(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084561
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】マグネトロン
(51)【国際特許分類】
H01J 23/20 20060101AFI20220531BHJP
【FI】
H01J23/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021191070
(22)【出願日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】2018625.0
(32)【優先日】2020-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】320003301
【氏名又は名称】テレダイン・ユーケイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100100479
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 三喜夫
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン,ロバート チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】クレイ,ダニエル ジェイムズ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】マグネトロン用の共振空洞の構造を提供する。
【解決手段】アノード101は、カソード102を収容するための円筒形シェル103と、複数のベーン104とを備える。各ベーン104は、シェル103の中心に向かって半径方向及び長手方向軸と平行方向に連続的に延びる長さを有する。複数の環状ストラップリング113は、空洞共振器の共振モードスペクトルを設定し、長手方向の間隔で、シェル103の長手方向軸と同心状に配置される。各ベーン104は、カソード102に面する内側ベーンセグメントと、内側ベーンセグメントに接続された外側ベーンセグメントとを備える。複数のベーン104は、個々の内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間に複数のストラップリング113を支持するように構成され、各ベーン104は交互配列のストラップリング113に連結する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネトロン用のアノードであって、
マグネトロンのカソードを収容するためのシェルの中心、長手方向軸を定義する円筒形シェルと、
シェルの周りに角度間隔で配置された複数のベーンであって、各ベーンとその隣接ベーンとの間の角距離が、マグネトロンの空洞共振器を提供するように構成され、各ベーンは、シェルからシェルの中心に向かって半径方向内向きに延びる幅を有し、シェルの長手方向軸と平行に長手方向に連続的に延びる長さを有する、複数のベーンと、
空洞共振器の共振モードスペクトルを設定するための複数の環状ストラップリングであって、長手方向の間隔でシェルの長手方向軸と同心状に配置される複数の環状ストラップリングとを備え、
各ベーンは、カソードに面するように配置された内側ベーンセグメントと、内側ベーンセグメントに接続され、内側ベーンセグメントとシェルの間に介在した個々の外側ベーンセグメントとを備え、
複数のベーンは、個々の内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間に複数のストラップリングを支持するように構成され、各ベーンは、交互配列のストラップリングに連結し、各ストラップリングは、交互配列のベーンに連結している、アノード。
【請求項2】
各交互配列のベーンは、同じストラップリングによって電気的に接続されるように同じストラップリングを支持するように配置される、請求項1に記載のアノード。
【請求項3】
内側ベーンセグメントは、一体的に形成される、請求項1または2に記載のアノード。
【請求項4】
外側ベーンセグメントは、一体的に形成される、請求項1~3のいずれか1つに記載のアノード。
【請求項5】
各ベーンの長さは、共振器空洞の長さに等しい、請求項1~4のいずれか1つに記載のアノード。
【請求項6】
複数のベーンは、ベーンの深さを通って画定される複数の孔を含み、孔は、ストラップリングがそれを通過するためであり、複数の孔は、第1孔および第2孔を含み、
第1孔は、ベーンが、それを通過するストラップリングと接続するためであり、各第1孔は、それを通過する個々のストラップリングの断面積に寸法設定された断面積を有し、
第2孔は、第2孔を通過するストラップリングの断面積よりも大きくなるように寸法設定され、使用時に個々のベーンは、第2孔に配置されたストラップリングと接続するように構成されず、
複数のベーンは、角度的に交互配列する第1ベーンおよび第2ベーンを含み、
各第1ベーンは、その個々のベーンセグメントに面する内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントの少なくとも1つの長手方向表面内の第1溝パターンによって定義されるように、各第1ベーンの長さに沿って長手方向に交互配列する複数の第1孔および第2孔を含み、各第1ベーンの第1溝パターンは、他の第1ベーンの第1溝パターンと角度的に整列しており、
各第2ベーンは、その個々のベーンセグメントに面する内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントの少なくとも1つの長手方向表面内の第2溝パターンによって定義されるように、各第2ベーンの長さに沿って長手方向に交互配列する複数の第1孔および第2孔を含み、各第2ベーンの第2溝パターンは、他の第2ベーンの第2溝パターンと角度的に整列しており、
第2ベーンの第1孔は、第1ベーンの第2孔と角度的に整列しており、第1ベーンの第1孔は、第2ベーンの第2孔と角度的に整列している、請求項1~5のいずれか1つに記載アノード。
【請求項7】
各内側ベーンセグメントの溝パターンは、その個々の外側ベーンセグメントの溝パターンと対称である、請求項6に記載アノード。
【請求項8】
第1および第2溝パターンの各々は、各ベーンセグメントに城郭状のプロファイルを形成する交互配列の溝および突起を含み、
各突起は、溝よりも小さい凹部を画定し、
溝パターンの溝は、第2孔の断面プロファイルの少なくとも半分を画定し、突起の凹部は、第1孔の断面プロファイルの少なくとも半分を画定する、請求項6または7に記載アノード。
【請求項9】
各内側ベーンセグメントは、第1および第2溝パターンの1つによって画定される長手方向表面とは反対側の他の長手方向表面を有し、
該他の長手方向表面は、平坦で、滑らかなプロファイルを有する、請求項6~8のいずれか1つに記載アノード。
【請求項10】
各外側ベーンセグメントは、第1および第2溝パターンの1つによって画定される長手方向表面とは反対側の他の長手方向表面を有し、
該他の長手方向表面は、シェルの内面に取り付けられる、請求項6~9のいずれか1つに記載アノード。
【請求項11】
各外側ベーンセグメントの他の長手方向表面は、平坦で、滑らかなプロファイルを有する、請求項10に記載アノード。
【請求項12】
シェルの内面は、シェルの長さに渡って長手方向に延びる、角度的に間隔をあけて配置された複数の溝を含み、
各溝は、個々の外側ベーンセグメントを着座させるように寸法設定される、請求項1~11のいずれか1つに記載アノード。
【請求項13】
シェルの内面は、滑らかなプロファイルを有する、請求項1~11のいずれか1つに記載アノード。
【請求項14】
内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントは、内側ベーンセグメントとそれらの個々の外側ベーンセグメントとの間にギャップが設けられるように配置される、請求項1~13のいずれか1つに記載アノード。
【請求項15】
各内側ベーンセグメントをその個々の外側ベーンセグメントに接続するための少なくとも1つのタグをさらに含み、
該少なくとも1つのタグは、個々のベーンの長手方向端部に配置される、請求項1~14のいずれか1つに記載アノード。
【請求項16】
内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントは、同じ材料で形成される、請求項1~15のいずれか1つに記載アノード。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1つに定義される、マグネトロンのアノード用のベーン。
【請求項18】
請求項1~16のいずれか1つに定義されるアノードを備えるマグネトロン。
【請求項19】
マグネトロン用のアノードを製造する方法であって、
マグネトロンのカソードを収容するためのシェルの中心、長手方向軸を定義する円筒形シェルを用意するステップと、
複数のベーンであって、各ベーンは、シェルからシェルの中心に向かって半径方向内向きに延びる幅を有し、シェルの長手方向軸と平行に長手方向に連続的に延びる長さを有する、複数のベーンを用意するステップと、
マグネトロンの空洞共振器の共振モードスペクトルを設定するための複数の環状ストラップリングを用意するステップと、
ベーンおよびストラップリングをシェル内に配置するステップと、を含み、
ベーンは、シェルの周りに角度間隔で配置され、各ベーンとその隣接ベーンとの間の角距離が、マグネトロンの空洞共振器を提供するためであり、
ストラップリングは、長手方向の間隔で、シェルの長手方向軸と同心状に配置され、
各ベーンは、カソードに面するように配置された内側ベーンセグメントと、内側ベーンセグメントに接続され、内側ベーンセグメントとシェルの間に介在した個々の外側ベーンセグメントとを備え、
複数のベーンは、個々の内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間に複数のストラップリングを支持するように構成され、そのため各ベーンは、交互配列のストラップリングに連結し、各ストラップリングは、交互配列のベーンに連結している、方法。
【請求項20】
複数のベーンを用意するステップは、
・第1グループの金属直方体に、その深さを通って第1孔パターンを形成するステップであって、該第1孔パターンは、第1グループの各金属直方体の長さに沿って交互配列する複数の第1孔および第2孔を含み、各第1孔は、マグネトロン用のストラップリングの断面積に寸法設定された断面積を有し、各第2孔は、マグネトロン用のストラップリングの断面積よりも大きくなるように寸法設定された断面積を有し、そのためストラップリングは、金属ブロックと接触することなく第2孔を通過できる、ステップと、
・第2グループの金属直方体に、その深さを通って第2孔パターンを形成するステップであって、該第2孔パターンは、第2グループの各金属直方体の長さに沿って交互配列する複数の第1孔および第2孔を含み、ミリング加工された直方体の第1グループおよび第2グループがシェルの周りに角度的に整列した場合、第1グループの第1孔は、第2グループの第2孔と整列し、第1グループの第2孔は、第2グループの第1孔と整列する、ステップと、
・各金属直方体を長手方向に2つの細長いセグメントに切削し、内側ベーンセグメントおよび個々の外側ベーンセグメントを含むベーンを用意するステップであって、切削は、第1孔および第2孔を通って、内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントの少なくとも1つの長手方向表面での溝パターンを定義する、ステップとによって、複数のベーンを形成することを含み、
複数のベーンは、シェルの周りに配置された結果、
第1グループのベーンは、第2グループのベーンと交互配列し、
第1孔および第2孔は、各交互配列のベーンセグメントについて角度的に整列し、
第1グループの第1孔は、第2グループの第2孔と角度的に整列し、
第1グループの第2孔は、第2グループの第1孔と角度的に整列する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
交互配列のベーンを電気的に接続するために、個々の第1孔に、内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間にストラップリングを配置するステップをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
内側ベーンセグメントとそれらの個々の外側ベーンセグメントとの間にギャップが設けられるように、内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントを配置するステップをさらに含む、請求項19~21のいずれか1つに記載の方法。
【請求項23】
各外側ベーンセグメントをその個々の内側ベーンセグメントに電気的に接続するステップをさらに含む、請求項19~22のいずれか1つに記載の方法。
【請求項24】
電気的接続は、内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間のギャップを橋渡しするために、ベーンの端部に配置された少なくとも1つのタグを使用して行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
シェルを用意するステップは、金属シリンダーを用意するステップと、外側ベーンを着座させるために、角度間隔でシリンダーの内壁に偶数個の細長い溝を形成するステップとを含む、請求項19~24のいずれか1つに記載の方法。
【請求項26】
シェルを用意するステップは、金属シリンダーを用意するステップと、シリンダーの内壁を平滑化するステップとを含む、請求項19~24のいずれか1つに記載の方法。
【請求項27】
配置されたストラップリングおよびベーンを一緒にろう付けするステップをさらに含む、請求項19~26のいずれか1つに記載の方法。
【請求項28】
ベーンをシェルの内壁にろう付けするステップをさらに含む、請求項19~27のいずれか1つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マグネトロン用のアノード、そのベーン、マグネトロンおよびアノードを製造する方法に関する。装置および方法は、特定の用途を見つけてもよいが、限定的ではなく、例えば、粒子加速器での使用のためのマイクロ波発生の分野である。
【背景技術】
【0002】
マグネトロンが、種々の異なる目的で無線周波数(RF)エネルギー(例えば、マイクロ波など)を発生するために使用できる。例えば、マグネトロンによって発生したRFエネルギーは、粒子加速器(例えば、リニア加速器など)に提供され、帯電粒子、例えば、電子などの加速のための加速電磁界を確立するために使用される。いくつかの用途では、加速された電子がターゲット材料(例えば、タングステンなど)に入射するように方向付けられ、これにより電子のエネルギーの一部がターゲット材料からX線として放出される。
【0003】
発生したX線は、いくつかの用途では、医療イメージングおよび/または治療の目的のために使用できる。例えば、X線は、患者の身体の全部または一部に入射するように方向付けでき、1つ以上のセンサは、患者の身体によって透過および/または反射したX線を検出するように位置決めできる。検出されたX線を使用して、患者の身体の全部または一部の画像を形成でき、これにより身体の内部構造の詳細を解像可能になる。X線は、治療目的のために患者の身体の特定の部分に入射するように追加または代替として方向付けできる。例えば、X線は、体内で検出された腫瘍に入射するように方向付けして、腫瘍内の癌細胞を破壊することによって腫瘍を治療することができる。
【0004】
代替として、加速された電子は、治療目的のために患者の身体の特定の部分(例えば、腫瘍など)に入射するように方向付けできる。例えば、粒子加速器(例えば、リニア加速器など)から出力された電子は、コリメートされ、患者の身体の一部に入射するように方向付けできる。
【0005】
更なる用途では、粒子加速器を使用して、非医療目的のX線を発生できる。例えば、発生したX線は、撮像対象の非医療ターゲットに入射するように方向付けできる。1つ以上のセンサが、撮像ターゲットから透過および/または反射したX線を検出するように位置決めできる。検出されたX線を使用して、撮像ターゲットの内部構造を解像できる画像を形成できる。X線イメージングは、セキュリティ関連の用途で特定の使用を見つけることができ、別の方法で視界から隠されている物品を解像可能であるためである。例えば、X線イメージングを使用して、貨物が保管されているコンテナの外側から貨物を撮像できる。X線画像は、貨物の内容を識別するために、隠された貨物の一部を形成する様々な物体を解像可能である。
【0006】
マグネトロンのいくつかの用途を上述したが、そこでは発生したRFエネルギーを使用して、電子などの荷電粒子を加速している。しかしながら、マグネトロンは、他の用途、例えば、レーダーでの使用のためのRFエネルギーの発生など見つけることができる。
【0007】
この文脈において、本開示が考案された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1態様によれば、マグネトロン用のアノードが提供され、該アノードは、
マグネトロンのカソードを収容するためのシェルの中心、長手方向軸を定義する円筒形シェルと、
シェルの周りに角度間隔で配置された複数のベーン(羽根)であって、各ベーンとその隣接ベーンとの間の角距離(angular separation)が、マグネトロンの空洞共振器を提供するように構成され、各ベーンは、シェルからシェルの中心に向かって半径方向内向きに延びる幅を有し、シェルの長手方向軸と平行に長手方向に連続的に延びる長さを有する、複数のベーンと、
空洞共振器の共振モードスペクトルを設定するための複数の環状ストラップリングであって、長手方向の間隔で、シェルの長手方向軸と同心状に配置される、複数の環状ストラップリングとを備え、
各ベーンは、カソードに面するように配置された内側ベーンセグメントと、内側ベーンセグメントに接続され、内側ベーンセグメントとシェルの間に介在した個々の外側ベーンセグメントとを備え、
複数のベーンは、個々の内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間に複数のストラップリングを支持するように構成され、各ベーンは、交互配列のストラップリングに連結し、各ストラップリングは、交互配列のベーンに連結している。
【0009】
ここに説明したアノードにおいて、各ベーンは、2つの部分、即ち、内側ベーンセグメントおよびその個々の外側ベーンセグメントで提供され、ストラップリングが両者間に配置される。こうしてストラップリングは、ベーンを通過し、ベーンによって包囲され、共振器空洞内だけで露出するようになる。これにより、アノードベーンの両端に露出したストラップリングを有するマグネトロンと比較して、上記のアノードを含むマグネトロンの安定性を改善する。さらに、ベーンセグメントは、個々の内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間に配置されることによって、個々のベーンによって充分かつ安定に支持されるだけでなく、ここで説明するアノードは、ストラップの設計およびベーンに対するそれらの配置の点でより柔軟性が提供される。このことは、モード分離とRF電界分布のトレードオフは、先行技術のマグネトロンと比較して、適切なストラップ設計によってより容易に満足できることを意味する。さらに、ここで説明するアノードは、更なるマグネトロン性能改善を促進する。これは、カソードに面するベーンの一部が堅固で連続的なプロファイル(輪郭)を提供するためである。こうした連続的なプロファイルを提供することによって、ベーンに沿ってギャップが存在しなくなるため、先行技術と比較して、より低いRF損失およびより滑らかなRF電界分布をもたらす。従って、ギャップ(間隙)が存在しないこうした連続的なプロファイルは、パワー出力を増加させることができる。
【0010】
各交互配列のベーンは、同じストラップリングによって電気的に接続されるように同じストラップリングを支持するように配置されてもよい。
【0011】
内側ベーンセグメントは、一体的に形成されてもよい。外側ベーンセグメントは、一体的に形成されてもよい。各ベーンの長さは、共振器空洞の長さに等しくてもよい。こうして内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントは、連続的なプロファイルで形成でき、これにより動作時のマグネトロンによるパワー出力を向上させる。
【0012】
複数のベーンは、ベーンの深さを通って画定される複数の孔を含み、孔は、ストラップリングがそれを通過するためであり、複数の孔は、第1孔および第2孔を含んでもよく、
第1孔は、ベーンが、それを通過するストラップリングと接続するためでもよく、各第1孔は、それを通過する個々のストラップリングの断面積に寸法設定された断面積を有しもよく、
第2孔は、第2孔を通過するストラップリングの断面積よりも大きくなるように寸法設定されてもよく、使用時に個々のベーンは、第2孔に配置されたストラップリングと接続するように構成されなくてもよく、
複数のベーンは、角度的に交互配列する第1ベーンおよび第2ベーンを含んでもよく、
各第1ベーンは、その個々のベーンセグメントに面する内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントの少なくとも1つの長手方向表面内の第1溝パターンによって定義されるように、各第1ベーンの長さに沿って長手方向に交互配列する複数の第1孔および第2孔を含んでもよく、各第1ベーンの第1溝パターンは、他の第1ベーンの第1溝パターンと角度的に整列してもよく、
各第2ベーンは、その個々のベーンセグメントに面する内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントの少なくとも1つの長手方向表面内の第2溝パターンによって定義されるように、各第2ベーンの長さに沿って長手方向に交互配列する複数の第1孔および第2孔を含んでもよく、各第2ベーンの第2溝パターンは、他の第2ベーンの第2溝パターンと角度的に整列してもよく、
第2ベーンの第1孔は、第1ベーンの第2孔と角度的に整列してもよく、第1ベーンの第1孔は、第2ベーンの第2孔と角度的に整列してもよい。
従って、ストラップリングは、第1孔を通過するときに電気的接触によって個々のベーンに連結するが、第2孔を接触なしで通過することによって他のベーンとは連結せず、それにより交互配置されたベーンをコンパクトかつ効率的に接続する。
【0013】
第1溝パターンは、内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントのうちの一方だけに形成されてもよい。例えば、第1溝パターンが、内側ベーンセグメントに形成されてもよく、外側ベーンセグメントの対応する長手方向表面は、実質的に平坦な表面を備えてもよく、その逆も同様である。
【0014】
各内側ベーンセグメントの溝パターンは、その個々の外側ベーンセグメントの溝パターンと対称でもよい。従って、ストラップリングは、内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントによって等しく支持されてもよい。
【0015】
第1および第2溝パターンの各々は、少なくとも1つのベーンセグメントに城郭状のプロファイルを形成する交互配列の溝および突起を含んでもよく、
各突起は、溝よりも小さい凹部を画定してもよく、
溝パターンの溝は、第2孔の断面プロファイルの少なくとも半分を画定してもよく、突起の凹部は、第1孔の断面プロファイルの少なくとも半分を画定してもよい。
他の例では、突起は、くぼみを含まなくてもよいが、ストラップリングに接触するための実質的に平坦な長手方向表面で形成してもよい。こうした例では、ストラップリングが、内側ベーンセグメントおよび/または外側ベーンセグメント上の実質的に平坦な表面にろう付けしてもよい。第1孔は、少なくとも部分的に、内側ベーンセグメントおよび/または外側ベーンセグメント上の実質的に平坦な長手方向表面によって形成してもよい。実質的に平坦な表面は、溝パターンの一部を形成する突起の長手方向表面を形成してもよい。
【0016】
各内側ベーンセグメントは、第1および第2溝パターンの1つによって画定される長手方向表面とは反対側の他の長手方向表面を有してもよく、
該他の長手方向表面は、平坦で、滑らかなプロファイルを有してもよい。
このことは、好都合には、カソードに面する内側ベーンセグメントの長さに渡ってギャップが存在しないことを意味し、これにより改善された電気的特性を提供する。
【0017】
各外側ベーンセグメントは、第1および第2溝パターンの1つによって画定される長手方向表面とは反対側の他の長手方向表面を有してもよく、
該他の長手方向表面は、シェルの内面に取り付けられてもよい。
各外側ベーンセグメントの他の長手方向表面は、平坦で、滑らかなプロファイルを有してもよい。
外側ベーンセグメントに滑らかなプロファイルを設けることにより、製造の効率を改善でき、理由は、外側ベーンセグメントがシェルに効率的に接続できるためである。
【0018】
シェルの内面は、シェルの長さに渡って長手方向に延びる、角度的に間隔をあけて配置された複数の溝を含んでもよく、
各溝は、個々の外側ベーンセグメントを着座させるように寸法設定される。
このことは製造を改善でき、シェルの内壁に画定された溝は、アノードを組み立てるときに、外側ベーンセグメントを配置すべき場所の指示を提供できる。
【0019】
シェルの内面は、滑らかなプロファイルを有してもよい。これは、製造工程の数を低減でき、それによりその効率および費用効果を改善できる。
【0020】
内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間にギャップが設けられてもよい。内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントは、互いに直接接触しなくてもよい。即ち、いったんアノードが組み立てられると、内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントは、互いに直接接触しないように配置できる。内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間の電気的および/または機械的接続は、内側および外側ベーンセグメントの両方とそれらの個々の環状ストラップリングとの間の直接接触を介して提供できる。例えば、個々の内側および外側ベーンセグメントは両方とも、各交互配列の環状ストラップリングと直接接触してもよい。
【0021】
個々の内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間に物理的ギャップを設けることにより、ベーンセグメントと環状ストラップリングとの間に明確に定義された接続が設けられることを確保する。これによりベーンセグメントとストラップリングとの間に適切な電気的接続が設けられることを確保する。こうした配置により、アノードによって支持される共振モードが所望のようになることを確保する。もしベーンセグメントとストラップリングの間に適切な電気的接続が設けられなければ、アノードによって支持される共振モードのスペクトルが損なわれる可能性がある。例えば、内側および外側ベーンセグメントが互いに直接接触して設置される配置では(内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメント間にギャップを設けるのとは対照的に)、ベーンセグメントとストラップリングとの間に適切な電気的接続が達成されることを確保するために、極めて厳しい幾何学的許容誤差が要求されることがある。こうした配置は、実際には達成するのが難しい場合があり、この配置の実際上の制限により、アノードによって支持される共振モードスペクトルを損なう可能性がある。互いに直接接触していない内側ベーンセグメントおよび外側のベーンセグメントを設けて、ベーンセグメントとストラップリングの間に直接の電気的接続を設けることにより、アノードの機械的配置を簡素化でき、アノードの全てのコンポーネント間の適切な電気的接続を確保できる。
【0022】
アノードは、各内側ベーンセグメントをその個々の外側ベーンセグメントに接続するための少なくとも1つのタグをさらに含んでもよい。該少なくとも1つのタグは、個々のベーンの長手方向端部に配置されてもよい。タグは、個々の内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間に電気的および/または機械的接続を提供できる。例えば、個々の内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントは、互いに直接物理的に接触していなくてもよく、これらの間にギャップを配置してもよい。少なくとも1つのタグは、個々の内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間の機械的および/または物理的接続を提供するように、内側ベーンセグメントおよびその個々の外側ベーンセグメントの両方と物理的に接触するように配置してもよい。少なくともいくつかの例では、個々の内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントには、ベーンセグメントをそれらの長手方向端部の各々で一緒に接続するタグを設けてもよい(各外側ベーンセグメントが、少なくとも2つのタグを介してその個々の外側ベーンセグメントに接続されるように)。タグは、低コストでベーンセグメントを一緒に効率的に接続する。上述したように、内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間の追加または代替の機械的および/または電気的接続が、個々の環状ストラップリングとの物理的接触によって提供してもよい。
【0023】
ベーンセグメントの長手方向端部で内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントを電気的に接続するためのベーンタグを設けることにより、マグネトロンの正しい動作を確保できる。内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントが互いに直接接触しない配置では、その長手方向端部で内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間に不連続性が存在することがある。こうした不連続性は、RF電流がたどる複雑な物理的経路をもたらす可能性があり、アノードによって支持される共振周波数の分布を変化させる可能性がある。ベーンタグの適切な配置は、これらの長手方向端部でベーンセグメント間の電気的接続を設けることによって、こうした不連続性を回避できる。
【0024】
内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントは、同じ材料で形成してもよい。従って、ベーンを効率的に形成できる。
【0025】
本開示の第2態様によれば、マグネトロンのアノード用のベーンが提供され、ベーンはここで説明するものである。
【0026】
本開示の第3の態様によれば、ここで説明するようなアノードを備えたマグネトロンが提供される。
【0027】
本開示の第4の態様によれば、マグネトロン用のアノードを製造する方法が提供される。該方法は、マグネトロンのカソードを収容するためのシェルの中心、長手方向軸を定義する円筒形シェルを用意するステップと、
複数のベーン(羽根)であって、各ベーンは、シェルからシェルの中心に向かって半径方向内向きに延びる幅を有し、シェルの長手方向軸と平行に長手方向に連続的に延びる長さを有する、複数のベーンを用意するステップと、
マグネトロンの空洞共振器の共振モードスペクトルを設定するための複数の環状ストラップリングを用意するステップと、
ベーンおよびストラップリングをシェル内に配置するステップと、を含む。
ベーンは、シェルの周りに角度間隔で配置され、各ベーンとその隣接ベーンとの間の角距離(angular separation)が、マグネトロンの空洞共振器を提供するためであり、
ストラップリングは、長手方向の間隔で、シェルの長手方向軸と同心状に配置され、
各ベーンは、カソードに面するように配置された内側ベーンセグメントと、内側ベーンセグメントに接続され、内側ベーンセグメントとシェルの間に介在した個々の外側ベーンセグメントとを備え、
複数のベーンは、個々の内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間に複数のストラップリングを支持するように構成され、各ベーンは、交互配列のストラップリングに連結し、各ストラップリングは、交互配列のベーンに連結している。
【0028】
複数のベーンを用意するステップは、下記ステップによって複数のベーンを形成することを含んでもよい。
・第1グループの金属直方体に、その深さを通って第1孔パターンを形成するステップ。該第1孔パターンは、第1グループの各金属直方体の長さに沿って交互配列する複数の第1孔および第2孔を含む。各第1孔は、マグネトロン用のストラップリングの断面積に寸法設定された断面積を有する。各第2孔は、マグネトロン用のストラップリングの断面積よりも大きくなるように寸法設定された断面積を有し、そのためストラップリングは、金属ブロックと接触することなく第2孔を通過できる。
・第2グループの金属直方体に、その深さを通って第2孔パターンを形成するステップ。該第2孔パターンは、第2グループの各金属直方体の長さに沿って交互配列する複数の第1孔および第2孔を含む。ミリング加工された直方体の第1グループおよび第2グループがシェルの周りに角度的に整列した場合、第1グループの第1孔は、第2グループの第2孔と整列し、第1グループの第2孔は、第2グループの第1孔と整列する。
・各金属直方体を長手方向に2つの細長いセグメントに切削し、内側ベーンセグメントおよび個々の外側ベーンセグメントを含むベーンを用意するステップ。切削は、第1孔および第2孔を通って、内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントの少なくとも1つの長手方向表面での溝パターンを定義する。
複数のベーンは、シェルの周りに配置された結果、
第1グループのベーンは、第2グループのベーンと交互配列し、
第1孔および第2孔は、各交互配列のベーンセグメントについて角度的に整列し、
第1グループの第1孔は、第2グループの第2孔と角度的に整列し、
第1グループの第2孔は、第2グループの第1孔と角度的に整列する。
従って、内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントが同じブロックから形成され、よって個々の第1孔および第2孔を提供するための一致するプロファイルを有するため、該方法は、アノードを効率的かつ高い費用効果で製造するために使用できる。
さらに、内側ベーンセグメントは一体的に形成され、外側ベーンセグメントは一体的に形成され、これによりアノードのベーンセグメントに沿って連続的で滑らかなプロファイルを生じさせ、それによりRF電流のためのより滑らかな経路を提供し、ここで説明するアノードをマグネトロンの性能がさらに改善する。
【0029】
該方法は、交互配列のベーンを電気的に接続するために、個々の第1孔に、内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間にストラップリングを配置するステップをさらに含んでもよい。
【0030】
該方法は、内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間にギャップを設けるステップをさらに含んでもよい。内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントは、互いに直接に接触しないように配置してもよい。内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間の電気的および/または機械的接続は、内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントと、個々の環状ストラップリングとの間の直接接触を介して設けてもよい。例えば、個々の内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントは、両方とも交互配列の環状ストラップリングと直接接触してもよい。
【0031】
該方法は、各外側ベーンセグメントをその個々の内側ベーンセグメントに電気的に接続するステップをさらに含んでもよい。電気的接続は、内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントの両方に接触するように配置された少なくとも1つのタグを使用して行なってもよい(それにより内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間のギャップを橋渡しする)。少なくとも1つのタグは、ベーンの長手方向端部に実質的に配置されてもよい。タグは、個々の内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間の電気的および/または機械的接続を提供してもよい。例えば、各個々の内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントは、互いに直接に物理的接触しなくてもよく、両者間にギャップを配置してもよい。少なくとも1つのタグは、内側ベーンセグメントおよびその個々の外側ベーンセグメントの両方と物理的に接触するように配置してもよく、個々の内側および外側ベーンセグメント間の機械的および/または物理的接続を提供する。少なくともいくつかの例では、個々の内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントには、それらの長手方向端部の各々でベーンセグメントを一緒に接続するタグを設けてもよい(そのため各外側ベーンセグメントは、少なくとも2つのタグを介してその個々の外側ベーンセグメントに接続される)。タグは、好都合には内側ベーンセグメントおよび外側ベーンセグメントを効率的に低コストで電気的に接続する。
【0032】
シェルを用意するステップは、金属シリンダーを用意するステップと、外側ベーンを着座させるために、角度間隔でシリンダーの内壁に偶数個の細長い溝を形成するステップとを含んでもよい。シェルを用意するステップは、金属シリンダーを用意するステップと、シリンダーの内壁を平滑化するステップとを含んでもよい。該方法は、配置されたストラップリングおよびベーンを一緒にろう付けするステップをさらに含んでもよい。該方法は、ベーンをシェルの内壁にろう付けするステップをさらに含んでもよい。
【0033】
本願の範囲内で、前述の段落、請求項および/または下記説明および図面、特にその個々の特徴に記載された種々の態様、実施形態、例および代替物が独立にまたは任意の組合せで解釈できることは明確に意図している。即ち、任意の実施形態の全ての実施形態および/または特徴は、こうした特徴が互換性のない場合を除いて、任意の方法および/または組合せで組み合わせできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
本発明の1つまたは複数の実施形態は、添付図面において例としてのみ概略的に示されている。
【
図1A】ここで想定されるタイプのマグネトロンの概略図である。
【
図2】本開示の第1例に係るアノードの斜視図および分解図である。
【
図3A】本開示の第1例に係るマグネトロンの概略図である。
【
図3B】
図3Aに示すマグネトロンを通る断面A~A’の概略図である。
【
図3C】
図3Aに示すマグネトロンを通る断面B~B’の概略図である。
【
図4】本開示の第1例に係る方法のフローチャートである。
【
図5A】本開示の第1例に係るアノードの組み立ての概略図である。
【
図5B】本開示の第1例に係るアノードの組み立ての概略図である。
【0035】
説明および図面の全体を通して、類似の参照番号は類似の部品を指す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の特定の例を説明する前に、本開示は、ここで説明する特定の実施形態に限定されないことを理解すべきである。ここで使用する用語は、特定の例を説明するためにのみ使用され、請求項の範囲を制限することを意図していないことも理解すべきである。
【0037】
図1Aと
図1Bは、ここで検討したタイプの例示のマグネトロン100の概略図である。
図1Aは、マグネトロン100を通る長手方向の切断面を示し、
図1Bは、
図1Aに示す平面A-Aに沿ったマグネトロン100を通る断面を示す。
【0038】
マグネトロン100は、アノード101およびカソード102を含む。
図1Aと
図1Bに示す例示のアノード101は、略円筒形のアノード壁103(シェルとも称される)と、アノード壁103から内向きに延びる複数のアノードベーン104とを含む。シェル103は、長手方向軸(
図1Aでは左から右、
図1Bではページから外へ)を定義しており、その周りにそれが取り囲む。以下でさらに詳細に説明するように、アノードベーンは、第1グループのアノードベーン104aと、第2グループのアノードベーン104bとを備えてもよい。
【0039】
カソード102は、少なくとも部分的にアノード101の内側に位置し、アノードベーン104を含むアノード101に対して所定の位置に保持される。カソード102は、支持アーム105によって支持され、アノード102に対して所定の位置に保持される。支持アーム105は、支持構造106によってカソード102の遠位端で所定の位置に固定され、カソード102を支持するカンチレバーを形成する。
【0040】
カソード102および、アノード101の少なくとも内部部分(例えば、アノード壁103の内側の空間)は、真空エンベロープ110の内側に設置される。他の真空電子デバイスと同様に、RFエネルギーを発生するために、真空エンベロープ110の内側空間は、真空圧力条件にポンプ吸引される。
【0041】
カソード102を支持し、カソード102をアノード101に対して所定の位置に保持することに加えて、支持アームはまた、カソード102およびヒータ131(一般にはカソード102内に含まれる)との電気接続を提供できる。図示の例では、電気接続は、支持アーム105(例えば、支持アーム105を形成する外部ケーシング)を経由してカソード102まで確立できる。支持アーム105は、支持構造106と電気的に接続できる。支持構造106は、支持アーム105に電気的に接続された導電性材料(例えば、銅)を含み、カソード102との電気接続を確立するための接続端子として機能できる。図示の例では、支持アーム105は、ヒータ131と接続端子108との間に延びる電気接続部107(これは、
図1Aに示すように、支持アーム105に沿って内部に延びている)をさらに含む。ヒータ131は、例えば、フィラメントを含んでもよく、カソード102を加熱するように構成できる(例えば、カソード102からの電極の熱電子放出を促進する)。接続端子108は、電気絶縁部材132によって支持アーム105のケーシングおよび支持構造106から電気絶縁される。
【0042】
接続端子108および/または支持構造106は、DC電源(例えば、パルスDC電源を含む)などの電源(不図示)との接続のために配置でき、電源とカソード102および/またはヒータ131との間の電気接続を提供する。実際、カソード102は、数キロボルトの電圧に保持できる(アノード101に対して)。例えば、支持構造106は、外部電源(不図示)に電気的に接続でき、カソード102とアノード101との間に(支持構造106および支持アーム105を経由して)ある電圧を確立する。
【0043】
ヒータ131は、抵抗エレメントを含むことができ、これを経由して電流が通過して抵抗加熱を発生する。こうした例では、ヒータ131は、加熱電流が流れる2つの電気端子を備えることができる。第1端子は、接続端子108とすることができ、第2端子は、ヒータ131とカソード102との間にある接続部とすることができる(接続部は不図示)。接続端子108は、カソード102に対してある電位差(例えば、数ボルトの)に保持でき、ヒータ電流がヒータ131を通って流れるのを促進する。
【0044】
支持アーム105は、マグネトロンのセクション109に沿って延びており、これはサイドアーム109と称される。図示の例では、サイドアーム109は、真空エンベロープ110の一部を形成し、こうしてサイドアーム109の内部空間は、真空圧力条件にポンプ吸引できる。図示の例では、サイドアーム109の外部構造は、支持構造106および、支持構造106とアノード101との間に延びるケーシング111によって画定される。ケーシング111は、電気絶縁または誘電材料、例えば、セラミックなどで形成できる。
【0045】
サイドアーム109は、アノード101と、接続端子108と、そしてカソード102およびアノード101の遠位側のサイドアーム109の実質的に端部に位置する支持構造106との間にホールドオフ距離を提供するように機能できる。支持構造106を使用して、アノード101とカソード102との間に電圧差を確立することができ、支持構造106とアノード101および/またはマグネトロンの他のコンポーネントとの間に比較的高い電圧が存在し得る。例えば、動作の際、アノード101は電気的に接地でき、カソード102は、支持構造106を経由して高電圧に保持できる。例えば、数キロボルトの電圧差(例えば、3kV以上の電圧差)が、カソード102とアノード101との間に提供できる。使用される電圧が比較的高いため、マグネトロンのコンポーネントは、電気的破壊およびコンポーネント間のアーク発生のリスクを低減するように配置できる。
【0046】
空気中の電圧ホールドオフ要件は、一般に、真空圧力条件の要件よりもはるかに厳しい(例えば、約8倍)。例えば、アノード101と支持構造106との間の空気中の適切な電圧ホールドオフは、ケーシング111(誘電体材料を含んでもよい)の設計を通じて達成できる。例えば、ケーシング111の形状および長さは、ケーシング111に沿った粒子追跡のリスクを低減するように設計できる(これは、支持構造106とアノード101との間の電気的破壊を導く可能性がある)。適切な電圧ホールドオフを維持しつつ、サイドアーム109の長さを短縮するために使用できる複雑なケーシング111の形状を提供することが可能であろう。しかしながら、これらは複雑でおよび/または高価になることがあり、簡単な円筒形(または他の簡単な形状)のケーシング111が使用できる。一般に、所定形状のケーシング111では、支持構造106とアノード101との間に充分な電圧ホールドオフを提供するために必要となるサイドアーム109の最小長さが存在し得る。
【0047】
マグネトロン100は、マグネトロン100の動作中に発生したRFエネルギーをマグネトロン100から外へ結合させるための出力部115をさらに含む。出力部115は、RFエネルギーを1つ以上の外部コンポーネントに提供するために、マグネトロン100を、マグネトロン100の外部にある1つ以上のコンポーネント(不図示)(例えば、粒子加速器など)に結合させるための任意の適切な構造を備えてもよい。図には示していないが、マグネトロン100はさらに、真空エンベロープ110を外部環境から隔離しつつ、発生したRFエネルギーが出力される出力窓を備えてもよい。
【0048】
上述のように、マグネトロン100の動作中に、ある電圧(例えば、数キロボルトの高電圧でもよい)が、カソード101とアノード102との間に印加できる。特にここで検討される例では、アノード101は電気的に接地してもよく、カソード102は、接地されたアノード101に対して高電圧に保持してもよい。
【0049】
カソード102は、例えば(必ずではないが)、熱電子放出によって電子を放出するように構成され、これは、カソード102とアノード101との間に維持される電圧のためにアノードに向かって引き寄せられる。上述したように、カソード102を加熱して、カソード102からの熱電子放出を促進できる。カソード102の熱放出特性は、カソード102の放出表面の温度および材料特性によって駆動することができる。
【0050】
図1Bに示すように、アノード101は、複数のアノードベーン104を含み、これらはそれらの間に偶数個の空洞112を画定する。図には示していないが、マグネトロン100は、マグネトロン軸(
図1Aでは左から右、
図1Bではページから外へ)と略平行に延在する磁界に曝される。マグネトロン軸は、シェル103の長手方向軸と一致してもよい。磁界は、1つ以上の永久磁石および/または電磁石の任意の適切な配置によって発生できる。
【0051】
カソード102から放出された電子雲が、(両者間の電圧のために)アノード101とカソード102との間に確立された電界、およびマグネトロン内に確立された磁界の両方の影響を受ける。これらの電磁界の組合せ効果は、アノード101とカソード102との間の相互作用領域の周りで電子の回転を引き起こすことである。空洞112を通過する電子雲の回転は、RF電磁界を誘導し、これは空洞112の共振モードを励起するように機能する。RF電界の誘導により、電子雲は、電子の角速度に基づいて空洞共振器の共振モードを励起できる。そして、相対的位相に応じて、アノード101でのRF電界に起因して電子を加速または減速できる。電子がベーン104を横切って移動すると、正フィードバック効果が生成され、それによって共振モードのエネルギーが増加する。実際、これは、電子雲を変形させて、スポーク付ホイール効果(または空間電荷ホイール)を受ける。
【0052】
電子雲とアノード101との間の相互作用は、アノード101によって支持される任意の共振モードを介して生じ得る。実際、マグネトロン内で有用なRFパワーを生成するための最も効果的なモードは、πモードと称され、アノード101の各空洞112の振動は、隣接する各空洞112での振動と実質的に180°(πラジアン)位相ずれである。即ち、πモードでは、マグネトロン内の各交互配列の空洞112は、互いに実質的に同相で振動する。
【0053】
いくつかのマグネトロンでは、πモード周波数と他の共振モードの周波数との間の分離が小さすぎて、マグネトロンの安定動作を確保できない。πモード周波数を他の共振モードから分離するために、アノードストラッピング(strapping)と称される手法が使用できる。
図1Aと
図1Bに示すマグネトロンでは、アノードは、アノード101の周りおよびアノードベーン104の間に延びる複数のアノードストラップ/ストラップリング113を含む。例えば、
図1Bから判るように、各アノードストラップ113は、各交互配列のアノードベーン104と電気的に接触しており、他の全てのアノードベーン104の適切に配置された開口114を通過する。例えば、
図1Bに示す断面では、アノードストラップ113は、通過する。アノードベーン104aの第1グループに位置決めされた開口114を通過し、アノードベーン104bの第2グループの各々と電気的に接触している。
図1Aに見えるように、他のアノードストラップ103は、アノードベーン104aの第1グループの各々と電気的に接触し、アノードベーン104bの第2グループに設置された開口114を通過するように配置される。こうしてベーン104は、アノードストラップ/ストラップリング113を支持して、各ベーンが交互配列のストラップ113に連結し、各ストラップが交互配列のベーンに連結している。交互配列のベーン104を電気的に接続することによって、πモード周波数は、他の共振モードの周波数から分離できる。
【0054】
本発明者は、先行技術のマグネトロン、特にアノードベーンの両端に露出するように配置されたストラップを含む、分散ストラップを備えたベーンを含む従来技術のマグネトロンにおいて多くの問題に気づいた。こうしたアノードは、そこからの突起を有する1つのストラップリングで形成された一連のディスクを組み立ててベーンを形成することによって形成できる。そしてディスクを長手方向に一緒に積み重ねて、分散ストラップアノードを形成できる。
【0055】
しかしながら、本発明者は、この方法でアノードを製造することは、いったんアノードが組み立てられると、2つのストラップをベーンの端部で露出させることがあり、それによって不安定なマグネトロン動作というリスクが生じることに気づいた。さらに、先行技術の方法でディスクを積み重ねることによってアノードを形成することは、高いコストの製造をもたらすことがある。理由は、個々のディスクは、所望の効果が得られるように正確に嵌め合わせるために、極めて精密な寸法で製造する必要があるためである。さらに、アノードの組立て時に、一緒に積み重ねた異なるディスクの間にベーンに沿ってギャップが設けられる。本発明者は、アノードが一緒にろう付け(brazed)された場合、ギャップ間のろう付け材料が、ベーンに沿って、特にカソードに面する長手方向に沿って、RF電界損失をもたらし、それによってパワー出力を減少させる(特に高エネルギーマグネトロン)ことに気づいた。
【0056】
図2は、本開示の第1例に係るマグネトロン用のアノード200の斜視分解図を示す。アノード200は、そのアノード100を置換することによって、
図1Aと
図1Bに関連して説明したように、マグネトロン100内に実装できる。
図3Aは、カソード102’とともに
図2のアノード200の概略図を示し、
図3Bおよび
図3Cは、ラインA-A’およびB-B’に沿った概略断面図を示す。カソード102’は、
図1Aと
図1Bに関連して説明したカソード102でもよい。
【0057】
アノード200は、円筒形シェル210と、複数のベーン220a,220bと、複数のストラップリング230a,230bを備える。ここで使用される「円筒形」とは、略/実質的に円筒形を意味すると理解される。シェル210は、
図3Aに示すように、中央開口を含み、そこにカソード102’が配置でき、長手方向軸(
図2では上から下、
図3Aでは左から右)を定義する。シェル210は、
図1Aと
図1Bに関連して説明したアノード壁103とすることができ、ストラップリング230a,230bは、
図1Aと
図1Bに関連して説明したように、実質的にストラップ113とすることができる。
【0058】
ベーンは、ベーン220aの第1グループおよびベーン220bの第2グループとして提供され、これらの各々は、シェル210から内向きに、シェル210の周りに角度間隔で延びるように配置される。「角度間隔」とは、各ベーンとそれに隣接するベーンとの間に方位角(azimuth)分離が設けられることを意味すると理解できる。
図2に示すように、ベーン220aの第1グループは、ベーン220bの第2グループと角度的に交互配列する。各ベーン220a,230b間の間隔から生じる角距離(angular separation)は、シェル210の周りに偶数個の共振空洞を画定する。ストラップリング230a,230bは、長手方向の間隔で、シェル210の長手方向軸と同心状に配置され、次のようにベーン220a,220bを通過して、交互配列したベーンを電気的に接続する。
【0059】
各第1ベーン220aは、互いに接続された内側ベーンセグメント221aおよび外側ベーンセグメント222aとして、2つのセグメントに設けられる。同様に、各第2ベーン220bは、互いに接続された内側ベーンセグメント221bおよび外側ベーンセグメント222bとして、2つのセグメントに設けられる。
図2に示すように、各ベーンセグメント221a,222a,221b,222bは、実質的に細長いものであり、シェル210の長手方向に沿って延びる長さを有し、半径方向内向きに延びる幅を有する。各ベーンセグメント221a,222a,221b,222bの長さは、共振空洞の長さに対応する。各内側ベーンセグメント221a,221bは、ベーンの細長い軸に沿って、その個々の外側ベーンセグメント221b,222bに面しており、各内側ベーンセグメント221の長手方向面は、その個々の外側ベーンセグメント222の長手方向面に面している。
【0060】
図3Aに示すように、一緒に配置した場合、第1内側および外側ベーンセグメント221a,222aは、複数のストラップリング230a,230bが通過する第1孔パターンを含む個々の第1ベーン220aを形成する。第1孔パターンは、複数の第1孔240および第2孔241を含み、これらは、第1ベーン220aの長さに渡って互いに交互配列している。第1孔240は、ストラップリングの断面形状とほぼ同じ断面形状を有するように寸法設定される。そのためストラップリングは、第1孔240を通過し、通過する際に個々のベーンに接触するように配置される。一方、第2孔241は、そこを通過するストラップリングの断面形状より大きな断面形状を有し、そのためストラップリングは、第2孔241を通過する際に個々のベーンに接触することなく、第2孔241を通過するように配置される。
図3Aの特定の例では、マグネトロンは、Sバンド(約2~4GHz)の周波数を有するマイクロ波を発生するように動作し、第1孔240は、約2.5mmから4mmの範囲の直径を有してもよく、一方、第2孔241は、約5mmから10mmの範囲の直径を有してもよい。本開示の第1例では、
図3Aに示すように、第1孔および第2孔240,241は、対応するストラップリング230a,230bの正方形プロファイルと一致する略正方形プロファイルを有する。当然ながら、孔の形状およびサイズは上記に限定されず、それを通過する対応するストラップリングの寸法ならびにマグネトロンの設計、周波数範囲および/またはパワーによって決定されることが理解されよう。
【0061】
各第1ベーン220aには同じ第1孔パターンが設けられ、そのため第1ベーン220aの第1孔240が互いに角度的に整列し、第1ベーン220aの第2孔241が互いに角度的に整列する。こうしてストラップリング230aは、第1ベーン220aの角度的に整列した第1孔240を通過して、第1ベーン220aと電気的に接続し、一方、第1ベーン220aの角度的に整列した第2孔241を通過するストラップリング230bは、第1ベーン220aと電気的に接続しない。
【0062】
同様に、第2内側および外側ベーンセグメント221b,222bは、複数のストラップリング230a,230bが通過する第2孔パターンを含む個々の第2ベーン220bを形成する。第2孔パターンはまた、第1孔240および第2孔240を含み、これらは第2ベーン220bの長さに渡って互いに交互配列する。各第2ベーン220bには同じ第2孔パターンが設けられ、第2ベーン220bの第1孔240が互いに角度的に整列し、第2ベーン220bの第2孔241が互いに角度的に整列する。こうしてストラップリング230bは、第2ベーン220bの角度的に整列した第1孔240を通過して、第2ベーン230bと電気的に接続し、一方、ストラップリング230aは、第2ベーン220bの角度的に整列した第2孔241を通過して、第2ベーン230bと電気的に接続しない。
【0063】
しかしながら、
図3Aに示すように、第2孔パターンは、第2ベーン220bの第1孔240が第1ベーン220aの第2孔241と角度的に整列し、そして第2ベーン220bの第2孔241が第1ベーン220aの第1孔240と角度的に整列するという点で、第1孔パターンとは相違する。従って、ストラップリングは、互いに長手方向に交互配列している第1ストラップリング230aおよび第2ストラップリング230bを含む2つのグループで設けられると見なすことができ、これにより第1ストラップリング230aは第1ベーン220aと電気的に接続し、第2ストラップリング230bは第2ベーン220bと電気的に接続する。
【0064】
第1および第2孔パターンは、内側および外側ベーンセグメント221a,221b,222a,222bの長手方向面内の溝パターンによって定義される。より具体的には、
図2に示すように、各内側ベーンセグメント221a,221bは、その個々の外側ベーンセグメント222a,222aに面するその長手方向面内に溝パターンを含む。同様に、各外側ベーンセグメント222a,222bは、その個々の外側ベーンセグメント221a,221aに面するその長手方向面内に、一致する溝パターンを含む。互いに向き合って一緒に配列した場合、
図3Aに示すように、各第1内側および外側ベーンセグメント221a,222aは共に、第1内側および外側ベーンセグメント221a,222aの個々の長手方向面内の溝パターンによって定義されるように、第1孔パターンを含む個々の第1ベーン220aを形成する。
【0065】
本開示の第1例では、溝パターンは、個々のベーンセグメントの長手方向面上に実質的に城郭形状(castellated)のプロファイルを形成する。
図2に示すように、溝パターンは、交互配列の溝251および突起を含み、各突起は溝251よりも小さい凹部250を画定する。各内側ベーンセグメント221a,221bがその個々の外側ベーンセグメント222a,222bに面する場合、凹部250は、第1孔240を形成するように配置されたプロファイルを有し、溝251は、第2孔241を形成するように配置されたプロファイルを有する。別の例では、溝パターンは、突起に凹部250を含む必要はない。例えば、突起は、ストラップリングに接触するための実質的に平坦な長手方向面を含んでもよい。
【0066】
図2と
図3Aに示すように、各内側ベーンセグメント221a,221bの溝パターンは、その外側ベーンセグメント222a,222b上の溝パターンと対称であり、そのため内側および外側ベーンセグメントは、孔240,241を通過する軸で接合する。本開示の第1例では、凹部250および溝251は、
図3Aに示すように、実質的にC字状またはU字状であり、第1孔240および第2孔241をそれぞれ提供する。
【0067】
しかしながら、本開示はこれに限定されず、第1および第2孔パターンは、任意の適切な溝パターンによって定義してもよい。本開示のいくつかの例では、内側および外側ベーンセグメントは、対称的な溝パターンを有しなくてもよい。例えば、内側または外側ベーンセグメントの一方だけが溝パターンを含み、一方、内側または外側ベーンセグメントの他方は、実質的に滑らかなプロファイルを有してもよく、そのため内側または外側ベーンセグメントの一方での溝パターンは、内側および外側ベーンセグメントの他方と共に配置した場合、第1および第2の孔を形成するのに充分となる。
【0068】
本開示の第1例では、各内側ベーンセグメント221a,221bは、一体的に形成され、溝パターンによって定義される長手方向面とは反対側に向いた他の長手方向面を含む。他の長手方向面は、カソード102’に向けて内向きに面して配置される。
図2と
図3Aに示すように、各内側ベーンセグメント221a,221bの他の長手方向面は、個々の内側ベーンセグメントの長さに沿って実質的に滑らかで平坦である。
【0069】
本開示の第1例では、各外側ベーンセグメント222a,222bは一体的に形成され、溝パターンによって定義される長手方向面とは反対側に向いた他の長手方向面を含む。他の長手方向面は、シェル210と接続するように配置される。
図2と
図3Aに示すように、各外側ベーンセグメント222a,222bの他の長手方向面は、個々の外側ベーンセグメントの長さに沿って実質的に滑らかで平坦である。そうすると、外側ベーンセグメント222a,222bをシェル210にろう付けするのをより効率的に容易にできる。例えば、
図3Aに見えるように、内側ベーンセグメント221a,221bおよび外側ベーンセグメント222a,222bは、互いに直接に物理的接触しないように配置できる。例えば、内側ベーンセグメント221a,221bとその個々の外側ベーンセグメント222a,222bとの間にギャップが設けられ、そのため内側ベーンセグメント221a,221bとその個々の外側ベーンセグメント222a,222bとの間に直接の物理的接触が存在しない。
【0070】
各内側ベーンセグメント221a,221bは、その個々の外側ベーンセグメント222a,222bに電気的に接続される。少なくともいくつかの例では、各内側ベーンセグメント221a,221bおよび外側222a,222bベーンセグメントは、同じストラップリング230a,230bと直接接触するように配置できる。例えば、
図3Aに見えるように、第1ベーン220aを形成する内側ベーンセグメント221aおよび外側222aベーンセグメントは、両方とも符号230aのストラップリングと接触してもよい。第2ベーン220bを形成する内側ベーンセグメント221bおよび外側ベーンセグメント222bは、両方とも符号230bのストラップリングと接触してもよい。これによりストラップリング230は、互いに直接に物理的接触していない個々の内側および外側ベーンセグメント間の機械的かつ電気的接続を提供する。
【0071】
本開示の第1例では、個々のベーンセグメント間の追加または代替の接続は、複数のタグ260を用いて行われ、各タグ260は、それぞれ個々のベーン220a,220bの長手方向端部に設けられ、個々の内側および外側ベーンセグメント221a,221b,222a,222bを共に接続する。タグ260は、導電性コンポーネントでもよい。例えば、タグ250は、内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間の電気的接続を提供するように配置された金属コンポーネント、例えば、銅端(copper ends)でもよい。
【0072】
本開示の第1例のように、内側および外側ベーンセグメント221a,221b,222a,222bとして2つの細長いセグメントに各ベーンを設けることは、ストラップリングが内側および外側ベーンセグメント間で充分に支持されることを意味する。こうしてストラップリング230a,230bは、ベーン220a,220bを通過して、ベーンによって包囲され、共振空洞内でのみ露出する。これは、アノードベーンの両端に露出しているストラップリングを有する先行技術のマグネトロンと比較して、マグネトロンの安定性を改善する。
【0073】
さらに、ストラップリング230a,230bが、個々の内側および外側ベーンセグメントの間に配置されることによって、個々のベーン220a,220bによって充分かつ安定に支持されるだけでなく、アノード200には、ストラップ230a,230bの設計およびベーン220a,220bに対するそれらの配置においてより柔軟性が提供される。このことは、先行技術のマグネトロンと比較して、モード分離およびRF電界分布のトレードオフが、適切なストラップ設計によってより容易に満たされることを意味する。
【0074】
さらに、アノード200は、更なるマグネトロン性能改善を促進にする。これは、カソードに面する内側ベーンセグメント221a,221bが、堅固で連続的なプロファイルを提供するためである。こうした連続的なプロファイルを設けることによって、カソードに面するベーン表面の長手方向プロファイルに沿ってギャップが無くなり、先行技術と比較して、より低いRF損失およびより滑らかなRF電界分布をもたらす。従って、ギャップのないこうした連続的なプロファイルは、パワー出力を増加させることができる。
【0075】
図4は、マグネトロンのアノードを製造するための方法の第1例のフローチャートを示し、本開示の第1例のアノードを製造するために使用できる。
【0076】
この方法は、略円筒形のシェル、複数のベーン、および複数のストラップリングを提供するステップを含み、これらの各々は、実質的に本開示の第1例に関連して説明したようなシェル210、ベーン220a,220bおよびストラップリング230a,230bでもよい。特に、第1ベーンは、内側および外側ベーンセグメントのペアとして設けられ、第2ベーンは、内側および外側ベーンセグメントのペアとして設けられる。ステップ310において、ベーンは、第1ベーンが第2ベーンと交互配列しているシェルの周りに角度間隔で組み立てられ、各ベーンとその隣接ベーンとの間の角距離は、空洞共振器を提供するためである。ステップ320において、ストラップリングは、長手方向間隔でシェルの長手方向軸の周りに同心円状に配置され、そのため第1ストラップリングは第1ベーンと電気的に接続し、第2ストラップリングは第2ベーンと電気的に接続する。各内側ベーンセグメントは、その個々の外側ベーンセグメントに接続される。方法の第1例では、複数のタグを使用して、個々のベーンセグメントを一緒に接続する。タグは、実質的に本開示の第1例に関連して上述したタグ260として設けてもよい。
【0077】
より具体的には、各ベーンは、
図2に示すように、個々の内側および外側ベーンセグメント221a,221b,222a,222bとして設けてもよい。方法の第1例では、ベーンは製造しているが、本開示の他の例では、ベーンは既製品で提供してもよいことが理解されよう。ベーンは、本開示の第1例において以下のように製造される。
【0078】
最初に複数のベーンを形成するために、複数の金属直方体が提供される。各直方体は、例えば、切削によって、得られるベーンの所望の長さおよび幅に対応する長さおよび幅を有するように整形できる。そして、複数の直方体は半分に分割され、第1グループの直方体と第2グループの直方体を提供し、それぞれ同じ数の直方体を有する。
【0079】
方法の第1例では、第1孔パターンは、第1グループの直方体の深さを通って形成される。任意の適切な孔形成ツールを実装して、例えば、ミリング加工(milling)によって、直方体を通る孔を形成できる。第1孔パターンは、本開示の第1例に関連して説明した第1孔240および第2孔241の配置を含む第1孔パターンに対応しており、それにより第1および第2孔240,241は、ベーンの長さに渡って交互配列する。次に、第1孔パターンを有する第1直方体は、第1孔パターンを通って長手方向に切削され、内側ベーンセグメント221aおよびその個々の外側ベーンセグメント222aを形成する。任意の適切な切削ツールが使用できる。方法の第1例では、第1直方体は、第1孔パターンを通る途中で切削され、内側および外側ベーンセグメント221a,222aに対称な溝パターンを設ける。こうして内側および外側ベーンセグメント221a,222aは、同じ材料で形成される。当然ながら、内側および外側ベーンセグメントが対称な溝パターンを有していない本開示の他の例では、切削は、例えば、第1孔パターンの片側を通過するように、必要に応じて決定してもよく、両側ではなく、内側ベーンセグメントまたは外側ベーンセグメントのいずれかの長手方向面に溝パターンを確定してもよい。
【0080】
同様に、第2孔パターンは、第2グループの直方体の深さを通って形成される。第2孔パターンは、本開示の第1例に関連して説明した第1孔240および第2孔241の配置を含む第2孔パターンに対応しており、それにより第1および第2孔240,241は、ベーンの長さに渡って交互配列し、第2ベーン220bの第1孔240は、第1ベーン220aの第2孔241と角度的に整列し、第1ベーン220aの第1孔240は、第2ベーン220bの第2孔241と角度的に整列する。次に、第2孔パターンを含む第2直方体は、第2孔パターンを通って長手方向に切削され、内側ベーンセグメント221bおよびその個々の外側ベーンセグメント222bを形成する。
【0081】
この方法でベーン220a,220bを形成することは、特に、城郭状のプロファイルを形成し、複数のセグメントからベーンを形成する先行技術の製造方法と比較した場合、効率的で低コストである。この方法の第1例に係るベーンは、好都合には一体的に形成され、それにより各内側ベーンセグメントは、その個々の外側ベーンセグメントと同じ直方体ブロックから形成され、それにより複雑な切削および整形を排除することによって、製造プロセス簡素化できる。しかしながら、ベーンは、積層造形(additive manufacturing)手法などの他の適切な方法によって形成してもよい。
【0082】
ここでは、個々の内側および外側ベーンセグメント221a,221b,222a,222bが同じ材料で形成される例を説明した。しかしながら、いくつかの例では、個々の内側および外側ベーンセグメント221a,221b,222a,222bは、異なる材料で形成してもよい。
【0083】
例示を目的として、
図5Aと
図5Bは、内側ベーンセグメント221a,221bが、これらの間を通過する個々のストラップリング230a,230bの周りに個々の外側ベーンセグメント222a,222bと共に配置されることを示す。さらに、タグ260は、個々の内側および外側ベーンセグメントを互いに接続するために、各ベーン220a,220bの長手方向端部に配置される。
図5Bから判るように、内側および外側ベーンセグメント221a,221b,222a,222bは、これらの間にギャップを設けるために互いに直接接触しておらず、タグ260は、内側および外側ベーンセグメント221a,221b,222a,222bを一緒に電気的に接続する。上述したように、個々の内側ベーンセグメント221a,221bと外側ベーンセグメント222a,222bとの間に更なる電気的および機械的接続が、同じストラップリング230との接触によって提供できる。
【0084】
方法の第1例では、方法はまた、シェル210の内壁に複数の溝(図示せず)を形成することを含み、それにより各溝は、各外側ベーンセグメント222a,222bの幅に対応する幅を有する。各溝の長さは、各外側ベーンセグメント222a,222bの長さに対応するか、またはそれより大きくてもよく、組み立て時に外側ベーンセグメント222a,222bを溝の中に滑り込ませることができる。シェル210の壁での溝は、ベーン220a,220bの配置に対応する角度間隔で配置される。任意の適切な溝形成ツールが使用できる。こうして溝は、外側ベーン222a,222bを着座させるように配置される。シェル210の内壁に溝を設けることは、外側ベーンセグメント222a,222bがどこに配置されるべきかを示すのに役立つ。
【0085】
しかしながら、本開示はこれに限定されず、本開示の他の例では、シェル210は、その内壁に画定された溝を含まず、外側ベーンセグメント222a,222bは、シェル210の内壁に溝が存在しない場合にシェル210の内壁に隣接してもよい。これは、外側ベーンセグメント222a,222bが、溝が存在しない場合でもシェル210の内壁にろう付けするために実質的に平坦になるように平滑化された他の長手方向面を含むため、実現可能である。
【0086】
この方法の第1例では、治具(jig)を使用して、ストラップリングを外側ベーンセグメントと組み立てる。より具体的には、第1ストラップリング230aは、第1外側ベーンの溝パターンに形成された凹部250に配置され、第2外側ベーンセグメント222bの溝パターンに形成された溝251から分離している。第2ストラップリング230bは、第2外側ベーンセグメント222bの溝パターンに形成された凹部250に配置され、第1外側ベーンセグメント222aの溝パターンに形成された溝251から分離している。治具を使用することにより、コンポーネントの効率的な配置が可能になる。
【0087】
次に、シェル210は、外側ベーンセグメント222a,222bおよびストラップ230a,230bと組み立てられる。そして、内側ベーンセグメント221a,221bは、個々の外側ベーンセグメント222a,222bとともに配置され、タグ260は、ベーン220a,220bの長手方向端部に追加されて、それらを電気的に接続する。アノード200の構成コンポーネントが一緒に組み立てられると、組み立てたアノード200は、適切な温度でろう付けされ、内側ベーンセグメント221a,221b、個々の外側ベーンセグメント222a,222b,ストラップリング230a,230b,シェル120およびタグ260を一緒にはんだ付けする。これにより低コストで効率的なアノードを製造する方法をもたらす。しかしながら、本開示はこれに限定されず、アノードを組み立てるための任意の適切な方法が使用できることが理解されよう。
【0088】
そして、アノード200は、マグネトロン内で組み立てできる。例えば、アノード200は、マグネトロン100内のアノード101を置き換えるために組み立てできる。
【0089】
ここでは、マグネトロン用のアノード(200)が提供され、該アノードは、マグネトロンのカソード(102’)を収容するためのシェルの中心、長手方向軸を定義する円筒形シェル(210)と、シェルの周りに角度間隔で配置された複数のベーン(羽根)(220a,220b)とを備える。各ベーンとその隣接ベーンとの間の角距離が、マグネトロンの空洞共振器を提供するように構成され、各ベーンは、シェルからシェルの中心に向かって半径方向内向きに延びる幅を有し、シェルの長手方向軸と平行に長手方向に連続的に延びる長さを有する。空洞共振器の共振モードスペクトルを設定するための複数の環状ストラップリング(230a,230b)は、長手方向の間隔で、シェルの長手方向軸と同心状に配置される。各ベーンは、カソードに面するように配置された内側ベーンセグメント(221a,221b)と、内側ベーンセグメントに接続され、内側ベーンセグメントとシェルの間に介在した個々の外側ベーンセグメント(222a,222b)とを備える。複数のベーンは、個々の内側ベーンセグメントと外側ベーンセグメントとの間に複数のストラップリングを支持するように構成され、そのため各ベーンは、交互配列のストラップリングに連結し、各ストラップリングは、交互配列のベーンに連結する。
【0090】
説明した実施形態の変形例が想定される。例えば、本明細書に開示した全ての特徴(添付した請求項、要約および図面を含む)、および/またはそのように開示した任意の方法またはプロセスのステップの全ては、こうした機能および/またはステップの少なくともいくつかが相互に排他的である組合せを除いて、任意の組合せで組み合わせてもよい。
【0091】
ここで無線周波数への参照は、約30Hzから300GHzの間の任意の周波数を意味すると解釈できる。無線周波数は、マイクロ波周波数を含むことを明確に意図している。ここでマイクロ波周波数への参照は、約300MHzから300GHzの間の任意の周波数を意味すると解釈できる。
【0092】
ここで想定されるマグネトロンの例は、Sバンド(約2から4GHz)、Cバンド(約4から8GHz)および/またはXバンド(約8から12GHz)の周波数を有するマイクロ波を発生するように動作可能でもよい。いくつかの例では、マグネトロンが、約3GHzより高い周波数を有するマイクロ波を発生するように動作可能でもよい。マグネトロンは、約12GHz未満の周波数を有するマイクロ波を発生するように動作可能でもよい。
【0093】
ここに提供される全ての範囲および値(例えば、パワーおよび/または周波数の値および/または範囲)は、例示目的のみで提供されており、限定する効果を有すると解釈されるべきではない。
【0094】
本発明の特定の態様、実施形態または例に関連して説明した特徴、整数または特性は、それらと互換性がない場合を除き、ここで説明したいずれか他の態様、実施形態または例に適用可能であると理解されるべきである。本明細書(添付の請求項、要約および図面を含む)に開示した特徴の全て、および/またはそのように開示した任意の方法またはプロセスのステップの全ては、こうした特徴および/またはステップの少なくともいくつかが相互に排他的である組合せを除いて、任意の組合せで組合せできる。本発明は、前述の実施形態のいずれの詳細に限定されない。本発明は、本明細書(添付の請求項、要約および図面を含む)に開示した特徴の任意の新規のもの、または任意の新規の組合せに、あるいは、そのように開示した任意の方法またはプロセスのステップの任意の新規のもの、または任意の新規の組合せに及ぶ。
【外国語明細書】