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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084892
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】光ファイバカプラの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/287 20060101AFI20220531BHJP
【FI】
G02B6/287
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054306
(22)【出願日】2022-03-29
(62)【分割の表示】P 2019182389の分割
【原出願日】2017-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼屋 雅人
(57)【要約】
【課題】カプラ部を通過する光における偏光状態の変動を抑制させる光ファイバカプラの製造方法を提供する。
【解決手段】光ファイバカプラの製造方法は、基板の溝にガラス部を有する複数の光ファイバ挿入し、前記複数の光ファイバそれぞれの中途部を溶融延伸させ接合させてカプラ部を形成する。前記複数の光ファイバは、前記ガラス部が応力付与部を有さないシングルモード光ファイバである。前記光ファイバの前記ガラス部を覆う被覆部を除去し、各光ファイバの前記ガラス部を接合させて前記カプラ部を形成し、硬化前の粘度が5000~15000mPa・sである接着剤を、前記溝の内側にて、周方向における前記ガラス部及び被覆部の全体を覆うように前記カプラ部の両端に塗布し、硬化後の前記接着剤のショアD硬度が15~35となるように、塗布された前記接着剤を硬化させて、前記カプラ部の両端を前記溝に固定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の溝にガラス部を有する複数の光ファイバ挿入し、前記複数の光ファイバそれぞれの中途部を溶融延伸させ接合させてカプラ部を形成する光ファイバカプラの製造方法であって、
前記複数の光ファイバは、前記ガラス部が応力付与部を有さないシングルモード光ファイバであり、
前記光ファイバの前記ガラス部を覆う被覆部を除去し、
各光ファイバの前記ガラス部を接合させて前記カプラ部を形成し、
硬化前の粘度が5000~15000mPa・sであり、硬化後のショアD硬度が15~35となる接着剤を、前記溝の内側にて、周方向における前記ガラス部及び被覆部の全体を覆うように前記カプラ部の両端に塗布し、
塗布された前記接着剤を硬化させて、前記カプラ部の両端を前記溝に固定する
光ファイバカプラの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、複数の光ファイバ間において、光の分離及び結合を行う光ファイバカプラの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、光ファイバカプラを製造する場合、複数の光ファイバそれぞれの中途部を加熱し、光ファイバのクラッドを溶融させ、各中途部を延伸接合させてカプラ部を形成する。カプラ部は、例えば基板の溝に挿入され、接着剤によって溝の内側に固定される(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1によれば、5Mpa以上の引張剪断接着強度を有する接着剤を使用した場合、光ファイバカプラを通過する光の挿入損失の変動量を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-181899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記光ファイバカプラは、光の挿入損失の変動量以外の要素を考慮していない。
【0006】
本発明に係る光ファイバカプラの製造方法は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、カプラ部を通過する光における偏光状態の変動を抑制させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態に係る光ファイバケーブルの製造方法は、基板の溝にガラス部を有する複数の光ファイバ挿入し、前記複数の光ファイバそれぞれの中途部を溶融延伸させ接合させてカプラ部を形成する光ファイバカプラの製造方法であって、前記複数の光ファイバは、前記ガラス部が応力付与部を有さないシングルモード光ファイバであり、前記光ファイバの前記ガラス部を覆う被覆部を除去し、各光ファイバの前記ガラス部を接合させて前記カプラ部を形成し、硬化前の粘度が5000~15000mPa・sであり、硬化後のショアD硬度が15~35となる接着剤を、前記溝の内側にて、周方向における前記ガラス部及び被覆部の全体を覆うように前記カプラ部の両端に塗布し、塗布された前記接着剤を硬化させて、前記カプラ部の両端を前記溝に固定する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態に係る光ファイバカプラの製造方法にあっては、接着剤の硬化後のショアD硬度を15~35に設定することによって、カプラ部を通過する光の偏光状態の変動を抑制させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】光ファイバカプラを略示する断面図である。
図2】基板及びカプラ部を略示する平面図である。
図3図1に示すIII-III線を切断線とした略示断面図である。
図4】偏光状態の温度依存性を測定する構成を略示するブロック図である。
図5】楕円偏光した光がZ方向に進行する場合におけるXY面に投影された電場ベクトルの軌跡を略示する図である。
図6】偏光測定器によって経時的に測定された方位角θを示すグラフである。
図7】偏光測定器によって経時的に測定された楕円率角ηを示すグラフである。
図8】測定開始時点の値を基準にした方位角θの変動値Δθを示すグラフである。
図9】測定開始時点の値を基準にした楕円率角ηの変動値Δηを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下実施の形態に係る光ファイバカプラ1を図面に基づいて説明する。図1は、光ファイバカプラ1を略示する断面図、図2は、基板2及びカプラ部13を略示する平面図、図3は、図1に示すIII-III線を切断線とした略示断面図である。
【0011】
光ファイバカプラ1は円柱状の基板2を備える。基板2の材質は、石英、インバー、コバール等が使用でき、本実施例では石英を使用している。基板2には、長手方向に沿った溝2aが形成されている。溝2aにはカプラ部13が挿入されている。カプラ部13は第1光ファイバ11及び第2光ファイバ12によって構成されている。第1光ファイバ11はコア11aと、該コア11aの周囲を覆うクラッド11bと、該クラッド11bの周囲を覆う被覆部11cとを有する。第2光ファイバ12はコア12aと、該コア12aの周囲を覆うクラッド12bと、該クラッド12bの周囲を覆う被覆部12cとを有する。第1光ファイバ11及び第2光ファイバ12の被覆部11c、12cを除去した後、各クラッド11b、12bをアルコール等で洗浄し、その後、第1光ファイバ11及び第2光ファイバ12それぞれの中途部を加熱し、第1光ファイバ11及び第2光ファイバ12のクラッド11b、12bを溶融させ、各中途部を延伸接合させることによって、カプラ部13は形成されている。なおカプラ部13は三つ以上の光ファイバによって構成されていてもよい。
【0012】
カプラ部13において、第1光ファイバ11を通過する光量と、第2光ファイバ12を通過する光量との比率(分岐比)が所定比率になる。例えば、分岐比が50:50に設定されている場合、第1光ファイバ11に導入された光の光量の50%は、カプラ部13にて第2光ファイバ12に移動する。
【0013】
溝2aの二箇所に接着剤3がそれぞれ設けられている。接着剤3は、例えば可視光硬化型樹脂材又は紫外線硬化型樹脂材を含み、エポキシ系樹脂材又はアクリレート系樹脂材を含む。接着剤3は溝2aの両端部に配されている。
【0014】
硬化後の接着剤3のショアD硬度は、例えば10~35であり、好ましくは15~35である。ショアD硬度が10未満の場合、環境温度が上昇した場合に接着剤3が柔らかくなり過ぎて、カプラ部13が変形しやすくなる。ショアD硬度が35を超過する場合、カプラ部13の一部に応力が集中し易くなり、カプラ部13に歪みが生じやすい。カプラ部13に歪みが生じた場合、カプラ部13を通過する光の偏光状態が変動し易くなる。
【0015】
硬化前の接着剤3の粘度は、例えば、5000~15000mPa・sである。粘度が5000mPa・sよりも小さい場合、毛細管現象によって接着剤3が溝2a内に拡がり過ぎ、接着剤3がカプラ部13に付着する面積が過大になる。一方、粘度が15000mPa・sよりも大きい場合、接着剤3が硬過ぎて溝2a内のカプラ部13に塗布しにくい。
【0016】
カプラ部13の両端付近、換言すれば、カプラ部13が第1光ファイバ11及び第2光ファイバ12に分岐する部分は、溝2aの両端部に配置されている。前述したように、溝2aの両端部に、接着剤3がそれぞれ設けられている。接着剤3は、第1光ファイバ11及び第2光ファイバ12の被覆部11c、12cと、被覆部11c、12cを除去した第1光ファイバ11及び第2光ファイバ12のガラス部(カプラ部13の両端付近であって第1光ファイバ11及び第2光ファイバ12が細くなっていないクラッド11b、12b及びコア11a、12a)とを溝2aに固定している。
【0017】
カプラ部13及び基板2は、金属部材によって構成された保護筒5に収納され、接着剤によって保護筒5に固定されている。保護筒5の材質は、SUS、インバー、コバール等が使用できるが、実施例ではSUSを使用している。保護筒5の両端部は封止部6によって封止されている。封止部6は、例えばシリコーン樹脂材を含む。第1光ファイバ11及び第2光ファイバ12は封止部6を貫通し、外向きに突出している。
【0018】
硬化後の接着剤3のショアD硬度を35以下に設定することによって、カプラ部13を通過する光の温度変化に対する偏光状態の変動を抑制させることができる。図4は、偏光状態の温度依存性を測定する構成を略示するブロック図である。
【0019】
光ファイバカプラ1は加熱/冷却装置20に設けられている。加熱/冷却装置20はペルチェ素子を備える。第1光ファイバ11の一端部に光源21が取り付けられており、他端部にパワーメータ22が取り付けられている。パワーメータ22は、カプラ部13を通過した第1光ファイバ11における光量を測定する。パワーメータ22によって温度変化に対する光の挿入損失を測定することができる。
【0020】
第2光ファイバ12の一端部には何も取り付けられておらず、他端部には偏光測定器23が取り付けられている。偏光測定器23は、Thorlabs社製の自由空間型偏光計「PAX5710シリーズ」を用いることができ、実施例では、「PAN5710IR-T」を用いた。偏光測定器23によって、カプラ部13を通過した光の温度変化に対する偏光状態の変動を測定することができる。
【0021】
図5は、楕円偏光した光がZ方向に進行する場合におけるXY面に投影された電場ベクトルの軌跡を略示する図である。図5において、X軸及びY軸は直交する。Z軸は、X軸及びY軸に直交し、紙面に垂直な方向に延びる。カプラ部13を通過した光は楕円偏光して進行する。光がZ軸方向に進行する場合、図5に示すように、XY面に投影された電場ベクトルの軌跡は楕円30になる。なお楕円30の長軸31とX軸とのなす角度、即ち方位角をθとする。楕円30と長軸31との交点及び楕円30と短軸32との交点を結ぶ線分33と、長軸31とのなす角度、即ち楕円率角をηとする。
【0022】
図6は、偏光測定器23によって経時的に測定された方位角θを示すグラフ、図7は、偏光測定器23によって経時的に測定された楕円率角ηを示すグラフである。図6及び図7において、グラフ50は、ショアD硬度90の接着剤3を使用した光ファイバカプラ1に対する測定結果を示す。グラフ51は、ショアD硬度20の接着剤3を使用した光ファイバカプラ1に対する測定結果を示す。グラフ52及び53は、ショアD硬度32の接着剤3を使用した光ファイバカプラ1に対する測定結果を示す。
【0023】
測定開始時点の温度は25℃である。測定開始後、25秒経過した時、加熱/冷却装置20の温度を5℃に変更し、300秒経過した時、加熱/冷却装置20の温度を75℃に変更し、500秒経過した時、加熱/冷却装置20の温度を25℃に変更する。
【0024】
図6及び図7のグラフ50に示すように、ショアD硬度90の接着剤3を使用した場合、温度変更後、方位角θ及び楕円率角ηは大きく変動する。一方、グラフ51~53に示すように、ショアD硬度20又は32の接着剤3を使用した場合、温度変更後でも方位角θ及び楕円率角ηはほとんど変動しない。
【0025】
グラフ51~53における方位角θ及び楕円率角ηの変動幅について説明する。図8は、測定開始時点の値を基準にした方位角θの変動値Δθを示すグラフである。図8のグラフ51に示すように、ショアD硬度20の接着剤3を使用した場合、変動値Δθは、±1度の範囲内に存在する。図8のグラフ52及び53に示すように、変動値Δθは、-2~+3度の範囲内に存在する。
【0026】
図9は、測定開始時点の値を基準にした楕円率角ηの変動値Δηを示すグラフである。図9のグラフ51に示すように、ショアD硬度20の接着剤3を使用した場合、変動値Δηは、-4~2度の範囲内に存在する。図9のグラフ52及び53に示すように、変動値Δηは、±4度の範囲内に存在する。
【0027】
このように、ショアD硬度35以下の接着剤3を使用した場合、方位角θ及び楕円率角ηはほとんど変動しない。即ち、カプラ部13を通過する光における温度変化に対する偏光状態の変動を抑制することができる。
【0028】
また接着剤3の粘度を5000~15000mPa・sに設定することによって、カプラ部13の不要な箇所に接着剤3が付着することを防止し、また溝2a内のカプラ部13に接着剤3を円滑に塗布することができる。そのため、光ファイバカプラ1の製造作業を円滑に実行することができる。
【0029】
また、光ファイバカプラ1の特性として、方位角θ及び楕円率角ηの変動幅の絶対値は10度以下に収まることが望ましく、好ましくは5度以下に収まることが望ましい。上述したように、方位角θの変動幅の絶対値は3度以下に収まっており、楕円率角ηの変動幅の絶対値は4度以下に収まっている。
【0030】
光ファイバカプラ1は、偏光特性の安定性が要求される光干渉計に用いることができ、例えば、OCT(Optical Coherence Tomography)を利用した装置に使用される。一般的に、前記装置には偏波コントローラが設けられている。前記装置を使用する場合、前記装置が設置された環境の温度に応じて、偏波コントローラを操作し、偏光具合を調整する。偏波コントローラが手動で駆動される場合、ユーザの操作が必要であるが、ユーザが操作を失念することがある。従来、温度が大きく変わっているにも拘わらず、ユーザが偏波コントローラを操作せず、偏光具合を調整しなかった場合、光ファイバカプラ1の偏光状態が変わっているので、前記装置の使用に不具合が生じていた。
【0031】
実施の形態に係る光ファイバカプラ1にあっては、温度変化に対する方位角θ及び楕円率角ηの変動幅の絶対値は10度以下に収まるので、一度偏光の調整を行えば、温度変化により偏光が変化して再調整する必要がなく、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0032】
5~75℃の範囲で温度を変化させても、方位角θ及び楕円率角ηの変動幅の絶対値は10度以下に収まる。即ち、通常使用すると想定される環境温度において、偏光状態の変動を抑制することができる。
【0033】
本発明で使用される光ファイバとしては、波長帯が440~2200nmの光をシングルモードで伝送するものが選択され、クラッド径125μm及び被覆径250μmの光ファイバが選択されることが一般的である。実施の形態では、上記光ファイバの一例として、コーニング製のHI780を使用した。
【0034】
今回開示した実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。各実施例にて記載されている技術的特徴は互いに組み合わせることができ、本発明の範囲は、特許請求の範囲内での全ての変更及び特許請求の範囲と均等の範囲が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0035】
1 光ファイバカプラ
2 基板
2a 溝
3 接着剤
11 第1光ファイバ
12 第2光ファイバ
13 カプラ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9