(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084962
(43)【公開日】2022-06-08
(54)【発明の名称】リポソーム様ナノカプセル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/51 20060101AFI20220601BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20220601BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20220601BHJP
A61K 31/122 20060101ALI20220601BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20220601BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220601BHJP
A61P 25/00 20060101ALN20220601BHJP
A61P 9/00 20060101ALN20220601BHJP
A61P 3/10 20060101ALN20220601BHJP
A61P 9/10 20060101ALN20220601BHJP
A61P 1/16 20060101ALN20220601BHJP
A61P 13/12 20060101ALN20220601BHJP
【FI】
A61K9/51
A61K9/127
A61K47/24
A61K31/122
A61K47/42
A61K47/10
A61P25/00
A61P9/00
A61P3/10
A61P9/10
A61P1/16
A61P13/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019070124
(22)【出願日】2019-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】519165504
【氏名又は名称】ルカ・サイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】山田 勇磨
(72)【発明者】
【氏名】原島 秀吉
(72)【発明者】
【氏名】日比野 光恵
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 悠介
(72)【発明者】
【氏名】渡慶次 学
(72)【発明者】
【氏名】真栄城 正寿
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076BB11
4C076CC01
4C076CC09
4C076CC11
4C076CC17
4C076DD63
4C076EE23
4C076EE41
4C076FF16
4C076FF68
4C076GG21
4C206AA10
4C206CB27
4C206MA43
4C206MA86
4C206NA10
4C206ZA01
4C206ZA36
4C206ZA51
4C206ZA75
4C206ZC35
(57)【要約】
【課題】CoQ10を含む難水溶性化合物を、MITO-Porterを用いて、所望のより小さい粒子径を有し、かつ所望の多分散性指数を有し、かつ所望のゼータ電位を有するナノカプセルを再現性良く調製でき、かつ大量生産も可能なリポソーム様のナノカプセルの製造方法を提供すること。
【解決手段】難水溶性化合物を含有し、DLS法で測定した平均粒子径が60nm以下である脂質膜構造体を分散質として分散媒中に含有する分散体。脂質膜構造体の脂質膜は、リン脂質、膜透過性ペプチド及び脂質修飾PEGを含有する。リン脂質、膜透過性ペプチド、脂質修飾PEG並びに難水溶性化合物を溶解したアルコール溶液と水系溶媒とをマイクロ流路構造体のマイクロ流路の入口に連続的に供給し、マイクロ流路内でアルコール溶液を水系溶媒で希釈して、難水溶性化合物を含有する脂質膜構造体を分散質として含有する分散体をマイクロ流路の出口から回収する工程を含む、分散体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難水溶性化合物を含有し、DLS法で測定した平均粒子径が60nm以下である脂質膜構造体を分散質として分散媒中に含有する分散体であって、前記脂質膜構造体の脂質膜は、リン脂質及び脂質修飾ポリエチレングリコールを含有する、前記分散体。
【請求項2】
前記リン脂質は、ジオレイルホスファチジルエタノールアミンとホスファチジン酸及び/又はスフィンゴミエリンである、請求項1に記載の分散体。
【請求項3】
前記難水溶性化合物がBCS(Biopharmaceutics Classification System)クラス4に属する化合物である、請求項1又は2に記載の分散体。
【請求項4】
前記難水溶性化合物がCoQ10である、請求項1又は2に記載の分散体。
【請求項5】
前記分散媒が水系溶媒である、請求項1~4のいずれかに記載の分散体。
【請求項6】
前記分散媒はアルコールを含有しない、請求項1~5のいずれかに記載の分散体。
【請求項7】
前記脂質膜構造体の脂質膜は、膜透過性ペプチドをさらに含有する、請求項1~6のいずれかに記載の分散体。
【請求項8】
前記膜透過性ペプチドが、連続した4~20個のアルギニン残基からなるポリアルギニンペプチドである、請求項7に記載の分散体。
【請求項9】
DLS法で測定した脂質膜構造体の多分散性指数(PDI)は、0.3以下である、請求項1~8のいずれかに記載の分散体。
【請求項10】
脂質膜構造体のゼータ電位は、15~25mVの範囲である、請求項1~9のいずれかに記載の分散体。
【請求項11】
前記分散体は、前記難水溶性化合物を細胞のミトコンドリアに移送するために用いられる、請求項1~10のいずれかに記載の分散体。
【請求項12】
リン脂質、膜透過性ペプチド、脂質修飾ポリエチレングリコール並びに難水溶性化合物を溶解したアルコール溶液と水系溶媒とをマイクロ流路構造体のマイクロ流路の入口に連続的に供給し、マイクロ流路内で前記アルコール溶液を水系溶媒で希釈して、難水溶性化合物を含有する脂質膜構造体を分散質として含有する分散体をマイクロ流路の出口から回収する工程を含む、分散体の製造方法。
【請求項13】
前記リン脂質が、ジオレイルホスファチジルエタノールアミンとホスファチジン酸及び/又はスフィンゴミエリンであり、前記膜透過性ペプチドが、連続した4~20個のアルギニン残基からなるポリアルギニンペプチドである、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記脂質膜構造体は、リン脂質、膜透過性ペプチド、及び脂質修飾ポリエチレングリコールを含有する、請求項12又は13に記載の製造方法。
【請求項15】
マイクロ流路へのアルコール溶液及び水系溶媒の各供給量を、マイクロ流路の出口から回収される分散体のアルコール濃度が40%以下になる量に制御する、請求項12~14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
マイクロ流路の出口から回収した分散体からアルコールを除去する工程をさらに含む請求項12~15のいずれに記載の製造方法。
【請求項17】
アルコールを除去した分散体を濃縮する工程をさらに含む、請求項12~16のいずれに記載の製造方法。
【請求項18】
各工程を0~30℃の範囲の温度で実施する、請求項12~17のいずれに記載の製造方法。
【請求項19】
マイクロ流路構造体は、その上流側において、互いに独立した、第1の流動体を導入する第1導入路と、第2の流動体を導入する第2導入路とが、それぞれ一定長を有して合流し、その下流側に向かって1つの希釈流路を形成しており、前記希釈流路は、少なくともその一部において二次元的に屈曲した流路部位を有し、当該屈曲した流路部位は、これより上流の希釈流路の軸線方向ないしその延長方向をX方向と、このX方向と垂直に交差する希釈流路の幅方向をY方向とし、これより上流の希釈流路の流路幅をy0とした場合に、Y方向において対向する希釈流路の両側壁面より交互に、流路中心側に向かって、略Y方向(略+Y方向、略-Y方向)に、1/2y0以上1y0未満の一定高さh1,h2...を有し、かつX方向に一定幅x1,x2...を有して突出し、希釈流路の流路幅を規制する構造子が、一定間隔d1,d2...をもって少なくとも2つ以上設けられていることで形成されている流路構造体であり、アルコール溶液を第1導入路に導入し、水系溶媒を第2導入路に導入する、請求項12~18のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポソーム様ナノカプセル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ミトコンドリアの機能異常と種々の疾患(神経変性疾患、心筋症、糖尿病、他)との関連が報告されている。組織傷害時の細胞死には、過剰に発生する活性酸素やエネルギー産生低下が大きな要因となっており、これらの機能を制御するミトコンドリアは組織傷害を原因とする種々の疾患(虚血・薬剤性心疾患・肝疾患、コエンザイムQ10(CoQ10)欠乏性腎症、他)に対する有効な治療法になり得る。臓器の虚血状態の回復処置は、様々な疾患治療に適応可能な有用な戦略となる。例えば、外科手術時の一時的な臓器(肝臓、心臓、脳など)の虚血状態は、術中・術後の患者状態に大きく影響を与える。また、心筋梗塞や脳梗塞などの虚血性心疾患は、平時の予防および発症時の迅速な虚血状態の治療が重要となる。これまでに、虚血の予防・治療のためのCoQ10(ノイキノン錠(R))などが開発されているが、CoQ10の高い難水溶性から経口投与では吸収が制限され、治療効果が十分ではないため虚血状態の治療は大きなニーズがあると考えられている。
【0003】
CoQ10は脂溶性が非常に高く注射製剤などに適応できないため、主な剤形は錠剤である。これは、迅速な対応が求められる虚血性疾患治療への適応は難しく、CoQ10には強力な抗酸化作用などの機能があるにも関わらず、治療法の選択肢を狭めている。このような状況に対し、本発明者らはCoQ10を脂質二重膜小胞(リポソーム)に封入し、溶液中での分散性を獲得させ、さらにミトコンドリア標的化能を付与したナノカプセル・MITO-Porter(非特許文献1、特許文献1)にCoQ10を内封したCoQ10搭載MITO-Porterを構築した。MITO-Porterは、ジオレイルホスファチジルエタノールアミンとホスファチジン酸又はスフィンゴミエリンとを含有する脂質膜を備え、オクタアルギニン(R8)を含有する脂質膜構造体からなる。本システムは活性酸素の発生源であるオルガネラ・ミトコンドリアへの効率的なCoQ10送達を実現し、虚血時の傷害を抑制することができる。動物(マウス)に静脈投与する実験モデルを用いてin vivo での適応を確認している(非特許文献2)。
【0004】
リポソームのようなナノカプセルを用いたDrug Delivery System (DDS)は、既存薬や核酸医薬品を内封または粒子表面へ担持させることにより、薬物は標的部位に集積し、治療効果の増大や副作用の軽減等の生物学的な効果をもたらす。さらに、ナノカプセルは可溶化技術にも応用され、CoQ10のような難水溶性分子の分散性の向上に寄与する。そして封入薬物を酸化から保護する作用もあり、安定性を改善することができ、物理化学的な効果をもたらす。
【0005】
このようにナノカプセル製剤は、従来製剤とは異なる魅力的な新しい物性を実現するため、研究が盛んに行われている。リポソームの代表的な調製法として単純水和法、逆相蒸発法 (reverse phase evaporation vesicle (REV)法)およびアルコール希釈法が挙げられる。CoQ10搭載MITO-Porterの場合、エタノール希釈法で調製した際に、最もCoQ10の搭載率(脂質に対する薬物の含有量)の高い粒子を得られることができる(非特許文献3)。
【0006】
しかし、ナノカプセル製剤が実用化した例は多くはない。その原因として、研究室レベルから工業レベルへの調製法のスケールアップ、製剤の安定性、試薬の品質、バリデーションの難しさ等が挙げられる。その中でも医薬用リポソームをはじめとする微粒子製剤は、製造工程の変更による物理化学的特性のわずかな変化が薬物の有効性や製剤の安定性に大きな影響を及ぼすことが指摘されており、リポソーム製剤の実製造を達成するためには、重大なスケールアップリスクが存在する。
【0007】
CoQ10以外でも、近年開発候補となる化合物は溶解度が極めて低い化合物が多い。これらの化合物の多くはBCS クラス4 に属する。BCS 分類(Biopharmaceutics Classification System, Table 1)とは水への溶解性と消化管膜透過性の大小の組み合わせに基づく薬物分類として提唱された概念である。BCS は製剤開発において被験者や製薬会社の負担を軽減することを目的としており、消化管吸収過程の律速段階の推定や製剤の生物学的同等性試験の効率化に活用されている。BCS クラス4 に属する薬物は低溶解性・低膜透過性という特性を持つために消化管吸収性が悪く、一般的に製剤化が難しいのが現状である。医薬品開発では本来、注射剤から始まり、バイオアベイラビリティがよいものを経口剤に剤形変化することが主流である。しかし、BCS クラス4薬物は注射剤化することも困難であり、難水溶性分子であるBCS クラス4薬物はその流れに逆行するしかないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本特許第5067733号公報
【特許文献2】WO2018/190423 A1
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Y. Yamada et al., Biochim Biophys Acta. 2008, 1778, 423-32
【非特許文献2】Y. Yamada et al., J. Control. Release 213: 86-95 2015
【非特許文献3】Yamada Y. et al., Biol. Pharm. Bull. 40, 2183-90 (2017)
【非特許文献4】Maeki M. et al., Adv Drug Deliv Rev.15;128:84-100 (2018)
【非特許文献5】Kimura N. et al., ACS Omega 2018, 3, 5044-5051
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のようにin vivoの検証から、CoQ10搭載MITO-Porterは治療効果が期待できる。しかし、ミトコンドリアへの効率的なCoQ10送達のためには、より小さくかつ均一な粒子径を有し、かつ所定の表面電荷を有することが望まれる。従来法であるエタノール希釈法(非特許文献2、3)では、同一条件で繰り返し実施しても得られるCoQ10搭載MITO-Porterの粒子径は、80~120nmの範囲であり、粒子径の均一性の指標である多分散性指数(PDI)は0.2~0.4の範囲とばらつき、調製の再現性が悪く、安定した性能のナノカプセルの供給が困難であった。さらに、CoQ10搭載MITO-Porterは、R8(オクタアルギニン)に代表されるポリアルギニンペプチドで表面修飾され、所定のゼータ電位(例えば、15~25mVの範囲)を有するように表面電荷が調整される。しかし、エタノール希釈法ではナノカプセル調製後にポリアルギニンペプチドで表面修飾するが、表面電荷の再現性が悪く、かつ所定のゼータ電位を有するナノカプセルを安定的に調製することが難しかった。
【0011】
さらに、エタノール希釈法では、一度の調製で得られるCoQ10-MITO-Porterの調製量も少なかった (例えば、約400 μL)。CoQ10搭載MITO-Porterを臨床に適応するためには、効率よく封入ができ、安定的に、かつ従来法で得られるよりさらに粒子径が小さいナノカプセルを調製することができる新たな方法の提供が望まれている。
【0012】
MITO-Porterは難水溶性化合物を内包することで、効率よく可溶化でき、かつミトコンドリアへの効率的な移送手段となり得る。CoQ10以外の難水溶性分子についても、効率よく封入ができ、安定的に、かつ従来法で得られるよりさらに粒子径が小さいナノカプセルを調製することができれば、BCSクラス4に属する多く難水溶性化合物の医薬への応用が大きく拡がり得る。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで本発明者らは、CoQ10を含むBCSクラス4に分類されるような難水溶性化合物を、MITO-Porterを用いて、所望のより小さい粒子径を有し、かつ所望の多分散性指数を有し、かつ所望のゼータ電位を有するナノカプセルを再現性良く調製でき、かつ大量生産も可能なリポソーム様のナノカプセルの製造方法を提供することを目的として種々検討した。
【0014】
その結果、マイクロ流路デバイスを用いることで、上記目的を達成できること、さらには、条件によっては、従来調製すらできなかった、平均粒子径が60nm以下の難水溶性分子を含有するリポソーム様のナノカプセルを調製することができることも見出して、本発明を完成させた。
【0015】
本発明は、以下の通りである。
[1]
難水溶性化合物を含有し、DLS法で測定した平均粒子径が60nm以下である脂質膜構造体を分散質として分散媒中に含有する分散体であって、前記脂質膜構造体の脂質膜は、リン脂質及び脂質修飾ポリエチレングリコールを含有する、前記分散体。
[2]
前記リン脂質は、ジオレイルホスファチジルエタノールアミンとホスファチジン酸及び/又はスフィンゴミエリンである、[1]に記載の分散体。
[3]
前記難水溶性化合物がBCS(Biopharmaceutics Classification System) クラス4に属する化合物である、[1]又は[2]に記載の分散体。
[4]
前記難水溶性化合物がCoQ10である、[1]又は[2]に記載の分散体。
[5]
前記分散媒が水系溶媒である、[1]~[4]のいずれかに記載の分散体。
[6]
前記分散媒はアルコールを含有しない、[1]~[5]のいずれかに記載の分散体。
[7]
前記脂質膜構造体の脂質膜は、膜透過性ペプチドをさらに含有する、[1]~[6]のいずれかに記載の分散体。
[8]
前記膜透過性ペプチドが、連続した4~20個のアルギニン残基からなるポリアルギニンペプチドである、[7]に記載の分散体。
[9]
DLS法で測定した脂質膜構造体の多分散性指数(PDI)は、0.3以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の分散体。
[10]
脂質膜構造体のゼータ電位は、15~25mVの範囲である、[1]~[9]のいずれかに記載の分散体。
[11]
前記分散体は、前記難水溶性化合物を細胞のミトコンドリアに移送するために用いられる、[1]~[10]のいずれかに記載の分散体。
[12]
リン脂質、膜透過性ペプチド、脂質修飾ポリエチレングリコール並びに難水溶性化合物を溶解したアルコール溶液と水系溶媒とをマイクロ流路構造体のマイクロ流路の入口に連続的に供給し、マイクロ流路内で前記アルコール溶液を水系溶媒で希釈して、難水溶性化合物を含有する脂質膜構造体を分散質として含有する分散体をマイクロ流路の出口から回収する工程を含む、分散体の製造方法。
[13]
前記リン脂質が、ジオレイルホスファチジルエタノールアミンとホスファチジン酸及び/又はスフィンゴミエリンであり、前記膜透過性ペプチドが、連続した4~20個のアルギニン残基からなるポリアルギニンペプチドである、[12]に記載の製造方法。
[14]
前記脂質膜構造体は、リン脂質、膜透過性ペプチド、及び脂質修飾ポリエチレングリコールを含有する、[12]又は[13]に記載の製造方法。
[15]
マイクロ流路へのアルコール溶液及び水系溶媒の各供給量を、マイクロ流路の出口から回収される分散体のアルコール濃度が40%以下になる量に制御する、[12]~[14]のいずれかに記載の製造方法。
[16]
マイクロ流路の出口から回収した分散体からアルコールを除去する工程をさらに含む[12]~[15]のいずれに記載の製造方法。
[17]
アルコールを除去した分散体を濃縮する工程をさらに含む、[12]~[16]のいずれに記載の製造方法。
[18]
各工程を0~30℃の範囲の温度で実施する、[12]~[17]のいずれに記載の製造方法。
[19]
マイクロ流路構造体は、その上流側において、互いに独立した、第1の流動体を導入する第1導入路と、第2の流動体を導入する第2導入路とが、それぞれ一定長を有して合流し、その下流側に向かって1つの希釈流路を形成しており、前記希釈流路は、少なくともその一部において二次元的に屈曲した流路部位を有し、当該屈曲した流路部位は、これより上流の希釈流路の軸線方向ないしその延長方向をX方向と、このX方向と垂直に交差する希釈流路の幅方向をY方向とし、これより上流の希釈流路の流路幅をy0とした場合に、Y方向において対向する希釈流路の両側壁面より交互に、流路中心側に向かって、略Y方向(略+Y方向、略-Y方向)に、1/2y0以上1y0未満の一定高さh1,h2...を有し、かつX方向に一定幅x1,x2...を有して突出し、希釈流路の流路幅を規制する構造子が、一定間隔d1,d2...をもって少なくとも2つ以上設けられていることで形成されている流路構造体であり、アルコール溶液を第1導入路に導入し、水系溶媒を第2導入路に導入する、[12]~[18]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所望のより小さい粒子径を有し、かつ所望の多分散性指数を有し、かつ所望のゼータ電位を有するナノカプセルを再現性良く調製でき、かつ大量生産も可能なリポソーム様のナノカプセルの製造方法を提供できる。本発明の製造方法では、膜透過性ペプチドもナノカプセル作成の際に共存させ、膜透過性ペプチドを含有するナノカプセルを一段階で作成でき、その結果、得られるナノカプセルの性能のバラツキが抑制される。
【0017】
調製量に関しては、従来技術ではμLオーダーであったが、本発明の方法では無制限に調製が可能で実験室でもLオーダーという大量調製が見込める。調製時間も大容量になるほど本発明の方が、短い時間で調製ができる。したがって、マイクロ流路を用いた調製は均一・微小化・大量調製を可能にする。
【0018】
さらに本発明によれば、難水溶性分子を含有するにも関わらず、粒子径が60μm以下の従来では得られなかった、より小さい粒子径を有するナノカプセルを提供できる。さらに、このナノカプセルは、多分散性指数がより小さく、その結果、粒子径が小さいことと相まって細胞及びミトコンドリア内への取り込み効率が高まるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例におけるマイクロ流路デバイスを用いるマイクロナノ粒子の調製方法の概略説明図を示す。
【
図2】実施例1における、脂質相と水相の流速比を調節した場合の実験結果(透析前)を示す。
【
図3】実施例1における、脂質相と水相の流速比を調節した場合の実験結果(透析後)を示す。
【
図4】実施例1における、透析温度の影響試験の結果を示す。
【
図5】実施例1における、安定性試験の結果を示す。
【
図6】比較例1で従来法で得られたナノカプセルの物性を示す。
【
図7】実施例2における、従来法(比較例1)と実施例1(透析前及び透析後)で得られたナノカプセルの粒子径、PdI及びゼータ電位を示す。
【
図8】実施例3における、子宮頸がんHeLa細胞を用いてフローサイトメトリー(FACS)による細胞取り込み評価および共焦点レーザー顕微鏡(CLMS)による細胞内局在観察結果を示す。
【
図9】実施例3における、細胞内局在観察 (HeLa細胞)画像を示す。
【
図10】実施例3における、細胞内局在観察 (モデル疾患細胞)画像を示す。
【
図11】実施例3における、細胞内局在観察 (Human CDC細胞)画像を示す。
【
図12】実施例3における、細胞内局在観察 (Human pulmonary artery smooth muscle細胞)画像を示す。
【
図13】実施例4における、CoQ
10濃度の変化の試験の結果を示す。
【
図14】実施例6におけるCoQ
10含有ナノカプセルの濃縮試験
【
図15】実施例6におけるCoQ
10含有ナノカプセルの安定性試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<分散体の製造方法>
本発明の分散体の製造方法は、リン脂質、膜透過性ペプチド、脂質修飾ポリエチレングリコール並びに難水溶性化合物を溶解したアルコール溶液と水系溶媒とをマイクロ流路構造体のマイクロ流路の入口に連続的に供給し、マイクロ流路内で前記アルコール溶液を水系溶媒で希釈して、難水溶性化合物を含有する脂質膜構造体を分散質として含有する分散体をマイクロ流路の出口から回収する工程を含む。以下、本発明における分散質をナノカプセルと呼ぶこともある。
【0021】
この方法によれば、難水溶性化合物を含有し、かつDLS法で測定した平均粒子径が60nm以下である脂質膜構造体を含む分散体を得ることもできる。
【0022】
リン脂質は、例えば、ホスファチジルコリン(例えば、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン等)、ホスファチジルグリセロール(例えば、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジグリセロール等)、ホスファチジルエタノールアミン(例えば、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジエタノールアミン等)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール、セラミドホスホリルグリセロールホスファート、1,2-ジミリストイル-1,2-デオキシホスファチジルコリン、プラスマロゲン、卵黄レシチン、大豆レシチン、これらの水素添加物等であることができる。リン脂質は、ホスファチジルエタノールアミン(例えば、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジエタノールアミン等)、スフィンゴミエリンであることが好ましく、より好ましくはジオレイルホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリンである。
【0023】
リン脂質は、荷電物質を含有することができ、荷電物質は、脂質膜に正荷電又は負荷電を付与することができる、脂質膜の任意の構成成分であり、脂質膜に含有される荷電物質量は、脂質膜を構成する総物質量の通常30%(モル比)以下、好ましくは25%(モル比)以下、さらに好ましくは20%(モル比)以下である。なお、荷電物質の含有量の下限値は0である。正荷電を付与する荷電物質としては、例えば、ステアリルアミン、オレイルアミン等の飽和又は不飽和脂肪族アミン;ジオレオイルトリメチルアンモニウムプロパン等の飽和又は不飽和カチオン性合成脂質等が挙げられ、負電荷を付与する荷電物質としては、例えば、ジセチルホスフェート、コレステリルヘミスクシネート、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸等が挙げられる。
【0024】
リン脂質は、ジオレイルホスファチジルエタノールアミンとホスファチジン酸及び/又はスフィンゴミエリンであることが、ミトコンドリア内への目的物質である難水溶性化合物の効果的な送達のために好ましい。
【0025】
膜透過性ペプチドは、ミトコンドリア内への目的物質である難水溶性化合物の効果的な送達に有効な膜透過性ドメインである。膜透過性ペプチドは、特許文献1に記載の段落0052~0092に記載の膜透過性ペプチドであることができ、好ましくは連続した4~20個のアルギニン残基からなるポリアルギニンペプチドである。ポリアルギニンペプチドは、好ましくは6~12個、さらに好ましくは7~10個の連続したアルギニン残基からなる。
【0026】
脂質修飾ポリエチレングリコール(PEG)は、脂質膜に親水性を付与する成分である。脂質修飾ポリエチレングリコール(PEG)は、ポリエチレングリコール(PEG)に脂質修飾した化合物であり、ポリエチレングリコールの分子量は、例えば300~10,000程度、好ましくは500~10,000程度、さらに好ましくは1,000~5,000程度である。脂質修飾ポリエチレングリコールとしては、例えば、ジオレオイルグリセロール修飾PEG、ジラウロイルグリセロール修飾PEG、ジミリストイルグリセロール修飾PEG、ジパルミトイルグリセロール修飾PEG、ジステアロイルグリセロール修飾PEG等であることができる。脂質修飾ポリエチレングリコール(PEG)は、より具体的には、例えば、ステアリル化ポリエチレングリコール(例えばステアリン酸PEG45(STR-PEG45)など)を用いることができる。その他、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000]-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、n-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000]-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-750]-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000]-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000]-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミンなどのポリエチレングリコール誘導体などを用いることもできる。但し、これらに限定されることはない。
【0027】
難水溶性化合物は、制限はないが、例えば、BCS(Biopharmaceutics Classification System) クラス4に属する化合物であることができる。難水溶性化合物は、あくまでも例示であるが、例えば、Terfenadine,Furosemide,Ciclosporin,Acetazolamide,Colistin,Mebendazole,CoenzymeQ10(CoQ10)等を挙げるあることができる。但し、この範囲に制限される意図ではない。
【0028】
アルコール溶液のアルコールに特に制限はないが、例えば、エタノール、t-ブタノール、1-プロパノール、2-プロパノール及び2-ブトキシエタノール等を挙げることができる。
【0029】
アルコール溶液の各成分の濃度は、所望のナノカプセルに応じて適宜決定することができ、
リン脂質は、例えば、50~80mol%の範囲、
膜透過性ペプチドは、例えば、5~20mol%の範囲、
脂質修飾ポリエチレングリコールは、例えば、1~10mol%の範囲、
難水溶性化合物は、例えば、10~40mol%の範囲にすることができる。但し、これらの範囲に制限される意図ではない。
【0030】
水系溶媒としては、水、または基本的に水を主成分とする、例えば、生理食塩水、緩衝水溶液(例えば、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液等)等を挙げることができる。但し、分散質の粒径制御という観点からは、リン酸緩衝液を用いることが好ましい場合がある。
【0031】
本発明の分散体の製造方法においては、リン脂質等を含有するアルコール溶液を水系溶媒で希釈して、難水溶性化合物を含有する脂質膜構造体を分散質として含有する分散体をマイクロ流路の出口から回収する。本発明の分散体の製造方法において用いるマイクロ流路構造体は、リン脂質等を含有するアルコール溶液を流通下、水系溶媒で希釈して、脂質膜構造体を分散質として含有する分散体を調製できるマイクロ流路構造体であれば、特に制限なく利用できる。そのようなマイクロ流路構造体は、例えば、特許5823405号公報、特許6234971号公報、非特許文献4、非特許文献5、WO2018/190423 A1(特許文献2)等に記載のマイクロ流路構造体を例示できる。本発明においては、特に、特許文献2に記載のマイクロ流路構造体を用いることが、脂質膜構造体の粒子径を所望の値に制御しつつ、かつ分散度の小さい粒の揃った脂質膜構造体を分散質として含有する分散体を得ることができるので好ましい。
【0032】
特許文献2に記載のマイクロ流路構造体は、その上流側において、互いに独立した、第1の流動体を導入する第1導入路と、第2の流動体を導入する第2導入路とが、それぞれ一定長を有して合流し、その下流側に向かって1つの希釈流路を形成しており、前記希釈流路は、少なくともその一部において二次元的に屈曲した流路部位を有し、当該屈曲した流路部位は、これより上流の希釈流路の軸線方向ないしその延長方向をX方向と、このX方向と垂直に交差する希釈流路の幅方向をY方向とし、これより上流の希釈流路の流路幅をy0とした場合に、Y方向において対向する希釈流路の両側壁面より交互に、流路中心側に向かって、略Y方向(略+Y方向、略-Y方向)に、1/2y0以上1y0未満の一定高さh1,h2...を有し、かつX方向に一定幅x1,x2...を有して突出し、希釈流路の流路幅を規制する構造子が、一定間隔d1,d2...をもって少なくとも2つ以上設けられていることで形成されている流路構造体である。
【0033】
前記流路構造体において、流路幅y0は、好ましくは20~1000μmであり、より好ましくは100~400μmであり、さらに好ましくは150~300μmの範囲である。各構造子の幅x1,x2...は、好ましくは20~1000μmであり、より好ましくは50~300μmであり、さらに好ましくは70~200μmの範囲である。各構造子間の間隔d1,d2...は、好ましくは20~1000μmであり、より好ましくは50~400μmであり、さらに好ましくは70~200μmの範囲である。さらに各構造子の高さh1,h2...は、好ましくは1/2y0以上、3/4y0以下である。構造子は、好ましくは10~100個、より好ましくは10~50個、さらに好ましくは15~30個の範囲設けられている。
【0034】
前記流路構造体において、アルコール溶液を第1導入路に導入し、水系溶媒を第2導入路に導入する。第1導入路と第2導入路との合流点より最初の構造子の上流側端部までの距離は、この間を流れる設定速度の希釈流体が0.1秒以下で通過するように、希釈流体の設定速度に応じて規定されていることが好ましい。
【0035】
マイクロ流路へのアルコール溶液及び水系溶媒の各供給量は、マイクロ流路の出口から回収される分散体のアルコール濃度が40%以下になる量に制御することが、所望の粒子径及び分散度を有する脂質膜構造体を分散質として含有する分散体を得ることができるので好ましい。好ましくはマイクロ流路の出口から回収される分散体のアルコール濃度が5~35%の範囲、より好ましくは10~30%の範囲になる量に制御する。マイクロ流路構造体での操作は、溶媒の沸点も考慮しつつ、例えば、0~70℃の範囲の温度で実施することができる。マイクロ流路内でアルコール溶液を水系溶媒で希釈して、難水溶性化合物を含有する脂質膜構造体を分散質として含有する分散体をマイクロ流路の出口から回収する。
【0036】
マイクロ流路の出口から回収した分散体からアルコールを除去する工程をさらに含むことができる。分散体からのアルコール除去は、例えば、透析、蒸留などで行うことができる。
【0037】
アルコールを除去した分散体は、さらに濃縮工程に付すこともできる。濃縮工程は、例えば、遠心分離、溶媒(水)の蒸発や透析であることができる。
【0038】
本発明は、難水溶性化合物を含有し、DLS法で測定した平均粒子径が60nm以下である脂質膜構造体を分散質として分散媒中に含有する分散体であって、前記脂質膜構造体の脂質膜は、リン脂質及び脂質修飾ポリエチレングリコールを含有する、前記分散体である。本発明の分散体は、前記脂質膜構造体の脂質膜が膜透過性ペプチドを含むことができる。これらの分散体は上記本発明の製造方法により調製することができる。但し、分散体の脂質膜構造体の脂質膜が膜透過性ペプチドを含まない場合には、リン脂質等を含有するアルコール溶液として膜透過性ペプチドを含まないアルコール溶液を用いる。
【0039】
脂質膜構造体の脂質膜を後継するリン脂質、膜透過性ペプチド及び脂質修飾ポリエチレングリコールの種類については、前記製造方法に関する記載を参照する。
【0040】
特に、特許文献2及び非特許文献5に記載のマイクロ流路構造体を用い、諸条件を設定することで、DLS法で測定した平均粒子径が60nm以下である脂質膜構造体を分散質として分散媒中に含有する分散体が得られる。
【0041】
リン脂質は、ジオレイルホスファチジルエタノールアミンとホスファチジン酸及び/又はスフィンゴミエリンであることが、ミトコンドリア内への目的物質である難水溶性化合物の効果的な送達のために好ましい。
【0042】
ナノカプセルが膜透過性ペプチドを含有する場合の膜透過性ペプチドの含有量は、脂質膜の総量に対して、例えば、5~20モル%、好ましくは10~15モル%の範囲である。
【0043】
ナノカプセルにおける脂質修飾PEGの含有量は、脂質膜の総量に対して、例えば、1~10モル%、好ましくは3~5モル%の範囲である。
【0044】
ナノカプセルにおける難水溶性化合物の量は、脂質膜の総量に対して、例えば、10~40モル%、好ましくは15~30モル%の範囲、20~25モル%の範囲である。
【0045】
但し、いずれもこれらの範囲に制限される意図ではない。
【0046】
本発明の分散体は、DLS法で測定した脂質膜構造体の多分散性指数(PDI)が、好ましくは0.3以下であり、好ましくは0.25以下の範囲である。多分散性指数(PDI)は小さいほど好ましいが、実質的には下限値は0.1程度である。但し、限定する意図ではない。
【0047】
本発明の分散体は、脂質膜構造体のゼータ電位が、好ましくは15mV以上の範囲である。ゼータ電位は、大きい程好ましいが、実質的には上限値は50mV程度である。但し、限定する意図ではない。本発明の分散体の脂質膜構造体のゼータ電位はゼータサイザーナノZS(Malvern社、Worcestershire、UK)によって、レーザードップラー式電気泳動法を用いて測定することができる。
【0048】
本発明の分散体は、分散媒が水系溶媒である。水系溶媒の例は、前掲の通りである。本発明の分散体は、分散媒がアルコールを含有しない物であることができる。
【0049】
本発明の分散体は、難水溶性化合物を細胞内、および細胞内のミトコンドリアに移送するために用いられる。
【0050】
本発明の分散体は、例えば、リン脂質が、ジオレイルホスファチジルエタノールアミンとホスファチジン酸及び/又はスフィンゴミエリンである、分散体であり、難水溶性化合物としてCoQ10を脂質膜の総量に対して、10~40モル%の範囲で含有し、脂質膜構造体のDLS法で測定した60nm以下、好ましくは55nm以下、より好ましくは50nm以下の脂質膜構造体を分散質として含有する。平均粒子径は、細胞への取り込み効率などの観点からはある程度小さい方が好ましいが、実際の調製の可能性等も考慮すると下限値は10nm程度であり、好ましくは20nm程度である。但し、限定する意図ではない。
【実施例0051】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0052】
<準備するもの>
□脂質溶液(7.5 mM DOPE in EtOH、7.5 mM SM in EtOH、7.5 mM DMG-PEG 2000 in EtOH、1.5 mM CoQ10 in EtOH)
DOPE: 1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine
SM: sphingomyelin
DMG-PEG 2000: 1,2-Dimyristoyl-sn-glycerol, methoxy polyethylene glycol 2000□EtOH □PBS(-) □20 mg/mL STR-R8 in EtOH
STR-R8: Stearylated R8
□透析膜Spectra/Por 4 dialysis membrane (MWCO 12k-14k, Spectram Labpratories)
□1 mL, 2.5 mLガラスシリンジ(HAMILTON)
□シリンジポンプStandard infusion Only Pump 11 Elite(HARVARD APPARATUS) □透析膜クリップSpectra/Por Closures
【0053】
<手順>
1. 脂質溶液、PBS(-)をすべて室温に戻す。CoQ10溶液は50℃2分間加温 (袋に入れて)又は、ソニケーションで溶解させる。
2. 透析用PBS(-)500 mLを作製し、撹拌させながら25℃で保存する。
3. ビーカーにDDW300~400 mLを入れ、透析膜Spectra/Por 4 dialysis membrane (MWCO 12k-14k)を適当な長さに切り、膜がくっつかないように激しめに撹拌し、水和させる(30 分以上)。
4. エッペンドルフチューブに以下の量の各溶液を加え、脂質溶液(脂質相)を調製する。
【0054】
DOPE/SM/DMG-PEG 2000/CoQ10/STR-R8=9/2/0.33/2/1.1(モル比)
7.5 mM DOPE 180μL
7.5 mM SM 40μL
1.5 mM CoQ10 200μL(emptyはEtOH)
7.5 mM DMG-PEG 2000 6.6μL
EtOH 3.4μL
Total 430μL
※20 mg/mL STR-R8(MW1533) 12.6μL(脂質の10 mol%)
※1 mM NBD-DOPE(MW924.17) 8.24μL(脂質の0.5 mol%)
NBD-DOPE: DOPE-N-(7-nitro-2-1,3-benzoxadiazole-4-yl)
【0055】
5. PBS(水相)も必要量用意する。
6. バッフルミキサー内臓マイクロ流路にキャップ・コネクター・シリンジ接合部を装着する(向きに注意する)。
7. 脂質溶液を1 mL、PBS(-)を2.5 mLガラスシリンジにそれぞれ充填し、シリンジをシリンジポンプに装着する。
※使用するシリンジと機器のDiameterがあっているか確認する。
8. マイクロ流路とポンプを接続し、脂質相、水相をそれぞれの流速で流し、空気が追い出されるのを確認する。混合後、はじめは廃液に回収、キムワイプで先端を拭いてからエッペンドルフチューブに適当な容量(250μL)を回収する。
※総流速500~1000μL/min
※FRR(水相/脂質相μL/min) 総流速500μL/minの場合
ex)・FRR1(50%希釈): 250/250 ・FRR3(25%希釈): 375/125 ・FRR4(20%希釈):400/100 ・FRR9(10%希釈): 450/50
※連続で使用する場合、シリンジはEtOHで洗浄し、流路は空気が抜けるのを確認し、なじませてから回収する。
【0056】
9. 透析膜をビーカーから取り出し、水気をとり、白いクリップで片方を固定し、膜をよじって中にLP溶液を入れ、オレンジのクリップでもう片方を止めて浮きを付け、PBS(-)にいれ、冷温室で2 時間以上透析する。その後、透析膜から溶液を回収する。
10. EtOHでシリンジは5回(はじめの2回はシリンジの先端も洗浄)、コネクターは3回洗浄する。流路は50 μL/minで10 分間洗浄する。流路は洗浄後、シリンジを用いて空気で2回置換する。
【0057】
実施例1
1-1. マイクロ流路を用いたCoQ
10-MITO-Porterの調製法
図1のマイクロ流路デバイスを用いて粒子調製を行った。シリンジポンプは、HARVARD APPARATUS社のStandard infusion Only Pump 11 Eliteを用いた。シリンジは、HAMILTON社のガラスシリンジを1 mL(脂質相)と2.5 mL(水相)を用いた。マイクロ流路を用いた調製では、(i)脂質相の濃度(ii)水相の種類(iii)総流速(iv)流速比(水相/脂質相の流速の比率=EtOH希釈濃度に相当)のより多彩な粒子設計が可能となる。
【0058】
(i)脂質相
7.5 mM DOPE(EtOH)、7.5 mM SM(EtOH)、7.5 mM DMG-PEG 2000(EtOH)を調製し、室温とする。エッペンドルフチューブに上図の体積比となるように脂質材料を含有したエタノール懸濁液を準備し、(i)脂質相とした。さらに脂質相には脂質濃度に対して10 mol%修飾となるように20 mg/mLのSTR-R8を12.6μL含有させた。従来法ではCoQ10の沈殿が確認されることもあったので、濃度を薄くした1.5 mM CoQ10(EtOH)とし、さらに加温(50℃、2分間)・超音波処理して希薄溶液を調製した。調製した1.5 mMCoQ10(EtOH)は室温下で沈殿することはなかった。
(ii)水相は従来法の希釈溶媒であるPBS(-)を用いた。
(iii)総流速は500μL/minとした。
【0059】
(iv)流速比
流速比は、脂質相と水相の流速を調節することで、エタノール希釈濃度が10、20、30、40%となるようにそれぞれ50μL/min・450μL/min、100μL/min・400μL/min、150μL/min・350μL/min、200μL/min・300μL/minとした。マイクロ流路によりエタノール希釈濃度を変化させることで正に帯電した約60~250 nmの粒子を調製した(
図2)。エタノール希釈濃度が低くなるにつれて粒子径が小さくなった。エタノール希釈濃度が20~30 %の時、PdIは約0.12と単分散であったが、エタノール希釈濃度10%ではPdI = 0.384±0.0377となり、他の希釈濃度よりも多分散であった。
【0060】
マイクロ流路で調製したCoQ
10-MITO-Porter溶液は、2時間の透析を行った(
図1)。透析では、Spectram Labpratories社の透析クリップSpectra/Por Closuresおよび透析膜Spectra/Por 4 dialysis membrane (MWCO 12k-14k)を用いた。リポソーム溶液は、透析を行うことで透析前と比較して粒子径が減少し、PdIが増加する傾向にあった(
図3)。肝臓を標的としたDDSでは、粒子径が100 nm以下のリポソームほど目的物質の効率の良い送達を可能とする。今回検証した条件の中で、特にエタノール希釈濃度20%の時、粒子径 = 47.0±6.0 nm、PdI = 0.243±0.0106の従来法では不可能であった粒子径が小さく、分散性が良好な粒子を調製した。
【0061】
1-2. 透析温度の影響
4℃は生理活性物質が失活せず、衛生面からも無菌的である。一方、25℃は温度管理が容易で、低コストで扱いが簡便である。そこで透析温度は4℃と25℃を試みた。その結果、透析温度の違いによる粒子径とPdIの変化は見られず、同様であった(
図4)。これは温度に依存症せず、良好な粒子を得ることができるので、調製したい粒子の状況に合わせて温度を選択できることになる。以降の検討は、透析温度は室温とした。
【0062】
1-3. 安定性試験
調製した粒子の安定性を評価するために、4℃および25℃、遮光下にて14日間の安定性試験を行った(
図5)。保存期間中、25℃においては経日的に粒子径が増大した。一方、4℃では粒子径が約50 nm付近を維持し、安定なCoQ
10-MITO-Porterを調製した。
【0063】
比較例1
従来法を用いたCoQ10-MITO-Porterの調製法
エタノール希釈法(非特許文献2)利用して粒子調製を行った。7.5 mM DOPE(EtOH)、7.5 mM SM(EtOH)、7.5 mM DMG-PEG 2000(EtOH)を調製し、室温とする。エッペンドルフチューブに右図の体積比となるように脂質材料を含有したエタノール懸濁液を準備した。CoQ10は懸濁状態にあり沈殿が進むため、使用直前に超音波処理を行った。本懸濁液にPBS(-)緩衝液を加え、エタノール濃度が90%となるように希釈した。緩衝液添加後3秒間攪拌をし、その後すぐにエタノール濃度が5 %となるように緩衝液中に懸濁液を添加した。この溶液を限外ろ過フィルター・アミコン(MWCO:100 kDa)にアプライし、さらに緩衝液を加え限外ろ過を行った(1000 g, 25℃, 20分)。限外ろ過操作は2回繰り返し、エタノール濃度が0.1%になるようにした。回収したナノカプセルに、脂質量の10%になるように2 mg/mL STR-R8を添加・インキュベーション(室温, 30分)し、R8-CoQ10-MITO-Porterを調製した。
【0064】
粒子径、PdI(多分散性指数)およびゼータ電位(表面電位)を測定し、正に帯電する約100 nm(PdI=0.336±0.002)のナノ粒子であることを確認した(
図7)。調製したCoQ
10-MITO-Porter液に含まれるCoQ
10濃度とCoQ
10回収率は、HPLCを用いて定量し、検量線から算出した。HPLCはAgilent 1200 seriesを使用した。カラムは、COSMOSIL(5C18AR-II, 4.6×250 mm)を使用し、測定波長:275 nm, カラム温度:35℃, 移動相:エタノール/ アセトニトリル=3/ 7, 注入量:50μL, 保持時間=7 分と測定条件を設定した。その値は、414.2±7.1μMおよび62.5±4.7 %であった(
図6)。また本方法では粒子が調製できず、凝集が生じるため、限外ろ過が困難な例が多くみられた。その原因として、調製時の難水溶性分子CoQ
10の凝集が挙げられる。
【0065】
実施例2
2-1. マイクロ流路を用いた粒子調製の精度
実施例1及び比較例1の結果を比較した。本発明の方法では、マイクロ流路を用いた調製では、(A)粒子径が小さく、(B)PdIも小さい傾向にあった(
図7)。特に透析後は、均一な精度の高い粒子が調製できた。(C)ゼータ電位においても約+20 mVであり、ほぼ一定してSTR-R8を修飾できたと考えられる。比較例1では、STR-R8を後修飾させており、ゼータ電位を約+20 mVで再現よく調製することは難しかった。さらに(D)CV値は、粒子調製の精度パラメータとして用いた。粒子径において比較例1は0.082に対し、本発明の方法透析前および透析後はそれぞれ0.062、0.065であった。PdIにおいて比較例1は0.192に対し、本発明の方法透析前および透析後はそれぞれ0.148、0.066であった。ゼータ電位において従来法は0.171に対し、本発明の方法透析前および透析後はそれぞれ0.112、0.114であった。本発明の方法を用いることにより粒子径は48.3±3.1 nmと従来技術より1/2倍小さな粒子となった。PdIも本発明の方法の方が比較例1より小さくなった。マイクロ流路を用いた調製により、ゼータ電位においても+21.5±1.8mVとなり、細胞実験や動物実験に用いる際にSTR-R8による効果が期待された。マイクロ流路は機能性素子を安定に修飾させるデバイスとしても有益があると示された。また、粒子径、PdIおよびゼータ電位のCV値より、本発明の方法の方が比較例1よりも小さい、これは、より均一な粒子が調製できていることを意味する。
【0066】
【0067】
さらに表1に示すように、調製量も比較例1(従来技術)ではμLオーダーであったが、本発明の方法では無制限に調製が可能で実験室レベルでもLオーダーという大量調製が見込める。調製時間も大容量になるほど本発明の方法の方が、短い時間で調製ができる。したがって、マイクロ流路を用いた本発明の方法での調製は均一・微小化・大量調製を可能にする方法である。
【0068】
実施例3
3-1. 細胞内取り込み評価(1)
実施例1で調製したCoQ
10-MITO-Porterの細胞内導入能を評価するために、蛍光標識(NBD-DOPEを脂質量の0.5 mol%修飾)を施したキャリアを調製し、子宮頸がんHeLa細胞を用いてフローサイトメトリー(FACS)による細胞取り込み評価および共焦点レーザー顕微鏡(CLMS)による細胞内局在観察を行った。細胞取り込み評価より、本発明の方法は従来法と比較しても取り込みが多かった(
図8)。CoQ
10-MITO-Porterの細胞内動態を観察した結果、従来法と比較して本発明の方法は、多くのシグナルが観察され、細胞への導入効率が優れていることを確認した(
図9)。さらに、ミトコンドリアへの集積も確認することができた。本発明の方法によって調製した粒子はどの細胞にも多く到達していた(ホモジェネイティ)。一方、従来法では、粒子が細胞へ到達しているものとしていないものが観察された(ヘテロジェネイティ)(図示せず)。
【0069】
3-3. 細胞内取り込み評価(3)
細胞としてミトコンドリア病態モデル細胞を用いたこと以外は、細胞内取り込み評価(1)と同様の方法により、共焦点レーザー顕微鏡(CLMS)による細胞内局在観察を行った。この場合にも同様の傾向が観察された(
図10)。
【0070】
3-3. 細胞内取り込み評価(3)
細胞としてhuman CDCを用いたこと以外は、細胞内取り込み評価(1)と同様の方法により、共焦点レーザー顕微鏡(CLMS)による細胞内局在観察を行った。human CDCは先天性心疾患の根治手術の際に切り取られた余剰心室筋から単離した。
図11に示す。
【0071】
3-4. 細胞内取り込み評価(4)
細胞としてHuman pulmonary artery smooth muscle cellsを用いたこと以外は、細胞内取り込み評価(1)と同様の方法により、共焦点レーザー顕微鏡(CLMS)による細胞内局在観察を行った。細胞内局在観察結果を
図12に示す。
【0072】
実施例4
CoQ
10濃度の変化
実施例1で採用したCoQ
10の初期量(1.5 mM 200μL, 以下、1 CoQ10)が脂質に対して妥当な濃度であるのか確かめるために、CoQ
10濃度を1/2倍(0.75 mM, 以下、1/2 CoQ10)、2倍(3 mM, 以下、2 CoQ10)にして検証した。マイクロ流路でのエタノール希釈濃度は20%とした。透析前の粒子径は実施例1の濃度(1 CoQ
10)が最も小さく、70.5±0.3 nmであり、PdIも最も小さかった(
図13)。透析後はどのCoQ
10濃度も粒子径は、約50 nmであり、PdIも約0.2となり、透析前よりも増加する傾向にあった。CoQ
10濃度は、それぞれ1/2 CoQ10透析前が58.1±5.0μM、1/2 CoQ10透析後が36.0±1.5μM、1 CoQ10透析前が113.3±12.7μM、1 CoQ10透析後が76.1±7.5μM、2 CoQ10透析前が261.8±14.8μM、2 CoQ10透析後が176.4±10.8μMであった。回収率は、それぞれ1/2 CoQ10透析前が83.3±7.1%、1/2 CoQ10透析後が67.2±3.4%、1 CoQ10透析前が81.2±9.1%、1 CoQ10透析後が72.8±6.7%、2 CoQ10透析前が93.8±5.3%、2 CoQ10透析後が80.5±4.7%であった。そしてDrug/Lipid(w/w)は、それぞれ1/2 CoQ10透析前が0.10±0.01、1/2 CoQ10透析後が0.09±0.00、1 CoQ10透析前が0.20±0.03、1 CoQ10透析後が0.19±0.03、2 CoQ10透析前が0.48±0.06、2 CoQ10透析後が0.46±0.06であった。したがって、透析をすることで回収率やDrug/Lipidは減少するが、仕込むCoQ
10濃度を増加させると回収率やDrug/Lipidも共に増加する傾向にあった。
【0073】
実施例5
調製量による比較
従来法(比較例1)と本発明の方法(マイクロ流路を用いた調製法)において調製量による物性の変化が見られるか検証した。本発明の方法では粒子径およびPdI共に従来法に比べ、調製量に依存せず、均一な調製が可能であった(表2)。また従来法では、安定したSTR-R8の修飾を行うためには100μLという少量単位でなければならない。しかし、400μLにSTR-R8を修飾しようとすると、ゼータ電位が9.8±0.9 mVとなり、小容量時よりも電位が下がってしまう。これは、ナノカプセル医薬品をスケールアップする際の大きな障壁となる。一方、マイクロ流路を用いた調製法では、調製量に依存せず、ゼータ電位が約20 mVという良好な値を示し、CV値(ばらつきの指標)も透析前は0.072、透析後は0.031と従来法よりも小さい。以上より、マイクロ流路を用いた調製法は、STR-R8などの機能性素子を安定に修飾でき、ナノカプセル医薬品の製造には不可欠であることが示された。
【0074】
【0075】
実施例6
6-1. CoQ
10-MITO-Porterの濃縮
マイクロ流路を用いることで均一・微小化・大量調製が可能なナノカプセルを調製した。従来法では、CoQ
10濃度を506.9±134.1μMまで濃縮できるものの、限外ろ過フィルター・アミコンに目詰まりが生じやすく、効率的な濃縮操作が行えない場合があった。そこで、マイクロ流路を用いた調製した粒子を透析後、濃縮操作を行うことで、1カプセルあたりの薬力価を高めるために、高濃度CoQ
10-MITO-Porterの調製を試みた。透析後の溶液を限外ろ過フィルター・アミコン(MWCO:100 kDa)にアプライし、限外ろ過を行った(1000 g, 25℃, 25分)。その結果、溶液量が1,500μLから1,000μLまでしか濃縮されず、良好な濃縮操作が行えないと思われた(通常は400μLまで濃縮される)。したがって、透析後の溶液を遠心しただけでは効率的な濃縮は見込めなかった。その原因として、CoQ
10の分散性が低下し、限外ろ過フィルター・アミコンに目詰まりが生じた可能性がある。そこでCoQ
10の分散性を向上させるために、PBS(-)添加を行うことで濃縮が可能か検証し(
図14)。
【0076】
6-2. PBS(-)添加
透析後の溶液を限外ろ過フィルター・アミコンに1500μLアプライし、4℃または25℃のPBS(-)を3.5 mL(全量5 mL)、8.5 mL(全量10 mL)、および13.5 mL(全量15 mL)添加させ、分散性を向上させてから遠心操作を行った。4℃のPBS(-)を用いると、添加量が増大するとPdIも増大した。一方、25℃のPBS(-)を添加させた時はPBSを添加されていない時と物性に大きな変化は見られなかった。25℃のPBS(-)8.5 mLを添加させた際のCoQ10濃度は487.0μM、CoQ10回収率は29.2%であった(
図14)。高濃度CoQ10-MITO-Porterを調製した。
【0077】
6-3. 安定性試験
調製した粒子の安定性を評価するために、4℃、遮光下にて14日間の安定性試験を行った(
図15)。保存期間中、粒子径は約50 nm付近を維持し、濃縮操作を行っても安定なCoQ
10-MITO-Porterであった。