(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022085290
(43)【公開日】2022-06-08
(54)【発明の名称】がんの検査方法およびがん治療薬
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20220601BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220601BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220601BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220601BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220601BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20220601BHJP
【FI】
G01N33/68
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P11/00
C12Q1/686 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020196899
(22)【出願日】2020-11-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】520467442
【氏名又は名称】医療法人今光会
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】小山 倫浩
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA26
2G045AA35
2G045BA13
2G045BB24
2G045CB26
2G045DA14
2G045DA31
2G045DA36
2G045DA54
2G045FB01
2G045FB02
2G045FB03
2G045FB15
2G045JA01
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX02
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC411
4C084ZC412
(57)【要約】 (修正有)
【課題】肺腺がん患者の予後を予測する方法、がん切除後の肺腺がん患者の予後を予測する方法、肺腺がん患者を処置する方法を提供する。
【解決手段】がん患者の予後を予測する方法であって、(1)がん患者から得られたがん組織におけるSGLT1およびSGLT2のいずれかまたは両方の発現を検出する検出工程を含むか{ここで、がん組織のSGLT1発現が陽性である場合には、予後がよいことが示され、がん組織のSGLT2発現が陽性である場合には、予後が悪いことが示される}、または(2)患者が糖尿病患者である場合、予後がよいと予測し、非糖尿病患者である場合には、予後が悪いと予測することを含むがん患者の予後を予測する工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん患者の予後を予測する方法であって、
(1)がん患者から得られたがん組織におけるSGLT1およびSGLT2のいずれかまたは両方の発現を検出する検出工程を含むか{ここで、当該がん組織のSGLT1発現が陽性である場合には、予後がよいことが示され、当該がん組織のSGLT2発現が陽性である場合には、予後が悪いことが示される}、または
(2)当該患者が糖尿病患者である場合、予後がよいと予測し、非糖尿病患者である場合には、予後が悪いと予測することを含む、
方法。
【請求項2】
前記がん患者が、肺腺がん患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記がん患者が、がん切除術後の患者である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記発現の高低が、がん細胞に対する陽性細胞の割合に基づいて決定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記発現が、タンパク質の発現である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
検出工程が、SGLT1の発現を検出することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記検出工程が、SGLT2の発現を検出することを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記予後が、再発率および生存率からなる群から選択される少なくとも1以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記(1)および(2)の両方を含み、
(a)当該患者が糖尿病患者であり、SGLT1の発現が陽性である場合および/またはSGLT2の発現が陰性である場合には、当該患者の予後がよいと予測すること、および、
(b)当該患者が非糖尿病患者であり、SGLT1の発現が陰性である場合および/またはSGLT2の発現が陽性である場合には、当該患者の予後が悪いと予測すること
のいずれか一方または両方をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
肺腺がんが、ステージIおよびIIからなる群から選択される早期がんである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
SGLT2タンパク質の発現が陽性である患者において肺腺がんを処置することに用いるための、SGLT2阻害剤を含む、医薬組成物。
【請求項12】
患者が、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法により、予後が悪いと予測された患者である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
患者が、糖尿病をさらに有する肺腺がん患者である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記患者が、SGLT1の発現がさらに陽性である、請求項11または13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記患者が、SGLT1の発現が陰性である、請求項11~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの検査方法およびがん治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
2018年には、がんによる日本の死亡者数は136万人であり、そのうち37万人(27%)はがんで死亡している。また、2018年には新たに98万人ががんと診断され、がんを正確に診断することは社会的な課題である。
【0003】
非特許文献1には、SGLT1とSGLT2のmRNA発現を確認し、肺がんと正常肺組織とで発現に差が無いことが開示されている。転移に関してSGLT2が高発現であること、グルコース取込みの役割を果たしていることが開示されている。非特許文献2には、肺腺がんを多分に含む組織で評価がなされ、がん患者でSGLT2のmRNA発現が高いことが開示されている。非特許文献3には、SGLT1の発現に関しては肺がんでは差が無いことが開示されている。非特許文献4には、悪性化前、早期/低グレード肺腺がんでSGLT2が高発現していることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ishikawa N. et al., Jpn. J. Cancer Res., 92, 874-879, 2001
【非特許文献2】Zhang X., et al., International Journal of Oncology, 54, 199-208, 2019
【非特許文献3】Madunic I. V. et al., Arh. Hig. Rada. Toksikol., 69, 278-285, 2018
【非特許文献4】Scafoglio C. R. et al., Sci. Transl. Med., 10, 467, 2018
【発明の概要】
【0005】
本発明は、がんの検査方法およびがん治療薬を提供する。
【0006】
本発明者らは、がん切除術後の患者の予後を、切除したがん組織中のSGLTファミリーの遺伝子発現に基づいて予測できることを見出した。
【0007】
本発明は、例えば、以下の発明を提供する。
[1]がん患者の予後を予測する方法であって、
(1)がん患者から得られたがん組織におけるSGLT1およびSGLT2のいずれかまたは両方の発現を検出する検出工程を含むか{ここで、当該がん組織のSGLT1発現が陽性である場合には、予後がよいことが示され、当該がん組織のSGLT2発現が陽性である場合には、予後が悪いことが示される}、または、
(2)当該患者が糖尿病患者である場合、予後がよいと予測し、非糖尿病患者である場合には、予後が悪いと予測することを含む、
方法。
[2]前記がん患者が、肺腺がん患者である、上記[1]に記載の方法。
[3]前記がん患者が、がん切除術後の患者である、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記発現の高低が、がん細胞に対する陽性細胞の割合に基づいて決定される、上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記発現が、タンパク質の発現である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]検出工程が、SGLT1の発現を検出することを含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記検出工程が、SGLT2の発現を検出することを含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記予後が、再発率および生存率からなる群から選択される少なくとも1以上である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]前記(1)および(2)の両方を含み、
(a)当該患者が糖尿病患者であり、SGLT1の発現が陽性である場合および/またはSGLT2の発現が陰性である場合には、当該患者の予後がよいと予測すること、および、
(b)当該患者が非糖尿病患者であり、SGLT1の発現が陽陰性性である場合および/またはSGLT2の発現が陽性である場合には、当該患者の予後が悪いと予測すること
のいずれか一方または両方をさらに含む、上記[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]肺腺がんが、ステージIおよびIIからなる群から選択される早期がんである、上記[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]SGLT2の発現が陽性である患者において肺腺がんを処置することに用いるための、SGLT2阻害剤を含む、医薬組成物。
[12]患者が、上記[1]~[10]のいずれかに記載の方法により、予後が悪いと予測された患者である、上記[11]に記載の医薬組成物。
[13]患者が、糖尿病をさらに有する肺腺がん患者である、上記[11]に記載の医薬組成物。
[14]前記患者が、SGLT1の発現がさらに陽性である、上記[11]または[13]に記載の医薬組成物。
[15]前記患者が、SGLT1の発現が陰性である、上記[11]~[13]のいずれかに記載の医薬組成物。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、肺腺がん102例における無再発生存曲線(DFI)である。ステージIの群とそれ以外の群とで比較がなされている。
【
図2】
図2は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。ステージIおよびIIの群とそれ以外の群とで比較がなされている。
【
図3】
図3は、肺腺がん102例における生存曲線である。ステージIの群とそれ以外の群とで比較がなされている。
【
図4】
図4は、肺腺がん102例における生存曲線である。ステージIおよびIIの群とそれ以外の群とで比較がなされている。
【
図5】
図5は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。がん細胞に対するSGLT1の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は10%である。
【
図6】
図6は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。がん細胞に対するSGLT2の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は10%である。
【
図7】
図7は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。がん細胞に対するSGLT2の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は20%である。
【
図8】
図8は、肺腺がん102例における生存曲線である。がん細胞に対するSGLT1の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は10%である。
【
図9】
図9は、肺腺がん102例における生存曲線である。がん細胞に対するSGLT2の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は10%である。
【
図10】
図10は、肺腺がん102例における生存曲線である。がん細胞に対するSGLT2の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は20%である。
【
図11】
図11は、ステージIの肺腺がんにおける無再発生存曲線である。がん細胞に対するSGLT1の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は10%である。
【
図12】
図12は、ステージIの肺腺がんにおける無再発生存曲線である。がん細胞に対するSGLT2の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は10%である。
【
図13】
図13は、ステージIの肺腺がんにおける無再発生存曲線である。がん細胞に対するSGLT2の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は20%である。
【
図14】
図14は、ステージIの肺腺がんにおける生存曲線である。がん細胞に対するSGLT1の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は10%である。
【
図15】
図15は、ステージIの肺腺がんにおける生存曲線である。がん細胞に対するSGLT2の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は10%である。
【
図16】
図16は、ステージIの肺腺がんにおける生存曲線である。がん細胞に対するSGLT2の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は20%である。
【
図17】
図17は、ステージIおよびIIの肺腺がんにおける無再発生存曲線である。がん細胞に対するSGLT1の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は10%である。
【
図18】
図18は、ステージIおよびIIの肺腺がんにおける無再発生存曲線である。がん細胞に対するSGLT2の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は10%である。
【
図19】
図19は、ステージIおよびIIの肺腺がんにおける無再発生存曲線である。がん細胞に対するSGLT2の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は20%である。
【
図20】
図20は、ステージIおよびIIの肺腺がんにおける生存曲線である。がん細胞に対するSGLT1の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は10%である。
【
図21】
図21は、ステージIおよびIIの肺腺がんにおける生存曲線である。がん細胞に対するSGLT2の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は10%である。
【
図22】
図22は、ステージIおよびIIの肺腺がんにおける生存曲線である。がん細胞に対するSGLT2の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は20%である。
【
図23】
図23は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。70歳以上の群とそれ以外の群とで比較がなされている。
【
図24】
図24は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。70歳以上か否か、およびSGLT1陽性か否か(閾値:10%)の観点で分類された4つの群間で比較がなされている。
【
図25】
図25は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。70歳以上か否か、およびSGLT2陽性か否か(閾値:10%)の観点で分類された4つの群間で比較がなされている。
【
図26】
図26は、肺腺がん102例における生存曲線である。70歳以上か否か、およびSGLT1陽性か否か(閾値:10%)の観点で分類された4つの群間で比較がなされている。
【
図27】
図27は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。糖尿病患者の群とそれ以外の群とで比較がなされている。
【
図28】
図28は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。糖尿病患者であるか否か、およびSGLT1陽性か否か(閾値:10%)の観点で分類された4つの群間で比較がなされている。
【
図29】
図29は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。糖尿病患者であるか否か、およびSGLT2陽性か否か(閾値:10%)の観点で分類された4つの群間で比較がなされている。
【
図30】
図30は、肺腺がん102例における生存曲線である。糖尿病患者の群とそれ以外の群とで比較がなされている。
【
図31】
図31は、肺腺がん102例における生存曲線である。糖尿病患者であるか否か、およびSGLT1陽性か否か(閾値:10%)の観点で分類された4つの群間で比較がなされている。
【
図32】
図32は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。CEA値が高い(0.5ng/mL以上)か否か、およびSGLT1陽性か否か(閾値:10%)の観点で分類された4つの群間で比較がなされている。
【
図33】
図33は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。CEA値が高い(0.5ng/mL以上)か否か、およびSGLT2陽性か否か(閾値:10%)の観点で分類された4つの群間で比較がなされている。
【
図34】
図34は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。CEA値が高い(0.5ng/mL以上)か否か、およびSGLT2陽性か否か(閾値:20%)の観点で分類された4つの群間で比較がなされている。
【
図35】
図35は、肺腺がん102例における生存曲線である。CEA値が高い(0.5ng/mL以上)か否か、およびSGLT1陽性か否か(閾値:10%)の観点で分類された4つの群間で比較がなされている。
【
図36】
図36は、肺腺がん102例における生存曲線である。CEA値が高い(0.5ng/mL以上)か否か、およびSGLT2陽性か否か(閾値:10%)の観点で分類された4つの群間で比較がなされている。
【
図37】
図37は、肺腺がん102例における生存曲線である。CEA値が高い(0.5ng/mL以上)か否か、およびSGLT2陽性か否か(閾値:20%)の観点で分類された4つの群間で比較がなされている。
【
図38】
図38は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。SGLT1陽性か否か(閾値:10%)およびSGLT2陽性か否か(閾値:10%)の観点で分類された4つの群間で比較がなされている。
【
図39】
図39は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。SGLT1陽性か否か(閾値:10%)およびSGLT2陽性か否か(閾値:20%)の観点で分類された4つの群間で比較がなされている。
【
図40】
図40は、肺腺がん102例における生存曲線である。がん細胞に対するSGLT1の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は10%である。
【
図41】
図41は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。がん細胞に対するSGLT2の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は10%である。
【
図42】
図42は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。がん細胞に対するSGLT2の発現細胞の割合に基づく群間で比較がなされている。閾値は20%である。
【
図43】
図43は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。糖尿病患者の群とそれ以外の群とで比較がなされている。
【
図44】
図44は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。EGFRの変異を有する群と有しない群とで比較がなされている。
【
図45】
図45は、肺腺がん102例における無再発生存曲線である。糖尿病患者の群とそれ以外の群とで比較がなされている。
【
図46】
図46は、肺腺がん102例における生存曲線である。糖尿病患者の群とそれ以外の群とで比較がなされている。
【
図47】
図47は、ステージIおよびIIの肺腺がんにおける無再発生存曲線である。糖尿病患者の群とそれ以外の群とで比較がなされている。
【
図48】
図48は、ステージIおよびIIの肺腺がんにおける生存曲線である。糖尿病患者の群とそれ以外の群とで比較がなされている。
【発明の詳細な説明】
【0009】
<定義>
本明細書では、「対象」とは、哺乳動物であり得、好ましくは、ヒトである。対象は、腫瘍またはがんに罹患している、またはそのリスクがある対象であり得る。対象は、70歳以上および70歳未満の対象を含み得る。対象は、喫煙者(例えば、BI指数が700以上)および非喫煙者を含み得る。
【0010】
本明細書では、「がん」とは、細胞の制御不能な増殖を特徴とする疾患である。がん細胞には、局所的に広がるものと、血流またはリンパ系を通じて全身に広がるものとがある。がんの非限定的な例としては、例えば、固形腫瘍が挙げられる。がんの非限定的な例としては、例えば、造血器腫瘍が挙げられる。固形腫瘍としてはまた、例えば、肺がんが挙げられる。本明細書では、「がん組織」とは、がんを含む組織である。がん組織は、生検およびがん切除術によって得られ得る。本明細書において「予後」とは、がんの再発率(または再発までの期間)および生存率を意味し得る。再発には、原発巣での再発と転移後の再発とが挙げられる。再発率は、治療一定期間後の再発率であり得る。一定期間は、例えば、1年、2年、3年、4年、5年、6年、7年、8年、9年、10年、11年、12年、13年、14年、もしくは15年、またはこれらのいずれかの期間以上の期間であり得る。
【0011】
本明細書では、「肺腺がん」とは、肺がんの一種である。肺がんは、小細胞肺がんおよび非小細胞肺がんとに大別され、非小細胞肺がんは、肺腺がんを含む3つのがんに大別される。非小細胞肺がんは、肺がんの約8割を占め、肺腺がんは、非小細胞肺がんの約6割を占める。
【0012】
本明細書では、「遺伝子発現」またはこれに類似する表現は、細胞のゲノム上に存在する遺伝子からのメッセンジャーRNA(mRNA)の発現およびタンパク質の発現の両方を意味する。mRNAは、当業者に周知の方法によって、細胞からトータルRNAを抽出し、例えば、mRNAが固有に有するポリA配列を利用したcDNA第1鎖の合成と、これに続く増幅(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応)によって検出をすることができる。タンパク質は、当該タンパク質に特異的に結合する抗体(例えば、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体)を用いて検出することができる。
【0013】
本明細書では、細胞における遺伝子発現の文脈において「陽性」とは、断りのない限り、検出可能なレベルでmRNAまたはタンパク質が検出されることを意味する。また、「陰性」とは、断りのない限り、検出可能なレベルでmRNAまたはタンパク質が検出されないことを意味する。本明細書では、組織における遺伝子発現の文脈において「陽性」および「陰性」の分類をより明確化するために、閾値を設定し、当該閾値を以上の発現量を示すものを「陽性」とし、当該閾値未満の発現量を示すものを「陰性」と示す。このように、本明細書では、細胞レベルでの遺伝子発現の「陽性」と、組織レベルでの遺伝子発現の「陽性」とは、判定基準が異なる。
【0014】
本明細書では、発現量とは、組織または一定の細胞集団中において発現したmRNAの量またはタンパク質の量を意味する。mRNAの発現量は、定量的PCR等のmRNAを定量するための当業者に周知の様々な方法により定量することができる。タンパク質の定量は、免疫組織化学染色(IHC)等の当業者に周知な方法により定量することができる。IHCでは、組織切片中のタンパク質に抗体が結合し、抗体を色素により発色させることができる。発色の強さはタンパク質の発現量と対応する。したがって、発色の強さにより、タンパク質の発現量を定量することができる。また、IHCでは、発色の強度ではなく、発現する細胞数または細胞割合に基づいて、タンパク質の発現量を定量することができる。タンパク質の発現量を、発色の強度に基づいて定量するか、発現する細胞数または細胞割合に基づいて定量するかは、状況や目的に合わせて選択される。
【0015】
本明細書では、「SGLT」は、ナトリウム依存性グルコース輸送体であり、ナトリウムとグルコースの共役輸送体としての役割を担う。SGLTとしては、SGLT1、SGLT2、およびSGLT3が挙げられる。SGLT1は、腎尿細管、腸、および心筋などに発現し、SGLT2は腎の近位尿細管に限定的に発現している。近位尿細管は、血液中から取り出して必要なものを体内に取り込み、不要なものを尿として排泄する。この近位尿細管では、一度排出したグルコースを再吸収して血中に取り込む。ここで再吸収されるグルコースのうち、90%はSGLT2により、残りの10%はSGLT1によると考えられている。
【0016】
ヒトSGLTは、ヒトの22番染色体の1領域(22q12.3;NC_000022.11;32043050..32113029)上に存在し、RPS17P16とAP1B1P1に挟まれる領域に存在することが知られている。ヒトSGLT1タンパク質は、例えば、GenBank登録番号:AAB59448.1で登録されたアミノ酸配列またはこれに対応するアミノ酸配列を有し得る。ヒトSGLT1タンパク質は、1~数個のアミノ酸の挿入、欠失、付加および置換からなる群から選択される変異を有していてもよい。ヒトSGLT1タンパク質は、GenBank登録番号:AAB59448.1で登録されたアミノ酸配列と、80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上のアミノ酸配列の同一性を有していてもよい。ヒトSGLT1タンパク質は、ナトリウム依存性グルコース輸送体としての機能を保持していることができる。
【0017】
ヒトSGLT2は、ヒトの16番染色体の1領域(16p11.2;NC_000016.10;具体的には、31482535..31490769)上に存在し、TGFB1T1とRUSF1との間に挟まれる領域に存在することが知られている。ヒトSGLT2タンパク質は、当該染色体領域によりコードされ、例えば、NCBI参照配列:NP_003032.1で登録されたアミノ酸配列またはこれに対応するアミノ酸配列を有し得る。ヒトSGLT2タンパク質は、1~数個のアミノ酸の挿入、欠失、付加および置換からなる群から選択される変異を有していてもよい。ヒトSGLT2タンパク質は、GenBank登録番号:AAB59448.1で登録されたアミノ酸配列と、80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上のアミノ酸配列の同一性を有していてもよい。ヒトSGLT2タンパク質は、ナトリウム依存性グルコース輸送体としての機能を保持していることができる。
【0018】
本明細書では、「糖尿病」は、血糖値が高い値を持続する疾患を意味する。糖尿病は、具体的には、以下の基準に基づいて診断され得る{空腹時血糖≧126mg/dL、HbA1c≧6.5%、経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)で2時間値が200mg/dL以上など}。糖尿病は、1型糖尿病と2型糖尿病とに大別される。1型糖尿病は、膵臓のインスリン産生細胞であるβ細胞が破壊され、血糖を調節するインスリンの分泌が不足することによって、誘発する疾患である。2型糖尿病は、β細胞からのインスリン分泌の減少もしくはインスリンに対するグルコース取込み細胞の応答性の低下、または筋肉や脂肪組織へのグルコース取込み能の低下により、誘発する疾患である。糖尿病に対しては、様々な医薬が開発され、近位尿細管においてグルコースの血中への再吸収を担うSGLT2阻害剤(例えば、イプラグリフロジン、ダパグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン、カナグリフロジン、およびエンパグリフロジン)が糖尿病治療において有望視されている。
【0019】
<本発明の予後を予測する方法(SGLT1)>
(A)本発明によれば、
がん患者の予後を予測する方法であって、
がん患者から得られたがん組織におけるSGLT1の発現を検出する検出工程を含む、
方法
が提供される。
【0020】
上記(A)において、がん組織におけるSGLT1が陰性であると、予後が悪いまたはその可能性があると予測することができる(または、予後が悪いこと、もしくは予後が悪い可能性が示される)。上記(A)において、がん組織におけるSGLT1が陽性であると、予後が良いまたはその可能性があると予測することができる(または、予後が良いこと、もしくは予後が良い可能性が示される)。上記(A)において、がん組織におけるSGLT1が陰性であると、予後が悪いまたはその可能性があると予測することができ(または、予後が悪いこと、もしくは予後が悪い可能性が示される)、かつ、がん組織におけるSGLT1が陽性であると、予後が良いまたはその可能性があると予測することができる(または、予後が良いこと、もしくは予後が良い可能性が示される)。
【0021】
ある態様では、SGLT1が陽性または陰性であることは、組織(またはその切片もしくは細胞破砕液)中のSGLT1量に基づいて決定することができる。ある態様では、検出は、SGLT1をコードするmRNAを定量することによって行うことができる。定量は、定量的PCR、次世代シーケンサー、またはマイクロアレイを用いた方法などの、当業者に周知の定量方法により行うことができる。また、ある態様では、検出は、SGLT1に結合する抗体(抗SGLT1抗体)を用いて行うことができる。SGLT1タンパク質と抗体との複合体が形成される条件下で、組織(またはその切片もしくは細胞破砕液)とSGLT1に結合する抗体とを接触させて、複合体が形成されたときに、SGLT1タンパク質が検出される。検出は、ウェスタンブロット法およびタンパク質アレイ法などの当業者に周知の方法により行うことができる。この検出量に基づいて、がん組織がSGLT1陽性または陰性であると決定することができる。ある好ましい態様では、がん組織におけるSGLT1が陽性または陰性であることは、免疫組織化学染色により確認することができる。
【0022】
第1の所定の値は、予後のよいがん患者群におけるSGLT1の発現量の最大値以下、第3四分位値以下、平均値以下、または中央値以下とすることができる、第1の所定の値は、予後の悪いがん患者群におけるSGLT1の発現量の最小値以上、第1四分位値以上、平均値以上、または中央値以上とすることができる。第1の所定の値は、予後のよいがん患者群におけるSGLT1の発現量の最大値以下、第3四分位値以下、平均値以下、または中央値以下であり、かつ、予後の悪いがん患者群におけるSGLT1の発現量の最小値以上、第1四分位値以上、平均値以上、または中央値以上とすることができる。この際に、予後が良いか悪いかは、医師により決定することができる。予後が良いか悪いかは、例えば、無再発生存期間の長さ、または生存期間の長さにより決定することができる。例えば、無再発生存期間が、がん切除術後、1,000時間以上、1,100時間以上、1,200時間以上、1,300時間以上、1,400時間以上、1,500時間以上、1,600時間以上、1,700時間以上、1,800時間以上、1,900時間以上、2,000時間以上、2,100時間以上、2,200時間以上、2,300時間以上、2,400時間以上、2,500時間以上、2,600時間以上、2,700時間以上、2,800時間以上、2,900時間以上、または3,000時間以上である患者を予後がよい患者と決定することができ、それ未満の患者(予後がよいと決定されなかった患者)を予後が悪いと決定することができる。または、例えば、生存期間が、がん切除術後、1,000時間以上、1,100時間以上、1,200時間以上、1,300時間以上、1,400時間以上、1,500時間以上、1,600時間以上、1,700時間以上、1,800時間以上、1,900時間以上、2,000時間以上、2,100時間以上、2,200時間以上、2,300時間以上、2,400時間以上、2,500時間以上、2,600時間以上、2,700時間以上、2,800時間以上、2,900時間以上、または3,000時間以上である患者を予後がよい患者と決定することができ、それ未満の患者(予後がよいと決定されなかった患者)を予後が悪いと決定することができる。
【0023】
ある好ましい態様では、SGLT1が陽性または陰性であることは、がん組織中のがん細胞において、SGLT1陽性の細胞の割合により決定することができる。例えば、SGLT1陽性の細胞の割合が第1の所定の値以上の場合に、当該がん組織が由来するがん患者の予後が悪いまたはその可能性があると予測することができる(または、予後が悪いこと、もしくは予後が悪い可能性が示される)。例えば、SGLT1陽性の細胞の割合が第1の所定の値未満である場合に、予後が良いまたはその可能性があると予測することができる(または、予後が良いこと、もしくは予後が良い可能性が示される)。また、SGLT1陽性の細胞の割合が第1の所定の値以上の場合に、当該がん組織が由来するがん患者の予後が悪いまたはその可能性があると予測することができ(または、予後が悪いこと、もしくは予後が悪い可能性が示される)、SGLT1陽性の細胞の割合が第1の所定の値以上の場合に、当該がん組織が由来するがん患者の予後が悪いまたはその可能性があると予測することができる(または、予後が悪いこと、もしくは予後が悪い可能性が示される)。
【0024】
第1の所定の値は、がん細胞に対するSGLT1陽性の細胞の割合における閾値(またはカットオフ値)である。ある態様では、第1の所定の値は、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、13%以上、14%以上、15%以上、16%以上、17%以上、18%以上、19%以上、20%以上、21%以上、22%以上、23%以上、24%以上、25%以上、26%以上、27%以上、28%以上、29%以上、または30%以上の値であり得る。第1の所定の値は、例えば、5~30%、5~25%、または10~20%の値であり得る。
【0025】
ある好ましい態様では、がん患者は、がん切除術後の患者である。
【0026】
ある好ましい態様では、がんは、肺がんであり、より好ましくは、肺腺がんである。
【0027】
ある好ましい態様では、がん患者は、がん切除術後の患者であり、がんは、肺腺がんである。
【0028】
ある好ましい態様では、SGLT1の発現は、SGLT1のタンパク質の発現である。ある好ましい態様では、SGLT1が陽性であるとは、がん患者から得られたがん組織におけるSGLT1陽性細胞の割合に基づいて決定される。ある好ましい態様では、がん患者から得られたがん組織におけるSGLT1陽性細胞の割合が第1の所定の値以上である場合にSGLT1陽性であると決定される。ある好ましい態様では、がん患者から得られたがん組織におけるSGLT1陽性細胞の割合が第1の所定の値未満である場合にSGLT1陰性であると決定される。
【0029】
ある好ましい態様では、がんは、肺腺がんであり、がん患者から得られたがん組織におけるSGLT1陽性細胞の割合が第1の所定の値以上である場合にSGLT1陽性であると決定される。
【0030】
<本発明の予後を予測する方法(SGLT2)>
(B)本発明の別の側面では、
がん患者の予後を予測する方法であって、
がん患者から得られたがん組織におけるSGLT2の発現を検出する検出工程を含む、
方法
が提供される。
【0031】
上記(B)において、がん組織におけるSGLT2が陰性であると、予後が悪いまたはその可能性があると予測することができる(または、予後が悪いこと、もしくは予後が悪い可能性が示される)。上記(B)において、がん組織におけるSGLT2が陽性であると、予後が良いまたはその可能性があると予測することができる(または、予後が良いこと、もしくは予後が良い可能性が示される)。上記(B)において、がん組織におけるSGLT2が陰性であると、予後が悪いまたはその可能性があると予測することができ(または、予後が悪いこと、もしくは予後が悪い可能性が示される)、かつ、がん組織におけるSGLT2が陽性であると、予後が良いまたはその可能性があると予測することができる(または、予後が良いこと、もしくは予後が良い可能性が示される)。
【0032】
ある態様では、SGLT2が陽性または陰性であることは、組織(またはその切片もしくは細胞破砕液)中のSGLT2量に基づいて決定することができる。ある態様では、検出は、SGLT2をコードするmRNAを定量することによって行うことができる。定量は、定量的PCR、次世代シーケンサー、またはマイクロアレイを用いた方法などの、当業者に周知の定量方法により行うことができる。また、ある態様では、検出は、SGLT2に結合する抗体(抗SGLT2抗体)を用いて行うことができる。SGLT2タンパク質と抗体との複合体が形成される条件下で、組織(またはその切片もしくは細胞破砕液)とSGLT2に結合する抗体とを接触させて、複合体が形成されたときに、SGLT2タンパク質が検出される。検出は、ウェスタンブロット法およびタンパク質アレイ法などの当業者に周知の方法により行うことができる。この検出量に基づいて、がん組織がSGLT2陽性または陰性であると決定することができる。ある好ましい態様では、がん組織におけるSGLT2が陽性または陰性であることは、免疫組織化学染色により確認することができる。
【0033】
第2の所定の値は、予後のよいがん患者群におけるSGLT2の発現量の最大値以下、第3四分位値以下、平均値以下、または中央値以下とすることができる、第2の所定の値は、予後の悪いがん患者群におけるSGLT2の発現量の最小値以上、第2四分位値以上、平均値以上、または中央値以上とすることができる。第2の所定の値は、予後のよいがん患者群におけるSGLT2の発現量の最大値以下、第3四分位値以下、平均値以下、または中央値以下であり、かつ、予後の悪いがん患者群におけるSGLT2の発現量の最小値以上、第2四分位値以上、平均値以上、または中央値以上とすることができる。この際に、予後が良いか悪いかは、医師により決定することができる。予後が良いか悪いかは、例えば、無再発生存期間の長さ、または生存期間の長さにより決定することができる。例えば、無再発生存期間が、がん切除術後、1,000時間以上、1,100時間以上、1,200時間以上、1,300時間以上、1,400時間以上、1,500時間以上、1,600時間以上、1,700時間以上、1,800時間以上、1,900時間以上、2,000時間以上、2,100時間以上、2,200時間以上、2,300時間以上、2,400時間以上、2,500時間以上、2,600時間以上、2,700時間以上、2,800時間以上、2,900時間以上、または3,000時間以上である患者を予後がよい患者と決定することができ、それ未満の患者(予後がよいと決定されなかった患者)を予後が悪いと決定することができる。または、例えば、生存期間が、がん切除術後、1,000時間以上、1,100時間以上、1,200時間以上、1,300時間以上、1,400時間以上、1,500時間以上、1,600時間以上、1,700時間以上、1,800時間以上、1,900時間以上、2,000時間以上、2,100時間以上、2,200時間以上、2,300時間以上、2,400時間以上、2,500時間以上、2,600時間以上、2,700時間以上、2,800時間以上、2,900時間以上、または3,000時間以上である患者を予後がよい患者と決定することができ、それ未満の患者(予後がよいと決定されなかった患者)を予後が悪いと決定することができる。
【0034】
ある好ましい態様では、SGLT2が陽性または陰性であることは、がん組織中のがん細胞において、SGLT2陽性の細胞の割合により決定することができる。例えば、SGLT2陽性の細胞の割合が第2の所定の値以上の場合に、当該がん組織が由来するがん患者の予後が悪いまたはその可能性があると予測することができる(または、予後が悪いこと、もしくは予後が悪い可能性が示される)。例えば、SGLT2陽性の細胞の割合が第2の所定の値未満である場合に、予後が良いまたはその可能性があると予測することができる(または、予後が良いこと、もしくは予後が良い可能性が示される)。また、SGLT2陽性の細胞の割合が第2の所定の値以上の場合に、当該がん組織が由来するがん患者の予後が悪いまたはその可能性があると予測することができ(または、予後が悪いこと、もしくは予後が悪い可能性が示される)、SGLT2陽性の細胞の割合が第2の所定の値以上の場合に、当該がん組織が由来するがん患者の予後が悪いまたはその可能性があると予測することができる(または、予後が悪いこと、もしくは予後が悪い可能性が示される)。
【0035】
第2の所定の値は、がん細胞に対するSGLT2陽性の細胞の割合における閾値(またはカットオフ値)である。ある態様では、第2の所定の値は、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、13%以上、14%以上、15%以上、16%以上、17%以上、18%以上、19%以上、20%以上、21%以上、22%以上、23%以上、24%以上、25%以上、26%以上、27%以上、28%以上、29%以上、または30%以上の値であり得る。第2の所定の値は、例えば、5~30%、5~25%、または10~20%の値であり得る。
【0036】
ある好ましい態様では、がん患者は、がん切除術後の患者である。
【0037】
ある好ましい態様では、がんは、肺がんであり、より好ましくは、肺腺がんである。
【0038】
ある好ましい態様では、がん患者は、がん切除術後の患者であり、がんは、肺腺がんである。
【0039】
ある好ましい態様では、SGLT2の発現は、SGLT2のタンパク質の発現である。ある好ましい態様では、SGLT2が陽性であるとは、がん患者から得られたがん組織におけるSGLT2陽性細胞の割合に基づいて決定される。ある好ましい態様では、がん患者から得られたがん組織におけるSGLT2陽性細胞の割合が第2の所定の値以上である場合にSGLT2陽性であると決定される。ある好ましい態様では、がん患者から得られたがん組織におけるSGLT2陽性細胞の割合が第2の所定の値未満である場合にSGLT2陰性であると決定される。
【0040】
ある好ましい態様では、がんは、肺腺がんであり、がん患者から得られたがん組織におけるSGLT2陽性細胞の割合が第2の所定の値以上である場合にSGLT2陽性であると決定される。
【0041】
<本発明の予後を予測する方法(SGLT1およびSGLT2)>
本発明によれば、上記(A)と(B)を組み合わせて、がん患者の予後を予測することができる。例えば、本発明の予後を予測する方法は、
がん患者から得られたがん組織におけるSGLT1の発現を検出する検出工程と
がん患者から得られたがん組織におけるSGLT2の発現を検出する検出工程と
を含む、方法であり得る。
【0042】
本発明の方法では、SGLT1が陰性である、および/またはSGLT2が陽性である場合に、当該がん患者の予後が悪いと予測することができる(予後が悪い、または予後が悪い可能性を示される)。また、本発明の方法では、SGLT1が陽性である、および/またはSGLT2が陰性である場合に、当該がん患者の予後が良いと予測することができる(予後が良い、または予後が良い可能性を示される)。本発明の方法では、例えば、SGLT1が陰性であり、かつSGLT2が陽性である場合に、当該がん患者の予後が悪いと予測することができ(予後が悪い、または予後が悪い可能性を示される)、SGLT1が陽性であり、かつ、SGLT2が陰性である場合に、当該がん患者の予後が良いと予測することができる(予後が良い、または予後が良い可能性を示される)。
【0043】
本発明における、上記(A)および(B)の説明は、それぞれ上述した通りであるから、それを参照することとし、ここでの繰り返しの説明は省略する。
【0044】
ある好ましい態様では、がん患者は、がん切除術後の患者である。
【0045】
ある好ましい態様では、がんは、肺がんであり、より好ましくは、肺腺がんである。
【0046】
ある好ましい態様では、がん患者は、がん切除術後の患者であり、がんは、肺腺がんである。
【0047】
ある好ましい態様では、SGLT1の発現は、SGLT1のタンパク質の発現である。ある好ましい態様では、SGLT1が陽性であるとは、がん患者から得られたがん組織におけるSGLT1陽性細胞の割合に基づいて決定される。ある好ましい態様では、がん患者から得られたがん組織におけるSGLT1陽性細胞の割合が第1の所定の値以上である場合にSGLT1陽性であると決定される。ある好ましい態様では、がん患者から得られたがん組織におけるSGLT1陽性細胞の割合が第1の所定の値未満である場合にSGLT1陰性であると決定される。第1の所定の値は、例えば、5~30%、5~25%、または10~20%の値であり得る。
【0048】
ある好ましい態様では、SGLT2の発現は、SGLT2のタンパク質の発現である。ある好ましい態様では、SGLT2が陽性であるとは、がん患者から得られたがん組織におけるSGLT2陽性細胞の割合に基づいて決定される。ある好ましい態様では、がん患者から得られたがん組織におけるSGLT2陽性細胞の割合が第2の所定の値以上である場合にSGLT2陽性であると決定される。ある好ましい態様では、がん患者から得られたがん組織におけるSGLT2陽性細胞の割合が第2の所定の値未満である場合にSGLT2陰性であると決定される。第2の所定の値は、例えば、5~30%、5~25%、または10~20%の値であり得る。
【0049】
<本発明のさらなる側面>
本発明によれば、がん患者の予後を予測する方法であって、
(2)当該患者が糖尿病患者である場合、予後がよいと予測し、非糖尿病患者である場合には、予後が悪いと予測することを含む、
方法が提供される。
【0050】
がん患者が糖尿病であるか否かは、医師の診断により決定することができる。がん患者はある態様では、SGLT2阻害剤療法を受けたがん患者であり得る。
【0051】
本発明によればまた、がん患者の予後を予測する方法であって、
(3)当該患者が上皮成長因子受容体(EGFR)に変異を有する場合、予後がよいと予測し、EGFRに変異を有しない場合には、予後が悪いと予測することを含む、
方法が提供される。
【0052】
上記においてEGFRの変異は、EGFRのドライバー変異であり得る。EGFRのドライバー変異とは、EGFRの活性を増強し、がんに起因する変異である。EGFRは、上皮成長因子受容体であり、上皮成長因子(EGF)をリガンドとして、EGFと結合すると細胞に対して増殖シグナルを与える。増殖シグナルを与えられた細胞は、増殖をする。EGFRのドライバー変異は、変異により増殖シグナルが入るか、または増強される。そのようなEGFRのドライバー変異としては、G719X、エクソン19における欠失(del 19)、S768I、エクソン20における挿入(ins 20)、T790M、L858R、およびL861Qからなる群から選択されるいずれかの変異が挙げられる{ここで、XはG以外の任意のアミノ酸を意味する}。これらのドライバー変異は、がんにおいて認められ、EGFRの活性を高めるか、向上的に活性化する。G719X、エクソン19における欠失(del 19)、およびL858Rは、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)に対する高い奏功率に寄与し、T790Mおよびエクソン20における挿入は、EGFR-TKIに対する治療抵抗性と関連する。エクソン19における欠失(del 19)としては、特に限定されないが例えば、delE746_A750が挙げられる。また、エクソン20における挿入(ins 20)としては、特に限定されないが例えば、V769_D770insASV、D770_N771insSVD、およびH773_V774insHが挙げられる。G719Xとしては、特に限定されないが例えば、G719A、G719S、およびG719Cが挙げられる。
【0053】
EGFRにドライバー変異を有するがん患者としては、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)療法を受けたがん患者が挙げられる。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)としては、ゲフィチニブおよびエルロチニブなどの第1世代のEGFR-TKI;アファチニブおよびダコミチニブなどの第2世代のEGFR-TKI;並びに、オシメルチニブなどの第3世代のEGFR-TKIが挙げられる。
【0054】
本発明のがんの予後を予測する方法は、上記(A)、上記(B)、上記(2)、および上記(3)からなる群から選択されるいずれか2つ、3つ、または4つの組合せであり得る。例えば、本発明のがんの予後を予測する方法は、上記(A)および上記(2)を含み得る。例えば、本発明のがんの予後を予測する方法は、上記(A)および上記(3)を含み得る。例えば、本発明のがんの予後を予測する方法は、上記(A)、上記(2)および上記(3)を含み得る。例えば、本発明のがんの予後を予測する方法は、上記(B)および上記(2)を含み得る。例えば、本発明のがんの予後を予測する方法は、上記(B)および上記(3)を含み得る。例えば、本発明のがんの予後を予測する方法は、上記(B)、上記(2)および上記(3)を含み得る。例えば、本発明のがんの予後を予測する方法は、上記(A)、上記(B)および上記(2)を含み得る。例えば、本発明のがんの予後を予測する方法は、上記(A)、上記(B)および上記(3)を含み得る。例えば、本発明のがんの予後を予測する方法は、上記(A)、上記(B)、上記(2)、および(3)を含み得る。
【0055】
そして、上記(A)、上記(B)、上記(2)、および上記(3)のそれぞれにおいて、予後が良いか悪いかの予測がもたらされ得る。すべての予測が予後が良いとの予測で一致した場合には、がん組織が由来する患者の予後が良いと予測する(または予後が良い、または良い可能性があることが示される)。また、すべての予測が予後が悪いとの予測で一致した場合には、がん組織が由来する患者の予後が悪いと予測する(または予後が悪い、または悪い可能性があることが示される)。すべての予測が一致しなかった場合には、どちらとも予測しないことができるし、目的に応じて予後が良いと予測する、または予後が悪いと予測することができる。例えば、治療目的では、予後が悪いと予測し、より高効率の治療を選択することを検討することができる。すべての予測が一致しなかった場合であっても、予後が良いとの予測が悪いとの予測の数よりも多い場合には、がん組織が由来する患者の予後が良いと予測することができる(または予後が良い、または良い可能性があることが示され得る)。また、すべての予測が一致しなかった場合であっても、予後が悪いとの予測が良いとの予測の数よりも多い場合には、がん組織が由来する患者の予後が悪いと予測することができる(または予後が悪い、または悪い可能性があることが示され得る)。予後に関して、良いとも悪いとも予測しない場合には、例えば、良いとも悪いともいえないとの予測結果を返すことができる。
【0056】
本発明の予後を予測する方法は、産業上利用可能な発明であり得る。本発明の予後を予測する方法は、インビトロの方法であり得る。本発明の予後と予測する方法は、予後を予測するための方法、予後を予測するための補助的方法、予後を予測するための基礎的情報を得る方法であり得る。本発明の予後を予測する方法は、医師による診断の工程を含まないことができる。本発明の予後を予測する方法を実施した後で、医師は、予後を診断することができる。
【0057】
<本発明の医薬組成物>
本発明によれば、SGLT2陽性のがん患者においてがんを処置することに用いるための、SGLT2阻害剤を含む医薬組成物が提供される。がんは、肺がん、好ましくは、肺腺がんであり得る。また、がん患者は、本発明の予後を予測する上記方法で予後が良いと予測されたがん患者であり得る。がん患者は、本発明の予後を予測する上記方法で予後が悪いと予測されたがん患者であり得る。がん患者は、本発明の予後を予測する上記方法で予後が良いも悪いとも予測されないがん患者であり得る。ある態様では、がん患者は、切除不能または再発がんを有する患者であり得る。ある態様では、がん患者は、がん切除術後の患者であり得る。ある態様では、がん患者は、糖尿病およびがんに罹患している。ある態様では、がん患者は、EGFRにドライバー変異を有する。ある態様では、がん患者は、EGFRにドライバー変異を有し、糖尿病およびがんに罹患している。ある態様では、EGFRにドライバー変異を有さず、がん患者は、糖尿病およびがんに罹患している。
【0058】
本発明によれば、SGLT2陽性のがん患者は、がん切除術後の患者であり得る。本発明によれば、SGLT2陽性のがん患者は、そのがん組織の免疫組織化学染色においてがん細胞中のSGLT2陽性細胞の割合が、第2の所定の値以上である、がん患者であり得る。第2の所定の値は、例えば、5~30%、5~25%、または10~20%の値であり得る。
【0059】
本発明によれば、SGLT2陽性のがん患者は、SGLT1陽性であり得る。本発明によれば、SGLT2陽性のがん患者は、SGLT1陰性であり得る。本発明によれば、SGLT2陽性のがん患者は、そのがん組織の免疫組織化学染色においてがん細胞中のSGLT2陽性細胞の割合が、第1の所定の値以上である、がん患者であり得る。第1の所定の値は、例えば、5~30%、5~25%、または10~20%の値であり得る。
【0060】
本発明によれば、がんを処置することに用いるためのSGLT2阻害剤が提供される。本発明によれば、がんを処置することに用いるための医薬の製造におけるSGLT2阻害剤の使用が提供される。本発明によれば、がんを有する対象において、がんを処置する方法であって、治療上有効量のSGLT2阻害剤を当該患者に投与することを含む、方法が提供される。患者は、本発明の予後を予測する方法において予後が良いと予測された対象であり得る。患者は、本発明の予後を予測する方法において予後が悪いと予測された対象であり得る。患者は、本発明の予後を予測する方法において予後が良いとも悪いとも予測されなかった対象であり得る。本発明によれば、例えば、予後の良い患者に対してSGLT2阻害剤を投与することによって、無駄な治療による患者の苦痛を避けることができる。本発明によれば、例えば、予後の悪い患者に対してSGLT2阻害剤を投与することによって、SGLT2阻害剤が強い副作用を有している場合であっても、それを許容し得る対象にのみ治療を行うことができる。あるいは、予後の悪い患者に対して、増量した用量でSGLT2阻害剤を投与することができる。
【0061】
SGLT2阻害剤は、医薬組成物に含まれ得、医薬組成物は、SGLT2阻害剤と薬学的に許容可能な担体、希釈剤、および/または賦形剤を含み得る。医薬組成物は、経口投与または非経口投与用に製剤化され得る。
【0062】
本発明の医薬組成物は、他の抗がん剤と併用されてもよい。本発明によれば、これによって、当該他の抗がん剤の使用量を低減し、より安全ながん治療を可能とし得る。
【実施例0063】
実施例1:肺腺がんの生検を用いたSGLT1およびSGLT2の発現の分析
本実施例では肺腺がん患者から得られた生検または切除した組織におけるSGLT1およびSGLT2の発現を調べた。
【0064】
検体は、市中総合病院において2010年10月から2017年9月に切除した182例のうち、免疫染色と臨床病理学的検討が可能であった肺腺がん102例を用いた。患者の平均年齢は70.5歳であり、43歳から89歳までの患者を含んだ。患者の詳細は以下表1に記載される通りであった。
【0065】
【0066】
表1において、DMは糖尿病を表し、CEAはCEAマーカーの発現を表し、EGFRは上皮成長因子受容体を表す。EGFR変異は、G719X、エクソン19における欠失(del19)、S768I、エクソン20における挿入、T790M、L858R、およびL861Qのいずれかのドライバー変異である。
【0067】
生検または組織献体から常法に従って組織切片を作製し、免疫組織化学染色に供した。1次抗体としては、抗SGLT1抗体(Abcam社;1/500)および抗SGLT2抗体(Abcam社;1/180)を用いた。二次抗体としては、BOND Polymer Refine Detection (Leica Biosystems)キットに含まれるウサギ抗マウスIgG抗体を製造者説明書にしたがって用いた。その後、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗ウサギIgG抗体を用いて染色を行った。染色は、自動免疫染色機 BOND-MAX (Leica Biosystems) により実施した。染色像の評価は、バーチャルスライド(使用機器:Nano Zoomer-XR (浜松ホトニクス株式会社)、条件:20xモード、Single Layer)により行った。
【0068】
SGLT1およびSGLT2の発現はそれぞれ、2つのカットオフを用いて評価した。具体的には、用いた評価は、切片中のがん細胞集団中の細胞の10%以上が発現した場合を陽性とするカットオフ(10%カットオフ)と、切片中のがん細胞集団中の細胞の20%以上が発現した場合を陽性とするカットオフ(20%カットオフ)であった。
【0069】
図1に示されるように、ステージIとIIとを対比すると、無再発生存期間がステージIIよりもステージIにおいて長い傾向を示した。また、ステージIおよびIIとステージIIIおよびIVとを対比すると、
図2に示されるように、早期がん(ステージIおよびII)において無再発生存期間が、ステージIIIおよびIVよりも長い傾向を示した。また、ステージIとステージII~IVとで生存曲線を対比すると、
図3に示されるように、ステージIにおいて他のステージよりも長く生存する患者が多いことが示された。このことは、ステージIおよびIIとステージIIIおよびIVとを対比した場合にも同様であり、早期がん(ステージIおよびII)において、ステージIIIおよびIVよりも長く生存する患者が多いことが示された。
【0070】
次に、ステージI~IVの患者、または早期がん(ステージIおよびII;合計79名)に対して、SGLT1およびSGLT2の発現と、無再発生存期間、または生存曲線との関係を調べた。結果は、
図5~22に示される通りであった。
図5~22に示される結果は、表2に示される通りである。
【0071】
【0072】
図5~22に示されるように、SGLT1の発現がより高い群においてより低い群よりも、再発し難く、また、生存期間も長くなる傾向が認められた。これに対して、SGLT2の発現がより低い群においてより高い群よりも、再発し難く、また、生存期間も長くなる傾向が認められた。
【0073】
図5では、肺腺がん102例において、SGLT1の発現が高い方が無再発生存期間が長くなる傾向が認められた。
図6および7では、SGLT2の発現が低い方が無再発生存期間が長くなる傾向が認められた。
図8では、SGLT1の発現が高いほど、患者の生存率が高まる傾向が認められた。
図11では、ステージIの肺腺がんにおいてSGLT1の発現が高い方が無再発生存期間が長くなる傾向が認められた。
図12および13では、ステージIの肺腺がんにおいてSGLT2の発現が低い方が無再発生存期間が長くなる傾向が認められた。
図14に示されるように、ステージIの肺腺がんにおいてSGLT1の発現が高い方が生存率が高まる傾向が認められた。
図17に示されるように、早期がん(ステージIおよびII)においてSGLT1の発現が高い方が無再発生存期間が長くなる傾向が認められた。
図18および19に示されるように、早期がん(ステージIおよびII)においてSGLT2の発現が低い方が無再発生存期間が長くなる傾向が認められた。
図20に示されるように、ステージIの肺腺がんにおいてSGLT1の発現が高い方が生存率が高まる傾向が認められた。
【0074】
さらに年齢(70歳以上と70歳未満との対比)、糖尿病歴(DM有り無しでの対比)、CEA値の高低の対比)、EGFR変異(EGFR変異の有り無しでの対比)を行った。結果は、
図23~44に示される通りであった。
【0075】
図23に示されるように、70歳以上の患者では、70歳未満の患者と比較して、再発しやすい傾向が認められた。
図24に示されるように、SGLT1が陽性で70歳未満なら再発せず(再発しにくく)、SGLT1が陰性で70歳以上なら再発しやすい傾向が認められた。
図25に示されるように、SGLT2が陰性で70歳未満なら再発しにくく、SGLT2が陽性で70歳以上なら再発しやすい傾向が認められた。
図26に示されるように、SGLT1が陽性で70歳未満なら死亡例が確認されず、SGLT1が陰性で70歳以上なら予後不良である傾向が認められた。
図27に示されるように、糖尿病患者(DM)では、非糖尿病患者よりも再発しにくい傾向が認められた。
図28に示されるように、糖尿病患者でSGLT1陽性の場合には、再発せず(再発しにくく)、非糖尿病患者でSGLT1陰性の場合には再発しやすい傾向が認められた。
図29に示されるように、糖尿病患者でSGLT2陰性の場合には、再発しない(再発しにくい)傾向が認められた。
図30に示されるように、糖尿病患者では、非糖尿病患者よりも予後がよい傾向が認められた。
図31に示されるように、非糖尿病患者でSGLT1陰性の場合には、予後が不良である傾向が認められた。
図32に示されるように、SGLT1が陽性でCEA値が低い場合(5.0 ng/ml未満)には、再発せず(再発しにくく)、SGLT1が陰性でCEAが高い場合(5.0 ng/ml以上)には、再発しやすい傾向が認められた。
図33および34に示されるように、SGLT2が陰性でCEA値が低い場合には、再発しにくく、SGLT2が陽性でCEA値が高い場合には再発しやすい傾向が認められた。
図35に示されるように、SGLT1が陽性でCEAが低い場合には死亡例は認められず、SGLT1が陰性でCEA値が高い場合には予後不良である傾向が認められた。
図38および39に示されるように、SGLT1陽性でSGLT2陰性の場合には、再発せず(再発しにくく)、SGLT1陰性でSGLT2陽性の場合には、再発しやすい傾向が認められた。
図44に示されるように、EGFR変異例では、変異を有しない例よりも、再発しにくい傾向が認められた。ここでいうEGFR変異は、ドライバー変異であり、G719X、エクソン19における欠失(del19)、S768I、エクソン20における挿入、T790M、L858R、およびL861Qのいずれかの変異であった。
図45に示されるように、糖尿病患者において非糖尿病患者よりも無再発生存期間が長くなる傾向が認められた。
図46に示されるように、糖尿病患者において非糖尿病患者よりも生存率がよい傾向が認められた。
図47に示されるように、ステージIおよびIIの早期がんにおいては、糖尿病患者において非糖尿病患者よりも無再発生存期間が長くなる傾向が認められた。
図48に示されるように、ステージIおよびIIの早期がんにおいては、糖尿病患者において非糖尿病患者よりも生存率がよい傾向が認められた。
【0076】
上記のように、SGLT1は、無再発生存期間および生存率の両方と相関し、SGLT1の発現がより高い群において、より低い群よりも無再発生存期間が長期であり、生存率が高い傾向が示された。また、SGLT2は、無再発生存期間と相関し、SGLT2の発現がより低い群において、より高い群よりも無再発生存期間が長期である傾向が示された。さらに、より高齢の群において、予後が悪い傾向が示された。さらにまた、糖尿病患者において非糖尿病患者よりも再発しにくく予後がよい傾向が示された。さらにまた、EGFR変異例で、変異を有しない例よりも予後がよい傾向が示された。なお、再発には、原発での再発および転移が含まれたが、原発での再発および転移において共通した傾向が認められた。
【0077】
なお、予後と性別との関連は認められなかった。また、喫煙(BI指数が700以上であり、入院まで喫煙していた場合)は、予後に悪影響を及ぼし、SGLT1が陽性で非喫煙例では再発は認められず、SGLT1が陰性で喫煙例では再発し易い傾向が認められた。また、SGLT2が陰性で非喫煙例では再発しにくく、SGLT2が陽性で喫煙例では必ず再発した。
【0078】
糖尿病患者において非糖尿病患者よりも予後がよい理由は、糖尿病患者の一部がSGLT2阻害療法、メトホルミン療法、およびDPP-4阻害剤療法等を受けているためである可能性が示唆される。またEGFR変異例で、変異を有しない例よりも予後がよい理由は、EGFR変異例では、EGFR標的化療法を受けているためである可能性が示唆される。