(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022085687
(43)【公開日】2022-06-08
(54)【発明の名称】炭化物結合多結晶ダイヤモンド電極素材
(51)【国際特許分類】
C04B 35/52 20060101AFI20220601BHJP
C04B 35/645 20060101ALI20220601BHJP
C04B 41/91 20060101ALI20220601BHJP
C01B 32/28 20170101ALI20220601BHJP
C25B 11/04 20210101ALI20220601BHJP
【FI】
C04B35/52
C04B35/645
C04B41/91 B
C01B32/28
C25B11/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020197489
(22)【出願日】2020-11-27
(71)【出願人】
【識別番号】000147811
【氏名又は名称】トーメイダイヤ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤野 聡
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 宣博
(72)【発明者】
【氏名】藤川 洋基
(72)【発明者】
【氏名】石塚 良彰
【テーマコード(参考)】
4G146
4K011
【Fターム(参考)】
4G146AA04
4G146AA17
4G146AB05
4G146AC04A
4G146AC04B
4G146AD06
4G146AD17
4G146AD23
4G146CB11
4G146CB17
4G146CB19
4G146CB29
4G146CB34
4G146CB39
4K011AA23
4K011DA11
(57)【要約】
【課題】
導電電極素材の製造において、予め合成されたバルクの砥粒状ボロンドープダイヤモンドを一体化品とすることにより、導電電極素材の生産性を高め、併せて電極形状、特性の多様化を可能にすること。
【解決手段】
[1] 導電性を持ち顕著な結晶粒界を示す個々のダイヤモンド粒子が相互に結合したダイヤモンド集合体、及び粒子間に存在するより小容積の空隙を包含し、かつ全体として一定の導電性を有する多結晶ダイヤモンド電極素材。
[2] 導電性のバルクダイヤモンド粒子間に遷移金属粉末を配置し、
全体を加圧加熱処理に供して、ダイヤモンド粒子に接している遷移金属を炭化物に変換すると共に該炭化物を介してダイヤモンド粒子間の接合を行い、かつ
ダイヤモンド粒子間に残留した遷移金属粉末を溶解除去することによって、粒子間に導通した空隙を形成する
ことを特徴とする多結晶ダイヤモンド電極素材の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を持ち顕著な結晶粒界を示す個々のダイヤモンド粒子が相互に結合したダイヤモンド集合体及び粒子間に存在するより小容積の空隙を包含し、かつ全体として一定の導電性を有する多結晶ダイヤモンド電極素材。
【請求項2】
前記ダイヤモンド集合体において、隣接ダイヤモンド粒子同士がダイヤモンド粒子表面に形成された遷移金属炭化物を介した間接結合によって結合している、請求項1に記載の多結晶ダイヤモンド電極素材。
【請求項3】
前記空隙が全容積の5%を超える導通した空隙を有する請求項1又は2に記載の多結晶ダイヤモンド電極素材。
【請求項4】
前記空隙が全容積の20%を超える導通した空隙を有する請求項3に記載の多結晶ダイヤモンド電極素材。
【請求項5】
前記ダイヤモンド粒子がホウ素を含有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の多結晶ダイヤモンド電極素材。
【請求項6】
導電性ダイヤモンド粒子の集合体において、ダイヤモンド粒子同士が遷移金属炭化物を介した間接結合によって相互に接合し、かつ集合体が全体として遷移金属の補強材上に化学結合によって固定されている多結晶ダイヤモンド電極素材。
【請求項7】
(1) 導電性のバルクダイヤモンド粒子間に遷移金属粉末を配置し、
(2) 全体を加圧加熱処理に供して、ダイヤモンド粒子に接している遷移金属を炭化物に変換すると共に該炭化物を介してダイヤモンド粒子間の接合を行い、
(3) ダイヤモンド粒子間に残留した遷移金属粉末を溶解除去することによって、粒子間に導通した空隙を形成することを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の多結晶ダイヤモンド電極素材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイヤモンド電極、特にオゾン水発生や様々な規模における汚染水の浄化を目的とした水処理設備用に適する導電性のダイヤモンドを用いた電極素材、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水処理に利用可能な導電性ダイヤモンド電極を得る方法として、シリコンまたはニオブ、タンタルなどの金属基板上に、CVD法によってボロンドープのダイヤモンド膜を形成する方式が広く用いられている。形成された膜の表面は必ずしも平坦でなく、むしろ凹凸のある方が有効表面積が大きく、電極として有利とされ、大きな表面積を得るために、予め基板材料表面にパターンを形成しておく方法も広く採用されている。
【0003】
CVD法によるボロンドープダイヤモンド(BDD)の形成は、高純度のダイヤモンドの形成が可能であり、また形成過程においてもボロンのドープ量を任意に変えることができるメリットを有している。しかし形成反応に長時間を要し、多量のガスを必要とすることから生産性は高くない。
【0004】
ボロンドープダイヤモンドは高圧力・高温を用いた合成反応においても、出発原料中にボロン化合物を添加する方法を用いて砥粒の形で製造されている。高圧力・高温技術はダイヤモンドの粉末を焼結した硬質材料の多結晶ダイヤモンド(PCD)として、我が国においても1962年頃から切削工具素材、耐摩耗材料の製造に用いられている。(特許文献1)
【0005】
工具素材、耐摩耗材料を目指した多結晶ダイヤモンドには、抜群の硬さに加えて靭性の付与も要求されることから、微粉原料を用いた緻密品が要求されている。このことから究極の多結晶ダイヤモンドとして、単結晶ダイヤモンドを超える高い硬度を持つバインダレスのナノ多結晶ダイヤモンドが開発されている。この多結晶は、結合材を含まないため耐熱性が高く、また構成粒子が数十nm と微細であることから、高強度でシャープな刃先の形成が可能になっている。(非特許文献1)
【0006】
一般的な多結晶ダイヤモンドの製造では、焼結助剤としてコバルト系金属が主として用いられ、超高圧力下の高温状態における溶融金属の存在によって、ダイヤモンド粒子の再配列、溶解・析出機構による粒子間の結合、緻密化が進行すると理解されている。
【0007】
コバルト系の焼結助剤金属は、焼結後もダイヤモンド粒子間に残留し、焼結体の緻密性、靭性向上に寄与しているが、高温状態ではダイヤモンドの黒鉛化を促進する逆触媒になることから、高温に曝される用途向けには、粒子間に残留する金属を酸溶解処理によって除去し、ダイヤモンド粒子間の直接結合を維持しつつ、5~30容量%の空孔を持つ焼結体も提案されている。(特許文献2)
【0008】
一方耐熱性の高い焼結体として、結合材に炭化物を用いた多結晶ダイヤモンドも知られており、焼結反応の際に生じた遷移金属炭化物を結合材に用いる先行技術としては、以下の各例が公知である。いずれも切削工具などの素材として、緻密な焼結品の製作を目的としている。
【0009】
[1] ダイヤモンド粉体とチタン、ジルコニウム等の金属粉体とを混合し、ダイヤモンド安定領域の高温・高圧条件で金属を溶融し、ダイヤモンドとの反応によって生成した金属炭化物を介してダイヤモンド粉体を固結(焼結)する方法が示されており、焼結温度として最高1950℃の記載がある。(特許文献3)
【0010】
[2] 耐熱性の高い焼結体としては、ホウ素を含有するダイヤモンド粉末を、アルカリ土類金属の炭酸塩を結合材に用いて1600℃以上の高温に曝した焼結体が知られており、耐熱性に加えて放電加工が可能な工具素材になることが示されている。(特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公昭39-20483号公報
【特許文献2】特開昭53-114589公報
【特許文献3】特開昭51-73512号公報
【特許文献4】特開2008-133172号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】SEIテクニカルレビュー第165号、68-74(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は導電電極素材の製造において、加圧焼結技術を用いて予め合成された砥粒状の導電性ダイヤモンドを多孔質の一体化品とすることにより、導電電極素材の生産性を高め、併せて電極形状、特性の多様化を可能にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は導電性ダイヤモンドの加圧焼結に際して、焼結促進剤として予めダイヤモンド粒子間に多量の遷移金属を介在させることによって、高温下におけるダイヤモンドと遷移金属との反応によって生じた遷移金属炭化物を介してダイヤモンド粒子を接合すると共に、粒子間隔の広い焼結体を作製し、続く後工程において粒子間に残留する金属を溶出させて多孔質焼結体を得ることを骨子としている。
【0015】
本発明は、導電性を持ち顕著な結晶粒界を示す個々のダイヤモンド粒子が相互に、特にダイヤモンド粒子表面の炭素と遷移金属との反応により生成した炭化物を介して粒子同士が結合したダイヤモンド集合体及び、該粒子間に存在するより小容積の空隙を包含し、かつ全体として一定の導電性を有する多結晶ダイヤモンド電極素材を要旨とする。
【0016】
前記の電極素材は以下の各段階を含む工程によって効果的に製造され、従ってこれらの工程もまた本発明の要旨の一面を構成する:
(1) 導電性のバルクダイヤモンド粒子間に遷移金属粉末を配置し、
(2) 全体を加圧加熱処理に供して、ダイヤモンド粒子に接している遷移金属を炭化物に変換すると共に該炭化物を介してダイヤモンド粒子間の接合を行い、
(3) ダイヤモンド粒子間に残留した遷移金属粉末を溶解除去することによって、粒子間に導通した空隙を形成する。
【0017】
本発明によれば、高圧力・高温を用いた多結晶ダイヤモンドの製造において、試料の加熱時間は10~20分で十分であり、昇圧・降圧時間を加えても反応サイクルは30分程度であることから、CVD反応に比べて1/10以下の時間で導電電極素材の製造が可能となる。
【0018】
本発明において使用する遷移金属はTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo及びWが好適で、これらの金属種から選ばれる一種又は複数種を組成又は配合して利用することができる。これらの金属は炭素との化合性が強いため、両材を隣接配置して加熱することにより境界部に炭化物層が形成される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の電極素材において、ダイヤモンド粒子間に介在させる遷移金属としては、後工程の酸処理によって溶出させる見地からTi、Zrが適しており、価格の面からTiが最適である。
【0020】
さらに液相の共存によるダイヤモンド粒子の再配列、ならびに部分的な溶解・析出機構によるダイヤモンド粒子間の直接接合を促進する目的で、これらの遷移金属にコバルトまたはニッケルを添加することもできる。
【0021】
本発明の電極素材の製造において、ダイヤモンド粒子は導電性付与物質としてホウ素を含 有する、いわゆるボロンドープダイヤモンドを使用するのが便利である。このようなダイ ヤモンドは特殊砥粒として市販されており入手が容易である。なお導電性ダイヤモンドとしては窒素、リンをドープした品種も知られており、ボロンドープダイヤと同様に使用することができる。
【0022】
導電電極素材を目的とした焼結体においては、形状を保ち続けるだけの強度があれば十分であり、ダイヤモンド粒子間に水やガスの通過する空間があり、水に接する面積の大きいことが要求される。このことから原料のダイヤモンド粒子にはメッシュサイズの粗い砥粒を用い、粒子間をその場で形成された遷移金属炭化物を介して接合した多孔質焼結体とすることが望ましい。
【0023】
このため本発明においては原料のボロンドープダイヤモンド砥粒として400メッシュ(35μm)より粗いサイ ズが用いられるが、特に200メッシュ (75μm)以上とすることが好ましく、100メッシュ (150μm)よりも粗い砥粒を用いて大きな空孔を形成することがより好ましい。
【0024】
ダイヤモンド(炭素)と遷移金属との反応によって遷移金属炭化物を形成する現象は固相領域においても認められ、1000℃以上で明らかな反応の進行が認められる。従ってダイヤモンド粒子の接合に際して、遷移金属の融点を超える加熱温度を必ずしも必要としない。
【0025】
焼結反応はダイヤモンドが熱力学的に安定な高圧領域で実施するのが好ましいが、安定領域は必須要件ではなく、還元雰囲気を用い、反応時間を短くすることで、HIP、ホットプレス、放電プラズマ焼結などの技法も用いることができる。
【0026】
焼結ダイヤモンド層の平坦度を保つためには、充填ダイヤモンドの基板として遷移金属板やセラミックス板を用いると好都合である。例えば基板材料として遷移金属、特にTiやNbを用いた場合、ダイヤモンド粒子と基板との接点では両者の反応で生じた炭化物を介した化学結合によって強力な接合が形成される。即ちダイヤモンド粒子間は、例えばチタン粉とダイヤモンドとの反応で生じた炭化チタンによって固定され、ダイヤモンド粒子と基板との接点では加熱の際に両者の反応によってその場で形成された炭化物を介した化学結合による接合が形成される。
【0027】
遷移金属板を基板材料に用いると、電極面の平坦度が確保されるのに加えて、ダイヤモンド焼結層の補強板としても機能するので,ダイヤモンド層を単一層にまで薄く形成することも可能である。
【0028】
焼結反応後にダイヤモンド粒子の隙間に残留した金属は、後工程の塩酸溶解処理によって除くことができる。この際に基板金属の表面からの溶解も生じるが、軽く焼結した遷移金属粉末に比べて溶解速度が遅いことから、板の形で残すことが可能であり、通電用の基板として利用可能である。
【0029】
ニオブ、タンタルは殆ど塩酸に溶けないので、基板に最も適した材料と言える。また遷移金属板に代えてWC-Co系超硬合金も用いることができ、この場合さらに超硬合金中のコバルトを塩酸溶解処理の際にダイヤモンド粒子間の残留金属と一緒に溶解除去可能である。
【0030】
ダイヤモンド粒子間の残留金属の除去には、塩酸溶解に代えて電解抽出も用いることができる。この場合、焼結生成物を陽極とし、鉄陰極と組み合わせて希硫酸中で実施できる。大量処理には焼結生成物をまとめてチタンバスケットに入れて電解操作を行うのが有効である。
【0031】
セラミックス系の基板材料としてはマグネシアが好適である。マグネシアは熱伝導率が高く、2800℃という高融点に加えて塩酸に溶解することから、後工程の塩酸溶解処理によってダイヤモンドの粒子間の残留金属と共に除くことができ、ボロンドープダイヤモンドのみで構成された自立導電薄板を得ることができる。
【0032】
電極素材から所定の形状の電極を切り出すのに放電加工を用いる場合には、所定の形状 に切り出してから塩酸溶解処理を行うのが望ましい。
【0033】
本発明方法においてはダイヤモンド粒子間に残存する焼結助剤金属の溶解除去によって 、表面に導通した空隙の形成による電極材の多孔質化、作用表面積増大が達成される。この多孔質化構造によって作用表面積を大きくすることができ、ガス、水の移動が容易になるのに伴うガス発生効率の上昇、電流密度の低下による電極寿命の向上といった効果が得られる。
【0034】
前記ダイヤモンド粒子層中に占める空隙の割合は、ダイヤモンド粒子に混合する焼結助剤金属の添加量によって調整可能であり、少なくともダイヤモンド粒子層全容積の5%とするのが好ましく、20%以上とするのがより好ましい。
【0035】
次に本発明を実施例によって説明する。なお以下の各例において、カプセルはニオブ薄板製で、厚さ0.15mm、外径63mmのものを用いた。
【実施例0036】
Nbカプセルに、次の充填順序で反応材料を充填して、厚さ約5mmの加圧・加熱試料を製作した。
充填順序(底部から上方へ)
Ti基板 厚さ0.5mm
ボロンドープダイヤモンド(BDD) #80/100(180μm)15gとTi粉(45μm以下) 10gとの混合粉末
Nb薄板(厚さ0.15mm)
【0037】
このカプセルを10段重ねて反応室内に充填し、5.5GPa、1350℃の加圧・加熱条件に10分間保持した。
反応生成物はショットブラストにより、周囲のニオブ板を除去し、約2mm厚さのダイヤモンド焼結層が接合したチタン板を回収した。
【0038】
次いで6Nの熱塩酸を用いてダイヤモンド粒子間に残留し、軽く焼結しているチタン粉末を溶解除去した。
顕微鏡観察により、ダイヤモンド粒子が接合して網目構造の組織を呈していることが認められ、焼結物はX線回折により、ダイヤモンドと炭化チタンとで構成されていることが確かめられた。
【0039】
ダイヤモンド粒子間、ならびにダイヤモンド粒子層とチタン基板との結合は共に強固で、ショットブラスト加工においても、研削加工においても剥がれを生じなかった。
容積と質量との測定から、ダイヤモンド層の空隙率は約30%と推定した。
基板として厚さ0.5mmのニオブ板を用いた。ボロンドープダイヤモンド#200/230 (約75μm) 20gとTi粉(45μm以下)10gとの混合粉末を充填し、厚さ0.15mmのニオブ板を蓋に用いた。
焼結条件は6GPa、1400℃とし、この圧力温度条件を10分間保持した。
回収された焼結品のダイヤモンド層の厚さは2.3mmであった。後処理の塩酸溶解においてニオブ板の寸法変化は認められなかったことから、空隙率の測定精度は高く、22%と見積もられた。