(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084851
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】軸継手を有する駆動構造
(51)【国際特許分類】
F16D 1/12 20060101AFI20220531BHJP
F16D 1/02 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
F16D1/12
F16D1/02 110
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049366
(22)【出願日】2022-03-25
(62)【分割の表示】P 2021155420の分割
【原出願日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2020196049
(32)【優先日】2020-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】713012530
【氏名又は名称】大口 元気
(72)【発明者】
【氏名】大口 勝雅
(57)【要約】 (修正有)
【課題】駆動軸と被動部品とそれらを固定接続する軸継手からなる駆動構造であり、駆動軸の回転角度に対しカム等の被動部品との位相調節が5°~0.5°といった微小な角度単位で可能とし、位相調節作業が軸継手の挿し直しで完了する、簡便・正確かつ再現性良く調節可能な駆動構造を提供する。
【解決手段】駆動軸と被動部品と、それら2部品を相対回転不能に接続する軸継手を有する駆動構造であって、前記駆動軸と軸継手、前記被動部品と軸継手の2箇所の接続はN回回転対称(N:2以上の整数)を有する形状で嵌合している第1の部分と、M回回転対称(M>Nの整数)を有する形状で嵌合している第2の部分とからなり、前記NとMの最小公倍数LCM(N,M)は72以上であり、かつMより大きく(N<M<LCM(N,M))、前記第1と第2の結合の嵌合状態を示す標線または目印が3部品それぞれの表面に少なくとも各一つ付されている駆動構造である。
【選択図】
図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸と、被動部品と、この2部品を相対回転不能に接続する軸継手を有する駆動構造であって、前記駆動軸と軸継手、前記被動部品と軸継手の2箇所の接続はN回回転対称(N:2以上の整数)を有する形状で嵌合している第1の部分と、M回回転対称(M>Nの整数)を有する形状で嵌合している第2の部分とからなり、前記Nと前記Mの最小公倍数LCM(N,M)は72以上であり、かつ前記最小公倍数LCM(N,M)はMより大きく( N<M<LCM(N,M))、前記駆動軸及び前記軸継手及び前記被動部品の相互の嵌合状態を示す標線または目印がそれぞれの表面に少なくとも各一つ付されている駆動構造。
【請求項2】
駆動軸と、被動部品と、この2部品を相対回転不能に接続する軸継手を有する駆動構造であって、前記駆動軸と軸継手、前記被動部品と軸継手の2箇所の接続はN回回転対称(N:2以上の整数)を有する形状で嵌合している第1の部分と、M回回転対称(M>Nの整数)を有する形状で嵌合している第2の部分とからなり、前記第1の部分と前記第2の部分のいずれか一方の接続のメス側の部材の空間形状を、オス側の形状に対応した空間をT個(T:2以上の整数)重ね合わせ、かつ下記条件を全て満たすよう配置した駆動構造。
1) 各空間はオス側の部材と同軸上に配置される
2) 各空間はその軸方向に重なっており位相差を有する
3) 基準となる最初の空間S0と他の空間Skの位相差θk°は全てのk(1≦k≦T-1を満たす整数)について以下を満たす
θk=(n×a)+(a/T)×k
但しnは任意の整数であり、a=360°/LCM(N、M)である
このときの分解能は A=360°/(LCM(N、M)×T)となる
【請求項3】
請求項2の駆動構造において、MとNの最大公約数をLとするとき、M/LをN/Lで割った時の余り MOD(M/L,N/L)が1またはN/L-1となるMとN、Lであり、この駆動構造の第1の部分のメス側空間形状を複数個、下記2条件両方をを満たすよう重ね合わせて成る請求項2の駆動構造
条件1) 重ね合わせの基準になる最初の空間S0と他の空間Skの位相差θk°は全てのk(1≦k≦T-1を満たす整数)について以下を満たす
MOD(M/L,N/L)が1の場合
θk=(n×360/M)+(a/T)×k
MOD(M/L,N/L)がN-1の場合
θk=(n×360/M)-(a/T)×k
但し、0°<θk<(360°/N)である。
条件2)前記他の空間Skの任意の2つ(Si、SJ 但しi>J)を選択したとき、前記位相差θi、θJはθi>θJである
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、駆動軸と被動部品を設定された位相角度で嵌合する軸継手を含む駆動
構造に関する
【背景技術】
【0002】
駆動軸と被動部品/回転体を嵌合する軸継手はごく一般的な機械要素として様々な
機械に用いられている。その中でも駆動軸と被動体の回転位相を調整した上で一定の位相
に設定嵌合する軸継手は少ないながら一定のニーズがあり、主目的である位相の調整・設
定のためにいくつかの発明・考案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-125532
【特許文献2】特開2018-100715
【特許文献3】特開2015-152120
【0004】
(背景技術の問題点)
特許文献1の
図2に示されるすり割りを締め付ける方式が最も簡素でよく使われている。これは位相の調整と位相の設定を主目的とした構造を持ったものではないが、特定の位相角度に設定する用途にも流用されている。位相を調整するには当該機械を熟知した熟練者による作業が必要であり、しかし異常トルクで容易にずれてしまい、復旧は最初から調整のやり直しとなり、しかも位相角度の調整実績値を数値で把握することが軸継手部分では困難であり、カム等の出力側部分で位相角度の測定が毎回必要である。
特許文献2の方式では雌雄のセレーションをかみ合わせ、やはり締め付ける方式をとっており、一度設定された位相がずれることは破壊以外にありえなくなっている。しかし位相角度の調整においてはその調整角度単位は360°/セレーションの山数となりたとえば軸の直径30mm(円周長94.2mm)セレーション一山の幅が約2mmであれば山数は47、調整角度の単位は約7.7°となり、1°や2°といった小さい単位での微調整は不能である。
特許文献3の方式では角度調整はアナログ(無段階)に可能であり、またずれることも無く、初心者にも調整が容易であろうと推察されるが、機構が複雑大型になりすぎてかつコストアップになり、広く普及しているとは言い難い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本件発明の目的は従来の軸継手より簡便・安価でかつデジタルな機械的構造により、5°以下(望ましくは2°以下)の小さな角度単位での位相設定を可能とする軸継手を提供し熟練者でなくても正確で単純・簡便・再現しやすい位相設定作業を可能ならしめることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本件発明は駆動軸と、被動部品と、それら2部品を相対回転不能に接続する軸継手を有する駆動構造であって、前記駆動軸と軸継手、前記被動部品と軸継手の2箇所の接続はN回回転対称(N:2以上の整数)を有する形状で嵌合している第1の部分と、M回回転対称(M>Nの整数)を有する形状で嵌合している第2の部分とからなり、前記Nと前記Mの最小公倍数LCM(N,M)は72以上であり、かつ前記最小公倍数LCM(N,M)はMより大きく( N<M<LCM(N,M))、前記駆動軸及び前記軸継手及び前記被動部品の相互の嵌合状態を示す標線または目印がそれぞれの表面に少なくとも各一つ付されている駆動構造である。
【0007】
ここで以下の明細書をわかりやすくするために数式上の記号を定義し説明する。
N: 接続箇所の第1の部分の回転対称数、2以上の整数
Y: 接続箇所の第1の部分のピッチ角度、360°/N=Y
M: 接続箇所の第2の部分の回転対称数、M>Nの整数
X: 接続箇所の第2の部分のピッチ角度、360°/M=X
LCM(N,M): NとMの最小公倍数
a: NとMの組み合わせで得られる調整可能な位相角度の最小単位(分解能) 36
0°/LCM(N,M)=a
A: 勘合形状の重ね合わせによって得られる分解能
T: 重ね合わせの個数
A=360/(T×LCM(N,M))=a/T
LLCM(N,M,θ1/θ2/・・・/θT-1):
またはLLCM(M,N,θ1/θ2/・・・/θT-1):
請求項2で定義された接続形状のメス側空間がT個、それぞれ位相差θkで配置された状態を示す式。( )内先頭の記号が重ね合わせをする側の回転対称数、通常はNである。
この時分解能A=360/(T×LCM(N,M))=a/T
L:NとMの最大公約数
また本明細書において特に断らない限り、角度は被動部品側から駆動軸側を見たとき、基準となるものから時計回り方向を正(+)方向として測定されるものである。
【0008】
目的の分解能aまたはAを得るためのNとM、Tの組み合わせ方法を以下に説明する
分解能a=360°/LCM(N,M)となる。
a=5°以下(望ましくは2°以下)を得るためには、NとMの最小公倍数LCM(N,M)が72以上(望ましくは180以上)となるようにNとMを組み合わせる。
例1 N=8 M=45 LCM(N,M)=360 a=1
例2 N=16 M=45 LCM(N,M)=720 a=0.5
例3 N=20 M=36 LCM(N,M)=180 a=2
例4 N=24 M=25 LCM(N,M)=600 a=0.6
またT個の嵌合空間を重ね合わせる方式ではA=5°以下(望ましくは2°以下)を得るためにはT×LCM(N,M)が72以上(望ましくは180以上)となるようにNとM、Tを組み合わせる。
【発明の効果】
【0009】
本件発明によれば軸継手と駆動軸、軸継手とカム等の2箇所の嵌合を抜いてはずし、角度を変更して組みなおすことで簡単に5°以下といった微細な角度の設定が初心者にも簡単・単純に実施できるようになる。
また上記効果は軸継手などに設けられた標線や目印に駆動軸とカム等の標線や目印を合わせることにより調整実績値を数値で把握することで容易に再現可能とされている。例えば標線または目印を第一、第二の部分それぞれの回転対称数に一致させて設ければ、分解能aの角度単位で位相設定が容易に可能になる。
また予め所定量の位相が必要な場合はその位相が得られる位置に単一の標線または目印を例えばレーザー刻印等でそれぞれに設ければよい。
これにより同一の軸継手でありながら適用する製品・機種別に刻印位置を変更するだけで位相角度の異なるものが得られ部品の共通化ができる。
【0010】
さらにこの場合組付け指示線が1本だけとなるので1°、1/2°といった微細な調
位角度の軸継手においても、組み間違えることが少ない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】実施例1の全体外観図である。M=45 N=4 LCM(N、M)=180 の実施例である。
【
図1C】実施例1の標線の展開図(原位置組付時)である。
【
図1D】実施例1の進角22°に調整した状態の標線の展開図である
【
図2A】実施例2の全体外観図である。M=45 N=8 LCM(N,M)=360 の実施例である。
【
図2C】実施例2の標線の展開図(原位置組付時)である。
【
図2D】実施例2の進角33°に調整した状態の標線の展開図である。
【
図2E】実施例2の
図2Bとは異なる形式の標線の説明図である。実施例2’として実施例2と区別する
【
図2F】
図2Eの実施例の標線位置と位相角の関係を示す表である。
【
図3A】実施例3の全体外観図である。M=45 N=4 LCM(N,M)=180 T=2の2重化の実施例である。
【
図3C】実施例3の標線の展開図(原位置組付時)である。
【
図3D】実施例3の進角9°に調整した状態の標線の展開図である。
【
図4A】実施例4の全体外観図である。M=45 N=4CM(N,M)=180 T=2の2重化の実施例である。
【
図4C】実施例4の標線の展開図(進角352°組付時)である。
【
図5A】実施例5、M=40 N=3 LCM(N,M)=120 T=3の3重化の断面図である。
【
図5B】実施例5の標線の展開図である。進角82°に調整した状態の展開図である。
【
図6-1A】実施例6-1、M=36 N=5 LCM(N,M)=180 T=2の2重化の断面図である。
【
図6-1B】実施例6-1の位相調整目盛りの展開図である。進角155°に調整した状態の展開図である。
【
図6-2A】実施例6-2、M=36 N=5 LCM(N,M)=180 T=4の4重化の断面図である。
【
図6-2B】実施例6-2の標線の展開図である。進角123.5°に調整した状態の展開図である。
【
図7A】実施例7の説明図である。N=8、M=9、LCM(N,M)=72、a=5°の説明図である
【
図7B】実施例7の標線の展開図である。進角45°に調整した状態の展開図である。
【
図8A】実施例8の説明図である。N=8、M=30、LCM(N,M)=120、a=3°T=3、A=1の説明図である
【発明を実施するための形態】
【0012】
回転対称ピッチ角度の組み合わせを決定するのに、2段階の手順がある。すなわち目標となる分解能a又はAを得るには、a×LCM(N,M)=360°となるNとMの組み合わせ、またはN、M、Tの組み合わせを求めればよい。通常は複数の組み合わせが抽出できるはずである。
次に製造しやすさ、組付け及び進角調節のしやすさから軸継手の直径と勘案し、軸継手の「円周長さ/回転対称数M」が軸継手の円周表面上で1mm程度以上になるような回転対
称数Mを選びこれと組み合わせて、前記最小公倍数LCM(N,M)を得るNを求める。1mmを目安においたのは使い慣れた定規の目盛りと同程度の幅であれば目視で容易に合わせられるという判断による。
【実施例0013】
以下の段落で本件発明の実施例を示す。本件発明の理解を容易にするため発明の初期の形態から順に呈示する。後の実施例ほど、より使い勝手のよい実施例になるが原理的な理解は逆にわかりにくくなる。
以下の実施例ではいずれも被動部品側から駆動軸側を見たとき、駆動軸が時計回り回転する方向を正転とし、駆動軸の基準位置(基準線200)から、被動部品の基準位置(0°位置または基準線310)の位相を正転方向で測った角度を進角とする。
またセレーション等の山をギアと同様に歯と呼び換え、その数を「枚」の単位で記述する。
ここで時計回り方向を正転としたのは本明細書をわかり易くするための便宜的な処置であり、反時計方向を正転とした場合も発明の効果は同一である。
図1Aより
図1Dに実施例1を示す。この実施例では軸継手10と駆動軸20の嵌合は回転対称数N=4の第一の部分であり、ピッチ角度Y=90°であり、嵌合方法はピッチ角度に配列されたねじによる取付けである。軸継手10とカム30(被動物)の嵌合はセレーションによる嵌合であり、回転対称数M=45(45枚歯、ピッチ角度X=8°)となっている。
軸接手10上の位相調節目盛102、104、106は下部で各ねじ穴10D、10C、10Bの中央と一致しているが、上部では正転側直近のセレーション頂点位置に斜行している。なお位相調節目盛100は一つのセレーションの頂点からねじ穴10Aの中央を通り、かつ駆動軸の軸に平行に引かれている。
図1B・
図1Cでは軸継手10側目盛角度0°の位相調節目盛100に、駆動軸20に刻印された基準線200が、カム30側目盛角度0°が組み合わされた状態が図示されている。この位置を原位置と呼ぶこととする。
被動物側から駆動軸側を見たとき、時計回り方向を正転と決めたので、カムなどの被動物が原位置より時計回り方向にシフトすることを進角度+とする。
すなわち軸継手10や被動物30を原位置より時計回り方向にシフトして組み付けるとき駆動軸20の基準線200に一致する角度に軸継手上に刻印される位相調節目盛にその進角度を付記するので、位相調節目盛は原位置から反時計まわり方向に組み付けピッチ数の小さい順に整列する。
正転方向で表現すると位相調節目盛は調節角の大きい順に並ぶ。
ここで「調節角」とは第一の部分Nの各嵌合位置に刻印された標線に付記された進角度の数値を言う。(標線の斜行による進角の量)
図1Dでは駆動軸20とカム30を軸継手10から取り外し、軸継手10を3ピッチ(270°)正転(右回転)させて、駆動軸基準線200と軸継手側位相調節目盛り106を合致させて取り付けると、駆動軸基準線200に正転側直近の軸継手側セレーションの頂点は原位置から6°進んだ位置となる。軸継手上の位相調節目盛り106は下部で駆動軸20の基準線200と一致しているが上部では正転方向(左)に6°ずれた位置に位置合わせ線が斜行して軸継手側セレーションの歯の頂点に一致している。
この調節角6°の調節目盛線106にカム30の0°の線を合わせて組付ければカムは原位置より6°進角して組付けされることになる。
このときの進角6°が調整角として目盛のわきに表示されている。
図1Dでは6°の調節目盛りにカム側目盛り16°の線を合わせて組付け、カム30の進角が22°となっている。すなわち 「カム30の進角度=調節角+カム上の目盛り」となり組付け作業者にわかりやすい目盛り表示となる。
取付けねじに皿ねじ4本を使ったのは、ねじを締め終わったときに回転方向の遊びが無く、かつ軸継手10と駆動軸20の同芯精度を向上するためである。
なお、
図1A、2A、2E、3A、4Aの全体外観図においては第2の部分のセレーションによる嵌合部はデフォルメして作図している。正しい形状は断面図を参照されたい