(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022085480
(43)【公開日】2022-06-08
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20220601BHJP
【FI】
B41J2/01 209
B41J2/01 205
B41J2/01 451
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020197193
(22)【出願日】2020-11-27
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】稲川 博敬
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA06
2C056EA08
2C056EB07
2C056EB13
2C056EB20
2C056EB30
2C056EB32
2C056EB35
2C056EB37
2C056EB40
2C056EB45
2C056EB47
2C056EB49
2C056EB58
2C056EC07
2C056EC08
2C056EC37
2C056EC71
2C056EC72
2C056ED01
2C056FA13
(57)【要約】
【課題】1回の走査による印刷における印刷画質の低下を軽減できるインクジェット印刷装置を提供する。
【解決手段】インクジェット印刷装置1は、用紙を移動させつつ、インクを吐出する複数のノズルにより形成されたノズル列を有する印刷部3により用紙に印刷する。制御部5は、ノズル列にインクを吐出しないノズルである無効ノズルを所定間隔で設定する。そして、制御部5は、無効ノズルがインクを吐出しないことで印刷画像に形成される白スジに沿った濃度ムラを補正するとともに、当該白スジにインクを補完するよう印刷部3を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数のノズルにより形成されたノズル列を有する印刷手段と印刷媒体とを相対的に走査させつつ前記印刷手段により印刷媒体に印刷を行うインクジェット印刷装置であって、
前記ノズル列にインクを吐出しない前記ノズルである無効ノズルを所定間隔で設定する設定手段と、
前記印刷手段と印刷媒体との1回の走査において、前記無効ノズルがインクを吐出しないことで印刷画像に形成される白スジに沿った濃度ムラを補正するとともに、前記白スジにインクを補完する補正手段と
を備えることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記設定手段は、前記印刷手段と印刷媒体との相対移動速度、および前記ノズルが開口するノズル面と印刷媒体との間の距離の少なくともいずれかに基づき、前記所定間隔の大きさを決定することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項3】
インクを吐出する複数のノズルにより形成されたノズル列を有する印刷手段と印刷媒体とを相対的に走査させつつ前記印刷手段により印刷媒体に印刷を行うインクジェット印刷装置であって、
前記ノズル列に印字率の上限を他の前記ノズルより低減した前記ノズルである印字率低減ノズルを所定間隔で設定して印刷を行うよう制御する制御手段を備えることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記印字率低減ノズルにおけるインクの吐出タイミングが、他の前記ノズルにおけるインクの吐出タイミングに対して、前記印刷手段と印刷媒体との相対的な走査の方向における、前記印字率低減ノズルおよび他の前記ノズルがインクを印刷媒体に吐出して形成するドットのピッチの半ピッチ分だけずれるよう制御することを特徴とする請求項3に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記印刷手段と印刷媒体との相対移動速度、前記ノズルが開口するノズル面と印刷媒体との間の距離、印刷媒体の種類、印刷画像の印字率、インクの色、インクの種類、およびインクの温度の少なくともいずれかに基づき、前記印字率低減ノズルを設定するか否かを決定することを特徴とする請求項3または4に記載のインクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷装置において、高画質化のために、インクを吐出するノズルの高密度化や、インクジェットヘッドの駆動周波数の増大が行われている。これによって、インクの吐出に伴って発生する気流が大きくなることで乱れやすくなる。そして、吐出されたインクの液滴(主滴)やサテライト(微小液滴)が気流の乱れの影響を受けることで印刷画質の低下が生じやすくなる。
【0003】
一般的に、気流の乱れによる印刷画質の低下は、濃度ムラによるものである。この濃度ムラは、気流の流線を反映した風紋様の濃淡パターンとなって現れる。この濃度ムラは、主に渦流によって局所的に、経時変化を伴いながら発生するものであるため、画像データの補正等によって低減することは困難である。
【0004】
これに対し、シリアル型のインクジェット印刷装置において、インクジェットヘッドの1回の走査において記録すべき画像データを間引き、複数回の走査に分けて画像データを記録する技術が知られている(特許文献1,2参照)。この技術では、画像データを間引くことにより印字率を下げることで気流の発生を抑制し、印刷画質の低下を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-96222号公報
【特許文献2】特開2006-192892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の技術は、複数回の走査(複数パス)が可能なシリアル型のインクジェット印刷装置を前提としており、1回の走査(1パス)で印刷を行うライン型のインクジェット印刷装置には適用できない。すなわち、ライン型のインクジェット印刷装置では、画像データを間引くと、印刷画像の欠落が生じ、印刷画質が低下する。
【0007】
このため、ライン型のインクジェット印刷装置にも適用可能な、1回の走査による印刷における印刷画質の低下を軽減できる技術が要望されていた。
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、1回の走査による印刷における印刷画質の低下を軽減できるインクジェット印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のインクジェット印刷装置は、インクを吐出する複数のノズルにより形成されたノズル列を有する印刷手段と印刷媒体とを相対的に走査させつつ前記印刷手段により印刷媒体に印刷を行うインクジェット印刷装置であって、前記ノズル列にインクを吐出しない前記ノズルである無効ノズルを所定間隔で設定する設定手段と、前記印刷手段と印刷媒体との1回の走査において、前記無効ノズルがインクを吐出しないことで印刷画像に形成される白スジに沿った濃度ムラを補正するとともに、前記白スジにインクを補完する補正手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のインクジェット印刷装置によれば、1回の走査による印刷における印刷画質の低下を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係るインクジェット印刷装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示すインクジェット印刷装置の搬送部、印刷部、およびヘッドギャップ調整部の概略構成図である。
【
図3】
図1に示すインクジェット印刷装置のヘッドモジュールの配置を示す図である。
【
図6】無効ノズルを設けずに印刷したベタ印刷画像の一例を示す図である。
【
図7】無効ノズルを設けて印刷した場合のドットイメージの一例を示す図である。
【
図8】無効ノズルを設けて印刷したベタ印刷画像の一例を示す図である。
【
図9】無効ノズルに由来する白スジにインクを補完したドットイメージの一例を示す図である。
【
図10】第1実施形態の変形例におけるヘッドモジュールの概略構成図である。
【
図11】第2実施形態における印字率低減ノズルを設けて印刷を行った場合のドットイメージの一例を示す図である。
【
図12】印字率低減ノズルを設けて印刷したベタ印刷画像の一例を示す図である。
【
図13】印字率低減ノズルの有無および印字率低減ノズル間隔の大きさによる印刷画像の濃度ムラを調査した結果を示す図である。
【
図14】印字率低減ノズルにおけるインクの吐出タイミングを用紙の搬送方向におけるドットのピッチの半ピッチ分だけずらした場合のドットイメージを示す図である。
【
図15】印字率低減ノズルによるインクの吐出頻度(ドットを形成する頻度)の上限の制限により印字率の上限を低減した場合のドットイメージの一例を示す図である。
【
図16】印字率低減ノズルがインクを吐出する用紙の搬送方向のラインにインクを補完したドットイメージの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。
【0013】
以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット印刷装置の構成を示すブロック図である。
図2は、
図1に示すインクジェット印刷装置の搬送部、印刷部、およびヘッドギャップ調整部の概略構成図である。
図3は、
図1に示すインクジェット印刷装置のヘッドモジュールの配置を示す図である。
図4は、ヘッドモジュールの概略構成図である。以下の説明において、
図2の紙面に直交する方向を前後方向とし、紙面表方向を前方とする。また、
図2における紙面の上下左右を上下左右方向とする。
図2において左から右へ向かう方向が、印刷媒体である用紙の搬送方向である。以下の説明における上流、下流は、用紙の搬送方向における上流、下流を意味する。
【0015】
図1に示すように、第1実施形態に係るインクジェット印刷装置1は、搬送部2と、印刷部(印刷手段に相当)3と、ヘッドギャップ調整部4と、制御部5とを備える。ここで、インクジェット印刷装置1は、用紙Pを搬送しつつ、後述する固定のインクジェットヘッド21K,21C,21M,21Yにより用紙Pにインクを吐出して印刷を行うライン型のインクジェット印刷装置である。
【0016】
搬送部2は、用紙Pを搬送する。
図1、
図2に示すように、搬送部2は、搬送ベルト11と、駆動ローラ12と、従動ローラ13~15と、ベルトモータ16と、ファン17とを備える。
【0017】
搬送ベルト11は、用紙Pを吸着保持して搬送する。搬送ベルト11は、駆動ローラ12および従動ローラ13~15に掛け渡される環状のベルトである。搬送ベルト11には、ベルト穴11a(
図5参照)が全面に渡って多数形成されている。搬送ベルト11は、ファン17の駆動によりベルト穴11aに発生する吸着力により、搬送面11bに用紙Pを吸着保持する。搬送面11bは、駆動ローラ12と従動ローラ13との間における搬送ベルト11の水平部分の上面である。搬送ベルト11は、
図2における時計回り方向に回転することで、搬送面11bに吸着保持した用紙Pを右方向に搬送する。
【0018】
駆動ローラ12は、搬送ベルト11を
図2における時計回り方向に回転させる。
【0019】
従動ローラ13~15は、駆動ローラ12とともに搬送ベルト11を支持する。従動ローラ13~15は、回転する搬送ベルト11に従動回転する。従動ローラ13は、駆動ローラ12と同じ高さで、駆動ローラ12の左方に配置されている。従動ローラ14,15は、駆動ローラ12および従動ローラ13の下方において、互いに左右方向に離間して、同じ高さに配置されている。
【0020】
ベルトモータ16は、駆動ローラ12を回転駆動させる。
【0021】
ファン17は、下方向への気流を生じさせる。これにより、ファン17は、搬送ベルト11のベルト穴11aを介して空気を吸引してベルト穴11aに負圧を発生させ、用紙Pを搬送面11bに吸着させる。ファン17は、搬送ベルト11に囲まれた領域に配置されている。
【0022】
印刷部3は、搬送部2により搬送される用紙Pにインクを吐出して印刷を行う。印刷部3は、搬送部2の上方に配置されている。印刷部3は、インクジェットヘッド21K,21C,21M,21Yと、ヘッドホルダ22とを備える。なお、インクジェットヘッド21K,21C,21M,21Yの符号におけるアルファベットの添え字を省略して総括的に表記することがある。
【0023】
インクジェットヘッド21は、搬送部2により搬送される用紙Pにインクを吐出する。インクジェットヘッド21K,21C,21M,21Yは、それぞれブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)のインクを吐出する。インクジェットヘッド21K,21C,21M,21Yは、搬送部2の上方において、左右方向に並列して配置されている。
【0024】
インクジェットヘッド21K,21C,21M,21Yは、ライン型のインクジェットヘッドであり、
図3に示すように、それぞれ複数のヘッドモジュール31を有する。本実施形態では、インクジェットヘッド21K,21C,21M,21Yは、それぞれ6個のヘッドモジュール31を有する。なお、
図3では、ヘッドホルダ22等の図示を省略している。
【0025】
インクジェットヘッド21において、6個のヘッドモジュール31は、前後方向(主走査方向)に沿って千鳥配置されている。すなわち、6個のヘッドモジュール31は、前後方向に沿って配列され、かつ、1つおきに左右方向(副走査方向)における位置をずらして配置されている。
【0026】
ヘッドモジュール31は、
図4に示すように、ノズル列32を有する。ノズル列32は、前後方向に沿って配列された複数のノズル33により形成されている。なお、
図4は、ヘッドモジュール31を下から見た図である。
【0027】
ノズル33は、インクを吐出する。ノズル33は、ヘッドモジュール31の下面であるノズル面31aに開口している。
【0028】
ヘッドモジュール31は、1つのノズル33から1つの画素に対して複数のインク滴を吐出可能なマルチドロップ方式のものであり、インク滴の数であるドロップ数により濃度を表現する階調印刷を行う。
【0029】
ヘッドホルダ22は、ヘッドモジュール31を保持する。ヘッドホルダ22は、中空状の略直方体形状に形成されている。ヘッドホルダ22は、搬送部2の上方に配置されている。ヘッドホルダ22は、その底面からヘッドモジュール31の下端部を下方に突出させて、ヘッドモジュール31を保持している。
【0030】
ヘッドギャップ調整部4は、ヘッドギャップHgを調整する。ヘッドギャップHgは、搬送ベルト11の搬送面11bとインクジェットヘッド21のヘッドモジュール31のノズル面31aとの間の距離である。ヘッドギャップHgは、インクジェットヘッド21への用紙Pの接触を防止するために、印刷に使用される用紙種類(用紙Pの厚さ等)に応じて調整される。ヘッドギャップ調整部4は、昇降機構部41と、昇降モータ42と、調整部材43とを備える。
【0031】
昇降機構部41は、搬送部2を昇降させる。昇降機構部41は、ワイヤ、プーリ等を有し、ワイヤにより搬送部2を吊り下げ支持している。昇降機構部41は、昇降モータ42の駆動力で回転するプーリによりワイヤの巻き取りおよび繰り出しを行うことで、搬送部2を昇降させる。
【0032】
昇降モータ42は、昇降機構部41にワイヤの巻き取りおよび繰り出しを行うための駆動力を供給する。
【0033】
調整部材43は、ヘッドギャップHgを調整するための部材である。調整部材43は、ヘッドホルダ22の底面の四隅にそれぞれ立設されている。搬送部2が調整部材43の下端に突き当てられることで、搬送部2が位置決めされる。調整部材43は、設定するヘッドギャップHgに応じて上下方向の長さを複数段階に調整可能に構成されている。
【0034】
制御部5は、インクジェット印刷装置1の各部の動作を制御する。制御部5は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク等を備えて構成される。
【0035】
制御部5は、ヘッド用紙間距離Hpおよび用紙搬送速度(相対移動速度に相当)に応じた無効ノズル間隔Dm(所定間隔に相当)を示すテーブル(図示せず)を記憶している。
【0036】
無効ノズル間隔Dmは、ノズル列32においてインクを吐出しないノズル33として設定される無効ノズルの間隔である(
図7参照)。
【0037】
ヘッド用紙間距離Hpは、
図2に示すように、ノズル面31aと用紙Pとの間の距離である。すなわち、ヘッド用紙間距離Hpは、ヘッドギャップHgから用紙Pの厚さを差し引いたものである。前述のように、ヘッドギャップHgは、インクジェットヘッド21への用紙Pの接触を防止するために、用紙種類(用紙Pの厚さ等)に応じて調整される。ヘッドギャップHgは、調整部材43の長さ調整により複数段階に調整可能であるが、必ずしもすべての用紙種類に個別の値を設定することはできない。このため、例えば、厚さが近い用紙種類に対して同じ値のヘッドギャップHgが割り当てられることがある。このことから、ヘッド用紙間距離Hpは、用紙種類によって異なることがある。すなわち、ヘッド用紙間距離Hpは、用紙種類に応じた値となる。
【0038】
用紙搬送速度は、搬送部2が用紙Pを搬送する速度である。用紙搬送速度は、最大ドロップ数および印刷解像度に応じて設定される。最大ドロップ数は、1つのノズル33が1画素に対して吐出するインクの最大のドロップ数である。最大ドロップ数は、用紙種類に応じて設定される。したがって、用紙搬送速度は、用紙種類および印刷解像度に応じて設定されるものである。
【0039】
制御部5は、印刷時において、ヘッド用紙間距離Hpおよび用紙搬送速度に応じた大きさの無効ノズル間隔Dmで各インクジェットヘッド21の各ヘッドモジュール31のノズル列32に無効ノズルを設定する。そして、制御部5は、無効ノズルがインクを吐出しないことで印刷画像に形成される白スジに沿った濃度ムラを補正するとともに、当該白スジにインクを補完するよう印刷部3を制御する。
【0040】
次に、印刷時のノズル面31aと搬送面11bとの間の空間(ヘッド下空間)における気流について説明する。
【0041】
印刷時には、
図5に示すように、インクジェットヘッド21のヘッドモジュール31からインクの液滴51が吐出されることで、ヘッドモジュール31から用紙Pへ向かう自己気流W1が発生する。また、搬送部2による用紙Pの搬送により、搬送方向に沿って流れる搬送気流W2が発生する。
【0042】
自己気流W1と搬送気流W2とが衝突すると、気流が乱れ、渦流が生じる。このような気流の乱れは、ヘッドモジュール31から吐出されたインクの液滴51やサテライト(微小液滴)の飛翔軌道を変えて着弾ずれを引き起こす。この結果、主にベタ印刷領域において、
図6に示すように、風紋様の濃度ムラが出現し、印刷画質が低下する。
【0043】
これに対し、
図7に示すように、上述した無効ノズルを等間隔で設けて印刷を行うと、無効ノズルがインクを吐出しないことによって生じる自己気流W1の疎密によって、ヘッド下空間の気流が整流され、渦流の発生が抑えられる。
【0044】
ここで、
図7において、無効ノズルであるノズル33を白抜きで示し、通常のインク吐出を行うノズル33である通常吐出ノズルを黒で塗りつぶして示している。ドット56は、通常吐出ノズルから吐出されたインクにより用紙Pに形成されたものである。
【0045】
図7のように無効ノズルを設けて印刷したベタ印刷画像の一例を
図8に示す。
図8に示すように、無効ノズルを設けた場合、
図6のような風紋様の濃度ムラは消失し、無効ノズルがインクを吐出しないことによる白スジに沿った直線的な濃度ムラが形成される。
【0046】
このような濃度ムラは予測可能であるため、画像データの補正(濃度ゲイン調整)により濃度ムラを補正することが可能である。そこで、制御部5は、無効ノズルを設けた場合に予測される、無効ノズルに由来する白スジに沿った濃度ムラを補正するよう画像データを補正する。ここで、無効ノズルを設けた場合に予測される、無効ノズルに由来する白スジに沿った濃度ムラは、予め実験等に基づき求められる。
【0047】
また、制御部5は、無効ノズルに由来する白スジを目立ちにくくするため、後述のように、無効ノズルに由来する白スジにインクを補完するよう画像データを補正する。
【0048】
制御部5は、上述のように補正した画像データに基づき印刷部3を制御することで、無効ノズルに由来する白スジに沿った濃度ムラを補正するとともに、当該白スジにインクを補完する処理を実行する。
【0049】
なお、本実施形態では、ノズル列32に無効ノズルを設定する処理が、設定手段に対応する処理である。また、無効ノズルに由来する白スジに沿った濃度ムラを補正するとともに、当該白スジにインクを補完する処理が、補正手段に対応する処理である。
【0050】
ここで、無効ノズル間隔Dmは、自己気流W1と搬送気流W2とが衝突することで生じる渦流の平面視における直径よりも大きな値に設定される。無効ノズル間隔Dmは、例えば、2~10mmに設定される。
【0051】
また、前述のように、無効ノズル間隔Dmは、ヘッド用紙間距離Hpおよび用紙搬送速度に応じた大きさに設定される。
【0052】
ヘッド用紙間距離Hpが大きいほど、渦流は大きくなる。また、用紙搬送速度が低速であるほど、渦流は大きくなる。そこで、用紙搬送速度が同じであれば、ヘッド用紙間距離Hpが大きいほど、無効ノズル間隔Dmは大きな値に設定される。また、ヘッド用紙間距離Hpが同じであれば、用紙搬送速度が低速であるほど、無効ノズル間隔Dmは大きな値に設定される。
【0053】
ヘッド用紙間距離Hpおよび用紙搬送速度(ヘッド用紙間距離Hpと用紙搬送速度との組み合わせ)に応じた無効ノズル間隔Dmの値が、予め実験等に基づき決定され、前述したテーブルに保持されている。
【0054】
次に、インクジェット印刷装置1の動作について説明する。
【0055】
印刷ジョブが入力されると、制御部5は、印刷ジョブから用紙種類を示す情報および印刷解像度を示す情報を取得する。次いで、制御部5は、用紙種類に応じたヘッド用紙間距離Hp、ならびに用紙種類および印刷解像度に応じた用紙搬送速度に応じた無効ノズル間隔Dmをテーブルから取得する。そして、制御部5は、取得した無効ノズル間隔Dmで各インクジェットヘッド21の各ヘッドモジュール31のノズル列32に無効ノズルを設定する。
【0056】
また、制御部5は、印刷ジョブを画像展開して画像データを生成する。そして、制御部5は、無効ノズルに由来する白スジに沿った濃度ムラを補正するよう画像データを補正する。
【0057】
また、制御部5は、無効ノズルに由来する白スジにインクを補完するよう画像データを補正する。具体的には、制御部5は、無効ノズルに隣接するノズルから吐出するインク量(ドロップ数)を増加させるよう画像データを補正する。この際、制御部5は、増加後のインク量が、白スジが目立たなくなる程度で過剰にならないように補正を行う。
【0058】
また、制御部5は、ヘッドギャップHgを用紙種類に応じた大きさに調整するようヘッドギャップ調整部4を制御する。これにより、印刷時においてヘッド用紙間距離Hpが用紙種類に応じた大きさとなる。
【0059】
次いで、制御部5は、搬送部2の駆動を開始させる。具体的には、制御部5は、駆動ローラ12およびファン17の駆動を開始させる。制御部5は、用紙種類および印刷解像度に応じた用紙搬送速度となるよう搬送部2を駆動させる。
【0060】
この後、図示しない給紙部から用紙Pが搬送部2へ給紙されると、搬送面11b上に用紙Pが吸着保持されつつ搬送される。制御部5は、補正後の画像データに基づき各インクジェットヘッド21から用紙Pにインクを吐出するよう制御する。この際、制御部5は、無効ノズルはインクを吐出しないよう制御する。
【0061】
無効ノズルからインクが吐出されないことで、前述のように、ヘッド下空間の気流が整流されて渦流の発生が抑えられる。また、上述した補正後の画像データに基づき印刷が行われることで、無効ノズルに由来する白スジに沿った濃度ムラを補正するとともに、当該白スジにインクを補完する処理が行われる。
【0062】
無効ノズルに由来する白スジにインクを補完したドットイメージの一例を
図9に示す。
図9において、無効ノズルに由来する白スジにインクを補完するノズル33であり、無効ノズルの両隣のノズル33である補完ノズルを、斜線のハッチングで示している。
【0063】
図9の例では、用紙Pの搬送方向(副走査方向)における1画素おきに、補完ノズルのインク量を増加させ、ドット56を大きくすることで、白スジにインクを補完するようにしている。また、無効ノズルの前側に隣接する補完ノズルと後側に隣接する補完ノズルとで、インク量を増加させる(ドット56を大きくする)画素を1画素分ずらしている。
【0064】
なお、無効ノズルに由来する白スジに補完ノズルがインクを補完する方法は
図9の例に限らず、例えば、補完ノズルがインクを吐出する各画素のインク量を増加させるようにしてもよい。
【0065】
ここで、無効ノズルに由来する白スジが目立たなくなる程度に補完ノズルから吐出するインク量(ドロップ数)を増加させても、無効ノズルの存在によりヘッド下空間の気流を整流して渦流の発生を抑える効果は得られることが確認されている。
【0066】
以上説明したように、第1実施形態では、制御部5は、無効ノズル間隔Dmで無効ノズルを設定する。そして、制御部5は、無効ノズルに由来する白スジに沿った濃度ムラを補正するとともに、当該白スジにインクを補完する処理を実行する。これにより、無効ノズルからインクが吐出されないことでヘッド下空間の気流が整流されて風紋様の濃度ムラの発生が抑えられる。そして、無効ノズルに由来する白スジに沿った濃度ムラは補正され、当該白スジはインクの補完により目立ちにくくなる。この結果、印刷部3と用紙Pとの1回の走査で印刷(1パス印刷)を行うライン型のインクジェット印刷装置1において、印刷画質の低下を軽減できる。
【0067】
また、制御部5は、ヘッド用紙間距離Hpおよび用紙搬送速度に基づき、無効ノズル間隔Dmの大きさを決定している。これにより、ヘッド用紙間距離Hpおよび用紙搬送速度によって変化するヘッド下空間の渦流の大きさに応じた大きさの無効ノズル間隔Dmを設定することで、風紋様の濃度ムラがより抑えられるので、印刷画質の低下をより軽減できる。
【0068】
なお、無効ノズル間隔Dmの大きさの決定に用いるヘッド用紙間距離Hpおよび用紙搬送速度の少なくともいずれかの条件を省略してもよい。
【0069】
また、広範囲のベタ印刷領域に対してのみ、無効ノズルを設定し、無効ノズルに由来する白スジに沿った濃度ムラを補正するとともに、当該白スジにインクを補完する処理を行うようにしてもよい。この場合、制御部5は、画像データから所定面積以上のベタ印刷領域を抽出し、当該ベタ印刷領域に対してのみ、上記の処理を行う。これにより、ヘッド下空間の気流の乱れの影響を受けやすい広範囲のベタ印刷領域以外に対する上記の処理を省略できるので、制御を簡略化できる。また、広範囲のベタ印刷領域以外の画像において、無効ノズルの存在により画像の一部が欠落するリスクを回避できる。
【0070】
また、不具合によりインクを吐出できないノズル33である吐出不良ノズルがある場合、吐出不良ノズルを無効ノズルとして設定するようにしてもよい。これにより、吐出不良ノズルの存在による印刷画質の低下を防止できる。なお、吐出不良ノズルは、テストパターンを用いた検査等により見つけることができる。
【0071】
また、無効ノズルに由来する白スジに対するインクの補完を、他の色のインクで行うようにしてもよい。例えば、インクジェットヘッド21Kのブラックインクのみで印刷を行う画像の印刷時において、インクジェットヘッド21C,21M,21Yの少なくともいずれかにおける、インクジェットヘッド21Kの無効ノズルと同じ位置のノズル33からインクを吐出することで、インクジェットヘッド21Kにおける無効ノズルに由来する白スジに対するインクの補完を行うようにしてもよい。
【0072】
(第1実施形態の変形例)
次に、上述した第1実施形態のインクジェットヘッド21のヘッドモジュール31を変更した変形例について説明する。
【0073】
図10は、本変形例におけるヘッドモジュールの概略構成図である。
図10に示すように、本変形例におけるヘッドモジュール31Aは、2列のノズル列61A,61Bを有する。
【0074】
ノズル列61A,61Bは、それぞれ前後方向(主走査方向)に沿って配列された複数のノズル33により形成されている。ノズル列61A,61Bにおいて、ノズル33は、前後方向に所定のピッチで等間隔に配置されている。そして、ノズル列61Aのノズル33とノズル列61Bのノズル33とが、前後方向に半ピッチ分だけずれるように配置されている。
【0075】
ヘッドモジュール31Aでは、ノズル列61A,61Bの一方が印刷に使用される。ここでは、ノズル列61Aが印刷に使用されるものとする。ノズル列61Bは、ノズル列61Aに不具合が生じたときに使用される予備のノズル列である。
【0076】
本変形例において、制御部5は、ノズル列61Aにヘッド用紙間距離Hpおよび用紙搬送速度に応じた大きさの無効ノズル間隔Dmで無効ノズルを設定する。また、制御部5は、無効ノズルに由来する白スジに沿った濃度ムラの補正をノズル列61Aで行うよう制御する。そして、制御部5は、無効ノズルに由来する白スジに対するインクの補完を、ノズル列61Bのノズル33により行うよう制御する。
【0077】
具体的には、制御部5は、ノズル列61Bの各ノズル33のうち、ノズル列61Aの無効ノズルに対して前側に隣接するノズル33および後側に隣接するノズル33の少なくともいずれかからインクを吐出して、無効ノズルに由来する白スジにインクを補完するよう制御する。
【0078】
このような本変形例でも、上述した第1実施形態と同様に、印刷部3と用紙Pとの1回の走査で印刷(1パス印刷)を行うライン型のインクジェット印刷装置1において、印刷画質の低下を軽減できる。
【0079】
なお、本変形例でも、上述した第1実施形態と同様に、無効ノズル間隔Dmの大きさの決定に用いるヘッド用紙間距離Hpおよび用紙搬送速度の少なくともいずれかの条件を省略してもよい。
【0080】
また、本変形例でも、上述した第1実施形態と同様に、広範囲のベタ印刷領域に対してのみ、無効ノズルを設定し、無効ノズルに由来する白スジに沿った濃度ムラを補正するとともに、当該白スジにインクを補完する処理を行うようにしてもよい。
【0081】
また、本変形例でも、上述した第1実施形態と同様に、印刷に使用するノズル列61Aに吐出不良ノズルがある場合、吐出不良ノズルを無効ノズルとして設定するようにしてもよい。
【0082】
ところで、ヘッドモジュール31Aのノズル列61A,61Bの両方を用いて、一方のみを用いる場合の2倍の印刷解像度で印刷することが可能である。
【0083】
この場合、ノズル列61A,61Bのそれぞれに無効ノズルを設けてもよい。この場合、ノズル列61A,61Bにおける無効ノズルの位置は、ノズル列61A,61Bのそれぞれの無効ノズルに由来する白スジに沿った濃度ムラが互いに相殺されるように、ノズル列61Aとノズル列61Bとで位置をずらして設定してもよい。これにより、ノズル列61A,61Bが白スジに沿った濃度ムラを互いに補正しあうことになる。また、ノズル列61Aの無効ノズルに由来する白スジに対してノズル列61Bでインクを補完し、ノズル列61Bの無効ノズルに由来する白スジに対してノズル列61Aでインクを補完する処理が行われる。
【0084】
3列以上のノズル列で印刷を行う構成でも同様に、無効ノズルに由来する白スジに沿った濃度ムラが相殺されるように各ノズル列に位置をずらして無効ノズルを設定し、各ノズル列の無効ノズルに由来する白スジに対して他のノズル列でインクを補完する処理を行うようにしてもよい。
【0085】
[第2実施形態]
次に、上述した第1実施形態の印刷時の動作を変更した第2実施形態について説明する。
【0086】
第2実施形態では、制御部5(制御手段に相当)は、各インクジェットヘッド21の各ヘッドモジュール31のノズル列32において印字率低減ノズルを印字率低減ノズル間隔Di(所定間隔に相当、
図11参照)で設定して印刷を行うよう印刷部3を制御する。
【0087】
印字率低減ノズルは、印字率の上限を他のノズル33より低減したノズル33である。具体的には、印字率低減ノズルは、最大ドロップ数を他のノズル33より低減したノズル33である。
【0088】
印字率低減ノズル間隔Diは、自己気流W1と搬送気流W2とが衝突することで生じる渦流の平面視における直径と同等かそれ以下の値に設定される。印字率低減ノズル間隔Diは、例えば、2mm以下に設定される。
【0089】
次に、第2実施形態におけるインクジェット印刷装置1の動作について説明する。
【0090】
印刷ジョブが入力されると、制御部5は、各インクジェットヘッド21の各ヘッドモジュール31のノズル列32に印字率低減ノズルを印字率低減ノズル間隔Diで設定する。また、制御部5は、印字率低減ノズルにおける最大ドロップ数を、他のノズル33における最大ドロップ数よりも小さい印字率低減ドロップ数に設定する。
【0091】
また、制御部5は、印刷ジョブを画像展開して画像データを生成する。また、制御部5は、ヘッドギャップHgを用紙種類に応じた大きさに調整するようヘッドギャップ調整部4を制御する。
【0092】
次いで、制御部5は、搬送部2の駆動を開始させる。制御部5は、用紙種類および印刷解像度に応じた用紙搬送速度となるよう搬送部2を駆動させる。
【0093】
この後、図示しない給紙部から用紙Pが搬送部2へ給紙されると、制御部5は、画像データに基づき各インクジェットヘッド21から用紙Pにインクを吐出するよう制御する。この際、制御部5は、印字率低減ノズルにおける1画素あたりのドロップ数(インク量)の上限を印字率低減ドロップ数以下に制限する。
【0094】
このように印字率低減ノズルを設けて印刷を行った場合のドットイメージの一例を
図11に示す。
図11において、印字率低減ノズルであるノズル33を白抜きで示している。
【0095】
図11に示すように、印字率低減ノズルから吐出されたインクにより形成されたドット56は、他のノズル33である通常吐出ノズルから吐出されたインクにより形成されたドット56より小さくなる。すなわち、印字率低減ノズルによる印字率が、ドット56の大きさ(1画素あたりのドロップ数(インク量))の上限により制限されている。
【0096】
上述のように印字率低減ノズルを設けて印刷を行うと、印字率低減ノズルの存在により生じる自己気流W1の疎密によって、ヘッド下空間における渦流が乱される。これにより、印刷画像における風紋様の濃度ムラの発生が抑えられる。ここで、印字率低減ノズル間隔Diおよび印字率低減ドロップ数は、予め実験等に基づき決定される。
【0097】
上述のように印字率低減ノズルを設けて印刷したベタ印刷画像の一例を
図12に示す。
図12に示すように、印字率低減ノズルを設けた場合、
図6のような風紋様の濃度ムラは大幅に軽減され、目立ちにくくなっている。また、印字率低減ノズルはインクの吐出を行わないわけではないため、白スジ等の画像欠落の発生は抑えられている。
【0098】
印字率低減ノズルの有無および印字率低減ノズル間隔Diの大きさによる印刷画像の濃度ムラを調査した結果を
図13に示す。
図13の例では、印字率低減ノズル間隔Diを、想定される渦流の直径よりも十分に小さい1.26mmとすることで、印刷画像の濃度ムラを目立たなくすることができた。
【0099】
以上説明したように、第2実施形態では、制御部5は、印字率低減ノズル間隔Diで印字率低減ノズルを設定して印刷を行うよう制御する。これにより、印字率低減ノズルの存在により生じる自己気流W1の疎密によって、ヘッド下空間における渦流が乱されることで、印刷画像における風紋様の濃度ムラの発生が抑えられる。印字率低減ノズルはインクの吐出を行うため、白スジ等の画像欠落の発生は抑えられる。この結果、印刷部3と用紙Pとの1回の走査で印刷(1パス印刷)を行うライン型のインクジェット印刷装置1において、印刷画質の低下を軽減できる。
【0100】
なお、制御部5が、印字率低減ノズルにおけるインクの吐出タイミングが、他のノズル33におけるインクの吐出タイミングに対して、印刷部3と用紙Pとの相対的な走査の方向である、用紙Pの搬送方向(副走査方向)におけるドット56のピッチの半ピッチ分だけずれるよう制御するようにしてもよい。このように印字率低減ノズルにおけるインクの吐出タイミングを半ピッチ分だけずらした場合のドットイメージの一例を
図14に示す。
【0101】
図14に示すように、印字率低減ノズルが吐出したインクにより形成されたドット56が半ピッチ分だけずれることで、ドット56によるベタ埋まりが向上し、印字率低減ノズルに由来するスジ状の濃度低下が軽減する。このため、印刷画質の低下をより軽減できる。
【0102】
また、ヘッドモジュール31がマルチドロップ方式ではなく、ノズル33から吐出するインク滴の大きさによりインク吐出量を変調する方式のものであってもよい。この場合、印字率低減ノズルが吐出するインク滴の大きさ(インク量)の上限を制限することで、印字率低減ノズルによる印字率の上限を他のノズル33より低減するようにすればよい。
【0103】
例えば、ヘッドモジュール31が、大液滴と小液滴との2通りの大きさのインク滴を打ち分ける方式のものである場合において、印字率低減ノズルが吐出するインク滴を小液滴のみに制限することで、印字率低減ノズルによる印字率の上限を他のノズル33より低減するようにしてもよい。
【0104】
また、ヘッドモジュール31がマルチドロップ方式ではなく、バイナリ記録を行う方式のものであってもよい。この場合、印字率低減ノズルによるインクの吐出頻度(ドットを形成する頻度)の上限を他のノズル33よりも小さくすることで、印字率低減ノズルによる印字率の上限を他のノズル33より低減するようにすればよい。
【0105】
このように印字率低減ノズルによるインクの吐出頻度(ドットを形成する頻度)の上限の制限により印字率の上限を低減した場合のドットイメージの一例を
図15に示す。ここで、
図15は、ベタ印刷領域のドットイメージである。
図15に示すように、印字率低減ノズルは他のノズル33よりも、形成するドット56が少なくなっており、印字率が低減されている。
【0106】
ここで、ヘッドモジュール31がマルチドロップ方式のものである場合において、
図15のように、印字率低減ノズルによるドットを形成する頻度の上限の制限により印字率の上限を低減するようにしてもよい。ドットを形成する頻度の上限の制限と、ドット56の大きさ(1画素あたりのドロップ数(インク量))の上限の制限とを組み合わせて印字率の上限を低減するようにしてもよい。
【0107】
また、ヘッドモジュール31が、ノズル33から吐出するインク滴の大きさによりインク吐出量を変調する方式のものである場合において、
図15のように、印字率低減ノズルによるドットを形成する頻度の上限の制限により印字率の上限を低減するようにしてもよい。ドットを形成する頻度の上限の制限と、印字率低減ノズルが吐出するインク滴の大きさ(インク量)の上限の制限とを組み合わせて印字率の上限を低減するようにしてもよい。
【0108】
また、印字率低減ノズルがインクを吐出する副走査方向(搬送方向)のラインに対して、印字率低減ノズルに隣接するノズル33によりインクを補完するようにしてもよい。
【0109】
印字率低減ノズルがインクを吐出する副走査方向(搬送方向)のラインにインクを補完したドットイメージの一例を
図16に示す。
図16において、印字率低減ノズルがインクを吐出する副走査方向のラインにインクを補完するノズル33であり、印字率低減ノズルの両隣のノズル33である補完ノズルを、斜線のハッチングで示している。
【0110】
ここで、
図16の例では、ヘッドモジュール31が、マルチドロップ方式、またはインク滴の大きさによりインク吐出量を変調する方式のものである。また、印字率低減ノズルによるドットを形成する頻度の上限の低減により印字率の上限を低減している。
【0111】
図16の例では、副走査方向における印字率低減ノズルがインクを吐出していない位置において、補完ノズルのインク量を増加させ、ドット56を大きくすることで、印字率低減ノズルがインクを吐出する副走査方向のラインにインクを補完している。
【0112】
このように、印字率低減ノズルがインクを吐出する副走査方向のラインにインクを補完することで、印字率低減ノズルに由来するスジ状の濃度低下が軽減する。このため、印刷画質の低下をより軽減できる。
【0113】
ここで、印字率低減ノズルに由来するスジが目立たなくなる程度に補完ノズルからインクを吐出しても、印字率低減ノズルの存在によりヘッド下空間における渦流を乱して印刷画像における風紋様の濃度ムラの発生を抑える効果は得られることが確認されている。
【0114】
なお、
図11、
図14のように、ドット56の大きさ(1画素あたりのインク量)の上限の制限により、印字率低減ノズルによる印字率の上限を他のノズル33より低減する場合でも、印字率低減ノズルがインクを吐出する副走査方向のラインに対して、印字率低減ノズルに隣接するノズル33によりインクを補完するようにしてもよい。
【0115】
また、第2実施形態において、用紙搬送速度に基づき、印字率低減ノズルを設定するか否かを決定するようにしてもよい。
【0116】
用紙搬送速度が低速であるほど、渦流の発生が抑制されて、印刷画像における風紋様の濃度ムラは発生しにくい。そこで、制御部5は、用紙搬送速度が所定の閾値以下である場合は、印字率低減ノズルを設定しないようにしてもよい。ここで、用紙搬送速度の閾値は、予め実験等に基づき決定される。
【0117】
また、ヘッド用紙間距離Hpに基づき、印字率低減ノズルを設定するか否かを決定するようにしてもよい。
【0118】
ヘッド用紙間距離Hpが小さいほど、インク滴の飛翔距離が短いため、インク滴が気流の影響を受けにくく、印刷画像における濃度ムラは発生しにくい。そこで、制御部5は、ヘッド用紙間距離Hpが所定の閾値以下である場合は、印字率低減ノズルを設定しないようにしてもよい。ここで、ヘッド用紙間距離Hpの閾値は、予め実験等に基づき決定される。
【0119】
また、用紙種類に基づき、印字率低減ノズルを設定するか否かを決定するようにしてもよい。
【0120】
インクが滲みやすい用紙種類ほど、インクの着弾ずれによる濃度ムラが目立ちやすい。そこで、制御部5は、インクが滲みやすい用紙種類(例えば、普通紙)では印字率低減ノズルを設定せず、インクが滲みにくい用紙種類(例えば、マット紙)では印字率低減ノズルを設定ようにしてもよい。
【0121】
また、印刷画像の印字率に基づき、印字率低減ノズルを設定するか否かを決定するようにしてもよい。
【0122】
印字率が低い低濃度の領域では、ドットがまばらにしか打たれないため、気流の影響によるインクの着弾ずれに伴う濃度ムラは発生しにくい。また、印字率が高い高濃度の領域では、印刷濃度が飽和しており、気流の影響によるインクの着弾ずれに伴う濃度ムラは発生しにくい。そこで、制御部5は、中間濃度の印字率の領域に対して印字率低減ノズルを設定し、低印字率の領域および高印字率の領域に対しては印字率低減ノズルを設定しないようにしてもよい。ここで、印字率低減ノズルを設定する印字率の範囲は、予め実験等に基づき決定される。
【0123】
また、所定面積以上の広範囲の中間濃度の印字率のベタ印刷領域に対してのみ、印字率低減ノズルを設定するようにしてもよい。
【0124】
また、インクの色に基づき、印字率低減ノズルを設定するか否かを決定するようにしてもよい。
【0125】
具体的には、明度が低いブラック、シアン、マゼンタのインクは濃度ムラが目立ちやすく、明度が高いイエローのインクは濃度ムラが目立ちにくい。そこで、制御部5は、インクジェットヘッド21K,21C,21Mには印字率低減ノズルを設定し、インクジェットヘッド21Yには印字率低減ノズルを設定しないようにしてもよい。
【0126】
ここで、例えば、グレー、ライトマゼンタ、ライトシアンのインクは濃度ムラが目立ちにくいため、これらの色のインクを吐出するインクジェットヘッドを備える構成の場合は、これらのインクジェットヘッドには印字率低減ノズルを設定しないようにしてもよい。
【0127】
また、インクの種類に基づき、印字率低減ノズルを設定するか否かを決定するようにしてもよい。
【0128】
インクの組成により、インクの粘度が高いほど、濃度ムラの原因となるサテライトが発生しやすい。そこで、制御部5は、粘度が高くサテライトが発生しやすい種類のインクの場合は印字率低減ノズルを設定し、粘度が低くサテライトが発生しにくい種類のインクの場合は印字率低減ノズルを設定しないようにしてもよい。
【0129】
また、インクの温度に基づき、印字率低減ノズルを設定するか否かを決定するようにしてもよい。ここで、インクの温度は、例えば、インクジェットヘッド21に設けられたインク温度センサ(図示せず)により取得できる。
【0130】
インクの温度が低いほど、インクの粘度が高くなり、濃度ムラの原因となるサテライトが発生しやすい。そこで、制御部5は、インクの温度が所定の閾値以下である場合は、印字率低減ノズルを設定しないようにしてもよい。ここで、インクの温度の閾値は、予め実験等に基づき決定される。
【0131】
また、制御部5は、上述した用紙搬送速度、ヘッド用紙間距離Hp、用紙種類、印刷画像の印字率、インクの色、インクの種類、およびインクの温度のうちの2つ以上の組み合わせに基づき、印字率低減ノズルを設定するか否かを決定するようにしてもよい。
【0132】
すなわち、制御部5は、用紙搬送速度、ヘッド用紙間距離Hp、用紙種類、印刷画像の印字率、インクの色、インクの種類、およびインクの温度の少なくともいずれかに基づき、印字率低減ノズルを設定するか否かを決定するようにしてもよい。
【0133】
これにより、気流の影響による印刷画像の濃度ムラが生じにくい、あるいは目立ちにくい場合には、印字率低減ノズルを設定しないようにすることができ、印字率低減ノズルに由来するスジ状の濃度低下の発生による印刷画質の低下を回避できる。
【0134】
[その他の実施形態]
上述のように、本発明は第1および第2実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0135】
上述した第1および第2実施形態では、ライン型のインクジェット印刷装置について説明したが、これに限らず、ノズル列を有する印刷手段と印刷媒体とを相対的に走査(相対移動)させつつ印刷手段により印刷媒体に印刷を行うインクジェット印刷装置に本発明は適用できる。例えば、ノズル列が形成されたインクジェットヘッドを有する印刷部を移動させつつ用紙に印刷するシリアル型のインクジェット印刷装置にも本発明は適用可能である。
【0136】
ここで、第1実施形態において、インクジェット印刷装置がシリアル型である場合、1回の走査(1パス分の印刷)において、無効ノズルに由来する白スジに沿った濃度ムラを補正するとともに、当該白スジにインクを補完する処理が行われる。これにより、1回の走査による印刷における印刷画質の低下を軽減できる。
【0137】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【0138】
[付記]
本出願は、以下の発明を開示する。
【0139】
(付記1)
インクを吐出する複数のノズルにより形成されたノズル列を有する印刷手段と印刷媒体とを相対的に走査させつつ前記印刷手段により印刷媒体に印刷を行うインクジェット印刷装置であって、
前記ノズル列にインクを吐出しない前記ノズルである無効ノズルを所定間隔で設定する設定手段と、
前記印刷手段と印刷媒体との1回の走査において、前記無効ノズルがインクを吐出しないことで印刷画像に形成される白スジに沿った濃度ムラを補正するとともに、前記白スジにインクを補完する補正手段と
を備えることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【0140】
(付記2)
前記設定手段は、前記印刷手段と印刷媒体との相対移動速度、および前記ノズルが開口するノズル面と印刷媒体との間の距離の少なくともいずれかに基づき、前記所定間隔の大きさを決定することを特徴とする付記1に記載のインクジェット印刷装置。
【0141】
(付記3)
インクを吐出する複数のノズルにより形成されたノズル列を有する印刷手段と印刷媒体とを相対的に走査させつつ前記印刷手段により印刷媒体に印刷を行うインクジェット印刷装置であって、
前記ノズル列に印字率の上限を他の前記ノズルより低減した前記ノズルである印字率低減ノズルを所定間隔で設定して印刷を行うよう制御する制御手段を備えることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【0142】
(付記4)
前記制御手段は、前記印字率低減ノズルにおけるインクの吐出タイミングが、他の前記ノズルにおけるインクの吐出タイミングに対して、前記印刷手段と印刷媒体との相対的な走査の方向における、前記印字率低減ノズルおよび他の前記ノズルがインクを印刷媒体に吐出して形成するドットのピッチの半ピッチ分だけずれるよう制御することを特徴とする付記3に記載のインクジェット印刷装置。
【0143】
(付記5)
前記制御手段は、前記印刷手段と印刷媒体との相対移動速度、前記ノズルが開口するノズル面と印刷媒体との間の距離、印刷媒体の種類、印刷画像の印字率、インクの色、インクの種類、およびインクの温度の少なくともいずれかに基づき、前記印字率低減ノズルを設定するか否かを決定することを特徴とする付記3または4に記載のインクジェット印刷装置。
【符号の説明】
【0144】
1 インクジェット印刷装置
2 搬送部
3 印刷部
4 ヘッドギャップ調整部
5 制御部
11 搬送ベルト
11a ベルト穴
11b 搬送面
12 駆動ローラ
13~15 従動ローラ
16 ベルトモータ
17 ファン
21,21K,21C,21M,21Y インクジェットヘッド
22 ヘッドホルダ
31,31A ヘッドモジュール
31a ノズル面
32,61A,61B ノズル列
33 ノズル
41 昇降機構部
42 昇降モータ
43 調整部材
51 液滴
56 ドット
P 用紙
W1 自己気流
W2 搬送気流