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特開2022-85619数値シミュレーション装置、数値シミュレーション方法および数値シミュレーションプログラム
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  • 特開-数値シミュレーション装置、数値シミュレーション方法および数値シミュレーションプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022085619
(43)【公開日】2022-06-08
(54)【発明の名称】数値シミュレーション装置、数値シミュレーション方法および数値シミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/10 20060101AFI20220601BHJP
【FI】
G06F17/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020197392
(22)【出願日】2020-11-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、「界面をもつポリマー流体の3次元挙動の数理解析」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】野津 裕史
【テーマコード(参考)】
5B056
【Fターム(参考)】
5B056BB03
5B056HH07
(57)【要約】
【課題】時間2次精度近似を実現する粘弾性流体の数値シミュレーション手法を提供する。
【解決手段】数値シミュレーション装置1は、表現部10と、時間離散化部20と、算出部30と、を備える。表現部10は、粘弾性流体の上対流微分を、一般化リー微分を使って表現する。時間離散化部20は、ラグランジュ座標に沿ってアダムスバッシュフォース法を適用することによって、一般化リー微分を使って表現された上対流微分を時間離散化する。算出部30は、時間離散化された上対流微分に対して数値シミュレーションを実行して、粘弾性流体の配向テンソルを算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘弾性流体の上対流微分を、一般化リー微分を使って表現する表現部と、
ラグランジュ座標に沿ってアダムスバッシュフォース法を適用することによって、前記一般化リー微分を使って表現された上対流微分を時間離散化する時間離散化部と、
前記時間離散化された上対流微分に対して数値シミュレーションを実行して、前記粘弾性流体の配向テンソルを算出する算出部と
を備える数値シミュレーション装置。
【請求項2】
前記算出された配向テンソルは、時間に関して2次の近似精度を持つことを特徴とする請求項1に記載の数値シミュレーション装置。
【請求項3】
前記一般化リー微分を使って表現された上対流微分は、
【数5】
【数6】
で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の数値シミュレーション装置。
【請求項4】
前記時間離散化された上対流微分は、
【数9】
で表されることを特徴とする請求項3に記載の数値シミュレーション装置。
【請求項5】
前記一般化リー微分を使って表現された上対流微分を空間離散化する空間離散化部をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の数値シミュレーション装置。
【請求項6】
前記算出された配向テンソルは、空間に関して1次または2次の近似精度を持つことを特徴とする請求項5に記載の数値シミュレーション装置。
【請求項7】
前記時間離散化および空間離散化された上対流微分は、
【数13】
で表されることを特徴とする請求項6に記載の数値シミュレーション装置。
【請求項8】
前記空間離散化は、差分法を用いて実行されることを特徴とする請求項7に記載の数値シミュレーション装置。
【請求項9】
前記空間離散化は、有限要素法を用いて実行されることを特徴とする請求項7に記載の数値シミュレーション装置。
【請求項10】
前記空間離散化は、有限体積法を用いて実行されることを特徴とする請求項7に記載の数値シミュレーション装置。
【請求項11】
表現部と、時間離散化部と、算出部と、を備える数値シミュレーション装置において、
表現部を用いて、粘弾性流体の上対流微分を、一般化リー微分を使って表現するステップと、
時間離散化部を用いて、ラグランジュ座標に沿ってアダムスバッシュフォース法を適用することによって、前記一般化リー微分を使って表現された上対流微分を時間離散化するステップと、
算出部を用いて、前記時間離散化された上対流微分に対して数値シミュレーションを実行して、前記粘弾性流体の配向テンソルを算出するステップと
を備える数値シミュレーション方法。
【請求項12】
表現部と、時間離散化部と、算出部と、を備える数値シミュレーション装置において、
表現部を用いて、粘弾性流体の上対流微分を、一般化リー微分を使って表現するステップと、
時間離散化部を用いて、ラグランジュ座標に沿ってアダムスバッシュフォース法を適用することによって、前記一般化リー微分を使って表現された上対流微分を時間離散化するステップと、
算出部を用いて、前記時間離散化された上対流微分に対して数値シミュレーションを実行して、前記粘弾性流体の配向テンソルを算出するステップと
をコンピュータに実行させる数値シミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値シミュレーション装置、数値シミュレーション方法および数値シミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
粘弾性流体の構成方程式の解を数値シミレーションを用いて算出する方法の1つとして、ラグランジュ座標による離散化を用いた手法が提案されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Y.-J. Lee and J. Xu, New formulations, positivity preserving discretizations and stability analysis for non-Newtonian flow models, Computer Methods in Applied Mechanics and Engineering, 195 (2006), pp. 1180-1206
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載の手法は、粘弾性流体の構成方程式を解いて配向テンソルの数値解を求めるために、ラグランジュ座標による離散化を用いている。しかしこの技術は、時間に関しては実質的に1次近似精度までしか得られないため、実用的には時間2次精度近似が得られない。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、時間2次精度近似が得られる粘弾性流体の数値シミュレーション手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の数値シミュレーション装置は、粘弾性流体の上対流微分を、一般化リー微分を使って表現する表現部と、ラグランジュ座標に沿ってアダムスバッシュフォース法を適用することによって、一般化リー微分を使って表現された上対流微分を時間離散化する時間離散化部と、時間離散化された上対流微分に対して数値シミュレーションを実行して、粘弾性流体の配向テンソルを算出する算出部と、を備える。
【0007】
算出された配向テンソルは、時間に関して2次の近似精度を持ってもよい。
【0008】
一般化リー微分を使って表現された上対流微分は、
【数5】
【数6】
で表されてもよい。
【0009】
時間離散化された上対流微分は、
【数9】
で表されてもよい。
【0010】
数値シミュレーション装置は、一般化リー微分を使って表現された上対流微分を空間離散化する空間離散化部をさらに備えてもよい。
【0011】
算出された配向テンソルは、空間に関して1次または2次の近似精度を持ってもよい。
【0012】
時間離散化および空間離散化された上対流微分は、
【数13】
で表されてもよい。
【0013】
空間離散化は、差分法を用いて実行されてもよい。
【0014】
空間離散化は、有限要素法を用いて実行されてもよい。
【0015】
空間離散化は、有限体積法を用いて実行されてもよい。
【0016】
本発明の別の態様は、数値シミュレーション方法である。この方法は、表現部と、時間離散化部と、算出部と、を備える数値シミュレーション装置において、表現部を用いて、粘弾性流体の上対流微分を、一般化リー微分を使って表現するステップと、時間離散化部を用いて、ラグランジュ座標に沿ってアダムスバッシュフォース法を適用することによって、一般化リー微分を使って表現された上対流微分を時間離散化するステップと、算出部を用いて、時間離散化された上対流微分に対して数値シミュレーションを実行して、粘弾性流体の配向テンソルを算出するステップとを備える。
【0017】
本発明のさらに別の態様は、数値シミュレーションプログラムである。このプログラムは、表現部と、時間離散化部と、算出部と、を備える数値シミュレーション装置において、表現部を用いて、粘弾性流体の上対流微分を、一般化リー微分を使って表現するステップと、時間離散化部を用いて、ラグランジュ座標に沿ってアダムスバッシュフォース法を適用することによって、一般化リー微分を使って表現された上対流微分を時間離散化するステップと、算出部を用いて、時間離散化された上対流微分に対して数値シミュレーションを実行して、粘弾性流体の配向テンソルを算出するステップとをコンピュータに実行させる。
【0018】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を装置、方法、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、時間2次精度近似を実現する粘弾性流体の数値シミュレーション手法が与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1の実施の形態に係る数値シミュレーション装置の機能ブロック図である。
図2】第2の実施の形態に係る数値シミュレーション装置の機能ブロック図である。
図3】第3の実施の形態に係る数値シミュレーション方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示である。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項の中で「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合、特に言及がない限りこの用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するだけのためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0022】
具体的な実施例を説明する前に、先ず基本となる事項を説明する。
[基本的事項]
粘弾性流体は、粘性と弾性の両方の性質を持つ非ニュートン流体である。すなわち粘弾性流体は、「流れにくさ」を表す粘性に加えて、力が加えられて伸びたとき元に戻ろうとする「バネ」の性質(弾性)を持つ。粘弾性流体は基本的にナヴィエ・ストークス方程式(1)と連続の式(2)に従うが、その応力テンソルを粘性効果と弾性効果を表す応力の和とすることで弾性効果を取り込んでいる。ここで粘性効果の応力については、既知の技術を利用することができる。これに対し弾性効果は、弾性効果の応力をいかに精度よく解くかが鍵となる。
【数1】
【数2】
ここで、
u:流速ベクトル
t:時間
p:圧力
ζ:配向テンソル
Re:レイノルズ数(0<Re)
Wi:ワイゼンベルグ数(0<Wi)
β:パラメータ(0<β<1)
【数14】
である。ただし上付き添字のTは行列の転置を表す。またA:=Bは、「AをBで定義する」ことを表す。
【0023】
ワイゼンベルグ数Wiは、弾性力と粘性力の比を表す無次元数である。βは、粘性効果と弾性効果の比を表すパラメータである。配向テンソルζは、流体の弾性効果を示す弾性応力テンソルであり、流れuによって引き伸ばされた流体にかかる「バネ」の効果(バネ定数に相当)を表す。D(u)は、「変形速度テンソル」とも呼ばれる。
【0024】
例えば粘弾性流体中の高分子ポリマーをバネとみなすことにより、高分子ポリマーが集まったものをマクロ的に弾性体とみなすことができる。このときバネ(高分子ポリマー)は伸びたり縮んだりする。すなわち粘弾性流体は、流体粒子の軌跡である特性曲線に沿って移動すると同時に、弾性体として伸縮する。これを表すのが、オイラー座標系において式(3)で定義される「上対流微分」と呼ばれる項である(本明細書では、表記の都合上、上対流微分を(ζ)と表すこともある)。
【数3】
この場合、ζは、高分子ポリマーの向きを表す2階の対称な配向テンソルとなる。物質微分∂ζ/∂t+(u・∇)ζは、流速uによる移流を表す。-(∇u)ζ-ζ(∇u)は、変形に対応する。「バネ」は流れuに従って移流し、かつ、∇uによってバネ(定数)の成分が変化する。(ζ)はこれらを一つにまとめて表したものである。
【0025】
[構成方程式]
オルドロイドBモデルの構成方程式は、
【数4】
である。粘弾性流体の数値シミュレーションにおける最大の課題は、緩和時間を表すワイゼンベルグ数Wiが大きい問題の数値シミュレーションが容易ではないことにある。式(4)から分かるように、ワイゼンベルグ数Wiが大きいときには式(3)が現れるため、この式(3)をいかに安定かつ高精度に解くかが鍵となる。
【0026】
[一般化リー微分]
本研究者は、上対流微分(ζ)を以下の式(5)(6)で表現し、これを離散化することにより、粘弾性流体の数値シミュレーションが抱える課題を克服できることに気が付いた。
【数5】
【数6】
ただし、L(x、t;t、s)は、ラグランジュ変形(行列)で
【数15】
を満たす。
【0027】
式(5)の右辺は一般化リー微分として知られ、Lζと書かれる。すなわち、通常オイラー座標で考える(ζ)が、ラグランジュ座標を用いてLζと表現される。一般化リー微分は、特性曲線とバネの変形をラグランジュ変形に着目して自然に記述したものと解釈できる(例えば、非特許文献1)。このように、移流と変形という取り扱いの難しい項を、リー微分により時空間での特性曲線(φt,s(x)、s)(sを動かす)を基準とした自然な表示に基づく数値解法を構築することにより、粘弾性流体の数値シミュレーションに大きく役立つと考えられる。
【0028】
[上対流微分の時間離散化]
さらに本発明者は、一般化リー微分を使って表現した上対流微分に対し、ラグランジュ座標に沿ってアダムズバッシュフォース法(Adams-Bashforth method)を適用することにより、時間2次精度近似の数値シミュレーションが得られることに気が付いた。
【0029】
アダムズバッシュフォース法は、常微分方程式の数値解法の1つである。アダムズバッシュフォース法によれば、滑らかな関数f(t)の微分は、変数tのステップ幅Δtを用いて以下の式(7)で表される。
【数7】
O(Δt)は、真値と近似値の差がΔtの2乗のオーダであることを示す。
【0030】
一般化リー微分を使って表現した上対流微分(式(5)(6))に、ラグランジュ座標に沿ってアダムズバッシュフォース法適用すると、以下の式(8)が得られる。
【数8】
ここで、Xは、以下で定義される。
【数16】
【数17】
すなわち、Xは時間に関し1ステップ(Δt)前の流体粒子の位置を表し、は時間に関し2ステップ(2・Δt)前の流体粒子位置を表す。
【0031】
さらにtをtに離散化することにより、式(8)を離散化した式(9)が得られる。
【数9】
ただし、n=2、…、N
ここでtは以下で定義される。
【数18】
式(8)および式(9)で示される上対流微分は、時間に関して2次精度となっている。すなわち、式(9)をもとに数値シミュレーションを実行することにより、時間に関する2次精度近似の上対流微分が得られる。
【0032】
[上対流微分の完全離散化]
次に、上対流微分を空間的に離散化することにより、上対流微分の完全離散化が実現できることを示す。先ず配向テンソルζに対する作用素Aおよび空間の格子間隔hで空間離散化した配向テンソルζに対する作用素An,(p) を、それぞれ式(10)および(11)で定義する。
【数10】
【数11】
ただし、p=1または2である。
また式(11)におけるΠ(p) は、空間の格子点間の補間を表す。
ここでpは空間補間の次数である。すなわち、p=1であれば線形補間、p=2であれば2次関数補間となる。Π(p) による補間は、差分法、有限要素法、有限体積法など任意の補間の手法を用いてよい。
【0033】
作用素Aを用いると、式(8)は以下の式(12)で表すことができる。
【数12】
ただし、n=2、…、Nである。
さらに本発明者は、作用素An,(p) を用いることにより、上対流微分(ζ)を以下の式(13)で表すことができることを見出した(証明は省略する)。
【数13】
このようにして上対流微分は、時間および空間の両方に関して離散化される。すなわち上対流微分は完全離散化される。式(13)で示される完全離散化された上対流微分は、時間に関して2次精度、空間に関して1次または2次精度となっている。すなわち、式(13)をもとに数値シミュレーションを実行することにより、時間に関しては2次精度近似、空間に関しては1次または2次精度近似の上対流微分が得られる。
【0034】
[第1の実施の形態]
図1に、第1の実施の形態に係る数値シミュレーション装置1の機能ブロック図を示す。数値シミュレーション装置1は、表現部10と、時間離散化部20と、算出部30と、を備える。
【0035】
表現部10は、対象とする粘弾性流体の上対流微分を、一般化リー微分を使って表現する。
【0036】
時間離散化部20は、表現部10によって一般化リー微分を使って表現された上対流微分に対し、ラグランジュ座標に沿ってアダムスバッシュフォース法を適用する。これにより、当該一般化リー微分を使って表現された上対流微分は、時間離散化される。
【0037】
算出部30は、時間離散化部20によって時間離散化された上対流微分に対して、数値シミュレーションを実行する。これにより算出部30は、対象とする粘弾性流体の配向テンソルを算出する。
【0038】
この実施の形態によれば、粘弾性流体の数値シミュレーションを高い精度で実施することができる。
【0039】
ある実施の形態では、算出部30によって算出された配向テンソルは、時間に関して2次の近似精度を持つ。この実施の形態によれば、時間2次精度近似である粘弾性流体の数値シミュレーションが可能となる。
【0040】
ある実施の形態では、表現部10によって一般化リー微分を使って表現された上対流微分は、
【数5】
【数6】
で表される。この実施の形態によれば、具体的な表式を定めて、上対流微分を表現することができる。
【0041】
ある実施の形態では、時間離散化部20によって時間離散化された上対流微分は、
【数9】
で表される。この実施の形態によれば、具体的な表式を定めて、上対流微分を時間離散化することができる。
【0042】
[第2の実施の形態]
図2に、第2の実施の形態に係る数値シミュレーション装置2の機能ブロック図を示す。数値シミュレーション装置2は、表現部10と、時間離散化部20と、空間離散化部40と、算出部30と、を備える。すなわち、数値シミュレーション装置2は、図1の数値シミュレーション装置1の構成に加えて、空間離散化部40を備える。数値シミュレーション装置2のその他の構成は、数値シミュレーション装置1の構成と共通である。以下、数値シミュレーション装置2に関し、空間離散化部40を説明し、数値シミュレーション装置1と重複する構成については説明を省略する。
【0043】
空間離散化部40は、表現部10によって一般化リー微分を使って表現された上対流微分に対し、空間離散化を実行する。これにより、対象とする粘弾性流体の上対流微分は、時間および空間の両方に関して離散化される。すなわち上対流微分は、完全離散化される。
【0044】
本実施の形態によれば、上対流微分を時間および空間に関して完全離散化できるので、粘弾性流体の数値シミュレーションをさらに高い精度で実施することができる。
【0045】
ある実施の形態では、算出部30によって算出された配向テンソルは、空間に関して1次または2次の近似精度を持つ。この実施の形態によれば、時間に関し2次精度近似であって、空間に関し1次精度または2次精度である粘弾性流体の数値シミュレーションが可能となる。
【0046】
ある実施の形態では、時間離散化部20および空間離散化部40によってそれぞれ時間離散化および空間離散化された上対流微分は、
【数13】
で表される。この実施の形態によれば、具体的な表式を定めて、上対流微分を完全離散化することができる。
【0047】
ある実施の形態では、空間離散化部40は、差分法、有限要素法または有限体積法を用いて空間離散化を実行する。この実施の形態によれば、具体的な実現方法を定めて、上対流微分を空間離散化することができる。
【0048】
[第3の実施の形態]
図3に、第3の実施の形態に係る数値シミュレーション方法のフローチャートを示す。この方法は、表現部と、時間離散化部と、算出部と、を備える数値シミュレーション装置において、ステップS1と、ステップS2と、ステップS3と、を実行する。
【0049】
ステップS1で本方法は、表現部を用いて、対象とする粘弾性流体の上対流微分を、一般化リー微分を使って表現する。
【0050】
ステップS2で本方法は、時間離散化部を用いて、一般化リー微分を使って表現された上対流微分に対し、ラグランジュ座標に沿ってアダムスバッシュフォース法を適用する。これにより当該一般化リー微分を使って表現された上対流微分は時間離散化される。
【0051】
ステップS3で本方法は、算出部を用いて、時間離散化された上対流微分に対して、数値シミュレーションを実行する。これにより、対象とする粘弾性流体の配向テンソルが算出される。
【0052】
この実施の形態によれば、粘弾性流体の数値シミュレーションを高い精度で実施することができる。
【0053】
[第4の実施の形態]
第4の実施の形態に係る数値シミュレーションプログラムは、図3のフローチャートで示される処理をコンピュータに実行させる。すなわちこのプログラムは、表現部と、時間離散化部と、算出部と、を備える数値シミュレーション装置において、ステップS1と、ステップS2と、ステップS3と、をコンピュータに実行させる。
【0054】
ステップS1で本プログラムは、表現部を用いて、対象とする粘弾性流体の上対流微分を、一般化リー微分を使って表現する。
【0055】
ステップS2で本プログラムは、時間離散化部を用いて、一般化リー微分を使って表現された上対流微分に対し、ラグランジュ座標に沿ってアダムスバッシュフォース法を適用する。これにより当該一般化リー微分を使って表現された上対流微分は時間離散化される。
【0056】
ステップS3で本プログラムは、算出部を用いて、時間離散化された上対流微分に対して、数値シミュレーションを実行する。これにより、対象とする粘弾性流体の配向テンソルが算出される。
【0057】
この実施の形態によれば、ソフトウェアに実装されたプログラムをコンピュータで実行することにより、粘弾性流体の数値シミュレーションを高い精度で実施することができる。
【0058】
[数値シミュレーション結果の評価]
【0059】
表1に、本発明の手法を用いて粘弾性流体の数値シミュレーションを実行した結果を示す。
【表1】
この数値シミュレーションでは、時間のステップ幅Δtが空間の格子間隔hに比例するとした。すなわち、
【数19】
さらにこの比例定数c’は、c’=1/5とした。
Nは、空間の格子間隔hの逆数である。すなわち
【数20】
11、E12、E22は、この数値シミュレーションにより算出された配向テンソルの、真値からの誤差を示す。Slopeは、この近似の精度の次数を示す。
数値シミュレーションは、異なる4種類のワイゼンベルグ数(Wi=0.25、0.5、1、3)に対し、N=10、20、40、80で実行した。
【0060】
表1に示される通り、Nが10、20、40、80と2倍ずつ増える(すなわち、空間の格子間隔が半分ずつ小さくなる)に従って、誤差E11、E12、E22はいずれもほぼ1/4(=(1/2))ずつ減少している。このことは、近似の精度の次数を示すSlopeが常に約2であることからも理解される。さらにこの結果は、ワイゼンベルグ数によらない。すなわちこの数値シミュレーション結果は、本発明の手法を適用することにより、ワイゼンベルグ数によらず、時間および空間について2次精度近似で配向テンソルを算出できることを示している。
【0061】
以上、本発明を実施の形態にもとづいて説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0062】
上述した各実施の形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる各実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0063】
1・・数値シミュレーション装置
2・・数値シミュレーション装置
10・・表現部
20・・時間離散化部
30・・算出部
40・・空間離散化部
図1
図2
図3