IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人山形大学の特許一覧

特開2022-85569導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ
<>
  • 特開-導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ 図1
  • 特開-導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ 図2
  • 特開-導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ 図3
  • 特開-導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ 図4
  • 特開-導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ 図5
  • 特開-導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ 図6
  • 特開-導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ 図7
  • 特開-導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ 図8
  • 特開-導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ 図9
  • 特開-導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ 図10
  • 特開-導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ 図11
  • 特開-導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ 図12
  • 特開-導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ 図13
  • 特開-導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ 図14
  • 特開-導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ 図15
  • 特開-導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ 図16
  • 特開-導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ 図17
  • 特開-導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022085569
(43)【公開日】2022-06-08
(54)【発明の名称】導電性樹脂及びその製造方法並びにセンサ
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20220601BHJP
   B29C 67/20 20060101ALI20220601BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220601BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20220601BHJP
   B29K 105/04 20060101ALN20220601BHJP
【FI】
C08J9/28 CFH
B29C67/20
H01B13/00 Z
H01B1/20 Z
B29K105:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020197319
(22)【出願日】2020-11-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業共創の場形成支援「有機材料の極限機能創出と社会システム化をする基盤技術の構築及びソフトマターロボティクスへの展開に関する国立大学法人山形大学による研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 綾子
(72)【発明者】
【氏名】ワン イーフェイ
(72)【発明者】
【氏名】時任 静士
【テーマコード(参考)】
4F074
4F214
5G301
【Fターム(参考)】
4F074AA91
4F074AA95
4F074AC02
4F074AC12
4F074AD07
4F074AD13
4F074AG08
4F074AG20
4F074BB09
4F074CB06
4F074CB16
4F074CB47
4F074CC04X
4F074CC04Y
4F074CC10X
4F074CC22X
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA08
4F074DA13
4F074DA14
4F074DA17
4F074DA24
4F074DA47
4F074DA59
4F214AA33
4F214AE03
4F214AG20
4F214AH33
4F214UA37
4F214UB01
4F214UF01
4F214UF03
5G301DA03
5G301DA04
5G301DA05
5G301DA06
5G301DA07
5G301DA10
5G301DA12
5G301DA13
5G301DA14
5G301DA15
5G301DA18
5G301DA19
5G301DA42
5G301DA44
5G301DA47
5G301DA53
5G301DD10
5G301DE01
(57)【要約】
【課題】製造コストの上昇を抑制することが可能な導電性樹脂及びその製造方法、並びに導電性樹脂を備えたセンサを提供する。
【解決手段】導電性樹脂は、水素結合供与性の化合物と水素結合受容性の化合物とを混合して深共晶液体を生成し、前記深共晶液体に導電材料を添加し、ゲルを生成し、前記ゲルに、前記深共晶液体に不溶な樹脂を添加し、前記樹脂中に前記ゲルが分散してなるインクを生成し、生成された前記インクを所望の形状の形成物に形成し、前記形成物中の前記樹脂を硬化させ、前記樹脂が硬化した前記形成物中の前記深共晶液体を蒸発させることにより、生成されることを特徴とする多孔質の導電性樹脂である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素結合供与性の化合物と水素結合受容性の化合物とを混合して深共晶液体を生成し、
前記深共晶液体に導電材料を添加し、ゲルを生成し、
前記ゲルに、前記深共晶液体に不溶な樹脂を添加し、前記樹脂中に前記ゲルが分散してなるインクを生成し、
生成された前記インクを所望の形状の形成物に形成し、
前記形成物中の前記樹脂を硬化させ、
前記樹脂が硬化した前記形成物中の前記深共晶液体を蒸発させることにより、
生成されることを特徴とする多孔質の導電性樹脂。
【請求項2】
前記樹脂が熱硬化樹脂である場合、熱により前記樹脂を硬化させることを特徴とする請求項1に記載の導電性樹脂。
【請求項3】
前記深共晶液体は、前記深共晶液体に不溶な前記樹脂の硬化温度よりも高く、前記樹脂の耐熱温度以下の沸点を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性樹脂。
【請求項4】
前記水素結合供与性の化合物はジフェニルアミンであり、前記水素結合受容性の化合物はベンゾフェノンであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の導電性樹脂。
【請求項5】
前記導電性樹脂は、細孔を有し、前記細孔の内壁に沿って前記導電材料を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の導電性樹脂。
【請求項6】
前記導電性樹脂は、長径が1μm~500μmである細孔を有することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の導電性樹脂。
【請求項7】
前記導電性樹脂は、細孔同士が連結した連結孔を有することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の導電性樹脂。
【請求項8】
前記導電性樹脂は、空隙率が10%~90%であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の導電性樹脂。
【請求項9】
前記導電性樹脂は、空隙率が30%~60%であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の導電性樹脂。
【請求項10】
前記導電性樹脂は、200%の伸長率で伸張可能な伸縮性を有することを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の導電性樹脂。
【請求項11】
前記導電性樹脂中の前記深共晶液体の残存率は、5%以下であることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の導電性樹脂。
【請求項12】
前記樹脂は、シリコーン系樹脂であることを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載の導電性樹脂。
【請求項13】
前記シリコーン系樹脂は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)であることを特徴とする請求項12に記載の導電性樹脂。
【請求項14】
水素結合供与性の化合物と水素結合受容性の化合物とを混合して深共晶液体を生成する液体生成工程と、
前記深共晶液体に導電材料を添加し、ゲルを生成するゲル生成工程と、
前記ゲルに、前記深共晶液体に不溶な樹脂を添加し、前記樹脂中に前記ゲルが分散してなるインクを生成するインク生成工程と、
前記インク生成工程で生成された前記インクを所望の形状の形成物に形成する形成工程と、
前記形成物中の前記樹脂を硬化させる硬化工程と、
前記樹脂が硬化した前記形成物中の前記深共晶液体を蒸発させることにより、多孔質の導電性樹脂を生成する蒸発工程と、
を有することを特徴とする導電性樹脂の製造方法。
【請求項15】
前記形成工程では、基板上に前記インクを印刷することにより前記形成物を形成することを特徴とする請求項14に記載の導電性樹脂の製造方法。
【請求項16】
請求項1乃至13の何れか1項に記載の導電性樹脂を備えたセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性樹脂及びその製造方法、並びに導電性樹脂を備えたセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばヘルスケア分野の生体センサ、ロボティクス分野のロボット用センサ、人工神経形態システムの人工神経センサ等、様々な分野でフレキシブル、ストレッチャブルなセンサが使用されており、このようなセンサとして、感度の高い導電性樹脂を備えたセンサへの要求が高まっている。
【0003】
導電性樹脂を製造する方法としては、様々なものが知られている。例えば、特許文献1には、導電材料である球状ガラス状カーボン粒子を、液状シリコーンゴム等を含むマトリックスに添加して感圧導電性組成物を生成し、この感圧導電性組成物を電極領域が設けられた基板に塗布して感圧センサを製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-195945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、高感度なセンサとするために、多量の導電材料を添加しなければならず、製造コストが高くなるといった問題があった。
【0006】
本発明は、このような事情に対処するために提案されたものである。すなわち、製造コストの上昇を抑制することが可能な導電性樹脂及びその製造方法、並びに導電性樹脂を備えたセンサを提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
【0008】
すなわち、本発明の導電性樹脂は、水素結合供与性の化合物と水素結合受容性の化合物とを混合して深共晶液体を生成し、前記深共晶液体に導電材料を添加し、ゲルを生成し、前記ゲルに、前記深共晶液体に不溶な樹脂を添加し、前記樹脂中に前記ゲルが分散してなるインクを生成し、生成された前記インクを所望の形状の形成物に形成し、前記形成物中の前記樹脂を硬化させ、前記樹脂が硬化した前記形成物中の前記深共晶液体を蒸発させることにより、生成されることを特徴とする多孔質の導電性樹脂である。
【0009】
本発明の導電性樹脂において、前記樹脂が熱硬化樹脂である場合、熱により前記樹脂を硬化させることを特徴とする。
【0010】
本発明の導電性樹脂において、前記深共晶液体は、前記深共晶液体に不溶な前記樹脂の硬化温度よりも高く、前記樹脂の耐熱温度以下の沸点を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の導電性樹脂において、前記水素結合供与性の化合物はジフェニルアミンであり、前記水素結合受容性の化合物はベンゾフェノンであることを特徴とする。
【0012】
本発明の導電性樹脂において、前記導電性樹脂は、細孔を有し、前記細孔の内壁に沿って前記導電材料を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の導電性樹脂において、前記導電性樹脂は、長径が1μm~500μmである細孔を有することを特徴とする。
【0014】
本発明の導電性樹脂において、前記導電性樹脂は、細孔同士が連結した連結孔を有することを特徴とする。
【0015】
本発明の導電性樹脂において、前記導電性樹脂は、空隙率が10%~90%であることを特徴とする。
【0016】
本発明の導電性樹脂において、前記導電性樹脂は、空隙率が30%~60%であることを特徴とする。
【0017】
本発明の導電性樹脂において、前記導電性樹脂は、200%の伸長率で伸張可能な伸縮性を有することを特徴とする。
【0018】
本発明の導電性樹脂において、前記導電性樹脂中の前記深共晶液体の残存率は、5%以下であることを特徴とする。
【0019】
本発明の導電性樹脂において、前記樹脂は、シリコーン系樹脂であることを特徴とする。
【0020】
本発明の導電性樹脂において、前記シリコーン系樹脂は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)であることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る導電性樹脂の製造方法は、水素結合供与性の化合物と水素結合受容性の化合物とを混合して深共晶液体を生成する液体生成工程と、前記深共晶液体に導電材料を添加し、ゲルを生成するゲル生成工程と、前記ゲルに、前記深共晶液体に不溶な樹脂を添加し、前記樹脂中に前記ゲルが分散してなるインクを生成するインク生成工程と、前記インク生成工程で生成された前記インクを所望の形状の形成物に形成する形成工程と、前記形成物中の前記樹脂を硬化させる硬化工程と、前記樹脂が硬化した前記形成物中の前記深共晶液体を蒸発させることにより、多孔質の導電性樹脂を生成する蒸発工程と、を有することを特徴とする。
【0022】
本発明の導電性樹脂の製造方法において、前記形成工程では、基板上に前記インクを印刷することにより前記形成物を形成することを特徴とする。
【0023】
本発明に係るセンサは、本発明に係る導電性樹脂を備えてなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、製造コストの上昇を抑制することが可能な導電性樹脂及びその製造方法、並びに導電性樹脂を備えたセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】(a)は、スクリーン印刷機を用いて基板上に印刷された樹脂-DEL-導電材インク層の厚み方向の模式断面図であり、(b)は、プリアニーリングが行われた樹脂-DEL-導電材インク層の厚み方向の模式断面図であり、(c)は、ポストアニーリング後の樹脂-DEL-導電材インク層の厚み方向の模式断面図である。
図2】(a)は、本実施形態の製造方法で製造される導電性樹脂層の厚み方向の模式断面図であり、(b)は、従来の一製造方法で製造される導電性樹脂層の厚み方向の模式断面図である。
図3】導電性樹脂の製造例について説明するための図である。
図4】本製造方法で製造された導電性樹脂層、及び、従来製造方法で製造された導電性樹脂層の、光学顕微鏡(OM:OpticalMicroscopy)による写真図、及び、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)による写真図である。
図5】導電材料の濃度に対する導電率を示す図である。
図6】センサの引張歪み/圧縮歪みの歪み変位に応じた電気抵抗変化率を示す図である。
図7】センサの歪み値に対する電気抵抗変化率を説明するための図である。
図8】センサの応答速度の測定結果を示す図である。
図9】センサの圧縮/引張サイクルに対する電気抵抗変化率を示す図である。
図10】これまでに報告されている他のプリンテッド、塗布等により製造されたセンサと、本製造方法(印刷)で製造された導電性樹脂を用いたセンサ(PDMS、CB使用)とで、引張時/圧縮時のGFを比較して示す表である。
図11】センサによる手動作のモニタリングの様子を示す図である。
図12】センサを複数用いて形状状態を判別する様子を示す図である。
図13】センサによるロボットグリッパの曲げ動作のセンシングの様子を示す図である。
図14】センサを用いて、センサに加えた圧力に対する電気抵抗変化率をセンシングする様子を示す図である。
図15】センサに対する押圧力の違いによる応答性について説明するための図である。
図16】センサを脈拍センサとして使用した際の応答性について説明するための図である。
図17】センサを、物を掴むロボットに搭載したときの応答性について説明するための図である。
図18】導電性樹脂の伸長率に対する、この導電性樹脂を用いたセンサの電気抵抗変化率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0027】
(導電性樹脂の製造)
本実施形態では、水素結合供与性の化合物と水素結合受容性の化合物とを混合することで、導電性樹脂における細孔(空孔)を形成するための孔形成材としての深共晶液体(DEL:Deep eutectic liquid)を生成する。そして、このDELに導電材料を添加してゲル(DEL-導電材ゲル)を生成し、このDEL-導電材ゲルに、DELに不溶な樹脂を添加(混合)し、樹脂中にゲルが分散してなるインク(樹脂-ゲルインク)を生成する。その後、この樹脂-ゲルインクを例えば印刷により、所望の形状の形成物に形成した後、例えばプリアニーリングにより、この形成物中の樹脂を硬化させ、その後、ポストアニーリングにより、樹脂が硬化した形成物中のDELを蒸発させる。これにより、多孔質の導電性樹脂を製造する。
【0028】
(水素結合供与性の化合物)
水素結合供与性の化合物(HBD:Hydrogen Bond Donors)は、水素結合に関わる水素原子を有する化合物である。この水素結合供与性の化合物としては、例えば、ジフェニルアミン、尿素(urea)、チオ尿素(thiourea)、1-メチル尿素(1-methyl urea)、1,3-ジメチル尿素(1,3-dimethyl urea)、1,1-ジメチル尿素(1,1-dimethyl urea)、アセトアミド(acetamide)、ベンズアミド(benzamide)、エチレングリコール(ethylene glycol)、グリセロール(glycerol)、アジピン酸(adipic acid)、安息香酸(benzoic acid)、クエン酸(citric acid)、マロン酸(malonic acid)、シュウ酸(oxalic acid)、フェニル酢酸(phenylacetic acid)、フェニルプロピオン酸(phenylpropionic acid)、コハク酸(succinic acid)、トリカルバリル酸(tricarballylic acid)、MgCl・6HO、2,2,2-トリフルオロアセトアミド(2,2,2-trifluoroacetamide)、ヘキサンジオール(hexanediol)等を挙げることができる。
【0029】
(水素結合受容性の化合物)
水素結合受容性の化合物(HBA:Hydrogen Bond Acceptor)は、水素結合に関わる非共有電子対(ローンペア)を有する化合物(塩等)である。この水素結合受容性の化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、塩化コリン(choline chloride(ChCl))、臭化メチルトリフェニルホスホニウム(methyltriphenylphosphonium bromide)、塩化ベンジルトリフェニルホスホニウム(benzyltriphenylphosphonium chloride)、塩化亜鉛(ZnCl)、N-エチル-2-ヒドロキシ-N、N-ジメチルエタンアミニウムクロリド(N-ethyl-2-hydroxy-N,N-dimethylethanaminium chloride)、2-(クロロカルボニルオキシ)-N,N,N-トリメチルエタンアミニウムクロリド(2-(chlorocarbonyloxy)-N,N,N-trimethylethanaminium chloride)、N-ベンジル-2-ヒドロキシ-N,N-ジメチルエタンアミニウム(N-benzyl-2-hydroxy-N,N-dimethylethanaminium)等を挙げることができる。
【0030】
(深共晶液体の生成)
本実施形態で用いる水素結合供与性の化合物及び水素結合受容性の化合物のうちの何れか一方又は両方は、室温(例えば25℃)で固体であってよい。本実施形態では、そのような水素結合供与性の化合物と水素結合受容性の化合物とを所定の割合(例えばモル比)で混合することで共晶融点降下を生じさせ、これにより、導電性樹脂の孔形成材として、室温(例えば25℃)で液体状の化合物である深共晶液体(DEL:Deep eutectic liquid)を生成する。なお、この深共晶液体(DEL)は、例えば深共晶溶媒(DES:Deep Eutectic Solvent)としても知られている。
【0031】
ここで、水素結合供与性の化合物と水素結合受容性の化合物とを混合する際の水素結合供与性の化合物:水素結合受容性の化合物のモル比は、水素結合供与性の化合物及び水素結合受容性の化合物の種類(組み合わせ)にもよるため特に限定されないが、例えば1:1、2:1、1:2等を挙げることができる。
【0032】
また、水素結合供与性の化合物と水素結合受容性の化合物とを混合する際の混合時間(反応時間)は、特に限定されないが、例えば10分~30分であってよく、例えば約15分としてよい。
【0033】
例えば、水素結合供与性の化合物としての固体(粉体状)のジフェニルアミンと、水素結合受容性の化合物としての固体(粉体状)のベンゾフェノンとをモル比1:1で混合することで、深共晶溶媒を生成してよい。
【0034】
深共晶液体は、これに限定されず、他の水素結合受容性の化合物と水素結合供与性の化合物とを混合して生成されるものであってもよい。他の深共晶液体としては、例えば、塩化コリン(ChCl)と尿素(urea)とをモル比1:2で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とチオ尿素(thiourea)とをモル比1:2で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)と1-メチル尿素(1-methyl urea)とをモル比1:2で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)と1,3-ジメチル尿素(1,3-dimethyl urea)とをモル比1:2で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)と1,1-ジメチル尿素(1,1-dimethyl urea)とをモル比1:2で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とアセトアミド(acetamide)とをモル比1:2で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とベンズアミド(benzamide)とをモル比1:2で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とエチレングリコール(ethylene glycol)とをモル比1:2で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とグリセロール(glycerol)とを混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とアジピン酸(adipic acid)とをモル比1:1で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)と安息香酸(benzoic acid)とをモル比1:1で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とクエン酸(citric acid)とをモル比1:1で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とマロン酸(malonic acid)とをモル比1:1で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とシュウ酸(oxalic acid)とをモル比1:1で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とフェニル酢酸(phenylacetic acid)とをモル比1:1で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とフェニルプロピオン酸(phenylpropionic acid)とをモル比1:1で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とコハク酸(succinic acid)とをモル比1:1で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とトリカルバリル酸(tricarballylic acid)とをモル比1:1で混合して生成されるもの、塩化コリン(ChCl)とMgCl・6HOとをモル比1:1で混合して生成されるもの、臭化メチルトリフェニルホスホニウム(methyltriphenylphosphonium bromide)とグリセロール(glycerol)とを混合して生成されるもの、臭化メチルトリフェニルホスホニウム(methyltriphenylphosphonium bromide)とエチレングリコール(ethylene glycol)とを混合して生成されるもの、臭化メチルトリフェニルホスホニウム(methyltriphenylphosphonium bromide)と2,2,2-トリフルオロアセトアミド(2,2,2-trifluoroacetamide)とを混合して生成されるもの、塩化ベンジルトリフェニルホスホニウム(benzyltriphenylphosphonium chloride)とグリセロール(glycerol)とを混合して生成されるもの、塩化ベンジルトリフェニルホスホニウム(benzyltriphenylphosphonium chloride)とエチレングリコール(ethylene glycol)とを混合して生成されるもの、塩化ベンジルトリフェニルホスホニウム(benzyltriphenylphosphonium chloride)と2,2,2-トリフルオロアセトアミド(2,2,2-trifluoroacetamide)とを混合して生成されるもの、塩化亜鉛(ZnCl)と尿素(urea)とを混合して生成されるもの、塩化亜鉛(ZnCl)とアセトアミド(acetamide)とを混合して生成されるもの、塩化亜鉛(ZnCl)とエチレングリコール(ethylene glycol)とを混合して生成されるもの、塩化亜鉛(ZnCl)とヘキサンジオール(hexanediol)とを混合して生成されるもの等を挙げることができる。なお、この他の水素結合受容性の化合物と水素結合供与性の化合物とのモル比は、ここで挙げるものに限定されない。
【0035】
本実施形態の深共晶液体(DEL)は、この深共晶液体に添加する樹脂(深共晶液体に不溶な樹脂)の硬化温度よりも高く、この樹脂の耐熱温度以下の沸点を有するものが好ましい。なお、本実施形態において、樹脂の耐熱温度とは、硬化した樹脂が、例えば分解や脆化等の破損を生じることなく、その硬化した樹脂の形状が維持される温度であることは勿論、例えば軟化によって多少の変形を伴っている場合であっても、硬化した樹脂が一部に残った状態にある温度を含むものであってよい。例えば、この樹脂がPDMSである場合、DELは、60℃~150℃の沸点を有するものが好ましく、80℃~150℃の沸点を有するものが特に好ましい。
【0036】
(ゲルの生成)
本実施形態では、上述のDELに導電材料を添加して攪拌することで、DELに導電材料を混合してなるゲル(DEL-導電材ゲル)を生成する。
【0037】
導電材料としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック(CB)、グラファイト(GF)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノワイヤ(CNW)、炭素繊維、黒鉛等の炭素系材料が好ましく使用され、これらを2種以上含んでもよい。
【0038】
或いは、導電材料は、金、銀、銅、クロム、チタン、白金、ニッケル、錫、亜鉛、鉛、タングステン、鉄、アルミニウム等の金属からなる金属粒子、これらの金属を含む化合物からなる粒子、導電性樹脂からなる粒子、樹脂製の粒子に無電解ニッケル等の導電性を有する金属を被覆した粒子等の複合粒子等、或いは、金属ナノワイヤ(MNW)、金属繊維等であってもよい。
【0039】
導電材料が炭素系材料である場合、DELに炭素系材料を混合してなるゲル(DEL-炭素材ゲル)の色は、黒色不透明である。
【0040】
(深共晶液体に不溶な樹脂)
本実施形態において、深共晶液体に添加(混合)する樹脂は、深共晶液体に不溶な樹脂であれば、特に限定されないが、例えばシリコーン系樹脂、芳香族ポリエステルの生分解性プラスチック(例えばBASF社製、商品名:エコフレックス(商標登録)等))、ABS樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を挙げることができる。
【0041】
シリコーン系樹脂としては、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS:Polydimethylsiloxane)、ポリフェニルメチルシロキサン(PMPS:Polyphenylmethylsiloxane)、ポリジフェニルシロキサン(PDPS:Polydiphenylsiloxane)等が挙げられる。
【0042】
シリコーン系樹脂の中でも、ポリジメチルシロキサン(PDMS:Polydimethylsiloxane)を好ましく使用することができる。このPDMSは、シロキサンオリゴマー(主剤)とシロキサン架橋剤(硬化剤)との架橋反応により生成される。この架橋反応は、例えば塩化白金酸(HPtCl)を触媒として80℃、1時間混合させる反応であってよい。
【0043】
なお、これらの深共晶液体に不溶な樹脂は、何れによって硬化するものであってもよく、例えば、熱により硬化する熱硬化樹脂、紫外線(UV:ultraviolet)の照射により硬化する紫外線硬化樹脂、電子線の照射により硬化する電子線硬化樹脂の何れであってもよい。
【0044】
(インクの生成)
本実施形態では、DELに導電材料を添加してなるゲル(DEL-導電材ゲル)に、DELに不溶な樹脂を添加する。DELは、樹脂と相分離(自己分離)することから、DEL-導電材ゲル(ゲル滴)が樹脂中に分散して存在するようになる。このようにして、樹脂中にDEL-導電材ゲル(ゲル滴)が分散してなるインク(樹脂-DEL-導電材インク)を生成する。例えば、DEL-導電材ゲルに樹脂としてPDMSを添加することで、PDMS中にDEL-導電材ゲルが分散してなるPDMS-DEL-導電材インクを生成してよい。PDMS-DEL-導電材インクは、黒色不透明の複合インクである。
【0045】
(インクの印刷)
本実施形態では、例えばスクリーン印刷等の印刷法により、基板上にスキージを用いて樹脂-DEL-導電材インクを印刷(塗布)する。これにより、樹脂-DEL-導電材インクの層を形成する。基板の材料としては、例えばPEN(Polyethylene Naphthalate)であってよい。或いは、基板の材料は、これに限定されず他の材料であってもよく、例えばPDMS(Polydimethylsiloxane)、PI(Polyimide)、PET(Polyethylene Terephthalate)、PC(Polycarbonate)、PU(Polyurethane)、紙、布等の何れであってもよい。
【0046】
図1(a)は、スクリーン印刷機を用いて基板上に印刷された樹脂-DEL-導電材インク層6-1の厚み方向の模式断面図を示している。この図1(a)に示すように、樹脂-DEL-導電材インク層6-1では、DEL(例えばジフェニルアミンとベンゾフェノンとの混合反応により得られるDEL)が、DELに不溶な樹脂60(例えばPDMS)と相分離(自己分離)することから、DEL-導電材ゲルのゲル滴62が、樹脂60中に分散して存在している。
【0047】
なお、このインク層の形成は、このようなスクリーン印刷機を用いた印刷により形成されるものに限定されず、他の形成方法によって形成されるようにしてもよく、例えば、バーコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング等の方法であってもよく、或いは、その他の塗布、射出成形等の方法であってもよい。インク層の形成方法として、このような印刷機を用いた印刷法は、量産性、大面積化、パターン化において優れた手法として利用される。
【0048】
(プリアニーリング)
本実施形態では、基板上の樹脂-DEL-導電材インク層6-1に対してプリアニーリング(前段階のアニーリング)を行う。プリアニーリング(加熱)時の温度は、DELに不溶な樹脂(この場合、熱硬化性樹脂)が硬化する温度であって、DELが揮発しない温度であることが好ましい。例えばDELとしてジフェニルアミンとベンゾフェノンとの混合反応により得られるDELを使用し、このDELに不溶な樹脂としてPDMSを使用する場合、プリアニーリングの温度は、PDMSの硬化が開始する温度である60℃~90℃であることが好ましい。また、プリアニーリングの時間は、30分~120分であることが好ましい。このPDMSを使用する場合において、例えば、プリアニーリング時の温度は75℃、プリアニーリングの時間は60分であってよい。
【0049】
図1(b)は、プリアニーリングが行われた樹脂-DEL-導電材インク層6-2の厚み方向の模式断面図を示している。プリアニーリングが行われた樹脂-DEL-導電材インク層6-2は、DELに不溶な樹脂60がプリアニーリングにより硬化した状態(硬化した樹脂61)となっている。このプリアニーリングが行われた樹脂-DEL-導電材インク層6-2は、硬化した樹脂61中において、DEL-導電材ゲルのゲル滴62同士が連結した連結構造を有している。
【0050】
なお、DELに不溶な樹脂が熱硬化性樹脂でなく例えば紫外線硬化樹脂である場合、このプリアニーリングに代えて、紫外線の照射によりこの紫外線硬化樹脂を硬化させるようにしてよい。同様に、DELに不溶な樹脂が例えば電子線硬化樹脂である場合、このプリアニーリングに代えて、電子線の照射によりこの電子線硬化樹脂を硬化させるようにしてよい。
【0051】
(ポストアニーリング)
本実施形態では、プリアニーリングがされて硬化した樹脂-DEL-導電材インク層6-2に対してポストアニーリング(後段階のアニーリング)を行う。ポストアニーリング(加熱)時の温度は、特に限定されないが、DELとしてジフェニルアミンとベンゾフェノンとの混合反応により得られるDELを使用し、このDELに不溶な樹脂としてPDMSを使用する場合、120℃~150℃であることが好ましい。また、ポストアニーリングの時間は、特に限定されないが、DELとしてジフェニルアミンとベンゾフェノンとの混合反応により得られるDELを使用し、このDELに不溶な樹脂としてPDMSを使用する場合、30分~120分であることが好ましい。このPDMSを使用する場合において、例えば、ポストアニーリング時の温度は140℃、ポストアニーリングの時間は30分であってよい。
【0052】
図1(c)は、ポストアニーリングが行われた樹脂-DEL-導電材インク層6-3(すなわち導電性樹脂層13)の厚み方向の模式断面図を示している。ポストアニーリングが行われると、樹脂-DEL-導電材インク層6-3中の大部分のDELは、このポストアニーリングにより蒸発して除去される。DEL-導電材ゲルのゲル滴62の形状に相当する多数の細孔64からなる多孔質構造63が形成される。導電性樹脂層13は、ゲル滴62同士が連結したことにより形成された、細孔64同士が連結した連結孔を有していている。この導電性樹脂層13においては、細孔64の内壁に沿って多数の導電材料65が密集して存在する。そして、この図1(c)に示すように、導電性樹脂層13は、その密集して存在する導電材料65によって囲まれるように空隙66を有している。連結した細孔64(連結孔)の内壁に多数の導電材料65が密集して存在することで効率的な導電経路(導電パス)が形成される。以上のような製造方法で、効率的な導電パスを有した多孔質の導電性樹脂層13が製造される。
【0053】
ポストアニーリングが行われた樹脂-DEL-導電材インク層6-3(すなわち導電性樹脂層13)中のDELの残存率(%)は、残存率N=(ポストアニーリング前の「樹脂-DEL-導電材インク層6-2」中のDEL容量(ml)-ポストアニーリングにより蒸発したDEL容量(ml))/ポストアニーリング前の「樹脂-DEL-導電材インク層6-2」中のDEL容量(ml)×100(%)として定義される。
【0054】
この残存率Nは、5%以下であることが好ましい。DELの残存率Nが5%以下であることにより、品質の良い多孔質の導電性樹脂、具体的には、安定性が充分に確保され、DELに起因するアウトガスの発生が、他に悪影響を及ぼさない程度にまで抑制された多孔質の導電性樹脂を生成することができる。
【0055】
本実施形態の製造方法により製造された導電性樹脂において、その導電性樹脂層の厚みは、特に限定されないが、例えば20μm~2mmであってよく、具体例として約100μmであってよい。また、各細孔の大きさ(細孔径)は、特に限定されないが、例えば細孔の長径が1μm~500μmであることが好ましく、細孔の長径が5μm~500μmであることが特に好ましい。また、この製造方法において添加する導電材料の大きさ(粒子径)は、例えば20nm~20μmであってよい。
【0056】
また、本実施形態の製造方法により製造された導電性樹脂において、空隙率Pは、導電性樹脂の総体積(見かけの体積)をV(μm)、空隙の体積をv(μm)とすると、空隙率P=v/V×100(%)として定義される。この導電性樹脂において、空隙率Pは、10%~90%であることが好ましく、30%~60%が特に好ましい。
【0057】
また、本実施形態の製造方法により製造された導電性樹脂において、導電性樹脂を伸長させたときの伸長率Uは、導電性樹脂における伸長前の(伸長方向の)長さをM、導電性樹脂の伸長後の(伸長方向の)長さをMとすると、伸長率U=(M-M)/M×100(%)として定義される。この導電性樹脂において、伸長率Uは、例えば0%~200%であってよい。この導電性樹脂は、このように200%の伸長率で伸長可能であり、元の長さにスムーズに戻る伸縮性(ストレッチャブル)を有していてよい。
【0058】
本実施形態の製造方法では、材料の混合といった簡易な操作でインクを生成でき、そのインクを印刷して2段階のアニーリングを行うだけで、多孔質の導電性樹脂を製造することができる。このような容易な方法によれば、導電性樹脂の製造、及びそれを材料として用いてセンサを製造する際の製造コストの上昇を抑制することができる。
【0059】
また、DELに不溶な樹脂にDEL-導電材ゲルが分散してなるインク(樹脂-DEL-導電材インク)は、印刷も可能であることから、スクリーン印刷等の印刷手法を用いて、導電性樹脂の大面積化を実現することができ、更には任意のパターンの形成も容易に行うことができる。
【0060】
(センサ)
本実施形態で製造される多孔質の導電性樹脂は、スポンジ状の構造を備えている。このような導電性樹脂は、高感度であり、フレキシブル性、ストレッチャブル性にも優れている。そのため、この導電性樹脂は、例えばヘルスケア分野の生体センサ、ロボティクス分野のロボット用センサ、人工神経形態システムの人工神経センサ等のセンサの構成要素とされてよい。
【0061】
センサは、例えば次のように製造されてよい。例えばスクリーン印刷機を使用し、PDMS等で形成される基板上に、電極用のパターンの空孔を有するフィルムマスクを載置し、その上からスキージにより銀(Ag)ペーストを塗布する。そして、その銀(Ag)ペーストを焼成することでこのパターンに応じた銀(Ag)電極部材を形成する。その後、同じくスクリーン印刷機を使用し、銀(Ag)電極部材上に、導電性樹脂用のパターンの空孔を有するフィルムマスクを載置し、その上からスキージにより樹脂-DEL-導電材インクを塗布する。これにより、この空孔のパターンに応じた樹脂-DEL-導電材インクの層を形成する。そして、この樹脂-DEL-導電材インクに対して2段階のアニーリング(プリアニーリング、ポストアニーリング)を行う。これにより、基板上に銀(Ag)電極部材と導電性樹脂とを有するセンサが製造される。
【0062】
なお、このセンサの製造において、上述のように、このスクリーン印刷機による印刷に代えて、他の形成方法(バーコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング等の方法であってもよく、或いは、その他の塗布、射出成形等の方法等)で形成してもよい。また、このセンサの製造において、上述のように、樹脂(DELに不溶な樹脂)が例えば紫外線硬化樹脂である場合、プリアニーリングに代えて、紫外線の照射によりこの紫外線硬化樹脂を硬化させるようにしてよい。また、このセンサの製造において、上述のように、樹脂(DELに不溶な樹脂)が例えば電子線硬化樹脂である場合、このプリアニーリングに代えて、電子線の照射によりこの電子線硬化樹脂を硬化させるようにしてよい。
【0063】
(本実施形態の導電性樹脂と従来の導電性樹脂との比較)
図2(a)は、本実施形態の製造方法で製造される導電性樹脂層13の厚み方向の模式断面図である。図2(b)は、従来の一製造方法(以下、「従来製造方法」ともいう。)で製造される導電性樹脂層100の厚み方向の模式断面図である。この従来製造方法は、DELを使用せずに、直接、樹脂(例えばポリジメチルシロキサン(PDMS))に導電材料(例えばカーボンブラック(CB)、或いは、グラファイト(GF)等)を混合した後に加熱することで、導電性樹脂を製造するものである。
【0064】
本実施形態の製造方法で製造される導電性樹脂は、この従来製造方法で製造される導電性樹脂と比較して様々な利点を有する。
【0065】
図2(a)に示すように、本実施形態の製造方法で製造される導電性樹脂層13は、空隙66を有し、DELに不溶な樹脂61中に、多数の細孔64からなる多孔質構造63が形成されている。この導電性樹脂層13は、細孔64同士が連結した連結孔を有している。そして、この細孔64の内壁に沿って多数の導電材料65が密集して存在することで、図2(a)の矢印T1に示すような導電経路(導電パス)が形成される。
【0066】
すなわち、本実施形態の製造方法では、DELが樹脂から相分離(自己分離)し、その相分離したDELの液体粒子が蒸発により除去されることで形成された細孔の内壁に沿って、導電経路(多孔質構造に沿った自己分離型導電経路)が形成される。通常、導電材料によってこのような自己分離型導電経路を得ることは難しく、複雑な工程を要するが、本実施形態では、このような自己分離型導電経路を容易に形成することができる。
【0067】
これに対し、例えば図2(b)に示すように、従来製造方法で製造される導電性樹脂層100は、空隙を有さず、樹脂101中に導電材料102がランダムに存在することから、導電材料102同士が接触した箇所が矢印T2で示すような導電経路(導電パス)となる。すなわち、この従来製造方法で製造される導電性樹脂層100は、導電経路が限定的で非効率的である。そして、本実施形態の導電性樹脂層13は、従来製造方法で製造される導電性樹脂層100よりもパーコレーション閾値を低い値とすることができる。
【0068】
この点から、この従来製造方法で製造される導電性樹脂を用いて製造されるセンサが、本実施形態の導電性樹脂を用いて製造されるセンサと同等の感度を得るためには、導電性樹脂の樹脂中に多量の導電材料を含有させなければならない。すなわち、本実施形態の導電性樹脂を用いたセンサは、従来製造方法で製造される導電性樹脂を用いたセンサよりも少ない導電材料の量で、高感度なセンサとすることができることから、製造コストの上昇を抑制することができる。そして、本実施形態では、従来製造方法よりも容易に、このような高感度なセンサを製造することができる。
【0069】
また、本実施形態の導電性樹脂を用いて製造されるセンサは、優れたセンシング性能(例えば、高感度、異方性曲げ検知性能、圧力検知性能)を有する。
【0070】
これにより、本実施形態の導電性樹脂を用いて製造されるセンサは、例えば、人間の動作、ロボットの動作(ロボットグリッパの動作、ロボットの掴み動作)を検知するセンサとして広く利用可能である。
【0071】
また、DELに不溶な樹脂中にゲルが分散してなるインク(樹脂-DEL-導電材インク)は、印刷が可能であることから、スクリーン印刷等の印刷手法を用いて、導電性樹脂層を任意のサイズ(例えば大面積化)及び任意のパターンで容易に製造することができる。
【実施例0072】
以下に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。但し、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0073】
[1]導電性樹脂の製造
図3は、導電性樹脂の製造例について説明するための図である。本製造例(以下、「本製造方法」ともいう。)では、予め水素結合受容性の化合物として室温(約25℃)で固体(粉体状)のベンゾフェノン(東京化成工業社製)(図3(a)の式1)を準備した。また、予め水素結合供与性の化合物として室温(25℃)で固体(粉体状)のジフェニルアミン(東京化成工業社製)(図3(a)の式2)を準備した。
【0074】
そして図3(b)に示すように、室温(約25℃)で、ベンゾフェノン(図3(b)の粉体1)とジフェニルアミン(図3(b)の粉体2)とを透明容器内に投入し、蓋を閉めて密封した。容器内のベンゾフェノン(粉体1)とジフェニルアミン(粉体2)との接触部分3では、その両者の反応が進行していった。
【0075】
このようなベンゾフェノン(粉体1)及びジフェニルアミン(粉体2)を攪拌により混合した(混合)。ここで、ベンゾフェノン(粉体1)とジフェニルアミン(粉体2)とは、モル比1:1で混合された。これにより、図3(c)に示すような深共晶液体(DEL:Deep eutectic liquid)(図3(c)の液体4)が生成された。このDEL(液体4)は、黄色透明の液体であった。
【0076】
そして、このDEL(液体4)に導電材料(カーボンブラック(CB)粒子)を添加して攪拌した。これにより、図3(d)に示すように、DELに導電材料を混合してなるゲル(DEL-CBゲル)(図3(d)のゲル5)を生成した。このDEL-CBゲル(ゲル5)は、黒色不透明のゲル状物質であった。なお、使用した導電材料(CB粒子)の粒径は、約34nmであった。
【0077】
その後、DELに不溶な樹脂としてのポリジメチルシロキサン(PDMS:Polydimethylsiloxane)をDEL-CBゲル(ゲル5)に添加して攪拌した。これにより、図3(e)に示すようなPDMS中にDEL-CBゲルの粒子が分散してなる黒色不透明のPDMS-DEL-CBインク(図3(e)のインク6A)を生成した。
【0078】
次に、図3(f)に示すように、スクリーン印刷機を使用し、基板(PEN)7上に、電極部材用のパターンの空孔を有するフィルムマスク8を載置し、その上からスキージ9により銀(Ag)ペースト10を塗布(すなわち印刷)した。そして、図3(g)に示すように、その銀(Ag)ペースト10を焼成することでこのパターンに応じた銀(Ag)電極部材11を形成した。
【0079】
その後、図3(h)に示すように、同じくスクリーン印刷機を使用し、基板7上に形成された銀(Ag)電極部材11上に、導電性樹脂用のパターンの空孔を有するフィルムマスク12を載置し、その上からスキージ9によりPDMS-DEL-CBインク(インク6A)を塗布(すなわち印刷)した。これにより、銀(Ag)電極部材11同士を繋ぐように、この空孔のパターンに応じたPDMS-DEL-CBインク(インク6A)の層を形成した。
【0080】
そして、図3(i)に示すように銀(Ag)電極部材11同士を繋ぐように形成されたPDMS-DEL-CBインク(インク6A)の層に対し、2段階のアニーリング(プリアニーリング、ポストアニーリング)を行った。これにより、基板7上に銀(Ag)電極部材11と多孔質の導電性樹脂層13とを有するセンサ14を製造した。なお、本製造方法では、図3(i)に示すように、基板7を点線に沿って切断することで4つのセンサ14が製造された。
【0081】
ここで、2段階のアニーリング(プリアニーリング、ポストアニーリング)について説明する。スクリーン印刷機を用いて基板上に印刷された-DEL-CBインク(インク6A)に対し、75℃、1時間のプリアニーリングを行った。プリアニーリングが行われたPDMS-DEL-CBインク(インク6A)の層は、PDMSがプリアニーリングにより硬化した。
【0082】
このプリアニーリングが行われたPDMS-DEL-CBインク(インク6A)に対し、140℃、30分間のポストアニーリングを行った。このポストアニーリングにより、硬化した樹脂-DEL-CBインク(インク6A)中のDELは、蒸発して除去された。これにより、多孔質の導電性樹脂層13が製造された。
【0083】
また、本製造方法では、導電材料として、カーボンブラック(CB)粒子に代えてグラファイト(GF)フレークを使用して、同様に多孔質の導電性樹脂を製造した。ここで使用した導電材料(フレーク状の形状を有するGFフレーク)の長径は、約10μmであった。
【0084】
[2]導電性樹脂層の構造
図4は、本製造方法で製造された導電性樹脂層、及び、従来製造方法で製造された導電性樹脂層の、光学顕微鏡(OM:OpticalMicroscopy)による写真図、及び、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)による写真図である。
【0085】
図4(a)及び図4(b)は、導電材料としてカーボンブラック(CB)粒子を使用した本製造方法で製造された導電性樹脂層(PDMS/CB)13Aの上面を示すOM写真図である。また、図4(c)は、導電材料としてグラファイト(GF)フレークを使用した本製造方法で製造された導電性樹脂層(PDMS/GF)13Bの上面を示すOM写真図である。
【0086】
図4(a)及び図4(b)に示すように、このOM写真図からは、本製造方法で製造された導電性樹脂層(PDMS/CB)13Aの上面は、導電材料(CB粒子)65A同士が凝集している領域(暗部)と、樹脂(PDMS)61Aのマトリックス部分(明部)とが見えることから、明確に両者が相分離していることがわかる。また、図4(c)に示すように、本製造方法で製造された導電性樹脂層(PDMS/GF)13Bの上面も導電材料(GF)65B同士が凝集している領域(暗部)と、樹脂(PDMS)61Bのマトリックス部分(明部)とが見えることから、明確に両者が相分離していることがわかる。
【0087】
図4(d)及び図4(e)は、導電材料としてCB粒子を使用した本製造方法で製造された導電性樹脂層(PDMS/CB)13Aの厚み方向の断面のSEM写真図である。一方、図4(f)は、導電材料としてCB粒子を使用した従来製造方法で製造された導電性樹脂層(PDMS/CB)130Aの厚み方向の断面のSEM写真図である。導電材料としてCB粒子を使用した従来製造方法では、DELを使用せずに、直接、PDMSに導電材料としてのCB粒子を混合して加熱することで、導電性樹脂を製造した。
【0088】
図4(d)及び図4(e)に示すように、導電材料としてCB粒子を使用した本製造方法で製造された導電性樹脂層(PDMS/CB)13Aは、多孔質構造63Aにおける細孔64Aの内壁に沿って多数の導電材料(CB)65Aが密集して存在しており、その導電材料(CB)65A同士が連結した連結構造による導電経路(導電パス)を形成している。
【0089】
一方、図4(f)に示すように、導電材料としてCB粒子を使用した従来製造方法で製造された導電性樹脂層(PDMS/CB)130Aは、図4(e)に見られるような自己相分離構造に基づく空隙が存在せず、導電材料(CB粒子)650Aが樹脂(PDMS)610A中にランダムに分散して存在していることがわかる。
【0090】
図4(g)及び図4(h)は、導電材料としてGFフレークを使用した本製造方法で製造された導電性樹脂層(PDMS/GF)13Bの厚み方向の断面のSEM写真図である。一方、図4(i)は、導電材料としてGFフレークを使用した従来製造方法で製造された導電性樹脂層(PDMS/GF)130Bの厚み方向の断面のSEM写真図である。導電材料としてGFフレークを使用した従来製造方法では、DELを使用せずに、直接、PDMSに導電材料としてのGFフレークを混合して加熱することで、導電性樹脂を製造した。
【0091】
図4(g)及び図4(h)に示すように、導電材料としてGFフレークを使用した本製造方法で製造された導電性樹脂層(PDMS/GF)13Bは、多孔質構造63Bにおける細孔64Bの内壁に沿って多数の導電材料(GFフレーク)65Bが存在しており、その導電材料(GFフレーク)65B同士が連結した連結構造による導電経路を形成している。
【0092】
一方、図4(i)に示すように、導電材料としてGFフレークを使用した従来製造方法で製造された導電性樹脂層(PDMS/GF)130Bは、図4(h)に見られるような自己相分離構造に基づく空隙が存在せず、導電材料(GFフレーク)650Bが樹脂(PDMS)610B中にランダムに分散して存在していることがわかる。
【0093】
また、図4(d)、(e)、(g)、(h)から、導電性樹脂層13A、13Bにおいては、上述の空隙率Pは、10%~90%、より具体的には30%~60%の範囲内の数値であるといえる。
【0094】
[3]導電材料の濃度に対する導電率
本製造方法で、DELとカーボンブラック(CB)粒子とPDMSとを混合し、空隙を有し、細孔の内壁に沿って多数のCBを有する導電性樹脂を製造した。混合するPDMSとDELとのモル比は、PDMS:DEL=2:1とした。この導電性樹脂を用いたセンサにおいて、PDMSに対するカーボンブラック(CB)の濃度(wt%)を変化させ、各々の導電性樹脂の導電率(S/cm)を測定した。この測定結果を図5(a)の黒色丸形のプロットc-1(本製造方法)に示す。なお、図5(a)、(b)に示す何れの導電率の測定も、測定器(HITACHI社製、製品名:TM4000)を用いて測定した。
【0095】
また、従来製造方法で、空隙を有さず、カーボンブラック(CB)粒子がPDMS中に分散してなる導電性樹脂を製造した。この導電性樹脂を用いたセンサにおいて、導電性樹脂中のPDMSに対するカーボンブラック(CB)の濃度(wt%)を変化させ、各々の導電性樹脂の導電率(S/cm)を測定した。この測定結果を図5(a)の黒色四角形のプロットc-2(従来製造方法)に示す。
【0096】
図5(a)に示すように、導電材料としてCB粒子を使用して本製造方法で製造した導電性樹脂を用いたセンサ(プロットc-1)、導電材料としてCB粒子を使用して従来製造方法で製造した導電性樹脂を用いたセンサ(プロットc-2)の何れも、PDMSに対するCB濃度(wt%)を増加させるにつれて導電性樹脂の導電率(S/cm)が上昇した。
【0097】
但し、図5(a)に示すように、導電材料としてCB粒子を使用して本製造方法で製造した導電性樹脂を用いたセンサ(プロットc-1)は、導電材料としてCB粒子を使用して従来製造方法で製造した導電性樹脂を用いたセンサ(プロットc-2)と比較して、同じCB濃度(wt%)で導電性樹脂のより高い導電率(S/cm)が得られた。
【0098】
また、本製造方法で、DELとグラファイト(GF)フレークとPDMSとを混合し、空隙を有し、細孔の内壁に沿ってGFフレークを有する導電性樹脂を製造した。混合するPDMSとDELとのモル比は、PDMS:DEL=2:1とした。この導電性樹脂を用いたセンサにおいて、導電性樹脂中のPDMSに対するグラファイト(GF)の濃度(wt%)を変化させ、そのGF濃度(wt%)の濃度毎に、導電性樹脂の導電率(S/cm)を測定した。この測定結果を図5(b)の白色丸形のプロットc-3(本製造方法)に示す。
【0099】
また、従来製造方法で、空隙を有さず、グラファイト(GF)フレークがPDMS中に分散してなる導電性樹脂を製造した。この導電性樹脂を用いたセンサにおいて、導電性樹脂中のPDMSに対するグラファイト(GF)の濃度(wt%)を変化させ、そのGF濃度(wt%)の濃度毎に、導電性樹脂の導電率(S/cm)を測定した。この測定結果を図5(b)の白色四角形のプロットc-4(従来製造方法)に示す。
【0100】
図5(b)に示すように、導電材料としてGFフレークを使用して本製造方法で製造した導電性樹脂を用いたセンサ(プロットc-3)、導電材料としてGFフレークを使用して従来製造方法で製造したセンサ(プロットc-4)の何れも、PDMSに対するGF濃度(wt%)を増加させるにつれて導電性樹脂の導電率(S/cm)が上昇した。
【0101】
但し、図5(b)に示すように、導電材料としてGFフレークを使用して本製造方法で製造した導電性樹脂を用いたセンサ(プロットc-3)は、導電材料としてGFフレークを使用して従来製造方法で製造した導電性樹脂を用いたセンサ(プロットc-4)と比較して、同じGF濃度(wt%)で導電性樹脂のより高い導電率(S/cm)が得られた。
【0102】
以上の点から、本製造方法で製造した導電性樹脂を用いたセンサは、従来製造方法で製造した導電性樹脂を用いたセンサよりも、少ない導電材料の量で高い導電性が得られることがわかる。
【0103】
[4]引張歪み/圧縮歪みの歪み変位に対する応答性
図6は、センサの引張歪み/圧縮歪みの歪み変位(mm)に応じた電気抵抗変化率ΔR/R(%)を示す図である。電気抵抗変化率ΔR/R(%)は、センサの感度を示す。
【0104】
図6(a)は、導電材料としてCB粒子を使用して本製造方法で製造した導電性樹脂を用いたセンサを用いて得られた測定結果を示し、図6(b)は、導電材料としてCB粒子を使用して従来製造方法で製造した導電性樹脂を用いたセンサを用いて得られた測定結果を示す。すなわち、図6(a)、(b)には、各センサにおける、引張時の歪み変位(mm)に応じた電気抵抗変化率ΔR/R(%)と、圧縮時の歪み変位(mm)に応じた電気抵抗変化率ΔR/R(%)が示されている。
【0105】
ここで、「引張歪み」とは、図6(c)に示すように、基板d-1上の導電性樹脂層d-2が基板d-1とは反対側に突出するように湾曲することで、導電性樹脂層d-2が引っ張られるときに生じる歪みをいう。また、「圧縮歪み」とは、図6(d)に示すように、基板d-1上の導電性樹脂層d-2が基板d-1側に突出するように湾曲することで、導電性樹脂層d-2が圧縮するときに生じる歪みをいう。また、「歪み変位(mm)」は、図6(e)に示すように導電性樹脂層d-2の歪みの生じていない(フラットな状態の)ときの長さLo(mm)から、図6(f)に示すように導電性樹脂層d-2の歪みの生じているときの長さL(mm)を引いた値(歪み変位=L-L(mm))であり、歪み(曲げ)の大きさを示している。
【0106】
図6(a)、(b)において、線e-1は、センサの導電性樹脂層に対して引張歪み及び圧縮歪みを生じさせたときの電気抵抗変化率ΔR/R(%)を示す。また、線e-2は、センサの導電性樹脂層に対して、引張歪み及び圧縮歪みの状態から元の歪みの生じていないフラットな状態に戻したときの電気抵抗変化率ΔR/R(%)を示す。
【0107】
図6(a)のセンサ(本製造方法、CB使用)は、線e-1に示すように、引張歪みにおいて歪み変位(mm)を大きくしていくと、電気抵抗変化率ΔR/R(%)は、矢印m-1に示すようにスムーズに上昇していき、この線e-1に示すように、圧縮歪みにおいて歪み変位(mm)を大きくしていくと、電気抵抗変化率ΔR/R(%)は、矢印m-2に示すようにスムーズに降下していった。また、このセンサは、線e-2に示すように、引張歪みにおいて歪み変位(mm)を小さくしていくと、電気抵抗変化率ΔR/R(%)は、矢印m-3に示すように線e-1と重なるようにスムーズに降下していき、この線e-2に示すように、圧縮歪みにおいて歪み変位(mm)を小さくしていくと、電気抵抗変化率ΔR/R(%)は、矢印m-4に示すように線e-1と重なるようにスムーズに上昇していった。
【0108】
図6(b)のセンサ(従来製造方法、CB使用)は、線e-1に示すように、引張歪み、圧縮歪みの何れにおいても、歪み変位(mm)を大きくしていくと、電気抵抗変化率ΔR/R(%)は、矢印m-1、m-2に示すように少ししか変化しなかった。また、このセンサは、線e-2に示すように、引張歪み、圧縮歪みの何れにおいても、歪み変位(mm)を小さくしていくと、電気抵抗変化率ΔR/R(%)は、矢印m-3、矢印m-4に示すように少ししか変化しなかった。
【0109】
このような点から、本製造方法で製造した相分離構造に基づく空隙を有する導電性樹脂を用いたセンサ(図6(a))は、従来製造方法で製造した空隙を有さず導電材料がランダムに分散している導電性樹脂を用いたセンサ(図6(b))よりも、導電性樹脂の歪み(曲げ)に対する感度が高いことがわかる。
【0110】
[5]歪み値に対する感度
図7(a)は、本製造方法で製造された導電性樹脂(CB使用)を用いたセンサの歪み値ε(%)に対する電気抵抗変化率ΔR/R(%)(感度)を示す図である。
【0111】
ここで、「歪み値ε(%)」について図7(b)を用いて説明する。図7(b)に示すように、hは、曲げた基板(PDMS)f-1の中立軸線Gから導電性樹脂層f-2までの距離を示す。また、rは、この曲げ(歪み)における曲率半径を示す。また、θは、導電性樹脂層f-2の曲げ(歪み)により形成される曲率半径rの円弧の中心角である。この距離hと曲率半径rとを用いると、歪み値εは、ε=±h/rで示される(Sheng Chen et al. Flexible and Anisotropic Strain Sensor Based on Carbonized Crepe Paper with Aligned Cellulose Fibers Advanced Functional Materials 2018, 28, 1802547参照)。
【0112】
図7(a)に示すように、このセンサの導電性樹脂層を引張歪みの状態とし、θを変化させ、歪み値ε(%)を0.0(%)から増加させていくと、その歪み値(%)の増加に伴い、電気抵抗変化率ΔR/R(%)は、略直線的に増加していった(GF(ゲージファクター(抵抗の歪みによる変化)):35.2)。また、このセンサの導電性樹脂層を圧縮歪みの状態とし、θを変化させ、歪み値ε(%)を0.0(%)から減少させていくと、その歪み値(%)の減少に伴い、電気抵抗変化率ΔR/R(%)は、略直線的に減少していった(GF(ゲージファクター):45.6)。
【0113】
この図7(a)から、本製造方法で製造された導電性樹脂(CB使用)を用いたセンサは、歪み値ε(%)の変化に応じて電気抵抗変化率ΔR/R(%)(感度)が略直線的に変化することがわかる。
【0114】
[6]応答速度
図8は、本製造方法で製造された導電性樹脂(CB使用)を用いたセンサの応答速度の測定結果を示す図である。図8の範囲g-1に示すように、このセンサの引張歪みに対する応答時間は、200msであり、その引張歪みの状態からフラットな状態に戻すときの回復時間は、240msであった。
【0115】
また、図8の範囲g-2に示すように、このセンサの圧縮歪みに対する応答時間は、300msでありその圧縮歪みの状態からフラットな状態に戻すときの回復時間は、180msであった。このような点から、本製造方法で製造されたセンサは、応答速度が速いことがわかる。
【0116】
[7]サイクル安定性
図9は、本製造方法で製造された導電性樹脂(CB使用)を用いたセンサの圧縮/引張サイクルに対する電気抵抗変化率ΔR/R(%)を示す図である。このセンサは、導電性樹脂層をフラットな状態から圧縮歪みの状態とすることを5000回繰り返した後、導電性樹脂層をフラットな状態から引張歪みの状態とすることを5000回繰り返した。この図9に示すように、このセンサは、圧縮歪みの状態とすることを繰り返したとき、引張歪みの状態とすることを繰り返したときの何れにおいても、優れたサイクル安定性を示すことがわかる。
【0117】
[8]ゲージファクター(GF)の比較
図10は、これまでに報告されている他のプリンテッド、塗布等により製造されたセンサ(レザーとCNT(カーボンナノチューブ)とを材料とするセンサ、MWCNT(多層カーボンナノチューブ)を材料とするセンサ、CNTとCBと紙とを材料とするセンサ、炭化セルロースを材料とするセンサ、RGO(還元型酸化グラフェン)と紙とを材料とするセンサ、PEDOT:PSS(ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))、NWを材料とするセンサ)と、本製造方法(印刷)で製造された導電性樹脂を用いたセンサ(PDMS、CB使用)とで、引張時/圧縮時のGF(ゲージファクター)を比較して示す表である。
【0118】
この図10に示すように、本製造方法(印刷)で製造された導電性樹脂を用いたセンサ(PDMS、CB使用)は、これまでに報告されている他のプリンテッド、塗布等により製造されたセンサと比較して、引張時、圧縮時の何れにおいても高いGF(ゲージファクター)を示すことがわかる。
【0119】
[9]手動作のモニタリング
図11は、本製造例方法で製造された導電性樹脂(CB使用)を用いたセンサによる手動作のモニタリングの様子を示す図である。図11(a)は、人の手の人差し指の第2関節に本製造方法で製造されたセンサ14を貼付した状態を示している。また、これとともに図11(a)は、その右手を閉じた状態(センサが引張歪みの状態)h-1と開いた状態(センサがフラットの状態)h-2とに繰り返し変化させる手指動作を行った際の時間(s)に対するセンサ14の電気抵抗変化率ΔR/R(%)(感度)を示している。このように、人差し指の第2関節にセンサを貼付し、手の動きをモニタリングした。
【0120】
図11(a)に示すように、手を閉じた状態(センサが引張歪みの状態)h-1では電気抵抗変化率ΔR/R(%)は上昇し、右手を開いた状態(センサがフラットの状態)h-2では電気抵抗変化率ΔR/R(%)は初期値に戻った。これにより、本製造方法で製造されたセンサは、手の動きを良好にモニタリングできることがわかる。
【0121】
図11(b)は、人の手の手首に本製造方法で製造された導電性樹脂を用いたセンサ14を貼付した状態を示している。また、これとともに図11(b)は、その手を閉じて上側に曲げた状態(センサが圧縮歪みの状態)h-3と下側に曲げた状態(センサが引張歪みの状態)h-4とに繰り返し変化させる手首動作を行った際の時間(s)に対するセンサ14の電気抵抗変化率ΔR/R(%)(感度)を示している。このように、手首にセンサを貼付し、手首の動きをモニタリング(観測)した。
【0122】
図11(b)に示すように、手を閉じて上側に曲げた状態(センサが圧縮歪みの状態)h-3では、電気抵抗変化率ΔR/R(%)は降下し、手を閉じて下側に曲げた状態(センサが引張歪みの状態)h-4では、電気抵抗変化率ΔR/R(%)(感度)は上昇した。これにより、本製造方法で製造されたセンサは、手首の動きと、その方向性とを良好にモニタリングできることがわかる。
【0123】
[10]複数センサによる形状状態の判断
図12は、本製造方法で製造された導電性樹脂(CB使用)を用いたセンサを複数用いて形状状態を判別する様子を示す図である。図12に示すように、センサ14a、14b、14cを設けた基板15を曲げていないフラットな状態i-0から、センサ14bが最も突出するように曲げた状態i-1、センサ14bが最も凹むように曲げた状態i-2、センサ14aが最も突出しセンサ14cが最も凹むように曲げた状態i-3にすると、その曲げ状態i-1、曲げ状態i-2、曲げ状態i-3に応じた値の電気抵抗変化率ΔR/R(%)を示すことがわかる。このような点から、比較的大きいサイズの対象物に、本製造方法で製造されたセンサを複数貼付することで、その対象物の形状状態を良好に判断することができる。
【0124】
[11]ロボットグリッパの曲げ動作に対する応答性
図13は、本製造方法で製造された導電性樹脂(CB使用)を用いたセンサによるロボットグリッパの曲げ動作のセンシングの様子を示す図である。図13(a)に示すように、本製造方法で製造された導電性樹脂を用いたセンサ14を設けたロボットグリッパ16は、支持部17に支持されている。このロボットグリッパ16が曲げていないフラットな状態j-1から、曲げ状態j-2、曲げ状態j-3、曲げ状態j-4となるように曲げると、その曲げ状態i-2、曲げ状態i-3、曲げ状態j-4に応じて電気抵抗変化率ΔR/R(%)が変化した。このような点から、本製造方法で製造された導電性樹脂を用いたセンサ14は、ロボットグリッパ16の曲げ動作に対し、良好な応答性を示すことにより、ロボットグリッパ16の曲げ状態をセンシングできることがわかる。
【0125】
[12]圧力に対する感度
図14は、本製造方法で製造された導電性樹脂(CB使用)を用いたセンサを用いて、センサに加えた圧力(kPa)に対する電気抵抗変化率ΔR/R(%)(感度)をセンシングする様子を示す図である。本製造方法で製造された導電性樹脂を用いたセンサ14Aは、図14(a)に示すような形状の導電樹脂層13Aを銀電極部材11Aの間に備えている。このセンサ14Aの導電樹脂層13Aに対して押圧を行った。
【0126】
図14(b)に示すように、この押圧により圧力(kPa)を上昇させていくと、圧力45kPa付近までは傾き0.015kPa-1の略直線的に電気抵抗変化率ΔR/R(%)が変化し、それ以上に圧力を上昇させていくと、傾き0.0013kPaの略直線的に電気抵抗変化率ΔR/R(%)が変化していった。このように、センサ14Aは、圧力に対する感度が、図14(b)に示すように2つの異なる傾きの略直線的に変化することがわかる。
【0127】
[13]押圧力に応じた応答性
図15は、本製造方法で製造された導電性樹脂(CB使用)を用いたセンサに対する押圧力の違いによる応答性について説明するための図である。図15(a)は、人の手の人差し指の指先の内側に図14(a)に示したセンサ14Aを貼付した状態を示している。この状態の人差し指と親指とを接触させてセンサ14Aの導電樹脂層13Aに異なる大きさの押圧力(弱圧力、強圧力)をそれぞれ3回ずつ加えた。図15(b)に示すように、人差し指と親指とを弱い圧力(弱圧力)で接触させたときよりも強い圧力(強圧力)で接触させたときの方がセンサ14Aの電気抵抗変化率ΔR/R(%)の変化量が大きかった。このような点から、センサ14Aは、手の押圧力に応じて良好な応答性を示すことがわかる。
【0128】
[14]脈拍センサとしての応答性
図16は、本製造方法で製造された導電性樹脂(CB使用)を用いたセンサを脈拍センサとして使用した際の応答性について説明するための図である。図16(a)は、図14(a)に示したセンサ14Aを人の手の人差し指の延長線上であって手首から1~2cm下の橈骨動脈上に貼付した様子を示している。図16(b)は、この状態でセンサ14Aにより、人の脈拍を測定した際の測定結果を示す図である。この図16(b)に示すように、センサ14Aは、脈拍といった微小な変化をセンシングすることができ、脈波も綺麗に取得できることがわかる。また、1つの脈波においては、4箇所のポイント(P、P、P、P)もセンシングされた。これにより、センサ14Aは、脈拍だけでなく、血圧やストレス等の生体情報を取得するセンサとしても適用可能であることがわかる。
【0129】
[15]ロボットの掴み動作に対する応答性
図17は、本製造方法で製造された導電性樹脂(CB使用)を用いたセンサを、物を掴むロボットに搭載したときの応答性について説明するための図である。図17(a)に示すロボット18は、物を掴むための複数の掴み部19を備えており、隣接する掴み部19の間に、図14(a)に示したセンサ14Aを設けている。
【0130】
図17(b)は、ロボット18が、掴み部19により卵20を掴む(把持する)動作を行ったときのセンサ14Aによる応答性(感度)を示している。このロボット18が掴み部19により卵20を掴んでいるときには、センサ14Aに圧力が掛かることから、電気抵抗変化率ΔR/R(%)は初期値の0%から降下した(図17(b)のk-1、K-2)。その後、ロボット18が掴み部19から卵20を放すと、センサ14Aに圧力が掛からなくなることから、電気抵抗変化率ΔR/R(%)が初期値の0%に戻った(図17(b)のk-3)。ロボット18がこの動作を繰り返しても、同様の測定結果が得られた。このように、センサ14Aは、ロボットの物を掴む動作に対し、良好な応答性を示すことがわかる。
【0131】
[16]伸長率に対する感度
図18は、本製造方法で製造された導電性樹脂(CB使用)の伸長率(%)に対する、この導電性樹脂を用いたセンサの電気抵抗変化率ΔR/R(%)(感度)を示す図である。図18において、線n-1は、この導電性樹脂に対して矢印t-1に示すように伸長率(%)を増加させた際の電気抵抗変化率ΔR/R(%)(感度)を示す。また、線n-2は、この導電性樹脂に対して矢印t-2に示すように伸長率(%)を減少させた際の電気抵抗変化率ΔR/R(%)(感度)を示す。
【0132】
なお、この伸長率(%)は、上述の伸長率Uで述べたように、導電性樹脂における伸長前の(伸長方向の)長さをM、多孔質樹脂の伸長後の(伸長方向の)長さをMとすると、伸長率=(M-M)/M×100(%)として定義される。
【0133】
本製造方法で製造された導電性樹脂(CB使用)を用いたセンサは、導電性樹脂に対する伸長率(%)を増加させていくと、電気抵抗変化率ΔR/R(%)が矢印t-1に示すようにスムーズに上昇していった。また、このセンサは、導電性樹脂に対する伸長率(%)を減少させていくと、電気抵抗変化率ΔR/R(%)が矢印t-2に示すようにスムーズに降下していった。このことから、このセンサは、導電性樹脂の伸縮に対して良好な応答性を示すことがわかる。
【0134】
そして、この図18に示すように、本製造方法で製造された導電性樹脂(CB使用)は、200%の伸長率で伸長可能であり、元の長さにスムーズに戻る伸縮性(ストレッチャブル)を有することがわかる。
【0135】
これに対し、従来製造方法で製造された導電性樹脂は、このように伸長率200%まで伸長させることができず途中で切断してしまい、また、伸長した導電性樹脂を元の長さに縮めることができない。すなわち、本製造方法で製造された導電性樹脂は、従来製造方法で製造された導電性樹脂に比べ、優れた伸縮性を有する。
【符号の説明】
【0136】
1 粉体、2 粉体、3 接触部分、4 液体、5 ゲル、6A インク、7 基板、8 フィルムマスク、9 スキージ、10 銀(Ag)ペースト、13 導電性樹脂層、14 センサ、60 樹脂、61 (硬化した)樹脂、62 ゲル滴、63 多孔質構造、64 細孔、65 導電材料、66 空隙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18