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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022085373
(43)【公開日】2022-06-08
(54)【発明の名称】シール部材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/10 20060101AFI20220601BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20220601BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220601BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20220601BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20220601BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
C09K3/10 G
C08L83/04
C08K3/36
C08L83/07
C08L83/05
C08L91/00
C09K3/10 Q
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020197017
(22)【出願日】2020-11-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】森田 貴大
(72)【発明者】
【氏名】早崎 康行
(72)【発明者】
【氏名】山岡 竜介
(72)【発明者】
【氏名】田島 梨沙
【テーマコード(参考)】
4H017
4J002
【Fターム(参考)】
4H017AA03
4H017AA04
4H017AA27
4H017AB15
4H017AC16
4H017AC19
4H017AD06
4H017AE05
4J002AE003
4J002AE053
4J002CP04X
4J002CP12W
4J002DJ016
4J002FD016
4J002GJ02
(57)【要約】
【課題】 相手部材の挿抜により、挿入孔に切込み傷が発生しにくいシリコーンゴム系のシール部材を提供する。
【解決手段】 シール部材1は、相手部材8が挿入される複数の挿入孔20を有し、シリコーンゴムと、シリカ粒子と、を有するシリコーンゴム組成物の硬化物であり、次の条件(a)~(d)を満足する。(a)該シリコーンゴムのベースポリマー100質量部に対する該シリカ粒子の含有量をX質量部とした場合に、弾性回復率(%)/X(質量部)=3.6~9.6。(b)タイプAデュロメータ硬さは15以上30以下。(c)切断時引張強さは2.1MPa以上。(d)挿入孔20の表面の動摩擦係数は2.5以下。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手部材が挿入される複数の挿入孔を有するシール部材であって、
シリコーンゴムと、シリカ粒子と、を有するシリコーンゴム組成物の硬化物であり、次の条件(a)~(d)を満足することを特徴とするシール部材。
(a)該シリコーンゴムのベースポリマー100質量部に対する該シリカ粒子の含有量をX質量部とした場合に、弾性回復率(%)/X(質量部)=3.6~9.6。
(b)タイプAデュロメータ硬さは15以上30以下。
(c)切断時引張強さは2.1MPa以上。
(d)該挿入孔の表面の動摩擦係数は2.5以下。
【請求項2】
前記シリコーンゴムのベースポリマーは、一分子中に少なくとも二つのアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンを有し、
前記シリコーンゴム組成物は、ヒドロシリル基(SiH基)を有する架橋剤を有する請求項1に記載のシール部材。
【請求項3】
前記挿入孔の表面の少なくとも一部に配置されるオイル皮膜を有する請求項1または請求項2に記載のシール部材。
【請求項4】
前記シリコーンゴム組成物は、オイルを有し、
前記オイル皮膜は、該オイルが前記挿入孔の表面に染み出て形成される請求項3に記載のシール部材。
【請求項5】
前記オイル皮膜は、前記挿入孔の表面にオイルを塗布して形成される請求項3または請求項4に記載のシール部材。
【請求項6】
前記オイルは、フェニル基含有オイル、エーテル変性オイル、流動パラフィンオイルから選ばれる一種以上である請求項3ないし請求項5のいずれかに記載のシール部材。
【請求項7】
前記シリコーンゴムのベースポリマーの分子量は、33,000以上100,000以下である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のシール部材。
【請求項8】
平板状の本体部を有し、複数の前記挿入孔は、各々、該本体部の厚さ方向に貫通して形成されており、
前記相手部材の挿入方向から該本体部を見た場合に、隣接する挿入孔の距離は1.3mm以上8.8mm以下である請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のシール部材。
【請求項9】
前記相手部材は、金属製であり角部を有する請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のシール部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相手部材が挿入される複数の挿入孔を有するシリコーンゴム系のシール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
コネクタハウジングの電線引出部に配置され、電線とコネクタハウジングとの間をシールするマットシールが知られている(例えば、特許文献1参照)。当該マットシールはゴムなどの弾性材料からなり、厚さ方向に貫通する複数の挿入孔を有し、各々の挿入孔には電線が挿通される。電線の先端には端子が取り付けられている。マットシールの挿入孔に電線を挿通させる際には、まず端子を挿入孔に挿入し、挿入孔を押し広げながら通過させる。挿入孔を通過した端子は端子収容室に挿入され、端子から延びる電線は挿入孔内に配置される。挿入孔の内周面には環状のリップ部が形成されており、リップ部が電線の外周に密着することにより、コネクタハウジング内への水分の侵入が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-58138号公報
【特許文献2】特開2018-53237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年は、コネクタハウジングが小型化し、挿入される電線数も増加している。これに伴い、マットシールにおいても挿入孔の数の増加や、大きさの縮小化が求められる。電線の先端に取り付けられる端子は、金属製で角部を有する形状のものが多い。このため、端子が挿入孔を通過する際、挿入孔の表面を傷つけてしまい、シール性の低下を招くおそれがある。
【0005】
この点、特許文献1には、マットシールなどに用いられるシール部材の材料として、ポリロタキサンを配合したシリコーンゴムを用いることにより、シリコーンゴムの分子同士を滑りやすくして、シール部材の傷付き性を低減することが記載されている。しかしながら、ポリロタキサンは比較的高価であるため、コストが増加する。また、特許文献1にはどのような傷の発生が低減されるのかは記載されていないが、段落[0027]には、外部から加わった応力を分散しやすくするためにポリロタキサンを配合することが記載されている。
【0006】
従来は、シール部材の傷として、表面に存在していた切込みが進展した状態の「亀裂」を問題にしていた。このため、傷(亀裂)を抑制する対策として、切込みの進展性を加味した引裂強さを高める検討がなされてきた。特許文献1においても、特性の評価項目として引裂強さが挙げられている(表1、表2)。これに対して、本発明者がシール部材の傷について鋭意検討を重ねた結果、シール性の低下を抑制するためには、切込みが進展した状態の「亀裂」よりも、切込みそのものが入ることを抑制する必要があるという知見を得た。そのためには、引裂強さの向上だけでは解決できず、従来の材料では切込み傷の発生を充分に抑制することはできない。
【0007】
他方、特許文献2においては、ビニル基含有オルガノポリシロキサンとシリカ粒子とを含み、低硬度、高引裂強さであって引張り永久歪みが小さいシリコーンゴムが記載されている。しかしながら、前述したように、引裂強さの向上だけでは切込み傷の発生を抑制することはできない。また、特許文献2に記載されているシリコーンゴムの用途は、医療用チューブなどの医療用成形体である(段落[0126])。特許文献2には、この用途に着眼した課題として、引張り永久歪みの低減が記載されている。引張り永久歪みは、引き伸ばした後、元に戻らずに伸びが残存してしまうことを示す特性(引張り残存歪み)であり、圧縮して歪みが残る圧縮永久歪みとは異なる特性として認識されている(段落[0011])。特許文献2においては、端子などの相手部材の挿抜により生じる傷については検討の対象としていない。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、相手部材の挿抜により、挿入孔に切込み傷が発生しにくいシリコーンゴム系のシール部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のシール部材は、相手部材が挿入される複数の挿入孔を有するシール部材であって、シリコーンゴムと、シリカ粒子と、を有するシリコーンゴム組成物の硬化物であり、次の条件(a)~(d)を満足することを特徴とする。
(a)該シリコーンゴムのベースポリマー100質量部に対する該シリカ粒子の含有量をX質量部とした場合に、弾性回復率(%)/X(質量部)=3.6~9.6。
(b)タイプAデュロメータ硬さは15以上30以下。
(c)切断時引張強さは2.1MPa以上。
(d)該挿入孔の表面の動摩擦係数は2.5以下。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシール部材は、シリコーンゴムと、シリカ粒子と、を有するシリコーンゴム組成物の硬化物である。シリカ粒子を含有することにより、シール部材の硬さの調整が容易であり、引張強さなどの機械的強度を向上させやすい。さらに本発明のシール部材は、先の条件(a)~(d)を満足する。これら四つの条件は、本発明者が見いだした切込み傷の発生抑制を目的として特定された条件である。
【0011】
条件(a)に規定されるように、本発明のシール部材においては、シリカ粒子の含有量に対する弾性回復率の比が3.6以上9.6以下である。弾性回復率は、インデンテーション試験法により測定される弾性変形仕事率ηIT(%)であり、100%に近いほど弾性変形しやすい、換言すると、変形しても元の状態に戻りやすいことを示す。本発明者は、シール部材の挿入孔に相手部材を挿抜する際に発生する切込み傷には、シール部材の弾性回復率とシリカ粒子の含有量との両方が大きく影響するという知見を得て、両者の比において切込み傷の抑制に有効な範囲を特定した。例えば、弾性回復率のみに着目し、その値が大きければ繰り返しの変形に対する回復力が大きいため、切込み傷抑制の指標になりそうである。しかしながら、弾性回復率が大きくても、シリカ粒子の含有量が少なければゴム自体が脆弱になるため、切込み傷は発生しやすくなる。このように、弾性回復率とシリカ粒子の含有量とのいずれか一方を規定するだけでは、切込み傷の発生を抑制することはできない。条件(a)を満足することにより、ゴム(シール部材)の弾性回復率と強度とを両立することができる。結果、相手部材の挿抜に伴う圧縮や引張りによる残留歪みが低減され、挿抜を繰り返してもシール部材が疲労破壊しにくくなる。
【0012】
条件(b)に規定されるように、本発明のシール部材のタイプAデュロメータ硬さは15以上30以下である。条件(b)を満足することにより、ゴム(シール部材)の硬さが最適化され、切込み傷の発生を抑制することができる。
【0013】
条件(c)に規定されるように、本発明のシール部材の切断時引張強さは2.1MPa以上である。条件(c)を満足する場合、ゴムの分子間結合が強固になるため、相手部材が挿抜される際に加わる力学的および熱的負荷により、ゴムの分子が切断されにくくなる。結果、ゴム(シール部材)の機械的強度が確保され、切込み傷の発生を抑制することができる。
【0014】
条件(d)に規定されるように、本発明のシール部材の挿入孔の表面の動摩擦係数は2.5以下である。条件(d)を満足することにより、挿入孔の表面(相手部材との摺接面)の摩擦が低減される。これにより、相手部材が挿抜される際に加わる力学的および熱的負荷が低減され、ゴムの分子が切断されにくくなる。結果、切込み傷の発生を抑制することができる。
【0015】
以上説明したように、本発明のシール部材によると、条件(a)~(d)を満足することにより、相手部材の挿抜を繰り返しても、挿入孔に切込み傷が発生しにくい。よって、本発明のシール部材は、耐久性に優れ信頼性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のシール部材の一実施形態であるマットシールの前面図である。
図2図1のII-II断面図である。
図3】マットシールの耐傷性の評価方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本発明のシール部材の一実施形態として、防水コネクタのマットシールとして使用される形態を説明する。図1に、本実施形態のマットシールの前面図を示す。図2に、図1のII-II断面図を示す。図1図2に示すように、マットシール1は、本体部10と五つの挿入孔20とを有している。
【0018】
本体部10は、長方形平板状を呈しており、末端ビニル基ジメチルポリシロキサン(分子量40,000)、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、シリカ粒子、およびフェニル基含有シリコーンオイルを有するシリコーンゴム組成物の硬化物である。本体部10において、末端ビニル基ジメチルポリシロキサン100質量部に対するシリカ粒子の含有量は20質量部であり、条件(a)の「弾性回復率/シリカ粒子の含有量」の値は4.4、条件(b)のタイプAデュロメータ硬さは30、条件(c)の切断時引張強さは4.4MPaである。
【0019】
五つの挿入孔20は、各々、本体部10の厚さ方向に貫通して形成されている。五つの挿入孔20は、各々、前面から見て円形状の開口部を有しており、左右方向一列に等間隔で配置されている。隣接する挿入孔20同士の距離Dは2.6mmである。五つの挿入孔20は、各々、内側に突出するリップ部21を有している。リップ部21は、環状を呈しており、本体部10の厚さ方向に平行に二つ配置されている。挿入孔20の表面(内周面)には、オイル皮膜(図略)が配置されている。オイル皮膜は、シリコーンゴム組成物の成分であるフェニル基含有シリコーンオイルが、挿入孔20の表面に染み出て形成されている。条件(d)の挿入孔20の表面の動摩擦係数は0.9である。五つの挿入孔20の形状、大きさなどは全て同じである。
【0020】
図2に示すように、五つの挿入孔20には、各々、後方から端子付き電線8が挿入される。端子付き電線8は、端子80と電線81とを有している。端子80は、金属製であり突起を有する直方体状を呈している。端子80は、電線81の先端(前端)に取り付けられている。端子付き電線8は、本発明における相手部材の概念に含まれる。
【0021】
防水コネクタは、主にマットシール1と、図示しないアウタハウジング(コネクタハウジング)およびインナハウジングと、から構成されている。アウタハウジングは四角形筒状の側壁部と、側壁部の後端開口を塞ぐ後壁部と、を有する箱状を呈しており、後壁部には端子付き電線8が通過可能な端子挿通孔が五つ形成されている。マットシール1はアウタハウジングの後壁部の内側に配置され、挿入孔20は端子挿通孔に対応するように配置されている。マットシール1の後面は、アウタハウジングの後壁部に密着して配置されている。インナハウジングは、マットシール1の前面に密着して配置されている。インナハウジングは、挿入孔20を通過した端子80を収容する端子収容部を有している。
端子付き電線8は、アウタハウジングの端子挿通孔からマットシール20の挿入孔20に挿入される。端子80は、挿入孔20を押し広げながら前方に進み、挿入孔20を通過した後はインナハウジングの端子収容部に収容される。端子80から後方へ延びる電線81の外周には、挿入孔20のリップ部21が密着し、これにより挿入孔20と電線81との間がシールされる。
【0022】
本実施形態のマットシール1は、シリコーンゴムと、シリカ粒子と、を有するシリコーンゴム組成物の硬化物であり、四つの条件(a)~(d)を満足する。このため、マットシール1においては、端子80の挿抜を繰り返しても、挿入孔20に切込み傷が発生しにくい。したがって、マットシール1は、耐久性に優れ信頼性が高い。
【0023】
以上、本発明のシール部材の一実施形態を説明したが、本発明のシール部材は、当該形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0024】
[シール部材の構成]
本発明のシール部材は、相手部材が挿入される複数の挿入孔を有する。相手部材の種類、材質、形状、大きさなどは、特に限定されない。例えば、上記実施形態の端子のように、相手部材が金属製であり角部を有する場合には、切込み傷が発生しやすい。よって、切込み傷発生の抑制効果が高い本発明のシール部材は、そのような相手部材に対して好適である。
【0025】
挿入孔の数は、二つ以上であれば特に限定されない。挿入孔の数、配置形態、開口部の形状、開口部の直径などは、シール部材の用途、相手部材の数、材質、形状、大きさなどに応じて適宜決定すればよい。挿入孔は、シール部材の厚さ方向に貫通していてもしていなくてもよい。例えば、シール部材が平板状の本体部を有し、当該本体部に複数の挿入孔が形成されている場合、挿入孔同士の距離が近くなると、相手部材の挿抜時に挿入孔同士が干渉しやすくなる。すなわち、相手部材を任意の挿入孔に挿入した際、それに隣接する挿入孔が押圧されて狭くなりやすい。この場合、隣接する挿入孔に相手部材を挿入する際に、切込み傷が発生しやすくなる。このように、挿入孔の数が多く密になるほど、切込み傷は発生しやすくなると予想される。挿入孔同士の干渉を少なくするという観点から、挿入孔が形成されている本体部を相手部材の挿入方向から見た場合に、隣接する挿入孔の距離は1.3mm以上8.8mm以下であることが望ましい。ここで、隣接する挿入孔の距離とは、隣接する挿入孔の中心軸間の距離を意味する。
【0026】
挿入孔の表面の動摩擦係数を小さくするという観点から、挿入孔の表面の少なくとも一部にはオイル皮膜が配置されていることが望ましい。オイル皮膜は、シリコーンゴム組成物に含有されているオイルが挿入孔の表面に染み出て(ブリードして)形成されるものでもよく、挿入孔の表面にオイルを塗布して形成されるものでもよく、その両方でもよい。オイル皮膜を形成するオイルについては後述する。
【0027】
[シール部材の成分および特性]
本発明のシール部材は、シリコーンゴムと、シリカ粒子と、を有するシリコーンゴム組成物の硬化物である。シリコーンゴムのベースポリマーとしては、オルガノポリシロキサンとして広く知られているものを使用することができる。ベースポリマーは、液状ゴムでも固形(ミラブル)ゴムでもよい。リップ部などを含めて寸法精度よく成形できるという点において、液状ゴムが望ましい。
【0028】
オルガノポリシロキサンは、その架橋機構(硬化機構)に応じて、所定の反応基を有する。反応基としては、アルケニル基(ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基など)、シラノール基などが挙げられる。前者のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、有機過酸化物を架橋剤とする過酸化物架橋反応や、ヒドロシリル基(SiH基)を有するオルガノポリシロキサン(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)を架橋剤とする付加反応により架橋される。付加反応には、白金触媒などのヒドロシリル化触媒を組み合わせて用いることができる。後者のシラノール基を有するオルガノポリシロキサンは、縮合反応により架橋される。縮合反応には、縮合用架橋剤を組み合わせて用いることができる。
【0029】
良好な弾性を有する硬化物を得るという観点から、シリコーンゴムを構成するベースポリマーは、一分子中に少なくとも二つのアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンを有し、架橋剤は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを有する態様が望ましい。
【0030】
オルガノポリシロキサンは、反応基に加えて有機基を有する。有機基は、1価の置換または非置換の炭化水素基である。非置換の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基などのアルキル基、フェニル基などのアリール基、β-フェニルエチル基、β-フェニルプロピル基などのアラルキル基などが挙げられる。置換の炭化水素基としては、クロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基などが挙げられる。合成がしやすいという観点から、有機基としてメチル基を有するオルガノポリシロキサンが望ましい。オルガノポリシロキサンは、直鎖状のものが望ましいが、分岐状もしくは環状のものでもよい。
【0031】
架橋剤のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが有するヒドロシリル基の数は、特に限定されないが、硬化速度が大きく、安定性に優れるなどの観点から、2以上50以下であることが望ましい。この場合、ヒドロシリル基の水素は異なるSiに結合されていることが望ましい。オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、鎖状のものでも環状のものでもよい。オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体などが挙げられる。架橋剤の配合量は、一分子中に少なくとも二つのアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンの100質量部に対して、0.1質量部以上40質量部以下にするとよい。
【0032】
シリコーンゴムのベースポリマーの分子量は、特に限定されないが、条件(a)、(b)を満足しやすいという観点から、30,000以上120,000以下であることが望ましい。33,000以上100,000以下であるとより好適である。分子量が30,000未満の場合には、硬化物(シール部材)が硬くなる。このため、相手部材の挿抜時に生じる応力が大きくなり切込み傷が入りやすくなる。反対に、分子量が120,000を超えると、架橋点の長さが長くなり、弾性回復率が小さくなる。これにより、切込み傷が入りやすくなる。なお、本明細書においては、特に断らない限り、分子量は重量平均分子量を意味する。
【0033】
ベースポリマーの架橋反応を促進するため、適宜触媒を配合してもよい。前述したヒドロシリル化触媒としては、白金触媒、ルテニウム触媒、口ジウム触媒などが挙げられる。白金触媒としては、微粒子状白金、白金黒、白金担持活性炭、白金担持シリカ、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフイン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
シリカ粒子としては、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカなどを用いればよい。シリカ粒子は、表面処理を施したものでもよい。例えば、疎水化処理を施したものは、シリコーンゴムへの分散性に優れ、充分な機械的強度を確保しやすいという点で好適である。シリカ粒子の配合量は、条件(a)~(c)を満足するように適宜調整すればよい。例えば、ベースポリマーの100質量部に対して、10質量部以上25質量部以下にするとよい。シリカ粒子の配合量が増加すると、硬化物(シール部材)が硬くなり、弾性回復率は小さくなる。反対に、シリカ粒子の配合量が減少すると、硬化物は軟らかくなり、弾性回復率は大きくなる。但し、シリカ粒子の配合量が少なすぎると、硬化物の機械的強度が低下してしまう。
【0035】
前述したように、挿入孔の表面の動摩擦係数を小さくするという観点から、挿入孔の表面の少なくとも一部にはオイル皮膜が配置されていることが望ましい。オイル皮膜は、シリコーンゴム組成物の成分としてのオイルを挿入孔の表面に染み出させて形成してもよく、挿入孔の表面に別途オイルを塗布して形成してもよい。前者の場合、シリコーンゴム組成物は、シリコーンゴムと相溶性が低いオイルを有することが望ましい。シリコーンゴムとの相溶性が低くブリードしやすいオイルとしては、フェニル基含有オイル、エーテル変性オイル、流動パラフィンオイルなどが挙げられる。これらから選ばれる一種、または二種以上を混合して用いればよい。なかでも、シリコーンゴムからブリードするタイミングを制御しやすく、良好な成形加工性を確保することができるという観点から、フェニル基含有オイルが好適である。オイルの配合量は、条件(d)を満足するように適宜調整すればよい。例えば、ベースポリマーの100質量部に対して、0.5質量部以上15質量部以下にするとよい。4質量部以上10質量部以下にするとより好適である。後者の場合(挿入孔の表面にオイルを塗布する場合)、オイルの種類は特に限定されないが、塗布したオイルがシリコーンゴムに染み込みにくく表面に留まるものが望ましい。このような観点から、前者の場合と同様に、シリコーンゴムと相溶性が低いオイルを採用することが望ましい。
【0036】
シリコーンゴム組成物は、条件(a)~(d)を満足できれば、前述した材料以外の添加剤を有してもよい。添加剤としては、架橋促進剤、架橋遅延剤、架橋助剤、補強材、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、滑剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、防錆剤、顔料などが挙げられる。
【0037】
本発明のシール部材は、以下の四つの条件(a)~(d)を満足する。
【0038】
(a)弾性回復率(%)/X(質量部)=3.6~9.6
弾性回復率は、インデンテーション試験法により測定される弾性変形仕事率である。弾性変形仕事率ηIT(%)は、試験片の表面に圧子を押し込んで荷重変位曲線を作成し、得られた荷重変位曲線から、塑性変形仕事量(Wplast)および弾性変形仕事量(Welast)を求め、全機械的仕事量をWtotal(=Wplast+Welast)として、次式(i)より算出する。
ηIT=Welast/Wtotal×100 ・・・(i)
本明細書においては、算出された弾性変形仕事率ηIT(%)を弾性回復率と称し、弾性回復率の値を、ベースポリマー100質量部に対するシリカ粒子の含有量(X質量部)で除して、条件(a)の「弾性回復率(%)/X(質量部)」を求める。
【0039】
シリカ粒子の含有量に対する弾性回復率の比が3.6未満の場合には、シール部材が硬くなり、変形後に元の状態に戻りにくいため、切込み傷が発生しやすくなる。9.6を超えると、シール部材が軟らかくなり機械的強度が低下して、切込み傷が発生しやすくなる。
【0040】
(b)タイプAデュロメータ硬さ:15以上30以下
タイプAデュロメータ硬さは、JIS K 6253-3:2012に準拠した方法により測定すればよい。タイプAデュロメータ硬さが15未満の場合には、シール部材が軟らかくなり機械的強度が低下するため、切込み傷が発生しやすくなる。30を超えると、シール部材が硬くなり、相手部材を挿抜しにくくなるため、切込み傷が発生しやすくなる。
【0041】
(c)切断時引張強さ:2.1MPa以上
切断時引張強さは、JIS K 6251:2017に準拠した方法により測定すればよい。試験片としては、ダンベル3号形を使用する。切断時引張強さが2.1MPa未満の場合には、シール部材の機械的強度が低下するため、切込み傷が発生しやすくなる。
【0042】
(d)挿入孔の表面の動摩擦係数:2.5以下
本明細書においては、動摩擦係数として、自動摩擦摩耗解析装置(協和界面科学(株)製「Triboster 500」、面接触子)を用いて測定された値を採用する。測定条件は、荷重100gf(0.98N)、引張速度500mm/minとする。動摩擦係数が2.5を超えると、挿入孔の表面(相手部材との摺接面)の摩擦が大きくなり、切込み傷が発生しやすくなる。挿入孔の表面の動摩擦係数は、2.0以下であるとより好適である。
【0043】
[シール部材の製造方法]
本発明のシール部材は、シリコーンゴムと、シリカ粒子と、を有するシリコーンゴム組成物を硬化させて製造すればよい。例えば、射出成形機を用いて、金型にシリコーンゴム組成物を注入し、加熱して硬化させればよい。加熱温度は、140~170℃程度、硬化させる時間は5~10分程度にするとよい。
【実施例0044】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0045】
(1)シール部材の特性
<試験片の製造>
まず、所定の原料を後出の表1、表2に示す量にて配合し、プラネタリーミキサーを用いて混合することにより種々のシリコーンゴム組成物を調製した。次に、調製したシリコーンゴム組成物を温度170℃で10分間プレス成形することにより硬化して、後述する特性の測定方法に応じた試験片を製造した。表1に示す実施例1~10の試験片は、本発明のシール部材の概念に含まれる。使用した原料の詳細は次のとおりである。
【0046】
[ベースゴム]
末端ビニル基ジメチルポリシロキサンA:EVONIK社製「Polymer VS2000」、分子量25,000。
末端ビニル基ジメチルポリシロキサンB:EVONIK社製「Polymer VS5000」、分子量33,000。
末端ビニル基ジメチルポリシロキサンC:EVONIK社製「Polymer VS10000」、分子量40,000。
末端ビニル基ジメチルポリシロキサンD:EVONIK社製「Polymer VS20000」、分子量50,000。
末端ビニル基ジメチルポリシロキサンE:EVONIK社製「Polymer VS65000」、分子量67,000。
末端ビニル基ジメチルポリシロキサンF:EVONIK社製「Polymer VS100000」、分子量100,000。
末端ビニル基ジメチルポリシロキサンG:EVONIK社製「Polymer VS165000」、分子量130,000。
側鎖ビニル基ジメチルポリシロキサンH:分子量500,000。
末端ビニル基ジメチルポリシロキサンI:分子量480,000。
末端・側鎖ビニル基ジメチルポリシロキサンJ:分子量500,000。
【0047】
これらのビニル基含有ジメチルポリシロキサンのうち、H~Jについては、次のようにして合成した。
【0048】
(1)側鎖ビニル基ジメチルポリシロキサンH
まず、アルゴンガス置換された容器内に、オクタメチルシクロテトラシロキサン74.7g、2,4,6,8-テトラメチル2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン0.086g、およびカリウムシリコネート0.1gを入れ、120℃下で30分間撹拌した。それから155℃まで昇温し、3時間撹拌を続けた後、ヘキサメチルジシロキサンを0.1g添加して、155℃下で4時間撹拌した。反応終了後、トルエンで希釈してから水で3回洗浄した。洗浄後の有機層をメタノールで数回洗浄することにより再沈精製し、オリゴマーとポリマーとを分離した。得られたポリマーを60℃下で一晩減圧乾燥し、側鎖ビニル基ジメチルポリシロキサンHを得た。
【0049】
(2)末端ビニル基ジメチルポリシロキサンI
(1)の側鎖ビニル基ジメチルポリシロキサンHの合成方法において、2,4,6,8-テトラメチル2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサンを使用しない点、およびヘキサメチルジシロキサンの代わりに1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンを0.1g添加した点以外は、(1)の合成方法と同様にして、末端ビニル基ジメチルポリシロキサンIを得た。
【0050】
(3)末端・側鎖ビニル基ジメチルポリシロキサンJ
(1)の側鎖ビニル基ジメチルポリシロキサンHの合成方法において、2,4,6,8-テトラメチル2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサンの配合量を0.86gとした点、およびヘキサメチルジシロキサンの代わりに1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンを0.1g添加した点以外は、(1)の合成方法と同様にして、末端・側鎖ビニル基ジメチルポリシロキサンJを得た。
【0051】
[架橋剤]
オルガノハイドロジェンポリシロキサンA:信越化学工業(株)製「KF-9901」。
オルガノハイドロジェンポリシロキサンB:モメンティブ社製「TC-25D」。
【0052】
[シリカ粒子]
シリカ粒子:ヘキサメチルジシラザンで表面処理された疎水性フュームドシリカ、日本アエロジル(株)製「AEROSIL(登録商標)RX200」。
【0053】
[オイル]
フェニル基含有シリコーンオイル:信越化学工業(株)製「KF-53」。
エーテル変性シリコーンオイル:信越化学工業(株)製「KF-354L」。
流動パラフィンオイル:富士フィルム和光純薬(株)製「流動パラフィン」。
【0054】
[触媒]
ヒドロシリル化白金触媒A:ユミコアジャパン(株)製「Pt-VTSC-3.0X」。
ヒドロシリル化白金触媒B:モメンティブ社製「TC-25A」。
【0055】
<特性の測定方法>
製造した試験片を用いて、シリコーンゴム組成物の硬化物の弾性回復率、タイプAデュロメータ硬さ、動摩擦係数を測定した。以下に各々の測定方法を説明する。
【0056】
[弾性回復率]
インデンテーション試験法に基づく微小硬度計((株)フィッシャー・インストルメンツ製「FISCHERSCOPE(登録商標) H100C」)を用いて、以下の測定条件にて正方形シート状の試験片の表面に圧子を押し込んで、荷重変位曲線を作成した。試験片の大きさは、一辺の長さ30mm、厚さ2mmである。得られた荷重変位曲線から、塑性変形仕事量(Wplast)および弾性変形仕事量(Welast)を求め、全機械的仕事量をWtotal(=Wplast+Welast)として、先の式(i)より弾性変形仕事率ηIT(%)を算出した。算出された弾性変形仕事率ηIT(%)を弾性回復率とし、その値を、ベースポリマー100質量部に対するシリカ粒子の含有量(X質量部)で除して、条件(a)の「弾性回復率(%)/X(質量部)」を求めた。
測定条件
圧子:対面角度136°の四角垂型ダイヤモンド圧子。
初期荷重:0mN。
押込み最大荷重:10mN(定荷重)。
最大荷重到達時間:3sec。
最大荷重保持時間:5sec。
抜重時間:3sec。
測定温度:25℃。
【0057】
[タイプAデュロメータ硬さ]
JIS K 6253-3:2012に準拠した方法により、厚さ12mmの試験片のタイプAデュロメータ硬さを測定した。
【0058】
[切断時引張強さ]
JIS K 6251:2017に準拠した方法により、ダンベル3号形(厚さ2mm)の試験片の切断時引張強さT(MPa)を測定した。
【0059】
[動摩擦係数]
厚さ2mm、30mm四方の正方形シート状の試験片の表面の動摩擦係数を、自動摩擦摩耗解析装置(協和界面科学(株)製「Triboster 500」、面接触子)を用いて測定した。測定条件は、荷重100gf(0.98N)、引張速度500mm/minとした。なお、表1中、オイル欄に「塗布」と記載されている実施例2、4、5、7の試験片については、試験片の表面にオイルを塗布して測定した。
【0060】
<特性の測定結果>
表1、表2に、試験片の製造に使用した原料および特性の測定結果をまとめて示す。
【表1】
【表2】
【0061】
表1に示すように、実施例1~10の硬化物は、四つの条件(a)~(d)を全て満足した。他方、表2に示すように、実施例1~10とはベースポリマーの分子量、シリカ粒子の配合量、オイルの有無などが異なる比較例1~9の硬化物によると、四つの条件(a)~(d)のうち満足しない条件があった。例えば、比較例1の硬化物は、実施例8の硬化物と比較して、ベースポリマーの分子量が小さい。結果、タイプAデュロメータ硬さが大きくなった。比較例2の硬化物は、実施例3、9、10の硬化物と比較して、ベースポリマーの分子量が大きい。結果、シリカ粒子の含有量に対する弾性回復率の比が小さくなった。比較例3の硬化物は、実施例3の硬化物と比較して、シリカ粒子の含有量が少ない。結果、シリカ粒子の含有量に対する弾性回復率の比が大きくなり、タイプAデュロメータ硬さおよび切断時引張強さが小さくなった。反対に、比較例5の硬化物は、実施例3の硬化物と比較して、シリカ粒子の含有量が多い。結果、シリカ粒子の含有量に対する弾性回復率の比が小さくなり、タイプAデュロメータ硬さが大きくなった。比較例4の硬化物は、実施例6の硬化物と比較して、シリカ粒子の含有量が少ない。結果、シリカ粒子の含有量に対する弾性回復率の比が大きくなり、切断時引張強さが小さくなった。比較例6の硬化物は、表面にオイル皮膜を有しない。結果、実施例3~5の硬化物と比較して、表面の動摩擦係数が大きくなった。比較例7~9の硬化物は、ベースポリマーの分子量が大きく、表面にオイル皮膜を有しない。よって、表面の動摩擦係数が大きくなると共に、比較例8、9の硬化物においては、タイプAデュロメータ硬さが大きくなり、比較例9の硬化物においては、シリカ粒子の含有量に対する弾性回復率の比も小さくなった。
【0062】
<シール部材の耐傷性評価>
前述した試験片の製造と同様に、表1、表2に示す配合にて種々のシリコーンゴム組成物を調製し、それをプレス成形して上記実施形態のマットシール1を製造した(前出図1図2参照)。表1中、オイル欄に「塗布」と記載されている実施例2、4、5、7のマットシールについては、製造したマットシールの挿入孔の表面(内周面)にオイルを塗布した。表1に示す実施例1~10のマットシールは、本発明のシール部材の概念に含まれる。製造したマットシールをハウジングにセットして、端子を挿抜して切込み傷の入りにくさ(耐傷性)を評価した。評価方法は次のとおりである。図3に、マットシールの耐傷性の評価方法の説明図を示す。図3は、前出図1に対応している。
【0063】
図3に示すように、マットシール1に形成されている五つの挿入孔20を、左側から順番にNo.1~5と番号付けした。そしてまず、端子付き電線の端子をNo.1からNo.5の順に挿入し、続いてNo.5からNo.1の順に電線を引き抜いた。この操作を3回繰り返し行った後、図3中、一点鎖線で示すように、マットシール1の挿入孔20部分を左右方向に切断して、五つの挿入孔20の表面(内周面)に生じた切込み傷の数を数えた。
【0064】
結果を前出の表1、表2にまとめて示す。表1に示すように、四つの条件(a)~(d)を全て満足する実施例1~10のマットシールにおける切込み傷の数は20個以下であったのに対し、条件(a)~(d)のいずれか一つでも満たさない比較例1~9のマットシールにおける切込み傷の数は20を上回った。以上より、本発明のシール部材においては、相手部材の挿抜により、挿入孔に切込み傷が発生しにくいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のシール部材は、自動車分野、産業機器分野、情報通信機器分野などにおける様々な部品に適用することができる。特に、防水コネクタなどの多極ゴム栓、多穴ゴムブッシュ、多穴グロメットなどに好適である。
【符号の説明】
【0066】
1:マットシール、10:本体部、20:挿入孔、21:リップ部、8:端子付き電線、80:端子、81:電線。
図1
図2
図3