(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084966
(43)【公開日】2022-06-08
(54)【発明の名称】蘇生後の神経障害を抑制するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 33/00 20060101AFI20220601BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220601BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220601BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P25/00
A61P9/10
A61K9/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019071869
(22)【出願日】2019-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】519122529
【氏名又は名称】木田 康太郎
(71)【出願人】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100135242
【弁理士】
【氏名又は名称】江守 英太
(72)【発明者】
【氏名】木田 康太郎
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA93
4C076BB21
4C076CC01
4C076CC11
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA06
4C086HA21
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA12
4C086MA56
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA36
(57)【要約】
【課題】蘇生後の神経障害を抑制する、及び/又は蘇生後の生存率を改善するための医薬組成物を提供すること。
【解決手段】二酸化炭素ガスを含有する、蘇生後の神経障害を抑制する、及び/又は蘇生後の生存率を改善するための、気体状医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素ガスを含有する、蘇生後の神経障害を抑制するための気体状医薬組成物。
【請求項2】
二酸化炭素ガスを含有する、蘇生後の生存率を改善するための気体状医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬組成物中における二酸化炭素濃度が3%以上である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記医薬組成物の投与が蘇生後に開始される、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蘇生後の神経障害を抑制する、及び/又は蘇生後の生存率を改善するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
突然の心停止は世界的に主要な死因の一つである。心停止後の蘇生技術については、近年自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator;AED)等の開発が進歩著しいにもかかわらず、蘇生後の生存率は依然として低く、改善されるに至っていない。また、蘇生後に生存することができたとしても、全身性の虚血再灌流により引き起こされると考えられる重篤な神経障害、臓器障害等の後遺症が残ることが多い。
【0003】
特許文献1には、水素ガスを含む医薬組成物が、蘇生後における脳機能等の予後を改善できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の医薬組成物は爆発性を有する水素ガスを含んでおり、使用時に細心の注意が要求される。そのため、より安全かつ簡便に使用できる、蘇生後の神経保護効果を有する治療法の開発が強く望まれている。
【0006】
本発明の課題は、安全かつ簡便に使用することのできる、蘇生後の神経障害を抑制する、及び/又は蘇生後の生存率を改善するための医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、マウス心停止モデルを用いた試験において、蘇生後の脳血流が血圧の回復後においても改善しないとの知見に着目し、蘇生後のマウスに二酸化炭素ガスを吸入させることにより、血圧の上昇を伴うことなく脳血流を改善できること、そして、蘇生後の神経障害の抑制や蘇生後の生存率を顕著に改善できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の[1]~[8]を提供する。
[1]二酸化炭素ガスを含有する、蘇生後の神経障害を抑制するための気体状医薬組成物。
[2]二酸化炭素ガスを含有する、蘇生後の生存率を改善するための気体状医薬組成物。
[3]前記医薬組成物中における二酸化炭素濃度が3%以上である、[1]又は[2]に記載の医薬組成物。
[4]前記医薬組成物の投与が蘇生後に開始される、[1]~[3]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5]二酸化炭素ガスを、それを必要とする対象に投与することを含む、蘇生後の神経障害を抑制する方法。
[6]二酸化炭素ガスを、それを必要とする対象に投与することを含む、蘇生後の生存率を改善する方法。
[7]蘇生後の神経障害を抑制するための医薬組成物を製造するための、二酸化炭素ガスの使用。
[8]蘇生後の生存率を改善するための医薬組成物を製造するための、二酸化炭素ガスの使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、蘇生後の神経障害を抑制する、及び/又は蘇生後の生存率を改善するための医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】心停止モデルマウスにおいて、蘇生後の神経学的スコアを示すグラフである。(a)は自己心拍の再開から24時間経過後のマウスにおける神経学的スコアを示し、(b)は自己心拍の再開から48時間経過後のマウスにおける神経学的スコアを示す。
【
図2】心停止モデルマウスにおいて、蘇生後の生存率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
本明細書において、濃度の単位「%」は「v/v%」を意味する。
【0013】
本実施形態に係る医薬組成物は、二酸化炭素ガスを有効成分として含有する気体状の医薬組成物であって、蘇生後の神経障害を抑制するための医薬組成物である。
【0014】
本明細書において「蘇生後の神経障害」とは、心停止した後に蘇生処置を施すこと等によって蘇生(自己心拍再開)した後の患者において惹起される、脳障害、脊髄障害等の神経障害を意味する。脳障害としては、例えば、意識障害、構音障害、不完全麻痺(片麻痺)、てんかん、痙攣、失調、嚥下障害、記銘力障害、精神障害、痴呆、認識力の低下、“Locke-in”症候群(閉じ込め症候群)、脳死などが挙げられる。
【0015】
本実施形態に係る医薬組成物中における二酸化炭素濃度は、蘇生後の神経障害を抑制する効果を発揮できる濃度を下限値として設定することができる。二酸化炭素濃度の下限値としては、3~20%の任意の濃度、例えば、3%、5%、7%、10%、15%、又は20%とすることができる。また、本実施形態に係る医薬組成物中における二酸化炭素濃度は、二酸化炭素による副作用が発現しない濃度を上限値として設定することができる。二酸化炭素濃度の上限値としては、例えば、20%、15%、又は10%とすることができる。したがって、本実施形態に係る医薬組成物中における二酸化炭素濃度は、上述の下限値及び上限値を組み合わせた範囲内で設定することができる。
【0016】
本実施形態に係る医薬組成物は、酸素ガス、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ネオンガス、ヘリウムガス)、水素ガス、一酸化窒素、空気等の二酸化炭素ガス以外のガスを更に含有してもよい。本実施形態に係る医薬組成物に含まれる二酸化炭素ガス以外のガスは1種であってもよく、複数種であってもよい。また、二酸化炭素ガス以外のガスは、あらかじめ二酸化炭素ガスと混合された混合ガスの形態であってもよく、投与直前又は投与時に二酸化炭素ガスと混合されてもよい。
【0017】
一実施形態では、本実施形態に係る医薬組成物は、二酸化炭素ガス及び酸素ガスを含有する。この場合、医薬組成物中における酸素濃度は、例えば、21%~97%、21%~90%、21%~85%、又は21%~80%とすることができる。
【0018】
本発明の一実施形態において、本実施形態に係る医薬組成物は、対象にそのまま投与し得る形態で提供される。具体的には、本実施形態に係る医薬組成物は、二酸化炭素ガスそのものの形態、又は二酸化炭素及び酸素ガス等の二酸化炭素ガス以外のガスが混合された混合ガスの形態で提供される。
【0019】
別の態様において、本実施形態に係る医薬組成物は、対象への投与直前又は投与時に調製される形態で提供される。具体的には、本実施形態に係る医薬組成物は、二酸化炭素ガスを収容した容器、及び必要に応じて酸素ガス等の二酸化炭素ガス以外のガスを収容した容器が配管を介して吸入手段(吸入マスク等)に接続され、二酸化炭素ガス、及び必要に応じて酸素ガス等の二酸化炭素以外のガスを適切な濃度となるように流量を調節して吸入手段に送気することで提供される。ガスを収容する容器としては、例えばガスボンベが挙げられる。また、ガスは圧縮ガスの形態で容器に収容されてもよく、液化ガスの形態で容器に収容されてもよい。
【0020】
別の態様において、本実施形態に係る医薬組成物は、対象が存在する密閉された空間に二酸化炭素ガスを供給することによって提供される。具体的には、本実施形態に係る医薬組成物は、対象が存在する密閉された空間に、前記空間中の二酸化炭素濃度が適切な濃度となるように流量を調節して、二酸化炭素ガス、及び必要に応じて酸素ガス等の二酸化炭素ガス以外のガスを供給することによって提供される。
【0021】
本実施形態に係る医薬組成物の投与は、心停止後であれば蘇生前、蘇生中又は蘇生後のいずれの時点においても開始することができる。中でも、神経障害を抑制する効果をより顕著に発揮できることから、蘇生後に投与を開始することが好ましい。また、蘇生後に投与を開始する場合、蘇生後から投与開始までの時間は、心停止後に続く蘇生後の神経障害を抑制する効果を発揮できる時間であれば、特に制限されず、患者の重症度、年齢、性別等に応じて、適宜設定することができる。蘇生後から投与開始までの時間としては、例えば、蘇生直後(0分)~4時間、3分~2時間、又は5分~1時間であってよい。なお、本実施形態に係る医薬組成物は、蘇生前、蘇生中又は蘇生後のいずれの時点においても投与することができる。
【0022】
本実施形態に係る医薬組成物の投与回数は特に制限されず、患者の重症度、性別、年齢等に応じて、単回又は複数回投与することができる。
【0023】
本実施形態に係る医薬組成物の一回あたりの投与時間(投与開始から投与終了までの時間)は、蘇生後の神経障害を抑制する効果を発揮できる時間であれば、特に制限されず、患者の重症度、年齢、性別等に応じて、適宜設定することができる。一回あたりの投与時間としては、例えば、5分~24時間、10分~12時間、20分~6時間、又は30分~3時間であってよい。
【0024】
本実施形態に係る医薬組成物の投与対象は特に制限されないが、好適にはヒトである。
【0025】
本実施形態に係る医薬組成物は、二酸化炭素ガスを有効成分として含有することで、蘇生後の神経障害を抑制できることに加えて、蘇生後の生存率を顕著に改善することができる。したがって、本発明の一実施形態として、二酸化炭素ガスを含有する、蘇生後の予後を改善するための気体状医薬組成物が提供される。
【実施例0026】
以下に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
(1)心停止モデルマウスの作製
心停止モデルマウスの作製には、8~12週齢の雄性マウスを使用した。マウスをイソフルランの吸入による麻酔下に、気管内挿管し、左大動静脈にカニュレーションを行なった。大腿静脈から塩化カリウムを投与し、心停止を起した。心停止後7分30秒より人工呼吸とアドレナリンの持続投与を開始した。心停止後8分より胸骨圧迫を行って蘇生させ、自己心拍の再開を確認し、心停止モデルマウスを作製した。
【0028】
(2)神経障害抑制及び生存率改善についての評価
心停止モデルマウスの自己心拍再開後10分より、10%の二酸化炭素ガスの吸入を開始し、自己心拍再開後120分まで継続した。公知(市瀬ら Anestheology, 120(4):890-9,2014)の方法に従い、自己心拍の再開から24時間、及び48時間経過後のマウスにおいて、マウスの意識、角膜反射、呼吸様態、協調運動、活動性の5項目についてそれぞれ0、1又は2の点数を付け、合計点を神経学的スコア(Neurological score)とした。当該神経学的スコアが高いほど神経障害が抑制されたことを意味する。その結果を
図1に示す。また、当該心停止モデルマウスについて、蘇生後の生存率を10日間調査した。その結果を
図2に示す。なお、自己心拍再開後10分より、空気を吸入させた心停止モデルマウスをコントロールとした。
【0029】
図1より、蘇生後に二酸化炭素ガスを吸入したマウスでは、コントロールと比較して多くのマウスで神経学的スコアが改善し、神経障害が抑制されることが確認された。また、
図2より、蘇生後に二酸化炭素ガスを吸入したマウスでは、コントロールと比較して生存率が大きく改善されることが確認された。