(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084940
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】β-サルコグリカン及びマイクロRNA-29のアデノ随伴ウイルスベクター送達ならびに筋ジストロフィーの治療
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20220531BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220531BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20220531BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220531BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20220531BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220531BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220531BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20220531BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20220531BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
A61K35/76
A61K38/17
A61P21/00
A61K31/7105
A61P43/00 121
C12N15/12 ZNA
C12N15/54
C12N15/113 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022061771
(22)【出願日】2022-04-01
(62)【分割の表示】P 2018554055の分割
【原出願日】2017-04-14
(31)【優先権主張番号】62/433,548
(32)【優先日】2016-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/323,333
(32)【優先日】2016-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】515289842
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート アット ネイションワイド チルドレンズ ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ルイーズ ロディノ-カラパック
(72)【発明者】
【氏名】ジェリー アール. メンデル
(57)【要約】
【課題】β-サルコグリカンを含むポリヌクレオチド配列を含む組換えAAVベクター、及び筋ジストロフィーに罹患している哺乳類の対象における線維症を軽減または予防するために組換えベクターを使用する方法を提供すること。
【解決手段】また、β-サルコグリカン及びmiR-29cを発現するAAVベクター(複数可)を筋ジストロフィーに罹患している哺乳類の対象に投与することを含む併用療法が本明細書に記載される。本明細書には、β-サルコグリカンを発現するAAVベクターのような治療ベクター、ならびに筋ジストロフィーに罹患している対象における線維症を軽減及び予防するためにこれらのベクターを使用する方法が記載される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年4月15日に出願された米国仮出願第62/323,333号及び2016年12月13日に出願された米国仮出願第62/433,548号の優先権を主張するものであり、その両方は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
電子的に提出された資料の参照による組み込み
本出願は、本開示の別個の部分として、参照によりその全体が本明細書に組み込まれ、ファイル名:50622A_Seqlisting.txt、サイズ:21,466バイト、作成:2017年4月13日として認識されるコンピュータ可読形態の配列表を含む。
【0003】
本明細書には、β-サルコグリカンを発現するAAVベクターのような治療ベクター、ならびに筋ジストロフィーに罹患している対象における線維症を軽減及び予防するためにこれらのベクターを使用する方法が記載される。本発明はまた、筋ジストロフィーに罹患している患者における線維症を軽減及び予防するための、β-サルコグリカンを発現する第1のAAVベクター及びmiR-29を発現する第2のAAVベクターの投与を含む、併用遺伝子療法を提供する。
【背景技術】
【0004】
肢帯筋ジストロフィー(LGMD)2E型(LGMD2E)は、β-サルコグリカン(SGCB)をコードする遺伝子の突然変異に起因する常染色体劣性障害であり、機能性タンパク質の喪失を引き起こす。1 LGMD2Eは、米国におけるLGMDの比較的に一般的かつ重度の形態を表し、世界的に1/20万~1/35万の発生率が報告されている。(2)β-サルコグリカンの不在は、すべて筋肉の強度及び機能の悪化をもたらす、慢性的な筋線維の喪失、炎症、脂肪置換、及び線維症を伴う進行性ジストロフィーを引き起こす。(3、4)複合体として、35~50kDのサイズの範囲内である、(5)サルコグリカン(α-、β、γ-、δ-)はすべて、筋活動中の機械的応力からの保護を提供する筋鞘に安定性をもたらす膜貫通タンパク質である。(3)LGMD2Eにおける3-サルコグリカンの喪失は、通常、筋線維の喪失に至る筋膜の脆性に寄与する様々な程度の他のサルコグリカンタンパク質の付随する喪失を引き起こす。1 LGMD2Eの臨床的表現型の範囲は様々であるが、診断は典型的には10歳までに行われ、10代半ばから後半までに歩行の喪失が起こる。1、6、7患者は、上昇した血清クレアチンキナーゼ(CK)、近位筋の衰弱、床からの立ち上がり困難、及び進行性歩行喪失の症状を示す。症例の50%において心臓障害が発生する。
【0005】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、複製欠損パルボウイルスであり、その一本鎖DNAゲノムは、2つの145ヌクレオチド逆方向末端反復(ITR)を含む約4.7kb長である。AAVの複数の血清型が存在する。AAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列が既知である。例えば、AAV-1の完全ゲノムは、GenBank受入番号NC_002077に提供されており、AAV-2の完全ゲノムは、GenBank受入番号NC_001401及びSrivastava et al.,J.Virol.,45:555-564{1983)に提供されており、AAV-3の完全ゲノムは、GenBank受入番号NC_1829に提供されており、AAV-4の完全ゲノムは、GenBank受入番号NC_001829に提供されており、AAV-5ゲノムは、GenBank受入番号AF085716に提供されており、AAV-6の完全ゲノムは、GenBank受入番号NC_001862に提供されており、AAV-7及びAAV-8ゲノムの少なくとも一部分は、それぞれ、GenBank受入番号AX753246及びAX753249に提供されており、AAV-9ゲノムは、Gao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004)に提供されており、AAV-10ゲノムは、Mol.Ther.,13(1):67-76(2006)に提供されており、AAV-11ゲノムは、Virology,330(2):375-383(2004)に提供されている。AAV rh.74ゲノムの配列は、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第9,434,928号に提供されている。ウイルスDNA複製(rep)、カプシド形成/パッケージング、及び宿主細胞染色体組込みを指示するCis作用配列は、AAV ITR内に含有される。3つのAAVプロモーター(それらの相対マップ位置に対してp5、p19、及びp40と名付けられる)は、rep及びcap遺伝子をコードする2つのAAV内部オープンリーディングフレームの発現を駆動する。単一AAVイントロンの差異的スプライシングにより(ヌクレオチド2107及び2227において)連結された2つのrepプロモーター(p5及びp19)は、rep遺伝子からの4つのrepタンパク質(rep78、rep68、rep52、及びrep40)の生成をもたらす。repタンパク質は、最終的にウイルスゲノムの複製に関与する複数の酵素特性を有する。cap遺伝子は、p40プロモーターから発現され、3つのカプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3をコードする。選択的スプライシング及び非コンセンサス翻訳開始部位は、3つの関連カプシドタンパク質の産生に関与する。単一コンセンサスポリアデニル化部位は、AAVゲノムのマップ位置95に位置する。AAVの生活環及び遺伝学は、Muzyczka,Current Topics in Microbiology and Immunology,158:97-129(1992)においてレビューされる。
【0006】
AAVは、例えば、遺伝子療法において、外来DNAを細胞に送達するためのベクターとして魅力的にする固有の特徴を有する。培養中の細胞のAAV感染は、非細胞変性であり、ヒト及び他の動物の自然感染は、サイレントかつ無症候性である。さらに、AAVは、多くの哺乳動物細胞を感染させ、インビボで多くの異なる組織を標的とする可能性を可能にする。さらに、AAVは、緩徐に分裂する細胞及び非分裂細胞を形質導入し、転写的に活性な核エピソーム(染色体外要素)として本質的にそれらの細胞の寿命にわたって存続し得る。AAVプロウイルスゲノムは、組換えゲノムの構築を実現可能にするプラスミド内のクローニングされたDNAとして挿入される。さらに、AAV複製及びゲノムカプシド形成を指示するシグナルが、AAVゲノムのITR内に含有されるため、内部約4.3kbのゲノム(複製及び構造カプシドタンパク質をコードする、rep-cap)の一部または全てが、外来DNAで置換されてもよい。AAVベクターを生成するために、rep及びcapタンパク質は、トランスで提供され得る。AAVの別の重要な特徴は、それが極めて安定した頑健なウイルスであることである。これは、アデノウイルスを不活性化するために使用される条件(56℃~65℃で数時間)に容易に耐え、AAVの低温保存の重要性を低くする。AAVは、凍結乾燥され得る。最後に、AAV感染細胞は、重複感染に耐性を示さない。
【0007】
複数の研究は、筋肉内での長期(1.5年超)の組換えAAV媒介タンパク質発現を実証している。Clark et al.,Hum Gene Ther,8:659-669(1997)、Kessler et al.,Proc Nat.Acad Sc.USA,93:14082-14087(1996)、及びXiao et al.,J Virol,70:8098-8108(1996)を参照されたい。Chao et al.,Mol Ther,2:619-623(2000)及びChao et al.,Mol Ther,4:217-222(2001)も参照されたい。さらに、筋肉が高度に血管新生されるため、組換えAAV形質導入により、Herzog et al.,Proc Natl Acad Sci USA,94:5804-5809(1997)及びMurphy et al.,Proc Natl Acad Sci USA,94:13921-13926(1997)に記載されるように、筋肉内注射後に体循環に導入遺伝子産物の出現がもたらされた。さらに、Lewis et al.,J Virol,76:8769-8775(2002)は、骨格筋線維が、正しい抗体グリコシル化、折り畳み、及び分泌に必要な細胞因子を有することを実証し、筋肉が分泌タンパク質治療薬を安定して発現することができることを示す。
【0008】
LGMD2Eのための療法の新たに出現した形態は、罹患した筋肉への野生型タンパク質を回復するためのウイルス媒介遺伝子送達であり、筋機能の回復をもたらす。患者のサブセットが心筋症を発症する可能性があることを考慮すると(8、9、10、13)、これらの患者の長期ケアにおいて考慮する必要がある。以前の報告では、Sgcbヌルマウスは十分に特徴付けられていた。Araishi et al.3は、サルコスパンだけでなくサルコグリカンすべての喪失を伴い、メロシン、ジストログリカン、及びジストロフィンを少なくともわずかに保存し、LGMD2Eにおいて見られる臨床像を再現する、β-サルコグリカン欠損マウスを開発した。この動物モデルにおける組織学的変化は、顕性の骨格筋線維症を含む、臨床的対応のプロトタイプでもあった。(14)Dressman et al.(25)は、rAAV2.CMV.SGCBを用いて腹横筋を注射した。発現は21ヶ月間持続し、筋線維は再発性壊死から保護された。導入遺伝子発現を増強するための自己相補的AAVの使用、16、骨格筋をより良好に標的化する筋特異的プロモーター(20、26)、及びヒトβ-サルコグリカン遺伝子(hSGCB)の最適化も記載されている。
LGMD及び他の筋ジストロフィーに罹患している患者における機能改善には、遺伝子回復及び線維症の軽減の両方が必要である。LGMD及び他の筋ジストロフィーのより効果的な治療のための遺伝子回復法で修復され得る線維症を軽減する方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第9,434,928号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Srivastava et al.,J.Virol.,45:555-564{1983)
【非特許文献2】Gao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004)
【非特許文献3】Mol.Ther.,13(1):67-76(2006)
【非特許文献4】Virology,330(2):375-383(2004)
【非特許文献5】Muzyczka,Current Topics in Microbiology and Immunology,158:97-129(1992)
【非特許文献6】Clark et al.,Hum Gene Ther,8:659-669(1997)
【非特許文献7】Kessler et al.,Proc Nat.Acad Sc.USA,93:14082-14087(1996)
【非特許文献8】Xiao et al.,J Virol,70:8098-8108(1996)
【非特許文献9】Chao et al.,Mol Ther,2:619-623(2000)
【非特許文献10】Chao et al.,Mol Ther,4:217-222(2001)
【非特許文献11】Herzog et al.,Proc Natl Acad Sci USA,94:5804-5809(1997)
【非特許文献12】Murphy et al.,Proc Natl Acad Sci USA,94:13921-13926(1997)
【非特許文献13】Lewis et al.,J Virol,76:8769-8775(2002)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書には、β-サルコグリカン遺伝子を発現する遺伝子療法ベクター、例えば、AAV、ならびに筋肉にβ-サルコグリカンを送達して、筋ジストロフィーに罹患している哺乳類の対象において線維症を軽減及び/もしくは予防、ならびに/または筋力を増加、ならびに/またはβ-サルコグリカン異常症を治療する方法が記載されている。
さらに、本発明は、LGMD2Eで観察される遺伝子欠損に対処するためのβ-サルコグリカンを送達する遺伝子療法ベクター及び線維症をさらに抑制するためのmiR-29を送達する遺伝子療法ベクターを用いる併用療法及びアプローチを提供する。
【0012】
一態様では、β-サルコグリカンをコードするポリヌクレオチド配列を含む組換えAAVベクターが本明細書に記載される。いくつかの実施形態では、β-サルコグリカンをコードするポリヌクレオチド配列は、配列番号1に記載のヌクレオチド配列と、例えば、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、または89%、より典型的には90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上同一の配列を含み、β-サルコグリカン活性を保持するタンパク質をコードする。いくつかの実施形態では、β-サルコグリカンをコードするポリヌクレオチド配列は、配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、β-サルコグリカンをコードするポリヌクレオチド配列は、配列番号1に記載のヌクレオチド配列からなる。
【0013】
別の太陽では、本明細書に記載の組換えAAVベクターは、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、または89%、より典型的には、少なくとも90%、91%、92%、93%、または94%、さらにより典型的には、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性である、β-サルコグリカンをコードするポリヌクレオチド配列を含み、タンパク質は、β-サルコグリカン活性を保持する。
【0014】
別の態様では、ストリンジェントな条件下で配列番号1の核酸配列にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む機能性β-サルコグリカンをコードするポリヌクレオチド配列、またはその補体を含む、組換えAAVベクターが本明細書に記載される。
【0015】
「ストリンジェントな」という用語は、ストリンジェントとして当該技術分野において一般に理解される条件を指すために使用される。ハイブリダイゼーションストリンジェシーは、主に、温度、イオン強度、及びホルムアミド等の変性剤の濃度によって決定される。ハイブリダイゼーション及び洗浄のためのストリンジェントな条件の例は、0.015Mの塩化ナトリウム、65~68℃の0.0015Mのクエン酸ナトリウムまたは0.015Mの塩化ナトリウム、0.0015Mのクエン酸ナトリウム、及び42℃の50%ホルムアミドである。Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,(Cold Spring Harbor,N.Y.1989)を参照されたい。よりストリンジェントな条件(より高い温度、より低いイオン強度、より高いホルムアミド、または他の変性剤等)も使用され得るが、ハイブリダイゼーションの速度に影響が及ぼされるであろう。デオキシオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションが懸念される例では、追加の例示のストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、37℃(14塩基オリゴ)、48℃(17塩基オリゴ)、55℃(20塩基オリゴ)、及び60℃(23塩基オリゴ)での6×SSC 0.05%ピロリン酸ナトリウム中での洗浄が挙げられる。
【0016】
非特異的及び/またはバックグラウンドハイブリダイゼーションを低減する目的のために、他の薬剤がハイブリダイゼーション及び洗浄緩衝液中に含まれ得る。例には、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%ポリビニル-ピロリドン、0.1%ピロリン酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム、NaDodSO4、(SDS)、フィコール、デンハルト溶液、超音波処理鮭精子DNA(または他の非相補的DNA)、及び硫酸デキストランがあるが、他の好適な薬剤を使用することもできる。これらの添加物の濃度及び種類は、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに実質的に影響を及ぼすことなく変化させることができる。ハイブリダイゼーション実験は、通常、pH6.8~7.4で行われるが、典型的なイオン強度条件では、ハイブリダイゼーションの速度は、pHとほぼ無関係である。Anderson et al.,Nucleic Acid Hybridisation:A Practical Approach,Ch.4,IRL Press Limited(Oxford,England)を参照されたい。ハイブリダイゼーション条件は、これらの可変物を適応し、かつ異なる配列関連性を有するDNAがハイブリッドを形成するのを可能にするために、当業者によって調整され得る。
【0017】
別の態様では、本明細書に記載の組換えAAVベクターは、筋特異的制御要素に作動可能に連結され得る。例えば、筋特異的制御要素は、ヒト骨格アクチン遺伝子要素、心臓アクチン遺伝子要素、筋細胞特異的エンハンサー結合因子MEF、筋クレアチンキナーゼ(MCK)、tMCK(短縮MCK)、ミオシン重鎖(MHC)、MHCK7(MHC及びMCKのハイブリッドバージョン)、C5-12(合成プロモーター)、マウスクレアチンキナーゼエンハンサー要素、骨格速筋トロポニンC遺伝子要素、遅筋心臓トロポニンC遺伝子要素、遅筋トロポニンI遺伝子要素、低酸素誘発性核因子、ステロイド誘発性要素、またはグルココルチコイド応答要素(GRE)である。
【0018】
いくつかの実施形態では、筋特異的プロモーターは、MHCK7(配列番号4)である。本明細書に記載される例示的なrAAVは、配列番号3のヌクレオチド配列を含むpAAV.MHCK7.hSCGBであり、MCHK7プロモーターはヌクレオチド130~921に、SV40キメライントロンはヌクレオチド931~1078に、β-サルコグリカン配列はヌクレオチド1091~2047に、ポリAはヌクレオチド2054~2106に及ぶ。
【0019】
いくつかの実施形態では、筋特異的プロモーターは、tMCK(配列番号6)である。本明細書に記載される例示的なrAAVは、配列番号5のヌクレオチド配列を含むpAAV.tMCK.hSCGBであり、tMCKプロモーターはヌクレオチド141~854に、SV40キメライントロンはヌクレオチド886~1018に、β-サルコグリカン配列はヌクレオチド1058~2014に、ポリAはヌクレオチド2021~2073に及ぶ。
【0020】
AAVは、いずれかの血清型、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5,AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、及びAAVrh.74であり得る。偽型rAAVの生成は、例えば、国際公開第01/83692号に開示される。他のタイプのrAAV変異体、例えば、カプシド変異を有するrAAVも企図される。例えば、Marsic et al.,Molecular Therapy,22(11):1900-1909(2014)を参照されたい。
【0021】
本明細書に記載のrAAVベクターのいずれかを含む組成物もまた企図される。
【0022】
本明細書に記載される任意の組換えAAVベクターでトランスフェクトされた細胞を培養することと、トランスフェクトされた細胞の上清から組換えAAV粒子を回収することとを含む、組換えAAVベクター粒子を産生する方法も提供される。本明細書に記載の組換えAAVベクターのいずれかを含むウイルス粒子組成物もまた企図される
【0023】
それを必要とする哺乳類の対象における線維症を軽減する方法も提供される。この点について、方法は、治療有効量の、本明細書に記載のAAVベクター(または本明細書に記載のAAVベクターを含む組成物)を、哺乳類の対象に投与することを含む。いくつかの実施形態では、哺乳類の対象は、筋ジストロフィーに罹患している。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のAAVベクター(または本明細書に記載のAAVベクターを含む組成物)の投与は、対象の骨格筋または心筋における線維症を軽減する。これらの方法は、miR29Cを含むポリヌクレオチド配列を含む第2の組換えAAVベクターを投与するステップをさらに含むことができる。
【0024】
本明細書で使用される「筋ジストロフィー」という用語は、力及び筋肉量が徐々に低下する障害を指す。筋ジストロフィー疾患の非限定的な例としては、ベッカー型筋ジストロフィー、脛骨筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、エメリー-ドレイフス型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、サルコグリカン異常症、部分的LAMA2欠損による先天性筋ジストロフィーのような先天性筋ジストロフィー、メロシン欠損型先天性筋ジストロフィー、1D型先天性筋ジストロフィー、福山型先天性筋ジストロフィー、肢帯型1A型筋ジストロフィー、肢帯型2A型筋ジストロフィー、肢帯型2B型筋ジストロフィー、肢帯型2C型筋ジストロフィー、肢帯型2D型筋ジストロフィー、肢帯型2E型筋ジストロフィー、肢帯型2F型筋ジストロフィー、肢帯型2G型筋ジストロフィー、肢帯型2H型筋ジストロフィー、肢帯型2I型筋ジストロフィー、肢帯型2I型筋ジストロフィー、肢帯型2J型筋ジストロフィー、肢帯型2K型筋ジストロフィー、肢帯型IC型筋ジストロフィー、単純型表皮水疱症を伴う強直性脊椎型筋ジストロフィー、眼咽頭型筋ジストロフィー、ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー、及びウルリッヒ型スクレロアトニック筋ジストロフィーを挙げることができる。いくつかの実施形態では、対象は、肢帯型筋ジストロフィーに罹患している。いくつかの実施形態では、対象は、肢帯型筋ジストロフィー2E型(LGMD2E)に罹患している。
【0025】
本明細書で使用する「線維症」という用語は、細胞外マトリックス(ECM)成分の過剰または未制御沈着ならびに骨格筋、心筋、肝臓、肺、腎臓、及び膵臓を含む損傷後の組織における異常な修復プロセスを指す。沈着するECM成分には、コラーゲン、例えば、コラーゲン1、コラーゲン2、またはコラーゲン3、及びフィブロネクチンが含まれる。
【0026】
別の態様では、治療有効量の本明細書に記載のAAVベクター(または本明細書に記載のAAVベクターを含む組成物)を哺乳類の対象に投与することを含む、哺乳類の対象における筋力及び/または筋肉量を増加する方法が本明細書に記載される。
【0027】
本発明の方法のいずれにおいても、対象は、肢帯型筋ジストロフィーまたは任意の他のジストロフィン関連筋ジストロフィーのような筋ジストロフィーに罹患している可能性がある。
【0028】
治療有効量の本明細書に記載のAAVベクター(または本明細書に記載のAAVベクターを含む組成物)を哺乳類の対象に投与することを含む、哺乳類の対象における筋ジストロフィーを治療する方法も提供される。いくつかの実施形態では、筋ジストロフィーは、肢帯型筋ジストロフィーである。本明細書に記載の方法のいずれも、miR29Cを含むポリヌクレオチド配列を含む第2の組換えAAVベクターを投与するステップをさらに含むことができる。
【0029】
併用療法も企図される。これに関して、本明細書に記載される前述の方法のいずれかは、miR29Cを含むポリヌクレオチド配列を含む第2の組換えAAVベクターを投与することをさらに含み得る。いくつかの実施形態では、miR29Cを含むポリヌクレオチドは、筋特異的制御要素に作動可能に連結される。例えば、筋特異的制御要素は、ヒト骨格アクチン遺伝子要素、心臓アクチン遺伝子要素、筋細胞特異的エンハンサー結合因子MEF、筋クレアチンキナーゼ(MCK)、tMCK(短縮MCK)、ミオシン重鎖(MHC)、MHCK7(MHC及びMCKのハイブリッドバージョン)、C5-12(合成プロモーター)、マウスクレアチンキナーゼエンハンサー要素、骨格速筋トロポニンC遺伝子要素、遅筋心臓トロポニンC遺伝子要素、遅筋トロポニンI遺伝子要素、低酸素誘発性核因子、ステロイド誘発性要素、またはグルココルチコイド応答要素(GRE)である。いくつかの実施形態では、第2の組換えベクターは、米国仮出願第62/323,163号(その開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されているように、配列番号9または配列番号8に記載のポリヌクレオチド配列を含む。
【0030】
β-サルコグリカンを発現するrAAVベクター及びmiR29cを発現するrAAVベクターの両方が哺乳類の対象に投与される本明細書に記載の併用療法では、rAAVベクターは同時投与してもよく、またはmiR29cを発現するrAAVの直前もしくは直後にβ-サルコグリカンを発現するrAAVベクターを投与して、連続投与してもよい。あるいは、β-サルコグリカンを発現するAAVベクターは、miR-29を発現するrAAVベクターの投与後約1~24時間(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、または24時間)以内に投与され、β-サルコグリカンを発現するAAVベクターがmiR-29を発現するrAAVベクターの投与前約1~24時間(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、または24時間)以内に投与される本発明の方法が実施される。いくつかの実施形態では、β-サルコグリカンを発現するAAVベクターは、miR-29を発現するrAAVの投与後約1~5時間(例えば、1、2、3、4、または5時間)以内に投与され、β-サルコグリカンを発現するAAVベクターがmiR-29cを発現するrAAVの投与前約1~5時間(例えば、1、2、3、4、または5時間)以内に投与される本発明の方法が実施される。
【0031】
本発明の方法のうちのいずれかでは、rAAVは、筋肉内注射または静脈内注射により投与される。加えて、本発明の方法のうちのいずれかでは、rAAVは、注射、注入、または移植による非経口投与など、全身投与される。
【0032】
本発明の組成物は、筋肉内注射または静脈内注射用に製剤化される。加えて、本発明の組成物は、注射、注入、または移植による非経口投与など、全身投与用に製剤化される。
【0033】
さらに、組成物のいずれかは、筋ジストロフィー(例えば、肢帯型筋ジストロフィーまたは任意の他のジストロフィン関連筋ジストロフィー)に罹患している対象への投与のために製剤化される。いくつかの実施形態では、組成物は、配列番号9または配列番号8に記載のポリヌクレオチド配列を含む第2の組換えAAVベクターをさらに含み得る。
【0034】
本発明の使用のうちのいずれかにおいて、薬剤は、筋肉内注射または静脈内注射用に製剤化される。加えて、本発明の使用のうちのいずれかにおいて、薬剤は、注射、注入、または移植による非経口投与など、全身投与用に製剤化される。さらに、薬剤のいずれかは、筋ジストロフィー(例えば、肢帯型筋ジストロフィーまたは任意の他のジストロフィン関連筋ジストロフィー)に罹患している対象への投与のために調製され得る。いくつかの実施形態では、薬剤は、配列番号9または配列番号8に記載のポリヌクレオチド配列を含む第2の組換えAAVベクターをさらに含み得る。
【0035】
前述の段落は、本発明の全ての態様を定義することを意図するものではなく、追加の態様は、詳細な説明のような他のセクションに記載される。文書全体は、統一された開示として関連することが意図されており、特徴の組み合わせがこの文書と同じ文章、または段落、またはセクションで一緒に見られない場合でも、本明細書に記載される特徴のすべての組み合わせが考慮されることを理解されたい。本発明は、追加の態様として、上記の特定の段落で定義される変形よりもいくらか範囲が狭い本発明のすべての実施形態を含む。例えば、本発明の特定の態様が属として記載される場合、属の各メンバーが個々に本発明の態様であると理解されるべきである。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
β-サルコグリカンをコードするポリヌクレオチド配列を含む組換えAAVベクター。(項目2)
β-サルコグリカンをコードする前記ポリヌクレオチド配列が、配列番号1と少なくとも95%同一のヌクレオチド配列を含む、項目1に記載の組換えAAVベクター。
(項目3)
β-サルコグリカンをコードする前記ポリヌクレオチド配列が、配列番号1に記載の前記ヌクレオチド配列を含む、項目1に記載の組換えAAVベクター。
(項目4)
前記ベクターが、血清型AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、またはAAV rh.74である、項目1~3のいずれか一項に記載の組換えAAVベクター。
(項目5)
前記ポリヌクレオチド配列が、筋特異的制御要素に作動可能に連結される、項目1~4のいずれか一項に記載の組換えAAVベクター。
(項目6)
前記筋特異的制御要素が、ヒト骨格アクチン遺伝子要素、心臓アクチン遺伝子要素、筋細胞特異的エンハンサー結合因子mef、筋クレアチンキナーゼ(MCK)、短縮MCK(tMCK)、ミオシン重鎖(MHC)、MHCK7、C5-12、マウスクレアチンキナーゼエンハンサー要素、骨格速筋トロポニンC遺伝子要素、遅筋心臓トロポニンC遺伝子要素、遅筋トロポニンI遺伝子要素、低酸素誘発性核因子、ステロイド誘発性要素、またはグルココルチコイド応答要素(gre)である、項目5に記載の組換えAAVベクター。
(項目7)
前記筋特異的制御要素が、短縮MCK(tMCK)である、項目6に記載の組換えAAVベクター。
(項目8)
前記筋特異的制御要素が、MHCK7である、項目6に記載の組換えAAVベクター。(項目9)
配列番号3に記載の前記ヌクレオチド配列を含む、項目1~8のいずれかに記載の組換えAAVベクター。
(項目10)
配列番号5に記載の前記ヌクレオチド配列を含む、項目1~8のいずれかに記載の組換えAAVベクター。
(項目11)
項目1~10のいずれか一項に記載の前記組換えAAVベクターを含む、組成物。
(項目12)
対象に治療有効量の項目1~10のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターまたは項目11に記載の組成物を投与することを含む、対象における筋ジストロフィーを治療する方法。
(項目13)
対象に治療有効量の項目1~10のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターまたは項目11に記載の組成物を投与することを含む、筋ジストロフィーに罹患している哺乳類の対象における筋力及び/または筋量を増加する方法。
(項目14)
対象に治療有効量の項目1~10のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターまたは項目11に記載の組成物を投与することを含む、筋ジストロフィーに罹患している対象における線維症を軽減する方法。
(項目15)
対象に治療有効量の項目1~10のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターまたは項目11に記載の組成物を投与することを含む、筋ジストロフィーに罹患している対象における収縮誘発性傷害を軽減する方法。
(項目16)
対象に治療有効量の項目1~10のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターまたは項目11に記載の組成物を投与することを含む、対象におけるβ-サルコグリカン異常症を治療する方法。
(項目17)
前記対象が、肢帯筋ジストロフィーに罹患している、項目12~16のいずれか一項に記載の方法。
(項目18)
前記組換えAAVベクターまたは前記組成物が、筋肉内注射または静脈内注射により投与される、項目12~17のいずれか一項に記載の方法。
(項目19)
前記組換えAAVベクターまたは前記組成物が、全身投与される、項目12~17のいずれか一項に記載の方法。
(項目20)
前記組換えAAVベクターまたは前記組成物が、注射、注入、または移植によって非経口投与される、項目19に記載の方法。
(項目21)
miR29Cを含むポリヌクレオチド配列を含む第2の組換えAAVベクターを投与することをさらに含む、項目12~20のいずれか一項に記載の方法。
(項目22)
前記第2の組換えベクターが、配列番号9に記載の前記ヌクレオチド配列または配列番号8に記載の前記ヌクレオチド配列を含む、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記第2の組換えAAVベクターが、筋肉内注射または静脈内注射により投与される、項目21または22に記載の方法。
(項目24)
それを必要とする哺乳類の対象における線維症を軽減するための、項目1~10のいずれか一項に記載の前記組換えAAVベクターを含む、組成物。
(項目25)
前記対象が、筋ジストロフィーに罹患している、項目24に記載の組成物。
(項目26)
それを必要とする哺乳類の対象におけるβ-サルコグリカン異常症を治療するための、項目1~10のいずれか一項に記載の前記組換えAAVベクターを含む、組成物。
(項目27)
前記対象が、筋ジストロフィーに罹患している、項目26に記載の組成物。
(項目28)
筋ジストロフィーに罹患している哺乳類の対象における筋力を増加するための、項目1~10のいずれか一項に記載の前記組換えAAVベクターを含む、組成物。
(項目29)
筋ジストロフィーの治療のための、項目1~10のいずれか一項に記載の前記組換えAAVベクターを含む、組成物。
(項目30)
前記筋ジストロフィーが、肢帯筋ジストロフィーである、項目24~29のいずれか一項に記載の組成物。
(項目31)
miR-29ヌクレオチド配列を含む第2の組換えAAVベクターをさらに含む、項目24~30のいずれか一項に記載の組成物。
(項目32)
前記第2のrAAVが、配列番号9に記載の前記ヌクレオチド配列または配列番号8に記載の前記ヌクレオチド配列を含む、項目31に記載の組成物。
(項目33)
筋肉内注射または静脈内注射用に製剤化される、項目24~32のいずれか一項に記載の組成物。
(項目34)
全身投与用に製剤化される、項目24~34のいずれか一項に記載の組成物。
(項目35)
前記全身投与が、注射、注入、または移植による非経口投与である、項目34に記載の組成物。
(項目36)
それを必要とする哺乳類の対象における線維症を軽減するための薬剤の調製における、項目1~10のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターまたは項目11に記載の組成物の使用。
(項目37)
それを必要とする哺乳類の対象における筋力を増加するための薬剤の調製における、項目1~10のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターまたは項目11に記載の組成物の使用。
(項目38)
前記対象が、筋ジストロフィーに罹患している、項目36または37に記載の使用。
(項目39)
哺乳類の対象における筋ジストロフィーを治療するための薬剤の調製における、項目1~10のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターまたは項目11に記載の組成物の使用。
(項目40)
前記筋ジストロフィーが、肢帯筋ジストロフィーである、項目38または39に記載の使用。
(項目41)
前記薬剤は、前記miR-29ヌクレオチド配列を含む第2の組換えAAVベクターをさらに含む、項目36~40のいずれか一項に記載の使用。
(項目42)
それを必要とする哺乳類の対象における線維症を軽減するための薬剤の調製における、miR29Cを含むポリヌクレオチド配列を含む第2の組換えAAVベクターと組み合わされた項目1~10のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターまたは項目11に記載の組成物の使用。
(項目43)
前記第2の組換えベクターが、配列番号9に記載の前記ヌクレオチド配列または配列番号8に記載の前記ヌクレオチド配列を含む、項目41または42に記載の使用。
(項目44)
それを必要とする哺乳類の対象における筋力を増加するための薬剤の調製における、miR-29cを含むポリヌクレオチド配列を含む第2の組換えAAVベクターと組み合わされた項目1~10のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターまたは項目11に記載の組成物の使用。
(項目45)
前記第2の組換えベクターが、配列番号9に記載の前記ヌクレオチド配列または配列番号8に記載の前記ヌクレオチド配列を含む、項目44に記載の使用。
(項目46)
前記対象が、筋ジストロフィーに罹患している、項目39~45のいずれか一項に記載の使用。
(項目47)
哺乳類の対象における筋ジストロフィーを治療するための薬剤の調製における、miR-29cを含むポリヌクレオチド配列を含む第2の組換えAAVベクターと組み合わされた項目1~10のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターまたは項目11に記載の組成物の使用。
(項目48)
前記第2の組換えベクターが、配列番号9に記載の前記ヌクレオチド配列または配列番号8に記載の前記ヌクレオチド配列を含む、項目47に記載の使用。
(項目49)
前記筋ジストロフィーが、肢帯筋ジストロフィーである、項目47または48に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】AAV媒介β-サルコグリカン発現がジストロフィン関連タンパク質を回復し、膜の完全性を保護することを示す。(a)筋特異的tMCKプロモーターによって駆動されるコドン最適化ヒトβ-サルコグリカン遺伝子(hSGCB)を含む自己相補的AAVベクター。カセットは、安定性のためにプロセシング及びポリアデニル化シグナルを増強するキメライントロンも含む。(b)抗β-SG抗体による免疫蛍光染色は、注射の6週間後及び12週間後の両方の5週齢のマウスにおけるSGCB導入遺伝子の高レベルの筋鞘染色を示す。20倍画像を示す。各TA筋のβ-サルコグリカンを発現する線維の割合は、6週間後に平均88.4±4.2%(n=9、4匹の雄、5匹の雌)及び12週間後に76.5±5.8%(n=6、4匹の雄、2匹の雌)であった。タンパク質発現は、ウエスタンブロットにおいてローディングコントロールについて示されるγ-チューブリンブロットで確認された。(c)β-サルコグリカンのAAV送達は、サルコグリカン複合体の他のメンバー、α-サルコグリカン、ジストロフィンの回復をもたらす。20倍画像。(d)scAAVrh.74.hSGCBはsgcb-/-膜を損傷から保護する。画像はエバンスブルー染料組み込みから保護されているβ-サルコグリカン陽性線維のクラスターに隣接する広範囲のエバンスブルー陽性線維(赤色)を示す。40倍画像を示す。
【
図2】β-SG欠損治療骨格筋の組織学的分析を示す。scAAVrh.74.hSGCB治療は、sgcb
-/-マウスの組織学的パラメータを正常化する。ヘマトキシリン&エオシン染色及びピクロシリウスレッド染色は、正常対照C57/BL6マウス及びscAAVrh.74.hSGCB治療マウスと共にsgcb
-/-マウスからのTA筋に対して行い、続いて組織学的パラメータ及びコラーゲン染色%を定量化した。(a)H&E染色は、β-SG欠損筋における中心核形成線維、炎症細胞、及び大線維直径分布の存在ならびに遺伝子導入後の組織病理の改善を示す。(b)ピクロシリウスレッド染色は、被治療筋肉における赤色コラーゲン染色の減少を示す。(c)治療後の減少を示す中心核形成線維の定量化(P<0.0005、一元配置ANOVA)、ならびに(d)線維サイズ分布及び被治療マウスと比較したC57/BL6対照及びsgcb
-/-マウスからのTA筋の平均線維サイズの増加の提示(P<0.0001、一元配置ANOVA)。(e)sgcb
-/-被治療マウスと比較したC57/BL6対照及びsgcb
-/-マウスからのTA筋中のコラーゲン%の定量化(P<0.0001、一元配置ANOVA)。20倍画像で示される100μmスケールバー。***P<0.001、****P<0.0001。
【
図3】scAAVrh.74.hSGCB筋肉内送達が、強縮力及び収縮誘発性損傷に対する耐性を補正することを示す。IM注射を介して3×10
10vgのscAAVrh.74.hSGCBで治療されたsgcb
-/-マウスのTA筋は、遺伝子導入の6週間後に採取し、強縮力を評価するためのプロトコル及び収縮誘発性損傷に対する耐性を評価するための伸張性収縮プロトコルに供した。(a)AAVrh.74.hSGCB治療TAは、絶対強縮力(P<0.01、対応t検定)及び(b)正規化比力(P<0.05、対応t検定)の両方において有意な改善を示し、これは野生型力(C57/BL6)と変わらなかった。(c)AAVrh.74.hSGCB治療TAは、未治療sgcb
-/-対照と比較して、収縮誘発性損傷に対する耐性の有意な改善を示した(P<0.01、二元配置ANOVA)。10回の収縮後の力の保持を示す。*P<0.05、**P<0.01。
【
図4】scAAVrh.74.tMCK.hSGCBを筋肉内投与した老齢マウスの分析結果を示す。(a)注射の12週間後の6ヶ月齢の被治療sgcb
-/-マウス(n=5、5匹の雄)からのTA筋の免疫蛍光染色は、未治療(n=4、4匹の雄)と比較して注射されたマウスにおける平均80%のレベルでのSGCB導入遺伝子の筋鞘発現を示す。(b)被治療及び未治療TA筋のピクロシリウスレッド染色。(c)ピクロシリウスレッド染色組織に存在するコラーゲンの定量化は、rAAVrh.74.tMCK.hSGCBでの治療後のコラーゲン量の有意な減少を示す(P<0.0001、一元配置ANOVA)。20倍画像で示される100μmスケールバー。****P<0.0001。
【
図5】scAAVrh.74.hSGCBの血管送達の結果を示す。4週齢(n=5、5匹の雄)及び5週齢(n=4、2匹の雄、2匹の雌)のβ-SG欠損マウスに、大腿動脈を介してベクターを投与し、下肢筋にベクターを送達した。5×10
11vgの用量では、β-SG発現は、被治療マウスのTAにおいて90.6±2.8%、GASにおいて91.8±4.7%であり、損傷パラダイム後も未治療の動物と比較して比力の有意な改善をもたらす組織病理の改善を伴った。(a)3匹の代表マウスからのβ-SGタンパク質発現。β-SG KO未治療マウスからの筋肉を、挿入図(右下)に比較のために示す。20倍画像を示す。ウエスタンブロット及びγ-チューブリンを介して確認された被治療筋肉における発現を、ローディングコントロールとして示す。(b)高用量治療後に組織病理が有意に改善される。上パネル-被治療TA及び腓腹筋。下パネル-未治療β-SG欠損対照筋肉。20倍画像で示される100μmスケールバー。(c)伸張性収縮誘発性損傷の10サイクル後にEDL筋に保持された比力の割合。5×10
11vgのAAVrh.74.hSGCBでの治療は、WT(正常)対照筋肉に相当する力の有意な改善をもたらした(P<0.05、一元配置ANOVA)。*P<0.05。
【
図6】ILP治療β-SG KOマウスにおける線維症の軽減を示す。(a)ピクロシリウスレッド染色は、未治療sgcb
-/-マウスと比較したコラーゲン沈着の減少によって示される、被治療マウスにおける線維症の軽減を示す。(b)BL6 WT、未治療sgcb
-/-マウス、及び被治療マウスからのTA及びGAS筋におけるコラーゲンレベルの定量化は、被治療マウスにおけるコラーゲンレベルの減少を確認する(P<0.001、一元配置ANOVA)。20倍画像で示される100μmスケールバー。***P<0.001。
【
図7】ベクター生体分布及びタンパク質発現を示す。(a)qPCRに添加されたDNAマイクログラム当たりの転写物のコピーで与えられるILP治療マウスから採取された組織におけるベクターの平均分布のヒストグラム。左肢を治療した。(b)オフターゲット器官にウエスタンブロットによるタンパク質発現は見られなかった。
【
図8A】7ヶ月齢のsgcb
-/-マウスにおける組織学的及び機能的欠損を提供する。SGCB
-/-マウスの横隔膜(A)及び心臓(C)におけるトリクローム染色は、広範な線維症(赤色)を示す。横隔膜からの力出力は横隔膜において著しく減少し(B)、心駆出率もsgcb
-/-マウスにおいて減少する(D)。
【
図8B】7ヶ月齢のsgcb
-/-マウスにおける組織学的及び機能的欠損を提供する。SGCB
-/-マウスの横隔膜(A)及び心臓(C)におけるトリクローム染色は、広範な線維症(赤色)を示す。横隔膜からの力出力は横隔膜において著しく減少し(B)、心駆出率もsgcb
-/-マウスにおいて減少する(D)。
【
図8C】7ヶ月齢のsgcb
-/-マウスにおける組織学的及び機能的欠損を提供する。SGCB
-/-マウスの横隔膜(A)及び心臓(C)におけるトリクローム染色は、広範な線維症(赤色)を示す。横隔膜からの力出力は横隔膜において著しく減少し(B)、心駆出率もsgcb
-/-マウスにおいて減少する(D)。
【
図8D】7ヶ月齢のsgcb
-/-マウスにおける組織学的及び機能的欠損を提供する。SGCB
-/-マウスの横隔膜(A)及び心臓(C)におけるトリクローム染色は、広範な線維症(赤色)を示す。横隔膜からの力出力は横隔膜において著しく減少し(B)、心駆出率もsgcb
-/-マウスにおいて減少する(D)。
【
図9】治療用β-サルコグリカン導入遺伝子カセットの概略図を提供する。コドン最適化ヒトβ-サルコグリカン遺伝子(hSGCB)を含む自己相補的AAVベクター。筋特異的MHCK7プロモーターが発現を駆動する。カセットはまた、安定性のためにプロセシング及びポリアデニル化シグナルを増強するキメライントロンを含む。
【
図10】様々な骨格筋におけるβ-サルコグリカンの免疫蛍光染色を提供し、治療の1、4、または6ヶ月後(1ヶ月後を図示する)の稀な陰性線維でのロバストな発現を示す。
【
図11】横隔膜及び心臓におけるβ-サルコグリカンの免疫蛍光染色を提供し、治療の1、4、または6ヶ月後(1ヶ月後を図示する)の稀な陰性線維でのロバストな発現を示す。
【
図12A】scAAVrh.74.MHCK7.hSGCBの静脈内送達後のSGCB発現の回復を示す。(A)scAAVrh.74.MHCK7.hSGCBカセット。(b)総用量1e12vgのscAAVrh.74.MHCK7.hSGCBを静脈内注射したsgcb
-/-マウスからの骨格筋、横隔膜、及び心臓の注射の6ヶ月後の免疫蛍光イメージング。平均98.13±0.31%の形質導入を示す骨格筋の代表的な画像。20倍画像を示す。高レベルのhSGCB導入遺伝子発現を示す心臓組織の代表的な画像。10倍画像を示す。(c)hSGCB導入遺伝子発現を確認する1匹の被治療sgcb
-/-マウスからのすべての筋肉のウエスタンブロッティング。(d)BL6 WTレベルの72.0%までのhSGCBの過剰発現を示すデンシトメトリー定量化での5匹のsgcb
-/-被治療マウスの心臓におけるhSGCB発現のウエスタンブロッティング。
【
図13A】筋病理に対するscAAVrh74.MHCK7.hSGCBでの全身治療の効果を示す。(a)正常化した組織病理を示すC57BL/6 WT、sgcb
-/-、及びscAAVrh.74.MHCK7.hSGCB治療マウスからの横隔膜及びQUAD筋のH&E染色。(b)未治療sgcb
-/-筋肉と比較してsgcb
-/-被治療筋肉における中心核形成線維の減少の定量化(TA、GAS、GLUT、横隔膜、P<0.0001)(QUAD、PSOAS、TRI、P<0.05)。(c)GAS、PSOAS、及びTRIにおける繊維分布の正常化、ならびに(d)未治療sgcb-/-筋肉と比較した被治療筋肉における平均線維サイズの増加(p<0.001)(一元配置ANOVA)(各群n=5)。
【
図14A】静脈内治療β-SG KOマウスにおけるコラーゲン沈着の減少を示す。(a)ピクロシリウスレッド染色は、横隔膜及びGASにおいて未治療sgcb
-/-マウスと比較したコラーゲン沈着の減少によって示される、被治療マウスにおける線維症の軽減を示した。(b)C57BL/6 WTマウス(n=4)、未治療sgcb
-/-マウス(n=4)、及び被治療sgcb
-/-マウス(n=5)からの横隔膜及びGAS筋におけるコラーゲンレベルの定量化は、両方の被治療筋肉におけるコラーゲンレベルの減少を確認する(p<0.001、一元配置ANOVA)。20倍画像で示される100μmスケールバー。
【
図14B】静脈内治療β-SG KOマウスにおけるコラーゲン沈着の減少を示す。(a)ピクロシリウスレッド染色は、横隔膜及びGASにおいて未治療sgcb
-/-マウスと比較したコラーゲン沈着の減少によって示される、被治療マウスにおける線維症の軽減を示した。(b)C57BL/6 WTマウス(n=4)、未治療sgcb
-/-マウス(n=4)、及び被治療sgcb
-/-マウス(n=5)からの横隔膜及びGAS筋におけるコラーゲンレベルの定量化は、両方の被治療筋肉におけるコラーゲンレベルの減少を確認する(p<0.001、一元配置ANOVA)。20倍画像で示される100μmスケールバー。
【
図15】sgcb
-/-マウスの尾静脈を介したscAAVrh.74.MHCK7.hSGCBの送達が、治療(IV投与(1e12vg))の6ヶ月後、横隔膜における力を完全に回復させることを示す。被治療及び対照SGCB
-/-マウスならびにWTマウスから横隔膜筋条片を採取して力測定に供し、治療は力をWTレベルに回復させた。
【
図16】rAAVベクターscAACrh.74.CMV.miR29c及び天然miR-30骨格中のmiR-29cのヌクレオチド配列の概略図を提供する。
【
図17】AAVrh.74.CMV.miR29Cでの3ヶ月間の治療後、被治療及び対照SGCB
-/-マウスならびにWTマウスからTA筋を採取し、線維症(コラーゲンレベル)について分析したことを示す(各群n=5)。シリウスレッド染色及び定量化を用いて、コラーゲンレベルは治療後に減少した(
図18参照)。結果は、Col1A、Col3A、及びFbnの転写物レベルが正常化し、筋線維サイズが増加したことを示した。
【
図18】コラーゲン1及び3について染色するシリウスレッドで染色された未治療及びAAVrh.74.CMV.miR29C治療前脛骨筋の走査された全切片の代表的な画像を提供する。定量化を
図17に示す
【
図19A】胸椎における後弯症の補正を示す。(a)X線撮影法によって確認されたsgcb
-/-マウスにおける後弯症。(b)sgcb
-/-マウス(3.69)の後弯指数(KI)スコアは、C57BL/6 WT(6.01)と比較して低いが(p<0.01)、scAAVrh.74.MHCK7.hSGCBでの治療後増加する(5.39)(sgcb
-/-と比較してp<0.05)(一元配置ANOVA)(各群n=6)。
【
図19B】胸椎における後弯症の補正を示す。(a)X線撮影法によって確認されたsgcb
-/-マウスにおける後弯症。(b)sgcb
-/-マウス(3.69)の後弯指数(KI)スコアは、C57BL/6 WT(6.01)と比較して低いが(p<0.01)、scAAVrh.74.MHCK7.hSGCBでの治療後増加する(5.39)(sgcb
-/-と比較してp<0.05)(一元配置ANOVA)(各群n=6)。
【
図20A】心筋における心筋症の評価を提供する。(a)未治療sgcb
-/-筋肉における心筋変性及び治療後の改善を示す、7ヶ月齢のBL6 WT、sgcb
-/-、及び治療の6ヶ月後のAAV.MHCK7.hSGCB治療sgcb
-/-心臓のH&E及びピクロシリウスレッド染色。(b)sgcb
-/-心臓における1回拍出量(p<0.01)、心拍出量、及び駆出率(p<0.05)の減少(一元配置ANOVA)ならびに治療の6ヶ月後の改善(各群n=6)を示す心臓MRI分析。(c)罹患マウスにおける心筋トロポニンIレベルの低下を示す、2つのC57BL/6 WT心臓、2つのsgcb
-/-心臓、及び5つのAAV.MHCK7.hSGCB治療sgcb
-/-心臓のウエスタンブロッティング。(d)BL6 WTレベルの60.38%までの心筋トロポニンI(cTrpI)の減少及びBL6 WTレベルの135.8%までの過剰発現を示すデンシトメトリー定量化。
【
図21A】横隔膜機能の補正を示し、オープンフィールドケージ活動が増加した。(a)横隔膜筋条片を採取し、すべて7ヶ月齢のBL6 WTマウス(n=5)、sgcb
-/-マウス(n=4)、及びAAV.MHCK7.hSGCB治療sgcb
-/-マウス(n=5)における力及び疲労に対する耐性を測定した。6ヶ月間の治療により、力がWTレベルに回復し(sgcb
-/-と比較してp<0.01)、疲労に対する耐性が改善した。(b)x及びy平面における全体的な歩行は、sgcb
-/-マウスにおいて有意に減少し(p<0.0001)、MCHK7治療マウスにおいてわずかに改善した(p<0.05)。後肢で立ち上がる垂直活動もまた、sgcb
-/-マウスにおいて減少し(p<0.01)、MCHK7治療マウスにおいて有意に増加した(p<0.05)(一元配置ANOVA)(各群n=6)。
【
図21B】横隔膜機能の補正を示し、オープンフィールドケージ活動が増加した。(a)横隔膜筋条片を採取し、すべて7ヶ月齢のBL6 WTマウス(n=5)、sgcb
-/-マウス(n=4)、及びAAV.MHCK7.hSGCB治療sgcb
-/-マウス(n=5)における力及び疲労に対する耐性を測定した。6ヶ月間の治療により、力がWTレベルに回復し(sgcb
-/-と比較してp<0.01)、疲労に対する耐性が改善した。(b)x及びy平面における全体的な歩行は、sgcb
-/-マウスにおいて有意に減少し(p<0.0001)、MCHK7治療マウスにおいてわずかに改善した(p<0.05)。後肢で立ち上がる垂直活動もまた、sgcb
-/-マウスにおいて減少し(p<0.01)、MCHK7治療マウスにおいて有意に増加した(p<0.05)(一元配置ANOVA)(各群n=6)。
【
図22A】全身scAAVrh.74.MHCK7.hSGCB送達の生体分布及びオフターゲット導入遺伝子発現分析を提供する。(a)総用量1e12vgでのscAAVrh.74.MHCK7.hSGCBのIV送達後の2匹のsgcb
-/-マウスからの様々な組織におけるqPCR反応に添加されたDNAマイクログラム当たりの転写物の平均コピーvgの分布ヒストグラム。(b)いずれの非筋肉試料にもhSGCB導入遺伝子の発現がないことを示す、scAAVrh.74.MHCK7.hSGCBを全身注射したsgcb
-/-マウスからの筋肉及び器官についての生体分布ウエスタン。
【
図22B】全身scAAVrh.74.MHCK7.hSGCB送達の生体分布及びオフターゲット導入遺伝子発現分析を提供する。(a)総用量1e12vgでのscAAVrh.74.MHCK7.hSGCBのIV送達後の2匹のsgcb
-/-マウスからの様々な組織におけるqPCR反応に添加されたDNAマイクログラム当たりの転写物の平均コピーvgの分布ヒストグラム。(b)いずれの非筋肉試料にもhSGCB導入遺伝子の発現がないことを示す、scAAVrh.74.MHCK7.hSGCBを全身注射したsgcb
-/-マウスからの筋肉及び器官についての生体分布ウエスタン。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本開示は、β-サルコグリカンを発現するポリヌクレオチドを含むAAVベクターの投与が、肢帯型筋ジストロフィー動物モデルにおける筋線維症の軽減または完全な回復をもたらすという発見に基づいている。実施例に示されているように、本明細書に記載のAAVベクターの投与は、変性線維の減少、炎症の軽減、及び増大した力発生による伸張性収縮に対する保護による機能回復の改善を含む、ジストロフィー特徴の回復をもたらした。
【0038】
本明細書で使用される場合、「AAV」という用語は、アデノ随伴ウイルスの一般的な略語である。アデノ随伴ウイルスは、ある特定の機能が同時感染ヘルパーウイルスによって提供される細胞内でのみ成長する一本鎖DNAパルボウイルスである。現在、特徴付けられているAAVの血清型が13存在する。AAVの一般的な情報及び概説は、例えば、Carter,1989,Handbook of Parvoviruses,Vol.1,pp.169-228、及びBerns,1990,Virology,pp.1743-1764,Raven Press,(New York)で見つけることができる。しかしながら、様々な血清型が遺伝子レベルでさえも構造的及び機能的の両方で非常に密接に関連していることがよく知られているため、これらの同じ原理が追加のAAV血清型に適用可能であることが十分に予想される。(例えば、Blacklowe,1988,pp.165-174 of Parvoviruses and Human Disease,J.R.Pattison,ed.、及びRose,Comprehensive Virology 3:1-61(1974)を参照のこと)。例えば、全てのAAV血清型は、相同rep遺伝子によって媒介される非常に類似した複製特性を明らかに呈し、これらは全て、AAV2で発現されたもの等の3つの関連カプシドタンパク質を有する。関連性の程度は、ゲノムの長さに沿った遺伝子型間の広範な交差ハイブリダイゼーション、及び「逆方向末端反復配列」(ITR)に対応する末端における類似の自己アニーリングセグメントの存在を明らかにするヘテロ二本鎖分析によってさらに示唆される。類似の感染性パターンは、各血清型における複製機能が類似の調節制御下にあることも示唆する。
【0039】
本明細書で使用される「AAVベクター」とは、AAV末端反復配列(ITR)に隣接している1つ以上の目的とするポリヌクレオチド(またはトランス遺伝子)を指す。かかるAAVベクターは、rep及びcap遺伝子産物をコード及び発現するベクターでトランスフェクトされた宿主細胞中に存在する場合に、感染ウイルス粒子に複製及びパッケージングされ得る。
【0040】
「AAVビリオン」または「AAVウイルス粒子」または「AAVベクター粒子」とは、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質及びカプシド形成されたポリヌクレオチドAAVベクターから成るウイルス粒子を指す。粒子が異種ポリヌクレオチド(すなわち、哺乳類細胞に送達されるトランス遺伝子等の野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド)を含む場合、それは、典型的には、「AAVベクター粒子」または単に「AAVベクター」と称される。したがって、かかるベクターがAAVベクター粒子内に含有されるため、AAVベクター粒子の産生には、必然的にAAVベクターの産生が含まれる。
【0041】
AAV
本発明の組換えAAVゲノムは、本発明の核酸分子及び核酸分子に隣接する1つ以上のAAV ITRを含む。rAAVゲノム内のAAV DNAは、組換えウイルスが由来し得る任意のAAV血清型からであり得、AAV血清型 AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、及びAAV rh.74が挙げられるが、これらに限定されない。偽型rAAVの生成は、例えば、国際公開第01/83692号に開示される。他のタイプのrAAV変異体、例えば、カプシド変異を有するrAAVも企図される。例えば、Marsic et al.,Molecular Therapy,22(11):1900-1909(2014)を参照されたい。上記の背景部分に記載されるように、様々なAAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列が、当該技術分野において既知である。骨格筋特異的発現を促進するために、AAV1、AAV5、AAV6、AAV8、またはAAV9を使用することができる。
【0042】
本発明のDNAプラスミドは、rAAVゲノムを含む。DNAプラスミドは、rAAVゲノムの感染性ウイルス粒子への組込みのために、AAVのヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、E1欠失アデノウイルス、またはヘルペスウイルス)の感染に許容される細胞に導入される。AAVゲノムがパッケージングされるrAAV粒子、rep及びcap遺伝子、ならびにヘルパーウイルス機能が細胞に提供されるrAAV粒子を産生する技法は、当該技術分野において標準である。rAAVの産生は、以下の成分、rAAVゲノム、rAAVゲノムから分離した(すなわち、その中に存在しない)AAV rep及びcap遺伝子、ならびにヘルパーウイルス機能が、単一細胞(本明細書でパッケージング細胞と表される)内に存在することを必要とする。AAV rep及びcap遺伝子は、組換えウイルスが由来し得る任意のAAV血清型であり得、rAAVゲノムITRとは異なるAAV血清型からであり得、AAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、及びAAV rh.74が挙げられるが、これらに限定されない。偽型rAAVの生成は、例えば、国際公開第01/83692号に開示され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0043】
パッケージング細胞を生成する方法は、AAV粒子の産生に必要な成分を全て安定して発現する細胞株を作製することである。例えば、AAV rep及びcap遺伝子を欠くrAAVゲノム、rAAVゲノムから分離したAAV rep及びcap遺伝子、及びネオマイシン耐性遺伝子等の選択可能なマーカーを含むプラスミド(または複数のプラスミド)が、細胞のゲノムに組み込まれる。AAVゲノムは、GCテーリング(Samulski et al.,1982,Proc.Natl.Acad.S6.USA,79:2077-2081)、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含む合成リンカーの付加(Laughlin et al.,1983,Gene,23:65-73)、または直接平滑末端ライゲーション(Senapathy&Carter,1984,J.Biol.Chem.,259:4661-4666)等の手法によって細菌プラスミドに導入されている。その後、パッケージング細胞株は、アデノウイルス等のヘルパーウイルスに感染させられる。この方法の利点は、細胞が選択可能であり、rAAVの大規模産生に好適であることである。好適な方法の他の例は、rAAVゲノムならびに/またはrep及びcap遺伝子をパッケージング細胞に導入するためにプラスミドではなくアデノウイルスまたはバキュロウイルスを用いる。
【0044】
rAAV産生の一般的原理は、例えば、Carter,1992,Current Opinions in Biotechnology,1533-539、及びMuzyczka,1992,Curr.Topics in Microbial.and Immunol.,158:97-129)に概説されている。様々なアプローチが、Ratschin et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072(1984)、Hermonat et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6466(1984)、Tratschin et al.,Mo1.Cell.Biol.5:3251(1985)、McLaughlin et al.,J.Virol.,62:1963(1988)、及びLebkowski et al.,1988 Mol.Cell.Biol.,7:349(1988)に記載されている。Samulski et al.(1989,J.Virol.,63:3822-3828)、米国特許第5,173,414号、WO95/13365及び対応する米国特許第5,658.776号、WO95/13392、WO96/17947、PCT/US98/18600、WO97/09441(PCT/US96/14423)、WO97/08298(PCT/US96/13872)、WO97/21825(PCT/US96/20777)、WO97/06243(PCT/FR96/01064)、WO99/11764、Perrin et al.(1995)Vaccine 13:1244-1250、Paul et al.(1993)Human Gene Therapy 4:609-615、Clark et al.(1996)Gene Therapy 3:1124-1132、米国特許第5,786,211号、米国特許第5,871,982号、及び米国特許第6,258,595号に記載されている。前述の文書は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれ、rAAV産生に関する文書の部分を特に強調する。
【0045】
したがって、本発明は、感染性rAAVを産生するパッケージング細胞を提供する。一実施形態では、パッケージング細胞は、HeLa細胞、293細胞、及びPerC.6細胞(同種293株)等の安定して形質転換された癌細胞であり得る。別の実施形態において、パッケージング細胞は、形質転換された癌細胞ではない細胞、例えば、低通路293細胞(アデノウイルスのE1で形質転換されたヒト胎児腎細胞)、MRC-5細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、WI-38細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、Vero細胞(サル腎細胞)、及びFRhL-2細胞(アカゲザル胎児肺細胞)である。
【0046】
本発明の組換えAAV(すなわち、感染性カプシド化rAAV粒子)は、rAAVゲノムを含む。実施形態としては、これらに限定されないが、配列番号3に記載のポリヌクレオチド配列を含むpAAV.MHCK7.hSCGB、及び配列番号5に記載のポリヌクレオチド配列を含むpAAV.tMCK.hSCGBと呼ばれるrAAVが挙げられる。
【0047】
rAAVは、当該技術分野で標準の方法によって、例えば、カラムクロマトグラフィーまたは塩化セシウム勾配によって精製され得る。rAAVベクターをヘルパーウイルスから精製するための方法は、当該技術分野で既知であり、例えば、Clark et al.,Hum.Gene Ther.,10(6):1031-1039(1999)、Schenpp and Clark,Methods Mol.Med.,69 427-443(2002)、米国特許第6,566,118号、及びWO98/09657に開示されている方法が含まれる。
【0048】
別の実施形態では、本発明は、本発明のrAAVを含む組成物を企図する。本明細書に記載の組成物は、薬学的に許容される担体中にrAAVを含む。本組成物は、希釈剤及びアジュバント等の他の成分も含み得る。許容される担体、希釈剤、及びアジュバントは、レシピエントに非毒性であり、好ましくは、用いられる投薬量及び濃度で不活性であり、リン酸、クエン酸、もしくは他の有機酸等の緩衝剤;アスコルビン酸等の抗酸化剤;低分子量ポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、もしくはリシン等のアミノ酸;グルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む、単糖、二糖、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトールもしくはソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;ならびに/またはTween、プルロニクス、もしくはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤が含まれる。
【0049】
本発明の方法で投与されるrAAVの力価は、例えば、特定のrAAV、投与モード、治療目標、標的される個体、及び細胞型(複数可)に応じて異なり、当該技術分野における標準の方法によって決定され得る。rAAVの力価は、1mL当たり約1×106、約1×107、約1×108、約1×109、約1×1010、約1×1011、約1×1012、約1×1013~約1×1014以上のDNase耐性粒子(DRP)の範囲であり得る。投薬量は、ウイルスゲノム(vg)の単位で表されてもよい。
【0050】
インビボまたはインビトロでのrAAVで標的細胞を形質導入する方法が、本発明によって企図される。インビボ方法は、本発明のrAAVを含む組成物の有効用量または有効複数回用量を、それを必要とする動物(ヒトを含む)に投与するステップを含む。用量が障害/疾患の発症前に投与される場合、投与は予防的である。用量が障害/疾患の発症後に投与される場合、投与は治療的である。本発明の実施形態において、「有効用量」は、治療される障害/疾患状態と関連付けられる少なくとも1つの症状を軽減する(排除または低減する)、障害/疾患状態への進行を遅らせるか、もしくは予防する、障害/疾患状態の進行を遅らせるか、もしくは予防する、疾患の程度を縮小させる、疾患の緩解(部分的または完全)をもたらす、及び/または生存を延長する、用量である。本発明の方法による予防または治療のために企図される疾患の例は、筋ジストロフィー、例えば肢帯型筋ジストロフィーである
【0051】
併用療法も本発明によって企図される。本明細書で使用される併用療法は、同時治療または連続治療を含む。新規の療法との併用等の本発明の方法と標準の医療処置(例えば、コルチコステロイド)との併用が特に企図される。
【0052】
rAAVベクターの治療有効量は、約1e13vg/kg~約5e14vg/kg、または約1e13vg/kg~約2e13vg/kg、または約1e13vg/kg~約3e13vg/kg、または約1e13vg/kg~約4e13vg/kg、または約1e13vg/kg~約5e13vg/kg、または約1e13vg/kg~約6e13vg/kg、または約1e13vg/kg~約7e13vg/kg、または約1e13vg/kg~約8e13vg/kg、または約1e13vg/kg~約9e13vg/kg、または約1e13vg/kg~約1e14vg/kg、または約1e13vg/kg~約2e14vg/kg、または1e13vg/kg~約3e14vg/kg、または約1e13~約4e14vg/kg、または約3e13vg/kg~約4e13vg/kg、または約3e13vg/kg~約5e13vg/kg、または約3e13vg/kg~約6e13vg/kg、または約3e13vg/kg~約7e13vg/kg、または約3e13vg/kg~約8e13vg/kg、または約3e13vg/kg~約9e13vg/kg、または約3e13vg/kg~約1e14vg/kg、または約3e13vg/kg~約2e14vg/kg、または3e13vg/kg~約3e14vg/kg、または約3e13~約4e14vg/kg、または約3e13vg/kg~約5e14vg/kg、または約5e13vg/kg~約6e13vg/kg、または約5e13vg/kg~約7e13vg/kg、または約5e13vg/kg~約8e13vg/kg、または約5e13vg/kg~約9e13vg/kg、または約5e13vg/kg~約1e14vg/kg、または約5e13vg/kg~約2e14vg/kg、または5e13vg/kg~約3e14vg/kg、または約5e13~約4e14vg/kg、または約5e13vg/kg~約5e14vg/kg、または約1e14vg/kg~約2e14vg/kg、または1e14vg/kg~約3e14vg/kgまたは約1e14~約4e14vg/kg、または約1e14vg/kg~約5e14vg/kgの範囲のrAAVの用量である。本発明はまた、これらの範囲のrAAVベクターを含む組成物も含む。
【0053】
例えば、rAAVベクターの治療有効量は、1e13vg/kg、約2e13vg/kg、約3e13vg/kg、約4e13vg/kg、約5e13vg/kg、約6e13vg/kg、約7e13vg/kg、約8e13vg/kg、約9e13vg/kg、約1e14vg/kg、約2e14vg/kg、約3e14vg/kg、約4e14vg/kg、及び5e14vg/kgの用量である。本発明はまた、これらの用量のrAAVベクターを含む組成物も含む。
【0054】
本組成物の有効用量の投与は、筋肉内、非経口、静脈内、経口、口腔、鼻腔、肺、頭蓋内、骨内、眼内、直腸、または膣内を含むが、これらに限定されない当該技術分野で標準の経路により得る。本発明のrAAVのAAV成分(具体的には、AAV ITR及びカプシドタンパク質)の投与経路(複数可)及び血清型(複数可)は、治療される感染症及び/または疾患状態、ならびにβ-サルコグリカンを発現する標的細胞/組織(複数可)を考慮して、当業者によって選択及び/または適合され得る。
【0055】
本発明は、有効量のrAAV及び本発明の組成物の局所投与及び全身投与を提供する。例えば、全身投与は、体全体が影響を受けるように循環系への投与である。全身投与には、胃腸管を通した吸収のような経腸投与及び注射、注入、または移植による非経口投与が含まれる。
【0056】
具体的には、本発明のrAAVの実際の投与は、rAAV組換えベクターを動物の標的組織に輸送する任意の物理的方法を使用することによって達成され得る。本発明による投与としては、筋肉内への注入、血流への注入、及び/または肝臓への直接注入が挙げられるが、これらに限定されない。リン酸緩衝生理食塩水中にrAAVを単に再懸濁させることが、筋組織発現に有用なビヒクルを提供するのに十分であることが実証されており、rAAVと同時投与され得る担体または他の成分に対する既知の制限はない(が、DNAを分解する組成物がrAAVとの通常の方法で避けられるべきである)。rAAVのカプシドタンパク質は、rAAVが筋肉等の目的とする特定の標的組織を標的とするように修飾され得る。例えば、開示が参照により本明細書に組み込まれる、WO02/053703を参照されたい。薬学的組成物は、注射可能な製剤として、または経皮輸送によって筋肉に送達される局所製剤として調製され得る。筋肉内注射及び経皮輸送の両方のための多数の製剤が以前に開発されており、本発明を実施する際に使用され得る。rAAVは、投与及び取扱い易くするために、任意の薬学的に許容される担体とともに使用され得る。
【0057】
筋肉内注射の目的のために、例えば、ゴマ油もしくはピーナッツ油等のアジュバント中の溶液、または水性プロピレングリコール中の溶液、ならびに滅菌水溶液が用いられ得る。かかる水溶液は、所望の場合、緩衝され、液体希釈剤は、最初に生理食塩水またはグルコースで等張性にする。遊離酸としてのrAAV溶液(DNAが酸性リン酸基を含有する)または薬理学的に許容される塩は、ヒドロキシプロピルセルロース等の界面活性剤と好適に混合された水中で調製され得る。rAAV分散剤は、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びそれらの混合物中、ならびに油中でも調製され得る。通常の保管及び使用条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を阻止するために防腐剤を含有する。これに関連して、用いられる滅菌水性媒体は全て、当業者に周知の標準の技法によって容易に得ることが可能である。
【0058】
注射可能な使用に好適な薬学的形態としては、滅菌水溶液または分散剤、及び注射可能な滅菌溶液または分散剤の即時調製のための滅菌粉末が挙げられる。あらゆる場合において、この形態は、滅菌でなければならず、容易なシリンジ注射可能性(syringability)が存在する程度に流動性でなければならない。これは、製造及び保管条件下で安定していなければならず、細菌及び真菌等の微生物の混入作用に対して保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)、それらの好適な混合物、及び植物油を含有する溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティングの使用によって、分散の場合には必要な粒径の維持によって、かつ界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の作用の保護は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等の様々な抗細菌剤及び抗真菌剤によってもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射可能な組成物の長期吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの使用によってもたらされ得る。
【0059】
注射可能な滅菌溶液は、必要に応じて、必要量のrAAVを、上に列挙される様々な他の成分を有する適切な溶媒に組み込み、その後、濾過滅菌することによって調製される。一般に、分散剤は、滅菌活性成分を、塩基性分散媒体及び上に列挙されるものからの必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。注射可能な滅菌溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、活性成分に加えて、その以前に滅菌濾過された溶液からの任意の追加の所望の成分の粉末を産生する、真空乾燥及びフリーズドライ技法である。
【0060】
rAAVでの形質導入もインビトロで行われ得る。一実施形態では、所望の標的筋細胞は、対象から除去され、rAAVで形質導入され、対象に再導入される。あるいは、同系または異種筋細胞が対象において不適切な免疫応答を生成しない場合、同系または異種筋細胞が使用され得る。
【0061】
対象への形質導入細胞の形質導入及び再導入のための好適な方法は、当該技術分野で既知である。一実施形態では、細胞は、例えば適切な培地中でrAAVを筋細胞と組み合わせ、サザンブロット及び/またはPCR等の従来の技法を使用して目的とするDNAを持つ細胞についてスクリーニングすることによって、または選択可能なマーカーを使用することによってインビトロで形質導入され得る。その後、形質導入された細胞は、薬学的組成物に製剤化され得、この組成物は、筋肉内、静脈内、皮下、及び腹腔内注射等の様々な技法によって、または例えばカテーテルを使用して、平滑心筋に注射することによって対象に導入される。
【0062】
本発明のrAAVでの細胞の形質導入は、β-サルコグリカンの持続発現をもたらす。したがって、本発明は、β-サルコグリカンを発現するrAAVを哺乳類の対象、好ましくはヒトに投与/送達する方法を提供する。これらの方法は、本発明の1つ以上のrAAVでの形質導入組織(筋肉等の組織、肝臓及び脳等の器官、ならびに唾液腺等の腺を含むが、これらに限定されない)を含む。形質導入は、組織特異的制御要素を含む遺伝子カセットで行われ得る。例えば、本発明の一実施形態は、これらに限定されないが、アクチン及びミオシン遺伝子ファミリー、例えばmyoD遺伝子ファミリーに由来するもの[Weintraub et al.,Science,251:761-766(1991)を参照されたい]、筋細胞特異的エンハンサー結合因子MEF-2[Cserjesi and Olson,Mol.Cell.Biol.,11:4854-4862(1991)]、ヒト骨格筋アクチン遺伝子[Muscat et al.,Mol.Cell.Biol.,7:4089-4099(1987)]、心筋アクチン遺伝子、筋クレアチンキナーゼ配列要素[Johnson et al.,Mol.Cell.Biol.,9:3393-3399(1989)を参照されたい]、及びマウスクレアチンキナーゼエンハンサー(mCK)要素に由来する制御要素、骨格速筋トロポニンC遺伝子、遅筋心臓トロポニンC遺伝子、及び遅筋トロポニンI遺伝子に由来する制御要素:低酸素誘発性核内因子(Semenza et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:5680-5684(1991))、ステロイド誘発性要素、及びグルココルチコイド応答要素(GRE)を含むプロモーター(Mader and White,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:5603-5607(1993)を参照されたい)、ならびに他の制御要素を含む、筋特異的制御要素によって誘導される筋細胞及び筋組織を形質導入する方法を提供する。
【0063】
筋組織は、重要な器官ではなく、アクセスが容易であるため、インビボDNA送達のための魅力的な標的である。本発明は、形質導入筋原線維由来のmiRNAの持続発現を企図する。
【0064】
「筋細胞」または「筋組織」とは、任意の種類の筋肉(例えば、消化管、膀胱、血管、または心臓組織由来の、例えば、骨格筋及び平滑筋)に由来する細胞または細胞群を意味する。かかる筋細胞は、筋芽細胞、筋細胞、筋管、心筋細胞、及び心筋芽細胞等の分化または未分化のものであり得る。
【0065】
「形質導入」という用語は、レシピエント細胞によるβ-サルコグリカンの発現をもたらす、記載の複製欠損rAAVを介するインビボまたはインビトロのいずれかでのレシピエント細胞への目的のポリヌクレオチド(例えば、β-サルコグリカンをコードするポリヌクレオチド配列)の投与/送達を指すために使用される。
【0066】
したがって、本明細書では、有効用量(または本質的に同時に投与される用量もしくはある間隔で与えられる用量)の、β-サルコグリカンをコードするrAAVを、それを必要とする哺乳類の対象に投与する方法も記載される。
【0067】
本明細書で言及される全ての刊行物及び特許は、各個々の刊行物または特許が参照により組み込まれるように具体的かつ個別に示されているかのように、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。矛盾する場合には、本出願が、本明細書中のいかなる定義も含み、優先される。
【0068】
本発明は、以下の実施例においてさらに説明され、これは特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例0069】
材料及び方法
動物モデル-すべての手順は、Research Institute at Nationwide Children’s Hospital Institutional Animal Care and Use Committee(プロトコルAR12-00040)によって承認された。B6.129-Sgcb tm1Kcam/1Jヘテロ接合マウスをJackson Laboratory(Bar Harbor,ME,USA、株#006832)から購入した。Sgcb-/-マウスは、ヘテロ接合マウスを繁殖させることにより作製した。KOマウスを繁殖させ、Research Institute at Nationwide Children’s HospitalのAnimal Resources Coreにおいて標準条件下でホモ接合型動物として維持した。マウスを、12:12時間の暗所:明所サイクルで、Teklad Global Rodent Diet(3.8z5食物繊維、18.8%タンパク質、5%脂肪飼料)で維持した。SGCB-/-マウスの同定は、PCRを用いた遺伝子型判定により行った。すべての動物を、標準的なマウスケージに入れ、自由に摂食摂水させた。
【0070】
β-サルコグリカン遺伝子構築。全長ヒトβ-サルコグリカンcDNA(GenBank受入番号NM_0034994.3)をコドン最適化し、GenScript Inc,Piscataway,NJ,USAにより合成した。GenScriptによるコドンの最適化は、転写、mRNAプロセシング及び安定性、翻訳、ならびにタンパク質フォールディングを含むパラメータを考慮するアルゴリズムを使用し、筋組織で最大の発現をもたらすcDNA配列を設計する(www.genscript.com)。
【0071】
pAAV.tMCK.hSGCB構築物について、cDNAは次にAAV2 ITRを含むプラスミドにクローニングし、カセットはコンセンサスKozak配列(CCACC)、SV40キメライントロン、及び合成ポリアデニル化部位(53bp)を含んだ。組換えtMCKプロモーターは、Dr Xiao Xiao(University of
North Carolina)からの寄贈であった。これは以前に記載されたCK6プロモーター27の改変であり、転写因子結合部位を含むプロモーター領域のエンハンサー上流における改変を含む。エンハンサーは2つのEボックス(右及び左)で構成される。tMCKプロモーター改変は、左のEボックスを右のEボックスへ変換(2R改変)し、6bpを挿入(S5改変)する変異を含む。pAAV.tMCK.hSGCBベクターは、pUC57-BSG(Genscript Inc.)からの1040bpのKpnI/XbaI断片のpAAV.tMCK.hSGCA.26のKpnI/XbaI部位へのライゲーションによって構築した。
【0072】
pAAV.MHCK7.hSGCBベクターは、NotI/KpnI部位を有するtMCKプロモーター及びSV40キメライントロンを除去し、MHCK7プロモーター及びNotI/KpnI部位を有する同一のSV40キメライントロンを含むPCR増幅断片を挿入することにより構築した。MHCK7は、近位プロモーターを有する内因性筋クレアチンキナーゼ遺伝子(enh358MCK、584-bp)内の転写開始部位の~1.2kbの5’から取った206-bpエンハンサーを利用するMCKベースのプロモーターである3、12。MHCK7プロモーター自体は、心筋発現を増強するためにCK部分の188-bpのα-MyHC(αミオシン重鎖)エンハンサー5’に連結した遺伝子のMCKファミリーからのこの改変CK7カセットを含む12。プロモーター(CK)のクレアチンキナーゼ部分は、tMCKとMHCK7との間で96%同一である。最後に、pAAV.MHCK7.hSGCBベクターは、pAAV.MHCK7.DYSF5’DV44由来の960bpのNotI/KpnI MHCK7+イントロン断片のpAAV.tMCK.hSGCBのNotI/KpnI部位へのライゲーションによって構築した(Pozgai et al.,Gene Ther.23:57-66,2016)
【0073】
rAAV産生。以前にRodino-Klapac et al.(J.Trans.Med.5:45,2007)によって報告された、改変クロスパッケージングアプローチを用いてrAAVベクターを産生した。ここで、HEK293細胞におけるCaPO4沈殿を伴うトリプルトランスフェクション法は、AAV2 ITRを異なるAAVカプシド血清型にパッケージングすることを可能にする。(28、29)産生プラスミドは、(i)pAAV.tMCK.hSGCBまたはpAAV.MHCK7.hSGCB、(ii)cap血清型8様単離rh.74をコードするrep2-caprh.74改変AAVヘルパープラスミド、ならびに(iii)アデノウイルスE2A、E4 ORF6、及びVA I/II RNA遺伝子を発現するアデノウイルス5型ヘルパープラスミド(pAdhelper)であった。ベクターを精製し、カプシド化vg力価を、(Prism 7500 Taqman検出器システム、PE Applied Biosystems,Carlsbad,CA,USAを使用して)以前に記載されたように決定した。30
プライマー及び蛍光プローブは、tMCKプロモーターを標的とし、以下の通りであった:tMCKフォワードプライマー、5’-ACC CGA GAT GCC TGG TTA TAA TT-3’(配列番号10)、tMCKリバースプライマー、5’-TCC ATG GTG TAC AGA GCC TAA GAC-3’(配列番号11)、及びtMCKプローブ、5’-FAM-CTG CTG CCT GAGCCT GAG CGG TTA C-TAMRA-3’(配列番号12)。プライマー及び蛍光プローブは、MHCK7プロモーターを標的とし、以下の通りであった:MHCK7フォワードプライマー、5’-CCA ACA CCT GCT GCC TCT AAA-3’(配列番号16)、MHCK7リバースプライマー、5’-GTC CCC CAC AGC CTT GTT C-3’(配列番号17)、及びMHCK7プローブ、5’-FAM-TGG ATC CCC-Zen-TGC ATG CGA AGA TC-3IABKFQ-3’(配列番号18)。
【0074】
筋肉内遺伝子送達。筋肉内注射のために、マウスに麻酔をかけ、1~4%イソフルラン(O2中)下に維持した。4~6週齢のSGCB-/-マウスの左下肢の前区画を95%EtOHで洗浄し、次いで腹横(TA)筋に、体積30μlの生理食塩水で希釈した3×1011vgのscAAVrh.74.tMCK.hSGCBを、30ゲージ超微細インシュリンシリンジを用いて注射した。反対側の筋肉を未治療のままにして対照とした。遺伝子導入効率を評価するために、両肢からのTA筋を、注射の6週間後(n=9、4匹の雄、5匹の雌)または12週間後(n=6、4匹の雄、2匹の雌)のいずれかに取り出した。6ヶ月齢のマウス(n=5、5匹の雄)に関する実験では、治療は、左TAへの3×1011vgのscAAVrh.74.tMCK.hSCGBの筋肉内注射で構成された。分離式肢灌流実験のために、sgcb-/-マウスを、4週齢(n=5、5匹の雄)及び5週齢(n=4、2匹の雄、2匹の雌)で、以前に記載されたように大腿動脈への注射によって5×1011vgのscAAVrh.74.tMCK.hSCBBで灌流した。19動物を安楽死させ、筋肉を遺伝子導入の8週間後に分析した。
【0075】
全身遺伝子送達:全身送達は、sgcb-/-マウスの尾静脈へのベクターの注射によって達成した。マウスに、体積212μLの生理食塩水で希釈した1×1012vgのscAAVrh.74.MHCK7.hSGCBを、30ゲージ超微細インシュリンシリンジを用いて注射した。マウスを保持チューブ内に拘束し、尾を尾部スロットに入れ、注射を容易にするために温めて血管を拡張させた。動脈を尾の中心線の下方に配置した後、尾動脈に沿って走る紫/青色の側静脈の1つに注射を行った。被治療マウスはすべて4~5週齢で注射し、注射の6ヶ月後に安楽死させた。
【0076】
EDL力発生及び伸張性収縮からの保護。分離式灌流(ILP)によって治療されたマウスからのEDL筋の生理学的分析を行った。被治療マウスの両方の後下肢からのEDL筋を腱で切除し、我々の実験室及びその他(19、31)によって以前に記載された機能を評価する生理学プロトコルをいくらか適合させて行った。伸張性収縮プロトコル中、5%伸長再長期化手順を500~700ミリ秒間実行した(100ミリ秒にわたって5%伸長し、続いて、100ミリ秒後に最適な長さに戻す)。強縮及び伸張性収縮プロトコル後、筋肉を取り出し、湿潤秤量し、トラガカントガムを使用してチャック上に取り付け、その後、液体窒素中で冷却したメチル-ブタン中で凍結した。
【0077】
TA力発生及び伸張性収縮からの保護。TA筋における機能的結果を評価するプロトコルを、IM注射によって治療されたマウスから抽出した筋肉について実施した。このTA手順は、いくつかの以前の研究において概説されている。(32、33)伸張性収縮後、マウスを次に安楽死させ、TA筋を切除し、秤量し、分析のために凍結した。データの分析は盲目的に行われたがランダムには行われなかった。
【0078】
免疫蛍光。クリオスタット切片(12μm)を、モノクローナルヒトβ-サルコグリカン一次抗体(Leica Biosystems,New Castle,UK、Cat番号NCL-L-b-SARC)で、ブロック緩衝液(1×TBS、10%ヤギ血清、0.1%Tween)中での1:50の希釈で、1時間、室温で、湿潤チャンバにおいてインキュベートした。次いで切片をTBSで3回、それぞれ20分間洗浄し、30分間再ブロック化した。AlexaFluor 594複合ヤギ抗マウス二次IgG1抗体(Life Technologies,Grand Island,NY,USA、Cat番号A21125)を、1:250の希釈で45分間適用した。切片をTBSで20分間3回洗浄し、Vectashieldマウンティング培地(Vector Laboratories,Burlingame,CA,USA)でマウントした。Zeiss AxioCam MRC5カメラを使用して、筋肉切片の4つの異なる象限をカバーする4つのランダムな20倍画像を撮影した。β-サルコグリカン染色(450%の筋膜染色強度)の陽性線維の割合を各画像について決定し、各筋肉について平均した。
【0079】
ウエスタンブロット分析。左の被治療TA筋及び右の反対側のTA筋からの組織切片(20-20ミクロン厚)を微量遠心分離機に回収し、100μlの均質化緩衝液(125mMトリス-HCl、4%SDS、4M尿素)で、1つのプロテアーゼ阻害剤カクテル錠剤(Roche,Indianapolis,IN,USA)の存在下で均質化した。均質化後、試料を10,000rpmで10分間4℃で遠心分離した。タンパク質をNanoDrop(Thermo Scientific,Waltham,MA,USA)で定量化した。タンパク質試料(20μg)を3-8%ポリアクリルアミドトリス-アセテートゲル(NuPage,Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)で1時間5分間150Vで電気泳動し、その後PVDF膜(Amersham Biosciences,Piscataway,NJ,USA)に1時間15分間35Vで移した。膜をTBST中の5%脱脂粉乳中で1時間ブロックし、次いでウサギポリクローナルヒトβ-サルコグリカン抗体(Novus Biologicals,Littleton,CO,USA、Cat番号NBP-1-90300、1:100または1:250希釈)及び1:5000のモノクローナルマウスγ-チューブリン抗体(Sigma-Aldrich,St Louis,MO,USA、Cat 番号T6557)または1:5000希釈のマウスモノクローナルマウスα-アクチニン抗体(Sigma-Aldrich,St Louis,MO,USA、Cat 番号A7811)でインキュベートした。1:500希釈のウサギポリクローナルマウス心筋トロポニンI抗体(Abcam,Cambridge,MA、Cat番号ab47003)及び1:1000希釈のウサギモノクローナルマウスビンクリン抗体(Invitrogen,Frederick,MD、Cat番号70062)を使用した。抗マウス(Millipore,Billerica,MA,USA、Cat番号AP308P)及び抗ウサギ(Life Technologies、Cat番号656120)二次-HRP抗体をECL免疫検出に使用した。
【0080】
EBDアッセイ。3×1010vgの用量のscAAVrh.74.tMCK.hSGCBを、4週齢のsgcb-/-マウスに、筋肉内注射によって左TAに送達した。注射の4週間後、マウスの腹膜腔の右側に、5μl/体重gの1倍リン酸緩衝液中の濾過滅菌した10mg/mlのEBDを注射した。次いでマウスを注射の24時間後に殺し、組織を採取し、切片にした。切片を冷アセトン中で10分間固定し、次いで免疫蛍光プロトコルを用いてヒトβ-サルコグリカンを染色した。
【0081】
形態計測分析。中心に位置する核を有する筋線維の筋線維直径及び割合を、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色したTA及びGAS筋から決定した。各動物の切片当たり4つのランダム20倍画像をZeiss AxioCam MRC5カメラで撮影した。NIH ImageJソフトウェア(Bethesda,MD,USA)を用いて中心核形成線維を定量化した。線維直径を、Zeiss Axiovision LE4ソフトウェア(Carl Zeiss Microscopy,Munich,Germany)を使用して筋線維を通して最も短い直径として測定した。
【0082】
生体分布qPCR分析。Taqman定量PCRを行って、以前に記載したような標的化及び未標的化反対側筋肉ならびに非標的化器官に存在するベクターゲノムコピーの数を定量化した。(18、30)ベクター特異的プライマープローブセットを使用して、特異的であり、scAAVrh.74.tMCK.hSGCB導入遺伝子カセット内に位置するtMCKプロモーターからすぐ下流のイントロン領域の配列を増幅した。以下のプライマー及びプローブをこの研究に使用した:tMCK及びMHCK7イントロンフォワードプライマー5’-GTG AGG CAC TGG GCA GGT AA-3’(配列番号13)、tMCK及びMHCK7イントロンリバースプライマー5’-ACC TGT GGA GAG AAA GGC AAA G-3’(配列番号14)、ならびにtMCK及びMHCK7イントロンプローブ5’-6FAM-ATC AAG GTT ACA AGA CAG-GTT TAA GGA GAC CAA TAG AAA-tamra-3’(IDT)(配列番号15)。コピー数は、ゲノムDNAの1マイクログラム当たりのベクターゲノムとして報告される。免疫細胞染色のための免疫組織化学。免疫組織化学を用いて免疫細胞を同定した。Fisherbrand Superfrost帯電顕微鏡スライド上の凍結組織切片を、抗ラットIg HRP検出キット(BD Pharmagen,San Jose,CA,USA、Cat:551013):CD3(Cat:555273)、CD4(Cat:550280)、CD8(Cat:550281)、及びマクロファージ用のMac-3(Cat:550292)を使用して、ラット抗マウスモノクローナル抗体でインキュベートした。すべての一次抗体をリン酸緩衝生理食塩水で1:20に希釈した。陽性免疫染色を、ストレプトアビジン-HRPペルオキシダーゼectastain ABCペルオキシダーゼを含むDAB緩衝液で希釈したDABクロモゲンを用いて可視化した。10個のランダム40倍画像を各筋肉及び各対応する染色について撮影した。単核細胞の数を数え、1mm2当たりの総数として表した。
【0083】
ピクロシリウスレッド染色及びコラーゲン定量化。Fisherbrand Superfrost帯電顕微鏡スライド上に配置された凍結切片を、10%中性緩衝ホルマリン中で5分間固定し、次いで蒸留水ですすいだ。次いでスライドを、Picrosirius Red Stain Kit(Polysciences Inc.,Warrington,PA,USA、カタログ番号24901)の溶液A(リンモリブデン酸)中で2分間インキュベートした。蒸留水で完全にすすいだ後、スライドを溶液B(Direct Red 80/2 4 6-トリニトロフェノール)中に15分間置き、続いて蒸留水でさらにすすぎ、次に溶液C(0.1N塩酸)で2分間インキュベートした。スライドを、DI水中1:10希釈を用いてPoly Scientific(カタログ番号S2114)からの1%氷酢酸中の1%Fast Greenで2.5分間対比染色した。最後に、スライドを再度蒸留水ですすぎ、グレードエタノール中で脱水し、キシレンで清澄化し、Thermo-Scientific(Waltham,MA,USA、Cat#8310)のCytoseal 60培地を用いてカバーガラスを載せた。画像を、AxioVision 4.9.1ソフトウェア(Carl Zeiss Microscopy)を使用して撮影した。シリウスレッド染色及びコラーゲン%定量化の分析のために、赤色と緑色との間のコントラストをAdobe Photoshopを用いて増強した。ImageJソフトウェアプログラムのカラーデコンボリューションプラグインを選択し、RGBカラーデコンボリューションオプションを使用した。赤色画像は、シリウスレッド染色からのすべての結合組織を含む。緑色画像は、ファストグリーン対比染色からのすべての筋肉を含む。赤色画像及び元の画像のみを使用した。次いで、閾値を画像に適用して、コラーゲン陽性領域が黒で陰性領域が白の白黒画像を得た。測定機能を使用して、コラーゲンの面積を計算した。次いで、元の画像を「8ビット」に変換し、閾値を、画像を完全に飽和するものより1単位低い、254に調整することにより、全組織面積を決定した。次いで、以前に行ったように全組織面積を測定し、総面積を記録した。次いで、コラーゲンの割合を、コラーゲンの面積を全組織面積で割ることによって計算した。各個体の平均割合を次に計算した。
【0084】
機能評価のための横隔膜強縮性収縮:マウスを安楽死させ、横隔膜を、肋骨が付着し、腱中心が無傷の状態で切断し、Beastrom et al.(Am.J.Pathol.179:2464-74,2011)、Rafael-Forney et al.(Circulation 124:582-8,2011、及びMoorwood et al.(J.Visualized Experiments 71:e50036,[year?])によって先に記載されたようにK-H緩衝液に入れた。2~4mm幅の横隔膜切片を単離した。横隔膜条片を腱中心で編組外科用絹糸(6/0、Surgical Specialties,Reading,PA)を用いてしっかり結び、条片の遠位端に取り付けられた肋骨の一部分を通して縫合した。各筋肉を、37℃で維持した酸素化K-H溶液を充填した水浴に移した。筋肉を水平に整列させ、固定ピンとデュアルモード力変換器サーボモーター(305C、Aurora Scientific,Aurora,Ontario,Canada)との間で直接結んだ。2つの白金プレート電極を、筋肉の長さに隣接するように器官浴内に位置付けた。筋肉を攣縮収縮の測定のために最適な長さに伸長させ、その後、10分間静置させた後に、強縮プロトコルを開始した。筋肉が安定した時点で、筋肉を1gの最適な長さに設定し、30秒毎に3回の1Hz攣縮、続いて、1分毎に3回の150Hz攣縮からなるウォームアップに供する。3分間の休止期間後、横隔膜を、各刺激間に2分間の休止期間を設けて、20、50、80、120、150、180Hzで各々250ミリ秒間刺激して、最大強縮力を決定する。筋肉の長さ及び重量を測定した。力を、筋肉の重量及び長さに対して正規化した。
【0085】
心臓磁気共鳴イメージング:9.4T水平ボア磁気共鳴イメージング(MRI)システム及びマウスボリュームコイル(Bruker BioSpin,Billerica,MA,USA)を用いて心機能を分析した。撮影台上に配置する前に、カルボゲン(1L/分)と混合した2.5%イソフルランで3分間マウスを麻酔した。イメージング装置へのマウスの配置及びイメージングの開始後、イソフルラン/カルボゲン混合物は、実験の残りの期間にわたって1.5%に低下させた。EKG及び呼吸は、MRI適合システム(Model 1025,Small Animal Instruments,Stonybrook,NY,USA)を用いて監視した。ゲーテッド心臓短軸FLASHシネT1強調画像を、マウスの左心室(LV)全体にわたって取得した(TR=8ms、TE=2.8ms、α=18o、マトリックス=256×256、FOV=3.0×3.0cm、スライス厚=1mm、nスライス=7、心周期当たり最大20フレーム)。画像分析のために、各短軸画像の拡張末期及び収縮末期の時点を特定し、心内膜及び心外膜の心臓境界を手動でトレースした。乳頭筋は、LVの心内膜境界から除外した。これらの測定された領域から、拡張末期容積(EDV)、収縮末期容積(ESV)、1回拍出量(SV)、心拍出量(CO)、駆出率(EF)、及び平均LV質量を算出した。
【0086】
免疫蛍光:心臓と共に、前脛骨(TA)、腓腹(GAS)、四頭(QUAD)、大腰(PSOAS)、臀(GLUT)、三頭(TRI)、及び横隔膜筋からのクリオスタット切片(12μm)を、Pozgai et al.,Gene Therap.23:57-66,2016に記載されているような我々の以前に使用したプロトコルを介して、hSGCB導入遺伝子の免疫蛍光染色に供した。切片を、マウスモノクローナルヒトβ-サルコグリカン一次抗体(Leica Biosystems,New Castle,UK、Cat番号NCL-L-b-SARC)で、1:100の希釈でインキュベートした。Zeiss AxioCam MRC5カメラを使用して、筋肉切片の4つの異なる象限をカバーする4つのランダムな20倍画像を撮影した。β-サルコグリカン染色(>50%の筋膜染色)の陽性線維の割合を各画像について決定し、各筋肉について平均した。
【0087】
形態計測分析:分析のために、7ヶ月齢のC57BL6 WTマウス(n=5)、sgcb-/-マウス(n=5)、及びrAAV.MHCK7.hSGCBで6ヶ月治療されたsgcb-/-マウス(n=5)からの筋肉の12μm厚の凍結切片に対して、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色を行った。TA、GAS、QUAD、PSOAS、GLUT、TRI、及び横隔膜筋において、中心核を有する筋線維の割合を決定した。さらに、GAS、PSOAS、及びTRI筋において、筋線維直径を測定した。各動物の筋肉当たり4つのランダム20倍画像をZeiss AxioCam MRC5カメラで撮影した。NIH ImageJソフトウェアを用いて中心核形成線維を定量化し、Zeiss Axiovision LE4ソフトウェアを用いて線維直径を測定した。
【0088】
X線画像:麻酔をかけた7ヶ月齢のC57BL6 WTマウス(n=6)、未治療sgcb-/-マウス(n=6)、及びrAAV.MHCK7.hSGCBで6ヶ月治療されたsgcb-/-マウス(n=6)に対して、Faxitron MX-20デジタルX線システムを用いて26kVで3秒間(Faxitron X-Ray Corp,Lincolnshire,USA)全身X線を行った。
【0089】
オープンフィールドケージ活動のレーザー監視:オープンフィールド活動チャンバを使用して、実験マウスの全体活動を決定した。C57BL6 WT(n=6)及び未治療sgcb-/-(n=6)対照群からの7ヶ月齢のマウスを、rAAV.MHCK7.hSGCBで6ヶ月治療されたsgcb-/-マウス(n=6)と共に、以前に記載されたプロトコル(Kobayashi et al.,Nature 456:511-5,2008、Beastrom et al.,Am.J.Pahol.179:2464-74,2011)に従って、分析に供した。全てのマウスを、マウスが最も活動的である早朝からその夜の終わり間近のサイクルで、毎日同じ時間に試験した。全てのマウスを、毎回薄暗い光下で、かつ同じ飼育係により、隔離室で試験した。不安を軽減し、マウスの通常の行動、ひいてはアッセイの結果に影響を与える可能性があり得る可変的行動を最小限に抑えるために、試験されたマウスは個別に収容されていなかった(Voikar et al.,Genes Brain Behav.4:240-52,2005)。マウスの行動を、Photobeam Activity System(San Diego Instruments,San Diego,CA)を使用して監視した。このシステムは、動物チャンバの前後かつ左右を横断する不可視赤外光線のグリッドを使用して、X-Y-Z平面内のマウスの位置及び動きを監視する。活動を、5分間間隔の1時間サイクルで記録した。マウスを、データ取得開始の数日前に1時間セッションで活動試験室に順応させた。マウスを、4匹1組で、個別のチャンバ内で試験した。試験機器を使用毎に掃除して、我々の結果を変化させ得るマウスの反動的な可変的行動を低減した。収集したデータをMicrosoft Excelワークシートに変換し、全ての計算をExcelプログラム内で行った。各マウスのX平面及びY平面における動きの個々の光線中断を加算して、合計歩行を表し、Z平面における光線中断を加算して、1時間間隔内での垂直活動を得た。
【0090】
実施例1
scAAVrh.74.tMCK.hSGCB構築及びベクター効力
図1Aに示すコドン最適化全長ヒトSCGB cDNAを含む導入遺伝子カセットを構築した。カセットは、コンセンサスKozak配列(CCACC)、SV40キメライントロン、合成ポリアデニル化部位、及びカセットの発現を駆動するのに使用される筋特異的tMCKプロモーター(20)を含む。カセットは、AAV8に対して93%相同である自己相補的(sc)AAVrh.74ベクターにパッケージングした。AAVrh.74は、マウス及び非ヒト霊長類において、特に、循環によって筋肉に送達される場合に血液関門を通過する際に、安全かつ効果的であることが示されている。(17、18、21)ベクター効力は、Sgcb-ヌルマウスの左TA筋への筋肉内注射によって確立した。遺伝子導入の3週間後、3x10
10vgの送達は、筋線維の70.5±2.5%を形質導入し、1x10
11vgは、筋線維の89.0±4.0%を形質導入した。
【0091】
実施例2
scAAVrh.74.tMCK.hSGCBの筋肉内送達
ベクター効力に続いて、研究を拡張し、遺伝子導入の6週間後及び12週間後の療法の有効性を分析した。短い3週間効力試験後の高レベルの発現の結果として、最低有効用量を使用するためにその後の試験には合計3×10
10vgの用量を選択した。5週齢のsgcb
-/-マウスに、3×10
10vgのscAAVrh.74.tMCK.hSCGBを左腹横(TA)に筋肉内投与し、β-サルコグリカン発現を、免疫蛍光を用いて注射の6週間後(n=9)の筋線維の88.4±4.2%、及び注射の12週間後(n=6)の筋線維の76.5±5.8%において示し、発現をウエスタンブロッティングによって確認した(
図1B)。β-サルコグリカン発現は、ジストロフィン関連タンパク質複合体(α-サルコグリカン及びジストロフィン)の成分の回復を伴った(
図1C)。エバンスブルー色素(EBD)を膜透過性のマーカーとして使用し(22、23)、外因性β-サルコグリカンを発現するすべての線維が漏出及びEBD封入から保護されていることがわかった(
図1D)。sgcb
-/-マウスからの筋肉は、中心核形成線維、頻繁な筋線維壊死、線維性組織、ならびに萎縮性及び肥大性線維の両方によって表される顕著な線維サイズ変動を伴う重度の筋ジストロフィーを示す。(3、4)
図2Aに見られるように、ヘマトキシリン&エオシン染色は、中心核の減少を含む罹患した筋肉のジストロフィー表現型の全体的な改善を示す(sgcb
-/-未治療-76.8±2.3%対AAV.hSCGB治療-38.86±3.5%、P<0.0001)(
図2C)。治療後の平均線維直径の増加を伴う、線維直径分布の正常化も観察した(sgcb
-/-未治療-32.6±0.31μm対AAV.hSGCB治療-35.56±0.22μm、P<0.0001)(
図2D)。
【0092】
scgb
-/-マウスの組織病理学的特徴は、フィブロネクチン、エラスチン、ラミニン、及びデコリンなどの他の細胞外マトリックス成分と共に、主にコラーゲンでの筋組織の広範な置換によって特徴付けられる線維症である。(14)この結合組織による筋組織の置換は、遺伝子置換の潜在的価値に疑問を呈し、改善の程度を制限し得る。(24)これを試験するために、12週間治療されたマウスを線維症の軽減についてアッセイした。TA筋は、その固有の線維症の程度がKOモデルにおいて確立され、それが血管ILP遺伝子送達後の潜在的な標的を表すため、特異的に評価した。TA筋のコラーゲンI型及びIII型のピクロシリウスレッド染色は、未治療sgcb
-/-マウスの筋肉と比較して、scAAVrh.74.tMCK.hSGCB治療筋肉内に存在するコラーゲンの量の有意な減少(52.74%)を示した(20.7±0.57%対43.8±2.3%、それぞれ、AAV.hSGCB治療対sgcb
-/-未治療、P<0.0001)(
図2b及びe)。注射時に5週齢のマウスからの未治療sgcb
-/-筋肉は、24.05±1.5%のコラーゲン沈着を有し、治療の12週間後コラーゲンの量のわずかな(14.0%)減少があったことを示した。
【0093】
実施例3
scAAVrh.74.tMCK.hSGCB遺伝子導入後の骨格筋の機能補正
hSGCB遺伝子導入が筋機能を改善できるかどうかを決定するために、scAAVrh.74.tMCK.hSCGBで治療したsgcb
-/-マウスからのTA筋の機能特性を評価した。4週齢のsgcb
-/-マウスのTAへの3×10
10vgのscAAVrh.74.tMCK.hSCGBの筋肉内送達に続いて、治療の6週間後、TA筋をin-situ力測定に供した(n=4)。被治療筋肉を、未治療の反対側の筋肉及びC57BL/6 WTマウスの筋肉と比較した。scAAVrh.74.tMCK.hSCGB治療筋肉は、絶対強縮力及び正規化比力の両方において有意な改善を示した(
図3A及びB)。被治療筋肉は、未治療sgcb
-/-対照の770.9±118.3mNと比較して、1436.9±199.5mNの平均絶対力を有した(P<0.01)。同様に、被治療TA筋は254.01±6.9mN/mm
2の平均比力を生じ、未治療筋肉は124.2±13.9mN/mm
2の力を生じた(P<0.01)。最後に、scAAVrh.74.tMCK.hSCGBで治療された筋肉は、未治療の対照筋肉と比較して、収縮誘発性損傷に対するより大きな耐性を示した(
図3C)。治療されたTA筋は、最初の収縮後に生成されたものから34.0±5.1%の力を失ったが、未治療の罹患筋肉は、伸張性収縮プロトコル後に54.1±3.8%(P<0.01)の力を失った。これらのデータは、hSGCB遺伝子導入が、β-サルコグリカンが欠損した罹患筋肉に機能的利益をもたらすことを示す。
【0094】
実施例4
scAAVrh.74.tMCK.hSGCBでの老化した筋肉の治療
LGMD2Eのこのマウスモデルにおける疾患進行の研究は、筋肉における最も重度の組織リモデリングは6~20週の間に起こるが、筋肉の組織病理は年齢と共に悪化し続け、患者における疾患進行に類似していることを示した。(3、4、14)その結果、より高度な筋肉の劣化及び内鞘線維症を有するより高齢で治療が行われる臨床現場を模倣するために、6ヶ月齢のsgcb
-/-マウス(n=5)のTA筋に3×10
10vgのscAAVrh.74.tMCK.hSCGBを筋肉内投与した。治療の12週間後、9ヶ月齢で、筋線維の80.1±4.8%が形質導入された(
図4A)。コラーゲンI型及びIII型のピクロシリウスレッド染色は、未治療sgcb
-/-マウスの筋肉と比較して、治療されたマウス中に存在するコラーゲンの量の42.2%の減少を示した(AAV.hSGCB治療-20.0±0.80%対sgcb
-/-未治療-34.6±1.4%、P<0.0001)(
図4B及びC)。治療時に6ヶ月齢のsgcb
-/-マウスは、30.8±2.0%のコラーゲン沈着を有し(n=4、4匹の雄)、したがって、これらの結果は、scAAVrh.74.tMCK.hSCGB治療が、予防するだけでなく、既存の線維症を回復に向かわせる可能性も有することを示している。
【0095】
実施例5
sgcb-/-マウスにおけるscAAVrh.74.tMCK.hSGCBのILP
四肢の1つにおける複数の筋肉を標的化する能力は、LGMD2E患者への変換のためにより臨床的に適切な送達方法を可能にする。5×10
11vgのscAAVrh.74.tMCK.hSGCBのILPによる4~6週齢のsgcb
-/-マウス(n=9、7匹の雄、2匹の雌)への送達を、遺伝子導入の2ヶ月後に分析した。β-サルコグリカン発現は、腓腹(GAS)筋では線維の91.8±4.7%、TAでは90.6±2.8%に達した(
図5A)。scAAVrh.74.tMCK.hSGCBのILP送達は、未治療の反対側の筋肉と比較して、WTと変わりない、伸張性収縮誘発性損傷からの有意な保護をもたらした(P<0.05)(
図5C)。血管送達は、筋組織病理学的パラメータも回復させた(
図5B)。中心核がTA(sgcb
-/-未治療-76.9±2.8%対AAV.hSGCB治療-23.2±5.7%、P<0.001)及びGAS(sgcb
-/-未治療-78.2±2.4%対AAV.hSGCB治療-16.8±6.6%、P<0.001)において減少した。遺伝子導入はまた、線維直径分布の正常化と共に、TA(sgcb
-/-未治療-30.53±0.52μm対AAV.hSGCB治療-41.9±0.46μm、P<0.0001)及びGAS(sgcb
-/-未治療-38.9±0.37μm対AAV.hSGCB治療-33.3±0.44μm、P<0.0001)において平均線維サイズの増加をもたらした。CD3細胞、CD4細胞、及びマクロファージの数の実質的な減少(~60%)(表1)が観察された。
【表1】
【0096】
TA及びGAS筋のピクロシリウスレッド染色はまた、血管送達後、未治療のsgcb
-/-の筋肉と比較してコラーゲンの量の有意な減少を示した(
図6a)。TAのコラーゲンレベルは、エンドポイント齢の未治療sgcb
-/-マウスにおける40.2±1.5%と比較して、被治療筋肉において21.6±1.3%に減少した(P<0.0001)。先に示したように、注射時のsgcb
-/-マウスは、TA筋において24.1±1.5%のコラーゲンを示し、治療の8週間後に再びコラーゲン沈着のわずかな減少(10.0%)を示した。同様に、GAS筋の染色は、エンドポイントの未治療sgcb
-/-マウスにおける37.9±1.3%と比較して、被治療マウスが22.9±0.99%のコラーゲンを有することを示した(P<0.0001)。定性PCRを行い、シリウスレッド染色の結果と相関する筋肉中のコラーゲン転写物レベルを検出した。まとめると、これらのデータは、ヒトβ-サルコグリカンのAAV媒介送達がsgcb
-/-罹患筋肉の筋線維症を軽減し、筋機能を改善し、ジストロフィー病理を回復に向かわせることを示す。
【0097】
実施例6
rAAVrh.74.tMCK.hSGCBの安全性及び生体分布
最初に、3×10
10vgのscAAVrh.74.tMCK.hSGCBをTAに筋肉内注射した正常なWTマウスは、H&E染色によって毒性の徴候を示さず、ウイルスによる有害作用はないことを示した。前のセクションで記載されたscAAVrh.74.tMCK.hSGCBの総用量5×10
11vgのILP血管送達後、このコホートの小グループのマウス(n=4)で安全性を評価した。まず、組織学的に心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、生殖腺、及び横隔膜を含むオフターゲット器官と共に、顕著な遺伝子発現を有する標的化筋肉を分析した。パラフィン切片は、獣医学の病理学者により正式に調査され、いずれの器官にも毒性の証拠は認められなかった(データは示さず)。上記の組織及び器官のすべてにおいて、それぞれ、ウエスタンブロッティング及びqPCRを用いて、タンパク質発現及びベクター生体分布も評価した。ベクターゲノムコピーは、試験したすべての器官で検出されたが、被治療筋肉以外のいずれの試料でもタンパク質発現は検出されなかった(
図7)。最後に、いずれかのコホートからの平均体重を比較すると、被治療及び未治療筋肉の湿潤重量の分析は、有意な差または傾向を示さない(データは示さず)。これらのデータは、筋特異的tMCKプロモーターが骨格筋への発現を制限し、ベクターが非毒性であるという証拠を提供する。
【0098】
実施例7
SGCB-/-マウスの心臓及び横隔膜における組織学的及び機能的欠損
治療されなかったWT及び7ヶ月齢のSGCB-/-マウス(各株n=6)を、心臓MRI及び横隔膜生理学によって分析し、欠損を調べた。これらの分析に続いて、動物を犠死させ、組織病理学について評価した(
図8)。トリクローム染色は、横隔膜(
図8A)及び心臓(
図8C)の両方において広範囲の線維症(赤色染色)を示した。これには、横隔膜における比力の機能的欠損(116.24mN/mm
2 SGCB-/-対236.67mN/mm
2 WT、
図8B)及びMRIによって測定される駆出率の有意な欠損(WT、78%対SGCB-/-65%、
図8D)が伴った。
【0099】
実施例8
scAAVrh.74.MHCK7.hSGCB構築及びベクター効力
図9Aに示すコドン最適化全長ヒトSCGB cDNAを含む導入遺伝子カセットを構築した。カセットは、コンセンサスKozak配列(CCACC)、SV40キメライントロン、合成ポリアデニル化部位、及びカセットの発現を駆動するのに使用される筋特異的MHCK7を含む。これは、近位プロモーターを有する内因性筋クレアチンキナーゼ遺伝子(enh358MCK、584-bp)内の転写開始部位の~1.2kbの5’から取った206-bpエンハンサーを利用するMCKベースのプロモーターである
3、12。カセットを、AAV8に対して93%相同である自己相補的(sc)AAVrh.74ベクターにパッケージングした。AAVrh.74は、マウス及び非ヒト霊長類において、特に、循環によって筋肉に送達される場合に血液関門を通過する際に、安全かつ効果的であることが示されている。(17、18、21)ベクター効力は、Sgcb-ヌルマウスの左TA筋への筋肉内注射によって構築した。遺伝子導入の4週間後、3x10
10vgの送達は、筋線維の>90%を形質導入した。
【0100】
実施例9
scAAV.MHCK7.hSGCBの全身送達
6ヶ月の長期の時点で全身送達される場合の導入遺伝子の発現及びベクターの有効性を評価するために、ベクターを14匹のSGCB-/-マウスに総用量1×10
12vgの用量(5×10
13vg/kg)で尾静脈注射によって送達した。マウスは4週齢で注射され、完全剖検は注射の6ヶ月後に実施された(発現の中間評価として1匹のマウスを1ヶ月後に、2匹のマウスを4ヶ月後に殺した)。横隔膜及び心臓と共に上記のすべての骨格筋を分析のために抽出した。毒物学及び生体分布分析のために、器官も取り出した。ヒトβ-サルコグリカンの免疫蛍光染色を使用し、hSGCBベクターの全身注射を与えた6匹のKOマウスの横隔膜及び心臓に加えて、左右両方の5つの肢の筋肉におけるhSGCB導入遺伝子発現を決定した。これらの筋肉は、TA、腓腹筋(GAS)、四頭筋(QUAD)、臀筋(GLUT)(図示せず)、大腰筋(PSOAS)、及び三頭筋(TRI)を含んでいた(
図10)。心臓組織の定性分析を用いて、送達後の心筋における導入遺伝子発現の相対的なレベルを評価した。
【0101】
各筋肉から4つの20倍画像を撮影し、各画像についてhSGCB陽性線維の割合を決定し、各マウスからの各筋肉についての平均形質導入パーセントを得た。
図10及び
図11に示す結果は、横隔膜及び心臓を含む分析したすべての筋肉における≧98%形質導入を示す。β-サルコグリカンを欠損したマウスは、免疫蛍光によって分析した場合、タンパク質が完全に存在しなかった。総用量1×10
12vgの治療用量は、横隔膜を含むすべての骨格筋にわたる平均97.96±0.36%(±SEM)、及び心筋における約95%以上のベクター形質導入をもたらした(データは示さず)。
【0102】
実施例10
SGCB
-/-マウスにおけるscAAVrh.74.MHCK7.hSGCBの長期全身送達
実施例9に記載の1ヶ月効力アッセイの結果の上に蓄積するために、β-サルコグリカン導入遺伝子カセットのsgcb
-/-マウスへの長期(6ヶ月間)全身送達について調査した。4~5週齢のsgcb
-/-マウスの尾静脈に、総用量1×10
12vgのscAAVrh.74.MHCK7.hSGCBを静脈内投与した(n=5)。マウスを注射の6ヶ月後に剖検し、hSGCB導入遺伝子発現を、すべての被治療マウスの横隔膜及び心臓に加えて、左右両方の6つの骨格筋において免疫蛍光を用いて実証した。分析された骨格筋は、TA、GAS、QUAD、臀筋(GLUT)、PSOAS、及びTRIを含んでいた。被治療マウスにおける全身送達から生じる平均hSGCB発現は、横隔膜を含むすべての骨格筋にわたって98.13±0.31%(±SEM)であり、心臓における発現は>95%を超えた。代表的な画像を
図12bに示す。すべての被治療マウスから平均した個々の筋肉タイプにおける発現レベルを表2に示す。
図12cのウエスタンブロッティングは、すべての筋肉における導入遺伝子の発現を確認する。表2の発現値は、全身注射されたマウス(n=5)からの左及び右の筋肉の平均として、様々な筋肉について提示される。値はAVG±SEMとして示される。さらに、ウエスタンブロッティング及びデンシトメトリーによる被治療マウスからの心臓におけるhSGCB導入遺伝子発現の定量化は、BL6 WT発現レベル(
図12d)を超える最大72.0%のhSGCBの過剰発現を示し、骨格筋において定量化された高レベルと相関する。
【表2】
【0103】
以前の報告(Araishi et al,Hum.Mol.Genet 8:1589-98,1999,Durbeej et al.,Mol.Cell.5:141-51,2000)に記載され、
図13aのGAS及び横隔膜のヘマトキシリン&エオシン染色によって示されるsgcb
-/-筋肉の重要な特徴は、中心核形成、壊死、炎症性浸潤、及び線維症を含む重度のジストロフィー病理である。遺伝子導入はこの病理を顕著に改善し、これらのジストロフィーの特徴の多くを緩和した(
図13a)。組織学的パラメータの定量化は、遺伝子導入の結果として分析された様々な骨格筋における中心核生成の有意な減少を示した(
図13b)。平均して1.89±0.39%であるBL6 WTマウスにおけるすべての筋肉にわたる予想された低レベルの中心核形成と共に、ここで記録するように、分析したすべての筋肉、AAV.MHCK7.hSGCB治療sgcb
-/-筋肉における36.30±5.16%と比較して未治療sgcb
-/-マウスにおける66.85±1.86%の平均中心核(p<0.0001)を考慮し、以下の表3は、様々な筋肉についてBL6 WT、sgcb
-/-、及び全身注射されたマウス(各群n=5)からの左右の筋肉の平均(±SEM)として与えられる中心核数及び線維直径を提供する。注目すべきことに、最も重要な変性/再生の波は、中心にある核によって示されるsgcb
-/-筋肉において3週間で生じる。動物はこの損傷後に治療され、したがって集中化した核の完全な逆転は期待されなかった。筋組織病理学のより深い分析により、試験した3つの筋肉(GAS:sgcb-/-未治療-28.37±0.23μm対AAV.hSGCB治療-36.04±0.17μm、p<0.0001)(PSOAS:sgcb-/-未治療-24.75±0.23μm対AAV.hSGCB治療-38.43±0.28μm、p<0.0001)(TRI:sgcb
-/-未治療-28±0.31μm対AAV.hSGCB治療-35.56±0.22μm、p<0.0001)において、未治療sgcb-/-マウスと比較してベクターで治療した罹患マウスにおける平均線維直径の増加を伴う線維サイズ分布の正常化が明らかになった(
図13c、13d、表3)。
【表3】
【0104】
LGMD2Eの病因及び療法の有効性において線維症が顕著な影響を及ぼすため、線維症の軽減におけるその効力を実証することは重要であった。それは局在化したβ-サルコグリカン遺伝子導入で、ここではscAAVrh.74.MHCK7.hSGCBの全身送達後に見られた。コラーゲンI型及びIII型のピクロシリウスレッド染色を用いて、腓腹及び横隔膜筋中のコラーゲンのレベルを、7ヶ月齢のBL6 WTマウス(n=4)、未治療のsgcb
-/-マウス(n=4)、及び注射の6ヶ月後の被治療sgcb
-/-マウス(n=5)において分析した。被治療筋肉は、未治療のsgcb
-/-の筋肉と比較して有意に少ないコラーゲン沈着を示した(
図14a)。ベクター形質導入GAS筋は、未治療sgcb-/-GAS筋における43.55±3.33%のコラーゲンと比較して、17.55±0.59%のコラーゲンを含んでいた(p<0.0001)。さらに、被治療横隔膜筋は、未治療のsgcb-/-の筋肉における44.05±2.39%と比較して、21.67±1.09%のコラーゲンを含み、LGMD2E表現型の線維症成分を緩和するhSGCB遺伝子導入の能力を示した(p<0.0001)(
図14b)。
【0105】
実施例11
全身送達後の横隔膜機能の回復
hSGCB遺伝子導入が筋機能を改善できるかどうかを決定するために、scAAVrh.74.MHCK7.hSCGBで治療されたSGCB
-/-マウスからの横隔膜筋の機能特性を評価した(方法についてはGriffin et al.を参照されたい)。SGCB-/-マウスの横隔膜における機能的欠損をまず確立した。KO横隔膜は、BL6 WTマウス(116.24mN/mm
2対236.67mN/mm
2)と比較して50.9%減少した比力出力(116.24mN/mm
2)及び厳しい疲労プロトコルに従ってより大きな喪失(SGCB
-/-では23%喪失、BL6 WTでは7%の喪失)を示した。横隔膜におけるほぼ100%のhSGCB発現をもたらすscAAVrh.74.MHCK7.hSGCBの尾静脈送達は、226.07mN/mm
2に改善された比力出力及びわずか12%の力の喪失での疲労に対するより大きな耐性を有する横隔膜機能の回復をもたらす(n=5)(
図15)。
【0106】
実施例12
scAAVrh.74.CMV.miR29Cの送達はSGCB-/-マウスにおける線維症を軽減する
骨格筋(
図2、4、6)ならびに心臓及び横隔膜(
図8)の両方において特定された広範囲の線維症は、LGMD2Eにおけるコラーゲン沈着(線維症)を治療する必要性を示した。以前に、デュシェンヌ型筋ジストロフィーにおいて、Mir29Cが(Mir29A、B、及びCのうちで)最も重度に減少していることを見出した。β-サルコグリカン欠損マウス(LGMD2Eのマウスモデル)においてもMir-29Cが減少するであろうと仮定した。これが正しいことが証明された(
図15)。Mir29Cレベルが減少し、線維症(コラーゲン)レベルが増加し、線維症の3つの成分(Co1A、Col3A、及びFbn)がRNAレベルで増加した。Mir29Cで線維症を予防することができるかどうかを試験するために、遺伝子療法ベクターscrAAVrh.74.CMV.miR29c(3×10
11vg)を4週齢のSGCB-/-マウス(n=5)の前脛骨筋に注射した。scrAAVrh.74.CMV.miR29cは、
図16に示され、米国仮出願第62/323,163号に記載され、その開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。AAVrh.74.CMV.miR29Cでの2ヶ月の治療後、被治療及び対照SGCB-/-マウスならびにWTマウスからTA筋を採取し、線維症(コラーゲンレベル)について分析した(各群n=5)。シリウスレッド染色及び定量化を用いて、コラーゲンレベルは治療後に減少した(
図17参照)。Col1A、Col3A、及びFbnの転写物レベルが正常化し、筋線維サイズが増加した。コラーゲン1及び3について染色するシリウスレッドで染色された未治療及びAAVrh.74.CMV.miR29C治療前脛骨筋の走査された全切片の代表的な画像を
図118に示す。これは、scAAVrh.74.CMV.miR29CがSGCB-/-マウスにおける線維症を軽減し、scAAVrh.74.tMCK.hSGCBまたはscAAVrh.74.MHCK7.hSGCBでの遺伝子置換と組み合わせて使用することができるという原理の証明である。
【0107】
実施例13
SGCB-/-マウスへの静脈内遺伝子導入は胸椎の後弯症を軽減する
LGMD2Eに罹患している患者における組織病理の悪化による胴筋の変性は、後弯症に起因し得る。脊柱を支える筋肉の弱化に起因する胸椎の後弯症によって、横隔膜が前方に押し出され、肺容量及び横隔膜機能をさらに損なうことがある。後弯症の肉眼解剖学的外観を有するsgcb
-/-マウスにおける表現型の重症度の結果として、全身X線撮影法を用い、7ヶ月齢のBL6 WTマウス(n=6)、sgcb
-/-マウス(n=6)、及び注射の6ヶ月後の被治療sgcb
-/-マウス(n=6)における後弯症の程度を決定した。後弯指数(KI)スコアは、後弯症のレベルの定量値を決定する(Laws et al.Appl.Physiol.97:1970-7,2004)。
図19aのWTパネルに示すように、KIスコアは、脊柱の弯曲の頂点までの中間線の長さに対する前肢から後肢までの長さの比である。sgcb
-/-マウスは重度に弯曲した脊椎及び3.64±0.16のより低いKIスコアを示すが(n=6)、BL6 WTマウスは有意にまっすぐな脊椎を有し、6.01±0.41のより高いKIスコアを得る(n=6)(p<0.01)(
図19b)。被治療sgcb
-/-マウスは、5.39±0.58までのKIスコアの増加と共に脊柱における後弯症の程度の有意な減少を示した(n=6)(p<0.05)(
図19b)。これらのデータは、scAAVrh.74.MHCK7.hSGCBの静脈内送達が、脊椎全体の完全性にとって有益であり、疾患に含まれる後弯症及び関節拘縮を緩和することができることを示した。このデータは、本発明のrAAVベクターの全身送達後のsgcb
-/-マウスにおける後弯症の緩和及び身体活動の増加を示した。このデータは、本発明の遺伝子療法がLGMD2E患者の生活の質を改善するという追加の証拠である。
【0108】
実施例14
心筋症の評価
四肢及び横隔膜筋の組織学的破壊もまた、H&E及びピクロシリウスレッド染色によって明らかな心筋壊死及び線維症の存在を特に有する7ヶ月齢のsgcb
-/-マウスの心筋において検出される(
図20a)。代表的な心機能障害は、しばしば、減少した心拍出量及びより低い駆出率を有する拡張型心筋症の形態である(Semplicini et
al.,Neurology 84:1772-81,2015、Fanin et al.,Neuromuscul Disorder 13:303-9,2003)。心臓磁気共鳴イメージング(MRI)を使用して、BL6 WTマウスと比較したsgcb
-/-マウスの心筋における機能的欠損を確立し、機能的結果尺度として使用するために、心臓のいくつかの機能的パラメータを評価した。7ヶ月齢の対照マウスのイメージングは、sgcb
-/-心臓における0.041±0.0019mLからBL6 WT心臓における0.029±0.0024mLへの1回拍出量の29.4%減少(p<0.01)、sgcb
-/-心臓における14.70±0.74mL/分からBL6 WT心臓における12.72±0.97mL/分への31.7%低い心拍出量、及び最後にBL6 WT心臓における76.90±1.67%と比較してsgcb
-/-心臓において66.21±3.83%の、14.3%低い駆出率(p<0.05)を示した(
図20b)。これは、この月齢での全体的な心機能の穏やかな低下及び心筋症の発症への傾向を示す。全身送達によるKOマウスの心臓におけるhSGCB発現の回復は、これらの欠損を部分的に補正し、1回拍出量を0.032±0.0027mLに、心拍出量を14.66±0.75mL/分に、駆出率を68.16±2.31%に改善した(
図19b)。ここで報告される心臓組織の組織学的及び機能的破壊との相関として、心臓機能の重要な調節因子及び心臓損傷の指標(バイオマーカー)である心筋トロポニンI(cTrpI)発現についてのウエスタンブロッティングは、罹患sgcb
-/-心臓においてBL6 WTマウスに見られるレベルの60.38%まで減少する(
図20c)。cTrpIのレベルは、治療後、WT心臓に見られる発現レベルの35.80%まで回復する(
図20d)。
【0109】
実施例15
身体活動の増加を伴う横隔膜筋の機能回復
LGMD2Eにおける横隔膜機能障害及び呼吸不全の重要な関与は、臨床全身療法の有効性確認に必須の横隔膜に対する機能的利益を要求する。横隔膜筋から採取された条片に対するエクスビボ実験プロトコルの使用により、β-サルコグリカンを回復させることが、この重度に損傷した筋肉に機能的利益をもたらすかを評価した。罹患マウスからの7ヶ月齢の横隔膜において特定された有意な組織病理と一致して、sgcb
-/-横隔膜(n=4)は、BL6 WTマウス(n=5)と比較して比力出力の有意な(51%)減少(それぞれ、116.24±10.49mN/mm2対±236.67±15.87mN/mm
2、p<0.001)、及び厳しい疲労プロトコルに従って最初の収縮後に生じたものからのより大きな力の喪失(sgcb
-/-では23±1.0%喪失、BL6 WTでは7.0±3.0%喪失、p<0.05)(
図6a)を伴う機能的欠損を示した。scAAVrh.74.MHCK7.hSGCBの尾静脈送達の6ヶ月後、比力出力の劇的な改善が観察された。比力出力は226.07±27.12mN/mm
2に増加し(n=5)(sgcb
-/-と比較してp<0.05)、反復疲労からの筋肉のより良好な保護は12.0±4.0%の力の喪失のみで観察された(sgcb
-/-と比較してp<0.05)(
図21a)。全体として、これらのデータは、TA筋における我々の以前の所見を支持し、β-サルコグリカンの回復が横隔膜筋における機能回復をもたらすことを示す。
【0110】
疲労の増加及び全体的な活動の低下の症状は、後弯症の発生に部分的に起因する多くの神経筋疾患において頻繁に報告されている。結果として、LGMD2Eの表現型を考慮して、KOマウスは健康なWTマウスと比較して自然に活動性が低く、またsgcb
-/-マウスへのrAAV.MHCK7.hSGCBの全身送達はより身体的に活動的なマウスをもたらすだろうという仮説を立てた。この仮説及び遺伝子導入のさらなる潜在的な機能的利益を試験するために、Kobayashi et al.,Nature 456:511-5,2008及びBeastrom et al.,Am.J.Pathol.179:2464-74,2011に記載されるものと同様のオープンフィールドケージ活動のレーザー監視プロトコルを、すべてのマウス群で実施した。
図21bのグラフは、総歩行(x平面及びy平面における水平運動)及び後肢垂直立ち上がりの両方において、WTと比較してKOマウスにおける有意な減少(55.5%)を示す。WTマウスにおける1時間にわたる水平歩行レーザービームブレークの平均数は、KOマウスにおける3271±483.8(n=6)と比較して7355±400.8(n=6)であった(p<0.0001)。さらに、WTマウスにおいて記録された垂直立ち上がりビームブレークの平均数は、KOマウスにおける264.5±63.36に対し、626.7±53.76であった(p<0.01)(
図21b)。最初の仮説と一致して、rAAV.MHCK7.hSGCB治療マウスは、活動の定量化において例示されたKOと比較して明らかにより活動的であり、総歩行は5143±293.2ビームブレークまで22%増加し(p<0.05)、後肢垂直立ち上がりは被治療マウス(n=6)において615.3±95.93ビームブレークまで77%劇的に増加した(p<0.05)(
図21b)。
【0111】
実施例16
rAAVrh.74.MHCK7.hSGCBの安全性及び生体分布分析
総用量1.0×1012vg(5×1013vg/kg)のscAAVrh.74.MHCK7.hSGCBの全身送達の6ヶ月後のsgcb-/-マウスにおいて、hSGCB遺伝子療法の潜在的な毒性または安全性の懸念を評価した。ベクター生体分布及びオフターゲット導入遺伝子発現を、それぞれ、qPCR及びウエスタンブロッティングを用いて、ベクター投与sgcb
-/-動物からの組織試料(TA、TRI、横隔膜、心臓、生殖腺、肺、腎臓、肝臓、及び脾臓)について分析した。ベクター特異的プライマープローブセットを用いて、MHCK7.hSGCBベクターゲノムを、回収されたすべての組織において様々なレベルで検出した。予想通り、最高レベルは肝臓ならびに骨格筋及び心臓に見られ、試験物品がベクター投与マウスの意図されたすべての筋肉に効率的に送達されたことを示した(
図22a)。さらに、hSGCBタンパク質発現を検出するためのウエスタンブロッティングにより、筋特異的MHCK7プロモーターの機能性ならびに心筋及び骨格筋に限定された導入遺伝子の発現が確認された。β-サルコグリカンタンパク質の発現は、すべての骨格筋試料及び心臓試料において様々な量で観察され、重要なことに、いずれの非筋組織でも検出されず(
図22b)、β-サルコグリカンが筋特異的タンパク質であることが知られているという事実によって支持された。最後に、ヘマトキシリン&エオシン染色を、この研究で使用される治療用量のベクターで全身治療された5匹のsgcb
-/-マウス及び5匹のC57BL6 WTマウスから採取された筋組織及びすべてのオフサイト器官の凍結切片に対して行った。次いで、これらの切片は、獣医学の病理学者により毒性について正式に調査され、いずれのマウスからのいずれの試料にも有害作用は検出されなかった。まとめると、これらのデータは、この試験物品が試験動物によって十分に忍容されたことを示している。
【0112】
比較的低い用量(総用量1x1012vg、5x1013vg/kg)を使用して有害作用を伴わずに体全体のすべての筋肉においてこのような高レベルの形質導入が達成されたという事実は、LGMD2E患者への変換に大きな期待を与える。臨床的観点から、本明細書に記載の実験で使用される用量は、現在臨床試験中である、SMAを有する乳児に送達されるSMN1発現AAV療法の全身送達に使用される用量よりもずっと低い(Mendell et al.,Mol.Ther.24:S190,2016)。機能的利益を伴うMHCK7プロモーターを用いたβ-サルコグリカン発現の高効率な回復は、臨床的に適用可能な投与レベルで非常に有望であり、LGMD2E患者のβ-サルコグリカン欠損における心臓障害の高発生率を考慮すると、全身投与はこれらの患者に大きな利益をもたらす。
【0113】
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