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特開2022-84854IL-4および/またはIL-13のそれぞれの受容体への結合を阻害することによる特定の障害の予防または治療のための方法
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  • 特開-IL-4および/またはIL-13のそれぞれの受容体への結合を阻害することによる特定の障害の予防または治療のための方法 図1
  • 特開-IL-4および/またはIL-13のそれぞれの受容体への結合を阻害することによる特定の障害の予防または治療のための方法 図2
  • 特開-IL-4および/またはIL-13のそれぞれの受容体への結合を阻害することによる特定の障害の予防または治療のための方法 図3
  • 特開-IL-4および/またはIL-13のそれぞれの受容体への結合を阻害することによる特定の障害の予防または治療のための方法 図4A
  • 特開-IL-4および/またはIL-13のそれぞれの受容体への結合を阻害することによる特定の障害の予防または治療のための方法 図4B
  • 特開-IL-4および/またはIL-13のそれぞれの受容体への結合を阻害することによる特定の障害の予防または治療のための方法 図4C
  • 特開-IL-4および/またはIL-13のそれぞれの受容体への結合を阻害することによる特定の障害の予防または治療のための方法 図5
  • 特開-IL-4および/またはIL-13のそれぞれの受容体への結合を阻害することによる特定の障害の予防または治療のための方法 図6
  • 特開-IL-4および/またはIL-13のそれぞれの受容体への結合を阻害することによる特定の障害の予防または治療のための方法 図7A
  • 特開-IL-4および/またはIL-13のそれぞれの受容体への結合を阻害することによる特定の障害の予防または治療のための方法 図7B
  • 特開-IL-4および/またはIL-13のそれぞれの受容体への結合を阻害することによる特定の障害の予防または治療のための方法 図7C
  • 特開-IL-4および/またはIL-13のそれぞれの受容体への結合を阻害することによる特定の障害の予防または治療のための方法 図7D
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084854
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】IL-4および/またはIL-13のそれぞれの受容体への結合を阻害することによる特定の障害の予防または治療のための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20220531BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20220531BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20220531BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220531BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220531BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220531BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20220531BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20220531BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20220531BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20220531BHJP
【FI】
A61K38/17
A61P11/02 ZNA
A61P11/06
A61P17/00
A61P27/02
A61P11/00
A61K9/12
A61K9/72
A61P37/08
C07K14/47
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022049676
(22)【出願日】2022-03-25
(62)【分割の表示】P 2020092168の分割
【原出願日】2012-12-12
(31)【優先権主張番号】61/570,018
(32)【優先日】2011-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】509029645
【氏名又は名称】ピエリス ファーマシューティカルズ ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】391008951
【氏名又は名称】アストラゼネカ・アクチエボラーグ
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100067035
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 光隆
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ホールバウム
(72)【発明者】
【氏名】ローレント・オドリ
(72)【発明者】
【氏名】ベヴァリー・コラー
(57)【要約】
【課題】アレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎、肺線維症、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患、肺胞タンパク症、または成人呼吸窮迫症候群を治療、改善、または予防するための、IL-4および/またはIL-13がそれぞれの受容体に結合するのを阻害するタンパク質を含有する組成物の提供。
【解決手段】リポカリンムテインまたはその断片もしくは変異体またはその融合タンパク質もしくはコンジュゲートを含有する、肺に局所的に投与することが好ましい。組成物。肺に局所的に、好ましくはエアゾル吸入により、投与される、組成物。
【効果】リポカリンムテインは、インビボでヒトIL-13誘導性転写産物Ccl11(エオタキシン)を阻外し、その効力はIL-4変異体よりも効果ある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
障害を治療、改善、または予防する方法で使用するための、IL-4および/またはIL-13がそれぞれの受容体に結合するのを阻害することが可能なリポカリンムテインまたはその断片もしくは変異体またはその融合タンパク質もしくはコンジュゲートを含有する、組成物。
【請求項2】
薬学的に許容される製剤をさらに含有する、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
前記リポカリンムテインが、IL-4および/またはIL-13により誘導される下流のシグナル伝達および/または細胞応答を破壊することができる、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
前記リポカリンムテインが、それを必要とする対象においてインビボ治療活性を示すことができる、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
前記リポカリンムテインが、インビボでヒトIL-13誘導性転写産物Ccl11(エオタキシン)を阻害することができる、請求項4に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
前記リポカリンムテインが、実施例5に本質的に記載された試験で測定したとき、インビボでヒトIL-13誘導性転写産物Ccl11(エオタキシン)を阻害する際にIL-4変異体(R121D, Y124D)よりも効力がある、請求項5に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記リポカリンムテインが、実施例8に本質的に記載された試験で測定したとき、それぞれSEQ ID NO:14および15に示される軽鎖可変配列および重鎖可変配列を有する抗IL-4RAモノクローナル抗体と同じくらい良好な機能的活性を示すことができる、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
前記リポカリンムテインが、前記試験において前記抗IL-4RAモノクローナル抗体と同じくらい良好にIL-13誘導性の杯細胞化生を阻害することができる、請求項7に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
前記対象が、IL-4発現および/またはIL-13発現が疾患の病因または悪化に関与するかまたは関連する障害に罹患している、前記請求項のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
前記対象が、IL-4活性および/またはIL-13活性の除去、阻害、または減少によって改善、軽減、または抑制され得る障害に罹患している、前記請求項のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
肺に局所的に投与される、前記請求項のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
エアロゾル吸入により投与される、前記請求項のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
それを必要とする対象に、1日4回まで、1日3回まで、1日2回まで、1日1回まで、1日おきに1回まで、2日おきに1回まで、週に1回まで、および隔週に1回までからなる群より選択される頻度で投与される、前記請求項のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
それを必要とする対象に、0.06~600mg、0.06~100mg、0.3~10mg、および1~3mgからなる群より選択される投与量レベルで毎回投与される、前記請求項のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項15】
前記障害がTh2免疫応答の増加に関連している、前記請求項のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項16】
前記障害がアレルギー反応またはアレルギー性炎症に関連している、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項17】
前記障害が粘液産生または粘液分泌に関連している、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項18】
前記障害が、アレルギー性炎症、アレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎、肺線維症、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患、肺胞タンパク症、または成人呼吸窮迫症候群からなる群より選択される、請求項15~17のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
前記アレルギー性喘息が、IL4/IL13経路が疾患の病因に関与している気道炎症である、請求項18に記載の使用のための組成物。
【請求項20】
抗アレルギー薬および/または抗アレルギー性炎症薬をさらに含有する、請求項16に記載の使用のための組成物。
【請求項21】
前記障害が肺障害である、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項22】
前記肺障害が、肺障害、肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、肺胞タンパク症、成人呼吸窮迫症候群、サルコイドーシス、および肺上皮に関連している、請求項21に記載の使用のための組成物。
【請求項23】
抗粘液薬をさらに含有する、請求項17に記載の使用のための組成物。
【請求項24】
前記リポカリンムテインがマーモセットIL-4RAと交差反応性である、前記請求項のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項25】
前記リポカリンムテインがマウスIL-4RAおよび/またはカニクイザルIL-4RAと交差反応性ではない、前記請求項のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項26】
前記リポカリンムテインが関連タンパク質または非関連タンパク質と本質的に交差反応性ではない、前記請求項のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項27】
前記関連タンパク質がIL-23受容体α鎖および/またはフィブロネクチンIII型ドメインを有するI型サイトカイン受容体である、請求項26に記載の使用のための組成物。
【請求項28】
前記非関連タンパク質がIL-6受容体および/またはIL-18受容体α鎖である、請求項26に記載の使用のための組成物。
【請求項29】
前記リポカリンムテインが、成熟ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO:1)の線状ポリペプチド配列の位置27、28、30、31、33、53、57、61、64、66、80、83、104~106および108に対応するいずれか1つまたは複数のアミノ酸位置に、変異したアミノ酸を有する、前記請求項のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項30】
前記リポカリンムテインが、成熟ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO:1)の線状ポリペプチド配列の位置26、32、34、55、56、58および63に対応するいずれか2つ以上のアミノ酸位置に、変異したアミノ酸をさらに有する、請求項29に記載の使用のための組成物。
【請求項31】
前記リポカリンムテインが、成熟ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO:1)の配列に対して少なくとも75%の同一性を有する、請求項29または30に記載の使用のための組成物。
【請求項32】
前記請求項のいずれか一項に記載の方法で使用されるリポカリンムテインまたはその断片もしくは変異体またはその融合タンパク質もしくはコンジュゲート。
【請求項33】
少なくともIL-4RAアンタゴニストまたはその断片もしくは変異体またはその融合タンパク質もしくはコンジュゲートを含有する薬学的組成物を、それを必要とする対象に、溶液中に0.01mg/ml~100mg/mlの範囲の濃度で噴霧により投与する段階を含む該対象を治療する方法で使用するための、該薬学的組成物であって、該溶液が、
(a)約5.5~8.0のpHレベル、
(b)約150~550mOsm/Lの浸透圧値、および
(c)浸透性アニオンとしての塩化物の約31~300mMのイオン濃度
を含み、かつ結果として生じるエアロゾルが1μm~10μmの範囲の空気動力学的中央粒子径(MMAD)を有する、薬学的組成物。
【請求項34】
前記溶液が約1.5cpより低い粘度値をさらに有する、請求項33に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項35】
0.05mg/ml~50mg/ml、0.1mg/ml~50mg/ml、0.05mg/ml~25mg/ml、0.1mg/ml~25mg/ml、0.05mg/ml~15mg/ml、0.1mg/ml~15mg/ml、0.05mg/ml~10mg/mlおよび0.1mg/ml~10mg/mlからなる群より選択される、IL-4および/またはIL-13の1種または複数種のアンタゴニストまたはその融合タンパク質もしくはコンジュゲートの濃度レベルを有する、請求項33に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項36】
前記溶液が、5.5~8.0、6.0~8.0、6.0~7.5、5.5~7.5、6.0~7.0、および6.5~7.5からなる群より選択される調整されたpHを有する、請求項33に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項37】
前記溶液が、約150~550mOsm/kg、約150~500mOsm/kg、約200~550mOsm/kg、約200~500mOsm/kg、約200~450mOsm/kg、および約150~450mOsm/kgからなる群より選択される浸透圧値を有する、請求項33に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項38】
前記溶液が、31~300mM、50~200mM、50~300mM、50~150mM、100~200mM、100~300mM、100~250mM、150~250mM、150~300mM、および200~300mMからなる群からの、浸透性アニオンとしての塩化物のイオン濃度を有する、請求項33に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項39】
前記溶液が、0~1.5cp、0~1.0cp、0~0.5cp、0.5~1.0cp、0.5~1.5cp、および1.0~1.5cpからなる群より選択される粘度を有する、請求項33に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項40】
結果として生じるエアロゾルが、1μm~10μm、2μm~8μm、2μm~5μm、1.5μm~4μm、3μm~4.5μm、および2.5μm~3.5μmからなる群より選択される空気動力学的中央粒子径(MMAD)を有する、請求項31~37のいずれか一項に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項41】
電子ネブライザー、ジェット、超音波、または振動有孔膜もしくは振動メッシュ式ネブライザーが使用される、請求項33~40のいずれか一項に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項42】
前記アンタゴニストが、噴霧時および噴霧後にその機能的および構造的完全性を維持している、請求項33~41のいずれか一項に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項43】
前記アンタゴニストが、噴霧時および噴霧後に単量体のままである、請求項42に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項44】
前記アンタゴニストが請求項32に記載のリポカリンムテインである、請求項33~43のいずれか一項に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項45】
請求項33~44のいずれか一項に記載の方法で使用される溶液。
【請求項46】
1~3分以内の吸入による送達方法で使用するための請求項45に記載の溶液を含む、請求項33に記載の有効量の薬学的組成物。
【請求項47】
吸入による送達が肺に局所的である、請求項46に記載の使用のための有効量の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本開示は、Uniprot #P05112のリガンドおよび/またはUniprot #P35225のリガンドがそれぞれの受容体に結合するのを阻害するタンパク質を含有する組成物の治療的有効量を、それを必要とする対象に投与する段階を含む、障害の治療、改善、または予防方法に関する。いくつかの態様では、前記障害は、好ましくは、Th2免疫応答の増加と関連している。いくつかの態様では、アレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎、肺線維症、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患、肺胞タンパク症または成人呼吸窮迫症候群を治療、改善または予防するために、投与は肺に局所的であることが好ましい。
【背景技術】
【0002】
背景
非共有結合性相互作用を介して所定の標的と選択的に結合するタンパク質は、一般的に、バイオテクノロジー、医学、生物分析、ならびに生物および生命科学において試薬として極めて重要な役割を果たしている。抗体、すなわち免疫グロブリンは、このクラスのタンパク質の広く知られた例である。リガンド/標的の認識、結合および/または分離と併せてこのようなタンパク質の多種多様なニーズにもかかわらず、ほぼ例外なく免疫グロブリンが現在使用されている。
【0003】
抗体様の機能を有する追加のタンパク質性結合分子は、リポカリンファミリーのメンバーであり、これらはリガンドに結合するように自然に進化してきた。リポカリンは、脊椎動物、昆虫、植物および細菌を含めて、多くの生物に存在している。リポカリンタンパク質ファミリーのメンバー(Pervaiz, S., & Brew, K. (1987) FASEB J. 1, 209-214(非特許文献1))は、典型的には、小さな分泌タンパク質であり、単一のポリペプチド鎖を有する。それらは、さまざまな異なる分子認識特性によって特徴づけられる:種々の、主に疎水性の分子(例えば、レチノイド、脂肪酸、コレステロール、プロスタグランジン、ビリベルジン、フェロモン、味物質および臭気物質など)に結合するそれらの能力、特定の細胞表面受容体へのそれらの結合、および巨大分子複合体のそれらの形成。それらは、これまで、主に輸送タンパク質として分類されてきたが、リポカリンがさまざまな生理学的機能を果たすことは今や明らかである。これらには、レチノール輸送、嗅覚、フェロモンシグナル伝達、およびプロスタグランジンの合成における役割が含まれる。リポカリンはまた、免疫応答の調節および細胞ホメオスタシスの媒介にも関与している(例えば、Flower, D.R. (1996) Biochem. J. 318, 1-14およびFlower, D.R. et al. (2000) Biochim. Biophys. Acta 1482, 9-24(非特許文献2および3)に概説される)。
【0004】
リポカリン類は、しばしば20%未満の配列同一性を有する、異常に低レベルの全体的な配列保存を共有している。これとは著しく対照的に、これらの全体的な折りたたみパターンは高度に保存されている。リポカリン構造の中心部分は、単一の8本鎖逆平行βシートが、連続的に水素結合したβ-バレルを形成するために、それ自体に戻って閉じた構成をしている。このβ-バレルが中心の空洞を形成している。バレルの一端は、その底面にかかるN末端ペプチドセグメントならびにβ鎖をつなぐ3つのペプチドループによって立体的にブロックされている。β-バレルの他端は、溶媒に開放されており、かつ4つの柔軟なペプチドループによって形成される標的結合部位を包囲している。さまざまなサイズ、形状、および化学的特性の標的を収容することがそれぞれ可能な、多種多様な結合様式を生じさせるのは、他の点では柔軟性に欠けるリポカリン骨格におけるループのこの多様性である(例えば、Flower, D.R. (1996), 前掲; Flower, D.R. et al. (2000), 前掲;またはSkerra, A. (2000) Biochim. Biophys. Acta 1482, 337-350(非特許文献4)に概説される)。
【0005】
いくつかのPCT公開公報(例えば、WO 99/16873、WO 00/75308、WO 03/029463、WO 03/029471およびWO 2005/19256(特許文献1~5))は、各種リポカリン(例えば、涙液リポカリンおよびhNGALリポカリン)のムテイン(mutein:変異タンパク質)が、野生型リポカリンの天然リガンドと異なる標的に対して高い親和性および特異性を示すように構築され得る方法を開示している。これは、例えば、4つのペプチドループのうち少なくとも1つのループの1つまたは複数のアミノ酸位置を変異させることによって、行うことができる。また、PCT公開公報WO 2011/154420(特許文献6)は、IL-4受容体サブユニットαに結合するリポカリンムテインを作製するための1つまたは複数の方法を教示している。
【0006】
Th2サイトカインであるIL-4(正式にはインターロイキン-4として知られる、Uniprot #P05112)およびIL-13(正式にはインターロイキン-13として知られる、Uniprot #P35225)は、大きく重複する機能を有し、かつ好酸球増加症、杯細胞化生、気道過敏性、IgE免疫グロブリンスイッチ、選択的マクロファージ活性化、平滑筋細胞リモデリング、および上皮下線維症を含めて、喘息のいくつかの重要な特徴を直接促進する。さらに、IL-4、IL-13、IL-4RA(正式にはインターロイキン-4受容体サブユニットαとして知られる、Uniprot #P24394、SEQ ID NO:12)、およびStat6の遺伝子における遺伝的多型は、喘息に関連している。これは、IL-4、IL-13、IL-4RA、およびStat6の対立遺伝子変異体の組み合わせが相乗的であるようであり、さらにIL-4、IL-13、およびIL-4RAの記述された多型が、Th2サイトカインの、またはIL-4/IL-13受容体の共通サブユニットの、産生、機能、またはシグナル伝達活性を高めるので、特に関係がある(Finkelman et al. Jl, 2010, 184:1663-74(非特許文献5))。近年、喘息のエンドタイプ(endotype)またはサブフェノタイプ(subphenotype:亜表現型)は分子メカニズムまたは治療応答によって定義されている。Woodruffらは、例えば、IL-13誘導性遺伝子POSTN(ペリオスチン)、CLCA1(gob5)、およびSERPINB2の肺上皮発現に基づいて、喘息のフェノタイプをTh2-highおよびTh2-lowに定義した(Wooddruff PG et al, Genome-wide profiling identifies epithelial cell genes associated with asthma and with treatment response to corticosteroids PNAS, 2007, 104:15858-63; Prescott G. Woodruff) (T-helper Type 2-driven inflammation defines major subphenotypes of Asthma, Am.J. Respir.Crti.Care Med., 2009, 180:388-395(非特許文献6および7))。
【0007】
したがって、IL-4RAに高い結合親和性で結合し、それゆえにIL-4および/またはIL-13がそれぞれの受容体に結合するのを阻害し、かつそれを必要とする対象においてインビボ治療活性を示す、ヒト涙液リポカリンのムテインを含有する組成物の治療的有効量を用いる、改善された治療方法を提供することが望ましいであろう。本出願で用いるとき、それを必要とする対象は、障害の治療または予防を必要とする哺乳動物、ほんの数例を挙げれば、ヒト、イヌ、マウス、ラット、ブタ、カニクイザルのような類人猿などであり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO 99/16873
【特許文献2】WO 00/75308
【特許文献3】WO 03/029463
【特許文献4】WO 03/029471
【特許文献5】WO 2005/19256
【特許文献6】WO 2011/154420
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Pervaiz, S., & Brew, K. (1987) FASEB J. 1, 209-214
【非特許文献2】Flower, D.R. (1996) Biochem. J. 318, 1-14
【非特許文献3】Flower, D.R. et al. (2000) Biochim. Biophys. Acta 1482, 9-24
【非特許文献4】Skerra, A. (2000) Biochim. Biophys. Acta 1482, 337-350
【非特許文献5】Finkelman et al. Jl, 2010, 184:1663-74
【非特許文献6】Wooddruff PG et al, Genome-wide profiling identifies epithelial cell genes associated with asthma and with treatment response to corticosteroids PNAS, 2007, 104:15858-63
【非特許文献7】Prescott G. Woodruff) (T-helper Type 2-driven inflammation defines major subphenotypes of Asthma, Am.J. Respir.Crti.Care Med., 2009, 180:388-395
【発明の概要】
【0010】
開示の概要
本開示は、治療的有効量の組成物を、該組成物を必要とする対象に投与することを含む、障害の治療、改善または予防方法に関し、ここで、該組成物は、IL-4および/またはIL-13がそれぞれの受容体に結合するのを阻害することが可能な、本開示のリポカリンムテインを含有する。いくつかのさらなる態様では、リポカリンムテインは、IL-4および/またはIL-13によって誘導される下流のシグナル伝達および/または細胞応答を破壊することが可能である。さまざまな態様において、前記障害は、IL4/IL13経路が病因に関与している障害である。さまざまなさらなる態様では、前記組成物は肺に局所的に投与され得る。さまざまな好ましい態様では、前記組成物はエアロゾル吸入によって投与され得る。いくつかのさらに好ましい態様では、前記組成物は、それを必要とする対象に、以下からなる群より選択される頻度で投与される:1日4回まで、1日3回まで、1日2回まで、1日1回まで、1日おきに1回まで、2日おきに1回まで、週に1回まで、および隔週に1回まで。
【0011】
いくつかの態様では、本出願で使用するとき、該組成物を必要とする対象は、IL-4発現および/またはIL-13発現が疾病の病因または悪化に関与するかまたは関連する障害に罹患している。いくつかの態様では、該組成物を必要とする対象は、IL-4活性および/またはIL-13活性の除去、阻害または減少によって改善、軽減または抑制され得る障害に罹患している。いくつかのさらなる態様では、該組成物を必要とする対象は、例えば、アレルギー性炎症、アレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎、肺線維症、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患、肺胞タンパク症または成人呼吸窮迫症候群を含む1つまたは複数の障害に罹患している可能性がある。また、本開示のリポカリンムテインは、いくつかの態様では、組織線維症の治療、改善または予防のために適用されることが想定される(Chiaramonte et al. (1999), J. Clin. Invest. 104(6), 777-785参照)。線維症は、好ましくは創傷、例えば外科的切開創の治癒に起因しうる。組織線維症は、例えば、肝臓、皮膚の表皮、皮膚の内皮、筋肉、腱、軟骨、心臓組織、膵臓組織、肺組織、子宮組織、神経組織、精巣、卵巣、副腎腺、動脈、静脈、結腸、小腸、胆管、および腸からなる群より選択される組織に影響を及ぼし、特に、組織は肺および肝臓から選択される。
【0012】
例えば、本開示の方法により好ましく治療、改善または予防することができる1つの障害は、Th2免疫応答の増加に関連している。
【0013】
いくつかの態様では、前記障害はアレルギー反応またはアレルギー性炎症に関連している可能性があり、好ましくは、アレルギー反応は食物アレルギーであり、そして好ましくは、アレルギー性炎症はアレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎または皮膚炎と関連している。さまざまな好ましい態様では、アレルギー性喘息は、IL4/IL13経路が病因に関与している気道の炎症であり得る。
【0014】
他の好ましい態様では、本開示の組成物はさらに、抗アレルギー薬および/または抗アレルギー性炎症薬を含有する。
【0015】
本開示の方法により好ましく治療、改善または予防することができる別の例示的な障害は、粘液産生または粘液分泌に関連している。
【0016】
さまざまな好ましい態様では、前記障害は肺障害、好ましくは慢性閉塞性肺疾患(COPD)または嚢胞性線維症(CF)であり得る。
【0017】
さらに別の態様では、前記組成物は、開示された種々の障害のための遺伝子治療薬として使用することができる。
【0018】
本開示のリポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンの線状ポリペプチド配列の位置27、28、30、31、33、53、57、61、64、66、80、83、104~106および108に対応する位置のいずれか1つまたは複数のアミノ酸で変異したアミノ酸を有するヒト涙液リポカリンムテインであり得る。しかし、本開示のリポカリンムテインはまた、ヒト涙液リポカリン以外のリポカリン、例えばヒトNGALリポカリンまたは本明細書に記載の他のリポカリンのムテインであってもよい。
【0019】
さまざまな好ましい態様では、リポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリンの線状ポリペプチド配列の位置26、32、34、55、56、58および63に対応する位置のいずれか2つ以上のアミノ酸で変異したアミノ酸を有する。
【0020】
本明細書に記載のリポカリンムテインは、特に好ましい態様では、成熟ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO:1)の配列に対して少なくとも75%の同一性を有する。
【0021】
本開示の方法で適用されるリポカリンムテインは、好ましくは、別の種、例えばマーモセットIL-4RAと交差反応性であり、このことは、ヒト生物に似ているマーモセット類人猿において、その時の候補であるリポカリンムテインを試験することを可能にする。リポカリンムテインは、マウスIL-4RAおよび/またはカニクイザルIL-4RAなどの、他の非ヒト種由来のIL-4RAと交差反応性であっても、なくてもよい。
【0022】
一般的には、リポカリンムテインは、関連タンパク質または非関連タンパク質と本質的に交差反応性でないことが好ましい。前記関連タンパク質は、例えば、IL-23受容体α鎖および/またはフィブロネクチンIII型ドメインを有するI型サイトカイン受容体であり、一方前記非関連タンパク質は、例えば、IL-6受容体および/またはIL-18受容体α鎖である。
【0023】
[本発明1001]
障害を治療、改善、または予防する方法で使用するための、IL-4および/またはIL-13がそれぞれの受容体に結合するのを阻害することが可能なリポカリンムテインまたはその断片もしくは変異体またはその融合タンパク質もしくはコンジュゲートを含有する、組成物。
【0024】
[本発明1002]
薬学的に許容される製剤をさらに含有する、本発明1001の使用のための組成物。
【0025】
[本発明1003]
前記リポカリンムテインが、IL-4および/またはIL-13により誘導される下流のシグナル伝達および/または細胞応答を破壊することができる、本発明1001の使用のための組成物。
【0026】
[本発明1004]
前記リポカリンムテインが、それを必要とする対象においてインビボ治療活性を示すことができる、本発明1001の使用のための組成物。
【0027】
[本発明1005]
前記リポカリンムテインが、インビボでヒトIL-13誘導性転写産物Ccl11(エオタキシン)を阻害することができる、本発明1004の使用のための組成物。
【0028】
[本発明1006]
前記リポカリンムテインが、実施例5に本質的に記載された試験で測定したとき、インビボでヒトIL-13誘導性転写産物Ccl11(エオタキシン)を阻害する際にIL-4変異体(R121D, Y124D)よりも効力がある、本発明1005の使用のための組成物。
【0029】
[本発明1007]
前記リポカリンムテインが、実施例8に本質的に記載された試験で測定したとき、それぞれSEQ ID NO:14および15に示される軽鎖可変配列および重鎖可変配列を有する抗IL-4RAモノクローナル抗体と同じくらい良好な機能的活性を示すことができる、本発明1001の使用のための組成物。
【0030】
[本発明1008]
前記リポカリンムテインが、前記試験において前記抗IL-4RAモノクローナル抗体と同じくらい良好にIL-13誘導性の杯細胞化生を阻害することができる、本発明1007の使用のための組成物。
【0031】
[本発明1009]
前記対象が、IL-4発現および/またはIL-13発現が疾患の病因または悪化に関与するかまたは関連する障害に罹患している、前記本発明のいずれかの使用のための組成物。
【0032】
[本発明1010]
前記対象が、IL-4活性および/またはIL-13活性の除去、阻害、または減少によって改善、軽減、または抑制され得る障害に罹患している、前記本発明のいずれかの使用のための組成物。
【0033】
[本発明1011]
肺に局所的に投与される、前記本発明のいずれかの使用のための組成物。
【0034】
[本発明1012]
エアロゾル吸入により投与される、前記本発明のいずれかの使用のための組成物。
【0035】
[本発明1013]
それを必要とする対象に、1日4回まで、1日3回まで、1日2回まで、1日1回まで、1日おきに1回まで、2日おきに1回まで、週に1回まで、および隔週に1回までからなる群より選択される頻度で投与される、前記本発明のいずれかの使用のための組成物。
【0036】
[本発明1014]
それを必要とする対象に、0.06~600mg、0.06~100mg、0.3~10mg、および1~3mgからなる群より選択される投与量レベルで毎回投与される、前記本発明のいずれかの使用のための組成物。
【0037】
[本発明1015]
前記障害がTh2免疫応答の増加に関連している、前記本発明のいずれかの使用のための組成物。
【0038】
[本発明1016]
前記障害がアレルギー反応またはアレルギー性炎症に関連している、本発明1001~1014のいずれかの使用のための組成物。
【0039】
[本発明1017]
前記障害が粘液産生または粘液分泌に関連している、本発明1001~1014のいずれかの使用のための組成物。
【0040】
[本発明1018]
前記障害が、アレルギー性炎症、アレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎、肺線維症、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患、肺胞タンパク症、または成人呼吸窮迫症候群からなる群より選択される、本発明1015~1017のいずれかの使用のための組成物。
【0041】
[本発明1019]
前記アレルギー性喘息が、IL4/IL13経路が疾患の病因に関与している気道炎症である、本発明1018の使用のための組成物。
【0042】
[本発明1020]
抗アレルギー薬および/または抗アレルギー性炎症薬をさらに含有する、本発明1016の使用のための組成物。
【0043】
[本発明1021]
前記障害が肺障害である、本発明1001~1014のいずれかの使用のための組成物。
【0044】
[本発明1022]
前記肺障害が、肺障害、肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、肺胞タンパク症、成人呼吸窮迫症候群、サルコイドーシス、および肺上皮に関連している、本発明1021の使用のための組成物。
【0045】
[本発明1023]
抗粘液薬をさらに含有する、本発明1017の使用のための組成物。
【0046】
[本発明1024]
前記リポカリンムテインがマーモセットIL-4RAと交差反応性である、前記本発明のいずれかの使用のための組成物。
【0047】
[本発明1025]
前記リポカリンムテインがマウスIL-4RAおよび/またはカニクイザルIL-4RAと交差反応性ではない、前記本発明のいずれかの使用のための組成物。
【0048】
[本発明1026]
前記リポカリンムテインが関連タンパク質または非関連タンパク質と本質的に交差反応性ではない、前記本発明のいずれかの使用のための組成物。
【0049】
[本発明1027]
前記関連タンパク質がIL-23受容体α鎖および/またはフィブロネクチンIII型ドメインを有するI型サイトカイン受容体である、本発明1026の使用のための組成物。
【0050】
[本発明1028]
前記非関連タンパク質がIL-6受容体および/またはIL-18受容体α鎖である、本発明1026の使用のための組成物。
【0051】
[本発明1029]
前記リポカリンムテインが、成熟ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO:1)の線状ポリペプチド配列の位置27、28、30、31、33、53、57、61、64、66、80、83、104~106および108に対応するいずれか1つまたは複数のアミノ酸位置に、変異したアミノ酸を有する、前記本発明のいずれかの使用のための組成物。
【0052】
[本発明1030]
前記リポカリンムテインが、成熟ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO:1)の線状ポリペプチド配列の位置26、32、34、55、56、58および63に対応するいずれか2つ以上のアミノ酸位置に、変異したアミノ酸をさらに有する、本発明1029の使用のための組成物。
【0053】
[本発明1031]
前記リポカリンムテインが、成熟ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO:1)の配列に対して少なくとも75%の同一性を有する、本発明1029または1030の使用のための組成物。
【0054】
[本発明1032]
前記本発明のいずれかの方法で使用されるリポカリンムテインまたはその断片もしくは変異体またはその融合タンパク質もしくはコンジュゲート。
【0055】
[本発明1033]
少なくともIL-4RAアンタゴニストまたはその断片もしくは変異体またはその融合タンパク質もしくはコンジュゲートを含有する薬学的組成物を、それを必要とする対象に、溶液中に0.01mg/ml~100mg/mlの範囲の濃度で噴霧により投与する段階を含む該対象を治療する方法で使用するための、該薬学的組成物であって、該溶液が、
(a)約5.5~8.0のpHレベル、
(b)約150~550mOsm/Lの浸透圧値、および
(c)浸透性アニオンとしての塩化物の約31~300mMのイオン濃度
を含み、かつ結果として生じるエアロゾルが1μm~10μmの範囲の空気動力学的中央粒子径(MMAD)を有する、薬学的組成物。
【0056】
[本発明1034]
前記溶液が約1.5cpより低い粘度値をさらに有する、本発明1033の使用のための薬学的組成物。
【0057】
[本発明1035]
0.05mg/ml~50mg/ml、0.1mg/ml~50mg/ml、0.05mg/ml~25mg/ml、0.1mg/ml~25mg/ml、0.05mg/ml~15mg/ml、0.1mg/ml~15mg/ml、0.05mg/ml~10mg/mlおよび0.1mg/ml~10mg/mlからなる群より選択される、IL-4および/またはIL-13の1種または複数種のアンタゴニストまたはその融合タンパク質もしくはコンジュゲートの濃度レベルを有する、本発明1033の使用のための薬学的組成物。
【0058】
[本発明1036]
前記溶液が、5.5~8.0、6.0~8.0、6.0~7.5、5.5~7.5、6.0~7.0、および6.5~7.5からなる群より選択される調整されたpHを有する、本発明1033の使用のための薬学的組成物。
【0059】
[本発明1037]
前記溶液が、約150~550mOsm/kg、約150~500mOsm/kg、約200~550mOsm/kg、約200~500mOsm/kg、約200~450mOsm/kg、および約150~450mOsm/kgからなる群より選択される浸透圧値を有する、本発明1033の使用のための薬学的組成物。
【0060】
[本発明1038]
前記溶液が、31~300mM、50~200mM、50~300mM、50~150mM、100~200mM、100~300mM、100~250mM、150~250mM、150~300mM、および200~300mMからなる群からの、浸透性アニオンとしての塩化物のイオン濃度を有する、本発明1033の使用のための薬学的組成物。
【0061】
[本発明1039]
前記溶液が、0~1.5cp、0~1.0cp、0~0.5cp、0.5~1.0cp、0.5~1.5cp、および1.0~1.5cpからなる群より選択される粘度を有する、本発明1033の使用のための薬学的組成物。
【0062】
[本発明1040]
結果として生じるエアロゾルが、1μm~10μm、2μm~8μm、2μm~5μm、1.5μm~4μm、3μm~4.5μm、および2.5μm~3.5μmからなる群より選択される空気動力学的中央粒子径(MMAD)を有する、本発明1031~1037のいずれかの使用のための薬学的組成物。
【0063】
[本発明1041]
電子ネブライザー、ジェット、超音波、または振動有孔膜もしくは振動メッシュ式ネブライザーが使用される、本発明1033~1040のいずれかの使用のための薬学的組成物。
【0064】
[本発明1042]
前記アンタゴニストが、噴霧時および噴霧後にその機能的および構造的完全性を維持している、本発明1033~1041のいずれかの使用のための薬学的組成物。
【0065】
[本発明1043]
前記アンタゴニストが、噴霧時および噴霧後に単量体のままである、本発明1042の使用のための薬学的組成物。
【0066】
[本発明1044]
前記アンタゴニストが本発明1032のリポカリンムテインである、本発明1033~1043のいずれかの使用のための薬学的組成物。
【0067】
[本発明1045]
本発明1033~1044のいずれかの方法で使用される溶液。
【0068】
[本発明1046]
1~3分以内の吸入による送達方法で使用するための本発明1045の溶液を含む、本発明1033の有効量の薬学的組成物。
【0069】
[本発明1047]
吸入による送達が肺に局所的である、本発明1046の使用のための有効量の薬学的組成物。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1】本開示のリポカリンムテインによる、TF-1細胞におけるヒトIL-4およびIL-13誘導性のSTAT6リン酸化(FACSに基づくアッセイ)の阻害を示す。
図2】本開示のリポカリンムテインによる、ヒトIL-4RA/IL-13RA1(正式にはインターロイキン-13受容体サブユニットα-1として知られる、Uniprot #P78552、SEQ ID NO:13)鎖ダブルノックインマウスにおけるヒトIL-4誘導性のSTAT6リン酸化(FACSに基づくアッセイ)の阻害を示す。
図3】本開示のリポカリンムテインによる、ヒトIL-4受容体α/IL-13受容体α1鎖ダブルノックインマウスの肺組織におけるヒトIL-13誘導性のエオタキシンの阻害を示す。
図4A】ヒトIL-13の投与に先立って、様々な時間間隔で投与したときの、本開示のリポカリンムテインによる、ヒトIL-4受容体α/IL-13受容体α1鎖ダブルノックインマウスにおけるヒトIL-13誘導性のエオタキシン転写産物の阻害を示す。
図4B】ヒトIL-13の投与に先立って、様々な用量で投与したときの、本開示のリポカリンムテインによる、ヒトIL-4受容体α/IL-13受容体α1鎖ダブルノックインマウスにおけるヒトIL-13誘導性のエオタキシン転写産物の阻害を示す。
図4C】ヒトIL-13の投与に先立って、様々な用量レベルのIL-4変異体と比較したときの、本開示のリポカリンムテインによる、ヒトIL-4受容体α/IL-13受容体α1鎖ダブルノックインマウスにおけるヒトIL-13誘導性のエオタキシン転写産物の阻害を示す。
図5】噴霧された(nebulized)リポカリンムテインのサイズ排除クロマトグラフィーおよびレーザー回折による分析を示す。
図6】気管内注入後のヒトIL-4RA/ヒトIL-13ダブルノックインマウスにおける本開示のリポカリンムテインの薬物動態特性および生体内分布を示す。
図7A】本開示のリポカリンムテインによるヒト気道上皮気液界面培養系におけるIL-13誘導性の杯細胞化生の阻害を示す。
図7B】本開示のリポカリンムテインによるヒト気道上皮気液界面培養系におけるIL-13誘導性の杯細胞化生の阻害を示す。
図7C】本開示のリポカリンムテインによるヒト気道上皮気液界面培養系におけるIL-13誘導性の杯細胞化生の阻害を示す。
図7D】本開示のリポカリンムテインによるヒト気道上皮気液界面培養系におけるIL-13誘導性の杯細胞化生の阻害を示す。
【発明を実施するための形態】
【0071】
詳細な説明
本開示は、IL-4受容体α鎖に結合することによって、IL-4および/またはIL-13がそれぞれの受容体に結合するのを阻害する、リポカリンムテインを含有する組成物の治療的有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、開示された障害の治療、改善または予防方法を提供する。本開示に従って使用するためのリポカリンムテインは、IL-4受容体α鎖に特異的に結合することができる。有利には、これらのリポカリンムテインは、IL-4受容体α鎖に対して高い結合親和性を有する。これらのリポカリンムテインは、WO 2008/015239に提供されるリポカリンムテインと比べて、さらに改善されたIL-4受容体αに対する結合特性を有する;特に、それらはより高い結合親和性を有する。
【0072】
本発明者らは、本開示のリポカリンムテインが、それらのIL-4受容体α鎖への結合のために、該受容体のコグネイトリガンド、すなわちサイトカインIL-4および/またはIL-13の相互作用を、インビボで治療応答をもたらすやり方で、妨げることを実証した。例えば、本開示のリポカリンムテインがIL-4および/またはIL-13媒介シグナル伝達に及ぼし得る影響を調べるために使用されたトランスジェニックマウスモデルからのデータは、IL-4およびIL-13によって媒介される下流のシグナル伝達の破壊を実証する。マウスはヒトIL-4受容体α鎖およびIL-13受容体α1鎖をコードする遺伝子を保持するという点でヒトに似ているトランスジェニックマウスは、ヒトにおける治療可能性を代表する。この目的を達成するために、ヒト遺伝子をそれぞれのマウス染色体のそれらの対応する位置に配置し、それによって該マウスがI型とII型の両受容体を発現するダブルノックインマウスとなるようにする。したがって、本明細書で使用するとき、「治療的有効量」は、好ましくは、ヒトにおいて治療的に有効である本開示のリポカリンムテインの量である。
【0073】
本開示の実施例とは対照的に、先行技術は、本開示のリポカリンムテインが、対象においてIL-4および/またはIL-13によって誘導される下流のシグナル伝達または細胞応答を破壊することができるかどうか、かつ/または、例えばアレルギー性炎症、アレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎、肺線維症、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患、肺胞タンパク症または成人呼吸窮迫症候群などの1つまたは複数の障害に罹患している対象においてインビボ治療活性を示すことができるかどうか、を当業者に教示していない。これらの障害に対するリポカリンムテインの有効性についてのいかなる情報も、先行技術からは得られない。例えば、Th2免疫応答の増加および/またはアレルギー反応もしくはアレルギー性炎症と関連している障害に対するリポカリンムテインの治療効果を示すデータが何もない場合には、そのような治療効果および対応する治療、予防または改善方法が合理的に予想できたとは考えられない。
【0074】
実際に、本開示は、本明細書に記載のリポカリンムテインの治療効果を示すインビボデータを提供し、該データは、例えば、本開示のリポカリンムテインの抗炎症効果を明らかにする。この点に関して、本開示は、本開示のリポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)がヒトIL-13誘導性の転写産物Ccl11(エオタキシン)をインビボで効果的に阻害することができ、かつ実施例5に本質的に記載した試験で測定したとき、IL-4変異体(図4cにおけるIL-4(R121D, Y124D))よりも効力があることを初めて示している:
- 30μlのIL-13(Peprotech社, 1μg)を1回だけ気管内注入により投与したことを除いて、実施例4に記載したように、いくつかのヒトIL-4受容体α/ヒトIL-13受容体α鎖1ダブルノックインマウスを作製する;
- 場合により、実施例5に記載したように試験パラメータを設定し、それに応じてマウスをグループ分けする;
- IL-13の投与前の異なる時間に98μgの一定用量で、またはIL-13投与の30分前に異なる量で、30μl量を気管内注入することによってリポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)を適用する;
- IL-13投与の30分前に異なる量で、やはり30μl量を気管内注入することによってIL-4変異体(R121D, Y124D)を適用する;
- 薬理学的応答の持続時間、用量依存性および匹敵する効力を評価するために、簡略化されたIL-13誘導性の気道炎症モデル(単回IL-13気管内投与)を使用する。
【0075】
したがって、本開示において適用されたマウス動物モデルで観察された治療効果は、ヒトオルソログの存在およびマウスオルソログの非存在を考えると、治療応用の十分な証拠を提供している。この原理に基づいて、ヒト患者に関するデータが何も存在しない場合に、インビボ実験が本明細書に記載のリポカリンムテインのヒトにおけるインビボ活性、例えばインビボ抗炎症活性を十分に予測するということは、この上なく合理的なことである。
【0076】
さらに、本開示は、本開示のリポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)が、実施例8に本質的に記載した試験で測定したとき、実施例8に開示した抗IL-4RAモノクローナル抗体(図7における抗IL4R mAb;該抗体の軽鎖および重鎖可変領域は、それぞれSEQ ID NO:14および15に示される)と同じくらい良好な機能的活性を示すことができることを実証している:
- MucilAir(商標)(一次ヒト細胞を用いてインビトロで再構成されたヒト気道上皮を含む気液界面培養系)を約0.3~30ng/mlのヒトIL-13で2日ごとに処理する;
- 場合により、MucilAir(商標)が約14日間の処理後に杯細胞密度の増加を示すことを実証するために、インサイチューアルシアンブルー染色(酸性ムコ多糖類とグリコサミノグリカン類を青色ないし青緑色に染色する)を行い、かつ/または組織学的分析を行う;
- 陽性対照として約10ng/mlのヒトIL-13への、さまざまな濃度のリポカリンムテインを加えたIL-13への、さまざまな濃度の前記抗IL-4RAモノクローナル抗体(軽鎖および重鎖可変領域はSEQ ID NO:14および15に示される)を加えたIL-13へのMucilAir(商標)の14日間の連続曝露、および陰性対照としてIL-13なしで14日間培養したMucilAir(商標)を比較することによって、杯細胞化生に対するリポカリンムテインの阻害効果を試験する;
- アルシアンブルー染色、例えば、インサイチュー染色のために頂端面にアルシアンブルー染色を行い、画像解析のために位相差顕微鏡下で染色細胞の写真を撮る;
- パブリックドメインのJava画像処理プログラムImageJによってアルシアンブルー陽性細胞の割合を定量化し、アルシアンブルー領域/総画像領域の面積比率としてそれらの数を表現する;
- 場合により、例えばMeso Scale Discovery社からの、市販の超高感度エオタキシン-3キットを用いて14日目に基礎培地中のエオタキシン-3(IL-13誘導性ケモカイン)を測定する。
【0077】
前記抗IL-4RA抗体は、それぞれSEQ ID NO:14および15の可変軽鎖および重鎖領域を有し、Amgen社(旧Immunex社)によって開発されたもので、AMG 317と呼ばれている。これは完全ヒトモノクローナル抗体であり、喘息に関与するインターロイキン-4とインターロイキン-13の作用を遮断するその能力について研究中であった(2008年に、中程度から重度の喘息における第2相用量範囲探索試験が完了した)。中間解析は生物学的活性の証拠を示した;しかし、全体的な臨床効果が期待に沿わなかった。こうして、SEQ ID NO:6のリポカリンムテインは、該リポカリンムテインと前記抗IL-4RA抗体との比較を上述したように行ったとき、本明細書に記載の抗IL-4RAモノクローナル抗体と同じくらい良好にIL-13誘導性の杯細胞化生を阻害することができる。したがって、いくつかのさらなる態様では、本開示のリポカリンムテインは、上述した試験において、杯細胞化生の阻害に関してSEQ ID NO:6のリポカリンムテインと同じ特性を有することが好ましい。
【0078】
IL-4/IL-4Rα複合体は、IL-4上のドメインを介して、共通のγ鎖(γc, CD132)またはIL-13Rアルファ1(IL-13Rα1)サブユニットのいずれかと二量体化して、それぞれI型およびII型受容体と一般的に呼ばれる2つの異なるシグナル伝達複合体を形成することができる。代替として、IL-13はIL-13Rα1と結合してIL-13/IL-13Rα1複合体を形成することができ、該複合体はII型受容体複合体を形成するためにIL-4Rαを動員する。したがって、IL-4RαはIL-4とIL-13の両方の生物学的活性を媒介する(Gessner et al, Immunobiology, 201:285, 2000に概説される)。本開示のリポカリンムテインは、IL-4受容体α鎖に結合することが可能であるので、I型および/またはII型受容体を介したシグナル伝達を有利に妨害および/または遮断する。
【0079】
インビトロ研究は、IL-4およびIL-13が、多くの細胞型、例えば、T細胞、B細胞、好酸球、肥満細胞、好塩基球、気道平滑筋細胞、気道上皮細胞、肺線維芽細胞、および内皮細胞においてエフェクター機能を活性化することを示している(Steinke et al, Resp Res, 2:66, 2001、およびWillis-Karp, Immunol Rev, 202:175, 2004に概説される)。IL-4Rαは、さまざまな細胞型(Lowenthal et al, J Immunol, 140:456, 1988)、例えば、末梢血T細胞、単球、気道上皮細胞、B細胞および肺線維芽細胞に少ない数(100~5000分子/細胞)で発現される。I型受容体は造血細胞において優勢であるのに対し、II型受容体は造血細胞と非造血細胞の両方に発現される。
【0080】
細胞表面受容体および受容体複合体は、異なる親和性でIL-4および/またはIL-13に結合する。IL-4および/またはIL-13に結合する受容体および受容体複合体の主な成分は、IL-4Rα、IL-13Rα1およびIL-13Rα2である。これらの鎖は、細胞の表面上に単量体またはIL-4Rα/IL-13Rα1もしくはIL-4Rα/IL-13Rα2のヘテロ二量体として発現される。IL-4Rα単量体はIL-4に結合するが、IL-13には結合しない。IL-13Rα1およびIL-13Rα2単量体はIL-13に結合するが、IL-4には結合しない。IL-4Rα/IL-13Rα1およびIL-4Rα/IL-13Rα2ヘテロ二量体はIL-4とIL-13の両方に結合する。IL-13受容体アルファ2(IL-13Rα2)は高い親和性でIL-13に結合するが、IL-13のためのデコイ(decoy)受容体であると考えられる非シグナル伝達受容体であるという事実を考えると、本開示のリポカリンムテインは、好ましくは、IL-13受容体α2に結合しないことが想定される。
【0081】
説明したように、IL-4とIL-13の両方は、I型(IL-4Rαとγc)およびII型受容体(IL-4RαとIL-13Rα1)の成分であるIL-4Rαを介してシグナル伝達する。IL-4はI型およびII型の両受容体の経路を介してシグナル伝達する一方で、IL-13はII型IL-4Rを介してのみシグナル伝達する。IL-13はまた、IL-13Rα2鎖にも結合するが、このIL-13Rα2は膜貫通シグナル伝達ドメインを含まずかつデコイ受容体として作用すると考えられる。γcはヤヌスキナーゼ(JAK)3を活性化させるのに対し、IL-13Rα1はチロシンキナーゼ2(TYK2)およびJAK2を活性化させる。活性化されたJAKはその後STAT-6をリン酸化する。リン酸化されたSTAT-6は二量体化し、核に移動し、そしてTヘルパー2型(Th2)細胞の分化、気道炎症、気道過敏性(AHR)および粘液産生に関連するものなど、IL-4およびIL-13応答性遺伝子のプロモーターに結合する。
【0082】
Th2型免疫応答は抗体産生と体液性免疫を促進し、かつ細胞外の病原体を撃退するように精巧に作り上げられる。Th2細胞はIg産生(体液性免疫)のメディエーターであり、IL-4、IL-5、IL-6、IL-9、IL-10およびIL-13を産生する(Tanaka, et. al., Cytokine Regulation of Humoral Immunity, 251-272, Snapper, ed., John Wiley and Sons, New York (1996))。Th2型免疫応答は、特定のサイトカイン(例えば、IL-4、IL-13)と特定のタイプの抗体(例えば、IgE、IgG4)の生成により特徴づけられ、かつアレルギー反応に特有であって、涙目および喘息症状、例えば肺における気道炎症および気道筋肉細胞の収縮などをもたらす可能性がある。
【0083】
また、本明細書に記載されるリポカリンを適用することによる本開示の方法によって好ましく治療、改善または予防される障害は、アレルギー反応またはアレルギー性炎症と関連している可能性がある。
【0084】
いくつかの好ましい態様では、障害はアレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎、または皮膚炎であり得る。
【0085】
喘息は、気道の炎症を伴う気道過敏性により特徴づけられる、複雑で持続的な炎症性疾患である。研究は、高用量の吸入コルチコステロイドと長時間作用型気管支拡張薬またはオマリズマブ(免疫グロブリンEに結合するヒト化型モノクローナル抗体であり、しばしば次段階の治療に使用される)の規則的な使用が、すべての患者の喘息コントロールを提供するのに十分というわけではないことを示唆しており、まだ対処されていない重要なニーズを強調している。インターロイキン-4、インターロイキン-13、および転写因子-6のシグナル伝達活性化剤は、気道炎症、粘液産生、および喘息での気道過敏性を発症する際に鍵となる成分である。これらの分子を標的とする生物学的化合物は、コントロールできない中等度から重度の喘息の患者に新たな治療法を提供する可能性がある。本開示は、本明細書に記載されるリポカリンムテインを通してこれらの生物学的化合物を提供する。
【0086】
いくつかの好ましい態様では、アレルギー性喘息は、IL4/IL13経路が疾患の病因に関与する気道の炎症である。
【0087】
さらに、本明細書に記載されるリポカリンを適用することによる本開示の方法によって好ましく治療、改善または予防される障害はまた、肺障害、例えばIL4/IL13経路が疾患の病因に関与している肺障害であり得る。そのような肺障害としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:肺線維症、例えば慢性線維性肺疾患、肺におけるIL-4誘導性の線維芽細胞増殖もしくはコラーゲン蓄積を特徴とする他の状態、Th2免疫応答が関与している肺の状態、肺におけるバリア機能の低下(例えば、上皮へのIL-4誘導性損傷から生じる)を特徴とする状態、またはIL-4が炎症応答に関与している状態。
【0088】
同様に、嚢胞性線維症(CF)は、粘液の過剰産生および慢性感染症の発症によって特徴づけられる。IL-4RAとTh2応答を阻害することは、粘液産生を減少させ、かつアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)のような感染症を抑えるのに役立つ。アレルギー性気管支肺真菌症は、主に嚢胞性線維症または喘息の患者において発生し、この場合にはTh2免疫応答が支配的となる。IL-4RAとTh2応答を阻害することは、これらの感染症を取り除いて、制御するのに役立つだろう。
【0089】
同様に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、粘液過分泌および線維症と関連している。IL-4RAとTh2応答を阻害することは、粘液の産生および線維症の発症を減少させ、それによって呼吸機能を改善し、かつ疾患の進行を遅延させる。ブレオマイシン誘発性の肺疾患および線維症、ならびに放射線誘発性の肺線維症は、その後線維症の発症を媒介するIL-4およびIL-13を産生するTh2,CD4+細胞とマクロファージの流入を呈する肺の線維化を特徴とする障害である。IL-4RAとTh2応答を阻害することは、これらの障害の発症を抑制するか、または防ぐであろう。
【0090】
さらに、IL-4およびIL-13は、肺上皮細胞の粘液産生杯細胞への分化を誘導する。したがって、IL-4およびIL-13は、亜集団またはいくつかの状況における粘液産生の増強に寄与し得る。粘液の産生および分泌は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)および嚢胞性線維症(CF)の病因に関与する。それゆえ、粘液産生または粘液分泌(例えば、過剰産生または分泌過多)を伴う障害は、本明細書に記載のリポカリンムテインを適用することによる本開示の方法によって好ましく治療、改善または予防することができる。いくつかの好ましい態様では、粘液産生または粘液分泌を伴う障害は、好ましくは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)または嚢胞性線維症(CF)である。他の好ましい態様では、本開示の組成物は抗粘液薬をさらに含有する。
【0091】
肺胞タンパク症は、サーファクタントのクリアランスの破壊によって特徴づけられる。IL-4はサーファクタント産物を増加させる。いくつかの別の態様では、サーファクタントの産生を減少させ、かつ全肺洗浄の必要性を減少させるための本開示のリポカリンムテインなどのIL-4RAアンタゴニストの使用もまた、本明細書において想定される。
【0092】
成人呼吸窮迫症候群(ARDS)はいくつかの要因を原因とすることができ、そのうちの1つが有毒な化学物質への曝露である。したがって、好ましいが非限定的な例として、ARDSを起こしやすい1つの患者集団は、人工呼吸器につながれている重症患者であり、ARDSは、このような患者でよくみられる合併症である。いくつかの別の態様では、それゆえ、本開示のリポカリンムテインなどのIL-4RAアンタゴニストは、炎症および接着分子を減少させることによってARDSを軽減、予防または治療するために使用することができる。
【0093】
サルコイドーシスは肉芽腫性病変を特徴とする。いくつかの別の態様では、サルコイドーシス、特に肺サルコイドーシスを治療するための本開示のリポカリンムテインなどのIL-4RAアンタゴニストの使用もまた、本明細書において想定される。
【0094】
IL-4誘導性のバリア破壊が一因となる状態(例えば、肺における上皮バリア機能の低下を特徴とする状態)は、IL-4RAアンタゴニストで治療することができる。肺の上皮バリアへの損傷は、IL-4および/またはIL-13によって直接または間接的に誘導され得る。肺の上皮は、肺内腔の内容物が粘膜下層に入るのを防止する選択的バリアとして機能している。損傷したまたは「漏れやすい」バリアは、抗原がバリアを越えることを可能にし、ひいては肺組織にさらなる損傷を与える可能性がある免疫応答を誘発する。そのような免疫応答は、例えば、好酸球または肥満細胞の動員を含むことがある。IL-4RAアンタゴニストは、そうした望ましくない免疫応答の刺激を抑制するために投与することができる。
【0095】
これに関して、本開示のリポカリンムテインなどのIL-4RAアンタゴニストは、例えば喘息患者において、肺上皮の治癒を促進し、それゆえにバリア機能を回復するために使用することができ、あるいはまた、肺上皮へのIL-4および/またはIL-13誘導性の損傷を防ぐために、予防目的で投与することもできる。
【0096】
本開示に従って疾患または障害を治療するための方法は、特定の作用機序に限定されないことに留意すべきである。例えば、いくつかの別の態様では、本開示のリポカリンムテインは、開示された方法において遺伝子治療薬として利用することができる。
【0097】
本明細書で使用する「治療」は、治療される対象または細胞の自然経過を変化させようとする臨床的介入を意味し、臨床病理の経過前または経過中に実施することができる。治療の望ましい効果には、以下が含まれる:疾患またはその状態もしくは症状の発生または再発を防止すること;疾患の状態もしくは症状を緩和すること;疾患のいずれかの直接的または間接的な病理学的結果を減少させること;疾患の進行速度を遅らせること;疾患状態を改善または軽減すること;ならびに寛解または予後の向上を達成すること。いくつかの態様では、本開示の方法および組成物は、疾患または障害の発症を遅らせるために有用である。治療は、ヒトの治療と獣医学的用途の両方に適用可能である。
【0098】
「予防」には、本明細書に記載の障害(またはそれに関連する症状)が、それらの発生前に回避され得ることおよび/または障害が再発しないことが含まれる。
【0099】
「改善」には、本明細書に記載の障害(またはそれに関連する症状)を軽減する、弱める、低減する、および/または緩和することが含まれる。
【0100】
その文法形態のすべてにおいて用語「投与される」または「投与する」は、唯一の治療薬としての、または本明細書に記載の別の治療薬と組み合わせた、リポカリンムテインの治療的有効量を対象に投与することを意味する。したがって、本開示のリポカリンムテインは、好ましくは、共同療法(co-therapy)アプローチ、すなわち、他の薬剤または薬物、例えば本明細書に記載の障害を治療するための他の薬剤および/または本開示の方法において有益であり得るその他の治療薬との同時投与に使用することができる組成物、好ましくは薬学的組成物の形態であることが想定される。かくして、本明細書に記載のリポカリンムテインを含有する組成物は、抗アレルギー薬および/または抗アレルギー性炎症薬をさらに含むことが好適である。
【0101】
本明細書で使用する「有効量」とは、本明細書に記載のリポカリンムテインにとって必要な投与量でかつ必要な時間にわたり、所望の治療的または予防的結果を達成するのに有効な量を指す。正確な用量は治療の目的によって決まり、当業者が公知の技術を用いて確認することができる。
【0102】
「治療的有効量」とは、そのためにそれが投与される効果を生み出す用量を意味する。本明細書に記載のリポカリンムテインの「治療的有効量」は、年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食事、投与時期、薬物相互作用、および病状の重症度などの要因に応じて変化することがあり、当業者であればルーチンな実験を用いて確認することができる。時には、用語「治療的有効量」は、用語「薬学的有効量」と互換的に本明細書で使用され得る。
【0103】
治療的有効量はまた、本出願で使用するとき、リポカリンムテインの毒性または有害作用を治療上有益な効果が上回る量でもある。「予防有効量」とは、本明細書に記載のリポカリンムテインにとって必要な投与量でかつ必要な時間にわたり、所望の予防的結果を達成するのに有効な量を指す。必ずしもそうではないが典型的には、予防的用量は疾患に先立ってまたはその初期段階で対象に使用されるので、予防有効量は治療的有効量よりも少ないであろう。所望の治療活性を有する本明細書に記載のリポカリンムテインは、本明細書に記載されるように、生理学的に許容される担体中で患者に投与され得る。
【0104】
いくつかの態様では、「対象」は、本出願で使用するとき、脊椎動物である。いくつかの特定の態様では、脊椎動物は哺乳動物である。哺乳動物としては、限定するものではないが、霊長類(ヒトおよび非ヒト霊長類を含む)およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)が挙げられる。いくつかの特定の態様では、哺乳動物の対象はヒトである。いくつかの別の態様では、ヒト対象は個人と同義であって、特に好ましい対象である。いくつかのさらなる態様では、それを必要とするヒト対象は、本出願で使用するとき患者である。
【0105】
本開示のタンパク質はリポカリンのムテインとすることができ、好ましくは、リポカリンは、レチノール結合タンパク質(RBP)、ビリン結合タンパク質(BBP)、アポリポタンパク質D(APO D)、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)、涙液リポカリン(TLPC)、α2-ミクログロブリン関連タンパク質(A2m)、24p3/ウテロカリン(uterocalin)(24p3)、フォンエブネル(von Ebners)腺タンパク質1(VEGP 1)、フォンエブネル腺タンパク質2(VEGP 2)、および主要アレルゲンCan f1前駆体(ALL-1)からなる群より選択され、ここでヒトNGALが好ましいリポカリンであり、ヒト涙液リポカリンがより好ましいリポカリンである。本明細書で使用する「リポカリン」は、複数の(好ましくは8本の)β鎖が一端で複数の(好ましくは4つの)ループによって対合され、それによって結合ポケットを画定している、円筒形のβプリーツシート超二次構造領域を有する、分子量が約18~20kDaの単量体タンパク質として定義される。さまざまなサイズ、形状、および化学的特性の標的を収容することがそれぞれ可能な、リポカリンファミリーメンバー間の多種多様な結合様式を生じさせるのは、他の点では柔軟性に欠けるリポカリン骨格におけるループのこの多様性である(例えば、Skerra, A. (2000) Biochim. Biophys. Acta 1482, 337-350に概説される)。実際、リポカリンファミリーのタンパク質は、異常に低レベルの全体的な配列保存を共有する(しばしば20%未満の配列同一性を有する)が、高度に保存された全体的な折りたたみパターンを保持していて、広範囲のリガンドと結合するように自然界で進化してきた。種々のリポカリンにおける位置間の対応は、当業者によく知られている。例えば、米国特許第7,250,297号を参照されたい。
【0106】
一般的に、本開示を本明細書で言及するとき、本開示のリポカリンムテインは、好ましくは、それがその天然の対応リポカリンと少なくとも1つのアミノ酸において異なるという点で、その天然の対応リポカリンと相違している。その相違はアミノ酸の置換、欠失および/または付加であってよく、置換が好適である。いくつかの特定の態様では、「リポカリンのムテイン」または「リポカリンムテイン」は、特に「ヒト涙液リポカリンのムテイン」または「Tlcムテイン」であり得る。
【0107】
好ましい態様では、本開示のタンパク質はヒト涙液リポカリン(Tlc)のムテインである。本明細書で使用する用語「ヒト涙液リポカリン」は、SWISS-PROTデータバンクアクセッション番号P31025を有する成熟ヒト涙液リポカリンを指す。成熟ヒト涙液リポカリン(SWISS-PROTアクセッション番号P31025のアミノ酸配列のアミノ酸19-176)(SEQ ID NO:1)は、本明細書に記載されるさまざまな態様で「参照」または「参照配列」として用いられるSWISS-PROTアクセッション番号P31025のアミノ酸配列に含まれるN末端のシグナルペプチド(アミノ酸1-18)を含まない。
【0108】
ヒト涙液プレアルブミンは、現在では涙液リポカリン(TLPCまたはTlc)と呼ばれており、もともとヒト涙液の主要タンパク質(総タンパク質含有量の約3分の1)として記述されていたが、最近、前立腺、鼻粘膜および気管粘膜を含むいくつかの他の分泌組織でも同定されている。相同タンパク質がラット、ブタ、イヌおよびウマにおいて見出されている。涙液リポカリンは、このタンパク質ファミリーの他のメンバーと異なり相対的に不溶性の脂質と結合特性に関して非常に乱雑であるために、他とは異なるリポカリンメンバーである(Redl, B. (2000) Biochim. Biophys. Acta 1482, 241-248に概説される)。例えば、脂肪酸、脂肪アルコール、リン脂質、糖脂質およびコレステロールなどの異なる化学クラスの、著しい数の親油性化合物が、このタンパク質の内因性リガンドである。興味深いことに、他のリポカリン類とは対照的に、リガンド(標的)結合の強さは、アルキルアミドと脂肪酸の両方の炭化水素尾部の長さに相関している。したがって、涙液リポカリンは溶けにくい脂質と最も強く結合する(Glasgow, BJ. et al. (1995) Curr. Eye Res. 14, 363-372; Gasymov, O.K. et al. (1999) Biochim. Biophys. Acta 1433, 307-320)。
【0109】
本明細書に開示される治療用途に特に適するリポカリンムテインとしては、SEQ ID NO:2~11に示されるリポカリンが挙げられる。これらの分子は、ヒトIL4Raに対する特異性および高い親和性を示すが、本開示以前には、治療的に関連のあるインビボデータによって特徴づけられていない。本明細書に開示される治療用途にも適する他のリポカリンムテインとしては、WO 2008/015239のSEQ ID NO:2~8に示されるリポカリンが挙げられ、これらの配列のそれぞれは参照により本明細書に組み入れられる。本明細書に開示される治療用途にも適する可能性があるさらなるリポカリンムテインには、WO 2011/154420のSEQ ID NO:2~11に示されるリポカリンが含まれ、これらの配列のそれぞれは参照により本明細書に組み入れられる。
【0110】
本明細書で使用する「ムテイン」、「変異した」物質(タンパク質または核酸を問わない)または「変異体」は、天然に存在する(野生型)核酸またはタンパク質の「参照」骨格と比較して、それぞれ、1つまたは複数のヌクレオチドまたはアミノ酸の交換(置換)、欠失、または挿入を意味する。天然に存在する(野生型)核酸またはタンパク質のアミノ酸の置換が好ましい。用語「参照」、「参照配列」および「野生型配列」は本明細書では互換的に使用される。
【0111】
本開示はまた、本明細書に具体的に開示されたリポカリンムテインの最適化された変異体を想定している。所与の標的に対して親和性を有するリポカリンムテインが選択されたら、より高い親和性の変異体、または高い熱安定性、改善された血清安定性、熱力学的安定性、改善された溶解性、改善された単量体挙動、熱変性、化学的変性、タンパク質分解、または界面活性剤に対する耐性の向上といった、改善された特性を有する変異体を続いて選択するために、そのムテインをさらなる変異誘発に供することが可能である。このさらなる変異誘発は、より高い親和性を目指す場合にはインビトロ「親和性成熟」と考えることができ、合理的設計またはランダム変異に基づく部位特異的変異によって達成することができる。より高い親和性または改善された特性を得るための別の可能なアプローチは、エラープローンPCRの使用であり、これはリポカリンムテインの配列位置の選択された範囲にわたって点変異をもたらす。エラープローンPCRは、例えばZaccolo et al. (1996) J. Mol. Biol. 255, 589-603に記載されるような、公知のプロトコルに従って行うことができる。このような目的に適したランダム変異誘発の他の方法には、Murakami, H et al. (2002) Nat. Biotechnol. 20, 76-81に記載されるようなランダム挿入/欠失(RID)変異誘発、またはBittker, J. A et al. (2002) Nat. Biotechnol. 20, 1024-1029に記載されるような非相同ランダム組換え(NRR)が含まれる。必要に応じて、親和性成熟をWO 00/75308またはSchlehuber, S. et al., (2000) J. Mol. Biol. 297, 1105-1120に記載される手順に従って行うことができ、そこでは、ジゴキシゲニンに対して高い親和性を有するビリン結合タンパク質のムテインが取得された。
【0112】
涙液リポカリンムテインは、IL4受容体αとの複合体形成のために使用することができる。このムテインはまた、IL4受容体αの免疫原性断片と結合することが可能である。IL-4受容体αの免疫原性断片は、1つまたは複数のエピトープ、ミモトープ、または他の抗原決定基を有する断片であり、したがって、免疫応答を誘導することが可能であり、つまりそれに対して抗体を引き出すことができる。免疫原性断片は、単一のエピトープを含んでもよいし、複数のエピトープを有してもよい。抗原提示系、例えば担体タンパク質は、免疫系による認識に必要なサイズを提供するために使用され得るので、特定のサイズ制限が免疫原性断片に適用されることはない。それゆえ、免疫原性断片はまた、「ハプテン」、すなわち、それ自体抗原性である必要がない断片、または、特にその分子量が小さく、従ってサイズが小さいために低い免疫原性をもち得る断片であってよい。典型的には、免疫原性断片は、単独でまたは担体上に提示されるときには、免疫グロブリンによって結合され、MHC分子によって提示される場合にはT細胞受容体(TCR)によって結合され得る。免疫原性断片は、典型的には、単独でまたは抗原提示系の形で提示された場合、体液性免疫応答および/または細胞性免疫応答(例えば、Bおよび/またはTリンパ球の活性化をもたらす)を誘導することが可能である。
【0113】
本開示で使用するリポカリンムテインの1つの標的は、207アミノ酸の細胞外ドメインを含む膜貫通タンパク質である、インターロイキン-4受容体のα鎖(正式にはインターロイキン-4受容体サブユニットαとして知られる、Uniprot #P24394、SEQ ID NO:12)である。細胞外ドメインの分泌形態が存在しており、sIL-4Rα、これはCD124の別名でも知られており、IL-4活性をブロックすることができる。本開示のリポカリンムテインは、IL-4受容体αの細胞外ドメインの任意の部分だけでなく、sIL-4受容体αにも結合できる可能性がある。
【0114】
本開示はまた、本明細書に記載されるリポカリンムテインをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子(DNAおよびRNA)に関する。遺伝コードの縮重は、特定のコドンの、同じアミノ酸を指定する他のコドンによる置換を可能にするので、本開示は、本開示のリポカリンムテインをコードする特定の核酸分子に限定されず、機能的なムテインをコードするヌクレオチド配列を含むすべての核酸分子を包含する。
【0115】
開示された核酸分子は、ベクターまたは他の種類のクローニングビヒクル、例えばプラスミド、ファージミド、ファージ、バキュロウイルス、コスミド、または人工染色体などの一部とすることができる。一態様において、核酸分子はファスミドに含まれる。
【0116】
いくつかの開示された涙液リポカリンムテインでは、Cys 61とCys 153の間の天然に存在するジスルフィド結合が取り除かれている。したがって、このようなムテイン(または分子内ジスルフィド結合を含まない他の涙液リポカリンムテイン)は、還元性のレドックス環境を有する細胞コンパートメントで、例えばグラム陰性細菌の細胞質で、産生され得る。本開示のリポカリンムテインが分子内ジスルフィド結合を含む場合には、その新生ポリペプチドを、適切なシグナル配列を用いて酸化性のレドックス環境を有する細胞コンパートメントに向けることが望ましい可能性がある。そのような酸化性の環境は、大腸菌などのグラム陰性細菌のペリプラズムによって、グラム陽性細菌の細胞外環境において、または真核細胞の小胞体の内腔において提供され、通常、構造的ジスルフィド結合の形成に有利に働く。しかし、大腸菌などの宿主細胞の細胞質ゾルで本開示のリポカリンムテインを産生させることも可能である。この場合、そのポリペプチドは、可溶性の折りたたまれた状態で直接的に得られるか、または封入体の形態で回収されて、その後インビトロで再生され得る。さらなる選択肢は、酸化性の細胞内環境を有し、それゆえに細胞質ゾルでのジスルフィド結合の形成を可能にし得る、特定の宿主株の使用である(Venturi M, et al. (2002) J. Mol. Biol. 315, 1-8)。
【0117】
本開示はまた、少なくとも1種の本開示のリポカリンムテイン、またはその断片もしくは変異体、またはその融合タンパク質もしくはコンジュゲート、および薬学的に許容される製剤(例えば、緩衝液/塩/賦形剤の組み合わせ)を含有する組成物に関し、ここで、該組成物は、0.06~600mg、0.06~100mg、0.3~10mg、1~3mgからなる群より選択される投与量レベルで、それを必要とする対象に投与され得る。
【0118】
いくつかの態様では、本開示の組成物は、タンパク質性薬剤に関して治療上有効な非経口または経口(経腸)の経路を介して投与することができる。非経口適用方法としては、例えば、注射液、輸液、またはチンキ剤などの形での、皮内、皮下、筋肉内、気管内、鼻腔内、硝子体内、または静脈内注射および注入技術、ならびにエアロゾル混合物、スプレー、ミスト、または粉末などの形でのエアロゾルの導入および吸入が挙げられる。
【0119】
いくつかの態様では、前記組成物の肺への局所投与が好ましい。肺への好ましい局所投与経路はエアロゾル吸入によるものである。肺への薬剤送達、すなわち、エアロゾルの吸入(鼻腔内投与で使用することもできる)または気管内注入のいずれかによる、肺薬剤送達に関する概要は、例えば、Patton, J.S., et al. (2004) Proc. Amer. Thoracic Soc., 1, 338-344によって与えられる。経口送達モードは、例えば、丸剤、錠剤、カプセル剤、溶液剤、もしくは懸濁液剤などの形で経口的、または、例えば坐剤の形で直腸内である。いくつかの態様では、本開示のリポカリンムテインはまた、必要に応じて慣用の非毒性の薬学的に許容される賦形剤または担体、添加剤およびビヒクルを含有する製剤中で、全身的または局所的に投与することができる。本開示のリポカリンムテインの吸入による投与のために、該ムテインはさらなる相と一緒に粉末製剤中に存在してもよい。リポカリンムテインの微粒化粉末は、特許明細書WO96/02231またはP. Lucas, K. Anderson, J. N. Staniforth, Protein deposition from dry powder inhalers, Pharmaceutical Research, Vol. 15, April 1988, 562-569の論文に記載されるように、担体材料、例えば、ラクトース、デキストロース、マルトース、トレハロースなどと混合することができる。あるいは、吸入目的のために、米国特許出願第2005/0014677号および第2009/0142407号に記載されるような固体の薬学的製剤を使用することができる。
【0120】
したがって、本開示の組成物は、本開示のリポカリンムテインならびに開示された製剤の1つを含むことができる。
【0121】
適用される組成物の投与量は、所望の予防効果または治療応答を達成するために、広い範囲内で変えることができる。それは、例えば、選択されたリガンドに対する、そこに含まれるリポカリンムテインの親和性、ならびにリポカリンムテインとリガンドとの複合体のインビボでの半減期に依存する。さらに、最適な投与量は、リポカリンムテインまたはその断片もしくは変異体またはその融合タンパク質もしくはコンジュゲートの生体内分布、投与様式、治療される疾患/障害の重症度、ならびに患者の医学的状態に依存する。
【0122】
いくつかの態様において、本開示は、薬学的組成物を、それを必要とする対象に、噴霧化によって投与することを含む、該対象を治療する方法を提供し、ここで、薬学的組成物は、少なくともIL-4RAアンタゴニスト、またはその断片もしくは変異体またはその融合タンパク質もしくはコンジュゲート、および適切な溶液を含有する。
【0123】
さまざまな好ましい態様では、本開示の薬学的に許容される製剤は、噴霧用製剤であり得、例えば、噴霧時およびそれ以後に、該アンタゴニストまたはその断片もしくは変異体またはその融合タンパク質もしくはコンジュゲートの機能的および構造的完全性(例えば、単量体のままであって、完全に機能的に活性である)を維持することができ、かつ/または、用いるネブライザーと組み合わせて、所望のサイズ範囲の液滴を生成することができる溶液であり得る。これに関連して、例示的な説明として、本開示は以下を教示する:アンタゴニスト、例えば本開示のリポカリンムテインは、生理食塩水1mlあたり、例えば0.01mg~100mgのアンタゴニストまたはその断片もしくは変異体またはその融合タンパク質もしくはコンジュゲートを含有する溶液として製剤化することができ、該生理食塩水は、5.5~8.0に調整されたpH、約150~550mOsm/kgの浸透圧値、浸透性アニオンとしての塩化物の約31~300mMのイオン濃度、および/または1.5cpより小さい粘度を有する。好ましくは、製剤化された溶液は、0.05mg/ml~50mg/ml、0.1mg/ml~50mg/ml、0.05mg/ml~25mg/ml、0.1mg/ml~25mg/ml、0.05mg/ml~15mg/ml、0.1mg/ml~15mg/ml、0.05mg/ml~10mg/mlおよび0.1mg/ml~10mg/mlからなる群より選択されるレベルで、アンタゴニストまたはその断片もしくは変異体またはその融合タンパク質もしくはコンジュゲートの濃度を有する。さらに好ましい一つの態様では、開示された生理食塩水は、5.5~8.0、6.0~8.0、6.0~7.5、5.5~7.5、6.0~7.0、および6.5~7.5からなる群より選択される、調整されたpH;および/または約150~550mOsm/L、約150~500mOsm/L、約200~550mOsm/L、約200~500mOsm/L、約200~450mOsm/L、および約150~450mOsm/Lからなる群より選択される浸透圧値(浸透圧は、溶液のリットル(L)あたりの溶質のオスモル数(Osm)、例えばosmol/LまたはOsm/Lとして定義される、溶質濃度の尺度である);および/または31~300mM、50~200mM、50~300mM、50~150mM、100~200mM、100~300mM、100~250mM、150~250mM、150~300mM、および200~300mMからなる群より選択される、浸透性アニオンとしての塩化物のイオン濃度を有する。
【0124】
さらに好ましくは、開示された生理食塩水は、0~1.5cp、0~1.0cp、0~0.5cp、0.5~1.0cp、0.5~1.5cp、および1.0~1.5cpからなる群より選択される粘度を有する。
【0125】
いくつかのさらなる態様では、アンタゴニスト、例えば本開示のリポカリンムテインの水溶液は、電子ネブライザー、ジェット、超音波、または振動有孔膜、例えばPARI eFlowもしくはAeroneb振動メッシュ式ネブライザーを用いて、噴霧することができる。好ましい一態様では、該溶液は、電子ネブライザー、ジェット、超音波、または振動有孔膜のために、1μm~10μmの空気動力学的中央粒子径(MMAD)を有するエアロゾルへと1日2回噴霧され、そして該ネブライザーは、得られた溶液を、必要なサイズの粒子(エアロゾル)に約1分~約5分の期間、エアロゾル化することができる。いくつかのさらなる態様では、該エアロゾルのいずれか1つは、1μm~10μm、2μm~8μm、2μm~5μm、1.5μm~4μm、3μm~4.5μm、および2.5μm~3.5μmからなる群より選択される空気動力学的中央粒子径(MMAD)をもつことができる。
【0126】
いくつかの態様では、本開示は、開示された噴霧用製剤を含有する本開示の薬学的組成物の有効量を、それを必要とする対象に、1~3分、好ましくは1~2分以内で、吸入により送達する方法を提供する。いくつかのさらなる態様では、吸入による送達が肺に局所的である。
【0127】
したがって、いくつかの他の態様では、本開示は、開示された薬学的組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、本開示の方法で使用するのに適した、有効かつ安全で、非刺激性の、生理学的に許容可能かつ適合可能な溶液を提供する。
【0128】
いくつかの他の態様では、本開示は、本開示の薬学的組成物を、それを必要とする対象に、エアロゾルとして、例えば吸入により、送達するための前記溶液の使用を提供する。
【0129】
本明細書で使用するとき、「IL-4RAアンタゴニスト」は、検出可能な結合親和性でIL-4RAに結合する、および/または、IL-4および/またはIL-13がそれぞれの受容体に結合するのを阻害することができる、ポリペプチドまたはタンパク質を意味する。本明細書で使用する「検出可能な親和性」は、一般的に少なくとも約10-5Mの親和性定数で所定の標的に結合する能力を意味する。これより低い親和性は、一般的に、ELISAなどのよく用いられる方法でもはや測定することができず、したがって二次的に重要である。例えば、本開示に係るムテインの結合親和性は、ある態様では800nMより低いKDであり、ある態様では30nMより低いKDであり、ある態様では約50ピコモル(pM)以下である。
【0130】
いくつかの態様では、本開示のリポカリンムテインは、IL-4発現および/またはIL-13発現が疾患の病因もしくは悪化に関与しているかまたは関係している任意の疾患または障害を治療するために使用することができる。いくつかの態様では、本開示のリポカリンムテインは、IL-4活性および/またはIL-13活性の除去、阻害または低下によって改善、軽減または抑制される任意の疾患または障害を治療するために使用することができる。説明に役立つ例として、前記ムテインまたはそれを含有する薬学的組成物は、Th2免疫応答の増加と関連する疾患または障害を治療する方法に利用することができる。そのような疾患または障害はまた、例えば、アレルギー反応またはアレルギー性炎症と関連していることもある。いくつかのさらなる態様では、このような疾患または障害は、アレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎、または皮膚炎であり得る(Hage et al. (1999) Cell, 97, 271-281、またはMueller et al. (2002) Biochemica et Biophysica Acta, 237-250参照)。
【0131】
本開示の涙液リポカリンムテインとの関連で、本開示で使用される用語「断片」は、N末端および/またはC末端で短縮されている、すなわち、N末端および/またはC末端アミノ酸の少なくとも1つを欠失している、完全長の成熟ヒト涙液リポカリンに由来するタンパク質またはペプチドに関する。このような断片は、成熟ヒト涙液リポカリンの一次配列の、好ましくは少なくとも10個、より好ましくは20個、最も好ましくは30個またはそれ以上連続したアミノ酸を含み、かつ通常は成熟ヒト涙液リポカリンのイムノアッセイで検出可能である。
【0132】
本開示で使用される用語「変異体」は、例えば置換、欠失、挿入、または化学的修飾によるアミノ酸配列の修飾を含む、タンパク質またはペプチド(例えば、本開示の涙液リポカリンムテイン)の誘導体に関する。好ましくは、そのような修飾は該タンパク質またはペプチドの機能性を低減させない。そのような変異体は、1個または複数のアミノ酸が、それらのそれぞれのD-立体異性体によって、または天然に存在する20種のアミノ酸以外のアミノ酸、例えば、オルニチン、ヒドロキシプロリン、シトルリン、ホモセリン、ヒドロキシリシン、ノルバリンなどによって、置き換えられているタンパク質を含む。しかし、そのような置換は保存的であってもよく、すなわち、アミノ酸残基が化学的に類似したアミノ酸残基で置換される。保存的置換の例は次のグループのメンバー間の置換である:1)アラニン、セリン、およびトレオニン;2)アスパラギン酸およびグルタミン酸;3)アスパラギンおよびグルタミン;4)アルギニンおよびリシン;5)イソロイシン、ロイシン、メチオニン、およびバリン;ならびに6)フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン。
【0133】
本開示に従って使用される用語「位置」は、本明細書に示されるアミノ酸配列内のアミノ酸の位置、または本明細書に示される核酸配列内のヌクレオチドの位置のいずれかを意味する。本明細書で使用される用語「対応する」はまた、位置が先行するヌクレオチド/アミノ酸の数によって単に決定されるのではないことを含む。したがって、置換することができる、本開示に従う所定のアミノ酸の位置は、(変異型または野生型)リポカリンの他の位置でのアミノ酸の欠失または付加に起因して変化しうる。同様に、置換することができる、本開示に従う所定のヌクレオチドの位置は、ムテインまたは野生型リポカリンの5'-非翻訳領域(UTR)(プロモーターおよび/または他の調節配列を含む)または遺伝子(エキソンおよびイントロンを含む)の他の位置でのヌクレオチドの欠失または付加に起因して変化しうる。かくして、本開示に従う「対応する位置」の下では、好ましくは、ヌクレオチド/アミノ酸は、示された数字が異なっていてよいが、それでもなお類似する隣接ヌクレオチド/アミノ酸を有し得ることを理解すべきである。交換、欠失または付加され得る前記ヌクレオチド/アミノ酸もまた、用語「対応する位置」によって含まれる。具体的には、野生型リポカリンと異なるリポカリン(ムテイン)のアミノ酸配列のアミノ酸残基が、野生型リポカリンのアミノ酸配列の特定の位置に対応するかどうかを決定するために、当業者は、当技術分野で周知の手段および方法、例えばアライメントを使用することができ、アライメントは、手動で、またはBLAST2.0(Basic Local Alignment Search Toolを表す)もしくはClustalWなどのコンピュータプログラム、または配列アライメントを生じさせるのに適した他の適切なプログラムを用いることにより行われる。したがって、野生型リポカリンは「サブジェクト配列」または「参照配列」として役立つことができる一方で、本明細書に記載される野生型リポカリンと異なるリポカリンのアミノ酸配列は「クエリー配列」として役立つ。用語「参照配列」と「野生型配列」は本明細書では互換的に使用される。
【0134】
本明細書で使用する場合、単数形「ある(a)」、「ある(an)」および「その(the)」には、特に文脈が明確に指示しない限り、複数の言及が含まれる。したがって、例えば、「リポカリンムテイン」(a lipocalin mutein)への言及は、1つまたは複数のリポカリンムテインを含む。
【0135】
特に指示のない限り、一連の要素に先行する用語「少なくとも」は、その一連に含まれるあらゆる要素を指すと理解されるべきである。当業者であれば、本明細書に記載される本開示の特定の実施態様に対する多くの均等物を認識するか、せいぜいルーチンな実験を用いて確認することができるであろう。そのような均等物は、本開示に包含されるものとする。
【0136】
本明細書および添付の特許請求の範囲を通して、特に断りのない限り、単語「含む(comprise)」およびその変形(comprisesおよびcomprisingなど)は、挙げられた数値もしくは工程または数値もしくは工程のグループの包含を意味するが、他の数値もしくは工程または数値もしくは工程のグループの排除を意味しないことが理解されるであろう。本明細書で使用する場合、用語「含む」(comprising)は、用語「含有する(containing)」または「有する(having)」で置換することができる。
【0137】
本明細書で使用する場合、「からなる(consisting of)」は、クレーム要素に指定されていない要素、工程または成分を除外する。本明細書で使用する場合、「から本質的になる(consisting essentially of)」は、クレームの基本的および新規な特徴に実質的に影響を与えない材料または工程を除外しない。
【0138】
本明細書で使用するとき、複数の列挙された要素の間の接続語「および/または」は、個々と組み合わせの両方の選択肢を包含するものとして理解される。例えば、2つの要素が「および/または」で結ばれている場合、第1の選択肢は、第2の要素なしでの第1の要素の適用可能性を指す。第2の選択肢は、第1の要素なしでの第2の要素の適用可能性を指す。第3の選択肢は、第1の要素と第2の要素の一緒の適用可能性を指す。これらの選択肢のいずれか1つは、その意味の範囲内に収まり、したがって、本明細書で使用される用語「および/または」の要件を満たすものと理解される。これらの選択肢の2つ以上の同時適用もまた、その意味の範囲内に収まり、したがって、本明細書で使用される用語「および/または」の要件を満たすものと理解される。
【0139】
いくつかの資料が本明細書の本文を通して引用されている。本明細書に引用した資料(すべての特許、特許出願、科学刊行物、製造業者の仕様書、説明書などを含む)の各々は、前出または後出を問わず、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。本明細書中の何ものも、事前開示という理由でそのような開示に先行する権利が本開示にないことを承認するものとして、解釈されるべきではない。
【実施例0140】
実施例1:IL-4受容体αアンタゴニストによるTF-1細胞におけるIL-4およびIL-13誘導性のStat6リン酸化の阻害
TF-1細胞を、IL-4受容体αアンタゴニストである、ヒトIL-4受容体α鎖に対するリポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)と共に37℃で30分間インキュベートし、その後10nM IL-13(図1a)または0.1nM IL-4(図1b)を添加した。37℃で15分間インキュベートした後に細胞を1.6%PFAで固定し、PEマウス抗STAT6(pY641) - BD 612701による細胞内STAT6染色に先立って100%メタノールで透過処理した。IL-4RA特異的抗体MAB230 (R&D Systems社)およびAndrews et al. Jl 2006 176:7456-7461に記載されるIL-4二重変異体IL-4 (R121D, Y124D)を陽性対照として使用した。また、ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO:1)およびマウスIgG2a抗体(mIgG2a, Ancell 281-010; Lot#171605)を陰性対照として使用した。TF-1 Stat6リン酸化アッセイからの結果は、図1に示されており、リポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)がIL-4RAの下流シグナル伝達に関係することから、それはIL-4ならびにIL-13の強力なアンタゴニストであることを示している。IL-4RA特異的抗体MAB230 (R&D Systems社)は、同様に良好に機能する。驚いたことに、IL-4変異体は、機能的拮抗作用が以前に記載されていたにもかかわらず、IL-4とIL-13の両方によって誘導されるTF-1細胞におけるStat6リン酸化を阻害する上で効果がかなり低い。リポカリンムテインと比較したIL-4変異体(R121D, Y124D)の速い解離速度定数(koff)(表1)は、この機能的な違いの理由であるかもしれない。
【0141】
【表1】
【0142】
実施例2:ダブルノックインマウスの作製
ヒトIL-4受容体α鎖およびIL-13受容体α鎖1ノックインマウスは、マウスIL-4受容体α鎖遺伝子およびIL-13受容体α鎖1遺伝子を、それぞれのヒトオルソログと置換することにより作製された。したがって、作製されたマウスは、いわゆるヒトIL-4受容体α/ヒトIL-13受容体α鎖1ダブルノックインマウスであり、このマウスは、マウスに代わってヒトのIL-4受容体αおよびIL-13受容体α鎖1遺伝子をマウスのオルソログ遺伝子の遺伝子座に保有している。
【0143】
以下のようにマウスを作製した:X染色体上の70kbのマウスIL-13RA1遺伝子を欠失させて、マウス胚性幹細胞にヌル対立遺伝子を生成させた。欠失された遺伝子座に、ヒトIL-13RA1遺伝子を保持するDNAのセグメントを導入した。このヒト遺伝子は、全IL13RA遺伝子だけでなく、~11kbの5'遺伝子間DNAおよび3'UTRの3'側の~7kbのDNAをも含有する、ヒトX染色体の95.7kb断片からなる。このDNA断片はヒト受容体の発現を指令するだろうという、暗黙の知識がある。この変更を保有するマウスは改変ES細胞から作製した。別の実験において、マウスIL-4RA遺伝子を保持するDNAの39kbセグメントを、ヒトIL-4RをコードするDNAの63kbの対応するセグメント(IL-4Rαおよび共通のγ鎖から構成される)と交換し、この場合も前記改変細胞から作製されたマウス系統を使用した。これら2つのノックインマウス系統を交配させて、IL-4R遺伝子座とIL-13RA遺伝子座の両方でヒト化遺伝子座についてホモ接合性であるマウス系統を確立した。このマウスは、マウスタンパク質の非存在下でヒトタンパク質を発現する。ヒトI型およびII型受容体の適切な発現は、ヒトIL-4に対する免疫細胞の応答およびIL-13に対する気道上皮細胞の応答を示すことによって確認した。
【0144】
実施例3:IL-4 I型受容体に対するIL-4受容体αアンタゴニストの機能を検証するためのダブルノックインマウス脾細胞のエクスビボ分析
脾細胞を、当技術分野でよく知られた手段および方法により、ヒトIL-4受容体α/ヒトIL-13受容体α鎖1ダブルノックインマウスから単離した。これらの脾細胞を、IL-4受容体αアンタゴニストであるヒトIL-4受容体α鎖に対するリポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)の非存在下または存在下のいずれかで、増加する濃度のヒトIL-4により刺激した。IL-4は、IL-4受容体複合体を介してSTAT6のリン酸化をもたらす。したがって、STAT6のリン酸化は、IL-4のその受容体への結合についてのリードアウト(readout)である。ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO:1)は陰性対照としての役割を果たす。
【0145】
図2では、IL-4刺激脾細胞におけるSTAT6リン酸化が非刺激脾細胞のレベルと同等であったことから、リポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)は、脾細胞上に発現されたIL-4 I型受容体に対するIL-4の作用を低減させ、それゆえに中和することが示されている。
【0146】
実施例4:ダブルノックイントランスジェニックマウスへのIL-4受容体αアンタゴニストの投与およびエオタキシンレベルの分析
Blanchardら(Clin Exp Allergy 2005, 35(8):1096-1103)により提供されたIL-13誘導性気道炎症モデルを用いて、IL-4受容体αアンタゴニストであるヒトIL-4受容体α鎖に対するリポカリンムテインの効果を調べた。このモデルでは、1μgのIL-13を気管内注入により48時間ごとに3回投与する。
【0147】
したがって、図3に示されるように、ビヒクル(リン酸緩衝生理食塩水、以後「PBS」という)またはIL-13(hIL-13)をダブルノックイントランスジェニックマウスに、それぞれグループ1(PBS)およびグループ2(hIL-13)として投与した。一方、グループ3(SEQ ID NO:6/hIL-13)およびグループ4(TLPC/hIL-13)は、hIL-13を与えられたことに加えて、それぞれ、57μgの用量のリポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)または57μgの用量の陰性対照としてのヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO:1)を与えられた。
【0148】
グループ2および3は3匹のマウスを含み、グループ1および4は2匹のマウスを含んでいた。気管内投与は30μlで行った。IL-13、リポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)および陰性対照を気管内投与し、エオタキシンレベルを測定する目的で肺組織ホモジネートを得た。ここで留意すべきは、リポカリンムテインと陰性対照をIL-13投与の30分前に投与したことである。
【0149】
IL-13がこのモデルで投与される場合、エオタキシンのレベルは、例えば、グループ1と比較してグループ4では、最後のIL-13を投与してから24時間後に増加する。エオタキシンは強力な好酸球走化性因子であり、そのため炎症のマーカー、特にアレルギー性炎症のマーカーである。図3には、グループ4におけるリポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)が、グループ3における陰性対照と比較して、エオタキシン誘導に対するIL-13の作用を効果的に中和することが示されている(また、グループ1のPBSおよびグループ2のIL-13単独を参照されたい)。
【0150】
実施例5:ダブルノックイントランスジェニックマウスへのIL-4受容体αアンタゴニストの投与およびCcl11(エオタキシン)のmRNA発現の分析
ヒトIL-4受容体α/ヒトIL-13受容体α鎖1ダブルノックインマウスへの、IL-4受容体αアンタゴニストであるヒトIL-4受容体α鎖に対するリポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)の投与は、30μlのIL-13(Peprotech社、1μg)を気管内注入によって1回だけ投与したことを除いて、実施例4に記載したとおりに行った。各グループは、3匹のヒトIL-4受容体α/ヒトIL-13受容体α鎖1ダブルノックインマウスを含んでいた。IL-13投与の24時間後に肺ホモジネートから全RNAを単離して、RT-PCRによりマウスエオタキシンの発現について分析した。24時間後の肺組織におけるmRNA発現を18S rRNAにより正規化し、1μg hIL13マウスの値を1と設定した。リポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)もまた、IL-13投与前の様々な時間に98μgの一定用量で、またはIL-13投与の30分前に様々な量で、30μlの容量の気管内注入により適用した。IL-4変異体(R121D, Y124D)もまた、IL-13投与の30分前に様々な量で、30μlの容量の気管内注入により適用した。簡略化されたIL-13誘導性気道炎症モデル(単回IL-13気管内投与)を用いて、薬理学的応答の持続時間、用量依存性および比較可能な効力を評価した。図4aでは、リポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)がヒトIL-13誘導性転写産物Ccl11(エオタキシン)を長時間にわたって効果的に阻害したことを見ることができ(図4a)、さらに図4bに示されるように、薬理学的応答の用量依存性も実証された。また、図4cに見られるように、IL-4変異体と並べて比較したとき、リポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)の好ましい効力が示された(図4c)。
【0151】
実施例6:Pari eFlow振動メッシュ式ネブライザーを用いてIL-4受容体αアンタゴニストを噴霧するのに適した製剤の同定
IL-4受容体αアンタゴニストであるIL-4RA特異的リポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)は、Pari eFlow装置を用いて、0.01または0.05ポリソルベート20を含有するPBS中0.1mg/mlの濃度で噴霧した。ネブライザーのリザーバに6mlの製剤を満たし、リザーバの半分が噴霧されるまで約15分間運転した。図5に示すように、霧化サンプルをネブライザーのマウスピースに装着したガラスバイアルで収集し、肉眼で見える粒子をモニターするために目視検査により、肉眼で見えない粒子をモニターするために光遮蔽により、可溶性凝集体をモニターするために高圧サイズ排除クロマトグラフィー(HP-SEC)により、化学修飾をモニターするために逆相SECにより、機能的活性をモニターするためにIL-4RA結合ELISAにより、そして液滴サイズを測定するためにレーザー回折により分析した。選択した製剤中のリポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)の噴霧化は、肉眼で見える凝集体、肉眼で見えない粒子の発生には至らなかった。霧化されたタンパク質とリザーバ内に残っているタンパク質は両方とも、単量体のままであり、完全に機能的に活性な状態を維持した。5.5μmのメジアン径を有する小滴がこの装置の仕様書に従って発生された。製剤中のポリソルベート20の濃度は、測定されたパラメータのどれもが、0.01または0.05ポリソルベート20を含有する製剤において同一でなかったので、ムテインを噴霧化する能力に影響を与えていないようであった。
【0152】
実施例7:気管内注入後のヒトIL-4RA/ヒトIL-13ダブルノックインマウスにおけるIL-4受容体αアンタゴニストの薬物動態特性および体内分布
IL-4受容体αアンタゴニストであるリポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)を、ヒトIL-4受容体α/ヒトIL-13受容体α鎖1ダブルノックインマウスに30μl(98μg)の気管内投与により投与した。20匹の動物に投与し、4匹のグループを1、4、8、16および24時間後に屠殺した。屠殺時に、肺を2×1mlのFACSflow液で洗浄し、Li-ヘパリン血漿サンプルを採取し、肺を液体窒素中で急速凍結した。肺組織は、1.5mlの溶解緩衝液(1錠のコンプリートミニプロテアーゼインヒビターカクテル錠(Roche社)/10mlのT-PER(Perbio社))中で、IKA T10ベーシックUltra-Turrax(S10N-5G)組織ホモジナイザーを用いて4℃、55秒間ホモジナイズした。ホモジネートを氷上で30~60分間インキュベートし、10,000g、4℃で10分間遠心分離することによって澄明化した。総タンパク質濃度はBCAキット(Pierce社)でメーカーの説明書に従って測定し、サンプルはPBSで1mg/mlの標準最終タンパク質濃度に希釈してから、アリコートを-80℃で貯蔵した。定量メソスケールディスカバリー(Meso Scale Discovery: MSD)に基づくELISAを用いて、洗浄液、肺組織、および血漿中のリポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)の結合活性濃度を様々な時点で測定した。簡単に説明すると、MSDプレートにPBS中の5μg/mlのニュートラアビジンを4℃で一晩コーティングし、PBS/0.05%Tween20で洗浄して、3%BSAでブロックした。PBS/0.1%Tween20中の2.5μg/mlの濃度のビオチン化ヒトIL-4RAを加えて、異なるマトリックスからリポカリンムテインを捕捉し、結合したムテインは、PBS/0.5%Tween20/0.5%BSA中で涙液リポカリン特異的ウサギポリクローナル抗体(製剤:TLPC-Mix4666 Ab, Pieris社, PL#684)および抗ウサギIgG Sulfo-Tag抗体(Meso Scale Discovery社, 0.5μg/ml)を用いて検出した。アッセイは、3つすべてのマトリックスにおいて75pg/mlから6ng/mlまでの線形範囲を示したが、一方でQCサンプルは80~120%の回収率を有していた。濃度と総量の計算のために、マウスあたり900μlの総血漿量が推定された。肺あたりのリポカリンムテインの総量が、標準化した全肺ホモジネートと1.5ml溶解緩衝液のその量中の測定された濃度および測定された肺の重量に基づいて計算される場合には、BCAキットにより測定される1mg/mlの総タンパク質濃度に対して肺ホモジネートを標準化するために使用した希釈係数を考慮に入れた。気管支肺胞洗浄液(以後「BALF」)中のリポカリンムテインの総量は、2mlの洗浄液中に回収された量に基づいていた。
【0153】
図6aに見られるように、気管内投与の1時間後に、投与した量の43%をBALF中に、6%を肺組織中に、そして0.2%を血漿中に回収することができた。3.7、3.9、および2.7時間の終末相半減期が、それぞれBALF、肺組織、および血漿において測定された。さらに、図6bに見られるように、ヒトIL-4RA/ヒトIL-13ダブルノックインマウスにおける計算された肺組織中の濃度は、98μgのリポカリンムテインの気管内注入後に0.7μg/ml以上に約20時間維持され、これは図4aに示した観測結果と一致している。この0.7μg/ml濃度は、異なるインビトロ効力アッセイで観測されたリポカリンムテインの最高IC90値に対応する。また、図6bは、血漿濃度およびしたがって全身曝露が、肺組織に見られる濃度と比べて、100倍低かったことを示している。
【0154】
実施例8:IL-4受容体αアンタゴニストによるヒト気道上皮気液界面培養系におけるIL-13誘導性杯細胞化生の阻害
杯細胞化生は、喘息をはじめとする、いくつかの呼吸器疾患の共通した特徴である。したがって、MucilAir(商標)(Epithelix社)に基づくインビトロモデルにおいて杯細胞化生を阻害する、IL-4受容体αアンタゴニストであるリポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)の能力が評価された。MucilAir(商標)は、一次ヒト細胞を用いてインビトロで再構成されたヒト気道上皮を含む気液界面培養系であって、これを0.3~30ng/mlのヒトIL-13で2日おきに処理した。インサイチューアルシアンブルー染色ならびに組織学的分析により、MucilAir(商標)は14日間の処理後に杯細胞密度の増加を用量依存的に示したことが実証された。したがって、杯細胞化生に対するリポカリンムテインの阻害効果を試験するにあたって、陽性対照としての10ng/mlのヒトIL-13への、ならびにIL-13+様々な濃度(図7aに示される)のそれぞれリポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)、IL-4変異体(R121D, Y124D)、および抗IL-4RAモノクローナル抗体(軽鎖および重鎖可変領域はSEQ D NO:14および15に示される)への、MucilAir(商標)の14日間の連続曝露を比較し、さらに陰性対照としてIL-13の非存在下で14日間培養したMucilAir(商標)と比較した。インサイチュー染色のために酸性ムコ多糖類とグリコサミノグリカン類を青色ないし青緑色に染色するアルシアンブルー染料を頂端面に添加して、画像解析のために位相差顕微鏡下で染色細胞の写真を撮った。アルシアンブルー陽性細胞の割合は、パブリックドメインのJava画像処理プログラムImageJによって定量化し、アルシアンブルー領域/総画像領域の面積比率として表した。組織学的分析は、標準的なプロトコルに従ってジュネーブ大学のプラットフォームによって実施された。また、IL-13誘導性のケモカインであるエオタキシン-3を、Meso Scale Discovery社から市販されている超高感度エオタキシン-3キットを用いて、メーカーの使用説明書に従って14日目に基礎培地中で測定した。
【0155】
図7aおよび図7bでは、リポカリンムテイン(SEQ ID NO:6)がMucilAir培養系においてIL-13により誘導される杯細胞化生を完全に用量依存的にブロックすることができたことが見て取れる。アルシアンブルー面積比率のレベルは、リポカリンムテインおよび抗IL-4RAモノクローナル抗体によってバックグラウンド(IL-13のない陰性対照の比率)に減少したが、IL-4変異体(R121D, Y124D)では減少せず、一方ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO:1)は陽性対照(IL-13のみを有する)と同様の染色を示した。同様の結果が、図7dに見られるように、エオタキシン-3(基礎培養培地に分泌された)についても得られた。IL-13の存在下および非存在下での14日目の培養物の代表的なアルシアンブルー/ニュートラルレッド染色パラフィン切片は、図7cに示されるように、気液界面培養系におけるヒト気道上皮に対するIL-13の影響を示した。
【0156】
本発明は、IL4/IL13経路が疾患の病因に関与している疾患および/または状態、例えばTh2免疫応答の増加に関連する疾患および/または状態の治療に関係した産業上の用途を有する。本明細書に説明的に記載した本発明は、本明細書に具体的に開示されていない任意の1つまたは複数の要素、1つまたは複数の限定の非存在下で適切に実施することができる。したがって、例えば、用語「含む」、「包含する」、「含有する」などは、拡大してかつ限定なしに解釈されるものとする。さらに、本明細書で用いる用語および表現は、限定の用語としてではなく、説明の用語として使用されており、そのような用語および表現の使用において、示されかつ説明された特徴またはその部分の任意の均等物を除外する意図はなく、さまざまな改変がクレームされた本発明の範囲内で可能であることが認識される。したがって、当然のことながら、本発明は好ましい態様および選択的特徴によって具体的に開示されているが、本明細書に具体化され開示された本発明の修飾および変形が当業者によって用いられてもよく、そうした修飾および変形は本発明の範囲内であると考えられる。本発明は、本明細書中に広範かつ一般的に説明されている。本明細書に記載のすべての特許、特許出願、テキストブックおよび査読された刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。また、参照により本明細書に組み入れられる参考文献中の用語の定義または使用が、本明細書で提供されるその用語の定義と矛盾するか反対である場合、本明細書で提供されるその用語の定義が適用され、参考文献中のその用語の定義は適用されない。上位概念(generic)の開示の範囲内にある、より狭義の下位概念(speciesおよびsubgeneric)のグループの各々もまた、本発明の一部を形成する。これは、削除された材料が本明細書に具体的に記載されているか否かにかかわらず、上位概念から任意の主題を除去する但し書きまたは否定的限定を含む本発明の包括的記述を含む。また、本発明の特徴または局面がマーカッシュグループで記載されている場合、当業者は、本発明がマーカッシュグループの個々のメンバーまたはメンバーのサブグループに関してもそれによって記載されていることを認識するであろう。本発明のさらなる態様は、以下の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
【配列表】
2022084854000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-03-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともIL-4RAアンタゴニストまたはその断片を含有する薬学的組成物を、それを必要とする対象に、溶液中に0.01mg/ml~100mg/mlの範囲の濃度で噴霧により投与する段階を含む該対象において障害を治療する方法で使用するための、該薬学的組成物であって、前記障害がIL-4および/またはIL-13シグナル伝達により誘導されるTh2免疫応答の増加により生じる障害であり、該溶液が、
(a) 5.5~8.0のpHレベル、
(b) 150~550mOsm/Lの浸透圧値、および
(c) 浸透性アニオンとしての塩化物の31~300mMのイオン濃度
を含み、かつ結果として生じるエアロゾルが1μm~10μmの範囲の空気動力学的中央粒子径(MMAD)を有し、
IL-4RAアンタゴニストが、IL-4および/またはIL-13がそれぞれの受容体に結合するのを阻害することが可能なヒト涙液リポカリンムテインまたはその断片であり、該リポカリンムテインまたはその断片が、成熟ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO:1)のアミノ酸配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有し、該リポカリンムテインまたはその断片が、成熟ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO:1)の線状ポリペプチド配列の位置26、27、28、30、31、32、33、34、53、55、56、57、58、61、63、64、66、80、83、104~106、および108に対応するアミノ酸位置でSEQ ID NO:6に記載の同じアミノ酸を有する、薬学的組成物。
【請求項2】
前記溶液が約1.5cpより低い粘度値をさらに有する、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記溶液が、5.5~8.0、6.0~8.0、6.0~7.5、5.5~7.5、6.0~7.0、および6.5~7.5からなる群より選択される調整されたpHを有する、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記溶液が、150~550mOsm/kg、150~500mOsm/kg、200~550mOsm/kg、200~500mOsm/kg、200~450mOsm/kg、および150~450mOsm/kgからなる群より選択される浸透圧値を有する、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記溶液が、31~300mM、50~200mM、50~300mM、50~150mM、100~200mM、100~300mM、100~250mM、150~250mM、150~300mM、および200~300mMからなる群からの、浸透性アニオンとしての塩化物のイオン濃度を有する、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記溶液が、0~1.5cp、0~1.0cp、0~0.5cp、0.5~1.0cp、0.5~1.5cp、および1.0~1.5cpからなる群より選択される粘度を有する、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
結果として生じるエアロゾルが、1μm~10μm、2μm~8μm、2μm~5μm、1.5μm~4μm、3μm~4.5μm、および2.5μm~3.5μmからなる群より選択される空気動力学的中央粒子径(MMAD)を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
電子ネブライザー、ジェット、超音波、または振動有孔膜、もしくは振動メッシュ式ネブライザーが使用される、請求項1~7のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記アンタゴニストが、噴霧時および噴霧後にその機能的および構造的完全性を維持している、請求項1~8のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記アンタゴニストが、噴霧時および噴霧後に単量体のままである、請求項9に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
それを必要とする対象において障害を治療する方法で使用するためのIL-4RAアンタゴニストまたはその断片を含有する溶液であって、前記方法が前記対象に噴霧により前記溶液を投与することを含み、前記障害がIL-4および/またはIL-13シグナル伝達により誘導されるTh2免疫応答の増加により生じる障害であり、
(a) 5.5~8.0のpHレベル、
(b) 150~550mOsm/Lの浸透圧値、および
(c) 浸透性アニオンとしての塩化物の31~300mMのイオン濃度
を含み、かつ結果として生じるエアロゾルが1μm~10μmの範囲の空気動力学的中央粒子径(MMAD)を有し、
IL-4RAアンタゴニストが、IL-4および/またはIL-13がそれぞれの受容体に結合するのを阻害することが可能なヒト涙液リポカリンムテインまたはその断片であり、該リポカリンムテインまたはその断片が、成熟ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO:1)のアミノ酸配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有し、該リポカリンムテインまたはその断片が、成熟ヒト涙液リポカリン(SEQ ID NO:1)の線状ポリペプチド配列の位置26、27、28、30、31、32、33、34、53、55、56、57、58、61、63、64、66、80、83、104~106、および108に対応するアミノ酸位置でSEQ ID NO:6に記載の同じアミノ酸を有する、溶液。
【請求項12】
1~3分以内の吸入による送達方法で使用するための請求項11に記載の溶液を含む、薬学的組成物。
【請求項13】
吸入による送達が肺に局所的である、請求項12に記載の薬学的組成物。
【外国語明細書】