(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022085659
(43)【公開日】2022-06-08
(54)【発明の名称】船舶推進器を含む船舶を制御するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
B63H 20/00 20060101AFI20220601BHJP
B63H 25/42 20060101ALI20220601BHJP
B63H 21/21 20060101ALI20220601BHJP
B63H 25/02 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
B63H20/00 803
B63H25/42 B
B63H21/21
B63H25/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020197453
(22)【出願日】2020-11-27
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】池ヶ谷 祐次
(57)【要約】
【課題】本開示の課題は、ジョイスティックによる操船の快適性を向上させることにある。
【解決手段】ジョイスティックは、傾倒量と捻り方向とを示す操作信号を出力する。コントローラは、操作信号を受信する。コントローラは、傾倒量に応じたスラストを出力するように船舶推進器を制御する。コントローラは、捻り方向に応じた方向に船舶が旋回するように船舶推進器の舵角を変更する。コントローラは、スラストが大きいほど、舵角の変更速度を小さくする。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶を制御するためのシステムであって、
転舵軸回りに回転可能な船舶推進器と、
傾倒操作可能、且つ、捻り操作可能であり、傾倒量と捻り方向とを示す操作信号を出力するジョイスティックと、
コントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記操作信号を受信し、
前記傾倒量に応じたスラストを出力するように前記船舶推進器を制御し、
前記捻り方向に応じた方向に船舶が旋回するように前記船舶推進器の舵角を変更し、
前記スラストが大きいほど、前記舵角の変更速度を小さくする、
システム。
【請求項2】
前記コントローラは、前記スラストが大きくなっても、前記船舶の左右方向ヘの前記スラストの分力が同じになるように、前記舵角の変更速度を小さくする、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記コントローラは、前記スラストが大きいほど、前記舵角の変更速度の上限値を低減することで、前記舵角の変更速度を小さくする、
請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記コントローラは、前記スラストが閾値以下であるときには、前記上限値を一定とする、
請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記船舶には、1機のみの前記船舶推進器が搭載されている、
請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
転舵軸回りに回転可能な船舶推進器を含む船舶を制御するための方法であって、
傾倒操作可能、且つ、捻り操作可能なジョイスティックから、傾倒量と捻り方向とを示す操作信号を受信することと、
前記傾倒量に応じたスラストを出力するように前記船舶推進器を制御することと、
前記捻り方向に応じた方向に船舶が旋回するように前記船舶推進器の舵角を変更することと、
前記スラストが大きいほど、前記舵角の変更速度を小さくすること、
を備える方法。
【請求項7】
前記スラストが大きくなっても、前記船舶の左右方向ヘの前記スラストの分力が同じになるように、前記舵角の変更速度が小さくされる、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記スラストが大きいほど、前記舵角の変更速度の上限値を低減することで、前記舵角の変更速度が小さくされる、
請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記スラストが閾値以下であるときには、前記上限値を一定とすることをさらに備える、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記船舶には、1機のみの前記船舶推進器が搭載されている、
請求項6に記載の方法。
【請求項11】
船舶を制御するためのシステムであって、
転舵軸回りに回転可能な船舶推進器と、
傾倒操作可能、且つ、捻り操作可能であり、傾倒量と捻り方向を示す操作信号を出力するジョイスティックと、
複数のレベルからスラストレベルを選択するように操作可能であり、前記スラストレベルを示す設定信号を出力する設定装置と、
コントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記操作信号と前記設定信号とを受信し、
前記スラストレベルに応じた最大スラストまで、前記傾倒量に応じてスラストを出力するように前記船舶推進器を制御し、
前記スラストレベルが高くなるほど前記最大スラストを増大させ、
前記捻り方向に応じた方向に船舶が旋回するように前記船舶推進器の舵角を変更し、
前記スラストレベルが高いほど、前記舵角の変更速度を小さくする、
システム。
【請求項12】
前記コントローラは、前記スラストレベルが高くなっても、前記船舶の左右方向ヘの前記スラストの分力が同じになるように、前記舵角の変更速度を小さくする、
請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記コントローラは、前記スラストレベルが高いほど、前記舵角の変更速度の上限値を低減することで、前記舵角の変更速度を小さくする、
請求項11に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶推進器を含む船舶を制御するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ジョイスティックにより船舶を操作するシステムが知られている。例えば、特許文献1のシステムは、船舶推進器とジョイスティックとを備えている。船舶推進器は、転舵軸回りに回転可能である。船舶推進器が転舵軸回りに回転することで、船舶推進器の舵角が変更される。ジョイスティックは、傾倒操作可能、且つ、捻り操作可能である。システムのコントローラは、ジョイスティックの傾倒操作に応じたスラストを発生させるように、船舶推進器を制御する。コントローラは、ジョイスティックの捻り方向に応じて船舶が旋回するように、船舶推進器の舵角を変更する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
船舶推進器の舵角の変更速度が一定であっても、船舶のスラストの大きさに応じて、船舶の旋回速度は変化する。例えば、船舶推進器の舵角の変更速度が一定であっても、船舶のスラストが大きいほど、船舶の旋回速度は速くなる。また、船舶推進器の舵角の変更速度が一定であっても、船舶のスラストが小さいほど、船舶の旋回速度は遅くなる。スラストの大きさによって旋回速度が大きく異なる場合、操船の快適性が損なわれる場合がある。本開示の課題は、ジョイスティックによる操船の快適性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1の態様に係るシステムは、船舶を制御するためのシステムであって、船舶推進器と、ジョイスティックと、コントローラとを備える。船舶推進器は、転舵軸回りに回転可能である。ジョイスティックは、傾倒操作可能、且つ、捻り操作可能である。ジョイスティックは、傾倒量と捻り方向とを示す操作信号を出力する。コントローラは、操作信号を受信する。コントローラは、傾倒量に応じたスラストを出力するように船舶推進器を制御する。コントローラは、捻り方向に応じた方向に船舶が旋回するように船舶推進器の舵角を変更する。コントローラは、スラストが大きいほど、舵角の変更速度を小さくする。
【0006】
本開示の第2の態様に係る方法は、転舵軸回りに回転可能な船舶推進器を含む船舶を制御するための方法であって、以下の処理を備える、傾倒操作可能、且つ、捻り操作可能なジョイスティックから、傾倒量と捻り方向とを示す操作信号を受信することと、傾倒量に応じたスラストを出力するように船舶推進器を制御することと、捻り方向に応じた方向に船舶が旋回するように船舶推進器の舵角を変更することと、スラストが大きいほど、舵角の変更速度を小さくすること。
【0007】
本開示の第3の態様に係るシステムは、船舶を制御するためのシステムであって、船舶推進器と、ジョイスティックと、設定装置と、コントローラとを備える。船舶推進器は、転舵軸回りに回転可能である。ジョイスティックは、傾倒操作可能、且つ、捻り操作可能である。ジョイスティックは、傾倒量と捻り方向とを示す操作信号を出力する。設定装置は、複数のレベルからスラストレベルを選択するように操作可能である。設定装置は、スラストレベルを示す設定信号を出力する。コントローラは、操作信号と設定信号とを受信する。コントローラは、スラストレベルに応じた最大スラストまで、傾倒量に応じてスラストを出力するように船舶推進器を制御する。コントローラは、スラストレベルが高くなるほど最大スラストを増大させる。コントローラは、捻り方向に応じた方向に船舶が旋回するように船舶推進器の舵角を変更する。コントローラは、スラストレベルが高いほど、舵角の変更速度を小さくする。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、スラストが大きいほど、舵角の変更速度が小さくなる。そのため、スラストの大きさによる船舶の旋回速度の差が小さくなる。それにより、ジョイスティックによる操船の快適性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る船舶推進器が搭載された船舶を示す斜視図である。
【
図3】船舶の操船システムの構成を示す模式図である。
【
図5A】ジョイスティックが時計回りに捻られたときの船舶推進器の舵角を示す図である。
【
図5B】ジョイスティックが反時計回りに捻られたときの船舶推進器の舵角を示す図である。
【
図7】ジョイスティックが、倒され、且つ捻られたときの船舶推進器の制御を示すタイミングチャートである。
【
図8A】実施形態に係る操船システムにおいて、スラストF1が発生しているときの船舶推進器の舵角とスラストの分力とを示す図である。
【
図8B】実施形態に係る操船システムにおいて、スラストF2が発生しているときの船舶推進器の舵角とスラストの分力とを示す図である。
【
図8C】比較例に係る操船システムにおいて、スラストF3が発生しているときの船舶推進器の舵角とスラストの分力とを示す図である。
【
図9】ジョイスティックが、倒され、且つ捻られたときの船舶の動作を示す模式図である。
【
図10】ジョイスティックが、倒され、且つ捻られたときの船舶推進器の制御を示すタイミングチャートの他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。
図1は、実施形態に係る船舶推進器1が搭載された船舶100を示す斜視図である。船舶100は、1機のみの船舶推進器1を備えている。本実施形態において、船舶推進器1は、船外機である。船舶推進器1は、船舶100の船尾に取り付けられる。船舶推進器1は、船舶100を推進させるスラストを発生させる。
【0011】
図2は、船舶推進器1の側面図である。船舶推進器1は、ブラケット11を介して船舶100に取り付けられる。ブラケット11は、転舵軸12回りに回転可能に船舶推進器1を支持する。転舵軸12は、船舶推進器1の上下方向に延びている。
【0012】
船舶推進器1は、駆動ユニット2と、ドライブ軸3と、プロペラ軸4と、シフト機構5と、ハウジング10とを含む。駆動ユニット2は、船舶100を推進させるスラストを発生させる。駆動ユニット2は、内燃エンジンである。駆動ユニット2は、クランク軸13を含む。クランク軸13は、船舶推進器1の上下方向に延びている。ドライブ軸3は、クランク軸13に接続されている。ドライブ軸3は、船舶推進器1の上下方向に延びている。プロペラ軸4は、船舶推進器1の前後方向に延びている。プロペラ軸4は、シフト機構5を介して、ドライブ軸3に接続されている。プロペラ軸4にはプロペラ6が取り付けられる。
【0013】
シフト機構5は、前進ギア14と、後進ギア15と、ドッグクラッチ16とを含む。シフト機構5は、ドッグクラッチ16によってギア14,15の接続が切り換えられることで、前進状態と、後進状態と、中立状態とに切り替えられる。シフト機構5は、前進状態では、船舶100が前進する方向に、ドライブ軸3からプロペラ軸4へ回転を伝達する。シフト機構5は、後進状態では、船舶100が後進する方向に、ドライブ軸3からプロペラ軸4へ回転を伝達する。シフト機構5は、中立状態では、ドライブ軸3からプロペラ軸4へ回転を伝達しない。ハウジング10は、駆動ユニット2と、ドライブ軸3と、プロペラ軸4と、シフト機構5とを収容している。
【0014】
図3は、船舶100の操船システムの構成を示す模式図である。
図3に示すように、船舶推進器1は、シフトアクチュエータ7とステアリングアクチュエータ8とを含む。
【0015】
シフトアクチュエータ7は、シフト機構5のドッグクラッチ16に接続されている。シフトアクチュエータ7は、ドッグクラッチ16を動作させることで、ギア14,15の接続を切り換える。それにより、シフト機構5が、前進状態と、後進状態と、中立状態とに切り替えられる。シフトアクチュエータ7は、例えば電動モータである。ただし、シフトアクチュエータ7は、電動シリンダ、油圧モータ、或いは油圧シリンダなどの他のアクチュエータであってもよい。
【0016】
ステアリングアクチュエータ8は、船舶推進器1に接続されている。ステアリングアクチュエータ8は、船舶推進器1を転舵軸12回りに回転させる。それにより、船舶推進器1の舵角が変更される。舵角は、船舶推進器1の前後方向に対するプロペラ軸4の角度である。ステアリングアクチュエータ8は、例えば電動モータである。ただし、シフトアクチュエータ7は、電動シリンダ、油圧モータ、或いは油圧シリンダなどの他のアクチュエータであってもよい。
【0017】
船舶推進器1は、駆動コントローラ9を含む。駆動コントローラ9は、CPUなどのプロセッサと、RAMやROMなどのメモリとを含む。駆動コントローラ9は、船舶推進器1を制御するためのプログラム及びデータを記憶している。駆動コントローラ9は、駆動ユニット2を制御する。
【0018】
操船システムは、ステアリングホイール24と、リモートコントローラ25と、ジョイスティック26と、設定装置27とを含む。ステアリングホイール24と、リモートコントローラ25と、ジョイスティック26と、設定装置27とは、船舶100の操船席に配置されている。ステアリングホイール24と、リモートコントローラ25と、ジョイスティック26と、設定装置27とは、手動操作可能である。
【0019】
ステアリングホイール24は、オペレータが船舶100の旋回方向を操作するための装置である。ステアリングホイール24は、センサ240を含む。センサ240は、ステアリングホイール24の操作方向及び操作量を示すステアリング信号を出力する。
【0020】
リモートコントローラ25は、スロットルレバー28を含む。スロットルレバー28は、オペレータが船舶推進器1のスラストの大きさを調整するための装置である。また、スロットルレバー28は、オペレータが船舶推進器1のスラストの方向を前進と後進とに切り替えるための装置である。スロットルレバー28は、中立位置から前進位置と後進位置とに操作可能である。中立位置は、前進位置と後進位置との間の位置である。スロットルレバー28はセンサ251を含む。センサ251は、スロットルレバー28の操作方向及び操作量を示すスロットル信号を出力する。
【0021】
ジョイスティック26は、中立位置から、少なくとも前後の2方向に傾倒可能である。ジョイスティック26は、2方向以上の方向への指示が可能であってもよく、全方位への指示が可能であってもよい。ジョイスティック26は、回転軸Ax1を中心に回転可能である。すなわち、ジョイスティック26は、回転軸Ax1を中心に、中央位置から時計回り、及び反時計回りに捻り操作可能である。ジョイスティック26は、センサ260を含む。センサ260は、ジョイスティック26の操作を示す操作信号を出力する。操作信号は、ジョイスティック26の傾倒方向及び傾倒量を含む。操作信号は、ジョイスティック26の捻り方向及び捻り量を含む。
【0022】
設定装置27は、ジョイスティック26による操船時のスラストレベルを、複数のレベルから選択するように操作可能である。スラストレベルが高いほど、船舶推進器1から出力されるスラストの上限値(以下、「最大スラスト」と呼ぶ)が大きくなる。設定装置27は、ジョイスティック26に設けられている。
図4は、ジョイスティック26を示す図である。
図4に示すように、設定装置27は、プラススイッチ27aとマイナススイッチ27bとを含む。プラススイッチ27aが一度押されることで、スラストレベルが1レベルだけ高くなる。マイナススイッチ27bが一度押されることで、スラストレベルが1レベルだけ低くなる。設定装置27は、スラストレベルを示す設定信号を出力する。
【0023】
操船システムは、操船コントローラ30を含む。操船コントローラ30は、CPUなどのプロセッサと、RAMやROMなどのメモリとを含む。操船コントローラ30は、船舶推進器1を制御するためのプログラム及びデータを記憶している。操船コントローラ30は、駆動コントローラ9と有線、或いは無線を介して接続されている。操船コントローラ30は、ステアリングホイール24、リモートコントローラ25、ジョイスティック26、設定装置27と、有線、或いは無線を介して接続されている。
【0024】
操船コントローラ30は、センサ240からステアリング信号を受信する。操船コントローラ30は、センサ251からスロットル信号を受信する。操船コントローラ30は、センサ240,251からの信号に基づいて、駆動コントローラ9へ指令信号を出力する。指令信号は、駆動コントローラ9を介して、駆動ユニット2、シフトアクチュエータ7、ステアリングアクチュエータ8に送信される。例えば、操船コントローラ30は、スロットルレバー28の操作方向に応じて、シフトアクチュエータ7への指令信号を出力する。それにより、船舶推進器1の前進と後進とが切り替えられる。操船コントローラ30は、スロットルレバー28の操作量に応じて、駆動ユニット2へのスロットル指令を出力する。駆動コントローラ9は、スロットル指令に応じて、船舶推進器1の出力回転速度を制御する。
【0025】
操船コントローラ30は、ステアリングホイール24の操作方向及び操作量に応じて、ステアリングアクチュエータ8への指令信号を出力する。ステアリングホイール24が中立位置から左方に操作されると、操船コントローラ30は、船舶推進器1が時計回りに回転するように、ステアリングアクチュエータ8を制御する。それにより、船舶100は左方に旋回する。ステアリングホイール24が中立位置から右方に操作されると、操船コントローラ30は、船舶推進器1が反時計回りに回転するように、ステアリングアクチュエータ8を制御する。それにより、船舶100は右方に旋回する。また、操船コントローラ30は、ステアリングホイール24の操作量に応じて、船舶推進器1の舵角を制御する。
【0026】
操船コントローラ30は、センサ260から操作信号を受信する。操船コントローラ30は、設定装置27から設定信号を受信する。操船コントローラ30は、操作信号と設定信号に基づいて、駆動コントローラ9へ指令信号を出力する。指令信号は、駆動コントローラ9を介して、駆動ユニット2、シフトアクチュエータ7、ステアリングアクチュエータ8に送信される。
【0027】
操船コントローラ30は、ジョイスティック26の傾倒方向に応じた方向に、傾倒量に応じた大きさのスラストを出力するように船舶推進器1を制御する。操船コントローラ30は、設定装置27からの設定信号に応じて、スラストレベルを設定する。ジョイスティック26が前方に倒されると、操船コントローラ30は、スラストレベルに応じた最大スラストまでの範囲で、傾倒量に応じた大きさの前進方向のスラストを、船舶推進器1に発生させる。それにより、船舶100は前進する。ジョイスティック26が後方に倒されると、操船コントローラ30は、スラストレベルに応じた最大スラストまでの範囲で、傾倒量に応じた大きさの後進方向のスラストを、船舶推進器1に発生させる。それにより、船舶100は後進する。
【0028】
操船コントローラ30は、ジョイスティック26の捻り方向に応じた方向に船舶100が旋回するように船舶推進器1の舵角を変更する。操船コントローラ30は、ジョイスティック26の捻り量に応じた目標舵角となるように、船舶推進器1の舵角を変更する。ジョイスティック26が時計回りに捻られると、
図5Aに示すように、操船コントローラ30は、船舶推進器1が反時計回りに回転するように、ステアリングアクチュエータ8を制御する。それにより、船舶100は右方に旋回する。ステアリングホイール24が反時計回りに操作されると、
図5Bに示すように、操船コントローラ30は、船舶推進器1が時計回りに回転するように、ステアリングアクチュエータ8を制御する。それにより、船舶100は左方に旋回する。
【0029】
ジョイスティック26が、倒され、且つ捻られたときには、操船コントローラ30は、傾倒量に応じたスラストを船舶推進器1に発生させると共に、捻り方向に応じた方向に船舶100が旋回するように船舶推進器1の舵角を変更する。このとき、操船コントローラ30は、スラストが大きいほど、転舵速度を小さくする。転舵速度は、舵角の変更速度を意味する。操船コントローラ30は、ジョイスティック26が捻られたときの転舵速度のデフォルト値を記憶している。操船コントローラ30は、転舵速度に上限値を設定する。操船コントローラ30は、スラストが大きいほど上限値を小さくすることで、転舵速度を小さくする。
【0030】
操船コントローラ30は、
図6に示す転舵速度データを記憶している。転舵速度データは、スラストの大きさに対する転舵速度の上限値を規定する。操船コントローラ30は、スラストレベルと傾倒量とから、スラストの大きさを決定する。操船コントローラ30は、転舵速度データを参照して、スラストの大きさに対応する転舵速度の上限値を決定する。
図6に示すように、転舵速度データでは、スラストが0から大きさA1までは、上限値は値B1で一定である。スラストが大きさA1から大きさA2までは、上限値はスラストの大きさの増大に応じて減少する。スラストが大きさA2以上では、上限値は、値B1より小さい値B2で一定である。
【0031】
図7は、ジョイスティック26が、倒され、且つ捻られたときのジョイスティック26の捻り量と、スラストの大きさと、転舵速度の上限値と、舵角との変化を示すタイミングチャートである。時間T1において、ジョイスティック26が、倒され、且つ捻られる。時間T1では、ジョイスティック26は、捻り量C1だけ捻られており、スラストの大きさは、大きさA3である。操船コントローラ30は、
図6に示す転舵速度データを参照して、スラストの大きさA3に対応する転舵速度の上限値B3を決定する。操船コントローラ30は、舵角が目標舵角に向かって上限値B3以下の転舵速度で変化するように、船舶推進器1の舵角を変更する。それにより、
図7に示すように、船舶推進器1の舵角が、時間T1から、徐々に増大する。
【0032】
時間T2において、ジョイスティック26がさらに大きく倒されることで、スラストが大きさA3から大きさA4に増大する。ジョイスティック26の捻り量は、捻り量C1に維持されている。操船コントローラ30は、転舵速度データを参照して、スラストの大きさA4に対応する転舵速度の上限値B4を決定する。操船コントローラ30は、舵角が目標舵角に向かって上限値B4以下の転舵速度で変化するように、船舶推進器1の舵角を変更する。
図6に示すように、上限値B4は、上限値B3より小さい。従って、
図7に示すように、時間T2以降では、時間T2までよりも、舶推進器の舵角が、ゆっくりと増大する。
【0033】
図8Aは、本実施形態に係る操船システムにおいて、スラストF1が発生しているときの船舶推進器1の舵角とスラストの分力とを示す図である。
図8Bは、本実施形態に係る操船システムにおいて、スラストF2が発生しているときの船舶推進器1の舵角とスラストの分力とを示す図である。スラストF2は、スラストF1よりも大きい。
図8Cは、比較例に係る操船システムにおいて、スラストF3が発生しているときの船舶推進器1の舵角とスラストの分力とを示す図である。スラストF3は、スラストF2と同じ大きさである。ただし、比較例に係る操船システムでは、スラストの大きさに関わらず、転舵速度は一定である。
図8Aと
図8Bと
図8Cでは、舵角の変更が開始されてから同じ時間が経過しているものとする。
【0034】
図8Aに示すように、スラストF1が発生しているときの船舶推進器1の舵角は角度θ1である。船舶100の長手方向には、スラストF1の長手方向の分力であるスラストF1yが発生している。船舶100の左右方向には、スラストF1の左右方向の分力であるスラストF1xが発生している。
【0035】
図8Bに示すように、スラストF2が発生しているときの船舶推進器1の舵角は角度θ2である。本実施形態に係る操船システムでは、スラストの増大に応じて転舵速度が低減される。そのため、角度θ2は、角度θ1よりも小さい。船舶100の長手方向には、スラストF2の長手方向の分力であるスラストF2yが発生している。船舶100の左右方向には、スラストF2の左右方向の分力であるスラストF2xが発生している。
図8BのスラストF2は、
図8AのスラストF1よりも大きい。しかし、
図8Bでは、舵角θ2が舵角θ1よりも小さいことで、船舶100の左右方向におけるスラストF2xは、
図8Aにおける船舶100の左右方向におけるスラストF1xと同程度の大きさとなる。
【0036】
図9は、ジョイスティック26が、倒され、且つ捻られたときの船舶100の動作を示す模式図である。
図9において、位置101は
図8Aの状態で旋回する船舶100の動作を示している。位置102は
図8Bの状態で旋回する船舶100の動作を示している。位置103は
図8Cの状態で旋回する船舶100の動作を示している。位置102で示すようにスラストが大きいときの船舶100の移動距離は、位置101で示すようにスラストが小さいときよりも大きい。しかし、船舶100の左右方向におけるスラストF2xが、スラストF1xと同程度であることにより、スラストが大きいときの船舶100の旋回速度は、スラストが小さいときと概ね同じになる。そのため、
図9に示すように、同じ旋回時間におけるスラストが大きいときの船舶100の旋回角度は、スラストが小さいときと概ね同じになる。
【0037】
図8Cに示すように、比較例に係る操船システムでは、スラストF2と同じ大きさのスラストF3が発生しているときの船舶推進器1の舵角は角度θ3である。しかし、比較例に係る操船システムでは、スラストの大きさに応じた転舵速度の低減が行われない。従って、スラストF3が発生していても、角度θ3は、
図8Aの角度θ1と同じである。そのため、
図8Cでは、船舶100の左右方向におけるスラストF3xは、
図8Aにおける船の左右方向におけるスラストF1x、及び
図8Bにおける船の左右方向におけるスラストF2xよりも大きくなる。その場合、
図8Cにおける旋回速度は、
図8Aにおける旋回速度よりも大きくなる。そのため、
図9において位置103で示すように船舶100の旋回角度は、位置101で示すスラストが小さいときの旋回角度よりも大きくなる。
【0038】
図10は、ジョイスティック26が、倒され、且つ捻られたときのジョイスティック26の捻り量と、スラストの大きさと、転舵速度の上限値と、舵角との変化を示すタイミングチャートの他の例である。時間T11において、ジョイスティック26が、倒され、且つ、時計回りに捻られる。時間T11では、ジョイスティック26は、時計回りに捻り量C1だけ捻られており、スラストの大きさは、大きさA3である。操船コントローラ30は、
図6に示す転舵速度データを参照して、スラストの大きさA3に対応する転舵速度の上限値B3を決定する。操船コントローラ30は、船舶推進器1を反時計回りに回転させ、舵角が目標舵角に向かって上限値B3以下の転舵速度で変化するように、船舶推進器1の舵角を変更する。それにより、
図10に示すように、船舶推進器1の舵角が、時間T11から、反時計回りの方向に徐々に増大する。船舶推進器1の舵角は時間T12で目標舵角に到達して、時間T13まで目標舵角に維持される。
【0039】
時間T13において、ジョイスティック26が、傾倒量を維持したまま、反時計回りに捻り量C2だけ捻られる。それにより、操船コントローラ30は、スラストの大きさと転舵速度の上限値を維持したまま、船舶推進器1を時計回りに回転させる。それにより、
図10に示すように、船舶推進器1の舵角が、時間T13から徐々に減少し、時間T14以降において時計回りの方向に徐々に増大する。
【0040】
時間T15において、ジョイスティック26がさらに大きく倒されることで、スラストが大きさA3から大きさA4に増大する。ジョイスティック26の捻り量は、捻り量C2に維持されている。操船コントローラ30は、転舵速度データを参照して、スラストの大きさA4に対応する転舵速度の上限値B4を決定する。操船コントローラ30は、舵角が目標舵角に向かって上限値B4以下の転舵速度で変化するように、船舶推進器1の舵角を変更する。上限値B4は、上限値B3より小さい。従って、
図10に示すように、時間T15以降では、時間T15までよりも、舶推進器の舵角が、時計回りに緩やかに増大する。
【0041】
時間T16において、ジョイスティック26が、傾倒量を維持したまま、時計回りに捻り量C1だけ捻られる。それにより、操船コントローラ30は、スラストの大きさと転舵速度の上限値を維持したまま、船舶推進器1を反時計回りに回転させる。それにより、
図10に示すように、船舶推進器1の舵角が、時間T16から徐々に減少する。
【0042】
以上説明した本実施形態に係る操船システムでは、スラストが大きいほど、転舵速度が小さくなる。そのため、スラストの大きさによる船舶100の旋回速度の差が小さくなることで、旋回角度の差が小さくなる。それにより、ジョイスティック26による操船の快適性が向上する。
【0043】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0044】
船舶推進器1は、船外機に限らず、船内外機、或いはジェット推進器などの他の推進器であってもよい。船舶推進器1の構造は、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。例えば、駆動ユニット2は、内燃エンジンに限らず、電動モータであってもよい。或いは、駆動ユニット2は、内燃エンジンと電動モータとのハイブリッドシステムであってもよい。船舶推進器の数は、1つに限らない。船舶推進器の数は、2つ以上であってもよい。設定装置27は、ジョイスティック26とは別に設けられてもよい。設定装置27は、スイッチに限らず、タッチスクリーンなどの他の操作装置を含んでもよい。
【0045】
上記の実施形態では、スラストの増大に応じて転舵速度の上限値が低減されることで、転舵速度が低減されている。しかし、操船コントローラ30は、スラストの増大に応じて直接的に転舵速度を低減してもよい。上記の実施形態では、操船コントローラ30は、スラストが大きいほど、転舵速度を小さくする。しかし、操船コントローラ30は、スラストレベルが高いほど、転舵速度を小さくしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本開示によれば、ジョイスティックによる操船の快適性が向上する。
【符号の説明】
【0047】
1 船舶推進器
26 ジョイスティック
27 設定装置
30 操船コントローラ