(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022085568
(43)【公開日】2022-06-08
(54)【発明の名称】多孔質樹脂及びその製造方法並びに機能フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 9/28 20060101AFI20220601BHJP
B29C 67/20 20060101ALI20220601BHJP
B29K 105/04 20060101ALN20220601BHJP
【FI】
C08J9/28 CFH
B29C67/20 Z
B29K105:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020197318
(22)【出願日】2020-11-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業共創の場形成支援「有機材料の極限機能創出と社会システム化をする基盤技術の構築及びソフトマターロボティクスへの展開に関する国立大学法人山形大学による研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 綾子
(72)【発明者】
【氏名】ワン イーフェイ
(72)【発明者】
【氏名】時任 静士
【テーマコード(参考)】
4F074
4F214
【Fターム(参考)】
4F074AA91
4F074AA95
4F074AC12
4F074AD07
4F074AD13
4F074AG20
4F074BB09
4F074CB06
4F074CB16
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4F074CC04Y
4F074CC10X
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4F074DA03
4F074DA06
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4F074DA17
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4F074DA49
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4F214AA33
4F214AC05
4F214AG01
4F214AG20
4F214UA37
4F214UB01
4F214UC03
4F214UC04
4F214UF02
4F214UF06
4F214UH30
(57)【要約】
【課題】容易に製造でき、製造コストの上昇を抑制することが可能な多孔質樹脂及びその製造方法、並びに多孔質樹脂からなる機能フィルムを提供する。
【解決手段】多孔質樹脂は、水素結合供与性の化合物と水素結合受容性の化合物とを混合して深共晶液体を生成し、前記深共晶液体に、前記深共晶液体に不溶な樹脂を添加し、前記樹脂中に前記深共晶液体が分散してなるインクを生成し、生成された前記インクを所望の形状の形成物に形成し、前記形成物中の前記樹脂を硬化させ、前記樹脂が硬化した前記形成物中の前記深共晶液体を蒸発させることにより、生成されることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素結合供与性の化合物と水素結合受容性の化合物とを混合して深共晶液体を生成し、
前記深共晶液体に、前記深共晶液体に不溶な樹脂を添加し、前記樹脂中に前記深共晶液体が分散してなるインクを生成し、
生成された前記インクを所望の形状の形成物に形成し、
前記形成物中の前記樹脂を硬化させ、
前記樹脂が硬化した前記形成物中の前記深共晶液体を蒸発させることにより、
生成されることを特徴とする多孔質樹脂。
【請求項2】
前記樹脂が熱硬化樹脂である場合、熱により前記樹脂を硬化させることを特徴とする請求項1に記載の多孔質樹脂。
【請求項3】
前記深共晶液体は、前記深共晶液体に不溶な前記樹脂の硬化温度よりも高く、前記樹脂の耐熱温度以下の沸点を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔質樹脂。
【請求項4】
前記水素結合供与性の化合物はジフェニルアミンであり、前記水素結合受容性の化合物はベンゾフェノンであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の多孔質樹脂。
【請求項5】
前記多孔質樹脂は、長径が1μm~100μmである細孔を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の多孔質樹脂。
【請求項6】
前記多孔質樹脂は、空隙率が10%~90%であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の多孔質樹脂。
【請求項7】
前記多孔質樹脂は、空隙率が30%~60%であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の多孔質樹脂。
【請求項8】
前記多孔質樹脂は、200%の伸長率で伸張可能な伸縮性を有することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の多孔質樹脂。
【請求項9】
前記多孔質樹脂中の前記深共晶液体の残存率は、5%以下であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の多孔質樹脂。
【請求項10】
前記樹脂は、シリコーン系樹脂であることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の多孔質樹脂。
【請求項11】
前記シリコーン系樹脂は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)であることを特徴とする請求項10に記載の多孔質樹脂。
【請求項12】
水素結合供与性の化合物と水素結合受容性の化合物とを混合して深共晶液体を生成する液体生成工程と、
前記深共晶液体に、前記深共晶液体に不溶な樹脂を添加し、前記樹脂中に前記深共晶液体が分散してなるインクを生成するインク生成工程と、
生成された前記インクを所望の形状の形成物に形成する形成工程と、
前記形成物中の前記樹脂を硬化させる硬化工程と、
前記樹脂が硬化した前記形成物中の前記深共晶液体を蒸発させることにより、多孔質樹脂を生成する蒸発工程と、
を有することを特徴とする多孔質樹脂の製造方法。
【請求項13】
前記形成工程では、基板上に前記インクを印刷することにより前記形成物を形成することを特徴とする請求項12に記載の多孔質樹脂の製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至11の何れか1項に記載の多孔質樹脂からなる機能フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質樹脂及びその製造方法、並びに多孔質樹脂からなる機能フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多数の細孔を有する多孔質樹脂は、分離、吸着、断熱、吸音、絶縁等の様々な機能を有することから、例えば濾過用フィルタ等のフィルタ、オイル吸着材、断熱材、吸音材、リチウムイオン二次電池のセパレータ等、様々な用途で使用されている。
【0003】
このような多孔質樹脂を製造する方法としては、様々なものが知られている。例えば、特許文献1には、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、孔形成材としての水溶性高分子化合物と、分子内に酸素原子又は窒素原子を含む含酸素/窒素有機溶媒とを混合し、酸素原子又は窒素原子を含む含酸素/窒素有機溶媒を抽出除去して熱可塑性ポリウレタン樹脂を凝固した後に、孔形成材である水溶性高分子化合物を水によって抽出除去することにより、熱可塑性ポリウレタン樹脂製多孔性材料を生成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、製造工程が複雑である上、水による孔形成材の除去に長時間を要するといった問題があった。このように、従来の多孔質樹脂の製造方法は、その製造工程が複雑であったり、多くの時間を要する等、製造コストが高くなるといった問題があった。
【0006】
本発明は、このような事情に対処するために提案されたものである。すなわち、容易に製造でき、製造コストの上昇を抑制することが可能な多孔質樹脂及びその製造方法、並びに多孔質樹脂からなる機能フィルムを提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
【0008】
すなわち、本発明の多孔質樹脂は、水素結合供与性の化合物と水素結合受容性の化合物とを混合して深共晶液体を生成し、前記深共晶液体に、前記深共晶液体に不溶な樹脂を添加し、前記樹脂中に前記深共晶液体が分散してなるインクを生成し、生成された前記インクを所望の形状の形成物に形成し、前記形成物中の前記樹脂を硬化させ、前記樹脂が硬化した前記形成物中の前記深共晶液体を蒸発させることにより、生成されることを特徴とする。
【0009】
本発明の多孔質樹脂において、前記樹脂が熱硬化樹脂である場合、熱により前記樹脂を硬化させることを特徴とする。
【0010】
本発明の多孔質樹脂において、前記深共晶液体は、前記深共晶液体に不溶な前記樹脂の硬化温度よりも高く、前記樹脂の耐熱温度以下の沸点を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の多孔質樹脂において、前記水素結合供与性の化合物はジフェニルアミンであり、前記水素結合受容性の化合物はベンゾフェノンであることを特徴とする。
【0012】
本発明の多孔質樹脂において、前記多孔質樹脂は、長径が1μm~100μmである細孔を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の多孔質樹脂において、前記多孔質樹脂は、空隙率が10%~90%であることを特徴とする。
【0014】
本発明の多孔質樹脂において、前記多孔質樹脂は、空隙率が30%~60%であることを特徴とする。
【0015】
本発明の多孔質樹脂において、前記多孔質樹脂は、200%の伸長率で伸張可能な伸縮性を有することを特徴とする。
【0016】
本発明の多孔質樹脂において、前記多孔質樹脂中の前記深共晶液体の残存率は、5%以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明の多孔質樹脂において、前記樹脂は、シリコーン系樹脂であることを特徴とする。
【0018】
本発明の多孔質樹脂において、前記シリコーン系樹脂は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)であることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る多孔性樹脂の製造方法は、水素結合供与性の化合物と水素結合受容性の化合物とを混合して深共晶液体を生成する液体生成工程と、前記深共晶液体に、前記深共晶液体に不溶な樹脂を添加し、前記樹脂中に前記深共晶液体が分散してなるインクを生成するインク生成工程と、生成された前記インクを所望の形状の形成物に形成する形成工程と、前記形成物中の前記樹脂を硬化させる硬化工程と、前記樹脂が硬化した前記形成物中の前記深共晶液体を蒸発させることにより、多孔質樹脂を生成する蒸発工程と、を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の多孔質樹脂の製造方法において、前記形成工程では、基板上に前記インクを印刷することにより前記形成物を形成することを特徴とする。
【0021】
本発明に係る機能フィルムは、本発明に係る多孔質樹脂からなるものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、容易に製造でき、製造コストの上昇を抑制することが可能な多孔質樹脂及びその製造方法、並びに多孔質樹脂からなる機能フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】(a)は、スクリーン印刷機を用いて印刷された樹脂-DELインク層の厚み方向の模式断面図であり、(b)はプリアニーリングが行われた樹脂-DELインク層の厚み方向の模式断面図であり、(c)はポストアニーリングが行われた樹脂-DELインク層(すなわち多孔質樹脂層)の厚み方向の模式断面図である。
【
図2】多孔質樹脂の製造例を説明するための図である。
【
図3】本製造例で製造された多孔質樹脂層の走査電子顕微鏡(SEM)による写真図である。
【
図4】本製造例で製造された多孔質樹脂層の走査電子顕微鏡(SEM)による写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0025】
(多孔質樹脂の製造)
本実施形態では、水素結合供与性の化合物と水素結合受容性の化合物とを混合することで、多孔質樹脂における細孔(空孔)を形成するための孔形成材としての深共晶液体(DEL:Deep eutectic liquid)を生成する。そして、このDELに、そのDELに不溶な樹脂を添加(混合)し、樹脂中にDELが分散してなるインク(樹脂-DELインク)を生成する。そして、この生成されたインクを例えば印刷により、所望の形状の形成物に形成した後、例えばプリアニーリングにより、この形成物中の樹脂を硬化させ、その後、ポストアニーリングにより、樹脂が硬化した形成物中のDELを蒸発させる。これにより、多孔質樹脂を製造する。
【0026】
(水素結合供与性の化合物)
水素結合供与性の化合物(HBD:Hydrogen Bond Donors)は、水素結合に関わる水素原子を有する化合物である。この水素結合供与性の化合物としては、例えば、ジフェニルアミン、尿素(urea)、チオ尿素(thiourea)、1-メチル尿素(1-methyl urea)、1,3-ジメチル尿素(1,3-dimethyl urea)、1,1-ジメチル尿素(1,1-dimethyl urea)、アセトアミド(acetamide)、ベンズアミド(benzamide)、エチレングリコール(ethylene glycol)、グリセロール(glycerol)、アジピン酸(adipic acid)、安息香酸(benzoic acid)、クエン酸(citric acid)、マロン酸(malonic acid)、シュウ酸(oxalic acid)、フェニル酢酸(phenylacetic acid)、フェニルプロピオン酸(phenylpropionic acid)、コハク酸(succinic acid)、トリカルバリル酸(tricarballylic acid)、MgCl2・6H2O、2,2,2-トリフルオロアセトアミド(2,2,2-trifluoroacetamide)、ヘキサンジオール(hexanediol)等を挙げることができる。
【0027】
(水素結合受容性の化合物)
水素結合受容性の化合物(HBA:Hydrogen Bond Acceptor)は、水素結合に関わる非共有電子対(ローンペア)を有する化合物(塩等)である。この水素結合受容性の化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、塩化コリン(choline chloride(ChCl))、臭化メチルトリフェニルホスホニウム(methyltriphenylphosphonium bromide)、塩化ベンジルトリフェニルホスホニウム(benzyltriphenylphosphonium chloride)、塩化亜鉛(ZnCl2)、N-エチル-2-ヒドロキシ-N、N-ジメチルエタンアミニウムクロリド(N-ethyl-2-hydroxy-N,N-dimethylethanaminium chloride)、2-(クロロカルボニルオキシ)-N,N,N-トリメチルエタンアミニウムクロリド(2-(chlorocarbonyloxy)-N,N,N-trimethylethanaminium chloride)、N-ベンジル-2-ヒドロキシ-N,N-ジメチルエタンアミニウム(N-benzyl-2-hydroxy-N,N-dimethylethanaminium)等を挙げることができる。
【0028】
(深共晶液体の生成)
本実施形態で用いる水素結合供与性の化合物及び水素結合受容性の化合物のうちの何れか一方又は両方は、室温(例えば25℃)で固体であってよい。本実施形態では、そのような水素結合供与性の化合物と水素結合受容性の化合物とを所定の割合(例えばモル比)で混合することで共晶融点降下を生じさせ、これにより、多孔質樹脂の孔形成材として、室温(例えば25℃)で液体状の化合物である深共晶液体(DEL:Deep eutectic liquid)を生成する。なお、この深共晶液体(DEL)は、例えば深共晶溶媒(DES:Deep Eutectic Solvent)としても知られている。
【0029】
ここで、水素結合供与性の化合物と水素結合受容性の化合物とを混合する際の水素結合供与性の化合物:水素結合受容性の化合物のモル比は、水素結合供与性の化合物及び水素結合受容性の化合物の種類(組み合わせ)にもよるため特に限定されないが、例えば1:1、2:1、1:2等を挙げることができる。
【0030】
また、水素結合供与性の化合物と水素結合受容性の化合物とを混合する際の混合時間(反応時間)は、特に限定されないが、例えば10分~30分であってよく、例えば約15分としてよい。
【0031】
例えば、水素結合供与性の化合物としての固体(粉体状)のジフェニルアミンと、水素結合受容性の化合物としての固体(粉体状)のベンゾフェノンとをモル比1:1で混合することで、深共晶溶媒を生成してよい。
【0032】
深共晶液体は、これに限定されず、他の水素結合受容性の化合物と水素結合供与性の化合物とを混合して生成されるものであってもよい。他の深共晶液体としては、例えば、塩化コリン(ChCl)と尿素(urea)とをモル比1:2で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とチオ尿素(thiourea)とをモル比1:2で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)と1-メチル尿素(1-methyl urea)とをモル比1:2で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)と1,3-ジメチル尿素(1,3-dimethyl urea)とをモル比1:2で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)と1,1-ジメチル尿素(1,1-dimethyl urea)とをモル比1:2で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とアセトアミド(acetamide)とをモル比1:2で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とベンズアミド(benzamide)とをモル比1:2で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とエチレングリコール(ethylene glycol)とをモル比1:2で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とグリセロール(glycerol)とを混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とアジピン酸(adipic acid)とをモル比1:1で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)と安息香酸(benzoic acid)とをモル比1:1で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とクエン酸(citric acid)とをモル比1:1で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とマロン酸(malonic acid)とをモル比1:1で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とシュウ酸(oxalic acid)とをモル比1:1で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とフェニル酢酸(phenylacetic acid)とをモル比1:1で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とフェニルプロピオン酸(phenylpropionic acid)とをモル比1:1で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とコハク酸(succinic acid)とをモル比1:1で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とトリカルバリル酸(tricarballylic acid)とをモル比1:1で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とMgCl2・6H2Oとをモル比1:1で混合して生成されるもの、臭化メチルトリフェニルホスホニウム(methyltriphenylphosphonium bromide)とグリセロール(glycerol)とを混合して生成されるもの、臭化メチルトリフェニルホスホニウム(methyltriphenylphosphonium bromide)とエチレングリコール(ethylene glycol)とを混合して生成されるもの、臭化メチルトリフェニルホスホニウム(methyltriphenylphosphonium bromide)と2,2,2-トリフルオロアセトアミド(2,2,2-trifluoroacetamide)とを混合して生成されるもの、塩化ベンジルトリフェニルホスホニウム(benzyltriphenylphosphonium chloride)とグリセロール(glycerol)とを混合して生成されるもの、塩化ベンジルトリフェニルホスホニウム(benzyltriphenylphosphonium chloride)とエチレングリコール(ethylene glycol)とを混合して生成されるもの、塩化ベンジルトリフェニルホスホニウム(benzyltriphenylphosphonium chloride)と2,2,2-トリフルオロアセトアミド(2,2,2-trifluoroacetamide)とを混合して生成されるもの、塩化亜鉛(ZnCl2)と尿素(urea)とを混合して生成されるもの、塩化亜鉛(ZnCl2)とアセトアミド(acetamide)とを混合して生成されるもの、塩化亜鉛(ZnCl2)とエチレングリコール(ethylene glycol)とを混合して生成されるもの、塩化亜鉛(ZnCl2)とヘキサンジオール(hexanediol)とを混合して生成されるもの等を挙げることができる。なお、この他の水素結合受容性の化合物と水素結合供与性の化合物とのモル比は、ここで挙げるものに限定されない。
【0033】
本実施形態の深共晶液体(DEL)は、この深共晶液体に添加する樹脂(深共晶液体に不溶な樹脂)の硬化温度よりも高く、この樹脂の耐熱温度以下の沸点を有するものが好ましい。なお、本実施形態において、樹脂の耐熱温度とは、硬化した樹脂が、例えば分解や脆化等の破損を生じることなく、その硬化した樹脂の形状が維持される温度であることは勿論、例えば軟化によって多少の変形を伴っている場合であっても、硬化した樹脂が一部に残った状態にある温度を含むものであってよい。例えば、この樹脂がPDMSである場合、DELは、60℃~150℃の沸点を有するものが好ましく、80℃~150℃の沸点を有するものが特に好ましい。
【0034】
(深共晶液体に不溶な樹脂)
本実施形態において、深共晶液体に添加(混合)する樹脂は、深共晶液体に不溶な樹脂であれば、特に限定されないが、例えばシリコーン系樹脂、芳香族ポリエステルの生分解性プラスチック(例えばBASF社製、商品名:エコフレックス(商標登録)等))、ABS樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を挙げることができる。
【0035】
シリコーン系樹脂としては、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS:Polydimethylsiloxane)、ポリフェニルメチルシロキサン(PMPS:Polyphenylmethylsiloxane)、ポリジフェニルシロキサン(PDPS:Polydiphenylsiloxane)等が挙げられる。
【0036】
シリコーン系樹脂の中でも、ポリジメチルシロキサン(PDMS:Polydimethylsiloxane)を好ましく使用することができる。このPDMSは、シロキサンオリゴマー(主剤)とシロキサン架橋剤(硬化剤)との架橋反応により生成される。この架橋反応は、例えば塩化白金酸(H2PtCl6)を触媒として80℃、1時間混合させる反応であってよい。
【0037】
なお、これらの深共晶液体に不溶な樹脂は、何れによって硬化するものであってもよく、例えば、熱により硬化する熱硬化樹脂、紫外線(UV:ultraviolet)の照射により硬化する紫外線硬化樹脂、電子線の照射により硬化する電子線硬化樹脂の何れであってもよい。
【0038】
(インクの生成)
本実施形態では、深共晶液体(DEL)に、そのDELに不溶な樹脂を添加する。DELは、樹脂と相分離(自己分離)することから、DELの液体粒子が樹脂中に分散して存在するようになる。このようにして、樹脂中にDELが分散してなるインク(樹脂-DELインク)を生成する。例えば、DELに樹脂としてPDMSを添加することで、PDMS中にDELが分散してなるPDMS-DELインクを生成してよい。PDMS-DELインクは、例えば、白色不透明の複合インクであってよい。
【0039】
(インクの印刷)
本実施形態では、例えばスクリーン印刷等の印刷法により、基板上にスキージを用いて樹脂-DELインクを印刷(塗布)する。これにより、樹脂-DELインクの層を形成する。基板の材料としては、例えばPEN(Polyethylene Naphthalate)であってよい。或いは、基板の材料は、これに限定されず他の材料であってもよく、例えばPDMS(Polydimethylsiloxane)、PI(Polyimide)、PET(Polyethylene Terephthalate)、PC(Polycarbonate)、PU(Polyurethane)、紙、布等の何れであってもよい。
【0040】
図1(a)は、スクリーン印刷機を用いて印刷された樹脂-DELインク層5-1の厚み方向の模式断面図を示している。この
図1(a)に示すように、樹脂-DELインク層5-1では、DEL(例えばジフェニルアミンとベンゾフェノンとの混合反応により得られるDEL)が、DELに不溶な樹脂(例えばPDMS)50と相分離(自己分離)することから、孔形成材としてのDELの液体粒子52が、樹脂50中に分散して存在している。
【0041】
なお、このインク層の形成は、このようなスクリーン印刷機を用いた印刷により形成されるものに限定されず、他の形成方法によって形成されるようにしてもよく、例えば、バーコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング等の方法であってもよく、或いは、その他の塗布、射出成形等の方法であってもよい。インク層の形成方法として、このような印刷機を用いた印刷法は、量産性、大面積化、パターン化において優れた手法として利用される。
【0042】
(プリアニーリング)
本実施形態では、基板上の樹脂-DELインクに対してプリアニーリング(前段階のアニーリング)を行う。プリアニーリング(加熱)時の温度は、DELに不溶な樹脂(この場合、熱硬化性樹脂)が硬化する温度であって、DELが揮発しない温度であることが好ましい。例えばDELとしてジフェニルアミンとベンゾフェノンとの混合反応により得られるDELを使用し、このDELに不溶な樹脂としてPDMSを使用する場合、プリアニーリングの温度は、PDMSの硬化が開始する温度であってDELが揮発しない温度である60℃~90℃であることが好ましい。また、プリアニーリングの時間は、30分~120分であることが好ましい。このPDMSを使用する場合において、例えば、プリアニーリング時の温度は75℃、プリアニーリングの時間は60分であってよい。
【0043】
図1(b)は、このプリアニーリングが行われた樹脂-DELインク層5-2の厚み方向の模式断面図を示している。プリアニーリングが行われた樹脂-DELインク層5-2は、DELに不溶な樹脂50がプリアニーリングにより硬化した状態(硬化した樹脂51)となっている。この硬化した樹脂51中のDELの液体粒子52の中には、そのDELの液体粒子52同士が互いに連結しているものもある。
【0044】
なお、DELに不溶な樹脂が熱硬化性樹脂でなく例えば紫外線硬化樹脂である場合、このプリアニーリングに代えて、紫外線の照射によりこの紫外線硬化樹脂を硬化させるようにしてよい。同様に、DELに不溶な樹脂が例えば電子線硬化樹脂である場合、このプリアニーリングに代えて、電子線の照射によりこの電子線硬化樹脂を硬化させるようにしてよい。
【0045】
(ポストアニーリング)
本実施形態では、プリアニーリングがされて硬化した樹脂-DELインクに対してポストアニーリング(後段階のアニーリング)を行う。ポストアニーリング(加熱)時の温度は、特に限定されないが、DELとしてジフェニルアミンとベンゾフェノンとの混合反応により得られるDELを使用し、このDELに不溶な樹脂としてPDMSを使用する場合、120℃~150℃であることが好ましい。また、ポストアニーリングの時間は、特に限定されないが、DELとしてジフェニルアミンとベンゾフェノンとの混合反応により得られるDELを使用し、このDELに不溶な樹脂としてPDMSを使用する場合、30分~120分であることが好ましい。このPDMSを使用する場合において、例えば、ポストアニーリング時の温度は140℃、ポストアニーリングの時間は30分であってよい。
【0046】
図1(c)は、このポストアニーリングが行われた樹脂-DELインク層5-3(すなわち多孔質樹脂層6)の厚み方向の模式断面図を示している。ポストアニーリングが行われると、樹脂-DELインク層5-3中の大部分のDELは、このポストアニーリングにより蒸発して除去される。これにより、DELの液体粒子52が除去された部分に相当する多数の細孔54からなる多孔質構造53を有する多孔質樹脂6が生成される。この多孔質樹脂6は、DELの液体粒子52同士の連結部分が除去されたことで形成された、細孔54同士が連結した連結孔54-1を有していてよい。
【0047】
本実施形態において、ポストアニーリングが行われた樹脂-DELインク層5-3(すなわち、多孔質樹脂層6)中のDELの残存率N(%)は、残存率N=(ポストアニーリング前の「樹脂-DELインク層5-2」中のDEL容量(ml)-ポストアニーリングにより蒸発したDEL容量(ml))/ポストアニーリング前の「樹脂-DELインク層5-2」中のDEL容量(ml)×100(%)として定義される。
【0048】
この残存率Nは、5%以下であることが好ましい。DELの残存率Nが5%以下であることにより、品質の良い多孔質樹脂、具体的には、安定性が充分に確保され、DELに起因するアウトガスの発生が、他に悪影響を及ぼさない程度にまで抑制された多孔質樹脂を生成することができる。
【0049】
本実施形態の製造方法により製造された多孔質樹脂において、その多孔質樹脂層の厚みは、特に限定されないが、例えば20μm~2mmであってよく、具体例として約100μmであってよい。また、この多孔質樹脂層における各細孔の大きさ(細孔径)は、特に限定されないが、例えば細孔の長径が0.5μm~200μmであることが好ましく、細孔の長径が1μm~100μmであることが特に好ましい。
【0050】
また、本実施形態の製造方法により製造された多孔質樹脂において、空隙率Pは、多孔質樹脂の総体積(見かけの体積)をV(μm3)、空隙の体積をv(μm3)とすると、空隙率P=v/V×100(%)として定義される。この多孔質樹脂において、空隙率Pは、10%~90%であることが好ましく、30%~60%が特に好ましい。
【0051】
また、本実施形態の製造方法により製造された多孔質樹脂において、多孔質樹脂を伸長させたときの伸長率Uは、多孔質樹脂における伸長前の(伸長方向)の長さをM0、多孔質樹脂の伸長後の(伸長方向の)長さをMとすると、伸長率U=(M-M0)/M0×100(%)として定義される。この多孔質樹脂において、伸長率Uは、例えば0%~200%であってよい。この多孔性樹脂は、このように200%の伸長率で伸長可能であり、元の長さにスムーズに戻る伸縮性(ストレッチャブル)を有していてよい。
【0052】
(効果)
このようにして、本実施形態の製造方法では、材料の混合といった容易な操作でインクを生成でき、そのインクを印刷して2段階のアニーリングを行うだけで多孔質樹脂を製造することができる。このような容易な方法によれば、多孔質樹脂を製造する際、及びその多孔質樹脂からなる機能フィルムを用いた製品を製造する際の製造コストの上昇を抑制することができる。
【0053】
孔形成材としての有機溶媒と樹脂とを混合することで樹脂中に細孔(空孔)を形成する場合、有機溶媒に樹脂が溶解してしまうことが多いが、本実施形態では、DELと、このDELに不溶な樹脂とを混合することから、このような問題は生じない。また、例えばDELに不溶な樹脂であるPDMSに水溶性のポリエチレングリコールを孔形成材として添加する場合、ポリエチレングリコールを除去するために長時間温水中で浸漬しなければならず生産性が悪いが、本実施形態では、ポストアニーリングにより、速やかに樹脂中のDELを蒸発させることができる。
【0054】
また、樹脂中にDELが分散してなるインク(樹脂-DELインク)は、印刷が可能であることから、スクリーン印刷等の印刷手法を用いて、多孔質樹脂層を任意のサイズ(例えば大面積)及び任意のパターンで容易に製造することができる。
【0055】
(機能フィルム)
本実施形態で製造される多孔質樹脂は、多数の細孔を有したスポンジ状の構造を備えている。そのため、この多孔質樹脂は、各種の機能フィルムを構成することができる。機能フィルムとしては、例えば液体、気体等を濾過するための濾過用フィルタ等のフィルタ、路面や水面等に流出したオイルを回収するためのオイル吸着材、断熱フィルム、リチウムイオン二次電池のセパレータフィルム、センサ(例えば静電容量型センサ、感圧センサ等)用のフィルム等として用いることができる。
【0056】
本実施形態で製造される多孔質樹脂からなる機能フィルムは、上述の本実施形態の製造方法において、例えば上述の基板上にスキージを用いて樹脂-DELインクを印刷(塗布)する際に、機能フィルムの形状及びサイズに樹脂-DELインクの層を形成することで、得ることができる。
【実施例0057】
以下に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。但し、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0058】
図2は、多孔質樹脂の製造例(以下、「本製造例」ともいう。)を説明するための図である。本製造例では、予め水素結合受容性の化合物として室温(約25℃)で固体(粉体状)のベンゾフェノン(東京化成工業社製)(
図2(a)の式1)を準備した。また、予め水素結合供与性の化合物として室温(25℃)で固体(粉体状)のジフェニルアミン(東京化成工業社製)(
図2(a)の式2)を準備した。
【0059】
そして
図2(b)に示すように、室温(約25℃)で、ベンゾフェノン(
図2(b)の粉体1)とジフェニルアミン(
図2(b)の粉体2)とを透明容器内に投入し、蓋を閉めて密封した。容器内のベンゾフェノン(粉体1)とジフェニルアミン(粉体2)との接触部分3では、その両者の反応が進行していった。
【0060】
このようなベンゾフェノン(粉体1)及びジフェニルアミン(粉体2)を攪拌により混合した。ここで、ベンゾフェノン(粉体1)とジフェニルアミン(粉体2)とは、モル比1:1で混合された。これにより、
図2(c)に示すような深共晶液体(DEL:Deep eutectic liquid)(
図2(c)の液体4)が生成された。このDEL(液体4)は、黄色透明の液体であった。
【0061】
そして、DELに不溶な樹脂としてのポリジメチルシロキサン(PDMS:Polydimethylsiloxane)をDEL(液体4)に添加して攪拌した(混合)。これにより、
図2(d)に示すようなPDMS中にDELが分散してなるPDMS-DELインク(インク5A)を生成した。
【0062】
そして、スクリーン印刷機を使用し、このPDMS-DELインク(インク5A)を基板(PEN)上に印刷することでPDMS-DELインク層5A-1を形成した(
図2(e))。そして、この基板上に印刷されたPDMS-DELインク層5A-1に対し、75℃、1時間のプリアニーリングを行い、PDMSが硬化したPDMS/DELインク層(硬化PDMS/DELインク層5A-2)を形成した(
図2(f))。その後、この硬化PDMS/DELインク層5A-2に対し、140℃、30分間のポストアニーリングを行った。このポストアニーリングにより、硬化PDMS/DELインク層5A-2中のDELが蒸発して除去され、そのDELの液体粒子が除去された部分に相当する多数の細孔からなる多孔質構造を有する多孔質樹脂層6Aが製造された。
【0063】
図3及び
図4は、本製造例で製造された多孔質樹脂層6Aの走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)による写真図である。
【0064】
図3(a)は、本製造例で製造された多孔質樹脂層6Aの断面の厚み方向の上部である上部61Aを示すSEM写真図であり、
図3(b)は、その多孔質樹脂層6Aの断面の厚み方向の中部である中部61Bを示すSEM写真図であり、
図3(c)は、その多孔質樹脂層6Aの断面の厚み方向の下部である下部61Cを示す写真図である。
【0065】
また、
図4(a)は、
図3(b)の中部61Bを部分的に拡大して示す写真図であり、
図4(b)は、
図3(c)の下部61Cを部分的に拡大して示す写真図である。また、
図4(c)は、本製造例で生成された多孔質樹脂層6Aの最下部(底部)の底表面61C-1を部分的に拡大して示す写真図である。
【0066】
多孔質樹脂層6Aは、
図3及び
図4に示すように、ポストアニーリングによりDELが除去されることによって、多数の細孔64が形成されていた。このように、本製造例によれば、多数の細孔を有する多孔質樹脂を容易に製造できることがわかる。
【0067】
また、この
図3及び
図4から、多孔質樹脂層6Aにおいては、上述の空隙率Pは、10%~90%、より具体的には30%~60%の範囲内の数値であることがわかる。
1 粉体、2 粉体、3 接触部分、4 液体、5A インク、50 樹脂、51 (硬化した)樹脂、52 液体粒子、53 多孔質構造、54 細孔、54-1 連結孔