的であり、より高いサイクル出力を有している。なぜならば、トップワインディングを敷設することは、巻管先端部内に糸を置くよりも基本的に時間がかかるからである。それにもかかわらず、必要かつ有意であれば、トップワインディングを作製することができる。他方で、別の全ての紡績コップにおいて、糸は巻管先端部内に置かれる。
【0040】
別の利点は、常にトップワインディングを作製する準備装置に比べて、糸屑が減じられることである。トップワインディングは、糸端が、作業部に存在している糸端に接続され、巻取り工程が開始される前に、作業部において糸処理・ガイド機構によって把持され繰り出され、吸引され、切断される。巻き状態が、トップワインディングとして糸を置くことを必要とする紡績コップのみをトップワインディングによって準備する場合、発生する糸屑を全体的に減じることができる。しかし、それにもかかわらず、必要な場合には、トップワインディングを作製することができる。
【0041】
有利には、読取り装置に対して付加的に、書込み装置が設けられており、この書込み装置は、紡績コップの準備の実施後に、準備形態と、場合によってはトップワインディングの数とを記憶媒体に保存する。
【0042】
これにより、実施されたそれぞれの準備形態を記憶媒体上に保存し、後に追跡することができる。このことは、インダストリー4.0の意味での製品の完全な追跡に関して、特に有利である。
【0043】
したがって、本発明の第3の態様は、自動的なコップ・巻管搬送システムを備えた巻取り機の作業部における後続の巻返し工程のために紡績コップを準備する準備装置を備えた巻取り機であって、準備装置内で、糸端を紡績コップから解除し、拾い上げ、かつ待機位置に位置決めし、紡績コップをコップ・巻管搬送システムの搬送手段上で搬送し、紡績コップまたは搬送手段が、記憶媒体を含んでおり、該記憶媒体がそれぞれの紡績コップに関する情報を有している、巻取り機に関する。
【0044】
巻取り機は、準備装置が上述した実施形態のいずれかに基づいて構成されていることにより優れている。
【0045】
これにより、これに関連して説明した利点および効果を達成することができる。
【0046】
本発明の別の特徴および利点は、本発明の好適な実施例の以下の説明に基づき、本発明にとって重要な詳細を示す図につき、かつ特許請求の範囲に基づいて明らかになる。個々の特徴は、本発明の好適な実施形態において、それぞれ個別でも、または任意の組み合わせにおいても実施することができる。
【0047】
本発明の好適な実施例を、以下に添付の図につきより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】リング紡績機と巻取り機との接続部を示す概略図であり、巻取り機のコップ・巻管搬送システムの領域において、紡績コップのための本発明に係る準備装置が設置されている。
【0049】
図1には、リング紡績機1と巻取り機2との接続部のための実施例が概略的に平面図で図示されている。
【0050】
自体公知であり、ゆえに単に概略的に矢印で示唆しているように、両繊維機械の搬送システムは、接続システム3を介して接続されている。リング紡績機1の領域に設置された搬送システムについては、一方では当該システムが公知であり、他方では本出願の対象ではないので、詳細に説明しない。
【0051】
巻取り機2の領域に配置されたコップ・巻管搬送システム5は、自体通常のように、種々異なる搬送区分を有しており、図示された実施例では、たとえばコップ供給区間6と、巻管戻し区間7と、可逆的に駆動可能な蓄え区間8と、作業部4に通じている横方向搬送区間9とを有している。横方向搬送区間9は、その待機位置の領域においてそれぞれセンサ装置16を備えていてよい。これらのセンサ装置16は、信号線路17を介して巻取り機2の制御装置18に接続されている。
【0052】
コップ供給区間6にはさらに、いわゆる準備区間10が接続されている。この準備区間10は、端部側において、分岐区間11を介して蓄え区間8に接続されているか、もしくは再びコップ供給区間6に接続されている。準備区間10の領域には、紡績コップのための準備装置12が配置されている。
【0053】
この準備装置12において、リング紡績機1において製造された紡績コップは、この紡績コップを次いで巻取り機2の作業部4において処理することができるように、つまり巻き返すことができるように、準備される。準備装置12は、たとえば、独国特許出願公開第4424462号明細書に記載のように構成されていてよい。本発明にとって重要であるのは、準備装置12が、糸を、待機位置において巻管上のトップワインディング(上巻)として準備するか、待機位置において巻管先端部内への糸として準備するか、もしくは両準備形態の組合わせとして準備することができることであり、これにより、準備装置12が、最終的に3つの準備形態を実施することができることだけである。
【0054】
準備装置12は、信号・制御線路15を介して、巻取り機2の制御装置18に接続されている。準備装置12は、読取り装置13を含んでおり、この読取り装置13により、記憶媒体上に保存された、それぞれの紡績コップに関するデータおよび特に巻き状態に関するデータを読み出すことができる。これらのデータは制御装置18に伝達され、現在読み出された巻き状態と、制御装置18内に保存された巻き状態との照らし合わせ(比較)が行われる。
【0055】
たとえば、糸の始端部を糸破断後に作業部4においてもはや把持することができなかったために、完全に繰り出されていない巻き状態の紡績コップが準備装置12内に到着し、紡績コップ上に残っている糸量が予め規定された制限値を下回った場合、この巻き状態に割り当てられた準備形態が実施され、糸はトップワインディングで巻管先端部に置かれる。次いで、紡績コップは、再び巻取り機2の作業部4に搬送され、作業部4において完全に繰り出される。
【0056】
準備装置12は、任意に書込み装置14も含んでいてよく、この書込み装置14によって、実施された準備形態、特に、糸がどの待機位置で紡績コップに置かれ、ひいては準備されたかを記憶することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 リング紡績機
2 巻取り機
3 接続システム
4 作業部
5 コップ・巻管搬送システム
6 コップ供給区間
7 巻管戻し区間
8 蓄え区間
9 横方向搬送区間
10 準備区間
11 分岐区間
12 準備装置
13 読取り装置
14 書込み装置
15 信号・制御線路
16 センサ装置
17 信号線路
18 制御装置
【外国語明細書】