(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022085076
(43)【公開日】2022-06-08
(54)【発明の名称】紙送りロール
(51)【国際特許分類】
B65H 3/06 20060101AFI20220601BHJP
B65H 5/06 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
B65H3/06 330A
B65H5/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020196565
(22)【出願日】2020-11-27
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 和志
(72)【発明者】
【氏名】小瀬 峻久
【テーマコード(参考)】
3F049
3F343
【Fターム(参考)】
3F049AA03
3F049AA10
3F049CA02
3F049CA16
3F049LA02
3F049LA05
3F049LA07
3F049LB03
3F343FA02
3F343FB02
3F343FB03
3F343FB04
3F343FC23
3F343JA05
3F343JA11
(57)【要約】
【課題】長期間使用しても、紙粉の蓄積による用紙の搬送不良が起こりにくく、耐久性に優れた紙送りロールを提供する。
【解決手段】軸体と、軸体の外周に形成された弾性体層3と、を備え、弾性体層3の周面31には、凸部4により凹凸が設けられており、凸部4は、弾性体層3の周面31から突出した第一凸構造5と、第一凸構造5の表面51から針状に突出した第二凸構造6と、を一体に有する、紙送りロールとする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、前記軸体の外周に形成された弾性体層と、を備え、
前記弾性体層の周面には、凸部により凹凸が設けられており、
前記凸部は、
前記弾性体層の周面から突出した第一凸構造と、
前記第一凸構造の表面から針状に突出した第二凸構造と、を一体に有する、紙送りロール。
【請求項2】
前記第一凸構造の表面からの前記第二凸構造の突出高さは、前記弾性体層の周面からの前記第一凸構造の突出高さ以上となっている、請求項1に記載の紙送りロール。
【請求項3】
前記第一凸構造は、
頂部を含み、前記第二凸構造が表面に形成された頂部域と、
前記頂部域よりも底部側に位置し、前記第二凸構造が表面に形成されていない底部域と、を有する、請求項1または請求項2に記載の紙送りロール。
【請求項4】
前記弾性体層の周面からの前記第一凸構造の突出高さは、20μm以上、300μm以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の紙送りロール。
【請求項5】
前記第二凸構造は、円柱状、円錐台状、四角錐台状のいずれかの形状を有している、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の紙送りロール。
【請求項6】
前記第二凸構造の底部の直径は、前記第一凸構造の底部の直径よりも小さく、かつ20μm以上、200μm以下である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の紙送りロール。
【請求項7】
前記第一凸構造の表面からの前記第二凸構造の突出高さは、50μm以上、300μm以下である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の紙送りロール。
【請求項8】
前記第一凸構造は、表面に少なくとも1個の前記第二凸構造を有する、請求項1から請求項7のいずれ1項に記載の紙送りロール。
【請求項9】
前記凸部は、前記弾性体層の周面に配列されている、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の紙送りロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真機器において好適に用いられる紙送りロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙送りロールは、例えばゴム架橋体などの弾性材料によって円筒状に形成され、その周面が用紙との接触面となる。紙送りロールの周面には、用紙から発生する紙粉が付着することがある。そして、用紙と繰り返し接触するうちに、紙送りロールの周面に紙粉が蓄積することがある。紙送りロールの周面に紙粉が蓄積すると、用紙に対する周面の接触面積が低下し、用紙に対する接触面の摩擦係数が低下する。その結果、用紙の搬送不良を生じることがある。
【0003】
用紙の搬送不良を抑制するために、紙送りロールの周面に凹凸を形成したものが知られている。例えば特許文献1には、紙送りローラの軸線方向に沿って延びる複数の軸方向溝を、所定の形状および配列で設けることが記載されている。また、特許文献2には、断面波形形状の凹凸部が外周面に形成された給紙ロールにおいて、凹部をロールの軸方向に沿って形成することが記載されている。特許文献3には、紙送りロールの弾性体層の周面に、所定の配列で凸部および溝を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-055055号公報
【特許文献2】特開2006-143471号公報
【特許文献3】特開2019-043706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~3のように、紙送りロールの表面に、所定の形状や配置を有する凹凸構造を形成する等の対策により、周面への紙粉の蓄積による紙送りロールの搬送不良の抑制に、ある程度の効果は発揮される。しかし、紙粉の蓄積が進行しやすい条件で紙送りロールを使用する場合等を想定して、搬送不良をさらに効果的に抑制することが望まれる。例えば、近年、灰分の多い安価な用紙や、充填材を多く含む粗悪紙等の低品質用紙が普及している。それら灰分や充填材を多く含む用紙を用いた場合に、給紙時に紙粉が発生し、紙送りロールの表面に付着しやすい。すると、紙送りロールと用紙との間の摩擦係数の低下につながり、用紙の搬送不良が起こりやすくなる。
【0006】
上記のように、紙粉の付着は、紙送りロールの表面への凹凸形状の形成により、ある程度抑制することができ、さらに、特許文献3に記載されるように、凹凸形状の凹部を利用して、紙送りロールへの紙粉の滞留を抑制することができる。しかし、用紙と紙送りロールの凸部との間の接触部において発生した紙粉が、凸部に付着した状態で、凸部に対して押し付けられる方向の力を繰り返し受けると、その接触部に紙粉が強固に固着して蓄積し、滞留抑制の効果が十分に得られなくなる可能性がある。紙粉の固着は、用紙を搬送する際の用紙推進力を低下させるため、用紙の搬送不良を引き起こす原因となり、紙送りロールの耐久性を低下させるものとなる。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、長期間使用しても、紙粉の蓄積による用紙の搬送不良が起こりにくく、耐久性に優れた紙送りロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明にかかる紙送りロールは、軸体と、前記軸体の外周に形成された弾性体層と、を備え、前記弾性体層の周面には、凸部により凹凸が設けられており、前記凸部は、前記弾性体層の周面から突出した第一凸構造と、前記第一凸構造の表面から針状に突出した第二凸構造と、を一体に有する。
【0009】
ここで、前記第一凸構造の表面からの前記第二凸構造の突出高さは、前記弾性体層の周面からの前記第一凸構造の突出高さ以上となっているとよい。前記第一凸構造は、頂部を含み、前記第二凸構造が表面に形成された頂部域と、前記頂部域よりも底部側に位置し、前記第二凸構造が表面に形成されていない底部域と、を有するとよい。前記弾性体層の周面からの前記第一凸構造の突出高さは、20μm以上、300μm以下であるとよい。
【0010】
前記第二凸構造は、円柱状、円錐台状、四角錐台状のいずれかの形状を有しているとよい。前記第二凸構造の底部の直径は、前記第一凸構造の底部の直径よりも小さく、かつ20μm以上、200μm以下であるとよい。前記第一凸構造の表面からの前記第二凸構造の突出高さは、50μm以上、300μm以下であるとよい。
【0011】
前記第一凸構造は、表面に少なくとも1個の前記第二凸構造を有するとよい。前記凸部は、前記弾性体層の周面に配列されているとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる紙送りロールにおいては、弾性体層の表面に設けられる凸部が、第一凸構造と、第一凸構造の表面から突出した第二凸構造とを含む2段の凸形状を有している。2種の凸構造のうち、第一凸構造は、用紙と接触しても変形を起こしにくく、用紙との間の摩擦により、摺動力を発生させることで、大きな用紙推進力を確保する役割を果たす。一方、第一凸構造の表面から針状に突出した構造として形成された第二凸構造は、用紙との接触によって変形を起こしやすい。第二凸構造は、この変形に伴う復元力によって、用紙推進力を発生する。この第二凸構造の復元力による用紙推進力は、弾性体層の表面に紙粉がある程度蓄積した状態でも、維持される。このように、形状の異なる第一凸構造と第二凸構造が、用紙の推進に対して異なる寄与を示すことで、紙粉が蓄積しやすい状況でも、紙送りロールを、長期間にわたって、搬送不良の少ない状態で使用し続けることが可能となる。
【0013】
ここで、第一凸構造の表面からの第二凸構造の突出高さが、弾性体層の周面からの第一凸構造の突出高さ以上となっている場合には、第二凸構造の寄与により、紙粉が蓄積しやすい状況でも、用紙推進力を維持する効果に、特に優れる。
【0014】
第一凸構造が、頂部を含み、第二凸構造が表面に形成された頂部域と、頂部域よりも底部側に位置し、第二凸構造が表面に形成されていない底部域と、を有する場合には、第二凸構造が、第一凸構造のうち、頂部近傍の領域に形成されることになり、用紙の推進に、第二凸構造が寄与しやすくなる。
【0015】
弾性体層の周面からの第一凸構造の突出高さが、20μm以上、300μm以下である場合には、紙粉が凸部の表面に滞留しにくくなるとともに、第一凸構造によって大きな用紙推進力を発生させやすくなる。
【0016】
第二凸構造が、円柱状、円錐台状、四角錐台状のいずれかの形状を有している場合には、第二凸構造が簡素な形状を有することで、第二凸構造を第一凸構造の表面に形成しやすくなる。また、第二凸構造が、変形時の復元力による用紙推進力の発生、および紙粉蓄積下での用紙推進力の維持に効果的に寄与するものとなりやすい。
【0017】
第二凸構造の底部の直径が、第一凸構造の底部の直径よりも小さく、かつ20μm以上、200μm以下である場合、また第一凸構造の表面からの第二凸構造の突出高さが、50μm以上、300μm以下である場合には、第二凸構造が、変形時の復元力による用紙推進力の発生、および紙粉蓄積下での用紙推進力の維持に、高い効果を示すものとなる。
【0018】
第一凸構造が、表面に少なくとも1個の第二凸構造を有する場合には、第一凸構造の寄与によって大きな用紙推進力を発生させる効果と合わせて、第二凸構造の寄与によって長期間使用した際の用紙推進力を維持する効果を、紙送りロールの表面全域において、均一性高く得ることができる。
【0019】
凸部が、弾性体層の周面に配列されている場合には、配列された凸部がなす列と列の間に溝が形成され、紙粉を弾性体層の表面から排除しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる紙送りロールの外観模式図である。凸部の形状については、簡略化して表示している。
【
図2】上記紙送りロールの弾性体層の表面近傍の構造を模式的に示す断面図である。(a)は複数の凸部を含む断面図であり、(b)は1つの凸部を拡大して示す断面図である。
【
図3】(a)第一凸構造、および(b)第二凸構造について、用紙の搬送への寄与をそれぞれ説明する概念図である。
【
図4】上記紙送りロールの表面の状態を説明する模式図であり、(a)は用紙を搬送していない状態、(b)は用紙搬送中の状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明にかかる紙送りロールについて詳細に説明する。
【0022】
<紙送りロールの概略>
まず、本発明の一実施形態かかる紙送りロールの概略について説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかる紙送りロール1の外観模式図である。
【0023】
本発明の一実施形態にかかる紙送りロール1は、軸体2と、軸体2の外周に形成された弾性体層3と、を備える。弾性体層3は、紙送りロール1の表面に現れる層(最外層)となっている。弾性体層3は、チューブ状(円筒状)である。
【0024】
弾性体層3の周面31には、複数の凸部4が設けられている。隣接する凸部4の間は、凸部4よりも低い凹部となっており、凸部4により弾性体層3の周面31に凹凸が設けられている。それぞれの凸部4は、第一凸構造5の表面に針状の第二凸構造6が形成された2段の凸構造を有している。凸部4の構造については、後に詳細に説明する。
【0025】
弾性体層3の周面31における凸部4の配置、つまり第一凸構造5の配置は、特に限定されないが、
図1に示す形態においては、複数の凸部4が、弾性体層3の周面31に千鳥状に規則正しく配置されている。つまり、紙送りロール1の軸方向Xに沿って、凸部4が列状に並んでおり、ある列を構成する凸部4と凸部4の間に、その列に隣接する列の凸部4が配置され、軸方向Xに沿った列ごとに、凸部4が互い違いに配列されている。複数の凸部4は、弾性体層3の周面31において、紙送りロール1の軸方向Xに配列されるとともに、紙送りロール1の軸方向Xに対し45°の角度の方向にも配列されていることになる。
【0026】
なお、複数の凸部4は、規則正しく配置されていてもよく、規則正しく配置されずに、ランダムに分布していてもよい。また、規則正しく配置される場合に、その配置パターンは、上記で説明した千鳥状の配列に限られるものではない。千鳥状の配列をはじめ、凸部4が弾性体層3の周面31に沿って配列されていると、列と列の間に溝が形成され、発生した紙粉の逃げ道となって紙粉を排出しやすい。凸部4は、弾性体層3の周面31に沿って周方向に配列していてもよいし、周方向とは異なる方向に配列していてもよい。周方向とは異なる方向とは、弾性体層3の周面31に沿って周方向に対し所定の角度をなす方向に沿って配列している形態などをいう。また、凸部4は、弾性体層3の周面31に沿ってらせん状に配列してもよい。
【0027】
紙送りロール1を構成する軸体2の構成材料としては、ステンレス、アルミニウム、鉄にメッキを施したもの等の金属材料や、ポリアセタール(POM)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート、ナイロン等の合成樹脂を用いることができる。軸体2は、それらの材料より構成される中実体であっても、中空体であってもよい。なお、必要に応じて、軸体2上に接着剤、プライマー等を塗布してもよく、また上記接着剤、プライマー等は必要に応じて導電化してもよい。
【0028】
弾性体層3は、ゴムの架橋物などの弾性材料によって形成される。ゴム状の弾性材料であればその材料は特に限定されるものではない。例えば、ウレタンゴム、ヒドリンゴム、シリコーンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)などの公知のゴム材料を用いることができる。
【0029】
弾性体層3は、非導電性でもよいし、導電性あるいは半導電性を有するものであってもよい。具体的には、弾性体層3の体積抵抗率は、102~1015Ω・cm、103~1014Ω・cm、104~1013Ω・cmの範囲であることが好ましい。弾性体層3が導電性あるいは半導電性を有するものであると、弾性体層3の表面残留電荷を低く抑えて紙粉の付着を抑えやすい。
【0030】
弾性体層3が導電性あるいは半導電性を有する場合に、低電気抵抗化の観点から、弾性体層3が導電剤を含んでいてもよい。導電剤としては、電子導電剤、イオン導電剤が挙げられる。電子導電剤としては、カーボンブラック、グラファイト、c-TiO2、c-ZnO、c-SnO2(c-は、導電性を意味する。)などが挙げられる。イオン導電剤としては、4級アンモニウム塩、ホウ酸塩、界面活性剤などが挙げられる。
【0031】
弾性体層3は、必要に応じて、各種添加剤を適宜添加しても良い。添加剤としては、滑剤、加硫促進剤、老化防止剤、光安定剤、粘度調整剤、加工助剤、難燃剤、可塑剤、充填剤、分散剤、消泡剤、顔料、離型剤などを挙げることができる。弾性体層3の厚みは、特に限定されるものではなく、0.1~10mmの範囲内などで適宜設定すればよい。
【0032】
弾性体層3は、ゴム組成物を用い、成形金型による成形などによって形成することができる。例えば、中空円筒形のロール成形金型の中心に、同軸状に円柱形のピンを配置したうえで、ロール成形金型とピンとの間の空間に、未架橋のゴム組成物を注入して、加熱・硬化(架橋)させた後、脱型およびピンの除去を行うことで、中空筒状の弾性体層3を形成することができる。成形金型としては、その内周面に凸部4に対応する形状の凹部が形成されたものを用いることができる。弾性体層3の凸部4は、例えば、成形金型による型転写によって形成することができる。さらに、別途準備した軸体2を、形成した弾性体層3の中空部に圧入することで、紙送りロール1が製造される。なお、軸体2がPOM等の樹脂材料よりなる場合には、軸体2も、金型を用いた成形によって、製造することができる。
【0033】
<凸部の構造>
次に、上記で説明した紙送りロール1において、弾性体層3の周面31に形成される凸部4の構造の詳細について説明する。
図2に、凸部4が設けられた弾性体層3の周面近傍の断面を、模式図として示す。
図2(a)には、複数の凸部4を含む領域を表示し、
図2(b)には、1つの凸部4を拡大して表示している。
【0034】
図2に示すように、それぞれの凸部4は、2段の凸構造を有している。つまり、弾性体層3の周面31から突出した第一凸構造5と、第一凸構造5の表面51から突出した第二凸構造6とを一体に有している。第二凸構造6は、第一凸構造5の表面51から針状に突出している。ここで、針状とは、第二凸構造6の形状として、底部62の直径rよりも、突出高さhの方が大きい形状を指す。第二凸構造6の底部62とは、第二凸構造6が第一凸構造5の表面51に接合されている箇所を指し、底部62の直径rとは、その底部62を円形に近似した際の直径を指す。第二凸構造6の突出高さhとは、第二凸構造6の底部62から頂部63までの高さを指す。
【0035】
針状の第二凸構造6は、第一凸構造5よりも細い凸構造として形成されていることが好ましい。つまり、第一凸構造5の底部52の面積よりも、第二凸構造6の底部62の面積の方が小さくなっているとよい。第一凸構造5の底部52とは、第一凸構造5が弾性体層3の周面31に接合されている箇所を指す。
【0036】
本実施形態においては、弾性体層3の周面31に設けられる凸部4は、第一凸構造5の表面51に、針状の第二凸構造6が突出した形状を有しており、これら2種の凸構造5,6は、紙送りロール1が用紙を搬送する際に、用紙の推進に異なる形態で寄与する。
図3(a)に第一凸構造5の寄与を、
図3(b)に第二凸構造6の寄与を、模式的に示す。
図3(a)および
図3(b)では、それぞれ、第一凸構造5および第二凸構造6を弾性体層3の周面31に単独で設けた仮想的な構造を、断面図として表示し、弾性体層3が回転方向D1に回転し、用紙Pが搬送方向D2に搬送される状態を示している。
【0037】
図3(a)に示すように、第一凸構造5の表面51に用紙Pが接触した状態で弾性体層3が回転する際に、用紙Pと第一凸構造5との間の接触部に、摩擦が生じ、摺動力F1が発生する。この摺動力F1は、用紙Pを、弾性体層3の回転方向D1に沿った搬送方向D2に運動させる推進力となる。第一凸構造5が、なだらかな突出形状を有しているため、用紙Pとの間の摩擦が大きくなり、大きな推進力が発生する。第一凸構造5は、そのなだらかな形状のため、用紙Pが押し付けられても、大きな変形は起こさない。よって、第一凸構造5は、摩擦によって大きな推進力を与える状態を、安定に維持するものとなる。
【0038】
一方、
図3(b)に示すように、第二凸構造6の表面に用紙Pが接触した状態で弾性体層3が回転する場合には、第二凸構造6は、用紙Pから弾性体層3の周面31に向かって押し付けられる方向の力を受ける。第二凸構造6は、針状の細い形状を有するため、このような力を受けると、容易に変形し、突出方向の中途部で湾曲する。このような変形を起こすと、第二凸構造6に、その変形を解消する方向の復元力F2が働く。第二凸構造6の変形は、弾性体層3の回転方向D1と逆方向に、針形状の頂部63側が倒れる方向に起こるので、復元力F2は、弾性体層3の回転方向D1に沿った成分を持つことになる。この復元力F2の回転方向D1に沿った成分は、用紙Pを搬送方向D2に運動させる推進力となる。
【0039】
第二凸構造6は、用紙Pとの接触面積が第一凸構造5よりも小さいので、第二凸構造6が用紙Pに対して与える推進力の大きさは、第一凸構造5が与える推進力よりも小さくなる。しかし、第一凸構造5による推進力は、主に第一凸構造5と用紙Pとの間の摩擦に伴う摺動力F1よるものであり、第一凸構造5の頂部53に紙粉が付着すると、摩擦係数が低下し、摺動力F1も低下する可能性があるのに対し、第二凸構造6による推進力は、摩擦の寄与が少なく、変形に伴う復元力F2の寄与を中心とするものであり、凸部4の表面の状態による影響を実質的に受けない。よって、弾性体層3の周面31に、紙粉がある程度蓄積した状態でも、第二凸構造6による推進力は、低下を起こしにくい。つまり、長期にわたって紙送りロール1を使用し続け、紙粉の蓄積を避けられなくなっても、第二凸構造6による推進力は長期間維持される。このように、第一凸構造5は、紙粉の付着による低下を起こす可能性はあるものの、絶対値として大きな推進力を発生させるものとなり、第二凸構造6は、絶対値としては小さいものの、紙粉の付着による影響を受けにくい推進力を発生させるものとなる。
【0040】
本実施形態にかかる紙送りロール1の弾性体層3の周面31に設けられた凸部4は、第一凸構造5と第二凸構造6とが複合された形状を有しており、それら第一凸構造5と第二凸構造6は、上記のように、発生起源と特性において相互に異なる用紙推進力を与える。そのため、本実施形態にかかる紙送りロール1においては、用紙Pを搬送する際に、第一凸構造5による推進力と、第二凸構造6による推進力が複合的に発生し、それぞれの推進力が有する特性がともに発揮される。
図4に、第一凸構造5と第二凸構造6が複合された、本実施形態の紙送りロール1の凸部4の形状を、模式的に示す。これは、
図2に示した断面図と対応するものであるが、各第一凸構造5に設ける第二凸構造6を1つのみとし、簡略化して表示している。
図4(a)が凸部4に用紙Pを接触させていない状態、
図4(b)が凸部4に用紙Pを接触させて用紙Pを搬送している状態を示している。
【0041】
凸部4に用紙Pを接触させていない状態では、
図4(a)に示すように、第一凸構造5の表面51から、針状の第二凸構造6が起立した状態となっている。
図4(b)に示すように、凸部4を有する弾性体層3の表面に用紙Pを接触させ、回転方向D1に弾性体層3を回転させると、用紙Pから弾性体層3の周面31に向かって、第二凸構造6を押し付ける力が働く。すると、第二凸構造6が、弾性体層3の回転方向D1と反対方向に倒れるように変形される。一方、第一凸構造5は、ほとんど変形しない。第二凸構造6が倒れると、第一凸構造5の表面51が、直接、あるいは倒れた細い第二凸構造6を介して、用紙Pに接触するようになる。すると、
図3(a)の状況と同様に、第一凸構造5と用紙Pの間に、弾性体層3の回転方向D1に沿って、摩擦による摺動力F1が発生するようになる。一方、変形された第二凸構造6には、元の起立した状態に戻ろうとする復元力F2が働く。この復元力F2は、弾性体層3の回転方向D1に沿った成分を有する。このように、弾性体層3の回転方向D1に沿って、第一凸構造5による摺動力F1に起因した推進力と、第二凸構造6の復元力F2に起因した推進力の両方が働く。それら2種の推進力の和が、用紙Pに対する推進力として働き、用紙Pを搬送方向D2に移動させるものとなる。
【0042】
第一凸構造5による推進力の方が、第二凸構造6による推進力よりも絶対値として大きいので、用紙Pを強力に搬送するのに寄与するのは、主に第一凸構造5である。しかし、長期間紙送りロール1を使用し、紙粉が凸部4の表面に付着すると、第一凸構造5と用紙Pとの間の摩擦係数が低下し、第一凸構造5の寄与による推進力が低下する可能性がある。特に、低品質用紙を使用する場合等、紙粉が凸部4の表面に付着し、蓄積しやすい状況では、蓄積した紙粉が、用紙Pから押し付けられる方向に力を受ける間に、凸部4の表面に強固に固着する場合がある。すると、第一凸構造5の寄与による推進力の低下が、顕著に起こる可能性が生じる。
【0043】
一方、第二凸構造6による推進力については、用紙Pとの摩擦の寄与は小さく、第二凸構造6自体の物理的な変形に伴う復元力F2の寄与が支配的である。この変形およびそれに伴う復元力F2の発生は、第二凸構造6が針状の形状を有することによるものであり、紙粉の付着等、第二凸構造6の表面の状態には、ほぼ依存しない。よって、紙粉の蓄積、さらには固着がある程度進んでも、第二凸構造6による推進力は低下しにくい。このように、凸部4が、第一凸構造5と第二凸構造6が複合された2段形状を有していることで、第一凸構造5による大きな推進力と、第二凸構造6による長期間持続可能な推進力の両方を利用でき、紙粉が蓄積していない初期の段階から、長期間使用して紙粉の蓄積や固着が進んだ段階までにわたって、用紙Pに対して安定した推進力を発揮することができる。その結果、長期間にわたり、用紙搬送不良を起こしにくく、耐久性の高い紙送りロール1となる。
【0044】
図3(a)について説明したように、弾性体層3の周面31に、第一凸構造5のみを設けるとすれば、紙粉の付着が進行していない初期段階では、摩擦に伴う摺動力F1によって、高い用紙推進力が与えられ、紙送りロール1が良好な用紙搬送性を示す。しかし、紙粉の蓄積が進行すると、表面の摩擦係数の低下によって、用紙Pの搬送不良が発生しやすくなり、高い耐久性は得られない。一方、
図3(b)について説明したように、第一凸構造5を設けず、弾性体層3の周面31に直接、第二凸構造6を形成するとすれば、摩擦の寄与が少なく、復元力F2の寄与が支配的となって、推進力が発生するので、初期段階から、大きな推進力は得られず、用紙搬送性が低くなってしまう。紙粉の蓄積が進行しても、初期状態からの推進力の大幅な低下は起こりにくいものの、初期状態から既に用紙搬送性が低いため、紙粉の蓄積により、わずかに用紙搬送性が低下しただけでも、十分な用紙搬送性が得られなくなる可能性があり、耐久性が高いとは言えない。このように、第一凸構造5および第二凸構造6は、いずれも、単独では、高い耐久性を与えるものとはならない。しかし、上で
図4に基づいて説明したように、第一凸構造5と第二凸構造6を複合した凸部4を設けた本実施形態にかかる紙送りロール1においては、第一凸構造5と第二凸構造6の両方の特性が複合されて、高い耐久性が得られる。
【0045】
第一凸構造5および第二凸構造6の具体的な形状や寸法は、特に限定されるものではないが、以下の形態を好ましいものとして例示することができる。以下、第一凸構造5および第二凸構造6の高さや直径等、寸法にかかるパラメータは、複数の凸構造に対する平均値として評価すればよい。例えば、ランダムに選択した10個の凸構造についての平均値として評価すればよい。また、各部の直径としては、その部位を円に近似した際の直径を用いればよい。
【0046】
第一凸構造5の形状としては、半球をはじめとする部分球、不定形、柱体、錐体、球台、楔形などが挙げられる。柱体としては、円柱体、楕円柱体、角柱体(四角柱体、五角柱体など)、扇形柱体、D形柱体、ギア形柱体などが挙げられる。また、柱体の頭部が斜面状、曲面状に切り取られたような形状の截頭柱体(截頭円柱体、截頭角柱体など)であってもよい。錐体としては、円錐体、楕円錐体、角錐体(四角錐体、五角錐体など)などが挙げられる。また、錐体の頭部が平面状(錐台)、斜面状、曲面状に切り取られたような形状の截頭錐体(截頭円錐体、截頭角錐体など)であってもよい。球台は、球体が二つの平行な平面で切り取られたような形状の立体である。なお、「球」には、真球だけでなく、楕円球も含むものとする。
【0047】
第一凸構造5は、用紙搬送時に、安定して大きな推進力を発揮しやすくする観点から、大面積で弾性体層3の周面31に接合され、周面31に対してなだらかに突出した形状をとることが好ましい。例えば、第一凸構造5において、底部52に平行な断面の面積が、高さ方向に沿って、底部52で最も大きく、頂部53に向かって単調減少しているとよい。そのような第一凸構造5の形状としては、上記で列挙したもののうち、半球をはじめとする部分球、球台等を例示することができる。特に球台形状が好ましい。また、第一凸構造5の底部52の直径をR、弾性体層3の周面31からの第一凸構造5の突出高さをHとして、突出比H/Rが1以下、さらには1/2以下、1/3以下となる形状をとるとよい。このように、第一凸構造5が、大面積で弾性体層3の周面31に接合され、周面31に対してなだらかに突出した形状をとることで、用紙Pを搬送する際に、用紙Pとの間に大きな摩擦を生じるとともに、第一凸構造5の変形が小さく抑えられる。その結果、大きな推進力を発生させるという第一凸構造5の役割が、大きく発揮される。
【0048】
弾性体層3の周面31からの第一凸構造5の突出高さHは、50μm以上、さらには80μm以上、100μm以上であるとよい。すると、弾性体層3の表面に紙粉を滞留させずに、凸部4の間の凹部に排出する効果に優れる。一方、第一凸構造5の突出高さHは、300μm以下、さらには150μm以下であるとよい。すると、第一凸構造5の表面51から紙粉を排除しやすくなるとともに、用紙搬送時の第一凸構造5の変形を小さく抑えて、摩擦によって大きな摺動力F1を発生させやすくなる。
【0049】
第一凸構造5の底部52の直径Rは、200μm以上、また400μm以下であることが好ましい。これにより、用紙搬送時に、第一凸構造5の寄与による大きな用紙推進力の発生を安定に行うことができる。また、第一凸構造5が球台状等、頂部53に平面を有する形状よりなる場合に、頂部53の面の直径R’は、底部52の直径Rより小さいとよい。さらに、頂部53の直径R’は、100μm以上、また300μm以下であることが好ましい。すると、第一凸構造5の寄与による大きな用紙推進力が、安定に発生しやすくなるとともに、第二凸構造6が第一凸構造5の頂部53またはその近傍に設けられた凸部4の構造を、安定に形成および保持することができる。
【0050】
第二凸構造6の形状も、針状、つまり底部62の直径rよりも第一凸構造5の表面51からの突出高さhの方が大きい形状であれば、具体形状は特に限定されず、柱体、錐体、楔形などが挙げられる。柱体としては、円柱体、楕円柱体、角柱体(四角柱体、五角柱体など)、扇形柱体、D形柱体、ギア形柱体などが挙げられる。また、柱体の頭部が斜面状、曲面状に切り取られたような形状の截頭柱体(截頭円柱体、截頭角柱体など)であってもよい。錐体としては、円錐体、楕円錐体、角錐体(四角錐体、五角錐体など)などが挙げられる。また、錐体の頭部が平面状(錐台)、斜面状、曲面状に切り取られたような形状の截頭錐体(截頭円錐体、截頭角錐体など)であってもよい。ここに挙げた各形状のように、第二凸構造6が簡素な形状をとることで、第一凸構造5と第二凸構造6が複合された凸部4を有する弾性体層3を、形成しやすい。また、用紙搬送時に、第二凸構造6の変形、およびそれに伴う復元力F2の発生が起こりやすい。第二凸構造6が形成された凸部4の形状を長期にわたって保持する効果にも優れる。第二凸構造6が、円柱状、円錐台状、四角錐台状のいずれかの構造を有する場合には、それらの各効果に特に優れる。
【0051】
第二凸構造6の突出高さhは、第二凸構造6の底部62の直径rよりも大きければ(h>r)、特に限定されないが、第一凸構造5の突出高さH以上となっていることが好ましい(h≧H)。さらには、第二凸構造6の突出高さhが、第一凸構造5の突出高さHよりも大きいとよい(h>H)。また、第二凸構造6の突出高さhは、50μm以上、さらには100μm以上であることが好ましい。これらの場合のように、第二凸構造6が十分に大きな突出高さhを有することで、第二凸構造6の変形に伴う復元力F2の発生によって、長期間にわたって用紙推進力を維持する効果に優れる。
【0052】
一方、第二凸構造6の突出高さhは、第一凸構造5の突出高さHの3倍以下であるとよい(h≦3H)。また、第二凸構造6の突出高さhは、300μm以下、さらには200μm以下であることが好ましい。このように、第二凸構造6の突出高さhを大きくなりすぎない範囲に抑えておくことで、第二凸構造6の変形に伴う復元力F2によって、用紙推進力を発生させやすくなるとともに、第二凸構造6が形成された凸部4の形成の簡便性、および形状保持の安定性にも優れる。
【0053】
第二凸構造6の底部62の面積および直径rは、第一凸構造5の底部52の面積および直径Rよりも小さいことが好ましい。すると、第二凸構造6の変形に伴う復元力F2の発生によって、長期間にわたって用紙推進力を維持する効果に優れる。加えて、第一凸構造5が、球台状等、頂部53に平面を有する形状よりなる場合には、第二凸構造6の底部62の面積および直径rは、第一凸構造5の頂部53の面積および直径R’よりも小さいとよい。さらに、第二凸構造6の底部62の直径rは、第一凸構造5の頂部53の直径R’の1/2以下(r≦R’/2)、また1/4以下(r≦R’/4)であるとよい。また、第二凸構造6の底部62の直径rは、200μm以下、さらには100μm以下であるとよい。一方、第二凸構造6の底部62の直径rを、10μm以上、さらには20μm以上としておけば、第二凸構造6の変形に伴う復元によって、用紙推進力を発生させやすくなるとともに、第二凸構造6が形成された凸部4の形成の簡便性、および形状保持の安定性にも優れる。
【0054】
1つの第一凸構造5あたりに設ける第二凸構造6の個数も、特に限定されるものではない。しかし、紙送りロール1の各部において、均一性高く、第二凸構造6の寄与による推進力を発生させ、耐久性を高める観点から、それぞれの第一凸構造5に、少なくとも1個の第二凸構造6を設けることが好ましい。さらに第二凸構造6の寄与を高める観点からは、1つの第一凸構造5あたり、2個以上の第二凸構造6を設けることが好ましい。一方、凸部4の構造が過度に複雑化するのを抑える等の観点から、1つの第一凸構造5に設けられる第二凸構造6の数は、5個以下に抑えておくことが好ましい。
【0055】
第一凸構造5の表面51において、第二凸構造6が設けられる位置は、特に限定されるものではないが、第一凸構造5の頂部53またはその近傍に、第二凸構造6が設けられる方が、第二凸構造6が用紙Pの搬送に寄与しやすい。好ましくは、第一凸構造5を、頂部53を含む頂部域54と、その頂部域54よりも底部52側に位置する底部域55に仮想的に区分した際に、頂部域54の表面に存在する第二凸構造6の数が、底部域55の表面に存在する第二凸構造6の数のよりも多いとよい。さらには、頂部域54の表面にのみ第二凸構造6が形成され、底部域55の表面には第二凸構造6が形成されていないとよい。換言すると、第一凸構造5の頂部53およびその近傍に第二凸構造6が集中しており、第二凸構造6が形成された頂部域54と、第二凸構造6が形成されていない底部域55とに、第一凸構造5を仮想的に区分できるものであるとよい。第一凸構造5が、球台等、平面上の頂部53を有する場合には、第二凸構造6がその頂部53の面にのみ形成されていれば、さらに好ましい。なお、第二凸構造6が、第一凸構造5の底部域55や、弾性体層3の周面31のうち第一凸構造5が形成されていない箇所、つまり表面凹凸の凹部に相当する箇所に形成されることを妨げるものではないが、それらの箇所に形成された第二凸構造6は、用紙推進力の発生、および耐久性の向上に、ほぼ効果を示さない。
【実施例0056】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0057】
<試料の作製>
所定の形状および配置を有する凹部を内周面に形成した筒状成形金型の中心にピンを配置し、金型とピンの間の空間に、ウレタンゴム組成物を注入した後、脱型およびピンの除去を行うことで、表面に凸部を有する中空筒状の弾性体層を形成した。そして、POMを中空筒状に成形して得た芯材を、その弾性体層の中空部に圧入し、紙送りロールを得た。弾性体層は、外径φ20mm、内径φ10mm、長さ30mmとした。芯材は、外径φ10mm、内径φ6mm、全長45mmとした。各試料において、凸部の配置および形状、寸法は、表1,2に示すとおりとした。弾性体層の表面における凸部の数密度は、各試料で揃えている。
【0058】
<耐久性能の評価>
作製した紙送りロールを用い、耐久性能を評価した。FRR方式の給紙システムを持った市販の複写機に、作製した紙送りロールを組み込み、紙送り性の評価を行った。用紙には市販のPPC用紙を用い、60万枚通紙を行って、紙詰まりの発生回数を測定した。紙詰まりの発生回数が1回以下のものを「A」、紙詰まりの発生回数が1回以上3回以下のものを「B」、紙詰まりの発生回数が4回以上6回以下のものを「C」、紙詰まりの発生回数が7回以上10回以下のものを「D」、紙詰まりの発生回数が11回以上のものを「E」とした。評価結果がA,B,Cの場合は、耐久性が十分に高いと判定することができ、評価結果がD,Eの場合は、耐久性が低いと判定される。
【0059】
<評価結果>
表1,2に、各試料の紙送りロールに形成した凸部の構造(形状、配置、各部寸法)とともに、耐久性能の評価結果を示す。各寸法値としては、ランダムに選択した10個の凸部についての平均値を表示している。第二凸構造が四角錐台として形成されている場合については、底部および頂部の直径r,r’の欄に、正方形の辺の長さを記載している。
【0060】
【0061】
【0062】
表1,2に示した実施例1~13では、いずれも、紙送りロールの弾性体層に形成された凸部が、第一凸構造の表面に第二凸構造が複合された2段形状をとっている。そのことに対応して、A~Cと評価される高い耐久性能が得られている。これに対し、凸部が第一凸構造のみよりなり、その表面に第二凸構造を有していない比較例1,2においては、Dと評価される低い耐久性能しか得られていない。第二凸構造とみなされる針状の構造が弾性体層の周面に直接形成されている比較例3~5では、いずれも、さらに低いEと評価される耐久性能しか得られていない。
【0063】
実施例1~8は、いずれも、ランダムに配列された不定形の第一凸構造の表面に、円錐台状の第二凸構造が配置されたものであるが、それらのうち、実施例1において、A評価の特に高い耐久性性能が得られている。実施例1においては、第一凸構造の突出高さH、第二凸構造の突出高さhおよび底部の直径rが、実施例1~8で採用されている範囲の中で、中間的な値を取るものである。また、第一凸構造1つあたりの第二凸構造の数が、3個と多くなっている。これらの構成を有することが、特に高い耐久性につながっていると考えられる。
【0064】
さらに、実施例10~13は、第一凸構造の形状、配列、第二凸構造の形状少なくとも一つにおいて、実施例1と異なっているが、いずれにおいても、実施例1と同様に、A評価の特に高い耐久性能が得られている。このことから、第一凸構造および第二凸構造の形状、また第一凸構造の配列によらず、第一凸構造と第二凸構造を有する2段形状を備えた凸部を形成することによって、耐久性向上の効果が得られると言える。
【0065】
以上、本発明の実施形態・実施例について説明したが、本発明は上記実施形態・実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。