IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)の特許一覧

特開2022-84688シリルオキサレートを含有する非水性電解質組成物
<>
  • 特開-シリルオキサレートを含有する非水性電解質組成物 図1
  • 特開-シリルオキサレートを含有する非水性電解質組成物 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084688
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】シリルオキサレートを含有する非水性電解質組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20220531BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20220531BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20220531BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220531BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M10/052
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022032585
(22)【出願日】2022-03-03
(62)【分割の表示】P 2019508242の分割
【原出願日】2017-07-27
(31)【優先権主張番号】62/377,136
(32)【優先日】2016-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】モロイ, ケネス ジーン
(72)【発明者】
【氏名】バークハート, スティーヴン
(72)【発明者】
【氏名】カータキス, コスタンティノス
(72)【発明者】
【氏名】リーヴァイ-ポリス, ブライアン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リチウムイオン電池などの電気化学セルにおいて有用な電解質組成物を提供する。
【解決手段】含フッ素溶媒と、式RR’Si(C)(式中、RおよびR’は、それぞれ独立に、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、カルボニル、およびカルボキシル基から選択される少なくとも1つの置換基を含んでいてもよいC~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、またはC~C10アリールラジカルから選択される)で表される少なくとも1種のシリルオキサレートと、LiPFとを含有する電解質組成物である。さらに、含フッ素溶媒と、式LiPF(6-2q)(C(式中、qは1、2、または3である)で表されるリチウムオキサラトホスフェート塩とを含有する電解質組成物であって、オキサラトホスフェート塩が少なくとも1種のシリルオキサレートから誘導される少なくとも一部分を含む、電解質組成物も開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質組成物であって、
a)含フッ素溶媒;
b)式I:
RR’Si(C) (I)
(式中、RおよびR’は、それぞれ互いに同じであるかまたは異なり、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、カルボニル、およびカルボキシル基から選択される少なくとも1つの置換基を任意選択的に含んでいてもよいC~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、またはC~C10アリールラジカルから独立して選択される)
により表される少なくとも1種のシリルオキサレート;および
c)LiPF
を含有する、電解質組成物。
【請求項2】
RおよびR’が、それぞれ独立に、メチル、エチル、またはフェニルである、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項3】
前記シリルオキサレートが、ジメチルシリルオキサレート、ビニルフェニルシリルオキサレート、メチルビニルシリルオキサレート、またはジフェニルシリルオキサレートを含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項4】
前記含フッ素溶媒が、
a)式:R-COO-Rにより表されるフッ化非環状カルボン酸エステル;
b)式:R-OCOO-Rにより表されるフッ化非環状カーボネート;
c)式:R-O-Rにより表されるフッ化非環状エーテル;
またはこれらの混合物
を含み、式中、
i)Rは、H、アルキル基、またはフルオロアルキル基であり;
ii)RおよびRは、それぞれ独立にフルオロアルキル基であり、これらは互いに同じであっても異なっていてもよく;
iii)R、R、およびRは、それぞれ独立に、アルキル基またはフルオロアルキル基であり、これらは互いに同じであっても異なっていてもよく;
iv)RおよびRのうちのいずれかまたは両方はフッ素を含み;
v)RおよびR、RおよびR、ならびにRおよびRは、それぞれ一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含む;
請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項5】
およびR、RおよびR、ならびにRおよびRは、それぞれ一組とみなして少なくとも2個のフッ素原子をさらに含むが、R、R、R、R、R、およびRのいずれもFCH-基または-FCH-基を含まないことを条件とする、請求項4に記載の電解質組成物。
【請求項6】
前記フッ化非環状カルボン酸エステルが、CH-COO-CHCFH、CHCH-COO-CHCFH、FCHCH-COO-CH、FCHCH-COO-CHCH、CH-COO-CHCHCFH、CHCH-COO-CHCHCFH、FCHCHCH-COO-CHCH、CH-COO-CHCF、CHCH-COO-CHCFH、CH-COO-CHCF、H-COO-CHCFH、H-COO-CHCF、またはそれらの混合物を含む、請求項4に記載の電解質組成物。
【請求項7】
前記フッ化非環状カルボン酸エステルがCH-COO-CHCFHを含む、請求項6に記載の電解質組成物。
【請求項8】
さらに有機カーボネートを含有する、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項9】
前記有機カーボネートが、4-フルオロエチレンカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ビニレンカーボネート、またはこれらの混合物を含む、請求項8に記載の電解質組成物。
【請求項10】
前記有機カーボネートが4-フルオロエチレンカーボネートを含む、請求項9に記載の電解質組成物。
【請求項11】
電解質組成物であって、
a)含フッ素溶媒;および
b)式III:
LiPF(6-2q)(C (III)
(式中、qは1、2、または3である)
により表されるリチウムオキサラトホスフェート塩
を含有し、
前記オキサラトホスフェート塩が、式I:
RR’Si(C) (I)
(式中、RおよびR’は、それぞれ互いに同じであるかまたは異なり、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、カルボニル、およびカルボキシル基から選択される少なくとも1つの置換基を任意選択的に含んでいてもよいC~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、またはC~C10アリールラジカルから独立して選択される)
により表される少なくとも1種のシリルオキサレートから誘導される少なくとも一部分を含む、電解質組成物。
【請求項12】
前記RおよびR’が、それぞれ独立に、メチル、エチル、またはフェニルである、請求項11に記載の電解質組成物。
【請求項13】
前記シリルオキサレートが、ジメチルシリルオキサレート、ビニルフェニルシリルオキサレート、メチルビニルシリルオキサレート、またはジフェニルシリルオキサレートを含む、請求項11に記載の電解質組成物。
【請求項14】
前記含フッ素溶媒が、
a)式:R-COO-Rにより表されるフッ化非環状カルボン酸エステル;
b)式:R-OCOO-Rにより表されるフッ化非環状カーボネート;
c)式:R-O-Rにより表されるフッ化非環状エーテル;
またはこれらの混合物
を含み、式中、
i)Rは、H、アルキル基、またはフルオロアルキル基であり;
ii)RおよびRは、それぞれ独立にフルオロアルキル基であり、これらは互いに同じであっても異なっていてもよく;
iii)R、R、およびRは、それぞれ独立に、アルキル基またはフルオロアルキル基であり、これらは互いに同じであっても異なっていてもよく;
iv)RおよびRのうちのいずれかまたは両方はフッ素を含み;
v)RおよびR、RおよびR、ならびにRおよびRは、それぞれ一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含む;
請求項11に記載の電解質組成物。
【請求項15】
およびR、RおよびR、ならびにRおよびRは、それぞれ一組とみなして少なくとも2個のフッ素原子をさらに含むが、R、R、R、R、R、およびRのいずれもFCH-基または-FCH-基を含まないことを条件とする、請求項14に記載の電解質組成物。
【請求項16】
前記フッ化非環状カルボン酸エステルが、CH-COO-CHCFH、CHCH-COO-CHCFH、FCHCH-COO-CH、FCHCH-COO-CHCH、CH-COO-CHCHCFH、CHCH-COO-CHCHCFH、FCHCHCH-COO-CHCH、CH-COO-CHCF、CHCH-COO-CHCFH、CH-COO-CHCF、H-COO-CHCFH、H-COO-CHCF、またはこれらの混合物を含む、請求項14に記載の電解質組成物。
【請求項17】
前記フッ化非環状カルボン酸エステルがCH-COO-CHCFHを含む、請求項16に記載の電解質組成物。
【請求項18】
前記オキサラトホスフェート塩がリチウムトリス(オキサラト)ホスフェートを含む、請求項11に記載の電解質組成物。
【請求項19】
方法であって、
a)含フッ素溶媒;
b)式I:
RR’Si(C) (I)
(式中、RおよびR’は、それぞれ互いに同じであるかまたは異なり、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、カルボニル、およびカルボキシル基から選択される少なくとも1つの置換基を任意選択的に含んでいてもよいC~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、またはC~C10アリールラジカルから独立して選択される)
により表される少なくとも1種のシリルオキサレート;および
c)LiPF
を混合して電解質組成物を形成する工程を含む、方法。
【請求項20】
電気化学セルであって、
(a)ハウジングと、
(b)前記ハウジング中に配置され、かつ互いにイオン伝導性接触にあるアノードおよびカソードと、
(c)前記ハウジング中に配置され、かつ前記アノードと前記カソードとの間にイオン伝導性経路を提供する、請求項11に記載の電解質組成物と、
(d)前記アノードと前記カソードとの間の多孔質セパレータと、
を含む電気化学セル。
【請求項21】
前記電気化学セルがリチウムイオン電池である、請求項20に記載の電気化学セル。
【請求項22】
前記カソードが、Li/Li参照電極に対して4.6Vを超える電位範囲において30mAh/g超の容量を示すカソード活物質、またはLi/Li参照電極に対して4.35V以上の電位まで充電されるカソード活物質を含む、請求項21に記載の電気化学セル。
【請求項23】
前記カソードが、
a)活物質としてのスピネル構造を有するリチウム含有マンガン複合酸化物であって、式:
LiNiMn2-y-z4-d
(式中、xは0.03~1.0であり;xは充放電中のリチウムイオンおよび電子の放出および取り込みに従って変化し;yは0.3~0.6であり;MはCr、Fe、Co、Li、Al、Ga、Nb、Mo、Ti、Zr、Mg、Zn、V、およびCuのうちの1つ以上を含み;zは0.01~0.18であり;dは0~0.3である)により表されるリチウム含有マンガン複合酸化物;または
b)式:
x(Li2-w1-vw+v3-e)・(1-x)(LiMn2-z4-d
(式中、
xは約0.005~約0.1であり;
AはMnまたはTiのうちの1つ以上を含み;
QはAl、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Mg、Nb、Ni、Ti、V、Zn、ZrまたはYのうちの1つ以上を含み;
eは0~約0.3であり;
vは0~約0.5であり;
wは0~約0.6であり;
MはAl、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Li、Mg、Mn、Nb、Ni、Si、Ti、V、Zn、ZrまたはYのうちの1つ以上を含み;
dは0~約0.5であり;
yは約0~約1であり;
zは約0.3~約1であり;
前記LiMn2-z4-d成分はスピネル構造を有し、前記Li2-ww+v1-v3-e成分は層状構造を有する)の構造により表される複合材料;または
c)LiMn
(式中、Jは、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Cu、V、Ti、Zr、Mo、B、Al、Ga、Si、Li、Mg、Ca、Sr、Zn、Sn、希土類元素またはそれらの組み合わせであり;Zは、F、S、Pまたはそれらの組み合わせであり;かつ0.9≦a≦1.2、1.3≦b≦2.2、0≦c≦0.7、0≦d≦0.4である);または
d)LiNiMnCo2-f
(式中:
Rは、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはそれらの組み合わせであり;
Zは、F、S、P、またはそれらの組み合わせであり;
0.8≦a≦1.2、0.1≦b≦0.9、0.0≦c≦0.7、0.05≦d≦0.4、0≦e≦0.2であり、b+c+d+eの合計は約1であり、0≦f≦0.08である);または、
e)Li1-b,R
(式中、
Aは、Ni、Co、Mn、またはそれらの組み合わせであり;
Rは、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはそれらの組み合わせであり;
Dは、O、F、S、P、またはそれらの組み合わせであり;
0.90≦a≦1.8および0≦b≦0.5である)
を含む、請求項21に記載の電気化学セル。
【請求項24】
前記カソードが、
Li1-xDO4-f
(式中、
AはFe、Mn、Ni、Co、V、またはそれらの組み合わせであり;
RはAl、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはそれらの組み合わせであり;
DはP、S、Si、またはそれらの組み合わせであり;
ZはF、Cl、S、またはそれらの組み合わせであり;
0.8≦a≦2.2であり;
0≦x≦0.3であり;
0≦f≦0.1である)
を含む、請求項21に記載の電気化学セル。
【請求項25】
前記電気化学セルのサイクル後に、前記カソードまたは前記アノードのうちの少なくとも1つが、ケイ素が濃縮されたSEI層を含む、請求項21に記載の電気化学セル。
【請求項26】
請求項20に記載の電気化学セルを含む、電子デバイス、輸送装置、または通信機器。
【請求項27】
式:RR’Si(C
(式中、RおよびR’は、それぞれ独立に、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、ビニル、またはフェニルである)
のジアルキルシリルオキサレート。
【請求項28】
RおよびR’がそれぞれメチルである、請求項27に記載のジアルキルシリルオキサレート。
【請求項29】
RがメチルでありR’がエチル、ビニル、またはフェニルである、請求項27に記載のジアルキルシリルオキサレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリルオキサレートを含有する電解質組成物に関する。電解質組成物は、リチウムイオン電池などの電気化学セルにおいて有用である。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはこれらの金属を含む化合物から製造された電極を含有する電池、例えば、リチウムイオン電池は、典型的には、電解質と、添加剤と、電池において使用される電解質のための非水系溶媒とを包含する。添加剤は、電池の性能および安全性を高めることができ、そのため適切な溶媒が、電解質だけでなく添加剤も溶解させる必要がある。溶媒は、活性電池系において一般的な条件下で安定である必要もある。
【0003】
リチウムイオン電池において使用される電解質溶媒は、典型的には、有機カーボネート化合物または混合物を含んでおり、かつ典型的には、例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートなどの1種以上の直鎖カーボネートを含む。エチレンカーボネートなどの環状カーボネートも含まれる場合がある。しかしながら、約4.35Vを超えるカソード電位においてこれらの電解質溶媒は分解する可能性があり、これは電池性能の損失をもたらし得る。
【0004】
一般に使用される非水電解質溶媒の制限を克服するために様々なアプローチが研究されてきた。これらの電解質溶媒は、LiCoOまたはLiNiMnCo(式中、x+y+zは約1である)などの高いカソード電位、特に約4.35Vより高い電位を有するリチウムイオン電池において使用可能であるものの、サイクル性能、すなわち、全容量まで電池を効率的に複数回放電および充電する能力は、限定される可能性がある。
【0005】
ビス(トリメチルシリル)オキサレートの合成方法は、Greenらの学術刊行物に開示されている(“Thermal,Rheological,and Ion-Transport Properties of Phosphonium-Based Ionic Liquids”,The Journal of Phycisal Chemistry A,2011,115,13829-13835)。同じ方法が、Feghaliらにより使用されている(“Catalytic hydrosilylation of oxalic acid:chemoselective formation of functionalized C2-products”,Catalysis Science&technology,2014,4,2230-2234)。ビス(トリオルガノシリル)オキサレートの調製および熱安定性は、既に1967年にVon G.SchottおよびG.Hennebergにより調べられている(“Ueber die Stabilitaet von Bis(triorgano-silyl)-oxalaten”,Zeitschrift fuer anorganische und allgemeine Chemie,Band 352,1967)。
【0006】
特開2009-032491号明細書には、シュウ酸シリルエステル型構造を有する化合物を含む電池用の電解質組成物が開示されている。
【0007】
リチウムイオン電池、特に、高いカソード電位(約4.1~約5V)で作動するそのような電池において使用される場合に改善された性能を有する電解質溶媒配合物が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
ある態様では、本出願は、含フッ素溶媒と、式I:
RR’Si(C) (I)
(式中、RおよびR’は、それぞれ互いに同じであるかまたは異なり、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、カルボニル、およびカルボキシル基から選択される少なくとも1つの置換基を任意選択的に含んでいてもよいC~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、またはC~C10アリールラジカルから独立して選択される)
により表される少なくとも1種のシリルオキサレートと、LiPFとを含有する電解質組成物を開示する。
【0009】
別の態様では、含フッ素溶媒と、式III:
LiPF(6-2q)(C (III)
(式中、qは1、2、または3である)
により表されるリチウムオキサラトリン酸塩とを含有する電解質組成物であって、前記オキサラトリン酸塩が、式I:
RR’Si(C) (I)
(式中、RおよびR’は、それぞれ互いに同じであるかまたは異なり、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、カルボニル、およびカルボキシル基から選択される少なくとも1つの置換基を任意選択的に含んでいてもよいC~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、またはC~C10アリールラジカルから独立して選択される)
により表される少なくとも1種のシリルオキサレートから誘導される少なくとも一部分を含む、電解質組成物が提供される。
【0010】
ある実施形態では、RおよびR’は、それぞれ独立に、メチル、エチル、またはフェニルである。ある実施形態では、シリルオキサレートは、ジメチルシリルオキサレート、ビニルフェニルシリルオキサレート、メチルビニルシリルオキサレート、またはジフェニルシリルオキサレートを含む。
【0011】
ある実施形態では、含フッ素溶媒は、フッ化非環状カルボン酸エステル、フッ化非環状カーボネート、およびフッ化非環状エーテルから選択される少なくとも1種の含フッ素溶媒である。いくつかの実施形態では、フッ化非環状カルボン酸エステルは2,2-ジフルオロエチルアセテートを含む。
【0012】
ある実施形態では、電解質組成物は、リチウムホウ素化合物、環状スルトン、環状硫酸エステル、環状カルボン酸無水物、またはこれらの組み合わせなどの添加剤をさらに含有する。
【0013】
別の実施形態では、本明細書に開示の電解質組成物を含む電気化学セルが本明細書において提供される。別の実施形態では、電気化学セルはリチウムイオン電池である。さらなる実施形態では、電気化学セルは、約4.1Vより大きい電位で作動するリチウムイオン電池である。
【0014】
また別の実施形態では、電解質組成物の形成方法が開示され、方法は、含フッ素溶媒と、式I:
RR’Si(C) (I)
(式中、RおよびR’は、それぞれ互いに同じであるかまたは異なり、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、カルボニル、およびカルボキシル基から選択される少なくとも1つの置換基を任意選択的に含んでいてもよいC~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、またはC~C10アリールラジカルから独立して選択される)
により表される少なくとも1種のシリルオキサレートと、LiPFとを混合する工程を含む。
【0015】
本明細書では、式RR’Si(C)(式中、RおよびR’は、それぞれ独立に、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、ビニル、またはフェニルである)のジアルキルシリルオキサレートも開示される。ある実施形態では、RおよびR’はそれぞれメチルである。別の実施形態では、Rがメチルであり、R’がエチル、ビニル、またはフェニルである。
【0016】
開示された発明の他の態様は、本来固有であり得るか、または本出願の単一の実施例において具体的にあるいは完全に具体化されて具体的に記載されていなくても、本明細書に提供される開示から理解され得る。そして、これは、それにもかかわらず、本出願において提供される説明、実施例および請求の範囲全体、すなわち、本明細書全体から、当業者によって合成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】サイクル後の比較例Dのコインセルのアノードからの、深さ方向の組成のX線光電子分光のデプスプロファイル(原子%)である。
図2】サイクル後の比較例Gのコインセルのアノードからの、深さ方向の組成のX線光電子分光のデプスプロファイル(原子%)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上におよび本開示の全体にわたって使用される以下の用語は、別記しない限り、以下の通り定義されるものとする。
【0019】
本明細書で使用される用語「電解質組成物」は、最低でも、電解質塩のための溶媒と電解質塩とを含む化学組成物であって、電気化学セルで電解質を供給することができる組成物を意味する。電解質組成物は、他の成分、例えば、安全性、信頼性および/または効率における電池の性能を強化する添加剤を含むことができる。
【0020】
本明細書で使用される用語「電解質塩」は、電解質組成物の溶媒に少なくとも部分的に可溶性であり、かつ電解質組成物の溶媒中で少なくとも部分的にイオンへと解離して導電性電解質組成物を形成するイオン塩を意味する。
【0021】
本明細書で定義される「電解質溶媒」は、含フッ素溶媒を含む電解質組成物のための溶媒または溶媒の混合物である。
【0022】
用語「アノード」は、そこで酸化が起こる、電気化学セルの電極を意味する。二次(すなわち再充電可能)電池では、アノードは、そこで放電中に酸化が起こり、充電中に還元が起こる電極である。
【0023】
用語「カソード」は、そこで還元が起こる、電気化学セルの電極を意味する。二次(すなわち再充電可能)電池では、カソードは、そこで放電中に還元が起こり、充電中に酸化が起こる電極である。
【0024】
用語「リチウムイオン電池」は、リチウムイオンが、放電中にアノードからカソードへ、充電中にカソードからアノードへ移動するタイプの再充電可能な電池を意味する。
【0025】
リチウムとリチウムイオンとの間の平衡電位は、約1モル/リットルのリチウムイオン濃度を与えるのに十分な濃度でリチウム塩を含有する非水電解質と接触しているリチウム金属を使用する参照電極の電位であり、参照電極の電位がその平衡値(Li/Li)から有意に変化しないよう十分に小さい電流が流される。そのようなLi/Li参照電極の電位は、ここでは0.0Vの値が割り当てられる。アノードまたはカソードの電位は、アノードまたはカソードと、Li/Li参照電極のそれとの間の電位差を意味する。ここで電圧とは、セルのカソードとアノードとの間の電圧差を意味し、そのいずれの電極も0.0Vの電位で作動できない。
【0026】
エネルギー貯蔵デバイスは、電池またはコンデンサーなどの、必要に応じて電気エネルギーを供給するように設計されている装置である。本明細書で想定されるエネルギー貯蔵デバイスは、少なくとも部分的に電気化学的供給源からエネルギーを提供する。
【0027】
本明細書で使用される用語「SEI」は、電極の活物質上に形成される固体電解質界面層を意味する。リチウムイオン二次電気化学セルは、充電されていない状態で組み立てられ、使用のために充電される必要がある(形成と呼ばれるプロセス)。リチウムイオン二次電気化学セルの最初の数回の充電事象(電池形成)中に、電解質の成分は、負極活物質の表面で還元されるか、そうでない場合は分解されるかまたは組み込まれ、正極活物質の表面で酸化されるか、そうでない場合は分解されるかまたは組み込まれ、活物質上に固体電解質界面を電気化学的に形成する。電気絶縁性であるがイオン伝導性であるこれらの層は、電解質の分解の防止に役立ち、またサイクル寿命を延ばし、電池の性能を改善することができる。アノード上では、SEIは電解質の還元的分解を抑制することができ、カソード上では、SEIは電解質成分の酸化を抑制することができる。
【0028】
本明細書で使用される用語「Ox」、「オキサラト」、および「C」は、互換的に使用され、例えばリンまたはケイ素などの原子に配位するオキサレート部位を意味する。
【0029】
本明細書で使用される用語「アルキル基」は、1~20個の炭素を含み不飽和を含まない直鎖、分岐、および環状の炭化水素基を意味する。直鎖アルキルラジカルの例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、およびドデシルが挙げられる。直鎖アルキル基の分岐鎖異性体の例としては、イソプロピル、iso-ブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、イソヘキシル、ネオヘキシル、およびイソオクチルが挙げられる。環状アルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、およびシクロオクチルが挙げられる。
【0030】
本明細書で用いられる用語「フルオロアルキル基」は、少なくとも1個の水素がフッ素によって置換されているアルキル基を意味する。
【0031】
本明細書で使用される用語「アルケニル基」は、2個の炭素原子間に少なくとも1つの二重結合が存在することを除いては本明細書で定義したアルキル基に関して記述されたような、直鎖、分岐、および環状の基を意味する。アルケニル基の例としては、ビニル、シクロヘキシル、シクロペンチル、シクロヘキサジエニル、およびブタジエニルが挙げられる。
【0032】
本明細書で使用される用語「アルキニル基」は、2個の炭素原子間に少なくとも1つの三重結合が存在することを除いては本明細書で定義したアルキル基に関して記述されたような、直鎖および分岐の基を意味する。
【0033】
本明細書で用いられる用語「カーボネート」」は、具体的には、炭酸のジアルキルジエステル誘導体である有機カーボネートを意味し、有機カーボネートは、一般式:ROCOORを有し、式中、RおよびRは、各々独立に、少なくとも1個の炭素原子を有するアルキル基から選択され、アルキル置換基は、同じであっても異なっていてもよく、飽和であっても不飽和であってもよく、置換されていてもいなくてもよく、連結した原子によって環状構造を形成することができ、あるいはアルキル基のいずれかまたは両方の置換基として環状構造を含み得る。
【0034】
本明細書では、含フッ素溶媒と、本明細書で定義される少なくとも1種のシリルオキサレート化合物と、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)とを含有する電解質組成物が開示される。本明細書では、含フッ素溶媒と、本明細書で定義されるリチウムオキサラトホスフェート塩とを含有する電解質組成物であって、オキサラトホスフェート塩が少なくとも1種のシリルオキサレート化合物から誘導される少なくとも一部分を含む電解質組成物も開示される。電解質組成物は、リチウムイオン電池などの電気化学セルにおいて有用である。
【0035】
ある実施形態では、電解質組成物は、
a)含フッ素溶媒;
b)式I:
RR’Si(C) (I)
(式中、RおよびR’は、それぞれ互いに同じであるかまたは異なり、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、カルボニル、およびカルボキシル基から選択される少なくとも1つの置換基を任意選択的に含んでいてもよいC~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、またはC~C10アリールラジカルから独立して選択される)
により表される少なくとも1種のシリルオキサレート;および
c)LiPF
を含有する。
【0036】
ある実施形態では、RおよびR’は、それぞれ独立に、メチル、エチル、またはフェニルである。ある実施形態においては、シリルオキサレートは、ジメチルシリルオキサレート、ビニルフェニルシリルオキサレート、メチルビニルシリルオキサレート、またはジフェニルシリルオキサレートを含む。
【0037】
ある実施形態では、電解質組成物は、少なくとも1種のシリルオキサレートを含み、シリルオキサレートは、式I:
RR’Si(C) (I)
(式中、RおよびR’は、それぞれ互いに同じであるかまたは異なり、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、カルボニル、およびカルボキシル基から選択される少なくとも1つの置換基を任意選択的に含んでいてもよいC~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、またはC~C10アリールラジカルから独立して選択される)
によって表される。式Iのシリルオキサレートは、下に示す式IA:
の構造によって表すこともできる。
【0038】
式Iのシリルオキサレートは中性の分子であり、式中のケイ素原子は四価であり、オキサレート部位(C)はケイ素原子と共に5員環構造を形成し、ケイ素原子は、オキサレート部位の単結合酸素原子のそれぞれならびにRおよびR’ラジカルに結合している。RおよびR’ラジカルは、独立に、環状、直鎖、または分岐であってもよい。いくつかの実施形態では、RおよびR’は、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、フェニル、およびビニルラジカルから独立して選択される。いくつかの実施形態では、RおよびR’ラジカルは、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、カルボニル、およびカルボキシル基から選択される1種以上の置換基で置換されている。「ハロゲン基」とは、F、Cl、Br、またはIを意味する。いくつかの実施形態では、RおよびR’ラジカルはフッ素で置換されている。ある実施形態では、シリルオキサレートは、ジメチルシリルオキサレート、ビニルフェニルシリルオキサレート、メチルビニルシリルオキサレート、またはジフェニルシリルオキサレートを含む。ある実施形態では、シリルオキサレートはジメチルシリルオキサレートを含む。
【0039】
式Iのシリルオキサレートは通常、シュウ酸と、対応するRおよびR’を含むわずかに化学量論過剰のクロロシランとを反応させることにより調製することができる。有用なシラン:オキサレートのモル比は、例えば約1.2:1などの約1.1:1~約1.3:1の範囲であってもよい。例えば、ジメチルシリルオキサレートは、シュウ酸とジクロロジメチルシランとを反応させることにより調製することができる。ジメチルシリルオキサレートは、シュウ酸とジクロロジメチルシランとの反応により調製することができる。メチルビニルシリルオキサレートは、シュウ酸とジクロロメチルビニルシランとの反応により調製することができる。
【0040】
いくつかの実施形態では、式Iのシリルオキサレートは式RR’Si(C)のジアルキルシリルオキサレートであり、式中のRおよびR’は、それぞれ独立にメチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、ビニル、またはフェニルである。ある実施形態では、RおよびR’はそれぞれメチルである。別の実施形態では、Rはメチルであり、R’はエチル、ビニル、またはフェニルである。
【0041】
さらに、
a)含フッ素溶媒;
b)式II:
(RR’R’’Si)(C) (II)
(式中、R、R’およびR’’は、それぞれ互いに同じであるかまたは異なり、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、カルボニル、およびカルボキシル基から選択される少なくとも1つの置換基を任意選択的に含んでいてもよいC~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、またはC~C10アリールラジカルから独立して選択される)
により表される少なくとも1種のシリルオキサレート;および
c)LiPF
を含有する電解質組成物も開示される。
【0042】
ある実施形態では、R、R’およびR’’は、それぞれ独立にメチル、エチル、またはフェニルである。ある実施形態では、シリルオキサレートはジメチルシリルオキサレート、ビス(トリメチルシリル)オキサレート、ビニルフェニルシリルオキサレート、メチルビニルシリルオキサレート、またはジフェニルシリルオキサレートを含む。
【0043】
この実施形態によれば、電解質組成物は、少なくとも1種のシリルオキサレートを含有し、このシリルオキサレートは式II:
(RR’R’’Si)(C) (II)
(式中、R、R’、およびR’’は、それぞれ互いに同じであるかまたは異なり、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、カルボニル、およびカルボキシル基から選択される少なくとも1つの置換基を任意選択的に含んでいてもよいC~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、またはC~C10アリールラジカルから独立して選択される)
により表される。式IIのシリルオキサレートは、以下に示す式IIA:
の構造によって表すこともできる。
【0044】
式IIのシリルオキサレートは中性の分子であり、式中の各ケイ素原子は四価であり、R、R’、およびR’’ラジカルに結合している。各ケイ素原子は、オキサレート部位の単結合酸素原子の1つとも結合しており、その結果1つのオキサレート部位が2つのケイ素原子を架橋している。R、R’およびR’’ラジカルは、独立に、環状、直鎖、または分岐であってもよい。いくつかの実施形態では、R、R’、およびR’’は、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、フェニル、およびビニルラジカルから独立して選択される。いくつかの実施形態では、R、R’およびR’’ラジカルは、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、カルボニル、およびカルボキシル基から選択される1種以上の置換基で置換されている。いくつかの実施形態では、RおよびR’ラジカルはフッ素で置換されている。ある実施形態では、シリルオキサレートは、ビス(トリメチルシリル)オキサレートを含む。
【0045】
式IIのシリルオキサレートは、通常、シュウ酸と、R、R’、およびR’’を含む化学量論過剰のクロロシランとを反応させることにより調製することができる。典型的には、シラン対オキサレートのモル比は、例えば約2.9などの約2.8:1~約3:1の範囲である。
【0046】
少なくとも1種のシリルオキサレートは、電解質組成物の望みの特性に応じて様々な量で使用することができる。ある実施形態では、シリルオキサレートは、電解質組成物の総重量を基準として、約0.1重量%~約10重量%の範囲で電解質組成物中に存在する。別の実施形態では、シリルオキサレートは、下限および上限により規定される重量パーセントの範囲で電解質組成物中に存在する。範囲の下限は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.2、2.4、2.6、2.8、3、3.2、3.4、3.6、3.8、4、4.2、4.4、4.6、4.8、または5であり、範囲の上限は、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6、6.2、6.4、6.6、6.8、7、7.2、7.4、7.6、7.8、8、8.2、8.4、8.6、8.8、9、9.2、9.4、9.6、9.8、または10である。全ての重量%は電解質組成物の総重量を基準とする。
【0047】
電解質組成物中で少なくとも1種のシリルオキサレートを使用すると、リチウムイオン電池、またはキャパシタなどの他のエネルギー貯蔵デバイスの性能を改善することができる。理論に拘束されるものではないが、この改善は、電解質組成物中のシリルオキサレートとオキサレート反応性成分とが反応して電解質添加剤が系中で形成されることによりもたらされ得る。オキサレート反応性成分は、シリルオキサレートなどのオキサレート源と反応できる、混合物の任意の成分であってもよく、これによりオキサレート反応性成分への少なくとも1つの結合が、オキサレート源からのアニオン性酸素と形成される。あるいは、オキサレートは、オキサレート反応性成分からの置換基の置換を必要としないオキサレート反応性成分との付加生成物を形成し得る。
【0048】
いくつかの実施形態では、オキサレート反応性材料は、電解質組成物の導電性のために必要な量よりも過剰の量で存在し得る電解質塩であってもよい。別の実施形態では、オキサレート反応性材料は、電解質塩と組み合わされて存在する追加的な成分であってもよい。適切な条件下で、オキサレート反応性材料は、本明細書に記載の種類のシリルオキサレートと反応して、オキサレート反応性材料のオキサレート塩を形成することができる。オキサレート反応性化合物の例としては、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)およびリチウムトリフルオロトリス(パーフルオロエチル)ホスフェート[LiPF(C]などのフッ化ホスフェート、ならびにリチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート[LiPF(C)]およびリチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート[LiPF(C]などのリチウムオキサラトホスフェート塩が挙げられる。他の有用なオキサレート反応性化合物としては、フッ化ホウ酸塩およびフッ化ヒ酸塩が挙げられる。ある実施形態では、オキサレート反応性材料はLiPFを含む。ある実施形態では、オキサレート反応性材料はLiPF(C)を含む。ある実施形態では、オキサレート反応性材料はLiPF(Cを含む。ある実施形態では、オキサレート反応性材料はLiPF(Cを含む。ある実施形態では、オキサレート反応性材料はLiBFを含む。ある実施形態では、オキサレート反応性材料はLiAsFを含む。
【0049】
ある実施形態では、オキサレート塩の少なくとも一部分は、シリルオキサレートとオキサレート反応性成分との間の反応によりもたらされる。好適なシリルオキサレートは、電解質組成物の貯蔵条件または使用条件下でオキサレート反応性成分上の置換基を置換してオキサレート反応性成分のオキサレート塩を形成するために十分に活性であるものである。ある実施形態では、オキサレート塩はリチウムオキサラトホスフェート塩を含み、オキサラトホスフェート塩は、本明細書の上で定義した式Iにより表される少なくとも1種のシリルオキサレートから誘導される少なくとも一部分を含む。
【0050】
ある実施形態では、電解質組成物は、
a)含フッ素溶媒;および
b)式III:
LiPF(6-2q)(C (III)
(式中、qは1、2、または3である)
により表されるリチウムオキサラトホスフェート塩
を含有し、オキサラトホスフェート塩は、式I:
RR’Si(C) (I)
(式中、RおよびR’は、それぞれ互いに同じであるかまたは異なり、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、カルボニル、およびカルボキシル基から選択される少なくとも1つの置換基を任意選択的に含んでいてもよいC~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、またはC~C10アリールラジカルから独立して選択される)
により表される少なくとも1種のシリルオキサレートから誘導される少なくとも一部分を含む。q=3の場合、リチウムオキサラトホスフェート塩はリチウムトリス(オキサラト)ホスフェート、LiP(Cであり、これは本明細書ではLiTOPと短縮される。q=2の場合、リチウムオキサラトホスフェートはリチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、LiPF(Cである。q=1の場合、リチウムオキサラトホスフェートはリチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート、LiPF(C)である。ある実施形態では、電解質組成物は、オキサラトホスフェート塩としてリチウムトリス(オキサラト)ホスフェートを含む。ある実施形態では、電解質組成物は、オキサラトホスフェート塩としてリチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェートを含む。ある実施形態では、電解質組成物は、オキサラトホスフェート塩としてリチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェートを含む。
【0051】
本明細書に記載の含フッ素溶媒中のリチウムオキサラトホスフェート錯体を含む電解質溶媒混合物は、例えば、オキサレート基がオキサレート部位の単結合酸素原子のうちの1つだけがリンに結合しているリンとの一座配位錯体を形成している中間体などの、様々な錯体形成の段階または程度で存在するオキサラトホスフェート塩を含み得る。オキサレートからの両方の単結合酸素原子がリンに結合している二座配位形態が、典型的には主要な形態である。便宜上、用語「オキサラトホスフェート」は、特段の記載がない限り、式LiPF(6-2q)(Cによって定義されるオキサラトホスフェートを含み得る、または組成物中にその他存在し得る、任意の個々のオキサラトホスフェート、あるいは
任意の組み合わせのまたは全ての様々な組成物、を指すために総称的に使用されるものとする。
【0052】
電解質組成物の中で、本明細書に開示のLiPFとシリルオキサレートとの反応は室温で生じ得る。反応時間は室温で数時間から数日まで様々な場合があり、また温度を挙げることにより速めることができる。ある実施形態では、電解質組成物中のLiPFの初期濃度は、シリルオキサレートの濃度よりも高い。ある実施形態では、電解質組成物中のLiPFの初期濃度は、シリルオキサレートの濃度とほぼ同じである。電解質組成物中でシリルオキサレートを使用すると、電気化学的サイクルの後に、電極の活物質上に形成される固体の電解質界面(SEI)層の組成を変更することができる。この変更は、電池の性能およびそのサイクル寿命の耐久性に有益な影響を有し得る。
【0053】
電解質組成物はLiPFを含有する。LiPFは、約0.2M~約2.0M、例えば約0.3M~約1.7M、または例えば約0.5M~約1.2M、または例えば約0.5M~約1.7Mの量で電解質組成物中に存在することができる。
【0054】
任意選択的には、本明細書に開示の電解質組成物は、LiPFに加えて少なくとも1種の追加的な電解質塩をさらに含有する。好適な追加的な電解質塩としては、限定するものではないが、
リチウムビス(トリフルオロメチル)テトラフルオロホスフェート(LiPF(CF)、
リチウムビス(ペンタフルオロエチル)テトラフルオロホスフェート(LiPF(C)、
リチウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(LiPF(C)、
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、
リチウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド、
リチウム(フルオロスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、
リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、
テトラフルオロホウ酸リチウム、
過塩素酸リチウム、
ヘキサフルオロヒ酸リチウム、
トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、
リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド、
ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム、
ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、
Li1212-x(式中のxは0~8である)、および
フッ化リチウムとB(OCなどのアニオンレセプターとの混合物
が挙げられる。
【0055】
2種以上のこれらの混合物または同等の電解質塩も使用することができる。ある実施形態では、追加的な電解質塩は、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含む。追加的な電解質塩は、約0.2M~約2.0M、例えば約0.3M~約1.7M、または例えば約0.5M~約1.2M、または例えば0.5M~約1.7Mの量で電解質組成物中に存在することができる。
【0056】
本明細書に記載の電解質組成物は、1種以上の含フッ素溶媒を含有する。含フッ素溶媒は、フッ化非環状カルボン酸エステル、フッ化非環状カーボネート、およびフッ化非環状エーテルから選択される少なくとも1種の含フッ素溶媒である。
【0057】
好適なフッ化非環状カルボン酸エステルは、式:
-COO-R
により表され、式中、
i)Rは、H、アルキル基、またはフルオロアルキル基であり;
ii)Rは、アルキル基またはフルオロアルキル基であり;
iii)RおよびRのいずれかまたは両方はフッ素を含み;
iv)RおよびRは、一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含む。
【0058】
ある実施形態では、RはHであり、Rはフルオロアルキル基である。ある実施形態では、Rはアルキル基であり、Rはフルオロアルキル基である。ある実施形態では、Rはフルオロアルキル基であり、Rはアルキル基である。ある実施形態では、Rはフルオロアルキル基であり、Rはフルオロアルキル基であり、RおよびRは互いに同じであっても異なっていてもよい。ある実施形態では、Rは1つの炭素原子を含む。ある実施形態では、Rは2つの炭素原子を含む。
【0059】
別の実施形態では、RおよびRは上で定義した通りであり、RおよびRは、一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含み、かつさらに少なくとも2つのフッ素原子を含むが、RおよびRのいずれもFCH-基またはFCH-基を含まないことを条件とする。
【0060】
ある実施形態では、上記式におけるR中の炭素原子の数は、1、3、4、または5である。
【0061】
別の実施形態では、上記式におけるR中の炭素原子の数は1である。
【0062】
適切なフッ化非環状カルボン酸エステルの例としては、限定するものではないが、CH-COO-CHCFH(2,2-ジフルオロエチルアセテート、CAS番号-1550-44-3)、CH-COO-CHCF(2,2,2-トリフルオロエチルアセテート、CAS番号406-95-1)、CHCH-COO-CHCFH(2,2-ジフルオロエチルプロピオネート、CAS番号1133129-90-4)、CH-COO-CHCHCFH(3,3-ジフルオロプロピルアセテート)、CHCH-COO-CHCHCFH(3,3-ジフルオロプロピルプロピオネート)、FCHCH-COO-CH、FCHCH-COO-CHCH、およびFCHCHCH-COO-CHCH(エチル4,4-ジフルオロブタノエート、CAS番号1240725-43-2)、H-COO-CHCFH(ジフルオロエチルホルメート、CAS番号1137875-58-1)、H-COO-CHCF(トリフルオロエチルホルメート、CAS番号32042-38-9)、ならびにそれらの混合物が挙げられる。ある実施形態では、フッ化非環状カルボン酸エステルは、2,2-ジフルオロエチルアセテート(CH-COO-CHCFH)を含む。ある実施形態では、フッ化非環状カルボン酸エステルは、2,2-ジフルオロエチルプロピオネート(CHCH-COO-CHCFH)を含む。ある実施形態では、フッ化非環状カルボン酸エステルは、2,2,2-トリフルオロエチルアセテート(CH-COO-CHCF)を含む。ある実施形態では、フッ化非環状カルボン酸エステルは、2,2-ジフルオロエチルホルメート(H-COO-CHCFH)を含む。
【0063】
ある実施形態では、好適なフッ化非環状カーボネートは、式R-OCOO-Rによって表され、式中のRおよびRは、独立に直鎖または分岐のアルキル基を表し、式RとRの中の炭素原子の合計は2~7であり、Rおよび/またはRの中の少なくとも2つの水素原子はフッ素により置換されており(すなわち、Rの中の少なくとも2つの水素がフッ素により置換されているか、Rの中の少なくとも2つの水素がフッ素により置換されているか、Rの中の少なくとも2つの水素およびRの中の少なくとも2つの水素がフッ素により置換されている)、RとRのいずれもFCHまたはFCH基を含まない。
【0064】
別の実施形態では、好適なフッ化非環状カーボネートは、式:
-OCOO-R
により表され、式中、
i)Rはフルオロアルキル基であり;
ii)Rはアルキル基またはフルオロアルキル基であり;
iii)RおよびRは、一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含む。
【0065】
ある実施形態では、Rはフルオロアルキル基であり、Rはアルキル基である。ある実施形態では、Rがフルオロアルキル基かつRがフルオロアルキル基であり、RおよびRは互いに同じであっても異なっていてもよい。ある実施形態では、Rは1つの炭素原子を含む。ある実施形態では、Rは2つの炭素原子を含む。
【0066】
別の実施形態では、RおよびRは上で定義した通りであり、RおよびRは、一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含み、かつさらに少なくとも2つのフッ素原子を含むが、RとRのいずれもFCH-基または-FCH-基を含まないことを条件とする。
【0067】
好適なフッ化非環状カーボネートの例としては、限定するものではないが、CH-OC(O)O-CHCFH(メチル2,2-ジフルオロエチルカーボネート、CAS番号916678-13-2)、CH-OC(O)O-CHCF
(メチル2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート、CAS番号156783-95-8)、CH-OC(O)O-CHCFCFH(メチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルカーボネート、CAS番号156783-98-1)、HCFCH-OCOO-CHCH(エチル2,2-ジフルオロエチルカーボネート、CAS番号916678-14-3)、およびCFCH-OCOO-CHCH(エチル2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート、CAS番号156783-96-9)が挙げられる。
【0068】
ある実施形態では、好適なフッ化非環状エーテルは式:R-O-Rによって表され、式中のRおよびRは、独立に直鎖または分岐のアルキル基を表し、RおよびRの中の炭素原子の合計は2~7であり、Rおよび/またはRの中の少なくとも2つの水素原子はフッ素により置換されており(すなわち、Rの中の少なくとも2つの水素がフッ素により置換されているか、Rの中の少なくとも2つの水素がフッ素により置換されているか、Rの中の少なくとも水素がフッ素により置換されているかつRの中の少なくとも2つの水素がフッ素により置換されている)、RおよびRのいずれもFCHまたはFCH基を含まない。
【0069】
別の実施形態では、好適なフッ化非環状エーテルは、式
-O-R
によって表され、式中、
i)Rはフルオロアルキル基であり;
ii)Rはアルキル基またはフルオロアルキル基であり;
iii)RおよびRは、一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含む。
【0070】
ある実施形態では、Rはフルオロアルキル基であり、Rはアルキル基である。ある実施形態では、Rはフルオロアルキル基であり、Rはフルオロアルキル基であり、RおよびRは互いに同じであっても異なっていてもよい。ある実施形態では、Rは1つの炭素原子を含む。ある実施形態では、Rは2つの炭素原子を含む。
【0071】
別の実施形態では、RおよびRは上で定義した通りであり、RおよびRは、一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含み、かつさらに少なくとも2つのフッ素原子を含むが、RとRのいずれもFCH-基またはFCH-基を含まないことを条件とする。
【0072】
適切なフッ化非環状エーテルの例としては、限定されないが、HCFCFCH-O-CFCFH(CAS番号16627-68-2)およびHCFCH-O-CFCFH(CAS番号50807-77-7)が挙げられる。
【0073】
含フッ素溶媒は、フッ化非環状カルボン酸エステル、フッ化非環状カーボネート、フッ化非環状エーテル、またはこれらの混合物を含み得る。本明細書で使用される用語「それらの混合物」は、例えば2種以上のフッ化非環状カルボン酸エステルの混合物、および例えばフッ化非環状カルボン酸エステルとフッ化非環状カーボネートとの混合物などの、溶媒の分類の中での混合物と溶媒の分類間の混合物の両方を包含する。非限定的な例としては、2,2-ジフルオロエチルアセテートと2,2-ジフルオロエチルプロピオネートとの混合物;および2,2-ジフルオロエチルアセテートと2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートとの混合物が挙げられる。
【0074】
ある実施形態では、含フッ素溶媒は、
a)式:R-COO-Rにより表されるフッ化非環状カルボン酸エステル;
b)式:R-OCOO-Rにより表されるフッ化非環状カーボネート;
c)式:R-O-Rにより表されるフッ化非環状エーテル;
またはこれらの混合物であり、式中、
i)Rは、H、アルキル基、またはフルオロアルキル基であり;
ii)RおよびRは、それぞれ独立にフルオロアルキル基であり、これらは互いに同じであっても異なっていてもよく;
iii)R、R、およびRは、それぞれ独立に、アルキル基またはフルオロアルキル基であり、これらは互いに同じであっても異なっていてもよく;
iv)RおよびRのうちのいずれかまたは両方はフッ素を含み;
v)RおよびR、RおよびR、ならびにRおよびRは、それぞれ一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含む。
【0075】
別の実施形態では、含フッ素溶媒は、
a)式:R-COO-Rにより表されるフッ化非環状カルボン酸エステル;
b)式:R-OCOO-Rにより表されるフッ化非環状カーボネート;
c)式:R-O-Rにより表されるフッ化非環状エーテル;
またはこれらの混合物であり、式中、
i)Rは、H、アルキル基、またはフルオロアルキル基であり;
ii)RおよびRは、それぞれ独立にフルオロアルキル基であり、これらは互いに同じであっても異なっていてもよく;
iii)R、R、およびRは、それぞれ独立に、アルキル基またはフルオロアルキル基であり、これらは互いに同じであっても異なっていてもよく;
iv)RおよびRのうちのいずれかまたは両方はフッ素を含み;
v)RおよびR、RおよびR、ならびにRおよびRは、それぞれ一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含むが、R、R、R、R、R、およびRのいずれもFCH-基または-FCH-基を含まないことを条件とする。
【0076】
別の実施形態では、上の式中のRおよびRはフッ素を含まず、RおよびRはフッ素を含む。
【0077】
本明細書に開示の電解質組成物では、含フッ素溶媒またはその混合物は、電解質組成物の望まれる特性に応じて様々な量で使用することができる。ある実施形態では、含フッ素溶媒は電解質組成物の約5重量%~約95重量%を構成する。別の実施形態では、含フッ素溶媒は電解質組成物の約10重量%~約80重量%を構成する。別の実施形態では、含フッ素溶媒は電解質組成物の約30重量%~約70重量%を構成する。別の実施形態では、含フッ素溶媒は電解質組成物の約50重量%~約70重量%を構成する。別の実施形態では、含フッ素溶媒は電解質組成物の約45重量%~約65重量%を構成する。別の実施形態では、含フッ素溶媒は電解質組成物の約6重量%~約30重量%を構成する。別の実施形態では、含フッ素溶媒は電解質組成物の約60重量%~約65重量%を構成する。別の実施形態では、含フッ素溶媒は電解質組成物の約20重量%~約45重量%を構成する。
【0078】
本明細書で使用するために適したフッ化非環状カルボン酸エステル、フッ化非環状カーボネート、およびフッ化非環状エーテルは、公知の方法を使用して調製することができる。例えば、塩化アセチルを(塩基性触媒ありまたはなしで)2,2-ジフルオロエタノールと反応させて、2,2-ジフルオロエチルアセテートを形成することができる。さらに、2,2-ジフルオロエチルアセテートおよび2,2-ジフルオロエチルプロピオネートは、Wiesenhoferらによって記載された方法を使用して調製することができる(国際公開第2009/040367A1号パンフレット、実施例5)。あるいは、2,2-ジフルオロエチルアセテートは、本明細書の以降の実施例に記載の方法を用いて調製することができる。他のフッ化非環状カルボン酸エステルは、異なる出発カルボキシレート塩を使用して同じ方法を使用して調製されてもよい。同様に、クロロギ酸メチルを2,2-ジフルオロエタノールと反応させてメチル2,2-ジフルオロエチルカーボネートを形成することができる。HCFCFCH-O-CFCFHの合成は、塩基(例えばNaH等)の存在下で2,2,3,3-テトラフルオロプロパノールをテトラフルオロエチレンと反応させることによって行うことができる。同様に、2,2-ジフルオロエタノールとテトラフルオロエチレンとの反応により、HCFCH-O-CFCFHが得られる。あるいは、これらの含フッ素溶媒のいくつかは、Matrix Scientific(Columbia SC)などの企業から購入することができる。最善の結果を得るためには、フッ化非環状カルボン酸エステルおよびフッ化非環状カーボネートを、少なくとも約99.9%、より具体的には少なくとも約99.99%の純度レベルまで精製することが望ましい。これらの含フッ素溶媒は、真空蒸留または回転バンド蒸留などの蒸留方法を使用して精製することができる。
【0079】
電解質組成物は、フッ素化されていてもいなくてもよく、直鎖であっても環状であってもよい1種以上の有機カーボネートをさらに含んでもよい。適切な有機カーボネートとしては、例えば、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンとしても知られているフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートの全ての異性体;1,3-ジオキサラン-2-オンとしても知られているエチレンカーボネート;エチルメチルカーボネート;4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンを含むジフルオロエチレンカーボネートの全ての異性体;4,5-ジフルオロ-4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;テトラフルオロエチレンカーボネート;ジメチルカーボネート;ジエチルカーボネート;プロピレンカーボネート;ビニレンカーボネート;ジ-tert-ブチルカーボネート;2,2,3,3-テトラフルオロプロピルメチルカーボネート;ビス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)カーボネート;ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート;2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート;ビス(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート;2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート;ジプロピルカーボネート;メチルプロピルカーボネート;エチルプロピルビニレンカーボネート;メチルブチルカーボネート;エチルブチルカーボネート;プロピルブチルカーボネート;ジブチルカーボネート;ビニルエチレンカーボネート;ジメチルビニレンカーボネート;2,3,3-トリフルオロアリルメチルカーボネート;またはこれらの混合物が挙げられる。電池グレードであるか、少なくとも約99.9%、例えば少なくとも約99.99%の純度レベルを有するカーボネートを使用することが望ましい。有機カーボネートは市販されており、あるいは当該技術分野において公知の方法によって調製することができる。
【0080】
いくつかの実施形態では、電解質組成物は環状カーボネートをさらに含む。ある実施形態では、環状カーボネートはフルオロエチレンカーボネートを含む。ある実施形態では、環状カーボネートはエチレンカーボネートを含む。ある実施形態では、環状カーボネートはプロピレンカーボネートを含む。ある実施形態では、環状カーボネートはフルオロエチレンカーボネートおよびエチレンカーボネートを含む。ある実施形態では、環状カーボネートはフルオロエチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートを含む。
【0081】
1種以上の有機カーボネートは、電解質組成物の望まれる特性に応じて様々な量で使用することができる。ある実施形態では、1種以上の有機カーボネートは、電解質組成物の約0.5重量%~約95重量%、または約5重量%~約95重量%、または電解質組成物の約10重量%~約80重量%、または電解質組成物の約20重量%~約40重量%、または電解質組成物の約25重量%~約35重量%の範囲で電解質組成物中に存在する。別の実施形態では、有機カーボネートは、電解質組成物の約0.5重量%~約10重量%、または約1重量%~約10重量%、または約5重量%~約10重量%を構成する。別の実施形態では、1種以上の有機カーボネートは、下限および上限により規定される重量%の範囲で電解質組成物中に存在する。範囲の下限は、0.5、1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25であり、範囲の上限は26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、または95である。全ての重量%は電解質組成物の総重量を基準とする。
【0082】
任意選択的には、本明細書に記載の電解質組成物は、リチウムホウ素化合物、環状スルトン、環状硫酸エステル、環状カルボン酸無水物、またはそれらの組み合わせなどの添加剤をさらに含有していてもよい。
【0083】
いくつかの実施形態では、電解質組成物は、リチウムホウ素化合物をさらに含有する。好適なリチウムホウ素化合物としては、リチウムテラフルオロボレート(lithium terafluoroborate)、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、他のリチウムホウ素塩、Li1212-x(式中のxは0~8である)、フッ化リチウムとB(OCなどのアニオンレセプターとの混合物、またはそれらの混合物が挙げられる。ある実施形態では、電解質組成物は、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、リチウムテトラフルオロボレート、またはそれらの混合物から選択される少なくとも1種のリチウムボレート塩を追加的に含有する。いくつかの実施形態では、電解質組成物は、リチウムビス(オキサラト)ボレートを含有する。いくつかの実施形態では、電解質組成物は、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートを含有する。いくつかの実施形態では、電解質組成物は、リチウムテトラフルオロボレートを含有する。リチウムボレート塩は、電解質組成物の総重量を基準として、0.1~約10重量%の範囲、例えば0.1~約5.0重量%、または0.3~約4.0重量%、または0.5~2.0重量%の範囲で電解質組成物中に存在し得る。リチウムホウ素化合物は商業的に入手することができ、あるいは当該技術分野において公知の方法によって調製することができる。
【0084】
いくつかの実施形態では、電解質組成物は環状スルトンをさらに含有する。好適なスルトンとしては、式:
により表されるものが挙げられ、式中の各Aは、独立して水素、フッ素、または任意選択的にフッ素化されていてもよいアルキル、ビニル、アリル、アセチレン、またはプロパルギル基である。ビニル(HC=CH-)、アリル(HC=CH-CH-)、アセチレン(HC≡C-)、またはプロパルギル(HC≡C-CH-)基は、それぞれ無置換であってもよく、あるいは部分的にまたは完全にフッ素化されていてもよい。それぞれのAは、他のA基の1つ以上と同一であっても異なっていてもよく、A基のうちの2つまたは3つが一緒に環を形成していてもよい。2種以上のスルトンの混合物も使用することができる。適切なスルトンとしては、1,3-プロパンスルトン、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、4-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、5-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、および1,8-ナフタレンスルトンが挙げられる。ある実施形態では、スルトンは、1,3-プロパンスルトンを含む。ある実施形態では、スルトンは、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトンを含む。
【0085】
ある実施形態では、スルトンは、全電解質組成物の約0.01~約10重量%、または約0.1重量%~約5重量%、または約0.5重量%~約3重量%、または約1重量%~約3重量%、または約1.5重量%~約2.5重量%、または約2重量%で存在する。
【0086】
いくつかの実施形態では、電解質組成物は、式:
により表される環状硫酸エステルをさらに含有し、式中、各Bは、独立に水素または任意選択的にフッ素化されていてもよいビニル、アリル、アセチレン、プロパルギル、またはC~Cアルキル基である。ビニル(HC=CH-)、アリル(HC=CH-CH-)、アセチレン(HC≡C-)、プロパルギル(HC≡C-CH-)、またはC~Cアルキル基は、それぞれ無置換であってもよく、あるいは部分的にまたは完全にフッ素化されていてもよい。2種以上の環状硫酸エステルの混合物も使用することができる。好適な環状硫酸エステルとしては、硫酸エチレン(1,3,2-ジオキサチオラン,2,2-ジオキシド)、1,3,2-ジオキサチオラン,4-エチニル-,2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン,4-エテニル-,2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン,ジエテニル-、2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン、4-メチル-,2,2-ジオキシド、および1,3,2-ジオキサチオラン,4,5-ジメチル-,2,2-ジオキシドが挙げられる。ある実施形態では、環状硫酸エステルは硫酸エチレンである。ある実施形態では、環状硫酸エステルは、全電解質組成物の約0.1重量%~約12重量%、または約0.5重量%から約10重量%未満、約0.5重量%から約5重量%未満、または約0.5重量%~約3重量%、または約0.5重量%~約2重量%、または約2重量%~約3重量%で存在する。ある実施形態では、環状硫酸エステルは、全電解質組成物の約1重量%~約3重量%、または約1.5重量%~約2.5重量%、または約2重量%で存在する。
【0087】
いくつかの実施形態では、電解質組成物は環状カルボン酸無水物をさらに含有する。好適な環状カルボン酸無水物としては、式(IV)~式(XI):
により表される化合物からなる群から選択されるものが挙げられ、式中、R~R14は、それぞれ独立して、H、F、任意選択的にF、アルコキシ、および/またはチオアルキル置換基で置換されていてもよい直鎖または分岐のC~C10アルキルラジカル、直鎖または分岐のC~C10アルケンラジカル、またはC~C10アリールラジカルである。アルコキシ置換基は、1個~10個の炭素を有していてもよく、また直鎖であっても分岐であってもよい。アルコキシ置換基の例としては、-OCH、-OCHCH、およびOCHCHCHが挙げられる。チオアルキル置換基は、1個~10個の炭素を有していてもよく、また直鎖であっても分岐であってもよい。チオアルキル置換基の例としては、-SCH、-SCHCH、およびSCHCHCHが挙げられる。適切な環状カルボン酸無水物の例としては、マレイン酸無水物;コハク酸無水物;グルタル酸無水物;2,3-ジメチルマレイン酸無水物;シトラコン酸無水物;1-シクロペンテン-1,2-ジカルボン酸無水物;2,3-ジフェニルマレイン酸無水物;3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物;2,3-ジヒドロ-1,4-ジチイオノ(dithiiono)-[2,3-c]フラン-5,7-ジオン;およびフェニルマレイン酸無水物が挙げられる。これらの環状カルボン酸無水物の2種以上の混合物も使用することができる。ある実施形態では、環状カルボン酸無水物は、マレイン酸無水物を含む。ある実施形態では、環状カルボン酸無水物は、マレイン酸無水物、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、2,3-ジメチルマレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、またはそれらの混合物を含む。環状カルボン酸無水物は、Sigma-Aldrich,Inc.(Milwaukee,WI)などの特殊化学品会社から入手することができ、あるいは当該技術において公知の方法を使用して調製することができる。少なくとも約99.0%、例えば、少なくとも約99.9%の純度レベルまで環状カルボン酸無水物を精製することが望ましい。精製は、当該技術において公知の方法を使用して行うことができる。
【0088】
いくつかの実施形態では、電解質組成物は、電解質組成物の総重量を基準として、約0.1重量%~約5重量%の環状カルボン酸無水物を含有する。いくつかの実施形態では、環状カルボン酸無水物は、下限および上限により規定される重量パーセントで電解質組成物中に存在する。範囲の下限は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、または2.5であり、範囲の上限は、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、または5.0である。全ての重量%は電解質組成物の総重量を基準とする。
【0089】
ある実施形態では、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルアセテートと、エチレンカーボネートと、少なくとも1種のシリルオキサレートとを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルアセテートと、プロピレンカーボネートと、少なくとも1種のシリルオキサレートとを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルアセテートと、フルオロエチレンカーボネートと、少なくとも1種のシリルオキサレートとを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルアセテートと、エチレンカーボネートと、フルオロエチレンカーボネートと、少なくとも1種のシリルオキサレートとを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルアセテートと、プロピレンカーボネートと、フルオロエチレンカーボネートと、少なくとも1種のシリルオキサレートとを含有する。
【0090】
ある実施形態では、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートと、エチレンカーボネートと、少なくとも1種のシリルオキサレートとを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートと、プロピレンカーボネートと、少なくとも1種のシリルオキサレートとを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートと、フルオロエチレンカーボネートと、少なくとも1種のシリルオキサレートとを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートと、エチレンカーボネートと、フルオロエチレンカーボネートと、少なくとも1種のシリルオキサレートとを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートと、プロピレンカーボネートと、フルオロエチレンカーボネートと、少なくとも1種のシリルオキサレートとを含有する。
【0091】
ある実施形態では、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルアセテートと、有機カーボネートと、ジメチルシリルオキサレートとを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルアセテートと、有機カーボネートと、メチルビニルシリルオキサレートとを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルアセテートと、有機カーボネートと、ビニルフェニルシリルオキサレートとを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルアセテートと、有機カーボネートと、ジフェニルシリルオキサレートとを含有する。
【0092】
ある実施形態では、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートと、有機カーボネートと、ジメチルシリルオキサレートとを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートと、有機カーボネートと、メチルビニルシリルオキサレートとを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートと、有機カーボネートと、ビニルフェニルシリルオキサレートとを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートと、有機カーボネートと、ジフェニルシリルオキサレートとを含有する。
【0093】
任意選択的に、本明細書に開示の電解質組成物は、特にリチウムイオン電池で使用するための従来の電解質組成物において有用である、当業者に公知の添加剤をさらに含んでいてもよい。例えば、本明細書に開示の電解質組成物は、リチウムイオン電池の充電および放電中に発生するガスの量を低減するために有用であるガス低減添加剤も含み得る。ガス低減添加剤は、いずれの有効量でも使用されることが可能であるが、電解質組成物の約0.05重量%~約10重量%、あるいは電解質組成物の約0.05重量%~約5重量%、または電解質組成物の約0.5重量%~約2重量を構成するように含まれていてもよい。
【0094】
従来公知の好適なガス低減添加剤は、例えば、フルオロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、またはハロアルキルベンゼンなどのハロベンゼン;1,3-プロパンスルトン;無水コハク酸;エチニルスルホニルベンゼン;2-スルホ安息香酸環状無水物;ジビニルスルホン;トリフェニルホスフェート(TPP);ジフェニルモノブチルホスフェート(DMP);γ-ブチロラクトン;2,3-ジクロロ-1,4-ナフトキノン;1,2-ナフトキノン;2,3-ジブロモ-1,4-ナフトキノン;3-ブロモ-1,2-ナフトキノン;2-アセチルフラン;2-アセチル-5-メチルフラン;2-メチルイミダゾール-1-(フェニルスルホニル)ピロール;2,3-ベンゾフラン;2,4,6-トリフルオロ-2-フェノキシ-4,6-ジプロポキシ-シクロトリホスファゼンおよび2,4,6-トリフルオロ-2-(3-(トリフルオロメチル)フェノキシ)-6-エトキシ-シクロトリホスファゼンなどのフルオロ-シクロトリホスファゼン;ベンゾトリアゾール;パーフルオロエチレンカーボネート;アニソール;ジエチルホスホネート;2-トリフルオロメチルジオキソランおよび2,2-ビストリフルオロメチル-1,3-ジオキソランなどのフルオロアルキル置換ジオキソラン;トリメチレンボレート;ジヒドロ-3-ヒドロキシ-4,5,5-トリメチル-2(3H)-フラノン;ジヒドロ-2-メトキシ-5,5-ジメチル-3(2H)-フラノン;ジヒドロ-5,5-ジメチル-2,3-フランジオン;プロペンスルトン;ジグリコール酸無水物;ジ-2-プロピニルオキサレート;4-ヒドロキシ-3-ペンテン酸γ-ラクトン;
CFCOOCHC(CH)(CHOCOCF;CFCOOCHCFCFCFCFCHOCOCF;α-メチレン-γ-ブチロラクトン;3-メチル-2(5H)-フラノン;5,6-ジヒドロ-2-ピラノン;ジエチレングリコール,ジアセテート;トリエチレングリコールジメタクリレート;トリグリコールジアセテート;1,2-エタンジスルホン酸無水物;1,3-プロパンジスルホン酸無水物;2,2,7,7-テトラオキシド1,2,7-オキサジチエパン;3-メチル-,2,2,5,5-テトラオキシド1,2,5-オキサジチオラン;ヘキサメトキシシクロトリホスファゼン;4,5-ジメチル-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;2-エトキシ-2,4,4,6,6-ペンタフルオロ-2,2,4,4,6,6-ヘキサヒドロ-1,3,5,2,4,6-トリアザトリホスホリン;2,2,4,4,6-ペンタフルオロ-2,2,4,4,6,6-ヘキサヒドロ-6-メトキシ-1,3,5,2,4,6-トリアザトリホスホリン;4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;1,4-ビス(エテニルスルホニル)-ブタン;ビス(ビニルスルホニル)-メタン;1,3-ビス(エテニルスルホニル)-プロパン;1,2-ビス(エテニルスルホニル)-エタン;エチレンカーボネート;ジエチルカーボネート;ジメチルカーボネート;エチルメチルカーボネート;および1,1’-[オキシビス(メチレンスルホニル)]ビス-エテンである。
【0095】
使用可能な他の適切な添加剤は、シラン、シラザン(Si-NH-Si)、エポキシド、アミン、(2個の炭素を含む)アジリジン、炭酸リチウムオキサレートの塩、B、ZnO、および含フッ素無機塩などのHF捕捉剤である。
【0096】
別の実施形態では、本明細書においては、ハウジングと、ハウジング内に配置され、互いにイオン伝導接触しているアノードおよびカソードと、アノードとカソードとの間にイオン導電経路を付与する本明細書で上述した電解質組成物と、アノードとカソードとの間の多孔質セパレータまたは微孔質セパレータと、を含む電気化学セルが提供される。いくつかの実施形態では、電気化学セルはリチウムイオン電池である。
【0097】
ハウジングは、電気化学セル構成要素を収納するための任意の好適な容器であってもよい。ハウジング材料は当該技術分野でよく知られており、例えば、金属およびポリマーハウジングを含むことができる。ハウジングの形状は特に重要ではないが、好適なハウジングは、小さいまたは大きい円筒、プリズムケースまたはパウチの形状に製造することができる。アノードおよびカソードは、電気化学セルのタイプに応じて任意の適した導電性材料からなってもよい。アノード材料の適した例には、限定されないが、リチウム金属、リチウム金属合金、リチウムチタネート、アルミニウム、白金、パラジウム、黒鉛、遷移金属酸化物、およびリチウム化酸化スズが含まれる。カソード材料の適した例には、限定されないが、黒鉛、アルミニウム、白金、パラジウムの他、リチウムまたはナトリウム、インジウムスズ酸化物を含む電気活性遷移金属酸化物、および例えばポリピロールおよびポリビニルフェロセンなどの導電性ポリマーが含まれる。
【0098】
多孔質セパレータは、アノードとカソードとの間の短絡を防ぐのに役立つ。多孔質セパレータは、典型的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、またはそれらの組み合わせなどの微孔性ポリマーの単層または多層シートからなる。多孔質セパレータの孔径は、イオンの輸送がアノードとカソードとの間のイオン伝導的接触を提供できるように十分大きいが、直接、あるいは粒子貫入またはアノードおよびカソード上に形成し得るデンドライトからのアノードおよびカソードの接触を防ぐように十分小さい。本明細書での使用のために適切な多孔性セパレータの例は、米国特許出願第12/963,927号明細書(2010年12月9日出願、米国特許出願公開第2012/0149852号明細書、現在米国特許第8,518,525号明細書)に開示されている。
【0099】
アノードまたはカソードとして機能することができる多くの異なるタイプの材料が知られている。いくつかの実施形態では、カソードとしては、例えばLiCoO、LiNiO、LiMn、LiCo0.2Ni0.2、LiV、LiNi0.5Mn1.5;LiFePO、LiMnPO、LiCoPO、およびLiVPOFなどのリチウムおよび遷移金属を含有するカソード電気活物質を挙げることができる。他の実施形態では、カソード活物質には、例えば、
LiCoG(0.90≦a≦1.8および0.001≦b≦0.1である);
LiNiMnCo2-f(0.8≦a≦1.2、0.1≦b≦0.9、0.0≦c≦0.7、0.05≦d≦0.4、0≦e≦0.2であり、b+c+d+eの合計は約1であり、0≦f≦0.08である);
Li1-b,R(0.90≦a≦1.8および0≦b≦0.5である);
Li1-b2-c(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、および0≦c≦0.05である);
LiNi1-b-cCo2-d(0.9≦a≦1.8、0≦b≦0.4、0≦c≦0.05、および0≦d≦0.05である);
Li1+zNi1-x-yCoAl(0<x<0.3、0<y<0.1、および0<z<0.06である)
が含まれ得る。
【0100】
上の化学式中、Aは、Ni、Co、Mn、またはそれらの組み合わせであり;Dは、O、F、S、P、またはそれらの組み合わせであり;Eは、Co、Mn、またはそれらの組み合わせであり;Gは、Al、Cr、Mn、Fe、Mg、La、Ce、Sr、V、またはそれらの組み合わせであり;Rは、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはそれらの組み合わせであり;Zは、F、S、P、またはそれらの組み合わせである。好適なカソードとしては、米国特許第5,962,166号明細書;同第6,680,145号明細書;同第6,964,828号明細書;同第7,026,070号明細書;同第7,078,128号明細書;同第7,303,840号明細書;同第7,381,496号明細書;同第7,468,223号明細書;同第7,541,114号明細書;同第7,718,319号明細書;同第7,981,544号明細書;同第8,389,160号明細書;同第8,394,534号明細書;および同第8,535,832号明細書、ならびにこれらの中の参照文献の中に開示されているものが挙げられ得る。「希土類元素」とは、La~Luのランタニド元素、ならびにYおよびScを意味する。
【0101】
別の実施形態では、カソード材料はNMCカソード、すなわちLiNiMnCoOカソード、より詳しくは、Ni:Mn:Coの原子比が1:1:1であるカソード(LiNi1-b-cCo2-d、式中、0.98≦a≦1.05、0≦d≦0.05、b=0.333、c=0.333であり、RがMnを含む)またはNi:Mn:Coの原子比が5:3:2であるカソード(LiNi1-b-cCo2-d、式中、0.98≦a≦1.05、0≦d≦0.05、c=0.3、b=0.2であり、RがMnを含む)である。
【0102】
別の実施形態では、カソードは、式LiMn(式中、Jは、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Cu、V、Ti、Zr、Mo、B、Al、Ga、Si、Li、Mg、Ca、Sr、Zn、Sn、希土類元素またはそれらの組み合わせであり;Zは、F、S、Pまたはその組み合わせであり;かつ0.9≦a≦1.2、1.3≦b≦2.2、0≦c≦0.7、0≦d≦0.4である)の材料を含む。
【0103】
別の実施形態では、本明細書に開示の電気化学セルまたはリチウムイオン電池中のカソードは、Li/Li参照電極に対して4.6Vより高い電位範囲において30mAh/gより大きい容量を示すカソード活物質を含む。そのようなカソードの一例は、カソード活物質としてのスピネル構造を有するリチウム含有マンガン複合酸化物を含む安定化マンガンカソードである。本明細書での使用に適したカソード中のリチウム含有マンガン複合酸化物は、式LiNiMn2-y-z4-dの酸化物を含み、xは0.03~1.0であり;xは充放電中のリチウムイオンおよび電子の放出および取り込みに従って変化し;yは0.3~0.6であり;MはCr、Fe、Co、Li、Al、Ga、Nb、Mo、Ti、Zr、Mg、Zn、V、およびCuのうちの1つ以上を含み;zは0.01~0.18であり;dは0~0.3である。上の式のある実施形態では、yは0.38~0.48であり、zは0.03~0.12であり、dは0~0.1である。上の式のある実施形態では、Mは、Li、Cr、Fe、Co、およびGaのうちの1つ以上である。安定化されたマンガンカソードは米国特許第7,303,840号明細書に記載されているように、マンガン含有スピネル成分とリチウムを豊富に含む層状構造とを含むスピネル層状複合材料も含み得る。
【0104】
別の実施形態では、カソードは、次式の構造:
x(Li2-w1-vw+v3-e)・(1-x)(LiMn2-z4-d
により表される複合材料を含み、
式中、
xは約0.005~約0.1であり;
AはMnまたはTiのうちの1つ以上を含み;
QはAl、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Mg、Nb、Ni、Ti、V、Zn、ZrまたはYのうちの1つ以上を含み;
eは0~約0.3であり;
vは0~約0.5であり;
wは0~約0.6であり;
MはAl、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Li、Mg、Mn、Nb、Ni、Si、Ti、V、Zn、Zr、またはYのうちの1つ以上を含み;
dは0~約0.5であり;
yは0~約1であり;
zは約0.3~約1であり;
LiMn2-z4-d成分はスピネル構造を有し、Li2-ww+v1-v3-e成分は層状構造を有する。
【0105】
別の実施形態では、式
x(Li2-w1-vw+v3-e)・(1-x)(LiMn2-z4-d
の中において、xは約0~約0.1であり、他の変数についての全ての範囲は本明細書の上で述べた通りである。
【0106】
別の実施形態では、本明細書に開示のリチウムイオン電池の中のカソードは、
Li1-xDO4-f
を含み、式中、
AはFe、Mn、Ni、Co、V、またはそれらの組み合わせであり;
RはAl、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはそれらの組み合わせであり;
DはP、S、Si、またはそれらの組み合わせであり;
ZはF、Cl、S、またはそれらの組み合わせであり;
0.8≦a≦2.2であり;
0≦x≦0.3であり;
0≦f≦0.1である。
【0107】
別の実施形態では、本明細書に開示のリチウムイオン電池または電気化学セル中のカソードは、Li/Li参照電極に対して約4.1V以上、または4.35V以上、または4.5V超、または4.6V以上の電位まで充電されるカソード活物質を含む。他の例は、4.5Vを超える上限充電電位まで充電される、米国特許第7,468,223号明細書に記載されているものなどの層状-層状大容量酸素放出カソードである。
【0108】
いくつかの実施形態では、カソードは、Li/Li参照電極に対して4.6Vを超える電位範囲で30mAh/gを超える容量を示すカソード活物質、またはLi/Li参照電極に対して4.35V以上の電位まで充電されるカソード活物質を含む。
【0109】
本明細書での使用に適したカソード活物質は、Liuら(J.Phys.Chem.C 13:15073-15079,2009)により記載された水酸化物前駆体法などの方法を使用して調製することができる。その方法では、水酸化物前駆体が、必要量のマンガン、ニッケルおよび他の望まれる金属酢酸塩を含有する溶液からKOHの添加によって析出する。得られる析出物をオーブン乾燥し、次いで、約800~約1000℃において、酸素中、3~24時間、必要量のLiOH・HOと一緒に焼成する。あるいは、カソード活物質は、米国特許第5,738,957号明細書(Amine)に記載されているように、固相反応法またはゾル-ゲル法を使用して調製することができる。
【0110】
本明細書での使用に適した、カソード活物質を含有するカソードは、有効量のカソード活物質(例えば、約70重量%~約97重量%)と、ポリビニリデンジフルオリドなどのポリマーバインダーと、導電性カーボンとを、N-メチルピロリドンなどの適切な溶媒中で混合してペーストを生成し、その後これをアルミニウム箔のような集電体上にコーティングし、乾燥させてカソードを形成するなどの方法により調製することができる。
【0111】
本明細書に開示の電気化学セルまたはリチウムイオン電池は、リチウムイオンを吸蔵および放出することができるアノード活物質を含むアノードをさらに含む。好適なアノード活物質の例としては、例えば、リチウム-アルミニウム合金、リチウム-鉛合金、リチウム-ケイ素合金、リチウム-スズ合金などのリチウム合金;黒鉛およびメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)などの炭素材;黒リン、MnPおよびCoPなどのリン含有材料;SnO、SnOおよびTiOなどの金属酸化物;例えばアンチモンを含有するナノ複合材料などのアンチモンまたはスズを含有するナノ複合材料、アルミニウム、チタン、またはモリブデンの酸化物、およびYoonら(Chem.21,3898-3904,2009)によって記載されているものなどのカーボン;ならびにLiTi12およびLiTiなどのリチウムチタネートが挙げられる。ある実施形態では、アノード活物質は、リチウムチタネートまたは黒鉛である。別の実施形態では、アノードは黒鉛である。
【0112】
アノードは、例えば、フッ化ビニル系コポリマーなどのバインダーを有機溶媒または水に溶解または分散させた後にこれを活物質、導電性材料と混合してペーストを得る、カソードについて上述したものと同様の方法によって製造することができる。ペーストは、集電体として使用されることになる、金属箔、好ましくはアルミ箔または銅箔上へコーティングされる。ペーストは、活物質が集電体に結合するように、好ましくは熱を用いて乾燥される。好適なアノード活物質およびアノードは、Hitachi、NEI Inc.(Somerset,NJ)、およびFarasis Energy Inc.(Hayward,CA)などの企業から商業的に入手可能である。
【0113】
本明細書に開示されるような電気化学セルは、様々な用途に使用することができる。例えば、電気化学セルは、グリッド貯蔵のために、またはコンピュータ、カメラ、ラジオ、電動工具、通信機器、もしくは輸送装置(動力車、自動車、トラック、バスまたは飛行機等)などの様々な電子的に駆動するまたは補助される装置(「電子デバイス」)における電源として使用することができる。本開示は、本開示の電気化学セルを含む電子デバイス、輸送装置、または通信機器にも関する。
【0114】
別の実施形態では、電解質組成物の形成方法が提供される。方法は、a)含フッ素溶媒;b)本明細書に開示の式Iにより表される少なくとも1種のシリルオキサレート;およびc)LiPF;を混合して電解質組成物を形成することを含む。成分は、任意の適切な順序で混合することができる。混合する工程は、順々にまたは同時に電解質組成物の個々の成分を添加することによって行うことができる。いくつかの実施形態では、成分a)およびb)が混合されることで第1の溶液が製造される。第1溶液が形成された後、望みの濃度のLiPFを有する電解質組成物を製造するために、第1の溶液にある量のLiPFが添加される。あるいは、成分a)およびc)を混合して第1の溶液を製造し、第1の溶液の形成後にある量の少なくとも1種のシリルオキサレートを添加することで電解質組成物が製造される。典型的には、電解質組成物は、均一な混合物を形成するために成分の添加中および/または添加後に撹拌される。
【0115】
また別の実施形態では、式LiPF(6-2q)(C(式中、qは1、2または3である)により表されるリチウムオキサラトホスフェート塩を含有する電解質組成物の形成方法が提供される。方法は、a)含フッ素溶媒;b)本明細書に開示の式Iにより表される少なくとも1種のシリルオキサレート;およびc)LiPF;を混合して電解質組成物を形成することを含む。成分は、任意の適切な順序で混合することができる。混合する工程は、順々にまたは同時に電解質組成物の個々の成分を添加することによって行うことができる。いくつかの実施形態では、成分a)およびb)が混合されることで第1の溶液が製造される。第1溶液が形成された後、望みの濃度のLiPFを有する電解質組成物を製造するために、第1の溶液にある量のLiPFが添加される。あるいは、成分a)およびc)を混合して第1の溶液を製造し、第1の溶液の形成後にある量の少なくとも1種のシリルオキサレートを添加することで電解質組成物が製造される。典型的には、電解質組成物は、均一な混合物を形成するために成分の添加中および/または添加後に撹拌され、任意選択的には熱がかけられてもよい。LiPFとシリルオキサレートとが反応するにつれて、リチウムオキサラトホスフェートを含む電解質組成物が形成される。
【0116】
別の実施形態では、リチウムイオン電池のサイクル性能を改善するための方法が開示され、方法は、本明細書に記載の電解質組成物中に式Iにより表されるシリルオキサレート塩を組み込む工程を含む。
【実施例0117】
本明細書に開示の概念を以降の実施例で説明するが、これらはこの意図が明示的に述べられていない限り、請求項の範囲の限定として使用または解釈されることは意図されていない。上記の考察およびこれらの実施例から、当業者は、本明細書に開示された概念の本質的な特性を確認することができ、その趣旨および範囲から逸脱せずに、様々な用途および条件に適合させるために様々な変更および改良を行い得る。
【0118】
使用される略語の意味は以下の通りである:「℃」は、セルシウス度を意味し;「g」はグラムを意味し、「mg」はミリグラムを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「L」はリットルを意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「mol」はモルを意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「M」はモル濃度を意味し、「wt%」は重量パーセントを意味し、「mm」はミリメートルを意味し、「μm」はマイクロメートルを意味し、「ppm」は百万分率を意味し、「h」は時間を意味し、「min」は分を意味し、「psig」は平方インチゲージあたりのポンドを意味し、「kPa」はキロパスカルを意味し、「A」はアンペアを意味し、「mA」はミリアンペアを意味し、「mAh/g」はグラムあたりのミリアンペア時間を意味し、「V」はボルトを意味し、「xC」は、xと、Ahで表される電池の公称容量に数値的に等しいAにおける電流との積である定電流を意味し、「rpm」は分あたりの回転数を意味し、「NMR」は核磁気共鳴分光法を意味し、「GC/MS」はガスクロマトグラフィー/質量分析を意味し、「Ex」は実施例を意味し、「Comp.Ex」は比較例を意味する。
【0119】
材料および方法
シュウ酸、1,2-ジクロロエタン、クロロトリメチルシラン、およびジクロロジメチルシランはAldrich(Milwaukee,WI)から入手した。
【0120】
2,2-ジフルオロエチルアセテート(DFEA)の代表的な調製
実施例および比較例で使用される2,2-ジフルオロエチルアセテートは、酢酸カリウムをHCFCHBrと反応させることによって調製した。以降は調整のために使用した典型的な手順である。
【0121】
酢酸カリウム(Aldrich,Milwaukee,WI、99%)を100℃で0.5~1mmHg(66.7~133Pa)の真空下で4~5時間乾燥させた。乾燥した材料は、カールフィッシャー滴定により決定される5ppm未満の含水率を有していた。ドライボックスの中で、重い磁気撹拌子が入っている1.0Lの三口丸底フラスコの中に、212g(2.16mol、8mol%過剰)の乾燥酢酸カリウムを入れた。フラスコをドライボックスから取り出し、ドラフトチャンバー内に移し、熱電対ウェル、ドライアイスコンデンサー、および添加漏斗を備え付けた。
【0122】
スルホラン(500mL、Aldrich、99%、カールフィッシャー滴定により決定された600ppmの水)を融解し、窒素を流しながら液体として3口丸底フラスコに添加した。撹拌を開始し、反応媒体の温度を約100℃にした。HCFCHBr(290g、2mol、E.I.du Pont de Nemours and Co.、99%)を滴下漏斗に入れ、これをゆっくりと反応媒体に添加した。添加により穏やかに発熱し、反応媒体の温度は、添加の開始後15~20分で120~130℃まで上昇した。HCFCHBrの添加は、125~135℃の内部温度を維持する速度に保持した。添加には約2~3時間要した。反応媒体をさらに6時間、120~130℃で撹拌した(典型的には、この時点での臭化物の変換率は約90~95%であった)。次に、反応媒体を室温まで冷却し、一晩撹拌した。翌朝、加熱をさらに8時間再開した。
【0123】
この時点で出発臭化物はNMRにより検出できず、粗生成反応媒体は0.2~0.5%の1,1-ジフルオロエタノールを含有していた。反応フラスコ上のドライアイスコンデンサーを、Teflon(登録商標)バルブを有するホースアダプターに置き換え、コールドトラップ(-78℃、ドライアイス/アセトン)を通してフラスコを機械式真空ポンプに接続した。1~2mmHg(133~266Pa)の真空下、40~50℃で反応生成物をコールドトラップに移した。移動は約4~5時間要し、約98~98.5%の純度の220~240gの粗生成HCFCHOC(O)CHが得られ、これには少量のHCFCHBr(約0.1~0.2%)、HCFCHOH(0.2~0.8%)、スルホラン(約0.3~0.5%)、および水(600~800ppm)が混入していた。粗生成物のさらなる精製は、大気圧での回転バンド蒸留を用いて実施した。106.5~106.7℃の沸点を有するフラクションを集め、不純物プロファイルをGC/MSを使用して観察した(キャピラリーカラムHP5MS、フェニル-メチルシロキサン、Agilent 19091S-433、30m、250μm、0.25μm;キャリヤガス-He、流量1mL/分、温度プログラム:40℃、4分、昇温30℃/分、230℃、20分)。典型的には、240gの粗生成物の蒸留により、99.89%の純度のHCFCHOC(O)CH約120g(250~300ppmのHO)および99.91%の純度の材料80g(約280ppmの水を含有)が得られた。水がカールフィッシャー滴定により検出されなくなるまで(すなわち<1ppm)、3Aモレキュラーシーブで処理することによって蒸留生成物から水を除去した。
【0124】
ジメチルシリルオキサレートの合成
RおよびR’がそれぞれメチルである式Iのシリルオキサレートであるジメチルシリルオキサレートは、以下の手順に従って調製した。コンデンサー、熱電対、セプタム、およびガス導入口/バブラーを取り付けた500mLの多口フラスコを窒素でパージし、次いで10.75g(0.119mol)のシュウ酸および150mLの乾燥1,2-ジクロロエタンを入れた。スラリーを撹拌し、18.30gのジクロロジメチルシラン(0.142mol、1.2当量)をシリンジで添加した。セプタムをガラス栓に置き換え、混合物を69℃まで加熱した。3日後、穏やかに還流するまで温度を上昇させた(82℃)。加熱をもう1日継続すると、全ての固体が溶解して無色透明の溶液が得られた。バブラーを出た窒素パージは湿ったpH紙に対して中性であり、HClの発生が完了したことを示した。室温まで冷却すると、無色の結晶が得られた。結晶を濾過により単離し、真空乾燥した。収率:14.0g、80%。
【0125】
単結晶X線回折により帰属構造を確認した。
【0126】
この生成物の試料(4g)を90℃、0.05トールでの昇華によりさらに精製した。
HNMR(d6-DMSO):d 0.250(s)。
13C{H}NMR(d6-DMSO):d 158.9,3.9。
【0127】
メチルビニルシリルオキサレートの合成
RがメチルでありR’がビニルである式Iのシリルオキサレートであるメチルビニルシリルオキサレートは、以下の手順に従って調製した。コンデンサー、熱電対、セプタム、およびガス導入口/バブラーを取り付けた500mLの多口フラスコを窒素でパージし、次いで14.91g(0.166mol)のシュウ酸および100mLの乾燥1,2-ジクロロエタンを入れた。スラリーを撹拌し、26.10gのジクロロビニルメチルシラン(0.185mol、1.2当量)をシリンジで添加した。セプタムをガラス栓に置き換え、混合物を加熱して105℃で約4日間還流した。バブラーを出た窒素パージは湿ったpH紙に対して中性であり、HClの発生が完了したことを示した。室温まで冷却すると、オフホワイトの粉末が得られた。真空下で過剰の溶媒を除去することにより粉末を単離した。粉末は、100℃、50ミリトールでの昇華により精製した。
【0128】
ビス(トリメチルシリル)オキサレートの合成
R、R’、およびR’’がそれぞれメチルである式IIのシリルオキサレートであるビス(トリメチルシリル)オキサレートは、クロロトリメチルシランとシュウ酸とから、1,2-ジクロロエタン中でGreen,M.D.;Schreiner,C.;Long,T.E.,J.Phys.Chem.A,2011,115,13829-13835に記載の通りに調整した。
【0129】
リチウムトリオキサオキサラートホスフェート(LiTOP)の調製
下の比較例Hにおいて使用するLiTOPは、以下の方法に従って調製した。無水シュウ酸(25.0g;0.278mol;mw=90.03;Aldrich 194131)を250mLのRB中、真空下(0.3トール)110℃で25分間撹拌した。昇華したシュウ酸をフラスコの側面から掻き取り、窒素下で磁気撹拌しながら(500rpm)無水ジエチルエーテル(40mL)を乾燥シュウ酸に添加した。五塩化リン(17.0g;0.082mol;mw=208.34;Aldrich 157775)を1時間かけて約4g添加した。全てのPClを添加した後、追加の5mLのエーテルを使用してフラスコの壁からPClを洗い流した。透明な溶液である反応混合物を45℃の水浴中で1時間還流撹拌した後、冷ましてから周囲温度で一晩撹拌した。不透明な白色懸濁液を、窒素を流しながら60℃の水浴中で撹拌してエーテルを除去すると、淡黄色の固形のケーキが残った。フラスコをグローブボックスに移し(以降の全ての操作はグローブボックス中で行った)、固体を粉砕し、高真空下で2時間保持してエーテルを除去した。固体を50mLのジエチルエーテルと共に撹拌し、スラリーを吸引ろ過した。固体を100mLのエーテルで3回に分けて洗浄し、室温で2時間高真空下で乾燥させることで、28.9g(79%)のトリオキサラトリン酸ジエーテレートを得た。
【0130】
250mLのRBフラスコの中で、0.8gの水素化リチウム(100mmol;mw=7.95;Aldrich 201049)を30分かけて約0.1gずつ添加しながら(発泡)、24.4g(55mmol)の上で得たジエーテレートと55mLのエーテルとのスラリーを室温で磁気撹拌した。その後、さらに10mLのエーテルを添加し、フラスコに栓をし、グローブボックスから取り出し、コンデンサーを取り付け、窒素下60℃のオイルバス中で5時間還流撹拌した。2時間後、さらに15mLのエーテルを添加して懸濁液を希釈した。フラスコを冷却し、グローブボックスに戻し、混合物を室温でロータリーエバポレーターで蒸発乾固させた。白色の粉末状固体を50mLの無水ジエチルカーボネート(DEC;Aldrich 517135)と共に室温で撹拌した。上澄みのHNMRは、約16ppmでの酸性プロトンの不存在を示した。懸濁液を中程度のフリットを通して吸引濾過することで、約1gの灰色の固体(LiHを含有)を得た。透明な黄褐色の濾液を、100(表面温度約80℃)に設定したホットプレート上で30分間温めながら高真空下で磁気撹拌した。この間に溶液は粘稠になったが撹拌可能なままであった。真空下で撹拌をさらに30分間継続しながら加熱を止めた。この間に混合物は、ほぼ乾式壁補修剤(drywall spackle)の稠度の硬い白色の半固体の塊を形成した。物質を中程度のフリットを通して吸引濾過することで約5mLのDECを除去し、湿ったケーキを20mLのメチルt-ブチルエーテル(MTBE;Aldrich 443808)中に分散させて湿ったケーキを吸引濾過した。この生成物を、週末の間グローブボックス内の漏斗(吸引なし)内に放置し、その間にこれを乾燥させた。これを20mLの追加のMTBE中に再度懸濁し、吸引濾過により乾燥させることで7.9gを微細な白色粉末として得た。粉末を20mLの電解質グレードのエチルメチルカーボネートと共に撹拌し、目の粗いフリットを通して重力濾過することで1.6gの白色固体を除去した。透明な濾液を高真空下で撹拌することで5.0gのLiTOPを得た。
【0131】
実施例1、比較例A、および比較例B
シリルオキサレートを含有する電解質組成物を用いて製造したコインセルの容量維持率を決定し、シリルオキサレートを含有しない電解質組成物を含むコインセルの容量維持率と比較した。
【0132】
カソードの作製
以降は、実施例1ならびに比較例AおよびBで使用されるカソードを作製するために使用される典型的な手順である。バインダーは、N-メチルピロリドン(Sigma-Aldrich)中のポリフッ化ビニリデン(SolefTM5130(Solvay,Houston,TX))の5%溶液として調製する。次の材料を使用して電極ペーストを製造した:9.36gのLiNi0.5Mn0.3Co0.2カソード活性粉末;0.52gのカーボンブラック(Super C65(Timcal));10.4gのPVDF(ポリビニリデンジフルオリド)溶液;および3.0gのNMP(Sigma Aldrich)。材料は、以下に記載の通りに90:5:5のカソード活性粉末:PVDF:カーボンブラックの比率で混合した。
【0133】
カーボンブラック、追加分のNMP、およびPVdF溶液をバイアル中で混合し、各回2000rpmで60秒間、2回遠心混合した(ARE-310、Thinky USA,Inc.,Laguna Hills,CA)。カソード活性粉末を添加し、ペーストを2回遠心混合した(2000rpmで2×1分)。ホモジナイザー(PT10-35GT型、直径7.5mmのステーター、Kinematicia,Bohemia,NY)のローターステーターシャフトをバイアルの中に挿入し、得られたペーストを各9500rpmで5分間均質化した。次いで、ペーストを2000rpmで1分間遠心混合することによって脱気した。
【0134】
ペーストを、自動塗布装置(AFA-II,MTICorp.,Richmond,CA)を用いて、ゲート高さ0.290mmのドクターブレードを用いてアルミニウム箔(厚さ25μm、1145-0、Allfoils,Brooklyn Heights,OH)上にキャストした。80℃~100℃の15分での昇温で開始し、引き続き100℃で保持する昇温および保持を用いて、電極を機械式対流オーブン(FDL-115型,Binder Inc.,Great River,NY)中で乾燥した。カソードを厚さ0.5mmのステンレス鋼シートの間に配置し、125℃で直径100mmの鋼製ロールを使用して、各パスでニップ力を増加させながら(9psigで開始し、最終パスを30psigで終了)カレンダーに3回通過させた。
【0135】
カソード活物質の担持量は14.8mg/cmであった。
【0136】
アノードの作製
以降は、本明細書の実施例1ならびに比較例AおよびBで使用されるアノードを作製するために使用される典型的な手順である。アノードペーストは、次の材料から調製した:6.2062gの黒鉛(CPreme(登録商標)G5,Conoco-Philips,Houston,TX);0.3406gのカーボンブラック(Super C65,Timcal,Westlake,OH);3.7975gのPVDF(NMP中に13%、KFL#9130,Kureha America Corp.);13.0974gの1-メチル-2-ピロリジノン(NMP);および0.0119gのシュウ酸。材料は、以下に記載するように、88:0.17:7:4.83の比率で黒鉛:シュウ酸:PVDF:カーボンブラックを混合した。最終的なペーストは29.4%の固形分を含んでいた。
【0137】
シュウ酸、カーボンブラック、NMPの半分、およびPVDF溶液をプラスチックバイアル中で混合した。プラネタリー遠心ミキサーを使用して、材料を2000rpmで60秒間混合した。2回目の混合を繰り返した。次いで、黒鉛を残りのNMPと共に添加した。得られたペーストを2回遠心混合した。バイアルをローターステーターを用いて10000rpmで5分間均質化し、混合する間バイアルの位置を調整した。その後、バイアルを2000rpmで60秒間再度混合した。
【0138】
ペーストを、自動塗布装置を用いて、ゲート高さ290μmのドクターブレードを用いて銅箔(CF-LBX-10,Fukuda,Kyoto,Japan)上にキャストした。電極を機械的対流式オーブン内で95℃で30分間乾燥した。得られた幅102mmのアノードを、Kaptonのシートを積層した厚さ390μmのステンレス鋼シートの間に配置し、各パスでニップ力を増加させながら(340kgで開始し、最終パス1130kg)およびフィルムの進入方向を180°ずらしながら、125℃に保持した直径100mmの鋼製ロールを用いてカレンダーに4回通した。
【0139】
アノード活物質の担持量は約8.4mg/cmであった。
【0140】
電解質の調製
比較例Bの電解質組成物は、窒素パージしたドライボックスの中で、70重量%の2,2-ジフルオロエチルアセテートと30重量%のエチレンカーボネート(EC,BASF,Independence,OH)とを混合することによって調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させた。0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターで濾過した後、十分なLiPF(リチウムヘキサフルオロホスフェート,BASF,Independence,OH)を添加してLiPF中の1Mの配合物を製造した。1.96gのこの混合物を、上述した通りに調製した0.04gのビス(トリメチルシリル)オキサレートと混合することで、最終的な電解質組成物を製造した。混合後濁った溶液が得られ、その後の混合物をコインセルに添加する前に0.2ミクロンのPTFEシリンジフィルターを通して濾過した。
【0141】
実施例1の電解質組成物は、窒素パージしたドライボックスの中で、70重量%の2,2-ジフルオロエチルアセテートと30重量%のエチレンカーボネート(EC,BASF,Independence,OH)と混合することによって調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させた。0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターで濾過した後、十分なLiPF(リチウムヘキサフルオロホスフェート,BASF,Independence,OH)を添加してLiPF中の1Mの配合物を製造した。1.96gのこの混合物を、上述した通りに調製した0.04gのジメチルシリルオキサレートと混合することで、最終的な電解質組成物を製造した。
【0142】
比較例Aは、2,2-ジフルオロエチルアセテート(70重量%)、エチレンカーボネート(30重量%)、およびLiPFを含有する電解質組成物を使用した。電解質組成物は、シリルオキサレートを全く含有していなかった。窒素パージしたドライボックスの中で、70重量%の2,2-ジフルオロエチルアセテートと30重量%のエチレンカーボネート(EC,BASF,Independence,OH)とを混合することによって電解質組成物を調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させた。0.2ミクロンのPTFEシリンジフィルターで濾過した後、十分なLiPF(リチウムヘキサフルオロホスフェート,BASF,Independence,OH)を添加してLiPF中の1Mの配合物を製造した。
【0143】
コインセルの製造
直径14.3mmの円形アノードおよび直径12.7mmのカソードを上述した電極シートから打ち抜き、グローブボックス(Vacuum Atmospheres,Hawthorne,CA、HE-493精製装置付)の前室の中のヒーターに入れ、90℃で一晩、真空下でさらに乾燥させ、アルゴンで満たしたグローブボックスに入れた。電気化学的評価のために、非水電解質リチウムイオンCR2032コインセルを作製した。コインセル部品(ケース、スペーサー、ウェーブスプリング、ガスケット、および蓋)およびコインセルクリンパは、Hohsen Corp(Osaka,Japan)から入手した。セパレータは、Celgard2500(Celgard/Polypore International,Charlotte,NC)であった。
【0144】
25℃でのコインセル形成
実施例1ならびに比較例AおよびBのそれぞれの電解質組成物を使用して、合計で9個のコインセルのために、3個のコインセルを製造した。コインセルは、最初に0.25Cのレートで36分間充電し、引き続き12時間休止した。その後、1回目の充電を4.35Vまで継続し、定電圧保持をC/20でカットオフし、続いて10分間休止させ、次いで0.5Cで3.0Vまで放電した。2回目のサイクルは、10分間の休止とそれに続く4.35Vまでの0.2Cのレートの充電、そして4.35Vでの保持、および0.05Cのレートのカットオフから構成された。その後10分間休止し、次いで0.2Cのレートで3.0Vまで放電した。形成手順は、周囲温度で市販のバッテリーテスター(シリーズ4000,Maccor,Tulsa,OK)を使用して行った。
【0145】
45℃でのコインセルの評価
形成手順の後、セルを45℃のオーブンに入れ、カソード活物質1グラム当たり170mAの電流で19サイクルの反復プロトコルを使用して3.0~4.35Vの電圧限界の間で定電流充電および放電を使用してサイクルを行った。これは、約1Cのレートであり、その後約0.2Cのレートである34mA/gの電流で1サイクル行った。
【0146】
45℃、50サイクルでの放電容量維持率を表1に示す。
【0147】
【0148】
表1は、「サイクル50での平均クーロン効率」のより大きい値によって示されるように、同じ溶媒混合物を含有するがシリルオキサレート添加剤を含まない電解質組成物についての比較例Aおよび比較例Bのコインセルと比較した、シリルオキサレート添加剤を含有する実施例1の電解質組成物を用いたコインセルの優れた電気化学性能を示している。
【0149】
比較例C
比較例Cについては、比較例Bについて記載の通りにカソードおよびアノードを作製した。
【0150】
比較例Cのための電解質組成物は、透明な溶液が得られ、ビス(トリメチルシリル)オキサレートを添加した後に追加の濾過を行わなかったことを除いては、比較例Bについて記載の通りに調製した。
【0151】
比較例Cの電解質組成物を使用して、比較例Bと同様に3つのコインセルを製造した。比較例Bについて記載したものと同じコインセル形成手順を用いた。
【0152】
45℃でのコインセルの評価
形成手順の後、セルを45℃のオーブンに入れ、カソード活物質1グラム当たり170mAの電流で24サイクルの反復プロトコルを使用して3.0~4.35Vの電圧限界の間で定電流充電および放電を使用してサイクルを行った。これは、約1Cのレートであり、その後約0.2Cのレートである34mA/gの電流で1サイクル行った。
【0153】
45℃で49サイクルおよび60サイクル行った放電容量維持率を表2に示す。
【0154】
【0155】
実施例2、比較例D、比較例E
カソードの作製
カソード電極は、次の手順により調製した。
【0156】
アルミニウム箔集電体上へのプライマーの作製-ポリアミド/炭素複合材料を使用
以降は、実施例2ならびに比較例DおよびEで使用されるアルミニウム箔集電体上にプライマーを作製するために使用される典型的な手順である。ポリアミド酸を調製するために、プレポリマーを最初に調製した。20.6重量%のPMDA:ODAプレポリマーを、0.98:1のPMDA/ODA(ピロメリット酸二無水物//ODA(4,4’-ジアミノジフェニルエーテル)プレポリマー)の化学量論を用いて調製した。これは、室温で穏やかに撹拌しながら約45分間かけてODAをN-メチルピロリドン(NMP)に溶解させることによって調製した。溶液中の温度の上昇を制御するために、PMDA粉末を混合物にゆっくりと(少量ずつ)添加した。PMDAの添加は約2時間かけて行った。添加および得られた溶液の撹拌は制御された温度条件下で行った。ポリアミド酸の最終濃度は20.6重量%であり、無水物対アミン成分のモル比は約0.98:1であった。
【0157】
別の容器の中で、1.00gのPMDA(Aldrich 412287,Allentown,PA)および15.67gのNMP(N-メチルピロリドン)を混合することによって、無水ピロメリット酸(PMDA)の6重量%溶液を調製した。4.0gのPMDA溶液をプレポリマーにゆっくりと添加し、粘度を約90,000ポアズまで増加させた(ブルックフィールド粘度計-#6スピンドルにより測定)。これにより、計算されたPMDA:ODAの最終比率が1.01:1である完成プレポリマー溶液が得られた。
【0158】
その後、5.196gの完成プレポリマーを15.09gのNMPで希釈して5重量%の溶液を形成した。バイアルの中で、16.2342gの希釈された完成プレポリマー溶液を0.1838gのTimCal Super C-65カーボンブラックに添加した。これを、2.72のプレポリマー:炭素比での3.4重量%の最終固形分含有率のために、9.561gのNMPでさらに希釈した。Paasche VL#3エアブラシ噴霧器(Paasche Airbrush Company,Chicago,IL)を使用して、この材料をアルミニウム箔(厚さ25μm,1145-0,Allfoils,Brooklyn Heights,OH)の上に噴霧した。噴霧の前に箔を秤量して、0.06mg/cmの必要密度に達するために必要なコーティングを確認した。その後、箔をガラス板上で滑らかにし、被覆されるまでエアブラシを用いて手動で噴霧した。その後、箔をホットプレート上で125℃で乾燥し、必要な密度に到達したことを確認するために測定した。箔は、0.06mg/cmのポリアミド酸で被覆されていることが分かった。箔が乾燥して望みのコーティングになった後、以下の温度プロファイルを有するイミド化手順に従って、箔を400℃でイミド化した:
40℃~125℃(4℃/分で昇温)
125℃~125℃(30分間浸漬)
125℃~250℃(4℃/分で昇温)
250℃~250℃(30分間浸漬)
250℃~400℃(5℃/分で昇温)
400℃~400℃(20分間浸漬)。
【0159】
プライマー処理したAl箔へのカソード電気活性層のコーティング
バインダーは、N-メチルピロリドン(Sigma-Aldrich)中のポリフッ化ビニリデン(SolefTM5130(Solvay,Houston,TX))の5%溶液として調製する。次の材料を使用して電極ペーストを製造した:9.36gのLiNi0.5Mn0.3Co0.2カソード活性粉末;0.52gのカーボンブラック(Super C65(Timcal));10.4gのPVDF(ポリビニリデンジフルオリド)溶液;および3.0gのNMP(Sigma Aldrich)。材料は、以下に記載の通りに90:5:5のカソード活性粉末:PVDF:カーボンブラックの比率で混合した。
【0160】
カーボンブラック、追加分のNMP、およびPVdF溶液をバイアル中で混合し、各回2000rpmで60秒間、2回遠心混合した(ARE-310,Thinky USA,Inc.,Laguna Hills,CA)。カソード活性粉末を添加し、ペーストを2回遠心混合した(2000rpmで2×1分)。ホモジナイザー(PT10-35GT型、直径7.5mmのステーター、Kinematicia,Bohemia,NY)のローターステーターシャフトをバイアルの中に挿入し、得られたペーストを各9500rpmで5分間均質化した。次いで、ペーストを2000rpmで1分間遠心混合することによって脱気した。
【0161】
ペーストを、自動塗布装置(AFA-II,MTI Corp.,Richmond,CA)を用いて、ゲート高さ0.290mmのドクターブレードを用いてアルミニウム箔(厚さ25μm,1145-0,Allfoils,Brooklyn Heights,OH)上にキャストした。80℃~100℃の15分での昇温で開始し、引き続き100℃で保持する昇温および保持を用いて、電極を機械式対流オーブン(FDL-115型,Binder Inc.,Great River,NY)中で乾燥した。カソードを厚さ0.5mmのステンレス鋼シートの間に配置し、125℃で直径100mmの鋼製ロールを使用して、各パスでニップ力を増加させながら(9psigで開始し、最終パスを30psigで終了)カレンダーに3回通過させた。
【0162】
カソード活物質の担持量は14.8mg/cmであった。
【0163】
アノードは、実施例1および比較例Bで記載した通りに作製した。アノード活物質の担持量は約8.4mg/cmであった。
【0164】
電解質の調製
比較例2については、電解質組成物は、窒素パージしたドライボックスの中で、49.0758gの2,2-ジフルオロエチルアセテート(DFEA)と16.3632gのフルオロエチレンカーボネート(FEC,BASF,Independence,OH)とを混合することによって調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させた。0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターで濾過した後、2.6540gの混合物を0.0414gのジメチルシリルオキサレートと混合した。0.3413gのLiPF(リチウムヘキサフルオロホスフェート,BASF,Independence,OH)を添加して配合された電解質組成物を調製した。
【0165】
比較例Dについては、電解質組成物は、窒素パージしたドライボックスの中で、49.0758gの2,2-ジフルオロエチルアセテートと16.3632gのフルオロエチレンカーボネート(FEC,BASF,Independence,OH)とを混合することによって調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させた。0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターで濾過した後、2.6638gの混合物を0.0644gのビス(トリメチルシリル)オキサレートと混合した。0.3408gのLiPF(BASF,Independence,OH)を添加して配合された電解質組成物を調製した。
【0166】
比較例Eについては、電解質組成物は、窒素パージしたドライボックスの中で、13.3888gの2,2-ジフルオロエチルアセテートと4.4620gのフルオロエチレンカーボネート(FEC,BASF,Independence,OH)とを混合することによって調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させた。0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターで濾過した後、2.1135gのLiPF(BASF,Independence,OH)を添加して配合された電解質組成物を調製した。シリルオキサレートは添加しなかった。
【0167】
コインセルの製造
コインセルは、実施例1および比較例Bについて記載した通りに製造した。実施例2の電解質組成物を使用して3個のコインセルを製造した。比較例Dの電解質組成物を使用して5個のコインセルを製造し、比較例Eの電解質組成物を使用して3個のコインセルを製造した。
【0168】
25℃でのコインセル形成
コインセルは、最初に0.25Cのレートで36分間充電し、引き続き12時間休止した。その後、1回目の充電を0.25Cのレートで4.35Vまで継続し、定電圧保持をC/20でカットオフし、続いて10分間休止させ、次いで0.5Cで3.0Vまで放電した。2回目のサイクルは、10分間の休止とそれに続く4.35Vまでの0.2Cのレートの充電、そして4.35Vでの保持、および0.05Cのレートのカットオフから構成された。その後10分間休止し、次いで0.2Cのレートで3.0Vまで放電した。形成手順は、周囲温度で市販のバッテリーテスター(シリーズ4000,Maccor,Tulsa,OK)を使用して行った。
【0169】
45℃でのコインセルの評価
形成手順の後、セルを45℃のオーブンに入れ、カソード活物質1g当たり170mAの電流で19サイクルの反復プロトコルを使用して3.0~4.35Vの電圧限界の間で定電流充電および放電を使用してサイクルを行った。これは、約1Cのレートであり、その後約0.2Cのレートである34mA/gの電流で1サイクル行った。
【0170】
結果を表3に示す。
【0171】
【0172】
「平均サイクル寿命80%」のより大きい値によって示されるように、同じ溶媒混合物であるがシリルオキサレート添加剤を含まない混合物を使用した比較例DおよびEの電解質組成物を用いたコインセルと比較して、シリルオキサレート添加剤を含む実施例2の電解質組成物を使用したコインセルは優れた電気化学的性能を示した。
【0173】
比較例F、G、およびH
比較例F、G、およびHについては、カソード電極は実施例2と同様に作製した。カソード活物質の担持量は比較例Fについては13.5mg/cmであり、比較例Gについては13.5mg/cmであり、比較例Hについては12.76~13.05mg/cmであった。
【0174】
アノードは実施例1および比較例Bで記載した通りに作製した。アノード活物質の担持量は約8.4mg/cmであった。
【0175】
電解質の調製
比較例Fについては、比較例Eで記載したものと同じ電解質組成物を使用した。
【0176】
比較例Gについては、比較例Eと同じ電解質組成物を使用した。
【0177】
比較例Hについては、電解質組成物は、窒素パージしたドライボックスの中で、49.0758gの2,2-ジフルオロエチルアセテートと16.3632gのフルオロエチレンカーボネート(FEC,BASF,Independence,OH)とを混合することによって調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を2ppm未満の水まで乾燥させた。溶媒混合物を0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターを使用して濾過した。2.6544gの混合物を、本明細書の上で記載した通りに調製した0.0829gのリチウムトリス(オキサラト)ホスフェート(LiTOP)と混合した。0.3436gのLiPF(BASF,Independence,OH)を添加して配合された電解質組成物を調製した。
【0178】
コインセルの製造
コインセルは、実施例1および比較例Bについて記載した通りに製造した。実施例Fの電解質組成物を使用して3個のコインセルを製造した。比較例Gの電解質組成物を使用して2個のコインセルを製造し、比較例Hの電解質組成物も使用して2個のコインセルを製造した。
【0179】
25℃でのコインセル形成
4.35Vの代わりに4.5Vの上側の電圧を使用したことを除いては実施例2に記載したものと同じ手順を使用した。セルは、最初に0.25Cのレートで36分間充電し、引き続き12時間休止した。その後、1回目の充電を0.25Cのレートで4.50Vまで継続し、定電圧保持をC/20でカットオフし、続いて10分間休止させ、次いで0.5Cで3.0Vまで放電した。2回目のサイクルは、10分間の休止とそれに続く4.50Vまでの0.2Cのレートの充電、そして4.50Vでの保持、および0.05Cのレートのカットオフから構成された。その後10分間休止し、次いで0.2Cのレートで3.0Vまで放電した。形成手順は、周囲温度で市販のバッテリーテスター(シリーズ4000,Maccor,Tulsa,OK)を使用して行った。
【0180】
45℃でのコインセルの評価
形成手順の後、セルを45℃のオーブンに入れ、カソード活物質1g当たり213mAの電流で19サイクルの反復プロトコルを使用して3.0~4.50Vの電圧限界の間で定電流充電および放電を使用してサイクルを行った。これは、約1Cのレートであり、その後約0.2Cのレートである42.6mA/gの電流で1サイクル行った。
【0181】
結果を表4に示す。用語「サイクル寿命80%」は、45℃での初期容量の80%まで放電容量が低下するために必要とされるサイクル数である。全ての評価は45℃で行った。
【0182】
【0183】
実施例3
LiPFとジメチルシリルオキサレートとの反応
この実施例は、LiPFとジメチルシリルオキサレートとを室温で溶液中で約5:1のモル比で混合した場合のリチウムリンフルオロオキサレートおよび有機ケイ素フルオリド生成物の形成を示す。
【0184】
バイアルに、CHCOCHCFH中のLiPF(1.0mmol)の1.0M溶液1.0mLを入れた。ジメチルシリルオキサレート(0.029g、0.2mmol)を添加した。周囲温度で3時間後、19F NMR分析からLiPF(オキサレート)およびMeSiFの形成が示された。
19F NMR(CDCN):
LiPF(ox):-59.2ppm(m),-76.1(m)
MeSiF:-132.6(d,J=80.7Hz)
【0185】
比較例I
LiPFとビス(トリメチルシリル)オキサレートとの反応
この実施例は、LiPFと式IIのシリルオキサレートとを室温で混合した際のリチウムリンフルオロオキサレートの形成を示す。反応は、有機ケイ素フルオリド生成物も形成する。
【0186】
反応バイアルに、0.203g(1.33mmol)LiPF、10.0gの無水ジメチルカーボネート、および上述した通りに調製した1.0g(4.27mmol、3.2当量)のビス(トリメチルシリル)オキサレートを入れた。試料を70℃まで温めることで、無色のわずかに濁った溶液を得た。4時間後のNMR(31Pおよび19F)分析から、反応スキームA(このスキームは、LiPF(ox)とLiPF(ox)の具体的な比率が不明のため、釣り合いがとれていない)で示されるようなLiPF(ox)と、LiPF(ox)と、トリメチルシリルフルオリドとの混合物の形成が示された。残存LiPFは観察されなかった。略語「ox」はオキサレート部位(C)を意味する。
【0187】
この溶液をさらに24時間加熱すると反応スキームB(このスキームは、溶液中の化学種の実際の量は定量化していないものの、釣り合いのとれた反応として示されている)で示されるようなLiPF(ox)への完全な変換が得られた。NMR分析からは残存LiPF(ox)は観察されなかった。
【0188】
反応生成物を同定するために31Pおよび19F NMR(CDCl/ジメチルカーボネート)を使用した:
31P NMR:-141.9ppm[t,J=806Hz,LiPF(ox)],-141.4[quint,LiPF(ox)]。
19F NMR:-59.9ppm[dt,J=54.6,7.68Hz,LiPF(ox)],-63.3[dt,J=405,7.29Hz,LiPF(ox)],-77.5[dt,J=761,54.6Hz,LiPF(ox)],-158.6(s,トリメチルシリルフルオリド)。
【0189】
比較例J
X線光電子分光法による電極の特性評価
この実施例では、コインセルの評価後に、比較例DのコインセルのカソードおよびアノードをX線光電子分光法(XPS)により分析し、電解質組成物のシリルオキサレート添加剤からのケイ素が電極の一方または両方の上のSEI層に組み込まれたか否か(カソードおよびアノードの表面のいずれかまたは両方の上のケイ素含有率の増加によって証明される)を調べた。
【0190】
電極は、本明細書で上述したサイクルを行った後の比較例DのコインセルD-5から得た。サイクル実験におけるコインセルの評価の後(80%容量保持率に達した後)、セルをアルゴンで満たしたドライボックス中で開けた。セルの構成要素を取り出し、分離し、ジメチルカーボネートで軽くすすいだ。さらに分析を行う前に、カソード電極およびアノード電極を少なくとも12時間真空で乾燥した。
【0191】
XPS表面およびデプスプロファイル分析は、20kVおよび100Wで作動する単色Al X線(1486.6eV)ビームを使用して、Physical Electronics Quantera Scanning XPS Microprobeで行った。X線ビームは、電子銃を使用して発生させ、約1400μm×約200μmにわたって走査して分析領域を規定した。取出角度は、試料の法線に対して45°であった。デプスプロファイルは、4mm×4mmのラスターサイズを有する2KeVのArイオンを用いて行った。このスパッタ条件下で校正したSiOスパッタ速度は、約2.5nm/分であった。データ分析にはPHI MultiPakのソフトウェアバージョン9.0を使用した。
【0192】
アノードおよびカソードの表面からのXPS結果を表5に記載する。ケイ素が電気化学サイクル後にアノードとカソードの両方の表面に存在することは明らかである。
【0193】
【0194】
アノードのXPSデプスプロファイル結果を図1に示す。これらの結果は、ケイ素がアノード電極界面の表面下の領域にも存在することを示している。
【0195】
比較例K
X線光電子分光法による電極の特性評価
この実施例では、コインセルの評価後に、比較例GのコインセルのカソードおよびアノードをX線光電子分光法(XPS)により分析し、電解質組成物のシリルオキサレート添加剤からのケイ素が電極の一方または両方の上のSEI層に組み込まれたか否か(カソードおよびアノードの表面のいずれかまたは両方の上のケイ素含有率の増加によって証明される)を調べた。
【0196】
電極は、本明細書で上述したサイクルを行った後の比較例GのコインセルG-1から得た。サイクル実験におけるコインセルの評価の後(80%容量保持率に達した後)、セルをアルゴンで満たしたドライボックス中で開けた。セルの構成要素を取り出し、分離し、ジメチルカーボネートで軽くすすいだ。さらに分析を行う前に、カソード電極およびアノード電極を少なくとも12時間真空で乾燥した。
【0197】
XPS表面およびデプスプロファイル分析は、比較例Jに記載の通りに行った。
【0198】
アノードおよびカソードの表面からのXPS結果を表6に記載する。XPSデータは、ケイ素が電気化学サイクル後にアノードとカソードの両方の電極表面に存在することを示している。
【0199】
【0200】
アノードのXPSデプスプロファイル結果を図2に示す。これらの結果は、ケイ素がアノード電極界面の表面下の領域に存在することを示している。
【0201】
比較例JおよびKのX線光電子分析の結果は、シリルオキサレートと、LiPFとを含有する電解質組成物を用いた電気化学セルを電気化学的にサイクルさせると、ケイ素がアノードとカソードのSEI層に組み込まれることを示している。デプスプロファイル分析で調べたアノードのSEIの表面下もケイ素の存在を示しており、これはケイ素オキサレート添加剤がSEIの組成を変更し、そのためSEIの特性に影響を及ぼし得ることを示唆している。何らかの理論に拘束されるものではないが、この変更は性質および電解質とそれらの界面との相互作用を変化させ、また電池の性能およびそのサイクル寿命耐久性に有益な影響を及ぼし得ると考えられる。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2022-03-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【外国語明細書】